説明

ゲル電解質、光電変換素子及び太陽電池

【課題】液漏れを防止したゲル電解質の提供、高い光電変換効率と優れた安定性とを示す光電変換素子及び太陽電池を提供する。
【解決手段】酸化還元種及び該酸化還元種が溶解可能な溶媒を含有する電解質を含み、且つ、該電解質がスメクタイト類を含むことを特徴とするゲル電解質

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル電解質、光電変換素子及び太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換材料とは、電極間の電気化学反応を利用して光エネルギを電気エネルギに変換する材料である。光電変換材料に光を照射すると、一方の電極側で電子が発生し、対電極に移動する。対電極に移動した電子は、電解質中をイオンとして移動して一方の電極にもどる。
【0003】
すなわち、光電変換材料は光エネルギを電気エネルギとして連続して取り出せる材料であり、たとえば、太陽電池などに利用されている。太陽電池にはいくつかの種類があるが、住居設置用発電パネル、卓上計算機、時計、携帯用ゲーム機等に実用化されているものの大部分はシリコン太陽電池である。
【0004】
しかし、最近になって色素増感型太陽電池が注目され、実用化を目指して研究されている。色素増感型太陽電池は古くから研究されており、その基本構造は、具体的には金属酸化物半導体及びそこに吸着した色素、電解質溶液及び対向電極を構成として有するものである。
【0005】
上記のような、従来の色素増感型太陽電池においては、光電変換材料は、半導体表面に可視光領域に吸収を持つ分光増感色素を吸着させたものが用いられている。例えば、金属酸化物半導体の表面に、遷移金属錯体などの分光増感色素層を有する太陽電池を記載しているもの(例えば、特許文献1参照。)、また、金属イオンでドープした酸化チタン半導体層の表面に、遷移金属錯体などの分光増感色素層を有する太陽電池を記載しているもの(例えば、特許文献2参照。)などが挙げられる。
【0006】
一方、光電変換能力を有する酸化物半導体電極としては、初期の頃は半導体の単結晶電極が用いられてきた。その種類としては、酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)等がある。
【0007】
しかし、単結晶電極は色素の吸着量が少ないため効率は非常に低く、コストが高いというデメリットがあった。そこで考え出されてきたのが、微粒子を焼結して形成された多数の細孔を有する高表面積半導体電極である。
【0008】
例えば、坪村らによって有機色素を吸着した多孔質酸化亜鉛電極が非常に性能が高いことが報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0009】
その後は、色素にも改良がされるようになり、Graetzelらはルテニウム錯体系色素を多孔質酸化チタン電極に吸着させることで、現在、シリコン太陽電池並みの性能を有するまでになっている(例えば、非特許文献2参照。)。
【0010】
しかし、シリコン太陽電池を代替する実用化のためには、今まで以上に高いエネルギ変換効率や、さらに高い短絡電流、開放電圧、形状因子が求められており、現在のところ、多孔質半導体電極で報告されている物質としてはZnO、TiO2、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ニオブ(Nb25)等を用いての技術開発が行われている。
【0011】
また、色素増感型湿式太陽電池はシリコン太陽電池に比べ製造コストが非常に安いため、将来的には先述の種々の製品に用いられているシリコン太陽電池を代替する可能性があるが、その際には各々の製品に応じた太陽電池の特性が重要になる。太陽電池の特性には様々なものがあり中でも、下記に示す
1.短絡電流
2.開放電圧
3.形状因子
4.エネルギ変換効率
5.光吸収スペクトル
などが重要であるが、特に4.のエネルギ変換効率は太陽電池の最大の課題であり、その改良が強く望まれていた。その効率を左右する技術課題の一つとして、光励起された電子を効率的に半導体に移動する能力を有する増感色素が求められている。これまでに検討された種々の色素のうち、前記ルテニウム錯体系色素は比較的優れた特性を有することがわかっているが、色素が高価であること、および錯体の中心金属であるルテニウムが稀少元素であり将来にわたる安定的な供給に懸念がもたれることから、より安価で安定的に供給可能な有機色素がより好ましい。こうした要請からこれまでにも多くの有機色素が検討されているが、その光電変換効率は未だ充分なものではなく、さらに変換効率の高い光電変換素子を構成できる有機色素が待望されている。
【0012】
ルテニウム錯体色素の他にもさまざまな色素についての検討(例えば、特許文献3、4、5参照。)が行われているが、よく知られているのはメロシアニン色素、キサンテン系色素、クマリン系色素、アクリジン系色素、フェニルメタン系色素等である。また、それら以外の新たな色素母核の開発も行われている(例えば、特許文献6参照。)が、何れの色素もまだ満足いく性能を有していないため、吸着力が強く長波長領域まで高効率な色素の更なる開発が望まれている。
【0013】
一方、その他の課題である電解液層からの液漏れを防止するため、電解液層を固体化した色素増感型太陽電池が記載され、このとき用いられる多孔性半導体層としては、比表面積が1gあたり100m2〜10000m2程度のものが好ましいと記載されている。また、電解液層の固体化方法としては、次の方法が記載されている(例えば、特許文献7参照)。
【0014】
まず、下記一般式(I)で表される化合物:
一般式(I)
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、R1、R2は水素原子又はメチル基であり、R3は水素原子あるいは炭素数1以上の低級アルキル基である。nは1以上の整数であり、mは0以上の整数であってm/nは0〜5の範囲である。)
で表されるモノマーを、エチレングリコールに溶解して得られたモノマー溶液に、酸化還元種であるヨウ素化合物(ヨウ化リチウム等)を溶解させ、多孔性半導体層に含浸させた後、紫外線もしくは熱により重合させて高分子化合物を作製する。その後、別の酸化還元種であるヨウ素を昇華させることにより高分子化合物にドープすることで固体化された電解液層が形成されている(例えば、特許文献8及び9参照。)。
【0017】
また、平均粒径が1nm〜2000nm程度の粒子を用いて多孔性半導体層が作製され、その層の比表面積は1gあたり10m2〜200m2程度が好ましいと記載されている。また電解質を固体化する方法として、下記一般式(II)で表される化合物;
一般式(II)
【0018】
【化2】

【0019】
(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、Aはエステル基と炭素原子で結合している残基であり、nは2〜4である。)
で表されるポリ(メタ)アクリレート系モノマー単位を用いたゲル電解質において、溶媒としてエチレンカーボネート(ECともいう)あるいはプロピレンカーボネート(PCともいう)を用いることが記載されている(例えば、特許文献10参照。)。
【0020】
また、カーボネート基、窒素原子を含有する複素環又は4級アンモニウム塩に由来する一価の有機残基を有する構成単位を少なくとも一種含むことを特徴とするゲル電解質が記載されている(例えば、特許文献11参照。)。
【0021】
しかしながら、色素増感型太陽電池の液漏れを防止するために、高分子化合物を用いた電解質の固体化が検討されているが、溶媒、あるいは電解液と高分子化合物を混合したものは粘度が向上し、多孔性半導体層中へ注入することが困難であった。それゆえに、多孔性半導体層とゲル電解質との接触界面形成が困難であり、電解液を用いた色素増感型太陽電池の変換効率と比較して7割程度であるという問題があり、これらを解決する手段が望まれている。
【特許文献1】特開平1−220380号公報
【特許文献2】特表平5−504023号公報
【特許文献3】特開平11−167937号公報
【特許文献4】特開平11−214730号公報
【特許文献5】特開平11−214731号公報
【特許文献6】特開2001−76775号公報
【特許文献7】特開2004−87202号公報
【特許文献8】特開平8−236165号公報
【特許文献9】特開平9−27352号公報
【特許文献10】特開2001−210390号公報
【特許文献11】特開平11−126917号公報
【非特許文献1】Nature,261(1976)p402
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.115(1993)6382
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の第1の目的は、液漏れを防止したゲル電解質の提供、第2の目的は高い光電変換効率と優れた安定性とを示す光電変換素子及び太陽電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の上記目的は、下記の構成1〜7により達成された。
【0024】
1.酸化還元種及び該酸化還元種が溶解可能な溶媒を含有する電解質を含み、且つ、該電解質がスメクタイト類を含むことを特徴とするゲル電解質。
【0025】
2.前記スメクタイト類を1質量%〜30質量%含有していることを特徴とする前記1に記載のゲル電解質。
【0026】
3.電解質の構成成分として、イミダゾリウムまたは該イミダゾリウムの塩を含有することを特徴とする前記1または2に記載のゲル電解質。
【0027】
4.少なくとも色素を吸着した多孔性半導体層と電解質とを含む光電変換素子において、前記1〜3のいずれか1項に記載のゲル電解質を含むことを特徴とする光電変換素子。
【0028】
5.前記多孔性半導体層に含まれる半導体が、金属酸化物または金属硫化物であることを特徴とする前記4に記載の光電変換素子。
【0029】
6.一対の導電性基板の間に、色素を吸着した多孔性半導体層と、前記1〜3のいずれか1項に記載のゲル電解質とを含むことを特徴とする太陽電池。
【0030】
7.前記多孔性半導体層に含まれる半導体が、金属酸化物または金属硫化物であることを特徴とする前記6に記載の太陽電池。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、液漏れを防止したゲル電解質の提供、第2の目的は高い光電変換効率と優れた安定性とを示す光電変換素子及び太陽電池を提供することが出来た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明のゲル電解質においては、請求項1〜3のいずれか1項に規定される構成を用いることにより、多孔性の半導体層に適用しても液漏れのないゲル電解質を提供することが出来た。更に、前記ゲル電解質を用いることにより、高い光電変換効率と優れた安定性とを示す光電変換素子及び太陽電池を提供することにも併せて成功した。
【0033】
以下、本発明に係る各構成要素の詳細について、順次説明する。
【0034】
本発明者等は上記の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、請求項1〜3のいずれか1項で表されるようなゲル電解質を用いることにより、本発明に記載の効果、すなわち、液漏れが防止され、高い光電変換効率を示し、且つ、優れた安定性とを示す、光電変換素子及び太陽電池を得ることに成功した。
【0035】
《ゲル電解質》
本発明のゲル電解質は、酸化還元種及び該酸化還元種が溶解可能な溶媒を含有する電解質を含み、且つ、スメクタイト類を含むことが特徴である。
【0036】
《酸化還元種(酸化還元性の電解質ともいう)》
本発明のゲル電解質に係る酸化還元種について説明する。
【0037】
本発明に係る酸化還元種(本発明では、酸化還元性の電解質ともいう)としては、一般に電池や太陽電池等において使用することができる電解質であれば特に限定されないが、具体的には、LiI、NaI、KI、CaI2等の金属ヨウ化物とヨウ素の組み合わせが好ましい。
【0038】
また、上記の組み合わせにヨウ化イミダゾリウム誘導体を添加してもよく、金属ヨウ化物のかわりにヨウ化イミダゾリウム等を用いてもよい。電解質濃度としては、溶媒に対して0.1モル/リットル〜1.5モル/リットルの範囲が挙げられるが、中でも、0.5モル/リットル〜1.5モル/リットルの範囲が好ましい。
【0039】
本発明に係る酸化還元種のひとつとして用いられるヨウ化イミダゾリウム誘導体(イミダゾリウム塩ともいう)としては、例えば、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイド、1−メチル−3−イソプロピルイミダゾリウムアイオダイド、1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムアイオダイド、1−メチル−3−イソブチルイミダゾリウムアイオダイド及び1−メチル−3−sブチルイミダゾリウムアイオダイドよりなる群から選択される少なくとも1種類のイミダゾリウム塩が挙げられる。
【0040】
上記以外にも、1,1−ジメチルイミダゾリウムアイオダイド、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムアイオダイド、1−メチル−3−ペンチルイミダゾリウムアイオダイド、1−メチル−3−イソペンチルイミダゾリウムアイオダイド、1−メチル−3−ヘキシルイミダゾリウムアイオダイド、1−メチル−3−イソヘキシル(分岐)イミダゾリウムアイオダイド、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムアイオダイド、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾールアイオダイド、1−エチル−3−イソプロピルイミダゾリウムアイオダイド、1−プロピル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイド等が挙げられる。
【0041】
ヨウ化イミダゾリウム誘導体の形態は、例えば、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイドは、−20℃付近まで結晶化がほとんど生じず、且つ、200℃付近まで分解しない化合物である。つまり、前記イミダゾリウムアイオダイドは、−20℃〜200℃の範囲内で液体の形態をとるという特性を示す化合物である。
【0042】
本発明に係る酸化還元種(酸化還元性の電解質)と、後述する、酸化還元種が溶解可能な溶媒(使用可能な溶媒の具体例は後に詳細に説明する)を含有する電解質(電解質組成物ともいう)は、形態としては液体状であるが、後述するスメクタイト類と共に用いることで、ゾル−ゲル変換特性を有する、本発明のゲル電解質が調製される。
【0043】
(可逆的な酸化還元対)
本発明に係る酸化還元種と、該酸化還元種が溶解可能な電解質は、可逆的な酸化還元対を含むことが好ましい。
【0044】
ここで、『可逆的な酸化還元対』とは、例えば、ヨウ素(I2)とヨウ化物の混合物、ヨウ化物、臭化物、ハイドロキノン、TCNQ錯体等から供給することができる。特に、ヨウ素とヨウ化物の混合物から供給されるI-とI3-からなる酸化還元対が好ましい。
【0045】
前記酸化還元対は、例えば、I-のような還元種が、酸化された色素から正孔を受け取りやすく、この酸化還元対を含有する電解質によって、n型半導体電極と導電膜間の電荷輸送の速度を早め、開放端電圧を高く設定するという観点からは、後述する色素の酸化電位よりも0.1V〜0.6V小さい酸化還元電位を示すことが望ましい。
【0046】
(その他、併用可能なヨウ化物)
本発明に係るゲル電解質中には、上記の酸化還元種として用いられる各種ヨウ化物(金属ヨウ化物、ヨウ化イミダゾリウム誘導体等)以外にも、さらにヨウ化物を含有していても良い。該ヨウ化物としては、例えば、有機化合物のヨウ化物、ヨウ化物の溶融塩等を挙げることができる。
【0047】
前記ヨウ化物の溶融塩としては、ピリジニウム塩、第4級アンモニウム塩、ピロリジニウム塩、ピラゾリジウム塩、イソチアゾリジニウム塩、イソオキサゾリジニウム塩等の複素環含窒素化合物のヨウ化物を使用することができる。
【0048】
《酸化還元種が溶解可能な溶媒》
本発明に係る、酸化還元種が溶解可能な溶媒としては、下記に示す、有機溶媒、ハロゲン化化合物、上記の酸化還元種とオニウム塩形成可能な、N、P及びSよりなる群から形成される少なくとも1種の元素を含む化合物等が挙げられる。
【0049】
ここで、酸化還元種が溶解可能とは、『溶媒中への酸化還元種の溶解度が、5質量%以上である場合に、本発明に係る酸化還元種が溶解可能な溶媒と定義する。』
(有機溶媒)
本発明に係る酸化還元種が溶解可能な溶媒の一態様である有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート(PC)などの環状カーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル、メトキシプロピオニトリル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、環状エーテルとしてテトラヒドロフラン、2一メチルテトラヒドロフランなど、鎖状エーテルとしてジメトキシエタン、ジエトキシエタン等が挙げられる。
【0050】
具体的には、ゲル電解質の調製に用いる溶媒を、粘度が低い溶媒と粘度が高く比誘電率も高い溶媒と、を混合して使用することにより、多孔性半導体層に良好に注入することができると共に、より高性能なゲル電解質を調製することができる。
【0051】
例えば、比誘電率が高い溶媒としては、エチレンカーボネート(以下、ECと記載する)が挙げられる。ECは比誘電率が90と高い値を示すが、25℃では固体状態である。そのため、他の溶媒と混合することで比誘電率が高く、粘度の低い状態を実現できる。
【0052】
具体的には、EC(沸点238℃)に対して比誘電率が40以上の非プロトン性溶媒を1種類以上混合することが望ましい。更に、具体的には、ECとプロピレンカーボネート(以下、PCと記載する、比誘電率65、粘度0.0025Pa・s(2.5cP)、沸点242℃)の混合溶媒、ECとγ−ブチロラクトン(以下γ−BLと記載する、比誘電率42、粘度0.0017Pa・s(1.7cP)、沸点204℃)の混合溶媒、ECとPCとγ−BLの混合溶媒が好ましい。
【0053】
ECは比誘電率が高く、PCやγ−BLは高い比誘電率を保持しつつECに比べ粘度も低く、また沸点も高いことから、ECとこれらの溶媒を混合したものが好ましい。その中でも特に、ECとγ−BLの組み合わせが好ましい。
【0054】
更に、粘度を低下させるためには、上記の混合溶媒にさらに粘度の低い溶媒を添加すれば良く、そのような有機溶媒としては、具体的には、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、メチルアセテート、メチルプロピオネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、3−メトキシプロピオニトリル、アセトニトリル、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール等)等が挙げられるが、上記の混合溶媒よりも低粘度であり、相溶性があれば特に限定されない。
【0055】
また、これらの溶媒は沸点が低いことが考えられるが、電解質を注入するために浸漬する電解液中に添加するなどして、沸点の低い溶媒の揮発を防ぐことで、ゲル電解質中に低粘度(低沸点)溶媒を保持させることが出来る。
【0056】
(有機溶媒の含有量)
本発明のゲル電解質中における有機溶媒の含有量は、ゲル電解質の変質を抑制し、且つ、電解質中の種々の化合物の電解質組成物中への析出を防止する観点から、65質量%以下にすることが好ましく、更に好ましくは、0.5質量%〜40質量%であり、特に好ましくくは、1質量%〜20質量%の範囲である。
【0057】
(水の含有量)
本発明のゲル電解質は、水を含有することが好ましい。水を含有することにより、例えば、後述する、光増感型太陽電池のエネルギー変換効率をより高くすることができる。
【0058】
本発明のゲル電解質中の水の含有量は、前記酸化還元種(例えば、イミダゾリウム塩)と水との合計量を100質量%とした際に10質量%以下にすることが好ましく、更に好ましくは、0.01質量%〜10質量%の範囲であり、特に好ましくは、0.5質量%〜5質量%の範囲である。
【0059】
また、本発明のゲル電解質中の水の含有量は、市販の自動水分測定器(カールフィッシャー水分計)により測定できる。
【0060】
ここで、図1〜図4を用いて、ECとγ−BLの混合比を変化させた時のゲル電解質と混合溶媒の粘度、混合比との関連を示す。
【0061】
図1は、ECとγ−BLの混合比に対する伝導度と溶媒の粘度変化を示すグラフである。尚、電解質は、ヨウ化リチウムとヨウ素とヨウ化1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾールであり、高分子化合物は、前記一般式(II)で示されるモノマー単位のうち、R1をメチル基、Aを8個のポリエチレンオキサイド基と2個のポリプロピレンオキサイド基を中心核としてブタンテトライル基により構成されるモノマー単位をラジカル重合させたものである。図1に示すようにECの割合が増加すると伝導度は向上するが、粘度も上昇する。これは比誘電率の高いECの割合が増加したため、イオン伝導に有効なイオン濃度が増加したこと、粘度が上昇することでイオンの移動がしにくくなったことの両方の影響により、図1のような伝導度の変化を示したものと考えられる。
【0062】
また、図1より、ECとγ−BLは、1.5:8.5〜4.5:5.5(質量比)の割合で混合することが好ましい。
【0063】
図2は、ECとγ−BLの混合溶媒を用いたゲル電解質と空隙率62%の多孔性半導体層(光電変換材料用半導体層ともいう)を用いたときの変換効率の伝導度依存性を示すグラフである。尚、電解質は、ヨウ化リチウムとヨウ素とヨウ化1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾールであり、高分子化合物は図1の説明で記載したものと同じであり、半導体としては、酸化チタンが用いられている。
【0064】
溶媒の混合比を変化させることにより伝導度を変動させている。図2に示すように9×10-3付近の伝導度で変換効率がピークを有していることわかる。これは図2から考えると伝導度が向上すると粘度も上昇するため多孔性半導体層中へゲル電解質が注入しにくくなるため、高い伝導度のときは変換効率が低下したものと考えられる。
【0065】
また、図3は、ECとγ−BLの混合溶媒を用いたゲル電解質と空隙率62%の多孔性半導体層(光電変換材料用半導体層ともいう)を用いたときの混合溶媒の粘度(Pa・s(cP))に対する変換効率の変化を示すグラフである。尚、電解質は、ヨウ化リチウムとヨウ素とヨウ化1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾールであり、高分子化合物は図1の説明で記載したものと同じであり、半導体としては酸化チタンを用いた。図3に示すように、粘度が0.002Pa・s(2cP)付近で変換効率がピークを有していることがわかる。これは溶媒粘度が上昇することにより多孔質中への浸透が行われにくくなったためと考えられる。
【0066】
図4は、ECとγ−BLの混合溶媒を用いたゲル電解質と空隙率62%の多孔性半導体層(光電変換材料用半導体層ともいう)を用いたときの溶媒の混合比に対する変換効率の変化を示すグラフである。尚、電解質は、ヨウ化リチウムとヨウ素とヨウ化1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾールを用い、高分子化合物は図1の説明の説明で用いたものと同じであり、半導体としては酸化チタンを用いた。図4に示すように、ECとγ−BLを特定の混合比で混合した溶媒を用いたときに、高い変換効率を示していることが判る。
【0067】
これは図1でも示したように溶媒の混合比により伝導度と溶媒粘度が変化したため、両方の影響により変換効率の極大を示したものと考えられる。図4から、混合比はEC:γ−BL=1.5:8.5〜4.5:5.5が好ましいことが判る。
【0068】
(N、P及びSからなる群から選択される原子を構成原子として含む化合物)
本発明に用いられるN、P及びSからなる群から選択される原子を構成原子として含む化合物について説明する。
【0069】
前記原子を構成原子として含む化合物においては、前記元素の含有化合物と前記酸化還元種とから形成されるオニウム塩の重合体の重合度が低くなって電解質組成物のゲル化を促進する観点から、元素を含有する基を1分子当り2つ以上持つことが好ましい。1分子中に存在する元素の含有基を同一種類にしても良いが、1分子中に互いに異なる2種類以上の元素の含有基を持っていても良い。
【0070】
また、1分子当りの前記元素を有する含有基数のより好ましい範囲は、2〜1,000,000である。
【0071】
前記原子を構成原子として含む化合物の形態は、例えば、モノマー、オリゴマー、ポリマー等を選択することが出来る。
【0072】
前記原子を構成原子として含む化合物としては、例えば、N、P及びSよりなる群から選択される少なくとも1種類の原子を含む置換基を主鎖または側鎖に持つもの等を挙げることができる。前記原子を含む置換基の位置は、目的の重合体が得られる限り、特に限定されない。
【0073】
前記原子を構成原子として含む化合物の主鎖の骨格は、特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート等にすることができる。
【0074】
前記置換基としては、例えば、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、フォスフィン基及び含窒素複素環化合物から導かれる基よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の基を使用することができる。前記元素を構成原子として含む化合物は、1分子中に存在する置換基を同一種類にしても良いが、1分子中に互いに異なる2種類以上の置換基を持っていても良い。中でも、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基が好ましい。
【0075】
前記1級アミノ基、前記2級アミノ基及び前記3級アミノ基が包含される3級窒素としては、例えば、アミノ基、N−メチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N−エチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N−プロピルアミノ基、N,N−ジプロピルアミノ基、N−ブチルアミノ基、N,N−ジブチルアミノ基等を挙げることができる。
【0076】
前記含窒素複素環置換基としては、例えば、ピリジル基、ピリミジニル基、フリル基、ピロリル基、チエニル基、イミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジニル基、トリアゾリル基(例えば、1,2,4−トリアゾール−1−イル基、1,2,3−トリアゾール−1−イル基等)、オキサゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、チアゾリル基、イソオキサゾリル基、イソチアゾリル基、フラザニル基、キノリル基、ベンゾフリル基、ジベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、カルボリニル基、ジアザカルバゾリル基(前記カルボリニル基のカルボリン環を構成する炭素原子の一つが窒素原子で置き換わったものを示す)、キノキサリニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、キナゾリニル基、フタラジニル基、モルフォリニル基、1−メチルイミダゾリル基、1−エチルイミダゾリル基、1−プロピルイミダゾリル基等を挙げることができる。
【0077】
また、前記置換基として、前述した種類の中から選ばれる1種以上の含窒素複素環置換基から構成されるスピロ環体、前述した種類の中から選ばれる2種以上の含窒素複素環置換基の集合体(ヘテロ環集合体)などを用いても良い。
【0078】
Nを構成原子として含む化合物としては、例えば、ポリビニルイミダゾール、ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリベンゾイミダゾール、ビピリジル、ターピリジル、ポリビニルピロール、1,3,5−トリス(3−ジメチルアミノ)プロピルヘキサヒドロ−1,3,5トリアジン、トリス−2アミノエチルアミン、ポリジアリルメチルアミン、ポリアリルジメチルアミン、ポリジメチルアリルアミン、ポリアリルアミン、ポリジメチルアミノエチルメチルメタクリレート、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート等を挙げることができる。前記化合物には、前述した種類の中から選ばれる1種または2種以上を使用することができる。中でも、トリス−2アミノエチルアミン、ポリジアリルメチルアミン、ポリアリルジメチルアミン、ポリジメチルアリルアミン、ポリアリルアミン、ポリジメチルアミノエチルメチルメタクリレート、ポリジメチルアミノエチルメタクリレートが好ましい。
【0079】
Pを構成原子として含む化合物としては、例えば、フォスフィン基を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマー等を挙げることができる。具体的には、ポリビニルフェニルジフェニルホスフィン、1,2−フェニレンビスホスフィン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタン等を挙げることができる。前記化合物には、前述した種類の中から選ばれる1種または2種以上を使用することができる。
【0080】
Sを構成原子として含む化合物としては、例えば、チオエーテル構造を含むものを挙げることができる。具体的には、ビス(メチルチオ)メタン、1,1−ビス(メチルチオ)−2−ニトロエチレン、(ジ)エチルスルフィド、ポリビニルフェニルフェニルチオエーテル、エチル(ビスエチルチオ)アセテート等を挙げることができる。前記化合物には、前述した種類の中から選ばれる1種または2種以上を使用することができる。
【0081】
本発明のゲル電解質中における、N、P及びSからなる群から選択される原子を構成原子として含む化合物の含有量は、ゲル電解質の変質を抑制し、且つ、電解質中の種々の化合物の電解質組成物中への析出を防止する観点から、65質量%以下にすることが好ましく、更に好ましくは、0.5質量%〜40質量%であり、特に好ましくくは、1質量%〜20質量%の範囲に調整することが好ましい。
【0082】
(混合電解質の調製と使用について)
また、前記電解質に、N、P及びSよりなる群から選択される少なくとも1種類の原子を構成原子として含む化合物を溶解させることにより電解質Aを調製し、かつ前記電解質Aに、後述するハロゲン含有化合物を溶解させることにより電解質Bを調製し、得られた電解質Aと電解質Bを保管する。保管された電解質Aと電解質Bを必要な時に混合し、得られた混合電解質を電解質組成物として使用することが可能である。
【0083】
(ハロゲン含有化合物)
本発明に用いられるハロゲン含有化合物について説明する。
【0084】
ハロゲン含有化合物は、1分子当りのハロゲン原子数を2以上にすることが好ましい。このような化合物においては、1分子中に異なる種類のハロゲン原子を存在させ、ハロゲン原子数の総量を2以上としても良いが、1分子中に1種類のハロゲン原子を2つ以上存在させても良い。1分子当りのハロゲン原子数が1個であると、前記オニウム塩と前記ハロゲン含有化合物から得られる重合体の重合度が低くなって電解質組成物のゲル化が困難になる恐れがある。1分子当りのハロゲン原子数のより好ましい範囲は、2〜1,000,000の範囲である。
【0085】
1分子当りのハロゲン原子数が2以上であるハロゲン含有化合物としては、例えば、ジブロモメタン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、ジブロモブタン、ジブロモペンタン、ジブロモヘキサン、ジブロモヘプタン、ジブロモオクタン、ジブロモノナン、ジブロモデカン、ジブロモウンデカン、ジブロモドデカン、ジブロモトリデカン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ジクロロプロパン、ジクロロブタン、ジクロロペンタン、ジクロロヘキサン、ジクロロヘプタン、ジクロロオクタン、ジクロロノナン、ジクロロデカン、ジクロロウンデカン、ジクロロドデカン、ジクロロトリデカン、ジヨードメタン、ジヨードエタン、ジヨードプロパン、ジヨードブタン、ジヨードペンタン、ジヨードヘキサン、ジヨードヘプタン、ジヨードオクタン、ジヨードノナン、ジヨードデカン、ジヨードウンデカン、ジヨードドデカン、ジヨードトリデカン、1,2,4,5−テトラキスブロモメチルベンゼン、エピクロロヒドリンオリゴマー、エピブロモヒドリンオリゴマー、ヘキサブロモシクロドデカン、トリス(3,3−ジブロモ−2−ブロモプロピル)イソシアヌル酸、1,2,3−トリブロモプロパン、ジヨードパーフルオロエタン、ジヨードパーフルオロプロパン、ジヨードパーフルオロヘキサン、ポリエピクロルヒドリン、ポリエピクロルヒドリンとポリエチレンエーテルとの共重合体、ポリエピブロモヒドリン及びポリ塩化ビニルなどの多官能ハロゲン化物を挙げることができる。前記ハロゲン含有化合物としては、前述した種類の中から選ばれる1種または2種以上の有機ハロゲン化物を使用することができる。中でも、1分子当りのハロゲン原子数が2つの有機ハロゲン化物が好ましい。
【0086】
(ハロゲン含有化合物の含有量)
本発明のゲル電解質中における、ハロゲン含有化合物の含有量は、ゲル電解質の変質を抑制し、且つ、電解質中の種々の化合物の電解質組成物中への析出を防止する観点から、65質量%以下にすることが好ましく、更に好ましくは、1質量%〜20質量%の範囲に調整することが好ましい。
【0087】
《スメクタイト》
本発明のゲル電解質に係るスメクタイトについて説明する。
【0088】
本発明のゲル電解質には、スメクタイト(Smectite)類が含有されている事がその特徴であるが、スメクタイトとは粘土の中に含まれている粘土鉱物の事を言い、4面体構造を持つシリコンイオンからなる層(4面体層)と8面体構造を持つ2価と3価のカチオンからなる層(8面体層)が4面体層−8面体層−4面体層と言う3層を基本結晶構造とする板状鉱物の総称であり、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライトなどの粘土鉱物があり、これらを総称してスメクタイトと呼んでいる。
【0089】
その性質としては、例えば、これを水や水系の溶媒等にに入れるとさまざまな向きに結びついてゲル化を起こす事が上げられる。その結びつきは弱く、溶液を振る事で粘度が低下しゾル化し、静置する事で元のゲル状態に戻るという、ゾル−ゲル変換特性が挙げられる。
【0090】
このゾル−ゲルの変換は繰り返し起こすことが可能である。これにレドックス電解質、溶媒などを添加することで、本発明のゲル電解質を調製することができる。即ち、振動を与える事により粘度を低下させて注入(浸漬)、塗布などの方法で電荷移動層を形成させ、静置する事でゲル化し液漏れが生じない構成をとることが可能となる。
【0091】
スメクタイトはその含有量によりゲルの粘度を変化させることが可能であり、ゲル化、ゾル化をスムースに行わせる観点からは、スメクタイトの添加量(含有量ともいう)は1質量%〜30質量%の範囲に調整することが好ましい。
【0092】
また、水系以外の有機溶媒系の場合も市販の有機溶剤系用に修飾されたスメクタイト類(例えば株式会社ホージュン社製のS−BEN、ORGANITEシリーズなど)を用いる事で同様の効果が得られる。
【0093】
イオンの移動を考えた場合、ゲル電解質中の溶媒の粘度が低いほどイオンが移動しやすくなるので0.003Pa・s(3.0cP)以下の溶媒であることが好ましい(粘度は、円錐平板型回転式粘度計により測定した値である)。更に、溶媒の揮発を防ぐため沸点は高い方がよく、具体的には、70℃以上の溶媒が好ましく、更に、混合溶媒の沸点も70℃以上であることが好ましい。
【0094】
また、後述する、太陽電池(色素増感型太陽電池ともいう)の性能を向上させるためには、電解液のイオン伝導度を高くすることが好ましい。イオン伝導度を高くするためには、使用する溶媒の粘性が低く比誘電率が高いものが好ましいが、比誘電率の高い溶媒は粘度が高く、比誘電率の低い溶媒は粘度が低い傾向にある。そのため、多孔性半導体層への注入を効率的に行い、更にゲル電解質自身の性能を向上させて、色素増感型太陽電池の変換効率を向上させるためには、溶媒を複数種組み合わせることが好ましい。
【0095】
《電荷移動層》
本発明に用いられる電荷移動層について説明する。
【0096】
本発明に用いられる電荷移動層は、本発明の光電変換素子や本発明の太陽電池の構成層として好ましく用いられる。
【0097】
電荷移動層は本発明のゲル電解質を含有することが好ましく、また、本発明のゲル電解質が含む酸化還元種を含むことが好ましく、更にまた、可逆的な酸化還元対も好ましく用いられる。可逆的な酸化還元対としては、I-/I3-系や、Br-/Br3-系、キノン/ハイドロキノン系等のレドックス電解質等が挙げられる。
【0098】
このようなレドックス電解質は、従来公知の方法によって得ることができ、例えば、I-/I3-系の電解質は、ヨウ素のアンモニウム塩とヨウ素を混合することによって得ることができる。
【0099】
本発明に用いられる電荷移動層は、これらレドックス電解質の分散物で構成され、それら分散物は溶液である場合に液体電解質、常温において固体である高分子中に分散させた場合に固体高分子電解質、ゲル状物質に分散された場合にゲル電解質のいずれも適用可能であるが、光電変換素子や太陽電池等を形成した場合の液漏れ防止の観点からは、本発明のゲル電解質を用いることが特に好ましい。
【0100】
電荷移動層として液体電解質が用いられる場合、本発明に係る酸化還元種が溶解可能な溶媒を用いることもできるし、また、電気化学的に不活性な溶媒、例えば、アセトニトリル、炭酸プロピレン、エチレンカーボネート等が用いられる。電解質組成の例としては、特開2001−160427号公報記載の電解質、『表面科学』21巻、第5号288ページ〜293ページに記載の電解質組成等が挙げられる。
【0101】
《光電変換素子》
本発明の光電変換素子について、図5を用いて説明する。
【0102】
図5は、本発明の光電変換素子の構造の一例を示す部分断面図である。
【0103】
21は導電性支持体、22は感光層、23は電荷移動層、24は対向電極を表す。尚、導電性支持体21と感光層22をあわせて半導体電極ともいう。
【0104】
ここで、感光層22は本発明の光電変換材料用半導体を有する層であり、電荷移動層23は本発明のゲル電解質(従来公知のレドックス電解質を併用していてもよい)を含有し、導電性支持体21、感光層22、対向電極24に接触した形態で用いられる。
【0105】
《光電変換素子の製造方法》
図5を用いながら、光電変換素子の製造方法を説明する。
【0106】
本発明の光電変換素子は、図5に示すように、導電性支持体1上に、従来公知のプラズマ処理装置を用いて半導体薄膜を形成した後に、増感色素を吸着させるという工程を経て製造される。
【0107】
また、半導体薄膜の表面積を増大させたり、半導体薄膜表面の不純物などを除去して、半導体の純度を高め、増感色素から光電変換材料用半導体(単に半導体ともいう)への電子注入効率を高める目的で、例えば四塩化チタン水溶液を用いた化学メッキや三塩化チタン水溶液を用いた電気化学的メッキ処理を行ってもよい。また、同様の効果を得るために色素吸着後にカルボン酸類(酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、安息香酸等)を半導体表面へ吸着させてもよい。
【0108】
導電性支持体21上に形成した半導体膜には増感色素を吸着させ、光電変換材料用半導体膜を増感させて感光層22を形成する。増感処理方法は、詳細は後述するが、これも後述する色素を適切な溶媒に溶解し、導電性支持体21上に形成された半導体膜をその溶液に浸漬することによって行われる。その際には半導体膜は、あらかじめ減圧処理したり加熱処理したりして膜中の気泡を除去し、増感色素が半導体膜内部深くに進入できるようにしておくことが好ましい。
【0109】
本発明に係る光電変換材料用半導体に、増感色素を吸着させる際には、単独で用いてもよいし、複数を併用してもよい。さらに、従来公知の増感色素化合物(例えば、米国特許第4,684,537号明細書、同第4,927,721号明細書、同第5,084,365号明細書、同第5,350,644号明細書、同第5,463,057号明細書、同第5,525,440号明細書、特開平7−249790号公報、特開2000−150007号公報等に記載の化合物)とを混合して吸着させてもよい。
【0110】
特に、光電変換材料用半導体の用途が太陽電池である場合、光電変換の波長域を広くして太陽光を可能な限り有効に利用できるように、二種類以上の色素を混合して用いることが好ましい。
【0111】
上記記載の増感色素複数種類併用して増感した光電変換材料用半導体は、併用する色素(色素化合物ともいう)を混合して調製した溶液に浸漬させて作製してもよいし、各々の色素について溶液を調製し、各溶液に順に浸漬して作製することもできる。
【0112】
各色素について別々の溶液を用意し、各溶液に順に浸漬して作製する場合は、光電変換材料用半導体に色素や従来公知の増感色素を吸着させる順番がどのような順番であっても本発明に記載の効果を得ることができる。
【0113】
吸着処理は、色素が溶解した溶液を常温で用いてもよいし、また、色素に影響を与えない範囲の温度まで溶液を加熱して行っても良い。更に、吸着処理時に未吸着となった色素については溶媒等の洗浄処理により除去することが好ましい。
【0114】
導電性支持体21上に形成した光電変換材料用半導体膜に色素を吸着させて感光層22を形成したら、該感光層22と向かい合うようにして対向電極24を配置する。さらに、半導体電極と対向電極24の間に電荷移動層であるレドックス電解質を注入して光電変換素子を形成することが出来る。
【0115】
《光電変換材料用半導体》
本発明の光電変換素子や、本発明の太陽電池に、各々用いられる光電変換材料用半導体(単に半導体ともいう)としては、シリコン、ゲルマニウムのような単体、周期表(元素周期表ともいう)の3族〜5族、13族〜15族系の元素を有する化合物、金属のカルコゲニド(例えば酸化物、硫化物、セレン化物等)、金属窒化物等を使用することができる。
【0116】
好ましい金属のカルコゲニドとして、チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、またはタンタルの酸化物、カドミウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモンまたはビスマスの硫化物、カドミウムまたは鉛のセレン化物、カドミウムのテルル化物等が挙げられる。他の化合物半導体としては亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム等のリン化物、ガリウム−ヒ素または銅−インジウムのセレン化物、銅−インジウムの硫化物、チタンの窒化物等が挙げられる。
【0117】
本発明に用いられる光電変換材料用半導体の具体例としては、TiO2、SnO2、Fe23、WO3、ZnO、Nb25等の金属酸化物、CdS、ZnS、PbS、Bi23等の金属硫化物、CdSe、CdTe、GaP、InP、GaAs、CuInS2、CuInSe2、Ti34等が挙げられるが、好ましく用いられるのは、TiO2、ZnO、SnO2、Fe23、WO3、Nb25等の金属酸化物、CdS、PbS等の金属硫化物であり、更に好ましく用いられるのは、TiO2またはNb25であるが、中でも、好ましく用いられるのはTiO2である。
【0118】
本発明に用いられる光電変換材料用半導体は、上述した複数の半導体を併用して用いてもよい。例えば、上述した金属酸化物もしくは金属硫化物の数種類を併用することもできるし、また、酸化チタン半導体に20質量%の窒化チタン(Ti34)を混合して使用してもよい。また、J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,15(1999)記載の酸化亜鉛/酸化錫複合としてもよい。このとき、半導体として金属酸化物もしくは金属硫化物以外に成分を加える場合、追加成分の金属酸化物もしくは金属硫化物に対する質量比は30質量%以下であることが好ましい。
【0119】
(多孔性半導体層)
本発明に用いられる光電変換材料用半導体(半導体膜、半導体層ともいう)は、多孔性半導体層が用いられ、該多孔性半導体層は、空隙を有する、ポーラスな層を有するが、このような空隙の形成は、後述する焼成処理により行われることが好ましい。
【0120】
(多孔性半導体層の空隙率(体積%))
光電変換材料用半導体層(半導体薄膜ともいう)として用いられる多孔性半導体層は、半導体を焼成処理(焼成処理は、後に詳細に説明する。)することにより、空隙を有する半導体層であるが、空隙率としては、10体積%以下が好ましく、更に好ましくは、8体積%以下であり、特に好ましくは、0.01体積%〜5体積%以下である。
【0121】
(空隙率の測定及び多孔性半導体層の膜厚)
多孔性半導体層の空隙率は、誘電体の厚み方向に貫通性のある空隙率ということを意味し、水銀ポロシメーター(島津ポアライザー9220型)等の市販の装置を用いて測定出来る。また、多孔質構造を有する焼成物膜になった、本発明に係る多孔性半導体層の膜厚は、少なくとも10nm以上が好ましく、更に好ましくは100nm〜10000nmである。
【0122】
《光電変換材料用半導体の増感処理》
上記の光電変換材料用半導体を以下に説明する色素により増感処理することにより、本発明に記載の目的のひとつである、高い光電変換効率と優れた安定性とを更に向上させた、本発明の光電変換素子や太陽電池等に好ましく適用できる光電変換材料用半導体を得ることが出来る。
【0123】
光電変換材料用半導体は、以下に説明する色素(以下、増感色素と呼ぶ)により増感し、本発明に記載の効果を更に好ましく奏することが可能となる。ここで、該色素を含むとは、半導体表面、半導体表面層等への吸着、多孔性半導体層の有する、半導体の多孔質構造に色素が入りこむ等の種々の態様が挙げられる。
【0124】
また、半導体層(半導体でもよい)1m2あたりの以下に説明する増感色素の総含有量は0.01ミリモル〜100ミリモルの範囲が好ましく、更に好ましくは、0.1ミリモル〜50ミリモルであり、特に好ましくは、0.5ミリモル〜20ミリモルである。
【0125】
また、増感色素いずれか1種の化合物を用いて増感処理を行う場合、前記化合物を単独で用いてもよいし、複数を併用することも、他の化合物(例えば米国特許第4,684,537号明細書、同第4,927,721号明細書、同第5,084,365号明細書、同第5,350,644号明細書、同第5,463,057号明細書、同第5,525,440号明細書等の各明細書、特開平7−249790号公報、特開2000−150007号公報等に記載の化合物)とを混合して用いることもできる。
【0126】
特に、光電変換材料用半導体の用途が、後述する太陽電池である場合には、光電変換の波長域をできるだけ広くして太陽光を有効に利用できるように、吸収波長の異なる二種類以上の色素を混合して用いることが好ましい。
【0127】
半導体に、増感色素を含ませるには、前記色素を適切な溶媒(エタノールなど)に溶解し、その溶液中によく乾燥した半導体を長時間浸漬する方法が一般的である。
【0128】
増感色素を複数種類併用したり、その他の増感色素化合物とを併用した光電変換材料用半導体を作製する際には、各々の化合物の混合溶液を調製して用いてもよいし、各々の色素(色素化合物ともいう)について溶液を用意して、各溶液に順に浸漬して作製することもできる。各々の色素について別々の溶液を用意し、各溶液に順に浸漬して作製する場合は、半導体に前記色素を含ませる順序がどのようであっても本発明に記載の効果を得ることができる。また、前記色素を単独で吸着させた半導体微粒子を混合する等することにより作製してもよい。
【0129】
吸着処理は半導体が粒子状の時に行ってもよいし、支持体上に膜を形成した後に行ってもよい。吸着処理に用いる色素(色素化合物ともいう)を溶解した溶液は、それを常温で用いてもよいし、該色素が分解せず溶液が沸騰しない温度範囲で加熱して用いてもよい。
【0130】
また、後述する光電変換素子の製造のように、半導体微粒子の塗布後(感光層の形成後)に、色素の吸着を実施してもよい。また、半導体微粒子と色素とを同時に塗布することにより、色素の吸着を実施してもよい。また、未吸着の色素は洗浄によって除去することが出来る。
【0131】
また、本発明に用いられる光電変換材料用半導体の増感処理については、半導体に、増感色素を吸着させる事により増感処理が行われるが、増感処理の詳細は後述する。
【0132】
また、空隙率の高い半導体薄膜を有する光電変換材料用半導体の場合には、空隙に水分、水蒸気などにより水が半導体薄膜上、並びに半導体薄膜内部の空隙に吸着する前に、前記化合物や増感色素化合物等の吸着処理(光電変換材料用半導体の増感処理)を完了することが好ましい。
【0133】
本発明の光電変換材料用半導体は、有機塩基を用いて表面処理してもよい。前記有機塩基としては、ジアリールアミン、トリアリールアミン、ピリジン、4−t−ブチルピリジン、ポリビニルピリジン、キノリン、ピペリジン、アミジン等が挙げられるが、中でも、ピリジン、4−t−ブチルピリジン、ポリビニルピリジンが好ましい。
【0134】
上記の有機塩基が液体の場合はそのまま、固体の場合は有機溶媒に溶解した溶液を準備し、本発明の光電変換材料用半導体を液体アミンまたはアミン溶液に浸漬することで、表面処理を実施できる。
【0135】
《色素(色素化合物、増感色素ともいう)》
本発明に係る色素(色素化合物、増感色素等ともいう)について説明する。
【0136】
本発明に係る色素は、多孔性半導体層に吸着して光増感剤として機能し、種々の可視光領域および/また赤外光領域に吸収を有するものであれば、特に限定されない。多孔性半導体層に色素を強固に吸着させるためには、色素分子中にカルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、スルホン酸基、エステル基、メルカプト基、ホスホニル基などのインターロック基を有するものが好ましく、これらの中でも、カルボキシル基が特に好ましい。なお、インターロック基は、励起状態の色素と多孔性半導体層の伝導帯端との間の電子移動を容易にする電気的結合を提供する。
【0137】
インターロック基を有する色素としては、例えば、ルテニウムビピリジン系色素、アゾ系色素、キノン系色素、キノンイミン系色素、キナクリドン系色素など、また、スクアリリウム系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素等の様なポリメチン色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポリフィリン系色素、フタロシアニン系色素、ベリレン系色素、インジゴ系色素、ナフタロシアニン系色素などが挙げられる。
【0138】
また、増感色素と併用して用いることの出来る色素としては、上記のいずれの色素も用いることができる。光電変換の波長域をできるだけ広くし、かつ変換効率を上げるため、二種類以上の色素を混合することも好ましい。また、目的とする光源の波長域と強度分布に合わせるように、混合する色素とその割合を選ぶことができる。
【0139】
本発明に係る色素の中では、光電子移動反応活性、光耐久性、光化学的安定性等の総合的な観点から、金属錯体色素、フタロシアニン系色素、ポルフィリン系色素、ポリメチン系色素が好ましく用いられる。
【0140】
金属錯体色素の中では、特開2001−223037号公報、同2001−226607号公報、米国特許第4,927,721号明細書、同第4,684,537号明細書、同第5,084,365号明細書、同第5,350,644号明細書、同第5,463,057号明細書、同第5,525,440号明細書、特開平7−249750号公報、特表平10−504512号公報、国際公開第98/50393号パンフレット等に記載のルテニウム錯体色素が好ましく用いられる。
【0141】
ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素としては、特開2001−223037号に記載の色素が好ましい色素としてあげられる。
【0142】
ポリメチン系色素としては、従来公知のメチン系色素、特開平11−35836号公報、同11−158395号公報、同11−163378号公報、同11−214730号公報、同11−214731号公報、同10−093118号公報、同11−273754号公報、特開2000−106224号公報、同2000−357809号公報、同2001−052766号公報、欧州特許第892,411号明細書、同911,841号明細書、特開2004−119099号公報、同2004−207224号公報、同2004−234953号公報、同2004−319202号公報、同2004−319309号公報、同2005−11800号公報、同2005−56697号公報、同2005−78888号公報、同2005−123013号公報、同2005−129329号公報、同2005−129429号公報、同2005−203112号公報、同2005−209359号公報等に記載のものが挙げられる。
【0143】
以下に、本発明に係る色素(色素化合物、増感色素等)の好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0144】
【化3】

【0145】
【化4】

【0146】
【化5】

【0147】
【化6】

【0148】
上記の具体例において、TBAとは、トリブチルアンモニウムカチオンを表す。
【0149】
《光電変換材料用半導体の作製方法》
本発明に用いられる光電変換材料用半導体の作製方法について説明する。
【0150】
本発明に用いられる光電変換材料用半導体の一態様としては、導電性支持体上に上記の光電変換材料用半導体を焼成等により形成する方法が好ましい一態様として挙げられる。
【0151】
本発明に用いられる光電変換材料用半導体が焼成により作製される場合には、上記の色素(色素化合物、増感色素等)を用いての該半導体の増感(吸着、多孔質への入り込み等)処理は、焼成後に実施することが好ましい。焼成後、半導体に水が吸着する前に、素早く化合物の吸着処理を実施することが特に好ましい。
【0152】
本発明に用いられる光電変換材料用半導体が粒子状の場合には、光電変換材料用半導体を導電性支持体に塗布あるいは吹き付けて、半導体電極を作製するのがよい。また、本発明に用いられる光電変換材料用半導体が膜状であって、導電性支持体上に保持されていない場合には、光電変換材料用半導体を導電性支持体上に貼合して半導体電極を作製することが好ましい。
【0153】
以下、本発明に用いられる光電変換材料用半導体の作製工程を具体的に述べる。
【0154】
《半導体微粉末含有塗布液の調製》
まず、半導体の微粉末を含む塗布液を調製する。この半導体微粉末は、その1次粒子径が微細であることが好ましく、その1次粒子径としては、1nm〜5000nmの範囲にあるものが好ましく、更に好ましくは2nm〜50nmの範囲に調整されたものである。
【0155】
半導体微粉末を含む塗布液は、一例としては、半導体微粉末を溶媒中に分散させることによって調製することができる。溶媒中に分散された半導体微粉末は、その1次粒子状で分散する。溶媒としては、半導体微粉末を分散し得るものであればよく、特に制約されない。
【0156】
前記溶媒としては、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合液が包含される。有機溶媒としては、メタノールやエタノール等のアルコール、メチルエチルケトン、アセトン、アセチルアセトン等のケトン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素等が用いられる。塗布液中には、必要に応じ、界面活性剤や粘度調節剤(ポリエチレングリコール等の多価アルコール等)を加えることができる。溶媒中の半導体微粉末濃度の範囲は、0.1質量%〜70質量%が好ましく、更に好ましくは0.1質量%〜30質量%である。
【0157】
《半導体微粉末含有塗布液の塗布と形成された半導体層の焼成処理》
上記のようにして得られた半導体微粉末含有塗布液を導電性支持体上に塗布または吹きつけ、乾燥等を行った後、空気中または不活性ガス中で焼成して、導電性基板(導電性支持体、導電性基盤等ともいう)上に、半導体層(半導体膜)が形成される。
【0158】
導電性支持体上に塗布液を塗布、乾燥して得られる皮膜は、半導体微粒子の集合体からなるもので、その微粒子の粒径は使用した半導体微粉末の1次粒子径に対応するものである。
【0159】
このようにして導電性支持体等の基板上に形成された半導体微粒子集合体膜は、導電性基板(導電性支持体)との結合力や、微粒子相互の結合力が弱く、機械的強度の弱いものであることから、機械的強度を高める観点から、前記半導体微粒子集合体膜を焼成処理して、基板に強く固着した焼成物膜を形成することが好ましい。
【0160】
(焼成処理の条件)
焼成処理時、焼成物膜の実表面積を適切に調整し、上記の空隙率を有する焼成物膜を得る観点から、焼成温度は1000℃より低いことが好ましく、更に好ましくは、200℃〜800℃の範囲であり、特に好ましくは300℃〜800℃の範囲である。
【0161】
また、見かけ表面積に対する実表面積の比は、半導体微粒子の粒径及び比表面積や、焼成温度等によりコントロールすることができる。また、加熱処理後、半導体粒子の表面積を増大させたり、半導体粒子近傍の純度を高め、色素から半導体粒子への電子注入効率を高める目的で、例えば、四塩化チタン水溶液を用いた化学メッキや三塩化チタン水溶液を用いた電気化学的メッキ処理を行ってもよい。
【0162】
《光電変換材料用半導体の増感処理》
半導体の増感処理は、上記のように、色素を適切な溶媒に溶解し、その溶液に前記半導体を焼成した基板を浸漬することによって行われる。その際には半導体層(半導体膜ともいう)を焼成により形成させた基板を、あらかじめ減圧処理したり加熱処理したりして膜中の気泡を除去し、増感色素が半導体層(半導体膜)内部深くに進入できるように、半導体層(半導体膜)として多孔性半導体層(多孔性半導体膜)が用いられる。
【0163】
《溶媒》
増感色素を溶解するのに用いる溶媒は、色素(色素化合物、増感色素等)を溶解することができ、且つ、半導体を溶解したり半導体と反応したりすることのないものであれば格別の制限はないが、溶媒に溶解している水分および気体が半導体膜に進入して、前記色素(色素化合物、増感色素等)の吸着等の増感処理を妨げることを防ぐために、予め、脱気および蒸留精製しておくことが好ましい。
【0164】
色素(色素化合物、増感色素等)の溶解において、好ましく用いられる溶媒はメタノール、エタノール、n−プロパノールなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒、塩化メチレン、1,1,2−トリクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素溶媒であり、特に好ましくは、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、塩化メチレンである。
【0165】
《太陽電池》
本発明の太陽電池について説明する。
【0166】
本発明の太陽電池は、図5に示すような、本発明の光電変換素子の一態様として、太陽光に最適の設計並びに、回路設計が行われ、太陽光を光源として用いたときに最適な光電変換が行われるような構造を有する。即ち、光電変換材料用半導体に太陽光が照射されうる構造となっている。本発明の太陽電池を構成する際には、前記半導体電極、電荷移動層及び対向電極をケース内に収納して封止するか、あるいはそれら全体を樹脂封止することが好ましい。
【0167】
本発明の太陽電池に太陽光または太陽光と同等の電磁波を照射すると、光電変換材料用半導体に吸着された化合物(増感色素等)は、照射された光もしくは電磁波を吸収して励起する。励起によって発生した電子は半導体に移動し、次いで導電性支持体1を経由して対向電極4に移動して、電荷移動層3のレドックス電解質を還元する。一方、半導体に電子を移動させた本発明の化合物は酸化体となっているが、対向電極4から電荷移動層3のレドックス電解質を経由して電子が供給されることにより、還元されて元の状態に戻り、同時に電荷移動層3のレドックス電解質は酸化されて、再び対向電極4から供給される電子により還元されうる状態に戻る。このようにして電子が流れ、本発明の光電変換素子を用いた太陽電池を構成することができる。
【0168】
《導電性支持体(導電性基板、導電性基盤等ともいう)》
本発明の光電変換素子や本発明の太陽電池に用いられる導電性基板には、金属板のような導電性材料や、ガラス板やプラスチックフイルムのような非導電性材料に導電性物質を設けた構造のものを用いることができる。導電性基板に用いられる材料の例としては金属(例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム)あるいは導電性金属酸化物(例えばインジウム−スズ複合酸化物、酸化スズにフッ素をドープしたもの)や炭素を挙げることができる。導電性支持体の厚さは特に制約されないが、0.3mm〜5mmが好ましい。
【0169】
また、導電性基板は、実質的に透明であることが好ましく、実質的に透明であるとは光の透過率が10%以上であることを意味し、該透過率が50%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることが最も好ましい。
【0170】
ここで、透明な導電性基板を得るためには、ガラス板またはプラスチックフイルムの表面に、導電性金属酸化物からなる導電性層を設けることが好ましい。透明な導電性基板を用いる場合、光は、導電性基板側から入射させることが好ましい。また、導電性基板は表面抵抗は、50Ω/cm2以下であることが好ましく、10Ω/cm2以下であることがさらに好ましい。
【0171】
《対向電極》
本発明に用いられる対向電極について説明する。
【0172】
対向電極は、導電性を有するものであればよく、任意の導電性材料が用いられるが、I3-イオン等の酸化や他のレドックスイオンの還元反応を充分な速さで行わせる触媒能を持ったものの使用が好ましい。このようなものとしては、白金電極、導電材料表面に白金めっきや白金蒸着を施したもの、ロジウム金属、ルテニウム金属、酸化ルテニウム、カーボン等が挙げられるがこれらに限定されない。
【実施例】
【0173】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0174】
実施例1
《ゲル電解質Aの調製》:本発明
溶媒として、メトキシプロピオニトリルを用い、濃度0.5モル/リットルのヨウ化リチウムと濃度0.05モル/リットルのヨウ素と、を溶解させて酸化還元性電解液を調製した。この溶液中に高速攪拌機で攪拌しながらスメクタイト(コープケミカル株式会社製、商品名:SPN)を8質量%になるように添加しゲル電解質(A)を作製した。
【0175】
《ゲル電解質Bの調製》:本発明
溶媒としてメトキシプロピオニトリルを用い、濃度0.5モル/リットルのヨウ化リチウムと濃度0.05モル/リットルのヨウ素と更に濃度0.2モル/リットルのヨウ化1−メチル−3−プロピルイミダゾールと、を溶解させて酸化還元性電解液を調製した。
【0176】
この溶液中に高速攪拌機で攪拌しながらスメクタイト(コープケミカル株式会社製、商品名:SPN)を8質量%になるように添加しゲル電解質(B)を作製した。
【0177】
《酸化還元性電解液Cの調製》:比較例
溶媒としてメトキシプロピオニトリルを用い、濃度0.5モル/リットルのヨウ化リチウムと濃度0.05モル/リットルのヨウ素を溶解させて酸化還元性電解液(C)を作製した。
【0178】
《液漏れ防止適性評価》
得られた、ゲル電解質A、ゲル電解質B及び酸化還元性電解液Cの各々について、液漏れ防止適性の評価は下記のように評価した。
【0179】
得られた3種の電解質溶液をサンプル管に入れ24時間静置後に逆さにしその粘度(粘性)を以下のように目視評価して、多孔性半導体層に3種の試料を用いた時の液漏れ防止適性を観察した。観察結果は以下の通りであった。
【0180】
ゲル電解質A :ゲル化して垂れがなく、液漏れ防止適性が大きい
ゲル電解質B :ゲル化して垂れがなく、液漏れ防止適性が大きい
酸化還元性電解液C:流動性があり低粘度のままであり、液漏れ防止適性がない
尚、ゲル電解質A、ゲル電解質B及び酸化還元性電解液Cの3種共に、電気化学的な安定性は良好であった。
【0181】
ここで、電気化学的安定性が良好とは、6M−KOH水溶液中及び本発明の電解質溶液で白金電極を用いてサイクリックボルタンメトリーを行った結果、当業者周知の白金電極上での水素発生、水素の吸着と脱着、白金表面酸化物の生成と還元及び酸素発生に基づく反応電流が見られるものの、広い電位範囲で分解などに起因する反応電流は認められず本発明のゲル電解質が電気化学的に安定であることを意味する。
【0182】
実施例2
《色素増感型太陽電池101の作製》:SC−101
下記の図6(a)〜(d)に記載の工程に従い、図7に記載の色素増感型太陽電池を作製した。
【0183】
工程1:色素増感型太陽電池形成用ユニット100の作製
フッ素をドープした酸化スズコート層2を有する透明導電性ガラス板1上に、下記の酸化チタン懸濁液を塗布し、自然乾燥の後300℃で60分間焼成して、支持体上に、膜状の酸化チタンを有する光電変換材料用半導体層3を形成した。
【0184】
ついで、シス−ビス(チオシアナト)−N,N−ビス(2,2’−ジピリジル−4,4’−ジカルボン酸)−ルテニウム(II):(D−1)を4×10-4モル/Lの脱水エタノール溶液:200mlを調製し、上記の光電変換材料用半導体層3を、透明導電性ガラス支持体1ごと浸し、さらにトリフルオロ酢酸1gを加えて2時間超音波照射した。
【0185】
反応後、光電変換材料用半導体層3をクロロホルムで洗浄し真空乾燥して、多孔性半導体層である、n型半導体電極4を作製した。
【0186】
対向電極5として、白金をつけたフッ素ドープ酸化錫電極(導電膜)6を形成したガラス基板7を、直径が15μmのスペーサーを利用して、上記のn型半導体電極4を設けた、透明導電性ガラス板上に設置し、周囲を電解質注入口9を残してエポキシ系樹脂8で固定し、図6(a)に示すような、色素増感型太陽電池形成用ユニット100を作製した。
【0187】
工程2:色素増感型太陽電池101の作製
図6(b)、(c)に示すように、色素増感型太陽電池形成用ユニット100の開口部に注入口(9)から振動を与え粘度を低下させた状態で、本発明のゲル電解質10を注入し、前記ゲル電解質10を、多孔性半導体層である、n型半導体電極4の空隙領域(特に図示していない)に浸透させると共に、n型半導体電極4と、白金をつけたフッ素ドープ酸化錫電極(導電膜)6との間隙に注入した。
【0188】
ひきつづき、ゲル電解質10を注入した、色素増感型太陽電池形成ユニット100の開口部をエポキシ樹脂11で封口した後、60℃で30分間ホットプレートで加熱することにより、図6(d)に示すような、色素増感型太陽電池101を作製した。
【0189】
図6(d)は、上記の開口部が封口された後の、色素増感型太陽電池101の断面を示す模式図である。
【0190】
(酸化チタン懸濁液の調製)
チタンテトライソプロポキシド(和光純薬社製一級)62.5mlを純水375ml中に室温下、激しく攪拌しながら10分間で滴下し(白色の析出物が生成する)、次いで、70%硝酸水を2.65ml加えて反応系を80℃に加熱した後、8時間攪拌を続けた。
【0191】
更に、該反応混合物の体積が約200mlになるまで減圧下に濃縮した後、純水を125ml、酸化チタン粉末(昭和タイタニウム社製スーパータイタニアF−6)140gを加えて酸化チタン懸濁液(約800ml)を調製した。
【0192】
(ゲル電解質10の調製);
本発明のゲル電解質を下記のようにして調製した。
【0193】
工程1:酸化還元性電解質(電解液ともいう)の調製
溶媒としてメトキシプロピオニトリルを用い、濃度0.5モル/リットルのヨウ化リチウムと濃度0.05モル/リットルのヨウ素とを溶解させて酸化還元性電解質を調製した。
【0194】
工程2:ゲル電解質10の調製
前記酸化還元性電解質(電解液ともいう)中に高速攪拌機で攪拌しながらスメクタイト(コープケミカル株式会社製、商品名:SPN)を8質量%になるように添加し、本発明のゲル電解質(10)を調製した。
【0195】
《色素増感型太陽電池102の作製》:SC−102
色素増感型太陽電池101の作製において、電解質に更に濃度0.2モル/リットルのヨウ化1−メチル−3−プロピルイミダゾールを追加した以外は同様にして、色素増感型太陽電池102を作製した。
【0196】
《色素増感型太陽電池103〜110の作製》
色素増感型太陽電池101の作製において、ルテニウム色素(D−1)を表1に記載の色素に変更した以外は同様にして、光電変換素子103〜110を作製した。
【0197】
(比較例1の作製)
色素増感型太陽電池101の作製において、溶媒としてメトキシプロピオニトリルを用い、濃度0.5モル/リットルのヨウ化リチウムと濃度0.05モル/リットルのヨウ素を溶解させて酸化還元性電解質を調製し、用いた以外は同様にして、比較の色素増感型太陽電池(SC−R1)を作製した。
【0198】
(比較例2の作製)
色素増感型太陽電池101の作製において、下記の電解質組成物を調製し、用いた以外は同様にして、比較の色素増感型太陽電池SC−R2を作製した。
【0199】
(電解質組成物の調製)
プロピレンカーボネートに、よう化リチウム0.5M及びヨウ素0.05Mを溶解させ、電解質を調製し、この電解質90質量%に10質量%(10g)のポリ(4−ビニルピリジン)(分子量が2000)を溶解させた。その後、その溶液に、有機臭化物である1,6−ジブロモヘキサンを10g溶解させることにより、ゲル電解質前駆体である電解質組成物を調製した。
【0200】
得られた色素増感型太陽電池SC−101〜SC−110(本発明)、比較の色素増感型太陽電池SC−R1、SC−R2の各々について、図7に記載のように、太陽光12を透明導電性ガラス板1の面に垂直になるように照射し、下記に示すように、太陽電池の光電変換特性と太陽電池の液漏れ評価を行った。
【0201】
《太陽電池の光電変換特性評価》
上記で得られた太陽電池SC−101〜SC−110、及び太陽電池SC−R1及びR2の各々にソーラーシミュレーター(JASCO(日本分光)製、低エネルギー分光感度測定装置CEP−25)により100mW/m2の強度の光を照射した時の短絡電流密度Jsc(mA/cm2)および開放電圧値Voc(V)を測定し表1に示した。示した値は、同じ構成および作製方法の太陽電池3つについての測定結果の平均値とした。
【0202】
《太陽電池の電解質液漏れ評価》
上記で得られた太陽電池を77℃で14日間保存した後で、電解質の液漏れの有無を確認した。
【0203】
○:3個ともに液漏れなし
△:1又は2個が液漏れあり
×:全て液漏れあり
得られた結果を表1に示す。
【0204】
【表1】

【0205】
表1より、比較に比べて、本発明の太陽電池はほぼ同等の光電変換特性を示し、スメクタイト類を含む電解質が有効であることがわかる。また、更にイミダゾリウム塩類を添加することで更なる効果が確認できた。また、且つ、液漏れにおいても本発明の太陽電池が優れ、安定性に優れていることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0206】
【図1】ECとγ−BLの混合比に対する伝導度と溶媒の粘度変化を示すグラフである。
【図2】ECとγ−BLの混合溶媒を用いたゲル電解質と空隙率62%の多孔性半導体層(光電変換材料用半導体層ともいう)を用いたときの変換効率の伝導度依存性を示すグラフである。
【図3】ECとγ−BLの混合溶媒を用いたゲル電解質と空隙率62%の多孔性半導体層(光電変換材料用半導体層ともいう)を用いたときの混合溶媒の粘度に対する変換効率の変化を示すグラフである。
【図4】ECとγ−BLの混合溶媒を用いたゲル電解質と空隙率62%の多孔性半導体層(光電変換材料用半導体層ともいう)を用いたときの溶媒の混合比に対する変換効率の変化を示すグラフである。
【図5】本発明の光電変換素子の構造の一例を示す部分断面図である。
【図6】本発明の太陽電池の製造工程の一例を示す模式図である。
【図7】本発明の太陽電池の一態様を示す模式図である。
【符号の説明】
【0207】
1 透明導電性ガラス板
2 酸化スズコート層
3 酸化チタンを有する光電変換材料用半導体層
4 n型半導体電極
5 対向電極
6 白金をつけたフッ素ドープ酸化錫電極(導電膜)
7 ガラス基板
8 エポキシ樹脂
9 電解質注入口
10 ゲル電解質
11 エポキシ樹脂
12 太陽光
100 色素増感型太陽電池形成用ユニット
101 色素増感型太陽電池
21 導電性支持体
22 感光層
23 電荷移動層
24 対向電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化還元種及び該酸化還元種が溶解可能な溶媒を含有する電解質を含み、且つ、該電解質がスメクタイト類を含むことを特徴とするゲル電解質。
【請求項2】
前記スメクタイト類を1質量%〜30質量%含有していることを特徴とする請求項1に記載のゲル電解質。
【請求項3】
電解質の構成成分として、イミダゾリウムまたは該イミダゾリウムの塩を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のゲル電解質。
【請求項4】
少なくとも色素を吸着した多孔性半導体層と電解質とを含む光電変換素子において、請求項1〜3のいずれか1項に記載のゲル電解質を含むことを特徴とする光電変換素子。
【請求項5】
前記多孔性半導体層に含まれる半導体が、金属酸化物または金属硫化物であることを特徴とする請求項4に記載の光電変換素子。
【請求項6】
一対の導電性基板の間に、色素を吸着した多孔性半導体層と、請求項1〜3のいずれか1項に記載のゲル電解質とを含むことを特徴とする太陽電池。
【請求項7】
前記多孔性半導体層に含まれる半導体が、金属酸化物または金属硫化物であることを特徴とする請求項6に記載の太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−188809(P2007−188809A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−7169(P2006−7169)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】