説明

コハク酸系組成物、コハク酸ジアルキル等及びその製造方法。

【課題】コハク酸アンモニウムの希薄水溶液、好ましくはバイオマス由来のコハク酸アンモニウム水溶液から水を分離し、同時にコハク酸アンモニウムの部分的脱アンモニア反応により得られるコハク酸系組成物を工業的に有利に製造し、また該コハク酸系組成物を工業的に有利にポリエステル原料へ転換する技術開発を課題とする。
【解決手段】コハク酸アンモニウムを主成分として含有する希薄水溶液、好ましくはバイオマス由来のコハク酸アンモニウム水溶液から、水を分離し、かつコハク酸アンモニウムを部分的に脱アンモニア反応させることからなるコハク酸系組成物の製造方法、及びこの組成物からコハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸を製造する方法である。
さらに上記のコハク酸系組成物、コハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸から1,4−ブタンジオールを製造する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コハク酸アンモニウムの希薄水溶液、特に再生可能な資源であるバイオマスから誘導されるコハク酸系組成物に関するものであり、詳しくは、バイオマスから発酵合成された多量の水を含むコハク酸アンモニウム希薄水溶液から、水を分離するとともに同時にコハク酸アンモニウムを部分的に脱アンモニア反応させることによって得られるコハク酸系組成物であり、好ましくはN/C原子比が特定の範囲のコハク酸系組成物であって、コハク酸エステル、コハク酸、コハク酸無水物の製造に有用なものである。
さらに本発明は上記組成物あるいはコハク酸アンモニウムの希薄水溶液からコハク酸ジアルキル等を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、経済社会活動の拡大や生活様式の変化に伴い、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチックが工業的用途や日常生活に欠かせない材料として多量に使用されている。しかしながら、これらプラスチックの使用後、多量に発生する廃棄プラスチックによる環境問題が顕在化し、多量の廃棄プラスチックをどのように処理・処分するかが大きな社会問題となっている。この問題の有力な解決法として、バイオマス由来の原料を利用して製造されるバイオリサイクル型の生分解性プラスチック(使用後、堆肥や畑等の環境中の微生物により炭酸ガスと水に分解され地球規模の炭素サイクルに組み込まれるポリエステル系プラスチック)やケミカルリサイクルが可能なポリエステル系プラスチック(使用後、モノマーへ化学的に分解され、回収されたモノマーからのポリマー再合成が可能なポリエステル系プラスチック)等のリサイクル型プラスチックを利用する方法が注目されている。
【0003】
また、プラスチック類の多くは、石油を原料として製造されてきたが、最近では、上記の環境問題と併せて、地球温暖化防止、石油の価格高騰・枯渇対策、持続的生産可能なプラスチックの開発、資源循環型社会の構築等の視点からも、カーボンニュートラル効果を有し、再生可能な資源であるバイオマスからポリエステル系生分解性プラスチックやリサイクル型ポリエステル系プラスチックを開発することが極めて重要な課題になっている(非特許文献1)。
【0004】
これまで研究開発されてきた数多くのプラスチックの中でコハク酸系ポリエステルは、日常生活、工業用等の分野で多量に利用されているポリエチレン、ポリプロピレン等の汎用プラスチックと類似の物性を有し、また生分解性やケミカルリサイクル性を有し、さらにそのポリエステルの基本的原料となるコハク酸やコハク酸エステルが再生可能な資源であるバイオマスから製造可能であることから、次世代の汎用プラスチックとして注目されている。
【0005】
また、食品添加物や医薬品原料としてこれまで利用されてきた乳酸、クエン酸、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸、アスパラギン酸等はバイオマス由来のポリエステル原料としても注目されている。多くの場合これらのカルボン酸は、デンプン、グルコース等のバイオマスを原料として発酵法により製造されている。これらの発酵合成では、目的物を効率良く得るために、通常塩基の共存下、反応液のpHが中性近くの条件で反応が行われる。このため、発酵合成では、これらのカルボン酸は、通常カルボン酸の塩類(カルシウム塩、アンモニウム塩、ナトリウム塩等)として得られる。
【0006】
従って、これらカルボン酸塩のうち、次世代の汎用プラスチックとして有望なコハク酸系ポリエステルの基本的原料となるコハク酸、コハク酸エステル等をバイオマス由来のカルボン酸塩から安価に量産するための実用技術の開発が注目されている。また、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、アスパラギン酸等もポリエステル合成の原料や共重合体原料として期待されることから、カルボン酸塩からこれらカルボン酸やポリエステルの基本原料である1,4−ブタンジオール等の安価な製造技術の開発も重要な課題となっている。しかしながら、これらのカルボン酸塩からカルボン酸、カルボン酸エステル、1、4−ブタンジオール等を多量に安価に転換するためには解決すべき課題が多い。
【0007】
例えば、前記のコハク酸塩をコハク酸へ転換する技術としては、(1)コハク酸カルシウム塩を多量の硫酸で処理してコハク酸を製造する方法が知られている(特許文献1)。しかしながら、この方法でコハク酸を量産するためには、腐食性の強い多量の硫酸を取り扱う耐腐食性製造装置が必要となる。またコハク酸カルシウム塩をコハク酸へ転換する際に副生する多量の硫酸カルシウムの廃棄処理が必要となる等の難点があった。このような腐食性の強い酸を用いるコハク酸製造方法の欠点を解消する方法として、(2)電気透析法によりコハク酸塩からコハク酸を製造する方法が提案されている(特許文献2〜3)。しかし、この方法では、高価な透析膜とコスト高な電気エネルギーを使用するという難点があった。
【0008】
さらに、(3)前記硫酸の代わりに硫酸水素アンモニウムを用いてコハク酸アンモニウムからコハク酸と硫酸アンモニウムを製造し、副生された硫酸アンモニウムから熱分解により硫酸水素アンモニウムとアンモニアを再生し、再生回収されたアンモニアはリサイクル使用するコハク酸製造技術が提案されている(特許文献4)。この製造方法では前記の多量の副生塩を廃棄処理する問題は改善されるものの、プロセスが複雑であり、また汎用ポリエステル系プラスチックの基本原料であるコハク酸製造のためには腐食性の強い多量の硫酸水素アンモニウムの使用を余儀なくされ、更には硫酸アンモニウムから腐食性の硫酸水素アンモニウムを再生する際に高温を必要とし、そのための耐腐食性の製造装置が不可欠であり、コスト高になる等の難点があった。
【0009】
以上のような課題を解決するために、従来技術で使用されていた腐食性の強い強酸類やコスト高な電気透析法を用いない方法として、最近、(4)コハク酸アンモニウムをアルコール又は水と反応させアンモニアを脱離させて、コハク酸系ポリエステルの原料となるコハク酸やコハク酸エステルを製造する方法が提案されている(特許文献5)。
【0010】
しかしながら、バイオマス由来の発酵合成コハク酸アンモニウムは、多量の水が存在する発酵液中で製造される。従って、発酵合成コハク酸アンモニウム水溶液中のコハク酸アンモニウムを食品添加物、医薬品、ポリエステル原料等の工業原料として活用するためには、コハク酸アンモニウムからの水分の分離とコハク酸アンモニウムからのアンモニアの脱離(脱アンモニア反応)が不可欠である。一方、[特許文献5]では、主としてコハク酸アンモニウムとジオール等のアルコールとの反応が取り上げられ、コハク酸アンモニウム水溶液も一部あるが水は少なく、バイオマス由来の原料のような多量の水が存在するコハク酸アンモニウム水溶液中のコハク酸アンモニウムと水の分離については特に記載されていない。
【0011】
【特許文献1】米国特許第5,168,055号明細書
【特許文献2】米国特許第5,168,055号明細書
【特許文献3】米国特許第5,034,105号明細書
【特許文献4】米国特許第6,265,190号明細書
【特許文献5】特開2005−132836号公報
【非特許文献1】プラスチックスエージ、49,No.8(臨時増刊号)、101(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、多量の水を含む発酵合成されたコハク酸アンモニウムを主成分とするバイオマス由来のコハク酸アンモニウム水溶液から水を常温以上の工業的に容易に得られる温度条件下で分離し、併せてコハク酸アンモニウムの部分的脱アンモニア反応により得られるコハク酸系組成物を工業的に有利にポリエステル原料へ転換する技術開発を課題とする。また本発明は、バイオマス由来のコハク酸系組成物を用いて、ポリエステルの基本的原料である1,4−ブタンジオールの製造技術の開発を行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、(i)多量の水を含む発酵合成されたコハク酸アンモニウムを主成分とするバイオマス由来の水溶液から水を常温以上で、工業的に容易に得られる温度条件下で分離するとともに、同時にコハク酸アンモニウムの部分的脱アンモニア反応(第一工程)によって得られるN/C原子比が特定のコハク酸系誘導体であるコハク酸系組成物を製造する、(ii)前記(i)のN/C原子比が特定のコハク酸系組成物を原料として、脱アンモニア反応(第二工程)をアルコール又は水の存在下に行い、反応生成物のN/C比の値をより小さくすると共にコハク酸の発酵合成で副生する酢酸のようなカルボン酸系成分を分離し、コハク酸系ポリエステルの原料となるコハク酸、コハク酸ジアルキルを収率良く製造する、(iii)上記のコハク酸アンモニウム希薄水溶液からアルコールの存在下または不在下に脱アンモニア反応によりコハク酸、コハク酸ジアルキルを収率良く製造する、(vi)前記の脱アンモニア反応により得られたアンモニアをリサイクル使用する等により、コハク酸系ポリエステル原料を工業的に有利に製造すること、が可能であることを見出し、本発明を成すに至った。また前記の第一工程又は第二工程の生成物を水素化することによりバイオマス由来のコハク酸系組成物等から1,4−ブタンジオールを製造できることを見出し、本発明を成すに至った。
【0014】
即ち、本発明は以下の発明からなる。
(1)コハク酸アンモニウムを主成分として含有する希薄水溶液から、水を分離し、かつコハク酸アンモニウムを部分的に脱アンモニア反応させることを特徴とするコハク酸系組成物の製造方法。
(2)コハク酸アンモニウムを主成分として含有する希薄水溶液が、バイオマス由来のものである上記(1)に記載のコハク酸系組成物の製造方法。
(3)コハク酸アンモニウムを主成分として含有するバイオマス由来の希薄水溶液から、水を分離すると共に、該コハク酸アンモニウムを部分的に脱アンモニア反応させ、得られるコハク酸系組成物中にコハク酸アンモニウム以外に、コハク酸モノアンモニウム、コハク酸、コハク酸モノアミド、コハク酸アミド、コハク酸イミド、コハク酸エステルのうちの少なくとも一種を含み、該コハク酸系組成物中の炭素(C)に対する窒素(N)の原子比N/Cを0.20<N/C<0.47の範囲とすることを特徴とするコハク酸系組成物の製造方法。
【0015】
(4)コハク酸系組成物が、コハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸の何れかの製造に用いられるものである上記(1)〜(3)のいずれかに記載のコハク酸系組成物の製造方法。
(5)コハク酸アンモニウムの希薄水溶液から、水を分離し、かつ該コハク酸アンモニウムを部分的に脱アンモニア反応させ、アンモニアを部分的に脱離させる際に、反応を50〜230℃で減圧、常圧、加圧下のいずれかの条件下で行うことを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載のコハク酸系組成物の製造方法。
(6)コハク酸アンモニウムの希薄水溶液から、水を分離し、かつ該コハク酸アンモニウムを部分的に脱アンモニア反応させアンモニアを部分的に脱離させる際に、窒素、空気、炭酸ガス、水蒸気、ジメチルエーテル、ジエチルエーテルから選ばれた何れかのガスまたは液の流通下に行うことを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載のコハク酸系組成物の製造方法。
【0016】
(7)コハク酸アンモニウムの希薄水溶液から、水を分離し、かつ該コハク酸アンモニウムを部分的に脱アンモニア反応させアンモニアを部分的に脱離させる際に、アルコール(ROH)(R:メチル、エチル、プロピル、ブチル、アミル、オクチル)の存在下に行うことを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載のコハク酸系組成物の製造方法。
(8)コハク酸アンモニウムの希薄水溶液から、水を分離し、かつ該コハク酸アンモニウムを部分的に脱アンモニア反応させアンモニアを部分的に脱離させる際に、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロエタンから選ばれた水と共沸蒸留可能な溶媒の存在下に行うことを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載のコハク酸系組成物の製造方法。
(9)コハク酸系組成物が、20質量%以下の水分を含む上記(1)〜(8)のいずれかに記載のコハク酸系組成物の製造方法。
【0017】
(10)上記(1)〜(9)のいずれかに記載の製造方法(第一工程)によりコハク酸系組成物を得、次いで該組成物を原料として用い、アルコール又は水の存在下、及び触媒の存在下又は不在下に脱アンモニア反応(第二工程)を行い、コハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸のいずれかを製造する方法。
(11)上記(10)の第二工程によりコハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸の何れかを製造し、これらと未反応成分および副生成分を分離し、分離して得られた脱アンモニア未反応物および副生成分を上記(10)の第一工程で得られたコハク酸系組成物と合わせて、上記(10)の脱アンモニア反応(第二工程)を行うことを特徴とするコハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸のいずれかを製造する方法。
(12)コハク酸アンモニウムを主成分として含有する希薄水溶液から、アルコールの存在下または不存在下に水を分離し、かつコハク酸アンモニウムを部分的に脱アンモニア反応させることを特徴とするコハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸のいずれかの製造方法。
【0018】
(13)コハク酸アンモニウムを主成分として含有する希薄水溶液が、バイオマス由来のものである上記(12)に記載のコハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸のいずれかの製造方法。
(14)上記(10)又は(11)記載の第一工程及び第二工程の脱アンモニア反応により生成したアンモニアを回収し、回収したアンモニアをバイオマス由来源であるコハク酸アンモニウムの発酵合成に循環使用することを特徴とする上記(2)〜(9)のいずれかに記載のコハク酸系組成物の製造方法。
(15)上記(12)または(13)において脱アンモニア反応により生成したアンモニアを回収し、回収したアンモニアをバイオマス由来源であるコハク酸アンモニウムの発酵合成に循環使用することを特徴とする上記(12)または(13)に記載のコハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸のいずれかの製造方法。
(16)上記(10)〜(13)のいずれかまたは(15)に記載の製造方法により、コハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸のいずれかを得、次いで該コハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸及びこれらの原料であるコハク酸系組成物のいずれかを水素化することを特徴とする1,4―ブタンジオールの製造方法。
【0019】
(17)コハク酸アンモニウムを主成分として含有する希薄水溶液中のコハク酸アンモニウムを、水の分離と同時に部分的に脱アンモニア反応をさせたコハク酸系組成物であって、該コハク酸系組成物はコハク酸アンモニウム以外に、コハク酸モノアンモニウム、コハク酸、コハク酸モノアミド、コハク酸アミド、コハク酸イミド、コハク酸エステルのうち少なくとも一種を含み、該コハク酸系の組成物の炭素(C)に対する窒素(N)の原子比が0.20<N/C<0.47であるコハク酸系組成物。
(18)コハク酸アンモニウムを主成分とする化合物が、バイオマス由来のものである上記(17)に記載のコハク酸系組成物。
(19)コハク酸系組成物が、コハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸の何れかの製造に用いられるものである上記(17)又は(18)に記載のコハク酸系組成物。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、(i)デンプン、グルコース等のバイオマスを原料として発酵合成により得られる大量の水を含むコハク酸アンモニウムを主成分とする水溶液から水を常温以上の工業的に容易に達成できる温度条件下で分離し、併せてコハク酸アンモニウムの部分的脱アンモニア反応(第一工程)を行い、得られるN/C原子比が特定のコハク酸系組成物を利用して、さらに脱アンモニア反応、エステル化反応等(第二工程)を行う、(ii)また第二工程の未反応物を第二工程に戻し、脱アンモニア反応を繰り返し行うことによりコハク酸アンモニウムからのコハク酸又はその誘導体への転換率を向上させる、(iii)第一工程と第二工程の脱アンモニア反応により得られたアンモニアをリサイクル使用する等の方法によりカーボンニュートラル効果を有するバイオマス由来のコハク酸系組成物からコハク酸系ポリエステル原料を工業的に有利に製造することができる。またコハク酸系組成物または第二工程で該組成物から誘導されるコハク酸、コハク酸ジアルキル、無水コハク酸等を水素化することによりコハク酸系ポリエステルのもう一方の原料である1,4−ブタンジオールを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
コハク酸アンモニウムは空気中で幾分アンモニアを失うことが知られているが、発明者らは、コハク酸アンモニウムは、水中では特に分解しやすく、50〜70℃の低温度でも各種の含窒素コハク酸誘導体に分解することを見出した。発酵合成されたコハク酸アンモニウムをポリエステル等大量生産されているプラスチックの工業原料として活用するためには、コハク酸アンモニウムからの大量の水分の分離とコハク酸アンモニウムを多量に安定保存し、また連続的に移送する技術の開発が不可欠である。コハク酸アンモニウムは水に対する溶解度が高く(約40g/水100g(室温))、また上記のように多量の水と分離する時に低温でも分解しやすいため、工業原料として安定に、多量に使用するには難点があった。
本発明では、コハク酸アンモニウムからの水の分離とアンモニアの分離を同時に行うことにより得られるコハク酸系組成物が熱的に安定であり、また、該組成物中に含まれるコハク酸イミド、コハク酸アミド等も脱アンモニア反応によりポリエステルモノマーへ転換でき(実施例9,10参照)、工業的に有利に前記の目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
本発明は、以下に述べる第1〜第4の4つの反応方法から構成される。第1の方法は、コハク酸アンモニウムを主成分として含有する希薄水溶液からコハク酸系組成物を製造する方法(第一工程)である。第2の方法は、該コハク酸系組成物について、エステル化反応、加水分解反応等により、さらに脱アンモニア反応を促進し、アンモニアの回収率を向上させ、コハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸等を製造する方法(第二工程)である。第3の方法は、第1及び第2の方法を連続的に行う方法である。即ち、第一工程及び第二工程の反応を、前記コハク酸系組成物を単離することなく、連続的に行う方法である。第4の方法は、前記の第一工程及び第二工程の反応により得られるコハク酸系組成物、コハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸等を水素化して1,4−ブタンジオールを製造する方法である。
本発明では、コハク酸系組成物を単離することなく、大量の水を含む発酵合成コハク酸アンモニウム水溶液をそのままポリエステルモノマー製造用の工業原料として使用できることを見出した。このコハク酸系組成物は、コハク酸ジアルキル等の原料として有用なものである。また、コハク酸系組成物から誘導されたコハク酸ジアルキル等は、1,4―ブタンジオールの原料として有用なものである。
上記の希薄水溶液として、好ましくはデンプン、グルコース等の原料から発酵合成で得られるバイオマス由来のコハク酸アンモニウムを主成分とする水溶液が用いられる。
コハク酸アンモニウムは、下記式(1)で表される化合物である。
H4NOOCCH2CH2COONH4 (1)
このバイオマス由来の水溶液は通常水を70〜98質量%含む。また溶質はコハク酸アンモニウムを主成分として、例えば2〜30質量%を含み、その他、酢酸、乳酸、エタノール、蟻酸等を少量含む場合もある。また、コハク酸アンモニウムは、コハク酸モノアンモニウム[コハク酸の酸性塩(H4NOOCCH2CH2COOH)]が不純物として含まれていても反応原料として使用できる。
【0022】
本発明の第1の方法である第一工程は、コハク酸アンモニウムを主成分とする希薄水溶液から水を分離し、同時に脱アンモニア反応を部分的に行って得られるN/C原子比が特定のコハク酸系誘導体混合物である「コハク酸系組成物」を製造する工程である。この水の分離及び部分的脱アンモニア反応(第一工程)には窒素、空気、炭酸ガスの何れかの気体を反応系に流通させて行うことができる。
また、第一工程は、反応系にアルコールを存在させて行うことができる。アルコール(ROH)としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、フーゼル油、オクチルアルコールが用いられる。好ましいアルコールとしては、メタノール、エタノール、ブタノール等のバイオマスから誘導可能なアルコールが挙げられる。このアルコールの使用量の制限はなく、必要に応じてリサイクル使用できる。さらに、第一工程の反応を、溶媒の存在下に行うことができる。好ましい溶媒としてはベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロエタンの何れかの水と共沸蒸留可能な溶媒が挙げられる。
【0023】
第一工程の反応における水の分離及び部分的脱アンモニア反応の反応温度は、通常50〜230℃、好ましくは95〜150℃で行われる。反応圧は、常圧、減圧、又は加圧下で行うことができる。加圧の場合の反応は、好ましくは1MPa未満で行われる。反応時間は10分〜10時間で行われる。
コハク酸アンモニウム水溶液(20wt%)の脱アンモニア実験を行ったところ、コハク酸、コハク酸モノアミド、コハク酸アミド、コハク酸イミド、コハク酸エステル等が得られた。また、生成物の生成割合(モル%)は脱アンモニア反応を行った反応温度(50〜230℃)により異なった。次に前記のコハク酸アミドとコハク酸イミドについて、脱アンモニアの反応性の難易を調べたところ、脱アンモニアの反応性はコハク酸アミド<コハク酸イミドの順であることが分かった。そこで、本発明の部分的脱アンモニア工程(第一工程)の温度範囲としては、実際に脱アンモニア反応を行った反応温度である「50〜230℃」とした。また好ましい温度範囲としては、部分的脱アンモニア工程(第一工程)の生成物の中で、コハク酸の生成割合が高く、コハク酸イミドの生成割合が低いところを好ましい温度範囲「95〜150℃」とした。
上記の第一工程で得られるコハク酸系組成物は、前記式(1)で示されるコハク酸アンモニウムの水溶液から水を分離すると同時にコハク酸アンモニウムを部分的に脱アンモニア化して得られたものであり、この脱アンモニア生成物は、未反応のコハク酸アンモニウム以外に、コハク酸モノアンモニウム、コハク酸、コハク酸モノアミド、コハク酸アミド、コハク酸イミド、コハク酸エステル(コハク酸ジアルキル、コハク酸モノアルキル、コハク酸モノアミドモノアルキルを含むコハク酸のエステル誘導体)の少なくとも一種を含む。
【0024】
このコハク酸系組成物における炭素に対する窒素の原子比N/Cは、0.20<N/C<0.47の範囲にあるのが好ましい。
その理由はN/Cが0.20以下では、コハク酸系組成物中で、脱アンモニア反応が比較的遅いコハク酸アミドやコハク酸イミドの生成割合が増加するため好ましくない。またN/Cが0.47以上ではコハク酸アンモニウムと水の分離に、常温近辺の低温蒸留又は水に対する溶解度が高いコハク酸アンモニアの晶析等が必要となり、コハク酸アンモニウム水溶液からの水分離やアンモニアの脱離がコスト高になるため好ましくない。
前記第一工程で得られるコハク系酸組成物は20質量%以下の水分を含んでも良い。20質量%を超える水分が存在しても、第一工程以降の操作は可能であるが、反応装置の容量が増大するので好ましくない。
【0025】
本発明の第2の方法は、前記の[0021]項で述べたように、第1の方法(第一工程)で得られたコハク酸系組成物を原料として用い、アルコール(ROH)又は水の存在下、及び触媒の存在下又は不在下にコハク酸ジアルキル(CH2COOR)2、コハク酸、無水コハク酸の何れかを製造する第二工程からなる方法である。第二工程に於いて使用する触媒としては、通常のエステル化反応又は加水分解反応で用いられている触媒を用いることができる。反応温度は、通常30〜380℃、好ましくは50〜140℃で行われる。反応圧は、常圧、減圧、又は加圧下(25MPa以下)で行うことができる。反応時間は1〜24時間で行われる。
【0026】
第二工程で得られたコハク酸系反応生成物中の脱アンモニア未反応物(例えば、コハク酸モノアミド、コハク酸アミド、コハク酸イミド等)は第二工程の原料系に戻され、さらに脱アンモニア反応を行い、コハク酸アンモニウムからポリエステル原料(コハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸)への収率を向上させる。
上記の第一工程及び第二工程の反応は、回分式又は連続式いずれの反応装置を用いて、コハク酸系組成物を分離し、又は分離せずに行うことができる。第一工程及び第二工程の反応は、同一反応器又は別の反応器を使用して、コハク酸系組成物を分離せずに連続的に行うこともできる。
本発明の第3の方法は、[0021]項で述べたように、上記でコハク酸系組成物を分離せずに連続的に行う場合の反応で、コハク酸アンモニウムの希薄水溶液からアルコールの存在下または不在下に脱アンモニア反応させることにより、コハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸を直接製造する方法である。この反応の温度、時間等は上記の第一工程、第二工程の条件をそのまま採用することができる。
また第一工程及び第二工程の脱アンモニア反応により回収されたアンモニアは、水溶液のまま、また必要に応じて脱水されボンベ等に貯蔵して、コハク酸発酵合成工程で循環使用される。
【0027】
本発明の第4の方法は、[0021]項で述べたように、第2及び第3の方法により得られたコハク酸系組成物、コハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸の水素化反応により、1,4―ブタンジオールを製造する方法である。
コハク酸ジアルキル等の水素化反応による1,4―ブタンジオールの製造は、通常、Ru/カーボン触媒又はRu2O5触媒の存在下、150〜200℃、70〜95MPa、4〜10時間の条件下に行われる。また、触媒Re2O7を用いて、200〜270℃、23〜30MPa、3〜10時間の条件下で水素化反応を行い1,4−ブタンジオールを製造することができる。
【0028】
コハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸の水素化反応による1,4―ブタンジオールの製造は、(1)コハク酸ジアルキルについては、ジオキサン中、活性化Cu-Ba-CrO触媒の存在下175〜200℃、20〜30MPaの条件で水素化反応が行われる。また、(2)コハク酸については、前記のRu/カーボン触媒又はRu2O5触媒の存在下に同様の反応条件で水素化反応が行われる。又は前記Re触媒の存在下に同様の反応条件で水素化反応が行われ、1,4−ブタンジオールが得られる。(3)無水コハク酸については、直接又は無水コハク酸をエステル化や加水分解して、前記(1)又は(2)の方法により1,4−ブタンジオールを製造することができる。
【0029】
つぎに、本発明方法に於いてコハク酸アンモニウム水溶液から、水を分離し、かつコハク酸アンモニウムを部分的に脱アンモニア反応させることによりコハク酸系組成物(0.20<N/C<0.47)を製造する方法及び該コハク酸系組成物を利用してコハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸、1,4−ブタンジオール等のコハク酸系ポリエステル原料を製造する代表的製造工程とアンモニア及びROHの回収工程をフローチャート図1〜図6に示す(図の実線部分)。
【0030】
図1のフローチャートを具体的に説明する。
図1は、コハク酸アンモニウム水溶液から共存する多量の水を分離し、同時にコハク酸アンモニウムの部分的脱アンモニア反応を行い、コハク酸系組成物を製造する工程(第一工程)を示している(実施例1〜6参照)。この実施例ではN/Cは0.20<N/C<0.47の値が得られた。回収されたアンモニアは脱水して、またはアンモニア水溶液として循環使用される。なお、1〜7の実施例では、コハク酸アンモニウムとして市販の試薬を使用しているが、発酵液から得られるコハク酸アンモニウムを使用しても同様の結果が得られ、市販試薬を用いた実施例が有効であることが分かった。
【0031】
図2のフローチャートを具体的に説明する。
図2は、コハク酸アンモニウム水溶液から共存する多量の水を分離し、同時にアルコール(ROH)を反応系内に共存させながらコハク酸アンモニウムの部分的脱アンモニア反応を行い、コハク酸系組成物を製造する工程(第一工程)を示している(実施例6参照)。回収されたアンモニアは脱水して、または水溶液として循環使用される。また回収されたROHは循環使用される。
【0032】
図3のフローチャートを具体的に説明する。
図3は、コハク酸アンモニウム水溶液から共存する多量の水を分離し、同時にコハク酸アンモニウムの部分的脱アンモニア反応を行い、コハク酸系組成物を製造する工程(第一工程)とROH及び触媒の存在下にコハク酸系組成物の脱アンモニア反応とエステル化反応を行い、コハク酸系組成物からコハク酸ジアルキルを製造する工程(第二工程)を示している(実施例7参照)。得られたコハク酸ジエステルは蒸留により精製され、コハク酸系ポリエステルの原料として使用される。また第二工程の生成物であるコハク酸ジアルキルは水素化工程により1,4―ブタンジオールに転換され、同様にコハク酸系ポリエステルの原料として使用される。また第二工程の脱アンモニア反応の未反応物、例えば、コハク酸イミドは、実施例10に示すように、再度脱アンモニア反応及びエステル化反応を第二工程で行うことによりコハク酸アンモニウムからコハク酸エステルへの転換率を向上させることができる。なお、前記の脱アンモニア反応の未反応物、例えばコハク酸イミドは、第一工程、又は第一工程の反応生成物であるコハク酸系組成物に加えて脱アンモニア反応及びエステル化反応を行うことによりコハク酸アンモニウムからコハク酸エステルへの転換率を向上させることもできる。回収されたアンモニアは脱水してまたは水溶液として循環使用される。また蒸留工程で回収されたROHは循環使用される。
【0033】
図4のフローチャートを具体的に説明する。
図4は、図3の工程にコハク酸ジアルキルの加水分解工程を加えたものである。即ち、図3で得られたコハク酸ジアルキルを加水分解してコハク酸を製造する工程が含まれている。回収されたROHは循環使用される。
【0034】
図5のフローチャートを具体的に説明する。
図5は、コハク酸アンモニウム水溶液から、共存する多量の水を分離し、併せて部分的脱アンモニア反応を行い、コハク酸系組成物を製造する工程(第一工程)と水と触媒の存在下又は第一工程と異なる温度、圧力等の条件を採用することによりコハク酸系組成物の脱アンモニア反応を行い、第一工程より高い収率でコハク酸又は無水コハク酸を得ることを目的としている。得られたコハク酸は分離工程で晶析、蒸留、昇華法等によりコハク酸又は無水コハク酸に精製され、コハク酸系ポリエステルの原料として使用される。また、精製されたコハク酸又は無水コハク酸は水素化工程により1,4―ブタンジオールに転換され、同様にコハク酸系ポリエステルの原料として使用される。また第二工程の脱アンモニア反応の未反応物、例えばコハク酸アミド、コハク酸イミドは実施例9及び実施例10に示す脱アンモニア反応により、コハク酸アンモニウムからのコハク酸又は無水コハク酸への転換率を向上させる。回収されたアンモニアは脱水してまたは水溶液として循環使用される。
【0035】
図6のフローチャートを具体的に説明する。
図6は、ROHの存在下に、コハク酸アンモニウム水溶液から共存する多量の水を分離し、併せて脱アンモニア反応とエステル化反応を連続的に行う(実施例7の場合と異なりコハク酸系組成物を分離することなく、第一工程及び第二工程を連続的に行う)ことによりコハク酸系ポリエステルの原料であるコハク酸ジアルキルを製造する工程を示している(実施例11参照)。得られたコハク酸ジアルキルはコハク酸系ポリエステルの原料として利用される。また、コハク酸ジアルキルは水素化工程により1,4−ブタンジオールに転換され、コハク酸系ポリエステルの原料として利用される。回収されたアンモニアは脱水してまたは水溶液として循環使用される。
【実施例】
【0036】
次に本発明を実施例によって具体的に説明する。
コハク酸エステルの定量は、ガスクロマトグラ法を用いて行った。またアンモニウムの回収量は、中和滴定法により求めた。またコハク酸アンモニウム、コハク酸、コハク酸アミド、コハク酸モノアミド、コハク酸イミド等は液体クロマトグラフ法により分析した。
エステル類、酸無水物及び1,4−ブタンジオールの定量分析
コハク酸エステル及び無水コハク酸、1,4−ブタンジオール等は、ガスクロマトグラフ法により定量した。分析用カラムは、島津キャピラリーカラム「HiCap−CBP1−M25−025(無極性、メチルシリコン(OV-1、SE-30相当)、最高使用温度320℃、25m)」を使用した。初期温度100℃、昇温速度5℃/分、最終温度270℃の条件下、内部標準物質としてジエチレングリコールジブチルエーテルを用いて、FID法により定量分析を行った。
【0037】
コハク酸系組成物の分析
コハク酸アンモニウム、コハク酸、コハク酸モノアミド、コハク酸アミド、コハク酸イミド等は、UV検出器(使用カラム:東ソーODS−100V、カラム温度25℃)を用いる液体クロマトグラフ法により定量した(内部標準:アジピン酸)。またコハク酸アンモニウムのNH4+は、電気伝導検出器(使用カラム:IC-Cation、カラム温度:室温)を用いる液体クロマトグラフ法により定量した(内部標準:KBr、カラム温度:室温)。
【0038】
アンモニアの定量分析
JISK0102−1986法に準じた中和滴定法により回収されたアンモニアの定量分析を行った。回収されたアンモニアを硫酸溶液に吸収させ、残った硫酸についてメチルレッド−ブロモクレゾールグリーン混合液指示薬を用いて水酸化ナトリウムで滴定し、アンモニウムイオンを定量し、アンモニアの回収量を求めた。
【0039】
実施例1
攪拌羽と温度計付きの内容積100mlの四つ口フラスコを用いてコハク酸アンモニウム(CH2COONH4227.4g(180ミリモル)と水109.5gを含む水溶液を20℃で空気を40ml/分で流し、かき混ぜながら加温し、170℃、常圧下で水の分離と脱アンモニア反応を2時間行い(第一工程)、発生したアンモニアと水を流出させ、トラップに捕集した。捕集したアンモニアと水は2N硫酸180mlを含む内容積200mlトラップに導入し、硫酸水溶液中に吸収させた。次いで、1モル/リットルNaOH溶液を用いて未反応の硫酸を滴定し、アンモニウムイオンを定量し、回収されたアンモニア量を求めた。その結果、アンモニアの回収率は56.6%であった。また、反応後のフラスコには、室温で白色固体の生成物20.4gを得た。液体クロマトグラフ法により生成物の分析を行ったところ、該生成物は、未反応のコハク酸アンモニウム以外にコハク酸、コハク酸モノアミド、コハク酸アミド、コハク酸イミド等の成分を含む白色固体(コハク酸系組成物)であった。前記アンモニア分析の結果から、該白色固体(コハク酸系組成物)のN/C原子比は0.21であった。
【0040】
実施例2
攪拌羽と温度計付きの内容積100mlの四つ口フラスコを用いて、コハク酸アンモニウム(CH2COONH429.13g(60ミリモル)と水36.5gを含む水溶液を70℃で、減圧下(0.25〜15mmHg)、かき混ぜながら水の分離と脱アンモニア反応を3時間行い(第一工程)、発生したアンモニアと水をトラップに捕集した。捕集したアンモニアと水は2N硫酸60mlを含む内容積200mlトラップに導入し、硫酸水溶液中に吸収させた。次いで、1モル/リットルNaOH溶液を用いて未反応の硫酸を滴定し、アンモニウムイオンを定量し、回収されたアンモニア量を求めた。その結果、アンモニアの回収率は12.7%であった。また、反応後のフラスコには、室温で白色固体の生成物9.6gを得た。液体クロマトグラフ法により生成物の分析を行ったところ、該生成物は、未反応のコハク酸アンモニウム以外にコハク酸、コハク酸モノアミド、コハク酸アミド、コハク酸イミド等の成分を含む白色固体(コハク酸系組成物)であった。前記アンモニア分析の結果から、該白色固体(コハク酸系組成物)のN/C原子比は0.43であった。
【0041】
実施例3
攪拌羽と温度計付きの内容積100mlの四つ口フラスコを用いて、コハク酸アンモニウム(CH2COONH429.13g(60ミリモル)と水36.5gを含む水溶液を50℃で、減圧下(0.25〜5mmHg)、かき混ぜながら水の分離と脱アンモニア反応を3時間行い(第一工程)、発生したアンモニアと水をトラップに捕集した。捕集したアンモニアと水は2N硫酸60mlを含む内容積200mlトラップに導入し、硫酸水溶液中に吸収させた。次いで、1モル/リットルNaOH溶液を用いて未反応の硫酸を滴定し、アンモニウムイオンを定量し、回収されたアンモニア量を求めた。その結果、アンモニアの回収率は7.2%であった。また、反応後のフラスコには、室温で白色固体の生成物10.4gを得た。液体クロマトグラフ法により生成物の分析を行ったところ、該生成物は、未反応のコハク酸アンモニウム以外にコハク酸、コハク酸モノアミド、コハク酸アミド、コハク酸イミド等の成分を含む白色固体(コハク酸系組成物)であった。前記アンモニア分析の結果から、該白色固体(コハク酸系組成物)のN/C原子比は0.46であった。
【0042】
実施例4
攪拌羽と温度計付きの内容積100mlの四つ口フラスコを用いて、コハク酸アンモニウム(CH2COONH4227.4g(180ミリモル)と水109.5gを含む水溶液に25℃で空気を10ml/分で流し、かき混ぜながら加温し、170℃(内温)、常圧下で水の分離と脱アンモニア反応を2時間行い(第一工程)、発生したアンモニアと水を流出させトラップに捕集した。捕集したアンモニアと水は2N硫酸180mlを含む内容積200mlのトラップに導入し、硫酸水溶液中に吸収させた。次いで、1モル/リットルNaOH溶液を用いて未反応の硫酸を滴定し、アンモニウムイオンを定量し、回収されたアンモニア量を求めた。その結果、アンモニアの回収率は53.1%であった。また、反応後のフラスコには、室温で白色固体の生成物7.1gを得た。液体クロマトグラフ法により、生成物の分析を行ったところ、該生成物は、未反応のコハク酸アンモニウム以外にコハク酸、コハク酸モノアミド、コハク酸アミド、コハク酸イミド等の成分を含む白色固体(コハク酸系組成物)であった。前記アンモニア分析の結果から、該白色固体(コハク酸系組成物)のN/C原子比は0.23であった。
【0043】
実施例5
攪拌、Dean-stark装置及び温度計を備えた内容積100mlの四つ口フラスコを用いて、コハク酸アンモニウム(CH2COONH429.13g(60ミリモル)、水36.5g及びトルエン50mlからなる混合物を19℃でかき混ぜながら加温し、トルエンの還流下に水を共沸除去し、併せて脱アンモニア反応を6.7時間行った(第一工程)。発生したアンモニアと水を流出させ、Dean-stark装置の冷却管下部に接続したトラップに捕集した。捕集したアンモニアと水は2N硫酸を含む内容積200mlトラップの硫酸水溶液中に吸収させ、次いで、1モル/リットルNaOH溶液を用いて未反応の硫酸を滴定し、アンモニウムイオンを定量し、回収されたアンモニア量を求めた。その結果、アンモニアの回収率は44.8%であった。また、反応後のフラスコには、室温で白色固体の生成物7.8gを得た。液体クロマトグラフ法により、生成物の分析を行ったところ、生成物は、未反応のコハク酸アンモニウム以外にコハク酸、コハク酸モノアミド、コハク酸アミド、コハク酸イミド等の成分を含む白色固体(コハク酸系組成物)であることが分かった。前記アンモニア分析の結果から、該白色固体(コハク酸系組成物)のN/C原子比は0.27であった。
【0044】
実施例6
攪拌羽、温度計及びメタノール導入・排出口を備えた内容積100mlの耐圧ガラス製反応管にコハク酸アンモニウム(CH2COONH429.13g(60ミリモル)と水36.5gからなる水溶液を仕込み(20℃)、メタノールを反応系に導入し(0.5ml/分)、流通させ、かき混ぜながら加温して、125℃、常圧〜0.2MPaの圧力下で水の分離と脱アンモニア反応を2時間行い(第一工程)、発生したアンモニアと水をトラップに捕集した。捕集したアンモニアと水(メタノールを含む)は2N硫酸180mlを含む内容積200mlトラップに導入し、硫酸水溶液中に吸収させた。次いで、1モル/リットルNaOH溶液を用いて未反応の硫酸を滴定し、アンモニウムイオンを定量し、回収されたアンモニア量を求めた。その結果、アンモニアの回収率は37.8%であった。また、反応後、反応管中に無色透明な反応液(メタノール溶液)22.3gが得られた。ガスクロマトグラフ及び液体クロマトグラフ法により上記反応液の分析を行ったところ、コハク酸アンモニウム以外にコハク酸、コハク酸モノアミド、コハク酸アミド、コハク酸イミド、コハク酸ジメチル等が含まれていることが分かった。前記アンモニア分析の結果から、メタノールを含む反応液中のコハク酸系組成物のN/C原子比は0.31であった。
【0045】
実施例7
攪拌羽と温度計付きの内容積100mlの耐圧ガラス製反応管に実施例1で得られた白色固体(コハク酸系組成物)6.80g(この重量は、実施例1で得られた白色固体の1/3の重量で、この重量は、計算値で60ミリモルのコハク酸系成分に相当する)とエタノール60ml及びチタンテトライソプロポキシドTi(O-isoPr)43.4ミリモルを加え、140℃(内温)で加圧下(0.63MPa)にエタノールを導入(0.4〜0.9ml/min.)し、反応系内を流通させて脱アンモニア反応を5時間行い(第二工程)、発生したアンモニアとエタノールをトラップに捕集した。反応後、反応管に得られた反応液についてガスクロマトグラフ法により分析を行ったところ、68.0%の収率でコハク酸ジエチルが得られた。
【0046】
実施例8
攪拌、Dean-stark装置及び温度計を備えた内容積200mlの二口フラスコへコハク酸アンモニウム(CH2COONH429.13g(60ミリモル)と水36.5gからなる水溶液と1−ブタノール60mlを仕込み、27℃でかき混ぜながら加温し、150℃(オイルバス温度)で、1−ブタノールの還流下に水を共沸除去しながら、脱アンモニア反応を2時間行った(第一工程)。発生したアンモニアと水をDean-stark装置の冷却管下部に接続したトラップに捕集した(アンモニアを含む約30mlの水を回収した)。次に二口フラスコを室温まで冷却し、1−ブタノール10mlとチタンテトライソプロポキシド(Ti(O-isoPr)4)3.4ミリモルを反応フラスコへ仕込み、加温して1−ブタノールを還流下に水を共沸除去し、併せて脱アンモニア反応を24時間続けた(第二工程)。反応後、得られた反応液について液体クロマトグラフ及びガスクロマトグラフ法により分析を行ったところ、46.4%の収率でコハク酸ジ-n-ブチルが得られた。他の反応生成物としてはコハク酸モノブチル、コハク酸モノアミド、コハク酸アミド、コハク酸イミド等が検出された。
【0047】
実施例9
攪拌羽、温度計及びメタノール導入・排出口を備えた内容積100mlの耐圧ガラス製反応管にコハク酸アミド6.97g(60ミリモル)とメタノール36.5mlを加え(17℃)、メタノールを反応系内に導入(0.5ml/min.)、流通させ、該混合物をかき混ぜながら加温して、125℃、加圧下(0.6MPa)で5時間脱アンモニア反応を行った。発生したアンモニアはメタノールとともにトラップに捕集した。反応後、実施例1と同様の方法で回収されたアンモニア量を調べたところ回収アンモニア率は5.3%であった。また反応液についてガスクロマトグラフ法により分析を行ったところ、コハク酸ジメチルが生成していることが分かった。コハク酸アミドの脱アンモニア率は低いが、コハク酸アミドは加熱によりコハク酸イミドへ転換可能であり、同様にコハク酸アミドが第一工程で得られるコハク酸系組成物に含まれていても、下記実施例10の反応を繰り返し行うことによりコハク酸アンモニウムからのコハク酸ジメチルへの転換率を向上させることが可能であることが分かった。
【0048】
実施例10
攪拌羽、温度計及びメタノール導入・排出口を備えた内容積100mlの耐圧ガラス製反応管にコハク酸イミド5.94g(60ミリモル)とメタノール36.5mlを加え(17℃)、メタノールを反応系内に導入(0.5ml/min.)、流通させ、該混合物をかき混ぜながら加温して、125℃、加圧下(0.6MPa)で5時間脱アンモニア反応を行った。発生したアンモニアはメタノールとともにトラップに捕集した。反応後、実施例1と同様の方法で回収されたアンモニア量を調べたところ回収アンモニア率は19.7%であった。また反応液についてガスクロマトグラフ法により分析を行ったところ、コハク酸ジメチルが生成していることが分かった。従って、コハク酸イミドが第一工程で得られるコハク酸系組成物に含まれていても、コハク酸イミドはコハク酸エステルに転換でき、また、第一工程と第二工程を繰り返し行うことによりコハク酸アンモニウムからのコハク酸エステルへの転換率を向上させることが可能であることを見出した。また、コハク酸アミドは加熱によりコハク酸イミドへ転換可能であり、同様にコハク酸アミドが第一工程で得られるコハク酸系組成物に含まれていても、本反応を繰り返し行うことによりコハク酸アンモニウムからのコハク酸ジメチルへの転換率を向上させることが可能であることが分かった。
【0049】
実施例11
攪拌羽、温度計及びメタノール導入・排出口を備えた内容積100mlの耐圧ガラス製反応管にコハク酸アンモニウム(CH2COONH429.13g(60ミリモル)と水36.5gからなる水溶液を仕込み(18℃)、メタノールを反応系に導入し(0.4〜0.7ml/分)、流通させ、かき混ぜながら加温し、125℃、常圧〜0.5MPaの圧力下で水の分離と脱アンモニア反応を行い(第一工程)、実施例6の場合と異なりコハク酸系組成物の分離を行うことなく、引続き脱アンモニアとエステル化反応(第二工程)を10時間連続的に行ったところ、無色透明の液体が得られた(約25ml)。ガスクロマトグラフ及び液体クロマトグラフ法により無色液体の分析を行った結果、コハク酸ジメチルエステルが49.1%の収率で得られた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
バイオマス由来のコハク酸アンモニウムから生分解性高分子の原料となるコハク酸、無水コハク酸、コハク酸ジアルキル、1,4−ブタンジオールを工業的に有利な方法で製造することができ、工業上の利用可能性は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明方法を実施するための一例を示すフローチャートである。
【図2】本発明方法を実施するための他の例を示すフローチャートである。
【図3】本発明方法を実施するための他の例を示すフローチャートである。
【図4】本発明方法を実施するための他の例を示すフローチャートである。
【図5】本発明方法を実施するための他の例を示すフローチャートである。
【図6】本発明方法を実施するための他の例を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コハク酸アンモニウムを主成分として含有する希薄水溶液から、水を分離し、かつコハク酸アンモニウムを部分的に脱アンモニア反応させることを特徴とするコハク酸系組成物の製造方法。
【請求項2】
コハク酸アンモニウムを主成分として含有する希薄水溶液が、バイオマス由来のものである請求項1に記載のコハク酸系組成物の製造方法。
【請求項3】
コハク酸アンモニウムを主成分として含有するバイオマス由来の希薄水溶液から、水を分離すると共に、該コハク酸アンモニウムを部分的に脱アンモニア反応させ、得られるコハク酸系組成物中にコハク酸アンモニウム以外に、コハク酸モノアンモニウム、コハク酸、コハク酸モノアミド、コハク酸アミド、コハク酸イミド、コハク酸エステルのうちの少なくとも一種を含み、該コハク酸系組成物中の炭素(C)に対する窒素(N)の原子比N/Cを0.20<N/C<0.47の範囲とすることを特徴とするコハク酸系組成物の製造方法。
【請求項4】
コハク酸系組成物が、コハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸の何れかの製造に用いられるものである請求項1〜3のいずれかに記載のコハク酸系組成物の製造方法。
【請求項5】
コハク酸アンモニウムの希薄水溶液から、水を分離し、かつ該コハク酸アンモニウムを部分的に脱アンモニア反応させ、アンモニアを部分的に脱離させる際に、反応を50〜230℃で減圧、常圧、加圧下のいずれかの条件下で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のコハク酸系組成物の製造方法。
【請求項6】
コハク酸アンモニウムの希薄水溶液から、水を分離し、かつ該コハク酸アンモニウムを部分的に脱アンモニア反応させアンモニアを部分的に脱離させる際に、窒素、空気、炭酸ガス、水蒸気、ジメチルエーテル、ジエチルエーテルから選ばれた何れかのガスまたは液の流通下に行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のコハク酸系組成物の製造方法。
【請求項7】
コハク酸アンモニウムの希薄水溶液から、水を分離し、かつ該コハク酸アンモニウムを部分的に脱アンモニア反応させアンモニアを部分的に脱離させる際に、アルコール(ROH)(R:メチル、エチル、プロピル、ブチル、アミル、オクチル)の存在下に行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のコハク酸系組成物の製造方法。
【請求項8】
コハク酸アンモニウムの希薄水溶液から、水を分離し、かつ該コハク酸アンモニウムを部分的に脱アンモニア反応させアンモニアを部分的に脱離させる際に、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロエタンから選ばれた水と共沸蒸留可能な溶媒の存在下に行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のコハク酸系組成物の製造方法。
【請求項9】
コハク酸系組成物が、20質量%以下の水分を含む請求項1〜8のいずれかに記載のコハク酸系組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法(第一工程)によりコハク酸系組成物を得、次いで該組成物を原料として用い、アルコール又は水の存在下、及び触媒の存在下又は不在下に脱アンモニア反応(第二工程)を行い、コハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸のいずれかを製造する方法。
【請求項11】
請求項10の第二工程によりコハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸の何れかを製造し、これらと未反応成分および副生成分を分離し、分離して得られた脱アンモニア未反応物および副生成分を請求項10の第一工程で得られたコハク酸系組成物と合わせて、請求項10の脱アンモニア反応(第二工程)を行うことを特徴とするコハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸のいずれかを製造する方法。
【請求項12】
コハク酸アンモニウムを主成分として含有する希薄水溶液から、アルコールの存在下または不在下に水を分離し、かつコハク酸アンモニウムを部分的に脱アンモニア反応させることを特徴とするコハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸のいずれかの製造方法。
【請求項13】
コハク酸アンモニウムを主成分として含有する希薄水溶液が、バイオマス由来のものである請求項12に記載のコハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸のいずれかの製造方法。
【請求項14】
請求項10又は11記載の第一工程及び第二工程の脱アンモニア反応により生成したアンモニアを回収し、回収したアンモニアをバイオマス由来源であるコハク酸アンモニウムの発酵合成に循環使用することを特徴とする請求項2〜9のいずれかに記載のコハク酸系組成物の製造方法。
【請求項15】
請求項12または13において脱アンモニア反応により生成したアンモニアを回収し、回収したアンモニアをバイオマス由来源であるコハク酸アンモニウムの発酵合成に循環使用することを特徴とする請求項12または13に記載のコハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸のいずれかの製造方法。
【請求項16】
請求項10〜13のいずれかまたは15に記載の製造方法により、コハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸のいずれかを得、次いで該コハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸及びこれらの原料であるコハク酸系組成物のいずれかを水素化することを特徴とする1,4−ブタンジオールの製造方法。
【請求項17】
コハク酸アンモニウムを主成分として含有する希薄水溶液中のコハク酸アンモニウムを、水の分離と同時に部分的に脱アンモニア反応をさせたコハク酸系組成物であって、該コハク酸系組成物はコハク酸アンモニウム以外に、コハク酸モノアンモニウム、コハク酸、コハク酸モノアミド、コハク酸アミド、コハク酸イミド、コハク酸エステルのうち少なくとも一種を含み、該コハク酸系の組成物の炭素(C)に対する窒素(N)の原子比が0.20<N/C<0.47であるコハク酸系組成物。
【請求項18】
コハク酸アンモニウムを主成分とする化合物が、バイオマス由来のものである請求項17に記載のコハク酸系組成物。
【請求項19】
コハク酸系組成物が、コハク酸ジアルキル、コハク酸、無水コハク酸の何れかの製造に用いられるものである請求項17又は18に記載のコハク酸系組成物。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−254354(P2007−254354A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−80747(P2006−80747)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】