説明

コンタクトピン及びコンタクトプローブ

【課題】スプリング部の形状を工夫して特定部位への応力集中を緩和し、また撓み易くして変位量を大きくすることを可能にしたコンタクトピン及びコンタクトプローブを提供する。
【解決手段】コンタクトピン30は、プランジャ部40とスプリング部60とが導電材料で一体に形成され、スプリング部60は六角形のリング61の対向する一対の頂点を連結部として複数のリングが連結形成されたものであり、前記連結部たる頂点を構成する一対の二辺がそれぞれ前記リングの内方向へ湾曲している。コンタクトプローブ20はコンタクトピン30を導電性チューブ70に挿通した構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICチップ等の被検査電子部品の電気的検査等に使用するコンタクトピン及びこれを備えるコンタクトプローブに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ICチップ等の被検査電子部品の回路の検査は、多数のコンタクトプローブを備えた検査装置を用いて行われている。そして、近年の検査対象となる回路の更なる高密度化、微細化により、検査装置側においてもより多くのコンタクトプローブを高密度に(例えば、0.1mmピッチ以下で)搭載することが必要になってきている。
【0003】
従来のコンタクトプローブ1の一例を図5に示す。この図5のコンタクトプローブは、金属筒状体であるチューブ2と、その両端部より突出自在なプランジャ3,4と、両プランジャ3,4を突出方向に付勢するスプリング5とを備えている。使用時には、コンタクトプローブ1は検査装置側の絶縁性ハウジング6に配設される。
【0004】
このコンタクトプローブ1では、それらの構成部品を個別に機械加工し、その後、組み立てる必要があり、また高密度に搭載するために各部品も微細化し、それにより加工、組立共に困難になりつつあった。
【0005】
この問題を解決する方法として、下記特許文献1のようなプランジャ部とスプリング部とを一体としたコンタクトプローブが提案されている。
【特許文献1】特開2001−343397号公報
【0006】
上記特許文献1に示されるスプリング部の形状は、円形や楕円形のリングを一体に連結した構成であるが、これらの形状は荷重を付加した際に応力集中が起きやすく、また剛性が高いため、効率的に変位を得ることができない。図6を用いてその理由を以下に詳述する。
【0007】
(1) 図6のスプリング部の構成では、円形リング10の連結部が太くなっているため、他の部分と比べて変形し難く、よってその近辺に応力が集中する(図6のa部)。
【0008】
(2) 図6のb部は円形リングの形状に起因して応力が集中する部分となる。
【0009】
(3) 荷重を垂直に支えるアーチ部分(図6のc部)は剛性が高く変形し難い。
【0010】
以上のように、円形リングが連なったスプリング部の構成では、各円形リングの上記2箇所(a部及びb部)に応力が集中し、また剛性が高い形状であるため、スプリングとしての変位を大きくとることができない。また、楕円形リング形状を用いる場合にも同様のことが言える。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、円形や楕円形のリングを一体に連結したスプリング部では、荷重を付加した際に特定部位に応力集中が起きやすく、また剛性が高くて変位量が少ない問題があった。
【0012】
本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、その目的は、スプリング部の形状を工夫して特定部位への応力集中を緩和し、また撓み易くして変位量を大きくすることを可能にしたコンタクトピン及びコンタクトプローブを提供することにある。
【0013】
本発明のその他の目的や新規な特徴は後述の実施の形態において明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明のある態様のコンタクトピンは、プランジャ部とスプリング部とが導電材料で一体に形成され、
前記スプリング部は六角形のリングの対向する一対の頂点を連結部として複数のリングが連結形成されたものであり、
前記連結部たる頂点を構成する一対の二辺がそれぞれ前記リングの内方向へ湾曲していることを特徴としている。
【0015】
前記態様において、前記連結部を構成しない頂点を結ぶ一対の辺が、それぞれ前記リングの外方向へ湾曲しているとよい。
【0016】
前記態様において、前記連結部たる頂点を構成する一対の二辺が、前記連結部から離れるに従って壁厚が薄くなるように形成されているとよい。また、前記連結部を構成しない頂点を結ぶ一対の辺の壁厚が、前記連結部たる頂点を構成する一対の二辺の壁厚の最小値よりも大きくなるように形成されているとよい。
【0017】
本発明の別の態様はコンタクトプローブであり、前記コンタクトピンが、導電性チューブ内に挿通され、前記チューブ端から前記プランジャ部の先端部が突出していることを特徴としている。
【0018】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法やシステムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、スプリング部の形状を工夫することで特定部位への応力集中を緩和し、また撓み易くして変位量を大きくすることができ、より大きな変位でも破壊しないようにすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳述する。なお、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0021】
図1及び図2において、コンタクトプローブ20は、プランジャ部40,50とスプリング部60とが導電材料で一体に形成されたコンタクトピン30と、導電性円筒状チューブ70とを備え、コンタクトピン30は、チューブ70内に挿通され、チューブ端からプランジャ部40,50の先端部41,51が突出している。コンタクトピン30はパラジウム系合金やニッケル系合金等の硬質金属であることが好ましく、プランジャ部40,50とスプリング部60とを金属板のエッチング加工等により一体に形成したものである。チューブ70は銅等の導電性の良好な金属が好ましい。
【0022】
コンタクトピン30に一体に形成されたスプリング部60は、図3及び図4に示すように、六角形のリング61の対向する一対の頂点を連結部62として複数のリング61が一体に連結形成されたものであり、連結部62たる頂点を構成する一対の二辺63がそれぞれリング61の内方向へ湾曲している。また、連結部62を構成しない頂点を結ぶ一対の辺64が、それぞれリング61の外方向へ湾曲している。各リング61は連結部62を結んだ直線に対し左右対称で、且つ、連結部62の中点で前記直線に直交する直交線に対し上下対称でもある。
【0023】
図3及び図4(B)に示すように、前記連結部62たる頂点を構成する一対の二辺63は、連結部62から離れるに従って壁厚が薄くなるように形成されていることが望ましい。このとき、連結部62を構成しない頂点を結ぶ一対の辺64の壁厚は、前記辺63の壁厚の最小値よりも十分大きく(辺63の連結部62近傍の壁厚と同程度に)形成されている。
【0024】
上記リング形状とする理由は次の通りである。
【0025】
(1) 連結部62たる頂点を構成する一対の二辺63がそれぞれリング61の内方向へ湾曲していることにより、梁となる二辺63を撓み易くし、荷重(応力)が加わったときの変位量を稼ぐ。
【0026】
(2) 連結部62たる頂点を構成する一対の二辺63が連結部62から離れるに従って壁厚が薄くなるように形成されていることにより、梁となる二辺63の連結部付近に加わる応力を辺全体に分散し、より大きな変位でも破損しないようにしている。
【0027】
(3) 連結部62を構成しない頂点を結ぶ一対の辺64は側辺となる部分であり、応力が集中する部分であるため、その壁厚を、辺63の壁厚の最小値よりも十分大きく形成することにより、応力集中による破損を防止する。
【0028】
図4(A)は辺63,64の壁厚一定のリングの場合の応力分布、図4(B)は壁厚調整(辺63を、連結部62から離れるに従って壁厚を薄くし、辺64の壁厚は十分に厚くした)後のリングの応力分布の解析結果を示す(但し、図中点線は応力を加える前のリング形状を示す)。応力の高い部分程、塗りを濃くし、応力の低い部分は塗りを薄くして表示している。
【0029】
図4(A)において応力があまりかかっていない所は壁を薄くし、逆に応力が集中している所は壁を厚くなるように壁厚調整したものが図4(B)のリング形状である。図4(B)のように、リング61の壁断面積の調整により応力が分散し(全体的に塗りが薄くなっている)、より大きな変位でも破損しない形状にできる。
【0030】
コンタクトプローブ20は、図1及び図2のように上記リング61が連なったスプリング部60とプランジャ部40,50とが一体のコンタクトピン30を、導電性円筒状チューブ70に挿通したものであり、チューブ70の上端部はかしめられて上側のプランジャ部40の尖った先端部(細幅部)41がチューブ70上端部開口より突出している。上側のプランジャ部40の基部42はチューブ70上端部開口が引っ掛かるように幅広となっている。なお、チューブ70はコンタクトピン30よりも導電性の良好な銅等の良導電性の金属であり、スプリング部60が一体のコンタクトピン30を真っ直ぐに維持する機能を有するとともに、プランジャ部40,50と電気的に接触することにより、コンタクトプローブ20全体の電気抵抗を下げる機能を有する。
【0031】
また、下側のプランジャ部50は尖った先端部(細幅部)51と中間部52と基部53とを有し、中間部52は先端部51及び基部53よりも幅広のストッパとなっている。
【0032】
図1及び図2は半導体ウエハーやプリント基板等の検査対象95上のハンダボール96(電極パッドであってもよい)にコンタクトプローブ20の下側のプランジャ部50を接触させる場合であって、図1は接触前、図2は接触時の状態を示す。これらの図に示すように、コンタクトプローブ20は、使用時においては検査装置側の絶縁性ハウジング80の取付穴81に挿入配置されている。このとき、取付穴81の下部は小径部82となっており、下側のプランジャ部50の尖った先端部51のみが小径部82を貫通して絶縁性ハウジング80の下面より突出している。また、中間部52は小径部82の径よりも幅広で、チューブ70が配置されている取付穴81の大径部83の底部に当接して、先端部51の突出量を規制するストッパとして機能する。
【0033】
絶縁性ハウジング80の上側には検査装置側のプリント基板90が重ねて配置、固定されており、プリント基板90の下面の電極端子91に上側のプランジャ部40の尖った先端部41が弾接している。
【0034】
図1の下側のプランジャ部50がハンダボール96に接触前の状態では、プランジャ部50の幅広の中間部52が大径部83の底部に当接し、先端部51の絶縁性ハウジング80の下面からの突出量が最大値となる。
【0035】
半導体ウエハーやプリント基板等の検査対象95の検査のために、図2のように絶縁性ハウジング80を下降させ、下側のプランジャ部50の先端部51を検査対象95のハンダボール96に接触させたとき、スプリング部60が撓んで縮むことにより、先端部51はハンダボール96に弾接する。
【0036】
本実施の形態によれば、下記の効果を奏することができる。
【0037】
(1) コンタクトプローブ20は、プランジャ部40,50とスプリング部60とが導電材料で一体に形成されたコンタクトピン30を導電性チューブ70に挿入したものであり、部品点数が少なく簡素な構造であり、また微細化、小径化が可能である。この結果、コンタクトプローブを20を高密度に(例えば、0.1mmピッチ以下で)検査装置側の絶縁ハウジング80に搭載することが可能である。
【0038】
(2) スプリング部60の形状を工夫することで特定部位への応力集中を緩和し、また撓み易くして変位量を大きくすることができ、より大きな変位でも破壊しないようにすることが可能である。つまり、(a)連結部62たる頂点を構成する一対の二辺63がそれぞれリング61の内方向へ湾曲していることにより、梁となる二辺63を撓み易くし、荷重(応力)が加わったときの変位量を稼ぐことができる。(b)連結部62たる頂点を構成する一対の二辺63が連結部62から離れるに従って壁厚が薄くなるように形成されていることにより、梁となる二辺63に加わる応力を分散し、より大きな変位でも破損しないようにすることができる。(c)連結部62を構成しない頂点を結ぶ一対の辺64は側辺となる部分であり、応力が集中する部分であるため、その壁厚を、辺63の壁厚の最小値よりも十分大きく形成することでことにより、応力集中による破損を防止できる。
【0039】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスには請求項に記載の範囲で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。以下、変形例について触れる。
【0040】
図1及び図2ではコンタクトピンが挿入された導電性の円筒状チューブの一端部のみがかしめられて、一方のプランジャ部の突出を規制する構成であるが、前記チューブの両端部をかしめて上下のプランジャ部の両方の突出を規制する構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係るコンタクトピン及びこれを備えるコンタクトプローブの実施の形態であって、検査対象への接触前の状態を示す正断面図である。
【図2】同じく検査対象への接触後の状態を示す正断面図である。
【図3】実施の形態におけるコンタクトピンのスプリング部の拡大正面図である。
【図4】前記スプリング部の基本要素であるリング形状であって、(A)はリング壁厚一定の場合の応力分布、(B)はリング壁厚調整後の場合の応力分布を示す斜視図である。
【図5】従来例のコンタクトプローブの正断面図である。
【図6】他の従来例(特許文献1)のコンタクトピンと一体のスプリング部を示す拡大正面図である。
【符号の説明】
【0042】
1,20 コンタクトプローブ
2 バレル
3,4 プランジャ
5 スプリング
6,80 絶縁性ハウジング
10 円形リング
30 コンタクトピン
40,50 プランジャ部
60 スプリング部
61 リング
62 連結部
63,64 辺
70 チューブ
95 検査対象

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プランジャ部とスプリング部とが導電材料で一体に形成されたコンタクトピンにおいて、
前記スプリング部は六角形のリングの対向する一対の頂点を連結部として複数のリングが連結形成されたものであり、
前記連結部たる頂点を構成する一対の二辺がそれぞれ前記リングの内方向へ湾曲している、コンタクトピン。
【請求項2】
請求項1に記載のコンタクトピンにおいて、前記連結部を構成しない頂点を結ぶ一対の辺が、それぞれ前記リングの外方向へ湾曲している、コンタクトピン。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコンタクトピンにおいて、前記連結部たる頂点を構成する一対の二辺が、前記連結部から離れるに従って壁厚が薄くなるように形成されている、コンタクトピン。
【請求項4】
請求項3に記載のコンタクトピンにおいて、前記連結部を構成しない頂点を結ぶ一対の辺の壁厚が、前記連結部たる頂点を構成する一対の二辺の壁厚の最小値よりも大きくなるように形成されている、コンタクトピン。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のコンタクトピンが、導電性チューブ内に挿通され、前記チューブ端から前記プランジャ部の先端部が突出している、コンタクトプローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−139344(P2010−139344A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315137(P2008−315137)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000006758)株式会社ヨコオ (158)
【Fターム(参考)】