説明

ゲル状物から固形物を製造する方法

【課題】高粘度で低流動性のゲル状物を容易にかつ効率よくしかも経済的に固形物となす方法を提供する。
【解決手段】ゲル状物に超音波を照射して液状物となし、前記液状物を乾燥して所定形状の固形物となすことを特徴とするゲル状物から固形物を製造する方法であって、前記液状物を皿状の乾燥板上で乾燥して、板状の固形物を得たり、成形型に注入して乾燥して、所定形状の固形物を得ることができる。また、前記液状物を乾燥して粉状物とし、前記粉状物を圧縮して所定形状の固形物となすことができ、特に、前記液状物をスプレードライヤーにて乾燥して粉状物とするとともに、前記固形物が板状若しくは粒状若しくは棒状である場合がある。前記ゲル状物は、多糖類、タンパク質、ポリアクリル酸類、ポリメタクリル酸類、ポリビニルアルコール類、ポリエチレングリコール類並びにこれらの誘導体のうち少なくともいずれか1種以上を含有している場合がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主として、ゲル状物から固形物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
でん粉やペクチン、グルコマンナンなどの多糖類、あるいはゼラチンなどのたんぱく質や、ポリアクリル酸などの高分子物質は、適当な溶媒に溶解されて高粘度で低流動性のゲル状物として食品や工業で用いられる。例えば、でん粉は粒径が約数マイクロメートルから数百マイクロメートルの粒子であり、冷水中では溶解せずにスラリーとして存在するが、加熱処理またはアルカリ性条件下や塩類の添加による化学的処理により、でん粉が溶媒に溶解してゲル状物、すなわちでん粉糊となる。
【0003】
一般に、食品分野では、野菜などの煮汁に水溶きした片栗粉を分散加熱することでトロミを付与し、あんかけなどにすることが行われている。また、ゼラチンや寒天を水中で加熱し溶解した後、任意の形状の型に流し入れ、冷却固化する事で任意の形状の固形物すなわちゼリーを得たり、果肉と果皮とを煮詰めることで果皮中に含まれるペクチンにて果汁を固めマーマレードを得たりすることは、広く行われている。そして、工業分野では、アルカリ処理されたでん粉により得られたでん粉糊が、紙製品の製造などで接着剤として広く用いられている。また、ポリアクリル酸などのように、水と接したときに非常に強い吸水性を示してゲル状になる性質を利用した吸水パッドは、おむつの吸水材として使用されている。
【0004】
しかるに、ゲル状物は、しばしばその高粘度や低流動性がゲル状物の操作を困難とすることがある。物質の操作の代表的なものとして移動が挙げられるが、例えば前記のマーマレードにあっては、製造直後で温度が高く流動性が高い状態では、多数の瓶に正確な分量で素早く小分けすることが可能であるが、冷却して流動性が低下したマーマレードを同様に小分けすることは極めて困難である。
【0005】
また、ゲル状物の高粘度や低流動性がその利用範囲を狭めていることが挙げられる。例えば多糖類のうちグルコマンナンに代表される難消化性多糖類においては、人の栄養源となりにくいその栄養学的な機能と食物繊維としての機能を有することに着目して、繊維質不足やカロリー過剰摂取になりがちな現在の食生活における健康維持に有益な物質であると注目されている。特に、食物繊維の摂取は血液中のコレステロール低下を促し、心筋梗塞、糖尿病、大腸がんなどの成人病予防にも効果があることからその積極的な用途展開が試みられている。しかしながら、これらの多糖類にあっては、その高粘度や低流動性のため、高濃度での摂取が困難となることが多く、効果的な利用の妨げとなっている。また、前述したゲル状物の操作上の問題もあいまって、多糖類を高濃度に含有する食品の工業的な設計については障害が少なくない。
【0006】
ところで、でん粉や多糖類の粘度を低下させる方法として、でん粉中間分解物であるデキストリンやマルトデキストリンを混合することで粘度を低下させている例もあるが(例えば特許文献1,2を参照)、一般的な液状化手段としては、α―アミラーゼ酵素によるでん粉の液化法が広く行われている。
【0007】
すなわち、でん粉糖化工業における、でん粉液化物を得る方法で、でん粉乳と液化酵素であるでん粉分解酵素を、予め混合しておき加熱することで、でん粉粒の加熱崩壊による糊化と、糊化したでん粉の加水分解を同時に進行させる方法である。このでん粉液化物に、取得したい最終製品に合わせて糖化酵素の種類や組み合わせを選択することで、ブドウ糖や水飴、サイクロデキストリンといったでん粉由来の糖質の製造が行われている。でん粉糖化工業における、でん粉液化は、糖化酵素の作用を円滑に進めるための前処理にあたり、でん粉の糊化によるゲル状化を防ぐことで、移動や糖化酵素との混和がスムーズに行われている。
【0008】
しかしながら、予め糊化された高粘度で低流動性のゲル状となったでん粉については、移動および液化酵素との混和といった操作が困難であるため、配管閉塞や加熱部分への付着による焦げ付きなどの深刻な障害が発生することが問題となっている。また、たんぱく質については、でん粉と同じく各種のたんぱく質分解酵素が存在するため処理自体は可能であるが、ゲル状物に対しては、やはり操作が困難である。
【0009】
それ以外の多糖類や高分子の酵素液化については、グルコマンナンを液化する酵素による飲料の製造方法が提案されている(例えば特許文献3参照)。しかし、加水分解による高分子の分解によって液状化するものであり、操作の問題に加え、商業的に使用できる酵素が存在しないか非常に高価であり、製造費用を押し上げる結果となるため、経済的理由等から工業的利用は難しい。
【0010】
塩酸や硫酸といった強酸による酸分解法によれば、原理的にはゲル状物の種類によらず液化することが可能であると考えられるが、操作の問題だけでなく、使用する酸による反応容器や付帯設備といった製造設備の腐食や、酸や中和するアルカリ等の取り扱いそのものが非常に危険であるという問題が生じる。
【0011】
加えて、酵素分解ならびに酸分解ともに、使用した酵素や酸およびその中和により生じた塩類などが、液化物中に混在して残存するため、例えば、食品分野など特に最終製品の純度が要求される場合には、ろ過やイオン交換処理など適切な精製方法で残存物の除去を行う必要があり、この場合には工程が煩雑なものとなる。
【0012】
また、イオン交換処理を行う場合には、液化物の成分が荷電を有していると、イオン交換処理に用いるイオン交換樹脂に吸着されることがあるため、著しい収率低下をきたすなど、処理自体が困難となる場合もある。
【0013】
上記の問題点を解決し高粘度で低流動性のゲル状物の液状化による操作性、経済性および利便性を向上させるため、本発明者が鋭意検討したところ、前記ゲル状物に超音波照射を適用することで短時間で液状化が生じ、液状物が取得可能であることを見出した。そして、この液状物をもとに、さらに乾燥処理をして、使用目的に最も適した所定形状の固形物を容易に得ることができる。
【特許文献1】特開2003−2901公報 (第2―3頁、第1図)
【特許文献2】特許3066568号公報 (第2頁)
【特許文献3】特開平5−199856号公報 (第2―4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明は、高粘度で低流動性のゲル状物を容易にかつ効率よくしかも経済的に使用目的に最も適した所定形状の固形物となす方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、請求項1の発明は、ゲル状物に超音波を照射して液状物となし、前記液状物を乾燥して所定形状の固形物となすことを特徴とするゲル状物から固形物を製造する方法に係る。
【0016】
請求項2の発明は、前記液状物を皿状の乾燥板上で乾燥して、板状の固形物を得ることを特徴とする請求項1に記載のゲル状物から固形物を製造する方法に係る。
【0017】
請求項3の発明は、前記液状物を成形型に注入して乾燥して、所定形状の固形物を得ることを特徴とする請求項1に記載のゲル状物から固形物を製造する方法に係る。
【0018】
請求項4の発明は、ゲル状物に超音波を照射して液状物となし、前記液状物を乾燥して粉状物とし、前記粉状物を圧縮して所定形状の固形物となすことを特徴とするゲル状物から固形物を製造する方法に係る。
【0019】
請求項5の発明は、前記液状物をスプレードライヤーにて乾燥して粉状物とするとともに、前記固形物が板状若しくは粒状若しくは棒状である請求項4に記載のゲル状物から固形物を製造する方法に係る。
【0020】
請求項6の発明は、前記ゲル状物が、多糖類、タンパク質、ポリアクリル酸類、ポリメタクリル酸類、ポリビニルアルコール類、ポリエチレングリコール類並びにこれらの誘導体のうち少なくともいずれか1種以上を含有している請求項1ないし5のいずれか1項に記載のゲル状物から固形物を製造する方法に係る。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明に係るゲル状物から固形物を製造する方法によると、ゲル状物に超音波を照射することにより、前記ゲル状物から液状物を得ることができる。そのため、例えば、予め糊化された高粘度で低流動性のゲル状物であっても、超音波照射により短時間で液状化することが可能であり、操作性や利便性を向上させることができる。そして、この液状物をもとにして、さらに、乾燥処理をして、使用目的に最も適した所定形状の固形物を容易に得ることができる。
【0022】
請求項2の発明に係る製法によれば、前記液状物を皿状の乾燥板上で乾燥して、板状の固形物を得るものであるから、使用目的に応じた板状の固形物を簡単かつ容易に成形することができる。
【0023】
請求項3の発明に係る製法によれば、前記液状物を成形型に注入して乾燥して、所定形状の固形物を得るものであるから、用途に応じた所定形状の固形物を簡単かつ容易に成形することができる。
【0024】
請求項4の発明に係る製法によれば、ゲル状物に超音波を照射して液状物となし、前記液状物を乾燥して粉状物とし、前記粉状物を圧縮して所定形状の固形物となすものであるから、使用目的に最も適した所定形状の固形物を簡単かつ容易に得ることができる。
【0025】
請求項5の発明に係る製法によれば、前記液状物をスプレードライヤーにて乾燥して粉状物とすものであるから、連続的にかつ大量の乾燥が簡単容易に効率よく、経済的に行うことができる。さらに、前記固形物が板状若しくは粒状若しくは棒状であるから、これらは従来公知の装置によって、使用目的に最も適した所定形状の固形物に簡単かつ容易に成形することができる。
【0026】
請求項6の発明に係る製法によれば、前記ゲル状物は、多糖類、タンパク質だけでなく、ポリアクリル酸類、ポリメタクリル酸類、ポリビニルアルコール類、ポリエチレングリコール類並びにこれらの誘導体のうち少なくともいずれか1種以上を含有することができる。従って、本方法によれば、従来、例えば商業的に使用できる酵素が、存在しないか非常に高価であったでん粉以外の多糖類や高分子の液化についても、そのような酵素を用いることなく、しかも高粘度で低流動性のゲル状物であっても、経済的で簡便に液状物を得ることができる。そして、この液状物をもとにして、さらに、乾燥処理をして、使用目的に最も適した所定形状の固形物を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は本発明を実施する工程の概略を表す概略工程図で、ゲル状物に超音波を照射して液状物となす工程と、前記液状物を乾燥して固形物となす工程とからなる。また、図2は本発明に用いる超音波照射装置の一例を示す概略図、図3は前記液状物を皿状の乾燥板上で乾燥して、板状の固形物を得る工程を示す概略図、図4は前記液状物を成形型に注入して乾燥して、所定形状の固形物を得る工程を示す概略図、図5は液状物を乾燥して粉状物とし、前記粉状物を圧縮して所定形状の固形物となす工程を示す概略図である。
【0028】
請求項1の発明として規定するように、ゲル状物に超音波を照射して液状物が得られる。ここで、前記ゲル状物の固形分濃度は特に限られたものではないが、分解物の経済的な取得の観点から1重量%以上が好ましく、更には10重量%以上が好ましい。また、超音波を照射する前記ゲル状物の粘度は特に限定されないが、粘度400mPa・s程度の軟らかいゲル状物はもちろんのこと、40,000mPa・s以上の硬いゲル状物に対しても本方法の適用が可能である。なお、粘度はB型粘度計(東機産業株式会社製TVB−10)を用い、ローターと回転数を適宜調整し、温度50℃で測定したときの一例である。
【0029】
さらに、前記ゲル状物とは、請求項6の発明として規定するように、多糖類、タンパク質、ポリアクリル酸類、ポリメタクリル酸類、ポリビニルアルコール類、ポリエチレングリコール類並びにこれらの誘導体のうち少なくともいずれか1種以上を含有したゲル状物とすることができる。
【0030】
前記ゲル状物の調製方法としては、特に限定されないが、高分子の浸漬による膨潤や攪拌による溶解および加温や薬剤処理ならびにそれらを組み合わせた方法などが挙げられる。また、前記ゲル状物の調製に用いる溶媒も、水、有機溶剤もしくはそれらの混合物など特に限られるものではない。
【0031】
ゲル状物に超音波を照射して得られた液状物の性状は、超音波照射の形態により、液化の程度が任意に調整される。前記液状物は、単体で糊剤やトロミ付け、粘度賦与などに利用できるほか、任意の物質と混合し組成物を調製することができる。
【0032】
前記ゲル状物に照射される超音波の周波数は、20KHzないし400KHzの周波数から選択して用いることが可能である。また、超音波照射における照射形式、照射時間、強度、ゲル状物の量などの条件については、特に限られるものではない。なお、超音波照射の周波数としては、超音波照射装置の消費電力、ゲル状物に超音波を照射する際の処理効率などから、10KHzから10MHz、好ましくは20KHzから2MHz、20KHzから1MHz、20KHzから400KHz、また更に好ましくは20KHzから100KHzが好適であると想定される。
【0033】
また、ゲル状物の調製と超音波照射を同時に実施したり、被処理物の投入と当該処理物の取り出しを適宜行うことで連続的に実施してもかまわない。さらに、従来の液化方法である酸分解法や酵素分解法と組み合わせることで、それらの処理法を高濃度で経済的に進める手段としても利用することもできる。また、ゲル状物と混和したい物質を共存させた上で超音波照射を行えば、液状化と混和を同時に実施する事も可能である。
【0034】
本発明に用いるゲル状物の液化装置の一例を説明すると、図2において、ゲル状物の液化装置1は、信号を発振する発振機2、発振された信号出力を測定する電力計3、発振された信号により振動する振動子4、振動子の振動により生じる超音波が照射される被照射物5、その被照射物の容器6により構成されている。例えば、前記容器6は、上面が開放され、下面が閉じているステンレス製円筒を用いることができる。容器6内に被照射物5を入れた後、振動子4を容器6の開放側から被照射物5に直接密着させる。上記の発振機2から、振動子4へ信号が発振されることで被照射物5に超音波が照射され、その出力は電力計3により監視される。任意の程度まで超音波照射を行ったのち、発振機2からの信号を停止し、容器6から被照射物5を取り出すことができる。
【0035】
前記工程で得られた液状物は、微生物汚染を受けやすい様態であるため、液状での長期保存や輸送については、高度に衛生的な仕様の容器の設置や入念な配管洗浄など格別の設備管理が必要とされる。一方、得られた液状物を、速やかに水分を減少させて固形物とすることで、この微生物汚染の危険性を解決することができる。また、固形物であるので、一般的な管理条件で、効率のよい保管や流通が可能となるだけでなく、使用時における配合や調製といった操作を、任意の濃度に再溶解した液状、あるいは固形物や粉状のままでも実施することができる。
【0036】
次に、乾燥工程について述べると、前記超音波照射工程によって得られた液状物は、乾燥によって固形物とされる。乾燥は、加熱板、加熱ローラー、焼き型、オーブンもしくは加熱プレスやフリーズドライなどを用いた公知手法により任意に行うことができる。また、乾燥により得られた所定形状の固形物を、目的に応じて粉砕し、適当な粒径の粉状物を得ることもできる。
【0037】
また、請求項2に規定し、図3に示すように、前記液状物を皿状の乾燥板上で乾燥して、板状の固形物を得ることができる。目的とする板状の固形物の性状に応じて、前記液状物に保水剤やグリセリンなどの柔軟剤などの添加剤を混合して、乾燥することができる。乾燥雰囲気や乾燥温度、時間は、特に限られず、大気中や真空中で乾燥することができ、板状の固形物の性状や形状、厚みなどに応じて適宜調節される。板状の固形物や成形により得られた所定形状の固形物を均一に乾燥するために、乾燥の温度や時間を、段階的に変化させて乾燥してもよい。また、板状の固形物を粉砕して、粉状物を得ることも可能である。
【0038】
前記皿状の乾燥板の材質は特に限定されず、ステンレス、鉄などの金属あるいはテフロン(登録商標)などの樹脂等を用いることができる。乾燥板の濡れ性や前記液状物の粘度によっては、乾燥板上で前記液状物が平滑に広がりにくい場合があるため、乾燥板の材質は濡れ性のよいポリエチレンテレフタレート(以下、PETという。)などのポリオレフィン類が好ましい。さらに、コロナ処理やサンドブラスト処理などによる乾燥板の濡れ性向上や、前記液状物に界面活性剤等の添加や粘度調整などを行うことによる表面張力の低減も好適である。また、シリコン類などの離型剤を塗布することも可能である。これらは、以下に述べる、前記液状物を成形型に注入する場合や、前記液状物を乾燥して得られた粉状物を圧縮する場合に用いられる成形型についても、同様である。
【0039】
また、前記皿状の乾燥板のサイズは特に限られず、目的に応じた大きさの前記乾燥板を用いることができる。特に、板状の固形物の厚み方向の大きさは、前記液状物の固形分濃度を変化させたり、板状の固形物を幾つか重ねたりすることなどにより調製することもできる。
【0040】
次に、請求項3に規定し、図4に示すように、前記液状物を成形型に注入して乾燥して、所定形状の固形物を得る場合には、前述の板状の固形物を得るときと同様に、前記液状物に保水剤やグリセリンなどの柔軟剤などの添加剤を混合して、乾燥することができる。乾燥雰囲気や乾燥温度、時間は、特に限られず、固形物の性状や形状、厚みなどに応じて適宜調節される。成型方法は例えば、射出成形、インモールド成形、鋳込み成形などを目的に応じて、適宜選択することができる。
【0041】
また、請求項4に規定し、図5に示すように、前記液状物を乾燥して粉状物とし、前記粉状物を圧縮して所定形状の固形物を得る場合には、目的とする粉状物の性状に応じて、前記液状物に、例えば、バインダーや分散剤等を加えることで、乾燥に最適なスラリーなどにすることも可能である。粉状物の粒径、形態などは特に限定されるものではなく、目的とする粉状物の性状に応じて任意に選択することができる。
【0042】
このような、粉状化方法としては、請求項5に規定するように、速やかで連続的であり、かつ内容成分への影響が少ない液状物の乾燥方法であるスプレードライヤーによる実施が望ましい。また、スプレードライヤーによる乾燥によれば、大量の前記液状物の乾燥が簡単容易に効率よく、経済的に行うことができる。
【0043】
そして、圧縮工程では、粉状物を圧縮して所定の固形物、例えば、板状若しくは粒状若しくは棒状の固形物とすることができる。圧縮装置としては、公知の圧縮ローラ、圧延ローラ、各種プレス装置、造粒装置、ブリケットマシンなどを所望する性状あるいは形状に応じて適宜使用することができる。例えば、スプレードライヤーなどの乾燥により得られた粉状物を加圧成形すれば、板状若しくは粒状若しくは棒状などの所定形状の固形物を容易に得ることができる。所定形状の固形物に成形しやすいように、得られた粉状物にバインダーなどを添加することも可能である。
【実施例】
【0044】
次に本発明における液状物の実施例について示す。各処理を行うに当たり、下記所定の条件でゲル状物の調製を行った。前記ゲル状物を直径5.5cm、高さ4cmのステンレス製円筒容器に充填し、超音波発振機「(有)コウワ技研製 バリアブル型超音波発振機」の発振で駆動する振動子の先端(直径5cm)を密着させ、20KHz、100Wの超音波照射を30分間行い、各液状物を得た。
【0045】
[処理例1]
試薬「グルコマンナン」(和光純薬工業(株)製)固形換算0.5gを49.5gの沸騰脱イオン水に攪拌しながら投入して50gのゲル状物を調製した。超音波照射の時間に伴う粘度変化を確認するために、超音波照射時間を5分から60分の間で変化させて行った。本発明によって得られた液状物の粘度と超音波照射時間の関係は下記表1、図6に示すとおりである。ゲル状物に対する超音波照射により、ゲル状物の液状化が生じ、照射時間に伴って粘度低下が進行していることが明らかである。また、超音波照射時間については、30分以上超音波照射を行っても、それ以降はほとんど粘度変化が無かった。従って、以下の各試料は超音波照射時間を30分として処理を行った。
【0046】
【表1】

【0047】
[処理例2]
市販とうもろこしでん粉「コーンスターチ」(フタムラスターチ(株)製)固形換算5.0gと水酸化ナトリウム試薬0.5gを脱イオン水に溶解し、50gのゲル状物を調製した。このゲル状物を処理例1と同様の方法にて超音波照射を30分間行い、当該処理物を得た。
【0048】
[処理例3]
市販とうもろこしでん粉「コーンスターチ」(フタムラスターチ(株)製)固形換算5.0gを脱イオン水に分散させ加温し、50gのゲル状物を調製した。このゲル状物を処理例2と同様の方法にて超音波照射を行い、当該処理物を得た。
【0049】
[処理例4]
市販馬鈴薯でん粉「片栗粉」((株)扇カネ安製)固形換算5.0gを処理例3と同様の方法でゲル状物を調製した。このゲル状物を処理例2と同様の方法にて超音波照射を行い、当該処理物を得た。
【0050】
[処理例5]
試薬「ジェランガム」(関東化学(株)製)固形換算1.0gを処理例3と同様の方法でゲル状物を調製した。このゲル状物を処理例2と同様の方法にて超音波照射を行い、当該処理物を得た。
【0051】
[処理例6]
試薬「アルギン酸ナトリウム」(関東化学(株)製)固形換算2.5gを処理例3と同様の方法でゲル状物を調製した。このゲル状物を処理例2と同様の方法にて超音波照射を行い、当該処理物を得た。
【0052】
[処理例7]
試薬「ペクチン」(関東化学(株)製)固形換算5.0gを処理例3と同様の方法でゲル状物を調製した。このゲル状物を処理例2と同様の方法にて超音波照射を行い、当該処理物を得た。
【0053】
[処理例8]
試薬「ポリアクリル酸」(和光純薬工業(株)製)固形換算0.5gを処理例3と同様の方法でゲル状物を調製した。このゲル状物を処理例2と同様の方法にて超音波照射を行い、当該処理物を得た。
【0054】
[処理例9]
試薬「ポリビニルアルコール」(関東化学(株)製)固形換算0.5gを処理例3と同様の方法でゲル状物を調製した。このゲル状物を処理例2と同様の方法にて超音波照射を行い、当該処理物を得た。
【0055】
[処理例10]
試薬「ポリエチレングリコール」(メルク(株)製)固形換算10gを処理例3と同様の方法でゲル状物を調製した。このゲル状物を処理例2と同様の方法にて超音波照射を行い、当該処理物を得た。
【0056】
[処理例11]
市販「ゼラチン」(マルハ(株)製)固形換算0.5gを処理例3と同様の方法でゲル状物を調製した。このゲル状物を処理例2と同様の方法にて超音波照射を行い、当該処理物を得た。
【0057】
[処理例12]
市販粉末「寒天」(伊那食品工業(株)製)固形換算0.1gを処理例3と同様の方法でゲル状物を調製した。このゲル状物を処理例2と同様の方法にて超音波照射を行い、当該処理物を得た。
【0058】
[処理例13]
加工でん粉(公知の方法により調製されたでん粉リン酸エステル)固形換算5.0gを処理例3と同様の方法でゲル状物を調製した。このゲル状物を処理例2と同様の方法にて超音波照射を行い、当該処理物を得た。
【0059】
[超音波照射による各試料の粘度の評価]
図7に、処理例2から処理例13までの各試料における、超音波照射前と超音波照射後の粘度の測定結果を示す。図7から明らかなように、いずれの処理例においても、ゲル状物に対する超音波照射により、著しく粘度が低下した。
【0060】
[処理例14]
処理例3により調製した当該処理物に水酸化カルシウム試薬を加えpH6.0に調製した後、α―アミラーゼ「大和化成(株)製クライスターゼT−5」30U添加し、50℃で3時間反応させた上で、シュウ酸試薬にてpH4.5に再調製し、グルコアミラーゼ「アマノエンザイム(株)製シルバラーゼ」170Uを添加して50℃にて72時間反応せしめ、ぶどう糖液を得た。
【0061】
[比較例1]
フタムラスターチ(株)製連続酵素液化装置にて液化された10重量%でん粉液化液に、α―アミラーゼ「大和化成(株)製クライスターゼT−5」30U添加し、50℃で3時間反応させた上で、シュウ酸試薬にてpH4.5に再調製し、グルコアミラーゼ「アマノエンザイム(株)製シルバラーゼ」170Uを添加して50℃にて72時間反応せしめ、ぶどう糖液を得た。
【0062】
[ぶどう糖当量の評価]
表2に、処理例14および比較例1にて得られたぶどう糖液のぶどう糖含量を示す。なおぶどう糖量はレーンエイノン法にて得られたぶどう糖当量(DE Dextrose Equivalent)にて測定した。表2により、処理例14において得られたぶどう糖液のぶどう糖当量(DE)は比較例1とほとんど同じであり、本発明によって得られたでん粉の当該処理物は、従来用いられているでん粉液化液と同等にぶどう糖の生産に使用可能であることが明らかである。
【0063】
【表2】

【0064】
[処理例15]
処理例3により調製した当該処理物に水酸化カルシウム試薬を加えpH6.0に調製した後、サイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ「アマノエンザイム(株)製コンチザイム」15Uを添加して50℃にて72時間反応せしめサイクロデキストリン溶液を得た。
【0065】
[比較例2]
比較例1にて得られた10重量%でん粉液化液に、サイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ「アマノエンザイム(株)製コンチザイム」15Uを添加して50℃にて72時間反応せしめサイクロデキストリン溶液を得た。
【0066】
[サイクロデキストリン量の評価]
表3に処理例15と比較例2にて得られたサイクロデキストリン溶液のサイクロデキストリン含量の比較を示す。なお、サイクロデキストリン含量は、HPLC装置(株式会社島津製作所製RID―10A)を用いて、高速液体クロマトグラフィー法により測定を行った。表3によれば、処理例15において得られたサイクロデキストリン量は比較例2よりやや多く、本発明によって得られたでん粉の当該処理物は、従来用いられているでん粉液化液よりもサイクロデキストリン生産に好適であることが明らかである。
【0067】
【表3】

【0068】
[処理例16]
処理例3により得られた当該処理物を、PET製トレイ上に乾燥物にて100g/m2となるよう均一に注入し、80℃雰囲気に調製した乾燥機中にて乾燥を行い、シート状物を得た。
【0069】
[比較例3]
市販とうもろこしでん粉「コーンスターチ」(フタムラスターチ(株)製)固形換算5.0gを脱イオン水に分散させ加温し、50gのゲル状物を調製した。このゲル状物をPET製トレイ上に乾燥物にて100g/m2となるよう均一に注入を試みた。本試料は粘度が高く均一にすることができなかったが、そのまま80℃雰囲気に調製した乾燥機中にて乾燥を行いシート状物を得た。
【0070】
[加工性の評価]
表4に処理例16と比較例3により得られたシート状物の比較を示す。本比較については、外観、透明性、乾燥性のいずれにおいても処理例16のほうが勝っている。比較例3は均一に塗布できなかったことに由来する厚みのムラが、部位による乾燥速度の差異を生じて品質の低下を来しており、厚みのムラが生じない処理例6の加工性が高いことは明らかである。
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明を実施する工程の概略を表す概略工程図である。
【図2】本発明に用いる超音波照射装置の一例を示す概略図である。
【図3】前記液状物を皿状の乾燥板上で乾燥して、板状の固形物を得る工程を示す概略図である。
【図4】前記液状物を成形型に注入して乾燥して、所定形状の固形物を得る工程を示す概略図である。
【図5】液状物を乾燥して粉状物とし、前記粉状物を圧縮して所定形状の固形物となす工程を示す概略図である。
【図6】本発明によって得られた液状物の粘度と超音波照射時間の関係を示す図である。
【図7】処理例2から処理例13までの各試料における、超音波照射前後の粘度の測定結果を示す。
【符号の説明】
【0072】
1 ゲル状物の液化装置
2 発振機
3 電力計
4 振動子
5 被照射物
6 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル状物に超音波を照射して液状物となし、前記液状物を乾燥して所定形状の固形物となすことを特徴とするゲル状物から固形物を製造する方法。
【請求項2】
前記液状物を皿状の乾燥板上で乾燥して、板状の固形物を得ることを特徴とする請求項1に記載のゲル状物から固形物を製造する方法。
【請求項3】
前記液状物を成形型に注入して乾燥して、所定形状の固形物を得ることを特徴とする請求項1に記載のゲル状物から固形物を製造する方法。
【請求項4】
ゲル状物に超音波を照射して液状物となし、前記液状物を乾燥して粉状物とし、前記粉状物を圧縮して所定形状の固形物となすことを特徴とするゲル状物から固形物を製造する方法。
【請求項5】
前記液状物をスプレードライヤーにて乾燥して粉状物とするとともに、前記固形物が板状若しくは粒状若しくは棒状である請求項4に記載のゲル状物から固形物を製造する方法。
【請求項6】
前記ゲル状物が、多糖類、タンパク質、ポリアクリル酸類、ポリメタクリル酸類、ポリビニルアルコール類、ポリエチレングリコール類並びにこれらの誘導体のうち少なくともいずれか1種以上を含有している請求項1ないし5のいずれか1項に記載のゲル状物から固形物を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−265512(P2006−265512A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159216(P2005−159216)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(592184876)フタムラ化学株式会社 (60)
【Fターム(参考)】