説明

ゲル化抑制製剤の設計

【課題】含量の高い抗生物質を含んだ製剤のゲル化を解消する。
【解決手段】処方中にケイ酸類を加える。最大限の効果を得るためには抗生物質とケイ酸類を混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗生物質、特にセフポドキシムプロキセチルの固形製剤について安定した薬物放出をすることができる固形製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、衛生環境が飛躍的に向上されているにも関わらず、呼吸器感染症、尿路感染症、消化器感染症など微生物が原因となる疾患が後を絶たない。これらの疾患に対しては抗生物質を使用することにより対応できる。セフポドキシムプロキセチルは既に特開昭57−62287で開示されている(特許文献1)。セフポドキシムプロキセチルは人工胃液と接触するとゲル化する性質がある。そのため、通常の製剤技術で経口製剤を製造すると製剤がゲル化する現象が確認されている。通常、経口剤の場合、徐放性製剤や腸溶性製剤のような特殊な製剤でない限り胃の中で製剤のすべて若しくは一部が崩壊し、有効成分が溶解することは周知の事実である。もし、胃の中で製剤の崩壊が異なると薬物のバイオアベイラビリティーが異なることになる。現在市販されているセフポドキシムプロキセチル錠はカルメロースカルシウムを添加することにより人工胃液でのゲル化を抑えている(非特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開昭57−62287
【非特許文献1】浜浦、他8名、「セフポドキシムプロキセチル錠のゲル化による溶出低下とその改善」薬剤学 日本薬剤学会 第55巻 第3号 p175−182(1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、セフポドキシムプロキセチルのゲル化抑制には先に述べたようにカルメロースカルシウムを使用することは有効ではある。しかし、ゲル化を完全に抑えることはできないことが判明した。従って、ゲル化により個々の製剤の崩壊具合が異なり、結果的に個々による血中濃度のばらつきも生じる可能性がある。
また、カルメロースカルシウムや他の賦形剤を増やすことによりゲル化を抑えることができる可能性は十分に考えられる。しかし、カルメロースカルシウムをより多く添加することにより、製剤が大きくなり、結果的にコンプライアンスの悪化を招くことも考えられる。従って、セフポドキシムプロキセチルを含んだ製剤について胃の中で完全にゲル化しない製剤が求められてきた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは有効成分であるセフポドキシムプロキセチルをはじめとする水若しくは人工胃液でゲル化を起こす物質とケイ酸類を前処理した処理品を従来の方法で製剤化することによりこれらの溶液でゲル化しない製剤を得ることに成功した。
【0006】
本発明を更に詳しく記載すると下記の通りになる。
(1)水若しくは人工胃液を加えるとゲル化する性質を有する医薬有効成分とケイ酸類を含有した経口投与用固形製剤
(2)水若しくは人工胃液を加えるとゲル化する性質を有する医薬有効成分が抗生物質である(1)の製剤
(3)抗生物質がセフェム系抗生物質、マクロライド系抗生物質である(2)の製剤
(4)ケイ酸類がケイ酸もしくはその誘導体の、遊離酸、無機塩基もしくは有機塩基である(1)ないし(3)の製剤
(5)ケイ酸類が、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、メタケイ酸アルミン酸塩、ケイ酸アルミン酸塩である(1)ないし(4)の製剤
(6)水若しくは人工胃液を加えるとゲル化する性質を有する医薬有効成分に対して、ケイ酸類を実質的に接触するように含有する(1)ないし(5)の製剤
(7)水若しくは人工胃液を加えるとゲル化する性質を有する医薬有効成分に対して、ケイ酸類を実質的に接触するように混合する工程を含む、水若しくは人工胃液を加えるとゲル化する性質を有する医薬有効成分とケイ酸類を含有した経口投与用固形製剤の製造方法
(8)水若しくは人工胃液を加えるとゲル化する性質を有する医薬有効成分に対して、ケイ酸類を実質的に接触するように混合する工程が、粉砕、混合、である(7)の製造方法
【発明の効果】
【0007】
本発明の製剤は水若しくは人工胃液を加えるとゲル化する性質を有する医薬有効成分をケイ酸類で処理することによりゲル化を抑えることができ、バイオアベイラビリティーが安定した製剤を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の製剤は水若しくは人工胃液を加えるとゲル化する性質を有する医薬有効成分にケイ酸類を混入させればよい。
本発明に用いる水若しくは人工胃液を加えるとゲル化する性質を有する医薬有効成分とは、水若しくは人工胃液(例えば日本薬局方崩壊試験法第1液等)と接触すると急速に溶解し、周りの物質と結合し、結果的に内部まで水若しくは人工胃が浸透しない状態であるか、若しくは医薬有効成分の表面が疎水性である場合は水若しくは人工胃液と反発して水若しくは人工胃液を内部に浸透できない状態を示す。このように水若しくは人工胃液によりゲル化する物質であれば本発明の場合、特に医薬有効成分を限定しない。このような性質を示す薬物としてβラクタム系抗生物質、マクロライド系抗生物質、リンコマイシン系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質、アミノグリコシド系抗生物質、ポリペプチド系抗生物質、ニューキノロン系抗生物質、抗真菌剤等にはこれらの性質がある。特に抗生物質はセフェム系抗生物質若しくはマクロライド系抗生物質が挙げられる。
【0009】
これらのうち、セフェム系抗生物質としては、例えばセファクロル 、セファトリジンプロピレングリコール 、セファドロキシル、セファレキシン 、セフィキシム 、セフジトレンピボキシル 、セフジニル 、セフチゾキシムナトリウム 、セフチブテン 、セフテラムピボキシル 、セフポドキシムプロキセチル 、セフラジン 、セフロキサジン 、セフロキシムアキセチル 、塩酸セフェタメトピボキシル 、塩酸セフォチアムヘキセチル 、塩酸セフカペンピボキシルが挙げられる。特に好ましいセフェム経口性物質はセフポドキシム若しくはその誘導体又はその塩である。
【0010】
マクロライド系抗生物質としては、例えばアセチルキタサマイシン 、アセチルスピラマイシン 、エチルコハク酸エリスロマイシン 、エリスロマイシン 、エリスロマイシンエストレート 、キタサマイシン 、クラリスロマイシン 、ジョサマイシン 、ステアリン酸エリスロマイシン 、プロピオン酸ジョサマイシン 、ミデカマイシン 、ロキシスロマイシン 、ロキタマイシン 、酢酸ミデカマイシンが挙げられ、特に好ましいマクロライド系抗生物質はエリスロマイシン若しくはその誘導体又はその塩である。
【0011】
本発明で用いることのできるケイ酸類は特に限定されないが、例えば、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、ケイ酸塩、メタケイ酸アルミン酸塩、ケイ酸アルミン酸塩が挙げられる。これらのうち、特に好ましくは軽質無水ケイ酸、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、含水二酸化ケイ素等が挙げられる。更に好ましくは軽質無水ケイ酸が挙げられる。
【0012】
また、水若しくは人工胃液を加えるとゲル化する性質を有する医薬有効成分とケイ酸類との接触方法は様々な方法が考えられるが、通常の混合若しくは、これらの物質を混合粉砕する方法などが考えられる。混合方法としては例えばV型混合機を用いた方法が挙げられる。また、粉砕方法としてはボールを用いたボールミル粉砕法、ハンマーを用いたハンマーミル粉砕法、空気の力を用いたジェットミル粉砕法等が挙げられる。また、これらを溶媒に懸濁させた後、噴霧乾燥をする方法、また、この懸濁液を用いて何らかの物質に吸着させることにより結果的にまた、水若しくは人工胃液を加えるとゲル化する性質を有する医薬有効成分とケイ酸類とを接触させることも可能である。
【0013】
また、水若しくは人工胃液を加えるとゲル化する性質を有する医薬有効成分とケイ酸類との割合は特に限定しないが、医薬品成分に対してケイ酸類が0.1〜20%、好ましくは0.5〜10%、更に好ましくは1〜5%である。
【0014】
また、これらの添加剤以外にも本発明の効果を損なわなければ適宜、従来公知の種々の滑沢剤、可溶化剤、緩衝剤、吸着剤、結合剤、懸濁化剤、抗酸化剤、充填剤、pH調整剤、賦形剤、分散剤、崩壊剤、崩壊補助剤、防湿剤、防腐剤、溶剤、溶解補助剤、流動化剤等を使用することができる。
【0015】
賦形剤としては、例えば乳糖、精製白糖、結晶セルロース、コーンスターチ、バレイショデンプン、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール等の糖アルコール、トレハロース、無機塩、デキストラン、デキストリン、ブドウ糖、粉糖等が挙げられる。崩壊剤としては例えば、コーンスターチ、バレイショデンプン等のデンプン類、部分アルファー化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルメチルセルロース、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルスターチ等が挙げられる。結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、アルファー化デンプン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、寒天、ハチミツ等が挙げられる。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、タルク、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。更に、矯味成分としては、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸などが挙げられる。発泡剤としては、例えば、重曹などが挙げられる。人口甘味料としては、例えば、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、アスパルテーム、ステビア、ソーマチンなどが挙げられる。
【0016】
これらを用いて顆粒を製造することもできる。顆粒の製造方法としては常法であれば特に問題はない。具体的には湿式造粒としては流動層造粒、攪拌造粒、押し出し造粒、転動造粒、これらを組み合わせた造粒方法が挙げられる。また、乾式造粒としてはローラーコンパウンダー等が挙げられる。また、溶融造粒もこの場合の顆粒製造には適当であると考える。
【0017】
これらの方法により造粒した顆粒はそのまま服用することも可能である。しかし、一定量を服用するためには散剤や顆粒剤よりもカプセル剤や錠剤などがより好ましい。
カプセル剤の場合はその材質等には特段、制限はない。具体的にはゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、プルラン、ポリビニルポリマー等が挙げられる。
また、錠剤の場合は何らかの方法で圧縮成型をすることが必要になる。圧縮成型する方法としては常法であれば特に問題にはならない。圧縮成型する方法としては具体的にはロータリー打錠機、単発打錠機等が挙げられる。また、圧縮成型する圧力については、生産、輸送時に割れ欠けを生じさせなければ特段制限はない。
【0018】
また、顆粒、カプセル、圧縮製剤の場合は持続性、薬物分配機能(DDS)、味の遮蔽等の特殊な機能を付与させるために、その表面にコーティングを実施することも可能である。コーティングの方法としては、具体的にはスプレーガンを用いたフィルムコーティング、糖衣等が挙げられる。コーティング基材としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリオキシエチレングリコール、ポリビニルアルコール、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE、メタアクリル酸コポリマーL、メタアクリル酸コポリマーLD、メタアクリル酸コポリマーS、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーRS,アクリル酸エチルメタクリル酸エチルコポリマー、セラック、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、カウナウバロウ、カルボキシビニルポリマー、酢酸セルロース、酢酸ビニル樹脂、酢酸フタル酸セルロース、白糖、プルラン、ポビドン、アラビアゴム末、ポリソルベート80、プルロニック、クエン酸トリエチル、グリセリン脂肪酸エステル、酸化チタン、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸類、タルク、乳酸カルシウム、マクロゴール、硫酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、色素等が挙げられる。また、錠剤の場合は有核打錠機、多層錠打錠機を用いることによっても同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0019】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら拘束されるものではない。
【0020】
実施例1
セフポドキシムプロキセチル1602gと軽質無水ケイ酸48gをバンタムミルを用いて混合粉砕を行った。
【0021】
実施例2
実施例1で製造した混合粉砕品1100g、乳糖107.2g、カルメロースカルシウム320g、ヒドロキシプロピルセルロース44.8をラウリル硫酸ナトリウム4gを精製水1680gに溶解させた水溶液で攪拌造粒機にて造粒、流動層造粒機で乾燥を実施した。得られた造粒物1260.8gにカルメロースカルシウムを128g加え、V型混合機で混合後、更にタルク9.6g、ステアリン酸マグネシウム9.6g添加して更に混合した。得られた顆粒を径8.5mmで重量が220mgになるようにロータリー打錠機にて打錠した。
【0022】
実施例3
ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 42g、酸化チタン12g、マクロゴール6000 6gを精製水720gに溶解懸濁させた。この懸濁液を用いて実施例2で製造した錠剤1056gにコーティングを実施した。
【0023】
試験例1
本発明製剤を評価するために第十四改正日本薬局方 溶出試験法第2法に準して溶出試験を実施した。溶出試験の詳細な条件は下記の通りである。
パドル回転数:50rpm
試験液の温度:37℃
試験液 :第十四改正日本薬局方 崩壊試験法 第1液 900mL
試験検体 :6検体
また、錠剤のゲル化についても観察した。
【0024】
溶出試験の結果を表1に示す。また、比較としてセフポドキシムプロキセチル錠の既存品であるバナン錠(三共株式会社製:Lot.No.PN006)を用いて同様の試験を実施した。その結果を表2に示す。また、ゲル化した錠剤の個数について表3に示す。
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】

【表3】

【0027】
これらの結果より、ケイ酸類を加えることにより錠剤のゲル化が抑えられ、第十四改正日本薬局方 崩壊試験法 第1液すなわち人工胃液での溶出試験のばらつきを抑えることができた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明を利用することにより、胃での製剤のゲル化を抑えることができ、結果としてバイオアベイラビリティーが安定した製剤をえることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水若しくは人工胃液を加えるとゲル化する性質を有する医薬有効成分とケイ酸類を含有した経口投与用固形製剤
【請求項2】
水若しくは人工胃液を加えるとゲル化する性質を有する医薬有効成分が抗生物質である請求項1の製剤
【請求項3】
抗生物質がセフェム系抗生物質、マクロライド系抗生物質である請求項2の製剤
【請求項4】
ケイ酸類がケイ酸もしくはその誘導体の、遊離酸、無機塩基もしくは有機塩基である請求項1ないし3の製剤
【請求項5】
ケイ酸類が、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、メタケイ酸アルミン酸塩、ケイ酸アルミン酸塩である請求項1ないし4の製剤
【請求項6】
水若しくは人工胃液を加えるとゲル化する性質を有する医薬有効成分に対して、ケイ酸類を実質的に接触するように含有する請求項1ないし5の製剤
【請求項7】
水若しくは人工胃液を加えるとゲル化する性質を有する医薬有効成分に対して、ケイ酸類を実質的に接触するように混合する工程を含む、水若しくは人工胃液を加えるとゲル化する性質を有する医薬有効成分とケイ酸類を含有した経口投与用固形製剤の製造方法
【請求項8】
水若しくは人工胃液を加えるとゲル化する性質を有する医薬有効成分に対して、ケイ酸類を実質的に接触するように混合する工程が、粉砕、混合、である請求項7の製造方法

【公開番号】特開2006−298811(P2006−298811A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121835(P2005−121835)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000208145)大洋薬品工業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】