説明

コンクリート成型品或いはコンクリート構築物

【課題】 従来の液状のサポニン含有剤は非常に滲出力が強く、サポニン含有剤を練り込んだコンクリート製品からは比較的短時間にサポニン含有剤が溶出してしまい、効果が長持ちしない。更に、サポニン含有剤特にキラヤサポニンは糖分を多く含んでおり、サポニン量が多いとセメントが硬化しないと言う欠点がある。
【解決手段】コンクリート成型品や構築物の表面に、サポニンを含有する植物体の微粉末を混入したセメントペースト、モルタル或いはコンクリートを、塗布、塗り込み、或いは打ち込みにより一体化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サポニンを含有する植物体の微粉末を混入したコンクリート成型品やコンクリート構築物などのコンクリート製品或いはセメント製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、護岸工事に使用されているコンクリート製のテトラポッド、コンクリートブロック等は、設置後長時間経過しても、防波、護岸等の目的は達しているが、水産生物は定着せず、その結果水生植物の生育環境を維持することが出来ない状態になり、環境破壊だといわれている。
【0003】
また、川底と両岸をコンクリートで固めた所謂「三面張り」の護岸工事は、川に本来生息していた水生生物の住処を奪う結果となり、このような工事のあり方に批判が起こった。そのため、現在では河川の改修に当たってはできるだけ自然の形態を保ような工夫が成されつつある。
【0004】
このような観点から、本発明者らは、セメントに骨材や水とともにサポニン含有剤を加えたセメントペースト、モルタル或いはコンクリートを、表面に塗布などにより一体化させたコンクリート成型品やコンクリート構築物を開発した(特許文献1)。
【0005】
ところが、この出願で用いたサポニン含有剤は液体であり、非常に滲出力が強い。従って、サポニン含有剤を練り込んだコンクリート製品からは比較的短時間(1〜3ケ月)にサポニン含有剤が溶出してしまい、効果が長持ちしない。更に、サポニン含有剤特にキラヤサポニンは糖分を多く含んでおり、サポニン量が多いとセメントが硬化しないと言う欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−100147号(特許第3713635号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このサポニンの溶出を抑え、長期に渡って微生物の繁殖を助けることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
その手段として、植物から抽出した液体のサポニン含有剤ではなく、サポニンを含有する植物体自体の微粉末をセメントやフライアッシュ、骨材などと混ぜて使用する技術を開発した。
【0009】
即ち、植物体の微粉末からは、サポニンが長期にわたって徐々に放出されるとともに、サポニン含有剤に比べればより多くの微粉末をコンクリート製品に練り込むことができる。更に、微粉末からサポニンが溶出した跡や腐敗した微粉末の跡がバクテリアの住処となる利点もある。
【0010】
サポニンを含有する植物体としては、キラヤサポニンが得られるシャボンの木の皮や、ユッカの木、ムクロジの実その他多くの植物があるが、経済的に得られるものはこの程度である。そして、これらの植物体は、50〜300メッシュ程度に微粉砕される。植物としては、南米のチリー、ボリビア、ペルー等に自生するシャボンの木(学名:Quilaia saponaria Mol.バラ科)から抽出したキラヤサポニンが好適である。尚、シャボンの木の皮の場合、キラヤサポニンが4%程度含まれている。
【0011】
サポニンを含有する植物体の微粉末は、セメントやフライアッシュ、砂に対して、50重量%程度まで使用が可能である。余り少ないと効果がなく、1〜2%以上は必要である。植物体の微粉末はセメントなどと比べて比重が軽いので5〜20重量%程度がより好ましい。尚、セメントのみの場合は等量程度までは成形可能である。そして、これらに適当量の水を加えて使用する。使用の形態は、コンクリート成型品やコンクリート構築物の表面にこのサポニンを含有する植物体の微粉末を混入したセメントペースト、モルタル或いはコンクリートを、塗布、塗り込み、或いは打ち込みにより一体化させるものである。或いは既設のコンクリート成型品や構築物の表面に、サポニンを含有する植物体の微粉末を混入したセメントペーストなどを塗布などさせるものである。或いは、セメントに骨材や水とともにサポニンを含有する植物体の微粉末を加えて成型したコンクリート成型品を礫状に破砕して、使用してもよい。更に、セメント成型品全体を、サポニンを含有する植物体の微粉末を混入したセメントペースト、モルタル或いはコンクリートで構成するようにしてもよい。大型のものは中からは溶出しにくいので、表層のみにサポニン粉末を配置し、小さなものや薄いものは全体に練り込む方が簡単に作れる。
【発明の効果】
【0012】
以上詳述したように、本発明のコンクリート成型品やコンクリート構築物などのコンクリート製品は、通常通りに成型された製品の表面に、サポニンを含有する植物体の微粉末を混ぜたセメントペースト等を塗布或いは塗り重ねたものである。或いは、コンクリート成型品やコンクリート構築物の表面にこのサポニンを含有する植物体の微粉末を混入したセメントペースト、モルタル或いはコンクリートを、塗布、塗り込み、或いは打ち込みにより一体化させたもの、更には、セメント成型品全体を、サポニンを含有する植物体の微粉末を混入したセメントペースト、モルタル或いはコンクリートで構成したものである。
【0013】
従って、以下の様な効果を生じる。
1)セメントとフライアッシュと骨材及びサポニンを含有する植物体の微粉末を材料とし、これらを混合したセメントペースト、モルタル或いはコンクリートを、塗布、塗り込み、或いは打ち込みにより、コンクリート成型品や構築物の表面に一体化させたものであるから、特別な装置や技術を必要とせずに、安価大量に処理することができる。
2)表面にサポニンを含有する植物体の微粉末を含むモルタル等が塗布や打ち込みされているので、通常の成型品や構築物と同様に単に河川等に設置するだけですみ、特殊なサポニン供給装置等は必要としない。河川等に既設したコンクリート成型や構造物の場合、その表面にサポニンを含有する植物体の微粉末を含むモルタル等を塗り込む等により、容易に対応させることができる。尚、キラヤサポニン含有剤の場合は、セメント1に対して0.01〜0.5程度使用されるが、本発明の場合キラヤサポニンが2%以上も入れることができる。
3)サポニンを含有する植物体の微粉末はセメントに抱き込まれた状態で均一に含まれており、しかもセメントにより徐溶出性が与えられているため、サポニン成分は長年に渡って液体のサポニン含有剤以上の期間ほぼ均等に溶出する。現在、本発明品の破砕品を水に浸漬定期的に水を交換しているが、1年半以上たつても水が薄茶色に着色し、又泡が立つのが見られる。
4)サポニンの溶出量は、混練するサポニンを含有する植物体の微粉末の割合や、設置する成型品の数や表面積、構築物の面積によって簡単に調節することができる。これは、サポニンが少しずつ溶出していることを示す。
5)河川や湖沼、ダム、海岸等に設置或いは投入することにより、サポニン成分を徐々に溶出し、その周囲や流域に棲息する微生物を活性化してヘドロ等の除去に大きな効果をもたらす。
6)植物体の微粉末が溶出したり腐ったりした跡は、微生物の住処となる。
このようにして得られたコンクリート成型品やコンクリート構築物は、河川や湖沼、ダム、海等に設置或いは投入すると、従来のサポニン含有剤(液体)を含むコンクリート成型品などに比べて極めて徐々にサポニンを放出するので、微生物の活性化ひいてはヘドロの減少に役立つものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】サポニン含有植物体の微粉末の添加の有無による微生物の変化を示すグラフである。(実施例1)
【図2】各ブロックにおける微生物の種類と数を示すグラフである。(実施例1)
【発明を実施するための形態】
【0015】
コンクリート成型品の表面に、サポニンを含有する植物体の微粉末を混入したセメントペースト、モルタル或いはコンクリートを、塗布、塗り込み、或いは打ち込みにより一体化させたことを特徴とするコンクリート成型品。
【実施例1】
【0016】
次に、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
表1に示す割合で、フライアッシュや砂、セメント、サポニンを含有する植物体の微粉末及び水を混合してブロックを成型した。ブロック1とブロック3にサポニンを含有する植物体の微粉末が含まれている。
【0017】
【表1】

【0018】
固まったコンクリート成型品を割って、凡そ100gの固まりを作った。約6ケ月間このブロックを1Lのビーカーに入れ、そこへ水を500ml入れてブロック全体が水に浸かるようにして室内に静置した。そして、ブロックの表面に微生物が付着する様子を約6ケ月間静置して観察し、その数を係数した。
【0019】
微生物の数は、バクテリアカウンター血球計算盤によって計数した。その結果、図1に示すような結果となった。サポニンを含有する植物体の微粉末を添加したブロックは1及び3は、微生物総数がそれぞれ3〜8倍に増加した。また、サポニンを含有する植物体の微粉末を添加しなかったブロック2及び4では微生物は殆ど増加しなかった。
【0020】
ブロック1とブロック3を比較して見ると微生物総数に差が認められる。この事は、セメントに対するサポニンを含有する植物体の微粉末の量がブロック3に比べてブロック1において多いことから説明できる。この結果、微生物を増殖させるためには、サポニンを含有する植物体の微粉末の添加が大きく関係していると考えられる。また、半年経過後の溶出水の色も違いが見られた。ブロック1とブロック3では水が褐色に着色していた。これは、サポニンを含有する植物体の微粉末中のサポニンが水に溶出した左証である。
【0021】
次に、微生物を計数したのち、2週間、蛍光灯により光を当てて微生物を観察し、微生物の同定を行った。その結果を図2に示す。図2は各ブロックに於ける微生物の生物分布とその総数を示す。細かく動いている微生物を蛍光顕微鏡で見た結果、光合成の自家蛍光が確認されなかったことと、サイズ、動き、形から判断すると、活発に動いているのは殆どHNFであることが判った。HNFの締める割合はかなり高い。HNFとは、従属栄養性ナノ鞭毛虫(Heterotrophic Nano-Flagellate )のことで、水中に住む鞭毛を持つ微生物(鞭毛虫)の内、ナノサイズ(2〜20ミクロン)の大きさのものであり、光合成を行わずに他の微生物を捕食して生活するものを言う。かなり高倍率の顕微鏡でなければ見ることはできない。日常生活にはまず縁のない生物だが、溶存有機物を起点とする微小生物網では鍵となる生物群である。
【0022】
HNFが増えた原因としては、半年間の実験では光環境が非常に悪かったことが考えられる。光環境が十分の条件で行うと、クロロフィルを持つピコプランクトンがもっと多くみられたのではないかと考えられる。結果的には、HNFしか判別できすることがなかったが、微生物が明らかに増加した。サポニンを含有する植物体の微粉末を添加していなんブロック2、4では、微生物が殆ど見られなかったが、HNFは少数確認できた。また、藻類が多く見られたのは、空気中から水中に藻類が移入し、照度を高くしたことによって増殖したものと考えられる。
【0023】
次に、本発明ではセメントの一部としてフライアッシュを使用していることから、フライアッシュ中の重金属の溶出が問題となる。そこで、実施例1で得られたコンクリート成型品を割って入れたビーカーの水100mlを用い、ICP発光分校分析装置で重金属の測定を行った。まず、100mlの水を急速濾過し、NH3 15mlを加える。次いで、加熱器で加熱濃縮して15mlとし、30分間放冷し、全量ををフラスコに移し蒸留水で100mlにする。この内の12〜14mlをICPにかけた。表2は、その結果得られた数値を示す。
【0024】
【表2】


この表から明らかなように、亜鉛、カドミウム、鉛の濃度は低く、実用化には問題ないと考えられる。
【0025】
尚、表3は、セメント+フライアッシュ+砂+キラヤサポニン微粉末を混合した異なる割合を示す。ケ─ス2の場合、サポニン微粉末を入れる限界に近い。フライアッシュが0でセメントのみの場合、200gも可能であるが、これが限界である。ケ─ス1の場合位が丁度よい。
【0026】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート成型品の表面に、サポニンを含有する植物体の微粉末を混入したセメントペースト、モルタル或いはコンクリートを、塗布、塗り込み、或いは打ち込みにより一体化させたことを特徴とするコンクリート成型品或いはコンクリート構築物。
【請求項2】
セメント成型品を、サポニンを含有する植物体の微粉末を混入したセメントペースト、モルタル或いはコンクリートで構成したことを特徴とするセメント成型品。
【請求項3】
既設のコンクリート成型品や構築物の表面に、サポニンを含有する植物体の微粉末を混入したセメントペースト、モルタル或いはコンクリートを、塗布、塗り込み、或いは打ち込みにより一体化させたものであるコンクリート成型品或いはクリート構築物。
【請求項4】
セメントに骨材や水とともにサポニンを含有する植物体の微粉末を加えて成型したコンクリート成型品を、破砕してなることを特徴とするコンクリート礫。
【請求項5】
セメントの一部をフライアッシュに置き換えたものである、請求項1乃至請求項4記載のコンクリート製品。
【請求項6】
サポニンを含有する植物体は、しゃぼんの木の皮、ユッカの木、ムクロジの実である、請求項1乃至請求項5記載のコンクリート製品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−263220(P2009−263220A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87141(P2009−87141)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(506322628)
【Fターム(参考)】