説明

ゴム−スチールコード複合体および空気入りタイヤ

【課題】空気入りタイヤの補強材としての所望の高い強力や剛性を確保しつつ、水分の伝播を抑制できるゴム−スチールコード複合体、および、それを用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】スチールコード1がゴム中に埋設されてなるゴム−スチールコード複合体である。スチールコード1が、10本〜30本のスチールフィラメント2を撚り合わせてなる2層または3層の層撚り構造を有し、各層を構成するスチールフィラメント2のうち少なくとも1本以上が2次元または3次元に型付けされ、かつ、コード全体が2次元に略波状に型付けされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム−スチールコード複合体および空気入りタイヤ(以下、単に「複合体」および「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、タイヤを初めとする各種ゴム物品の補強材として好適に用いられるゴム−スチールコード複合体および空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ、中でも特に、高い荷重を支えて長時間走行するようなトラックやバス等に使用されるタイヤにおいては、長期間の過酷な使用に耐え、安定した性能を発揮するために、高い強度および剛性と、寸法安定性とを備えることが重要である。特に、タイヤのクラウン部は、使用時において常に内圧によりタイヤ周方向に引張り入力を受け、使用によりクリープして周長が伸びることにより、歪が生じて耐久性を悪化させたり、タイヤの断面形状を変化させて摩耗特性を悪化させたりする。
【0003】
その対策として、例えば、特許文献1には、カーカスの周りのトレッド部に、2層の交錯ベルトと、タイヤ周方向に沿って配向する、少なくとも1層の波状(またはジグザグ形)をなす多数のコードの補強要素からなるクラウン補強層とを配置することで、タイヤの重量増なしでセパレーションを有効に防止する技術が開示されている。
【特許文献1】特許第2623003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、タイヤ周方向に沿って配向する補強要素からなるクラウン補強層は、通常、ストリップ状の補強要素をタイヤ周方向にスパイラル状に巻き付けて形成される。そのため、外傷等が、タイヤ周方向に沿ったクラウン補強層近傍にまで達した場合、外部からの水分が周上長手方向に伝播しやすいという懸念があった。
【0005】
そこで本発明の目的は、上記問題を解消して、空気入りタイヤの補強材としての所望の高い強力や剛性を確保しつつ、水分の伝播を抑制できるゴム−スチールコード複合体、および、それを用いた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討した結果、下記構成とすることにより、上記問題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明のゴム−スチールコード複合体は、スチールコードがゴム中に埋設されてなるゴム−スチールコード複合体において、
前記スチールコードが、10本〜30本のスチールフィラメントを撚り合わせてなる2層または3層の層撚り構造を有し、各層を構成するスチールフィラメントのうち少なくとも1本以上が2次元または3次元に型付けされ、かつ、コード全体が2次元に略波状に型付けされていることを特徴とするものである。
【0008】
本発明のコードにおいては、前記スチールフィラメントの素線径が、0.14mm以上0.36mm以下であることが好ましい。また、前記スチールコードが、波状型付けの1波長長さをλ(mm)、1波長分の正味のコード長さをL(mm)(ここで、Lは下記式、
L=λ×(1+2/8×K+13/64×K+90/512×K+644/4096×K+4708.5/32768×K10
(式中、K=(b/(1+b))0.5、b=(2π×a/λ)である)
により近似される)、波状型付け部の振幅量をa(mm)としたとき、下記式、
ε=L/λ−1≧0.005
を満足することも好ましい。
【0009】
また、本発明の空気入りタイヤは、少なくとも一対のビードコア間に跨ってトロイド状に延在する少なくとも一層のカーカスを骨格とし、該カーカスの外周に、複数本のコードまたはフィラメントからなる2〜4層の補強ベルト層を有する空気入りタイヤにおいて、
前記補強ベルト層のうちの1層または2層が、上記本発明のゴム−スチールコード複合体をタイヤ周方向に沿って配向させてなるクラウン補強層であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上記構成としたことにより、空気入りタイヤの補強材、特には、タイヤ周方向に配設されるクラウン補強層用の補強材としての所望の高い強力および剛性を確保しつつ、水分の伝播を抑制することができるゴム−スチールコード複合体を実現することが可能となった。したがって、このゴム−スチールコード複合体を用いた本発明の空気入りタイヤにおいては、耐久性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1に、本発明のゴム−スチールコード複合体の一好適例の幅方向概略断面図を示す。本発明のゴム−スチールコード複合体10は、スチールコード1がゴム中に埋設されてなるものであって、図示するように、スチールコード1が、10本〜30本(図示例では27本)のスチールフィラメント2を撚り合わせてなる2層または3層の層撚り構造(図示例では3+9+15構造)を有する。スチールコード1を2層または3層の層撚り構造とすることで、特に周方向クラウン補強層用のスチールコードとして好適な、高い強力および剛性を確保することが可能となる。
【0012】
また、本発明においては、スチールコード1において、各層を構成するスチールフィラメント2のうち少なくとも1本以上が2次元または3次元に型付けされ、かつ、コード全体が2次元に略波状に型付けされている。コードの各層、すなわち、コア部を除く各シースを構成するスチールフィラメント2のうち少なくとも1本以上を2次元または3次元に型付けすることで、撚り合わせたフィラメント間に隙間が空く箇所が生ずる。この隙間に、タイヤ加硫時にゴムが侵入して、スチールコード内部にゴムが充填されることで、コード内部へのゴム浸透率が高まることになる。その結果、たとえ水分が浸入したとしても、この水分がコード長手方向に伝播することを防止することが可能となる。
【0013】
なお、コード内部でフィラメント間に隙間を形成する手法としては、コードを構成するフィラメントの本数を間引く方法もあるが、この方法では、周方向クラウン補強層用のスチールコードとして必要な強力との両立が困難となり、望ましくない。したがって、本発明におけるように、コードの各層を構成するスチールフィラメントのうち少なくとも1本以上を2次元または3次元に型付けする手法が有効である。本発明によれば、上記層撚り構造と併せて、上記フィラメントおよびコードの型付け条件を満足するものとすることで、周方向クラウン補強層用のスチールコードとしての高い強力と剛性を保持しながら、水分の伝播を抑制できるスチールコードを達成することができる。
【0014】
さらに、本発明においては、スチールコード1を、下記式、
ε=L/λ−1≧0.005
を満足するよう波状型付けすることで、タイヤ製造上の拡張に十分対応できるようにすることができる。ここで、λ(mm)は波状型付けの1波長長さ、L(mm)は1波長分の正味のコード長さ、a(mm)は波状型付け部の振幅量をそれぞれ示し、Lは下記式、
L=λ×(1+2/8×K+13/64×K+90/512×K+644/4096×K+4708.5/32768×K10
(式中、K=(b/(1+b))0.5、b=(2π×a/λ)である)
により近似されるものとする。
【0015】
本発明におけるスチールフィラメントの2次元または3次元の型付け条件としては、撚り合わせたフィラメント間に隙間を生じうるものであれば、その型付けの大きさや形状等については、特に制限されるものではない。例えば、フィラメントの型付けピッチは、2mm以上10mm以下が好適であり、この型付けピッチが10mmを超えるとゴムペネの状態にバラツキが生ずるおそれがあり、2mm未満であると加工が困難となる場合がある。また、スチールフィラメント2の素線径についても特に制限されないが、例えば、0.14mm以上0.36mm以下とすることができる。
【0016】
また、本発明のゴム−スチールコード複合体10は、上記スチールコードに関する条件を満足するものであればよく、それ以外の、使用するゴムの組成等の条件については、特に制限されるものではない。
【0017】
また、本発明の空気入りタイヤは、少なくとも一対のビードコア間に跨ってトロイド状に延在する少なくとも一層のカーカスを骨格とし、その外周に、複数本のコードまたはフィラメントからなる2〜4層の補強ベルト層を有するものであり、この補強ベルト層のうちの1層または2層として、上記本発明のゴム−スチールコード複合体をタイヤ周方向に沿って配向させてなるクラウン補強層を設けたものである。本発明の複合体においては、上述したように水分の伝播を抑制する効果が得られるので、これをタイヤ周方向クラウン補強層に適用することで、水分の伝播に起因する故障の発生を抑制して、耐久性を向上した空気入りタイヤとすることができる。
【0018】
なお、本発明の空気入りタイヤにおいても、上記本発明のゴム−スチールコード複合体をタイヤ周方向クラウン補強層に用いたものであれば、それ以外のタイヤ構造の詳細や使用する材質等については特に制限されるものではなく、常法に従い適宜構成することが可能である。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を、実施例を用いてより具体的に説明する。
下記表中に示す条件に従い、スチールコードがゴム中に埋設されてなるゴム−スチールコード複合体を作製した。得られた各複合体を、空気入りタイヤの4層の補強ベルト層のうち2層で設けたタイヤ周方向クラウン補強層に適用して、各実施例および比較例の供試タイヤを作製した。
【0020】
<コード強力>
得られた各複合体につき、コード強力を求めて、実施例1〜3および比較例2については比較例1を100とする指数、実施例4については比較例3を100とする指数にて示した。数値が大なるほど強力が高く良好である。
【0021】
<ゴム浸透率>
各供試タイヤから複合体を摘出し、外層(シース)のフィラメントを全て取り除いてコア部を取り出したあと、4方向から見てゴムに被覆された部分の長さを測定して、次式よりゴム浸透率を求めた。
ゴム浸透率=(ゴム被覆長/試料長)×100(%)
【0022】
<水分伝播率>
各供試タイヤから複合体を摘出し、初期荷重=強力×0.2、繰返し荷重=強力×0.05、環境湿度90%の条件下で、繰返し歪を加えた。1000万回の繰返し歪の付加が終了した後、腐食痕の最大長さを求め、次式より水分伝播率を求めた。
水分伝播率=(最大腐食長さ/チャック間隔長)×100(%)
【0023】
【表1】

【0024】
上記表中に示す結果から、本発明に係る条件を満足する各実施例においては、満足しない各比較例に比して良好なゴム浸透率および水分伝播率が得られており、かつ、コード強力についても確保されていることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のゴム−スチールコード複合体の一好適例を示す幅方向概略断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 スチールコード
2 スチールフィラメント
10 ゴム−スチールコード複合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチールコードがゴム中に埋設されてなるゴム−スチールコード複合体において、
前記スチールコードが、10本〜30本のスチールフィラメントを撚り合わせてなる2層または3層の層撚り構造を有し、各層を構成するスチールフィラメントのうち少なくとも1本以上が2次元または3次元に型付けされ、かつ、コード全体が2次元に略波状に型付けされていることを特徴とするゴム−スチールコード複合体。
【請求項2】
前記スチールフィラメントの素線径が、0.14mm以上0.36mm以下である請求項1記載のゴム−スチールコード複合体。
【請求項3】
前記スチールコードが、波状型付けの1波長長さをλ(mm)、1波長分の正味のコード長さをL(mm)(ここで、Lは下記式、
L=λ×(1+2/8×K+13/64×K+90/512×K+644/4096×K+4708.5/32768×K10
(式中、K=(b/(1+b))0.5、b=(2π×a/λ)である)
により近似される)、波状型付け部の振幅量をa(mm)としたとき、下記式、
ε=L/λ−1≧0.005
を満足する請求項1または2記載のゴム−スチールコード複合体。
【請求項4】
少なくとも一対のビードコア間に跨ってトロイド状に延在する少なくとも一層のカーカスを骨格とし、該カーカスの外周に、複数本のコードまたはフィラメントからなる2〜4層の補強ベルト層を有する空気入りタイヤにおいて、
前記補強ベルト層のうちの1層または2層が、請求項1〜3のうちいずれか一項記載のゴム−スチールコード複合体をタイヤ周方向に沿って配向させてなるクラウン補強層であることを特徴とする空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−191424(P2009−191424A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36486(P2008−36486)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】