説明

ゴムホース補強用繊維コード、およびゴムホース

【課題】従来のポリエステル繊維に比べて、ポリエチレンナフタレート繊維の優れた特性、すなわち高強力、高弾性率、高耐熱性を生かし、安価で、かつ優れた振動吸収特性を有するゴムホースを提供する。
【解決手段】補強用繊維を補強層として用いてなるゴムホースであって、該補強用繊維がポリエチレンナフタレート繊維を、ポリエポキシド化合物を含む第1処理剤で処理するか、あるいは該繊維の紡糸または延伸の段階でポリエポキシド化合物を含む処理剤で処理した後、撚糸コードとなし、さらにレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)で処理された繊維コードであるゴムホース。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムホースの補強材として優れた寸法安定性と優れた振動吸収性を有するポリエチレンナフタレート繊維からなるゴムホースに関するものである。さらに詳しくは、高モジュラスでかつ熱収縮率を低減させた寸法安定性に優れたポリエチレンナフタレート繊維により補強繊維層が編組されたゴムホース関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、高強度、高ヤング率を有しており、それを活かした用途としてタイヤ、ホース、ベルトなどのゴム補強用繊維として広く利用されている。特に、ホース補強用途においては、補強繊維に対して強力が高いこと、寸法安定性が良好なこと、ゴムとの接着が良好であること、疲労性に優れていることが要求されており、これら特性のバランスに優れたポリエステル繊維が広く使用されている(例えば、特許文献1〜3など)。
しかしながら、近年、自動車のエンジンルーム内やブレーキシステム配管用に使用されるゴムホースにおいては、エンジンルームのコンパクト化、高温化に伴い、該ゴムホースを補強するための繊維にも高度な物性が要求されるようになった。また、自動車の快適性という点において、ゴムホースにとって、エンジンルーム内で発生する振動騒音低減のため振動吸収性能も重要である。例えば、補強層の高弾性率化による耐久性向上、耐熱性向上のためにアラミド繊維を補強層に適用する場合もあるがコストが高くなるという欠点がある。
【特許文献1】特開平09−132817号公報
【特許文献2】特開平10−110390号公報
【特許文献3】特開平11−286876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、従来のポリエステル繊維に比べて、ポリエチレンナフタレート繊維の優れた特性、すなわち高強力、高弾性率、高耐熱性を生かし、安価で、かつ優れた振動吸収特性を有するゴムホースを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、補強用繊維を補強層として用いてなるゴムホースであって、該補強用繊維がポリエチレンナフタレート繊維を、ポリエポキシド化合物を含む第1処理剤で処理するか、あるいは該繊維の紡糸または延伸の段階でポリエポキシド化合物を含む処理剤で処理した後、撚糸コードとなし、さらにレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)で処理された繊維コードであることを特徴とするゴムホースに関する。
ここで、本発明のゴムホースとしては、内面ゴム層と外面ゴム層との間に補強用繊維からなる補強層を有する繊維補強ゴムホースであって、該補強用繊維が上記ゴムホース補強用コードであり、かつ補強層の構造がスパイラル構造またはブレード構造であるものが好ましい。
また、本発明のゴムホースは、10Hz〜100Hzにおける損失正接(tanδ)が0〜100℃の温度領域において0.02以上であるものが好ましい。
【発明の効果】
【0005】
本発明の接着処理されたポリエチレンナフタレート繊維からなるゴムホース補強用繊維コードを繊維補強層に用いたゴムホースは、従来のポリエステル繊維補強ゴムホースに比べて、高耐熱性、高弾性率、高強度であり、かつ、振動騒音の低減に優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明に用いられるポリエチレンナフタレート繊維を形成するポリエチレンナフタレートは、全繰り返し単位中の少なくとも90モル%、好ましくは少なくとも95モル%がエチレン−2,6−ナフタレート単位で構成されている。ポリエチレンナフタレートは、全繰り返し単位中の10モル%より少ない割合で適当な他の単位(第三成分)を含んでいても差し支えない。かかる第三成分としては(a)2個のエステル形成性官能基を有する化合物、例えばシュウ酸、コハク酸、セバシン酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロプロパンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのカルボン酸、グリコール酸、p−オキシ安息香酸、p−オキシエトキシ安息香酸などのオキシカルボン酸、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチレングリコール、p−キシレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、p,p’−ジヒドロキシフェニルスルホン、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,2−ビス(p−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ポリアルキレングリコールなどのオキシ化合物、それらの機能的誘導体、上記カルボン酸、オキシカルボン酸、オキシ化合物またはそれらの機能的誘導体から誘導される高重合度化合物や、(b)1個のエステル形成性官能基を有する化合物、例えば安息香酸、ベンジルオキシ安息香酸、メトキシポリアルキレングリコールなどが挙げられる。さらに(c)3個以上のエステル形成性官能基を有する化合物、例えばグリセリン、ペンタエリストール、トリメチロールプロパンなども、重合体が実質的に線状である範囲内で使用可能である。またこれらのポリエステル中には、二酸化チタンなどの艶消し剤、リン酸、亜リン酸、それらのエステルなどの安定剤が含まれてもよいことはいうまでもない。
【0007】
また、本発明に用いられるポリエチレンナフタレート繊維の単糸繊度は、2〜5dtexであり、好ましくは3〜4dtexである。単糸繊度が5dtexを超える場合には、撚糸し、コードとした時に単糸にかかる応力が大きくなり、強力が低下するばかりか、耐疲労性も低下する。一方、2dtex未満では単糸の集束性が上がりすぎ、かつ単糸間の接触面積が増大するため、撚糸コードとした時に、硬いものとなり、やはり耐疲労性が低下する。
【0008】
また、本発明の繊維を形成するポリエチレンナフタレートは、固有粘度が0.7dL/g以上であることが好ましい。さらに好ましくは0.7〜1.0dL/gである。ここで、本発明でいう固有粘度は、繊維をフェノールとオルトジクロロベンゼンとの混合溶媒(容積比6:4)に溶解し、35℃で測定した粘度から求めた値である。固有粘度が0.7dL/g未満では、繊維の強度、タフネスが低下する傾向にある。一方、固有粘度が1.0dL/gを超えるような繊維は紡糸工程が不良となり易く、製造が難しくなる傾向にある。
【0009】
さらに、本発明に用いられるポリエチレンナフタレート繊維は、dtex当たりの強度(cN/dtex)が8以上であることが好ましく、さらには8.0〜9.5、特に好ましくは8.5〜9.0であることが望ましい。強度が8cN/dtex未満であると強力の点で劣る傾向にある。
【0010】
このような強度を有するポリエチレンナフタレート繊維は、ポリエステル繊維を製造する従来公知の方法で製造することができる。より具体的には、例えばポリエチレンナフタレートを溶融紡糸して得られる未延伸糸を、紡糸後、一旦巻き取り別途延伸する方法、あるいは未延伸糸を巻き取らずに連続的に延伸する方法などの方法によって製造することができる。得られる繊維はモジュラスが高く、寸法安定性にも優れたものである。
【0011】
なお、本発明では、ポリエチレンナフタレート繊維に平滑剤を付着させても良く、繊維重量に対しての平滑剤成分の付着量が、0.2〜0.6重量%であることが好ましく、より好ましい付着量は0.3〜0.5重量%である。平滑剤の付着量が0.2重量%未満である場合、原糸の平滑性が失われ、製糸および後加工性が悪化するばかりでなく、接着剤処理後のコードが硬くなり、耐疲労性が悪化することがある。一方、0.6重量%を超えると接着性が低下することがある。
【0012】
平滑剤成分の具体例としては、例えば鉱物油などの炭化水素、ブチルステアレート、オレイルラウレート、イソステアリルパルミテート、オレイルオレートなどの高級アルコールと高級脂肪酸のエステル、ジオクチルセバケート、ジオクチルアゼレート、ジオレイルアジペートなどの高級アルコールと脂肪族2塩基酸のエステル、ネオペンチルグリコールジラウレート、ジエチレングリコールジラウレート、ジエチレングリコールジオレート、などの2価アルコールと高級脂肪酸のエステル、グリセリントリオレート、トリメチロールプロパンデカネートなどの3価アルコールと高級脂肪酸のエステル、ペンタエリスリトールテトラオレートなどの4価以上のアルコールと高級脂肪酸エステル、ジオレイルフタレート、トリオクチルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテートなどの高級アルコールと芳香族カルボン酸とのエステルなどが挙げられる。
【0013】
また、本発明に用いられるポリエチレンナフタレート繊維は、乳化剤が付着されても良く、繊維重量に対しての乳化剤の付着量が0.05〜0.15重量%であることがこのましく、さらに好ましくは0.08〜0.12重量%である。乳化剤の付着量が0.05重量%未満である場合、原糸の水に対する濡れ性が低下し、特に水系の接着剤を用いる場合、均一に接着剤を付与することが困難となることがある。一方、0.15重量%を超えると接着性が低下することがある。
【0014】
乳化剤成分の具体例としては、高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物、アルキルフェノールのエチレンオキサイド(以下、EO)付加物、ポリエチレングライコールエステル、および多価アルコールエステルエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。より具体的には、硬化ヒマシ油エチレンオキサイド(EO)5〜25モル付加物、硬化ヒマシ油エチレンオキサイド(EO)5〜25モル付加物トリオレート、硬化ヒマシ油エチレンオキサイド(EO)5〜25モル付加物ジオレート、ヒマシ油エチレンオキサイド(EO)5〜25モル付加物トリオレート、ヒマシ油エチレンオキサイド(EO)5〜25モル付加物ジオレート、硬化ヒマシ油エチレンオキサイド(EO)5〜25モル付加物ジステアレート、ヒマシ油エチレンオキサイド(EO)5〜25モル付加物トリステアレート、ヒマシ油エチレンオキサイド(EO)5〜25モル付加物ジステアレート、トリメチロールプロパン(EO)15〜25モル付加物ジオレート、トリメチロールプロパン(EO)15〜25モル付加物ジステアレート、ソルビトール(EO)15〜40モル付加物ペンタオレート、ソルビトール(EO)15〜40モル付加物テトラステアレート、ソルビトール(EO)15〜40モル付加物トリオレート、ペンタエリスリトール(EO)15〜40モル付加物トリオレート、ペンタエリスリトール(EO)15〜40モル付加物トリステアレート、および硬化ヒマシ油エチレンオキサイド(EO)5〜25モル付加物ステアリン酸マレイン酸エステル化合物などが挙げられる。
【0015】
上記の平滑剤、および乳化剤の付与は、従来公知のいずれ方法を用いても良いが、一般的には紡糸直後の未延伸糸の段階でオイリングローラーにより付与される。
【0016】
本発明のゴムホース用繊維コードは、以上のようなポリエチレンナフタレート繊維を、ポリエポキシ化合物を含む第1処理剤で処理、あるいは、該繊維の製糸過程の段階で紡糸または延伸時にポリポリエポキシ化合物で処理されている。
ここで、エポキシ化合物の付着量は、ポリエチレンナフタレート繊維の繊維重量に対して0.05〜0.3重量%であることがこのましく、さらに好ましくは0.1〜0.2重量%である。付着量が0.05重量%未満では接着性が低下し、一方、0.3重量%を超えると接着剤処理後のコードが硬くなり、耐疲労性が低下する。
【0017】
また、本発明の繊維に付着しているエポキシ化合物は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものが好ましく、例えばグリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリセロールグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル化合物が挙げられ、これらは単独でも2種以上を併用してもよい。また、これらエポキシ化合物は、通常、水性溶液または水性分散液として繊維上に付与されるが、エポキシ基の硬化触媒を併用するのが好ましい。
好ましく用いられるエポキシ基の硬化触媒としては、アミン化合物、酸無水物などを挙げることができる。とりわけ、アミン類、例えば脂肪族ポリアミン、変性脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、変性芳香族ポリアミン、脂環式ポリアミン、変性脂環式ポリアミン、ポリアミドアミン、変性ポリアミドアミン、3級アミンなどが好ましく、これらの化合物は単独でも2種以上を併用してもよい。
なお、これら化合物のうち、乳化作用を有する物は、前述の乳化剤成分としても作用するため、その物の付着量は乳化剤付着量に含まれる。
【0018】
エポキシ化合物とエポキシ硬化触媒の付与は、両者を混合して同時に延伸前の未延伸糸または延伸後の延伸糸に付与しても、別々、例えば延伸前の未延伸糸にエポキシ硬化触媒を付与し、延伸後にエポキシ化合物を付与する、あるいは延伸糸にエポキシ硬化触媒を付与した後にエポキシ化合物を付与する等のいずれの方法であってもよい。ただし、油剤の安定性の面から、エポキシ化合物とエポキシ硬化触媒を別々に付与する方法がより好ましい。この際、付着処理液には、前述した他の処理剤成分、例えば通常の油剤成分である、鉱物油、脂肪酸エステル類等の平滑剤、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、硬化ひまし油エチレンオキサイド付加物等の乳化剤、その他制電剤等を同時に添加してもよいが、最終的な平滑剤成分および乳化剤成分の繊維上への付着量は前述した範囲にすることが、本発明の目的を達成するために重要である。平滑剤成分および乳化剤成分の付着量が最適化されている事により、接着媒介層であるエポキシ皮膜が均一で強固に形成され、引き続きゴムとの接着の際に用いられるRFL接着剤層が均一に付着するので、最終的に、ゴム中での高い接着性と耐疲労性が得られる。
【0019】
また、平滑剤、乳化剤およびエポキシ化合物以外の成分の付着量はできるだけ低い方が好ましい。さらに、エポキシ化合物の硬化を促進するために、製糸後のポリエチレンナフタレート繊維を40℃以上で2日以上熱処理を施すことがより好ましい。
【0020】
このようなゴム補強用ポリエチレンナフタレート繊維は、さらに撚糸されゴム補強用前処理コードとされる。
【0021】
ここで、撚糸コードの撚係数(TM)は、1以上が好ましい。撚係数(TM)は次式(1)にて定義される。
【0022】
TM=0.00323×(ヤーンのデニール)1/2 ×(撚数/10cm)…(1)
使用されるヤーンの全繊度は、凡そ550〜11,000dtexが好ましい。撚糸コードとして使用されるのは、550〜3,300dtexのマルチフィラメントヤーンが一般的である。作成されるコードは、1,100〜20,000dtexの範囲が通常である。撚糸コードの作成方法は、1本のヤーンを1方向のみに撚糸する片撚の場合と、2本以上のヤーンを縄のように撚合わせる場合があり、いずれの方法でもよい。2本以上のヤーンを撚り合わせる場合は、予め各々のヤーンに同じ撚数の下撚を施した後、これらのヤーンを揃えて逆方向にほぼ下撚と同じ撚数の上撚をかける。この場合、撚係数の計算には、全繊度として合糸されたヤーンの全繊度を用い撚数としては下撚または上撚の多い方の値を用いて算出する。
【0023】
なお、撚糸コードを作成した後に100〜350℃の温度下で伸長率4〜30%で緊張熱処理を行って、剛直なポリエチレンナフタレートの分子を緩和させると同時に、撚糸の際に生じたヤーン間および単糸間の歪を除去することが好ましい。これは、剛直なポリエチレンナフタレート繊維にのみ有効であって、従来の熱溶融性高分子、例えばポリエチレンテレフタレートやナイロン6あるいはナイロン66には殆んど効果がない。何故なら、ポリエチレンテレフタレートやナイロン6あるいはナイロン66は、分子骨格が十分柔軟であるので撚係数の高い撚糸を行っても単糸もヤーンも柔軟に追従でき、またヤーンの伸度も10〜20%と高いので撚糸時の歪を吸収できるからである。高弾性率のポリエチレンナフタレート繊維のヤーン伸度は5〜12%であるから、上記緊張熱処理は極めて高い張力下での加工処理となる。撚糸コードを緊張するときの熱処理温度は、好ましくは100〜350℃である。さらに好ましくは、150〜300℃である。温度が100℃未満では撚糸コードの強力の増分が少ない。一方、温度が350℃を超えると、繊維が劣化する。加熱ヒーターは、接触式の熱板でも非接触式の円筒型またはスリット型のヒーターでも使用可能である。
【0024】
伸長率は、4〜30%が好ましい。ここで、伸長率は、以下のように定義する。すなわち、撚糸されたコードがボビンから解舒される引き出し速度をV0とし該撚糸コードが緊張熱処理を終了して引き出されるロールの速度をVhとするとき伸長率を次式(2)で求める。
【0025】
伸長率=[(Vh −V0 )/V0 ]×100……(2)
伸長は1段で行っても良いし2段以上に分けて行ってもかまわない。また、緊張熱処理する方法は、撚糸コードを伸長した後に熱処理する方法と実質的に伸長を掛けつつ同時に熱処理を行う方法とがあるが、両者いずれでも差し支えない。ただし、後者の方法が伸長率を大きくとることができて好ましい。緊張熱処理が終了した撚糸コードは、そのまま自然冷却しながら巻き取っても良いし一旦冷却ロールで冷却をした後に巻き取っても良い。
【0026】
伸長率が4%未満では、緊張不十分で撚糸コードの強力があまり改善されない。一方、伸長率が30%を超えると、ポリエチレンナフタレート繊維としては緊張過多となり断糸などのトラブルが発生する。伸長率の最適化は、撚係数や処理温度によっても影響を受けるが撚係数が高い場合あるいは処理温度が高い場合は、伸長率を高くすると撚糸コードの強力およびモジュラスが増加しやすい。なお、上記緊張熱処理は、独立した工程として実施しても良いし、他の加工工程で薬液処理を行いつつ連続的に緊張熱処理を実施してもよい。
【0027】
本発明のゴムホース補強用繊維コードは、このようにして得られた撚糸コードにRFL(レゾルシン・ホルマリン・ラテックス)を含む接着剤で処理されてなるものである。
ここで、RFLは、レゾルシンとホルムアルデヒドのモル比が1:0.1〜1:8、好ましくは1:0.5〜1:5、さらに好ましくは1:1〜1:4の範囲で用いられる。
レゾルシン・ホルマリンとゴムラテックスとの配合比率は、固形分重量比で1:1〜1:5、好ましくは1:3〜1:12の範囲にあるのが好ましい。ゴムラテックスの種類としては、被着体のゴム種によって選択される。
【0028】
ゴムラテックスとしては、例えばポリブタジエンラテックス、天然ゴムラテックス、スチレン・ブタジエン・コポリマーラテックス(PB)、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン・ターポリマーラテックス(VP)、ニトリルゴムラテックス、水素添加ニトリルゴムラテックス、クロロスルフォン化ポリエチレンラテックス、クロロプレンゴムラテックスなどを併用して使用することもできる。また、RFL中に、特公昭57−21587号公報に示されるように、一般式
【0029】
【化1】

【0030】
(式中、R´は芳香族または脂肪族の炭化水素残基、nは0,1または2)で表されるエチレン尿素化合物や芳香族もしくは脂肪族イソシアネートとオキシム、フェノール、カプロラクタムなどと反応させて得られるブロックドイソシアネートを加えて使用することもある。
エチレン尿素化合物は、通常、水分散液の形で、RFLに対して0.5〜30重量%添加される。RFLで処理された後、ゴムマトリックスと同種類のゴムを含むゴム糊で処理されることもある。
【0031】
上記、RFL処理後、80〜150℃、0.5〜5分間乾燥後、150〜260℃、0.5〜5分間熱処理し硬化させる。
繊維コードに対するRFLの付着量は、1〜10重量%に調整される。
【0032】
このように、上記のようにして得られた撚糸コードを、次いでRFLを含む接着剤で接着処理することにより、接着性に優れ、かつ耐久性に優れたゴムホースなどのゴム成形物を得ることが可能なゴムホース補強用繊維コードが得られる。
本発明のゴム成形物としては、上記のように、繊維コードの種類にもよるが、ゴムホースのほか、ベルト、タイヤなども挙げられる。
【0033】
本発明のゴムホース補強用繊維コードは、ゴムホースの補強層として有用である。
特に、内面ゴム層と外面ゴム層との間に補強用繊維からなる繊維補強層を有する繊維補強ゴムホースにおいて、該補強用繊維として、本発明のゴムホース補強用コードを用い、かつ補強層の構造をスパイラル構造またはブレード構造としたゴムホースは、高モジュラスでかつ熱収縮率を低減させた、寸法安定性に優れたものであり、好ましい態様である。
【0034】
すなわち、上記のようにして得られた本発明のゴムホース補強用繊維コードは、公知の技術、例えば、チューブゴムよりなる内層の上にブレーダーにより所定密度になるよう、得られた繊維コードを所定の角度を付けて配設する。次いで、この上に層間ゴムシートを配した後、再度繊維コードをブレーダーにより配設し、これを所定回数行う。最後に外側補強繊維を保護するためのカバーゴムからなる外層を配設した後、これを例えば蒸気加硫釜中で蒸気加硫してゴムホースとなす。なお、上記繊維コードの配設は共にスパイラル構造にしてもよい。
【0035】
ここで、内層、層間、および外層のゴムとしては、従来と同様に、内層はNBR、CR、水素化NBR(HNBR)、CSMなどが用いられ、層間はNBR、外層はNBR、CR、CSMなどが使用される。
【0036】
本発明のゴムホースは、10Hz〜100Hzにおける損失正接(tanδ)が0〜100℃の温度領域において0.02以上であることが好ましい。
ここで、損失正接とは、振動の1サイクルの間に熱として散逸されるエネルギーと貯蔵される最大エネルギーとの比であり、数値が大きいほど内部損失が大きく、優れた振動吸収性能を有していると言える。
この損失各正接が0.02未満では、振動吸収性能が劣り、エンジンルーム内で発生する振動や騒音の低減効果が小さくなる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するがこれに限定されるものではない。
[実施例1、比較例1〜2]
帝人テクノプロダクツ(株)製のポリエチレンナフタレート繊維(PEN)からなる、総繊度1,100dtex、フィラメント数350本のマルチフィラメントを10T/10cmで撚りをかけ、撚糸コードを得た。該コードは、あらかじめマルチフィラメントにポリエポキシド化合物を含む処理液(ナガセ製のデナコールEX−313)で処理し(処理後の熱処理条件=230℃、対繊維付着量は固形分換算で0.07重量%)、次いで撚糸コードとしたのち、RFL接着剤(レゾルシン10重量部、35重量%フォルマリン15重量部、10重量%カセイソーダ3重量部、水250重量部を5時間常温で熟成した後の液と、40重量%ビニルピリジンSBRゴムラテックスと60重量%天然ゴムラテックスとを重量比で1:1に混合して得た接着剤液)で処理した(処理後の熱処理条件=100℃で2分間乾燥後、230℃で2分間熱処理)。
得られた繊維処理コードを補強材として用い、内層、層間、および外層のゴムとしてNBRを用いて、常法によりゴムホースを製造した。
比較例として、帝人テクノプロダクツ(株)製のポリエチレンテレフタレート繊維(「テトロン」)(PET)、および帝人トワロン(株)製のアラミド繊維(「トワロン」)(アラミド)を使用した以外は、実施例1と同様にして、ゴムホースを得た。得られたゴムホースにおける耐熱性、寸法安定性指数、耐久性、振動吸収性、コストの比較結果を表1に示す。
なお、各試験は、以下のとおり実施した。
【0038】
(1)耐熱性;
150℃の恒温層中にゴムホースを放置したのち、一定時間毎に取り出し水中にて圧力を窒素で加圧し気体の漏洩を確認した。
(2)寸法安定性;
圧力が5kg/cm2、温度が150℃の湿熱蒸気を通じながら30日間放置し、処理前後のホースの長さを測定することにより寸法変化割合を求めた。
(3)耐久性;
圧力が5kg/cm2、温度が150℃の湿熱蒸気を通じながら30日間放置しホース表面の亀裂から判断した。
(4)振動吸収;
岩本製作所製の粘弾性測定装置(VES−HC型)を用い、周波数10Hz〜100Hzにおける損失正接(tanδ)を測定し、下記の基準で判定した。
◎:損失正接が0.03を超える。
○:損失正接が0.025〜0.03
△:損失正接が0.02〜0.025未満
×:損失正接が0.02未満




【0039】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のゴムホースは、内面ゴム層と外面ゴム層との間に繊維補強層を有する繊維補強ゴムホースにおいて、該補強用繊維がポリエチレンナフタレート(PEN)であることを特徴とする。ポリエチレンナフタレート繊維は、アラミド繊維に比べて安価であり、またポリエチレンテレフタレートに比べて高耐熱性、高弾性率、高強度であり、しかも常温での内部損失が高く、振動吸収特性に優れる。このため、本発明のゴムホースは、自動車のエンジンルーム内やブレーキシステム配管用に使用されるゴムホースに特に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強用繊維を補強層として用いてなるゴムホースであって、該補強用繊維がポリエチレンナフタレート繊維を、ポリエポキシド化合物を含む第1処理剤で処理するか、あるいは該繊維の紡糸または延伸の段階でポリエポキシド化合物を含む処理剤で処理した後、撚糸コードとなし、さらにレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)で処理された繊維コードであることを特徴とするゴムホース。
【請求項2】
内面ゴム層と外面ゴム層との間に補強用繊維からなる補強層を有する繊維補強ゴムホースであって、該補強用繊維が請求項2に記載の繊維コードであり、かつ補強層の構造がスパイラル構造またはブレード構造である請求項2記載のゴムホース。
【請求項3】
10Hz〜100Hzにおける損失正接(tanδ)が0〜100℃の温度領域において0.02以上である請求項1または2に記載のゴムホース。


【公開番号】特開2006−52502(P2006−52502A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235683(P2004−235683)
【出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】