コイル、モータ、及びコア用絶縁材
【課題】表面に半導電層を有する巻線を用いつつ、巻線間の部分放電を効果的に抑制することが可能なコイルを得る。
【解決手段】コイル4は、ティース部11を有するコア10と、コア10を被覆するインシュレータ12と、インシュレータ12を介してティース部11の外周上に整列して巻回され、導体20、導体20を被覆する絶縁層21、及び絶縁層21を被覆する半導電層22を有し、断面が四角形の巻線13と、を備え、ティース部11を被覆している部分のインシュレータ12の表面には、ティース部11の軸心方向Sに対して巻線13を所定の傾斜姿勢で保持する凹部31〜36が、ターン変更部を除くティース部11の外周全域に亘って形成されており、凹部31〜36に従って巻線13がティース部11の外周上に巻回されることにより、隣接ターンの巻線13同士が互いに接触する。
【解決手段】コイル4は、ティース部11を有するコア10と、コア10を被覆するインシュレータ12と、インシュレータ12を介してティース部11の外周上に整列して巻回され、導体20、導体20を被覆する絶縁層21、及び絶縁層21を被覆する半導電層22を有し、断面が四角形の巻線13と、を備え、ティース部11を被覆している部分のインシュレータ12の表面には、ティース部11の軸心方向Sに対して巻線13を所定の傾斜姿勢で保持する凹部31〜36が、ターン変更部を除くティース部11の外周全域に亘って形成されており、凹部31〜36に従って巻線13がティース部11の外周上に巻回されることにより、隣接ターンの巻線13同士が互いに接触する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル、モータ、及びコア用絶縁材に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、導体と、導体を被覆する絶縁層と、絶縁層を被覆する半導電層とを有する構造の巻線を用いたコイルが開示されている。このように表面に半導電層を有する巻線を用いることにより、半導電層を有しない通常の巻線を用いたコイルと比較して巻線間の部分放電が抑制されるため、高電圧機器用途に適したコイルを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3077982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図12は、表面に半導電層を有する巻線に関して、隣接する巻線同士の隙間寸法(巻線間隔)と、当該巻線間の電界強度との関係を解析した結果を示すグラフである。図12から明らかなように、巻線間隔が0.002mm付近の領域において、電界強度が他の領域よりも極端に大きくなっていることが分かる。従って、表面に半導電層を有する巻線を用いたコイルにおいて、隣接する巻線同士の間に0.002mm程度の隙間が生じると、その箇所の電界強度が高くなって巻線間の部分放電が発生しやすくなる。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みて成されたものであり、表面に半導電層を有する巻線を用いつつ、巻線間の部分放電を効果的に抑制することが可能な、コイル、モータ、及びコイル用絶縁材を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係るコイルは、ティース部を有するコアと、前記コアを被覆する絶縁材と、前記絶縁材を介して前記ティース部の外周上に整列して巻回され、導体、前記導体を被覆する絶縁層、及び前記絶縁層を被覆する半導電層を有し、断面が四角形の巻線と、を備え、前記ティース部を被覆している部分の前記絶縁材の表面には、前記ティース部の軸心方向に対して前記巻線を所定の傾斜姿勢で保持する保持構造が、ターン変更部を除く前記ティース部の外周全域に亘って形成されており、前記保持構造に従って前記巻線が前記ティース部の外周上に巻回されることにより、隣接ターンの前記巻線同士が互いに接触することを特徴とするものである。
【0007】
第1の態様に係るコイルによれば、ティース部を被覆している部分の絶縁材の表面には、ティース部の軸心方向に対して巻線を所定の傾斜姿勢で保持する保持構造が、ターン変更部を除くティース部の外周全域に亘って形成されており、保持構造に従って巻線がティース部の外周上に巻回されることにより、隣接ターンの巻線同士が互いに接触する。これにより、隣接ターンの巻線の半導電層同士を等電位に設定することができるため、巻線間の部分放電を効果的に抑制することが可能となる。
【0008】
本発明の第2の態様に係るコイルは、第1の態様に係るコイルにおいて特に、前記巻線の断面形状は、角部が丸みを帯びた長方形であり、前記巻線の形状は、前記角部の丸みの半径をR、前記長方形の長辺の寸法をX、前記長方形の短辺の寸法をY、及び前記ティース部の軸心方向に対する前記巻線の傾斜角度をαとしたときに、2R<Y−Xtanαの関係を満たすことを特徴とするものである。
【0009】
第2の態様に係るコイルによれば、巻線の形状は、角部の丸みの半径をR、長方形の長辺の寸法をX、長方形の短辺の寸法をY、及びティース部の軸心方向に対する前記巻線の傾斜角度をαとしたときに、2R<Y−Xtanαの関係を満たす。これにより、隣接ターンの巻線同士を互いに面接触させることが可能となる。
【0010】
本発明の第3の態様に係るコイルは、第1又は第2の態様に係るコイルにおいて特に、複数の前記コイルが並んで配置される場合において、互いに隣接する一対のコイルのうちの一方のコイルと他方のコイルとで、前記巻線の巻回パターンが非対称であることを特徴とするものである。
【0011】
第3の態様に係るコイルによれば、互いに隣接する一対のコイルのうちの一方のコイルと他方のコイルとで、巻線の巻回パターンが非対称である。従って、互いに隣接するコイル間の隙間が少なくなるように各コイルの巻線の巻回パターンを設定することにより、占積率を向上することが可能となる。
【0012】
本発明の第4の態様に係るコイルは、第1〜第3のいずれか一つの態様に係るコイルにおいて特に、前記巻線は、その端部において、前記導体と前記半導電層とを互いに電気的に絶縁するための絶縁処理が施されていることを特徴とするものである。
【0013】
第4の態様に係るコイルによれば、巻線は、その端部において、導体と半導電層とを互いに電気的に絶縁するための絶縁処理が施されている。従って、巻線の端部において導体と半導電層との間で部分放電が発生することを、予め回避することが可能となる。
【0014】
本発明の第5の態様に係るコイルは、第1〜第4のいずれか一つの態様に係るコイルにおいて特に、前記コイルは、同一相内で直列接続された複数のコイルのうち、少なくとも入力側に最も近いコイルであることを特徴とするものである。
【0015】
第5の態様に係るコイルによれば、コイルは、同一相内で直列接続された複数のコイルのうち、少なくとも入力側に最も近いコイルである。入力側に最も近いコイルは入力電圧の影響を受けやすいため、高電圧が入力された場合に、当該コイルの両端電圧も高くなって巻線間の部分放電が生じやすい。従って、同一相内で直列接続された複数のコイルのうち、少なくとも入力側に最も近いコイルに対して、本発明を適用して部分放電が生じにくい構造を採用することにより、巻線間の部分放電を予め抑制することが可能となる。
【0016】
本発明の第6の態様に係るコイルは、第5の態様に係るコイルにおいて特に、相が異なる複数のコイル同士の間を電気的に絶縁するための絶縁部材をさらに備えることを特徴とするものである。
【0017】
第6の態様に係るコイルによれば、相が異なる複数のコイル同士の間は、絶縁部材によって電気的に絶縁される。従って、相内よりも高電圧となる相間を、絶縁部材によって適切に絶縁することが可能となる。
【0018】
本発明の第7の態様に係るモータは、第1の態様に係るコイルを有するステータと、ロータと、を備えることを特徴とするものである。
【0019】
第7の態様に係るモータによれば、ステータが第1の態様に係るコイルを有することにより、ティース部を被覆している部分の絶縁材の表面には、ティース部の軸心方向に対して巻線を所定の傾斜姿勢で保持する保持構造が、ターン変更部を除くティース部の外周全域に亘って形成されており、保持構造に従って巻線がティース部の外周上に巻回されることにより、隣接ターンの巻線同士が互いに接触する。これにより、隣接ターンの巻線の半導電層同士を等電位に設定することができるため、巻線間の部分放電を効果的に抑制することが可能となる。
【0020】
本発明の第8の態様に係るコア用絶縁材は、導体、前記導体を被覆する絶縁層、及び前記絶縁層を被覆する半導電層を有し、断面が四角形の巻線を、コアのティース部の外周上に整列して巻回するために、前記コアを被覆するコア用絶縁材であって、前記ティース部を被覆している部分の前記絶縁材の表面には、前記ティース部の軸心方向に対して前記巻線を所定の傾斜姿勢で保持する保持構造が、ターン変更部を除く前記ティース部の外周全域に亘って形成されていることを特徴とするものである。
【0021】
第8の態様に係るコア用絶縁材によれば、ティース部を被覆している部分の絶縁材の表面には、ティース部の軸心方向に対して巻線を所定の傾斜姿勢で保持する保持構造が、ターン変更部を除くティース部の外周全域に亘って形成されている。従って、保持構造に従って巻線がティース部の外周上に巻回されることにより、隣接ターンの巻線同士が互いに接触する。これにより、隣接ターンの巻線の半導電層同士を等電位に設定することができるため、巻線間の部分放電を効果的に抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、表面に半導電層を有する巻線を用いつつ、巻線間の部分放電を効果的に抑制することが可能な、コイル、モータ、及びコア用絶縁材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係るモータの全体構成を模式的に示す図である。
【図2】一つのコイルの構造を模式的に示す図である。
【図3】巻線の構造の第1の例を示す断面図である。
【図4】巻線の構造の第2の例を示す断面図である。
【図5】インシュレータの構造の一部を示す図である。
【図6】インシュレータ上に巻線を巻回する工程を示す図である。
【図7】図4に示した巻線の一対の隣接ターンを示す図である。
【図8】互いに隣接する一対のコイルの一部を示す図である。
【図9】巻線の端部に施されている端部処理の第1の例を示す図である。
【図10】巻線の端部に施されている端部処理の第2の例を示す図である。
【図11】モータの使用例を示す図である。
【図12】表面に半導電層を有する巻線に関して、隣接する巻線同士の隙間寸法と、当該巻線間の電界強度との関係を解析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、異なる図面において同一の符号を付した要素は、同一又は相応する要素を示すものとする。
【0025】
図1は、本発明の実施の形態に係るモータ1の全体構成を模式的に示す図である。図1に示すようにモータ1は、円環状のステータ3と、ステータ3の円環内に配置されたロータ2とを備えて構成されている。ステータ3は、分割された複数のコイル4が円環に沿って並設された構造(いわゆる分割ステータ)を有している。
【0026】
図2は、一つのコイル4の構造を模式的に示す図である。図2に示すようにコイル4は、四角柱状のティース部11を有するコア10と、ティース部11を含むコア10の一部表面上に配置されることにより、コア10を部分的に被覆する絶縁性のインシュレータ(絶縁材)12と、インシュレータ12を介してティース部11の外周上に整列して巻回された巻線13とを備えて構成されている。
【0027】
図3は、巻線13の構造の第1の例を示す断面図である。図3に示すように巻線13は、四角形(略四角形を含む)の断面形状を有しており、中心の導体20と、導体20を被覆する絶縁層21と、絶縁層21を被覆する半導電層22とを含む構造を成している。導体20の材質は、例えば銅である。絶縁層21の材質は、例えばポリアミドイミドである。半導電層22の材質は、例えば、カーボンブラック粉末等の導電性物質が混練されたポリアミドイミドである。但し、各層の材質はこの例に限定されるものではない。また、絶縁層21の厚みは例えば0.044mmであり、半導電層22の厚みは例えば0.005mmである。但し、各層の寸法はこの例に限定されるものではない。半導電層22の表面抵抗率は106Ω/□未満(望ましくは104Ω/□未満)に設定されており、これにより、高い部分放電開始電圧(104Ω/□未満で3800Vp以上)が実現される。
【0028】
図4は、巻線13の構造の第2の例を示す断面図である。図3に示した各層の四角形の角部が丸められた形状となっている。図4に示した巻線13の製造方法の例としては、導体20を断面四角形状に伸線した後に、絶縁層21及び半導電層22を順に焼付塗装する第1の手法、又は、導体20、絶縁層21、及び半導電層22を含む断面円形状の通常巻線を作製した後に、ローラー圧延又はダイス引きによって当該通常巻線を断面四角形状に伸線する第2の手法がある。第1の手法によると、通常巻線の伸線に伴う損傷を回避できるとともに、長方形のアスペクト比を上げることができるため、第1の手法を採用することが望ましい。但し、第1の手法によると、角部の丸みの半径が小さい場合に塗装性が低下して角部における絶縁層21及び半導電層22の膜厚が薄くなるため、角部の半径をある程度大きくする必要がある。また、第2の手法において通常巻線を断面四角形状に伸線する際には、伸線に伴う半導電層22の損傷を防止すべく、予め巻線の表面に潤滑油を塗布して動摩擦係数を0.06以下にしておくことが望ましい。
【0029】
図5は、インシュレータ12の構造の一部を示す図である。図5に示すようにインシュレータ12の表面には、巻線13を整列して配置するための複数の凹部31〜36が形成されている。各凹部31〜36は緩斜面70と急斜面71とを有しており、凹部31〜36が連続することによって、緩斜面70と急斜面71とが交互に配列された構造となっている。凹部31〜36は、四角柱状のティース部11の外周全域に対応して形成されている。但し、コイルエンドにおけるターン変更面には、凹部31〜36が形成されている必要はない。
【0030】
図6は、インシュレータ12上に巻線13を巻回する工程を示す図である。図6に示した例において、巻線13は、1本の巻線によって構成されている。
【0031】
図6を参照して、巻線の積層構造の最も内側の層となる第1層L1において、凹部31〜36に従って第1巻線Aが順に巻回される。具体的に、巻線13の第1ターンA1が凹部31に従って巻回され、次に第2ターンA2が凹部32に従って巻回され、第3〜第5ターンA3〜A5に関しても同様の動作が繰り返された後、第6ターンA6が凹部36に従って巻回される。図6に示すように、巻線13の隣接ターン同士は互いに接触している。例えば、第1ターンA1と第2ターンA2とは互いに接触し、第2ターンA2と第3ターンA3とは互いに接触している。第1層L1の外側の層となる第2層においては、すでに第1層L1に巻回された巻線13に従って巻線13が順に巻回される。第2層の外側の層となる第3層以降についても同様である。
【0032】
図7は、図4に示した巻線13の一対の隣接ターンを示す図である。図4に示したように、巻線13の断面形状は角部が丸みを帯びた長方形である。この場合において、角部の丸みの半径をR、長方形の長辺の寸法をX、長方形の短辺の寸法をY、及びティース部11の軸心方向に対する巻線13の傾斜角度をαとしたときに、2R<Y−Xtanαの関係を満たすように、巻線13の形状が設定されている。これにより、巻線13の隣接ターン同士が、長方形の短辺の一部を含む領域(図7に示した寸法Hの領域)において互いに面接触する。ここで、長方形の長辺は緩斜面70(図5参照)に接触し、短辺は急斜面71(図5参照)に接触する。また、緩斜面70の寸法は長方形の長辺の寸法Xに等しく設定されており、急斜面71の寸法は図8に示した寸法Xtanαに等しく設定されている。
【0033】
図8は、互いに隣接する一対のコイル41,42の一部を示す図である。コイル41は、ティース部111を有するコア101と、コア101を部分的に被覆する絶縁性のインシュレータ121と、インシュレータ121を介してティース部111の外周上に整列して巻回された巻線131とを備えて構成されている。同様に、コイル42は、ティース部112を有するコア102と、コア102を部分的に被覆する絶縁性のインシュレータ122と、インシュレータ122を介してティース部112の外周上に整列して巻回された巻線132とを備えて構成されている。図8に示すように、コイル41における巻線131の巻回パターンと、コイル42における巻線132の巻回パターンとは、互いに非対称に設定されている。具体的には、巻線131の積層構造の表面における凹凸構造と、巻線132の積層構造の表面における凹凸構造とが、互いに相補的な関係となるように、各巻線131,132の巻回パターンが設定されている。これにより、デッドスペースとなるコイル41,42間の隙間が小さくなる。
【0034】
図9は、巻線13の端部に施されている端部処理の第1の例を示す図である。巻線13の端部においては、半導電層22及び絶縁層21を剥離することによって導体20が露出されるが、その際、半導電層22のみを剥離することによって絶縁層21が露出した領域を、導体20と半導電層22との間に所定の距離だけ残す。これにより、当該領域を間に挟むことによって、導体20と半導電層22とが互いに電気的に分離される。
【0035】
図10は、巻線13の端部に施されている端部処理の第2の例を示す図である。巻線13の端部においては、半導電層22及び絶縁層21を剥離することによって導体20が露出されるが、その際、半導電層22の先端及び導体20の一部を含む所定の領域を、絶縁性樹脂等の封止材50によって封止する。これにより、封止材50を間に挟むことによって、導体20と半導電層22とが電気的に分離される。
【0036】
図11は、モータ1の使用例を示す図である。複数のコイルU1〜U4から成る直列接続体、複数のコイルV1〜V4から成る直列接続体、及び複数のコイルW1〜W4から成る直列接続体が、インバータ60のU相、V相、及びW相にそれぞれ接続されている。コイルU1,V1,W1は、それぞれの直列接続体のうち、入力側であるインバータ60に最も近いコイルである。上述したコイル4の構造を、少なくともコイルU1,V1,W1に対して適用する。但し、各直列接続体の全てのコイルに対して適用してもよい。
【0037】
また、U相のコイルU1〜U4とV相のコイルV1〜V4との間、V相のコイルV1〜V4とW相のコイルW1〜W4との間、及びW相のコイルW1〜W4とU相のコイルU1〜U4との間は、相間絶縁紙とエナメル等の絶縁材とを含む所定の絶縁部材(図示しない)によって、互いに電気的に絶縁されている。当該絶縁部材の厚みは、想定される相間電圧に応じて設定される。これにより、相内よりも高電圧となる相間を、当該絶縁部材によって適切に絶縁することができる。また、図2に示したように巻線13と接地電位(コア10)との間は、インシュレータ12によって互いに電気的に絶縁されている。インシュレータ12の厚みは、想定される対地電圧に応じて設定される。これにより、相内よりも高電圧となる対地間を、インシュレータ12によって適切に絶縁することができる。
【0038】
図5に示したように、本実施の形態に係るコイル4によれば、ティース部11を被覆している部分のインシュレータ12の表面には、ティース部11の軸心方向Sに対して巻線13を所定の傾斜姿勢で保持する保持構造(凹部31〜36)が、コイルエンドのターン変更面を除くティース部11の外周全域に亘って形成されている。そして、図6に示したように、保持構造に従って巻線13がティース部11の外周上に巻回されることにより、隣接ターンの巻線13同士が互いに接触する。これにより、隣接ターンの巻線13の半導電層22同士を等電位に設定することができる。その結果、巻線13間の部分放電を効果的に抑制することが可能となるため、電気自動車用モータやハイブリッド自動車用モータ等の高電圧機器用途に適したコイルを得ることができる。
【0039】
また、図7に示したように、本実施の形態に係るコイル4によれば、巻線13の形状は、角部の丸みの半径をR、長方形の長辺の寸法をX、長方形の短辺の寸法をY、及びティース部11の軸心方向Sに対する巻線13の傾斜角度をαとしたときに、2R<Y−Xtanαの関係を満たす。これにより、隣接ターンの巻線13同士を互いに面接触させることが可能となる。
【0040】
また、図8に示したように、本実施の形態に係るコイル4によれば、互いに隣接する一対のコイル41,42のうちの一方のコイル41と他方のコイル42とで、巻線131,132の巻回パターンが非対称である。従って、互いに隣接するコイル41,42間の隙間が少なくなるように各コイル131,132の巻線の巻回パターンを設定することにより、占積率を向上することが可能となる。
【0041】
また、図9,10に示したように、本実施の形態に係るコイル4によれば、巻線13は、その端部において、導体20と半導電層22とを互いに電気的に絶縁するための絶縁処理が施されている。従って、巻線13の端部において導体20と半導電層22との間で部分放電が発生することを、予め回避することが可能となる。
【0042】
また、図11に示したように、本実施の形態に係るコイル4は、同一相内で直列接続された複数のコイルU1〜U4,V1〜V4,W1〜W4のうち、少なくとも入力側に最も近いコイルU1,V1,W1に対して適用される。入力側に最も近いコイルU1,V1,W1は入力電圧の影響を受けやすいため、高電圧が入力された場合に、当該コイルU1,V1,W1の両端電圧も高くなって巻線13間の部分放電が生じやすい。従って、同一相内で直列接続された複数のコイルU1〜U4,V1〜V4,W1〜W4のうち、少なくとも入力側に最も近いコイルU1,V1,W1に対して、コイル4を適用して部分放電が生じにくい構造を採用することにより、巻線13間の部分放電を予め抑制することが可能となる。
【0043】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0044】
1 モータ
2 ロータ
3 ステータ
4,41,42 コイル
10,101,102 コア
11,111,112 ティース部
12,121,122 インシュレータ
13,131,132 巻線
20 導体
21 絶縁層
22 半導電層
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル、モータ、及びコア用絶縁材に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、導体と、導体を被覆する絶縁層と、絶縁層を被覆する半導電層とを有する構造の巻線を用いたコイルが開示されている。このように表面に半導電層を有する巻線を用いることにより、半導電層を有しない通常の巻線を用いたコイルと比較して巻線間の部分放電が抑制されるため、高電圧機器用途に適したコイルを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3077982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図12は、表面に半導電層を有する巻線に関して、隣接する巻線同士の隙間寸法(巻線間隔)と、当該巻線間の電界強度との関係を解析した結果を示すグラフである。図12から明らかなように、巻線間隔が0.002mm付近の領域において、電界強度が他の領域よりも極端に大きくなっていることが分かる。従って、表面に半導電層を有する巻線を用いたコイルにおいて、隣接する巻線同士の間に0.002mm程度の隙間が生じると、その箇所の電界強度が高くなって巻線間の部分放電が発生しやすくなる。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みて成されたものであり、表面に半導電層を有する巻線を用いつつ、巻線間の部分放電を効果的に抑制することが可能な、コイル、モータ、及びコイル用絶縁材を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係るコイルは、ティース部を有するコアと、前記コアを被覆する絶縁材と、前記絶縁材を介して前記ティース部の外周上に整列して巻回され、導体、前記導体を被覆する絶縁層、及び前記絶縁層を被覆する半導電層を有し、断面が四角形の巻線と、を備え、前記ティース部を被覆している部分の前記絶縁材の表面には、前記ティース部の軸心方向に対して前記巻線を所定の傾斜姿勢で保持する保持構造が、ターン変更部を除く前記ティース部の外周全域に亘って形成されており、前記保持構造に従って前記巻線が前記ティース部の外周上に巻回されることにより、隣接ターンの前記巻線同士が互いに接触することを特徴とするものである。
【0007】
第1の態様に係るコイルによれば、ティース部を被覆している部分の絶縁材の表面には、ティース部の軸心方向に対して巻線を所定の傾斜姿勢で保持する保持構造が、ターン変更部を除くティース部の外周全域に亘って形成されており、保持構造に従って巻線がティース部の外周上に巻回されることにより、隣接ターンの巻線同士が互いに接触する。これにより、隣接ターンの巻線の半導電層同士を等電位に設定することができるため、巻線間の部分放電を効果的に抑制することが可能となる。
【0008】
本発明の第2の態様に係るコイルは、第1の態様に係るコイルにおいて特に、前記巻線の断面形状は、角部が丸みを帯びた長方形であり、前記巻線の形状は、前記角部の丸みの半径をR、前記長方形の長辺の寸法をX、前記長方形の短辺の寸法をY、及び前記ティース部の軸心方向に対する前記巻線の傾斜角度をαとしたときに、2R<Y−Xtanαの関係を満たすことを特徴とするものである。
【0009】
第2の態様に係るコイルによれば、巻線の形状は、角部の丸みの半径をR、長方形の長辺の寸法をX、長方形の短辺の寸法をY、及びティース部の軸心方向に対する前記巻線の傾斜角度をαとしたときに、2R<Y−Xtanαの関係を満たす。これにより、隣接ターンの巻線同士を互いに面接触させることが可能となる。
【0010】
本発明の第3の態様に係るコイルは、第1又は第2の態様に係るコイルにおいて特に、複数の前記コイルが並んで配置される場合において、互いに隣接する一対のコイルのうちの一方のコイルと他方のコイルとで、前記巻線の巻回パターンが非対称であることを特徴とするものである。
【0011】
第3の態様に係るコイルによれば、互いに隣接する一対のコイルのうちの一方のコイルと他方のコイルとで、巻線の巻回パターンが非対称である。従って、互いに隣接するコイル間の隙間が少なくなるように各コイルの巻線の巻回パターンを設定することにより、占積率を向上することが可能となる。
【0012】
本発明の第4の態様に係るコイルは、第1〜第3のいずれか一つの態様に係るコイルにおいて特に、前記巻線は、その端部において、前記導体と前記半導電層とを互いに電気的に絶縁するための絶縁処理が施されていることを特徴とするものである。
【0013】
第4の態様に係るコイルによれば、巻線は、その端部において、導体と半導電層とを互いに電気的に絶縁するための絶縁処理が施されている。従って、巻線の端部において導体と半導電層との間で部分放電が発生することを、予め回避することが可能となる。
【0014】
本発明の第5の態様に係るコイルは、第1〜第4のいずれか一つの態様に係るコイルにおいて特に、前記コイルは、同一相内で直列接続された複数のコイルのうち、少なくとも入力側に最も近いコイルであることを特徴とするものである。
【0015】
第5の態様に係るコイルによれば、コイルは、同一相内で直列接続された複数のコイルのうち、少なくとも入力側に最も近いコイルである。入力側に最も近いコイルは入力電圧の影響を受けやすいため、高電圧が入力された場合に、当該コイルの両端電圧も高くなって巻線間の部分放電が生じやすい。従って、同一相内で直列接続された複数のコイルのうち、少なくとも入力側に最も近いコイルに対して、本発明を適用して部分放電が生じにくい構造を採用することにより、巻線間の部分放電を予め抑制することが可能となる。
【0016】
本発明の第6の態様に係るコイルは、第5の態様に係るコイルにおいて特に、相が異なる複数のコイル同士の間を電気的に絶縁するための絶縁部材をさらに備えることを特徴とするものである。
【0017】
第6の態様に係るコイルによれば、相が異なる複数のコイル同士の間は、絶縁部材によって電気的に絶縁される。従って、相内よりも高電圧となる相間を、絶縁部材によって適切に絶縁することが可能となる。
【0018】
本発明の第7の態様に係るモータは、第1の態様に係るコイルを有するステータと、ロータと、を備えることを特徴とするものである。
【0019】
第7の態様に係るモータによれば、ステータが第1の態様に係るコイルを有することにより、ティース部を被覆している部分の絶縁材の表面には、ティース部の軸心方向に対して巻線を所定の傾斜姿勢で保持する保持構造が、ターン変更部を除くティース部の外周全域に亘って形成されており、保持構造に従って巻線がティース部の外周上に巻回されることにより、隣接ターンの巻線同士が互いに接触する。これにより、隣接ターンの巻線の半導電層同士を等電位に設定することができるため、巻線間の部分放電を効果的に抑制することが可能となる。
【0020】
本発明の第8の態様に係るコア用絶縁材は、導体、前記導体を被覆する絶縁層、及び前記絶縁層を被覆する半導電層を有し、断面が四角形の巻線を、コアのティース部の外周上に整列して巻回するために、前記コアを被覆するコア用絶縁材であって、前記ティース部を被覆している部分の前記絶縁材の表面には、前記ティース部の軸心方向に対して前記巻線を所定の傾斜姿勢で保持する保持構造が、ターン変更部を除く前記ティース部の外周全域に亘って形成されていることを特徴とするものである。
【0021】
第8の態様に係るコア用絶縁材によれば、ティース部を被覆している部分の絶縁材の表面には、ティース部の軸心方向に対して巻線を所定の傾斜姿勢で保持する保持構造が、ターン変更部を除くティース部の外周全域に亘って形成されている。従って、保持構造に従って巻線がティース部の外周上に巻回されることにより、隣接ターンの巻線同士が互いに接触する。これにより、隣接ターンの巻線の半導電層同士を等電位に設定することができるため、巻線間の部分放電を効果的に抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、表面に半導電層を有する巻線を用いつつ、巻線間の部分放電を効果的に抑制することが可能な、コイル、モータ、及びコア用絶縁材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係るモータの全体構成を模式的に示す図である。
【図2】一つのコイルの構造を模式的に示す図である。
【図3】巻線の構造の第1の例を示す断面図である。
【図4】巻線の構造の第2の例を示す断面図である。
【図5】インシュレータの構造の一部を示す図である。
【図6】インシュレータ上に巻線を巻回する工程を示す図である。
【図7】図4に示した巻線の一対の隣接ターンを示す図である。
【図8】互いに隣接する一対のコイルの一部を示す図である。
【図9】巻線の端部に施されている端部処理の第1の例を示す図である。
【図10】巻線の端部に施されている端部処理の第2の例を示す図である。
【図11】モータの使用例を示す図である。
【図12】表面に半導電層を有する巻線に関して、隣接する巻線同士の隙間寸法と、当該巻線間の電界強度との関係を解析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、異なる図面において同一の符号を付した要素は、同一又は相応する要素を示すものとする。
【0025】
図1は、本発明の実施の形態に係るモータ1の全体構成を模式的に示す図である。図1に示すようにモータ1は、円環状のステータ3と、ステータ3の円環内に配置されたロータ2とを備えて構成されている。ステータ3は、分割された複数のコイル4が円環に沿って並設された構造(いわゆる分割ステータ)を有している。
【0026】
図2は、一つのコイル4の構造を模式的に示す図である。図2に示すようにコイル4は、四角柱状のティース部11を有するコア10と、ティース部11を含むコア10の一部表面上に配置されることにより、コア10を部分的に被覆する絶縁性のインシュレータ(絶縁材)12と、インシュレータ12を介してティース部11の外周上に整列して巻回された巻線13とを備えて構成されている。
【0027】
図3は、巻線13の構造の第1の例を示す断面図である。図3に示すように巻線13は、四角形(略四角形を含む)の断面形状を有しており、中心の導体20と、導体20を被覆する絶縁層21と、絶縁層21を被覆する半導電層22とを含む構造を成している。導体20の材質は、例えば銅である。絶縁層21の材質は、例えばポリアミドイミドである。半導電層22の材質は、例えば、カーボンブラック粉末等の導電性物質が混練されたポリアミドイミドである。但し、各層の材質はこの例に限定されるものではない。また、絶縁層21の厚みは例えば0.044mmであり、半導電層22の厚みは例えば0.005mmである。但し、各層の寸法はこの例に限定されるものではない。半導電層22の表面抵抗率は106Ω/□未満(望ましくは104Ω/□未満)に設定されており、これにより、高い部分放電開始電圧(104Ω/□未満で3800Vp以上)が実現される。
【0028】
図4は、巻線13の構造の第2の例を示す断面図である。図3に示した各層の四角形の角部が丸められた形状となっている。図4に示した巻線13の製造方法の例としては、導体20を断面四角形状に伸線した後に、絶縁層21及び半導電層22を順に焼付塗装する第1の手法、又は、導体20、絶縁層21、及び半導電層22を含む断面円形状の通常巻線を作製した後に、ローラー圧延又はダイス引きによって当該通常巻線を断面四角形状に伸線する第2の手法がある。第1の手法によると、通常巻線の伸線に伴う損傷を回避できるとともに、長方形のアスペクト比を上げることができるため、第1の手法を採用することが望ましい。但し、第1の手法によると、角部の丸みの半径が小さい場合に塗装性が低下して角部における絶縁層21及び半導電層22の膜厚が薄くなるため、角部の半径をある程度大きくする必要がある。また、第2の手法において通常巻線を断面四角形状に伸線する際には、伸線に伴う半導電層22の損傷を防止すべく、予め巻線の表面に潤滑油を塗布して動摩擦係数を0.06以下にしておくことが望ましい。
【0029】
図5は、インシュレータ12の構造の一部を示す図である。図5に示すようにインシュレータ12の表面には、巻線13を整列して配置するための複数の凹部31〜36が形成されている。各凹部31〜36は緩斜面70と急斜面71とを有しており、凹部31〜36が連続することによって、緩斜面70と急斜面71とが交互に配列された構造となっている。凹部31〜36は、四角柱状のティース部11の外周全域に対応して形成されている。但し、コイルエンドにおけるターン変更面には、凹部31〜36が形成されている必要はない。
【0030】
図6は、インシュレータ12上に巻線13を巻回する工程を示す図である。図6に示した例において、巻線13は、1本の巻線によって構成されている。
【0031】
図6を参照して、巻線の積層構造の最も内側の層となる第1層L1において、凹部31〜36に従って第1巻線Aが順に巻回される。具体的に、巻線13の第1ターンA1が凹部31に従って巻回され、次に第2ターンA2が凹部32に従って巻回され、第3〜第5ターンA3〜A5に関しても同様の動作が繰り返された後、第6ターンA6が凹部36に従って巻回される。図6に示すように、巻線13の隣接ターン同士は互いに接触している。例えば、第1ターンA1と第2ターンA2とは互いに接触し、第2ターンA2と第3ターンA3とは互いに接触している。第1層L1の外側の層となる第2層においては、すでに第1層L1に巻回された巻線13に従って巻線13が順に巻回される。第2層の外側の層となる第3層以降についても同様である。
【0032】
図7は、図4に示した巻線13の一対の隣接ターンを示す図である。図4に示したように、巻線13の断面形状は角部が丸みを帯びた長方形である。この場合において、角部の丸みの半径をR、長方形の長辺の寸法をX、長方形の短辺の寸法をY、及びティース部11の軸心方向に対する巻線13の傾斜角度をαとしたときに、2R<Y−Xtanαの関係を満たすように、巻線13の形状が設定されている。これにより、巻線13の隣接ターン同士が、長方形の短辺の一部を含む領域(図7に示した寸法Hの領域)において互いに面接触する。ここで、長方形の長辺は緩斜面70(図5参照)に接触し、短辺は急斜面71(図5参照)に接触する。また、緩斜面70の寸法は長方形の長辺の寸法Xに等しく設定されており、急斜面71の寸法は図8に示した寸法Xtanαに等しく設定されている。
【0033】
図8は、互いに隣接する一対のコイル41,42の一部を示す図である。コイル41は、ティース部111を有するコア101と、コア101を部分的に被覆する絶縁性のインシュレータ121と、インシュレータ121を介してティース部111の外周上に整列して巻回された巻線131とを備えて構成されている。同様に、コイル42は、ティース部112を有するコア102と、コア102を部分的に被覆する絶縁性のインシュレータ122と、インシュレータ122を介してティース部112の外周上に整列して巻回された巻線132とを備えて構成されている。図8に示すように、コイル41における巻線131の巻回パターンと、コイル42における巻線132の巻回パターンとは、互いに非対称に設定されている。具体的には、巻線131の積層構造の表面における凹凸構造と、巻線132の積層構造の表面における凹凸構造とが、互いに相補的な関係となるように、各巻線131,132の巻回パターンが設定されている。これにより、デッドスペースとなるコイル41,42間の隙間が小さくなる。
【0034】
図9は、巻線13の端部に施されている端部処理の第1の例を示す図である。巻線13の端部においては、半導電層22及び絶縁層21を剥離することによって導体20が露出されるが、その際、半導電層22のみを剥離することによって絶縁層21が露出した領域を、導体20と半導電層22との間に所定の距離だけ残す。これにより、当該領域を間に挟むことによって、導体20と半導電層22とが互いに電気的に分離される。
【0035】
図10は、巻線13の端部に施されている端部処理の第2の例を示す図である。巻線13の端部においては、半導電層22及び絶縁層21を剥離することによって導体20が露出されるが、その際、半導電層22の先端及び導体20の一部を含む所定の領域を、絶縁性樹脂等の封止材50によって封止する。これにより、封止材50を間に挟むことによって、導体20と半導電層22とが電気的に分離される。
【0036】
図11は、モータ1の使用例を示す図である。複数のコイルU1〜U4から成る直列接続体、複数のコイルV1〜V4から成る直列接続体、及び複数のコイルW1〜W4から成る直列接続体が、インバータ60のU相、V相、及びW相にそれぞれ接続されている。コイルU1,V1,W1は、それぞれの直列接続体のうち、入力側であるインバータ60に最も近いコイルである。上述したコイル4の構造を、少なくともコイルU1,V1,W1に対して適用する。但し、各直列接続体の全てのコイルに対して適用してもよい。
【0037】
また、U相のコイルU1〜U4とV相のコイルV1〜V4との間、V相のコイルV1〜V4とW相のコイルW1〜W4との間、及びW相のコイルW1〜W4とU相のコイルU1〜U4との間は、相間絶縁紙とエナメル等の絶縁材とを含む所定の絶縁部材(図示しない)によって、互いに電気的に絶縁されている。当該絶縁部材の厚みは、想定される相間電圧に応じて設定される。これにより、相内よりも高電圧となる相間を、当該絶縁部材によって適切に絶縁することができる。また、図2に示したように巻線13と接地電位(コア10)との間は、インシュレータ12によって互いに電気的に絶縁されている。インシュレータ12の厚みは、想定される対地電圧に応じて設定される。これにより、相内よりも高電圧となる対地間を、インシュレータ12によって適切に絶縁することができる。
【0038】
図5に示したように、本実施の形態に係るコイル4によれば、ティース部11を被覆している部分のインシュレータ12の表面には、ティース部11の軸心方向Sに対して巻線13を所定の傾斜姿勢で保持する保持構造(凹部31〜36)が、コイルエンドのターン変更面を除くティース部11の外周全域に亘って形成されている。そして、図6に示したように、保持構造に従って巻線13がティース部11の外周上に巻回されることにより、隣接ターンの巻線13同士が互いに接触する。これにより、隣接ターンの巻線13の半導電層22同士を等電位に設定することができる。その結果、巻線13間の部分放電を効果的に抑制することが可能となるため、電気自動車用モータやハイブリッド自動車用モータ等の高電圧機器用途に適したコイルを得ることができる。
【0039】
また、図7に示したように、本実施の形態に係るコイル4によれば、巻線13の形状は、角部の丸みの半径をR、長方形の長辺の寸法をX、長方形の短辺の寸法をY、及びティース部11の軸心方向Sに対する巻線13の傾斜角度をαとしたときに、2R<Y−Xtanαの関係を満たす。これにより、隣接ターンの巻線13同士を互いに面接触させることが可能となる。
【0040】
また、図8に示したように、本実施の形態に係るコイル4によれば、互いに隣接する一対のコイル41,42のうちの一方のコイル41と他方のコイル42とで、巻線131,132の巻回パターンが非対称である。従って、互いに隣接するコイル41,42間の隙間が少なくなるように各コイル131,132の巻線の巻回パターンを設定することにより、占積率を向上することが可能となる。
【0041】
また、図9,10に示したように、本実施の形態に係るコイル4によれば、巻線13は、その端部において、導体20と半導電層22とを互いに電気的に絶縁するための絶縁処理が施されている。従って、巻線13の端部において導体20と半導電層22との間で部分放電が発生することを、予め回避することが可能となる。
【0042】
また、図11に示したように、本実施の形態に係るコイル4は、同一相内で直列接続された複数のコイルU1〜U4,V1〜V4,W1〜W4のうち、少なくとも入力側に最も近いコイルU1,V1,W1に対して適用される。入力側に最も近いコイルU1,V1,W1は入力電圧の影響を受けやすいため、高電圧が入力された場合に、当該コイルU1,V1,W1の両端電圧も高くなって巻線13間の部分放電が生じやすい。従って、同一相内で直列接続された複数のコイルU1〜U4,V1〜V4,W1〜W4のうち、少なくとも入力側に最も近いコイルU1,V1,W1に対して、コイル4を適用して部分放電が生じにくい構造を採用することにより、巻線13間の部分放電を予め抑制することが可能となる。
【0043】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0044】
1 モータ
2 ロータ
3 ステータ
4,41,42 コイル
10,101,102 コア
11,111,112 ティース部
12,121,122 インシュレータ
13,131,132 巻線
20 導体
21 絶縁層
22 半導電層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ティース部を有するコアと、
前記コアを被覆する絶縁材と、
前記絶縁材を介して前記ティース部の外周上に整列して巻回され、導体、前記導体を被覆する絶縁層、及び前記絶縁層を被覆する半導電層を有し、断面が四角形の巻線と、
を備え、
前記ティース部を被覆している部分の前記絶縁材の表面には、前記ティース部の軸心方向に対して前記巻線を所定の傾斜姿勢で保持する保持構造が、ターン変更部を除く前記ティース部の外周全域に亘って形成されており、
前記保持構造に従って前記巻線が前記ティース部の外周上に巻回されることにより、隣接ターンの前記巻線同士が互いに接触する、コイル。
【請求項2】
前記巻線の断面形状は、角部が丸みを帯びた長方形であり、
前記巻線の形状は、前記角部の丸みの半径をR、前記長方形の長辺の寸法をX、前記長方形の短辺の寸法をY、及び前記ティース部の軸心方向に対する前記巻線の傾斜角度をαとしたときに、
2R<Y−Xtanα
の関係を満たす、請求項1に記載のコイル。
【請求項3】
複数の前記コイルが並んで配置される場合において、
互いに隣接する一対のコイルのうちの一方のコイルと他方のコイルとで、前記巻線の巻回パターンが非対称である、請求項1又は2に記載のコイル。
【請求項4】
前記巻線は、その端部において、前記導体と前記半導電層とを互いに電気的に絶縁するための絶縁処理が施されている、請求項1〜3のいずれか一つに記載のコイル。
【請求項5】
前記コイルは、同一相内で直列接続された複数のコイルのうち、少なくとも入力側に最も近いコイルである、請求項1〜4のいずれか一つに記載のコイル。
【請求項6】
相が異なる複数のコイル同士の間を電気的に絶縁するための絶縁部材をさらに備える、請求項5に記載のコイル。
【請求項7】
請求項1に記載のコイルを有するステータと、
ロータと、
を備えるモータ。
【請求項8】
導体、前記導体を被覆する絶縁層、及び前記絶縁層を被覆する半導電層を有し、断面が四角形の巻線を、コアのティース部の外周上に整列して巻回するために、前記コアを被覆するコア用絶縁材であって、
前記ティース部を被覆している部分の前記絶縁材の表面には、前記ティース部の軸心方向に対して前記巻線を所定の傾斜姿勢で保持する保持構造が、ターン変更部を除く前記ティース部の外周全域に亘って形成されている、コア用絶縁材。
【請求項1】
ティース部を有するコアと、
前記コアを被覆する絶縁材と、
前記絶縁材を介して前記ティース部の外周上に整列して巻回され、導体、前記導体を被覆する絶縁層、及び前記絶縁層を被覆する半導電層を有し、断面が四角形の巻線と、
を備え、
前記ティース部を被覆している部分の前記絶縁材の表面には、前記ティース部の軸心方向に対して前記巻線を所定の傾斜姿勢で保持する保持構造が、ターン変更部を除く前記ティース部の外周全域に亘って形成されており、
前記保持構造に従って前記巻線が前記ティース部の外周上に巻回されることにより、隣接ターンの前記巻線同士が互いに接触する、コイル。
【請求項2】
前記巻線の断面形状は、角部が丸みを帯びた長方形であり、
前記巻線の形状は、前記角部の丸みの半径をR、前記長方形の長辺の寸法をX、前記長方形の短辺の寸法をY、及び前記ティース部の軸心方向に対する前記巻線の傾斜角度をαとしたときに、
2R<Y−Xtanα
の関係を満たす、請求項1に記載のコイル。
【請求項3】
複数の前記コイルが並んで配置される場合において、
互いに隣接する一対のコイルのうちの一方のコイルと他方のコイルとで、前記巻線の巻回パターンが非対称である、請求項1又は2に記載のコイル。
【請求項4】
前記巻線は、その端部において、前記導体と前記半導電層とを互いに電気的に絶縁するための絶縁処理が施されている、請求項1〜3のいずれか一つに記載のコイル。
【請求項5】
前記コイルは、同一相内で直列接続された複数のコイルのうち、少なくとも入力側に最も近いコイルである、請求項1〜4のいずれか一つに記載のコイル。
【請求項6】
相が異なる複数のコイル同士の間を電気的に絶縁するための絶縁部材をさらに備える、請求項5に記載のコイル。
【請求項7】
請求項1に記載のコイルを有するステータと、
ロータと、
を備えるモータ。
【請求項8】
導体、前記導体を被覆する絶縁層、及び前記絶縁層を被覆する半導電層を有し、断面が四角形の巻線を、コアのティース部の外周上に整列して巻回するために、前記コアを被覆するコア用絶縁材であって、
前記ティース部を被覆している部分の前記絶縁材の表面には、前記ティース部の軸心方向に対して前記巻線を所定の傾斜姿勢で保持する保持構造が、ターン変更部を除く前記ティース部の外周全域に亘って形成されている、コア用絶縁材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−239537(P2011−239537A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107608(P2010−107608)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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