説明

サスペンション仕様評価装置

【課題】実際に即した非線形のサスペンション特性に基づいて、操舵安定性に優れたサスペンションモデルの仕様を決定できるようにする。
【解決手段】車両モデル設定処理部11は、車両モデルを構築すると共に、前輪サスペンションモデル及び後輪サスペンションモデルを複数の仕様データ毎に構築する。ロールモード解析処理部12は、仕様毎の前輪及び後輪のサスペンションモデルの組合せ毎に、車両モデルに作用するロール角ゼロにおけるピッチレートをロールモードの代用として求める。そしてこの代用ロールモードがゼロに最も近い特性を示すサスペンション仕様の組合せを、操舵安定性に優れているサスペンションモデルとして選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仕様の異なる複数の前輪と後輪との各サスペンションの組合せから、最適な組みあわせを選択するサスペンション仕様評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に設けられているサスペンションは、サスペンションスプリングとダンパ(ショックアブソーバ)とを備えており、車輪から車体側に伝達される振動を緩衝させる機能、及び、車輪を路面に対して押し付ける機能を有し、これらの機能により、乗り心地や操舵安定性を確保するようにしている。
【0003】
ここで、車両がカーブ路を走行する際の一般的な車両挙動について簡単に説明する。車両がカーブ路に進入するに際し、先ず、運転者は、ブレーキングにより減速させる。すると、車両に前のめりのピッチ運動が発生し、前輪側のサスペンションに設けられているサスペンションスプリングに圧縮荷重が印加され、後輪側サスペンションのサスペンションスプリングに引張り荷重が印加される。又、車両がカーブ路を旋回している間は、車両に遠心力に伴う横加速度が発生するため、車両には旋回方向外側へ傾斜するロール運動が発生する。従って、旋回外側のサスペンションスプリングに圧縮荷重が印加され、旋回内側のサスペンションスプリングに引張り荷重が印加される。その後、カーブ路の終了付近で運転者が加速を開始すると、今度は、車両に前上がりのピッチ運動が発生する。そのため、前輪側のサスペンションスプリングに引張り荷重が印加され、後輪側のサスペンションスプリングに圧縮荷重が印加される。従って、連続するカーブ路をステアリングを切り返しながら走行するスラローム走行では、ロール運動とピッチ運動とが複合的に繰り返される車両挙動となる。又、このロール運転とピッチ運動とに伴う振動は、各サスペンションに設けられているダンパの減衰作用より抑制される。
【0004】
この車両挙動は、サスペンションモデルの仕様(サスペンション仕様)に依存する部分が多く、サスペンション仕様を変更することで、操舵安定性を向上させることができる。従来は、このサスペンション仕様を走行試験を行うテストドライバの感性によって決定していた。
【0005】
しかし、テストドライバが走行試験を行うためには、異なるサスペンション仕様の車両を複数台用意し、全ての車両に対して走行確認を行う必要があり、最終的な仕様が決定するまでに時間がかかり、開発に遅れが生じてしまう不都合がある。
【0006】
ところで、ロール運動による左右方向の傾斜角度(ロール角)とピッチ運動による前後方向の傾斜角度(ピッチ角)との位相差(ロールモード)をゼロに近づけること、すなわち、ロール運動とピッチ運動との発生タイミングを同期させることで、操舵安定性が改善されることが知られている。従って、設計の段階で、ロールモードをゼロに近づけるようなサスペンション仕様がある程度決定されていれば、サスペンション仕様が絞り込まれるため、走行試験に要する時間が短縮され、開発費を大幅に削減することができる。
【0007】
設計の段階でサスペンション仕様をある程度決定する技術として、例えば特許文献1(特開2007−8373号公報)には、設計に際し、ロールモードを考慮した理論式を用いて、このロールモードがゼロになるようなサスペンション仕様を決定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−8373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、スラローム走行等のように、操舵の切り返しを連続的に行う操舵パターンは、運転者毎に相違しており、同一仕様のサスペンションであっても、その特性は操舵パターン毎に異なっている。理想的には、全ての操舵パターンにおいてロールモードがゼロとなるサスペンション仕様が好ましいが、現実的には難しい。
【0010】
上述した文献に開示されている技術では、理論式から1台の車両に対して1組のサスペンション仕様を決定しているだけであるため、操舵パターン毎のサスペンション特性が考慮されておらず、従って、走行試験において、操舵パターン毎の走行確認が必要となる。しかし、走行試験において良好な評価が得られない場合は、再度設計をやり直さなければならず、結果として開発時間が増えてしまう不都合がある。
【0011】
又、上述した文献に開示されている技術では、1台の車両に対して1組のサスペンション仕様しか決定されないため、例えば、操舵安定性をある程度犠牲にして乗り心地を優先させるようなニーズがある場合、当該ニーズに沿った特性のサスペンション仕様を選択することはできず、実用性に欠ける問題がある。
【0012】
更に、サスペンション仕様を理論式から導き出しているため、このサスペンション特性が線形特性となってしまう。しかし、実際のサスペンション特性は非線形特性であるため、実際に即した解析を充分に行うことができない。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑み、実際に即した非線形のサスペンション特性に基づいてロールモードを求め、ロールモードがゼロに近い特性のサスペンション仕様は勿論のこと、ユーザのニーズに合う特性のサスペンション仕様をも特定することができて、実用性の高いサスペンション仕様評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため本発明は、車両モデルのデータと該車両モデルに装備されるサスペンションモデルの仕様データとに基づき、操舵時の該車両モデルに発生するロール角とピッチ角との関係から前記サスペンションモデルの仕様を評価する解析処理手段を備えるサスペンション仕様評価装置において、前記解析処理手段は、前記ロール角とピッチレートとで表わされるリサージュ波形に基づき、該ロール角がゼロのときの前記ピッチレートに基づいて前記サスペンションモデルの仕様を評価することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、サスペンションモデルに設定されている仕様の評価を、ロール角とピッチレートとで表わされるリサージュ波形に基づき、ロール角がゼロのときのピッチレートに基づいて行うようにしたので、実際に即した非線形のサスペンション特性に基づいてロール角とピッチ角との位相差を比較的容易に求めることができる。又、この位相差がゼロに近い特性を有するサスペンションモデルの仕様を選択することで、今回の車両モデルに対して良好な操舵安定性を得ることのできるサスペンションを特定することができる。
【0016】
更に、例えばユーザの好みに合う、ロール角がゼロのときのピッチレートを予め設定しておき、この予め設定したピッチレートに近いピッチレートを有する仕様のサスペンションモデルを選択することで、ユーザのニーズに合う特性のサスペンションを設定することができ、高い実用性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】サスペンション仕様評価装置の機能ブロック図
【図2】サスペンション仕様評価プロセスを示すフローチャート
【図3】サスペンションを装着した車両の概略図
【図4】ロール運動発生時のサスペンション挙動を示す説明図
【図5】(a)はロール角とピッチ角とのリサージュ波形を示す線図、(b)はロール角とピッチレートとのリサージュ波形を示す線図
【図6】ロールモードマップの概念を表わす図表
【図7】ロールモードマップの横軸のパラメータである操舵パターンを示し、(I)は台形波形操舵パターンを示すタイミングチャート、(II)は台形サイン波形操舵パターンを示すタイミングチャート、(III)はサイン波形操舵パターンを示すタイミングチャート、(IV)は三角波形操舵パターンを示すタイミングチャート
【図8】ロールモードマップの縦軸のパラメータである操舵タイミングを変化させた場合の操舵パターンを示し、(a)は位相進み状態の操舵タイミングを示すタイミングチャート、(b)はノーマル位相状態の操舵タイミングを示すタイミングチャート、(c)は位相遅れ状態の操舵タイミングを示すタイムチャート
【図9】ロールモードチューニングマップの概念を示す図表
【図10】他のロールモードチューニングマップを示す図表
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。図1に示すサスペンション仕様評価装置10は、後述するROMに記憶されている処理プログラムに従いサスペンション仕様評価処理を実行するCPU、処理プログラムや中間処理データを一時記憶するRAM及び処理プログラムや固定データ等を記憶するROM等のメモリ、各種データを格納するハードディスク等の大容量メモリを有し、入力される車両モデルデータとサスペンションの仕様データとに基づき、操舵条件毎のロールモードをCAE(Computer Aided Engineering)解析する。
【0019】
又、このサスペンション仕様評価装置10の入力側にキーボード、マウス等を含む入力装置2が接続され、出力側にモニタ、プリンタ等の出力装置3が接続されている。このサスペンション仕様評価装置10のメモリには、サスペンション仕様評価プログラムが予め格納されており、CPUは、このサスペンション仕様評価プログラムに従って解析処理を実行する。
【0020】
又、CPUにはサスペンション仕様評価処理を実行する機能として、車両モデル設定処理部11、解析処理手段としてのロールモード解析処理部12、及び演算結果を出力する出力処理部13を有している。更に、サスペンション仕様評価装置10には、車両に関する各種データが格納されているデータベース部14、及び車両モデル設定処理部11、ロールモード解析処理部12で演算したデータが記憶されるメモリ部15が備えられている。このデータベース部14、メモリ部15は、同一の読み書き自在な不揮発性記録媒体に構築されている。この不揮発性記録媒体としては、ハードディスク装置や光磁気ディスク装置、フラッシュメモリ等がある。
【0021】
車両モデル設定処理部11は、図3に示すように、解析対象となるサスペンションが装備される車両モデル1を、当該車両の各種データを用いて構築すると共に、前輪サスペンションと後輪サスペンションの各仕様データを用いて前輪サスペンションモデル21fと後輪サスペンションモデル21rとを構築する。
【0022】
このサスペンションモデル21f,21rは、ダンパ(ショックアブソーバ)22aとサスペンションスプリング22bとを備えており、図4に示すように、これらが前後に設けられている左右のバネ下部材25L,25Rと、バネ上部材26との間に介装されている。ダンパ22aは、乗り心地と振動減衰性とを両立させるために、伸張側と圧縮側とでは、同じ大きさのダンパストローク速度に対して伸張側の減衰力が圧縮側の減衰力より大きく設定されている。そのため、操舵の切り返しを連続的に行うスラローム走行時において、バネ上部材にロール運動が発生すると、伸張側のバネ下部材(図では左側バネ下部材25L)のダンパ22aの減衰力が圧縮側のバネ下部材(図では右側バネ下部材25R)のダンパ22aの減衰力に比し大きくなる。その結果、バネ上部材26に、このバネ上部材26を押し下げる力(押圧力)が発生し、この押圧力が前後で相違する場合、前のめり、或いは前上がりのピッチ運動が発生する。そのため、スラローム走行時は、このピッチ運動が繰り返し発生することになる。
【0023】
尚、本実施形態では、前輪サスペンションモデル21fと後輪サスペンションモデル21rとは異なる仕様で構築されており、又、左右のサスペンションモデル21f(21r)は同一仕様で構築されている。これらのデータは仕様毎にデータベース部14に予め格納されている。
【0024】
この各サスペンションモデル21f,21rは複数の仕様が設定されている。複数のサスペンションモデル21f,21rは、先ず、基本仕様が設定され、この基本仕様に対して、段階的にパラメータチューニングを施して、複数の異なる仕様のサスペンションモデル21f,21rが設定されている。
【0025】
ロールモード解析処理部12は、車両モデル設定処理部11で構築した車両モデル1、及びパラメータチューニングを施した各前輪サスペンションモデル21fと各後輪サスペンションモデル21rとの組合せに基づいて、操舵条件毎のロールモード[deg/sec](ロール角[deg]とピッチ角[deg]との位相差)を解析し、ロール感を評価する。
【0026】
このロールモードを算出する手段として、時系列データから算出することが考えられる。しかし、ロールモードを時系列データから算出することは、 ピッチ運動とロール運動とが非線形運動であるため膨大な演算が必要となり困難である。一方、図5(a)に示すように、カーブ路走行時の車両に発生するロール角とピッチ角との関係をリサージュ波形で示すと、ロール角とピッチ角とのロールモードがゼロ(位相差無し)の場合、太い実線で示すようにリサージュ波形は放物線となり面積がゼロとなる。又、ロールモード検出(位相差有り)の場合は、細線で示すように面積が表れるので、この面積を計算することでロールモードを求めることができる。しかし、リサージュ波形毎の面積からロールモードを一々算出することは、解析時間が必要以上にかかり、開発時間及び開発工数が嵩んでしまう。
【0027】
ところで、図5(b)に示すように、ロール角[deg]とピッチレート[deg/sec]との関係をリサージュ波形で示すと、ロール角とピッチ角との位相差に比例して、収束点Pのピッチレートが移動することが解る。この収束点Pの移動量は、ロールモードにほぼ比例しており、従って、このロールモードがゼロのときの座標を原点(横軸=0,縦軸=0)とし、ロール角が0のときのピッチレートを算出することで、このピッチレートからロールモードを代用的に算出することができる。すなわち、「ロール角とピッチ角との位相差であるロールモード」を「ロール角ゼロにおけるピッチレート」(以下「代用ロールモード」と称する)で算出することができる。尚、図5において、ロール角が+(プラス)は左転舵、−(マイナス)は右転舵を示し、ピッチ角が+(プラス)は前上がり、−(マイナス)は前のめりを示す。
【0028】
スラローム走行のような操舵の切り返しを連続的に行う際の運転者の操舵タイミング、及び操舵速度は、運転者毎に様々である。すなわち、操舵タイミングは、早めに転舵操作をおこなった後ゆっくりと戻すタイプから、遅いタイミングで転舵した後に早く戻すタイプまでおり、更に、操舵速度も速い操舵を好むタイプから、ゆっくりとした操舵を好むタイプまで多種多様である。
【0029】
運転者の好む操舵条件に拘わらず、ほぼ満足できる操舵安定性が得られるサスペンションは、各操舵条件においてロールモードがゼロになる特性(減衰力)を有する仕様であるとされている。
【0030】
本実施形態では、操舵条件毎のロール感を評価する手法として、各操舵条件において、上述した代用ロールモードがゼロに最も近い特性(減衰力)のサスペンション仕様を選択することで、当該車両モデル1に最適な仕様のサスペンションモデル21f,21rを特定する。又、操舵タイミングは、操舵入力の速度(操舵速度)と最大操舵角の位相差で設定する。
【0031】
具体的には、図6に示すように、横軸に操舵速度による操舵パターン、縦軸に理想的なサイン波形を示す操舵角度の最大角を基準とした位相差(操舵ピーク位相差)による操舵タイミングを取る格子状ロールモードマップにて、操舵条件を特定し、1つのサスペンション仕様に対する操舵条件毎のロール感(フィーリング)を評価する。
【0032】
この格子状ロールモードマップの横軸には、図7に示すように、横軸に、運転者の代表的な操舵パターンとして、操舵速度の変化特性の異なる (I)台形波形、(II)台形サイン波形、(III)サイン波形、(IV)三角波形の4種が設定されている。又、この格子状ロールモードマップの縦軸には、操舵タイミングとして、操舵ピーク位相差を、位相の速い順から、(a)(b)の基準波形に対して位相が+Δtだけ進んでいる位相進み波形、(b)中立的な基準波形、(c)(b)の基準波形に対して位相が−Δtだけ遅れている位相遅れ波形の3種が設定されている。例えば、基準波形が図7の(III)に示すサイン波形である場合、図6における格子点(III,a)、(III,b)、(III,c)に対応する波形はそれぞれ図8(a)(b)(c)に示されるようになる。尚、図7、図8において、+(プラス)側が左転舵、−(マイナス)側が右転舵である。
【0033】
運転者の操舵条件は、操舵タイミングとしての操舵ピーク位相差と操舵速度との組合せによって表現することができるから、おおよそ、図6に示すロールモードマップで表わされる縦軸に係る操舵速度の代表パターン3種と、横軸に係る操舵ピーク位相差の代表パターン4種との組合せ、すなわち、12種類の格子点に係る何れかのパターンによって代表的な運転者の操舵条件を特定することができる。そして特定された操舵条件の全てにおいて、代用ロールモードがゼロに最も近い特性を示すサスペンション仕様を選択することで、当該車両モデル1に合う最適なサスペンションモデル21f,21rを特定することができる。尚、格子点間の代用ロールモードは補間計算により求められる。又、本実施形態では、代用ロールモードを、領域毎に設定した表示パターン(或いは色味)によって区分けして、視覚的に容易に認識できるようにしている。
【0034】
図9には、左上に、車両モデル1に取付ける前輪サスペンションモデル21fと後輪サスペンションモデル21rの基本仕様F1,R1を設定し、この基本仕様F1,R1の各サスペンションモデル21f,21rに係るパラメータ(例えば、ダンパ22aの減衰率)を段階的にチューニングして、前輪サスペンションモデル21fの仕様が、基本仕様F1を含めて、F1〜F10の10候補の仕様が評価対象として設定され、又、後輪サスペンションモデル21rの仕様が、基本仕様R1を含めて、R1〜F7の7候補の仕様が評価対象として設定されている。そして、この70候補の組合せの中から、当該車両モデル1に適合する最適な仕様のサスペンションモデル21f,21rの組合せを特定する。
【0035】
上述したロールモード解析処理部12で実行されるサスペンションモデル評価処理は、具体的には、図2に示すサスペンションモデル評価ルーチンに従う。
【0036】
このルーチンでは、先ず、ステップS1で、車両モデル1の走行時の挙動を表わす車両モデルデータ(車両諸元等)、及びタイヤデータ(タイヤ諸元等)等の車両データを入力する。
【0037】
次いで、ステップS2へ進み、候補別に設定されているサスペンションモデルの仕様データを入力する。この仕様データは、予め設定されているサスペンションの仕様毎に入力する。
【0038】
次いで、ステップS3へ進み、次の候補があるか否かが判定される。このとき、サスペンション仕様評価装置10の出力装置に設けられているモニタ上には、次の候補が有るか否かのメッセージが表示されると共に、YESとNOの選択ボタンが表示される。そして、次候補がある場合、オペレータがYESボタンをクリックすると、プログラムはステップS2へ戻り、新たな候補の仕様データを入力する画面が表示される。
【0039】
又、ステップS3で、今回、解析する全ての仕様データの入力が終了した場合、すなわち、図9に示す前輪サスペンションモデル21fに対する10候補の仕様F1〜F10、及び後輪サスペンションモデル21rに対する7候補の仕様R1〜R7の全ての入力が終了した場合、オペレータはモニタ上に表示されている選択ボタンのNOをクリックする。すると、プログラムは、ステップS4へ進み、候補別にロールモードの解析を実行し、上述したロールモードマップを作成する。この各ロールモードマップには、上述した12種類の操舵条件毎に求めた代用ロールモードが表示されている。
【0040】
その後、ステップS5へ進み、各ロールモードマップを集合させて、図9に示すようなロールモードチューニングマップを作成し、ステップS6で、このロールモードチューニングマップをメモリ部15に記憶して、ルーチンを終了する。このメモリ部15に記憶されているロールモードチューニングマップは、出力処理部13を介してモニタやプリンタなどの出力装置3から出力させることができる。
【0041】
上述したように、代用ロールモードがゼロに近い特性ほど、当該自動車モデル1のサスペンションモデル21f,21rとしては最適な組合せとなる。本実施形態では、この範囲の代用ロールモードを0±0.025に設定している。従って、ロールモードマップ全体に占める代用ロールモード(0±0.025)の面積が広いほど、評価値が高くなる。尚、この評価値は、例えばロールモードマップ全体の面積に対する前記代用ロールモード(0±0.025)に示す割合で表わすようにしても良い([代用ロールモード(0±0.025)面積/ロールモードマップ全体の面積]×100[%])。
又、評価対象となるサスペンションが搭載される車両が特定のニーズに沿った特性となるようにしたい場合には、ロードマップ内を一律の重みで評価するのではなく、特定の操舵条件下における代用ロールモード(0±0.025)の面積については、他の操舵条件下における代用ロールモード(0±0.025)の面積についてよりも相対的に高く評価するように重み付けをしても良い。若しくは、ニーズに沿った特定の操舵条件のみでロードマップを作成して評価しても良い。
【0042】
因みに、図9では、前輪サスペンションモデル21f側が仕様F6〜F10で、後輪サスペンションモデル21r側が仕様R7の組合せの評価値が85〜95{%}となり、今回のサスペンションモデル21f,21rに設定されている複数の仕様の中では、良好な操舵安定性を得ることのできる最適な組合せであると云える。但し、前輪サスペンションモデル21f側が仕様F6〜F9で、後輪サスペンションモデル21r側が仕様R2,R3の組合せであっても、評価値が85〜95[%]の範囲であるため、良好な操舵安定性が得られると考えられる。
【0043】
従って、このロールモードチューニングマップを参酌して、良好な操舵安定性を得られると考えられる仕様のサスペンションモデル21f,21rを、1つ或いは複数選択し、それらを装備する車両を実車走行し、微調整することで、最終的な仕様を決定する。
【0044】
このように、本実施形態では、ロール角とピッチレートとで構成されたリサージュ波形からロール角ゼロにおけるピッチレート(代用ロールモード)を、ロールモード(ロール角[deg]とピッチ角[deg]との位相差)の代用として用いるようにしたので、実際に即した非線形のサスペンション特性に基づく仕様を、比較的容易に求めることができる。
【0045】
又、この代用ロールモードに基づき、代用ロールモードがゼロに最も近い特性のサスペンション仕様を選択することで、良好な操舵安定性を得ることのできるサスペンションモデル21f,21rの組合せを特定することができる。
【0046】
更に、1つの車種に装備する前輪サスペンションモデル21f、及び後輪サスペンションモデル21rの仕様を決定するに際し、仕様毎のロールモードマップを用い、このロールモードマップに表わされている代用ロールモードに基づいて、1つの車両モデル1に適合する最適なサスペンション仕様を選択するようにしたので、全ての種類の組合せを実車走行する必要がなくなり、開発に要する時間及び走行試験に要する時間を短縮することができ、開発コストを大幅に低減することができる。
【0047】
又、ロールモードチューニングマップを参照することで、前輪及び後輪の各サスペンション仕様の組合せによって得られる特性を、大まかに把握することができる。従って、例えば、操舵安定性をある程度犠牲にして、乗り心地を優先するサスペンション仕様の組合せを選択することも可能である。その結果、本実施形態によるサスペンション仕様評価装置10を用いることで、ユーザのニーズに合う特性のサスペンション仕様を設計段階で選択することができ、高い実用性を得ることができる。
【0048】
又、図9のロールモードチューニングマップにおいて、例えば、前輪サスペンションモデル21fの仕様F1〜F5と後輪サスペンションモデル21rの仕様R1〜R7の組合せでは、良好な操舵安定性を得ることができないと経験上解っている場合は、当該仕様を除き、仕様F6〜F10と仕様R1〜R7の仕様を用い、更に、これらを細分化したチューニングを行って、図10に示すように、新たな前輪サスペンションモデル21fの仕様Fa〜Ffと後輪サスペンションモデル21rの仕様Ra〜Rgの組合せからなるロールモードマップを作成し、この各ロールモードマップを集合させてロールモードチューニングマップを作成するようにしても良い。その結果、解析に要する時間の無駄が削減されるばかりでなく、サスペンション仕様をより細密に設定することができる。
【0049】
尚、本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えば前輪サスペンションモデル21fの仕様と後輪サスペンションモデル21rの仕様との組合せを、ロールモードチューニングマップとして包括的に表示するようにしたが、仕様毎に求めたロールモードマップを個別に表示するようにしても良い。又、求めた代用ロールモードをロールモードマップに対して3次元表示するようにしても良い。
【0050】
更に、上述した実施形態では、ダンパ仕様(ダンパ22aの減衰率)を変更することで、代用ロールモードの特性を変えるようにしたが、前後のロールセンタ高を変更し、或いはサスペンションスプリングの仕様を変更し、或いはダンパとサスペンションスプリングとの双方の仕様を変更することで、代用ロールモードの特性を変えるようにしても良い。更に、ロールモードマップを構成する操舵条件も、12種類よりも多くても良い。
【符号の説明】
【0051】
1…車両モデル、
10…サスペンション仕様評価装置、
11…車両モデル設定処理部、
12…ロールモード解析処理部、
13…出力処理部、
14…データベース部、
15…メモリ部、
21f…前輪サスペンションモデル、
21r…後輪サスペンションモデル、
22a…ダンパ、
22b…サスペンションスプリング、
25L…左側バネ下部材、
25R…右側バネ下部材、
26…バネ上部材、
F1〜F10,R1〜R7,Ra〜Rg,Fa〜Ff…サスペンション仕様、
P…収束点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両モデルのデータと該車両モデルに装備されるサスペンションモデルの仕様データとに基づき、操舵時の該車両モデルに発生するロール角とピッチ角との関係から前記サスペンションモデルの仕様を評価する解析処理手段を備えるサスペンション仕様評価装置において、
前記解析処理手段は、前記ロール角とピッチレートとで表わされるリサージュ波形に基づき、該ロール角がゼロのときの前記ピッチレートに基づいて前記サスペンションモデルの仕様を評価することを特徴とするサスペンション仕様評価装置。
【請求項2】
前記複数の操舵条件は、予め設定されている複数の操舵速度と複数の操舵ピーク時の位相差との組合せで設定されることを特徴とする請求項1記載のサスペンション仕様評価装置。
【請求項3】
前記複数の操舵速度と前記複数の操舵ピーク時の位相差とで前記操舵条件を特定し、特定された該運転条件毎に前記サスペンションモデルの仕様を評価することを特徴とする請求項2記載のサスペンション仕様評価装置。
【請求項4】
前記複数の操舵速度と前記複数の操舵ピーク時の位相差とで前記操舵条件を特定するマップが設けられ、該マップが前記サスペンションモデルの仕様毎に備えられ、該仕様毎のマップの集合によりチューニングマップが構成されることを特徴とする請求項3記載のサスペンション仕様評価装置。
【請求項5】
前記解析処理手段は、前記ピッチレートがゼロに近い値を示すほど評価値が高く設定されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のサスペンション仕様評価装置。
【請求項6】
前記解析処理手段は、複数の操舵条件を有し、該操舵条件毎に前記サスペンションモデルの仕様を評価することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のサスペンション仕様評価装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−207424(P2011−207424A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79031(P2010−79031)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】