説明

コーティング組成物、それを用いた反射防止フィルム及び反射防止フィルムの製造方法

【課題】干渉ムラが少ないといった外観品質と優れた反射防止特性とを両立する反射防止フィルム、及びそれに用いるコーティング組成物を提供する。
【解決手段】本発明のコーティング組成物は、無機粒子と樹脂とを含有するコーティング組成物であり、回転式粘度計を用いてせん断速度を増加させる粘度測定により測定した、前記コーティング組成物の25℃における、せん断速度1×10sec-1での粘度をA、せん断速度1×103sec-1での粘度をBとした場合、粘度Aが1〜20mPa・sであり、チキソトロピー係数A/Bが1.001〜1.400であることを特徴とする。また、本発明の反射防止フィルムは、上記のコーティング組成物を用いて形成される反射防止層を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング組成物、それを用いた反射防止フィルムに及び反射防止フィルムの製造方法に関し、さらに詳しくは反射防止フィルムの反射防止層の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイやプラズマディスプレイパネル(PDP)などに代表される高精細かつ大画面ディスプレイの開発が急速に進んでいる。また、ディスプレイの表示面は、その視認性を高めるために、画面への蛍光灯などの外光の映り込みを防止する反射防止機能を有する反射防止層をその表面に配置する必要がある。反射防止層の形成方法としては、ディスプレイの表示面の表面に無機金属を蒸着又はスパッタリングする、いわゆるドライコーティング法、及び低屈折率材料などを溶液や分散液などの液状で基材に塗布し、乾燥させ、必要に応じて硬化させるウェットコーティング法などが知られている。近年のディスプレイの大型化に伴い、ロール・ツー・ロール(Roll−to−Roll)で安価にかつ大型化にも対応しやすいウェットコーティング法が主流になりつつある。ウェットコーティング法で形成される反射防止層を含む反射防止フィルムとして、例えば透明基材フィルム上に、基材自体の硬度を高めるためのハードコート層、及びその上に単層又は複層の屈折率の異なる層をそれぞれ約100nm前後の膜厚で形成した反射防止フィルムなどが提案されている(特許文献1及び2)。
【0003】
また、市場の低コスト要求に対応するため、反射防止層をハードコート層と低屈折率層との2層構造として、製造工程を削減することも提案されている(特許文献3及び4)。
【0004】
さらに、反射防止層をハードコート層と低屈折率層との2層構造として帯電防止機能及び反射防止機能を両立させた光学フィルムとして、基材の少なくとも一方の主面に、ハードコート層と低屈折率層とを順次積層し、ハードコート層が導電性酸化物である針状のアンチモンドープ酸化錫、その他の金属酸化物及び電離放射線による硬化物を含む光学用フィルムが提案されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−200690号公報
【特許文献2】特開2007−65634号公報
【特許文献3】特開平9−145903号公報
【特許文献4】特開2001−318206号公報
【特許文献5】WO04/088364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の反射防止フィルムの製造においてウェットコーティング法を用いた場合、塗膜の厚みムラが生じやすく、大型化や低反射化への需要の高まりに対して、外観品質上、より干渉ムラが目立ちやすく面質が悪くなるといった実用上の問題を抱えている。すなわち、反射防止フィルムの大型化では、大型サイズになるほどウェットコーティング法に適した塗布機が実在せず、塗膜の厚みムラが発生する。また、反射防止フィルムの低反射化では、各層の屈折率差を大きくしたり、薄膜での多層構造を採用したりする設計から、塗膜に厚みムラがあれば、より顕著に視認される傾向がある。特に、特許文献1〜5のように金属酸化物粒子を溶媒中に分散したコーティング組成物では、コーター部内や基材とコーター部の間隙などでせん断速度の変化が頻繁になされた場合、コーティング組成物の粘性抵抗が不均一に変化することや、溶媒の揮発により急激に増粘することで液のレベリングが追いつかず厚みムラが悪化するといった原因が考えられる。一方、特許文献2では、塗布ムラを改良するため、第一層ではレベリング剤を使用して塗布ムラを減少させて塗布した後、第二層を積層塗布する場合、第一層のレベリング剤を熱処理などで除去する工程を含む提案がなされているが、第一層への濡れ性を確保することで、第二層における塗布ムラの低減には寄与するものの、工程が複雑であり経済的に不利になるといった点で不十分であった。
【0007】
本発明は、上記従来の問題を解決するため、特定の粘度特性を有するコーティング組成物、それを用いて形成した干渉ムラが少ないといった外観品質と優れた反射防止特性とを両立する反射防止フィルム及び反射防止フィルムの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のコーティング組成物は、無機粒子と、樹脂とを含有するコーティング組成物であり、回転式粘度計を用いてせん断速度を増加させる粘度測定により測定した、前記コーティング組成物の25℃におけるせん断速度1×10sec-1での粘度をA、せん断速度1×103sec-1での粘度をBとした場合、粘度Aが1〜20mPa・sであり、チキソトロピー係数A/Bが1.001〜1.400であることを特徴とする。
【0009】
本発明の反射防止フィルムは、上記の本発明のコーティング組成物を用いて形成される反射防止層を含む。
【0010】
本発明の反射防止フィルムの製造方法は、基材と前記基材の一方の主面側に形成された反射防止層を含む反射防止フィルムの製造方法であって、前記反射防止層は、コーティング組成物を前記基材の一方の主面側に塗布することにより形成され、前記コーティング組成物は無機粒子と樹脂とを含有し、回転式粘度計を用いてせん断速度を増加させる粘度測定により測定した、前記コーティング組成物の25℃におけるせん断速度1×10sec-1での粘度をA、せん断速度1×103sec-1での粘度をBとした場合、粘度Aが1〜20mPa・sであり、チキソトロピー係数A/Bが1.001〜1.400であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコーティング組成物を用いれば、干渉ムラが少ないといった外観品質と、優れた反射防止特性が両立する反射防止フィルムを提供することができる。また、本発明のコーティング組成物を用いれば、好ましくは、複雑な工程、例えば熱処理などで特定の物質を除去する工程を必要とせず、干渉ムラが少ないといった外観品質と、優れた反射防止特性が両立する反射防止フィルムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施例においてハードコート層の形成に用いたコーティング組成物の粘度フローカーブである。
【図2】図2は、本発明の実施例において低屈折率層の形成に用いたコーティング組成物の粘度フローカーブである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、ウェットコーティング法における塗布ムラは、回転式粘度計を用いてせん断速度を増加させる粘度測定により測定した、コーティング組成物の25℃におけるせん断速度1×10sec-1での粘度をA(以下、粘度Aとも記す。)、せん断速度1×103sec-1での粘度をB(以下、粘度Bとも記す。)とした場合、チキソトロピー係数A/Bに依存することを見出した。
【0014】
すなわち、本発明のコーティング組成物において、チキソトロピー係数A/Bが1.001〜1.400の範囲であることにより、コーター部内や基材とコーター部の間隙などでせん断速度の変化が頻繁になされた場合でも、コーティング組成物は粘性抵抗が均一になり、速やかに基材に転移することで塗布ムラを抑制できると推測される。また、チキソトロピー係数A/Bが1.001〜1.100の範囲であることは、塗布の高速化に対しても有効である。
【0015】
本発明における粘度は、25℃において、回転式粘度計、例えば、レオストレス600(英弘精機社製)やPhysicaMCR301型(アントンパール社製)などを用い、せん断速度を増加させながら、例えば1×10sec-1から1×103sec-1まで増加させながら行う粘度測定により測定した粘度をいう。
【0016】
本発明において、チキソトロピー係数A/Bはせん断速度の増加に伴う粘度の変化を示すものであり、その値が1.000に近いほど、せん断速度の増加に伴う粘度の変化が少ないことを意味する。チキソトロピー係数A/Bが1.400より大きい、又は1.001より小さいコーティング組成物の場合、コーター部内や基材とコーター部の間隙などでせん断速度の変化が頻繁になされた場合、粘性抵抗が不均一に変化して塗布ムラが生じると推測される。なお、コーティング組成物における構成成分、例えば無機粒子、樹脂、有機溶媒などの含有量を適切にすること、無機粒子の分散を良好にすること、及び樹脂の溶解を十分にすることなどにより、チキソトロピー係数A/Bを1.001〜1.400の範囲内にすることができる。
【0017】
さらに、本発明において、コーティング組成物の粘度Aは、1〜20mPa・sの範囲であることが必要である。粘度Aが20mPa・sより大きいコーティング組成物は、流動性が悪くなる傾向があり、また、粘度Aが1mPa・sより小さい場合は、コーティング組成物の構成成分の含有量が不適切であり、反射防止特性が不十分である傾向がある。
【0018】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0019】
<コーティング組成物>
本発明のコーティング組成物は、少なくとも樹脂及び無機粒子を含む。
【0020】
〈樹脂〉
樹脂としては、特に限定されず、反射防止フィルムにおいて、ウェットコーティング法による反射防止層の形成に用いられる電離放射線硬化型樹脂や熱硬化型樹脂などを用いることができる。また、表面硬度の観点から、電離放射線硬化型樹脂を用いることが好ましい。ここで、「電離放射線硬化型樹脂」とは、赤外線、可視光線、紫外線、X線、電子線などのすべての電磁波を包含する電離放射線のいずれかの照射により硬化する樹脂をいう。
【0021】
上記電離放射線硬化型樹脂としては、特に限定されず、反射防止フィルムにおいて、ウェットコーティング法による反射防止層の形成に用いられる各種の電離放射線硬化型樹脂を使用できる。例えばビニル基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、オキセタニル基を有するモノマー、プレポリマー、オリゴマー、ポリマーなどを用いることができる。生産性及び硬度の両立の観点より、多官能樹脂を用いることが好ましい。さらに、分子中に水素結合を形成するような結合基や官能基を多く有していると、密着性が向上するため好ましい。なお、本発明において、「(メタ)アクリロイル基」は、「アクリロイル基」及び/又は「メタクリロイル基」を意味する。
【0022】
上記電離放射線硬化型樹脂として、具体的には、多官能基もしくは単官能基の(メタ)アクリレートモノマー又はアクリレートオリゴマーなどを用いることができる。また、耐擦傷性を向上させる観点から、重合可能な不飽和基を2つ以上有する多官能アクリレ−トなどを含んでいることが好ましい。
【0023】
上記単官能基のアクリレートモノマーは分子中に(メタ)アクリレート基を1つ有するモノマーであり、例えばトリシクロ〔5,2,1,02,6〕デカンアクリレート、イソボルニルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、フェノキシエチルアクリレートなどが挙げられる。なお、本発明において、「(メタ)アクリレート基」は、「アクリレート基」及び/又は「メタクリレート基」を意味する。
【0024】
また、上記多官能基のアクリレートモノマーは分子中に(メタ)アクリレート基を2つ以上、好ましくは2から6個を有するモノマーであり、例えばトリシクロデカンジメチロールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジオキサングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ビスフェノールA型ポリエトキシレートジアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどが挙げられる。
【0025】
また、アクリレートオリゴマーとしては、例えばエポキシアクリレートオリゴマー、ポリエステルポリアクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートオリゴマーなどが挙げられる。
【0026】
これらの多官能基もしくは単官能基の(メタ)アクリレートモノマー又はオリゴマーは、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。中でも、耐擦傷性をより高める観点から、ペンタエリスリトールトリアクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレートから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0027】
また、コーティング組成物における上記電離放射線硬化型樹脂の配合割合は、コーティング組成物の粘度Aが1〜20mPa・sであり、チキソトロピー係数A/Bが1.001〜1.400になるように配合されればよく、特に限定されないが、好ましくは樹脂と無機粒子の全体重量100重量%に対して10〜99重量%であり、より好ましくは15〜90重量%である。上記コーティング組成物のチキソトロピー係数A/Bが1.001〜1.400になリやすいからである。
【0028】
〈無機粒子〉
無機粒子としては、屈折率調整のため、金属酸化物粒子を用いることができる。金属酸化物粒子としては、例えば、シリカ、中空シリカ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化錫、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、リンドープ酸化錫(PTO)、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛、ガリウムドープ酸化亜鉛、五酸化アンチモン、アンチモン酸亜鉛などの金属酸化物粒子を用いることができる。これらの金属酸化物粒子は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
また、コーティング組成物は、帯電防止機能をもたらすために、導電性酸化物粒子を含むことが好ましい。ここで、「導電性酸化物粒子」は、導電性を有する金属酸化物粒子のことをいい、特に限定されないが、例えば酸化錫、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、リンドープ酸化錫(PTO)、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛、ガリウムドープ酸化亜鉛、五酸化アンチモン、アンチモン酸亜鉛などの金属酸化物粒子が挙げられる。中でも、高い導電性を有するITO粒子、ATO粒子などを用いることが好ましい。
【0030】
また、上記無機粒子は、粒子状のものであればよく、特に限定されないが、その一次粒子径は、5〜1000nmが好ましい。一次粒子径が1000nmを超えるとそれを含むコーティング組成物からなる塗膜の透明性が低下する傾向がある。なお、2種以上の金属酸化物粒子を組み合わせて使用する場合、それぞれの粒子が球状や針状など同一形状であれば、それを含むコーティング組成物からなる塗膜中で粒子が最密充填しやいので好ましい。
【0031】
本発明において、無機粒子の一次粒子径は、粒子の映像を透過型電子顕微鏡などの電子顕微鏡を用いて倍率20万倍で撮影し、粒子の一番長い径とそれに直交方向の一番長い径を計測し、両者を平均して長軸短軸の平均径を算出することにより測定したものをいう。また、反射防止フィルムにおける無機粒子の一次粒子径の測定は、反射防止フィルムをマイクロトーム(microtome)でカットし、カットした反射防止フィルム断面片における粒子の映像を透過型電子顕微鏡などの電子顕微鏡を用いて倍率20万倍で撮影し、粒子の一番長い径とそれに直交方向の一番長い径を計測し、両者を平均して長軸短軸の平均径を算出することにより行なわれる。なお、少なくとも30個の粒子の長軸短軸の平均径を算出し、それらの平均値を粒子の一次粒子径とする。
【0032】
また、コーティング組成物における上記無機粒子の配合割合は、コーティング組成物の粘度Aが1〜20mPa・s、チキソトロピー係数A/Bが1.001〜1.400になるように配合されればよく、特に限定されないが、好ましくは樹脂と無機粒子の全体重量に対して1〜90重量%であり、より好ましくは10〜85重量%である。上記コーティング組成物のチキソトロピー係数A/Bが1.001〜1.400になりやすいからである。
【0033】
〈有機溶媒〉
本発明のコーティング組成物は、さらに、上記樹脂を分散又は溶解させることができる、有機溶媒を含んでもよい。有機溶媒としては、ウェットコーティング法による塗膜の形成に用いられるものであればよく、特に限定れないが、例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセチルアセトンなどのケトン類;エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、n−ブタノール、ジアセトンアルコールなどのアルコール類;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル基含有アルコール類;乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチルなどのヒドロキシエステル類;アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸ブチルなどのβ−ケトエステル類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類などが用いられる。これらの有機溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、有機溶媒の添加量は、コーティング組成物の粘度Aが1〜20mPa・s、チキソトロピー係数A/Bが1.001〜1.400になるように添加されればよく、特に限定されないが、塗工性の観点から、コーティング組成物における樹脂の含有量が1〜50重量%程度となるように添加することが好ましい。さらに、上記コーティング組成物のチキソトロピー係数A/Bが1.001〜1.400になりやすい観点から、コーティング組成物における樹脂の含有量が1〜40重量%程度となるように添加することが好ましい。
【0034】
〈重合開始剤〉
上記樹脂として電離放射線硬化型樹脂を用いる場合は、本発明のコーティング組成物は、重合開始剤を含む。上記コーティング組成物における重合開始剤の配合割合は、コーティング組成物の粘度Aが1〜20mPa・s、チキソトロピー係数A/Bが1.001〜1.400になるように配合されればよく、特に限定されないが、樹脂100重量部に対して、2〜20重量部であることが好ましく、3〜12重量部であることがより好ましい。耐擦傷性を好適にすることができる。そして、紫外線照射により上記電離放射線硬化型樹脂を硬化させる際には、光重合開始剤を含むことが必要となる。
【0035】
上記光重合開始剤としては、例えばベンゾインエチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾイン類;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、N,N−ジメチルアミノアセトフェノンなどのアセトフェノン類;2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン類;ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタールなどのケタール類;ベンゾフェノン、メチルベンゾフェノン、4,4’−ビスジエチルアミノ−ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイドなどのベンゾフェノン類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドなどのホスフィンオキサイド類などがあり、これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
また、本発明において、上記コーティング組成物は、コーティング組成物の粘度Aが1〜20mPa・sであり、チキソトロピー係数A/Bが1.001〜1.400である要件(以下、粘度要件とも記す)を満たす範囲内において、必要に応じて重合禁止剤、酸化防止剤、分散剤、界面活性剤、光安定剤及びレベリング剤などの各種添加剤を含んでもよい。
【0037】
本発明のコーティング組成物は、下記のとおり、反射防止フィルムの反射防止層の形成に用いることができる。なお、反射防止フィルムはディスプレイの最表面に位置するため、強度と防汚性を有していることが好ましく、上記コーティング組成物は、コーティング組成物の粘度Aが1〜20mPa・sであり、チキソトロピー係数A/Bが1.001〜1.400である要件を満たす範囲内において、シリコーン系、フッ素系の添加剤を含んでもよい。
【0038】
<反射防止フィルム>
本発明の反射防止フィルムは、基材と、基材上の一方の主面側に配置された反射防止層を含む。
【0039】
〈基材〉
基材は、透光性を有する材料であればよく、その形状や製造方法などは特に限定されない。例えば、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂などの材料をフィルム状又はシート状に加工したものを用いることができる。上記フィルム状又はシート状に加工する方法としては、例えば、押し出し成形法、カレンダー成形法、圧縮成形法、射出成形法、及び上記樹脂を溶剤に溶解させてキャスティングする方法などが挙げられる。なお、上記基材1に用いる材料には、酸化防止剤、難燃剤、耐熱防止剤、紫外線吸収剤、易滑剤、帯電防止剤などの添加剤が添加されていてもよい。また、上記基材として、耐熱性、柔軟性のバランスが良好なポリエステル系フィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレートフィルムがより好ましい。また、基材の一方又は両方の主面には、基材上に設けられる層との密着性を向上させる目的で、プライマー層を設けてもよい。
【0040】
上記基材の厚みは素材により異なるが、通常10〜500μmであればよく、ポリエステルフィルムを用いる場合には、35〜260μmが好ましく、50〜200μmがより好ましい。上記基材の厚みが薄い場合には、ハンドリング性が不良となる。一方、上記基材の厚みが厚い場合にはコスト面で問題があるだけでなく、ロール状に巻き取って保存した場合に巻き癖による平面性不良が発生しやすくなる。
【0041】
〈反射防止層〉
本発明の反射防止フィルムの一実施形態において、反射防止層は、基材の一方の主面側に基材側から順番に積層形成されたハードコート層と低屈折率層を含む。
【0042】
≪ハードコート層≫
ハードコート層は、上記のコーティング組成物を用いて形成する。基材上にハードコート層を形成する方法は、ウェットコーティング法であればよく、特に限定されないが、例えば上記のコーティング組成物をウェットコーティング法により、基材の一方の主面側に塗布することにより形成できる。塗布方法は特に制限されず、例えば、リバースロールコート、ロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、スピンコート、リバースコート、グラビアコートなどの塗工法、グラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷などの印刷法を用いることができる。
【0043】
また、ハードコート層の膜厚は、特に限定されないが、0.2〜10μmであることが好ましく、0.9〜3μmであることがより好ましく、0.9〜2μmであることが特に好ましい。上記ハードコート層の膜厚が0.2μmより小さいと耐擦過性に劣る傾向かあり、また、10μmより大きいとコスト面で問題があるだけでなく、クラック又はカール(フィルムの反り)が生じやすくなる。
【0044】
また、ハードコート層は、屈折率が好ましくは1.45〜1.75、より好ましくは1.50〜1.70である。なお、ハードコート層の屈折率nとその膜厚dとの積(光学厚さ)は、435〜14000nmが好ましく、870〜8750nmがより好ましい。
【0045】
上記の粘度Aが1〜20mPa・sであり、チキソトロピー係数A/Bが1.001〜1.400である本発明のコーティング組成物を用いてハードコート層を形成することにより、干渉ムラが少ない反射防止フィルムを得ることができる。
【0046】
≪低屈折率層≫
本実施形態のように反射防止層がハードコート層と低屈折率層からなる2層構造の場合、低屈折率層は、屈折率が1.30〜1.50であることが好ましい。低屈折率層の屈折率nと膜厚dの積である光学膜厚がnd=λ/4となるように設計すると、反射率がより低くなるので、膜厚は80〜150nmであることが好ましい。
【0047】
低屈折率層形成用材料としては、上記のコーティング組成物を用いる。その場合、屈折率を1.30〜1.50に調整するため、無機粒子として、屈折率が低い無機粒子、例えばシリカ粒子や中空シリカ粒子などの金属酸化物粒子を用いることが好ましい。或いはフッ素系樹脂などを添加してもよい。中でも、屈折率と膜の凝集力という観点から、中空シリカ粒子を用いることが好ましい。また、中空シリカ粒子の一次粒子径は、低屈折率の膜厚が80nmから150nmになるように設計されるので、80nm以下が好ましく、60nm以下がより好ましい。
【0048】
また、中空シリカ粒子の空隙率は30%を超え50%以下であることが好ましい。中空シリカ粒子の空隙率が30%を超え50%以下であることにより、反射防止効果が十分得られる。また、中空シリカ粒子の合成時に無機酸化物としての硬度を維持することもできる。ここで、「空隙率」とは、総体積に対する空隙部分の体積の比をいう。
【0049】
また、上記コーティング組成物における中空シリカ粒子の配合割合は、低屈折率層の屈折率が1.30〜1.50の範囲になるように、かつ上記の粘度要件を満たすように配合されればよく、特に限定されないが、樹脂と中空シリカ粒子の全体重量を100重量部とした場合、30〜75重量部であることが好ましい。
【0050】
また、反射防止フィルムの低屈折率層がディスプレイの最表面に位置する場合は、強度と防汚性の観点から、シリコーン系、フッ素系の添加剤、例えば(メタ)アクリロイル基を有するポリジメチルシロキサンを上記の屈折率を変化させない程度に、かつ上記の粘度要件を満たす範囲内においてコーティング組成物に添加してもよい。さらに、(メタ)アクリロイル基を有するポリジメチルシロキサンの分子量は、500〜10000の範囲にあることが好ましい。分子量が500より小さくなるとジメチルシロキサン部位が短くなるため、防汚性の効果を満たせず、分子量が10000より大きくなると溶剤への溶解性が極端に悪くなり、ハジキなどの欠陥が多発して外観上の不良が発生する。
【0051】
ハードコート層上に低屈折率層を形成する方法は、ウェットコーティング法であればよく、特に限定されないが、例えば上記のコーティング組成物をウェットコーティング法により、ハードコート層上に塗布することにより形成できる。塗布方法も特に限定されず、例えば上記の基材上にハードコート層を形成する方法と同様の方法を用いることができる。
【0052】
また、反射防止フィルムの他の一実施形態において、反射防止層は、ハードコート層と、ハードコート層上に順次積層形成された屈折率が異なる層を複層含んでもよい。具体的には、ハードコート層、ハードコート層上に順次積層形成された高屈折率層及び低屈折率層を含む3層構造や、ハードコート層、ハードコート層上に順次積層形成された中屈折率層、高屈折率層及び低屈折率層を含む4層構造の反射防止層などが挙げられる。
【0053】
上記において、中屈折率層は、屈折率が1.53〜1.65、より好ましくは1.57〜1.63であり、その材料が透光性を有していればよく特に限定されないが、上記のコーティング組成物を用いることが好ましい。なお、中屈折率層の屈折率nとその膜厚dとの積(光学厚さ)は、110〜163nmの範囲が好ましく、125〜150nmの範囲がより好ましい。
【0054】
上記において、高屈折率層は、屈折率が1.70〜1.95、より好ましくは1.76〜1.84であり、その材料が透光性を有していれば特に限定されないが、上記のコーティング組成物を用いることが好ましく、無機粒子として屈折率が最も高い酸化チタン粒子を含むコーティング組成物を用いることがより好ましい。なお、高屈折率層の屈折率nとその厚さdとの積nd(光学厚さ)は225nm〜325nmの範囲が好ましく、250〜300nmの範囲がより好ましい。
【0055】
さらに、他の一実施形態において、本発明の反射防止フィルムは、基材の反射防止層を形成した主面とは反対側であるもう一方の主面側に、従来公知の材料及び方法により近赤外線吸収層をさらに形成することができる。これにより、本実施形態の光学フィルムをPDPの表面に配置すれば、プラズマ放電を起こした際に放出される不要な近赤外線が遮断され、周辺の電子部品を用いる機器に悪影響を与えることがなく、特にテレビやエアコンなどのリモコンの誤動作を生じさせるといった問題が解消できる。また、一枚の基材に近赤外線吸収層と反射防止層とを一体化して複合化することにより、プラズマディスプレイの前面板に貼り合わせる部材を削減することができる。
【0056】
本発明において、反射防止フィルムの視感度反射率は0.05%〜3.0%であることが好ましく、0.05〜2.0%であることがより好ましい。視感度反射率が1.5%以下であれば、優れた反射防止機能を発揮し得る。
【実施例】
【0057】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。実施例中の「部」は「重量部」を示す。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
先ず、実施例において用いた測定方法及び評価方法を説明する。
【0059】
<粘度>
25℃において、回転式粘度計PhysicaMCR301型(アントンパール社製)を用い、せん断速度を1×10sec-1から1×103sec-1まで増加させながら、コーティング組成物の粘度フローカーブを測定し、粘度A、粘度B及びチキソトロピー係数A/Bを算出した。
【0060】
<フィルムの外観品質>
3波長蛍光灯下にて、反射防止フィルムの外観品質を、目視観察した。判定は以下のように評価し、B以上を合格とした。
A:干渉ムラがない
B:干渉ムラがわずかに発生するが、実用上は問題がない
C:干渉ムラが部分的に発生している
D:干渉ムラが全面に発生している
【0061】
<視感度反射率>
反射防止フィルムの基材の反射防止層が形成された一方の主面側とは反対側であるもう一方の主面側を黒の油性フェルトペンで黒く塗りつぶしてから、分光光度計“Ubest V−570型”(日本分光社製)を用いて、反射防止層が形成された主面側を入射光側として、視感度反射率を測定した。
【0062】
次に、コーティング組成物について説明する。
【0063】
<コーティング組成物A>
先ず、以下の組成の混合物を、液の攪拌分散用の直径0.3mmのジルコニアビーズを用いて、ペイントコンディショナー(東洋精機社製)により2時間分散し、0.2mmの金属メッシュにて分散用ビーズを除いた後、遠心分離機により14000Gの条件にて30分間分級処理を行い、粗大粒子を除去した後、その上澄みを採取して分散液Aを得た。
(1)“PCS60”(日本電工社製の酸化ジルコニウム粒子、一次粒子経15nm、比表面積65m2/g) 11.5部
(2)“SN100P”(石原産業社製の導電性酸化物粒子、アンチモンドープ酸化スズ、一次粒子径20nm) 14.0部
(3)“BYK180”(ビックケミー・ジャパン社製の分散剤) 2.0部
(4)イソブチルアルコール 72.5部。
【0064】
次に、上記分散液Aと以下の組成をビーカーに計り取り、マグネチックスターラーにより60分間攪拌した後、グラスファイバー製のろ紙“GFP”(桐山製作所製、捕捉粒子の粒子経0.8μm以上)を用いて吸引ろ過を行い、屈折率1.64のコーティング組成物Aを調製した。なお、ここで、屈折率は、塗料の屈折率でなく乾燥硬化後の塗膜の屈折率を示す。以下においても同様である。
(1)分散液A 79.8部
(2)“アロニックスM400”(東亞合成社製の電離放射線硬化型樹脂、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート) 5.0部
(3)“ライトアクリレートPE−3A”(共栄社化学社製の電離放射線硬化型樹脂、ペンタエリスリトールトリアクリレート) 2.2部
(4)“IRGACURE184”(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の光重合開始剤) 0.7部
(5)シクロヘキサノン 12.3部。
【0065】
<コーティング組成物B>
以下の組成をビーカーに計り取り、マグネチックスターラーにより60分間攪拌したグラスファイバー製のろ紙“GFP”(桐山製作所製、捕捉粒子の粒子経0.8μm以上)を用いて吸引ろ過を行い、屈折率1.58のコーティング組成物Bを調製した。
(1)“セルナックスCX−Z210IP−F2”(日産化学工業社製のアンチモン酸亜鉛粒子、固形分20重量%のイソプロピルアルコールゾル、一次粒子径20nm) 22.5部
(2)“ライトアクリレートPE−4A”(共栄社化学社製の電離放射線硬化型樹脂、ペンタエリスリトールテトラアクリレート) 25.5部
(3)“IRGACURE184”(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の光重合開始剤) 2.0部
(4)メチルエチルケトン 50.0部。
【0066】
<コーティング組成物C>
メチルエチルケトンを30.0部にし、“UA−510H”(共栄社化学社製の電離放射線硬化型樹脂、10官能ウレタンアクリレート)を20.0部追加した以外は、コーティング組成物Bと同様にして、屈折率1.56のコーティング組成物Cを得た。
【0067】
<コーティング組成物D>
以下の組成をビーカーに計り取り、マグネチックスターラーにより60分間攪拌した後、グラスファイバー製のろ紙“GFP”(桐山製作所製、捕捉粒子の粒子経0.8μm以上)を用いて吸引ろ過を行い、屈折率1.40のコーティング組成物Dを調製した。
(1)中空シリカ粒子含有イソプロピルアルコール分散液(触媒化成工業社製、固形分20重量%、一次粒子径60nm) 7.5部
(2)“アロニックスM400”(東亞合成社製の電離放射線硬化型樹脂、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート) 0.5部
(3)“ライトアクリレートPE−3A”(共栄社化学社製の電離放射線硬化型樹脂、ペンタエリスリトールトリアクリレート) 0.5部
(4)“IRGACURE907”(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の光重合開始剤) 0.1部
(5)“X22−174DX”(信越化学工業社製のメタクリル変性シリコーンオイル) 0.02部
(6)イソプロピルアルコール 81.38部
(7)エチレングリコールモノブチルエーテル 10.0部。
【0068】
<コーティング組成物E>
中空シリカ粒子含有イソプロピルアルコール分散液を50.0部に、ライトアクリレートPE−3Aを7.5部に、イソプロピルアルコールを31.88部にした以外は、コーティング組成物Dと同様にして、屈折率1.41のコーティング組成物Eを得た。
【0069】
<コーティング組成物F>
中空シリカ粒子含有イソプロピルアルコール分散液を75.0部に、ライトアクリレートPE−3Aを10.5部に、イソプロピルアルコールを3.88部にした以外は、コーティング組成物Dと同様にして、屈折率1.47のコーティング組成物Fを得た。
【0070】
<コーティング組成物G>
メチルエチルケトン10部にし、“KAYARAD DPHA”(日本化薬社製の電離放射線硬化型樹脂、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)を20.0部とシクロヘキサノンを20.0部追加した以外は、コーティング組成物Bと同様にして、屈折率1.55のコーティング組成物Gを得た。
【0071】
<コーティング組成物H>
中空シリカ粒子含有イソプロピルアルコール分散液を60.0部に、ライトアクリレートPE−3Aを8.5部に、イソプロピルアルコールを8.88部に、エチレングリコールモノブチルエーテルを22.0部にした以外は、コーティング組成物Dと同様にして、屈折率1.40のコーティング組成物Hを得た。
【0072】
<コーティング組成物I>
分散液Aにおいて、イソブチルアルコール72.5部の代わりに、72.5部のメチルエチルケトンを用いた以外は、コーティング組成物Aと同様にして、屈折率1.61のコーティング組成物Iを得た。
【0073】
<コーティング組成物J>
中空シリカ粒子含有イソプロピルアルコール分散液を50.0部に、“アロニックスM400”を5.0部に、“ライトアクリレートPE−3A”を5.0部に、イソプロピルアルコールを9.88部に、エチレングリコールモノブチルエーテルを30.0部にしたこと以外は、コーティング組成物Dと同様にして、屈折率1.44のコーティング組成物Jを得た。
【0074】
<コーティング組成物K>
分散液Aにおいて、“BYK180”を0.5部し、イソブチルアルコールを74.0部にしたこと以外は、コーティング組成物Aと同様にして、屈折率1.62のコーティング組成物Kを得た。
【0075】
<コーティング組成物L>
イソプロピルアルコール81.38部の代わりに、メチルエチルケトンを81.38部加えた以外は、コーティング組成物Dと同様にして、屈折率1.42のコーティング組成物Lを得た。
【0076】
コーティング組成物A〜Lの屈折率、粘度A、粘度B及びチキソトロピー係数A/Bを下記表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
次に、上記のコーティング組成物を用いてハードコート層及び低屈折率層を形成した。
【0079】
(実施例1)
<基材>
基材として、基材上の一方の主面のみにシリカ粒子含有ポリエステル系樹脂からなるプライマー層が形成されている、厚さ100μmの紫外線カット性ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(屈折率1.65、全光線透過率:92.0%)を準備した(以下、基材Aと記す。)。
【0080】
<ハードコート層の形成>
基材Aのプライマー層の設けられていない主面側に、放電量171.4W・min/m2のコロナ放電処理を施した。次に、コーティング組成物Aをマイクログラビアコータ(康井精機社製)を用い、上記のコロナ放電処理を施した基材Aのプライマー層の設けられていない主面側に塗布した後、乾燥させた。続いて、大気下で塗膜に紫外線を700mJ/cm2の積算光量で照射し、塗膜を硬化させ、厚さ1.4μmのハードコート層を形成した。
【0081】
(実施例2)
先ず、実施例1と同様にして基材A上のプライマー層の設けられていない主面側にハードコート層を形成した。
【0082】
<低屈折率層の形成>
次に、ハードコート層上に、コーティング組成物Dを上記マイクログラビアコータを用いて塗布して乾燥させた。その後、窒素パージ下で塗膜に紫外線を700mJ/cm2の積算光量で照射し、塗膜を硬化させて厚さ107nmの低屈折率層を形成し、反射防止フィルムを得た。
【0083】
(実施例3)
<基材>
基材として、一方の主面にシリカ粒子含有ポリエステル系樹脂からなる第一プライマー層が形成され、他方の主面にシリカ粒子含有アクリル系樹脂からなる第二プライマー層が形成されている、厚さ100μmの紫外線カット性ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(屈折率:1.58、全光線透過率:92.4%)を準備した(以下、基材Bと記す。)。
【0084】
<ハードコート層の形成>
基材Bの第一プライマー層が設けられている主面側に、放電量171.4W・min/m2のコロナ放電処理を施した。次に、コーティング組成物Bを上記マイクログラビアコータを用い、上記のコロナ放電処理を施した基材Bの第一プライマー層が設けられている主面側に塗布した後、乾燥させた。続いて、大気下で塗膜に紫外線を700mJ/cm2の積算光量で照射し、塗膜を硬化させ、厚さ2.8μmのハードコート層を形成した。
【0085】
(実施例4)
先ず、実施例3と同様にして基材B上の第一プライマー層が設けられている主面側にハードコート層を形成した。
【0086】
<低屈折率層の形成>
次に、ハードコート層上に、コーティング組成物Eを上記マイクログラビアコータを用いて塗布して乾燥させた。その後、窒素パージ下で塗膜に紫外線を700mJ/cm2の積算光量で照射し、塗膜を硬化させて厚さ107nmの低屈折率層を形成し、反射防止フィルムを得た。
【0087】
(実施例5)
基材として、上記の基材Bを用いた。
【0088】
<ハードコート層の形成>
基材Bの第1プライマー層が設けられている主面側に、放電量171.4W・min/m2のコロナ放電処理を施した。次に、コーティング組成物Gを上記のマイクログラビアコータを用い、上記のコロナ放電処理を施した基材Bの第一プライマー層が設けられている主面側に塗布した後、乾燥させた。続いて、大気下で塗膜に紫外線を700mJ/cm2の積算光量で照射し、塗膜を硬化させ、厚さ2.8μmのハードコート層を形成した。
【0089】
(実施例6)
先ず、実施例5と同様にして、基材B上の第一プライマー層が設けられている主面側にハードコート層を形成した。
【0090】
<低屈折率層の形成>
次に、ハードコート層上に、コーティング組成物Hを上記マイクログラビアコータを用いて塗布して乾燥させた。その後、窒素パージ下で塗膜に紫外線を700mJ/cm2の積算光量で照射し、塗膜を硬化させて厚さ107nmの低屈折率層を形成し、反射防止フィルムを得た。
【0091】
(比較例1)
基材として、上記の基材Bを用いた。
【0092】
<ハードコート層の形成>
基材Bの第1プライマー層が設けられている主面側に、放電量171.4W・min/m2のコロナ放電処理を施した。次に、コーティング組成物Cを上記のマイクログラビアコータを用い、上記のコロナ放電処理を施した基材Bの第一プライマー層が設けられている主面側に塗布した後、乾燥させた。続いて、大気下で塗膜に紫外線を700mJ/cm2の積算光量で照射し、塗膜を硬化させ、厚さ2.8μmのハードコート層を形成した。
【0093】
(比較例2)
先ず、比較例1と同様にして、基材B上の第一プライマー層が設けられている主面側にハードコート層を形成した。
【0094】
<低屈折率層の形成>
次に、ハードコート層上に、コーティング組成物Fを上記マイクログラビアコータを用いて塗布して乾燥させた。その後、窒素パージ下で塗膜に紫外線を700mJ/cm2の積算光量で照射し、塗膜を硬化させて厚さ107nmの低屈折率層を形成し、反射防止フィルムを得た。
【0095】
(比較例3)
基材として、上記の基材Aを用いた。
【0096】
<ハードコート層の形成>
基材Aのプライマー層の設けられていない主面側に、放電量171.4W・min/m2のコロナ放電処理を施した。次に、コーティング組成物Iをマイクログラビアコータ(社康井精機製)を用い、上記のコロナ放電処理を施した基材Aのプライマー層の設けられていない主面側に塗布した後、乾燥させた。続いて、大気下で塗膜に紫外線を700mJ/cm2の積算光量で照射し、塗膜を硬化させて厚さ1.4μmのハードコート層を形成した。
【0097】
(比較例4)
先ず、比較例3と同様にして基材A上のプライマー層の設けられていない主面側にハードコート層を形成した。
【0098】
<低屈折率層の形成>
次に、ハードコート層上に、コーティング組成物Jを上記マイクログラビアコータを用いて塗布して乾燥させた。その後、窒素パージ下で塗膜に紫外線を700mJ/cm2の積算光量で照射し、塗膜を硬化させて厚さ107nmの低屈折率層を形成し、反射防止フィルムを得た。
【0099】
(比較例5)
基材として、上記の基材Aを用いた。
【0100】
<ハードコート層の形成>
基材Aのプライマー層の設けられていない主面側に、放電量171.4W・min/m2のコロナ放電処理を施した。次に、コーティング組成物Kをマイクログラビアコータ(康井精機社製)を用い、上記のコロナ放電処理を施した基材Aのプライマー層の設けられていない主面側に塗布した後、乾燥させた。続いて、大気下で塗膜に紫外線を700mJ/cm2の積算光量で照射し、塗膜を硬化させて厚さ1.4μmのハードコート層を形成した。
【0101】
(比較例6)
先ず、比較例5と同様にして基材A上のプライマー層の設けられていない主面側にハードコート層を形成した。
【0102】
<低屈折率層の形成>
次に、ハードコート層上に、コーティング組成物Lを上記マイクログラビアコータを用いて塗布して乾燥させた。その後、窒素パージ下で塗膜に紫外線を700mJ/cm2の積算光量で照射し、塗膜を硬化させて厚さ107nmの低屈折率層を形成し、比較例6の反射防止フィルムを得た。
【0103】
実施例1、3、5及び比較例1、3、5のハードコート層の外観品質及び視感度反射率、並びに実施例2、4、6及び比較例2、4、6の反射防止フィルムの外観品質及び視感度反射率を上記のとおり評価又は測定し、その結果を下記表2に示した。なお、表2には、実施例1〜6及び比較例1〜6のハードコート層、低屈折率層を形成したコーティング組成物の種類、粘度A、粘度B、チキソトロピー係数A/Bも併せて示した。
【0104】
【表2】

【0105】
図1に、実施例1及び3において、ハードコート層の形成に用いたコーティング組成物A及びBの粘度フローカーブを、それぞれ示した。また、図2に、実施例2及び4において、低屈折率層の形成に用いたコーティング組成物D及びEの粘度フローカーブを、それぞれ示した。
【0106】
上記表2に示しているように、粘度Aが1〜20mPa・sであり、チキソトロピー係数A/Bが1.001〜1.400であるコーティング組成物を用いた実施例1〜6においては、干渉ムラが少ない優れた外観品質を有するハードコート層及び/又は低屈折率層が得られていた。また、チキソトロピー係数A/Bが1.001〜1.400であるコーティング組成物を用いてハードコート層及び低屈折率層を形成した実施例2、4及び6においては、干渉ムラが少ないといった外観品質と、優れた反射防止特性が両立した反射防止フィルムが得られていた。
【0107】
一方、チキソトロピー係数A/Bが1.400を超えるコーティング組成物を用いた比較例1では、ハードコート層の表面に干渉ムラが発生していた。また、チキソトロピー係数A/Bが1.400を超えるコーティング組成物を用いて低屈折率層を形成した比較例2では、低屈折率層の表面に干渉ムラが発生していた。また、粘度Aが1mPa・s未満であるコーティング組成物を用いてハードコート層を形成した比較例3では、ハードコート層の表面に干渉ムラが発生していた。また、粘度Aが20mPa・sを超えるコーティング組成物を用いて低屈折率層を形成した比較例4では、低屈折率層の表面に干渉ムラが発生していた。また、チキソトロピー係数A/Bが1.001未満であるコーティング組成物を用いた比較例5では、ハードコート層の表面に干渉ムラが発生していた。また、チキソトロピー係数A/Bが1.001未満であるコーティング組成物を用いて低屈折率層を形成した比較例6では、低屈折率層の表面に干渉ムラが発生していた。
【0108】
そして、表2の実施例2、4及び6、並びに比較例2、4及び6のデータの比較から、チキソトロピー係数A/Bが1.001〜1.400であるコーティング組成物を用いてハードコート層及び低屈折率層を形成した実施例2、4及び6の反射防止フィルムは、外観品質及び視感度反射率(反射防止特性)のいずれも、比較例2、4及び6の反射防止フィルムより優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明のコーティング組成物を用いた反射防止フィルムは、干渉ムラが少ないといった外観品質と、優れた反射防止特性が両立しており、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイパネル(PDP)などに代表される高精細かつ大画面ディスプレイの反射防止フィルムとして応用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子と樹脂とを含有するコーティング組成物であり、回転式粘度計を用いてせん断速度を増加させる粘度測定により測定した、前記コーティング組成物の25℃におけるせん断速度1×10sec-1での粘度をA、せん断速度1×103sec-1での粘度をBとした場合、粘度Aが1〜20mPa・sであり、チキソトロピー係数A/Bが1.001〜1.400であることを特徴とするコーティング組成物。
【請求項2】
さらに、有機溶媒を含有する請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記樹脂が、電離放射線硬化型樹脂である請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記無機粒子が、金属酸化物粒子である請求項1〜3のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
前記金属酸化物粒子が、少なくとも導電性酸化物粒子を含む請求項4に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
前記金属酸化物粒子が、中空シリカ粒子である請求項4に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
反射防止層の形成に用いる請求項1〜6のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のコーティング組成物を用いて形成される反射防止層を含む反射防止フィルム。
【請求項9】
前記反射防止層が、基材の一方の主面側に基材側から順番に積層形成されたハードコート層と低屈折率層を含む請求項8に記載の反射防止フィルム。
【請求項10】
基材と前記基材の一方の主面側に形成された反射防止層を含む反射防止フィルムの製造方法であって、
前記反射防止層は、コーティング組成物を前記基材の一方の主面側に塗布することにより形成され、
前記コーティング組成物は無機粒子と樹脂とを含有し、回転式粘度計を用いてせん断速度を増加させる粘度測定により測定した、前記コーティング組成物の25℃におけるせん断速度1×10sec-1での粘度をA、せん断速度1×103sec-1での粘度をBとした場合、粘度Aが1〜20mPa・sであり、チキソトロピー係数A/Bが1.001〜1.400であることを特徴とする反射防止フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−181801(P2010−181801A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27457(P2009−27457)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】