コバルトフェライト磁性材料の処理方法、コバルトフェライト磁性材料の製造方法及び磁気記録媒体の製造方法
【課題】強磁場中加熱を利用してコバルトフェライト磁性材料の保磁力及び磁気的角形比を高め、これを磁性層に用いて磁気的特性に優れた磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】基板1上に、混合したコバルトと酸化鉄より成る材料(材料層2)、またはコバルトフェライトを堆積させる工程と、この基板1を磁場中で加熱処理する工程とを少なくとも有する。
【解決手段】基板1上に、混合したコバルトと酸化鉄より成る材料(材料層2)、またはコバルトフェライトを堆積させる工程と、この基板1を磁場中で加熱処理する工程とを少なくとも有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルトフェライト磁性材料の処理方法及び製造方法と磁気記録媒体の製造方法に関し、特に強磁場中加熱を利用してコバルトフェライトの磁気特性の向上を図ったコバルトフェライト磁性材料の処理方法、コバルトフェライト磁性材料の製造方法及び磁気記録媒体の製造方法にする。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体の製造方法は多数あり、スパッタリングや金属蒸着、塗布、印刷などがあげられる。これらの製造方法により作成された磁気記録媒体の磁気特性は、殆ど材料固有の性質に依存する。磁気的角形比(すなわち残留磁化/飽和磁化の比)や保磁力は、磁気記録媒体の記録特性に影響する2つの重要な性質である。
Co及びCoO材料を用いた蒸着テープ型磁気記録媒体では、角形比や保磁力の制御は、酸化の条件を管理するとか、磁性層の厚さを変化させること、また磁性層の磁気的特性に有利な構造を誘起する下地層の導入などが挙げられる。これらの方法は、1つの磁気記録媒体の製造方法に対して、最適な条件を見出すために多大な時間と労力を要する。Co及びCoOを用いた蒸着テープの場合、異なる製造条件では、保磁力が1000Oe(80kA/m)から2000Oe(160kA/m)にまで変化してしまい、磁気的角形比もおおよそ0.6から0.8までばらついてしまうことがわかっている。
一般的には、高密度磁気記録媒体においては、磁気的角形比は高いほど望ましく、また保磁力は1800Oe(144kA/m)以上であることが望ましい。
【0003】
他の磁性材料として、磁気異方性が高く、保磁力の優れた材料として、コバルトフェライトがあげられる。このコバルトフェライトの磁気特性を高めるために、加熱処理を行う方法が提案されている(例えば非特許文献1参照。)。
また、コバルトフェライト以外の材料では、例えば光アイソレータとして利用されているビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶において、これを磁場中加熱することによって、磁気的特性を高める方法が提案されている(特許文献1参照。)。
【0004】
【非特許文献1】Y.C.Wang et al, “High-coercivity Co-ferrite thin films on (100)-SiO2 substrate”, Applied Physics Letters, Vol.84, No.14,5 April 2004, pp.2596-2598
【特許文献1】特開2003−195241号公開公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記非特許文献1に開示の方法では、コバルトフェライトの保磁力は高くなっているが、最適な加熱温度に設定した場合においても、十分高い角形比が得られていない。
また、上記特許文献1に開示の方法で得られる材料は、上述したような高密度磁気記録媒体にはそのまま利用することはできず、また磁気的角形比については検討されていない。
【0006】
以上の問題に鑑みて、本発明は、強磁場中加熱を利用してコバルトフェライト磁性材料の保磁力及び磁気的角形比を高め、これを磁性層に用いて磁気的特性に優れた磁気記録媒体を製造することが可能なコバルトフェライト磁性材料の製造方法及び磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明によるコバルトフェライト磁性材料の製造方法は、基板上に、混合したコバルトと酸化鉄より成る材料、またはコバルトフェライトを堆積させる工程と、前記基板を磁場中で加熱処理する工程とを少なくとも有することを特徴とする。
また、本発明は、上述のコバルトフェライト磁性材料の製造方法において、印加する磁場の磁束密度を5T以上とし、加熱温度を500℃以上1100℃以下とすることを特徴とする。
【0008】
更に、本発明の磁気記録媒体の製造方法は、基材上に磁性層を形成して磁気記録媒体を製造する磁気記録媒体の製造方法であって、磁束密度5T以上の磁場中で、処理温度を500℃以上1100℃以下として熱処理したコバルトフェライトより成る磁性材料を分散媒中に分散させて、ノズルに注入する工程と、結合剤を塗布した基材の上に前記ノズルから前記磁性材料を噴出し、かつ磁場を印加する工程と、前記磁場を印加した基材を熱処理する工程とを少なくとも有することを特徴とする。
【0009】
上述したように、本発明においては、コバルトと酸化鉄を混合した材料、もしくはコバルトフェライトに対して磁場中熱処理を行うものである。本発明者の考察研究の結果、非常に強い磁場を印加しながら同時に加熱処理を行うことによって、保磁力及び磁気的角形比を共に高めることができることを見出した。
特に、印加する磁場を5T以上とし、加熱温度を500℃以上1100℃以下とすることによって、磁気的角形比において0.6を超える値を実現することができ、これを磁気記録媒体の製造方法に利用することによって、良好な磁気記録特性の磁気記録媒体を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明のコバルトフェライト磁性材料の処理方法によれば、保磁力及び磁気的角形比の向上を図ることができる。
更に、本発明の磁気記録媒体の製造方法によれば、保磁力及び磁気的角形比の向上を図り、磁気記録特性に優れた磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明を実施するための最良の形態の例を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
以下の例においては、本発明におけるコバルトフェライト磁性材料の製造方法と、これを磁気記録媒体の製造方法に適用した例を示すが、本発明は、コバルトフェライトに他の材料を添加した種々の磁性材料の処理方法、製造方法にも適用可能である。
【0012】
先ず、コバルトフェライト磁性材料の製造方法の一例の一製造工程を示す図1A及び図1Bを参照して説明する。基板1上に、コバルト及び鉄酸化物の混合物、またはコバルトフェライトより成る材料層2が形成される。基板1の材料としては、その融点がこの基板上に形成する材料層2の加熱処理温度を超える温度である材料とし、また高温処理に対する耐久性を有する例えばSiを用いることができる。
材料層2は、例えばゴバルトと、フェライト酸化物又はゴバルト酸化物の混合物より成る薄膜を用いることができる。材料層2の区切られた部分は、結晶粒又は微粒子を示し、その中の矢印aはこれらの磁化容易軸の向きを模式的に示したものである。
材料層2の基板1上への形成方法としては、単純な分散法、ディッピング法、スピンコート法、スパッタリング、蒸着などの気相成長法などの種々の形成方法を用いることができる。図1Aにおいては、材料層2の形成後、基板1及び材料層2に対して矢印bで模式的に示すように高い磁場を印加して加熱する例を示す。図1Bにおいては、非常に弱い磁場b´を印加するか、または磁場を印加しないで加熱する例を示す。
【0013】
図1Aに示すように、強い磁場を印加して加熱した場合は、材料層2の結晶粒又は粒子の磁化容易軸は印加した磁場の向きと平行な向きに揃えられる。加熱処理は、磁場の印加が磁性材料の結晶粒又は粒子の磁気モーメントがこの磁場に揃う状態変化を引き起こす効果を目的とするものである。磁性微粒子を用いる場合は、微粒子の物理的な回転や、磁気的な微粒子の位置付けを可能とする。磁化容易軸が同一方向に揃うと、結晶粒や微粒子の間の交換結合が高まり、結果的に角形比及び保磁力の向上を図ることができる。
【0014】
これに対して、図1Bに示す例は、加熱中に印加する磁場が不十分であるか、または磁場を印加しない場合であり、結晶粒又は微粒子の磁気位相が加熱後に変化しても、磁化容易軸は一方向に整列せず、ばらついた向きとなる。角形比及び保磁力は、上述の図1Aにおいて説明した例と比較すると小となる。
【0015】
次に、このような高い磁場中での加熱処理による具体的な効果を説明する。以下の例においては、各例ともに、加熱時間、もしくは加熱及び磁場印加時間を約30分とした。この場合、室温から目的とする温度に至るまでの昇温時間、加熱温度から室温に至る冷却時間は除いた時間を示す。
ゴバルトフェライトより成る磁性材料層の形成は、上述したように種々の形成方法が適用可能であり、例えばスパッタリング、蒸着又は化学的成膜方法などが利用できるが、この例においては、以下の方法により形成した。
すなわち、基板1として例えばSi基板を用い、この上に、粒径が約10nm程度以下のゴバルトナノ微粒子と酸化鉄ナノ微粒子とをトルエン等の分散媒に分散させた塗布液を付着させ、自然乾燥及び真空乾燥させた後加熱処理を行い、ゴバルトフェライト結晶を主成分とする磁性層2を形成することができる。
この磁性層2の加熱前(分散液付着直後)の状態、900℃加熱処理後の状態、1100℃加熱処理後の状態のそれぞれの磁化曲線を図2においてそれぞれ実線c、d及びeで示す。この場合、加熱は常圧下で磁場を印加しない状態で行った。分散液を基板に付着した(加熱前の)状態では、微粒子のサイズが10nm程度以下であるため超常磁性を示すことから、実線cで示すように、角形比は殆どゼロである。900℃の加熱を行った場合は、実線dから明らかなように、角形比は0.5となる。これは加熱の過程で微粒子が焼結することにより磁気位相が変化し、結晶粒が大きくなることによる。900℃で焼結したゴバルトフェライトの粒子は室温で超常磁性のサイズ限界より大きいものと思われる。
また、1100℃で加熱したものは、実線eからわかるように、角形比は0.4と低い値となっている。これは、双極性の対を成すような結晶粒の成長が生じ、焼結粒子の磁化の向きがばらつくことによるものと思われる。または、ゴバルトフェライトの過酸化や不均一な酸化が1100℃という温度下で生じるものと思われる。以上の3つの理由は、1100℃で加熱処理した試料の保磁力が900℃で加熱した試料よりも小さいことも説明できる。
【0016】
図3は、900℃で加熱処理を施したゴバルトフェライトナノ結晶の電子線回折像を示す。この回折像におけるスポットのパターンは、比較的大きいサイズのナノ結晶の分布を示唆する。リング状のパターンはナノ結晶の向きがばらついていることを示唆する。このようなゴバルトフェライトナノ結晶はノズルを通して押し出されて得られる。
図4は、加熱処理を施したゴバルトフェライトの一例におけるHREM(High-resolution electron microscopy:高分解能電子顕微鏡)による顕微鏡観察図である。結晶粒のサイズは20nmから100nmの間である。この結晶は超常磁性を示すサイズの限界を超えているので、室温でフェロ磁性を示す。
図5は、図4に示す結晶におけるより高解像のHREMによる顕微鏡観察図である。加熱により滑らかな表面と明確な組織が見られる。
【0017】
図6は、コバルトフェライトの加熱温度に対する保磁力の変化を示す図である。最も高い保磁力Hcは、加熱温度が900℃のときであることがわかる。磁気記録媒体として用いる場合、保磁力は500Oeを超えることが望ましく、加熱温度は500℃以上1100℃以下とするときに、望ましい保磁力が得られ、更に望ましくは800℃以上1100℃以下程度の加熱温度とするときに、より高い保磁力が得られることがわかる。
【0018】
図7においては、500℃の加熱と同時に0.03T(300Oe相当)の磁束密度の磁場を印加しながら行った場合の磁化曲線を実線f、また磁場を印加することなく900℃の加熱を行った場合の磁化曲線を実線gとして示す。この図7から、500℃の加熱と同時に0.03Tの磁束密度の磁場を印加した場合(磁気的角形比0.6)は、磁場を印加せず900℃の加熱のみを行った場合(角形比0.5)と比べて、加熱温度が低いにもかかわらず角形比が高くなっていることがわかる。これは、磁性材料の角形比を高めるためには、加熱と同時に行う磁場の印加が有効であることを示すものである。
【0019】
しかしながら、このように角形比が0.6以下程度である磁性材料は、前述したような高密度磁気記録媒体の磁性層としては、不十分である。
そこで、加熱温度を500℃、800℃、900℃として、印加磁場の磁束密度を変化させてコバルトフェライトを形成し、その各例の角形比を調べた。この結果を図8に示す。加熱温度を900℃とする場合がどの印加磁場でも最も高くなり、ついで800℃、500℃であることがわかる。
角形比をある程度以上とし、例えば0.6を上回る値とするためには、500℃以上の加熱温度で、5T以上の磁束密度の磁場を印加することが望ましく、より高い角形比を実現するには、10T程度以上とすることが望ましいことがわかる。
また、印加磁場が0である場合に比べ、0.03Tの磁束密度でも、加熱と同時に磁場を印加することで角形比が向上している。磁束密度を10T、14Tと上げるに従いどの例でも角形比は向上している。より高い磁場、例えば20Tの磁束密度の磁場を印加することにより、角形比が1に近づくことが予想できる。
【0020】
図9においては、同様の加熱温度及び印加磁場の磁束密度の条件による磁性材料の保磁力を示す。磁束密度を5T以上、加熱温度を500℃以上とすることによって、高い保磁力を得ることができ、特に磁束密度を5T以上、加熱温度を800℃以上とする場合は、2000Oe以上の高い保磁力を得ることができることがわかる。
加熱温度を800℃、印加磁場の磁束密度を10Tとした例の磁化曲線を図10に示す。図10から明らかなように、この例においては、0.8を超える角形比を達成することができたことがわかる。
【0021】
例えば前述の非特許文献1においては、高価な装置であるスパッタリングによりゴバルトフェライト薄膜を形成し、最も高い角形比として0.76が得られている(例えばApplied Physics Letters, vol.84, p.2596参照。)。このことから、スパッタリング法又はこれに類する方法で形成されるコバルトフェライトにおいて、加熱と同時に磁場を印加し、かつその印加する磁場を高くすると、角形比を更に高めることができることを示しており、5T以上程度の磁束密度の磁場を印加することにより、角形比は0.9程度まで高まる可能性がある。
なお、上述の各例においては、加熱及び磁場の印加時間を約30分とした場合を示したが、コバルトフェライト材料の過酸化及び拡散を回避するためには、この時間は2時間以下とすることが望ましい。
また、印加する磁場の磁束密度は高いほど保磁力及び磁気的角形比を高める効果が大となることが期待される。しかしながら、磁場印加装置の構成の複雑化やコスト高、また所望の効果が得られる範囲を考慮すると、印加する磁場の磁束密度としては、30T以下程度とすることが望ましい。
【0022】
次に、本発明による磁気記録媒体の製造方法について説明する。
磁気記録媒体の基板材料として、ガラス等の耐熱性の材料を用いることができる場合は、上述したような高い磁場を印加しながらの加熱処理を、例えば基板上にゴバルトフェライトを被着したものに適用できて、そのまま磁気記録媒体を製造することができる。
しかしながら、現在多く使用されている例えば可撓性のポリマー等を基材とした磁気記録媒体を形成する場合には、このような加熱処理を行うことができない。そこで、予め磁場を印加しながら加熱処理を行った磁性材料を用意する必要がある。その後上述したような例えば可撓性の基材にこの磁性材料を付着すればよい。そこで、予め磁場を印加しながら加熱処理を行ったゴバルトフェライト磁性材料を、例えばポリマー等の基材の上に被着して磁気記録媒体を製造する方法について説明する。
【0023】
図11は、ゴバルトフェライトより成る磁性層を有する磁気記録媒体の製造方法の一例の一工程を示す概略構成図である。高い磁場を印加して加熱処理を行ったゴバルトフェライト粉又は微粒子18が充填されたノズル11が、例えば有機材料より成る液体状の結合剤16が表面に塗布された基材10の上に配置される。基材10は、矢印tで示す方向に移動するように、図示しないが移動手段上に載置される。基材10としては、可撓性のポリマーフィルム等を用いることができる。そして、ノズル11の吐出口を挟むように一対のコイル等より成る磁場印加手段17が例えば基材10を覆うように設けられて成る。ノズル11の吐出口近傍にも、このノズル11を覆うように磁場印加手段19が設けられて成る。また、図示しないが、コバルトフェライト粉/微粒子18を塗布した後、紫外線照射手段や加熱手段など、通常の磁気記録媒体を製造する処理に必要な処理手段が設けられる。
【0024】
このような配置で、ノズル11の吐出口からコバルトフェライト粉又は微粒子18が基材10上の結合剤16に押し出されると共に、矢印tで示すように、基材10が移動されて、粉/微粒子18が整列した薄膜が基材10上において磁性層20として形成される。この場合、基材10の送り速度か、コバルトフェライト粉/微粒子のノズル11からの噴出速度を変化させることによって、磁性層20の厚さの調整が可能である。すなわち、基材10の移動速度を遅く、コバルトフェライト粉/微粒子18の噴出速度を遅くするほど、磁性層20の厚さが厚くなり、逆の条件では、磁性層20の厚さは薄くなる。
【0025】
そして、ノズル11から押し出されるコバルトフェライト粉/微粒子18は、ノズル11に注入された状態では磁化容易軸の向きはランダムな方向を向いているが、磁場印加手段19により矢印m1で示すように磁場を印加することによって、ノズル11の吐出口から押し出されたときに磁化容易軸が印加された磁場の向きにほぼ揃った状態で押し出され、結合剤16と接触すると、基材10の表面に付着される。
更に、磁場印加手段17により矢印m2で示すように、ノズル11から吐出されたコバルトフェライト粉/微粒子18が基材10上に付着する部分において磁場が印加される。コバルトフェライト粉/微粒子18は、結合剤16の中では物理的に回転可能であるため、磁場印加手段17による磁場の印加によって、その磁化容易軸の向きが矢印aで示すように揃った状態で基材10上に整列する。
この場合、印加する磁場m1、m2としては100Oe程度以上で、コバルトフェライト粉/微粒子18の保磁力未満の磁場とする。
【0026】
なお、図11においては、一例として基材10の面内方向の磁場を印加した例を示すが、例えば垂直方向に印加することによって、基材10の面に対し垂直な方向、あるいは垂直な方向から所定の方向に磁場を印加することによって、所定の角度に磁化容易軸を揃えることも可能である。また、磁場印加手段17及び19は、上述の例のように磁気コイルに限定されるものではなく、その他種々の磁場印加手段が適用可能であり、またコバルトフェライト粉/微粒子18の磁化容易軸を十分揃えられる条件であれば、どちらか一方の磁場印加手段17又は19のみでもよい。
そして、このようにコバルトフェライト粉/微粒子18を、その磁化容易軸が揃うように整列させて基材10に付着させた後、矢印uで模式的に示すように、結合剤16を硬化させる処理、例えば紫外線硬化樹脂を用いる場合は紫外線照射を行う。更にこの後、矢印hで模式的に示すように、結合剤16を硬化させる加熱処理を行う。この後、基材10に、例えば表面保護層を形成する処理を施し、通常のメタル塗布型テープ或いはメタル蒸着型テープと同様の構成の磁気記録媒体を得ることができる。
このようにして製造した磁気記録媒体は、保磁力及び磁気的角形比に優れた磁気特性を有し、高密度磁気記録に適用可能な磁気記録媒体を提供することができる。
【0027】
すなわち、本発明の磁気記録媒体の製造方法によれば、以下の利点がある。
1.磁性層の磁化容易軸の向きを外部磁場の印加によって容易に制御することができる。
2.基材への付着工程の前に、磁性層材料であるコバルトフェライト微粒子又は粉末には、5T以上の磁束密度の磁場の印加及び500℃以上の加熱処理によって、保磁力及び磁気的角形比が高められ、調整されている。磁気的特性を調整する何らかの処理手段や装置を必要としない。
3.種々の形態、大きさの粉末又は微粒子材料を用いる一般的な技術を用いることができる。
【0028】
以上説明したように、本発明によれば、コバルトフェライトの加熱処理と同時に高い磁束密度、例えば5T以上の磁場を印加することによって、保磁力、磁気的角形比を共に向上することができることがわかる。そして、このように、高い保磁力及び磁気的角形比を有するコバルトフェライト粉末又は微粒子を用いた本発明の磁気記録媒体の製造方法によれば、高い磁気特性を有する磁気記録媒体を提供することができることがわかる。
【0029】
なお、本発明は、上述の例に限定されるものではなく、その他コバルト及び鉄酸化物を加熱処理する際の基板材料など、また磁気記録媒体の製造工程において、本発明構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】Aは本発明のコバルトフェライト磁性材料の製造方法の一例の一製造工程図である。Bはコバルトフェライト磁性材料の製造方法の一例の一製造工程図である。
【図2】コバルトフェライト磁性材料の比較例の磁化曲線を示す図である。
【図3】コバルトフェライト磁性材料の一例の電子線回折像を示す図である。
【図4】コバルトフェライト磁性材料の一例のHREMによる顕微鏡観察図である。
【図5】コバルトフェライト磁性材料の一例のHREMによる高解像な顕微鏡観察図である。
【図6】コバルトフェライト磁性材料の加熱温度に対する保磁力の変化を示す図である。
【図7】コバルトフェライト磁性材料の各例の磁化曲線を示す図である。
【図8】コバルトフェライト磁性材料の各例の印加磁束密度に対する角形比の変化を示す図である。
【図9】コバルトフェライト磁性材料の各例の印加磁束密度に対する保磁力の変化を示す図である。
【図10】本発明によるコバルトフェライト磁性材料の一例の磁化曲線を示す図である。
【図11】本発明の磁気記録媒体の製造方法の一例を示す一製造工程図である。
【符号の説明】
【0031】
1.基板、2.材料層、10.基材、11.ノズル、16.結合剤、17.磁場印加手段、18.コバルトフェライト粉/微粒子、19.磁場印加手段、20.磁性層
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルトフェライト磁性材料の処理方法及び製造方法と磁気記録媒体の製造方法に関し、特に強磁場中加熱を利用してコバルトフェライトの磁気特性の向上を図ったコバルトフェライト磁性材料の処理方法、コバルトフェライト磁性材料の製造方法及び磁気記録媒体の製造方法にする。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体の製造方法は多数あり、スパッタリングや金属蒸着、塗布、印刷などがあげられる。これらの製造方法により作成された磁気記録媒体の磁気特性は、殆ど材料固有の性質に依存する。磁気的角形比(すなわち残留磁化/飽和磁化の比)や保磁力は、磁気記録媒体の記録特性に影響する2つの重要な性質である。
Co及びCoO材料を用いた蒸着テープ型磁気記録媒体では、角形比や保磁力の制御は、酸化の条件を管理するとか、磁性層の厚さを変化させること、また磁性層の磁気的特性に有利な構造を誘起する下地層の導入などが挙げられる。これらの方法は、1つの磁気記録媒体の製造方法に対して、最適な条件を見出すために多大な時間と労力を要する。Co及びCoOを用いた蒸着テープの場合、異なる製造条件では、保磁力が1000Oe(80kA/m)から2000Oe(160kA/m)にまで変化してしまい、磁気的角形比もおおよそ0.6から0.8までばらついてしまうことがわかっている。
一般的には、高密度磁気記録媒体においては、磁気的角形比は高いほど望ましく、また保磁力は1800Oe(144kA/m)以上であることが望ましい。
【0003】
他の磁性材料として、磁気異方性が高く、保磁力の優れた材料として、コバルトフェライトがあげられる。このコバルトフェライトの磁気特性を高めるために、加熱処理を行う方法が提案されている(例えば非特許文献1参照。)。
また、コバルトフェライト以外の材料では、例えば光アイソレータとして利用されているビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶において、これを磁場中加熱することによって、磁気的特性を高める方法が提案されている(特許文献1参照。)。
【0004】
【非特許文献1】Y.C.Wang et al, “High-coercivity Co-ferrite thin films on (100)-SiO2 substrate”, Applied Physics Letters, Vol.84, No.14,5 April 2004, pp.2596-2598
【特許文献1】特開2003−195241号公開公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記非特許文献1に開示の方法では、コバルトフェライトの保磁力は高くなっているが、最適な加熱温度に設定した場合においても、十分高い角形比が得られていない。
また、上記特許文献1に開示の方法で得られる材料は、上述したような高密度磁気記録媒体にはそのまま利用することはできず、また磁気的角形比については検討されていない。
【0006】
以上の問題に鑑みて、本発明は、強磁場中加熱を利用してコバルトフェライト磁性材料の保磁力及び磁気的角形比を高め、これを磁性層に用いて磁気的特性に優れた磁気記録媒体を製造することが可能なコバルトフェライト磁性材料の製造方法及び磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明によるコバルトフェライト磁性材料の製造方法は、基板上に、混合したコバルトと酸化鉄より成る材料、またはコバルトフェライトを堆積させる工程と、前記基板を磁場中で加熱処理する工程とを少なくとも有することを特徴とする。
また、本発明は、上述のコバルトフェライト磁性材料の製造方法において、印加する磁場の磁束密度を5T以上とし、加熱温度を500℃以上1100℃以下とすることを特徴とする。
【0008】
更に、本発明の磁気記録媒体の製造方法は、基材上に磁性層を形成して磁気記録媒体を製造する磁気記録媒体の製造方法であって、磁束密度5T以上の磁場中で、処理温度を500℃以上1100℃以下として熱処理したコバルトフェライトより成る磁性材料を分散媒中に分散させて、ノズルに注入する工程と、結合剤を塗布した基材の上に前記ノズルから前記磁性材料を噴出し、かつ磁場を印加する工程と、前記磁場を印加した基材を熱処理する工程とを少なくとも有することを特徴とする。
【0009】
上述したように、本発明においては、コバルトと酸化鉄を混合した材料、もしくはコバルトフェライトに対して磁場中熱処理を行うものである。本発明者の考察研究の結果、非常に強い磁場を印加しながら同時に加熱処理を行うことによって、保磁力及び磁気的角形比を共に高めることができることを見出した。
特に、印加する磁場を5T以上とし、加熱温度を500℃以上1100℃以下とすることによって、磁気的角形比において0.6を超える値を実現することができ、これを磁気記録媒体の製造方法に利用することによって、良好な磁気記録特性の磁気記録媒体を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明のコバルトフェライト磁性材料の処理方法によれば、保磁力及び磁気的角形比の向上を図ることができる。
更に、本発明の磁気記録媒体の製造方法によれば、保磁力及び磁気的角形比の向上を図り、磁気記録特性に優れた磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明を実施するための最良の形態の例を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
以下の例においては、本発明におけるコバルトフェライト磁性材料の製造方法と、これを磁気記録媒体の製造方法に適用した例を示すが、本発明は、コバルトフェライトに他の材料を添加した種々の磁性材料の処理方法、製造方法にも適用可能である。
【0012】
先ず、コバルトフェライト磁性材料の製造方法の一例の一製造工程を示す図1A及び図1Bを参照して説明する。基板1上に、コバルト及び鉄酸化物の混合物、またはコバルトフェライトより成る材料層2が形成される。基板1の材料としては、その融点がこの基板上に形成する材料層2の加熱処理温度を超える温度である材料とし、また高温処理に対する耐久性を有する例えばSiを用いることができる。
材料層2は、例えばゴバルトと、フェライト酸化物又はゴバルト酸化物の混合物より成る薄膜を用いることができる。材料層2の区切られた部分は、結晶粒又は微粒子を示し、その中の矢印aはこれらの磁化容易軸の向きを模式的に示したものである。
材料層2の基板1上への形成方法としては、単純な分散法、ディッピング法、スピンコート法、スパッタリング、蒸着などの気相成長法などの種々の形成方法を用いることができる。図1Aにおいては、材料層2の形成後、基板1及び材料層2に対して矢印bで模式的に示すように高い磁場を印加して加熱する例を示す。図1Bにおいては、非常に弱い磁場b´を印加するか、または磁場を印加しないで加熱する例を示す。
【0013】
図1Aに示すように、強い磁場を印加して加熱した場合は、材料層2の結晶粒又は粒子の磁化容易軸は印加した磁場の向きと平行な向きに揃えられる。加熱処理は、磁場の印加が磁性材料の結晶粒又は粒子の磁気モーメントがこの磁場に揃う状態変化を引き起こす効果を目的とするものである。磁性微粒子を用いる場合は、微粒子の物理的な回転や、磁気的な微粒子の位置付けを可能とする。磁化容易軸が同一方向に揃うと、結晶粒や微粒子の間の交換結合が高まり、結果的に角形比及び保磁力の向上を図ることができる。
【0014】
これに対して、図1Bに示す例は、加熱中に印加する磁場が不十分であるか、または磁場を印加しない場合であり、結晶粒又は微粒子の磁気位相が加熱後に変化しても、磁化容易軸は一方向に整列せず、ばらついた向きとなる。角形比及び保磁力は、上述の図1Aにおいて説明した例と比較すると小となる。
【0015】
次に、このような高い磁場中での加熱処理による具体的な効果を説明する。以下の例においては、各例ともに、加熱時間、もしくは加熱及び磁場印加時間を約30分とした。この場合、室温から目的とする温度に至るまでの昇温時間、加熱温度から室温に至る冷却時間は除いた時間を示す。
ゴバルトフェライトより成る磁性材料層の形成は、上述したように種々の形成方法が適用可能であり、例えばスパッタリング、蒸着又は化学的成膜方法などが利用できるが、この例においては、以下の方法により形成した。
すなわち、基板1として例えばSi基板を用い、この上に、粒径が約10nm程度以下のゴバルトナノ微粒子と酸化鉄ナノ微粒子とをトルエン等の分散媒に分散させた塗布液を付着させ、自然乾燥及び真空乾燥させた後加熱処理を行い、ゴバルトフェライト結晶を主成分とする磁性層2を形成することができる。
この磁性層2の加熱前(分散液付着直後)の状態、900℃加熱処理後の状態、1100℃加熱処理後の状態のそれぞれの磁化曲線を図2においてそれぞれ実線c、d及びeで示す。この場合、加熱は常圧下で磁場を印加しない状態で行った。分散液を基板に付着した(加熱前の)状態では、微粒子のサイズが10nm程度以下であるため超常磁性を示すことから、実線cで示すように、角形比は殆どゼロである。900℃の加熱を行った場合は、実線dから明らかなように、角形比は0.5となる。これは加熱の過程で微粒子が焼結することにより磁気位相が変化し、結晶粒が大きくなることによる。900℃で焼結したゴバルトフェライトの粒子は室温で超常磁性のサイズ限界より大きいものと思われる。
また、1100℃で加熱したものは、実線eからわかるように、角形比は0.4と低い値となっている。これは、双極性の対を成すような結晶粒の成長が生じ、焼結粒子の磁化の向きがばらつくことによるものと思われる。または、ゴバルトフェライトの過酸化や不均一な酸化が1100℃という温度下で生じるものと思われる。以上の3つの理由は、1100℃で加熱処理した試料の保磁力が900℃で加熱した試料よりも小さいことも説明できる。
【0016】
図3は、900℃で加熱処理を施したゴバルトフェライトナノ結晶の電子線回折像を示す。この回折像におけるスポットのパターンは、比較的大きいサイズのナノ結晶の分布を示唆する。リング状のパターンはナノ結晶の向きがばらついていることを示唆する。このようなゴバルトフェライトナノ結晶はノズルを通して押し出されて得られる。
図4は、加熱処理を施したゴバルトフェライトの一例におけるHREM(High-resolution electron microscopy:高分解能電子顕微鏡)による顕微鏡観察図である。結晶粒のサイズは20nmから100nmの間である。この結晶は超常磁性を示すサイズの限界を超えているので、室温でフェロ磁性を示す。
図5は、図4に示す結晶におけるより高解像のHREMによる顕微鏡観察図である。加熱により滑らかな表面と明確な組織が見られる。
【0017】
図6は、コバルトフェライトの加熱温度に対する保磁力の変化を示す図である。最も高い保磁力Hcは、加熱温度が900℃のときであることがわかる。磁気記録媒体として用いる場合、保磁力は500Oeを超えることが望ましく、加熱温度は500℃以上1100℃以下とするときに、望ましい保磁力が得られ、更に望ましくは800℃以上1100℃以下程度の加熱温度とするときに、より高い保磁力が得られることがわかる。
【0018】
図7においては、500℃の加熱と同時に0.03T(300Oe相当)の磁束密度の磁場を印加しながら行った場合の磁化曲線を実線f、また磁場を印加することなく900℃の加熱を行った場合の磁化曲線を実線gとして示す。この図7から、500℃の加熱と同時に0.03Tの磁束密度の磁場を印加した場合(磁気的角形比0.6)は、磁場を印加せず900℃の加熱のみを行った場合(角形比0.5)と比べて、加熱温度が低いにもかかわらず角形比が高くなっていることがわかる。これは、磁性材料の角形比を高めるためには、加熱と同時に行う磁場の印加が有効であることを示すものである。
【0019】
しかしながら、このように角形比が0.6以下程度である磁性材料は、前述したような高密度磁気記録媒体の磁性層としては、不十分である。
そこで、加熱温度を500℃、800℃、900℃として、印加磁場の磁束密度を変化させてコバルトフェライトを形成し、その各例の角形比を調べた。この結果を図8に示す。加熱温度を900℃とする場合がどの印加磁場でも最も高くなり、ついで800℃、500℃であることがわかる。
角形比をある程度以上とし、例えば0.6を上回る値とするためには、500℃以上の加熱温度で、5T以上の磁束密度の磁場を印加することが望ましく、より高い角形比を実現するには、10T程度以上とすることが望ましいことがわかる。
また、印加磁場が0である場合に比べ、0.03Tの磁束密度でも、加熱と同時に磁場を印加することで角形比が向上している。磁束密度を10T、14Tと上げるに従いどの例でも角形比は向上している。より高い磁場、例えば20Tの磁束密度の磁場を印加することにより、角形比が1に近づくことが予想できる。
【0020】
図9においては、同様の加熱温度及び印加磁場の磁束密度の条件による磁性材料の保磁力を示す。磁束密度を5T以上、加熱温度を500℃以上とすることによって、高い保磁力を得ることができ、特に磁束密度を5T以上、加熱温度を800℃以上とする場合は、2000Oe以上の高い保磁力を得ることができることがわかる。
加熱温度を800℃、印加磁場の磁束密度を10Tとした例の磁化曲線を図10に示す。図10から明らかなように、この例においては、0.8を超える角形比を達成することができたことがわかる。
【0021】
例えば前述の非特許文献1においては、高価な装置であるスパッタリングによりゴバルトフェライト薄膜を形成し、最も高い角形比として0.76が得られている(例えばApplied Physics Letters, vol.84, p.2596参照。)。このことから、スパッタリング法又はこれに類する方法で形成されるコバルトフェライトにおいて、加熱と同時に磁場を印加し、かつその印加する磁場を高くすると、角形比を更に高めることができることを示しており、5T以上程度の磁束密度の磁場を印加することにより、角形比は0.9程度まで高まる可能性がある。
なお、上述の各例においては、加熱及び磁場の印加時間を約30分とした場合を示したが、コバルトフェライト材料の過酸化及び拡散を回避するためには、この時間は2時間以下とすることが望ましい。
また、印加する磁場の磁束密度は高いほど保磁力及び磁気的角形比を高める効果が大となることが期待される。しかしながら、磁場印加装置の構成の複雑化やコスト高、また所望の効果が得られる範囲を考慮すると、印加する磁場の磁束密度としては、30T以下程度とすることが望ましい。
【0022】
次に、本発明による磁気記録媒体の製造方法について説明する。
磁気記録媒体の基板材料として、ガラス等の耐熱性の材料を用いることができる場合は、上述したような高い磁場を印加しながらの加熱処理を、例えば基板上にゴバルトフェライトを被着したものに適用できて、そのまま磁気記録媒体を製造することができる。
しかしながら、現在多く使用されている例えば可撓性のポリマー等を基材とした磁気記録媒体を形成する場合には、このような加熱処理を行うことができない。そこで、予め磁場を印加しながら加熱処理を行った磁性材料を用意する必要がある。その後上述したような例えば可撓性の基材にこの磁性材料を付着すればよい。そこで、予め磁場を印加しながら加熱処理を行ったゴバルトフェライト磁性材料を、例えばポリマー等の基材の上に被着して磁気記録媒体を製造する方法について説明する。
【0023】
図11は、ゴバルトフェライトより成る磁性層を有する磁気記録媒体の製造方法の一例の一工程を示す概略構成図である。高い磁場を印加して加熱処理を行ったゴバルトフェライト粉又は微粒子18が充填されたノズル11が、例えば有機材料より成る液体状の結合剤16が表面に塗布された基材10の上に配置される。基材10は、矢印tで示す方向に移動するように、図示しないが移動手段上に載置される。基材10としては、可撓性のポリマーフィルム等を用いることができる。そして、ノズル11の吐出口を挟むように一対のコイル等より成る磁場印加手段17が例えば基材10を覆うように設けられて成る。ノズル11の吐出口近傍にも、このノズル11を覆うように磁場印加手段19が設けられて成る。また、図示しないが、コバルトフェライト粉/微粒子18を塗布した後、紫外線照射手段や加熱手段など、通常の磁気記録媒体を製造する処理に必要な処理手段が設けられる。
【0024】
このような配置で、ノズル11の吐出口からコバルトフェライト粉又は微粒子18が基材10上の結合剤16に押し出されると共に、矢印tで示すように、基材10が移動されて、粉/微粒子18が整列した薄膜が基材10上において磁性層20として形成される。この場合、基材10の送り速度か、コバルトフェライト粉/微粒子のノズル11からの噴出速度を変化させることによって、磁性層20の厚さの調整が可能である。すなわち、基材10の移動速度を遅く、コバルトフェライト粉/微粒子18の噴出速度を遅くするほど、磁性層20の厚さが厚くなり、逆の条件では、磁性層20の厚さは薄くなる。
【0025】
そして、ノズル11から押し出されるコバルトフェライト粉/微粒子18は、ノズル11に注入された状態では磁化容易軸の向きはランダムな方向を向いているが、磁場印加手段19により矢印m1で示すように磁場を印加することによって、ノズル11の吐出口から押し出されたときに磁化容易軸が印加された磁場の向きにほぼ揃った状態で押し出され、結合剤16と接触すると、基材10の表面に付着される。
更に、磁場印加手段17により矢印m2で示すように、ノズル11から吐出されたコバルトフェライト粉/微粒子18が基材10上に付着する部分において磁場が印加される。コバルトフェライト粉/微粒子18は、結合剤16の中では物理的に回転可能であるため、磁場印加手段17による磁場の印加によって、その磁化容易軸の向きが矢印aで示すように揃った状態で基材10上に整列する。
この場合、印加する磁場m1、m2としては100Oe程度以上で、コバルトフェライト粉/微粒子18の保磁力未満の磁場とする。
【0026】
なお、図11においては、一例として基材10の面内方向の磁場を印加した例を示すが、例えば垂直方向に印加することによって、基材10の面に対し垂直な方向、あるいは垂直な方向から所定の方向に磁場を印加することによって、所定の角度に磁化容易軸を揃えることも可能である。また、磁場印加手段17及び19は、上述の例のように磁気コイルに限定されるものではなく、その他種々の磁場印加手段が適用可能であり、またコバルトフェライト粉/微粒子18の磁化容易軸を十分揃えられる条件であれば、どちらか一方の磁場印加手段17又は19のみでもよい。
そして、このようにコバルトフェライト粉/微粒子18を、その磁化容易軸が揃うように整列させて基材10に付着させた後、矢印uで模式的に示すように、結合剤16を硬化させる処理、例えば紫外線硬化樹脂を用いる場合は紫外線照射を行う。更にこの後、矢印hで模式的に示すように、結合剤16を硬化させる加熱処理を行う。この後、基材10に、例えば表面保護層を形成する処理を施し、通常のメタル塗布型テープ或いはメタル蒸着型テープと同様の構成の磁気記録媒体を得ることができる。
このようにして製造した磁気記録媒体は、保磁力及び磁気的角形比に優れた磁気特性を有し、高密度磁気記録に適用可能な磁気記録媒体を提供することができる。
【0027】
すなわち、本発明の磁気記録媒体の製造方法によれば、以下の利点がある。
1.磁性層の磁化容易軸の向きを外部磁場の印加によって容易に制御することができる。
2.基材への付着工程の前に、磁性層材料であるコバルトフェライト微粒子又は粉末には、5T以上の磁束密度の磁場の印加及び500℃以上の加熱処理によって、保磁力及び磁気的角形比が高められ、調整されている。磁気的特性を調整する何らかの処理手段や装置を必要としない。
3.種々の形態、大きさの粉末又は微粒子材料を用いる一般的な技術を用いることができる。
【0028】
以上説明したように、本発明によれば、コバルトフェライトの加熱処理と同時に高い磁束密度、例えば5T以上の磁場を印加することによって、保磁力、磁気的角形比を共に向上することができることがわかる。そして、このように、高い保磁力及び磁気的角形比を有するコバルトフェライト粉末又は微粒子を用いた本発明の磁気記録媒体の製造方法によれば、高い磁気特性を有する磁気記録媒体を提供することができることがわかる。
【0029】
なお、本発明は、上述の例に限定されるものではなく、その他コバルト及び鉄酸化物を加熱処理する際の基板材料など、また磁気記録媒体の製造工程において、本発明構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】Aは本発明のコバルトフェライト磁性材料の製造方法の一例の一製造工程図である。Bはコバルトフェライト磁性材料の製造方法の一例の一製造工程図である。
【図2】コバルトフェライト磁性材料の比較例の磁化曲線を示す図である。
【図3】コバルトフェライト磁性材料の一例の電子線回折像を示す図である。
【図4】コバルトフェライト磁性材料の一例のHREMによる顕微鏡観察図である。
【図5】コバルトフェライト磁性材料の一例のHREMによる高解像な顕微鏡観察図である。
【図6】コバルトフェライト磁性材料の加熱温度に対する保磁力の変化を示す図である。
【図7】コバルトフェライト磁性材料の各例の磁化曲線を示す図である。
【図8】コバルトフェライト磁性材料の各例の印加磁束密度に対する角形比の変化を示す図である。
【図9】コバルトフェライト磁性材料の各例の印加磁束密度に対する保磁力の変化を示す図である。
【図10】本発明によるコバルトフェライト磁性材料の一例の磁化曲線を示す図である。
【図11】本発明の磁気記録媒体の製造方法の一例を示す一製造工程図である。
【符号の説明】
【0031】
1.基板、2.材料層、10.基材、11.ノズル、16.結合剤、17.磁場印加手段、18.コバルトフェライト粉/微粒子、19.磁場印加手段、20.磁性層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、混合したコバルトと酸化鉄より成る材料、またはコバルトフェライトを堆積させる工程と、
前記基板を磁場中で加熱処理する工程とを少なくとも有する
ことを特徴とするコバルトフェライト磁性材料の製造方法。
【請求項2】
前記基板に印加する磁場の磁束密度を5T(テスラ)以上とし、
前記基板の加熱処理温度を500℃以上1100℃以下とする
ことを特徴とする請求項1記載のコバルトフェライト磁性材料の製造方法。
【請求項3】
基材上に磁性層を形成して磁気記録媒体を製造する磁気記録媒体の製造方法であって、
磁束密度5T以上の磁場中で、処理温度を500℃以上1100℃以下として熱処理したコバルトフェライトより成る磁性材料を分散媒中に分散させて、ノズルに注入する工程と、
結合剤を塗布した基材の上に前記ノズルから前記磁性材料を噴出し、かつ磁場を印加する工程と、
前記磁場を印加した基材を熱処理する工程とを少なくとも有する
ことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項1】
基板上に、混合したコバルトと酸化鉄より成る材料、またはコバルトフェライトを堆積させる工程と、
前記基板を磁場中で加熱処理する工程とを少なくとも有する
ことを特徴とするコバルトフェライト磁性材料の製造方法。
【請求項2】
前記基板に印加する磁場の磁束密度を5T(テスラ)以上とし、
前記基板の加熱処理温度を500℃以上1100℃以下とする
ことを特徴とする請求項1記載のコバルトフェライト磁性材料の製造方法。
【請求項3】
基材上に磁性層を形成して磁気記録媒体を製造する磁気記録媒体の製造方法であって、
磁束密度5T以上の磁場中で、処理温度を500℃以上1100℃以下として熱処理したコバルトフェライトより成る磁性材料を分散媒中に分散させて、ノズルに注入する工程と、
結合剤を塗布した基材の上に前記ノズルから前記磁性材料を噴出し、かつ磁場を印加する工程と、
前記磁場を印加した基材を熱処理する工程とを少なくとも有する
ことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2006−253590(P2006−253590A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−71534(P2005−71534)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年1月11日 ソニー株式会社発行の「ソニー公開技報 2005 Vol.14 No.1」に発表
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年1月11日 ソニー株式会社発行の「ソニー公開技報 2005 Vol.14 No.1」に発表
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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