説明

コールドスプレー用粉末及び皮膜形成方法

【課題】実用に足るレベルの耐摩耗性を備えたWC系サーメット皮膜を効率よく形成するのに適したコールドスプレー用粉末、及びそのコールドスプレー用粉末を用いた皮膜形成方法を提供する。
【解決手段】本発明のコールドスプレー用粉末は造粒−焼結サーメット粒子を含有する。造粒−焼結サーメット粒子は、86〜96質量%の炭化タングステンを含有し、残部がコバルト、ニッケル及びクロムなどの金属からなる。造粒−焼結サーメット粒子を構成する炭化タングステン一次粒子のフィッシャー径は0.05〜1μmであり、造粒−焼結サーメット粒子の平均粒子径は5〜20μmである。造粒−焼結サーメット粒子の圧壊強度は50〜400MPaであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コールドスプレー用粉末及びそのコールドスプレー用粉末を用いた皮膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼フレームやプラズマジェットなどを熱源として金属、セラミックス、サーメットなどを基材に吹き付けて皮膜を形成する溶射は表面改質法の一種として広く知られている。溶射法では一般に、融点又は軟化温度以上にまで加熱された皮膜材料が基材に吹き付けられるため、基材の材質や形状によっては基材の熱変質や変形が起こることがある。そのため、溶射ではあらゆる材質及び形状の基材に対して皮膜を形成することができるわけではなく、基材の材質及び形状が制限されるという欠点がある。
【0003】
このような溶射の欠点を解消する新たな溶射プロセスとしてコールドスプレーが近年注目されている(例えば、特許文献1参照)。コールドスプレー法は、皮膜材料の融点又は軟化温度よりも低い温度に加熱したヘリウムガスなどの作動ガスを超音速にまで加速し、その加速した作動ガスにより皮膜材料を固相のまま高速で基材に衝突させることにより皮膜を形成する技術である。
【0004】
従来、WC(炭化タングステン)系サーメット溶射皮膜が耐摩耗性に優れることが知られている。しかしながら、実用に足るレベルの耐摩耗性を備えたWC系サーメット皮膜をコールドスプレー法により効率よく得ることはまだできていないのが現状である。
【特許文献1】米国特許第6502767号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、実用に足るレベルの耐摩耗性を備えたWC系サーメット皮膜を効率よく形成するのに適したコールドスプレー用粉末を提供すること、及びそのコールドスプレー用粉末を用いた皮膜形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、86〜96質量%の炭化タングステンを含有し残部が金属からなる造粒−焼結サーメット粒子を含有するコールドスプレー用粉末であって、前記造粒−焼結サーメット粒子を構成する炭化タングステン一次粒子のフィッシャー径が0.05〜1μmであり、前記造粒−焼結サーメット粒子の平均粒子径が5〜20μmであるコールドスプレー用粉末を提供する。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記金属がコバルト、ニッケル及びクロムのいずれか一種を含む請求項1に記載のコールドスプレー用粉末を提供する。
請求項3に記載の発明は、前記造粒−焼結サーメット粒子の圧壊強度が50〜400MPaである請求項1又は2に記載のコールドスプレー用粉末を提供する。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のコールドスプレー用粉末をコールドスプレーして皮膜を形成する皮膜形成方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、実用に足るレベルの耐摩耗性を備えたWC系サーメット皮膜を効率よく形成するのに適したコールドスプレー用粉末、及びそのコールドスプレー用粉末を用いた皮膜形成方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態のコールドスプレー用粉末は炭化タングステンと金属のサーメット粒子からなる。前記サーメット粒子は86〜96質量%の炭化タングステンを含有し、残部が金属からなる。換言すれば、前記サーメット粒子は86〜96質量%の炭化タングステンと5〜14質量%の金属からなる。
【0011】
前記金属は、コバルト、ニッケル及びクロムのいずれか一種を含むことが好ましい。すなわち、前記金属は、コバルト、ニッケル又はクロムの単体、あるいは例えばコバルト−クロム合金のようなコバルト、ニッケル及びクロムの少なくともいずれか一種を含む合金でることが好ましい。ただし、コールドスプレー用粉末から得られる皮膜の靭性の向上という観点からすると、コバルト、ニッケル及びクロムの少なくともいずれか一種を含む合金がクロムを含有する場合、同合金中のクロムの含有量は50質量%以下であることが好ましい。
【0012】
前記サーメット粒子は造粒−焼結粒子であることが好ましい。すなわち、本実施形態のコールドスプレー用粉末は、造粒−焼結サーメット粒子からなることが好ましい。造粒−焼結粒子は、溶融−粉砕粒子及び焼結−粉砕粒子に比べて、流動性が良好である点及び製造時の不純物の混入が少ない点で有利である。造粒−焼結粒子は、例えば、炭化タングステンの粉末及び金属の粉末からなる原料粉末を造粒及び焼結した後に解砕し、必要に応じてさらに分級して作製される。溶融−粉砕粒子は、原料粉末を溶融して冷却凝固させた後に粉砕し、必要に応じてさらに分級して作製される。焼結−粉砕粒子は、原料粉末を焼結及び粉砕し、必要に応じてさらに分級して作製される。
【0013】
前記サーメット粒子中の炭化タングステンの含有量は86質量%以上であること(換言すれば、サーメット粒子中の金属の含有量は14質量%以下であること)が必須である。炭化タングステンは金属に比べて耐摩耗性が高いため、炭化タングステンの含有量が多くなるにつれて(すなわち、金属の含有量が少なくなるにつれて)、コールドスプレー用粉末から得られる皮膜の耐摩耗性は向上する。この点、前記サーメット粒子中の炭化タングステンの含有量が86質量%以上であれば、実用に足るレベルの耐摩耗性を備えた皮膜をコールドスプレー用粉末から得ることができる。皮膜の耐摩耗性をさらに向上させるためには、サーメット粒子中の炭化タングステンの含有量は87質量%以上であることが好ましく、より好ましくは88質量%以上である。換言すれば、サーメット粒子中の金属の含有量は13質量%以下であることが好ましく、より好ましくは12質量%以下である。
【0014】
また、前記サーメット粒子中の炭化タングステンの含有量は96質量%以下であること(換言すれば、サーメット粒子中の金属の含有量は4質量%以上であること)も必須である。炭化タングステンに比べて金属は硬度が低いため、炭化タングステンの含有量が少なくなるにつれて(すなわち、金属の含有量が多くなるにつれて)、基材との衝突によってサーメット粒子が基材上に密着しやすくなり、コールドスプレー用粉末から皮膜を形成する際の成膜効率が向上する。また、炭化タングステンの含有量が少なくなるにつれて、コールドスプレー用粉末から得られる皮膜において炭化タングステンを保持する役割をする金属が充足するために皮膜の靭性が向上し、その結果、皮膜の耐摩耗性は向上する。この点、前記サーメット粒子中の炭化タングステンの含有量が96質量%以下であれば、実用に適した成膜効率でコールドスプレー用粉末から皮膜を得ることができるとともに、実用に足るレベルの耐摩耗性を備えた皮膜をコールドスプレー用粉末から得ることができる。成膜効率及び皮膜の耐摩耗性をさらに向上させるためには、サーメット粒子中の炭化タングステンの含有量は95質量%以下であることが好ましく、より好ましくは94質量%以下である。換言すれば、サーメット粒子中の金属の含有量は5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは6質量%以上である。
【0015】
前記サーメット粒子を構成する炭化タングステン一次粒子のフィッシャー径は0.05μm以上であることが必須である。炭化タングステン一次粒子のフィッシャー径が大きくなるにつれて、コールドスプレー用粉末から得られる皮膜において炭化タングステンに対する金属の接触面積が増加して金属による炭化タングステンの保持が強まるために皮膜の靭性が向上し、その結果、皮膜の耐摩耗性は向上する。この点、炭化タングステン一次粒子のフィッシャー径が0.05μm以上であれば、実用に足るレベルの耐摩耗性を備えた皮膜をコールドスプレー用粉末から得ることができる。皮膜の耐摩耗性をさらに向上させるためには、炭化タングステン一次粒子のフィッシャー径は0.1μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.15μm以上である。
【0016】
また、前記サーメット粒子を構成する炭化タングステン一次粒子のフィッシャー径は1μm以下であることも必須である。炭化タングステン一次粒子のフィッシャー径が小さくなるにつれて、基材との衝突時の圧力で炭化タングステン一次粒子が扁平に塑性変形して基材上に密着しやすくなるため、コールドスプレー用粉末から皮膜を形成する際の成膜効率が向上する。この点、炭化タングステン一次粒子のフィッシャー径が1μm以下であれば、実用に適した成膜効率でコールドスプレー用粉末から皮膜を得ることができる。成膜効率をさらに向上させるためには、炭化タングステン一次粒子のフィッシャー径は0.8μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.6μm以下である。
【0017】
前記サーメット粒子の平均粒子径は5μm以上であることが必須である。サーメット粒子の平均粒子径が大きくなるにつれて、作動ガスにより加速されたコールドスプレー用粉末が基材の近傍で減速しにくくなる。そのため、コールドスプレー用粉末から皮膜を形成する際の成膜効率が向上する。その上、コールドスプレー用粉末から得られる皮膜の緻密度が向上し、その結果、皮膜の耐摩耗性が向上する。また、サーメット粒子の平均粒子径が大きくなるにつれて、コールドスプレー用粉末の流動性が向上し、粉末供給機からコールドスプレー装置へのコールドスプレー用粉末の送給が安定化する。コールドスプレー用粉末の送給の安定化は、均一な膜厚及び組織構造の皮膜をコールドスプレー用粉末から得ようとする場合に重要であり、膜厚及び組織構造が均一であるほど皮膜の耐摩耗性は向上する。この点、サーメット粒子の平均粒子径が5μm以上であれば、実用に適した成膜効率でコールドスプレー用粉末から皮膜を得ることができるとともに、実用に足るレベルの耐摩耗性を備えた皮膜をコールドスプレー用粉末から得ることができる。成膜効率及び皮膜の耐摩耗性をさらに向上させるためには、サーメット粒子の平均粒子径は7μm以上であることが好ましく、より好ましくは8μm以上である。
【0018】
また、前記サーメット粒子の平均粒子径は20μm以下であることも必須である。サーメット粒子の平均粒子径が小さくなるにつれて、作動ガスによりコールドスプレー用粉末を加速しやすくなる。そのため、コールドスプレー用粉末から皮膜を形成する際の成膜効率が向上する。その上、コールドスプレー用粉末から得られる皮膜の緻密度が向上し、その結果、皮膜の耐摩耗性が向上する。この点、サーメット粒子の平均粒子径が20μm以下であれば、実用に適した成膜効率でコールドスプレー用粉末から皮膜を得ることができるとともに、実用に足るレベルの耐摩耗性を備えた皮膜をコールドスプレー用粉末から得ることができる。成膜効率及び皮膜の耐摩耗性をさらに向上させるためには、サーメット粒子の平均粒子径は18μm以下であることが好ましく、より好ましくは16μm以下である。
【0019】
前記サーメット粒子の圧壊強度は50MPa以上であることが好ましく、より好ましくは60MPa以上、最も好ましくは80MPa以上である。サーメット粒子の圧壊強度が大きくなるにつれて、基材との衝突の前にサーメット粒子が崩壊することが抑制される。基材との衝突の前にサーメット粒子が崩壊すると、作動ガスにより加速されたコールドスプレー用粉末が基材の近傍で減速しやすくなるため、コールドスプレー用粉末から皮膜を形成する際の成膜効率が低下する虞がある。また、コールドスプレー用粉末から得られる皮膜の緻密度が低下し、その結果、皮膜の耐摩耗性が低下する虞もある。この点、サーメット粒子の圧壊強度が50MPa以上、さらに言えば60MPa以上、もっと言えば80MPa以上であれば、実用上特に好適なレベルにまでコールドスプレー用粉末の成膜効率及び皮膜の耐摩耗性を向上させることができる。
【0020】
前記サーメット粒子の圧壊強度は400MPa以下であることが好ましく、より好ましくは370MPa以下、最も好ましくは350MPa以下である。サーメット粒子の圧壊強度が小さくなるにつれて、基材との衝突時にサーメット粒子が確実に崩壊して基材上に密着しやすくなるため、コールドスプレー用粉末から皮膜を形成する際の成膜効率が向上する。この点、サーメット粒子の圧壊強度が400MPa以下、さらに言えば370MPa以下、もっと言えば350MPa以下であれば、実用上特に好適なレベルにまでコールドスプレー用粉末の成膜効率を向上させることができる。
【0021】
前記サーメット粒子の90%粒子径(D90)は30μm以下であることが好ましく、より好ましくは27μm以下、最も好ましくは25μm以下である。サーメット粒子の90%粒子径が30μm以下であるとは、全サーメット粒子の積算体積に対する粒子径30μm未満のサーメット粒子の積算体積の比率が90%を超えることを意味する。粒子径30μm未満のサーメット粒子の積算体積の比率が大きくなるにつれて、コールドスプレー用粉末から得られる皮膜中に含まれる気孔の数が減少、つまり皮膜の緻密度が向上し、その結果、皮膜の耐摩耗性は向上する。この点、粒子径30μm未満のサーメット粒子の積算体積の比率が90%を超えれば、実用上特に好適なレベルにまで皮膜の耐摩耗性を向上させることができる。また、サーメット粒子の90%粒子径が27μm以下、さらに言えば25μm以下であれば、皮膜の耐摩耗性をさらに向上させることができる。
【0022】
前記サーメット粒子の10%粒子径(D10)は3μm以上であることが好ましく、より好ましくは、5μm以上、最も好ましくは6μm以上である。サーメット粒子の10%粒子径が3μm以上であるとは、全サーメット粒子の積算体積に対する粒子径3μm未満のサーメット粒子の積算体積の比率が10%未満であることを意味する。粒子径3μm未満のサーメット粒子の積算体積の比率が小さくなるにつれて、コールドスプレー用粉末の流動性が向上し、粉末供給機からコールドスプレー装置へのコールドスプレー用粉末の送給が安定化するため、コールドスプレー用粉末から耐摩耗性の高い皮膜を得られやすい。この点、粒子径3μm未満のサーメット粒子の積算体積の比率が10%未満であれば、実用上特に好適なレベルにまで皮膜の耐摩耗性を向上させることができる。また、サーメット粒子の10%粒子径が5μm以上、さらに言えば6μm以上であれば、皮膜の耐摩耗性をさらに向上させることができる。
【0023】
本実施形態のコールドスプレー用粉末はコールドスプレー法により基材上に皮膜を形成する用途で使用される。コールドスプレー法では、ヘリウムガスなどの不活性ガスが作動ガスとして用いられる。作動ガスは、好ましくは0.5〜5MPa、より好ましくは1〜5MPa、最も好ましくは1〜4MPaの圧力でコールドスプレー装置に供給されて、好ましくは100〜800℃、より好ましくは300〜800℃、最も好ましくは450〜800℃にまで加熱される。コールドスプレー用粉末は、10〜100g/分の供給速度でもって好ましくは作動ガスと同軸方向から作動ガスに供給される。スプレー時、コールドスプレー装置のノズル先端から基材までの距離は5〜30mmであることが好ましく、コールドスプレー装置のノズルのトラバース速度は5〜200mm/秒であることが好ましい。
【0024】
本実施形態のコールドスプレー用粉末から得られる皮膜の厚さは50〜2000μmであることが好ましく、より好ましくは100〜2000μm、最も好ましくは100〜1500μmである。
【0025】
本実施形態のコールドスプレー用粉末から得られる皮膜のビッカース硬度は1100〜1800であることが好ましく、より好ましくは1100〜1700、最も好ましくは1200〜1600である。
【0026】
本実施形態によれば以下の利点が得られる。
・ 本実施形態のコールドスプレー用粉末は、86〜96質量%の炭化タングステンを含有し残部が金属からなる造粒−焼結サーメット粒子からなり、サーメット粒子を構成する炭化タングステン一次粒子のフィッシャー径は0.05〜1μmであり、造粒−焼結サーメット粒子の平均粒子径は5〜20μmである。そのため、本実施形態のコールドスプレー用粉末は、実用に足るレベルの耐摩耗性を備えたWC系サーメット皮膜を効率よく形成するのに適する。
【0027】
前記実施形態は次のように変更されてもよい。
・ コールドスプレー用粉末には炭化タングステンと金属のサーメット粒子以外の成分が含まれてもよい。ただし、このサーメット粒子以外の成分の含有量はできるだけ少ないことが好ましい。
【0028】
・ コールドスプレー用粉末中のサーメット粒子には炭化タングステン及び金属以外の成分が含まれてもよい。ただし、この炭化タングステン及び金属以外の成分の含有量はできるだけ少ないことが好ましい。
【0029】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
実施例1〜11及び比較例1〜6のコールドスプレー用粉末として炭化タングステンと金属の造粒−焼結サーメット粒子を用意した。各例のコールドスプレー用粉末の詳細は表1に示すとおりである。
【0030】
表1の“サーメット粒子の組成”欄には、各コールドスプレー用粉末の造粒−焼結サーメット粒子の組成を示す。なお、同欄中の%は質量%を表す。
表1の“WC一次粒子のフィッシャー径”欄には、各コールドスプレー用粉末の造粒−焼結サーメット粒子を構成している炭化タングステン一次粒子のフィッシャー径を測定した結果を示す。フィッシャー径の測定はJIS H2116に準じて行った。すなわち、フィッシャーサブシーブサイザーを用いたフィッシャー法により行った。
【0031】
表1の“サーメット粒子の平均粒子径”欄には、各コールドスプレー用粉末の造粒−焼結サーメット粒子の平均粒子径を測定した結果を示す。平均粒子径の測定には株式会社堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒度測定器“LA−300”を使用した。
【0032】
表1の“サーメット粒子の圧壊強度”欄には、各コールドスプレー用粉末の造粒−焼結サーメット粒子の圧壊強度を測定した結果を示す。具体的には、式:σ=2.8×L/π/dに従って算出される造粒−焼結サーメット粒子の圧壊強度σ[MPa]を示す。上式中、Lは臨界荷重[N]を表し、dは造粒−焼結サーメット粒子の平均粒子径[mm]を表す。臨界荷重は、一定速度で増加する圧縮荷重を圧子で造粒−焼結サーメット粒子に加えたときに、圧子の変位量が急激に増加する時点において造粒−焼結サーメット粒子に加えられた圧縮荷重の大きさである。この臨界荷重の測定には、株式会社島津製作所製の微小圧縮試験装置“MCTE−500”を使用した。
【0033】
実施例1〜11及び比較例1〜6のコールドスプレー用粉末を表2に示すスプレー条件でコールドスプレーして基材上に皮膜を形成した。このときの成膜効率に関して評価した結果を表1の“成膜効率”欄に示す。具体的には、使用したコールドスプレー用粉末の重量に対する得られた皮膜の重量の比率が12%以上である場合には◎(優)、9%以上12%未満である場合には○(良)、6%以上9%未満である場合には△(可)、6%未満である場合には×(不良)と評価した。
【0034】
実施例1〜11及び比較例1〜6のコールドスプレー用粉末を表2に示すスプレー条件でコールドスプレーして得られた皮膜のビッカース硬度に関して評価した結果を表1の“皮膜のビッカース硬度”欄に示す。具体的には、マイクロビッカース硬度試験器を使用して、0.2kgf(約2N)の荷重で測定される皮膜の断面のビッカース硬度の平均値が1200以上の場合には◎(優)、1100以上1200未満の場合には○(良)、1000以上1100未満の場合には△(可)、1000未満の場合には×(不良)と評価した。
【0035】
実施例1〜11及び比較例1〜6のコールドスプレー用粉末を表2に示すスプレー条件でコールドスプレーして得られた皮膜の耐摩耗性に関して評価した結果を表1の“皮膜の耐摩耗性(体積摩耗比)”欄に示す。具体的には、JIS H8682-1に準じた往復運動平面摩耗試験(abrasive wheel wear test)による炭素鋼SS400の摩耗体積量に対する同じ往復運動平面摩耗試験による皮膜の摩耗体積量の比率が0.07未満の場合には◎(優)、0.07以上0.08未満の場合には○(良)、0.08以上0.10未満の場合には△(可)、0.10以上の場合には×(不良)と評価した。なお、往復運動平面摩耗試験では、JIS R6252に規定されたCP180番の研磨紙により3.15kgf(約31N)の荷重で試料の表面を400回摩擦した。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

表1に示すように、実施例1〜11のコールドスプレー用粉末から得られた皮膜では成膜効率及び耐摩耗性のいずれの評価についても△(可)以上であり、実施例1〜11のコールドスプレー用粉末によれば、実用に足るレベルの耐摩耗性を備えたWC系サーメット皮膜を効率よく形成することができることが分かった。それに対し、比較例1〜6のコールドスプレー用粉末から得られた皮膜では成膜効率及び耐摩耗性のいずれかの評価が×(不良)であり、比較例1〜6のコールドスプレー用粉末は、実用に足るレベルの耐摩耗性を備えたWC系サーメット皮膜を効率よく形成するのに適したものではないことが分かった。
【0038】
なお、実施例1のコールドスプレー用粉末をコールドスプレーではなくHVOF溶射に用いた場合には、粉末の過溶融を原因とするスピッティングと呼ばれる現象が起こり、基材上に皮膜を形成することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
86〜96質量%の炭化タングステンを含有し残部が金属からなる造粒−焼結サーメット粒子を含有するコールドスプレー用粉末であって、前記造粒−焼結サーメット粒子を構成する炭化タングステン一次粒子のフィッシャー径が0.05〜1μmであり、前記造粒−焼結サーメット粒子の平均粒子径が5〜20μmであることを特徴とするコールドスプレー用粉末。
【請求項2】
前記金属がコバルト、ニッケル及びクロムのいずれか一種を含む請求項1に記載のコールドスプレー用粉末。
【請求項3】
前記造粒−焼結サーメット粒子の圧壊強度が50〜400MPaである請求項1又は2に記載のコールドスプレー用粉末。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のコールドスプレー用粉末をコールドスプレーして皮膜を形成すること特徴とする皮膜形成方法。

【公開番号】特開2008−231527(P2008−231527A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74613(P2007−74613)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(000236702)株式会社フジミインコーポレーテッド (126)
【Fターム(参考)】