説明

コールドトラップおよび真空排気装置

【課題】 吸着容量の増加および高速度排気をともに実現することにより低電力消費を実現するコールドトラップ、および、このような利点を持つコールドトラップにターボ分子ポンプを併用した真空排気装置を提供する。
【解決手段】
真空チャンバ20内空間に設置されるコールドパネル200と、この真空チャンバ20の内部空間で冷却端がコールドパネル200に熱的に接続されて配置される冷凍機100と、を備えるコールドトラップ10とした。また、このようなコールドトラップ10が設置された真空チャンバ20内に配管40を介してターボ分子ポンプ30を接続した真空排気装置1000とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コールドトラップ、および、このコールドトラップとターボ分子ポンプとを併用した真空排気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術のコールドトラップおよび真空排気装置について図を参照しつつ説明する。図6,図7は従来技術の真空排気装置の説明図である。図6で示す真空排気装置1は、真空チャンバ2、配管3、コールドトラップ4、ターボ分子ポンプ5を備えている。この真空チャンバ2内には真空下で使用される各種の内部機器(例えばスパッタリング装置・食品乾燥装置など)2aが配置される。図6では、コールドトラップ4、ターボ分子ポンプ5の据え付け姿勢が縦置き型に限定される形態であり、上からコールドトラップ4、ターボ分子ポンプ5が配置される。
【0003】
ターボ分子ポンプ5は、真空チャンバ2内を排気する。このターボ分子ポンプ5は、排出しようとする気体分子の分子量(分子の大きさ)により排気性能が異なる。特に分子量が小さい水蒸気の排気が困難であり、例えば、ターボ分子ポンプ5により真空チャンバ2内の気体を排気して、10−6Pa〜10−12Pa程度まで排気した場合、真空チャンバ2内における残留ガスは、その大部分が水蒸気である。このような水蒸気が真空チャンバ2内に残留すると、真空度および真空環境に悪影響を及ぼす。
【0004】
そこでターボ分子ポンプ5の上流(一般には図6で示すように真空チャンバ2とターボ分子ポンプ5との間)にコールドトラップ4が設けられる。
このコールドトラップ4は、極低温に冷却された面(以下、コールドパネルという)と接するようにガスを通過させ、このような通過するガスに含まれる水蒸気を冷却して氷に凍結して捕集する装置であり、真空チャンバ2内に水蒸気の少ない真空環境を得ることができる。
コールドトラップ4の水蒸気除去により、ターボ分子ポンプ5に水蒸気をあらかじめ取り除いたガスを流入させて、真空チャンバ2の排気速度を向上させるとともに到達圧力を下げることができる。また、コールドトラップ4は冷却温度を適宜設定することにより、他のガス(例えば、Br,NH,Cl,CO等)も凍結捕集することができる。真空排気装置1はこのようなものである。
【0005】
また、近年では、据え付け姿勢が横型でも可能なコールドトラップ、ターボ分子ポンプも製品化されており、図7で示すような真空排気装置1’もある。この真空排気装置1’は、真空チャンバ2’、配管3’、コールドトラップ4’、ターボ分子ポンプ5’を備えている。図7では、真空チャンバ2’コールドトラップ4’、ターボ分子ポンプ5’が横方向に並べて配置される。
【0006】
また、他の従来技術として、例えば、特許文献1(ターボ分子ポンプ)、または、特許文献2(コールドトラップおよび真空排気装置)に記載された発明が知られている。
特許文献1には、液体窒素により冷却するコールドトラップについて記載されており、また、特許文献2には、GM方式(ギフォード・マクマホン方式)のヘリウム冷凍機を利用するコールドトラップについて記載されている。
これらは何れも据え付け姿勢が縦型の例である。
【0007】
【特許文献1】特開平9−317688号公報 (段落番号0022〜0036,図1〜図4)
【特許文献2】特開平11−294330号公報 (段落番号0032〜0049,図1〜図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術の真空排気装置1,1’では以下のような問題があった。
(1)分子流領域の水蒸気の排気速度および吸着量はコールドパネルの表面積の大きさに比例して増大するため表面積の増大が望ましい。しかしながら、単純に表面積を大きくすると、コールドパネルが通過する気体の移動を妨害し、排気抵抗(排気コンダクタンス)が大きくなるという問題があった。
(2)コールドパネルの表面積を大きくしようにも、コールドパネルが収容されている管状のケーシングの管径・管断面積により制約を受ける。ケーシングの管径と、配管3の管径とが等しいのが一般的であり、コールドパネルの表面積の増大はケーシングの管径(つまり配管3の管径)程度までに制約されるという問題があった。
(3)コールドトラップは溜め込み式の排気装置であるため、一定時間経過後に再生処理、清掃などのメンテナンスが必要であるが、配管3から取り外すなど手間を要するという問題があった。
【0009】
そこで、上記した問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、吸着容量の増加および高速度排気をともに実現することにより低電力消費を実現するコールドトラップ、および、このような利点を持つコールドトラップにターボ分子ポンプを併用した真空排気装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る発明のコールドトラップは、
真空チャンバと、
圧縮機、膨張機および冷却端を有する冷凍機と、
冷却端に接続されるコールドパネルと、
少なくとも冷却端が通過する開口面積で真空チャンバに形成される開口部と、
冷凍機に形成され、真空チャンバの開口部を覆うフランジと、
を備え、
真空チャンバの開口部に冷凍機の冷却端を通過させてフランジで開口部を塞いだ後に冷却端にコールドパネルを取付けることにより、真空チャンバの内部空間で少なくとも冷却端がコールドパネルに熱的に接続されつつ配置され、真空チャンバと一体に形成されることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、広大な空間が取れる真空チャンバ内に直接コールドトラップのコールドパネルを配置することで、水分子を凍結捕集するコールドパネルのトラップ面の表面積を大きして、吸着容量増加させることができる。
また、配管内に気体流を妨げるものがなくなって排気コンダクタンスを低減させることができる。
これら吸着容量の増加および排気コンダクタンスの低減を共に実現することで電力消費量を相乗的に低減することができる。
【0012】
また、本発明の請求項2に係る発明のコールドトラップは、
真空チャンバと、
圧縮機、膨張機および冷却端を有する冷凍機と、
冷却端に接続されるコールドパネルと、
少なくとも冷却端およびコールドパネルが通過する開口面積で真空チャンバに形成される開口部と、
冷凍機に形成され、真空チャンバの開口部を覆うフランジと、
を備え、
真空チャンバの開口部に冷凍機の冷却端およびコールドパネルを通過させてフランジで開口部を塞ぐことにより、真空チャンバの内部空間で少なくとも冷却端がコールドパネルに熱的に接続されつつ配置され、真空チャンバと一体に形成されることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、上記した作用に加えて、真空チャンバの開口部をコールドパネルが通過するようにしたため、組立てやメンテナンス時の取り外しが容易となる。
【0014】
また、本発明の請求項3に係る発明のコールドトラップは、
請求項1または請求項2記載のコールドトラップにおいて、
熱抵抗が高い部材により形成され、フランジに取付けられる高熱抵抗ステーと、
高熱抵抗ステーとコールドパネルとを機械的に接続するとともに熱伝導を抑える熱絶縁カラーと、
を備えることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、コールドパネルの重量を分担して受けることができ、コールドパネルの大型化による表面積の増大が可能となる。
【0016】
また、本発明の請求項4に係る発明のコールドトラップは、
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載のコールドトラップにおいて、
前記コールドパネルは、平板による平面形パネルと、凸部を有するハット形パネルと、からなり、平面形パネルに凸部を接触させつつハット形パネルを取付けて形成したことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、コールドパネルが二枚のパネルを有するため、コールドパネルの径はそのままにトラップ面の表面積を大きして、吸着容量増加させることができ、また、平面形パネルは冷却端と直接接触し、また、ハット型パネルは凸部が冷却端の近くで平面形パネルに接触するため、寒冷が効率的に伝達され、熱抵抗が小さい。
【0018】
また、本発明の請求項5に係るコールドトラップは、
請求項1〜請求項4の何れか一項に記載のコールドトラップにおいて、
前記膨張機は、パルスチューブ膨張機であることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、パルスチューブ冷凍機の膨張機(以下、単にパルスチューブ膨張機という)には、GM式の冷凍機のように非金属の摺動材などの可動部がなく、全て金属製とすることができるため、再生処理時の加熱温度を、可動部のあるGM冷凍機に比べて大幅に高く設定することができるとともにヒートショックに対する信頼性も向上させることができる。
【0020】
また、本発明の請求項6に係るコールドトラップは、
請求項1〜請求項5の何れか一項に記載のコールドトラップにおいて、
前記コールドパネルは、低温域における熱伝導率が大きい純チタンを材料とすることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、コールドパネルの表面温度分布を、通常用いられるステンレス材に比べて均一にすることができるので、コールドパネルの有効表面積を大きくすることができる。
【0022】
また、本発明の請求項7に係るコールドトラップは、
請求項1〜請求項5の何れか一項に記載のコールドトラップにおいて、
前記コールドパネルは、低温域における熱伝導率が大きい銅または銅合金を材料とすることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、純チタン同様にコールドパネル全体の表面温度分布を、通常用いられるステンレス材に比べて均一にすることができるため、コールドパネルの有効表面積を大きくすることができる。
【0024】
また、本発明の請求項8に係るコールドトラップは、
請求項7に記載のコールドトラップにおいて、
前記コールドパネルは、その表面に耐食性を向上させる保護層を形成したことを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、銅または銅合金にガスが接触しないような保護層を形成することで銅または銅合金の表面の腐食を防止することができる。
【0026】
また、本発明の請求項9に係るコールドトラップは、
請求項1〜請求項8の何れか一項に記載のコールドトラップにおいて、
フランジに設けられた電流導入端子を介して電流線と接続され、コールドパネルを加熱する加熱手段と、
フランジに設けられた信号導出端子を介して信号線と接続され、コールドパネルの温度を計測する温度計測手段と、
電流線を介して加熱手段と、制御線を介して冷凍機と、信号線を介して温度計測手段と、それぞれ接続される温度制御手段と、
を備え、
この温度制御手段は、温度計測手段が計測したコールドパネルの温度に基づき、コールドパネルの温度を所定温度とするように冷凍機または加熱手段を制御することを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、コールドパネルの温度について、吸着時は、ガスの吸着特性に合わせた効果的な温度を選択して最適な選択吸着を可能とし、再生処理時には、水分の放出に効果的な温度を選択し、コールドパネルのトラップ面の温度が最適となるように制御することができ、コールドパネルの表面温度(トラップ面)を吸着・再生に最適な任意の温度とすることができる。
また、冷凍機と加熱手段、温度計測手段をフランジを介して内外部で接続した状態で一体で取り付けられており、組立およびメンテナンス時の取り外しが容易になる。
【0028】
また、本発明の請求項10に係るコールドトラップは、
請求項9記載のコールドトラップにおいて、
前記加熱手段は、冷却端に内蔵するように配置され、
前記温度計測手段は、冷却端に内蔵または当接するように配置されることを特徴とする。
【0029】
この構成によれば、冷却端の温度を正確に制御できるようになり、コールドパネルを均一に素早く加熱できるため温度の加温・加冷速度の増大と計測精度の向上を実現し、高速かつ正確に吸着・再生に最適な任意の温度とすることができる。
また、ヒータ等の構成部材からのアウトガスを真空チャンバ内に放出することがない。
【0030】
本発明の請求項11に係る真空排気装置は、
請求項1〜請求項10の何れか一項に記載のコールドトラップと、
コールドトラップに一体に形成された真空チャンバ内のガスを排気するターボ分子ポンプと、
を備えることを特徴とする。
【0031】
この構成によれば、コールドパネルのトラップ面の表面積を大きくして水分子を凍結捕集する吸着容量を増加させたコールドパネルとしたので、ターボ分子ポンプと併用して稼働率が高く、ランニングコストの低い真空排気装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0032】
以上のような本発明によれば、吸着容量の増加および高速度排気をともに実現することにより低電力消費を実現するコールドトラップ、および、このような利点を持つコールドトラップにターボ分子ポンプを併用した真空排気装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
続いて、本発明を実施するための最良の形態について、図を参照しつつ説明する。図1は本形態のコールドトラップを含む真空排気装置のブロック構成図である。図2は、コールドトラップの構成図である。
【0034】
本形態の真空排気装置1000は、図1で示すように、コールドトラップ10、真空チャンバ20、ターボ分子ポンプ30を備えている。このコールドトラップ10は大別して冷凍機100、コールドパネル200を備えている。冷凍機100は寒冷をコールドパネル200に供給するが、少なくともコールドパネル200が真空チャンバ20内に必ず配置されている点が特徴である。
【0035】
真空チャンバ20は、例えば大型の箱形状であって、この真空チャンバ20内には内部機器21(例えばスパッタリング装置・食品乾燥装置など)が配置されている。また、本形態では真空チャンバ20とターボ分子ポンプ30とは、配管40を介して接続されるが、真空チャンバ20にターボ分子ポンプ30を直接接続するようにしても良い。
ターボ分子ポンプ40は、周知技術であるが、多数の動翼と多数の固定翼を交互に配置し、動翼を数万rpmという極めて高速で回転させて、分子を移動させて排気するポンプである。クリーンな真空が得られる、という利点がある。
これらコールドトラップ10およびターボ分子ポンプ20により真空排気装置1000が構成される。
【0036】
続いて、コールドトラップ10の構成について説明する。コールドトラップ10は、図2で示すように、冷凍機100とコールドパネル200とに大別される。
冷凍機100は、圧縮機101、放熱器102、フランジ103、膨張機104、冷却端105、ヒータ106、温度センサ107、シール108、電流導入端子109、信号導出端子110、コントローラ111、電源112を備えている。
コールドパネル200は、平円形パネル201、ハット形パネル202を備え、図示しないが円形をしている。
【0037】
冷凍機100は、具体的にはパルスチューブ冷凍機であり、圧縮機101、放熱器102、膨張機104、冷却端105を備えている。冷凍機100は、ヘリウムガスを冷媒としたクローズドタイプの冷凍機であり、膨張機104および圧縮機101のスターリングサイクルにより冷却端105が冷却されるように構成されている。通常のスターリング型冷凍機では膨張機がピストンとシリンダとにより機械的に構成されるが、パルスチューブ冷凍機では可動部がなく、パルスチューブ(図示せず)内のガス(ガスピストン)がその役割を担っている。
【0038】
コールドパネル200では、図2で示すように、平面形パネル201が冷却端105と直接接触し、また、ハット型パネル202の凸部(冷却端105とほぼ同寸法のボス)が冷却端105の近くで平面形パネル201に接触した状態で、冷却端105、平面形パネル201、ハット型パネル202を一体として固定用のボルトで締結する構造を採用している。
冷凍機100の冷却端105に熱的に接続されるコールドパネル200は、冷却端105、平円形パネル201、ハット形パネル202という経路を経てコールドパネル200全体に寒冷が効率的に伝導される。また、コールドパネル200は二枚のパネルを有するため、同じ円径で一枚のパネルよりもトラップ面の表面積を大きくして、吸着容量を増加させている。
【0039】
本形態では、コールドパネルを2枚取り付けている例を掲げたが、3枚以上重ねることも可能であり、この場合は、複数枚のハット形パネルを用意し、それぞれの凸部の形状を絞り加工等により適切な外径として、複数のハット形パネルを冷却端に直結で重ねて取り付ける構成をとる。凸部の外径寸法と高さを適切に調整することでそれぞれのハット形パネルを冷却端部で重ね合わせてコールドパネルを形成することができる。
【0040】
冷凍機100には、フランジ103が機械的に取付けられている。このフランジ103の外側に圧縮機101が配置され、また、フランジ103の内側に膨張機104および冷却端105が配置されるように取り付けられる。このフランジ103は真空チャンバ20の開口部22の開口面積よりも広く、開口部22を覆うように形成されている。
また、膨張機104、冷却端105は開口部22を通過するが、コールドパネル200は通過できないため、取付け時は、コールドパネル200を取り外したまま挿通し、フランジ103を真空チャンバ20の壁面にねじ止めした後で、真空チャンバ20内でコールドパネル200を取付ける。
【0041】
このコールドパネル200は、70K(−203℃)程度の極低温でステンレスよりも熱伝導率の大きな純チタンを材料として製作される。純チタンを材料とするコールドパネル200を使用することにより、表面温度分布を通常用いられるステンレス材に比べて均一にすることができ、コールドパネル200の有効表面積を大きくすることができる。
また、純チタンは水蒸気・ガスに対して錆びないため耐食性が高いという利点もある。
【0042】
また、このコールドパネル200は、70K(−203℃)程度の極低温域においてステンレスよりも熱伝導率が大きい銅または銅合金を材料としても良い。このように熱伝導率が大きいため、冷却端105の熱が直ちにコールドパネル200全体に熱伝導されて短時間でコールドパネル200全体が冷却端105と同じ温度となる。この場合、コールドパネル200全体の表面温度分布が均一な状態となり、通常用いられる熱伝導率が小さいステンレス材のように不均一な温度分布とならないため、コールドパネル200の有効表面積を大きくすることができ、コールドパネル200の全面で水分子を捕集できる。
【0043】
さらに銅または銅合金を材料とするコールドパネル200は、その表面に耐食性を向上させる保護層(具体的にはニッケルメッキ層)を形成し、ガスが銅・銅合金と接触しないようにしている。これにより、腐食(つまり酸化)しやすい銅または銅合金に対して、耐食性を向上させてガス(特に水蒸気)により緑青等が生じないように配慮している。銅または銅合金の熱伝導性とニッケルの耐腐食性により、コールドトラップ10に特有の用途(水分子の凍結捕集)に適したものとしている。
【0044】
さらに、コールドパネル200の内側面(真空チャンバ内側に対向するトラップ面)は、例えばブラスト加工やピーニング加工によりなし地状に形成して表面積を拡大するように構成してもよい。なお、表面積を拡大できれば良く突起体を多数形成した凹凸面としてもよい。
また、コールドパネル200の外側面(真空チャンバ壁面側に対向する面)ではできるだけ放射率の小さな鏡面(光沢面)に仕上げて放射率を小さくするように構成する。これにより常温側から侵入する熱量を低減して、冷却端105コールドパネル200を低温に維持することができる。
【0045】
ヒータ106は、本発明の加熱手段の一具体例であり、例えば、コールドパネル200の冷却端105の内部に密封内蔵されて配置されるヒータであり、図2で示すように、外部に露出しないように構成する。これによりアウトガスを抑制する。
温度センサ107は、本発明の温度計測手段の一具体例であり、冷却端105の表面に接触するように配置され、冷却端105およびコールドパネル200の温度を精度良く計測できるようにする。
シール108は、真空チャンバ20の開口部22の周縁を囲むように配置されるOリングなどであり、真空チャンバ20とフランジ103との接合部で真空チャンバ20内への外気のリークを防止する。
【0046】
フランジ103に設けられた電流導入端子109はヒータ106に接続された電流線を真空チャンバ20内から引き出し、また、フランジ103に設けられた信号導出端子110は温度センサ107に接続された信号線を真空チャンバ20内から引き出すために設けられる。これら端子109,110は真空下で使用できるものであり、例えばハーメチック端子等が用いられる。それぞれの電流線・信号線は、例えば、ステンレスのシースで被覆されている。
【0047】
コントローラ111は、本発明の温度制御手段の一具体例であり、真空チャンバ20から外部に引き出された電流線および信号線と、冷凍機100からの制御線と、が接続されている。コントローラ111は、電流線を介して接続されるヒータ106、制御線を介して接続される冷凍機100、さらに信号線を介して接続される温度センサ107に対して後述するような情報の読み出し、各種の制御を行う。
電源112は、コントローラ111を介してヒータ106や冷凍機100へ電源を供給する。コールドトラップ10はこのように構成される。
【0048】
続いて、真空排気装置100を稼働させるときの動作について説明する。図1で示す真空排気装置1000において、ターボ分子ポンプ30を稼働して真空チャンバ10から排気するが、この際、コールドトラップ10を稼働して真空チャンバ20内の水蒸気を捕集して、ターボ分子ポンプ30まで水蒸気が到達しないようにするものである。
【0049】
稼働により真空チャンバ20内のガスが排気され始めると、真空チャンバ20内のガスの圧力が低下し始める。真空チャンバ20内のガスの圧力の低下とともに真空チャンバ20の水分は水蒸気へと気化する。
【0050】
コールドトラップ10では、図2で示すように、コントローラ111が冷凍機100の運転を開始するとともに、温度センサ107が出力する温度計測信号をフィードバック入力することにより、コールドパネル200を所定温度に維持する。
例えば、コールドパネル200の所定温度の一例として水蒸気のみを凍結捕集する最適な温度である120K〜150K(−153℃〜−123℃)の範囲内の温度を選択して制御し、コールドパネル200に水蒸気を凍結捕集して吸着させるようにする。
これにより、真空チャンバ20内の水分が吸着され、水分以外の分子はターボ分子ポンプ30で高い圧縮比に圧縮されて排気される。
【0051】
このようなコールドトラップ10について以下のような利点がある。
特に、従来技術ではコールドパネル200が配管やケーシングの管径を超えることができなかったが、本発明では容積が大きい真空チャンバ20内にコールドパネル200を配置したため、コールドパネル200の大型化が可能となり、捕集能力を高める。
さらに、配管内に位置しないため、排気コンダクタンスを低下させて、排気能力も高めている。
これら効果が相乗的に相俟って、低消費電力を実現している。
【0052】
また、従来技術のGM式の冷凍機では、一旦稼働させたならば負荷に関係なく定格で連続運転していたが、本形態のコールドトラップ10では、パルスチューブ型の冷凍機100の運転を、コールドパネル200の吸着能力に応じた最適な温度となるような電力とするだけでよく、無駄な電力消費を回避できる。
【0053】
また、コールドトラップ10は、冷却では冷凍機100を用いたり、加熱ではヒータ106を用いたり、または、冷凍機100およびヒータ106を併用したりすることで、コールドパネル200に直接に冷却・加熱の両方が可能となり、60K〜573K(−213℃〜300℃)という広範囲の任意の温度に制御でき、水蒸気だけでなく任意のガス(例えばBr,NH,Cl,CO等)を選択吸着することも可能である。
【0054】
続いてコールドトラップの他の形態について図を参照しつつ説明する。図3は他の形態のコールドトラップの構成図である。本形態のコールドトラップ11では、先に図2に掲げたコールドトラップ10と構成は殆ど同じであるが、このコールドトラップ11では特に真空チャンバ20の開口部22の開口面積を大きくし、コールドパネル200も開口部22を通過できるようにした。これにより、真空チャンバ20からフランジ103を取り外せば、コールドトラップ11全体が真空チャンバ20から取り外せるため、組立て・メンテナンス時の分解が容易となる。
【0055】
続いてコールドトラップの他の形態について図を参照しつつ説明する。図4は他の形態のコールドトラップの構成図である。本形態のコールドトラップ12では、先に図3に掲げたコールドトラップ11の構成に加え、さらにこのコールドパネル200を大径として表面積を拡大し、このコールドパネル200を機械的に充分な強度で支持するため、高熱抵抗ステー203、熱絶縁カラー204を設けた。
【0056】
冷凍機100に形成され、真空チャンバの開口部を覆うフランジ103に高熱抵抗ステー203が取付けられ、また、熱絶縁カラー204は、高熱抵抗ステー203とコールドパネル200を機械的に接続して充分な強度を確保している。このような構成により、氷がコールドパネル200に付着して重量が増大しても、高熱抵抗ステー203、熱絶縁カラー204が全ての力を受けて機械的に変形等が生じないため、冷凍機100に不要な力が加わるような事態は回避される。
また、高熱抵抗ステー203および熱絶縁カラー204共に熱抵抗が高い部材により形成され、コールドパネル200から熱絶縁カラー204への熱伝導、さらに熱絶縁カラー204から熱抵抗ステー203への熱伝導ともに抑えるため、寒冷がフランジ103へ逆に伝導されないように配慮している。本形態では更にコールドパネル200の大型化が可能となり、捕集能力を高めることができる。また、コールドパネル200の重量を分担して受けることができ、振動・衝撃などの外乱に強いコールドトラップを供給できる。また、真空チャンバと冷却端との間での不要な熱移動を最小限にすることができる。
【0057】
続いてコールドトラップの他の形態について図を参照しつつ説明する。図5は他の形態のコールドトラップの構成図である。本形態のコールドトラップ13では、先に図4に掲げたコールドトラップ12と構成は殆ど同じであるが、特に真空チャンバ20の開口部22の開口面積を大きくし、コールドパネル200が開口部22を通過できるようにした。これにより、真空チャンバ20からフランジ103を取り外せば、コールドトラップ10全体が真空チャンバ20から取り外せるため、組立て・メンテナンス時の分解が容易となる。
【0058】
以上、各形態について説明した。これらのようなコールドトラップ10では、真空チャンバ20内にコールドパネル200を配置したため、コールドパネル200の設計上の制約を取り払ってコールドパネル200を大きくすることが可能となり、水分子を凍結捕集するコールドパネルのトラップ面の表面積も大きくして吸着容量の増加を実現する。また、図3,図4で高熱抵抗ステー203,熱絶縁カラー204により機械的支持をするため、この点でもコールドパネル200のトラップ面の表面積も大きくして吸着容量の増加を実現する。
また、配管40の気体流路内にコールドパネル200を配置しないことで排気コンダクタンスの大幅低減を実現し、高速度排気を実現させることができる。
これら吸着容量の増加および排気コンダクタンスの大幅低減という両効果が相俟って大幅な低電力消費も実現する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明を実施するための最良の形態のコールドトラップ含む真空排気装置のブロック構成図である。
【図2】コールドトラップの構成図である。
【図3】他の形態のコールドトラップの構成図である。
【図4】他の形態のコールドトラップの構成図である。
【図5】他の形態のコールドトラップの構成図である。
【図6】従来技術の真空排気装置の説明図である。
【図7】従来技術の真空排気装置の説明図である。
【符号の説明】
【0060】
1000:真空排気装置
10,11,12,13:コールドトラップ
100:冷凍機
101:圧縮機
102:放熱器
103:フランジ
104:膨張機
105:冷却端
106:ヒータ
107:温度センサ
108:シール
109:電流導入端子
110:信号導出端子
111:コントローラ
112:電源
200:コールドパネル
201:平円形パネル
202:ハット形パネル
203:高熱抵抗ステー
204:熱絶縁カラー
20:真空チャンバ
21:内部機器
30:ターボ分子ポンプ
40:配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと、
圧縮機、膨張機および冷却端を有する冷凍機と、
冷却端に接続されるコールドパネルと、
少なくとも冷却端が通過する開口面積で真空チャンバに形成される開口部と、
冷凍機に形成され、真空チャンバの開口部を覆うフランジと、
を備え、
真空チャンバの開口部に冷凍機の冷却端を通過させてフランジで開口部を塞いだ後に冷却端にコールドパネルを取付けることにより、真空チャンバの内部空間で少なくとも冷却端がコールドパネルに熱的に接続されつつ配置され、真空チャンバと一体に形成されることを特徴とするコールドトラップ。
【請求項2】
真空チャンバと、
圧縮機、膨張機および冷却端を有する冷凍機と、
冷却端に接続されるコールドパネルと、
少なくとも冷却端およびコールドパネルが通過する開口面積で真空チャンバに形成される開口部と、
冷凍機に形成され、真空チャンバの開口部を覆うフランジと、
を備え、
真空チャンバの開口部に冷凍機の冷却端およびコールドパネルを通過させてフランジで開口部を塞ぐことにより、真空チャンバの内部空間で少なくとも冷却端がコールドパネルに熱的に接続されつつ配置され、真空チャンバと一体に形成されることを特徴とするコールドトラップ。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のコールドトラップにおいて、
熱抵抗が高い部材により形成され、フランジに取付けられる高熱抵抗ステーと、
高熱抵抗ステーとコールドパネルとを機械的に接続するとともに熱伝導を抑える熱絶縁カラーと、
を備えることを特徴とするコールドトラップ。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載のコールドトラップにおいて、
前記コールドパネルは、平板による平面形パネルと、凸部を有するハット形パネルと、からなり、平面形パネルに凸部を接触させつつハット形パネルを取付けて形成したことを特徴とするコールドトラップ。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか一項に記載のコールドトラップにおいて、
前記膨張機は、パルスチューブ膨張機であることを特徴とするコールドトラップ。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れか一項に記載のコールドトラップにおいて、
前記コールドパネルは、低温域における熱伝導率が大きい純チタンを材料とすることを特徴とするコールドトラップ。
【請求項7】
請求項1〜請求項5の何れか一項に記載のコールドトラップにおいて、
前記コールドパネルは、低温域における熱伝導率が大きい銅または銅合金を材料とすることを特徴とするコールドトラップ。
【請求項8】
請求項7に記載のコールドトラップにおいて、
前記コールドパネルは、その表面に耐食性を向上させる保護層を形成したことを特徴とするコールドトラップ。
【請求項9】
請求項1〜請求項8の何れか一項に記載のコールドトラップにおいて、
フランジに設けられた電流導入端子を介して電流線と接続され、コールドパネルを加熱する加熱手段と、
フランジに設けられた信号導出端子を介して信号線と接続され、コールドパネルの温度を計測する温度計測手段と、
電流線を介して加熱手段と、制御線を介して冷凍機と、信号線を介して温度計測手段と、それぞれ接続される温度制御手段と、
を備え、
この温度制御手段は、温度計測手段が計測したコールドパネルの温度に基づき、コールドパネルの温度を所定温度とするように冷凍機または加熱手段を制御することを特徴とするコールドトラップ。
【請求項10】
請求項9記載のコールドトラップにおいて、
前記加熱手段は、冷却端に内蔵するように配置され、
前記温度計測手段は、冷却端に内蔵または当接するように配置されることを特徴とするコールドトラップ。
【請求項11】
請求項1〜請求項10の何れか一項に記載のコールドトラップと、
コールドトラップに一体に形成された真空チャンバ内のガスを排気するターボ分子ポンプと、
を備えることを特徴とする真空排気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−63898(P2006−63898A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−247960(P2004−247960)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】