説明

コイルワイヤ端末接合方法とコイル端子

【課題】コイル端子にコイルワイヤを安定して接合することができ、コイル端子の先端部が溶融して不安定となることを防止できるコイルワイヤ端末接合方法とコイル端子を提供する。
【解決手段】コイルワイヤ端末接合方法は、コイル端子12を、第1端子12Aと第1端子より低い溶融温度の端子12Bから構成する工程と、コイル端子12にコイルワイヤ11を巻き付ける工程と、コイルワイヤ11の端末部がコイル端子12に絡げられた絡げ部13に空気を供給しながら、コイル端子12に対してアーク放電による熱供給を行い、絡げ部13においてコイルワイヤ11の耐熱被膜を除去し、第2端子12Bの一部を溶融し、絡げ部13においてコイルワイヤ11とコイル端子12とを接合する工程と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性被膜を有するコイルワイヤとコイル端子とを接合するコイルワイヤ端末接合方法とそのコイル端子に関する。
【背景技術】
【0002】
コイルワイヤとコイル端子とを接合する端末接合方法として、特許文献1に記載の方法が知られている。このコイルワイヤ端末接合方法は、図4に示すように、耐熱被膜を有するコイルワイヤ32の端末部とコイル端子31とをTIG溶接により接合する方法であり、コイルワイヤの端末部がコイル端子に絡げられた絡げ部33に空気を供給しながら、コイル端子31に対してアーク放電による熱供給を行い、絡げ部33においてコイルワイヤの耐熱被膜を除去し、絡げ部33においてコイルワイヤ32とコイル端子31とを接合する工程と、を備える。
【0003】
耐熱被膜を有するコイルワイヤとコイル端子とを接合する場合、コイルワイヤをコイル端子に複数回巻き付けて、これにアーク放電による熱供給を行い、絡げ部においてコイルワイヤの耐熱被膜を除去し、絡げ部においてコイルワイヤとコイル端子とを接合する。通常、コイルワイヤには銅線が用いられ、コイル端子には銅、黄銅又は青銅(例えばりん青銅、鉛青銅等)が用いられる。そして、銅線の耐熱被膜には普通耐熱被膜と高耐熱被膜の2種類があり、普通耐熱被膜にはポリウレタンが用いられ、これは約400℃で熱分解し、高耐熱被膜にはポリエステルイミドが用いられ、これは約500℃で熱分解する。そして、銅の溶融温度は約1080℃であり、黄銅又は青銅の溶融温度は約880℃である。
【0004】
コイル端子に銅が用いられる場合において、銅線をコイル端子に複数回巻き付けて、これにアーク放電による熱供給を行ったとき、熱供給量が多いと、銅線の方がコイル端子より熱容量がかなり小さいため、銅線が溶けてしまい安定した接合形状を得られないことがある。逆に熱供給量を減らすとコイル端子にコイルワイヤを接合することができないことがある。この不具合は特に、高耐熱被膜の場合に顕著になる。まず、耐熱被膜を熱分解した後にコイル端子にコイルワイヤを接合しなければならないからである。すなわち、コイル端子に銅が用いられる場合は、熱供給量の調節が非常に難しく、安定した接合状態を確保することも難しくなる。
【0005】
一方、コイル端子に黄銅又は青銅が用いられる場合において、銅線をコイル端子に複数回巻き付けて、これにアーク放電による熱供給を行ったとき、銅線の溶け出しとコイル端子の溶融との熱バランスは改善され、コイルワイヤのコイル端子への接合は容易になるが、コイル端子の先端部が溶融して不安定となり先端部の形状が異様になり端子機能が損なわれることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−45735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、コイル端子にコイルワイヤを安定して接合することができ、コイル端子の先端部が溶融して不安定となることを防止できるコイルワイヤ端末接合方法とコイル端子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、
耐熱被膜を有するコイルワイヤ(11)の端末部とコイル端子(12)とをTIG溶接により接合するコイルワイヤ端末接合方法は、
コイル端子(12)を、第1端子(12A)と第1端子(12A)より低い溶融温度の第2端子(12B)から構成する工程と、
コイル端子(12)にコイルワイヤ(11)を巻き付ける工程と、
前記コイルワイヤ(11)の端末部が前記コイル端子(12)に絡げられた絡げ部(13)に空気を供給しながら、前記コイル端子(12)に対してアーク放電による熱供給を行い、前記絡げ部(13)において前記コイルワイヤ(11)の耐熱被膜を除去し、第2端子(12B)の一部を溶融し、前記絡げ部(13)において前記コイルワイヤ(11)と前記コイル端子(12)とを接合する工程と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
コイル端子(12)は、相対的に高い溶融温度の第1端子(12A)と相対的に低い溶融温度の第2端子(12B)から構成されている。コイル端子(12)は相対的に低い溶融温度の第2端子(12B)から構成されているので、銅線の溶け出しとコイル端子の溶融とのバランスは改善され、コイルワイヤのコイル端子への接合は容易になる。一方、低い溶融温度の第2端子(12B)は、高い溶融温度の第1端子(12A)により支持(保持)されているため、コイル端子の先端部が溶融しても不安定となることはなく先端部の形状が異様になり端子機能が損なわれることはない。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、前記コイル端子(12)は、その先端部において、第2端子(12B)が、第1端子(12A)より所定量突出して構成されることを特徴とする。
【0011】
アーク放電による熱供給を受けると、コイル端子(12)の突出部が溶融して球状の溶融部となる。このとき、高い溶融温度の第1端子(12A)が突出していると、突出部が溶融して球状の溶融部が形成される前に、低い溶融温度の第2端子(12B)が溶け始め、球状の溶融部が形成されず不規則で異形状の溶融部が形成され、絡げ部(13)においてコイルワイヤ(11)がコイル端子(12)に完全に接合しないことがある。このため、低い溶融温度の第2端子(12B)の方を突出させることが必要となる。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、コイル端子(12)は、第1端子(12A)と第1端子(12A)より低い溶融温度の第2端子(12B)が組み合わされていることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、コイル端子(12)は、その先端部において、第2端子(12B)が、第1端子(12A)より所定量突出して構成されることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のコイル端子にコイルワイヤを巻き付けた溶接前の接合部を示す拡大断面図である。
【図2】本発明のコイル端子とコイルワイヤとの接合の工程を示す接合工程図である。
【図3】TIG溶接装置の全体構成を示す概念図である。
【図4】従来のコイル端子にコイルワイヤを巻き付けた溶接前の状態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
(第1実施形態)
図3は、本実施形態のコイルワイヤ端末接合方法に用いられるTIG溶接装置の全体構成を示しているが、このTIG溶接装置は、従来のコイルワイヤ端末接合方法にも用いることができる。図3に示すように、本実施形態のアーク溶接装置は、コイルボビン10に巻かれた巻線コイルワイヤ11の端末部をコイル端子12に接合するために用いられるものである。コイルワイヤ11は、直径が0.15mmであり、高温環境下で使用可能な耐熱被膜電線が用いられている。耐熱被膜電線は、銅線に耐熱被膜(例えばポリエステル、ポリエステルイミド等)が焼き付けられて形成されるものである。本実施形態では、耐熱被膜として熱分解温度が500℃程度のポリエステルイミドを用いている。
【0017】
図3に示すように、本実施形態のTIG溶接装置は、トーチ20、エアノズル21等を備えている。本実施形態のアーク溶接装置では、不活性ガス雰囲気中でタングステン電極と母材との間に電流を用いてアークを発生させ、このアーク熱により溶接を行うTIG(tungsten inert gas)溶接を用いている。
【0018】
トーチ20は、タングステン電極21および不活性ガス供給部を備えている。電極21と端子12は互いに対向するように配置され、これらの間には若干の隙間(本実施形態では0.5〜1mm程度)が形成されている。トーチ20は、不活性ガス供給部からアルゴンガスを供給しながら、電源部からの通電により、電極21と端子12との間にアークを発生させるように構成されている。これにより、端子12には電極21の先端部からアーク熱(溶接熱)が供給される。
【0019】
エアノズル22は、アーク溶接時にワイヤ11と端子12との接合部に空気を供給するように構成されている。TIG溶接では不活性雰囲気で溶接が行われるので、接合部におけるワイヤ11の耐熱被膜を燃焼させるために空気の存在が必要となるからである。エアノズル22は、耐熱被膜の燃焼を確実に行うために、接合部の全周に均一に空気を供給できるように配置することが望ましい。このためには、3つ以上のエアノズル22を用いることが望ましい。本実施形態では、接合部の周囲に3つのエアノズル22を120°間隔で配置している。
【0020】
図1は、本実施形態においてコイル端子12にコイルワイヤ11が巻き付けられた状態を示す拡大断面を示している。図1に示すように、コイル端子12は、溶融温度の異なる2つの端子12A、12B、すなわち相対的に高い溶融温度の端子(第1端子)12A及び相対的に低い溶融温度の端子(第2端子)12Bから構成されている。端子12Aと端子12Bは、端子12Bの先端が端子12Aの先端より約2mm(図1においてYで表示)電極21側へ突出した状態で、相互に当接されて組み合わされる。この組み合わせ状態で、ワイヤ11の端末部が端子12の周囲に絡げられて(巻き付けられて)、絡げ部13を形成する。この絡げ部13が、ワイヤ11の端末部と端子12とが接合される接合部を構成する。
【0021】
相対的に低い溶融温度の端子12B側を電極21側へ突出させる理由は次の通りである。後述するが、熱供給を受けると、突出部が溶融して球状の溶融部となる。このとき、高い溶融温度の端子12Aが突出していると、突出部(高融点)が溶融して球状の溶融部が形成される前に、低い溶融温度の端子12Bが溶け始め、球状の溶融部が形成されず不規則で異形状の溶融部が形成され、絡げ部13においてコイルワイヤ11がコイル端子12に完全に接合しないことがある。
【0022】
そして、端子12Aは、例えば銅製の角体であり、その断面寸法は0.2mm×0.5mmである。端子12Bは、例えばりん青銅(又は鉛青銅)製の角体であり、その断面寸法は0.5mm×0.5mmである。
【0023】
絡げ部13は、端子12先端部から所定位置に形成されている。これにより、端子12の先端側には、端子12Bが端子12Aの先端より所定長さYが突出した突出部12Baが形成される。この突出部12Baが、アーク熱により溶融する溶融部を構成する。溶接時には、突出部12Baはアーク熱により溶融して球状の溶融塊としての溶融部となり、熱が蓄積される。溶融部に蓄積された熱は絡げ部13に伝達され、絡げ部13ではワイヤ11の耐熱被膜が燃焼する。
【0024】
溶融部は、アーク熱を蓄積して絡げ部13に耐熱被膜の燃焼に必要な熱を伝えるために、ある程度の体積(突出量)が必要となる。溶融部の体積が小さすぎる場合には熱量が不足し、ワイヤ11に耐熱被膜が不完全燃焼してカーボンとなり接合が不完全となる。
【0025】
一方、溶融部の体積が大きすぎる場合には、耐熱被膜の燃焼が完了する前に溶融部の球状が大きくなりすぎて落ちることとなる。耐熱被膜を燃焼させるために最適な溶融部の体積は製品毎に異なる。
【0026】
次に、アーク溶接装置を用いたコイルワイヤ11と端子12との接合方法を図2に基づいて説明する。図2(a)〜(c)は接合の工程を示す接合工程図である。
(1)まず、図2(a)に示すように、相対的に高い溶融温度の端子12Aと相対的に低い溶融温度の端子12Bを組み合わせて、コイル端子12を構成する。
(2)端子12の所定位置にワイヤ11の端末部を巻き付け、絡げ部13を形成する。
(3)図2(b)に示すように、絡げ部13に空気を供給しながら、アーク放電(熱供給)によって、絡げ部13においてワイヤ11より耐熱被膜を燃焼除去する。
(4)図2(c)に示すように、更なる熱供給により、耐熱被膜が除去されたワイヤ11と端子12とが溶接される。
【0027】
上記(3)を詳細に説明すると、トーチ20に通電を行う。通電は所定時間行われる。このとき、エアノズル22から絡げ部13に空気を供給しておく。通電時に、絡げ部13において耐熱被膜を燃焼除去する必要があるためである。
【0028】
トーチ20への通電により、電極21と端子12との間にアークが発生し、端子12にはアーク熱が供給される。アークの周囲には不活性ガス(アルゴンガス)が供給される。端子12先端部から図中下方に向けてアーク熱が伝わり、図2(b)に示すように、突出部12Baが溶融して球状の溶融部12Baとなる。溶融部12Baには熱が蓄積される。
【0029】
絡げ部13には溶融部12Baから熱が伝わり、耐熱被膜の熱分解温度(本実施形態では500℃)以上に加熱される。絡げ部13には、エアノズル22より空気が供給されているので耐熱被膜が燃焼する。これにより、絡げ部13では、ワイヤ11から耐熱被膜が除去される。
【0030】
なお、アークにおいて、絡げ部13の全体においてワイヤ11から耐熱被膜が燃焼除去される必要はなく、絡げ部13のうち接合に必要な範囲で耐熱被膜が燃焼除去されていればよい。すなわち、絡げ部13のうち、少なくとも端子12先端に近い側で耐熱被膜が燃焼除去されていればよい。
次に、図2(c)に示すように、更なる熱供給により、耐熱被膜が除去されたワイヤ11と端子12とが溶接される。
【0031】
コイル端子12は相対的に低い溶融温度の端子12Bを備えているので、銅線の溶け出しとコイル端子の溶融とのバランスは改善され、コイルワイヤのコイル端子への接合は容易になる。一方、低い溶融温度の端子12Bは、高い溶融温度の端子12Aにより支持(保持)されているため、コイル端子の先端部が溶融しても不安定となることはなく先端部の形状が異様になって端子機能が損なわれることはない。
【0032】
(他の実施形態)
なお、上記実施形態では、コイル端子12に熱を供給する手段としてアーク溶接を用いたが、これに限らず、例えばレーザ溶接を用いることもできる。
【0033】
また、上記実施形態では、本発明の接合方法を巻線コイルの接合に用いたが、これに限らず、電磁リレーのワイヤ端末接合、モータ、ソレノイド、センサ等の電子部品のワイヤ端末接合に用いることができる。
【符号の説明】
【0034】
11 コイルワイヤ、
12 コイル端末、
12A 相対的に高い溶融温度の端子
12B 相対的に低い溶融温度の端子
13 絡げ部、
20 トーチ、
21 電極、
22 エアノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱被膜を有するコイルワイヤ(11)の端末部とコイル端子(12)とをTIG溶接により接合するコイルワイヤ端末接合方法であって、
コイル端子(12)を、第1端子(12A)と第1端子(12A)より低い溶融温度の第2端子(12B)から構成する工程と、
コイル端子(12)にコイルワイヤ(11)を巻き付ける工程と、
前記コイルワイヤ(11)の端末部が前記コイル端子(12)に絡げられた絡げ部(13)に空気を供給しながら、前記コイル端子(12)に対してアーク放電による熱供給を行い、前記絡げ部(13)において前記コイルワイヤ(11)の耐熱被膜を除去し、第2端子(12B)の一部を溶融し、前記絡げ部(13)において前記コイルワイヤ(11)と前記コイル端子(12)とを接合する工程と、
を備えることを特徴とするコイルワイヤ端末接合方法。
【請求項2】
前記コイル端子(12)は、その先端部において、第2端子(12B)が、第1端子(12A)より所定量突出して構成されることを特徴とする請求項1に記載のコイルワイヤ端末接合方法。
【請求項3】
第1端子(12A)と第1端子(12A)より低い溶融温度の第2端子(12B)が組み合わされていることを特徴とするコイル端子(12)。
【請求項4】
前記コイル端子(12)の先端部において、第2端子(12B)が、第1端子(12A)より所定量突出して構成されていることを特徴とする請求項3に記載のコイル端子(12)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−114253(P2012−114253A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262077(P2010−262077)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】