説明

ゴム組成物、止水材及び止水構造

【課題】コンクリートとの接着性に優れ、表面に離型フィルムを必要としない止水材を得る。
【解決手段】固型のゴム材料(ブチル系ゴムを除く)100重量部に、酸化カルシウム2〜300重量部が配合されており、コンクリートとの接着性に優れている、ゴム組成物を提供する。本発明のゴム組成物は、コンクリート構造物の止水材原料として極めて有用である。かかるゴム組成物をシート状止水材又は帯状止水材6として成型し、コンクリート構造物と接着させることにより、簡単に止水構造を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成ゴム、天然ゴム、再生ゴムに酸化カルシウム又は更に親水性ポリマーが配合されているゴム組成物に関する。特に、本発明は、かかるゴム組成物をシート状又は帯状に成型し、土木、建築分野のコンクリート壁遮水面やコンクリート打ち継ぎ部に配設し、遮水面や打継ぎ面を止水する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート建造物等のコンクリート打継ぎ部には、再生ゴムを主体とした止水材が使用されている(例えば、特許文献1及び2参照)。かかる止水材は、再生ゴムに充填剤、軟化剤、樹脂等を配合して成型されているが、製品表面に粘着性があり、製品を離型フィルム等で保護する必要がある。
【特許文献1】特公昭51−21246号公報
【特許文献2】特公平1−26391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そのため、現場で1次側コンクリートに埋設するときに、埋設部分の離型フィルムを取り除き埋設し、2次側コンクリート打設まではゴミ、埃等が付着して接着性を阻害しないように、埋設していない部分の離型フィルムをつけたままで放置しておき、2次側コンクリート打設直前に、離型フィルムを取り除いてコンクリートを打設し、打継ぎ部の止水処理を行う。
【0004】
また、コンクリート建造物の地下外壁防水においては、ゴム系シート、ゴム化アスファルトシート、塩ビ系シート、EVA系シート等が遮水シートとして用いられている。かかる遮水シートの施工には、地下外壁を完成させた後、外壁面に遮水シートを貼り付け防水する後やり工法が主体に用いられる。一方、遮水シートの施工には、予め遮水シートを地下連続壁下地等に貼り、その後コンクリートを打設し、地下外壁を完成させると同時に遮水シートによる防水も完了する先やり工法も行われている。
【0005】
後やり工法においては、接着剤等を用いて遮水シートをコンクリート下地に全面接着させれば、シートの破損等の不具合により地下水等が侵入しても、地下水等がシートと下地の界面を伝わって拡散して、ひび割れ個所等から漏水するのを防ぐことができる。しかし、先やり工法においては、コンクリート下地とシートの間に接着剤を使用できないため、侵入水の拡散防止のためコンクリートとシートとの強固な接着が必要となる。
【0006】
従来の再生ゴムを主体とした止水材は、生コンクリートの養生硬化に伴いコンクリートと接着し止水性を発揮する。かかる止水材は、表面に粘着性を有するため高価な離型フィルムや保護層を必要とする。また、かかる止水材を施工する場合には、施工手順に従い、離型フィルムを取り外していく必要があり、施工手間が多大にかかったり、接着面を保護するための維持管理に注意を要したりする。
【0007】
また、地下駐車場等の地下構造物は、連続地中壁工法によるものが増えているが、防水工法としては先やり工法が適している。先やり工法で使用する遮水シートは地下コンクリートに強固に接着する必要があるが、市販されている遮水シートは生コンクリートの養生硬化に伴う接着性が全くないか、あるとしても侵入水圧に耐えるまでの接着力を有するものがない。
【0008】
本発明は、コンクリートとの接着性に優れ、表面に離型フィルムを必要としない止水材を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、固型のゴム材料(ブチル系ゴムを除く)100重量部と、酸化カルシウム2〜300重量部とが配合されているか、又は更に、親水性ポリマー5〜50重量部が配合されており、コンクリートとの接着性を有している、ゴム組成物に係るものである。
【0010】
本発明者は、かかるゴム組成物が、土木・建築分野での遮水シートや打ち継ぎ部止水材として優れた性能を示し、確実な止水性と作業手間の削減を提供できることを突き止め、本発明に到達した。
【0011】
従来、合成ゴムや天然ゴム等における非ブチル系ゴムは、コンクリートとの接着性が乏しいことから、コンクリート接着性止水材材料としては用いられていなかった。
【0012】
ところが、驚くべきことに、本発明者は、かかるゴム材料に所定量の酸化カルシウムを配合すると、生コンクリートに接触させた状態で、コンクリートが養生硬化するに伴ってコンクリートと強固に接着することを見出した。
【0013】
また、従来のブチル再生ゴムを主体とした止水材は、表面に粘着性を有するため、高価な離型フィルムや保護層が設けられており、施工手間がかかったり、接着面を保護するための維持管理が必要であったりした。
【0014】
しかし、本発明者が検討したところ、ブチルゴムを主体とするブチル系ゴム材料に所定量の酸化カルシウムを配合すると、表面粘着性のない状態でも、コンクリートに対する接着性が著しく向上することが見出された。
【発明の効果】
【0015】
本発明のゴム組成物は、コンクリートと接着性に優れ、コンクリート構造物の止水材原料として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
発明の実施の形態について説明する。
本発明にかかる固型のゴム材料には、合成ゴム、天然ゴム、再生ゴムを用いることができる。合成ゴムとしては、ブチルゴム、スチレン・ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、クロロプレンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を混合して用いても良い。天然ゴムには、市販されている種々のグレードが使用できる。再生ゴムには、ブチルゴムが主体のチューブ再生ゴム(ブチル再生ゴム)、タイヤ再生ゴム、雑再生ゴムが使用できるが、ブチルゴムを主成分とするチューブ再生ゴムが適している。
【0017】
本発明にかかる酸化カルシウムは、化学式(CaO)で示され、別名生石灰又は焼石灰と呼ばれる無機物であり、脂肪酸や界面活性剤等で表面処理されたものがゴム用に適している。酸化カルシウムは、ゴム材料100重量部に対し2〜300重量部配合する。これにより、生コンクリートの養生硬化に伴う、ゴム材料のコンクリートに対する良好な接着性が発現する。配合量が2重量部未満であると、コンクリートとの接着性を充分発揮できず、一方、配合量が300重量部を超えると、防水材としての物性が低下する。
【0018】
本発明で用いる親水性ポリマーとしては、ポリエチレングリコール、エチレンオキサイド樹脂等のエチレングリコール類、ウレタンプレポリマー類、ブチラール樹脂類、ポリビニルアルコール類等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を混合して用いても良い。
【0019】
かかる親水性ポリマーは、生コンクリートの水分に対し親水性を示し、特に、ブチル系ゴムに添加した場合には、生コンクリートの養生硬化に伴い、コンクリートとの初期接着力を上げ、更に長期の接着力も上げる効果がある。
【0020】
親水性ポリマーは、配合量が5重量部を下まわると、親水性の効果が薄い。一方、50重量部を超えると、コンクリートの接着性に悪影響を及ぼす恐れが生じる。
【0021】
本発明のゴム組成物には、ゴム用の充填剤として一般的に使用される、カーボンブラック等の黒色充填剤、ケイ酸・ケイ酸塩類、炭酸塩類等の白色充填剤を添加しても良い。また、本発明では、植物油系、鉱物油系、合成可塑剤系等の軟化剤や可塑剤を、配合剤の分散性や加工性の改良のために適量添加しても良い。
【0022】
本発明では、ベースとなるゴムの性能を改質するアタクチックポリプロピレン(APP)やエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)及びブチル系、ブタジエン系又はクロロプレン系の液状ゴムやスチレン系又はオレフィン系の熱可塑性ゴムや石油アスファルト等の改質材を添加しても良い。
【0023】
本発明のゴム組成物は、通常のゴム工業で用いられる成形方法により、コンクリート建造物の面防水や線防水に適するようなシート形状や帯形状に成型され、止水材として利用される。
【0024】
本発明のゴム組成物をゴム用押出機により帯状止水材に成型し、コンクリート構造物の止水構造を得ることができる。この場合、止水材の幅方向の一部を1次コンクリート側の打継ぎ部に埋設した後、この止水材の幅方向の残りの部分を2次コンクリートに埋設して止水構造を形成する。
【0025】
かかる止水材は、コンクリートに対し、優れた止水性を発揮する。また、かかる止水材は、表面の粘着性がなく、表面を保護する離型フィルムや保護層を必要とせず、施工が容易で、省力化が図られる。
【0026】
また、本発明のゴム組成物をゴム用カレンダーロールやローラーヘッド成型機等でシート状止水材に成型し、コンクリート構造物の止水構造を得ることができる。この場合、シートの背面に補強用の加硫ゴムシート層や不織布等の緩衝層を設け、連続地中壁工法ソイル・ミキシング・ウォール(SMW)下地面に取り付け、先やり工法で外壁を形成すると同時に外壁のSMW側にコンクリートと接着した止水構造を形成する。
【0027】
かかる止水材は、コンクリート外壁に強固に接着し、シート表面の粘着もなく容易に、コンクリート構造物に防水層を設けることができる。
【実施例】
【0028】
次に、本発明の実施例を比較例と共に説明する。
(参考例1〜6、実施例1〜5、比較例1〜6)
表1〜表3に示す配合割合で、ゴム100重量部に各構成成分を配合し、ゴム用混練機(ニーダー)で混練してゴム組成物を得た。また、常法に従いゴム用カレンダーにより圧延して、厚さ2mm程度のシート試料をそれぞれ作製した。
【0029】
各シート試料を下記試験方法により性能を調べた。
(コンクリートとの接着性)
試料シートに1:3モルタルを打設し、7日後及び28日後において、シートとコンクリートとの接着力を求めた。図1は、接着力測定装置の斜視図である。図1に示すように、モルタル1上にシート試料2を接着させ、シート試料2の上に25mm幅にスリットした補強シート3を接着させた。シート試料2とコンクリート1との接着力は、補強シート3を応力測定器4で矢印A方向に引っ張ることにより測定した。引張速度は約200mm/分で、測定温度は25℃、180°剥離接着力(kgf/25mm)を求めた。結果を表1〜表3に示す。
【0030】
(指触タック)
シート試料表面の粘着性を指触により測定した。各シート試料の表面を指先で触れ、タックの程度を確認した。結果を表1〜表3に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1に示す測定結果より、参考例1〜3、実施例1及び2のブチルゴムベースのゴム組成物から形成されたシートは、モルタルの硬化がほぼ完了する28日後に高い接着力を示し、破壊状態も凝集破壊であり、優れた接着性を示した。また、シート試料の表面は粘着性を有していなかった。
【0033】
一方、表1に示すように、比較例1〜3のゴム組成物は、いずれもブチル系ゴムをベースにしたが、酸化カルシウムの量が不適切な例である。比較例1のシートでは、酸化カルシウム添加量が1重量部と少なく、充分な接着力が得られなかった。比較例2のシートでは、逆に酸化カルシウムの添加量が350重量部のゴム組成物であり、シートの硬化及びクラックによる崩壊状態を示し、接着力も低く、防水シートとしての使用は不適であった。比較例3のシートでは、酸化カルシウムが添加されておらず、有効な接着力を示さなかった。
【0034】
【表2】

【0035】
表2に示すように、参考例4〜6のゴム組成物には、ブチルゴムベースに親水性ポリマーを添加した。これらのゴム組成物からなるシートは、7日後の接着力において、親水性ポリマーを添加していない参考例1〜3、実施例1及び2のシートに比較して、高い接着力を示し、初期の接着力に優れる性能を示した。
【0036】
また、比較例4のゴム組成物は、特公平1−26391号公報に記載されたゴム組成物と類似させた。このゴム組成物からなるシートは、柔らかく、表面粘着性も大きい。また、このシートは、接着力も1.1kgf/25mmであり、各参考例、実施例に比較して劣っていた。
【0037】
【表3】

【0038】
表3に示すように、実施例3〜5のゴム組成物には、ゴムベースとして天然ゴムとスチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン・プロピレンゴムの合成ゴムを使用した。ブチル系ゴムベースのゴム組成物に比較して、多少接着性が劣るが、防水シートとしては充分な接着性能を示した。
【0039】
一方、比較例5と比較例6のゴム組成物では、合成ゴムのエチレン・プロピレンゴム及び天然ゴムをベースにしたが、酸化カルシウムを含んでいない。これらの組成物からなるシートは、表3に示すように、接着状態が界面剥離となり、接着力も小さく、コンクリートと接着性を有する防水シートとしての使用は不適と思われた。
【0040】
(実施例6)
参考例1〜6、実施例1〜5のゴム組成物を、約6mm厚で200mm幅の帯状の止水板に成型し、図2に示すコンクリート構造物の止水構造に用いた。図2は、一部断面を含む止水構造の斜視図である。図2に示すように、1次側コンクリート5の打設時に、止水板6の幅方向の一部分6aを埋設し、1次側コンクリート5の硬化後、2次側コンクリートを打設し、止水板6の幅方向の他の部分6bを埋設して、コンクリート打継ぎ部が止水された止水構造を製造した。本参考例、実施例では、止水板とコンクリートが強固に接着した止水構造が得られた。また、止水板の埋設工程では保護フィルム等を取り除いたり、表面を保護するための管理や注意も必要がなくなったりして、容易に施工が完了した。
【0041】
尚、図2に示す様に、メッシュ状の中間層7を止水板6の幅方向よりはみ出させた状態で製造しておき、施工現場において中間層7付き止水板6をコンクリート打継ぎ部に、なまし鉄線8等を用いて配筋9に取り付け、止水板6の幅方向の一部分6aが埋まるまで1次側コンクリート5を打設し、養生後2次側コンクリートを打設する工法が有効である。
【0042】
(実施例7)
参考例1〜6、実施例1及び2のゴム組成物を約1.5mm厚のシート状止水板に成型し、図3に示すコンクリート構造物の止水構造に用いた。図3は、この止水構造の断面図である。図3に示すように、シート状止水板10を1.5mm厚の加硫ゴムシート11とラミネートし、また加硫ゴムシート11の背面側には約5mm厚の排水用バッキング層12を設けた外壁用遮水シート13を作製した。この遮水シート13を連続地中壁工法におけるSMW14の壁面に取り付けた後、型枠15を用いて地下外壁16を作製した。本参考例、実施例では、外壁16とシート状止水板10が強固に接着し、優れた止水構造が得られ、地下外壁の面防水として有効であった。
【0043】
尚、本参考例、実施例においては、図3に示す様に、遮水シート13のジョイント部17には、ジョイント用増張りテープ18を張りつけた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
上述したように、本発明のゴム組成物は、コンクリートと接着性に優れ、コンクリート構造物の止水材原料として極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】接着力測定装置の斜視図である。
【図2】本発明にかかる一例の止水構造の一部断面を含む斜視図である。
【図3】本発明にかかる他の例の止水構造の断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 モルタルコンクリート
2 シート試料
3 補強シート
4 応力測定器
5 一次側コンクリート
6 帯状止水板
7 中間層
8 なまし鉄線
9 配筋
10 シート状止水板
11 加硫ゴムシート層
12 排水用バッキング層
13 遮水シート
14 SMW
15 型枠
16 地下外壁
17 ジョイント部
18 ジョイント用増張りテープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固型のゴム材料(ブチル系ゴムを除く)100重量部と、酸化カルシウム2〜300重量部とが配合されており、コンクリートとの接着性を有していることを特徴とする、ゴム組成物。
【請求項2】
更に、親水性ポリマー5〜50重量部が配合されていることを特徴とする、請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
更に、ブチル系ゴムが配合されてなることを特徴とする、請求項1又は2記載のゴム組成物。
【請求項4】
コンクリート構造物を止水する止水材であって、前記止水材が、固型のゴム材料(ブチル系ゴムを除く)100重量部と、酸化カルシウム2〜300重量部とが配合されており、コンクリートとの接着性を有しているゴム組成物からなることを特徴とする、止水材。
【請求項5】
遮水層とコンクリート構造物とを備えているコンクリート構造物の止水構造であって、前記遮水層が止水材を含んでおり、前記止水材が、固型のゴム材料(ブチル系ゴムを除く)100重量部と、酸化カルシウム2〜300重量部とが配合されており、コンクリートとの接着性を有しているゴム組成物からなり、前記止水材がシート状に成型されており、前記止水材が前記コンクリート構造物と接着していることを特徴とする、コンクリート構造物の止水構造。
【請求項6】
1次側コンクリートと2次側コンクリートとを備えており、これらのコンクリートの打ち継ぎ部が止水されているコンクリート構造物の止水構造であって、
前記打ち継ぎ部に止水材が含まれており、前記止水材が、固型のゴム材料(ブチル系ゴムを除く)100重量部と、酸化カルシウム2〜300重量部とが配合されており、コンクリートとの接着性を有しているゴム組成物からなり、前記止水材が帯状に成型されており、前記止水材の幅方向の一部分が前記1次側コンクリート中に埋設されており、前記止水材の幅方向の残りの部分が前記2次側コンクリート中に埋設されていることを特徴とする、コンクリート構造物の止水構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−63343(P2006−63343A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−245795(P2005−245795)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【分割の表示】特願平9−226271の分割
【原出願日】平成9年8月22日(1997.8.22)
【出願人】(591000506)早川ゴム株式会社 (110)
【Fターム(参考)】