説明

ゴム変性スチレン系樹脂とその製造方法及びその樹脂を用いてなる積層体

【課題】 耐候性、耐衝撃性、に優れたゴム変性スチレン系樹脂組成物とその樹脂組成物を用いてなる耐候性、接着強度に優れた積層体を提供する。
【解決手段】 共役ジエン系ゴムが水素添加された部分水素添加ゴムとスチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体とを、ラジカル開始剤を用い、攪拌下で初期塊状重合を行い、ついで後段は懸濁重合を行うことにより、得られたゴム変性スチレン系樹脂のメチルエチルケトン不溶分ゲル分率及び該ゲル分のトルエンに対する膨潤指数が特定の範囲内となるように重合させる製造方法、それにより得られたゴム変性スチレン系樹脂、及びその樹脂組を用いて積層体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐候性、耐衝撃性に優れたゴム変性スチレン系樹脂とその製造方法及びその樹脂を用いてなる積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
耐衝撃性ポリスチレン〔ハイインパクトポリスチレン(HIPS)〕に代表されるゴム変性スチレン系樹脂は、耐衝撃性、成形性、寸法安定性に優れた樹脂であることから、電化製品、家庭製品、食品容器等の成形材料や包装材料として多岐の分野において使用されている。
しかしながら、周知の如く、従来のゴム変性スチレン系樹脂は、連続相中のポリスチレンに分散しているゴム粒子の分子鎖に不飽和二重結合を含有しているため、紫外線や空気中の酸素により劣化し、変色や衝撃性の低下を生じるなど、耐候性が低い、という問題を有している。従って、耐候性が必要な用途、例えば屋外用途ではほとんど使用されていなかった。
【0003】
また、ポリメタクリル酸メチル樹脂またはメタクリル酸メチルを主成分とした樹脂は、透明性、光沢、耐候性に優れることから、自動車部品、電気関係部品、照明器具、ディスプレーなどの幅広い分野において使用されているが、衝撃強度が低く、用途が限定されている。
また、連続相をスチレン、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチルを重合してなる共重合体とし、分散粒子に含まれるゴム状重合体をスチレン−ブタジエンブロック共重合体として、両者の屈折率を事実上一致させる方法が知られているが、ゴム変性スチレン系樹脂と同様にゴム粒子の分子鎖に不飽和二重結合を含有しているため、紫外線や空気中の酸素により劣化し、変色や衝撃性の低下を生じ、耐候性が低い、という問題を有している。
また、エチレン−α−オレフィン系共重合ゴム(EPM、EPDM)、アクリル系ゴムなどをゴム成分として用い、スチレン、アクリロニトリルをグラフト重合した、実質的に不飽和結合を含有しないAES樹脂、ASA樹脂は、ゴム変性スチレン系樹脂に比較し、紫外線、空気中の酸素に対する抵抗性が大きく耐候性が良いことが知られている。
しかしながら、AES樹脂、ASA樹脂は、ゴム変性スチレン系樹脂に比較し、着色性、成形性に劣る欠点を有している。特に着色性においては、ゴム変性スチレン系樹脂に比べ、濃色において深みが不足し、同じ色調に調色するためには、着色剤が多量に必要となる。
【0004】
特許文献1には、部分水添共役ジエン系ゴムを強靭化剤として含有する耐衝撃性及び剛性に優れた耐衝撃性スチレン系樹脂が開示されているが、効果としての耐候性について何ら言及されていない。
また、特許文献2には、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物からなるブロック共重合体を水素添加したゴム状重合体にメタクリル酸メチルを主成分とする単量体をグラフト重合する熱可塑性樹脂の製造方法が開示されているが、ブロック共重合体の水素添加率が高く、ゴム中の二重結合が減少することによって、著しくゴム成分の架橋反応が進行し難くなってしまうので、たとえ重合過程では所望のゴム粒子が形成されても、押出加工や射出成形の際に受ける機械的な剪断力によって粒子が変形あるいは破壊されて強度低下及び成形品の表面光沢や透明性が劣悪なものになってしまう。特許文献2には、実施例も含めてゴム成分の架橋に関する技術開示は全くされていない。
一方、スチレン系樹脂、塩化ビニル樹脂等の熱可塑性樹脂における耐候性の問題を克服し屋外での使用を可能とする為に、熱可塑性樹脂の表面層側に耐候性に優れる樹脂を積層する方法が行われているが、特にポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレンは、耐候性に優れる代表樹脂であるメタクリル樹脂、AAS樹脂、AES樹脂との親和性に乏しく、共押出等の熱融着により、強固に接着した積層体を形成することが不可能であった。
【0005】
また、特許文献3には、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物からなるジエン系重合体を水素添加した水添ジエン系重合体の存在下に、ラジカル重合可能な単量体成分をグラフト共重合させた、特定範囲のグラフト率及びメチルエチルケトン可溶分の固有粘度のゴム強化樹脂と他の熱可塑性樹脂との積層物が開示されており、また特許文献4には、共役ジエン系ゴム質重合体の水素化物存在下に芳香族ビニル化合物、又は、芳香族ビニル化合物及び該化合物と共重合可能な他のビニル単量体を重合してなるスチレン系樹脂と他の熱可塑性樹脂の積層体が開示されているが、これらに開示の樹脂は、スチレン系樹脂、塩化ビニル樹脂の両樹脂に接着することが困難であり、特にポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレンとの接着性が不十分であり、実用上の接着強度に至っていない。さらに、前述のジエン系重合体の水素添加率が高いことに起因する同様な欠点を有している。
【0006】
【特許文献1】特開昭64−90208号公報
【特許文献2】特開平1−163209号公報
【特許文献3】特許第2946627号公報
【特許文献4】特開平9−76426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐候性、耐衝撃性に優れ、更には従来のゴム変性スチレン系樹脂と同程度の、着色性、加工性を有するゴム変性スチレン系樹脂、その製造方法並びにその樹脂を用いてなる耐候性、接着強度に優れた積層体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記のような現状の問題点を解決するため、鋭意検討した結果、共役ジエン系ゴムが部分的に水素添加された部分水素添加ゴムとスチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体とを、ラジカル開始剤を用い、攪拌下で初期塊状重合し、後段に懸濁重合を行い、得られたゴム変性スチレン系樹脂のメチルエチルケトン不溶分ゲル分率及び該ゲル分のトルエンに対する膨潤指数が特定の範囲内となるように重合させるゴム変性スチレン系樹脂の製造方法、その製造方法により得られるゴム変性スチレン系樹脂、及びその樹脂を用いた積層体により、前記問題点が解決することことを見いだし、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、共役ジエン系ゴムの不飽和単位のうち7〜70モル%が水素添加された部分水素添加ゴム(A)とスチレン系単量体(B)と(メタ)アクリル酸エステル系単量体(C)とを、(A)+(B)+(C)を100重量部として(A)が3〜16重量部で、かつ(B)/(C)の重量比が20/80〜82/18の範囲内で、ラジカル開始剤を用い、攪拌下で初期塊状重合し、後段を懸濁重合を行い、得られるゴム変性スチレン系樹脂のメチルエチルケトン不溶分ゲル分率が6〜35重量%で、かつ該ゲル分のトルエンに対する膨潤指数が8〜16となるように重合させることを特徴とするゴム変性スチレン系樹脂の製造方法に関する。
【0009】
また本発明は、上記ゴム変性スチレン系樹脂の製造方法で得られたゴム変性スチレン系樹脂であって、その樹脂相を構成する共重合体が、スチレン系単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位が20/80〜80/20重量比であり、かつ得られるゴム変性スチレン系樹脂のメチルエチルケトン不溶分ゲル分率が6〜35重量%で、かつ該ゲル分のトルエンに対する膨潤指数が8〜16であることを特徴とするゴム変性スチレン系樹脂に関する。
更に本発明は、上記ゴム変性スチレン系樹脂の製造方法で得られたゴム変性スチレン系樹脂であって、その樹脂相を構成する共重合体が、スチレン系単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位が20/80〜80/20重量比であり、かつ得られたゴム変性スチレン系樹脂のメチルエチルケトン不溶分ゲル分率が6〜35重量%で、かつ該ゲル分のトルエンに対する膨潤指数が8〜16であるゴム変性スチレン系樹脂(I)からなる被覆層と(I)以外のスチレン系樹脂もしくは塩化ビニル系樹脂(II)からなる基材層とが、積層された構造を有することを特徴とする積層体に関する。
【0010】
なお、部分水素添加ゴム(A)が、25℃における5重量%スチレン溶液粘度が20〜150センチポイズであることが好ましい。また、部分水素添加ゴム(A)が、水素添加前の共役ジエン系ゴムがポリブタジエンであることが好ましい。更に、分散ゴム粒子相のゴム粒子径が0.5〜3.5μmであることが好ましい。また更に、スチレン系単量体(B)がスチレンであり、かつ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(C)がメタクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルであることが好ましい。更にまた、(I)と(II)からなる層が熱融着してあってもよい。また、(II)からなる基材層を構成する(I)以外のスチレン系樹脂が、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、ABS樹脂から選ばれた少なくとも1 種であることが好ましい。更に、(II)からなる基材層を構成する(I)以外のスチレン系樹脂もしくは塩化ビニル系樹脂が、木粉配合樹脂であってもよい。また更に、(II)からなる基材層を構成する(I)以外のスチレン系樹脂もしくは塩化ビニル系樹脂が、発泡体であってもよい。更にまた、(II)からなる基材層が、リサイクルされたポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、ABS樹脂、塩化ビニル系樹脂およびそれらの木粉配合樹脂であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法で得られたゴム変性スチレン系樹脂は、耐候性、耐衝撃性に優れ、且つ成形性、着色性に優れた材料である。本発明のゴム変性スチレン系樹脂及びその積層体は、自動車分野、家電・雑貨分野、エクステリア等の屋外製品をはじめとした住設・建材分野など幅広い用途での使用が可能であり、特に住設・建材分野の屋外製品及び建材として好適に用いることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いられる部分水素添加ゴムは、公知の方法で得られる共役ジエン系重合体を部分的に水素添加することによって得られる。公知の方法で得られる共役ジエン系重合体とは、通常、ゴム変性スチレン系樹脂の製造に用いられる全てのゴムが含まれる。例えば、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体(ランダム及びブロックSBR)、ポリイソプレン、ブタジエン−イソプレン共重合体、ブタジエン−イソプレン−スチレン共重合体、天然ゴム等が挙げられる。特に、耐候性、補強効果の観点からポリブタジエンが好適に用いられる。
共役ジエン重合体の水素添加率は、共役ジエン系ゴムの不飽和単位のうち7〜70モル%であり、好ましくは9〜60モル%であり、より好ましくは15〜45モル%である。水添率が7モル%未満では、耐候性が向上しない。一方、70モル%を超える場合は、耐衝撃性が劣る。
【0013】
水素添加方法は、従来公知のいかなる方法を用いても良く、例えば、チタンの有機金属化合物を主成分とする触媒を水素添加触媒として使用する方法、鉄、ニッケル、コバルトの有機化合物とアルキルアルミニウム等の有機金属化合物からなる触媒を使用する方法、ルテニウム、ロジウム等の有機金属化合物の有機錯体を使用する方法、パラジウム、白金、ルテニウム、コバルト、ニッケル等の金属を、カーボン、シリカ、アルミナ等の担体に担持した触媒を使用する方法などを用いることができる。各種の方法の中では、チタンの有機金属化合物単独またはそれとリチウム、マグネシウム、アルミニウムの有機金属化合物とから成る均一触媒(特公昭63−4841号公報、特公平1−37970号公報)を用い、低圧、低温の穏和な条件で水素添加する方法は、工業的に好ましい。
また、特に限定されるものではないが、水素添加後の不飽和1,2ビニル結合は15モル%以下が好ましく、より好ましくは10モル%以下である。15モル%を超える場合は、耐熱安定性、耐候性に劣る。
また、部分的に水素添加させた後の部分水素添加ゴムの100℃で測定したムーニー粘度(ML1+4、100℃)が20〜80の範囲にあることが好ましく、25℃における5重量%スチレン溶液粘度(5%SV)が20〜150mPa・sの範囲にあることが好ましく、より好ましくは30〜120mPa・sの範囲である。この範囲内の部分水素添加ゴムを用いると、耐衝撃性に優れ、かつ製造に際してゴム粒子径の制御が容易となり好ましい。
本発明のゴム変性スチレン系樹脂を製造する際に用いられる部分水素添加ゴムの含有量は3〜16重量%であり、好ましくは5〜14重量%である。部分水素添加ゴムの含有量が3重量%未満であると、補強効果が充分ではなく、耐衝撃性が不足し、16重量%を超える場合は、耐衝撃性は向上するものの剛性、成形性、耐候性が低下し、使用用途が大きく制約を受けるので好ましくない。
【0014】
本発明で用いられるスチレン系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン等が挙げられ、単独あるいは二種以上用いても良い。特に、スチレンが好適に用いられる。又、(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等が挙げられる。これらを単独、または混合して用いても良い。特に、メチルメタクリレート、メチルメタクリレートとブチルアクリレートの混合品を好適に用いることが出来る。メチルメタクリレートとブチルアクリレート混合品を用いる場合、ブチルアクリレートの量は連続相を形成する重合体の10重量%以下が好適な使用範囲であり、10重量%を越える場合は、耐熱性が低下し、成形体の実用範囲が狭くなり好ましくない。
スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体の割合は、重量比で20:80〜82:18であり、好ましくは30:70〜70:30であり、より好ましくは40:60〜60:40である。スチレン系単量体の割合が重量比で20未満になると耐衝撃性と加工性を同時に満足する樹脂が得られず、更には積層体にした際にポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン等との接着性が低下し好ましくない。一方、スチレン単量体の割合が重量比で82を越えると耐候性が低下し、更には積層体にした際に塩化ビニル樹脂、ABS樹脂等との接着性が低下し好ましくない。
【0015】
本発明のゴム変性スチレン系樹脂を製造する際に必要に応じてその他の共重合可能な単量体(D)を用いても良い。ここで用いるその他の共重合可能な単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の無水物基含有単量体;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のジカルボン酸イミド基含有単量体;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有単量体;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有単量体;アクリルアミン、アミノエチルメタクリレート、アミノプロピルメタクリレート等のアミノ基含有単量体;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート等のヒドロキシル基含有単量体などが挙げられる。
本発明の樹脂相を形成するスチレン系樹脂の分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定したポリスチレン換算分子量)は、重量平均分子量で7万〜30万が好ましく、より好ましくは9万〜20万で範囲である。
【0016】
本発明の分散ゴム粒子相のゴム粒子径は、0.5〜3.5μmの範囲が好ましく、より好ましくは0.7〜3.0μmであり、更に好ましくは1.0〜3.0μmの範囲である。ゴム粒子径が0.5μm未満であると、補強効果が充分ではなく、耐衝撃性が不足し、3.5μmを超える場合は、剛性が低下し好ましくない。
本発明はゴム成分として部分水素添加ゴムを用いる。ゴム自体の光などに対する安定性、即ち耐候性は、水素添加率が高いほど改良されるが、反面化学反応性が水素添加率の上昇に伴い急激に低下する為、グラフト反応とゴムの架橋反応が進行し難くなってしまう。本発明のゴム変性スチレン系樹脂の特徴は、ゴム粒子表面に特定の組成範囲のスチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体の共重合体が適度な量でグラフトし、かつゴム粒子が適度に架橋していることにより、樹脂部との相溶性が高く、成形加工時の剪断力に対してもゴム粒子の変形を生じないことにより、良好な衝撃強度、耐候性が得られることである。
【0017】
グラフト率及びゴム粒子の架橋程度を直接規定することは実際上簡単ではないが、グラフト率はメチルエチルケトン不溶分ゲル分率、ゴムの架橋程度は該ゲル分のトルエンに対する膨潤指数とで間接的に規定することができる。本発明のゴム変性スチレン系樹脂のゲル分率(ゴム変性スチレン系樹脂中のメチルエチルケトン不溶部の分率)は6〜35重量%、好ましくは6〜30重量%で、かつ架橋度の指標となるトルエンに対する膨潤指数(ゴム変性スチレン系樹脂中のトルエン不溶のゲル分を分取し、該ゲル分のトルエンに対する膨潤指数)は8〜16であり、好ましくは9〜13の範囲である。
ゲル分率が6重量%未満では、耐衝撃性に優れるものが得られず、35重量%を超えるものは、剛性、加工性が低下する。又、膨潤指数が9未満では、ゴム粒子の架橋程度が過大となり耐衝撃性に劣ったものとなり、逆に16を超えるとゴム粒子の架橋程度が不十分で耐衝撃性、表面光沢が低下する。
【0018】
以下に、本発明のゴム変性スチレン系樹脂の製造方法を示す。
本発明のゴム変性スチレン系樹脂は、ラジカル開始剤を用い、攪拌下で初期塊状重合を行い、次いで後段を懸濁重合の二段で行うことにより製造される。共役ジエン系重合体として部分水素添加したゴムを使用するため、十分なゴムへのグラフト反応と、十分なゴムの架橋反応を達成するためには、連続塊状重合または連続溶液重合は適さない。部分水素添加ゴムをスチレン系単量体/(メタ)アクリル酸エステル系単量体、及び必要に応じて連鎖移動剤、安定剤、鉱油などの添加剤からなる原料溶液に溶解し、通常最後にラジカル開始剤として有機過酸化物が加えられるが、溶解の順序はいずれでもかまわない。有機過酸化物は、初期の塊状重合原料溶液に添加し、次いで後段の懸濁重合に追加添加する。
ラジカル開始剤として用いられる有機過酸化物としては、パーオキシケタール類、ジアルキルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシジカーボネート類、パーオキシエステル類、ケトンパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類などが挙げられる。具体的には、10時間半減期が75〜100℃の有機過酸化物としては、ベンゾイルパーオキサイド、1. 1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1.1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3.3.5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどが挙げられ、10時間半減期が110〜130℃の有機過酸化物としては、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いる。好ましくは、10時間半減期が75〜100℃の有機過酸化物と10時間半減期が110〜130℃の有機過酸化物を併用することが好ましい。
【0019】
以下に、本発明の塊状−懸濁重合方法の典型例を示す。
攪拌機付き重合機に、スチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、部分水素添加共役ジエン系ゴムを仕込み、攪拌溶解後、重合開始剤として10時間半減期が75〜100℃の有機過酸化物、分子量調節のための連鎖移動剤としてメルカプタン類を添加し、温度80〜120℃の範囲で重合転化率25〜40重量%まで塊状重合する。ゴムの平均粒子径は、攪拌機の回転数を調整することによって行う。
次いで、重合開始剤として10時間半減期が100〜140℃の有機過酸化物、1種または2種以上の懸濁安定剤、純水を重合溶液100重量部に対して150〜300重量部加える。懸濁状態で、温度100℃から140℃の範囲で温度を上昇しながら5〜8時間をかけ重合を完結させる。反応終了後、ビーズ状の共重合体を洗浄、脱水、乾燥を行い目標とするゴム変性スチレン系樹脂を得る。部分水素添加ゴムの含有量は、目標とする含有量になるように原材料中のゴム状弾性体の含有量を調整することによって達成することができるが、高濃度のゴム状弾性体を含有するゴム変性スチレン系樹脂を上記方法で作成し、別に作成した、ゴム状弾性体を含有しないスチレン系樹脂と混合することによっても達成することができる。但し、混合後の樹脂が本発明の構成要件をすべて満たすことは当然である。
【0020】
比較として、典型的な連続塊状または連続溶液重合方法を示す。
予めスチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体に部分水素添加共役ジエン系ゴムを溶解しておく。重合溶媒は必ずしも必要としないが、エチルベンゼン、トルエン、キシレン等を用いることが可能である。このようにして調整された重合原液を連続して攪拌機付き第一段重合機に仕込み、続いて直列に連結された、第二段、第三段重合機へと移り重合転化率を高める。重合開始剤としての有機過酸化物、分子量調節のための連鎖移動剤を各重合機に任意に連続添加する。このようにして最終重合機から出た重合液の重合転化率は50〜80重量%である。塊状−懸濁重合方式と比較すると、最終重合転化率が低いため、ゴムに対するグラフト率は低く、かつ分散状のゴム粒子体の架橋反応率は著しく低いため、最終重合反応機を出た重合溶液は200〜250℃の高温で加熱脱揮で溶媒と未反応の単量体を除去すると同時にゴム粒子の架橋反応を行う。高温処理装置としては、熱交換器とフラッシュタンクシステム又は多段ベント付き押出機等を用いる。
通常のゴム変性スチレン系樹脂の製造の場合は、水素添加しない共役ジエン系ゴムを使用するため連続塊状、連続溶液重合でもゴムへのグラフト反応は十分で、ゴムの架橋反応も200℃以上の加熱が必要であるとしても容易に進み、塊状−懸濁重合と比較して生成する樹脂性能は大差無い。しかしながら、本発明ではグラフト反応と架橋反応部位が減少した部分水素添加共役ジエン系ゴムを用いるため、連続塊状、連続溶液重合では十分なグラフト反応と架橋反応の進行が困難となり、結果としてゴムへ変性スチレン系樹脂の特性、特に強度と耐候性が劣るものとなる。
【0021】
また、本発明においてゴム変性スチレン系樹脂の製造直後はビーズ状の形態のため、押出機を用いて、適正なサイズのペレット状形態に整えるが、主としてこの段階において、スチレン系樹脂に慣用される各種添加剤、例えば、無機充填材、帯電防止剤、熱安定剤、ヒンダートフェノール系、リン系、イオウ系などの酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、加工助剤、分散剤、抗菌剤、核剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、染料、顔料、着色剤等を添加できる。
ここで、無機充填剤とは、例えば、タルク、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、ガラスフレーク、ガラスファイバー等が挙げられ、好ましくは、タルク、炭酸カルシウムである。
また、紫外線吸収剤とは、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤などが挙げられ、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール等が挙げられ、好ましくは、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールである。
【0022】
また、光安定剤とは、例えばヒンダートアミン系光安定剤などが挙げられる。ヒンダートアミン系光安定剤としては、例えば、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セパケート、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン・2,4−ビス[N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4ピペリジル)アミノ]−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物が挙げられる。好ましくは、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セパケートである。
紫外線吸収剤、光安定剤の添加量は、紫外線吸収剤と光安定剤の総量でゴム変性スチレン系樹脂100重量部に対して0.2〜2.0重量部が好ましく、より好ましくは0.4〜1.5重量部である。
また、ポリジメチルシロキサンや鉱油、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸のアミド類を添加することにより、衝撃強度を一段と高めることができる。
さらに、テルペン系樹脂、テルペン系水素添加樹脂を添加することにより、成形性、耐熱性、耐衝撃性、剛性バランスや外観特性を高めることもできる。
【0023】
本発明の積層体は、(I)以外のスチレン系樹脂もしくは塩化ビニル系樹脂(II)からなる層を基材とし、その基材の一部あるいは全体をゴム変性スチレン系樹脂(I)からなる層で被覆してなることを特徴とする積層体である。(I)以外のスチレン系樹脂としては、例えば、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、MS樹脂、透明HIPS樹脂、透明ABS樹脂、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル−ブタジエンゴム共重合体樹脂、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂、スチレン−無水マレイン酸共重合樹脂等が挙げられ、これらは単独または併用して使用することができる。
本発明の積層体中の(II)からなる基材層には、ゴム変性スチレン系樹脂(I)と同様に、無機充填材、帯電防止剤、熱安定剤、ヒンダートフェノール系、リン系、イオウ系などの酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、加工助剤、分散剤、抗菌剤、核剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、染料、顔料、着色剤等を添加することができる。
本発明の積層体中の(II)からなる基材層には、(I)以外のスチレン系樹脂もしくは塩化ビニル系樹脂の木粉配合樹脂を用いることができる。ここで使用される木粉は、樹木の種類を特に限定するものではないが、例えば、桧、トドマツ、カラマツ、杉、栂、ブナ、楓、樅、桜、竹などの木及び住宅等で使用された廃材の粉砕品や製材時のおがくず等が挙げられる。又、籾殻、果物殻、とうもろこし穂芯、紙、パルプ等の粉砕品も含まれる。これらは通常60メッシュパス以下のものが好適に用いられる。
【0024】
本発明の積層体中の(II)からなる基材層には、(I)以外のスチレン系樹脂もしくは塩化ビニル系樹脂の発泡体を用いることができる。発泡剤及び発泡方法については、公知の方法で実施することができる。発泡剤としては物理発泡剤または化学発泡剤が使用できる。例えば、物理発泡剤としては、空気、炭酸ガス、窒素ガス等の無機系、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の有機系が使用できる。化学発泡剤としては、重炭酸塩、炭酸塩、炭酸ナトリウム+酸などの無機系、アゾ化合物、ヒドラジン誘導体、ニトロソ化合物等の有機系が使用できる。
本発明の積層体中の(II)からなる基材層には、リサイクルされたポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、ABS樹脂、塩化ビニル系樹脂及びそれらの木粉配合樹脂を用いることができる。リサイクルされた材料の形状は、加工時の安定性の確保の観点から、裁断、粉砕されていることが必要である。好ましくは、リサイクル材を混練機にて加工処理した再生樹脂ペレットである。
【0025】
本発明のゴム変性スチレン系樹脂は、射出成形、プレス成形、シート押出成形、異型押出成形、真空成形、ブロー成形、発泡成形等により成形することが可能である。また、本発明の積層体は、多層共押出成形、2色射出成形、インサート成形、多層中空成形、多層異形押出成形等により成形することが可能である。
本発明によると基材層のとなる(I)以外のスチレン系樹脂もしくは塩化ビニル系樹脂(II)からなる層と被覆層となるゴム変性スチレン系樹脂(I)からなる層とを熱融着するだけで十分な界面接着力が得られる。つまり本発明においては、積層体を得る場合に、通常用いられる接着剤を必要としないのである。このことも本発明の大きな特徴である。
また、本発明のゴム変性スチレン系樹脂及びそれを用いた積層体は、耐候性・耐衝撃性に優れることから、自動車分野、家電・雑貨分野、エクステリア等の屋外製品をはじめとした住設・建材分野などに幅広く使用することができる。特に住宅設備・建材の屋外製品である雨樋、破風、胴差、エアコンダクトカバー、竹垣、フェンス、ラティス、プランター等に好適に用いられる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例などを用いて更に詳しく説明する。但し、本発明はこれらの実施例などにより何ら限定されるものではない。
部分水素添加ゴムについての測定には、以下の方法を用いた。
(1)5重量%スチレン溶液粘度:
スチレンを溶剤とした5重量%溶液を用い、25℃でキャノンフェンスケ型粘度計を用いて測定した。単位は、cpsである。
(2)水添率及びミクロ構造(不飽和1,2ビニル結合):
FT−NMRを用いて分析した。(測定の詳細は、特開昭64−90208号公報に記載の手順に従った。)
【0027】
ゴム変性スチレン系樹脂及び積層体についての測定には、以下の方法を用いた。
(1)分散粒子径:
四酸化オスミウムで染色したゴム変性スチレン系樹脂から厚さ70nmの超薄切片を作成し、電子顕微鏡撮影し、倍率1万倍の写真とした。写真中の分散粒子500〜1000個の粒子径を測定し、次式により重量平均粒子径を算出し、その値を分散粒子径とした。
分散粒子径=ΣniDi4 /ΣniDi3
ここで、niは粒子径Diのゴム状弾性体の粒子の個数、また、粒子径Diは写真中の粒子面積から円相当径としたときの粒子径である。本測定は、画像解析装置IP−1000PC(旭化成(株)製)を用いて測定した。
(2)ゴム状弾性体含有量:
重合直後のゴム変性スチレン系樹脂から溶媒、未反応単量体を除去する前の溶液を採取する。230℃−10mmHgの減圧下で乾燥して、重合溶液中の固形分の重量%を求める。この値と、重合前の原料溶液に含まれるゴム状弾性体の重量%から、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状弾性体の重量%を求めた。
【0028】
(3)樹脂相スチレン系樹脂組成:
ゴム変性スチレン系樹脂をメタノール10体積%を含むメチルエチルケトンに溶解し、遠心分離機((株)日立製作所製himac、CR−20(ローター:R20A2))で20000rpmで60分間処置したのち、沈殿物と上澄み液を分離し、大量のメタノールに上澄み液を加え、ゴム変性スチレン系樹脂中のスチレン系樹脂部を沈殿させる。この沈殿物を取り出し、50℃、100mmHgの減圧下で乾燥させる。乾燥後のサンプルを日本分光(株)製、JNM−G400、FT−NMRを用いて、以下の条件下で 1Hを測定する。
パルス幅=8.4μs、データポイント=16384、繰り返し時間=7.559秒、積算回数=1000、サンプル濃度=10wt%、溶媒=1,1,2,2−テトラクロルエタン(d2 )、サンプル管=5mmφ、測定温度=120℃ スチレン系単量体のフェニル基に由来するピークが6.2〜7.4ppm、アクリル酸エステル系単量体の水素に由来するピークが3.4〜3.8ppmに現れる。またメタクリル酸エステル系単量体のメチル基の水素に由来するピークが0.2〜1.1ppmに現れる。ピーク分離操作を行ってピーク面積比を求め、この値よりスチレン系樹脂部の組成重量比を求めた。この値と上記(2)で求めたゴム状弾性体含有量から、ゴム変性スチレン系樹脂中の各単量体成分の重量%を求めた。
【0029】
(4)シャルピー衝撃強さ:
ISO−179に準じて測定した。
(5)メチルエチルケトン不溶分ゲル分率:
ゴム変性スチレン系樹脂1gを精秤し(W1)、メチルエチルケトン20ミリリットルを加え23℃で2時間振とう後、遠心分離機((株)日立製作所製himac、CR−20(ローター:R20A2))にて10℃以下、20000rpmで60分間遠心分離する。上澄み液をデカンテーションして除き、不溶分を得る。引き続き、160℃、20mmHg以下の条件で1時間真空乾燥し、デシケータ内で室温まで冷却後、不溶分の重量を精秤する(W2)。下記式により、メチルエチルケトン不溶分ゲル分率を求める。
メチルエチルケトン不溶分ゲル分率(%)=(W2/W1)×100
(6)トルエンに対する膨潤指数:
ゴム変性スチレン系樹脂1gを精秤し(W3)、トルエン20ミリリットルを加え23℃で2時間振とう後、遠心分離機((株)日立製作所製himac、CR−20(ローター:R20A2))にて10℃以下、20000rpmで60分間遠心分離する。上澄み液をデカンテーションして除き、トルエンを含んだ不溶分の重量を精秤する(W4)。引き続き、160℃、20mmHg以下の条件で1時間真空乾燥し、デシケータ内で室温まで冷却後、不溶分の重量を精秤する(W5)。下記式により、トルエンに対する膨潤指数を求める。
トルエンに対する膨潤指数=(W4/W5)
【0030】
(7)耐候性 色差:
(耐候性試験サンプルの作成)
下記配合処方で混合し、着色剤・耐候剤を押出機にて溶融混練して白着色ペレットを得た。
ゴム変性スチレン系樹脂 100重量部
顔料 酸化チタン 2.4重量部
滑剤 エチレンビスステアロアミド 0.6重量部
耐候剤 2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール(チバ・スペ
シャルティ・ケミカルズ(株)製チヌビンP)
0.4重量部
耐候剤 ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セパケート(三共(
株)サノール LS−770) 0.8重量部
それをさらに射出成形機にて50×50×2mmの平板を成形し、切り出しして耐候性評価用サンプルを得た。下記条件にて耐候性を評価した。
(耐候性評価条件)
得られた耐候性評価用サンプルをメタルハライドランプ(KF−1フィルター使用)を光源とするメタルウェザー[ダイプラ・ウィンテス(株)製、型式:KU−R5C1−A]に800時間暴露し、色差計にて色差(ΔE*)を測定した。色差測定は、暴露時間200、400、600、800時間毎に実施し、その測定値の最大値を耐候性:色差(ΔE*)の値とした。
メタルウェザー試験条件:
光源のエネルギー強度 75mW/cm2
運転モード (ランプ照射)ブラックパネル温度 63℃、湿度 50RH%
(結露) ブラックパネル温度 30℃、湿度 98RH%
(水噴霧) 結露の前後 30秒
ランプ照射、結露各4時間のサイクルにて試験を実施した。
色差測定条件 C光 2°視野
【0031】
(9)積層体接着性評価
各積層体を、23℃、24時間状態調節後、JIS−K−5400:付着性碁盤目テープ法に準じて、(I)からなる層を貫通して、(II)からなる層に達する切り傷間隔5mmの切り傷をつけ測定を行った。
欠損率30%未満:○ 欠損率30%以上:×
<ゴム変性スチレン系樹脂製造例>
[共役ジエン系ゴム及び部分水素添加ゴムA0〜A4の作製]
内容積10リットルの攪拌機付、ジャケット付オートクレーブを反応器として用いて、ブタジエン/n−ヘキサン混合液(ブタジエン濃度20重量%、テトラメチルエチレンジアミン100ppm含有)を20リットル/hrの速度で、n−ブチルリチウム/n−ヘキサン溶液(濃度5重量%)を70ミリリットル/hrで導入、重合温度110℃でブタジエンの連続重合を実施した。得られた活性重合体をメタノールで失活、別の内容積10リットルの攪拌機付、ジャケット付の反応器に重合体溶液8リットルを移し、温度60℃にて、水添触媒としてジ−p−トリルビス(1−シクロペンタジエニル)チタニウム/シクロヘキサン溶液(濃度1ミリモル/リットル)250ミリリットルと、n−ブチルリチウム溶液(濃度5ミリモル/リットル)50ミリリットルとを0℃、2.0kg/cm2 の水素圧下で混合したものを添加、水素分圧3.0kg/cm2 にて30分間反応させた。
得られた部分水素添加重合体溶液に安定剤を加え、溶剤を除去した。メタノール失活後にサンプリングを行って安定剤を加え、溶剤を除去して得た部分水素添加前の重合体A0及び部分水素添加重合体A1のゴム状弾性体の分析値を表1に示す。重合体A0と同様にして得られたブタジエン重合体を水素添加反応時間を変えた他は部分水素添加重合体A1と同様の条件で水素添加し、水素添加率の異なる部分水素添加重合体A2〜A4を得た。これらのゴム状弾性体の分析値も表1に示す。
【0032】
(実施例1〜4)
攪拌機付き重合機にスチレン49.7重量部とメチルメタクリレート50.3重量部、ゴム状弾性体A2;11.0重量部を仕込み、3時間室温にて攪拌後、重合開始剤としてベンゾイルパーオキサイド0.04重量部、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン0.2重量部を添加し、攪拌しながら、温度90℃にて重合率30%まで塊状重合を行った。次いで、重合開始剤としてジクミルパーオキサイド0.2重量部、懸濁安定剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.001重量部及び第三リン酸カルシウム0.5重量部、純水200重量部を加え、温度100℃で2時間、115℃で1.5時間、130℃で3時間重合した。反応終了後、洗浄、脱水、乾燥を行い、ビーズ状のゴム変性スチレン系樹脂を得た。ゴム状弾性体の組成は、10重量%であった。分散粒子径は、攪拌機の攪拌数、ベンゾイルパーオキサイド量、t−ドデシルメルカプタン量で調整した。また、必要に応じて重合温度も調整した。分析、評価結果を表2に示す。 (実施例5)
スチレン49.7重量部とメチルメタクリレート50.3重量部、ゴム状弾性体A2;8.6重量部とした以外は実施例1〜4と同様に操作し、ゴム変性スチレン系樹脂を得た。ゴム状弾性体の組成は、8.0重量%であった。分析、評価結果を表2に示す。
(実施例6)
スチレン81.0重量部、メチルメタクリレート19.0重量部、t−ドデシルメルカプタン0.15重量部とした以外は実施例1〜4と同様に操作し、ゴム変性スチレン系樹脂を得た。分析、評価結果を表2に示す。
【0033】
(実施例7)
ゴム状弾性体A1とした以外は、実施例1〜4と同様に操作し、ゴム変性スチレン系樹脂を得た。分析、評価結果を表2に示す。
(実施例8)
ゴム状弾性体A3とした以外は、実施例1〜4と同様に操作し、ゴム変性スチレン系樹脂を得た。分析、評価結果を表2に示す。
(実施例9)
スチレン50.0重量部、メチルメタクリレート44.0重量部、ブチルアクリレート6.0重量部とした以外は実施例1〜4と同様に操作し、ゴム変性スチレン系樹脂を得た。分析、評価結果を表2に示す。
(実施例10)
実施例1で得られたゴム変性スチレン系樹脂を耐候性評価サンプル調整時に耐候剤二種類を未添加とした。評価結果を表2に示す。
【0034】
(比較例1)
ゴム状弾性体A0;6.4重量部、スチレン100重量部、ベンゾイルパーオキサイド0.027重量部、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン0.05重量部とした以外は実施例1〜4と同様に操作し、ゴム変性スチレン系樹脂を得た。ゴム状弾性体の組成は、6.0重量%であった。分析、評価結果を表3に示す。
(比較例2)
ゴム状弾性体A2;11.0重量部、スチレン100重量部、t−ドデシルメルカプタン0.1重量部とした以外は実施例1〜4と同様に操作し、ゴム変性スチレン系樹脂を得た。分析、評価結果を表3に示す。
(比較例3)
実施例1で得られたゴム変性スチレン系樹脂に、実施例1と同一のモノマー組成のマトリックス樹脂を押出機にて混合混練し、最終的なゴム状弾性体量を2重量%とした。評価結果を表3に示す。
(比較例4)
ゴム状弾性体A0とした以外は、実施例1〜4と同様に操作し、ゴム変性スチレン系樹脂を得た。分析、評価結果を表3に示す。
(比較例5)
ゴム状弾性体A4とした以外は、実施例1〜4と同様に操作し、ゴム変性スチレン系樹脂を得た。分析、評価結果を表3に示す。
【0035】
(比較例6)
ゴム状弾性体A2:8.6重量部、スチレン17.0重量部、メチルメタクリレート83.0重量部とした以外は実施例1と同様に操作し、ゴム変性スチレン系樹脂を得た。分析、評価結果を表3に示す。
(比較例7)
比較例1で得られたゴム変性スチレン系樹脂を耐候性評価サンプル調整時に耐候剤二種類を未添加とした。評価結果を表3示す。
(連続溶液重合法による比較例)
(比較例8〜11)
ゴム状弾性体A2;8.0重量部をスチレン39.2重量部、メチルメタクリレート39.2重量部、エチルベンゼン13.6重量部に溶解し、次いで1,1ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.02重量部、連鎖移動剤としてα−メチルスチレンダイマー0.4重量部を加え原料溶液を調整した。原料溶液を、攪拌機を備えた塔式反応機3基(各々の内容積6.2リットル)を直列に連結した重合装置に、3.0リットル/hrで連続的に供給した。重合温度は、第一反応機128℃、第二反応機135℃、第三反応機155℃で重合を実施した。得られた重合溶液を二段ベント付脱揮押出機に連続的に供給し、未反応単量体、溶媒を回収し、ゴム変性スチレン系樹脂を得た。脱揮押出機は温度を200〜260℃、真空度を20torrとした。分散粒子径は、攪拌機の攪拌数、1,1ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン量、α−メチルスチレンダイマー量で調整した。また、必要に応じて重合温度も調整した。分析、評価結果を、実施例1〜4と比較し表4に示す。
【0036】
<積層体実施例>
積層体に用いた樹脂は以下の通りである。
(I)
ゴム変性スチレン系樹脂H2、H6、H9、H11、H16を用いた。
(II)
B1:耐衝撃性ポリスチレン:PSジャパン(株)製、PSJポリスチレン、475D
B2:ABS樹脂:旭化成ケミカルズ(株)製、スタイラックABS、120BB3:塩化ビニル樹脂
(実施例11〜15、比較例12〜16)
耐候性試験サンプルとして着色剤、耐候剤を添加し白着色された(I)の各樹脂を圧縮成形により180×150×0.2mmのシートを各々作成する。(II)の各樹脂を圧縮成形により180×150×3mmのシートを各々作成する。次いで、(I)、(II)の各シートを180×150×3mmの金型に挿入し、200℃で5分間予熱後、2MPaの圧力下で1分間シートの圧着を行い、更に、水冷された冷却プレスで冷却し、積層体を得た。積層体を切り出しし、耐候性評価用サンプルを作成した。(I)からなる層を暴露面とし、耐候性を評価した。又、得られた積層体にて接着性を評価した。評価結果を表5に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
【表4】

【0041】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の製造方法によって得られたゴム変性スチレン系樹脂は、耐候性、耐衝撃性に優れかつ成形性、着色性に優れた材料である。本発明のゴム変性スチレン系樹脂及びその樹脂を用いた積層体は、自動車分野、家電・雑貨分野、エクステリア等の屋外製品をはじめとした住設・建材分野など幅広い用途での使用が可能であり、特に住設・建材分野の屋外製品及び建材として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエン系ゴムの不飽和単位のうち7〜70モル%が水素添加された部分水素添加ゴム(A)とスチレン系単量体(B)と(メタ)アクリル酸エステル系単量体(C)とを、(A)+(B)+(C)を100重量部として(A)が3〜16重量部でかつ(B)/(C)の重量比が20/80〜82/18の範囲内で、ラジカル開始剤を用い、攪拌下で初期塊状重合し、後段を懸濁重合させることにより得られるゴム変性スチレン系樹脂のメチルエチルケトン不溶分ゲル分率が6〜35重量%で、かつ該ゲル分のトルエンに対する膨潤指数が8〜16となるように重合させることを特徴とするゴム変性スチレン系樹脂の製造方法。
【請求項2】
部分水素添加ゴム(A)が、25℃における5重量%スチレン溶液粘度が20〜150mPa・sであることを特徴とする請求項1記載のゴム変性スチレン系樹脂の製造方法。
【請求項3】
部分水素添加ゴム(A)が、水素添加前の共役ジエン系ゴムがポリブタジエンであることを特徴とする請求項1又は2記載のゴム変性スチレン系樹脂の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載のゴム変性スチレン系樹脂の製造方法で得られたゴム変性スチレン系樹脂であって、その樹脂相を構成する共重合体が、スチレン系単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位が20/80〜80/20重量比であり、かつ得られるゴム変性スチレン系樹脂のメチルエチルケトン不溶分ゲル分率が6〜35重量%で、かつ該ゲル分のトルエンに対する膨潤指数が8〜16であることを特徴とするゴム変性スチレン系樹脂。
【請求項5】
部分水素添加ゴム(A)が、水素添加前の共役ジエン系ゴムがポリブタジエンであることを特徴とする請求項4記載のゴム変性スチレン系樹脂。
【請求項6】
分散ゴム粒子相のゴム粒子径が0.5〜3.5μmであることを特徴とする請求項4又は5記載のゴム変性スチレン系樹脂。
【請求項7】
スチレン系単量体(B)がスチレンであり、かつ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(C)がメタクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルであることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載のゴム変性スチレン系樹脂。
【請求項8】
請求項1記載のゴム変性スチレン系樹脂の製造方法で得られたゴム変性スチレン系樹脂であって、その樹脂相を構成する共重合体が、スチレン系単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位が20/80〜80/20重量比であり、かつ得られるゴム変性スチレン系樹脂のメチルエチルケトン不溶分ゲル分率が6〜35重量%で、かつ該ゲル分のトルエンに対する膨潤指数が8〜16であるゴム変性スチレン系樹脂(I)からなる被覆層と(I)以外のスチレン系樹脂もしくは塩化ビニル系樹脂(II)からなる基材層とが、積層された構造を有することを特徴とする積層体。
【請求項9】
分散ゴム粒子相のゴム粒子径が0.5〜3.5μmであることを特徴とする請求項8記載の積層体。
【請求項10】
(I)と(II)からなる層を熱融着してなることを特徴とする請求項8又は9記載の積層体。
【請求項11】
(II)からなる基材層を構成する(I)以外のスチレン系樹脂が、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、ABS樹脂から選ばれた少なくとも1 種の樹脂であることを特徴とするである請求項8又は9記載の積層体。
【請求項12】
(II)からなる基材層を構成する(I)以外のスチレン系樹脂もしくは塩化ビニル系樹脂が、木粉配合樹脂であることを特徴とする請求項8又は9記載の積層体。
【請求項13】
(II)からなる基材層を構成する(I)以外のスチレン系樹脂もしくは塩化ビニル系樹脂が、発泡体であることを特徴とする請求項8又は9記載の積層体。
【請求項14】
(II)からなる基材層が、リサイクルされたポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、ABS樹脂、塩化ビニル系樹脂およびそれらの木粉配合樹脂から選ばれた少なくとも1 種の樹脂であることを特徴とする請求項8又は9記載の積層体。

【公開番号】特開2006−89557(P2006−89557A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−275096(P2004−275096)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(500199479)PSジャパン株式会社 (45)
【Fターム(参考)】