説明

コエンザイムQ10及びその製造方法

【課題】天然で高品質のコエンザイムQ10を低コストで製造する方法を提供する。
【解決手段】 根粒菌が感染したマメ科植物の種子からマメ科植物を栽培し、又は栽培中のマメ科植物に根粒菌を感染させ、該マメ科植物に根粒及び/又は茎粒を形成せしめ、前記根粒及び/又は茎粒を採取し、該根粒及び/又は茎粒からコエンザイムQ10を単離し、コエンザイムQ10を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コエンザイムQ10に関し、マメ科植物、特にセスバニア属セスバニア(Sesbania)に共生する根粒菌が形成する根粒、茎粒からコエンザイムQ10を単離し生成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
補酵素であるコエンザイムQ10(ユピキノン10(ubiquinone10)とも呼ばれている。)は、生体内の酸化還元反応に関与する電子伝達物質ユピキノンの一種であり、人間の体内にも存在する。
【0003】
コエンザイムQ10は、イソプレン残基数が10であり、下等生物ではこれが6〜9であることが知られている。コエンザイムQ10は1957年に牛の心筋から脂溶性の結晶として初めて分離されたものであり、心臓病患者の心筋でコエンザイムQ10の活性が低下していることが明らかになったことから、心臓に効くサプリメント成分として使用が増えている。
【0004】
我が国では2004年10月に化粧品への配合が認められた。コエンザイムQ10は強力な抗酸化作用を持つことが知られており、欧米ではこれを配合した化粧品や栄養機能食品としても多く販売されている。この他、アレルギー性疾患から体調や季節による不安定肌まで、幅広い範囲を対象として使われている。
【0005】
コエンザイムQ10は体内でも生合成されるが、例えばスタチン系の高脂血症薬を飲んでいると合成量が減りやすいと言われており、また、食事で摂取できる量は1日当たり数ミリグラム程度であるから、サプリメントとしても使用されている。
【0006】
従来、コエンザイムQ10の製造は、例えば、たばこなどの植物からコエンザイムを単離して、その側鎖長を合成法により調整することにより行われている。また、細菌や酵母などの微生物を培養して、その菌体よりコエンザイムQ10を抽出して製造する方法も用いられている。
【0007】
【特許文献1】特開2002-345469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、例えば、たばこなどの植物からコエンザイムを単離して、その側鎖長を合成法により調整しコエンザイムQ10を製造する方法は、側鎖長を合成するという人工的なプロセスがその製造工程に入ることから、栄養補助食品等として使う場合は安全面等について、長期的な観点からの検証が必要であるという問題がある。
【0009】
また、細菌や酵母などの微生物を培養して、その菌体よりコエンザイムQ10を抽出して製造する方法は、プロセスが煩雑であり、また生産性が低いという問題がある。
【0010】
そこで、本発明の課題は、天然のコエンザイムQ10を低コストで大量に製造する方法及びこの方法で得られるコエンザイムQ10、並びにこの方法で得られたコエンザイムQ10を含む栄養補助食品等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、マメ科植物に形成された根粒及び/又は茎粒を採取し、該根粒及び/又は茎粒からコエンザイムQ10を単離し生成したことを特徴とする。前記マメ科植物はアルファルファ-Sinorhizobium系,ミヤコグサ-Mesorhizobium系、ダイズ-Bradyrhizobium系、セスバニア属(Sesbania)、特にセスバニア・ロストラータ(Sesbania rostrata)が好適である。
【0012】
本発明は、アゾリゾビウム属(A.zorhizobium)の根粒菌を前記マメ科植物に感染させ、これにより前記根粒及び/又は茎粒を形成せしめコエンザイムQ10を生成することを特徴とする。前記根粒菌はアゾリゾビウム・カウリノダンス(A.caulinodans)であることは特に好ましい。アゾリゾビウム・カウリノダンス(A.caulinodans)をマメ科植物に感染させることにより、根のみならず茎にも瘤を確実に形成せしめることができるためである。また、茎粒は根粒に比較し、土がついていないことから根粒に比較して単離が容易であるという特徴がある。
【0013】
前記マメ科植物はセスバニア属(Sesbania)であることは好適であり、特にセスバニア・ロストラータ(Sesbania rostrata)であることは好ましい。
【0014】
前記根粒菌の感染は、マメ科植物の茎や葉に希釈した根粒菌を塗布、又はスプレーで接種することは好適である。また、前記マメ科植物の茎や葉に傷をつけた上で前記塗布、又はスプレー接種すれば、確実に根粒菌をセスバニアに感染させることができる。また、土壌に根粒菌を接種してもよい。
【0015】
根粒菌に感染した種子からセスバニア・ロストラータ(Sesbania rostrata)を生育し、形成した根粒、茎粒を採取し、採取した根粒、茎粒からコエンザイムQ10を単離、生成してもよく、成育中にアゾリゾビウム・カウリノダンス(A.caulinodans)を感染させることにより、より確実に根粒、茎粒を形成せしめることができる。
【0016】
本発明は、根粒菌が感染したマメ科植物の種子を水耕栽培により生育し、生育中に根粒菌を茎及び/又は葉に接種し、前記マメ科植物に根粒及び/又は茎粒を形成せしめ、該根粒及び/又は茎粒を採取し、採取した根粒及び/又は茎粒を所定の単離方法によりコエンザイムQ10を生成することを特徴とする。
【0017】
水耕栽培によりマメ科植物の生育速度や根粒菌の感染などのコントロールが容易となる。前記マメ科植物はセスバニア(Sesbania)であることは好適であり、特にセスバニア・ロストラータ(Sesbania rostrata)であることは好ましい。また、前記根粒菌はアゾリゾビウム属(Azorhizobium)であることは好適であり、更に、前記根粒菌はアゾリゾビウム・カウリノダンス(A.caulinodans)であることは、特に好ましい。
【0018】
本発明は上述した製造方法により製造したコエンザイムQ10を含む栄養補助食品、飲料用組成物、及び化粧品を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、植物から簡便に天然のコエンザイムQ10を抽出できる。また、本発明によれば、低コストで大量に天然のコエンザイムQ10を生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
発明者らはこれまで、天然のコエンザイムQ10の製造方法について鋭意研究を行うなかで、マメ科植物に属するセスバニア・ロストラータ(Sesbania rostrata、以下、セスバニアという。)に着目した。
【0021】
セスバニアは根のみなでなく茎にも瘤をつける植物であり、これは茎粒と呼ばれている。また、セスバニアは水耕栽培が可能であるとともに、最も成長速度が速いマメ科の植物の一つであり、発芽後2週間程度で根粒、茎粒が形成される。
【0022】
根粒、茎粒は根粒菌がセスバニアの表皮をつきぬけ、あるいは傷ついた表皮細胞の間の割れ目であるクラックから直接侵入し形成される。かかる根粒、茎粒の中には、微生物である根粒菌が無数に住みついている。
【0023】
表1は鶏の肝臓、心臓、豚の肝臓、ウニ、鮭油に含まれるコエンザイムQ10の含有量を分析した結果である。表1に示す通り、含有量の多少はあるものの、無脊椎動物であるウニを含め、いずれの動物も体内にコエンザイムQ10を含有していることが判明した。
【表1】


セスバニアに形成される根粒、茎粒は微生物であることから根粒菌の体内にはコエンザイムQ10が存在する可能性がある。一方、セスバニアは成長速度が極めて速く、根粒菌の感染から2週間程度で根粒、茎粒が形成される。これらの特性に着目すれば、セスバニアから天然のコエンザイムQ10を簡便に製造できる可能性ある。
【実施例】
【0024】
以下、本願発明の実施例について詳述するが、本願発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
図1は、セスバニアを種子から栽培したときの状況を模式的に示した図である。先ず、根粒菌に感染しているセスバニアの種子を2時間程度硫酸で処理し種皮を溶かした。硫酸で処理したのは、使用した種子の皮が硬かったためである。硫酸を用いず、鋭利なカッター等で硬い種皮をとってもよい。また、種皮が柔らかければこれらの処理を行う必要はない。
【0026】
次に、種皮を水で洗浄したのち、一晩種子を水中に浸し吸水させた後、種子を寒天培地(和光純薬工業株式会社の寒天粉末、1.5%寒天培地)に接種し発芽させた。発芽したセスバニアを種皮の殻を取り除き土壌へ移植した。種皮を取り除いたのは茎や葉が生育する際に邪魔にならないようにするためである。しかし、発芽が始まれば、セスバニア自身が種皮を押しのけるので、必ずしもその必要はない。また、この実施例は試験栽培であることから寒天培地上で発芽させた上で土壌に移植したが、直接土壌に接種してよい。
【0027】
図2に示すように栽培から20日で葉に瘤が形成されることが確認できた。この瘤から感染している根粒菌(茎粒菌)を分析したところ、根粒菌(茎粒菌)はアゾリゾビウム・カウリノダンス(A.caulinodans)であることがわかった。
【0028】
更に茎や葉に希釈したアゾリゾビウム・カウリノダンス(A.caulinodans)を塗布、又はスプレー接種して栽培を継続していったところ、図3示すように茎に多くの茎粒の形成が観察された。また、栽培土壌にアゾリゾビウム・カウリノダンス(A.caulinodans)を感染させて栽培を継続したところ、その根にも、図4に示すように、粒が多数形成されていることが観察された。
【0029】
生育した草丈約2mのセスバニアを刈り取り、1kgのセスバニア(葉、茎、根の全て、以下サンプル1とする。)とセスバニアの根粒と茎粒のみを掻き取り、1kgのセスバニア(根粒・茎粒のみ、以下サンプル2とする。)の2つのサンプルを作成した。
【0030】
サンプル1及びサンプル2について、酵素等の汎用的抽出方法である有機溶媒抽出法によりコエンザイムQ10を抽出した。
【0031】
図5は本実施例で使用した有機溶媒抽出法のフローチャートである。先ず、サンプル1を1kg、有機溶媒(メタノール、15リットル)中に溶解し、75℃で30分間加温した(S1,S2)。次に、蒸留水14リットルを加え、超音波により15分間振動、攪拌させ、その後、N―ヘキサン/酢酸エチル混合液を加え攪拌した(S3,S4)。これを2回繰り返した後、溶媒を留去した後、溶媒を蒸発させた(S5)。なお、サンプルを乾燥した後、上記抽出プロセスによりコエンザイムQ10の抽出を行ってもよい。また、有機溶媒としては、低級アルコール、またはプロピレングリコール、ブチレングリコール等のグリコール類でもよい。
【0032】
上記抽出により、サンプル1から得られたコエンザイムQ10は、0.0036mg/gであった。これは表1に示すウニ(0.0089mg/g)より少なく、鮭油(0.0031mg/g)よりも多い値である。
【0033】
次に、サンプル2について、同様に有機溶媒抽出を行ったところ、コエンザイムQ10の含有量は0.0680mg/gであった。これは表1に示すウニ(0.0089mg/g)よも多く、鶏の心臓(0.2367mg/g)よりも少ない値であるが、サンプル1の約20倍の値である。このことは、セスバニアに共生するアゾリゾビウム・カウリノダンス(A.caulinodans)が形成する根粒、茎粒にはコエンザイムQ10が大量に含まれていることを示している。
【0034】
以上説明したように、成長速度の速いセスバニアにアゾリゾビウム・カウリノダンス(A.caulinodans)を感染させ、根粒及び/又は茎粒を形成せしめ、形成された根粒及び/又は茎粒を採取し、これからコエンザイムQ10を単離して生成することにより、天然のコエンザイムQ10を低コストで大量に製造できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、生育速度の速いセスバニアに共生している根粒菌が形成する根粒及び茎粒から天然のコエンザイムQ10を低コストで大量に生産できることから、産業上の利用性がある。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】セスバニアを種子から栽培したときの状況を模式的に示した図である。
【図2】セスバニアの栽培から20日で葉に瘤が形成されることが確認できた様子を模式的に示した図である。
【図3】茎に多くの茎粒の形成が観察された様子を模式的に示した図である。
【図4】根に根粒が多数形成されていることが観察された様子を模式的に示した図である。
【図5】本実施例で使用した有機溶媒抽出法のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マメ科植物に形成された根粒及び/又は茎粒を採取し、該根粒及び/又は茎粒からコエンザイムQ10を単離し生成したコエンザイムQ10。
【請求項2】
前記マメ科植物はセスバニア属(Sesbania)であることを特徴とする請求項1に記載のコエンザイムQ10。
【請求項3】
前記セスバニア属(Sesbania)植物はセスバニア・ロストラータ(Sesbania rostrata)であることを特徴とする請求項2に記載のコエンザイムQ10。
【請求項4】
アゾリゾビウム属(Azorhizobium)の根粒菌をマメ科植物に感染させ、根粒及び/又は茎粒を形成せしめ、該根粒及び/又は茎粒からコエンザイムQ10を単離し生成したコエンザイムQ10。
【請求項5】
前記マメ科植物はセスバニア属(Sesbania)であることを特徴とする請求項4に記載のコエンザイムQ10。
【請求項6】
前記セスバニア属(Sesbania)植物は、セスバニア・ロストラータ(Sesbania rostrata)であることを特徴とする請求項5に記載のコエンザイムQ10。
【請求項7】
前記根粒菌はアゾリゾビウム・カウリノダンス(A.caulinodans)であることを特徴とする請求項4から6のいずれか1項に記載のコエンザイムQ10。
【請求項8】
根粒菌が感染したマメ科植物の種子からマメ科植物を栽培し、又は栽培中のマメ科植物に根粒菌を感染させ、該マメ科植物に根粒及び/又は茎粒を形成せしめ、前記根粒及び/又は茎粒を採取し、該根粒及び/又は茎粒からコエンザイムQ10を単離し生成することを特徴とするコエンザイムQ10の製造方法。
【請求項9】
前記マメ科植物はセスバニア属(Sesbania)であることを特徴とする請求項8に記載のコエンザイムQ10の製造方法
【請求項10】
前記セスバニア属(Sesbania)植物はセスバニア・ロストラータ(Sesbania rostrata)であることを特徴とする請求項9に記載のコエンザイムQ10の製造方法。
【請求項11】
前記根粒菌はアゾリゾビウム属(Azorhizobium)であることを特徴とする請求項8から10のいずれか1項に記載のコエンザイムQ10の製造方法。
【請求項12】
前記アゾリゾビウム属(Azorhizobium)の根粒菌はアゾリゾビウム・カウリノダンス(A.caulinodans)であることを特徴とする請求項11に記載のコエンザイムQ10の製造方法。
【請求項13】
前記根粒菌の感染は、マメ科植物に希釈した根粒菌を塗布、又はスプレー接種すること、及び/又は土壌に根粒菌を接種することである請求項8から12のいずれか1項に記載のコエンザイムQ10の製造方法。
【請求項14】
マメ科植物の茎及び/又は葉に傷をつけた上で前記塗布またはスプレー接種を行うことを特徴とする請求項13に記載のコエンザイムQ10の製造方法。
【請求項15】
根粒菌が感染していないマメ科植物の種子を水耕栽培により生育し、生育中に根粒菌を感染させ、前記マメ科植物に根粒及び/又は茎粒を形成せしめ、該根粒及び/又は茎粒を採取し、採取した根粒及び/又は茎粒からコエンザイムQ10を単離し生成することを特徴とするコエンザイムQ10の製造方法。
【請求項16】
根粒菌が感染したマメ科植物の種子を水耕栽培により生育し、生育中に根粒菌を感染させ、前記マメ科植物に根粒及び/又は茎粒を形成せしめ、該根粒及び/又は茎粒を採取し、採取した根粒及び/又は茎粒からコエンザイムQ10を単離し生成することを特徴とするコエンザイムQ10の製造方法。
【請求項17】
前記マメ科植物はセスバニア属(Sesbania)植物であることを特徴とする請求項15又は請求項16に記載のコエンザイムQ10の製造方法。
【請求項18】
前記セスバニア属((Sesbania)植物は、セスバニア・ロストラータ(Sesbania rostrata)であることを特徴とする請求項17に記載のコエンザイムQ10の製造方法。
【請求項19】
前記根粒菌はアゾリゾビウム属(Azorhizobium)であることを特徴とする請求項15から請求項18のいずれか1項に記載のコエンザイムQ10の製造方法。
【請求項20】
前記根粒菌の感染は、マメ科植物の茎及び/又は葉に希釈した根粒菌を塗布、又はスプレー接種することである請求項15又は請求項16に記載のコエンザイムQ10の製造方法。
【請求項21】
前記マメ科植物の茎及び/又は葉に傷をつけた上で前記塗布、又はスプレー接種することを特徴とする請求項20に記載のコエンザイムQ10の製造方法。
【請求項22】
前記水耕栽培の栽培液に根粒菌を接種することを特徴とする請求項15又は請求項16に記載のコエンザイムQ10の製造方法。
【請求項23】
請求項1から7のいずれか1項に記載のコエンザイムQ10を含む栄養補助食品。
【請求項24】
請求項1から7のいずれか1項に記載のコエンザイムQ10を含む飲料用組成物。
【請求項25】
請求項1から7のいずれか1項に記載のコエンザイムQ10を含む化粧品。
【請求項26】
請求項8から請求項22のいずれか1項に記載のコエンザイムQ10の製造方法により製造されたコエンザイムQ10を含む栄養補助食品。
【請求項27】
請求項8から請求項22のいずれか1項に記載のコエンザイムQ10の製造方法により製造されたコエンザイムQ10を含む飲料用組成物。
【請求項28】
請求項8から請求項22のいずれか1項に記載のコエンザイムQ10の製造方法により製造されたコエンザイムQ10を含む化粧品。



【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−328033(P2006−328033A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−158037(P2005−158037)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(391060627)
【Fターム(参考)】