説明

ゴム組成物及びシール材

【課題】耐高圧性及び耐低温性に優れるゴム組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分に軟化剤を含有する柔軟性ゴムと、粒径の異なる少なくとも2種類のカーボンブラックと、を含有する、ことを特徴とする。カーボンブラックは、ISAF級(Intermediate Super Abrasion Furnace Black)とMAF級(Medium Abrasion Furnace Black)の組合せからなる。ゴム成分は、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)の少なくとも何れか一つを含む。軟化剤は、パラフィン系プロセスオイル、アジピン酸エステル系可塑剤等である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物、及び、そのゴム組成物を用いるシール材に関する。より詳しくは、耐高圧性・耐低温性を有するゴム組成物、及び、そのゴム組成物を使用するシール材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に使用されるエンジンに、ガソリン直噴式エンジンがある。ガソリン直噴式エンジンは、近年の排ガス規制や燃費改善等を目的として、シリンダ内に高圧力の燃料を直接噴射して燃焼させる。
【0003】
ガソリン直噴式エンジンでは、高圧力の燃料を直接噴射するので、燃料噴射ポンプには高圧に耐える耐高圧性が要求される。そして、その燃料噴射ポンプに使用されるポンププランジャ用のシール材にも耐高圧性が要求される。
【0004】
また、自動車が、例えばマイナス40℃程度の低温環境下でも使用できるように、燃料噴射ポンプに使用されるポンププランジャ用のシール材には耐低温性が要求される。
【0005】
このようなシール材は、設計自由度の観点から金属材料を用いるよりもエラストマー材料を用いることが多く、水素化ニトリルゴム(HNBR)やエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)等が素材として形成される。
【0006】
例えば、特許文献1には、HNBRに二酸化ケイ素を添加した素材を使用するシール材が記載されている。
【0007】
しかし、特許文献1に記載されている素材で形成されたシール材では、耐高圧性及び耐低温性において不十分なところがある。
【特許文献1】特開平10−182882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、耐高圧性及び耐低温性において優れるシール材、及び、そのようなシール材を形成するために使用される耐高圧性及び耐低温性を有するゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、この発明の第1の観点に係るゴム組成物は、
ゴム成分に軟化剤を含有する柔軟性ゴムと、
粒径の異なる少なくとも2種類のカーボンブラックと、を含有する、ことを特徴とする。
【0010】
また、前記カーボンブラックは、ISAF級(Intermediate Super Abrasion Furnace)とMAF級(Medium Abrasion Furnace)の組合せからなることも可能である。
【0011】
また、前記ゴム成分は、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)の少なくとも何れか一つを含む、ことも可能である。
【0012】
また、前記軟化剤は、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、ホワイトオイル、ペトロラタム及びギルソナイトのうち少なくとも何れか一つを含む石油系軟化剤である、ことも可能である。
【0013】
また、前記軟化剤は、フタル酸エステル系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、トリメリット系可塑剤、エポキシ化植物油、植物油系軟化剤、ポリエーテルエステル及びポリブテン油のうち少なくとも何れか一つを含む、ことも可能である。
【0014】
また、前記ゴム成分をエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)とし、前記軟化剤をパラフィン系プロセスオイルとし、前記柔軟性ゴムが油展エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)である、ことも可能である。
【0015】
また、前記ゴム成分がアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)であり、前記軟化剤がアジピン酸エステル系可塑剤、植物油系軟化剤及びポリエーテルエステルのうち少なくとも何れか一つを含む、ことも可能である。
【0016】
また、共架橋剤を含有する、ことも可能である。
【0017】
また、前記共架橋剤は、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)、トリメチル−プロパン・トリメタクリレート(TPTA)、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン、トリアリルシアヌレート(TAC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルトリメリテート(TAM)、及び、テトラアリルテレフタルアミドのうち少なくとも何れか一つを含有する、ことも可能である。
【0018】
また、前記柔軟性ゴム100重量部に対し、前記共架橋剤を1重量部以上10重量部以下含有する、ことも可能である。
【0019】
また、前記柔軟性ゴムにおいて、前記ゴム成分100重量部に対する前記柔軟剤の含有量が20重量%以上70重量%以下である、ことも可能である。
【0020】
また、前記柔軟性ゴム100重量部に対し、前記粒径の異なる少なくとも2種類のカーボンブラックを70重量部以上150重量部以下含有する、ことも可能である。
【0021】
上記目的を達成するため、この発明の第2の観点に係るシール材は、
上述に記載のゴム組成物を用いるシール材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るゴム組成物は、耐高圧性及び耐低温性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
〔ゴム組成物〕
本実施形態に係るゴム組成物は、柔軟性ゴムと、粒径の異なる少なくとも2種類のカーボンブラックと、を含有する。
【0024】
柔軟性ゴムとは、ゴム成分に軟化剤が含有されることにより、柔軟性が増加されたゴムをいう。
【0025】
本明細書において、軟化剤とは、ゴム組成物に柔軟性を付与してその硬度を下げるために配合されるものをいう。
【0026】
軟化剤は、特に限定されるものではないが、例えば、石油系軟化剤、フタル酸エステル系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、トリメリット系可塑剤、エポキシ化植物油、植物油系軟化剤、ポリエーテルエステル、ポリブテン油等を使用することができる。
【0027】
軟化剤として石油系軟化剤が使用される場合は、柔軟性ゴムは油展ゴムである。石油系軟化剤は、特に限定されるものではないが、例えば、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、ホワイトオイル、ペトロラタム、ギルソナイト等、及びこれらの混合物を使用することができる。
【0028】
粘度比重恒数(V.G.C.値)については、例えば、粘度比重恒数が0.900〜1.049の芳香族系プロセスオイル、粘度比重恒数が0.850〜0.899のナフテン系プロセスオイルを使用することができる。
【0029】
油展ゴムは、オイル成分とゴム成分とが均一に混合されたものである。オイル成分はゴム成分に比較して相対的に分子運動量が大きく、オイル成分をゴム成分に混合させることで、ゴム成分中のゴム分子の柔軟性(ゴム分子が低温領域でどれだけ自由に動けるかどうか)を増大させ、ゴム組成物の耐低温性を上昇させることができると考えられうる。また、ゴム成分に可塑剤が含有された場合も、油展ゴムと同様な理由によりゴム組成物の耐低温性が上昇すると考えられうる。
【0030】
また、図1に模式的に示されるように、粒径の異なる少なくとも2種類のカーボンブラックを含有させることで、粒径が大きいカーボンブラックがゴム組成物の剛性を増大させ、粒径が大きいカーボンブラックの隙間を粒径が小さいカーボンブラックが埋めて、全体としてゴム組成物の耐高圧性を促進させるものと考えられうる。
【0031】
ゴム成分は、特に限定されるものではないが、例えば、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、若しくはこれらの混合物等を使用することができる。
【0032】
例えば、ゴム成分をEPDMとし、軟化剤をパラフィン系プロセスオイルとする、油展EPDMを好適に使用することができる。なぜならば、EPDMとパラフィン系プロセスオイルとの親和性が良好だからである。
【0033】
また、油展EPDMのみならず、石油系軟化剤を使用する油展NBRや油展HNBRも、柔軟性ゴムとして使用することができる。
【0034】
油展EPDMを使用する場合において、エチレンの含有量は、40〜70重量%とすることができ、好ましくは40〜60重量%とすることができ、さらに好ましくは49〜55重量%とすることができる。エチレン含有量が70重量%よりも大きくなると、ゴム組成物の伸びが悪化することでシール材等に成形加工する場合に加工性が不十分となるおそれがあり得るからである。一方、エチレン含有量が40重量%よりも小さくなると、破断時強度等における改良効果が小さくなり、シール材等に加工したとしても強度不足となる可能性がありうるからである。
【0035】
また、例えば、ゴム成分をNBRとし、軟化剤をアジピン酸エステル系可塑剤、植物油系軟化剤、ポリエーテルエステル等とすることができる。なぜならば、NBRと、アジピン酸エステル系可塑剤、植物油系軟化剤、ポリエーテルエステル等との親和性が良好だからである。
【0036】
フタル酸エステル系可塑剤としては、例えば、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジヘプチルフタレート(DHP)、ジ−2−エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジ−n−オクチルフタレート(DOnP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)、ブチルベンジルフタレート(BBP)、ジイソノニルフタレート(DINP)等を使用することができる。
【0037】
アジピン酸エステル系可塑剤としては、例えば、ジメチルアジペート(DMA)、ジブチルアジペート(DBA)、ジイソブチルアジペート(DIBA)、ジ−2−エチルヘキシルアジペート(DOA)、ジイソノニルアジペート(DINA)、ビス(ブチルジグリコール)アジペート(BXA−R)、ジイソデシルアジペート(DIDA)、ジ−2−エチルヘキシルアゼレート(DOZ)等を使用することができる。
【0038】
脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤としては、例えば、ジメチルセバケート(DMS)、ジブチルセバケート(DBS)、ジオクチルセバケート(DOS)等を使用することができる。
【0039】
リン酸エステル系可塑剤としては、例えば、アリールホスフェート[トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリキシリルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート等]、アルキルホスフェート[トリメチルホスフェート(TMP)、トリエチルホスフェート(TEP)、トリブチルホスフェート(TBP)、トリ−2−エチルヘキシルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリラウリルホスフェート、トリイソデシルホスフェート等]、アルキルアリールホスフェート[フェニルジエチルホスフェート、フェニルジブチルホスフェート、フェニルジオクチルホスフェート、ジフェニルエチルホスフェート、ジフェニルブチルホスフェート、ジフェニルオクチルホスフェート等]等を使用することができる。
【0040】
クエン酸エステル系可塑剤としては、例えばアセチルトリブチルシトレート(ATBC)等を使用することができる。
トリメリット系可塑剤としては、例えばトリメリット酸n−オクチル−n−デシル、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル等を使用することができる。
エポキシ化植物油としては、例えばエポキシ化大豆油、エポキシ化ヒマシ油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化サフラワー油等を使用することができる。
植物油系軟化剤としては、例えばひまし油、綿実油、菜種油、パーム油、椰子油、ロジン等を使用することができる。
さらには、ポリエーテルエステル、ポリブテン油等を使用することもできる。
【0041】
柔軟性ゴムにおいて、ゴム成分100重量部に対する柔軟剤の含有量は、例えば、20重量%以上70重量%以下とすることができ、より好ましくは30重量%以上50重量%以下である。含有量が20重量%よりも小さいとゴム組成物の耐低温性を望ましいものに維持できなくなる可能性がありうるからであり、一方含有量が70重量%よりも大きいと余分の柔軟剤成分により混練の作業効率を阻害する可能性がありうるからである。
【0042】
カーボンブラックは、例えば、ISAF(Intermediate Super Abrasion Furnace Black)、MAF(Medium Abrasion Furnace Black)、SAF(Super Abrasion Furnace Black)、SRF(Semi-Reinforcing Furnace Black)、GPF(General Purpose Furnace Black)、FT(Fine Thermal Furnace Black)、MT(Medium Thermal Furnace Black)、HAF(High Abrasion Furnace Black)、FEF(Fast Extruding Furnace Black)等の中から、粒径の異なる少なくとも2種類のものを使用することができる。
例えば、ISAF級とMAF級とを組み合わせてゴム組成物中に混合させることができる。
【0043】
粒径の異なる少なくとも2種類のカーボンブラックは、必ずしも限定されるものではないが、柔軟性ゴム100重量部に対し、70重量部以上150重量部以下含有させることが可能である。70重量部よりも小さいと、ゴム組成物の耐高圧性の促進が損なわれるおそれがあり得るからである。一方、150重量部よりも大きいと、ゴム組成物の剛性が高くなりすぎるおそれがあり得るからである。
【0044】
なお、このカーボンブラックの添加量は合計割合である。例えば、ISAF級とMAF級とを組み合わせてゴム組成物中に混合させる場合は、ISAF級とMAF級との合計割合が、柔軟性ゴム100重量部に対し、70重量部以上150重量部以下含有させることができるということである。
【0045】
カーボンブラックの平均粒径を下記に示す。カーボンブラックの平均粒径は、各製造会社によって異なる場合があるものの、例えば、ISAFは23nmで、MAFは38nmで、SAFは19nmで、SRFは66nmで、GPFは62nmで、FTは122nmで、HAFは28nmで、FEFは43nmである。
【0046】
そして、粒径の異なる2種類のカーボンブラックにおいて、大径のカーボンブラックの平均粒径と小径のカーボンブラックの平均粒径との差は、特に限定されるものではないが、例えば7nm以上100nm以下とすることができ、好適には15nm以上80nm以下とすることができる。
【0047】
また、小径のカーボンブラックの平均粒径と大径のカーボンブラックの平均粒径との重量比は、特に限定されるものではないが、例えば、(小径のカーボンブラックの平均粒径)/(大径のカーボンブラックの平均粒径)は、0.01以上1以下とすることができ、さらには0.05以上0.4以下とすることができ、より好適には0.1以上0.35以下とすることができる。
【0048】
ゴム組成物には架橋剤(加硫剤)を含有させることができる。架橋剤としては、ジクミルパーオキサイド、硫黄、二塩化硫黄、モルホリンジスルフィド、ジチオジカプロラクタム、m−フェニレンジマレイミド等を用いることが可能である。
また、架橋剤として、脂肪族または脂環族系過酸化物を配合することができる。脂肪族または脂環族系過酸化物としては、たとえば3,3,5−トリメチルヘキサノンパーオキシド,ジイソブチリルパーオキシド、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン,2,5−ジメチル2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン,2,5−ジメチル2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3,n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレイト,ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0049】
架橋剤の含有量は、特に限定されるものではないが、柔軟性ゴム100重量部に対して、1重量部以上12重量部以下含有させることができる。架橋剤の含有量が1重量部よりも小さいと、ゴムの架橋に時間がかかることにより歩留まりを低下させる可能性がありうるからである。一方、架橋剤の含有量が12重量部よりも多いと、予期せぬ副反応が生じる可能性がありうるからである。
【0050】
本実施形態に係るゴム組成物には、さらに共架橋剤を含有させることができる。共架橋剤は、それ自身も架橋するとともに、ゴム成分とも反応して架橋し、全体を高分子化する働きをするものである。共架橋剤を含有させることで、ゴム組成物の耐油性、機械的強度、圧縮永久歪み等を向上させることができる。
【0051】
共架橋剤としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)、トリメチル−プロパン・トリメタクリレート(TPTA)、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン、トリアリルシアヌレート(TAC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルトリメリテート(TAM)、テトラアリルテレフタルアミド、若しくは、これらの混合物を使用することができる。
【0052】
共架橋剤の含有量は、特に限定されるものではないが、柔軟性ゴム100重量部に対して、1重量部以上10重量部以下含有させることができる。共架橋剤の含有量が1重量部よりも小さいと、架橋の進行度が不十分となることで、例えシール材等に成形加工したとしても耐久性が不充分となる可能性がありうるからである。一方、共架橋剤の含有量が10重量部よりも多いと、ゴム組成物の破断伸びが低下する可能性があり、シール材等に成形加工したとしてもやはり耐久性が不充分となる可能性がありうるからである。
【0053】
本実施形態に係るゴム組成物には、所定の配合量の老化防止剤、加硫促進剤、加硫遅延剤等を含有させることができる。また、カーボンブラック以外の充填剤を含有させることもできる。
老化防止剤としては、例えば、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、ジオクチル化ジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン等を用いることができる。加硫促進剤としては、例えば、チウラム系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系の化合物等を用いることができる。加硫遅延剤としては、例えば、サリチル酸等を使用できる。カーボンブラック以外の充填剤としては、例えば、白色充填剤(シリカ)、酸化亜鉛(亜鉛華)、アルミナ、タルク、酸化チタン、クレー、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム(白艶華)、酸化カルシウム等を使用できる。
【0054】
油展EPDMは、最初からオイル成分が含有されている市販のものを利用することができる。一方、油展NBRや油展HNBRは、例えば固形のゴム成分にオイル成分を混練機中で添加することで作成することが可能である。なお、混練機を用いてオイル成分を混練りする場合、オイル成分をゴム成分と一緒に投入すると、ゴムが混練り機の内部で滑りやすいため、最初にゴム成分のみを混練りした後に、オイル成分を添加して混練りを行うことが好ましい。
【0055】
〔シール材〕
本実施形態に係るシール材900は、上述したゴム組成物を用いて形成される。シール材900の用途は特に限定されるものではないが、例えば、図2に示されるように、ガソリン直噴式エンジンの燃料噴射ポンプ800に使用されるポンププランジャ150のシールとして利用される。
【0056】
燃料噴射ポンプ800は、ポンプシリンダ130が内部に形成されたポンプハウジング120を有する。ポンプハウジング120内には搬送管路110が形成されており、搬送管路110の上方端部は図示されていないリザーバタンクに接続されている。ポンプシリンダ130内にはポンププランジャ150が軸方向に移動可能に配置されている。ポンププランジャ150の上方には高圧室140が形成される。楕円形カムであるカム伝導部160により、ポンププランジャ150がポンプシリンダ130内で昇降運動する。
【0057】
シール材900は、ポンプシリンダ130の先端部の内周面と、ポンププランジャ150の先端部近傍の外周面との間に設けられている。即ち、ポンププランジャ150の下端部近傍には、ポンププランジャ150の外周に円環状の嵌着溝が形成されており、その嵌着溝に、環状のシール材900が嵌め込まれている。シール材900は、ポンプシリンダ130と作動室170との間をシールする。
【0058】
シール材900は本実施形態に係るゴム組成物を素材としているため、耐圧性及び耐低温性を有する。即ち、例え高圧力の燃料を噴射したとしてもポンプシリンダ130と作動室170との間のシールを阻害するおそれは極めて少ない。また例え低温環境下で使用されたとしてもシール性が失われるおそれは極めて少ない。
【0059】
上述の実施形態では、シール材900は燃料噴射ポンプに使用されるポンププランジャのシール材であったが、このような実施形態に限定されることはない。本実施形態に係るシール材は、耐高圧性及び耐低温性が要求される様々な環境で好適に使用される。例えば車両のブレーキ液圧を制御するためのアンチロックブレーキ装置に使用されるプランジャポンプのシール材として利用することも可能である。
【実施例】
【0060】
〔耐高圧性・耐低温性〕
実施例のゴム組成物においては、油展ゴムとして油展量30%のEPDMを100重量部含有させた。このEPDMは、E重合単位/P重合単位/ENB重合単位=52/44.5/3.5であった。カーボンブラックは、シーストG116(東海カーボン株式会社製:平均粒径38nm)を90重量部と、ショウブラックN220(キャボットジャパン社製:平均粒径23nm)を20重量部と、を混合させた。加硫剤は、パークミルD(日本油脂株式会社製:ジクミルパーオキサイド)を6重量部含有させた。共架橋剤は、アクリエステルED(三菱レイヨン株式会社製:エチレングリコールメタクリレート(EDMA))を3重量部含有させた。また、その他として、老化防止剤は、ノクラック224s(大内新興化学工業株式会社製:2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体)を1重量部含有させた。また、加硫促進剤は、アデカ脂肪酸SA−400(旭電化株式会社製:ステアリン酸)を1重量部含有させた。また、充填剤は、酸化亜鉛を5重量部含有させた。
【0061】
比較例1のゴム組成物においては、非油展ゴムとして非油展グレードのEPDMを100重量部含有させた。このEPDMは、E重合単位/P重合単位/ENB重合単位=50/46/4であった。カーボンブラックは、シーストG116を65重量部含有させた。加硫剤は、パークミルDを2.7重量部含有させた。共架橋剤は、アクリエステルEDを2重量部含有させた。それら以外は実施例と同様の組成であった。
【0062】
比較例2のゴム組成物においては、油展ゴムとして実施例で用いたEPDMを100重量部含有させた。カーボンブラックは、ショウブラックN220を75重量部含有させた。加硫剤は、パークミルDを4重量部含有させた。共架橋剤は、アクリエステルEDを2重量部含有させた。それら以外は実施例と同様の組成であった。
【0063】
これら実施例、比較例1、比較例2のそれぞれのゴム組成物の組成を表1にまとめる。
【0064】
【表1】

【0065】
次に、これら実施例、比較例1、比較例2のそれぞれのゴム組成物について、引張強さ試験、伸び試験、硬さ試験、圧縮永久歪み試験、TR試験、ゲーマン捻り試験を行った。
【0066】
引張強さおよび伸びは、JIS K6251に基づいて測定をした。伸硬さは、JIS K6253のデュロA硬度にて測定をした。圧縮永久歪みはJIS 6262に基づいて測定を行い、圧縮率は25%であった。低温試験はJIS K6261に基づいて測定をした。より具体的には、TR試験は、一定の伸張を与え凍結させた試験片を徐々に昇温させたときの伸びの回復率を測定する試験である。ゲーマン捻り試験は、凍結温度から室温までの温度範囲にわたり、ねじりワイヤーを介して試験片をねじり、試験片のねじり角から低温特性を評価する試験である。
【0067】
実施例では、引張強さは18.1MPaであり、伸びは120%であり、硬さは89であり、圧縮永久歪みは15%であった。また、TR試験では、TR10は−50℃、TR30は−42℃、TR50は−36℃、TR70は−28℃であった。ゲーマン捻り試験では、T2は−35℃、T5は−49℃、T10は−52℃、T100は−63℃であった。
【0068】
比較例1では、引張強さは23.5MPaであり、伸びは220%であり、硬さは77であり、圧縮永久歪みは15%であった。また、TR試験では、TR10は−45℃、TR30は−39℃、TR50は−34℃、TR70は−29℃であった。ゲーマン捻り試験では、T2は−36℃、T5は−46℃、T10は−48℃、T100は−55℃であった。
【0069】
比較例2では、引張強さは21.4MPaであり、伸びは280%であり、硬さは80であり、圧縮永久歪みは19%であった。また、TR試験では、TR10は−49℃、TR30は−39℃、TR50は−32℃、TR70は−23℃であった。ゲーマン捻り試験では、T2は−29℃、T5は−45℃、T10は−50℃、T100は−66℃であった。
【0070】
これらの実施例、比較例1、比較例2のゴム組成物についての測定結果を表2にまとめる。
【0071】
【表2】

【0072】
油展ゴムと、粒径の異なる2種類のカーボンブラックと、を含有するゴム組成物である実施例は、デュロA硬度が89であり耐高圧性に優れる。また、耐低温性においても、例えばTR10が−50℃であり、 T10が−52℃であり、良好な値を示した。
一方、比較例1は非油展ゴムを使用し、かつカーボンブラックも1種類を使用したものであるが、デュロA硬度が77で、TR10が−45℃であり、 T10が−48℃であり、耐高圧性及び耐低温性において実施例よりも劣る結果であった。
また、比較例2は油展ゴムを使用し、かつカーボンブラックも1種類を使用したものであるが、デュロA硬度が80で、TR10が−49℃であり、 T10が−50℃であり、耐高圧性及び耐低温性において実施例よりも劣る結果であった。
以上の結果から、油展ゴムと、粒径の異なる2種類のカーボンブラックと、を含有するゴム組成物は、耐高圧性及び耐低温性において良好な値を有することが実証された。また、同様に、ゴム成分に可塑剤を含有させる柔軟性ゴムと、粒径の異なる2種類のカーボンブラックと、を含有するゴム組成物についても、耐高圧性及び耐低温性において良好な値を有すると考えられる。
【0073】
〔カーボンブラックの重量比〕
ゴム組成物中において、小径のカーボンブラックの平均粒径と大径のカーボンブラックの平均粒径との重量比を変化させて、ゴム組成物の物性値を測定した。
【0074】
参考例1のゴム組成物においては、ゴム成分は、非油展の水素化ニトリルゴムを100重量部含有させた。カーボンブラックは、シーストG116を10重量部と、ショウブラックN220を60重量部と、を混合させた。加硫剤は、バルカップ40KE(ハーキュレス社製:1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピルベンゼン(有機過酸化物))を7重量部含有させた。共架橋剤は、アクリエステルTMP(三菱レイヨン株式会社製:トリメタクリル酸トリメチロールプロパン)を3重量部含有させた。
【0075】
参考例2のゴム組成物においては、カーボンブラックは、シーストG116を30重量部と、ショウブラックN220を40重量部と、を混合させた。それ以外は、参考例1と同様の組成であった。
【0076】
参考例3のゴム組成物においては、カーボンブラックは、シーストG116を80重量部と、ショウブラックN220を10重量部と、を混合させた。それ以外は、参考例1と同様の組成であった。
【0077】
これら参考例1、参考例2、参考例3のそれぞれのゴム組成物において、引張強さ、伸び、硬さを測定した。
【0078】
参考例1では、引張強さは27.1MPaであり、伸びは250%であり、硬さは75であった。
また、参考例2では、引張強さは24.0MPaであり、伸びは210%であり、硬さは78であった。
また、参考例3では、引張強さは22.9MPaであり、伸びは140%であり、硬さは85であった。
【0079】
参考例1、参考例2、参考例3のゴム組成物の組成と、それぞれの引張強さ、伸び、硬さについて表3にまとめる。
【0080】
【表3】

【0081】
参考例1の硬さは75で、参考例2の硬さは78であるものの、参考例3の硬さは85である。この結果から、(小径のカーボンブラックの平均粒径)/(大径のカーボンブラックの平均粒径)は、1より大きい重量比とするよりも、0.01以上1以下とすることのほうがゴム組成物の硬さは増大する傾向があることが考えられうる。
【0082】
〔油展ゴムの耐低温性〕
油展ゴムと非油展ゴムについてTR試験を行い、耐低温性を比較した。油展ゴムは実施例で用いたEPDMを使用した。そして非油展ゴムとして、メーカーの異なる3種の非油展グレードEPDMを比較例として使用した。
【0083】
油展EPDMは、TR10は−50℃、TR30は−42℃、TR50は−36℃、TR70は−28℃であった。
非油展EPDMその1は、TR10は−47℃、TR30は−35℃、TR50は−27℃、TR70は−18℃であった。非油展EPDMその1は、E重合単位/P重合単位/ENB重合単位=49/46.5/4.5であった。
非油展EPDMその2は、TR10は−43℃、TR30は−33℃、TR50は−24℃、TR70は−15℃であった。非油展EPDMその2は、E重合単位/P重合単位/ENB重合単位=49/41.5/9.5であった。
非油展EPDMその3は、TR10は−42℃、TR30は−34℃、TR50は−28℃、TR70は−20℃であった。非油展EPDMその3は、E重合単位/P重合単位/ENB重合単位=50/46/4であった。
これらの測定結果を表4にまとめる。
【0084】
【表4】

【0085】
油展EPDMは例えばTR10は−50℃であるものの、非油展EPDMその1はTR10は−47℃であり、非油展EPDMその2はTR10は−43℃であり、非油展EPDMその3はTR10は−42℃である。この結果から、油展ゴムを使用するゴム組成物は、非油展ゴムを使用するゴム組成物よりも、耐低温性に優れる傾向があることが考えられうる。これは、上述したように、オイル成分をゴム成分に混合させることで、ゴム成分中のゴム分子の柔軟性を増大させることに起因すると考察される。
【0086】
以上より、柔軟性ゴム(例えば油展ゴム)と、粒径の異なる2種類のカーボンブラックと、を含有するゴム組成物は、耐高圧性及び耐低温性において良好な値を有し、さらに、(小径のカーボンブラックの平均粒径)/(大径のカーボンブラックの平均粒径)は、特に限定されるものではないが、0.01以上1以下とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】粒径が異なる2種類のカーボンブラックを混合させる場合の模式図である。
【図2】ポンププランジャに使用されるシール材を説明する図である。
【符号の説明】
【0088】
110 搬送管路
120 ポンプハウジング
130 ポンプシリンダ
140 高圧室
150 ポンププランジャ
160 カム伝導部
170 作動室
800 燃料噴射ポンプ
900 シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分に軟化剤を含有する柔軟性ゴムと、
粒径の異なる少なくとも2種類のカーボンブラックと、を含有する、
ことを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記カーボンブラックは、ISAF級(Intermediate Super Abrasion Furnace Black)とMAF級(Medium Abrasion Furnace Black)の組合せからなることを特徴とする、請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記ゴム成分は、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)の少なくとも何れか一つを含む、
ことを特徴とする請求項1又は2記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記軟化剤は、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、ホワイトオイル、ペトロラタム及びギルソナイトのうち少なくとも何れか一つを含む石油系軟化剤である、
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記軟化剤は、フタル酸エステル系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、トリメリット系可塑剤、エポキシ化植物油、植物油系軟化剤、ポリエーテルエステル及びポリブテン油のうち少なくとも何れか一つを含む、
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記ゴム成分をエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)とし、前記軟化剤をパラフィン系プロセスオイルとし、前記柔軟性ゴムが油展エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)である、
ことを特徴とする請求項1又は2記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記ゴム成分がアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)であり、前記軟化剤がアジピン酸エステル系可塑剤、植物油系軟化剤及びポリエーテルエステルのうち少なくとも何れか一つを含む、
ことを特徴とする請求項1又は2記載のゴム組成物。
【請求項8】
前記ゴム組成物が共架橋剤をさらに含有する、
ことを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載のゴム組成物。
【請求項9】
前記共架橋剤は、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)、トリメチル−プロパン・トリメタクリレート(TPTA)、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン、トリアリルシアヌレート(TAC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルトリメリテート(TAM)、及び、テトラアリルテレフタルアミドのうち少なくとも何れか一つを含有する、
ことを特徴とする請求項8記載のゴム組成物。
【請求項10】
前記柔軟性ゴム100重量部に対し、前記共架橋剤を1重量部以上10重量部以下含有する、
ことを特徴とする請求項8又は9記載のゴム組成物。
【請求項11】
前記柔軟性ゴムにおいて、前記ゴム成分100重量部に対する前記柔軟剤の含有量が20重量%以上70重量%以下である、
ことを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載のゴム組成物。
【請求項12】
前記柔軟性ゴム100重量部に対し、前記粒径の異なる少なくとも2種類のカーボンブラックを70重量部以上150重量部以下含有する、
ことを特徴とする請求項1乃至11の何れか1項に記載のゴム組成物。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12の何れかに記載のゴム組成物を用いるシール材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−31151(P2010−31151A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195159(P2008−195159)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000005175)藤倉ゴム工業株式会社 (120)
【出願人】(591148369)株式会社ハマイ (9)
【Fターム(参考)】