説明

コンバイン

【課題】コンバインの刈取走行時の負荷に応じたエンジン出力を得ると共に、低速走行時のエンジン回転数の上昇が抑えて騒音の発生を低減する。
【解決手段】副変速レバー97が高速側に切り換えられた状態で、主変速レバー95が中立域から前進側又は後進側に操作された場合に、エンジン52の回転数をアクセルダイヤル104で設定された第1目標回転数まで急増速させ、副変速レバー97が低速側に切り換えられた状態で、主変速レバー95が中立域から前進側又は後進側に操作された場合には、エンジン52の回転数を主変速レバー95の操作位置に応じて増速させる制御装置を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンバインに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンバインには、エンジンから走行装置に至る伝動経路に、伝動回転速度を無段階に変速する主変速装置と伝動回転速度を段階的に変速する副変速装置とを直列に接続して備えており、操縦部には、主変速装置を変速操作する主変速レバーと副変速装置を変速操作する副変速レバーと、エンジンの回転数を手動調節するアクセルレバーが設けられている。
このようなコンバインにおいて、アクセルレバーを操作して回転数を増速させてから、主変速レバーを前進側に増速操作して発進し、路上走行或いは刈取走行を行なう。また、走行停止時には、主変速レバーを中立域へ操作してからアクセルレバーを減速操作してエンジン回転数をアイドリング状態まで減速させる操作を行なう必要がある。
そこで、このような煩雑な操作を省略するために、特許文献1に示すようなエンジン回転数制御技術が試みられてきた。
即ち、主変速レバーの操作位置を検出し、この主変速レバーの操作位置に応じてエンジン回転数を自動的に増速制御するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3750381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたエンジン回転数制御技術には、副変速レバーの切換位置を考慮する技術思想が存しない。このため、副変速装置が低速位置に切り換えられていても、主変速レバーを増速操作すると、エンジン回転数が高速回転域まで増速してしまい、例えば納屋の中での移動や畦越え、圃場への出入り、トラックの荷台への積み下ろしの際に、エンジン回転数の急変動による急加速が生じて衝突したり、騒音レベルが高くなる問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上述の課題を解決するために、次の技術的手段を講じる。
即ち、請求項1記載の発明は、エンジン(52)から走行装置(2)に至る伝動経路に、伝動回転速度を無段階に変速する主変速装置(S)と伝動回転速度を段階的に変速する副変速装置(T)とを直列に接続して備え、前記主変速装置(S)を変速操作する主変速レバー(95)と前記副変速装置(T)を変速操作する副変速レバー(97)とを設け、該副変速レバー(97)が高速側に切り換えられた状態で、主変速レバー(95)が中立域から前進側又は後進側に操作された場合に、エンジン(52)の回転数をアクセルダイヤル(104)で設定された第1目標回転数まで急増速させ、前記副変速レバー(97)が低速側に切り換えられた状態で、主変速レバー(95)が中立域から前進側又は後進側に操作された場合には、エンジン(52)の回転数を主変速レバー(95)の操作位置に応じて増速させる制御装置(90)を設けたことを特徴とするコンバインとしたものである。
請求項2記載の発明は、前記エンジン(52)の回転数を任意に手動調節可能なアクセルレバー(101)を備え、主変速レバー(95)を前進側操作域または後進側操作域から中立域に復帰操作した場合に、エンジン(52)の回転数がアクセルレバー(101)で調節した回転数まで自動的に減速する構成としたことを特徴とする請求項1記載のコンバインとしたものである。
請求項3記載の発明は、前記副変速レバー(97)が低速側に切り換えられた状態で、主変速レバー(95)が中立域から前進側又は後進側に操作された場合には、エンジン(52)の回転数を主変速レバー(95)の操作位置に応じて段階的に増速させる構成としたことを特徴とする請求項1または請求項2記載のコンバインとしたものである。
請求項4記載の発明は、前記副変速レバー(97)が低速側に切り換えられた状態で、主変速レバー(95)が中立域から前進側又は後進側に操作された場合には、エンジン(52)の回転数を主変速レバー(95)の操作位置に比例して無段階に増速させる構成としたことを特徴とする請求項1または請求項2記載のコンバインとしたものである。
請求項5記載の発明は、前記主変速レバー(95)が前進側または後進側の全操作ストロークの中間位置に設定された第1操作位置に至るまではエンジン(52)の回転数を前記第1目標回転数よりも低い第2目標回転数に維持し、主変速レバー(95)が第1操作位置を越えて増速側に操作された場合に、エンジン(52)の回転数を主変速レバー(95)の操作位置に比例して無段階に増速させる構成としたことを特徴とする請求項1または請求項2記載のコンバインとしたものである。
【発明の効果】
【0006】
請求項1記載の発明によると、副変速レバー(97)が高速側に切り換えられた状態で、主変速レバー(95)が中立域から前進側又は後進側に操作された場合には、エンジン(52)の回転数がアクセルダイヤル(104)で設定された第1目標回転数まで急増速するので、速やかに路上走行に移行でき、コンバインの移動能率が高まる。また、副変速レバー(97)が低速側に切り換えられた状態で、主変速レバー(95)が中立域から前進側又は後進側に操作された場合には、エンジン(52)の回転数が主変速レバー(95)の操作位置に応じて増速するので、コンバインの刈取走行時の負荷に応じたエンジン出力を得ることができるものでありならが、低速走行時のエンジン回転数の上昇が抑えられて騒音の発生を低減することができる。
請求項2記載の発明によると、上記請求項1記載の発明の効果に加え、主変速レバー(95)を前進側操作域または後進側操作域から中立域に復帰操作した場合に、エンジン(52)の回転数がアクセルレバー(101)で調節した回転数まで自動的に減速するので、停車状態におけるエンジン(52)の騒音を低減できると共に燃料消費を抑えて燃費向上を図ることができる。
請求項3記載の発明によると、副変速レバー(97)が低速側に切り換えられた状態で、主変速レバー(95)が中立域から前進側又は後進側に操作された場合には、エンジン(52)の回転数が主変速レバー(95)の操作位置に応じて段階的に増速するので、上記請求項1または請求項2記載の発明の効果に加え、エンジン回転数制御上のハンチング等が生じにくく、エンジン(52)の出力回転数を安定させて刈取作業の能率を向上させることができる。
請求項4記載の発明によると、副変速レバー(97)が低速側に切り換えられた状態で、主変速レバー(95)が中立域から前進側又は後進側に操作された場合には、エンジン(52)の回転数が主変速レバー(95)の操作位置に比例して無段階に増速するので、上記請求項1または請求項2記載の発明の効果に加え、エンジン回転数の増減速が円滑に行なわれ、エンジン(52)の出力回転数を安定させて刈取作業の能率を向上させることができる。
請求項5記載の発明によると、主変速レバー(95)が前進側または後進側の全操作ストロークの中間位置に設定された第1操作位置に至るまではエンジン(52)の回転数が第1目標回転数よりも低い第2目標回転数に維持され、主変速レバー(95)が第1操作位置を越えて増速側に操作された場合に、エンジン(52)の回転数が主変速レバー(95)の操作位置に比例して無段階に増速するので、上記請求項1または請求項2記載の発明の効果に加え、エンジン回転数制御上のハンチング等が生じにくいものでありながら、エンジン(52)の出力回転数を安定させて刈取作業の能率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】コンバインの側面図
【図2】走行装置の側面図
【図3】走行装置の平面図
【図4】走行装置の要部側面図
【図5】走行装置の要部平面図
【図6】ピッチング機構の分解斜視図
【図7】ピッチング状態の説明用側面図
【図8】制御ブロック図
【図9】サンプリングデータの処理方法説明図
【図10】サンプリングデータの処理方法説明図
【図11】制御システムの説明図
【図12】主変速レバーの操作角度とエンジン回転数目標値との関係を示すグラフ
【図13】エンジン回転数制御のフローチャート
【図14】エンジン回転数制御のフローチャート
【図15】エンジン回転数制御のフローチャート
【図16】主変速レバーの操作角度とエンジン回転数目標値との関係を示すグラフ
【図17】主変速レバーの操作角度とエンジン回転数目標値との関係を示すグラフ
【図18】主変速レバーの操作角度とエンジン回転数目標値との関係を示すグラフ
【図19】前後進ソレノイド出力電流値とエンジン回転数目標値との関係を示すグラフ
【図20】エンジン回転数制御のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0008】
この発明の実施の形態を、自脱型のコンバインを例示して説明する。
(機体構成)
図1に示すように、コンバインは、機体フレーム1の下方に走行装置2を設け、機体フレーム1の上部左側には脱穀装置50を搭載し、機体フレーム1の上部右側には穀粒貯留装置51を搭載し、機体フレーム1上における穀粒貯留装置51の前側にはエンジン52を搭載し、走行装置2の前方位置には刈取装置53を設けて構成する。
前記走行装置2の構成については後述するが、機体フレーム1の前部に、エンジン52から静油圧式無段変速装置S(請求項の「主変速装置」)を介して駆動されるミッションケース54を取り付け、このミッションケース54から駆動される左右の駆動輪8,8’と多数の転輪にわたって、クローラ7,7’を巻き掛けて構成する。前記静油圧式無段変速装置Sには、油圧モータ側の斜板角度を2位置に切り換えて出力を2段階に変速する機構T(請求項の「副変速装置」)を備える。
前記脱穀装置50は、扱胴、ニ番処理胴、排塵処理胴、排塵ファンを内装する上部の扱室と、揺動選別棚、唐箕、一番移送螺旋、ニ番移送螺旋を内装する下部の選別室から構成し、扱室の外側部には、フィードチェンの上側に対向する挟扼杆55を設ける。
前記穀粒貯留装置51は、箱型の容器に形成し、後側に立設した旋回自在の揚穀筒56の上端部に、排出筒57の基部を昇降回動自在に接続する。
前記刈取装置53は、機体フレーム1の前部に縦支持フレーム58の後端部を上下回動自在に支持し、この縦支持フレーム58の前端部に左右方向の下部ギヤケース59の左右中間部を連結し、この下部ギヤケース59の前側に固定した分草フレーム60の中間部に左右方向のバリカン式の刈刃61を取り付け、分草フレーム60の前部に引起装置62の下部を取り付け、分草フレーム60の前端部に分草体63を取り付けて構成する。
前記エンジン52を囲うエンジンカバーの上部には操縦席(図示省略)を搭載し、この操縦席の前方及び側方に、走行速度を変速操作する変速レバーと、機体の操向および刈取装置53の昇降を行う操向レバー等を備えた操縦装置を配置し、これらを一体的に囲うキャビン64を設ける。
(走行装置の構成)
図2、図3に示すように、前記機体フレーム1は、前後方向の縦フレーム3,3’および該縦フレーム3,3’を連結する左右方向の横フレーム4により構成される。機体フレーム1の下方には、前記縦フレーム3,3’と平行の前記走行装置2の走行フレーム5,5’を左右に所定間隔を有して設ける。前記走行フレーム5,5’の外側面には前後に所定間隔を置いて転輪6,6’を設け、該転輪6,6’の外周にはクローラ7,7’を掛け回す。8,8’は駆動輪、9,9’はアイドルローラである。
しかして、図4、図5に示すように、前記機体フレーム1と走行フレーム5,5’との間には、圃場の左右傾斜に対して機体フレーム1を水平にするローリング装置及び前後傾斜に対して機体フレーム1を水平状態にさせるピッチング装置を設ける。前記走行フレーム5,5’の前部には左右方向の前部横取付軸10,10’を設ける。前記走行フレーム5,5’よりも内側に突き出した前部横取付軸10,10’には、前側リンク機構11,11’の前側横アーム12,12’の先部を軸着し、前側横アーム12,12’の基部は左右方向の前側支持軸13,13’に固定状態に取付ける。前側支持軸13,13’は前記機体フレーム1側に設けた前側支持メタル14,14’に回転のみ自在に軸着する。前側支持メタル14,14’よりも内側に突き出した前側支持軸13,13’には、前側リンク機構11,11’の前側縦アーム15,15’の基部を固定状態に取付ける。したがって、前側リンク機構11,11’は機体フレーム1に対してその中間部を前側支持軸13,13’により軸支される。
前記走行フレーム5,5’の後部には、左右方向の後部横取付軸16,16’を設け、走行フレーム5,5’より内側に突き出た後部横取付軸16,16’には後側リンク機構17,17’の後側横アーム18,18’の先部を軸着する。後側横アーム18,18’の基部は左右方向の後側支持軸19,19’に固定状態に取付ける。後側支持軸19,19’には後側リンク機構17,17’の後側縦アーム20,20’の基部を固定する。前記後側縦アーム20,20’の中間部および前記前側縦アーム15,15’の先端部は、前記走行フレーム5,5’と並行なロッド21,21’により連結し、後側縦アーム20,20’および前記前側縦アーム15,15’が同時に回動するようにする。後側縦アーム20,20’には、ローリング用シリンダ22,22’のロッド23,23’の先端を軸着し、ローリング用シリンダ22,22’の基部はアーム24,24’の先端に軸25,25’により軸着し、アーム24,24’の基部は前記機体フレーム1の横フレーム4に軸着する。
しかして、前記機体フレーム1の後部にはピッチングリンク機構26を設ける。ピッチングリンク機構26は、機体フレーム1の後側所定位置に左右一対のピッチング支持メタル27,27’を設け、該ピッチング支持メタル27,27’間には左右方向のピッチング横軸28の両端を回転のみ自由に軸装する。前記ピッチング横軸28には、ピッチングアーム29のピッチング横アーム30,30’の基部を固定し、ピッチング横アーム30,30’の先端は、左右リンク機構支持部材31のアーム32,32’の上部に軸33,33’により軸着する。左右リンク機構支持部材31は左右一対の前記アーム32,32’を有し、左右のアーム32,32’の中間部を横杆34により連結して形成しており、アーム32,32’の下部にはそれぞれ前記後側支持軸19,19’を取付ける。前記ピッチングアーム29のピッチング横アーム30,30’のうち一方には、ピッチング縦アーム35の基部を固定し、ピッチング縦アーム35の先端にはピッチング用シリンダ36のピッチングロッド37を軸着する。ピッチング用シリンダ36の基部は前記機体フレーム1側に軸着して取付ける。ピッチング用シリンダ36はローリング用シリンダ22’の側部に設け、機体フレーム1の前後略中央で一側に位置させ、ピッチングシリンダ36のピッチングロッド37を後方に伸縮する向きに設けている。このため、図示は省略するが、ピッチングシリンダ36は脱穀装置50と該脱穀装置50の側部に設けた穀粒貯留装置51の間に位置させることができるだけでなく、穀粒貯留装置51の揚穀筒56を機体後部のピッチングシリンダ36に干渉することなく設けることができ、配置の設計の自由度を向上させる。また、穀粒貯留装置51を外側に回動させて、脱穀装置50との間を開放できるように構成したときは、ピッチングシリンダ36およびローリング用シリンダ22’のメンテナンンスも容易に行なえる。
しかして、前記ローリング用シリンダ22,22’の基部のアーム24,24’を軸着した軸25,25’には、前後方向の規制部材40,40’の基部を軸着し、規制部材40,40’の先端は、左右リンク機構支持部材31のアーム32,32’の上部に軸41,41’により軸着する。そして、ピッチングリンク機構26のピッチング横軸28および軸33,33’の位置と、ピッチングアーム29のピッチング横アーム30,30’長さとを、ピッチング用シリンダ36を伸縮させたとき、図6のように、軸33,33’がピッチング横軸28中心に移動して、規制部材40,40’の基部がローリング用シリンダ22,22’の基部を後側に押すように作用させ、前記走行フレーム5,5’を下降させて相対的に機体フレーム1は上昇して機体フレーム1と走行フレーム5,5’の間の間隔を大にするように構成している。42はストローク検出装置である。しかして、前記走行フレーム5,5’と前記前側リンク機構11,11’と前記後側リンク機構17,17’とロッド21,21’とは、それぞれ平行リンクを構成し、ローリング用シリンダ22,22’が伸縮しないと、前記平行リンクは固定状態となり、この状態で後側支持軸19,19’の部分を上下させると、前記平行リンクは前側支持メタル14,14’の前側支持軸13,13’を中心に後側を上下させることになる。そのため、ピッチング装置を構成するにあたり、機体フレーム1と走行フレーム5との間に設けられる所謂中間フレーム(ピッチングフレーム)は不要となり、直接走行フレーム5,5’の後部を上下させて、相対的に機体フレーム1の後部を上下させて、圃場の前後方向の傾斜に対応させることができる。なお、ピッチングにおける回動中心を後側に設定することは勿論可能であり、走行フレーム5,5’と前側リンク機構11,11’と後側リンク機構17,17’とロッド21,21’からなる平行リンクは、ローリング用シリンダ22,22’が伸縮しないと、説明の都合上固定状態となるとしたが、後述するように、前記走行フレーム5,5’は下降し、相対的に機体フレーム1は上昇して機体フレーム1と走行フレーム5,5’の間の間隔を大にする。
(ローリング装置の作用)
前記の構成により、機体を前進させて作業を行なうが、圃場の凹凸により機体フレーム1が左右に傾斜すると、機体左右傾斜感知センサが機体フレーム1の左右傾斜を検知し、左右ローリング用シリンダ22,22’の一方の例えば左ローリング用シリンダ22を伸縮させ、左ローリング用シリンダ22の伸縮はロッド21を介して前側縦アーム15および後側縦アーム20を回動させ、前側縦アーム15は前側支持軸13を回転させ、前側支持軸13の回転により前側横アーム12を前側支持軸13を中心に回動させ、また、同時に、前記後側縦アーム20の回動により後側支持軸19を回転させ、後側支持軸19の回転により後側横アーム18を回動させ、機体フレーム1の左右側の一方または相互反対に上下させて左右傾斜を修正するようにローリングさせる。この場合後述するが、後側支持軸19,19’は左右リンク機構支持部材31を介して固定状態に支持されているから、中間フレームがなくとも円滑に行なえる。
(ピッチング装置の作用)
機体フレーム1の所望位置に設けた機体前後傾斜感知センサが前後傾斜を検知すると、ピッチング用シリンダ36を伸縮させて、ピッチング用シリンダ36のピッチングロッド37はピッチングアーム29のピッチング縦アーム35を押し引きしてピッチング横軸28中心に回動させ(ピッチング縦アーム35とピッチング横アーム30,30’の回動中心は同じためピッチング横アーム30,30’も回動する)、ピッチング縦アーム35およびピッチング横アーム30,30’は左右リンク機構支持部材31の各アーム32,32’の上部をピッチング横軸28中心に回動上下させ、左右リンク機構支持部材31の各アーム32,32’の下部に取付けた後側支持軸19,19’を上下させて、走行装置2の後部を上下させ、相対的に機体フレーム1の後部を上下させて水平にする。
この場合、ピッチングシリンダ36はピッチングロッド37を後方に伸縮する向きに設け、縮小すると後上げになるのでシリンダの保持力が大となり、シリンダを有効に利用して馬力損失を防止できる。また、前記左右のローリング装置は、走行フレーム5,5’と前側リンク機構11,11’と後側リンク機構17,17’とロッド21,21’とにより平行リンクを構成し、ローリング用シリンダ22,22’が伸縮しないと、前記平行リンクは固定状態となるから、この状態で前記ピッチング用シリンダ36の伸縮によって前記のように後側支持軸19の部分を上下させることにより、前側リンク機構11,11’の前側支持軸13を中心に、前記平行リンクの後側を上下させ、相対的に機体フレーム1の後部は上下して、機体フレーム1の前後傾斜を修正する。
しかして、説明の都合上前記したように、ローリング用シリンダ22,22’が伸縮しないと、前記走行フレーム5,5’と前側リンク機構11,11’と後側リンク機構17,17’とロッド21,21’からなる平行リンクは固定状態となるとしたが、ローリング用シリンダ22,22’は、アーム24,24’を介して基部が機体フレーム1側に取付けられているから、ローリング用シリンダ22,22’が伸縮しても直ちに後側縦アーム20を回動させことはできず、規制部材40,40’の先端が左右リンク機構支持部材31側に取付けられていることによりローリング用シリンダ22,22’は作用する。したがって、ピッチング用シリンダ36によりピッチングアーム29をいずれの方向に回動させても、図7のように、軸33,33’がピッチング横軸28中心に移動することにより、規制部材40,40’の基部はローリング用シリンダ22,22’の基部を後側に押すように作用し、前記走行フレーム5,5’は下降し、相対的に機体フレーム1は上昇して機体フレーム1と走行フレーム5,5’の間の間隔を大にする。そのため、機体フレーム1の後下げのピッチングを行うと、自動的に車高が高くなるので、機体フレーム1と走行装置2との干渉を防止する。また、後上げのピッチングを行っても、機体フレーム1の前側に設けたミッションケース(図示省略)と地面との間隔を広くでき、湿田走行性能を向上させる。
(車体水平制御)
図8に示すように、制御コントローラ70は、車体水平制御回路71と、デジタル信号入力処理回路72と、アナログ信号入力処理回路73と、回転信号入力処理回路74及び走行距離カウント回路75と、タイマーカウント回路76と、車体上昇/下降出力処理回路77とを接続して構成する。
【0009】
即ち、車体水平制御回路71に対して、デジタル信号入力処理回路72とアナログ信号入力処理回路73を入力可能に接続する。また、この車体水平制御回路71に対して、回転信号入力処理回路74を入力可能に接続した走行距離カウント回路75と、タイマーカウント回路76を、入力及び出力可能に接続する。更に、この車体水平制御回路71に対して、車体上昇/下降出力処理回路77を出力可能に接続する。
【0010】
前記デジタル信号入力処理回路72の入力側には、車体水平制御を有効/無効に切り換える車体水平自動スイッチ78と、エンジン52から刈取装置53及び脱穀装置50への動力伝達クラッチを接続/遮断操作するクラッチレバーの切換位置を検出するクラッチレバースイッチ79を接続する。
【0011】
また、前記アナログ信号入力処理回路73の入力側には、機体フレーム1の上部に固定されて左右及び前後方向の傾斜角度を検出する傾斜センサ80と、操向レバーの旋回操作角度を検出する操向ポジションセンサ81と、操向レバーの刈取昇降操作角度を検出する刈取昇降ポジションセンサ82を接続する。
また、前記回転信号入力処理回路74の入力側には、前記ミッションケース54内の軸の回転速度からコンバインの車速を検出する車速センサ83を接続する。
そして、前記車体上昇/下降出力処理回路77の出力側に、左のローリング用シリンダ22を伸長させて機体フレーム1の左の車高を上げる左昇降用油圧バルブの左上昇出力ソレノイド84と、左のローリング用シリンダ22を短縮させて機体フレーム1の左の車高を下げる左昇降用油圧バルブの左下降出力ソレノイド85と、右のローリング用シリンダ22’を伸長させて機体フレーム1の右の車高を上げる右昇降用油圧バルブの右上昇出力ソレノイド86と、右のローリングシリンダ22’を短縮させて機体フレーム1の右の車高を下げる右昇降用油圧バルブの右下降出力ソレノイド87と、ピッチング用シリンダ36を伸長させて機体フレーム1の後部車高を上げる後部昇降用油圧バルブの後上昇出力ソレノイド88と、ピッチング用シリンダ36を短縮させて機体フレーム1の後部車高を下げる後部昇降用油圧バルブの後下降出力ソレノイド89を接続する。
以上の構成に基づく基本的な車体水平制御は、以下のように実行される。
より、車体水平自動スイッチ78を車体水平制御を有効とする側に切り換えた状態で、傾斜センサ80によって機体フレーム1の左右傾斜が検出され、これがアナログ信号入力処理回路73を介して車体水平制御回路71に入力され、この車体水平制御回路71から車体上昇/下降出力処理回路77を経て、左上昇出力ソレノイド84と右下降出力ソレノイド87、又は、左下降出力ソレノイド85と右上昇出力ソレノイド86に作動出力がなされ、左右の車高が背反的に昇降して、機体フレーム1の左右姿勢が水平に維持される。また、傾斜センサ80によって機体フレーム1の前後傾斜が検出されると、同様にして、後上昇出力ソレノイド88又は後下降出力ソレノイド89に作動出力がなされ、機体フレーム1の後部が昇降して、機体フレーム1の前後姿勢が水平に維持される。
図9に示すように、傾斜センサ80からの所定個数の検出値を移動平均し、この移動平均値に基づいて上記の基本的な車体水平制御を行なう。移動平均は次のように表される。
移動平均値=(D1+D2+D3+D4+・・・Dn)/n
t:傾斜センサからのデータサンプリング間隔(ms)
n:データサンプリング数
そして、この基本的な車体水平制御において、機体を操向操作する操向レバーが左右に傾倒操作されたことが操向ポジションセンサ81によって検出された場合に、この傾倒操作が終了して操向レバーが中立位置に戻った後に、一定時間経過するまでの間、または一定距離走行するまでの間において、上記の移動平均のためのデータサンプリング数nを直進走行時のデータサンプリング数よりも多くする。
【0012】
即ち、傾斜センサ80からの検出値は、機体の振動等によって不安定な値が検出されることが多く、このために移動平均値に基づいて制御しているのであるが、特に旋回時の機体の揺れによる影響が大きく、誤動作の要因となっていた。これに対し、上述のように、移動平均のためのデータサンプリング数を多くすることで、旋回終了後の車体水平制御を迅速且つ適正に実行することができる。
また、図10に示すように、上述の基本的な車体水平制御において、傾斜センサ80からの所定個数の検出値を、所定の基準値に対して左右いずれの側に傾斜したことを示す値か分別してサンプリングし、左右いずれかサンプリング数の多い側の検出値を移動平均し、この移動平均値に基づいて上記の基本的な車体水平制御を行なう。
但し、分別したサンプルデータ数の多い方が一定以上の割合でサンプリングされていない場合は、移動平均値を水平制御用のデータとして採用しないか、または水平制御出力を停止させる。
また、分別したサンプルデータ数の多い方の移動平均値が、少ない方の移動平均値よりも所定値以上大きくなければ、制御データとして採用しないか、または水平制御出力を停止させる。
また、分別したサンプルデータ数の多い方の移動平均値と、直前の傾斜センサ80値を比較し、両者が反対方向の傾斜を示すものであった場合には、この移動平均値を制御データとして採用しないか、または移動平均のためのデータサンプル数を一定時間または一定距離走行する間だけ多く取得するようにする。
例えばデータサンプリング数を10とした場合、移動平均は次のように表される。
移動平均値=(D1+D2+D4+D5+D7+D8+D9)/7
即ち、傾斜センサ80からの検出値は、機体の振動等によって不安定な値が検出されることが多く、このために移動平均値に基づいて制御しているのであるが、実際の傾斜方向に対して反対方向の誤差値として大きい値が検出された場合、機体を意図しない方向へ傾斜させたり、機体の水平復帰動作が遅れるような不具合が起こりうる。これに対し、上述のようにデータ処理することで、水平制御の誤動作や水平復帰動作の遅れを改善することができる。
尚、以上のような傾斜センサ80からの検出値のデータ処理は、機体フレーム1の前後傾斜を水平に制御する場合にも同様に適用される。
(エンジン回転数制御)
エンジン52の単位時間あたりの出力回転数(以下、単に「エンジン回転数」と云う)は、アクセルレバー101による手動調節も可能であるが、以下の構成により自動制御される。
図11に示すように、コンバイン本機側の制御コントローラ(請求項における「制御装置」)90の入力側に、エンジン回転数制御を有効/無効に切り換える自動アクセル制御スイッチ91と、目標エンジン回転数を設定するアクセルダイヤル104と、エンジン52の駆動力を穀粒貯留装置51底部の螺旋と揚穀筒56及び排出筒57内の螺旋に伝達する排出クラッチ操作用の排出クラッチ操作スイッチ92と、エンジン52の駆動力を脱穀装置50に伝達する脱穀クラッチ操作用の脱穀クラッチ操作スイッチ93と、走行駆動用の静油圧式無段変速装置を変速制御する走行変速コントローラ94を接続する。前記走行変速コントローラ94の入力側には、主変速レバー95の前後傾倒角度を検出する主変速レバーポジションセンサ96と、前記静油圧式無段変速装置のモータ側の斜板角度を2位置に切り換えて出力を2段階に変速する副変速レバー97の前後傾倒位置を検出する副変速レバーポジションセンサ98を接続する。また、制御コントローラ90には、エンジン52側に備えたエンジンコントローラ99を相互通信可能に接続し、制御コントローラ90からエンジンコントローラ99へエンジン回転数の指示を行い、エンジンコントローラ99から制御コントローラ90へエンジン回転数などのエンジン情報を送信する構成とする。このエンジンコントローラ99の入力側には、エンジン回転数を検出するエンジン回転センサ100と、アクセルレバー101の傾倒角度を検出するアクセルレバーポジションセンサ102を接続する。また、制御コントローラ90の出力側には、モニター103を同期通信ラインで接続する。
以上の構成により、図12、図13、図14に示すように、副変速レバー97が高速側に切り換えられている状態で、主変速レバー95がニュートラル域から前進側または後退側に操作されると、制御コントローラ90からエンジンコントローラ99へ指示出力がなされ、アクセルダイヤル104で設定された回転数まで、エンジン回転数が自動的に増速する。このアクセルダイヤル104によって設定される目標回転数は、最高回転である毎分2800回転以下の範囲で、操縦者によって任意に変更可能である。また、主変速レバー95をニュートラル域に戻すと、エンジン回転数は、アクセルレバー101で手動設定した回転数まで自動的に減速し、この回転数を維持する。
また、図15、図16に示すように、副変速レバー97が低速側に切り換えられている状態で、主変速レバー95がニュートラル域から前進側または後退側に操作されると、制御コントローラ90からエンジンコントローラ99へ指示出力がなされ、エンジン回転数が、アクセルダイヤル104で設定された回転数まで、主変速レバー95の傾倒角度に応じて4段階に自動増速する。また、主変速レバー95をニュートラル域に戻すと、エンジン回転数は、アクセルレバー101で手動設定した回転数まで、主変速レバー95の傾倒角度に応じて4段階に自動減速し、この回転数を維持する。
また、図17に示すように、副変速レバー97が低速側に切り換えられている状態で、主変速レバー95がニュートラル域から前進側または後退側に操作されると、制御コントローラ90からエンジンコントローラ99へ指示出力がなされ、エンジン回転数が、アクセルダイヤル104で設定された回転数まで、主変速レバー95の傾倒角度に比例して自動増速するようにしてもよい。この場合、主変速レバー95をニュートラル域に戻すと、エンジン回転数は、アクセルレバー101で手動設定した回転数まで、主変速レバー95の傾倒角度に比例して自動減速し、この回転数を維持する。
また、図18に示すように、副変速レバー97が低速側に切り換えられている状態で、主変速レバー95がニュートラル域から前進側または後退側に操作されると、制御コントローラ90からエンジンコントローラ99へ指示出力がなされ、エンジン回転数が毎分2000回転まで一気に増速するようにしてもよい。この場合、主変速レバー95が、前進側または後進側の全操作ストロークの2分の1の位置を越えて更に増速側へ操作されると、エンジン回転数が、アクセルダイヤル104で設定された毎分2800回転前後の回転数まで、主変速レバー95の傾倒角度に比例して自動増速する。また、主変速レバー95をニュートラル域に戻すと、エンジン回転数は上記と逆の経路を辿ってアクセルレバー101で手動設定した回転数まで自動減速し、この回転数を維持する。
尚、副変速レバーポジションセンサ98の検出値が断線や短絡などによって異常値となった場合には、副変速レバー97が高速側に切り換えられていても、上述のように副変速レバー97が低速側に切り換えられている状態での制御と同じエンジン回転制御を実行する。
また、上記走行駆動用の静油圧式無段変速装置の油圧ポンプ側の斜板角度を、主変速レバーポジションセンサ96の検出値に応じて作動するサーボシリンダで調節する構成としてもよい。
そして、副変速レバー97が低速側に切り換えられている状態において、図19に示すように、主変速レバー95を前進側又は後進側へ増速操作することで、前後進ソレノイド出力電流値(サーボシリンダを作動させる電磁バルブへの出力電流値)がニュートラル域を出て増加すると、エンジン回転数が、アクセルダイヤル104で設定された毎分2800回転前後の回転数まで、前後進ソレノイド出力電流値に比例して自動増速する。また、主変速レバー95をニュートラル域に戻すことで、前後進ソレノイド出力電流値が減少すると、エンジン回転数は上記と逆の経路を辿ってアクセルレバー101で手動設定した回転数まで自動減速し、この回転数を維持する。
また、図20に示すように、副変速レバー97を低速側から高速側へ切り換えた場合に、この切り換えが副変速レバーポジションセンサ98で検出されてから、再度、主変速レバー95の前進操作または後進操作が主変速レバーポジションセンサ96で検出されるまでの間は、副変速レバー97を切り換え操作する前のエンジン回転数に維持する。尚、エンジン回転数を増速させる場合には、目標回転数に対する実回転数の差の検出において、移動平均処理を行なう。
【符号の説明】
【0013】
2 走行装置
52 エンジン
90 制御装置
95 主変速レバー
97 副変速レバー
101 アクセルレバー
104 アクセルダイヤル
S 主変速装置
T 副変速装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(52)から走行装置(2)に至る伝動経路に、伝動回転速度を無段階に変速する主変速装置(S)と伝動回転速度を段階的に変速する副変速装置(T)とを直列に接続して備え、前記主変速装置(S)を変速操作する主変速レバー(95)と前記副変速装置(T)を変速操作する副変速レバー(97)とを設け、該副変速レバー(97)が高速側に切り換えられた状態で、主変速レバー(95)が中立域から前進側又は後進側に操作された場合に、エンジン(52)の回転数をアクセルダイヤル(104)で設定された第1目標回転数まで急増速させ、前記副変速レバー(97)が低速側に切り換えられた状態で、主変速レバー(95)が中立域から前進側又は後進側に操作された場合には、エンジン(52)の回転数を主変速レバー(95)の操作位置に応じて増速させる制御装置(90)を設けたことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記エンジン(52)の回転数を任意に手動調節可能なアクセルレバー(101)を備え、主変速レバー(95)を前進側操作域または後進側操作域から中立域に復帰操作した場合に、エンジン(52)の回転数がアクセルレバー(101)で調節した回転数まで自動的に減速する構成としたことを特徴とする請求項1記載のコンバイン。
【請求項3】
前記副変速レバー(97)が低速側に切り換えられた状態で、主変速レバー(95)が中立域から前進側又は後進側に操作された場合には、エンジン(52)の回転数を主変速レバー(95)の操作位置に応じて段階的に増速させる構成としたことを特徴とする請求項1または請求項2記載のコンバイン。
【請求項4】
前記副変速レバー(97)が低速側に切り換えられた状態で、主変速レバー(95)が中立域から前進側又は後進側に操作された場合には、エンジン(52)の回転数を主変速レバー(95)の操作位置に比例して無段階に増速させる構成としたことを特徴とする請求項1または請求項2記載のコンバイン。
【請求項5】
前記主変速レバー(95)が前進側または後進側の全操作ストロークの中間位置に設定された第1操作位置に至るまではエンジン(52)の回転数を前記第1目標回転数よりも低い第2目標回転数に維持し、主変速レバー(95)が第1操作位置を越えて増速側に操作された場合に、エンジン(52)の回転数を主変速レバー(95)の操作位置に比例して無段階に増速させる構成としたことを特徴とする請求項1または請求項2記載のコンバイン。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−211517(P2012−211517A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76573(P2011−76573)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】