説明

ゲートターンオフサイリスタ装置およびバイポーラトランジスタ装置

【課題】オフゲート電流によるサージ電圧によるアノードとゲートとの間の故障の発生を回避可能で信頼性を向上でき、かつ、小型化を図れるゲートターンオフサイリスタ装置を提供する。
【解決手段】このSiC GTO装置によれば、オフゲート電流によって発生するアノード電極12とゲート電極13との間のサージ電圧をツェナーダイオード構造部6によって抑制できる。また、n型SiC基板1とn型SiCバッファ層2とp型SiCバッファ層3とp型SiCドリフト層4とn型SiCベース層5およびp型SiCアノード層7とp型SiCコンタクト層8が構成するGTO素子自体にツェナーダイオード構造部6が組み込まれているので、GTO素子とは別個にツェナーダイオードを設ける場合に比べて、小型化を図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ゲートターンオフサイリスタ(GTO)装置およびバイポーラトランジスタ装置に関し、一例として、家電分野、産業分野、電気自動車などの車両分野、送電などの電力系統分野において、例えばインバータ等の電力制御装置等に組み込まれて使用されるSiC GTO装置およびバイポーラトランジスタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング用素子の一つである炭化珪素(SiC)GTOは、オン状態からオフ状態(すなわち、通電状態から遮断状態)に移行する際、回路の浮遊インダクタンスとオフゲート電流の時間変化によって、アノード端子とゲート端子との間にサージ電圧が発生する。このサージ電圧(過電圧)がアノードとゲートとの間の耐電圧値を超えると、アノードとゲートとの間で絶縁破壊が起って故障してしまう。
【0003】
そこで、従来、図8に示すように、SiC GTO101を搭載したパッケージ102のアノード端子103とゲート端子104との間にSi製のツェナーダイオード105を接続することで、アノード端子103とゲート端子104との間のサージ電圧を抑制している。また、図9に示すように、SiC GTO201を搭載したパッケージ202にSiC製のツェナーダイオード205を組み込み、このSiC製ツェナーダイオード205をアノード端子203とゲート端子204との間に接続したSiC GTO装置も提案されている。
【0004】
図8、図9に示すSiC GTO装置では、アノードとカソードとの間に生じるサージ電圧Vsは、ツェナーダイオードの動作電圧をVzとし、ツェナーダイオードとSiC GTOとの間のインダクタンスをLとし、オフゲート電流をiとすると、次式(1)で表される。
Vs=(Vz+L×(di/dt)) … (1)
【0005】
上記インダクタンスLは、ツェナーダイオードとSiC GTOとの間の配線が長いほど大きくなる。よって、サージ電圧Vsを抑制するためには、ツェナーダイオードとSiC GTOとの間の配線を短くする必要がある。
【0006】
ところで、Si半導体素子の使用可能温度は、150℃以下である。一方、SiC半導体素子は、150℃を超える高温領域でも安定に動作することが特長である。
【0007】
したがって、図8のSiC GTO装置では、SiC GTO101の高温動作特性を活かすために、SiC GTO101を搭載したパッケージ102からSi製ツェナーダイオード105を離して配置する必要がある。このため、Si製ツェナーダイオード105を用いたSiC GTO装置では、パッケージ周りの小型化が難しく、また、上記配線に起因するインダクタンスLを低減することが難しい。
【0008】
一方、図9のSiC GTO装置では、SiC製のツェナーダイオード205を採用しているので、このSiC製ツェナーダイオード205をSiC GTO201と搭載しているパッケージ202に組み込むことが可能である。よって、上記配線の短縮が可能となり、上記配線に起因するインダクタンスLを低減することが可能になる。
【0009】
しかし、図9のSiC GTO装置では、パッケージ202にSiC GTO201だけでなくSiC製ツェナーダイオード205も組み込むことになるので、パッケージ面積の増大を招き、パッケージの小型化が困難になる。なお、バイポーラトランジスタ装置においても上述したGTO装置と同様にサージ電圧による課題がある。
【特許文献1】特開2004−297914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、この発明の課題は、サージ電圧による故障の発生を回避可能で信頼性を向上でき、かつ、小型化を図れるゲートターンオフサイリスタ装置およびバイポーラトランジスタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、この発明のゲートターンオフサイリスタ装置は、第1導電型の第1の半導体層と、
上記第1の半導体層上に形成された第2導電型の第2の半導体層と、
上記第2の半導体層上に形成された第1導電型の第3の半導体層と、
上記第3の半導体層上に形成された第2導電型の第4の半導体層と、
上記第1の半導体層に形成された第1電極と、
上記第3の半導体層に形成されたゲート電極と、
上記第4の半導体層に形成された第2電極と、
上記第3の半導体層と上記第4の半導体層との間に形成されたツェナーダイオード構造部とを備え、
上記ツェナーダイオード構造部は、
上記第1導電型の第3の半導体層上に形成された第1導電型の接合層と、
上記第1導電型の接合層上に形成された第2導電型の接合層とを有していることを特徴としている。
【0012】
この発明のゲートターンオフサイリスタ装置によれば、上記第3の半導体層と上記第4の半導体層との間に形成されたツェナーダイオード構造部を備える。よって、この発明によれば、オフゲート電流によって発生する第2電極とゲート電極との間のサージ電圧を、上記ツェナーダイオード構造部によって抑制できる。また、この発明では、上記第1〜第4の半導体層で構成されるGTO素子自体にツェナーダイオード構造部が組み込まれているので、GTO素子とは別個にツェナーダイオードを設ける場合に比べて、小型化を図れる。
【0013】
したがって、この発明によれば、オフゲート電流によるサージ電圧による第2電極とゲートとの間の故障の発生を回避可能で信頼性を向上でき、かつ、小型化を図れるゲートターンオフサイリスタ装置を実現できる。
【0014】
また、一実施形態のゲートターンオフサイリスタ装置では、上記第1,第2,第3,第4の半導体層は、炭化珪素半導体で作製され、
上記ツェナーダイオード構造部は、炭化珪素半導体で作製されている。
【0015】
この実施形態によれば、150℃を超える高温領域でも安定に動作することができる。
【0016】
また、一実施形態のゲートターンオフサイリスタ装置では、上記第1導電型の接合層は、上記第1導電型の第3の半導体層上にストライプ状またはアイランド状に形成されている。
【0017】
この実施形態のゲートターンオフサイリスタ装置によれば、ストライプ状またはアイランド状の第1導電型の接合層を有したツェナーダイオード構造部によって、オフゲート電流によって発生するサージ電圧を抑制できると共にGTO素子とは別個にツェナーダイオードを設ける場合に比べて、小型化を図れる。
【0018】
また、一実施形態のゲートターンオフサイリスタ装置では、上記第3の半導体層上に、上記第2導電型の接合層と上記第4の半導体層とを含むメサ形状部が形成され、
上記メサ形状部は、上記第1導電型の接合層の全体を覆っている。
【0019】
この実施形態のゲートターンオフサイリスタ装置によれば、ツェナーダイオード構造部によって、オフゲート電流によるサージ電圧を抑制できると共に小型化を図れる。
【0020】
また、一実施形態のゲートターンオフサイリスタ装置では、上記第3の半導体層上に、上記第2導電型の接合層と上記第4の半導体層とを含むメサ形状部が形成され、
上記第1導電型の接合層は、上記メサ形状部よりも上記ゲート電極側に突出している。
【0021】
この実施形態のゲートターンオフサイリスタ装置によれば、オフゲート電流によるサージ電圧を抑制できると共に小型化を図れる。
【0022】
また、一実施形態のバイポーラトランジスタ装置では、第1導電型の第1の半導体層と、
上記第1の半導体層上に形成された第2導電型の第2の半導体層と、
上記第2の半導体層上に形成された第1導電型の第3の半導体層と、
上記第2の半導体層と上記第3の半導体層との間に形成されたツェナーダイオード構造部とを備え、
上記ツェナーダイオード構造部は、
上記第2導電型の第2の半導体層上に形成された第2導電型の接合層と、
上記第2導電型の接合層上に形成された第1導電型の接合層とを有している。
【0023】
この実施形態のバイポーラトランジスタ装置によれば、第2の半導体層と第3の半導体層との間のサージ電圧を、上記ツェナーダイオード構造部によって抑制できる。また、この実施形態では、上記第1〜第3の半導体層で構成されるバイポーラトランジスタ素子自体にツェナーダイオード構造部が組み込まれているので、バイポーラトランジスタ素子とは別個にツェナーダイオードを設ける場合に比べて、小型化を図れる。
【発明の効果】
【0024】
この発明のゲートターンオフサイリスタ装置によれば、第1〜第4の半導体層で構成されるGTO素子自体に組み込まれているツェナーダイオード構造部が、オフゲート電流によって発生する第2電極とゲート電極との間のサージ電圧を抑制する。よって、GTO素子とは別個にツェナーダイオードを設ける場合に比べて、小型化を図れ、小型で信頼性の高いゲートターンオフサイリスタ装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0026】
(第1の実施の形態)
図1Aに、この発明のゲートターンオフサイリスタ装置の第1実施形態としてのSiC GTO装置の断面を示す。この第1実施形態は、n型SiC基板1と、このn型SiC基板1上に順に形成されたn型SiCバッファ層2と、p型SiCバッファ層3と、p型SiCドリフト層4と、n型SiCベース層5と、n型SiC接合層6Aと、p型SiC接合層6Bと、p型SiCアノード層7と、p型SiCコンタクト層8とを備える。上記n型SiC接合層6Aと、p型SiC接合層6Bと、p型SiCアノード層7と、p型SiCコンタクト層8とがメサ形状部19を構成している。
【0027】
上記n型SiC基板1は、厚さが5μmでドナー密度が4×1016cm−3のSiC半導体層で構成され、上記n型SiCバッファ層2は、厚さが3.0μmでドナー密度が5×1018cm−3のSiC半導体層で構成されている。また、上記p型SiCバッファ層3は、厚さが2.5μmでアクセプタ密度が7×1016cm−3のSiC半導体層で構成されている。また、上記p型SiCドリフト層4は、厚さが75μmでアクセプタ密度が2×1014cm−3のSiC半導体層で構成されている。また、上記n型SiCベース層5は、厚さが2.5μmでドナー密度が1×1017cm−3のSiC半導体層で構成されている。
【0028】
また、上記n型SiC接合層6Aは、厚さが0.5μmでドナー密度が1×1018cm−3のSiC半導体層で構成され、上記p型SiC接合層6Bは、厚さが0.1μmでアクセプタ密度が2×1019cm−3のSiC半導体層で構成されている。また、上記p型SiCアノード層7は、厚さが2.0μmでアクセプタ密度が8×1018cm−3のSiC半導体層で構成され、上記p型SiCコンタクト層8は、厚さが0.5μmでアクセプタ密度が5×1020cm−3のSiC半導体層で構成されている。
【0029】
上記n型SiC基板1とn型SiCバッファ層2とが第1導電型の第1の半導体層を構成し、上記p型SiCバッファ層3とp型SiCドリフト層4とが第2導電型の第2の半導体層を構成し、上記n型SiCベース層5が第1導電型の第3の半導体層を構成している。また、上記n型SiC接合層6Aとp型SiC接合層6Bとがツェナーダイオード構造部6を構成している。また、上記p型SiCアノード層7とp型SiCコンタクト層8とが第2導電型の第4の半導体層を構成している。そして、この第1〜第4の半導体層でGTO素子が構成されている。
【0030】
また、上記n型SiC基板1の下面には、SiCカソードコンタクト9が形成され、上記n型SiCベース層5の上面には、SiCゲートコンタクト10が形成され、上記p型SiCコンタクト層8の上面にはSiCアノードコンタクト11が形成されている。
【0031】
また、上記n型SiCベース層5の上面には、上記SiCゲートコンタクト10に隣接して上記n型SiCベース層5の上面から上記ツェナーダイオード構造部6の側面、上記p型SiCアノード層7とp型SiCコンタクト層8の側面を覆い、さらに、上記p型SiCコンタクト層8の上面を覆って上記アノードコンタクト11に隣接するまで延びている厚さ300nmのSiO絶縁膜15が形成されている。
【0032】
また、図1Aに示すように、上記SiCアノードコンタクト層11上に第2電極としてのアノード電極12が形成され、上記SiCゲートコンタクト10上にゲート電極13が形成され、上記カソードコンタクト9に第1電極としてのカソード電極14が形成されている。
【0033】
また、この第1実施形態のSiC GTO装置では、図1Bに示すパッケージ17に、図1Aに示す半導体積層構造からなるSiC GTO素子18を収容している。このパッケージ17は、アノード端子20とゲート端子21を有し、このアノード端子20はリードワイヤ22で上記アノード電極12に接続され、上記ゲート端子21はリードワイヤ23で上記ゲート電極13に接続されている。
【0034】
この第1実施形態のSiC GTO装置は、アノード端子20とカソード電極14との間に順方向電圧を印加すると共に、アノード端子20とゲート端子21との間に順方向電圧を印加することで、ターンオンする。また、このSiC GTO装置は、ターンオンしている状態において、アノード端子20とゲート端子21との間に逆方向電圧を印加することで、ターンオフする。
【0035】
ここで、図4に、この第1実施形態のアノード・カソード間順方向特性のシミュレーション結果を示す。図4において、横軸はアノード・カソード間の順方向電圧(V)を表し、縦軸はアノード・カソード間の順方向電流密度(A/cm2)を表す。図4において、K1はアノード・ゲート間順方向電流Ig=2Aである場合のアノード・カソード間順方向特性であり、K2はアノード・ゲート間順方向電流Ig=2.5Aである場合のアノード・カソード間順方向特性である。また、K3はアノード・ゲート間順方向電流Ig=5Aである場合のアノード・カソード間順方向特性であり、K4はアノード・ゲート間順方向電流Ig=10Aである場合のアノード・カソード間順方向特性であり、K5はアノード・ゲート間順方向電流Ig=20Aである場合のアノード・カソード間順方向特性である。
【0036】
次に、図7の特性C1に、この第1実施形態のアノード・ゲート間逆方向特性のシミュレーション結果を示す。図7において、横軸はアノード・ゲート間の逆方向電圧(V)を表し、縦軸はアノード・ゲート間逆方向電流密度(A/cm)を表す。なお、縦軸において、1E−12,1E−11,1E−10,1E−09…はそれぞれ、1×10−12,1×10−11,1×10−10,1×10−9,…を表す。
【0037】
一方、図7の特性C4は、この第1実施形態の比較例のアノード・ゲート間逆方向特性のシミュレーション結果を示す。この比較例は、図10に示すように、図1Aにおいてツェナーダイオード構造部6を取り去ると共にp型SiCアノード層7に替えてp型SiCアノード層97を備えたSiC GTO装置である。
【0038】
なお、図11に、この比較例のアノード・カソード間順方向特性のシミュレーション結果を示す。図11において、横軸はアノード・カソード間の順方向電圧(V)を表し、縦軸はアノード・カソード間の順方向電流密度(A/cm)を表す。図11において、K41はアノード・ゲート間順方向電流Ig=2Aである場合のアノード・カソード間順方向特性であり、K42はアノード・ゲート間順方向電流Ig=10Aである場合のアノード・カソード間順方向特性であり、K43はアノード・ゲート間順方向電流Ig=20Aである場合のアノード・カソード間順方向特性である。
【0039】
図7の特性C1と特性C4を比較すれば、この第1実施形態のSiC GTO装置によれば、ツェナーダイオード構造部6のなだれ降伏によって、上記比較例のSiC GTO装置に比べて、アノード・ゲート間の逆方向電圧を大幅(約70V)に低減できることが分る。
【0040】
したがって、この第1実施形態のSiC GTO装置によれば、オフゲート電流によって発生するアノード電極12とゲート電極13との間のサージ電圧を、上記ツェナーダイオード構造部6によって抑制できる。また、この実施形態では、上記第1〜第4の半導体層で構成されるGTO素子自体にツェナーダイオード構造部6が組み込まれているので、GTO素子とは別個にツェナーダイオードを設ける場合に比べて、小型化を図れる。したがって、この実施形態によれば、オフゲート電流によるサージ電圧によるアノード電極12とゲート電極13との間の故障の発生を回避可能で信頼性を向上でき、かつ、小型化を図れるゲートターンオフサイリスタ装置を実現できる。
【0041】
尚、上記実施形態において、p型SiCバッファ層3を取り除いて、n型SiCバッファ層2上に、順に、p型SiCドリフト層4の極性を逆にしたn型SiC層、n型SiCベース層5の極性を逆にしたp型SiCベース層、n型SiC接合層6Aの極性を逆にしたp型SiC接合層、p型SiC接合層6Bの極性を逆にしたn型SiC接合層、p型SiCアノード層7の極性を逆にしたn型SiC層、p型SiCコンタクト層8の極性を逆にしたn型SiCコンタクト層を形成したnpnバイポーラトランジスタ装置としてもよい。この場合、第2導電型の第2の半導体層をなすp型SiCベース層上にp型SiC接合層とn型SiC接合層からなるツェナーダイオード構造部を有したnpnバイポーラトランジスタ装置となる。なお、npnバイポーラトランジスタ装置に替えてpnpバイポーラトランジスタ装置でも本発明を適用できる。
【0042】
(第2の実施の形態)
次に、図2に、この発明のゲートターンオフサイリスタ装置の第2実施形態としてのSiC GTO装置の断面を示す。この第2実施形態は、図1に示すツェナーダイオード構造部6に替えて、図2に示すツェナーダイオード構造部26を備える点が、前述の第1実施形態と異なる。よって、前述の第1実施形態と同様の部分には同じ符号を付して前述の第1実施形態と異なる点を主に説明する。
【0043】
図2に示すように、この第2実施形態では、ツェナーダイオード構造部26は、n型SiCベース層5に形成された複数のストライプ状のn型SiC層26A-1からなるn型SiC接合層26Aと、このストライプ状のn型SiC接合層26A上に形成された平板状のp型SiC接合層26Bとで構成されている。上記n型SiC接合層26Aは、ドナー密度が1×1018cm−3のSiC半導体層で構成され、上記p型SiC接合層26Bは、厚さが0.1μmでアクセプタ密度が2×1019cm−3のSiC半導体層で構成されている。
【0044】
各ストライプ状のn型SiC層26A‐1は、幅寸法が1μm、深さ寸法が0.5μmである。ここで、深さ寸法とは、各半導体層の積層方向の寸法であり、幅寸法とは、上記深さ方向に直交する図2において左右方向の寸法である。上記複数のストライプ状のn型SiC層26A‐1は、上記幅方向に、1μmのピッチで配列されている。この第2実施形態では、上記複数のストライプ状のn型SiC層26A‐1からなるn型SiC接合層26Aは、全体がメサ形状部19に覆われている。なお、この実施形態では、n型SiC層26A‐1をストライプ状に形成したがアイランド状に形成してもよい。
【0045】
ここで、図5に、この第2実施形態のアノード・カソード間順方向特性のシミュレーション結果を示す。図5において、横軸はアノード・カソード間の順方向電圧(V)を表し、縦軸はアノード・カソード間の順方向電流密度(A/cm)を表す。図5において、K21はアノード・ゲート間順方向電流Ig=2Aである場合のアノード・カソード間順方向特性であり、K22はアノード・ゲート間順方向電流Ig=10Aである場合のアノード・カソード間順方向特性である。また、K23はアノード・ゲート間順方向電流Ig=20Aである場合のアノード・カソード間順方向特性である。
【0046】
次に、図7の特性C2に、この第2実施形態のアノード・ゲート間逆方向特性のシミュレーション結果を示す。図7において、横軸はアノード・ゲート間の逆方向電圧(V)を表し、縦軸はアノード・ゲート間逆方向電流密度(A/cm)を表す。図7の特性C2と上記比較例の特性C4を比較すれば、この第2実施形態のSiC GTO装置によれば、ツェナーダイオード構造部26のなだれ降伏によって、上記比較例のSiC GTO装置に比べて、アノード・ゲート間の逆方向電圧を大幅(約60V)に低減できることが分る。
【0047】
したがって、この第2実施形態のSiC GTO装置によれば、オフゲート電流によって発生するアノード電極12とゲート電極13との間のサージ電圧を、上記ツェナーダイオード構造部26によって抑制できる。また、この実施形態では、上記第1〜第4の半導体層で構成されるGTO素子自体にツェナーダイオード構造部26が組み込まれているので、GTO素子とは別個にツェナーダイオードを設ける場合に比べて、小型化を図れる。
【0048】
尚、上記実施形態において、p型SiCバッファ層3を取り除いて、n型SiCバッファ層2上に、順に、p型SiCドリフト層4の極性を逆にしたn型SiC層、n型SiCベース層5の極性を逆にしたp型SiCベース層、n型SiC接合層26Aの極性を逆にしたp型SiC接合層、p型SiC接合層26Bの極性を逆にしたn型SiC接合層、p型SiCアノード層7の極性を逆にしたn型SiC層、p型SiCコンタクト層8の極性を逆にしたn型SiCコンタクト層を形成したnpnバイポーラトランジスタ装置としてもよい。この場合、第2導電型の第2の半導体層をなすp型SiCベース層上にp型SiC接合層とn型SiC接合層からなるツェナーダイオード構造部を有したnpnバイポーラトランジスタ装置となる。なお、npnバイポーラトランジスタ装置に替えてpnpバイポーラトランジスタ装置でも本発明を適用できる。
【0049】
(第3の実施の形態)
次に、図3に、この発明のゲートターンオフサイリスタ装置の第3実施形態としてのSiC GTO装置の断面を示す。この第3実施形態は、図1に示すツェナーダイオード構造部6に替えて、図3に示すツェナーダイオード構造部36を備える点が、前述の第1実施形態と異なる。よって、前述の第1実施形態と同様の部分には同じ符号を付して前述の第1実施形態と異なる点を主に説明する。
【0050】
図3に示すように、この第3実施形態では、ツェナーダイオード構造部36は、n型SiCベース層5に形成された複数のストライプ状のn型SiC層36A-1からなるn型SiC接合層36Aと、このストライプ状のn型SiC接合層36A上に形成された平板状のp型SiC接合層36Bとで構成されている。上記n型SiC接合層36Aは、ドナー密度が1×1018cm−3のSiC半導体層で構成され、上記p型SiC接合層36Bは、厚さが0.1μmでアクセプタ密度が2×1019cm−3のSiC半導体層で構成されている。なお、この実施形態では、n型SiC層36A‐1をストライプ状に形成したがアイランド状に形成してもよい。
【0051】
各ストライプ状のn型SiC層36A‐1は、幅寸法が1μm、深さ寸法が0.5μmである。ここで、深さ寸法とは、各半導体層の積層方向の寸法であり、幅寸法とは、上記深さ方向に直交する図3において左右方向の寸法である。上記複数のストライプ状のn型SiC層36A‐1は、上記幅方向に、1μmのピッチで配列されている。この第3実施形態では、上記複数のストライプ状のn型SiC層36A‐1からなるn型SiC接合層36Aは、その一部分をなすn型SiC層36A‐1がメサ形状部19よりもゲート電極13側にはみ出している。
【0052】
ここで、図6に、この第3実施形態のアノード・カソード間順方向特性のシミュレーション結果を示す。図6において、横軸はアノード・カソード間の順方向電圧(V)を表し、縦軸はアノード・カソード間の順方向電流密度(A/cm)を表す。図6において、K31はアノード・ゲート間順方向電流Ig=2Aである場合のアノード・カソード間順方向特性であり、K32はアノード・ゲート間順方向電流Ig=10Aである場合のアノード・カソード間順方向特性である。また、K33はアノード・ゲート間順方向電流Ig=20Aである場合のアノード・カソード間順方向特性である。
【0053】
次に、図7の特性C3に、この第3実施形態のアノード・ゲート間逆方向特性のシミュレーション結果を示す。図7において、横軸はアノード・ゲート間の逆方向電圧(V)を表し、縦軸はアノード・ゲート間逆方向電流密度(A/cm)を表す。図7の特性C3と上記比較例の特性C4を比較すれば、この第3施形態のSiC GTO装置によれば、ツェナーダイオード構造部36のなだれ降伏によって、上記比較例のSiC GTO装置に比べて、アノード・ゲート間の逆方向電圧を大幅(約100V)に低減できることが分る。
【0054】
したがって、この第3実施形態のSiC GTO装置によれば、オフゲート電流によって発生するアノード電極12とゲート電極13との間のサージ電圧を、上記ツェナーダイオード構造部36によって抑制できる。また、この実施形態では、上記第1〜第4の半導体層で構成されるGTO素子自体にツェナーダイオード構造部36が組み込まれているので、GTO素子とは別個にツェナーダイオードを設ける場合に比べて小型化を図れる。
【0055】
尚、上記実施形態において、p型SiCバッファ層3を取り除いて、n型SiCバッファ層2上に、順に、p型SiCドリフト層4の極性を逆にしたn型SiC層、n型SiCベース層5の極性を逆にしたp型SiCベース層、n型SiC接合層36Aの極性を逆にしたp型SiC接合層、p型SiC接合層36Bの極性を逆にしたn型SiC接合層、p型SiCアノード層7の極性を逆にしたn型SiC層、p型SiCコンタクト層8の極性を逆にしたn型SiCコンタクト層を形成したnpnバイポーラトランジスタ装置としてもよい。この場合、第2導電型の第2の半導体層をなすp型SiCベース層上にp型SiC接合層とn型SiC接合層からなるツェナーダイオード構造部を有したnpnバイポーラトランジスタ装置となる。なお、npnバイポーラトランジスタ装置に替えてpnpバイポーラトランジスタ装置でも本発明を適用できる。
【0056】
なお、上記実施形態では、第1半導体層(SiC基板1,SiCバッファ層2)および第3の半導体層(SiCベース層5)をn型とし、第2の半導体層(SiCバッファ層3,SiCドリフト層4)および第4の半導体層(SiCアノード層7とSiCコンタクト層8)をp型としたが、逆に、第1半導体層および第3の半導体層をp型とし、第2の半導体層および第4の半導体層をn型としてもよい。この場合、第4の半導体層上にカソードコンタクト,カソード電極が形成され、上記第1の半導体層の下面にアノードコンタクト,アノード電極が形成され、ツェナーダイオード構造部は、p型の第3の半導体層上に形成されたp型の接合層とこのp型の接合層上に形成されたn型の接合層とで構成される。また、上記実施形態では、ゲートターンオフサイリスタ装置がSiC GTO装置である場合を説明したが、SiC GTO装置以外のGaN GTO装置、Si GTO装置等であっても本発明を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1A】この発明のゲートターンオフサイリスタ装置の第1実施形態のSiC GTO装置の断面図である。
【図1B】上記第1実施形態のパッケージ周辺構造を示す模式図である。
【図2】この発明のゲートターンオフサイリスタ装置の第2実施形態のSiC GTO装置の断面図である。
【図3】この発明のゲートターンオフサイリスタ装置の第3実施形態のSiC GTO装置の断面図である。
【図4】上記第1実施形態のアノード・カソード間順方向特性のシミュレーション結果を示す特性図である。
【図5】上記第2実施形態のアノード・カソード間順方向特性のシミュレーション結果を示す特性図である。
【図6】上記第2実施形態のアノード・カソード間順方向特性のシミュレーション結果を示す特性図である。
【図7】上記第1〜第3実施形態および比較例のアノード・ゲート間逆方向特性のシミュレーション結果を示す特性図である。
【図8】従来のSiC GTO装置のパッケージ102の周辺構造を示す模式図である。
【図9】もう1つの従来のSiC GTO装置のパッケージ202の周辺構造を示す模式図である。
【図10】比較例のSiC GTO装置の断面図である。
【図11】上記比較例のアノード・カソード間順方向特性のシミュレーション結果を示す特性図である。
【符号の説明】
【0058】
1 n型SiC基板
2 n型SiCバッファ層
3 p型SiCバッファ層
4 p型SiCドリフト層
5 n型SiCベース層
6、26、36 ツェナーダイオード構造部
6A、26A、36A n型SiC接合層
6B、26B、36B p型SiC接合層
7、97 p型SiCアノード層
8 p型SiCコンタクト層
9 SiCカソードコンタクト
10 SiCゲートコンタクト
11 SiCアノードコンタクト
12 アノード電極
13 ゲート電極
14 カソード電極
18 SiC GTO素子18
19 メサ形状部
20 アノード端子
21 ゲート端子
22、23 リードワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の第1の半導体層と、
上記第1の半導体層上に形成された第2導電型の第2の半導体層と、
上記第2の半導体層上に形成された第1導電型の第3の半導体層と、
上記第3の半導体層上に形成された第2導電型の第4の半導体層と、
上記第1の半導体層に形成された第1電極と、
上記第3の半導体層に形成されたゲート電極と、
上記第4の半導体層に形成された第2電極と、
上記第3の半導体層と上記第4の半導体層との間に形成されたツェナーダイオード構造部とを備え、
上記ツェナーダイオード構造部は、
上記第1導電型の第3の半導体層上に形成された第1導電型の接合層と、
上記第1導電型の接合層上に形成された第2導電型の接合層とを有していることを特徴とするゲートターンオフサイリスタ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のゲートターンオフサイリスタ装置において、
上記第1,第2,第3,第4の半導体層は、炭化珪素半導体で作製され、
上記ツェナーダイオード構造部は、炭化珪素半導体で作製されていることを特徴とするゲートターンオフサイリスタ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のゲートターンオフサイリスタ装置において、
上記第1導電型の接合層は、
上記第1導電型の第3の半導体層上にストライプ状またはアイランド状に形成されていることを特徴とするゲートターンオフサイリスタ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のゲートターンオフサイリスタ装置において、
上記第3の半導体層上に、上記第2導電型の接合層と上記第4の半導体層とを含むメサ形状部が形成され、
上記メサ形状部は、上記第1導電型の接合層の全体を覆っていることを特徴とするゲートターンオフサイリスタ装置。
【請求項5】
請求項3に記載のゲートターンオフサイリスタ装置において、
上記第3の半導体層上に、上記第2導電型の接合層と上記第4の半導体層とを含むメサ形状部が形成され、
上記第1導電型の接合層は、上記メサ形状部よりも上記ゲート電極側に突出していることを特徴とするゲートターンオフサイリスタ装置。
【請求項6】
第1導電型の第1の半導体層と、
上記第1の半導体層上に形成された第2導電型の第2の半導体層と、
上記第2の半導体層上に形成された第1導電型の第3の半導体層と、
上記第2の半導体層と上記第3の半導体層との間に形成されたツェナーダイオード構造部とを備え、
上記ツェナーダイオード構造部は、
上記第2導電型の第2の半導体層上に形成された第2導電型の接合層と、
上記第2導電型の接合層上に形成された第1導電型の接合層とを有していることを特徴とするバイポーラトランジスタ装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−147083(P2010−147083A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319835(P2008−319835)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】