説明

コーティング液および光学フィルム

【課題】芳香族ポリマーを含み高濃度かつ低粘度のコーティング液と、そのコーティング液を用いて得られる光学特性が良好な光学フィルムを提供する。
【解決手段】一般式(I)で表わされる繰り返し単位を有するエステル系ポリマーと溶媒とを含むコーティング液であって、トルエンが溶媒に、全溶媒量100重量部に対して50重量部を超えて含まれるコーティング液およびこのコーティング液を薄膜状に流延し、乾燥して得られる光学フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコーティング液とそれを用いて得られる光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイでは液晶を通過する光線の複屈折性を制御するため位相差を有する光学フィルムが用いられる。
【0003】
位相差を有する光学フィルムの作成法として、芳香族ポリイミドや芳香族ポリエステルなどの芳香族ポリマーを主成分とするコーティング液を、ガラス板やポリマーフィルムなどの基材ないしは金属ドラムや金属ベルトなどの上に流延して塗膜を形成し、芳香族ポリマーを配向させて光学フィルムを形成する方法が知られている(特許文献1)。
【0004】
一般にこのような芳香族ポリマーは極性の強い溶媒(例えばメチルエチルケトン、ジクロロエタン)に溶解させてコーティング液にした後、流延(塗布)、乾燥して成膜する。しかし従来のコーティング液は芳香族ポリマーの濃度が高い場合、粘度が高く流動性に乏しいため、膜厚を薄く塗布するとスジ状の塗布ムラが発生するという問題がある。一方粘度を低くするためコーティング液を希釈すると溶媒の揮発量が多くなり揮発ムラが発生し塗膜の表面に微小な凹凸が生じるという問題がある。そこで芳香族ポリマーを含み、高濃度かつ低粘度のコーティング液が求められている。
【特許文献1】特開2004−70329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は芳香族ポリマーを含み高濃度かつ低粘度のコーティング液と、そのコーティング液を用いて得られる光学特性が良好な光学フィルムを提供することである。光学特性が良好とは光の透過率が高く、厚み方向の複屈折率Δnxzが大きいことを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは従来の芳香族ポリマーの溶解性を改善するため、一般式(I)で表わされる繰り返し単位を含むエステル系ポリマー(以下、上記エステル系ポリマーという)を開発した。上記エステル系ポリマーはトルエンに溶解するため高濃度かつ低粘度のコーティング液を得ることができる。
【0007】
また上記エステル系ポリマーは溶媒の揮発過程で厚み方向の屈折率nが面内の屈折率nに比べ相対的に小さくなるようにポリマー鎖が配向する。本発明のコーティング液は全溶媒の50重量%を超える部分がトルエンであるので、従来の極性の強い溶媒(例えばメチルエチルケトン、ジクロロエタン)に比べ溶媒の揮発性が高い。そのためポリマー鎖が高度に配向し、厚み方向の複屈折率Δnxzの大きな光学フィルムが得られる。なお厚み方向の複屈折率Δnxzは、フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率(面内の最大屈折率)をn、厚み方向の屈折率をnとしたとき、Δnxz=n−nで定義される。
【0008】
本発明の要旨は次の通りである。
(1)本発明のコーティング液は、一般式(I)で表わされる繰り返し単位を少なくとも有するエステル系ポリマーと溶媒とを含むコーティング液であって、トルエンが前記溶媒に、全溶媒量100重量部に対して50重量部を超えて含まれることを特徴とする。トルエン以外の溶媒に特に制限はないが、好ましくはシクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、N−N’−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドまたはこれらの混合溶媒が適当である。
【化1】

一般式(I)においてAおよびBはそれぞれ置換基を表わし、aおよびbは置換数(0〜4の整数)を表わす。AおよびBはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表わす。Dは共有結合、CH基、C(CH基、C(CZ基(Zはハロゲン)、CO基、O原子、S原子、SO基、Si(CHCH基およびN(CH)基からなる群から選択される少なくとも一種の原子または基を表わす。RおよびRは独立して炭素数1〜10の直鎖もしくは分枝のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表わす。R〜Rはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表わす。(ただしR〜Rの少なくとも一つは水素原子ではない)。p1は0〜3の整数を、p2は1〜3の整数を、nは2以上の整数を表わす。
(2)本発明のコーティング液は、一般式(I)において、Rがメチル基、Rが炭素数1〜4の直鎖もしくは分枝のアルキル基であることを特徴とする。
(3)本発明のコーティング液は、前記エステル系ポリマーが化学構造中にハロゲン原子を有しないことを特徴とする。
(4)本発明のコーティング液は、前記エステル系ポリマーの濃度の1重量%〜10重量%の範囲において、コーティング液の粘度が25℃において1mPa・s〜300mPa・sであることを特徴とする。
(5)本発明のコーティング液は、前記エステル系ポリマーの含有量が、コーティング液の全固形分100重量部に対し50重量部〜100重量部であることを特徴とする。
(6)本発明のコーティング液は、コーティング液内の前記エステル系ポリマーの濃度が1重量%〜30重量%であることを特徴とする。
(7)本発明のコーティング液は、前記エステル系ポリマーの重量平均分子量Mwが2,000〜1,000,000であることを特徴とする。
(8)本発明の光学フィルムは、上記のコーティング液を薄膜状に流延し、乾燥させて得られることを特徴とする。
(9)本発明の光学フィルムは、波長550nmにおける厚み方向の複屈折率Δnxz(550)が0.008以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコーティング液はポリマー濃度が高くても低粘度であるため(例えばポリマー濃度が8重量%で、粘度が100mPa・s)、塗布時に塗布ムラ、揮発ムラが生じにくい。また本発明のコーティング液は含まれるポリマーが高濃度(例えば1重量%〜10重量%)であるため、得られる光学フィルムの光学特性が良好である。すなわち本発明のコーティング液を流延・塗布、乾燥して成膜することにより、透過率が高く(例えば波長400nmおいて92%)、厚み方向の複屈折率Δnxzの大きな(例えばΔnxz=0.011)光学フィルムが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[コーティング液]
本発明のコーティング液は上記エステル系ポリマーと溶媒とを含み、溶媒にはトルエンが全溶媒量100重量部に対し50重量部を超えて含まれる。トルエンが50重量部以下の場合、コーティング液の粘度が高くなりすぎて光学フィルムの厚みが不均一になるおそれがある。上記エステル系ポリマーの含有量は本発明のコーティング液の全固形分100重量部に対し、好ましくは50重量部〜100重量部、より好ましくは80重量部〜100重量部である。含有量がこの範囲であれば配向度が高く、厚みの均一性の良好な光学フィルムが得られる。本発明のコーティング液内の上記エステル系ポリマーの濃度は、好ましくは1重量%〜30重量%、より好ましくは1重量%〜20重量%である。濃度がこの範囲であれば均一性の良好な光学フィルムを得るのに適した粘度のコーティング液が得られる。本発明のコーティング液は上記エステル系ポリマーを高濃度に含有しながら、低粘度であるという特徴をもつ。本発明のコーティング液は上記エステル系ポリマーのほか、他のポリマーや添加剤を含んでいてもよい。ただしそれらの含有量は、好ましくは上記エステル系ポリマーの100重量部に対し20重量部以下である。20重量部以下であれば上記エステル系ポリマーの配向が阻害されず、配向度の高い光学フィルムが得られる。含まれる他のポリマーに特に制限はないが、上記エステル系ポリマーと相溶性の良いものが好ましい。
【0011】
本発明のコーティング液の粘度(25℃)は上記エステル系ポリマーの濃度が1重量%〜10重量%の範囲で300mPa・s以下であることが好ましい。上記エステル系ポリマーの濃度が10重量%の場合、本発明のコーティング液の粘度(25℃)は好ましくは300mPa・s以下、より好ましくは280mPa・s以下である。コーティング液の粘度(25℃)が300mPa・sを超えると流動性が不足するため、薄く塗布したときスジ状の塗布ムラが発生するおそれがある。また本発明のコーティング液の粘度(25℃)は1mPa・s以上であることが好ましい。粘度が1mPa・s未満であるとコーティング液の流動性が高くなりすぎ、所望の厚みが得られないおそれがある。
【0012】
[上記エステル系ポリマー]
上記エステル系ポリマーは一般式(I)で表わされる繰り返し単位を少なくとも含む。上記エステル系ポリマーは他の繰り返し単位を含むもの(コポリマー)であってもよい。
【化1】

一般式(I)においてAおよびBはそれぞれ置換基を表わし、aおよびbは置換数(0〜4の整数)を表わす。AおよびBはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表わす。Dは共有結合、CH基、C(CH基、C(CZ基(Zはハロゲン)、CO基、O原子、S原子、SO基、Si(CHCH基およびN(CH)基からなる群から選択される少なくとも一種の原子または基を表わす。RおよびRは独立して炭素数1〜10の直鎖もしくは分枝のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表わす。R〜Rはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表わす。(ただしR〜Rの少なくとも一つは水素原子ではない)。p1は0〜3の整数を、p2は1〜3の整数を、nは2以上の整数を表わす。一般式(I)において、好ましくはRはメチル基、Rは炭素数1〜4の直鎖または分枝のアルキル基である。Rは、より好ましくはメチル基、エチル基またはイソブチル基である。上記エステル系ポリマーは極性の弱い溶媒のうちトルエン、キシレン、さらに酢酸エチルにも溶解する。なおR、Rのアルキル基の炭素数が多すぎる(例えば11以上)とポリマーの柔軟性が高くなりすぎ、配向性低下やガラス転移温度低下のおそれがある。
【0013】
従来の光学フィルム内の芳香族ポリマーは溶剤への可溶性を付与するため化学構造中にハロゲン原子を有しているので、光学フィルムが焼却されたときダイオキシンを発生するおそれがある。上記エステル系ポリマーは化学構造中にハロゲン原子を有していなくても高い溶解性があるので、ハロゲン原子を有しないことが好ましい。ハロゲン原子を有しなければ光学フィルムが焼却されたときダイオキシンを発生するおそれが少ない。
【0014】
好ましい実施形態において上記エステル系ポリマーは一般式(II)を含む。また上記エステル系ポリマーがコポリマーである場合は一般式(III)を含む。なおAa、Bbは一般式(I)と同様である。RはRと、RはRと、RはRと、R10はRと、R11はRと、R12はRと同様である。n、l、mは2以上の整数である。一般式(II)あるいは一般式(III)を含むポリマーは高い透明性と、溶媒への高い溶解性および高い配向性、従って高い光学性能を実現している。また一般式(III)を含むコポリマーは有機溶媒への溶解性がより高い。
【化2】

【化3】

上記エステル系ポリマーの重量平均分子量Mwは、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000〜1,000,000、さらに好ましくは5,000〜500,000である。このMwの範囲であれば適切な粘度(例えば25℃にて1mPa・s〜300mPa・s)のコーティング液が得られ、このコーティング液を用いることにより均一な光学フィルムが得られる。
【0015】
[上記エステル系ポリマーの合成方法]
上記エステル系ポリマーは相間移動触媒の存在下、対応するジカルボン酸クロライドと対応するジオールを界面重合させることにより得られる。ジカルボン酸クロライドとしてはテレフタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド、フタル酸クロライド、ビフェニルジカルボン酸クロライドなどが挙げられる。ジオールとしては2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタンなどが挙げられる。さらに上記エステル系ポリマーは上記ジオール以外にも対応するケトンとフェノール誘導体を酸触媒下で反応させることにより得ることができる。粉末状の上記エステル系ポリマーを得る方法に特に制限は無く、例えば上記エステル系ポリマーの重合反応終了後、反応溶液を水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの溶媒に滴下し、沈殿物を濾別し、さらに溶媒で洗浄し、乾燥する方法が用いられる。またペレット状の上記エステル系ポリマーを得る方法に特に制限は無く、例えば精製した上記エステル系ポリマーの粉末を市販のペレタイザで加工する方法が用いられる。
【0016】
[溶媒]
本発明のコーティング液に用いられる溶媒は全溶媒量100重量部に対してトルエンを50重量部を超える量、好ましくは70重量部以上、より好ましくは85重量部以上含む。本発明のコーティング液はトルエンを含むことにより、極性の強い溶媒を使用した従来のコーティング液に比べ粘度が低いという特徴がある。
【0017】
本発明のコーティング液に用いられる溶媒はトルエン以外の溶媒を含んでいてもよい。それらの溶媒はコーティング液の乾燥速度を調整したり、上記エステル系ポリマーの溶解性を調整したりするのに用いられる。そのような溶媒に特に制限はないが、好ましくはシクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、N−N’−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドまたはこれらの混合溶媒である。
【0018】
[コーティング液の製造方法]
本発明のコーティング液は、例えばトルエンを50重量%を超えて含む溶媒に、粉末状またはペレット状の上記エステル系ポリマーを攪拌しながら徐々に加えて、所望の濃度に調整することにより得られる。
【0019】
[光学フィルム]
本発明の光学フィルムは本発明のコーティング液をガラス板やポリマーフィルムなどの基材ないしは金属ドラムや金属ベルトの上に薄膜状に流延して塗膜を形成し、上記エステル系ポリマーを配向させ、乾燥させて得られる。本発明のコーティング液の流延手段はコーティング液を均一に流延するものであれば特に制限は無く、適切なコータを用いた流延手段が用いられる。流延手段としてはスライドコータ、スロットダイコータ、バーコータ、ロッドコータ、ロールコータ、カーテンコータ、スプレイコータ、フレキソ印刷機、スクリーン印刷機、スピンコータ等が挙げられる。本発明のコーティング液の乾燥手段は特に制限は無く、例えば自然乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥、減圧加熱乾燥などが用いられる。加熱乾燥手段としては空気循環式乾燥オーブンや熱ロールなどの任意の乾燥装置を用いた乾燥方法が用いられる。
【0020】
[配向]
本発明のコーティング液中の上記エステル系ポリマーは溶媒の揮発過程で、厚み方向の屈折率nが面内の屈折率nよりも相対的に小さくなるようにポリマー鎖が自発的に配向する。従って上記コーティング液より得られる光学フィルムは特に延伸しなくても位相差を有するので位相差フィルムとして用いられる。なお上記コーティング液より得られる光学フィルムは自発的な配向に加えて延伸処理や磁場、電場による配向などを組み合わせて配向させてもよい。
【0021】
本発明の光学フィルムは自己支持性のあるフィルムとしてもよいし、基材上に塗布してコーティング膜として用いてもよい。自己支持性をもたせる場合、本発明の光学フィルムの厚みは、好ましくは20μm〜300μmである。コーティング膜である場合、本発明の光学フィルムの厚みは、好ましくは1μm〜20μmである。
【0022】
[基材]
本発明のコーティング液を塗布するための基材に特に制限はなく単層のものでもよいし複数層の積層体(例えばアンカーコート層を含む)であってもよい。具体的な基材としてはガラス板やポリマーフィルムが挙げられる。基材がアンカーコート層を含む場合、アンカーコート層に特に制限はないが、エステル系ポリマーとの密着性が良好であるという点で、ビニルアルコール系ポリマー、および/またはウレタン系ポリマーが好ましく用いられる。アンカーコート層の厚みは好ましくは0.01μm〜5μmである。
【0023】
基材としてのガラス板は、例えば無アルカリガラスのように液晶セルに用いられるものが好ましい。基材としてポリマーフィルムを用いると基材に可撓性をもたせることができるので、可撓性を要求される用途に好適である。基材に用いるポリマーフィルムの素材としてはフィルム形成性のあるポリマーであれば特に限定されないが、スチレン系ポリマー、(メタ)アクリル酸系ポリマー、エステル系ポリマー、オレフィン系ポリマー、ノルボルネン系ポリマー、イミド系ポリマー、セルロース系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、カーボネート系ポリマーが例示される。基材にポリマーフィルムが用いられる場合、本発明のコーティング液を用いればトルエンを全溶媒量100重量部に対して50重量部を超えて含むのでポリマーフィルム表面の侵食が少ない。従って従来のコーティング液では侵食が激しくて用いることができなかった基材でも使用できる。本発明のコーティング液により新たに用いることができるようになった基材としては、例えば(メタ)アクリル酸系ポリマーフィルム、オレフィン系ポリマーフィルムが挙げられる。基材の厚みは用途によるほかは特に限定されないが、一般的には1μm〜1000μmの範囲である。
【0024】
[光学特性]
本発明の光学フィルムは上記エステル系ポリマーの構造を一般式(I)とすることにより高い透明性が得られる。厚み方向の複屈折率Δnxz(550)が0.01以上の場合、本発明の光学フィルムでは波長400nmにおける透過率が92%以上得られるが、従来の光学フィルムでは80%未満である。本発明の光学フィルムにおいては厚み方向の屈折率nが面内の屈折率の最大値(遅相軸方向の屈折率)nより小さい。このような光学特性を有するため本発明の光学フィルムは位相差フィルムとして好適に用いられる。波長550nmにおける厚み方向の複屈折率Δnxz(550)は、好ましくは0.008以上、より好ましくは0.008〜0.07、さらに好ましくは0.008〜0.055である。複屈折率Δnxzがこの範囲であると光学フィルムを薄くすることができる。このような優れた光学特性はトルエンを50重量%を超えて含む本発明のコーティング液を用いることにより得られる。
【0025】
[光学フィルムの応用例]
本発明の光学フィルムは基材上に密着積層し光学積層体として用いることができる。このとき基材は透明性の高いものが好ましい。光学積層体の厚みは、好ましくは10μm〜500μmである。本発明の光学フィルムまたは光学積層体は偏光子と組み合わせて偏光素子として用いることもできる。このような偏光素子は、例えば液晶表示装置に用いることができる。偏光素子の厚みは、好ましくは10μm〜800μmである。
【0026】
[光学フィルムの用途]
本発明の光学フィルムは光学異方性を活かして各種の光学素子に用いられるが、特に位相差フィルムとして好適に用いることができる。上記光学フィルムは各種液晶表示装置、例えばパソコンモニター、ノートパソコン、コピー機などのOA機器、携帯電話、時計、デジタルカメラ、携帯情報端末(PDA)、携帯ゲーム機器などの携帯機器、ビデオカメラ、テレビ、電子レンジなどの家庭用機器、バックモニター、カーナビゲーション、カーオーディオなどの車載用機器、店舗用モニターなどの展示機器、監視用モニターなどの警備機器、介護用モニター、医療用モニターなどの液晶表示装置に用いられる。
【0027】
[実施例]
[上記エステル系ポリマーの合成]
攪拌装置を備えた反応容器中にて、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン2.56gとベンジルトリエチルアンモニウムクロライド0.06gを1M水酸化ナトリウム水溶液25mlに溶解させた。この溶液に、テレフタル酸クロライド1.02gとイソフタル酸1.02gを30mlのクロロホルムに溶解させた溶液を攪拌しながら一度に加え、室温で90分間攪拌した。その後、重合溶液を静置分離してポリマーを含んだクロロホルム溶液を分離し、ついで酢酸水で洗浄し、イオン交換水で洗浄した後、メタノールに投入してポリマーを析出させた。析出したポリマーを濾過し、減圧乾燥することで白色のポリマー3.81g(収率95%)を得た。ポリマーの構造は下記のとおりであった。
【化4】

[本発明のコーティング液の作製]
得られたポリマーをトルエンに溶解し、濃度6重量%、8重量%、10重量%のコーティング液をそれぞれ作製した。各コーティング液の粘度を図1に示す。濃度6重量%、8重量%、10重量%のものの粘度はそれぞれ40mPa・s、100mPa・s、270mPa・sであった。
【0028】
[本発明の光学フィルムの作製]
(実施例1)上記の濃度8重量%(100mPa・s)の本発明のコーティング液をスピンコート法によってガラス基材上に塗布し、70℃で5分間乾燥した後、さらに130℃で30分間乾燥させて光学フィルムを作製した。乾燥後の光学フィルムの厚みは4.1μmであった。実施例1の光学フィルムの特性は表1および図2に示すように、波長550nmにおける厚み方向の複屈折率Δnxz(550)が0.0110であった。
(実施例2)スピンコータの回転数を調整して、乾燥後の光学フィルムの厚みを5.7μmとした以外は、実施例1と同様の方法で実施例2の光学フィルムを作製した。実施例2の光学フィルムの特性は表1および図2に示すように、波長550nmにおける厚み方向の複屈折Δnxz(550)が0.0103であった。
(実施例3)スピンコータの回転数を調整して、乾燥後の光学フィルムの厚みを8.7μmとした以外は、実施例1と同様の方法で実施例3の光学フィルムを作製した。実施例3の光学フィルムの特性は表1および図2に示すように、波長550nmにおける厚み方向の複屈折Δnxz(550)が0.0092であった。
(実施例4)スピンコータの回転数を調整して、乾燥後の光学フィルムの厚みを10.5μmとした以外は、実施例1と同様の方法で実施例4の光学フィルムを作製した。実施例4の光学フィルムの特性は表1および図2に示すように、波長550nmにおける厚み方向の複屈折Δnxz(550)が0.0086であった。
【表1】

【0029】
[比較例のコーティング液および光学フィルムの作製]
実施例1と同様のポリマーをトルエンの代わりにシクロペンタノンに溶解した以外は、実施例1と同様にして比較例のコーティング液を作製した。比較例のコーティング液の粘度を図1に示す。濃度6重量%、8重量%、10重量%のものの粘度はそれぞれ50mPa・s、130mPa・s、350mPa・sであった。
(比較例1)上記の濃度8重量%(130mPa・s)の比較例のコーティング液を実施例1と同様にして比較例1の光学フィルムを作製した。乾燥後の比較例1の光学フィルムの厚みは4.1μmであった。比較例1の光学フィルムの特性は表1および図2に示すように、波長550nmにおける厚み方向の複屈折率Δnxz(550)が0.0090であった。
(比較例2)スピンコータの回転数を調整して、乾燥後の光学フィルムの厚みを6.4μmとした以外は、比較例1と同様の方法で比較例2の光学フィルムを作製した。比較例2の光学フィルムの特性は表1および図2に示すように、波長550nmにおける厚み方向の複屈折Δnxz(550)が0.0063であった。
(比較例3)スピンコータの回転数を調整して、乾燥後の光学フィルムの厚みを7.3μmとした以外は、比較例1と同様の方法で比較例3の光学フィルムを作製した。比較例3の光学フィルムの特性は表1および図2に示すように、波長550nmにおける厚み方向の複屈折Δnxz(550)が0.0055であった。
(比較例4)スピンコータの回転数を調整して、乾燥後の光学フィルムの厚みを8.5μmとした以外は、比較例1と同様の方法で比較例4の光学フィルムを作製した。比較例4の光学フィルムの特性は表1および図2に示すように、波長550nmにおける厚み方向の複屈折Δnxz(550)が0.0049であった。
【0030】
[評価]
本発明の実施例のコーティング液は溶媒にトルエンを用い、かつトルエンに可溶な上記エステル系ポリマーを用いたことにより、図1に示すように高濃度でも低粘度(例えば濃度1重量%〜10重量%の範囲で300mPa・s以下)であった。さらに図2のグラフに示すように、このコーティング液から成膜された実施例の光学フィルムは、溶媒にシクロペンタノンを用いたコーティング液から成膜された比較例の光学フィルムに比べて、例えば厚みが4.1μmの場合、厚み方向の複屈折率Δnxz(550)が0.002高い。従って本発明の光学フィルムを用いると、より大きい厚み方向位相差値Rth(=Δnxz×膜厚)を得ようとしたとき光学フィルムの厚さを従来品より薄くできるという利点がある。図2のグラフから明らかなように、膜厚が厚くなるほど本発明の光学フィルムと比較例の光学フィルムの複屈折率Δnxzの差が大きくなるため、本発明の光学フィルムの利点が大きくなる。従来の芳香族ポリマーはトルエンに溶解しないためこのような本発明の効果を得ることができない。
【0031】
[測定方法]
[ガラス転移温度]
示差走査熱量計(セイコー株式会社製DSC−6200)を用いて、JIS K 7121(1987 プラスチックの転移温度測定方法)に準じて測定した。具体的には3mgの粉末サンプルを窒素雰囲気下(ガス流量50ml/分)で昇温(加熱速度10℃/分)させて2回測定し、2回目の測定値を採用した。示差走査熱量計は標準物質(インジウム)を用いて温度補正した。
【0032】
[分子量]
重量平均分子量は各試料を0.1%THF(テトラヒドロフラン)溶液に調整し、0.45μmメンブレンフィルターにて濾過した後、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)本体として東ソー社製HLC−8820GPCを用い、検出器としてRI(GPC本体に内蔵)を用いて測定した。具体的にはカラム温度40℃、ポンプ流量0.35ml/分とし、データ処理は予め分子量既知の標準ポリスチレンの検量線を用いて、ポリスチレン換算分子量より分子量を求めた。なお使用カラムはSuperHZM−M(径6.0mm×15cm)、SuperHZM−M(径6.0mm×15cm)およびSuperHZ2000(径6.0mm×15cm)を直列につないだものを用い、移動相としてはTHFを用いた。
【0033】
[光透過率、厚み方向の位相差値]
光透過率は王子計測機器社製KOBRA−WPRを用いて波長400nmで測定した。厚み方向の位相差値Rth(λ)は、波長λの光をサンプル法線から40度の角度で入射させて測定した値R40(λ)をRth(λ)に換算して求めた。
【0034】
[膜厚]
Sloan社製Dektakを用いて測定した。
【0035】
[複屈折率]
550nmでの複屈折率Δnxz(550)は、Δnxz(550)=Rth(550)/dにより求めた。dは光学フィルムの厚み(単位nm)である。
【0036】
[溶解性]
各溶剤を入れたサンプル瓶にポリマーを少しずつ加え、溶解の程度を目視観察した。
【0037】
[粘度]
BROOKFIELD社製粘度計HBDV−Iを用いて温度25℃、低粘度用スピンドル、20rpm〜50rpmで測定した。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例および比較例のコーティング液の濃度と粘度のグラフ。
【図2】実施例および比較例の光学フィルムの膜厚と厚み方向の複屈折Δnxzのグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表わされる繰り返し単位を少なくとも有するエステル系ポリマーと溶媒とを含むコーティング液であって、トルエンが前記溶媒に、全溶媒量100重量部に対して50重量部を超えて含まれることを特徴とするコーティング液。
【化1】

(ただし一般式(I)においてAおよびBはそれぞれ置換基を表わし、aおよびbは置換数(0〜4の整数)を表わす。AおよびBはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表わす。Dは共有結合、CH基、C(CH基、C(CZ基(Zはハロゲン)、CO基、O原子、S原子、SO基、Si(CHCH基およびN(CH)基からなる群から選択される少なくとも一種の原子または基を表わす。RおよびRは独立して炭素数1〜10の直鎖もしくは分枝のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表わす。R〜Rはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表わす。(ただしR〜Rの少なくとも一つは水素原子ではない)。p1は0〜3の整数を、p2は1〜3の整数を、nは2以上の整数を表わす。)
【請求項2】
前記一般式(I)において、Rがメチル基、Rが炭素数1〜4の直鎖もしくは分枝のアルキル基であることを特徴とする請求項1に記載のコーティング液。
【請求項3】
前記エステル系ポリマーが化学構造中にハロゲン原子を有しないことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコーティング液。
【請求項4】
前記エステル系ポリマー濃度の1重量%〜10重量%の範囲において、コーティング液の粘度が25℃において1mPa・s(ミリパスカル秒)〜300mPa・sであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のコーティング液。
【請求項5】
前記エステル系ポリマーの含有量が、コーティング液の全固形分100重量部に対し50重量部〜100重量部であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載のコーティング液。
【請求項6】
前記コーティング液内の前記エステル系ポリマーの濃度が1重量%〜30重量%であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載のコーティング液。
【請求項7】
前記エステル系ポリマーの重量平均分子量Mwが2,000〜1,000,000であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載のコーティング液。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載のコーティング液を薄膜状に流延し、乾燥させて得られることを特徴とする光学フィルム。
【請求項9】
波長550nmにおける厚み方向の複屈折率Δnxz(550)が0.008以上であることを特徴とする請求項8に記載の光学フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−114425(P2009−114425A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4026(P2008−4026)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】