コラーゲン阻害剤を含む医療デバイス
本明細書では、基質と、基質の表面上または基質中にコラーゲン阻害剤とを含む植え込み型または挿入型生物医学デバイス、およびこれを使用する治療方法が提供される。一部の実施形態では、本デバイスは、尿道、尿管、または腎尿管用のカテーテルまたはステントである。一部の実施形態では、本デバイスは、吸収性食道または気管ステントである。本明細書では、基質と、基質の表面上または基質中にコラーゲン阻害剤とを含む創傷閉鎖デバイスもまた提供される。さらに、基質と基質の表面上または基質中にコラーゲン阻害剤を含む外科用パッキングもまた提供される。被験者における癒着を防止するための、予備形成された、もしくは被験者内において形成可能なバリア基質と、基質の表面上または基質中にコラーゲン阻害剤とを含むバリア材料がさらに提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、2006年12月1日に出願された米国仮特許出願第60/868,217号明細書の利益を主張するものであり、当該特許の開示は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
[発明の分野] 本発明は、カテーテルおよびステントなどの植え込み型デバイス、ならびにステープルおよび縫合糸などの創傷閉鎖デバイスを含む医療デバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
瘢痕組織は、外傷後の組織損傷に反応して形成される。この反応は、複数の炎症経路によって媒介され、コラーゲン、ヒアルロン酸、フィブロネクチン、およびプロテオグリカンの複合マトリックスの発達を含む(Salamone et al.,Current Otolaryngology,McGraw Hill,2006)。比較的に好都合ではあるが、瘢痕組織沈着による治癒(瘢痕形成)は、複数の胚葉新生による機能性組織に取って代わることはない。
【0004】
米合衆国内では年間4,500万例の手術が施行されているが、どの手術についても瘢痕組織の形成は不可避である(DeFrances et al.,Advance Data From Vital and Health Statistics.2006 May;371:14)。管状構造、例えば食道、気管気管支樹、尿管、ファローピウス管および腸への手術または他の外傷後の線維性癒着の形成は、慢性疾患や死亡を引き起こすことがある。筋肉、骨および皮膚組織内で形成される瘢痕組織は、慢性的整形外科的状態、慢性疼痛、審美的変形および生活の質の低下を引き起こすことがある。
【0005】
1つの例は、副鼻腔手術である。副鼻腔は、哺乳動物の顔面骨格における空隙である。この空隙は、様々な状態、例えばアレルギー、感染症、腫瘍、および放射線療法に起因して閉塞してしまう可能性がある。従来型の内科的治療が失敗した場合、副鼻腔手術は、副鼻腔からの排膿を達成するため、そして副鼻腔閉塞の症状を緩和するために使用される一般的手技である。200,000人近くの慢性副鼻腔疾患患者が副鼻腔手術を受けているが、この手術は50%を超える症例において不都合な瘢痕形成のために失敗している(Musy et al.,American Journal of Otolaryngology.2004 Nov−Dec;25(6):418−22)。修正手術は、初回手術より合併症率が高く、成功が得られることが少なく、生活の質の目に見える低下と結び付いている(Jiang et al.,Annals of Otology,Rhinology,and Laryngology,2002 Feb;l11(2):155−59)。
【0006】
創傷治癒中の瘢痕組織形成を減少させるための、例えば抗炎症薬や線維芽細胞増殖阻害剤を用いる試みは、間接的あり、大部分は無効である。これらの薬剤は、非特異的であり、線維芽細胞を阻害するだけではなく、上皮細胞移動をも阻害する。副鼻腔手術では、詳細には、副鼻腔破壊片の活性粘膜絨毛クリアランスを促進する機能的副鼻腔裏層(粘膜)を伴って再上皮化されなければならない腔が作り出される。このため、再上皮化を阻害する薬剤は、副鼻腔における最適治癒に対して逆効果である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、瘢痕組織形成および医学的介入に関連する他の問題を緩和するために、胚葉新生組織プロセスを阻害せずに、瘢痕組織を特異的に標的とする新規なアプローチが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書では、基質と、該基質の表面上または該基質中にコラーゲン阻害剤とを含む植え込み型または挿入型生物医学デバイスが提供される。一部の実施形態では、本デバイスは、尿道、尿管または腎尿管カテーテルまたはステントである。一部の実施形態では、基質は、ビニル、ポリエチレン、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、シリコーン、ラテックス、およびポリプロピレンからなる群から選択される材料を含む。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される。
【0009】
尿道狭窄または尿管狭窄の治療を必要とする被験者において尿道狭窄または尿管狭窄を治療する方法であって、尿道狭窄を治療するための有効量でコラーゲン阻害剤を局所に投与する工程を含む方法もまた提供される。一部の実施形態では、投与する工程は、コラーゲン阻害剤でコーティングされたカテーテル(例、シリコーンカテーテル)を用いてステント装着する工程によって実施される。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される。
【0010】
本明細書では、基質と、該基質の表面上または該基質中にコラーゲン阻害剤とを含む創傷閉鎖デバイスもまた提供される。一部の実施形態では、基質は、生分解性基質および非生分解性(不活性)基質からなる群から選択される。一部の実施形態では、本デバイスは、縫合糸、ステープル、テープ、または包帯である。一部の実施形態では、基質には、生分解性ポリマー、例えばポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ラクチド−コグリコリド)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)、ポリ(カプロラクトン)、ポリカーボネート、ポリエステルアミド、ポリ無水物、ポリ(アミノ酸)、ポリ(オルトエステル)、ポリシアノアクリレート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリ(エーテルエステル)、ポリ(エチレングリコール)とポリ(オルトエステル)のコポリマー、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(アルキレンアルキレート)、生分解性ポリウレタン、それらのブレンドおよびコポリマーなどが含まれる。一部の実施形態では、基質は、編繊維、織繊維、もしくは不織繊維材料、例えば、シルク、綿、レーヨン、リネン、羊毛、サテン、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレンもしくはそれらの組み合わせである。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される。
【0011】
さらに、基質と、該基質の表面上または該基質中にコラーゲン阻害剤とを含む外科用パッキング(例、副鼻腔パッキング)もまた提供される。一部の実施形態では、基質は、オキシセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、微結晶セルロース、キサンタンガム、二酸化ケイ素、およびそれらの混合物からなる群から選択される材料を含む。一部の実施形態では、基質は、乾燥粉末の形状である。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される。
【0012】
副鼻腔創傷の治療を必要とする被験者において副鼻腔創傷を治療する方法であって、該創傷を治療するための有効量でコラーゲン阻害剤を局所に投与する工程を含む方法が提供される。一部の実施形態では、投与する工程は、副鼻腔を、コラーゲン阻害剤を含む副鼻腔パッキング材料(例、セルロース化合物またはゲル)で充填する工程によって実施される。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される。
【0013】
食道狭窄または気管狭窄の治療を必要とする被験者において食道狭窄または気管狭窄を治療する方法であって、該被験者における狭窄を治療するための有効量でコラーゲン阻害剤を局所に投与する工程を含む方法もまた提供される。一部の実施形態では、該投与する工程は、該コラーゲン阻害剤を含む生分解性ステントを用いて該狭窄にステント装着する工程によって実施される。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される。
【0014】
被験者における癒着を防止するための、予備形成された、または被験者内において形成可能なバリア基質と、該基質の表面上または基質中にコラーゲン阻害剤とを含むバリア材料がさらに提供される。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される。
【0015】
腹部癒着を必要とする被験者における腹部癒着を治療する方法であって、該被験者における該腹部癒着を治療するための有効量でコラーゲン阻害剤を該被験者の腹腔内へ局所に投与する工程を含む方法が提供される。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される。
【0016】
さらに、上述した治療方法におけるコラーゲン阻害剤を含む基質の使用が提供される。
【0017】
植え込み型もしくは挿入型生物医学デバイスを含むキットもまた提供される。
【0018】
本明細書では以下に本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】3段階にわたる創傷治癒を示す概略図である。A:炎症、B:線維組織形成、C:成熟
【図2】倍率200倍での、HF−Brがコーティングされた3−0 Vicryl縫合糸(A)およびコーティングされていない3−0 Vicryl縫合糸(B)の走査型電子顕微鏡写真。
【図3】インビトロでのHF−Brの溶出は、243nmでのUV分光法によって検出された迅速な薬物放出を示している。
【図4】組織学的検査結果を示す図である。図4Aは創傷の領域を示す。図4Bは線維芽細胞数を示す。Vicはコーティングされていない3−0 Vicryl縫合糸であり、VicNBCはコーティングされていない3−0 Vicryl縫合糸であって、N−ブチル−2−シアノアクリレート接着剤が局所に適用された。HFVicは、臭化ハロフジノンでコーティングされた3−0 Vicryl縫合糸であって、VicNBCHFは、コーティングされていない3−0 Vicryl縫合糸であって、N−ブチル−2−シアノアクリレート接着剤および臭化ハロフジノンが局所に適用された。HF−Br:臭化ハロフジノン。
【図5】コラーゲンα1の遺伝発現。コラーゲンα1遺伝子発現の相対量は、18S(5A)およびGAPDH(5B)RNAの発現レベルを用いて標準化した。次にこれらの数値を正常皮膚内での相対量のコラーゲンα1遺伝子発現で割った。
【図6】2、6および12週間後の炎症のグレード判定。
【図7】2、6および12週間後の創傷領域。
【図8】HF−Br処置群および対照群創傷中の塩可溶性コラーゲンの質量率は、Sircol(商標)可溶性コラーゲンアッセイによって決定した。塩可溶性コラーゲンは、新しく生成されたコラーゲンを代表する。
【図9A】2および12週間後の、サンプルの硬さ(9A)、最終引張荷重(9B)および伸び率(%)(9C)。
【図9B】2および12週間後の、サンプルの硬さ(9A)、最終引張荷重(9B)および伸び率(%)(9C)。
【図9C】2および12週間後の、サンプルの硬さ(9A)、最終引張荷重(9B)および伸び率(%)(9C)。
【図10】副鼻腔パッキングのインビトロ溶出試験。薬物の80%が1時間で溶出した。
【図11】HF副鼻腔パッキングを詰めた創傷では線維芽細胞数が減少した。
【図12】A:非HF−Br PLAインプラント(4倍)、B:HF−Brエレクトロスピンしたインプラント(4倍)。マッソン(Masson)の三重染色(ブルーはコラーゲンである)。コラーゲンカプセルの厚さが減少した(矢印でマークされている)ことに注目されたい。
【図13】ラットモデルにおいて使用されたシリコーン製尿道ステント上のHF−BrコーティングのSEM画像。
【図14】2週齢のラット尿道のマッソン三重染色。A:サンプルはHFがコーティングされたステントを有していた。B:サンプルはコーティングされていないたステントを有していた。スライドA1(2.5倍)およびA2(10倍)では、新しいコラーゲン沈着は見られず(海綿質線維症)、炎症反応だけが見られる。スライドB1(2.5倍)およびB2(10倍)では、新しいコラーゲン沈着が明白である(海綿質線維症)。
【図15】3月齢のウサギ尿道のマッソン三重染色。A:サンプルはHFがコーティングされたステントを有していた。B:サンプルはコーティングされていないステントを有していた。スライドAでは、正常な尿道構造を伴い、コラーゲン沈着は少なかった(ブルーの染色が少ない)。スライドBでは、大きなコラーゲン沈着が見られたが(より強くブルーに染色されている)、3カ月後には、2週間後に見られた無定形コラーゲンとは相違してコラーゲンがより組織化されるようになったことに注目されたい。
【図16】ラットのインビボでのハロフジノンレベル。HFの濃度を陰茎組織中および血清中の両方で決定した。血清中対陰茎組織中のHFレベル間にはほぼ10倍の差が見られた。標準誤差のバーが含まれている。
【図17】HFの溶出。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書で引用したすべての米国特許参考文献の開示は、その全体が記載されているかのように本明細書に参照によって組み込まれるものとする。
【0021】
瘢痕(線維性)組織の沈着を通しての治癒は、損傷に対する正常な反応である。ヒトでは、創傷治癒反応は、炎症、線維組織形成および成熟の3つの段階に分けられる。このプロセスの工程は広範囲に重複し、個別工程が一連であるよりむしろ連続体であると考える方が最も良く理解される(図1)。
【0022】
何らかの特定の理論に結び付けることを望まなくても、創傷治癒プロセスは、内皮下コラーゲンを血小板へ曝露させる血管完全性の妨害から始まる。この事象は、血液滲出を導き、急性炎症反応を誘発する開始工程である。この反応は、局所性因子および全身性因子を活性化して細胞の創傷内への整然とした予測可能な移動をもたらす。創傷内で最初に出現する細胞は好中球であり、これに単球および線維芽細胞が続く。線維芽細胞は、線維組織形成中に優勢な細胞タイプである。この段階は、線維芽細胞の増殖および移動を特徴とする。この段階中の線維芽細胞の主要な機能は、間質マトリックスおよびタイプ1コラーゲンを合成することである。瘢痕組織と呼ばれる臨床単位を特徴とする線維性組織を作り上げるのがこのコラーゲンである。線維組織形成段階が完了すると、その間には創傷が無細胞になる成熟の最終段階が発生し、数カ月間から数年間にわたってリモデリングを受ける。リモデリング段階中に、創傷は引張強度を回復する。様々なメディエーターおよび酵素の影響下では、リモデリングはマトリックス合成と分解との相互作用を表すと考えられる。
【0023】
本明細書では、例えば手術などの医療手技、または他の外傷後の創傷治癒を改善するための組成物、デバイスおよび方法が提供される。一部の実施形態では、本発明は、典型的には創傷および損傷部位へ局所に投与されるコラーゲン阻害剤を提供する。「狭窄症」もしくは「狭窄」は、身体の管、通路もしくは管状構造もしくは器官の狭小化を意味する。
【0024】
本発明によって治療できる「被験者」には、医療目的のヒト被験者ならびに獣医学的および実験目的での動物被験者の両方が含まれる。その他の適切な動物被験者は、一般には、哺乳動物被験者、例えば霊長類、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギ、齧歯類(例、ラットおよびマウス)などである。ヒト被験者が、最も好ましい。ヒト被験者には、胎児、新生児、乳児、青少年、成人および高齢被験者が含まれる。
【0025】
本明細書で使用する「治療する」は、瘢痕化または瘢痕組織生成および/またはコラーゲン生成を含む合併症に苦しんでいる、またはそれらを発生するリスク状態である被験者に利益を付与する任意のタイプの治療もしくは予防を意味し、被験者の状態(例、1つまたは複数の症状)における改善、瘢痕化の進行の遅延、症状の発現の遅延、または症状の進行の遅延などを含む。したがって、用語「治療」は、症状の発現を防止するための被験者の予防的治療もまた含む。本明細書で使用する「治療」および「予防」は、必ずしも症状の治癒もしくは完全な廃止を意味することは意図されていないが、患者の状態(例、1つまたは複数の症状)における改善、疾患の進行における遅延を含む、疾患に苦しんでいる患者に利益を付与するあらゆるタイプの治療を意味する。
【0026】
「治療有効量」、「治療するための有効量」などは、本明細書では、創傷を負った患者もしくは損傷の部位に望ましい作用を生成するために十分なコラーゲン阻害剤の量を意味する。これは、患者の状態(例、1つまたは複数の症状)における改善、疾患の進行の遅延などを含む。
【0027】
本明細書で使用する「医薬上許容される」は、疾患の重症度および治療の必要性に照らして過度の有害な副作用を伴わずに、化合物もしくは組成物が本明細書に記載した治療を達成する目的で適用するために適合することを意味する。
【0028】
I.(コラーゲン阻害剤)
本発明を実施するために有用な「コラーゲン阻害剤」は公知であり、コラーゲンの合成を阻害するすべての薬剤を含む。例えば、米国特許第6,046,340号明細書および第5,092,841号明細書、国際公開第2005/112999号パンフレットを参照されたい。コラーゲンは、生命体内の細胞外マトリックスの主要なタンパク質成分である。コラーゲンには少なくとも12のタイプがあり、タイプI、タイプIIおよびタイプIIIが最も一般的である。それらは主として身体内で治癒中に線維芽細胞によって合成され、前駆体プロコラーゲンタンパク質のプロセッシングによって生成される。
【0029】
一部の実施形態では、タイプ1コラーゲン(タイプIコラーゲンとしても公知である)の阻害剤が好ましい。瘢痕組織の主要成分であるタイプ1コラーゲンαは、典型的には2本のα1(I)鎖および1本のα2(I)鎖の3つのサブユニットから構成される長さ300nmのタンパク質ロッドを形成する。線維芽細胞内では、タイプ1コラーゲンの合成は、コラーゲンα1遺伝子の活性化によって制御される。このため、一部の実施形態では、コラーゲンα1遺伝子発現の阻害剤が好ましい。
【0030】
本明細書で使用する「コラーゲン阻害剤」の例には、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノン、d−ペニシラミン、β−アミノプロピオニトリル、オカダ酸、LY294002(PI−3K阻害剤)、5−フルオロウラシル、それらのアナログなどが含まれるがこれに限定されない。
【0031】
ミトラマイシン(MITもしくはプリカマイシン)は、DNAのGCリッチ領域に結合するオーレオル酸ポリケチド系抗生物質であり、典型的には化学療法薬として使用される。例えば、米国特許第5,723,448号明細書を参照されたい。マイトマイシン−cは、眼、副鼻腔および気管における公知の瘢痕阻害作用を備える公知の線維芽細胞阻害剤である。
【0032】
トラニラスト(2−(2,3−ジメトキシシンナモイル)アミノ安息香酸)もまた公知であり、例えば、米国特許第5,385,935号明細書、第6,239,177号明細書、および第6,376,543号明細書に記載されている。
【0033】
「ハロフジノン」もしくは臭化ハロフジノン(7−ブロモ−6−クロロ−3−[3−(3−ヒドロキシ−2−ピペリジニル)−2−オキソプロピル]−4(3H)は公知であり、例えば、米国特許第5,449,678号明細書、第6,420,371号明細書、第6,028,078号明細書、第6,090,814号明細書、および第6,159,488号明細書に記載されている。ハロフジノンは、畜牛業および養鶏業において抗コクシジウム剤として使用されてきたキナゾリノン化合物である。思いがけなく、この薬剤が全身性で投与されたニワトリにおいて皮膚の菲薄化が発生することが見いだされた。この現象の詳細な試験は、ハロフジノンの作用機序がコラーゲンα1遺伝子プロモーターの阻害剤であるという発見をもたらした(Granot I et al.,Poult Sci.1991 Jul;70(7):1559−63)。この化合物の薬理学については、獣医学的使用のために広汎に試験され、強皮症を治療するためにヒトにおいて使用するためのFDAオーファンドラッグ承認を有する。
【0034】
II.(基質)
基質には、あらゆる生体適合性基質が含まれ、生分解性または非生分解性であってよい。
【0035】
生分解性または生体吸収性基質は、生分解性ポリマーから形成されてよい。ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ラクチド−コグリコリド)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)、ポリ(カプロラクトン)、ポリカーボネート、ポリエステルアミド、ポリ無水物、ポリ(アミノ酸)、ポリ(オルトエステル)、ポリシアノアクリレート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリ(エーテルエステル)、ポリ(エチレングリコール)とポリ(オルトエステル)のコポリマー、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(アルキレンアルキレート)、生分解性ポリウレタン、ならびにそれらのブレンドおよびコポリマーなどが含まれるがそれらに限定されない任意の適切なポリマーを使用できる。例えば、米国特許第7,097,857号明細書を参照されたい。
【0036】
一部の実施形態によると、本発明は、基質および該基質の上もしくは中のコラーゲン阻害剤を含む創傷閉鎖デバイスを提供する。該基質は、生分解性基質(例えば、アルブミン、コラーゲン、合成ポリアミノ酸、プロラミン、多糖類など、または生分解性ポリマー、例えばポリラクチド、ポリグリコール酸、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリカプロラクトン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ無水物、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリシアノアクリレート、および分解性ポリウレタン)または非生分解性(不活性)基質、例えばシリコーンおよび絹、もしくはポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリカプロラクトン、ポリアクリレート、エチレン−酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリ酸化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリ(ビニルイミダゾール)、クロロスルホン化ポリオレフィン、酸化ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ナイロン、ならびにそれらのコポリマーおよび組み合わせを含んでいてよい、それらから構成されてよい、またはそれらから本質的に構成されてもよい。本デバイスは、例えば縫合糸、ステープル、テープ、もしくは包帯などの任意の適切な形状を取ってよい。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、不活性もしくは非生分解性基質上にコーティングされている生分解性ポリマー中で運ばれる。
【0037】
一部の実施形態では、本デバイスは、縫合糸である。縫合糸は、上述したように生分解性ポリマーから形成されて(単一固体の形状にあって)よく、または編繊維、織繊維、もしくは不織繊維材料(例、絹、綿、レーヨン、リネン、羊毛、サテン、ナイロン、ポリエステルもしくはそれらの混合物)から形成されてよい。例えば、米国特許第5,685,860号明細書および第6,224,630号明細書を参照されたい。一部の実施形態では、縫合糸は、ポリプロピレン(例、ProleneもしくはMarlex)および/またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(例、Gore−Tex)を含む。
【0038】
本発明は、基質および該基質の上もしくは中のコラーゲン阻害剤を含む外科用パッキング(例、副鼻腔パッキング)もさらに提供する。このパッキングは、米国特許第5,263,927号明細書および第4,291,687号明細書に記載されている形状を含むがこれに限定されることなく任意の適切な形状を取ってよい。
【0039】
このパッキングのための基質材料は、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、微結晶セルロース、キサンタンガム、二酸化ケイ素、およびそれらの混合物を含むが、これに限定されることなく任意の適切な材料から形成されてよい。例えば、米国特許第7,135,197号明細書を参照されたい。オキシセルロースは、現在は止血を達成するための創傷パッキングとして使用されている。一部の実施形態では、基質は、乾燥した、好ましくは無菌の粉末の形状(例えば、コラーゲン阻害剤がそれと混合されてよい)で提供することができる。
【0040】
一部の実施形態では、被験者における癒着を防止するために、予備形成された、もしくはその場所で形成可能なバリア基質および該基質の上もしくは中のコラーゲン阻害剤を含むバリア材料が使用される。該基質は、任意の適切な材料であってよく、その場で形成される場合には、任意の適切な架橋剤が使用されてよい。適切な例には、米国特許第6,638,917号明細書に記載されているものが含まれるがそれらに限定されない。基質もしくは材料は、生体吸収性(例、止血材料)または非生体吸収性(例えば、ヘルニア修復術において現在使用されている非吸収性メッシュ)であってよい。
【0041】
本発明のまた別の態様は、基質および該基質の上もしくは中のコラーゲン阻害剤を含む植え込み型もしくは挿入型生物医学デバイスである。一部の実施形態では、本デバイスは、尿道、尿管または腎尿管カテーテルまたはステントである。様々な鼻用、食道用および気管用ステントもまた公知である。頭蓋骨、上顎骨および下顎骨プレートは生体吸収性基質(例えば、ポリ−L−乳酸−ポリグリコール酸プレート(PLLA/PGA))および非生体吸収性基質(例えば、チタン)を含む。
【0042】
一部の実施形態では、身体のどこでも非生体吸収性ステント(即ち、内腔狭窄を防止するために設計されたチューブ)。その例には、尿道カテーテル、尿管ステント、腎尿管カテーテル、食道ステント、気管開口術ステント、経胃栄養チューブ、経鼻胃チューブ、喉頭/気管/肺動脈ステント、鼓膜切開術チューブ、鼻用ステント、唾液管ステント、胆管ステント、腸管ステント、涙鼻管ステントが含まれるがこれに限定されない。
【0043】
以下ではさらにその他の実施例について記載する。基質は、任意の適切な生分解性もしくは非生分解性材料から構成されてよい。一部の実施形態では、(例えば、それからカテーテルが形成される)基質は、例えばビニル、ポリエチレン、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、シリコーン、ラテックス、もしくはポリプロピレンなどの材料を含む。例えば、米国特許第7,025,753号明細書を参照されたい。コラーゲン阻害剤は、そのような基質材料上に、担体(例えば、生分解性ポリマー)を用いて、もしくは用いずに、以下で詳細に考察する任意の適切な技術によってコーティングすることができる。
【0044】
それから生成物もしくはデバイスが形成される基質中にコラーゲン阻害剤を含むことによって本発明を実施するために使用できるデバイスもしくは製品の特定の例には、(様々な分野に対して)以下が含まれるがそれらに限定されない。
泌尿器科:
コーティングされた尿道カテーテル
コーティングされた尿管ステント
コーティングされた腎尿管カテーテル
ENT(耳鼻咽喉科):
コーティングされた副鼻腔パッキング材料
注射用副鼻腔パッキング材料
コーティングされた食道ステント
コーティングされた気管開口術チューブ
コーティングされた経胃栄養チューブ
コーティングされた経鼻胃チューブ
コーティングされた喉頭/気管/肺動脈ステント
声帯を強化するための注射用材料
コーティングされた鼓膜切開術チューブ
コーティングされた鼻中隔副子
コーティングされた鼻用ステント
コーティングされた唾液管ステント
コーティングされた喉頭インプラント
唾液管放射線線維症のための注射用ゲル
頭蓋骨、上顎、下顎のコーティングされた吸収性および非吸収性骨プレート
形成外科/皮膚科:
コーティングされたシリコーンインプラント(もしくは他の組成物のコーティングされたインプラント)
審美的強化のための注射用材料(充填剤)
肥厚性瘢痕を防止するためのクリーム/ゲル/スプレー
瘢痕化を防止するためのコーティングされたシリコーンシート
火傷瘢痕化/拘縮を防止するためのクリーム/ゲル/スプレー/シリコーンシート
コーティングされた皮膚移植片材料
創傷閉鎖のためのコーティングされた縫合糸
コーティングされた皮膚ステープル/体内ステープル
コーティングされた「Steri−Strips」創傷閉鎖用接着剤
一般外科:
外科的癒着を防止するためのコーティングされたシートもしくはスプレー
コーティングされた胆管ステント
コーティングされた腸管ステント
眼科:
コーティングされた鼻涙管ステント
血管外科:
コーティングされた血管内ステント
心臓病学科:
コーティングされた血管内心臓ステント
整形外科:
コーティングされた吸収性および非吸収性骨プレート
混合型:
他の植え込み型人工医療デバイス(血管アクセスデバイス、インスリンポンプなど)のためのコーティング
吸収性血管ステント、心血管ステント、ステープル、縫合糸を作製するために使用される、コーティングされた合成ポリマー[例、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、およびポリ(乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)]
【0045】
本発明のデバイス、材料、および組成物は、ヒト被験者、ならびに獣医学もしくは実験目的のための動物被験者、例えばイヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、サルなどの両方の治療において使用できる。
【0046】
III.(調製物)
一部の実施形態では、本発明のコラーゲン阻害剤は、基質上のコーティングとして提供される。コラーゲン阻害剤は、任意の適切な技術、例えばディッピング、スプレー、スプレー乾燥などによって基質上にコーティングすることができる。コラーゲン阻害剤は、それだけで、または担体材料もしくはフィルム形成材料、例えば生分解性ポリマー(例えば上述したような)と同時に適用されてよい。コラーゲン阻害剤は、任意の適切な技術、例えば混合、もしくは共抽出などによって材料(例えば、粉末もしくは生分解性材料など)内に結合することができる。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、植え込まれた、または挿入された基質上もしくは隣接の瘢痕形成および/またはコラーゲン形成を阻害するための有効量で含まれる。
【0047】
一部の実施形態によると、縫合糸および/またはパッキング材料のためには、コーティングプロセスは、(a)材料を植え込むために所望のサイズおよび形状に準備する工程と、(b)コラーゲン阻害剤の溶液(例、0.5μg/mLでのHF−Br)を準備する工程と、(c)材料を次にディッピングして、直ちに約24時間にわたり−80°Fで冷凍する工程と、(d)冷凍材料を次に凍結乾燥(即ち、真空乾燥)させる工程と、(e)材料を例えばエチレンオキシドもしくはγ線照射を用いて滅菌する工程と、のうちの1つまたは複数を含む。
【0048】
一部の実施形態によると、ステント材料を(例、食道、気管、血管などのために)コラーゲン阻害剤でコーティングおよび/または浸透させる工程は、(a)粉末形である乾燥コラーゲン阻害剤(例、HF−Br)を(例えば50:50の比率で)同様に粉末形であるステント材料(例、PLLA、PGA、Vicryl(ポリガラクチン)と混合する工程と、(b)粉末材料を次に所望の形状にエレクトロスピンする工程(一部の実施形態では、このプロセスは植え込みのための所望の形状を作製する自由を可能にするコラーゲン阻害剤含浸ステントを生じさせる)と、(c)ステントを例えばエチレンオキシドもしくはγ線照射を用いて滅菌する工程と、のうちの1つまたは複数を含む。
【0049】
一部の実施形態によると、コラーゲン阻害剤を含む創傷接着剤は、(a)コラーゲン阻害剤(例、0.5μg/mLでのHF−Br)を適切な接着剤材料(例、アクリレート材料)と50:50で混合する工程と、(b)創傷へ直接的に適用する工程と、のうちの1つまたは複数を含む。
【0050】
一部の実施形態によると、コラーゲン阻害剤を用いたステント(例、永続的カテーテル)のコーティングは、(a)ステントを計量する工程と、(b)ステントの表面を約30〜60秒間にわたってプラズマ反応器を用いて、またはマイクロ波でステントを水湿潤させる工程と、(c)ステントをコラーゲン阻害剤(例、ハロフジノンHF)中へ浸漬し、液体窒素もしくは−80℃で冷凍する工程と、(d)ステントを凍結乾燥させる工程(例、一晩)と、(e)ステントを計量する工程と、(f)ステントを1%のPEG(0.2μmフィルターで濾過した3,500〜5,000g/モル)中へ浸漬する工程と、(g)液体窒素中もしくは−80℃でPEGを冷凍して、一晩凍結乾燥させる工程と、(h)ステントをコラーゲン阻害剤(例、ハロフジノン)中に浸漬して、一晩凍結乾燥させる工程と、(i)ステントを計量する工程と、(j)滅菌する工程と、のうちの1つまたは複数を含む。
【0051】
一部の実施形態によると、ステント(例、永続的カテーテル)をコラーゲン阻害剤でコーティングする工程は、(a)ステントを計量する工程と、(b)約30〜60秒間にわたってステントの表面をプラズマ反応器を用いて、またはマイクロ波でステントを湿潤させる(例えば、PBSで湿潤させ、PBSを浸したガーゼで被覆する)工程と、(c)冷却するためにステントを2%のPLGA−COOH中へ浸漬する工程と、(d)フード下で乾燥させる工程と、(e)(例えば、PBSを)浸したガーゼで被覆し、約30〜60秒間にわたりマイクロ波にかける(またはプラズマ反応器を使用する)工程と、(f)ステントをハロフジノンでコーティング(例えば、浸漬)し、液体窒素中で冷凍し、一晩凍結乾燥する工程と、(g)薬剤含量を見積もるためにステントを計量する工程と、(h)滅菌する工程と、のうちの1つまたは複数を含む。
【0052】
当業者であれば、上記の方法は全部が、本明細書に開示した本発明の精神から逸脱せずに、ルーチン方法によって所望通りに修飾および最適化することができる。
【0053】
IV.(用量および投与経路)
好ましい実施形態では、本発明のコラーゲン阻害剤は、創傷および損傷部位へ局所に(すなわち、局所的に)投与されるコラーゲン阻害剤を提供する。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤を含む組成物は、本明細書に記載するようにコーティングされた縫合糸によって、ゲルもしくは適切な創傷用接着剤の組み合わせによって、適切な基質上にコラーゲン阻害剤をコーティングおよび/または含浸する工程によって投与することができる。
【0054】
一部の実施形態では、開放創傷におけるタイプIコラーゲンの産生を阻害するために、ナノ(10−9)もしくはピコ(10−12)モル用量での1つまたは複数のコラーゲン阻害剤の局所投与で十分である。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、術後瘢痕組織形成を防止するためのパッキング材料として(例えば、副鼻腔手術後の副鼻腔内へ)局所に使用される。
【0055】
一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、30分間未満での薬物の溶出/吸収によって投与される。一部の実施形態では、投与は、より長い期間にわたって実施され、例えば30分間、1、2もしくは3時間、および5、6、7もしくは8日間までにわたる実質的溶出が生じる。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、できる限り多くの創傷治癒の早期線維組織形成段階を捕捉するための時間(例えば、3〜7日間)にわたって溶出させられる。
【0056】
一部の実施形態では、HFは、単回で、または経時的に0.5、1.0もしくは1.5〜2.0、2.5、3.0、3.5もしくは4.0mg/kgの総用量で投与される。一部の実施形態では、総用量は、0.5〜10mgである。一部の実施形態では、HFは、ナノ(10−9)またはピコ(10−12)モル用量で投与される。
【0057】
以下の非限定的な実施例では、本発明の一部の実施形態をより詳細に説明する。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
(タイプIコラーゲン阻害剤が皮膚創傷の治癒に及ぼす作用)
ハロフジノンは、実験動物モデルにおいて瘢痕形成を阻害する全身性作用物質として使用されてきた(Pines et al.,General Pharmacology,1998 Apr;30(4):445−50;Pines et al.,Biol Blood Marrow Transplant,2003 Ju;9(7):417−25)。しかし、この目的での局所薬としての有効性については余り知られていない。
【0059】
創傷治癒および瘢痕組織形成の実験モデルは、ラットにおいて明確に記載され、すべてが背面皮膚切開部を組み込んでいる(Kapoor et al.,The American Journal of Pathology,2004;165:299−307)。ラットは、背部上にヒト真皮の厚さに近似する相当に厚い真皮を有する。
【0060】
計9匹の動物に手術を施行した。まず、3匹の対照群および6匹の処置群動物。各対照群動物の背部上に4つの全厚の皮膚切開部を作製した。2つの前方切開部はコーティングされていない3−0 VicrylおよびN−ブチル−2−シアノアクリレート接着剤で閉鎖した。後方切開部は、Vicryl単独で閉鎖した。実験動物群では、4つの全厚創傷を背部上に作製した。2つの前方切開部はコーティングされていないVicrylで閉鎖し、閉鎖した創傷へHF−BrおよびN−ブチル−2−シアノアクリレートの混合物(0.5ccのHF−Brを0.5ccのN−ブチルシアノアクリレート接着剤に加えた)を局所塗布した。2つの後方創傷は、HF−Brコーティングした3−0 Vicrylで閉鎖した。次に2匹の処置群動物および1匹の対照群動物を2、6および12週間後に安楽死させ、分析のために軟部組織標本を採取した。
【0061】
縫合糸のコーティング:3−0 Vicryl吸収性縫合糸を計量し、1mL血清用ピペット中に入れた。次にこれらのピペットに1ccのHalocur(商標)臭化ハロフジノン(0.5mg/mL)(Halocur(登録商標)(Intervet International BV(ノルウェー国)製の経口ハロフジノン0.5mg/mL)を充填し、24時間にわたり−80℃で冷凍し、凍結乾燥させた。コーティング前後の重量を記録し、走査型電子顕微鏡写真(SEM)を使用して縫合糸上の薬物コーティング(微粒子物質)を証明した(図2)。コーティングされた縫合糸の目視検査により、黄色のコーティングが証明されたが、これはさらに黄色のHalocurが付着しているという証拠を提供した。
【0062】
縫合糸は、外科使用のためにエチレンオキシドで滅菌した。コーティング前後の重量記録は、コーティングされた縫合糸上に平均96μg/cmの薬剤が存在することを証明した。
【0063】
ハロフジノンの溶出を決定するために、インビトロ溶出試験を実施した。コーティングされたVicryl縫合糸からリン酸緩衝食塩液(PBS)中へのハロフジノンの放出を使用して、インビボでの薬物放出動態を推定した。HF−BrがコーティングされたVicrylの2.5cm区間を1.5mLのPBS中に配置し、37℃でインキュベートした。5、15、30、および45分間後ならびに1、2、4、8、24、48、72、および96時間後に、この区間をPBSの新しい1.5mLアリコート中へ移し、以前のアリコートからのハロフジノンの量を243nmでのUV分光測定法を用いて測定した。UV分光測定法からのデータは、インビトロでのHF−BrのPBS中への迅速な放出を示した(図3)。全薬物質量の90%が30分間で放出され、薬物は2時間でほぼ排出されると推定された。
【0064】
創傷の肉眼的外観:2週間後には、HF−Br処置群創傷に比較して対照群創傷における方がより多くの紅斑および硬化が見られた(データは示していない)。その後の時点では、外観における有意差は見られなかった。
【0065】
軟部組織サンプルを採取し、パラフィン中に包埋し、切片作製した(5μm)。切片はヘマトキシリン&エオシン(H&E)ならびにマッソン三重染色で染色した。炎症スコアはStorchの方法(Surgical Infections,2002;3:89−98)によって記録した。瘢痕組織沈着の面積は、光線顕微鏡およびZeiss(商標)デジタル画像取得ソフトウエアシステムを用いて概算かつ計算した。結果は、図4に示した。
【0066】
コラーゲンα1遺伝子発現を決定するために、(縫合糸単独の動物において)皮膚の2mmパンチ生検標本を縫合材料に隣接する創傷の境界で採取した。サンプルを急速冷凍し、粉砕し、そしてRNAをTrizol試薬で抽出した。リアルタイムqPCRは、ラットタイプ1コラーゲンα2−amplisetを用いて遺伝子発現を測定するために使用した。コラーゲンα1遺伝子発現の相対量は、18SおよびGAPDH RNAの発現レベルを用いて標準化した。これらの数値を次に正常皮膚内でのコラーゲンα1遺伝子発現の相対量で割った。結果は、タイプ1コラーゲンα2の遺伝子発現は、HFで局所処置された創傷では阻害されることを証明した(図5)。
【0067】
炎症反応をH&E染色(図示しない)により可視化すると、炎症スコアは対照群におけるよりHF−Br処置サンプル群における方が一貫して低かった(図6)。マッソンの三重染色は、コラーゲン沈着の断面積(瘢痕)もまた対照群におけるよりHF−Br処置サンプル群中の方が一貫して小さいことを証明した(図示しない)。
【0068】
2週間後の創傷の面積の概算は、HF−Br処置群(322,107μm2)と対照群(865,743μm2)との間でコラーゲン染色における2.7倍の差を証明した(図示しない)。2、6および12週間後の創傷領域は、図7に示した。
【0069】
新しく生成されたコラーゲンのレベルを評価するために、組織サンプルを0.05MのTris中の1MのNaCl中で消化させた。次に塩可溶性コラーゲンをSircol(商標)色素検出系と結合させ、243nmでのUV分光測定法を用いて含量を測定した。塩可溶性コラーゲンの組織質量率は、2週間後の全サンプル中で高かった。塩可溶性コラーゲンレベルにおける有意差は、HF−Br処置群と対照群との間で各時点にわたって検出できなかった(図8)。
【0070】
皮膚創傷組織標本の引張強度は、張力計を用いて破断点を測定することによって評価する。組織標本は、動物を犠死させた直後に採取して分析する。標本を張力計に取り付け、創傷が破断するまで圧力を加える。この破断圧を引張強度として記録する。
【0071】
皮膚サンプルは、瘢痕の平面が加えられる力の方向に対して垂直となるように採取した。サンプルを冷凍し、再解凍させ、聴力計(Instron(商標)、マサチューセッツ州ノーウッド)のクランプで固定した。次に、サンプルが破断するまで力を加えた。続いて最終引張荷重、伸び率、および硬さを2および12週間後に、3つの対照群および3つのHF−Br処置群サンプルについて計算した。平均値を報告した。全組織サンプルについての平均硬さ、最終引張荷重、および伸び率は、2週間後から12週間後へ増加した(図9)。処置群と対照群のサンプル間で有意差は検出されなかった。
【0072】
結論:HF−Brコーティングされた縫合糸は薬物を皮膚創傷へ局所に送達し、創傷を制御するために適切な引張強度を維持しながら瘢痕組織形成を減少させる。タイプIコラーゲンの含量は、対照群および実験群の創傷中で同一であった。HFは、効果的な創傷閉鎖のためのシアノアクリレートをベースとする創傷接着剤の形状で局所に適用することもできる。
【0073】
(実施例2)
(副鼻腔パッキング)
コラーゲンα1遺伝子の阻害剤である臭化ハロフジノン(HF−Br)が瘢痕組織形成を防止する能力を副鼻腔手術の齧歯類モデルにおいて試験した。この化合物の全身性投与が動物およびヒトを対象とする試験において瘢痕組織形成を阻害することは見いだされているが、副鼻腔手術における瘢痕組織形成に及ぼす影響を調査した試験はなかった。そこで本試験の目的は、HF−Brの局所適用が副鼻腔手術の動物モデルにおいて瘢痕化を防止するかどうかを決定することであった。
【0074】
この臭化ハロフジノンの潜在力のために、本発明者らは、低用量での局所適用は開放創傷におけるタイプIコラーゲン生成を阻害するために十分すぎるほどである、そして実質的に全身性の副作用のリスクを有していないという仮説を立てた。この仮説に基づいて、本発明者らは、術後瘢痕組織形成を防止するための副鼻腔内のパッキング材料として局所的に使用できる臭化ハロフジノンの調製物を合成した。
【0075】
副鼻腔損傷および創傷治癒の試験における齧歯類モデルの使用は、以前のマウスにおける試験において確立されているが(Bomer et al.,Arch Otolaryngol Head Neck Surg.1998 Nov;124(11):1227−32)、この状況において臭化ハロフジノンが及ぼす役割について試験したものはなかった。本発明者らは、創傷治癒の試験において有用な副鼻腔手術のラットモデルを開発したが、その試験ではマイクロCT評価および組織学的試験データによって、危険な構造物を使用せずにヒトにおける副鼻腔手術後に所見されるものに類似する篩骨組織の切除が確認された(データは示していない)。
【0076】
ハロフジノンは、止血に役立って薬物送達用ビヒクルとして機能する、血液および液体を吸収する適切な材料と組み合わされる。本発明者らは、この目的のためにセルロース誘導体を選択した。
【0077】
パッキング材料は、次のように調製した。工程1:材料を植え込みに合わせて所望のサイズへ調製して成形する。セルロースの副鼻腔パッキング材料(Merocel)を5mmストリップに切断する。工程2:HF−Br 0.5μg/mL(Halocur(登録商標)(経口ハロフジノン、0.5mg/mL)、Intervet International BV、ノルウェー国)の溶液を調製する。工程3:次に材料をディッピングし、−80°Fで24時間にわたり急速冷凍する。工程4:次に冷凍した材料を凍結乾燥(真空乾燥)する。工程5:材料をエチレンオキシドまたはγ線照射によって滅菌する。コーティングされたMerocelの目視検査により、黄色のコーティングが証明され、これはさらに黄色のHalocurが付着しているというさらなる証拠を提供した。
【0078】
ハロフジノン/セルロース誘導体パッキングの局所適用をラットの副鼻腔内での瘢痕組織形成の防止について試験した。ラットの対になった解剖学的に同一の副鼻腔は、一方が対照群として、他方が実験群として機能することを可能にする。対照群の副鼻腔には、コーティングされていないセルロース誘導体パッキング材料(Merocel)を充填した。他方(実験)副鼻腔には、臭化ハロフジノンがコーティングされたセルロース誘導体化合物パッキング材料を充填した。第2組の動物には副鼻腔手術を受けさせ、いずれの種類のパッキング材料も配置しなかった。どちらのパッキング調製物も、適正な止血を提供するが、ヒトの臨床シナリオにおけると同様に、抜去を必要とする。外科創傷は、吸収性表皮下縫合糸を用いて閉鎖した。副鼻腔手術をラットにおいて実施し、パッキングは5日間にわたって配置した。副鼻腔標本を採取し、分析した。
【0079】
以下の表1は、ラット組織内に配置されたMerocelパッキング上の薬物の重量を表している。乾燥質量は、薬物を用いたコーティング前のパッキングの重量である。湿潤質量は、薬物を用いたコーティング後のパッキングの重量を表している。薬物質量は、パッキングへのコーティングとして適用された薬物の総量を表している。この数字は、乾燥質量を湿潤質量から減じることによって計算する。平均薬物質量は、表示したように、標準偏差を伴う、薬物質量1〜10の平均値である。
【0080】
【表1】
【0081】
インビトロ溶出試験は、薬物の80%が1時間で溶出することを証明した(図10)。インビボ溶出試験は、術後第5日に抜去したパッキングについて実施し、これを10mLのPBS中に8時間にわたり入れ、300μLのアリコートを分光測定計に配置した(術後に抜去した対照群パッキングを用いてブランキングした)。術後第5日のパッキング上では薬物が確認されなかったので(図示しない)、全量の薬物が投与されたことを示唆していた。
【0082】
線維芽細胞数は、HF副鼻腔パッキング創傷における線維芽細胞数の減少を明らかにした(図11)。マッソンの三重染色によるコラーゲン染色は、HFコーティングされていないセルロースパッキングと比較してHFコーティング副鼻腔パッキングが充填された創傷におけるコラーゲン染色の減少を証明した(図示しない)。
【0083】
結論:HF−Brの局所投与は、副鼻腔内での術後瘢痕組織形成を減少させた。
【0084】
(実施例3)
(副鼻腔パッキングゲル)
副鼻腔内でコーティングされたセルロースパッキングの使用の代替法は、副鼻腔パッキングゲルである。この調製物は、ハロフジノン(HF−Br)(Halocur(登録商標)(経口ハロフジノン、0.5mg/mL)、Intervet International BV、ノルウェー国)をカルボキシメチルセルロース(CMC)と組み合わせ、無菌粉末として貯蔵することによって作製した。この混合物を無菌水で復元するとゲルが形成され、これを次に止血および瘢痕制御のために手術時点に副鼻腔内に染み込ませる。
【0085】
液体形であるハロフジノンを粉末形のセルロース誘導体と結合すると、注入用ゲルが形成される。このゲルを凍結乾燥させ、手術時点に蒸留水を用いて再構成するために保管する。薬物混合物中に存在するハロフジノンの量は、重量によって注意深く制御すると、全化合物乾燥重量の0.03%を表す。
【0086】
(実施例4)
(吸収性薬物溶出型食道ステントを用いた食道狭窄症の治療)
食道狭窄症もしくは狭窄は、上皮内層の崩壊に反応した瘢痕組織の沈着に続発する食道の狭小化を意味する。瘢痕組織の沈着は、胃食道逆流疾患(GERD)、癌に対する放射線療法もしくは化学療法、手術、外傷もしくは炎症性疾患に続発して発生する可能性がある。この瘢痕の収縮は食道内腔を減少させ、さらに嚥下困難、飢餓、誤嚥および死亡を引き起こすことがある(Ruigomez et al.,Am J Gastroenterol.2006;101:2685−2692)。管状(内腔)構造が損傷すると、保護上皮内層が崩壊し、円形瘢痕を形成する瘢痕組織に取って代われる。この円形瘢痕は収縮して内腔断面積を減少させ、これはその構造を通る流量を減少させる。
【0087】
内腔狭窄状態に対する現行の治療は、狭窄した器官の罹患区間を伸張させて(拡張して)ステント装着すること、器官の罹患区間を切除すること、罹患器官をバイパスすること、または器官全体を取り替えること(臓器移植)を模索する。これらのアプローチに関連する組織外傷は、不可避的により多くの瘢痕組織の形成や沈着、収縮および狭窄が続く瘢痕組織の連続的サイクルを導く。金属ステントは収縮力に抵抗することを試みて使用されてきて限定的ながら成功が得られているが、このアプローチに結び付いた重要な欠点は、より多くのコラーゲン生成を刺激して、最終的には取り除かなければならない連続的組織外傷を誘発することである。このために、本発明の一部の実施形態では、吸収性ステントが提供される。
【0088】
食道狭窄疾患のためのゴールドスタンダードの第一線治療は、内視鏡的拡張術であった。そのような内視鏡的手技の不成功は一般的であり、食道を切除して、胃もしくは自由組織移動を用いて再構成するための高度に罹患性の開放的アプローチを必要とする。いずれかの治療の最も一般的合併症は、狭窄の再発ならびに繰り返しの拡張術およびステント術の必要である(Pereira−Lima et al.,Am J Gastroenterol,1999;94:1497−1501)。
【0089】
食道狭窄に対する手術的アプローチの成功率が不良であるので、創傷収縮のプロセスに対抗して狭窄の再発を防止するために、補助的な外科技術が使用されてきた。これらの方法には、再発の発生率を減少させるための、狭窄療法後の非吸収ステントを用いる長期ステント装着術ならびに様々な薬理学的物質(コルチコステロイド剤、マイトマイシンC、コルヒチンなど)の局所注射が含まれる。これらの努力はいずれも成功していないので、このためこの問題に対処するための新規な治療パラダイムが追求されなければならない。
【0090】
局所的コラーゲン阻害剤を投与する吸収性食道ステントは、狭窄溶解後に配置される。これらのステントは抜去する必要がないので、患者に与えるリスクを最小限に抑える。薬物溶出性の吸収性食道ステントは、食道狭窄の治療を改善するだけではなく、例えば尿道、気管気管支樹、腸、および血管などの解剖学的部位における他の管腔狭窄を治療するための並進的に置き換えることのできる意味もまた有する。経口投与された、または局所注射されたハロフジノンは管腔狭窄疾患を安全に治療および防止できるという証拠がある。局所薬としてのその有効性については余り知られていないが、局所適用は、薬物を直接的に組織に送達するから、そして全身性コラーゲンホメオスタシスおよび血液凝固を妨害する全身性投与を回避するから、有益である。例えば、近年の第I相臨床試験では、3.5mg/日の全身性用量には出血が結び付いていた。この証拠に基づくと、本発明者らは、薬物送達の理想的方法は、吸収性の薬物コーティングステントによる局所的であると考えている。そのようなステントは全身性作用をほとんどもしくは全く伴わずに損傷の領域へ薬物を直接的に送達し、ステント自体が有害な作用を伴わずに消化される。
【0091】
そのようなステントを開発する目標に向かって、日本国における研究者らは最近、吸収性の薬物がコーティングされていないポリ乳酸(PLA)網状ステントが両性食道狭窄を治療するために有効かつ安全であるという、ヒトを対象とする小規模臨床試験における前途有望な結果を証明した(Tanaka et al.,Digestion 2006 Oct;74:199−205)。
【0092】
本発明者らは、吸収性HF−Brがコーティングされた食道ステントは食道狭窄形成のラットモデルにおける瘢痕組織形成を緩和するという仮説を立て、そして本発明者らは、瘢痕形成および管腔狭窄を防止するために吸収性薬物溶出性食道ステントの形状である局所的HF−Brを適用した。
【0093】
以前の動物モデルは、食道損傷を達成するために、腐食熱傷モデル(水酸化ナトリウム)を使用した。本発明者らは、食道のpHは水酸化ナトリウムによって局所的HF−Brの適用の活性を効果的に変化させるほど十分に変化させられ得ると考えるので、このため電気焼灼熱傷モデルを使用しようと考える。
【0094】
エレクトロスピン技術を使用してポリ乳酸(PLA)/HfBr含浸材料を作製し、これをラットの皮下に移植した。本発明者らは、この材料が容易に吸収され、線維性(瘢痕)カプセル形成が減少することを見いだした(図12)。エレクトロスピン法は、電荷を使用して細線維のマットを形成する。エレクトロスピンの標準セットアップは、金属製ニードルを備えるスピナレット、シリンジポンプ、高電圧電源、およびコレクター設置から構成される。ポリマーのゾルゲル複合溶液(本発明者らの場合には、PLA/HF−Br溶融溶液)をシリンジ内へ装填し、この液体を先端で液滴を形成するシリンジポンプによってニードル先端へ駆動させる。ニードルへ電圧を加えると、液滴はまず伸張させられ、次に帯電液体ジェットが形成される。ジェットは次に、コレクター接地上に沈着させられるまで静電反発力によって連続的に伸張および気泡させられる。帯電ジェット内での曲げ不安定性および溶媒の付随蒸発に起因する起泡は、このジェットが所望の径に伸張することを可能にする。
【0095】
食道ステントについては、本発明者らは、この同一手技を使用して2.5〜3mmの外径(ほぼ成体ラット食道の直径)を有する管状構造を回転させる。本発明者らは、使用したPLAの質量を記録し、使用する薬物の量を制御する(ヒトのデータ(de Jonge et al.,Eur J Cancer.2006 Aug;42(12):1768−74)および本発明者らのラットにおいてHF−Brを用いた現行の経験に基づくと、最高0.5mg)。ステントを作製したら、本発明者らは、PLAおよびHF−Brの均一な分布を探すために走査型電子顕微鏡を用いて材料を試験する。本発明者らは、各標本を計量して長さを測定し、次に以前に副鼻腔および縫合糸材料について実施したようにインビトロで薬物溶出試験を実施する。手短には、本発明者らは、作製したステントをPBS中に入れ、規定時点に分光測定法を用いて薬物レベルを測定して薬物分布(μg/mL)曲線を確定する。本発明者らは、最初に5分間後、10分間後、20分間後、40分間後、60分間後、2時間後、4時間後、8時間後、12時間後、24時間後、48時間後、72時間後および96時間後の時点または薬物の80%超が放出されてしまうまで測定する。これらのデータによって、本発明者らは、ステントの単位長さ当たりの薬物量を推定できる。
【0096】
上述したラットモデルは、局所的HF−Brが食道における瘢痕組織形成を阻害するという本発明者らの仮説を試験するために使用する。3群の動物を使用する。第1群は正常ラット、第2群はステント装着を行わない腐食性食道損傷、および第3群はPLAおよびHF−Brステント装着が行われた腐食性食道損傷である。全動物は、術前の体重、食道造影および薬物(HF−Br)レベルについての血清採血を受ける。
【0097】
第2群および第3群の動物が手術を受ける。第3群では、事前に作製されたステントを、熱傷の時点に熱傷のすぐ遠位の小さな食道切開術切開部を通して挿入し、ステントが損傷部位にとどまることを保証するために1本の6.0モノクリル縫合糸で固定する。食道切開術切開部は、断続的吸収性縫合糸で閉鎖する。創傷は、吸収性縫合糸を用いる標準方法で閉鎖し、動物を覚醒させ、回復させる。第3群では、HF−Brの全身性レベルを測定するために経心臓的血清採血のために5匹の動物を第1、2、3、4および5日に安楽死させる。これらの同一動物で、食道を開き、ステント完全性についての肉眼的評価を実施する。2、6、12および24週間後に全群において残っている動物を計量し、安楽死させ、食道造影を実施する。食道標本を採取してホルマリン中で固定し、パラフィン中に包埋し、切片作製し、ヘマトキシリン&エオシンおよびマッソンの三重染色で染色する。本発明者らは、瘢痕領域を測定するために光線顕微鏡およびデジタル技術を用いて瘢痕組織沈着の量を定量する。リアルタイムPCR測定は、コラーゲンα1活性の活性を定量するために実施する。前後の重量を嚥下機能のマーカーとして使用し、群間で比較する。
【0098】
(実施例5)
(ラットモデルにおける腹部癒着の治療)
例えば腹部などの大きな体腔への手術中には、瘢痕組織が形成され、その腔内の重要器官が癒着形成と呼ばれるプロセスにおいてくっつくことを引き起こす。これらの癒着は正常な器官機能の消失を引き起こし、慢性疼痛および死亡を引き起こすことがある。癒着形成の防止は、術後の転帰を改善する。このため、1つまたは複数のコラーゲン阻害剤を手術中もしくは手術後に内臓器官へ局所的に適用する。
【0099】
癒着を動物の腹腔内に作り出し、瘢痕組織形成を遮断するコラーゲン阻害剤(例、臭化ハロフジノン)で治療する。薬物は、手術後に重要臓器間の癒着形成を防止するために、吸収性材料または非吸収性メッシュを植え込む工程によって腹腔内へ直接的に配置する。腹腔は外科的に開口し、癒着はガーゼスポンジを用いて重要臓器を穏やかに擦ることによって作製する。次に臭化ハロフジノンがコーティングされた吸収性の止血材料を腹腔内へ直接的に適用し、創傷を縫合する。
【0100】
ラットを動物モデルとして使用する。腹部癒着形成のための実験モデルは、ラットにおいて明確に記載され、全部が腹側正中切開を含む。1つの切開部は各ラットの腹部上に作製し、次にヒト手術を模倣するために内臓剥離を作製する。別個の対照群および実験群ラットを使用する。各実験動物には、HF−Brがコーティングされた吸収性材料を植え込む。各対照群動物には、HF−Brがコーティングされていない吸収性材料を植え込む。第3対照群では、吸収性材料を植え込まない。2、6、12および24週間後に、動物を安楽死させ、癒着形成の量を腹壁内に形成された癒着の面積率によって定量し、そして癒着の肉眼的外観を評価する。軟部組織標本を採取し、ヘマトキシリン&エオシン染色、マッソン三重染色およびコラーゲン含量アッセイを用いて癒着形成について分析する。腹壁の引張強度もまた12週間後に測定する。第1、2、3、および4日に、各実験群からのラット1匹を安楽死させて、HF−Brの血漿中レベルを入手するための心腔内血を採血する。
【0101】
本発明者らは、オキシセルロースをHF−Brでコーティングし(図示しない)、これを腹部癒着に対するパッキング材料として使用する。
【0102】
(実施例6)
(コーティングされた尿管および尿道カテーテル材料)
例えば尿道または尿管狭窄などの管腔狭窄は、泌尿器科医にとって頭の痛い問題を表している。尿道狭窄は、そのほとんどがタイプIコラーゲンから構成される海綿質線維症の結果として生じ、尿道損傷の後に生じるコラーゲン生成と破壊の不均衡に起因する(Baskin et al.,J Urol.1993.Aug.150(2 Pt2):642−7)。尿道狭窄は、拡張術および/または切開術を用いて治療され、一般にはその後にステント術が施行されるが、そのような技術は高い不成功率に悩まされる。狭窄形成を防止するための薬理学的物質(例、MMC、ステロイド剤、コルヒチン)の使用は、治療結果をほんのわずかにしか改善しなかった。
【0103】
経口投与されたハロフジノン、および局所注射されたハロフジノンもまた、泌尿器狭窄の動物モデルの尿管および尿道におけるコラーゲン沈着および狭窄形成を防止することが証明されている(Turk et al.,J Endourol.2000 Mar;14(2):145−7;Nagler et al.,J Urol.2000 Nov;164(5):1776−80;Jaidane et al.,J Urol.2003 Nov;170(5):2049−52)。
【0104】
しかし、経口投与または注射による投与は理想的ではない。3.5mg/日までの経口用量は固形性腫瘍を備える患者にわずかながら有害作用を伴って投与されてきたが(Jianng et al.,Antimicrob Agents Chemother.2005 Mar;49(3):1169−76)、本発明の一部の実施形態では、例えばハロフジノンなどのコラーゲン阻害剤は、コーティングされたステントを介して提供される。尿道狭窄疾患の症例では、これは最善の実行可能な療法であるが、それは改良された結果を提供しながら、ほとんど変更を加えずに現行の治療技術に組み込むことができるからである。
【0105】
短い尿道狭窄は、典型的には直接視内尿道切開術(DVIU)、または狭窄の切開術を用いて治療され、その後には約4日間にわたるカテーテルステント装着が行われるが、これは新規の瘢痕がステントの周囲で治癒し、径の大きな尿道が残ることを期待したものである。残念なことに、創傷治癒は十分に制御することができず、新規な切開部はタイプIコラーゲンの沈着によって治癒するが、これは収縮して効率の狭窄再発を誘発する場合がある。コラーゲン阻害剤がコーティングされたカテーテルは、狭窄切開後に挿入することができ、当該の特定領域へ少量のコラーゲン阻害剤を送達することによって再発を防止するので、この療法にとって理想的な補助手段となる。
【0106】
臭化ハロフジノン(HF)は、強力なタイプIコラーゲン阻害剤であることが公知の物質であり、以前の試験は、経口および局所ハロフジノン投与が尿道狭窄を含む管腔狭窄を防止できることを証明してきた。しかし、HFコーティングされたステントが尿道狭窄形成を防止する能力を証明した試験はなかった。そこで本試験の目的は、尿道ステントをHFで首尾よくコーティングし、次にHFコーティングされたステントが尿道狭窄疾患の小型動物モデルにおける海綿質線維症を防止できるかどうかを試験することであった。
【0107】
Halocur(登録商標)(経口ハロフジノン、0.5mg/mL)は、Intervet International BV(ノルウェー国)から入手した。ラット用ステントは、SMI社製のシリコーンチューブ(0.30mm×0.64mm)から作製されたが、ウサギ用ステントは8フレンチのシリコーンフォーリーカテーテル(Bard社製)であった。ステントは、以下のようにコーティングした。1.ステントをPBSで湿らせ、PBSに浸漬したガーゼで被覆し、40秒間にわたりマイクロ波にかける。2.ステントを2%のPLGA−COOH中に浸漬して冷却させる。3.フード下で乾燥させる。4.PBSに浸漬したガーゼで被覆し、30秒間にわたりマイクロ波(もしくはプラズマ処理)にかける。5.ステントをハロフジノンでコーティングし(浸漬し)、液体窒素中で冷凍して、一晩かけて凍結乾燥させる。6.薬物含量を推定するために、重量をコーティングの前後に測定しなければならない。カテーテル上のハロフジノンの存在は、ステント重量における変化を測定すること、肉眼的およびSEM画像試験、ならびに溶出動態によって証明された。
【0108】
薬物コーティングを測定する最も単純な方法、つまり重量における変化の決定を最初に実施した。長さ3cmのシリコーンチューブは、Halocurを用いたコーティングの前後に計量した。コーティング後の平均重量変化はおよそ1mgであり、これはチューブ上の少量の薬物のコーティングを証明した。コーティングされたカテーテルの目視検査もまた、シリコーンの通常の白色の外観の上方に黄色のコーティングを示し、これはチューブに黄色のHalocurが付着しているというさらなる証拠を提供した。
【0109】
シリコーンチューブの走査型電子顕微鏡検査もまたHalocurを用いたコーティングの前後に実施した。コーティングされたチューブは、その表面上に薬物層を明白に示すが、コーティングされていないチューブは完全に平滑である。これは、Halocurがシリコーンチューブ上に上首尾でコーティングされたことのさらなる証拠を提供する。
【0110】
次に、コーティングされたステントによって放出されたハロフジノンの量、および薬物放出の時機を決定するために、薬物放出試験を実施した。長さがおよそ3cmのステントは、本発明者らの専有技術を用いてハロフジノンでコーティングした。次にこれらのステントを室温で24時間間隔でPBS溶液中に入れた。各24時間間隔後に、ステントを新規のPBS溶液中に配置し、先の溶液はUV分光測定法(243nmの吸光度)を用いてハロフジノン濃度について分析した。このプロセスは、PBS中のハロフジノンの量が測定不能なレベルへ低下するまで1日1回続けた。およそ4日間にわたりステントからのハロフジノンの持続性放出が生じ、多量のバースト放出は最初の24時間であり、その後3日間は漸進的に少なくなった(図17)。これらの結果は、シリコーンステントにHalocurが上首尾でコーティングされている、そしてこのコーティングが数日間の期間にわたり薬物の持続性放出を提供するというさらなる証拠を提供した。
【0111】
動物手術(ラットおよびウサギ):尿道瘢痕は、確立された動物モデルを用いて電気メスによって尿道内に形成した(Jaidane et al.,J.Urol.2003 Nov.170(5):2049−52)。コーティングされていない(対照群)またはHFコーティングされた(実験群)ステントを尿道内に挿入し、永続的縫合糸で固定した。ウサギには、会陰的尿道造瘻術を実施した。ラットは手術2週間後に、ウサギは3カ月後に安楽死させ、その時点に陰茎(尿道ステントを含有する)および取り囲んでいる皮下組織を摘出した。
【0112】
標本を10%パラホルマリン中で固定し、パラフィンブロック中に包埋した。次に標本から切片作製し(5μm)、スライドに作製し、マッソン三重染色およびコラーゲンα1抗体染色で染色した。
【0113】
局所組織および血清中のHF分析(ラットにおいて):組織標本を分割し、40mLのPBS中で24時間にわたりインキュベートし、遠心分離し、サンプルを分光測定法によるHF濃度分析のために採取した。血液(1mL)もまた死後心臓から採取し、5mLのPBSに加え、遠心分離し、血清を分光測定法によってHF濃度について分析した。
【0114】
結果:シリコーンステントは、ハロフジノンでコーティングして良好な結果が得られた。瘢痕は、電気メス技術を利用して両方の動物モデルにおいて効果的に誘導し、瘢痕形成は損傷組織内のコラーゲン沈着の増加によって特徴付けた(図14および15を参照)。肉眼検査では、コーティングされていないステントが装着された陰茎において明白なコラーゲン沈着(海綿質線維症)が所見されたが、HFコーティングされたステントが装着された陰茎の海綿質組織内での新規なコラーゲン沈着は見られなかった。この結果は、ラットおよびウサギの両方の動物モデルにおいて観察された(各々、図14および図15)。HFは、取り囲んでいる陰茎組織および血流中血清の両方において検出されたが、HFのレベルは血清中より組織中の方が有意に高かった(図16)。
【0115】
結論:HFコーティングされたステントは、損傷に反応した新規の尿道周囲コラーゲン沈着を生じさせなかったので、これにより損傷領域の瘢痕化をほとんど誘発しなかった。これは、狭窄形成の減少と相関する可能性がある。HFは、薬物溶出ステントに隣接する組織中および血流中の両方に存在しているが、血清中より局所組織中における方が有意に高い濃度が見られる。
【0116】
(実施例7)
(ヒトの試験)
DVIU療法による治療に適した匹敵する尿道狭窄(長さ<2cm)を備える10例の男性患者を募集し、2つの治療群に分けた。A群(5例の男性)をDVIUで治療し、次にシリコーン製尿道Foleyカテーテルを用いて4日間にわたりステント装着した。B群(5例の男性)はDVIUで治療し、次にタイプIコラーゲンをコーティングしたシリコーンカテーテルを用いて4日間にわたりステント装着した。
【0117】
タイプIコラーゲン阻害剤をコーティングしたシリコーン製尿道カテーテルは、16フレンチのBard All−Siliconeフォーリーカテーテル(既にヒトにおいて広汎に使用されている)から構成され、Halocur溶液の形態であるおよそ0.375mgのハロフジノンである、特異的なタイプIコラーゲン阻害剤のハロフジノンでコーティングされている。使用するカテーテルは、通常の供給業者を通して病院使用のために購入された、したがって無菌的に包装されたBard社製の16フレンチの100%シリコーンフォーリーカテーテルである。このカテーテルは、次にその包装から取り出し、上述したように薬剤のHalocur(0.5mg/mLのハロフジノン溶液)でコーティングする。Halocurは、ウシの新生仔におけるクリプトスポリジウム・パルヴム(Cryptosporidiumu parvum)の治療に使用するために優れた品質管理下でHalocurを大量に製造しているIntervet Corporation社から入手する。カテーテルをコーティングしたら、カテーテルを患者使用のための調製において包装し、UVもしくはγ線照射下で滅菌する。
【0118】
カテーテルの抜去直後(およびその後は1年間にわたり3カ月毎)に、患者は標準方法で尿流測定法検査を受ける。その1年間の終了時に、全患者は、尿道開存性を評価するために逆行性尿道造影検査を受ける。
【0119】
患者にステントの使用からの任意の有害作用が観察された場合は、タイプIコラーゲン阻害剤がコーティングされたカテーテルの安全性を定性的に評価する。尿道狭窄の再発は、尿流量ならびに逆行性尿道造影上の尿道径を測定することによって定量的に評価する。尿流量測定検査の結果は、最高流量(もしくはQmax)を測定することによって客観的に比較し、そして流量曲線(閉塞流動を表すマルチモードの拡張パターンに比較した正常流動を表す、正常単調増加、安定期間、および単調減少を伴う単一モードである)の形状を分析することによって主観的に比較する。逆行性尿道撮影法試験は、各々の場合に狭窄再発について評価するために、最も狭い地点で尿道の幅を測定することによって客観的に比較される。
【0120】
(実施例8)
(カテーテルのコーティング)
以下は、本発明者らが4日間にわたる画像試験(顕微鏡的および肉眼的)、重量変化、および溶出データを用いてハロフジノンでコーティングする能力を証明した尿管および尿道カテーテル材料のリストである。
一般的デバイス材料:シリコーン、Silastic、ラテックス、ポリウレタン、Nitinol、PLGA
Boston Scientific社の製品:Percuflexステント、Fleximaステント、Pebax材料
Cook社製のステント:ポリウレタン、Sof−flex、AQステント、Endo−sofステント
Bard社製のステント:ポリウレタン、ラテックス、網状ステント、Lubricathフォーリー、Inlayステント、エラストマーコーティングカテーテル、シルバーコーティングカテーテル
【0121】
ステントは、以下のようにコーティングした。1.ステントをPBSで湿らせ、PBSに浸漬したガーゼで被覆し、40秒間にわたりマイクロ波にかける。2.ステントを2%のPLGA−COOH中に浸漬して冷却させる。3.フード下で乾燥させる。4.PBSに浸漬したガーゼで被覆し、30秒間にわたりマイクロ波(もしくはプラズマ処理)にかける。5.ステントをハロフジノンでコーティング(浸漬)し、液体窒素中で冷凍して、一晩かけて凍結乾燥させる。6.薬物含量を推定するために、重量をコーティングの前後に測定しなければならない。
【0122】
同一材料から作製されたステントおよびその他の基質(例、食道および気管用製品)を同一方法でコーティングする。
【0123】
上記は、本発明の例示であり、本発明を限定するものと解釈すべきではない。本発明は、添付の請求項と、その中に含まれる特許請求項の同等物とによって規定される。
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、2006年12月1日に出願された米国仮特許出願第60/868,217号明細書の利益を主張するものであり、当該特許の開示は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
[発明の分野] 本発明は、カテーテルおよびステントなどの植え込み型デバイス、ならびにステープルおよび縫合糸などの創傷閉鎖デバイスを含む医療デバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
瘢痕組織は、外傷後の組織損傷に反応して形成される。この反応は、複数の炎症経路によって媒介され、コラーゲン、ヒアルロン酸、フィブロネクチン、およびプロテオグリカンの複合マトリックスの発達を含む(Salamone et al.,Current Otolaryngology,McGraw Hill,2006)。比較的に好都合ではあるが、瘢痕組織沈着による治癒(瘢痕形成)は、複数の胚葉新生による機能性組織に取って代わることはない。
【0004】
米合衆国内では年間4,500万例の手術が施行されているが、どの手術についても瘢痕組織の形成は不可避である(DeFrances et al.,Advance Data From Vital and Health Statistics.2006 May;371:14)。管状構造、例えば食道、気管気管支樹、尿管、ファローピウス管および腸への手術または他の外傷後の線維性癒着の形成は、慢性疾患や死亡を引き起こすことがある。筋肉、骨および皮膚組織内で形成される瘢痕組織は、慢性的整形外科的状態、慢性疼痛、審美的変形および生活の質の低下を引き起こすことがある。
【0005】
1つの例は、副鼻腔手術である。副鼻腔は、哺乳動物の顔面骨格における空隙である。この空隙は、様々な状態、例えばアレルギー、感染症、腫瘍、および放射線療法に起因して閉塞してしまう可能性がある。従来型の内科的治療が失敗した場合、副鼻腔手術は、副鼻腔からの排膿を達成するため、そして副鼻腔閉塞の症状を緩和するために使用される一般的手技である。200,000人近くの慢性副鼻腔疾患患者が副鼻腔手術を受けているが、この手術は50%を超える症例において不都合な瘢痕形成のために失敗している(Musy et al.,American Journal of Otolaryngology.2004 Nov−Dec;25(6):418−22)。修正手術は、初回手術より合併症率が高く、成功が得られることが少なく、生活の質の目に見える低下と結び付いている(Jiang et al.,Annals of Otology,Rhinology,and Laryngology,2002 Feb;l11(2):155−59)。
【0006】
創傷治癒中の瘢痕組織形成を減少させるための、例えば抗炎症薬や線維芽細胞増殖阻害剤を用いる試みは、間接的あり、大部分は無効である。これらの薬剤は、非特異的であり、線維芽細胞を阻害するだけではなく、上皮細胞移動をも阻害する。副鼻腔手術では、詳細には、副鼻腔破壊片の活性粘膜絨毛クリアランスを促進する機能的副鼻腔裏層(粘膜)を伴って再上皮化されなければならない腔が作り出される。このため、再上皮化を阻害する薬剤は、副鼻腔における最適治癒に対して逆効果である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、瘢痕組織形成および医学的介入に関連する他の問題を緩和するために、胚葉新生組織プロセスを阻害せずに、瘢痕組織を特異的に標的とする新規なアプローチが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書では、基質と、該基質の表面上または該基質中にコラーゲン阻害剤とを含む植え込み型または挿入型生物医学デバイスが提供される。一部の実施形態では、本デバイスは、尿道、尿管または腎尿管カテーテルまたはステントである。一部の実施形態では、基質は、ビニル、ポリエチレン、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、シリコーン、ラテックス、およびポリプロピレンからなる群から選択される材料を含む。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される。
【0009】
尿道狭窄または尿管狭窄の治療を必要とする被験者において尿道狭窄または尿管狭窄を治療する方法であって、尿道狭窄を治療するための有効量でコラーゲン阻害剤を局所に投与する工程を含む方法もまた提供される。一部の実施形態では、投与する工程は、コラーゲン阻害剤でコーティングされたカテーテル(例、シリコーンカテーテル)を用いてステント装着する工程によって実施される。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される。
【0010】
本明細書では、基質と、該基質の表面上または該基質中にコラーゲン阻害剤とを含む創傷閉鎖デバイスもまた提供される。一部の実施形態では、基質は、生分解性基質および非生分解性(不活性)基質からなる群から選択される。一部の実施形態では、本デバイスは、縫合糸、ステープル、テープ、または包帯である。一部の実施形態では、基質には、生分解性ポリマー、例えばポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ラクチド−コグリコリド)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)、ポリ(カプロラクトン)、ポリカーボネート、ポリエステルアミド、ポリ無水物、ポリ(アミノ酸)、ポリ(オルトエステル)、ポリシアノアクリレート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリ(エーテルエステル)、ポリ(エチレングリコール)とポリ(オルトエステル)のコポリマー、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(アルキレンアルキレート)、生分解性ポリウレタン、それらのブレンドおよびコポリマーなどが含まれる。一部の実施形態では、基質は、編繊維、織繊維、もしくは不織繊維材料、例えば、シルク、綿、レーヨン、リネン、羊毛、サテン、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレンもしくはそれらの組み合わせである。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される。
【0011】
さらに、基質と、該基質の表面上または該基質中にコラーゲン阻害剤とを含む外科用パッキング(例、副鼻腔パッキング)もまた提供される。一部の実施形態では、基質は、オキシセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、微結晶セルロース、キサンタンガム、二酸化ケイ素、およびそれらの混合物からなる群から選択される材料を含む。一部の実施形態では、基質は、乾燥粉末の形状である。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される。
【0012】
副鼻腔創傷の治療を必要とする被験者において副鼻腔創傷を治療する方法であって、該創傷を治療するための有効量でコラーゲン阻害剤を局所に投与する工程を含む方法が提供される。一部の実施形態では、投与する工程は、副鼻腔を、コラーゲン阻害剤を含む副鼻腔パッキング材料(例、セルロース化合物またはゲル)で充填する工程によって実施される。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される。
【0013】
食道狭窄または気管狭窄の治療を必要とする被験者において食道狭窄または気管狭窄を治療する方法であって、該被験者における狭窄を治療するための有効量でコラーゲン阻害剤を局所に投与する工程を含む方法もまた提供される。一部の実施形態では、該投与する工程は、該コラーゲン阻害剤を含む生分解性ステントを用いて該狭窄にステント装着する工程によって実施される。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される。
【0014】
被験者における癒着を防止するための、予備形成された、または被験者内において形成可能なバリア基質と、該基質の表面上または基質中にコラーゲン阻害剤とを含むバリア材料がさらに提供される。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される。
【0015】
腹部癒着を必要とする被験者における腹部癒着を治療する方法であって、該被験者における該腹部癒着を治療するための有効量でコラーゲン阻害剤を該被験者の腹腔内へ局所に投与する工程を含む方法が提供される。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される。
【0016】
さらに、上述した治療方法におけるコラーゲン阻害剤を含む基質の使用が提供される。
【0017】
植え込み型もしくは挿入型生物医学デバイスを含むキットもまた提供される。
【0018】
本明細書では以下に本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】3段階にわたる創傷治癒を示す概略図である。A:炎症、B:線維組織形成、C:成熟
【図2】倍率200倍での、HF−Brがコーティングされた3−0 Vicryl縫合糸(A)およびコーティングされていない3−0 Vicryl縫合糸(B)の走査型電子顕微鏡写真。
【図3】インビトロでのHF−Brの溶出は、243nmでのUV分光法によって検出された迅速な薬物放出を示している。
【図4】組織学的検査結果を示す図である。図4Aは創傷の領域を示す。図4Bは線維芽細胞数を示す。Vicはコーティングされていない3−0 Vicryl縫合糸であり、VicNBCはコーティングされていない3−0 Vicryl縫合糸であって、N−ブチル−2−シアノアクリレート接着剤が局所に適用された。HFVicは、臭化ハロフジノンでコーティングされた3−0 Vicryl縫合糸であって、VicNBCHFは、コーティングされていない3−0 Vicryl縫合糸であって、N−ブチル−2−シアノアクリレート接着剤および臭化ハロフジノンが局所に適用された。HF−Br:臭化ハロフジノン。
【図5】コラーゲンα1の遺伝発現。コラーゲンα1遺伝子発現の相対量は、18S(5A)およびGAPDH(5B)RNAの発現レベルを用いて標準化した。次にこれらの数値を正常皮膚内での相対量のコラーゲンα1遺伝子発現で割った。
【図6】2、6および12週間後の炎症のグレード判定。
【図7】2、6および12週間後の創傷領域。
【図8】HF−Br処置群および対照群創傷中の塩可溶性コラーゲンの質量率は、Sircol(商標)可溶性コラーゲンアッセイによって決定した。塩可溶性コラーゲンは、新しく生成されたコラーゲンを代表する。
【図9A】2および12週間後の、サンプルの硬さ(9A)、最終引張荷重(9B)および伸び率(%)(9C)。
【図9B】2および12週間後の、サンプルの硬さ(9A)、最終引張荷重(9B)および伸び率(%)(9C)。
【図9C】2および12週間後の、サンプルの硬さ(9A)、最終引張荷重(9B)および伸び率(%)(9C)。
【図10】副鼻腔パッキングのインビトロ溶出試験。薬物の80%が1時間で溶出した。
【図11】HF副鼻腔パッキングを詰めた創傷では線維芽細胞数が減少した。
【図12】A:非HF−Br PLAインプラント(4倍)、B:HF−Brエレクトロスピンしたインプラント(4倍)。マッソン(Masson)の三重染色(ブルーはコラーゲンである)。コラーゲンカプセルの厚さが減少した(矢印でマークされている)ことに注目されたい。
【図13】ラットモデルにおいて使用されたシリコーン製尿道ステント上のHF−BrコーティングのSEM画像。
【図14】2週齢のラット尿道のマッソン三重染色。A:サンプルはHFがコーティングされたステントを有していた。B:サンプルはコーティングされていないたステントを有していた。スライドA1(2.5倍)およびA2(10倍)では、新しいコラーゲン沈着は見られず(海綿質線維症)、炎症反応だけが見られる。スライドB1(2.5倍)およびB2(10倍)では、新しいコラーゲン沈着が明白である(海綿質線維症)。
【図15】3月齢のウサギ尿道のマッソン三重染色。A:サンプルはHFがコーティングされたステントを有していた。B:サンプルはコーティングされていないステントを有していた。スライドAでは、正常な尿道構造を伴い、コラーゲン沈着は少なかった(ブルーの染色が少ない)。スライドBでは、大きなコラーゲン沈着が見られたが(より強くブルーに染色されている)、3カ月後には、2週間後に見られた無定形コラーゲンとは相違してコラーゲンがより組織化されるようになったことに注目されたい。
【図16】ラットのインビボでのハロフジノンレベル。HFの濃度を陰茎組織中および血清中の両方で決定した。血清中対陰茎組織中のHFレベル間にはほぼ10倍の差が見られた。標準誤差のバーが含まれている。
【図17】HFの溶出。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書で引用したすべての米国特許参考文献の開示は、その全体が記載されているかのように本明細書に参照によって組み込まれるものとする。
【0021】
瘢痕(線維性)組織の沈着を通しての治癒は、損傷に対する正常な反応である。ヒトでは、創傷治癒反応は、炎症、線維組織形成および成熟の3つの段階に分けられる。このプロセスの工程は広範囲に重複し、個別工程が一連であるよりむしろ連続体であると考える方が最も良く理解される(図1)。
【0022】
何らかの特定の理論に結び付けることを望まなくても、創傷治癒プロセスは、内皮下コラーゲンを血小板へ曝露させる血管完全性の妨害から始まる。この事象は、血液滲出を導き、急性炎症反応を誘発する開始工程である。この反応は、局所性因子および全身性因子を活性化して細胞の創傷内への整然とした予測可能な移動をもたらす。創傷内で最初に出現する細胞は好中球であり、これに単球および線維芽細胞が続く。線維芽細胞は、線維組織形成中に優勢な細胞タイプである。この段階は、線維芽細胞の増殖および移動を特徴とする。この段階中の線維芽細胞の主要な機能は、間質マトリックスおよびタイプ1コラーゲンを合成することである。瘢痕組織と呼ばれる臨床単位を特徴とする線維性組織を作り上げるのがこのコラーゲンである。線維組織形成段階が完了すると、その間には創傷が無細胞になる成熟の最終段階が発生し、数カ月間から数年間にわたってリモデリングを受ける。リモデリング段階中に、創傷は引張強度を回復する。様々なメディエーターおよび酵素の影響下では、リモデリングはマトリックス合成と分解との相互作用を表すと考えられる。
【0023】
本明細書では、例えば手術などの医療手技、または他の外傷後の創傷治癒を改善するための組成物、デバイスおよび方法が提供される。一部の実施形態では、本発明は、典型的には創傷および損傷部位へ局所に投与されるコラーゲン阻害剤を提供する。「狭窄症」もしくは「狭窄」は、身体の管、通路もしくは管状構造もしくは器官の狭小化を意味する。
【0024】
本発明によって治療できる「被験者」には、医療目的のヒト被験者ならびに獣医学的および実験目的での動物被験者の両方が含まれる。その他の適切な動物被験者は、一般には、哺乳動物被験者、例えば霊長類、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギ、齧歯類(例、ラットおよびマウス)などである。ヒト被験者が、最も好ましい。ヒト被験者には、胎児、新生児、乳児、青少年、成人および高齢被験者が含まれる。
【0025】
本明細書で使用する「治療する」は、瘢痕化または瘢痕組織生成および/またはコラーゲン生成を含む合併症に苦しんでいる、またはそれらを発生するリスク状態である被験者に利益を付与する任意のタイプの治療もしくは予防を意味し、被験者の状態(例、1つまたは複数の症状)における改善、瘢痕化の進行の遅延、症状の発現の遅延、または症状の進行の遅延などを含む。したがって、用語「治療」は、症状の発現を防止するための被験者の予防的治療もまた含む。本明細書で使用する「治療」および「予防」は、必ずしも症状の治癒もしくは完全な廃止を意味することは意図されていないが、患者の状態(例、1つまたは複数の症状)における改善、疾患の進行における遅延を含む、疾患に苦しんでいる患者に利益を付与するあらゆるタイプの治療を意味する。
【0026】
「治療有効量」、「治療するための有効量」などは、本明細書では、創傷を負った患者もしくは損傷の部位に望ましい作用を生成するために十分なコラーゲン阻害剤の量を意味する。これは、患者の状態(例、1つまたは複数の症状)における改善、疾患の進行の遅延などを含む。
【0027】
本明細書で使用する「医薬上許容される」は、疾患の重症度および治療の必要性に照らして過度の有害な副作用を伴わずに、化合物もしくは組成物が本明細書に記載した治療を達成する目的で適用するために適合することを意味する。
【0028】
I.(コラーゲン阻害剤)
本発明を実施するために有用な「コラーゲン阻害剤」は公知であり、コラーゲンの合成を阻害するすべての薬剤を含む。例えば、米国特許第6,046,340号明細書および第5,092,841号明細書、国際公開第2005/112999号パンフレットを参照されたい。コラーゲンは、生命体内の細胞外マトリックスの主要なタンパク質成分である。コラーゲンには少なくとも12のタイプがあり、タイプI、タイプIIおよびタイプIIIが最も一般的である。それらは主として身体内で治癒中に線維芽細胞によって合成され、前駆体プロコラーゲンタンパク質のプロセッシングによって生成される。
【0029】
一部の実施形態では、タイプ1コラーゲン(タイプIコラーゲンとしても公知である)の阻害剤が好ましい。瘢痕組織の主要成分であるタイプ1コラーゲンαは、典型的には2本のα1(I)鎖および1本のα2(I)鎖の3つのサブユニットから構成される長さ300nmのタンパク質ロッドを形成する。線維芽細胞内では、タイプ1コラーゲンの合成は、コラーゲンα1遺伝子の活性化によって制御される。このため、一部の実施形態では、コラーゲンα1遺伝子発現の阻害剤が好ましい。
【0030】
本明細書で使用する「コラーゲン阻害剤」の例には、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノン、d−ペニシラミン、β−アミノプロピオニトリル、オカダ酸、LY294002(PI−3K阻害剤)、5−フルオロウラシル、それらのアナログなどが含まれるがこれに限定されない。
【0031】
ミトラマイシン(MITもしくはプリカマイシン)は、DNAのGCリッチ領域に結合するオーレオル酸ポリケチド系抗生物質であり、典型的には化学療法薬として使用される。例えば、米国特許第5,723,448号明細書を参照されたい。マイトマイシン−cは、眼、副鼻腔および気管における公知の瘢痕阻害作用を備える公知の線維芽細胞阻害剤である。
【0032】
トラニラスト(2−(2,3−ジメトキシシンナモイル)アミノ安息香酸)もまた公知であり、例えば、米国特許第5,385,935号明細書、第6,239,177号明細書、および第6,376,543号明細書に記載されている。
【0033】
「ハロフジノン」もしくは臭化ハロフジノン(7−ブロモ−6−クロロ−3−[3−(3−ヒドロキシ−2−ピペリジニル)−2−オキソプロピル]−4(3H)は公知であり、例えば、米国特許第5,449,678号明細書、第6,420,371号明細書、第6,028,078号明細書、第6,090,814号明細書、および第6,159,488号明細書に記載されている。ハロフジノンは、畜牛業および養鶏業において抗コクシジウム剤として使用されてきたキナゾリノン化合物である。思いがけなく、この薬剤が全身性で投与されたニワトリにおいて皮膚の菲薄化が発生することが見いだされた。この現象の詳細な試験は、ハロフジノンの作用機序がコラーゲンα1遺伝子プロモーターの阻害剤であるという発見をもたらした(Granot I et al.,Poult Sci.1991 Jul;70(7):1559−63)。この化合物の薬理学については、獣医学的使用のために広汎に試験され、強皮症を治療するためにヒトにおいて使用するためのFDAオーファンドラッグ承認を有する。
【0034】
II.(基質)
基質には、あらゆる生体適合性基質が含まれ、生分解性または非生分解性であってよい。
【0035】
生分解性または生体吸収性基質は、生分解性ポリマーから形成されてよい。ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ラクチド−コグリコリド)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)、ポリ(カプロラクトン)、ポリカーボネート、ポリエステルアミド、ポリ無水物、ポリ(アミノ酸)、ポリ(オルトエステル)、ポリシアノアクリレート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリ(エーテルエステル)、ポリ(エチレングリコール)とポリ(オルトエステル)のコポリマー、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(アルキレンアルキレート)、生分解性ポリウレタン、ならびにそれらのブレンドおよびコポリマーなどが含まれるがそれらに限定されない任意の適切なポリマーを使用できる。例えば、米国特許第7,097,857号明細書を参照されたい。
【0036】
一部の実施形態によると、本発明は、基質および該基質の上もしくは中のコラーゲン阻害剤を含む創傷閉鎖デバイスを提供する。該基質は、生分解性基質(例えば、アルブミン、コラーゲン、合成ポリアミノ酸、プロラミン、多糖類など、または生分解性ポリマー、例えばポリラクチド、ポリグリコール酸、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリカプロラクトン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ無水物、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリシアノアクリレート、および分解性ポリウレタン)または非生分解性(不活性)基質、例えばシリコーンおよび絹、もしくはポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリカプロラクトン、ポリアクリレート、エチレン−酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリ酸化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリ(ビニルイミダゾール)、クロロスルホン化ポリオレフィン、酸化ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ナイロン、ならびにそれらのコポリマーおよび組み合わせを含んでいてよい、それらから構成されてよい、またはそれらから本質的に構成されてもよい。本デバイスは、例えば縫合糸、ステープル、テープ、もしくは包帯などの任意の適切な形状を取ってよい。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、不活性もしくは非生分解性基質上にコーティングされている生分解性ポリマー中で運ばれる。
【0037】
一部の実施形態では、本デバイスは、縫合糸である。縫合糸は、上述したように生分解性ポリマーから形成されて(単一固体の形状にあって)よく、または編繊維、織繊維、もしくは不織繊維材料(例、絹、綿、レーヨン、リネン、羊毛、サテン、ナイロン、ポリエステルもしくはそれらの混合物)から形成されてよい。例えば、米国特許第5,685,860号明細書および第6,224,630号明細書を参照されたい。一部の実施形態では、縫合糸は、ポリプロピレン(例、ProleneもしくはMarlex)および/またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(例、Gore−Tex)を含む。
【0038】
本発明は、基質および該基質の上もしくは中のコラーゲン阻害剤を含む外科用パッキング(例、副鼻腔パッキング)もさらに提供する。このパッキングは、米国特許第5,263,927号明細書および第4,291,687号明細書に記載されている形状を含むがこれに限定されることなく任意の適切な形状を取ってよい。
【0039】
このパッキングのための基質材料は、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、微結晶セルロース、キサンタンガム、二酸化ケイ素、およびそれらの混合物を含むが、これに限定されることなく任意の適切な材料から形成されてよい。例えば、米国特許第7,135,197号明細書を参照されたい。オキシセルロースは、現在は止血を達成するための創傷パッキングとして使用されている。一部の実施形態では、基質は、乾燥した、好ましくは無菌の粉末の形状(例えば、コラーゲン阻害剤がそれと混合されてよい)で提供することができる。
【0040】
一部の実施形態では、被験者における癒着を防止するために、予備形成された、もしくはその場所で形成可能なバリア基質および該基質の上もしくは中のコラーゲン阻害剤を含むバリア材料が使用される。該基質は、任意の適切な材料であってよく、その場で形成される場合には、任意の適切な架橋剤が使用されてよい。適切な例には、米国特許第6,638,917号明細書に記載されているものが含まれるがそれらに限定されない。基質もしくは材料は、生体吸収性(例、止血材料)または非生体吸収性(例えば、ヘルニア修復術において現在使用されている非吸収性メッシュ)であってよい。
【0041】
本発明のまた別の態様は、基質および該基質の上もしくは中のコラーゲン阻害剤を含む植え込み型もしくは挿入型生物医学デバイスである。一部の実施形態では、本デバイスは、尿道、尿管または腎尿管カテーテルまたはステントである。様々な鼻用、食道用および気管用ステントもまた公知である。頭蓋骨、上顎骨および下顎骨プレートは生体吸収性基質(例えば、ポリ−L−乳酸−ポリグリコール酸プレート(PLLA/PGA))および非生体吸収性基質(例えば、チタン)を含む。
【0042】
一部の実施形態では、身体のどこでも非生体吸収性ステント(即ち、内腔狭窄を防止するために設計されたチューブ)。その例には、尿道カテーテル、尿管ステント、腎尿管カテーテル、食道ステント、気管開口術ステント、経胃栄養チューブ、経鼻胃チューブ、喉頭/気管/肺動脈ステント、鼓膜切開術チューブ、鼻用ステント、唾液管ステント、胆管ステント、腸管ステント、涙鼻管ステントが含まれるがこれに限定されない。
【0043】
以下ではさらにその他の実施例について記載する。基質は、任意の適切な生分解性もしくは非生分解性材料から構成されてよい。一部の実施形態では、(例えば、それからカテーテルが形成される)基質は、例えばビニル、ポリエチレン、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、シリコーン、ラテックス、もしくはポリプロピレンなどの材料を含む。例えば、米国特許第7,025,753号明細書を参照されたい。コラーゲン阻害剤は、そのような基質材料上に、担体(例えば、生分解性ポリマー)を用いて、もしくは用いずに、以下で詳細に考察する任意の適切な技術によってコーティングすることができる。
【0044】
それから生成物もしくはデバイスが形成される基質中にコラーゲン阻害剤を含むことによって本発明を実施するために使用できるデバイスもしくは製品の特定の例には、(様々な分野に対して)以下が含まれるがそれらに限定されない。
泌尿器科:
コーティングされた尿道カテーテル
コーティングされた尿管ステント
コーティングされた腎尿管カテーテル
ENT(耳鼻咽喉科):
コーティングされた副鼻腔パッキング材料
注射用副鼻腔パッキング材料
コーティングされた食道ステント
コーティングされた気管開口術チューブ
コーティングされた経胃栄養チューブ
コーティングされた経鼻胃チューブ
コーティングされた喉頭/気管/肺動脈ステント
声帯を強化するための注射用材料
コーティングされた鼓膜切開術チューブ
コーティングされた鼻中隔副子
コーティングされた鼻用ステント
コーティングされた唾液管ステント
コーティングされた喉頭インプラント
唾液管放射線線維症のための注射用ゲル
頭蓋骨、上顎、下顎のコーティングされた吸収性および非吸収性骨プレート
形成外科/皮膚科:
コーティングされたシリコーンインプラント(もしくは他の組成物のコーティングされたインプラント)
審美的強化のための注射用材料(充填剤)
肥厚性瘢痕を防止するためのクリーム/ゲル/スプレー
瘢痕化を防止するためのコーティングされたシリコーンシート
火傷瘢痕化/拘縮を防止するためのクリーム/ゲル/スプレー/シリコーンシート
コーティングされた皮膚移植片材料
創傷閉鎖のためのコーティングされた縫合糸
コーティングされた皮膚ステープル/体内ステープル
コーティングされた「Steri−Strips」創傷閉鎖用接着剤
一般外科:
外科的癒着を防止するためのコーティングされたシートもしくはスプレー
コーティングされた胆管ステント
コーティングされた腸管ステント
眼科:
コーティングされた鼻涙管ステント
血管外科:
コーティングされた血管内ステント
心臓病学科:
コーティングされた血管内心臓ステント
整形外科:
コーティングされた吸収性および非吸収性骨プレート
混合型:
他の植え込み型人工医療デバイス(血管アクセスデバイス、インスリンポンプなど)のためのコーティング
吸収性血管ステント、心血管ステント、ステープル、縫合糸を作製するために使用される、コーティングされた合成ポリマー[例、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、およびポリ(乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)]
【0045】
本発明のデバイス、材料、および組成物は、ヒト被験者、ならびに獣医学もしくは実験目的のための動物被験者、例えばイヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、サルなどの両方の治療において使用できる。
【0046】
III.(調製物)
一部の実施形態では、本発明のコラーゲン阻害剤は、基質上のコーティングとして提供される。コラーゲン阻害剤は、任意の適切な技術、例えばディッピング、スプレー、スプレー乾燥などによって基質上にコーティングすることができる。コラーゲン阻害剤は、それだけで、または担体材料もしくはフィルム形成材料、例えば生分解性ポリマー(例えば上述したような)と同時に適用されてよい。コラーゲン阻害剤は、任意の適切な技術、例えば混合、もしくは共抽出などによって材料(例えば、粉末もしくは生分解性材料など)内に結合することができる。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、植え込まれた、または挿入された基質上もしくは隣接の瘢痕形成および/またはコラーゲン形成を阻害するための有効量で含まれる。
【0047】
一部の実施形態によると、縫合糸および/またはパッキング材料のためには、コーティングプロセスは、(a)材料を植え込むために所望のサイズおよび形状に準備する工程と、(b)コラーゲン阻害剤の溶液(例、0.5μg/mLでのHF−Br)を準備する工程と、(c)材料を次にディッピングして、直ちに約24時間にわたり−80°Fで冷凍する工程と、(d)冷凍材料を次に凍結乾燥(即ち、真空乾燥)させる工程と、(e)材料を例えばエチレンオキシドもしくはγ線照射を用いて滅菌する工程と、のうちの1つまたは複数を含む。
【0048】
一部の実施形態によると、ステント材料を(例、食道、気管、血管などのために)コラーゲン阻害剤でコーティングおよび/または浸透させる工程は、(a)粉末形である乾燥コラーゲン阻害剤(例、HF−Br)を(例えば50:50の比率で)同様に粉末形であるステント材料(例、PLLA、PGA、Vicryl(ポリガラクチン)と混合する工程と、(b)粉末材料を次に所望の形状にエレクトロスピンする工程(一部の実施形態では、このプロセスは植え込みのための所望の形状を作製する自由を可能にするコラーゲン阻害剤含浸ステントを生じさせる)と、(c)ステントを例えばエチレンオキシドもしくはγ線照射を用いて滅菌する工程と、のうちの1つまたは複数を含む。
【0049】
一部の実施形態によると、コラーゲン阻害剤を含む創傷接着剤は、(a)コラーゲン阻害剤(例、0.5μg/mLでのHF−Br)を適切な接着剤材料(例、アクリレート材料)と50:50で混合する工程と、(b)創傷へ直接的に適用する工程と、のうちの1つまたは複数を含む。
【0050】
一部の実施形態によると、コラーゲン阻害剤を用いたステント(例、永続的カテーテル)のコーティングは、(a)ステントを計量する工程と、(b)ステントの表面を約30〜60秒間にわたってプラズマ反応器を用いて、またはマイクロ波でステントを水湿潤させる工程と、(c)ステントをコラーゲン阻害剤(例、ハロフジノンHF)中へ浸漬し、液体窒素もしくは−80℃で冷凍する工程と、(d)ステントを凍結乾燥させる工程(例、一晩)と、(e)ステントを計量する工程と、(f)ステントを1%のPEG(0.2μmフィルターで濾過した3,500〜5,000g/モル)中へ浸漬する工程と、(g)液体窒素中もしくは−80℃でPEGを冷凍して、一晩凍結乾燥させる工程と、(h)ステントをコラーゲン阻害剤(例、ハロフジノン)中に浸漬して、一晩凍結乾燥させる工程と、(i)ステントを計量する工程と、(j)滅菌する工程と、のうちの1つまたは複数を含む。
【0051】
一部の実施形態によると、ステント(例、永続的カテーテル)をコラーゲン阻害剤でコーティングする工程は、(a)ステントを計量する工程と、(b)約30〜60秒間にわたってステントの表面をプラズマ反応器を用いて、またはマイクロ波でステントを湿潤させる(例えば、PBSで湿潤させ、PBSを浸したガーゼで被覆する)工程と、(c)冷却するためにステントを2%のPLGA−COOH中へ浸漬する工程と、(d)フード下で乾燥させる工程と、(e)(例えば、PBSを)浸したガーゼで被覆し、約30〜60秒間にわたりマイクロ波にかける(またはプラズマ反応器を使用する)工程と、(f)ステントをハロフジノンでコーティング(例えば、浸漬)し、液体窒素中で冷凍し、一晩凍結乾燥する工程と、(g)薬剤含量を見積もるためにステントを計量する工程と、(h)滅菌する工程と、のうちの1つまたは複数を含む。
【0052】
当業者であれば、上記の方法は全部が、本明細書に開示した本発明の精神から逸脱せずに、ルーチン方法によって所望通りに修飾および最適化することができる。
【0053】
IV.(用量および投与経路)
好ましい実施形態では、本発明のコラーゲン阻害剤は、創傷および損傷部位へ局所に(すなわち、局所的に)投与されるコラーゲン阻害剤を提供する。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤を含む組成物は、本明細書に記載するようにコーティングされた縫合糸によって、ゲルもしくは適切な創傷用接着剤の組み合わせによって、適切な基質上にコラーゲン阻害剤をコーティングおよび/または含浸する工程によって投与することができる。
【0054】
一部の実施形態では、開放創傷におけるタイプIコラーゲンの産生を阻害するために、ナノ(10−9)もしくはピコ(10−12)モル用量での1つまたは複数のコラーゲン阻害剤の局所投与で十分である。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、術後瘢痕組織形成を防止するためのパッキング材料として(例えば、副鼻腔手術後の副鼻腔内へ)局所に使用される。
【0055】
一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、30分間未満での薬物の溶出/吸収によって投与される。一部の実施形態では、投与は、より長い期間にわたって実施され、例えば30分間、1、2もしくは3時間、および5、6、7もしくは8日間までにわたる実質的溶出が生じる。一部の実施形態では、コラーゲン阻害剤は、できる限り多くの創傷治癒の早期線維組織形成段階を捕捉するための時間(例えば、3〜7日間)にわたって溶出させられる。
【0056】
一部の実施形態では、HFは、単回で、または経時的に0.5、1.0もしくは1.5〜2.0、2.5、3.0、3.5もしくは4.0mg/kgの総用量で投与される。一部の実施形態では、総用量は、0.5〜10mgである。一部の実施形態では、HFは、ナノ(10−9)またはピコ(10−12)モル用量で投与される。
【0057】
以下の非限定的な実施例では、本発明の一部の実施形態をより詳細に説明する。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
(タイプIコラーゲン阻害剤が皮膚創傷の治癒に及ぼす作用)
ハロフジノンは、実験動物モデルにおいて瘢痕形成を阻害する全身性作用物質として使用されてきた(Pines et al.,General Pharmacology,1998 Apr;30(4):445−50;Pines et al.,Biol Blood Marrow Transplant,2003 Ju;9(7):417−25)。しかし、この目的での局所薬としての有効性については余り知られていない。
【0059】
創傷治癒および瘢痕組織形成の実験モデルは、ラットにおいて明確に記載され、すべてが背面皮膚切開部を組み込んでいる(Kapoor et al.,The American Journal of Pathology,2004;165:299−307)。ラットは、背部上にヒト真皮の厚さに近似する相当に厚い真皮を有する。
【0060】
計9匹の動物に手術を施行した。まず、3匹の対照群および6匹の処置群動物。各対照群動物の背部上に4つの全厚の皮膚切開部を作製した。2つの前方切開部はコーティングされていない3−0 VicrylおよびN−ブチル−2−シアノアクリレート接着剤で閉鎖した。後方切開部は、Vicryl単独で閉鎖した。実験動物群では、4つの全厚創傷を背部上に作製した。2つの前方切開部はコーティングされていないVicrylで閉鎖し、閉鎖した創傷へHF−BrおよびN−ブチル−2−シアノアクリレートの混合物(0.5ccのHF−Brを0.5ccのN−ブチルシアノアクリレート接着剤に加えた)を局所塗布した。2つの後方創傷は、HF−Brコーティングした3−0 Vicrylで閉鎖した。次に2匹の処置群動物および1匹の対照群動物を2、6および12週間後に安楽死させ、分析のために軟部組織標本を採取した。
【0061】
縫合糸のコーティング:3−0 Vicryl吸収性縫合糸を計量し、1mL血清用ピペット中に入れた。次にこれらのピペットに1ccのHalocur(商標)臭化ハロフジノン(0.5mg/mL)(Halocur(登録商標)(Intervet International BV(ノルウェー国)製の経口ハロフジノン0.5mg/mL)を充填し、24時間にわたり−80℃で冷凍し、凍結乾燥させた。コーティング前後の重量を記録し、走査型電子顕微鏡写真(SEM)を使用して縫合糸上の薬物コーティング(微粒子物質)を証明した(図2)。コーティングされた縫合糸の目視検査により、黄色のコーティングが証明されたが、これはさらに黄色のHalocurが付着しているという証拠を提供した。
【0062】
縫合糸は、外科使用のためにエチレンオキシドで滅菌した。コーティング前後の重量記録は、コーティングされた縫合糸上に平均96μg/cmの薬剤が存在することを証明した。
【0063】
ハロフジノンの溶出を決定するために、インビトロ溶出試験を実施した。コーティングされたVicryl縫合糸からリン酸緩衝食塩液(PBS)中へのハロフジノンの放出を使用して、インビボでの薬物放出動態を推定した。HF−BrがコーティングされたVicrylの2.5cm区間を1.5mLのPBS中に配置し、37℃でインキュベートした。5、15、30、および45分間後ならびに1、2、4、8、24、48、72、および96時間後に、この区間をPBSの新しい1.5mLアリコート中へ移し、以前のアリコートからのハロフジノンの量を243nmでのUV分光測定法を用いて測定した。UV分光測定法からのデータは、インビトロでのHF−BrのPBS中への迅速な放出を示した(図3)。全薬物質量の90%が30分間で放出され、薬物は2時間でほぼ排出されると推定された。
【0064】
創傷の肉眼的外観:2週間後には、HF−Br処置群創傷に比較して対照群創傷における方がより多くの紅斑および硬化が見られた(データは示していない)。その後の時点では、外観における有意差は見られなかった。
【0065】
軟部組織サンプルを採取し、パラフィン中に包埋し、切片作製した(5μm)。切片はヘマトキシリン&エオシン(H&E)ならびにマッソン三重染色で染色した。炎症スコアはStorchの方法(Surgical Infections,2002;3:89−98)によって記録した。瘢痕組織沈着の面積は、光線顕微鏡およびZeiss(商標)デジタル画像取得ソフトウエアシステムを用いて概算かつ計算した。結果は、図4に示した。
【0066】
コラーゲンα1遺伝子発現を決定するために、(縫合糸単独の動物において)皮膚の2mmパンチ生検標本を縫合材料に隣接する創傷の境界で採取した。サンプルを急速冷凍し、粉砕し、そしてRNAをTrizol試薬で抽出した。リアルタイムqPCRは、ラットタイプ1コラーゲンα2−amplisetを用いて遺伝子発現を測定するために使用した。コラーゲンα1遺伝子発現の相対量は、18SおよびGAPDH RNAの発現レベルを用いて標準化した。これらの数値を次に正常皮膚内でのコラーゲンα1遺伝子発現の相対量で割った。結果は、タイプ1コラーゲンα2の遺伝子発現は、HFで局所処置された創傷では阻害されることを証明した(図5)。
【0067】
炎症反応をH&E染色(図示しない)により可視化すると、炎症スコアは対照群におけるよりHF−Br処置サンプル群における方が一貫して低かった(図6)。マッソンの三重染色は、コラーゲン沈着の断面積(瘢痕)もまた対照群におけるよりHF−Br処置サンプル群中の方が一貫して小さいことを証明した(図示しない)。
【0068】
2週間後の創傷の面積の概算は、HF−Br処置群(322,107μm2)と対照群(865,743μm2)との間でコラーゲン染色における2.7倍の差を証明した(図示しない)。2、6および12週間後の創傷領域は、図7に示した。
【0069】
新しく生成されたコラーゲンのレベルを評価するために、組織サンプルを0.05MのTris中の1MのNaCl中で消化させた。次に塩可溶性コラーゲンをSircol(商標)色素検出系と結合させ、243nmでのUV分光測定法を用いて含量を測定した。塩可溶性コラーゲンの組織質量率は、2週間後の全サンプル中で高かった。塩可溶性コラーゲンレベルにおける有意差は、HF−Br処置群と対照群との間で各時点にわたって検出できなかった(図8)。
【0070】
皮膚創傷組織標本の引張強度は、張力計を用いて破断点を測定することによって評価する。組織標本は、動物を犠死させた直後に採取して分析する。標本を張力計に取り付け、創傷が破断するまで圧力を加える。この破断圧を引張強度として記録する。
【0071】
皮膚サンプルは、瘢痕の平面が加えられる力の方向に対して垂直となるように採取した。サンプルを冷凍し、再解凍させ、聴力計(Instron(商標)、マサチューセッツ州ノーウッド)のクランプで固定した。次に、サンプルが破断するまで力を加えた。続いて最終引張荷重、伸び率、および硬さを2および12週間後に、3つの対照群および3つのHF−Br処置群サンプルについて計算した。平均値を報告した。全組織サンプルについての平均硬さ、最終引張荷重、および伸び率は、2週間後から12週間後へ増加した(図9)。処置群と対照群のサンプル間で有意差は検出されなかった。
【0072】
結論:HF−Brコーティングされた縫合糸は薬物を皮膚創傷へ局所に送達し、創傷を制御するために適切な引張強度を維持しながら瘢痕組織形成を減少させる。タイプIコラーゲンの含量は、対照群および実験群の創傷中で同一であった。HFは、効果的な創傷閉鎖のためのシアノアクリレートをベースとする創傷接着剤の形状で局所に適用することもできる。
【0073】
(実施例2)
(副鼻腔パッキング)
コラーゲンα1遺伝子の阻害剤である臭化ハロフジノン(HF−Br)が瘢痕組織形成を防止する能力を副鼻腔手術の齧歯類モデルにおいて試験した。この化合物の全身性投与が動物およびヒトを対象とする試験において瘢痕組織形成を阻害することは見いだされているが、副鼻腔手術における瘢痕組織形成に及ぼす影響を調査した試験はなかった。そこで本試験の目的は、HF−Brの局所適用が副鼻腔手術の動物モデルにおいて瘢痕化を防止するかどうかを決定することであった。
【0074】
この臭化ハロフジノンの潜在力のために、本発明者らは、低用量での局所適用は開放創傷におけるタイプIコラーゲン生成を阻害するために十分すぎるほどである、そして実質的に全身性の副作用のリスクを有していないという仮説を立てた。この仮説に基づいて、本発明者らは、術後瘢痕組織形成を防止するための副鼻腔内のパッキング材料として局所的に使用できる臭化ハロフジノンの調製物を合成した。
【0075】
副鼻腔損傷および創傷治癒の試験における齧歯類モデルの使用は、以前のマウスにおける試験において確立されているが(Bomer et al.,Arch Otolaryngol Head Neck Surg.1998 Nov;124(11):1227−32)、この状況において臭化ハロフジノンが及ぼす役割について試験したものはなかった。本発明者らは、創傷治癒の試験において有用な副鼻腔手術のラットモデルを開発したが、その試験ではマイクロCT評価および組織学的試験データによって、危険な構造物を使用せずにヒトにおける副鼻腔手術後に所見されるものに類似する篩骨組織の切除が確認された(データは示していない)。
【0076】
ハロフジノンは、止血に役立って薬物送達用ビヒクルとして機能する、血液および液体を吸収する適切な材料と組み合わされる。本発明者らは、この目的のためにセルロース誘導体を選択した。
【0077】
パッキング材料は、次のように調製した。工程1:材料を植え込みに合わせて所望のサイズへ調製して成形する。セルロースの副鼻腔パッキング材料(Merocel)を5mmストリップに切断する。工程2:HF−Br 0.5μg/mL(Halocur(登録商標)(経口ハロフジノン、0.5mg/mL)、Intervet International BV、ノルウェー国)の溶液を調製する。工程3:次に材料をディッピングし、−80°Fで24時間にわたり急速冷凍する。工程4:次に冷凍した材料を凍結乾燥(真空乾燥)する。工程5:材料をエチレンオキシドまたはγ線照射によって滅菌する。コーティングされたMerocelの目視検査により、黄色のコーティングが証明され、これはさらに黄色のHalocurが付着しているというさらなる証拠を提供した。
【0078】
ハロフジノン/セルロース誘導体パッキングの局所適用をラットの副鼻腔内での瘢痕組織形成の防止について試験した。ラットの対になった解剖学的に同一の副鼻腔は、一方が対照群として、他方が実験群として機能することを可能にする。対照群の副鼻腔には、コーティングされていないセルロース誘導体パッキング材料(Merocel)を充填した。他方(実験)副鼻腔には、臭化ハロフジノンがコーティングされたセルロース誘導体化合物パッキング材料を充填した。第2組の動物には副鼻腔手術を受けさせ、いずれの種類のパッキング材料も配置しなかった。どちらのパッキング調製物も、適正な止血を提供するが、ヒトの臨床シナリオにおけると同様に、抜去を必要とする。外科創傷は、吸収性表皮下縫合糸を用いて閉鎖した。副鼻腔手術をラットにおいて実施し、パッキングは5日間にわたって配置した。副鼻腔標本を採取し、分析した。
【0079】
以下の表1は、ラット組織内に配置されたMerocelパッキング上の薬物の重量を表している。乾燥質量は、薬物を用いたコーティング前のパッキングの重量である。湿潤質量は、薬物を用いたコーティング後のパッキングの重量を表している。薬物質量は、パッキングへのコーティングとして適用された薬物の総量を表している。この数字は、乾燥質量を湿潤質量から減じることによって計算する。平均薬物質量は、表示したように、標準偏差を伴う、薬物質量1〜10の平均値である。
【0080】
【表1】
【0081】
インビトロ溶出試験は、薬物の80%が1時間で溶出することを証明した(図10)。インビボ溶出試験は、術後第5日に抜去したパッキングについて実施し、これを10mLのPBS中に8時間にわたり入れ、300μLのアリコートを分光測定計に配置した(術後に抜去した対照群パッキングを用いてブランキングした)。術後第5日のパッキング上では薬物が確認されなかったので(図示しない)、全量の薬物が投与されたことを示唆していた。
【0082】
線維芽細胞数は、HF副鼻腔パッキング創傷における線維芽細胞数の減少を明らかにした(図11)。マッソンの三重染色によるコラーゲン染色は、HFコーティングされていないセルロースパッキングと比較してHFコーティング副鼻腔パッキングが充填された創傷におけるコラーゲン染色の減少を証明した(図示しない)。
【0083】
結論:HF−Brの局所投与は、副鼻腔内での術後瘢痕組織形成を減少させた。
【0084】
(実施例3)
(副鼻腔パッキングゲル)
副鼻腔内でコーティングされたセルロースパッキングの使用の代替法は、副鼻腔パッキングゲルである。この調製物は、ハロフジノン(HF−Br)(Halocur(登録商標)(経口ハロフジノン、0.5mg/mL)、Intervet International BV、ノルウェー国)をカルボキシメチルセルロース(CMC)と組み合わせ、無菌粉末として貯蔵することによって作製した。この混合物を無菌水で復元するとゲルが形成され、これを次に止血および瘢痕制御のために手術時点に副鼻腔内に染み込ませる。
【0085】
液体形であるハロフジノンを粉末形のセルロース誘導体と結合すると、注入用ゲルが形成される。このゲルを凍結乾燥させ、手術時点に蒸留水を用いて再構成するために保管する。薬物混合物中に存在するハロフジノンの量は、重量によって注意深く制御すると、全化合物乾燥重量の0.03%を表す。
【0086】
(実施例4)
(吸収性薬物溶出型食道ステントを用いた食道狭窄症の治療)
食道狭窄症もしくは狭窄は、上皮内層の崩壊に反応した瘢痕組織の沈着に続発する食道の狭小化を意味する。瘢痕組織の沈着は、胃食道逆流疾患(GERD)、癌に対する放射線療法もしくは化学療法、手術、外傷もしくは炎症性疾患に続発して発生する可能性がある。この瘢痕の収縮は食道内腔を減少させ、さらに嚥下困難、飢餓、誤嚥および死亡を引き起こすことがある(Ruigomez et al.,Am J Gastroenterol.2006;101:2685−2692)。管状(内腔)構造が損傷すると、保護上皮内層が崩壊し、円形瘢痕を形成する瘢痕組織に取って代われる。この円形瘢痕は収縮して内腔断面積を減少させ、これはその構造を通る流量を減少させる。
【0087】
内腔狭窄状態に対する現行の治療は、狭窄した器官の罹患区間を伸張させて(拡張して)ステント装着すること、器官の罹患区間を切除すること、罹患器官をバイパスすること、または器官全体を取り替えること(臓器移植)を模索する。これらのアプローチに関連する組織外傷は、不可避的により多くの瘢痕組織の形成や沈着、収縮および狭窄が続く瘢痕組織の連続的サイクルを導く。金属ステントは収縮力に抵抗することを試みて使用されてきて限定的ながら成功が得られているが、このアプローチに結び付いた重要な欠点は、より多くのコラーゲン生成を刺激して、最終的には取り除かなければならない連続的組織外傷を誘発することである。このために、本発明の一部の実施形態では、吸収性ステントが提供される。
【0088】
食道狭窄疾患のためのゴールドスタンダードの第一線治療は、内視鏡的拡張術であった。そのような内視鏡的手技の不成功は一般的であり、食道を切除して、胃もしくは自由組織移動を用いて再構成するための高度に罹患性の開放的アプローチを必要とする。いずれかの治療の最も一般的合併症は、狭窄の再発ならびに繰り返しの拡張術およびステント術の必要である(Pereira−Lima et al.,Am J Gastroenterol,1999;94:1497−1501)。
【0089】
食道狭窄に対する手術的アプローチの成功率が不良であるので、創傷収縮のプロセスに対抗して狭窄の再発を防止するために、補助的な外科技術が使用されてきた。これらの方法には、再発の発生率を減少させるための、狭窄療法後の非吸収ステントを用いる長期ステント装着術ならびに様々な薬理学的物質(コルチコステロイド剤、マイトマイシンC、コルヒチンなど)の局所注射が含まれる。これらの努力はいずれも成功していないので、このためこの問題に対処するための新規な治療パラダイムが追求されなければならない。
【0090】
局所的コラーゲン阻害剤を投与する吸収性食道ステントは、狭窄溶解後に配置される。これらのステントは抜去する必要がないので、患者に与えるリスクを最小限に抑える。薬物溶出性の吸収性食道ステントは、食道狭窄の治療を改善するだけではなく、例えば尿道、気管気管支樹、腸、および血管などの解剖学的部位における他の管腔狭窄を治療するための並進的に置き換えることのできる意味もまた有する。経口投与された、または局所注射されたハロフジノンは管腔狭窄疾患を安全に治療および防止できるという証拠がある。局所薬としてのその有効性については余り知られていないが、局所適用は、薬物を直接的に組織に送達するから、そして全身性コラーゲンホメオスタシスおよび血液凝固を妨害する全身性投与を回避するから、有益である。例えば、近年の第I相臨床試験では、3.5mg/日の全身性用量には出血が結び付いていた。この証拠に基づくと、本発明者らは、薬物送達の理想的方法は、吸収性の薬物コーティングステントによる局所的であると考えている。そのようなステントは全身性作用をほとんどもしくは全く伴わずに損傷の領域へ薬物を直接的に送達し、ステント自体が有害な作用を伴わずに消化される。
【0091】
そのようなステントを開発する目標に向かって、日本国における研究者らは最近、吸収性の薬物がコーティングされていないポリ乳酸(PLA)網状ステントが両性食道狭窄を治療するために有効かつ安全であるという、ヒトを対象とする小規模臨床試験における前途有望な結果を証明した(Tanaka et al.,Digestion 2006 Oct;74:199−205)。
【0092】
本発明者らは、吸収性HF−Brがコーティングされた食道ステントは食道狭窄形成のラットモデルにおける瘢痕組織形成を緩和するという仮説を立て、そして本発明者らは、瘢痕形成および管腔狭窄を防止するために吸収性薬物溶出性食道ステントの形状である局所的HF−Brを適用した。
【0093】
以前の動物モデルは、食道損傷を達成するために、腐食熱傷モデル(水酸化ナトリウム)を使用した。本発明者らは、食道のpHは水酸化ナトリウムによって局所的HF−Brの適用の活性を効果的に変化させるほど十分に変化させられ得ると考えるので、このため電気焼灼熱傷モデルを使用しようと考える。
【0094】
エレクトロスピン技術を使用してポリ乳酸(PLA)/HfBr含浸材料を作製し、これをラットの皮下に移植した。本発明者らは、この材料が容易に吸収され、線維性(瘢痕)カプセル形成が減少することを見いだした(図12)。エレクトロスピン法は、電荷を使用して細線維のマットを形成する。エレクトロスピンの標準セットアップは、金属製ニードルを備えるスピナレット、シリンジポンプ、高電圧電源、およびコレクター設置から構成される。ポリマーのゾルゲル複合溶液(本発明者らの場合には、PLA/HF−Br溶融溶液)をシリンジ内へ装填し、この液体を先端で液滴を形成するシリンジポンプによってニードル先端へ駆動させる。ニードルへ電圧を加えると、液滴はまず伸張させられ、次に帯電液体ジェットが形成される。ジェットは次に、コレクター接地上に沈着させられるまで静電反発力によって連続的に伸張および気泡させられる。帯電ジェット内での曲げ不安定性および溶媒の付随蒸発に起因する起泡は、このジェットが所望の径に伸張することを可能にする。
【0095】
食道ステントについては、本発明者らは、この同一手技を使用して2.5〜3mmの外径(ほぼ成体ラット食道の直径)を有する管状構造を回転させる。本発明者らは、使用したPLAの質量を記録し、使用する薬物の量を制御する(ヒトのデータ(de Jonge et al.,Eur J Cancer.2006 Aug;42(12):1768−74)および本発明者らのラットにおいてHF−Brを用いた現行の経験に基づくと、最高0.5mg)。ステントを作製したら、本発明者らは、PLAおよびHF−Brの均一な分布を探すために走査型電子顕微鏡を用いて材料を試験する。本発明者らは、各標本を計量して長さを測定し、次に以前に副鼻腔および縫合糸材料について実施したようにインビトロで薬物溶出試験を実施する。手短には、本発明者らは、作製したステントをPBS中に入れ、規定時点に分光測定法を用いて薬物レベルを測定して薬物分布(μg/mL)曲線を確定する。本発明者らは、最初に5分間後、10分間後、20分間後、40分間後、60分間後、2時間後、4時間後、8時間後、12時間後、24時間後、48時間後、72時間後および96時間後の時点または薬物の80%超が放出されてしまうまで測定する。これらのデータによって、本発明者らは、ステントの単位長さ当たりの薬物量を推定できる。
【0096】
上述したラットモデルは、局所的HF−Brが食道における瘢痕組織形成を阻害するという本発明者らの仮説を試験するために使用する。3群の動物を使用する。第1群は正常ラット、第2群はステント装着を行わない腐食性食道損傷、および第3群はPLAおよびHF−Brステント装着が行われた腐食性食道損傷である。全動物は、術前の体重、食道造影および薬物(HF−Br)レベルについての血清採血を受ける。
【0097】
第2群および第3群の動物が手術を受ける。第3群では、事前に作製されたステントを、熱傷の時点に熱傷のすぐ遠位の小さな食道切開術切開部を通して挿入し、ステントが損傷部位にとどまることを保証するために1本の6.0モノクリル縫合糸で固定する。食道切開術切開部は、断続的吸収性縫合糸で閉鎖する。創傷は、吸収性縫合糸を用いる標準方法で閉鎖し、動物を覚醒させ、回復させる。第3群では、HF−Brの全身性レベルを測定するために経心臓的血清採血のために5匹の動物を第1、2、3、4および5日に安楽死させる。これらの同一動物で、食道を開き、ステント完全性についての肉眼的評価を実施する。2、6、12および24週間後に全群において残っている動物を計量し、安楽死させ、食道造影を実施する。食道標本を採取してホルマリン中で固定し、パラフィン中に包埋し、切片作製し、ヘマトキシリン&エオシンおよびマッソンの三重染色で染色する。本発明者らは、瘢痕領域を測定するために光線顕微鏡およびデジタル技術を用いて瘢痕組織沈着の量を定量する。リアルタイムPCR測定は、コラーゲンα1活性の活性を定量するために実施する。前後の重量を嚥下機能のマーカーとして使用し、群間で比較する。
【0098】
(実施例5)
(ラットモデルにおける腹部癒着の治療)
例えば腹部などの大きな体腔への手術中には、瘢痕組織が形成され、その腔内の重要器官が癒着形成と呼ばれるプロセスにおいてくっつくことを引き起こす。これらの癒着は正常な器官機能の消失を引き起こし、慢性疼痛および死亡を引き起こすことがある。癒着形成の防止は、術後の転帰を改善する。このため、1つまたは複数のコラーゲン阻害剤を手術中もしくは手術後に内臓器官へ局所的に適用する。
【0099】
癒着を動物の腹腔内に作り出し、瘢痕組織形成を遮断するコラーゲン阻害剤(例、臭化ハロフジノン)で治療する。薬物は、手術後に重要臓器間の癒着形成を防止するために、吸収性材料または非吸収性メッシュを植え込む工程によって腹腔内へ直接的に配置する。腹腔は外科的に開口し、癒着はガーゼスポンジを用いて重要臓器を穏やかに擦ることによって作製する。次に臭化ハロフジノンがコーティングされた吸収性の止血材料を腹腔内へ直接的に適用し、創傷を縫合する。
【0100】
ラットを動物モデルとして使用する。腹部癒着形成のための実験モデルは、ラットにおいて明確に記載され、全部が腹側正中切開を含む。1つの切開部は各ラットの腹部上に作製し、次にヒト手術を模倣するために内臓剥離を作製する。別個の対照群および実験群ラットを使用する。各実験動物には、HF−Brがコーティングされた吸収性材料を植え込む。各対照群動物には、HF−Brがコーティングされていない吸収性材料を植え込む。第3対照群では、吸収性材料を植え込まない。2、6、12および24週間後に、動物を安楽死させ、癒着形成の量を腹壁内に形成された癒着の面積率によって定量し、そして癒着の肉眼的外観を評価する。軟部組織標本を採取し、ヘマトキシリン&エオシン染色、マッソン三重染色およびコラーゲン含量アッセイを用いて癒着形成について分析する。腹壁の引張強度もまた12週間後に測定する。第1、2、3、および4日に、各実験群からのラット1匹を安楽死させて、HF−Brの血漿中レベルを入手するための心腔内血を採血する。
【0101】
本発明者らは、オキシセルロースをHF−Brでコーティングし(図示しない)、これを腹部癒着に対するパッキング材料として使用する。
【0102】
(実施例6)
(コーティングされた尿管および尿道カテーテル材料)
例えば尿道または尿管狭窄などの管腔狭窄は、泌尿器科医にとって頭の痛い問題を表している。尿道狭窄は、そのほとんどがタイプIコラーゲンから構成される海綿質線維症の結果として生じ、尿道損傷の後に生じるコラーゲン生成と破壊の不均衡に起因する(Baskin et al.,J Urol.1993.Aug.150(2 Pt2):642−7)。尿道狭窄は、拡張術および/または切開術を用いて治療され、一般にはその後にステント術が施行されるが、そのような技術は高い不成功率に悩まされる。狭窄形成を防止するための薬理学的物質(例、MMC、ステロイド剤、コルヒチン)の使用は、治療結果をほんのわずかにしか改善しなかった。
【0103】
経口投与されたハロフジノン、および局所注射されたハロフジノンもまた、泌尿器狭窄の動物モデルの尿管および尿道におけるコラーゲン沈着および狭窄形成を防止することが証明されている(Turk et al.,J Endourol.2000 Mar;14(2):145−7;Nagler et al.,J Urol.2000 Nov;164(5):1776−80;Jaidane et al.,J Urol.2003 Nov;170(5):2049−52)。
【0104】
しかし、経口投与または注射による投与は理想的ではない。3.5mg/日までの経口用量は固形性腫瘍を備える患者にわずかながら有害作用を伴って投与されてきたが(Jianng et al.,Antimicrob Agents Chemother.2005 Mar;49(3):1169−76)、本発明の一部の実施形態では、例えばハロフジノンなどのコラーゲン阻害剤は、コーティングされたステントを介して提供される。尿道狭窄疾患の症例では、これは最善の実行可能な療法であるが、それは改良された結果を提供しながら、ほとんど変更を加えずに現行の治療技術に組み込むことができるからである。
【0105】
短い尿道狭窄は、典型的には直接視内尿道切開術(DVIU)、または狭窄の切開術を用いて治療され、その後には約4日間にわたるカテーテルステント装着が行われるが、これは新規の瘢痕がステントの周囲で治癒し、径の大きな尿道が残ることを期待したものである。残念なことに、創傷治癒は十分に制御することができず、新規な切開部はタイプIコラーゲンの沈着によって治癒するが、これは収縮して効率の狭窄再発を誘発する場合がある。コラーゲン阻害剤がコーティングされたカテーテルは、狭窄切開後に挿入することができ、当該の特定領域へ少量のコラーゲン阻害剤を送達することによって再発を防止するので、この療法にとって理想的な補助手段となる。
【0106】
臭化ハロフジノン(HF)は、強力なタイプIコラーゲン阻害剤であることが公知の物質であり、以前の試験は、経口および局所ハロフジノン投与が尿道狭窄を含む管腔狭窄を防止できることを証明してきた。しかし、HFコーティングされたステントが尿道狭窄形成を防止する能力を証明した試験はなかった。そこで本試験の目的は、尿道ステントをHFで首尾よくコーティングし、次にHFコーティングされたステントが尿道狭窄疾患の小型動物モデルにおける海綿質線維症を防止できるかどうかを試験することであった。
【0107】
Halocur(登録商標)(経口ハロフジノン、0.5mg/mL)は、Intervet International BV(ノルウェー国)から入手した。ラット用ステントは、SMI社製のシリコーンチューブ(0.30mm×0.64mm)から作製されたが、ウサギ用ステントは8フレンチのシリコーンフォーリーカテーテル(Bard社製)であった。ステントは、以下のようにコーティングした。1.ステントをPBSで湿らせ、PBSに浸漬したガーゼで被覆し、40秒間にわたりマイクロ波にかける。2.ステントを2%のPLGA−COOH中に浸漬して冷却させる。3.フード下で乾燥させる。4.PBSに浸漬したガーゼで被覆し、30秒間にわたりマイクロ波(もしくはプラズマ処理)にかける。5.ステントをハロフジノンでコーティングし(浸漬し)、液体窒素中で冷凍して、一晩かけて凍結乾燥させる。6.薬物含量を推定するために、重量をコーティングの前後に測定しなければならない。カテーテル上のハロフジノンの存在は、ステント重量における変化を測定すること、肉眼的およびSEM画像試験、ならびに溶出動態によって証明された。
【0108】
薬物コーティングを測定する最も単純な方法、つまり重量における変化の決定を最初に実施した。長さ3cmのシリコーンチューブは、Halocurを用いたコーティングの前後に計量した。コーティング後の平均重量変化はおよそ1mgであり、これはチューブ上の少量の薬物のコーティングを証明した。コーティングされたカテーテルの目視検査もまた、シリコーンの通常の白色の外観の上方に黄色のコーティングを示し、これはチューブに黄色のHalocurが付着しているというさらなる証拠を提供した。
【0109】
シリコーンチューブの走査型電子顕微鏡検査もまたHalocurを用いたコーティングの前後に実施した。コーティングされたチューブは、その表面上に薬物層を明白に示すが、コーティングされていないチューブは完全に平滑である。これは、Halocurがシリコーンチューブ上に上首尾でコーティングされたことのさらなる証拠を提供する。
【0110】
次に、コーティングされたステントによって放出されたハロフジノンの量、および薬物放出の時機を決定するために、薬物放出試験を実施した。長さがおよそ3cmのステントは、本発明者らの専有技術を用いてハロフジノンでコーティングした。次にこれらのステントを室温で24時間間隔でPBS溶液中に入れた。各24時間間隔後に、ステントを新規のPBS溶液中に配置し、先の溶液はUV分光測定法(243nmの吸光度)を用いてハロフジノン濃度について分析した。このプロセスは、PBS中のハロフジノンの量が測定不能なレベルへ低下するまで1日1回続けた。およそ4日間にわたりステントからのハロフジノンの持続性放出が生じ、多量のバースト放出は最初の24時間であり、その後3日間は漸進的に少なくなった(図17)。これらの結果は、シリコーンステントにHalocurが上首尾でコーティングされている、そしてこのコーティングが数日間の期間にわたり薬物の持続性放出を提供するというさらなる証拠を提供した。
【0111】
動物手術(ラットおよびウサギ):尿道瘢痕は、確立された動物モデルを用いて電気メスによって尿道内に形成した(Jaidane et al.,J.Urol.2003 Nov.170(5):2049−52)。コーティングされていない(対照群)またはHFコーティングされた(実験群)ステントを尿道内に挿入し、永続的縫合糸で固定した。ウサギには、会陰的尿道造瘻術を実施した。ラットは手術2週間後に、ウサギは3カ月後に安楽死させ、その時点に陰茎(尿道ステントを含有する)および取り囲んでいる皮下組織を摘出した。
【0112】
標本を10%パラホルマリン中で固定し、パラフィンブロック中に包埋した。次に標本から切片作製し(5μm)、スライドに作製し、マッソン三重染色およびコラーゲンα1抗体染色で染色した。
【0113】
局所組織および血清中のHF分析(ラットにおいて):組織標本を分割し、40mLのPBS中で24時間にわたりインキュベートし、遠心分離し、サンプルを分光測定法によるHF濃度分析のために採取した。血液(1mL)もまた死後心臓から採取し、5mLのPBSに加え、遠心分離し、血清を分光測定法によってHF濃度について分析した。
【0114】
結果:シリコーンステントは、ハロフジノンでコーティングして良好な結果が得られた。瘢痕は、電気メス技術を利用して両方の動物モデルにおいて効果的に誘導し、瘢痕形成は損傷組織内のコラーゲン沈着の増加によって特徴付けた(図14および15を参照)。肉眼検査では、コーティングされていないステントが装着された陰茎において明白なコラーゲン沈着(海綿質線維症)が所見されたが、HFコーティングされたステントが装着された陰茎の海綿質組織内での新規なコラーゲン沈着は見られなかった。この結果は、ラットおよびウサギの両方の動物モデルにおいて観察された(各々、図14および図15)。HFは、取り囲んでいる陰茎組織および血流中血清の両方において検出されたが、HFのレベルは血清中より組織中の方が有意に高かった(図16)。
【0115】
結論:HFコーティングされたステントは、損傷に反応した新規の尿道周囲コラーゲン沈着を生じさせなかったので、これにより損傷領域の瘢痕化をほとんど誘発しなかった。これは、狭窄形成の減少と相関する可能性がある。HFは、薬物溶出ステントに隣接する組織中および血流中の両方に存在しているが、血清中より局所組織中における方が有意に高い濃度が見られる。
【0116】
(実施例7)
(ヒトの試験)
DVIU療法による治療に適した匹敵する尿道狭窄(長さ<2cm)を備える10例の男性患者を募集し、2つの治療群に分けた。A群(5例の男性)をDVIUで治療し、次にシリコーン製尿道Foleyカテーテルを用いて4日間にわたりステント装着した。B群(5例の男性)はDVIUで治療し、次にタイプIコラーゲンをコーティングしたシリコーンカテーテルを用いて4日間にわたりステント装着した。
【0117】
タイプIコラーゲン阻害剤をコーティングしたシリコーン製尿道カテーテルは、16フレンチのBard All−Siliconeフォーリーカテーテル(既にヒトにおいて広汎に使用されている)から構成され、Halocur溶液の形態であるおよそ0.375mgのハロフジノンである、特異的なタイプIコラーゲン阻害剤のハロフジノンでコーティングされている。使用するカテーテルは、通常の供給業者を通して病院使用のために購入された、したがって無菌的に包装されたBard社製の16フレンチの100%シリコーンフォーリーカテーテルである。このカテーテルは、次にその包装から取り出し、上述したように薬剤のHalocur(0.5mg/mLのハロフジノン溶液)でコーティングする。Halocurは、ウシの新生仔におけるクリプトスポリジウム・パルヴム(Cryptosporidiumu parvum)の治療に使用するために優れた品質管理下でHalocurを大量に製造しているIntervet Corporation社から入手する。カテーテルをコーティングしたら、カテーテルを患者使用のための調製において包装し、UVもしくはγ線照射下で滅菌する。
【0118】
カテーテルの抜去直後(およびその後は1年間にわたり3カ月毎)に、患者は標準方法で尿流測定法検査を受ける。その1年間の終了時に、全患者は、尿道開存性を評価するために逆行性尿道造影検査を受ける。
【0119】
患者にステントの使用からの任意の有害作用が観察された場合は、タイプIコラーゲン阻害剤がコーティングされたカテーテルの安全性を定性的に評価する。尿道狭窄の再発は、尿流量ならびに逆行性尿道造影上の尿道径を測定することによって定量的に評価する。尿流量測定検査の結果は、最高流量(もしくはQmax)を測定することによって客観的に比較し、そして流量曲線(閉塞流動を表すマルチモードの拡張パターンに比較した正常流動を表す、正常単調増加、安定期間、および単調減少を伴う単一モードである)の形状を分析することによって主観的に比較する。逆行性尿道撮影法試験は、各々の場合に狭窄再発について評価するために、最も狭い地点で尿道の幅を測定することによって客観的に比較される。
【0120】
(実施例8)
(カテーテルのコーティング)
以下は、本発明者らが4日間にわたる画像試験(顕微鏡的および肉眼的)、重量変化、および溶出データを用いてハロフジノンでコーティングする能力を証明した尿管および尿道カテーテル材料のリストである。
一般的デバイス材料:シリコーン、Silastic、ラテックス、ポリウレタン、Nitinol、PLGA
Boston Scientific社の製品:Percuflexステント、Fleximaステント、Pebax材料
Cook社製のステント:ポリウレタン、Sof−flex、AQステント、Endo−sofステント
Bard社製のステント:ポリウレタン、ラテックス、網状ステント、Lubricathフォーリー、Inlayステント、エラストマーコーティングカテーテル、シルバーコーティングカテーテル
【0121】
ステントは、以下のようにコーティングした。1.ステントをPBSで湿らせ、PBSに浸漬したガーゼで被覆し、40秒間にわたりマイクロ波にかける。2.ステントを2%のPLGA−COOH中に浸漬して冷却させる。3.フード下で乾燥させる。4.PBSに浸漬したガーゼで被覆し、30秒間にわたりマイクロ波(もしくはプラズマ処理)にかける。5.ステントをハロフジノンでコーティング(浸漬)し、液体窒素中で冷凍して、一晩かけて凍結乾燥させる。6.薬物含量を推定するために、重量をコーティングの前後に測定しなければならない。
【0122】
同一材料から作製されたステントおよびその他の基質(例、食道および気管用製品)を同一方法でコーティングする。
【0123】
上記は、本発明の例示であり、本発明を限定するものと解釈すべきではない。本発明は、添付の請求項と、その中に含まれる特許請求項の同等物とによって規定される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非生体吸収性基質と、前記基質の表面上または前記基質中にコラーゲン阻害剤とを含む植え込み型もしくは挿入型生物医学デバイス。
【請求項2】
前記デバイスは、尿道、尿管、または腎尿管用のカテーテルまたはステントである請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記基質は、ビニル、ポリエチレン、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、シリコーン、ラテックス、およびポリプロピレンからなる群から選択される材料から構成される請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される請求項1〜3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
尿道狭窄または尿管狭窄の治療を必要とする被験者において尿道狭窄または尿管狭窄を治療する方法であって、前記被験者における前記狭窄を治療するための有効量でコラーゲン阻害剤を局所に投与する工程を含む方法。
【請求項6】
前記投与する工程は、前記コラーゲン阻害剤でコーティングされたカテーテルを用いるステント装着術によって実施される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記カテーテルは、シリコーンを含む請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
基質と、前記基質の表面上または前記基質中にコラーゲン阻害剤とを含む創傷閉鎖デバイス。
【請求項10】
前記基質は、生分解性基質および非生分解性(不活性)基質からなる群から選択される請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記デバイスは、縫合糸、ステープル、テープ、または包帯である請求項9または10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記基質は、生分解性ポリマーを含む請求項9〜11のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項13】
前記基質は、ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ラクチド−コグリコリド)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)、ポリ(カプロラクトン)、ポリカーボネート、ポリエステルアミド、ポリ無水物、ポリ(アミノ酸)、ポリ(オルトエステル)、ポリシアノアクリレート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリ(エーテルエステル)、ポリ(エチレングリコール)とポリ(オルトエステル)のコポリマー、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(アルキレンアルキレート)、生分解性ポリウレタン、ならびにそれらのブレンドおよびそれらのコポリマーからなる群から選択される生分解性ポリマーを含む請求項9〜12のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項14】
前記基質は、編繊維、織繊維、または不織繊維材料から形成される縫合糸である請求項9〜13のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項15】
前記繊維材料は、絹、綿、レーヨン、リネン、羊毛、サテン、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレンまたはそれらの組み合わせである請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
前記コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される請求項9〜15のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項17】
基質と、前記基質の表面上または前記基質中にコラーゲン阻害剤とを含む外科用パッキング。
【請求項18】
前記基質は、オキシセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、微結晶セルロース、キサンタンガム、二酸化ケイ素、およびそれらの混合物からなる群から選択される材料から構成される請求項17に記載のパッキング。
【請求項19】
前記基質が、乾燥粉末の形状である請求項17または18に記載のパッキング。
【請求項20】
前記パッキングは、副鼻腔パッキングである請求項17〜19のいずれか一項に記載のパッキング。
【請求項21】
前記コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される請求項17〜20のいずれか一項に記載のパッキング。
【請求項22】
副鼻腔創傷の治療を必要とする被験者において副鼻腔創傷を治療する方法であって、前記創傷を治療するための有効量でコラーゲン阻害剤を局所に投与する工程を含む方法。
【請求項23】
前記投与する工程は、前記コラーゲン阻害剤を含む副鼻腔パッキング材料を前記副鼻腔に詰める工程によって実施される請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記副鼻腔パッキング材料は、セルロース化合物を含む請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記副鼻腔パッキング材料は、副鼻腔パッキングゲルを含む請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
前記コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される請求項22〜25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
食道狭窄または器官狭窄の治療を必要とする被験者において食道狭窄または気管狭窄を治療する方法であって、前記被験者における前記狭窄を治療するための有効量でコラーゲン阻害剤を局所に投与する工程を含む方法。
【請求項28】
前記投与する工程は、前記コラーゲン阻害剤を含む生分解性ステントを用いるステント装着術によって実施される請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
被験者における癒着を防止するためのバリア材料であって、予備形成された、または前記被験者中において形成可能なバリア基質と、前記基質の表面上または前記基質中にコラーゲン阻害剤とを含むバリア材料。
【請求項31】
前記コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される請求項30に記載のバリア材料。
【請求項32】
腹部癒着の治療を必要とする被験者における前記腹部癒着を治療する方法であって、前記被験者における前記腹部癒着を治療するための有効量でコラーゲン阻害剤を前記被験者の腹腔内へ局所的に投与する工程を含む方法。
【請求項33】
前記コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される請求項32に記載の方法。
【請求項34】
(a)コラーゲン阻害剤でコーティングされた基質と、
(b)前記基質を無菌形で包装している容器と
を含むキット。
【請求項35】
前記容器は、プラスチック製またはホイル製容器を含む請求項34に記載のキット。
【請求項36】
前記容器は、真空包装されている請求項34に記載のキット。
【請求項37】
前記基質は、単回用量の前記コラーゲン阻害剤でコーティングされている請求項34に記載のキット。
【請求項38】
前記基質は、生分解性または非生分解性である請求項34に記載のキット。
【請求項39】
前記コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される請求項34に記載のキット。
【請求項1】
非生体吸収性基質と、前記基質の表面上または前記基質中にコラーゲン阻害剤とを含む植え込み型もしくは挿入型生物医学デバイス。
【請求項2】
前記デバイスは、尿道、尿管、または腎尿管用のカテーテルまたはステントである請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記基質は、ビニル、ポリエチレン、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、シリコーン、ラテックス、およびポリプロピレンからなる群から選択される材料から構成される請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される請求項1〜3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
尿道狭窄または尿管狭窄の治療を必要とする被験者において尿道狭窄または尿管狭窄を治療する方法であって、前記被験者における前記狭窄を治療するための有効量でコラーゲン阻害剤を局所に投与する工程を含む方法。
【請求項6】
前記投与する工程は、前記コラーゲン阻害剤でコーティングされたカテーテルを用いるステント装着術によって実施される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記カテーテルは、シリコーンを含む請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
基質と、前記基質の表面上または前記基質中にコラーゲン阻害剤とを含む創傷閉鎖デバイス。
【請求項10】
前記基質は、生分解性基質および非生分解性(不活性)基質からなる群から選択される請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記デバイスは、縫合糸、ステープル、テープ、または包帯である請求項9または10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記基質は、生分解性ポリマーを含む請求項9〜11のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項13】
前記基質は、ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ラクチド−コグリコリド)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)、ポリ(カプロラクトン)、ポリカーボネート、ポリエステルアミド、ポリ無水物、ポリ(アミノ酸)、ポリ(オルトエステル)、ポリシアノアクリレート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリ(エーテルエステル)、ポリ(エチレングリコール)とポリ(オルトエステル)のコポリマー、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(アルキレンアルキレート)、生分解性ポリウレタン、ならびにそれらのブレンドおよびそれらのコポリマーからなる群から選択される生分解性ポリマーを含む請求項9〜12のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項14】
前記基質は、編繊維、織繊維、または不織繊維材料から形成される縫合糸である請求項9〜13のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項15】
前記繊維材料は、絹、綿、レーヨン、リネン、羊毛、サテン、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレンまたはそれらの組み合わせである請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
前記コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される請求項9〜15のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項17】
基質と、前記基質の表面上または前記基質中にコラーゲン阻害剤とを含む外科用パッキング。
【請求項18】
前記基質は、オキシセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、微結晶セルロース、キサンタンガム、二酸化ケイ素、およびそれらの混合物からなる群から選択される材料から構成される請求項17に記載のパッキング。
【請求項19】
前記基質が、乾燥粉末の形状である請求項17または18に記載のパッキング。
【請求項20】
前記パッキングは、副鼻腔パッキングである請求項17〜19のいずれか一項に記載のパッキング。
【請求項21】
前記コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される請求項17〜20のいずれか一項に記載のパッキング。
【請求項22】
副鼻腔創傷の治療を必要とする被験者において副鼻腔創傷を治療する方法であって、前記創傷を治療するための有効量でコラーゲン阻害剤を局所に投与する工程を含む方法。
【請求項23】
前記投与する工程は、前記コラーゲン阻害剤を含む副鼻腔パッキング材料を前記副鼻腔に詰める工程によって実施される請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記副鼻腔パッキング材料は、セルロース化合物を含む請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記副鼻腔パッキング材料は、副鼻腔パッキングゲルを含む請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
前記コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される請求項22〜25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
食道狭窄または器官狭窄の治療を必要とする被験者において食道狭窄または気管狭窄を治療する方法であって、前記被験者における前記狭窄を治療するための有効量でコラーゲン阻害剤を局所に投与する工程を含む方法。
【請求項28】
前記投与する工程は、前記コラーゲン阻害剤を含む生分解性ステントを用いるステント装着術によって実施される請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
被験者における癒着を防止するためのバリア材料であって、予備形成された、または前記被験者中において形成可能なバリア基質と、前記基質の表面上または前記基質中にコラーゲン阻害剤とを含むバリア材料。
【請求項31】
前記コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される請求項30に記載のバリア材料。
【請求項32】
腹部癒着の治療を必要とする被験者における前記腹部癒着を治療する方法であって、前記被験者における前記腹部癒着を治療するための有効量でコラーゲン阻害剤を前記被験者の腹腔内へ局所的に投与する工程を含む方法。
【請求項33】
前記コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される請求項32に記載の方法。
【請求項34】
(a)コラーゲン阻害剤でコーティングされた基質と、
(b)前記基質を無菌形で包装している容器と
を含むキット。
【請求項35】
前記容器は、プラスチック製またはホイル製容器を含む請求項34に記載のキット。
【請求項36】
前記容器は、真空包装されている請求項34に記載のキット。
【請求項37】
前記基質は、単回用量の前記コラーゲン阻害剤でコーティングされている請求項34に記載のキット。
【請求項38】
前記基質は、生分解性または非生分解性である請求項34に記載のキット。
【請求項39】
前記コラーゲン阻害剤は、ミトラマイシン、マイトマイシン−c、トラニラスト、ハロフジノンおよびそれらのアナログからなる群から選択される請求項34に記載のキット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公表番号】特表2010−511427(P2010−511427A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539336(P2009−539336)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【国際出願番号】PCT/US2007/024615
【国際公開番号】WO2008/069961
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(507189574)ウェイク・フォレスト・ユニヴァーシティ・ヘルス・サイエンシズ (14)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【国際出願番号】PCT/US2007/024615
【国際公開番号】WO2008/069961
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(507189574)ウェイク・フォレスト・ユニヴァーシティ・ヘルス・サイエンシズ (14)
【Fターム(参考)】
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