サブマージアーク溶接方法
【課題】 下向き1電極サブマージアーク溶接あるいは下向き多電極サブマージアーク溶接において、低温靭性が良好で且つ頂部スラグインの無い健全な溶接金属の作成方法を提供する。
【解決手段】 下向き1電極あるいは下向き多電極サブマージアーク溶接により引張強度が800MPa以上の溶接金属を作成する際において、ソリッドワイヤの電極の間あるいは最後尾の電極の後方の少なくとも1箇所以上にメタルコアードワイヤを所定の位置に配置することにより溶接金属中の酸素量を制御し、且つメタルコアードワイヤから供給される溶着金属量の全溶着金属量に占める割合が5%以上40%以下であり、且つ用いる特定組成のフラックスの塩基度が1.1以上3.2以下であり、且つ用いるメタルコアードワイヤの酸素量が質量%で0.03%〜0.50%以下であることを特徴とする、1溶融池を作成する下向きサブマージアーク溶接方法。
【解決手段】 下向き1電極あるいは下向き多電極サブマージアーク溶接により引張強度が800MPa以上の溶接金属を作成する際において、ソリッドワイヤの電極の間あるいは最後尾の電極の後方の少なくとも1箇所以上にメタルコアードワイヤを所定の位置に配置することにより溶接金属中の酸素量を制御し、且つメタルコアードワイヤから供給される溶着金属量の全溶着金属量に占める割合が5%以上40%以下であり、且つ用いる特定組成のフラックスの塩基度が1.1以上3.2以下であり、且つ用いるメタルコアードワイヤの酸素量が質量%で0.03%〜0.50%以下であることを特徴とする、1溶融池を作成する下向きサブマージアーク溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度ラインパイプあるいは高強度水圧鉄管等の溶接において、強度と靭性が要求される溶接金属を作成する際に使用する下向きサブマージアーク溶接方法に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
サブマージアーク溶接は効率が良く高速で溶接できることから、大型構造物の溶接に適用される。さらに必要な溶接効率により、電極数を1電極のみならず複数の電極を用いることも容易であり、より高能率の溶接にも対応できる優れた溶接方法である。
【0003】
サブマージアーク溶接の溶接金属に要求される特性の一つに靭性がある。溶接金属の靭性は溶接金属中の酸素量を最適化することで向上できることは、多くの研究成果から言われている点で、これに基づき溶接材料の開発が進められている。近年溶接構造物の大型化や、施工コスト低減を目的に用いる鋼材は高強度化が進み、これに伴い用いる溶接金属も高強度化が進んでいる。しかし、溶接金属では強度が高くなれば一般に靭性が低下する傾向にあるため、高強度鋼になるにほど、溶接金属の靭性を確保するために酸素量の制御方法はより重要となる。
【0004】
従来、サブマージアーク溶接金属の酸素量は使用するフラックスの組成を調整し制御していきた。例えば、特許文献1ではUO鋼管でX100クラスの高強度鋼に対して溶接金属のTiおよび酸素を低減することにより、低温靭性を確保している。また、特許文献2では、母剤や溶接金属の化学組成を限定して、高塩基性フラックスを使用することにより溶接金属の靭性を向上させようとしている。さらに、特許文献3、特許文献4、特許文献5あるいは特許文献6では、具体的に酸素を低減する手段としてフラックスの組成を最適化することにより、溶接金属の酸素量を低減し、且つビード形状等の溶接性を確保している。また特許文献7あるいは特許文献8では強度が800MPa以上の溶接金属に対して、溶接金属の酸素量およびAlと酸素の比率を制御することにより、溶接金属の靭性を確保しようとしている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−43911公報
【特許文献2】特開平3−285770号公報
【特許文献3】特開平5−375号公報
【特許文献4】特開平7−256488号公報
【特許文献5】特開平9−262692号公報
【特許文献6】特開2004−154840公報
【特許文献7】特開平11−2678844号公報
【特許文献8】特開2000−96187公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1においては溶接金属の低酸素化の効果については詳細に開示しているがその低酸素化の方法についてまでは開示していない。また、特許文献2では、母材の化学組成やワイヤの化学組成で溶接金属の組織を制御し靭性を向上させようとしているが、適用しようとしている溶接金属のPcmが低いことから低強度の溶接金属しか適用できない。さらに、フラックスの具体的な処方までは開示されていない。これに対して、特許文献3、特許文献4、特許文献5あるいは特許文献6では具体的に低酸素化の実現方法としてフラックスの成分を検討しその方法を明らかにし、さらにワイヤの化学組成も検討し、靭性の向上手段を明らかにしていが、これらの溶接材料を使用する前提がSM490やX65相当の低強度の鋼材あるいは溶接金属である。
【0007】
一方、先に述べた様に近年では800MPa以上の高強度鋼の溶接構造物への適用の要望が高まっている。これらの鋼材に適用する800MPa以上の高強度溶接金属では、強度を得るため合金元素が高く、そのため溶融金属の粘性が低強度の溶接金属とは変わる。そのため、特許文献3、特許文献4、特許文献5あるいは特許文献6で開示されている様な、低強度溶接金属への使用を前提とした組成のフラックスを、この様な高強度溶接金属を作成する際に使用した場合、図1に示す様なビード頂部にスラグインが発生するという新たな問題が発生するようになってきた。
【0008】
頂部スラグインとは溶接ビードの余盛り頂上付近の溶接金属内に発生する直径0.1mmから2.0mm程度のスラグインである。これは溶接中に溶融した溶接金属中の溶融スラグが浮上しきれずに、溶接ビード頂部の溶接金属内に残留したもので、欠陥として認識される。特許文献7では強度が800MPa以上の溶接金属に対して、Alと酸素の比率や用いるフラックスの塩基度を制御して溶接金属の靭性を確保しているが、用いるフラックスの成分にまでは検討を加えておらず、やはり頂部スラグインの問題が発生する。特許文献8でも溶接金属のAlと酸素量の比を制御することにより溶接金属の靭性は確保しようとしているが、酸素の制御方法にまでは言及していない。特に、市販のフラックスを使用しており頂部スラグインの問題が回避できていない。
【0009】
本発明者らは、この問題を解決するために頂部スラグインの生成傾向について検討した。その結果、頂部スラグインの発生傾向は主に、溶接金属の粘性、溶融スラグの粘性および溶接金属と溶融スラグとの界面張力の影響を受けることが判明した。溶接金属の粘性は溶接金属の組成により変化する。また、溶融スラグの粘性はスラグの成分により変化する。溶融金属と溶融スラグとの界面張力も溶接金属の成分と、溶融スラグの成分により変化する。一方、溶接金属の成分は溶接金属の強度を得るために最適化されている。また、溶融スラグの成分は当然フラックスの成分により決まる。そこで発明者らは、溶接金属の強度とフラックスの成分とにより頂部スラグインの発生傾向を整理することを試みた。
【0010】
そのためにはフラックスの成分系を表す指標が必要である。フラックス成分の設計の重要な観点として酸素量の制御がある。フラックスと溶接金属中の酸素量の関係を示す指標としては塩基度があり、フラックスの成分系を決定する上で重要な指標である。そこで、頂部スラグインの発生傾向も塩基度を利用して整理することを試みた。
【0011】
その結果を、図2に示す。図2の横軸は、用いるフラックスの成分のうちCaO、MgO、CaF2、Al2O3およびSiO2を用いて式(1)で計算される塩基度、縦軸はソリッドワイヤを用いて作成した溶接金属の引張強度である。サブマージアーク溶接に用いるフラックスの塩基度を表す式にはいくつかの式が用いられるが、式(1)は電気化学的手法を加味して森らが提案した塩基度の式で、酸化物のモル分率を用いて塩基度を表したものである。例えば、特開昭60−191691号公報でも用いられていて、フラックスの塩基度として古くから用いられている式である。図2の作成に用いた溶接は3電極サブマージアーク溶接で、市販のソリッドワイヤを用いてワイヤの化学成分により溶接金属の強度を調整した。溶接条件は表1に示す溶接条件を用いた。図2が示す様に、式(1)で計算される塩基度と溶接金属の強度により頂部スラグインの発生傾向が整理でき、頂部スラグインは溶接金属の強度が高くなるに従いより高い塩基度でも発生するようになる。800MPa以上の強度を持つ溶接金属では、式(1)で計算される塩基度が1.1以上でないと、頂部スラグインが発生することになる。
B=6.05N[CaO]+4.0N[MgO]+5.1N[CaF2]−0.2N[Al2O3]−6.3N[SiO2] ・・・(1)
ここで式(1)中の、N[CaO]、N[MgO]、N[CaF2]、N[Al2O3]、および、N[SiO2]は、それぞれCaO、MgO、CaF2、Al2O3、および、SiO2のモル分率を意味する。
【0012】
【表1】
【0013】
一方、強度が800MPa以上の高強度溶接金属の靭性を確保するためには、溶接金属中の酸素量の制御が重要である。強度が800MPa以上の溶接金属においては、発明者等の知見から質量%で酸素量が0.018%〜0.035%の範囲で安定した靭性が得られることが判っている。これは酸素量が0.018%未満では組織の微細化に必要な量の酸化物が形成されず靭性が得られない。また、0.035%超では粗大な酸化物が形成され、これが破壊の基点となり靭性が低下するためである。図3は用いるフラックスの成分のうち、CaO、MgO、CaF2、Al2O3およびSiO2を用いて式(1)で計算されるフラックスの塩基度と、そのフラックスを用いて作成した溶接金属中の酸素量の関係を示す。フラックスの成分のうち、CaO、MgO、CaF2、Al2O3およびSiO2を用いて、式(1)で計算される塩基度を用いることにより、フラックスの成分と溶接金属中の酸素量は図2に示す様に良く整理することができる。図3の作成に用いた溶接は3電極サブマージアーク溶接で、市販のソリッドワイヤを用いてワイヤの化学成分により溶接金属の強度を調整した。溶接条件は表1に示す溶接条件を用いた。ソリッドワイヤが含有する酸素量は一般的に0.01%以下の不可避の不純物程度である。そのため、図3に示すように溶接金属中の酸素量はフラックスにより決まる。
【0014】
図3から、溶接金属中の酸素量を安定的に0.018%以上得るためには、式(1)で計算される塩基度はおよそ1.1未満である必要がある。しかし、図2から溶接金属の強度が800MPa以上では式(1)で計算される塩基度が1.1未満では頂部スラグインが発生し、溶接欠陥防止の観点から問題が生じる。
【0015】
この様に、高強度溶接金属においては溶接性と靭性の両立が困難になることが判明した。さらに、特許文献で指摘されている様にフラックスの組成は溶接性に対して重要な影響を及ぼし、良好な溶接性と靭性を両立させるフラックスを開発するためには多くの工夫とコストが必要となる。もし、フラックスの成分設計をビード形状やスラグイン等の欠陥防止する溶接性の観点のみで実施し、酸素制御は別の方法で行えるのであれば、サブマージアーク溶接の溶接材料設計を行う上で非常に有効な手段となり得る。
【0016】
本発明は、この様な観点から検討を加えられたものであり、下向きサブマージアーク溶接により、ビード形状の良好で且つ靭性のすぐれた高強度溶接金属の作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは上記の目的を達成するために、サブマージアーク溶接方法そのものに注目して酸素量の制御と溶接性を共に両立させる方法を検討した。その結果、サブマージアーク溶接において、電極として用いるソリッドワイヤ以外に電極としては用いないメタルコアードワイヤを使用することにより、容易に溶接金属の酸素量を制御しその結果良好な靭性を持つ溶接金属を得ることが出来ることを見いだし、本発明を完成した。
すなわち、本発明の要旨とするところは以下の通りである。
【0018】
(1) 引張強度が800〜1200MPaの鋼材を、該鋼材の開先内に高塩基性フラックスを充填し、1電極を用いてサブマージアーク溶接することにより、引張強度が800〜1200MPaの溶接金属を形成するサブマージアーク溶接方法において、
前記電極をソリッドワイヤとするとともに、該1電極の後方に、鋼製外皮中に金属粉末または合金粉末を充填し、かつワイヤ全体に対する質量%でO:0.03%〜0.50%を含有するメタルコアードワイヤを配置し、前記電極と該メタルコアードワイヤとの距離を、前記1電極のソリッドワイヤの直径または複数電極のソリッドワイヤの最大直径の8倍以下とし、かつ、溶接線上にある前記1電極の中心位置と該メタルコアードワイヤの中心間を結ぶ線と、溶接線とのなす角度が15度以下となるようにするとともに、
前記電極から発生するアーク内、または、該アークによって形成された溶融池内に、前記メタルコアードワイヤを挿入し、該メタルコアードワイヤの溶着金属量が、溶着金属全体に対する質量%で5%〜40%となるように、該メタルコアードワイヤを溶融し、
前記高塩基性フラックスの成分組成が、該フラックスに対する質量%で、SiO2:5.0%〜20.0%未満、CaF2:30.0%〜50.0%、CaO:5.0%〜25.0%、MgO:1.0%〜5.0%、Al2O3:15.0%〜30.0%を含有し、かつ、該フラックスの成分組成が下記(1)式で計算される塩基度Bの値が1.1〜3.2を満足し、
前記溶接金属の成分組成が、該溶接金属に対する質量%で、
C:0.03%〜0.12%、
Si:0.03%〜0.40%、
Mn:0.5%〜3.0%、
Ti:0.002%〜0.025%、
Al:0.002%〜0.030%、
O:0.018%〜0.035%を含有し、
Nb:0.04%以下に制限し、
さらに、Cr:0.1%〜1.5%、Ni:0.1%〜4.0%、および、Mo:0.1%〜2.0%のうちの何れか1種または2種以上を含み、残部がFeおよび不可避の不純物であり、かつ、該溶接金属の化学組成が下記(2)式で求められるPcmの値が0.22〜0.38を満足することを特徴とする、サブマージアーク溶接方法。
B=6.05×N[CaO]+4.0×N[MgO]+5.1×N[CaF2]−0.2×N[Al2O3]−6.3×N[SiO2] ・・・(1)
Pcm=[C]+[Si]/30+([Mn]+[Cr])/20+[Ni]/60+[Mo]/15 ・・・(2)
但し、
上記N[CaO]、N[MgO]、N[CaF2]、N[Al2O3]、および、N[SiO2]は、それぞれCaO、MgO、CaF2、Al2O3、および、SiO2のモル分率を示し、
[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Ni]、および、[Mo]は、それぞれC、Si、Mn、Cr、Ni、および、Moの質量%を示す。
【0019】
(2)引張強度が800〜1200MPaの鋼材を、該鋼材の開先内に高塩基性フラックスを充填し、複数電極を用いて一つの溶融池を作成してサブマージアーク溶接することにより、引張強度が800〜1200MPaの溶接金属を形成するサブマージアーク溶接方法において、
前記複数電極をソリッドワイヤとし、該複数電極の何れかの隣接する2電極間あるいは最後尾電極の後方の少なくとも一カ所以上に、鋼製外皮中に金属粉末または合金粉末を充填し、かつワイヤ全体に対する質量%でO:0.03%〜0.50%を含有するメタルコアードワイヤを配置するとともに、隣接する2電極間にメタルコアードワイヤを配置する場合は該メタルコアードワイヤの中心位置と溶接線までの最短距離が、前記複数電極のソリッドワイヤの最大直径の2倍以下となるようにし、最後尾電極の後方にメタルコアードワイヤを配置する場合は、複数電極のソリッドワイヤの最大直径の8倍以下とし、かつ、溶接線上にある前記1電極の中心位置または複数電極のうちの最後尾電極の中心位置と該メタルコアードワイヤの中心間を結ぶ線と、溶接線とのなす角度が15度以下となるようにするとともに、
前記電極から発生するアーク内、または、該アークによって形成された溶融池内に、前記メタルコアードワイヤを挿入し、該メタルコアードワイヤの溶着金属量が、溶着金属全体に対する質量%で5%〜40%となるように、該メタルコアードワイヤを溶融し、
前記高塩基性フラックスの成分組成が、該フラックスに対する質量%で、SiO2:5.0%〜20.0%未満、CaF2:30.0%〜50.0%、CaO:5.0%〜25.0%、MgO:1.0%〜5.0%、Al2O3:15.0%〜30.0%を含有し、かつ、該フラックスの成分組成が下記(1)式で計算される塩基度Bの値が1.1〜3.2を満足し、
前記溶接金属の成分組成が、該溶接金属に対する質量%で、
C:0.03%〜0.12%、
Si:0.03%〜0.40%、
Mn:0.5%〜3.0%、
Ti:0.002%〜0.025%、
Al:0.002%〜0.030%、
O:0.018%〜0.035%を含有し、
さらに、Cr:0.1%〜1.5%、Ni:0.1%〜4.0%、および、Mo:0.1%〜2.0%のうちの何れか1種または2種以上を含み、残部がFeおよび不可避の不純物であり、かつ、該溶接金属の化学組成が下記(2)式で求められるPcmの値が0.22〜0.38を満足することを特徴とする、サブマージアーク溶接方法。
B=6.05×N[CaO]+4.0×N[MgO]+5.1×N[CaF2]−0.2×N[Al2O3]−6.3×N[SiO2] ・・・(1)
Pcm=[C]+[Si]/30+([Mn]+[Cr])/20+[Ni]/60+[Mo]/15 ・・・(2)
但し、
上記N[CaO]、N[MgO]、N[CaF2]、N[Al2O3]、および、N[SiO2]は、それぞれCaO、MgO、CaF2、Al2O3、および、SiO2のモル分率を示し、
[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Ni]、および、[Mo]は、それぞれC、Si、Mn、Cr、Ni、および、Moの質量%を示す。
【0020】
(3)前記鋼材の成分組成が、質量%で、
C:0.03%〜0.15%、
Si:0.01%〜0.50%、
Mn:0.5%〜3.0%、
Ti:0.001%〜0.02%、
Al:0.001%〜0.04を含有し、
残部がFeおよび不可避の不純物であることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載のサブマージアーク溶接方法。
【0021】
(4)前記鋼材の成分組成が、質量%で、さらに、Cr:0.1%〜1.5%、Ni:0.1%〜2.5%、Mo:0.1%〜2.0%、および、Nb:0.005%〜0.06%のうちの何れか1種または2種以上を含むことを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載のサブマージアーク溶接方法。
【0022】
(5)前記ソリッドワイヤの成分組成が、質量%で、
C:0.03%〜0.15%、
Si:0.02%〜0.80%、
Mn:0.2%〜4.0%、
Ti:0.002%〜0.10%、
Al:0.001%〜0.02%を含有し、
さらに、Cr:0.25%〜3.0%、Ni:0.25%〜8.0%、および、Mo:0.25%〜4.0%のうちの何れか1種または2種以上を含み、残部がFeおよび不可避の不純物であり、
前記メタルコアードワイヤの成分組成が、質量%で、
C:0.03%〜0.15%、
Si:0.02%〜0.80%、
Mn:0.2%〜4.0%以下、
Ti:0.002%〜0.10%、
Al:0.001%〜0.02%、
O:0.03%〜0.50%を含有し、
さらに、Cr:0.25%〜3.0%、Ni:0.25%〜8.0%、および、Mo:0.25%〜4.0%のうちの何れか1種または2種以上を含み、残部がFeおよび不可避の不純物であることを特徴とする、上記(1)〜(4)の何れかに記載のサブマージアーク溶接方法。
【0023】
尚、本発明で言うソリッドワイヤとは通常のサブマージアーク溶接で使用される直径1.6mmから6.4mm程度の中実の合金鋼の線状の溶接材料で、これを溶かして溶接金属を形成するものである。同時にサブマージアーク溶接ではアークを発生する電極として用いている。本発明でもソリッドワイヤと言った場合は電極として使用しているソリッドワイヤを指している。
【0024】
また、本発明で言うメタルコアードワイヤとは、外皮と呼ぶ中空の鋼管の中に金属粉末および合金粉末のいずれかあるいは両方を充填した後に、さらに必要に応じて伸線加工をさらに加えて所要の直径にして製造した線状の溶接材料である。金属粉末および合金粉末を鋼管内に充填する時期は、鋼管の形状にした後であっても、鋼管の成形過程の途中に同時に金属粉末および合金粉末を鋼管内に充填しても本発明の効果は同じで、何れの充填方法を含む方法で製造されたメタルコアードワイヤも、本発明で言うメタルコアードワイヤに含まれる。本発明では、このメタルコアードワイヤは電極としては使用せずに、ソリッドワイヤが発生するアークの熱あるいは溶融池に直接挿入することにより溶融し、且つ溶接金属の一部を形成する目的で使用する。
【0025】
外皮は、機械的なかしめによりシーム部を接合したかしめ型と、継目の無いシームレス鋼管あるいは継目が溶接により接合されている溶接鋼管であるシームレス型とがある。本発明で言うシームレス型とは、継目が無いことあるいは外皮である鋼管の縫目部において鋼管の外側と内側が気体あるいは水分に対して冶金的に遮断されていることを意味する。そのため、一般にかしめ型と比較して耐吸湿性に優れている。湿度の高い場所での長期の保管に対しても吸湿しにくく、その結果、特に低温割れ感受性の高い高強度溶接金属用の溶接材料として適している。
【0026】
図4に、メタルコアードワイヤの断面の模式図を示す。図4(a)および図4(b)は外皮Aの縫目部が機械的なかしめ部Bを形成したかしめ型の鋼管であるメタルコアードワイヤの断面の一例である。図4(c)は、外皮Bとして縫目の無い鋼管を使用したメタルコアードワイヤの模式図であり、図4(d)は外皮Bとして縫目部が溶接Wにより接合してある鋼管を使用したメタルコアードワイヤである。
【0027】
本発明では図4(a)および図4(b)の例に示される様な、外皮がかしめ型のメタルコアードワイヤをかしめ型メタルコアードワイヤと呼ぶ。また、図4(c)および図4(d)の例に示される様な、外皮がシームレス型のメタルコアードワイヤをシームレスメタルコアードワイヤと呼ぶ。さらに、かしめ型メタルコアードワイヤとシームレスメタルコアードワイヤとを総称してメタルコアードワイヤと呼ぶ。
【0028】
メタルコアードワイヤの外皮A又はBの素材は、成形性や伸線行程での加工性の観点から、一般には、C、Si、Mnおよび他はFeと不可避の不純物からなる軟鋼が使用され、溶接材料として必要な合金元素は内部に充填される金属粉末から添加される。しかし、合金添加量の多いメタルコアードワイヤでは必要に応じては外皮からも合金成分を添加することもある。酸素量は一般的に0.01%以下の不可避の不純物程度しか含まれない。
【0029】
メタルコアードワイヤの中に入れる金属粉末および合金粉末Cとは、具体的にはFe、Ni、Cr、MoおよびTi等の純金属粉末あるいは合金粉末があり、必要に応じて取捨選択される。金属粉末の中で、特にFeは他の金属粉末や合金粉末と異なり表面に酸素を吸着しやすく、また粉末の表面は酸化し微量の酸化鉄も形成し易く、本発明においては酸素を供給する粉末として重要な役割を果たす。また、必要に応じてメタルコアードワイヤの製造性を改善するために、金属粉末以外に水ガラス等の製造助剤や、溶接性をさらに改善するための酸化物、フッ化物等のアーク安定剤を添加するが、このことは本発明の効果に影響しない。また、これらの成分はメタルコアードワイヤの成分としては不可避の不純物として含まれる。元素としてはMg、NaあるいはCaが挙げられる。
【0030】
メタルコアードワイヤの合金元素の平均組成は、外皮の化学組成、金属粉末の平均組成、および製造設備や製造行程で決まるメタルコアードワイヤの外皮と金属粉末の質量比がきまれば式(3)で決定される。
M(CW)=M(g)×a(g)+M(p)×a(p) ・・・(3)
但し
M(CW):メタルコアードワイヤの元素Mの平均の質量%
M(g) :外皮の元素Mの質量%
a(g) :金属粉末と外皮の単位長さの質量の和に対する外皮の単位長さの質量の比
M(p) :金属粉末中の元素Mの平均質量(%)
a(p) :金属粉末と外皮の単位長さの質量の和に対する金属粉末の単位長さの質量の比
a(g)+a(p)=1
【発明の効果】
【0031】
本発明のサブマージアーク溶接方法によれば、電極として用いるソリッドワイヤ以外にメタルコアードワイヤを使用することで、溶接金属の酸素量を容易に制御でき、頂部スラグインを生じさせることなく良好なビード形状の溶接ができる。その結果、溶接性が良好で、かつ靭性に優れた高強度溶接金属を得ることができるという顕著な効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明は引張強度が800MPa以上、1200MPa以下の溶接金属に適用することを前提としている。それは、800MPa未満の強度の溶接金属では、溶接金属の合金量が少なく従来技術でも靭性が良好でかつビード形状も良好な溶接部が得られるためである。また、1200MPa超の溶接金属では組織がマルテンサイト組織となり、靭性確保が本発明の技術のみでは困難になる。
【0033】
溶接方法は、下向きサブマージアーク溶接を用いる。電極の数は1電極あるいは2電極以上であるが、実用上最大で5電極までが望ましい。
次ぎに具体的に本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0034】
本発明では自動的に溶融池に送給されるメタルコアードワイヤを使用し、そのメタルコアードワイヤの配置を、1電極サブマージアーク溶接の場合はソリッドワイヤの後方に配置し、ソリッドワイヤとメタルコアードワイヤの距離が用いているソリッドワイヤの直径の8倍以下で且つソリッドワイヤとメタルコアードワイヤを結んだ線と溶接線のなす角度が15度以下とした。また、多電極サブマージアーク溶接の場合はメタルコアードワイヤをソリッドワイヤの間あるいは最後尾のソリッドワイヤの後方の少なくとも1箇所以上に配置し、最後尾のソリッドワイヤの後方にメタルコアードワイヤを配置する場合は、最後尾のソリッドワイヤとメタルコアードワイヤの距離が用いているソリッドワイヤのうち最も太いソリッドワイヤの直径の8倍以下とし、且つ最後尾のソリッドワイヤとメタルコアードワイヤを結んだ線と溶接線のなす角度を15度以下とした。この理由をについて次に述べる
先ずメタルコアードワイヤを使用する理由について述べる。
【0035】
先に述べた様に引張強度が800MPa以上のサブマージアーク溶接金属において、良好な靭性を得るためには、溶接金属の酸素量を質量%で0.018%〜0.035%の範囲に制御する必要がある。一方、図2および図3が示す様にフラックスで酸素量を範囲に制御すると頂部スラグインが発生する。そのため、フラックス以外の何らかの方法で、溶接金属中の酸素量を増加する方法を考えなければならない。先に述べた様に、ソリッドワイヤが含有する酸素量は一般的に不可避の不純物程度であるため、ソリッドワイヤを使用する限り、ワイヤから酸素を供給することはできない。そのため、本発明では安定して溶接金属の酸素量を質量%で0.018%〜0.035%の範囲にするために、メタルコアードワイヤを用いて酸素量を増加する。
【0036】
図5に、サブマージアーク溶接の電極間あるいは最後尾の電極の後方にメタルコアードワイヤを1本以上配置した場合の、フラックスの式(1)で計算される塩基度と溶接金属中の酸素量の関係を示す。図5の作成に用いた溶接は1電極〜5電極サブマージアーク溶接で電極にはソリッドワイヤを使用し、メタルコアードワイヤを1から4本使用して溶接したものである。サブマージアーク溶接の溶接条件は表2に示す条件を用いた。メタルコアードワイヤから供給される溶着金属量の全溶着金属量に占める割合は5%以上40%以下の範囲で、メタルコアードワイヤの酸素量は0.03%以上、0.50%以下のものを使用した。
【0037】
図5の横軸は式(1)で計算されるフラックスの塩基度、縦軸に溶接金属中の酸素量を示す。図中○は、図2で示したソリッドワイヤのみのサブマージアーク溶接による溶接金属中の酸素量である。図中●は電極として使用しないメタルコアードワイヤを1本以上用いて、溶接金属の酸素量を増加させた結果である。図5が示す様に、メタルコアードワイヤを使用することにより同じ式(1)で計算される塩基度のフラックスを使用しても、溶接金属中の酸素量を増加させることができる。
【0038】
メタルコアードワイヤは先に述べた様に、金属粉末に含まれるFe粉末の表面に酸素を吸着しているか表面が酸化しているため、ソリッドワイヤよりも酸素を多く含有させることができ、このメタルコアードワイヤを使用することにより効率良く安定して溶接金属に酸素を供給することができる。
【0039】
メタルコアードワイヤから供給する酸素量は、メタルコアードワイヤの酸素量、メタルコアードワイヤを使用する本数、およびメタルコアードワイヤの送給速度で調整することができる。すなわち、酸素量の多いメタルコアードワイヤを使用すれば溶接金属に供給される酸素量は多くなる。メタルコアードワイヤの酸素は、金属粉末に含まれるFe粉末の表面に吸着している酸素あるいは表面の酸化鉄が供給源となる。表面に吸着している酸素量は製造方法や保管方法により変化させることも可能である。また、金属粉末と皮材の重量比率を変えることにより同じ酸素量のFe粉末を使用しても、メタルコアードワイヤの酸素量を変えることができる。
【0040】
また、多電極サブマージアーク溶接に本発明を適用する場合は、用いるメタルコアードワイヤの数を増加しても容易に可能である。すなわち、例えば、3電極サブマージアーク溶接へ適用する場合は、例えば、第1電極と第2電極の間にのみメタルコアードワイヤを配置する場合と比較して、第1電極と第2電極の間および第2電極と第3電極の間の2カ所に配置することにより、より多くの酸素をメタルコアードワイヤから溶接金属に供給することができる。
【0041】
また、メタルコアードワイヤは電極としては使用してないため、メタルコアードワイヤの送給速度を調節することによっても、メタルコアードワイヤからの酸素の供給量を増減することができる。すなわち、メタルコアードワイヤの送給量を多くすればそれだけ、全溶着金属量に占めるメタルコアードワイヤの量が増加し、メタルコアードワイヤから供給される酸素量が増加することになる。
【0042】
次ぎにメタルコアードワイヤから供給される溶着金属量の全溶着金属量に占める割合の限定理由について説明する。
【0043】
本発明では、メタルコアードワイヤから供給される溶着金属量の全溶着金属量に占める割合が5%以上40%以下に規定したが、好ましくは10〜30%である。これは本発明の範囲の酸素量を持つメタルコアードワイヤでは、靭性を確保するために必要な酸素量を溶接金属に供給するためには、最低5%以上は必要である。一方、40%超ではメタルコアードワイヤの量が多すぎて、溶融池内でメタルコアードワイヤが十分溶融することが出来ず、平均の溶接金属の酸素量は適正な範囲には言っても、酸素過剰で酸化物の多い部分が溶接金属中に発生し、溶接金属の靭性が低くなる。そのため40%以下とした。
【0044】
本発明ではメタルコアードワイヤを溶接部に送給するが、その送給方法は特段指定するものでは無い。ワイヤの送給速度を制御できる機構であればモーターとギヤを併用した送給機等の一般に駆動方法により自動的に送給すれば良い。そして次に述べる本発明の範囲内の位置に送給された場合、メタルコアードワイヤは溶融池に挿入され溶融するか、ソリッドワイヤからは発生するアークにより加熱され溶融する。あるいは両方の効果により溶融する。そして十分溶融池内で混合され均一な溶接金属を形成する。
【0045】
次に、ソリッドワイヤおよびメタルコアードワイヤの配置について説明する。
【0046】
図6は請求項1に関する1電極サブマージアーク溶接におけるソリッドワイヤおよびメタルコアードワイヤの配置を示す模式図である。図6(a)は溶接部の側面から見た模式図である。1電極サブマージアーク溶接の場合は、メタルコアードワイヤaはソリッドワイヤbの後方に配置する。さらに、ソリッドワイヤとメタルコアードワイヤの距離Lが用いているソリッドワイヤの直径の8倍以下とした。これは、ソリッドワイヤの直径の8倍超の距離ではメタルコアードワイヤを配置する位置が溶融池の後方すぎて十分メタルコアードワイヤを溶融することができず、また溶けたメタルコアードワイヤが十分溶融池内で攪拌されないためである。その結果、組織の不均一が発生し溶接金属の靭性が低くなる。そのため、用いているソリッドワイヤの直径の8倍以下、好ましくは6倍以下の距離とした。
【0047】
また、ソリッドワイヤとメタルコアードワイヤを結んだ線と溶接線のなす角度が15度以下とした。図6(b)はメタルコアードワイヤaが溶接線Wl上に配置された場合の溶接部上面から見た模式図である。一方、図6(c)はメタルコアードワイヤaが溶接線Wl上に配置されていない場合の溶接部上面から見た模式図であるが、ソリッドワイヤbとメタルコアードワイヤaを結んだ線と溶接線Wlのなす角度θが15度超の場合はメタルコアードワイヤa溶接ビードWbを形成する溶融池mの端部に挿入されることになり、十分メタルコアードワイヤが溶融することができず、また溶けたメタルコアードワイヤが十分溶融池内で攪拌されない。そのため、ソリッドワイヤとメタルコアードワイヤを結んだ線と溶接線のなす角度θが15度以下、好ましくは12度以下とした。
【0048】
次に請求項2に関わるワイヤの配置について説明する。
【0049】
図7および図8は請求項2に関する、多電極サブマージアーク溶接におけるソリッドワイヤとメタルコアードワイヤの配置の模式図である。多電極サブマージアーク溶接の場合は、ソリッドワイヤの間あるいは最後尾のソリッドワイヤの後方での少なくとも1箇所には位置する。図7はソリッドワイヤの間にメタルコアードワイヤを配置する場合の模式図である。図7(a)は母材Mの溶接部の側面から見た模式図である。第1、第2、第3電極のソリッドワイヤb、c、dの間にメタルコアードワイヤaを挿入する場合、その両側のソリッドワイヤc、dを結んだ直線とメタルコアードワイヤaの先端の距離が使用しているソリッドワイヤうち最も太い直径の2倍以下とした。図7(b)はメタルコアードワイヤaがその両側のソリッドワイヤc、dを結んだ線Wl上に配置されている場合の溶接部上面から見た模式図である。これに対して、図7(c)はメタルコアードワイヤaがその両側のソリッドワイヤc、dを結んだ線上に無い場合の溶接部上面から見た模式図である。両側のソリッドワイヤc、dを結んだ直線とメタルコアードワイヤaの先端の距離Lが使用しているソリッドワイヤうち最も太い直径の2倍超の場合は、メタルコアードワイヤaの先端が溶融池mの端部に近づく。そのため、十分メタルコアードワイヤaを溶融することができず、また溶けたメタルコアードワイヤが十分溶融池m内で攪拌されない。その結果、組織の不均一が発生し溶接金属の靭性が低くなる。そのため、両側のソリッドワイヤを結んだ直線とメタルコアードワイヤの先端の距離Dが使用しているソリッドワイヤうち最も太い直径の2倍以下とした。
【0050】
図8は最後尾のソリッドワイヤの後方にメタルコアードワイヤを配置した場合の模式図である。図8(a)は母材Mの溶接部の側面から見た模式図である。最終ソリッドワイヤdの後方にメタルコアードワイヤaを配置する場合は最後尾のソリッドワイヤdとメタルコアードワイヤaの距離Lが用いるソリッドワイヤのうち最も太いソリッドワイヤの直径の8倍以下でとした。この理由は1電極の場合と同様で、この距離がソリッドワイヤのうち最も太いソリッドワイヤの直径の8倍超ではメタルコアードワイヤを配置する位置が溶融池の後方すぎて十分メタルコアードワイヤを溶融することができず、また溶けたメタルコアードワイヤが十分溶融池内で攪拌されないためである。その結果、組織の不均一が発生し溶接金属の靭性が低くなる。そのため、用いているソリッドワイヤの直径の8倍以下、好ましくは6倍以下の距離とした。
【0051】
また、最後尾のソリッドワイヤdとメタルコアードワイヤaを結んだ線と溶接線Wlのなす角度θが15度以下とした。図8(b)はメタルコアードワイヤが溶接線上に配置された場合の模式図である。一方、図8(c)はメタルコアードワイヤが溶接線上に配置されていない場合の模式図であるが、15度超の場合にはメタルコアードワイヤは溶融池の端部に挿入されることになり、十分メタルコアードワイヤが溶融さすることができず、また溶けたメタルコアードワイヤが十分溶融池内で攪拌されない。その結果、組織の不均一が発生し溶接金属の靭性が低下する。そのため、ソリッドワイヤとメタルコアードワイヤを結んだ線と溶接線のなす角度θが15度以下、好ましくは12度以下とした。
【0052】
図7および図8では、メタルコアードワイヤは各々の図で1本ずつしか記載されていないが、後に述べる様に、溶接金属に供給する酸素量を増加させる目的で図7において2本以上のメタルコアードワイヤを使用しても、又、図7と図8を併用しても本発明の効果は得られる。又、図6、図7および図8では簡便のためソリッドワイヤおよびメタルコアードワイヤは母材に対して垂直に位置しているが、ソリッドワイヤの角度は溶接条件により当然母材に対して適宜角度を持つことは当然であり、これは本発明の効果に影響を与えるものでは無い。
【0053】
次に、フラックスのSiO2量の限定理由について述べる。
サブマージアーク溶接に使用するフラックスを構成する成分のうちSiO2の比率が質量%で、5.0%〜20.0%未満と限定した。図9は横軸にフラックス中SiO2量、縦軸に溶接金属の強度をとり、各強度における頂部スラグインの発生傾向におよぼすフラックス中のSiO2量の影響を示したものである。溶接は3電極サブマージアーク溶接を用い、溶接ワイヤは全てソリッドワイヤを用いた。溶接条件は表1に示す溶接条件を用いた。また、図9で使用したフラックスのうちSiO2が15.5%〜31.0%の範囲フラックスは式(1)で計算される塩基度が1.1〜2.0で本発明の範囲である。また、SiO2が34.5%以上のフラックスは式(1)で計算される塩基度が−0.4〜0.8で本発明の範囲外である。
【0054】
溶接金属の引張強度が800MPa以上ではSiO2量がおよそ20.0%以上で頂部スラグインが発生している。これはSiO2が過剰に添加されると溶融したスラグがよりガラス質となり溶接金属中から浮上しにくくなり、溶接ビードの頂部に残留しやすくなるためである、また、SiO2は溶融スラグの軟化温度を高くするため、スラグの粘性も高める。そのため、上限を20.0%未満とした。下限は本発明の効果からは特に限定しないが、SiO2はガラス成分で少ないとフラックスが結晶質となり吸湿しやすくなり、特に高強度では耐低温割れ性を阻害するため5.0%以上とした。
【0055】
次にフラックスのCaF2量の限定理由について述べる。
【0056】
サブマージアーク溶接に使用するフラックスを構成する成分のうちCaF2の比率が質量%で、30.0%〜50.0%とした。図10は横軸にフラックス中CaF2量、縦軸に溶接金属の強度をとり、各強度における頂部スラグインの発生傾向におよぼすフラックス中のCaF2量の影響を示したものである。図10で使用したフラックスではすべて式(1)で計算される塩基度が1.1以上、3.2以下である。
【0057】
溶接金属の引張強度が800MPa以上ではCaF2量がおよそ30%未満で頂部スラグインが発生している。これはCaF2は溶融スラグの軟化溶融音素を下げて粘性を低くする効果があるが、30%未満ではその効果が得られないためである。そのため、下限を30.0%とした。上限は本発明の効果のためには限定しなくても良いが、CaF2量が過剰になるとアークの安定性が損なわれるため、50.0%以下に限定した。
【0058】
次にフラックスのCaOの限定理由について述べる。
【0059】
サブマージアーク溶接に使用するフラックスを構成する成分のうちCaOの比率が重量%で5.0%〜25.0%とした。CaOは式(1)で計算される塩基度の調整に添加されるが5.0%以下では(1)で計算される塩基度が小さくなりすぎるため、5.0%以上必要である。また、CaOは溶接金属の溶接ビード形状に影響をおよぼし、5.0%未満では軟化溶融温度が高くなり溶融ガスの放散の阻害によるあばたの発生等の溶接ビード表面の外観不良につながる。一方、過剰では溶接ビードの余盛りが高くなりビード形状を悪くする。またスラグの剥離性も低下する。そのため上限を25.0%とした。
【0060】
次にフラックスのMgOの限定理由について述べる。
【0061】
サブマージアーク溶接に使用するフラックスを構成する成分のうちMgOの比率が重量%で1.0%〜5.0%とした。MgOは式(1)で計算される塩基度の調整のために添加する。1%未満では、式(1)で計算される塩基度が小さくなりすぎるため、1.0%以上は必要である。5.0%超ではビード形状が凸ビードとなり、アンダーカットが発生する。そのため、上限は5%とした。
【0062】
次にフラックスのAl2O3の限定理由について述べる。
【0063】
サブマージアーク溶接に使用するフラックスを構成する成分のうちAl2O3の比率が重量%で15.0%〜30.0%とした。
【0064】
Al2O3も式(1)で計算される塩基度の調整のために添加する。15.0%未満では式(1)で計算される塩基度が高くなりすぎるため15%以上は必要となる。一方、30%超添加すると式(1)で計算される塩基度が小さくなりすぎるため、上限を15.0%とした。また、Al2O3は溶接作業性に対しても影響を与え、過剰ではアンダーカットや馬の背状の突起が溶接ビード頂部に生成するため、上限を30%とした。
【0065】
次に、フラックスの式(1)で計算される塩基度の限定理由について述べる。
使用するフラックスを構成する成分のうちCaO、MgO、CaF2、Al2O3およびSiO2のモル分率を用いて式(1)で計算されるフラックスの塩基度が1.1〜3.2に限定した。
【0066】
用いる高塩基性フラックスの構成成分としては、SiO2およびCaF2以外にAl2O3、MgO、CaO、LiO2、TiO2等の酸化物、あるいはCaCO3等がスラグの生成、塩基度の調整、溶接ビード形状を整える効果等の目的で使用される。これらの成分の担体での量は頂部スラグインの生成には影響をおよぼさないが、これらの成分の内、SiO2、CaF2、CaO、MgOおよびAl2O3の配合比によりスラグインが発生しやすくなる。具体的には、溶接金属の引張強度が800MPa以上の場合は、Si02量やCaF2量が適正な範囲でも、式(1)で計算される塩基度が1.1未満では図2が示す様に頂部スラグインが発生する。そのため下限を1.1とした。
【0067】
一方、上限は本発明の効果からは特に限定は無いが、式(1)で計算される塩基度が高くなるに従いフラックスがより結晶質になるため、フラックスの表面積が多くなり吸着水が多くなる結果、溶接金属中の水素が増加し割れ等の欠陥が発生する頻度が高くなる。そのためフラックスの乾燥や乾燥した後の保管方法で対策が必要でありコスト的に不利になる。そのため上限を3.2とした。
B=6.05N[CaO]+4.0N[MgO]+5.1N[CaF2]−0.2N[Al2O3]−6.3N[SiO2] ・・・(1)
ここで、N[CaO]、N[MgO]、N[CaF2]、N[Al2O3]、および、N[SiO2]は、CaO、MgO、CaF2、Al2O3、および、SiO2のモル分率を意味する。
【0068】
次ぎに、溶接金属の化学組成の限定理由について述べる。サブマージアーク溶接においては溶接金属の特性はその化学組成で決まるため、成分範囲は重要である。
【0069】
C:0.03%〜0.12%
Cは、溶接金属の焼き入れ性を確保し、強度と靭性を得るために重要な元素である。0.03%未満では強度が得られない。一方、0.12%を超えると強度が過剰となる。また、炭化物が形成し靭性が低下する。そのため、0.12%以下とした。
【0070】
Si:0.03%〜0.40%
Siは脱酸元素として必要であり、0.03%以上は必要である。一方、0.40%を超えて添加するとSiが過剰となり、過剰Siは溶接金属中に固溶し靭性を低下する。そのため、上限を0.40%とした。
【0071】
Mn:0.5%〜3.0%
Mnは、焼き入れ性を向上させ溶接金属の強度を得るために0.5%以上必要である。一方、3.0%を超えると強度が過剰となり靭性が低下するため、上限を3.0%とした。
【0072】
Ti:0.002%〜0.025%
Tiは溶接金属の組織を微細化するのに最低限0.002%以上は必要である。しかし、0.025%を越えると、固溶Tiが増加し溶接金属の靭性が低下する。そのため、上限を0.025%とした。
【0073】
Al:0.002〜0.030%
Alは、母材、ワイヤおよびフラックスから移行してくるため溶接金属中には不純物として存在する。しかし、0.030%を超えると粗大な酸化物が形成し溶接金属の靭性が低下する。そのため、上限を0.030%とした。下限は本発明の効果からは特に限定する必要がないが、母材やフラックスかの不可避の不純物として0.002%以上は含まれる。
【0074】
Nb:0.04%以下
Nbは溶接材料には不可避の不純物程度にしか含まれないが、母材にはNbを添加する場合もあるため、母材から溶接金属に供給される。Nbが過剰に溶接金属に含有すると炭化物を形成し靭性が低下する原因となる。そのため、上限を0.04%とした。
【0075】
O:0.018%〜0.035%
Oは溶接金属の靭性を確保するために重要な元素である。0.018%未満では、組織を微細化して靭性を向上させるのに必要な酸化物を形成することができない。そのため0.018%以上は必要である。しかし、0.035%を超えると、粗大な酸化物を形成するようになり、溶接金属の靭性は低下する。そのため、上限を0.035%とした。
【0076】
Cr:0.1%〜1.5%、Ni:0.1%〜4.0%、および、Mo:0.1%〜2.0%のうちの何れか1種または2種以上を含む:
Cr、NiおよびMoは溶接金属の強度を向上させる元素であるため添加する。しかし、過剰添加は靭性あるいは溶接性を低下させるため上限をきめた
Crは、焼き入れ性を向上させ溶接金属の強度を得るため添加する。この効果を得るためには0.1%以上必要である。しかし、1.5%を超えると、過剰のCrは溶接金属の靭性を低下させる。そのため、上限を1.5%とした。
【0077】
Niは、溶接金属の強度と靭性を向上させるために添加する。この効果を得るためには0.1%以上必要である。しかし、4.0%を超えると、溶接時の高温割れが発生する危険性が高くなる。そのため上限を4.0%とした。
【0078】
Moは焼き入れ性を向上させ溶接金属の強度を得るため添加する。この効果を得るためには0.1%以上必要である。しかし、2.0%を超えると、過剰のMoは溶接金属の強度を過剰に高め、靭性を低下させる。そのため、上限を2.0%とした。
【0079】
次ぎに溶接金属の化学組成を用い低式(2)で計算されるPcmの値を0.22〜0.38とした。0.22以下では溶接金属の強度が800MPa未満となるため、下限を0.22とした。また、0.38を超えると溶接金属の強度が高くなりすぎるため、上限を0.38とした。
【0080】
次ぎに請求項3および請求項4に記載の母材の化学組成の限定理由について述べる。サブマージアーク溶接では母材の希釈率が高いため、サブマージアーク溶接の溶接金属の化学組成は母材の化学組成と溶接材料の化学組成との両方の影響を受ける。そのため、母材の化学組成を規定することにより容易に適切な化学組成の溶接金属を得ることができる。また、用いる母材の化学組成を限定することにより母材の特性を向上することができ、より良好な溶接継手を得ることができる。
【0081】
C:0.03%〜0.15%
Cは焼き入れ性を高め、組織を微細化するために重要名元素であり。母材の強度を確保するためには0.03%以上必要である。また、溶接金属に安定してCを供給するために、0.03%以上必要である。一方、0.15%を越えて添加するとCが過剰となる。そのため、母材の溶接熱影響部の硬化が著しく、靭性に悪影響をおよぼす。そのため上限を0.15%とした。
【0082】
Si:0.01%〜0.50%
Siは母材の製造時に脱酸元素として必要であり、その効果を得るために0.01%以上必要である。一方、0.50%を超えて添加すると母材の靭性が低下する。また、溶接金属への移行するSi量が過剰となり溶接金属の靭性も低下させる危険性があるため、上限を0.5%とした。
【0083】
Mn:0.5%〜3.0%
Mnは母材の焼き入れ性を高め強度を得るために必要な元素で、少なくとも0.5%以上必要である。一方、3.0%を超えて添加すると強度が高くなりすぎ靭性を低下させる。また、偏析が大きくなり、鋼材の組織も不均一にする。そのため、上限を3.0%とした。
【0084】
Ti:0.001%〜0.02%
Tiは、微量添加により母材の強度を向上させ靭性も改善するため、0.001%以上必要である。しかし、過剰のTiは母材強度を過剰にする。そのため上限を0.02%とした。
【0085】
Al:0.001%〜0.04%
Alは脱酸元素として母材に必要で、0.001%以上添加される必要がある。しかし、0.04%を超えて添加すると粗大な酸化物を形成して母材の靭性は低下すため、上限を0.04%とした。
【0086】
Cr:0.1%〜1.5%、Ni:0.1%〜2.5%、Mo:0.1%〜2.0%、Nb:0.005%〜0.06%の何れか1種又は2種以上を含む:
Cr、Ni、Mo、Nbは何れも母材の強度を向上させるために何れかを1種あるいは2種以上添加するが、過剰添加により、母材の靭性を低下させるため、上限を決めた。
Crは焼き入れ性を高めて、強度を確保するため添加する。この効果を得るためには、0.1%以上必要である。しかし、1.5%を超えて添加すると母材の靭性を低下させる。そのため、上限を1.5%とした。
【0087】
Niは、母材の強度を向上させるために添加する。この効果を得るためには、0.1%以上は必要である。しかし、2.5%を超えて添加すると溶接金属に移行するNiが過剰となり溶接金属に高温割れが発生しやすくなる。また、経済的な観点からも過剰の添加は好ましくないので上限を2.5%とした。
【0088】
Moは、母材の強度を向上させるために添加する。この効果をえるためには、0.1%以上必要である。しかし、2.0%を超えて添加すると母材の強度が過剰となり母材の靭性が低下する。また、経済的な観点からも過剰の添加は好ましくないので、上限を2.0%とした。
【0089】
Nbは、母材の強度を向上させるために添加する。この効果を得るためには、0.005%以上必要である。しかし、0.06%を超えて添加すると強度が過剰となり靭性が低下する危険性が高くなるため、上限を0.06%とした。好ましくは0.005〜0.05%である。
【0090】
次ぎに、請求項5に記載の用いるソリッドワイヤの化学組成およびメタルコアードワイヤの平均の化学組成の限定理由について説明する。溶接金属の化学組成は、母材と溶接材料により決定される。そのため、溶接に用いるソリッドワイヤあるいはメタルコアードワイヤの化学組成を規定することにより、容易に溶接金属の組成を設計することができる。酸素量以外はソリッドワイヤとメタルコアードワイヤとは化学組成の範囲は同じである。酸素量はメタルコアードワイヤのみ限定する。
【0091】
C:0.03%〜0.15%
Cは焼き入れ性を高めて、溶接金属の強度を確保するために重要な元素である。そのため、0.03%以上必要である。しかし、0.15%を超えて添加すると溶接金属のC量が過剰となり強度が高くなり靭性が低下する。そのため、上限を0.15%とした。
【0092】
Si:0.02%〜0.80%
Siは溶融した溶接金属の粘性を高める元素であり、作業性の観点から0.02%以上は必要である。しかし。0.80%を超えて添加すると溶接金属中のSi量が過剰となり靭性が低下するため、上限を0.080%とした。
【0093】
Mn:0.2%〜4.0%
MnもCと同様、溶接金属の焼き入れ性を高め強度を確保するために添加する元素である。そのため、0.2%以上は必要である。しかし、4.0%を超えて添加すると、溶接金属中のMn量が過剰となり靭性が低下するため、上限を4.0%とした。
【0094】
Ti:0.002%〜0.10%
Tiは酸素と結合して酸化物を形成して、溶接金属の組織の微細化に役立つ重要な元素である。0.002%未満ではワイヤからの添加量が足らず、その効果が得られないため、溶接金属の靭性が低下する。そのため、0.002%以上は必要である。しかし。0.10%を超えてワイヤに添加すると、酸化物を形成するに必要なTi以上が溶接金属に供給されるため固溶したTiが溶接金属中に増加し、溶接金属の靭性が低下する。そのため、上限を0.10%とした。
【0095】
Al:0.001%〜0.02%
Alは溶接金属の靭性に対して酸化物を形成して低下させる。当然ワイヤからも溶接金属に移行するため、上限をさだめた。0.02%を超えてワイヤに含まれると、溶接金属のAl量が過剰となり靭性が低下する。下限は特に溶接金属の靭性の観点からは必要ないが通常0.001%以上は不可避の不純物として含まれる。
【0096】
Cr:0.25%〜3.0%、Ni:0.25%〜8.0%、および、Mo:0.25%〜4.0%の何れか1種又は2種以上を含む:
Cr、Ni、Moは溶接金属の強度を確保するために1種または2種以上添加する。そのため、母材から供給される量の不足分は溶接材料から供給される。
【0097】
Crは溶接金属の焼き入れ性を高め強度を確保するために必要に応じてワイヤに添加する元素である。溶接金属がこの効果を得るためにはワイヤには0.25%以上必要である。しかし、過剰のCrは靭性を低下させる。3.0%を超えて添加すると溶接金属中のCrが過剰となり溶接金属の靭性が低下する。そのため、3.0%以下とした。
【0098】
NiもCrと同様焼き入れ性を高めて強度を確保するため、必要に応じてワイヤから溶接金属に添加する元素である。溶接金属がこの効果を得るためにはワイヤには0.25%以上必要である。しかし、8.0%を超えてNiを添加すると、溶接金属中のNi量が過剰となり、高温割れを引き起こす。そのため、上限を8.0%とした。
【0099】
MoもNiおよびCrと同様焼き入れ性を高めて強度を確保するため、必要に応じてワイヤから溶接金属に添加する元素である。溶接金属がこの効果を得るためにはワイヤには0.25%以上必要である。しかし、4.0%を超えてMoを添加すると、溶接金属の強度が過剰となり靭性が低下する。そのため、上限を4.0%とした。
【0100】
次にメタルコアードワイヤの酸素量の限定理由について述べる。
【0101】
O:0.03%〜0.50%%
メタルコアードワイヤの酸素量を質量%で0.03%〜0.50%に限定した。本発明では、メタルコアードワイヤから酸素を溶接金属に添加するのが目的である。そのため、メタルコアードワイヤの酸素量を規定する。0.03%未満では酸素量が少なく、溶接金属中に十分な酸素量が供給されない。そのため0.03%以上は必要である。一方、0.50%を超えると、酸素量が過剰となった結果、ガス成分が多くなりブローホール等の欠陥が生じ易くなる。そのため上限を0.50%以下とした。また、0.50%以下の酸素量のメタルコアードワイヤであれば、式(1)で計算される塩基度が本発明の範囲のフラックスを用いている限り、溶接金属は酸素過剰にはならない。
【実施例1】
【0102】
以下に、実施例を用いて本発明を説明する。
【0103】
実施例に用いた溶接方法は、1電極から5電極までのサブマージアーク溶接を使用した。表2に実施例で用いた溶接条件を示す。開先形状は図11に示すV開先を用いた。開先角度は80度で開先深さDkは表3に示す様に入熱に応じた開先深さを用いた。この開先内に表2に示した溶接条件で1層溶接を行った。
【0104】
表4に実施例で用いたソリッドワイヤを示す。ソリッドワイヤは化学組成が異なるワイヤを16種類用いた。このうち、ワイヤS1からワイヤS11までは、請求項5に記載された成分範囲を持つソリッドワイヤである。ソリッドワイヤの直径は主に3.2mmで、一部の実施例で4.0mmのソリッドワイヤを使用した。
【0105】
表5に実施例で用いたメタルコアードワイヤを示す。メタルコアードワイヤは化学組成の異なるかしめ型メタルコアードワイヤを20種類準備した。強度レベルが1000MPa未満のワイヤはかしめ型メタルコアードワイヤ、1000MPa以上はシームレスメタルコアードワイヤを用いた。ワイヤC1からワイヤC13までは請求項5に記載された成分範囲を持つメタルコアードワイヤである。C12は、使用する直前まで開封せず、表面への酸素吸着を防いだ状態で保管した鉄粉を使用したため酸素量の少ないCWになっている。また、C13は鉄粉量を多くしているため、CW中の酸素量が高い。ワイヤC14からワイヤC20までは化学成分の一部が請求項5の範囲外である。メタルコアードワイヤの直径はすべて3.2mmである。
【0106】
表6に実施例に用いたフラックの組成を示す。フラックスはメルトタイプのフラックスを用いた。フラックスaからスラックスgまではCaF2量、SiO2量および式(1)で計算される塩基度が本発明の範囲内である。一方、フラックスhからフラックスkは式(1)で計算される塩基度が本発明の範囲外である。また、スラックスhは式(1)で計算される塩基度とともにCaF2量も発明の範囲以上である。フラックスjは式(1)で計算される塩基度とともにSiO2量が本発明の範囲外である。フラックスkは式(1)で計算される塩基度とともにCaF2量、SiO2量も本発明の範囲外である。一方、フラックスlからフラックスnまでは式(1)で計算される塩基度は本発明の範囲であるが、CaF2およびSiO2のいずれか一方、あるいは両方の含有量が本発明の範囲外である。これらのフラックスは何れも、使用前に250℃で1時間乾燥した後に使用した。一部のフラックスは乾燥後の吸湿を防ぐため、使用直前まで容器に密閉して保管した。
【0107】
表7に実施例で用いた母材を示す。母材は板厚20mm、長さ1000mm、幅150mmの寸法で、強度が850MPa、950MPaおよび1000MPa級の鋼板を用いた。母材Bは請求項2の成分範囲の母材である。母材Cから母材Lまでは請求項3の範囲の成分を満足する母材である。これらの鋼板に、図11に示した片面V開先を1000mm長さの方向に全長にわたり加工し溶接に供した。
【0108】
これらの、化学組成の異なる母材、化学組成の異なるソリッドワイヤおよび化学組成の異なるメタルコアードワイヤを組み合わせることにより溶接金属の化学成分を調整し、溶接金属の強度を調整した。
【0109】
評価は、頂部スラグインの発生の有無、頂部スラグイン以外の内部欠陥の有無、ビード形状、ミクロ組織、溶接金属引張強度および−30℃の溶接金属吸収エネルギーで評価した。ビード形状は、作成した溶接ビードの目視外観で評価した。頂部スラグインの発生の有無は、先ず溶接ままで全長にわたり放射線透過試験を行い、欠陥の調査をした。その後、溶接ビードの有る面とは逆側の裏面から15mm減厚して頂部スラグイン以外の欠陥を除去した後、再度放射線透過試験を行い、頂部スラグインの有無を判断した。この際、頂部スラグイン以外の割れ等の内部欠陥も2回の放射線透過試験で評価を行った。引張試験のための試験片は、図12に示す様に表面から5mmの位置の溶接金属中央部から、丸棒型のJISA2号引張試験片Tsを引張試験片の平行部が溶接線と平行になるように採取した。衝撃試験のための試験片は図13に示す様に、表層から6mmの位置よりノッチ方向が溶接線方向になるように2mmVシャルピー衝撃試験片Tpを採取して測定した。また、組織観察用試験片を機械試験片採取用の溶接継手より溶接スタート側、溶接ビード長さの1/2位置および溶接クレータ側の3カ所から各溶接条件で3個づつ採取し、組織観察を行い組織の健全性を調査した。溶接継手は、放射線透過試験用と、それ以外の評価用に各々の条件につき2体づつ作成した。
【0110】
【表2】
【0111】
【表3】
【0112】
【表4】
【0113】
【表5】
【0114】
【表6】
【0115】
【表7】
【0116】
表8−1及び8−2は1電極サブマージアーク溶接へ適用した発明例である。発明例1から発明例24まで、何れも用いているフラックスは式(1)で計算される塩基度が1.1以上のフラックスであるが、本発明の範囲内の酸素量を含有するメタルコアードワイヤを全溶着金属に対して適正な量を適正な位置で溶融池に加えることで溶接金属に酸素を供給しているため、溶接金属の酸素量は適正で溶接金属の低温靭性は良好である。また、用いているフラックスの成分、フラックスの式(1)で計算される塩基度が本発明の範囲に入っているため、頂部スラグインは発生していない。さらに、メタルコアードワイヤの酸素量が本発明の範囲であるため、ピット等の欠陥も発生していない。さらに溶着金属量の全溶着金属量に占める割合や、メタルコアードワイヤの配置位置が本発明の範囲にはいっているため、溶接金属中にも未溶融等の冶金的問題も発生していない。
【0117】
発明例18は、酸素量の少ないC12のメタルコアードワイヤを使用しているが溶接金属中の酸素量は確保できている。また、発明例24は、酸素量の多いC13のメタルコアードワイヤを使用しているが酸素量は適正な範囲に入っている。また、メタルコアードワイヤの酸素量は本発明の範囲内のためピット等の溶接欠陥も発生していない。発明例14、発明例20、発明例21および発明例22は、同じソリッドワイヤ、メタルコアードワイヤおよびフラックスの組み合わせで、ソリッドワイヤの電極とメタルコアードワイヤの距離を変化させたものであるが、何れも本発明の範囲内のため均一な溶接金属が得られ、靭性は良好である。発明例23は発明例15と同じワイヤの組み合わせであるが、メタルコアードワイヤが溶接線上に無く、ソリッドワイヤとメタルコアードワイヤを結ぶ線と溶接線のなす角度が13度である。しかし本発明の15度以下の範囲に入っているために、溶融の不均一等も起こらず良好な靭性が得られている。
【0118】
【表8−1】
【0119】
【表8−2】
【0120】
表9から表12に多電極サブマージアーク溶接の発明例を示す。
【0121】
表9−1及び9−2は、2電極サブマージアーク溶接についての発明例である。発明例25から発明例33までは、何れも用いているフラックスは式(1)で計算される塩基度が3.0のフラックスbおよびフラックスは式(1)で計算される塩基度が1.7のフラックスeを使用しているが、本発明の範囲内の酸素量のメタルコアードワイヤを、本発明の範囲内の量を溶融池に加えることで溶接金属に酸素を供給しているため、溶接金属の酸素量は適正で溶接金属の低温靭性は良好である。
【0122】
また、用いているフラックスの成分、フラックスの式(1)で計算される塩基度が本発明の範囲に入っているため、頂部スラグインは発生していない。さらに、メタルコアードワイヤの酸素量が本発明の範囲であるため、ピット等の欠陥も発生していない。さらに溶着金属量の全溶着金属量に占める割合や、メタルコアードワイヤの配置位置も本発明の範囲にはいっているため、溶接金属中にも未溶融等の冶金的問題も発生していない。
【0123】
表10−1及び10−2は、3電極サブマージアーク溶接についての発明例である。発明例34から発明例75までは、何れも用いているフラックスは式(1)で計算される塩基度が、1.2から2.8のフラックスを使用しているが、本発明の範囲内の酸素量のメタルコアードワイヤを、本発明の範囲内の量で溶融池に加えることで溶接金属に酸素を供給しているため、溶接金属の酸素量は適正で溶接金属の低温靭性は良好である。
【0124】
また、用いているフラックスの成分、フラックスの式(1)で計算される塩基度が本発明の範囲に入っているため、頂部スラグインは発生していない。さらに、メタルコアードワイヤの酸素量が本発明の範囲であるため、ピット等の欠陥も発生していない。さらに溶着金属量の全溶着金属量に占める割合や、メタルコアードワイヤの配置位置も本発明の範囲にはいっているため、溶接金属中にも未溶融等の冶金的問題も発生せず良好な靭性を示している。
【0125】
発明例68から発明例71までは、最後尾のソリッドワイヤとその後方に配置されたメタルコアードワイヤの距離が違うが何れも頂部スラグインの無い良好な靭性を持つ溶接金属が得られている。
【0126】
発明例72から発明例74までは全てのソリッドワイヤの直径が4.0mmの例である。第3電極のソリッドワイヤの後方30mmの位置にメタルコアードワイヤを配置しているが、32mm以下の位置のため、メタルコアードワイヤは十分溶解し溶融池内で十分攪拌されているため、良好な靭性を示している。さらに、発明例75は第一電極のソリッドワイヤの直径が4.0mmの例である。それ以外の電極のソリッドワイヤは3.2mmである。第3電極の後方30mmの位置にメタルコアードワイヤを配置しているが、最も太いワイヤの4.0mmの8倍の距離以下の位置のため溶融池内で溶融したメタルコアードワイヤは攪拌され、良好な靭性を示している。
【0127】
表11−1及び11−2は4電極サブマージアーク溶接についての発明例である。発明例76から発明例80までは、何れも用いているフラックスは式(1)で計算される塩基度が1.2のフラックスgを使用しているが、本発明の範囲内の酸素量のメタルコアードワイヤを、本発明の範囲内の量で溶融池に加えることで溶接金属に酸素を供給しているため、溶接金属の酸素量は適正で溶接金属の低温靭性は良好である。
【0128】
また、用いているフラックスの成分、フラックスの式(1)で計算される塩基度が本発明の範囲に入っているため、頂部スラグインは発生していない。さらに、メタルコアードワイヤの酸素量が本発明の範囲であるため、ピット等の欠陥も発生していない。さらに溶着金属量の全溶着金属量に占める割合や、メタルコアードワイヤの配置位置も本発明の範囲にはいっているため、溶接金属中にも未溶融等の冶金的問題も発生せず良好な靭性を示している。
【0129】
発明例78、発明例79および発明例80は、メタルコアードワイヤから供給される溶着金属量の全溶着金属量に占める割合は8%と小さいが、溶接金属中の酸素量は適正な範囲に入り、良好な溶接金属靭性が得られている。発明例80は発明例79と比較して、最後尾のソリッドワイヤとメタルコアードワイヤとを結ぶ線と溶接線とのなす角度が15度の場合である。しかし、本発明の範囲内のため、メタルコアードワイヤは十分溶融し溶融池内で攪拌されているため、冶金的な問題は生じることなく、良好な靭性が得られている。
【0130】
表12−1及び12−2は5電極サブマージアーク溶接についての発明例である。発明例81から発明例89までは、何れも用いているフラックスは式(1)で計算される塩基度が1.2および3.2のフラックスを使用しているが、本発明の範囲内の酸素量のメタルコアードワイヤを、本発明の範囲内の量で溶融池に加えることで溶接金属に酸素を供給しているため、溶接金属の酸素量は適正で溶接金属の低温靭性は良好である。
【0131】
また、用いているフラックスの成分、フラックスの式(1)で計算される塩基度が本発明の範囲に入っているため、頂部スラグインは発生していない。さらに、メタルコアードワイヤの酸素量が本発明の範囲であるため、ピット等の欠陥も発生していない。さらに溶着金属量の全溶着金属量に占める割合や、メタルコアードワイヤの配置位置も本発明の範囲にはいっているため、溶接金属中にも未溶融等の冶金的問題も発生せず良好な靭性を示している。
【0132】
メタルコアードワイヤから供給される溶着金属量の全溶着金属量に占める割合は6%から38%までの範囲があるが、いずれも本発明の範囲内のメタルコアードワイヤを使用しているため溶接金属中の酸素量は適正な範囲であり、その結果溶接金属の靭性は良好である。
【0133】
【表9−1】
【0134】
【表9−2】
【0135】
【表10−1】
【0136】
【表10−2】
【0137】
【表11−1】
【0138】
【表11−2】
【0139】
【表12−1】
【0140】
【表12−2】
【0141】
次に比較例について説明する。
【0142】
表13−1及び13−2はメタルコアードワイヤを使用しない場合の比較例である。メタルコアードワイヤは使用せずソリッドワイヤのみ使用して溶接した場合の比較例である。比較例1および比較例2は1電極サブマージアーク溶接、比較例3から比較例5までは2電極サブマージアーク溶接、比較例6から比較例25までは3電極サブマージアーク溶接の比較例である。
【0143】
フラックスaからフラックスgを使用している比較例1から比較例4および比較例6から比較例14ではフラックスのCaF2量、SiO2量および式(1)で計算される塩基度が本発明の範囲内のため頂部スラグインは発生していないが、溶接金属の酸素量を増加する手段を講じていないため溶接金属中の酸素量が少なく、そのため溶接金属の靭性が低い。
【0144】
比較例15はフラックスhを使用している。このフラックスは式(1)で計算される塩基度が高く、CaF2量が多く、SiO2量が少ないため、頂部スラグインは発生していない。しかし、高塩基性のフラックスのため溶接金属の酸素量が低く靭性が低い。また、フラックス中のCaF2量が過剰でアークが安定せず、そのため溶接ビードが蛇行している。さらに、式(1)で計算される塩基度が高すぎるフラックスが結晶質となり吸湿しやすいため、溶接直前まで容器に密閉する必要があった。
【0145】
比較例5および比較例16から比較例20はフラックスiあるいはフラックスjを使用している。溶接金属の酸素量は0.018%以上、0.035%以下のため溶接金属の靭性は良好であるが、頂部スラグインが発生している。
【0146】
比較例21および比較例22はフラックスkを使用している。溶接金属の酸素量も過剰のため溶接金属の靭性が低い。またCaF2が本発明の範囲未満で且つSiO2が本発明の範囲を超えているため、頂部スラグインも発生している。
【0147】
比較例23はフラックスlを使用している。このフラックスは、SiO2が25.0%以下、CaF2は30.0%以上で、式(1)で計算される塩基度は1.1以上のため頂部スラグインは発生していないが、溶接金属の酸素量が低くそのため溶接金属の靭性が低い。さらにCaF2量が本発明の範囲を超えているため、アークの安定性が損なわれて溶接ビードが蛇行している。さらに、SiO2量が本発明の範囲未満のため、フラックスが結晶質となり吸湿しやすいため、溶接直前まで容器に密閉する必要があった。
【0148】
比較例24はフラックスmを使用している。フラックスのCaF2量が本発明の範囲未満のため、頂部スラグインが発生している。また、溶接金属の酸素量が少なく、溶接金属の靭性が低い。
【0149】
比較例25はフラックスnを使用している。フラックスのSiO2量が本発明の範囲を越えているため頂部スラグインが発生している。また、溶接金属中の酸素量が少ないため、溶接金属の靭性も低い。
【0150】
【表13−1】
【0151】
【表13−2】
【0152】
表14−1及び14−2は1電極サブマージアーク溶接にメタルコアードワイヤを使用した場合の比較例である。メタルコアードワイヤの配置位置、メタルコアードワイヤの添加量、用いているソリッドワイヤ、フラックスおよび母材は本発明の範囲である。しかし比較例26はメタルコアードワイヤに酸素量が本発明の範囲を超えているC20を使用しているため、ピットが発生している。比較例27は逆に、酸素量が本発明の範囲未満のメタルコアードワイヤC19を使用しているため、溶接金属中の酸素量が低く溶接金属の靭性が低い。
【0153】
【表14−1】
【0154】
【表14−2】
【0155】
表15−1及び15−2は3電極サブマージアーク溶接にメタルコアードワイヤを使用した場合の比較例である。比較例28は第2電極と第3電極の間、および第3電極の後方にメタルコアードワイヤを配置しているが、第3電極とその後方に配置されたメタルコアードワイヤとの距離が30mmである。電極に使用しているワイヤの直径が3.2mmであるため、その8倍の25.6mm以上の距離である。そのため、メタルコアードワイヤの挿入位置が溶融池の後方によりすぎ、メタルコアードワイヤが完全に溶融できず、さらに溶融池の中で十分攪拌されていない。その結果、酸素量は適正な範囲に入っているにもかかわらず溶接金属の靭性が低い。
【0156】
比較例29は第2電極と第3電極の間、および第3電極の後方にメタルコアードワイヤを配置しているが最後尾のソリッドワイヤとメタルコアードワイヤとを結ぶ線と溶接線とのなす角度が20度の場合の例である。角度が本発明の範囲以上のため、メタルコアードワイヤが十分溶融・攪拌されていない。その結果、酸素量は適正な範囲に入っているにもかかわらず溶接金属の靭性が低い。
【0157】
比較例30は第2電極と第3電極の間、および第3電極の後方にメタルコアードワイヤを配置しているが、第2電極と第3電極のソリッドワイヤを結んだ線とメタルコアードワイヤとの距離が8mmで、本発明の範囲であるソリッドワイヤの直径の2倍の6.4mm以上である。そのため、メタルコアードワイヤが十分溶融・攪拌されていない。その結果、酸素量は適正な範囲に入っているにもかかわらず溶接金属の靭性が低い。
【0158】
比較例31はフラックスhを使用した例である。塩基度の高いフラックスを使用しているがメタルコアードワイヤを3本使用して溶接金属に酸素を供給しているため、溶接金属中の酸素量は適正範囲である。そのため溶接金属の靭性は良好である。しかし、フラックス中のCaF2量が本発明の範囲を超えて過剰でアークが安定せず、そのため溶接ビードが蛇行している。さらに、式(1)で計算される塩基度が本発明の範囲を超え高いためフラックスが結晶質となり吸湿しやすいため、溶接直前まで容器に密閉する必要があった。
【0159】
比較例32は3電極サブマージアーク溶接にメタルコアードワイヤ3本使用したものである。塩基度の高いフラックスのフラックスlを使用しているがメタルコアードワイヤを使用しているため溶接金属の酸素量は適正範囲である。そのため、溶接金属の靭性は良好である。また、フラックスlは、SiO2が25.0%以下、CaF2は30.0%以上で、式(1)で計算される塩基度は1.1以上のため頂部スラグインは発生していない。しかし、CaF2量が本発明の範囲を超えているため、アークの安定性が損なわれて溶接ビードが蛇行している。さらに、SiO2量が低いため、フラックスが結晶質となり吸湿しやすいため、溶接直前まで容器に密閉する必要があった。
【0160】
比較例33は第2電極と第3電極の間、および第3電極の後方にメタルコアードワイヤを配置しているが、メタルコアードワイヤの送給速度を速くして、メタルコアードワイヤから供給される溶着金属量の全溶着金属量に占める割合を本発明の範囲を超える45%まで高めた。その結果、メタルコアードワイヤが十分溶融できず溶融池の中で完全に攪拌されていないため、酸素量は適正な範囲に入っているにもかかわらず溶接金属の靭性が低い。
【0161】
比較例34は第3電極の後方にメタルコアードワイヤを配置しているが、メタルコアードワイヤの送給速度を遅くして、メタルコアードワイヤから供給される溶着金属量の全溶着金属量に占める割合を本発明の範囲未満の3%まで小さくした。その結果、用いているメタルコアードワイヤは酸素量の高いC13を用いているにも関わらず、溶接金属の酸素量が低く溶接金属の靭性は低い。
【0162】
比較例35から比較例44までは用いているフラックスは本発明の範囲内であるが、用いているソリッドワイヤあるいはメタルコアードワイヤの化学組成の一部が過剰かあるいは不足しているため、溶接金属の成分が本発明の範囲から外れている。その結果、強度過剰ともに靭性が低い、あるいは強度不足等の問題が生じている。さらには比較例37および比較例43では溶接金属のNi量が過剰で、その結果高温割れが生じている。
【0163】
比較例35は、C量が請求項5の範囲未満のソリッドワイヤおよびメタルコアードワイヤを使用している。そのため、溶接金属中のCが不足している。また、溶接金属のPcmも本発明の範囲未満である。そのため、強度が低い。比較例36は用いているソリッドワイヤおよびメタルコアードワイヤのMo量およびTi量が過剰で、そのため溶接金属の化学組成もMo量およびTi量が過剰となり靭性が低い。また、Pcmも高いため強度が過剰である。
【0164】
比較例37は溶接金属中のNi量が過剰となり高温割れが発生している。また、溶接金属中のMo量も過剰のため、靭性も低い。比較例38は、溶接金属中のC量およびMn量も過剰となっている。そのため、溶接金属のPcmが本発明の範囲を超えており、強度過剰で溶接金属の靭性が低い。
【0165】
比較例39は、溶接金属中のAl量が過剰で低強度であるにもかかわらず靭性が低い。比較例40はMn量およびTi量の多いS16およびC18を使用しているため溶接金属のMn量およびTi量が過剰で靭性が低い。比較例41はPcmが本発明の範囲未満であり低強度である。しかし溶接金属中のAl量が高いため低強度にもかかわらず靭性が低い。比較例42は溶接金属中のCr量、Mn量およびTi量も過剰で、溶接金属のPcmも本発明の範囲を超えている。その結果靭性が低い。また溶接金属中のNb量も高く、これも溶接金属の靭性を低下させている。比較例43は溶接金属のC量、Si量およびNi量が過剰で強度が過剰となり靭性が低い。さらに、Ni量が過剰のため溶接時に高温割れが発生している。また、溶接金属中のNb量も高く、これも溶接金属の靭性を低下させている。比較例44は溶接金属のCr量が過剰で、溶接金属のPcmも本発明の範囲を超えている。また溶接金属中のNb量も高い。これらの原因で溶接金属の靭性が低い。
【0166】
表16−1及び16−2は4電極サブマージアーク溶接にメタルコアードワイヤを使用した場合の比較例である。比較例45は4電極サブマージアーク溶接で、メタルコアードワイヤを4本使用したものである。用いているメタルコアードワイヤの酸素量が本発明の範囲未満のため、メタルコアードワイヤから供給される溶着金属量の全溶着金属量に占める割合を40%であるにもかかわらず、溶接金属中の酸素量が低く溶接金属の靭性が低い。
【0167】
比較例46は4電極サブマージアーク溶接で、メタルコアードワイヤの送給速度を遅くして、メタルコアードワイヤから供給される溶着金属量の全溶着金属量に占める割合を3%まで小さくしたものである。その結果、用いているメタルコアードワイヤは酸素量の高いC6を用いているにも関わらず、溶接金属の酸素量が低く溶接金属の靭性は低い。
【0168】
表17−1及び17−2は5電極サブマージアーク溶接にメタルコアードワイヤを使用した場合の比較例である。比較例47は5電極サブマージアーク溶接で、メタルコアードワイヤを5本使用したものである。用いているメタルコアードワイヤの酸素量が本発明の範囲未満のため、メタルコアードワイヤから供給される溶着金属量の全溶着金属量に占める割合を40%であるにもかかわらず、溶接金属中の酸素量が低く溶接金属の靭性が低い。
比較例48は5電極サブマージアーク溶接で、メタルコアードワイヤの送給速度を遅くして、メタルコアードワイヤから供給される溶着金属量の全溶着金属量に占める割合を3%まで小さくしたものである。その結果、用いているメタルコアードワイヤは酸素量の高いC6を用いているにも関わらず、溶接金属の酸素量が低く溶接金属の靭性は低い。
【0169】
【表15−1】
【0170】
【表15−2】
【0171】
【表16−1】
【0172】
【表16−2】
【0173】
【表17−1】
【0174】
【表17−2】
【産業上の利用可能性】
【0175】
以上の様に、本発明を用いることにより容易に靭性の優れた頂部スラグインの無い下向きサブマージ溶接部を得ることができ、産業上貢献するところが大きい。
【図面の簡単な説明】
【0176】
【図1】頂部スラグインの模式図である。
【図2】フラックスの式(1)で計算される塩基度と頂部スラグインの発生傾向の関係を示す図である。
【図3】フラックスの式(1)で計算される塩基度と溶接金属中の酸素量の関係を示す図である。
【図4】メタルコアードワイヤの断面図である。
【図5】メタルコアードワイヤを使用した場合の溶接金属中の酸素量を示す図である。
【図6】1電極サブマージアーク溶接におけるソリッドワイヤおよびメタルコアードワイヤの配置図である。
【図7】多電極サブマージアーク溶接においてソリッドワイヤ間にメタルコアードワイヤの配置した場合の模式図である。
【図8】多電極サブマージアーク溶接において最後尾のソリッドワイヤの後方にメタルコアードワイヤの配置した場合の模式図である。
【図9】フラックス中のSiO2量と頂部スラグインの関係を示す図である。
【図10】フラックス中のCaF2量と頂部スラグインの関係を示す図である。
【図11】実施例に用いた開先形状を示す図である。
【図12】引張試験片採取要領を示す図である。
【図13】衝撃試験片採取要領を示す図である。
【符号の説明】
【0177】
S:頂部スラグイン
A:かしめ型メタルコアードワイヤの外皮
B:シームレスメタルコアードワイヤの外皮
C:金属粉末あるいは合金粉末
W:シームレスメタルコアードワイヤの外皮の溶接部
K:かしめ型メタルコアードワイヤのかしめ部
a:電極でないメタルコアードワイヤ
b:第1電極のソリッドワイヤ
c:第2電極のソリッドワイヤ
d:第3電極のソリッドワイヤ
m:溶融池
wl:溶接線
wb:溶接ビード
M:母材
Dk:開先き深さ
L:1電極サブマージアーク溶接においては電極、多電極サブマージアーク溶接においては最後尾の電極とその後方に配置されたメタルコアードワイヤとの距離
D:電極の間にメタルコアードワイヤを配置した場合の両側の電極を結んだ線とメタルコアードワイヤの先端との距離
θ:1電極サブマージアーク溶接においては電極、多電極サブマージアーク溶接においては最後尾の電極とその後方に配置されたメタルコアードワイヤとを結んだ線と、溶接線とのなす角度
Ts:引張り試験片
Tp:衝撃試験片
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度ラインパイプあるいは高強度水圧鉄管等の溶接において、強度と靭性が要求される溶接金属を作成する際に使用する下向きサブマージアーク溶接方法に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
サブマージアーク溶接は効率が良く高速で溶接できることから、大型構造物の溶接に適用される。さらに必要な溶接効率により、電極数を1電極のみならず複数の電極を用いることも容易であり、より高能率の溶接にも対応できる優れた溶接方法である。
【0003】
サブマージアーク溶接の溶接金属に要求される特性の一つに靭性がある。溶接金属の靭性は溶接金属中の酸素量を最適化することで向上できることは、多くの研究成果から言われている点で、これに基づき溶接材料の開発が進められている。近年溶接構造物の大型化や、施工コスト低減を目的に用いる鋼材は高強度化が進み、これに伴い用いる溶接金属も高強度化が進んでいる。しかし、溶接金属では強度が高くなれば一般に靭性が低下する傾向にあるため、高強度鋼になるにほど、溶接金属の靭性を確保するために酸素量の制御方法はより重要となる。
【0004】
従来、サブマージアーク溶接金属の酸素量は使用するフラックスの組成を調整し制御していきた。例えば、特許文献1ではUO鋼管でX100クラスの高強度鋼に対して溶接金属のTiおよび酸素を低減することにより、低温靭性を確保している。また、特許文献2では、母剤や溶接金属の化学組成を限定して、高塩基性フラックスを使用することにより溶接金属の靭性を向上させようとしている。さらに、特許文献3、特許文献4、特許文献5あるいは特許文献6では、具体的に酸素を低減する手段としてフラックスの組成を最適化することにより、溶接金属の酸素量を低減し、且つビード形状等の溶接性を確保している。また特許文献7あるいは特許文献8では強度が800MPa以上の溶接金属に対して、溶接金属の酸素量およびAlと酸素の比率を制御することにより、溶接金属の靭性を確保しようとしている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−43911公報
【特許文献2】特開平3−285770号公報
【特許文献3】特開平5−375号公報
【特許文献4】特開平7−256488号公報
【特許文献5】特開平9−262692号公報
【特許文献6】特開2004−154840公報
【特許文献7】特開平11−2678844号公報
【特許文献8】特開2000−96187公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1においては溶接金属の低酸素化の効果については詳細に開示しているがその低酸素化の方法についてまでは開示していない。また、特許文献2では、母材の化学組成やワイヤの化学組成で溶接金属の組織を制御し靭性を向上させようとしているが、適用しようとしている溶接金属のPcmが低いことから低強度の溶接金属しか適用できない。さらに、フラックスの具体的な処方までは開示されていない。これに対して、特許文献3、特許文献4、特許文献5あるいは特許文献6では具体的に低酸素化の実現方法としてフラックスの成分を検討しその方法を明らかにし、さらにワイヤの化学組成も検討し、靭性の向上手段を明らかにしていが、これらの溶接材料を使用する前提がSM490やX65相当の低強度の鋼材あるいは溶接金属である。
【0007】
一方、先に述べた様に近年では800MPa以上の高強度鋼の溶接構造物への適用の要望が高まっている。これらの鋼材に適用する800MPa以上の高強度溶接金属では、強度を得るため合金元素が高く、そのため溶融金属の粘性が低強度の溶接金属とは変わる。そのため、特許文献3、特許文献4、特許文献5あるいは特許文献6で開示されている様な、低強度溶接金属への使用を前提とした組成のフラックスを、この様な高強度溶接金属を作成する際に使用した場合、図1に示す様なビード頂部にスラグインが発生するという新たな問題が発生するようになってきた。
【0008】
頂部スラグインとは溶接ビードの余盛り頂上付近の溶接金属内に発生する直径0.1mmから2.0mm程度のスラグインである。これは溶接中に溶融した溶接金属中の溶融スラグが浮上しきれずに、溶接ビード頂部の溶接金属内に残留したもので、欠陥として認識される。特許文献7では強度が800MPa以上の溶接金属に対して、Alと酸素の比率や用いるフラックスの塩基度を制御して溶接金属の靭性を確保しているが、用いるフラックスの成分にまでは検討を加えておらず、やはり頂部スラグインの問題が発生する。特許文献8でも溶接金属のAlと酸素量の比を制御することにより溶接金属の靭性は確保しようとしているが、酸素の制御方法にまでは言及していない。特に、市販のフラックスを使用しており頂部スラグインの問題が回避できていない。
【0009】
本発明者らは、この問題を解決するために頂部スラグインの生成傾向について検討した。その結果、頂部スラグインの発生傾向は主に、溶接金属の粘性、溶融スラグの粘性および溶接金属と溶融スラグとの界面張力の影響を受けることが判明した。溶接金属の粘性は溶接金属の組成により変化する。また、溶融スラグの粘性はスラグの成分により変化する。溶融金属と溶融スラグとの界面張力も溶接金属の成分と、溶融スラグの成分により変化する。一方、溶接金属の成分は溶接金属の強度を得るために最適化されている。また、溶融スラグの成分は当然フラックスの成分により決まる。そこで発明者らは、溶接金属の強度とフラックスの成分とにより頂部スラグインの発生傾向を整理することを試みた。
【0010】
そのためにはフラックスの成分系を表す指標が必要である。フラックス成分の設計の重要な観点として酸素量の制御がある。フラックスと溶接金属中の酸素量の関係を示す指標としては塩基度があり、フラックスの成分系を決定する上で重要な指標である。そこで、頂部スラグインの発生傾向も塩基度を利用して整理することを試みた。
【0011】
その結果を、図2に示す。図2の横軸は、用いるフラックスの成分のうちCaO、MgO、CaF2、Al2O3およびSiO2を用いて式(1)で計算される塩基度、縦軸はソリッドワイヤを用いて作成した溶接金属の引張強度である。サブマージアーク溶接に用いるフラックスの塩基度を表す式にはいくつかの式が用いられるが、式(1)は電気化学的手法を加味して森らが提案した塩基度の式で、酸化物のモル分率を用いて塩基度を表したものである。例えば、特開昭60−191691号公報でも用いられていて、フラックスの塩基度として古くから用いられている式である。図2の作成に用いた溶接は3電極サブマージアーク溶接で、市販のソリッドワイヤを用いてワイヤの化学成分により溶接金属の強度を調整した。溶接条件は表1に示す溶接条件を用いた。図2が示す様に、式(1)で計算される塩基度と溶接金属の強度により頂部スラグインの発生傾向が整理でき、頂部スラグインは溶接金属の強度が高くなるに従いより高い塩基度でも発生するようになる。800MPa以上の強度を持つ溶接金属では、式(1)で計算される塩基度が1.1以上でないと、頂部スラグインが発生することになる。
B=6.05N[CaO]+4.0N[MgO]+5.1N[CaF2]−0.2N[Al2O3]−6.3N[SiO2] ・・・(1)
ここで式(1)中の、N[CaO]、N[MgO]、N[CaF2]、N[Al2O3]、および、N[SiO2]は、それぞれCaO、MgO、CaF2、Al2O3、および、SiO2のモル分率を意味する。
【0012】
【表1】
【0013】
一方、強度が800MPa以上の高強度溶接金属の靭性を確保するためには、溶接金属中の酸素量の制御が重要である。強度が800MPa以上の溶接金属においては、発明者等の知見から質量%で酸素量が0.018%〜0.035%の範囲で安定した靭性が得られることが判っている。これは酸素量が0.018%未満では組織の微細化に必要な量の酸化物が形成されず靭性が得られない。また、0.035%超では粗大な酸化物が形成され、これが破壊の基点となり靭性が低下するためである。図3は用いるフラックスの成分のうち、CaO、MgO、CaF2、Al2O3およびSiO2を用いて式(1)で計算されるフラックスの塩基度と、そのフラックスを用いて作成した溶接金属中の酸素量の関係を示す。フラックスの成分のうち、CaO、MgO、CaF2、Al2O3およびSiO2を用いて、式(1)で計算される塩基度を用いることにより、フラックスの成分と溶接金属中の酸素量は図2に示す様に良く整理することができる。図3の作成に用いた溶接は3電極サブマージアーク溶接で、市販のソリッドワイヤを用いてワイヤの化学成分により溶接金属の強度を調整した。溶接条件は表1に示す溶接条件を用いた。ソリッドワイヤが含有する酸素量は一般的に0.01%以下の不可避の不純物程度である。そのため、図3に示すように溶接金属中の酸素量はフラックスにより決まる。
【0014】
図3から、溶接金属中の酸素量を安定的に0.018%以上得るためには、式(1)で計算される塩基度はおよそ1.1未満である必要がある。しかし、図2から溶接金属の強度が800MPa以上では式(1)で計算される塩基度が1.1未満では頂部スラグインが発生し、溶接欠陥防止の観点から問題が生じる。
【0015】
この様に、高強度溶接金属においては溶接性と靭性の両立が困難になることが判明した。さらに、特許文献で指摘されている様にフラックスの組成は溶接性に対して重要な影響を及ぼし、良好な溶接性と靭性を両立させるフラックスを開発するためには多くの工夫とコストが必要となる。もし、フラックスの成分設計をビード形状やスラグイン等の欠陥防止する溶接性の観点のみで実施し、酸素制御は別の方法で行えるのであれば、サブマージアーク溶接の溶接材料設計を行う上で非常に有効な手段となり得る。
【0016】
本発明は、この様な観点から検討を加えられたものであり、下向きサブマージアーク溶接により、ビード形状の良好で且つ靭性のすぐれた高強度溶接金属の作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは上記の目的を達成するために、サブマージアーク溶接方法そのものに注目して酸素量の制御と溶接性を共に両立させる方法を検討した。その結果、サブマージアーク溶接において、電極として用いるソリッドワイヤ以外に電極としては用いないメタルコアードワイヤを使用することにより、容易に溶接金属の酸素量を制御しその結果良好な靭性を持つ溶接金属を得ることが出来ることを見いだし、本発明を完成した。
すなわち、本発明の要旨とするところは以下の通りである。
【0018】
(1) 引張強度が800〜1200MPaの鋼材を、該鋼材の開先内に高塩基性フラックスを充填し、1電極を用いてサブマージアーク溶接することにより、引張強度が800〜1200MPaの溶接金属を形成するサブマージアーク溶接方法において、
前記電極をソリッドワイヤとするとともに、該1電極の後方に、鋼製外皮中に金属粉末または合金粉末を充填し、かつワイヤ全体に対する質量%でO:0.03%〜0.50%を含有するメタルコアードワイヤを配置し、前記電極と該メタルコアードワイヤとの距離を、前記1電極のソリッドワイヤの直径または複数電極のソリッドワイヤの最大直径の8倍以下とし、かつ、溶接線上にある前記1電極の中心位置と該メタルコアードワイヤの中心間を結ぶ線と、溶接線とのなす角度が15度以下となるようにするとともに、
前記電極から発生するアーク内、または、該アークによって形成された溶融池内に、前記メタルコアードワイヤを挿入し、該メタルコアードワイヤの溶着金属量が、溶着金属全体に対する質量%で5%〜40%となるように、該メタルコアードワイヤを溶融し、
前記高塩基性フラックスの成分組成が、該フラックスに対する質量%で、SiO2:5.0%〜20.0%未満、CaF2:30.0%〜50.0%、CaO:5.0%〜25.0%、MgO:1.0%〜5.0%、Al2O3:15.0%〜30.0%を含有し、かつ、該フラックスの成分組成が下記(1)式で計算される塩基度Bの値が1.1〜3.2を満足し、
前記溶接金属の成分組成が、該溶接金属に対する質量%で、
C:0.03%〜0.12%、
Si:0.03%〜0.40%、
Mn:0.5%〜3.0%、
Ti:0.002%〜0.025%、
Al:0.002%〜0.030%、
O:0.018%〜0.035%を含有し、
Nb:0.04%以下に制限し、
さらに、Cr:0.1%〜1.5%、Ni:0.1%〜4.0%、および、Mo:0.1%〜2.0%のうちの何れか1種または2種以上を含み、残部がFeおよび不可避の不純物であり、かつ、該溶接金属の化学組成が下記(2)式で求められるPcmの値が0.22〜0.38を満足することを特徴とする、サブマージアーク溶接方法。
B=6.05×N[CaO]+4.0×N[MgO]+5.1×N[CaF2]−0.2×N[Al2O3]−6.3×N[SiO2] ・・・(1)
Pcm=[C]+[Si]/30+([Mn]+[Cr])/20+[Ni]/60+[Mo]/15 ・・・(2)
但し、
上記N[CaO]、N[MgO]、N[CaF2]、N[Al2O3]、および、N[SiO2]は、それぞれCaO、MgO、CaF2、Al2O3、および、SiO2のモル分率を示し、
[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Ni]、および、[Mo]は、それぞれC、Si、Mn、Cr、Ni、および、Moの質量%を示す。
【0019】
(2)引張強度が800〜1200MPaの鋼材を、該鋼材の開先内に高塩基性フラックスを充填し、複数電極を用いて一つの溶融池を作成してサブマージアーク溶接することにより、引張強度が800〜1200MPaの溶接金属を形成するサブマージアーク溶接方法において、
前記複数電極をソリッドワイヤとし、該複数電極の何れかの隣接する2電極間あるいは最後尾電極の後方の少なくとも一カ所以上に、鋼製外皮中に金属粉末または合金粉末を充填し、かつワイヤ全体に対する質量%でO:0.03%〜0.50%を含有するメタルコアードワイヤを配置するとともに、隣接する2電極間にメタルコアードワイヤを配置する場合は該メタルコアードワイヤの中心位置と溶接線までの最短距離が、前記複数電極のソリッドワイヤの最大直径の2倍以下となるようにし、最後尾電極の後方にメタルコアードワイヤを配置する場合は、複数電極のソリッドワイヤの最大直径の8倍以下とし、かつ、溶接線上にある前記1電極の中心位置または複数電極のうちの最後尾電極の中心位置と該メタルコアードワイヤの中心間を結ぶ線と、溶接線とのなす角度が15度以下となるようにするとともに、
前記電極から発生するアーク内、または、該アークによって形成された溶融池内に、前記メタルコアードワイヤを挿入し、該メタルコアードワイヤの溶着金属量が、溶着金属全体に対する質量%で5%〜40%となるように、該メタルコアードワイヤを溶融し、
前記高塩基性フラックスの成分組成が、該フラックスに対する質量%で、SiO2:5.0%〜20.0%未満、CaF2:30.0%〜50.0%、CaO:5.0%〜25.0%、MgO:1.0%〜5.0%、Al2O3:15.0%〜30.0%を含有し、かつ、該フラックスの成分組成が下記(1)式で計算される塩基度Bの値が1.1〜3.2を満足し、
前記溶接金属の成分組成が、該溶接金属に対する質量%で、
C:0.03%〜0.12%、
Si:0.03%〜0.40%、
Mn:0.5%〜3.0%、
Ti:0.002%〜0.025%、
Al:0.002%〜0.030%、
O:0.018%〜0.035%を含有し、
さらに、Cr:0.1%〜1.5%、Ni:0.1%〜4.0%、および、Mo:0.1%〜2.0%のうちの何れか1種または2種以上を含み、残部がFeおよび不可避の不純物であり、かつ、該溶接金属の化学組成が下記(2)式で求められるPcmの値が0.22〜0.38を満足することを特徴とする、サブマージアーク溶接方法。
B=6.05×N[CaO]+4.0×N[MgO]+5.1×N[CaF2]−0.2×N[Al2O3]−6.3×N[SiO2] ・・・(1)
Pcm=[C]+[Si]/30+([Mn]+[Cr])/20+[Ni]/60+[Mo]/15 ・・・(2)
但し、
上記N[CaO]、N[MgO]、N[CaF2]、N[Al2O3]、および、N[SiO2]は、それぞれCaO、MgO、CaF2、Al2O3、および、SiO2のモル分率を示し、
[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Ni]、および、[Mo]は、それぞれC、Si、Mn、Cr、Ni、および、Moの質量%を示す。
【0020】
(3)前記鋼材の成分組成が、質量%で、
C:0.03%〜0.15%、
Si:0.01%〜0.50%、
Mn:0.5%〜3.0%、
Ti:0.001%〜0.02%、
Al:0.001%〜0.04を含有し、
残部がFeおよび不可避の不純物であることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載のサブマージアーク溶接方法。
【0021】
(4)前記鋼材の成分組成が、質量%で、さらに、Cr:0.1%〜1.5%、Ni:0.1%〜2.5%、Mo:0.1%〜2.0%、および、Nb:0.005%〜0.06%のうちの何れか1種または2種以上を含むことを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載のサブマージアーク溶接方法。
【0022】
(5)前記ソリッドワイヤの成分組成が、質量%で、
C:0.03%〜0.15%、
Si:0.02%〜0.80%、
Mn:0.2%〜4.0%、
Ti:0.002%〜0.10%、
Al:0.001%〜0.02%を含有し、
さらに、Cr:0.25%〜3.0%、Ni:0.25%〜8.0%、および、Mo:0.25%〜4.0%のうちの何れか1種または2種以上を含み、残部がFeおよび不可避の不純物であり、
前記メタルコアードワイヤの成分組成が、質量%で、
C:0.03%〜0.15%、
Si:0.02%〜0.80%、
Mn:0.2%〜4.0%以下、
Ti:0.002%〜0.10%、
Al:0.001%〜0.02%、
O:0.03%〜0.50%を含有し、
さらに、Cr:0.25%〜3.0%、Ni:0.25%〜8.0%、および、Mo:0.25%〜4.0%のうちの何れか1種または2種以上を含み、残部がFeおよび不可避の不純物であることを特徴とする、上記(1)〜(4)の何れかに記載のサブマージアーク溶接方法。
【0023】
尚、本発明で言うソリッドワイヤとは通常のサブマージアーク溶接で使用される直径1.6mmから6.4mm程度の中実の合金鋼の線状の溶接材料で、これを溶かして溶接金属を形成するものである。同時にサブマージアーク溶接ではアークを発生する電極として用いている。本発明でもソリッドワイヤと言った場合は電極として使用しているソリッドワイヤを指している。
【0024】
また、本発明で言うメタルコアードワイヤとは、外皮と呼ぶ中空の鋼管の中に金属粉末および合金粉末のいずれかあるいは両方を充填した後に、さらに必要に応じて伸線加工をさらに加えて所要の直径にして製造した線状の溶接材料である。金属粉末および合金粉末を鋼管内に充填する時期は、鋼管の形状にした後であっても、鋼管の成形過程の途中に同時に金属粉末および合金粉末を鋼管内に充填しても本発明の効果は同じで、何れの充填方法を含む方法で製造されたメタルコアードワイヤも、本発明で言うメタルコアードワイヤに含まれる。本発明では、このメタルコアードワイヤは電極としては使用せずに、ソリッドワイヤが発生するアークの熱あるいは溶融池に直接挿入することにより溶融し、且つ溶接金属の一部を形成する目的で使用する。
【0025】
外皮は、機械的なかしめによりシーム部を接合したかしめ型と、継目の無いシームレス鋼管あるいは継目が溶接により接合されている溶接鋼管であるシームレス型とがある。本発明で言うシームレス型とは、継目が無いことあるいは外皮である鋼管の縫目部において鋼管の外側と内側が気体あるいは水分に対して冶金的に遮断されていることを意味する。そのため、一般にかしめ型と比較して耐吸湿性に優れている。湿度の高い場所での長期の保管に対しても吸湿しにくく、その結果、特に低温割れ感受性の高い高強度溶接金属用の溶接材料として適している。
【0026】
図4に、メタルコアードワイヤの断面の模式図を示す。図4(a)および図4(b)は外皮Aの縫目部が機械的なかしめ部Bを形成したかしめ型の鋼管であるメタルコアードワイヤの断面の一例である。図4(c)は、外皮Bとして縫目の無い鋼管を使用したメタルコアードワイヤの模式図であり、図4(d)は外皮Bとして縫目部が溶接Wにより接合してある鋼管を使用したメタルコアードワイヤである。
【0027】
本発明では図4(a)および図4(b)の例に示される様な、外皮がかしめ型のメタルコアードワイヤをかしめ型メタルコアードワイヤと呼ぶ。また、図4(c)および図4(d)の例に示される様な、外皮がシームレス型のメタルコアードワイヤをシームレスメタルコアードワイヤと呼ぶ。さらに、かしめ型メタルコアードワイヤとシームレスメタルコアードワイヤとを総称してメタルコアードワイヤと呼ぶ。
【0028】
メタルコアードワイヤの外皮A又はBの素材は、成形性や伸線行程での加工性の観点から、一般には、C、Si、Mnおよび他はFeと不可避の不純物からなる軟鋼が使用され、溶接材料として必要な合金元素は内部に充填される金属粉末から添加される。しかし、合金添加量の多いメタルコアードワイヤでは必要に応じては外皮からも合金成分を添加することもある。酸素量は一般的に0.01%以下の不可避の不純物程度しか含まれない。
【0029】
メタルコアードワイヤの中に入れる金属粉末および合金粉末Cとは、具体的にはFe、Ni、Cr、MoおよびTi等の純金属粉末あるいは合金粉末があり、必要に応じて取捨選択される。金属粉末の中で、特にFeは他の金属粉末や合金粉末と異なり表面に酸素を吸着しやすく、また粉末の表面は酸化し微量の酸化鉄も形成し易く、本発明においては酸素を供給する粉末として重要な役割を果たす。また、必要に応じてメタルコアードワイヤの製造性を改善するために、金属粉末以外に水ガラス等の製造助剤や、溶接性をさらに改善するための酸化物、フッ化物等のアーク安定剤を添加するが、このことは本発明の効果に影響しない。また、これらの成分はメタルコアードワイヤの成分としては不可避の不純物として含まれる。元素としてはMg、NaあるいはCaが挙げられる。
【0030】
メタルコアードワイヤの合金元素の平均組成は、外皮の化学組成、金属粉末の平均組成、および製造設備や製造行程で決まるメタルコアードワイヤの外皮と金属粉末の質量比がきまれば式(3)で決定される。
M(CW)=M(g)×a(g)+M(p)×a(p) ・・・(3)
但し
M(CW):メタルコアードワイヤの元素Mの平均の質量%
M(g) :外皮の元素Mの質量%
a(g) :金属粉末と外皮の単位長さの質量の和に対する外皮の単位長さの質量の比
M(p) :金属粉末中の元素Mの平均質量(%)
a(p) :金属粉末と外皮の単位長さの質量の和に対する金属粉末の単位長さの質量の比
a(g)+a(p)=1
【発明の効果】
【0031】
本発明のサブマージアーク溶接方法によれば、電極として用いるソリッドワイヤ以外にメタルコアードワイヤを使用することで、溶接金属の酸素量を容易に制御でき、頂部スラグインを生じさせることなく良好なビード形状の溶接ができる。その結果、溶接性が良好で、かつ靭性に優れた高強度溶接金属を得ることができるという顕著な効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明は引張強度が800MPa以上、1200MPa以下の溶接金属に適用することを前提としている。それは、800MPa未満の強度の溶接金属では、溶接金属の合金量が少なく従来技術でも靭性が良好でかつビード形状も良好な溶接部が得られるためである。また、1200MPa超の溶接金属では組織がマルテンサイト組織となり、靭性確保が本発明の技術のみでは困難になる。
【0033】
溶接方法は、下向きサブマージアーク溶接を用いる。電極の数は1電極あるいは2電極以上であるが、実用上最大で5電極までが望ましい。
次ぎに具体的に本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0034】
本発明では自動的に溶融池に送給されるメタルコアードワイヤを使用し、そのメタルコアードワイヤの配置を、1電極サブマージアーク溶接の場合はソリッドワイヤの後方に配置し、ソリッドワイヤとメタルコアードワイヤの距離が用いているソリッドワイヤの直径の8倍以下で且つソリッドワイヤとメタルコアードワイヤを結んだ線と溶接線のなす角度が15度以下とした。また、多電極サブマージアーク溶接の場合はメタルコアードワイヤをソリッドワイヤの間あるいは最後尾のソリッドワイヤの後方の少なくとも1箇所以上に配置し、最後尾のソリッドワイヤの後方にメタルコアードワイヤを配置する場合は、最後尾のソリッドワイヤとメタルコアードワイヤの距離が用いているソリッドワイヤのうち最も太いソリッドワイヤの直径の8倍以下とし、且つ最後尾のソリッドワイヤとメタルコアードワイヤを結んだ線と溶接線のなす角度を15度以下とした。この理由をについて次に述べる
先ずメタルコアードワイヤを使用する理由について述べる。
【0035】
先に述べた様に引張強度が800MPa以上のサブマージアーク溶接金属において、良好な靭性を得るためには、溶接金属の酸素量を質量%で0.018%〜0.035%の範囲に制御する必要がある。一方、図2および図3が示す様にフラックスで酸素量を範囲に制御すると頂部スラグインが発生する。そのため、フラックス以外の何らかの方法で、溶接金属中の酸素量を増加する方法を考えなければならない。先に述べた様に、ソリッドワイヤが含有する酸素量は一般的に不可避の不純物程度であるため、ソリッドワイヤを使用する限り、ワイヤから酸素を供給することはできない。そのため、本発明では安定して溶接金属の酸素量を質量%で0.018%〜0.035%の範囲にするために、メタルコアードワイヤを用いて酸素量を増加する。
【0036】
図5に、サブマージアーク溶接の電極間あるいは最後尾の電極の後方にメタルコアードワイヤを1本以上配置した場合の、フラックスの式(1)で計算される塩基度と溶接金属中の酸素量の関係を示す。図5の作成に用いた溶接は1電極〜5電極サブマージアーク溶接で電極にはソリッドワイヤを使用し、メタルコアードワイヤを1から4本使用して溶接したものである。サブマージアーク溶接の溶接条件は表2に示す条件を用いた。メタルコアードワイヤから供給される溶着金属量の全溶着金属量に占める割合は5%以上40%以下の範囲で、メタルコアードワイヤの酸素量は0.03%以上、0.50%以下のものを使用した。
【0037】
図5の横軸は式(1)で計算されるフラックスの塩基度、縦軸に溶接金属中の酸素量を示す。図中○は、図2で示したソリッドワイヤのみのサブマージアーク溶接による溶接金属中の酸素量である。図中●は電極として使用しないメタルコアードワイヤを1本以上用いて、溶接金属の酸素量を増加させた結果である。図5が示す様に、メタルコアードワイヤを使用することにより同じ式(1)で計算される塩基度のフラックスを使用しても、溶接金属中の酸素量を増加させることができる。
【0038】
メタルコアードワイヤは先に述べた様に、金属粉末に含まれるFe粉末の表面に酸素を吸着しているか表面が酸化しているため、ソリッドワイヤよりも酸素を多く含有させることができ、このメタルコアードワイヤを使用することにより効率良く安定して溶接金属に酸素を供給することができる。
【0039】
メタルコアードワイヤから供給する酸素量は、メタルコアードワイヤの酸素量、メタルコアードワイヤを使用する本数、およびメタルコアードワイヤの送給速度で調整することができる。すなわち、酸素量の多いメタルコアードワイヤを使用すれば溶接金属に供給される酸素量は多くなる。メタルコアードワイヤの酸素は、金属粉末に含まれるFe粉末の表面に吸着している酸素あるいは表面の酸化鉄が供給源となる。表面に吸着している酸素量は製造方法や保管方法により変化させることも可能である。また、金属粉末と皮材の重量比率を変えることにより同じ酸素量のFe粉末を使用しても、メタルコアードワイヤの酸素量を変えることができる。
【0040】
また、多電極サブマージアーク溶接に本発明を適用する場合は、用いるメタルコアードワイヤの数を増加しても容易に可能である。すなわち、例えば、3電極サブマージアーク溶接へ適用する場合は、例えば、第1電極と第2電極の間にのみメタルコアードワイヤを配置する場合と比較して、第1電極と第2電極の間および第2電極と第3電極の間の2カ所に配置することにより、より多くの酸素をメタルコアードワイヤから溶接金属に供給することができる。
【0041】
また、メタルコアードワイヤは電極としては使用してないため、メタルコアードワイヤの送給速度を調節することによっても、メタルコアードワイヤからの酸素の供給量を増減することができる。すなわち、メタルコアードワイヤの送給量を多くすればそれだけ、全溶着金属量に占めるメタルコアードワイヤの量が増加し、メタルコアードワイヤから供給される酸素量が増加することになる。
【0042】
次ぎにメタルコアードワイヤから供給される溶着金属量の全溶着金属量に占める割合の限定理由について説明する。
【0043】
本発明では、メタルコアードワイヤから供給される溶着金属量の全溶着金属量に占める割合が5%以上40%以下に規定したが、好ましくは10〜30%である。これは本発明の範囲の酸素量を持つメタルコアードワイヤでは、靭性を確保するために必要な酸素量を溶接金属に供給するためには、最低5%以上は必要である。一方、40%超ではメタルコアードワイヤの量が多すぎて、溶融池内でメタルコアードワイヤが十分溶融することが出来ず、平均の溶接金属の酸素量は適正な範囲には言っても、酸素過剰で酸化物の多い部分が溶接金属中に発生し、溶接金属の靭性が低くなる。そのため40%以下とした。
【0044】
本発明ではメタルコアードワイヤを溶接部に送給するが、その送給方法は特段指定するものでは無い。ワイヤの送給速度を制御できる機構であればモーターとギヤを併用した送給機等の一般に駆動方法により自動的に送給すれば良い。そして次に述べる本発明の範囲内の位置に送給された場合、メタルコアードワイヤは溶融池に挿入され溶融するか、ソリッドワイヤからは発生するアークにより加熱され溶融する。あるいは両方の効果により溶融する。そして十分溶融池内で混合され均一な溶接金属を形成する。
【0045】
次に、ソリッドワイヤおよびメタルコアードワイヤの配置について説明する。
【0046】
図6は請求項1に関する1電極サブマージアーク溶接におけるソリッドワイヤおよびメタルコアードワイヤの配置を示す模式図である。図6(a)は溶接部の側面から見た模式図である。1電極サブマージアーク溶接の場合は、メタルコアードワイヤaはソリッドワイヤbの後方に配置する。さらに、ソリッドワイヤとメタルコアードワイヤの距離Lが用いているソリッドワイヤの直径の8倍以下とした。これは、ソリッドワイヤの直径の8倍超の距離ではメタルコアードワイヤを配置する位置が溶融池の後方すぎて十分メタルコアードワイヤを溶融することができず、また溶けたメタルコアードワイヤが十分溶融池内で攪拌されないためである。その結果、組織の不均一が発生し溶接金属の靭性が低くなる。そのため、用いているソリッドワイヤの直径の8倍以下、好ましくは6倍以下の距離とした。
【0047】
また、ソリッドワイヤとメタルコアードワイヤを結んだ線と溶接線のなす角度が15度以下とした。図6(b)はメタルコアードワイヤaが溶接線Wl上に配置された場合の溶接部上面から見た模式図である。一方、図6(c)はメタルコアードワイヤaが溶接線Wl上に配置されていない場合の溶接部上面から見た模式図であるが、ソリッドワイヤbとメタルコアードワイヤaを結んだ線と溶接線Wlのなす角度θが15度超の場合はメタルコアードワイヤa溶接ビードWbを形成する溶融池mの端部に挿入されることになり、十分メタルコアードワイヤが溶融することができず、また溶けたメタルコアードワイヤが十分溶融池内で攪拌されない。そのため、ソリッドワイヤとメタルコアードワイヤを結んだ線と溶接線のなす角度θが15度以下、好ましくは12度以下とした。
【0048】
次に請求項2に関わるワイヤの配置について説明する。
【0049】
図7および図8は請求項2に関する、多電極サブマージアーク溶接におけるソリッドワイヤとメタルコアードワイヤの配置の模式図である。多電極サブマージアーク溶接の場合は、ソリッドワイヤの間あるいは最後尾のソリッドワイヤの後方での少なくとも1箇所には位置する。図7はソリッドワイヤの間にメタルコアードワイヤを配置する場合の模式図である。図7(a)は母材Mの溶接部の側面から見た模式図である。第1、第2、第3電極のソリッドワイヤb、c、dの間にメタルコアードワイヤaを挿入する場合、その両側のソリッドワイヤc、dを結んだ直線とメタルコアードワイヤaの先端の距離が使用しているソリッドワイヤうち最も太い直径の2倍以下とした。図7(b)はメタルコアードワイヤaがその両側のソリッドワイヤc、dを結んだ線Wl上に配置されている場合の溶接部上面から見た模式図である。これに対して、図7(c)はメタルコアードワイヤaがその両側のソリッドワイヤc、dを結んだ線上に無い場合の溶接部上面から見た模式図である。両側のソリッドワイヤc、dを結んだ直線とメタルコアードワイヤaの先端の距離Lが使用しているソリッドワイヤうち最も太い直径の2倍超の場合は、メタルコアードワイヤaの先端が溶融池mの端部に近づく。そのため、十分メタルコアードワイヤaを溶融することができず、また溶けたメタルコアードワイヤが十分溶融池m内で攪拌されない。その結果、組織の不均一が発生し溶接金属の靭性が低くなる。そのため、両側のソリッドワイヤを結んだ直線とメタルコアードワイヤの先端の距離Dが使用しているソリッドワイヤうち最も太い直径の2倍以下とした。
【0050】
図8は最後尾のソリッドワイヤの後方にメタルコアードワイヤを配置した場合の模式図である。図8(a)は母材Mの溶接部の側面から見た模式図である。最終ソリッドワイヤdの後方にメタルコアードワイヤaを配置する場合は最後尾のソリッドワイヤdとメタルコアードワイヤaの距離Lが用いるソリッドワイヤのうち最も太いソリッドワイヤの直径の8倍以下でとした。この理由は1電極の場合と同様で、この距離がソリッドワイヤのうち最も太いソリッドワイヤの直径の8倍超ではメタルコアードワイヤを配置する位置が溶融池の後方すぎて十分メタルコアードワイヤを溶融することができず、また溶けたメタルコアードワイヤが十分溶融池内で攪拌されないためである。その結果、組織の不均一が発生し溶接金属の靭性が低くなる。そのため、用いているソリッドワイヤの直径の8倍以下、好ましくは6倍以下の距離とした。
【0051】
また、最後尾のソリッドワイヤdとメタルコアードワイヤaを結んだ線と溶接線Wlのなす角度θが15度以下とした。図8(b)はメタルコアードワイヤが溶接線上に配置された場合の模式図である。一方、図8(c)はメタルコアードワイヤが溶接線上に配置されていない場合の模式図であるが、15度超の場合にはメタルコアードワイヤは溶融池の端部に挿入されることになり、十分メタルコアードワイヤが溶融さすることができず、また溶けたメタルコアードワイヤが十分溶融池内で攪拌されない。その結果、組織の不均一が発生し溶接金属の靭性が低下する。そのため、ソリッドワイヤとメタルコアードワイヤを結んだ線と溶接線のなす角度θが15度以下、好ましくは12度以下とした。
【0052】
図7および図8では、メタルコアードワイヤは各々の図で1本ずつしか記載されていないが、後に述べる様に、溶接金属に供給する酸素量を増加させる目的で図7において2本以上のメタルコアードワイヤを使用しても、又、図7と図8を併用しても本発明の効果は得られる。又、図6、図7および図8では簡便のためソリッドワイヤおよびメタルコアードワイヤは母材に対して垂直に位置しているが、ソリッドワイヤの角度は溶接条件により当然母材に対して適宜角度を持つことは当然であり、これは本発明の効果に影響を与えるものでは無い。
【0053】
次に、フラックスのSiO2量の限定理由について述べる。
サブマージアーク溶接に使用するフラックスを構成する成分のうちSiO2の比率が質量%で、5.0%〜20.0%未満と限定した。図9は横軸にフラックス中SiO2量、縦軸に溶接金属の強度をとり、各強度における頂部スラグインの発生傾向におよぼすフラックス中のSiO2量の影響を示したものである。溶接は3電極サブマージアーク溶接を用い、溶接ワイヤは全てソリッドワイヤを用いた。溶接条件は表1に示す溶接条件を用いた。また、図9で使用したフラックスのうちSiO2が15.5%〜31.0%の範囲フラックスは式(1)で計算される塩基度が1.1〜2.0で本発明の範囲である。また、SiO2が34.5%以上のフラックスは式(1)で計算される塩基度が−0.4〜0.8で本発明の範囲外である。
【0054】
溶接金属の引張強度が800MPa以上ではSiO2量がおよそ20.0%以上で頂部スラグインが発生している。これはSiO2が過剰に添加されると溶融したスラグがよりガラス質となり溶接金属中から浮上しにくくなり、溶接ビードの頂部に残留しやすくなるためである、また、SiO2は溶融スラグの軟化温度を高くするため、スラグの粘性も高める。そのため、上限を20.0%未満とした。下限は本発明の効果からは特に限定しないが、SiO2はガラス成分で少ないとフラックスが結晶質となり吸湿しやすくなり、特に高強度では耐低温割れ性を阻害するため5.0%以上とした。
【0055】
次にフラックスのCaF2量の限定理由について述べる。
【0056】
サブマージアーク溶接に使用するフラックスを構成する成分のうちCaF2の比率が質量%で、30.0%〜50.0%とした。図10は横軸にフラックス中CaF2量、縦軸に溶接金属の強度をとり、各強度における頂部スラグインの発生傾向におよぼすフラックス中のCaF2量の影響を示したものである。図10で使用したフラックスではすべて式(1)で計算される塩基度が1.1以上、3.2以下である。
【0057】
溶接金属の引張強度が800MPa以上ではCaF2量がおよそ30%未満で頂部スラグインが発生している。これはCaF2は溶融スラグの軟化溶融音素を下げて粘性を低くする効果があるが、30%未満ではその効果が得られないためである。そのため、下限を30.0%とした。上限は本発明の効果のためには限定しなくても良いが、CaF2量が過剰になるとアークの安定性が損なわれるため、50.0%以下に限定した。
【0058】
次にフラックスのCaOの限定理由について述べる。
【0059】
サブマージアーク溶接に使用するフラックスを構成する成分のうちCaOの比率が重量%で5.0%〜25.0%とした。CaOは式(1)で計算される塩基度の調整に添加されるが5.0%以下では(1)で計算される塩基度が小さくなりすぎるため、5.0%以上必要である。また、CaOは溶接金属の溶接ビード形状に影響をおよぼし、5.0%未満では軟化溶融温度が高くなり溶融ガスの放散の阻害によるあばたの発生等の溶接ビード表面の外観不良につながる。一方、過剰では溶接ビードの余盛りが高くなりビード形状を悪くする。またスラグの剥離性も低下する。そのため上限を25.0%とした。
【0060】
次にフラックスのMgOの限定理由について述べる。
【0061】
サブマージアーク溶接に使用するフラックスを構成する成分のうちMgOの比率が重量%で1.0%〜5.0%とした。MgOは式(1)で計算される塩基度の調整のために添加する。1%未満では、式(1)で計算される塩基度が小さくなりすぎるため、1.0%以上は必要である。5.0%超ではビード形状が凸ビードとなり、アンダーカットが発生する。そのため、上限は5%とした。
【0062】
次にフラックスのAl2O3の限定理由について述べる。
【0063】
サブマージアーク溶接に使用するフラックスを構成する成分のうちAl2O3の比率が重量%で15.0%〜30.0%とした。
【0064】
Al2O3も式(1)で計算される塩基度の調整のために添加する。15.0%未満では式(1)で計算される塩基度が高くなりすぎるため15%以上は必要となる。一方、30%超添加すると式(1)で計算される塩基度が小さくなりすぎるため、上限を15.0%とした。また、Al2O3は溶接作業性に対しても影響を与え、過剰ではアンダーカットや馬の背状の突起が溶接ビード頂部に生成するため、上限を30%とした。
【0065】
次に、フラックスの式(1)で計算される塩基度の限定理由について述べる。
使用するフラックスを構成する成分のうちCaO、MgO、CaF2、Al2O3およびSiO2のモル分率を用いて式(1)で計算されるフラックスの塩基度が1.1〜3.2に限定した。
【0066】
用いる高塩基性フラックスの構成成分としては、SiO2およびCaF2以外にAl2O3、MgO、CaO、LiO2、TiO2等の酸化物、あるいはCaCO3等がスラグの生成、塩基度の調整、溶接ビード形状を整える効果等の目的で使用される。これらの成分の担体での量は頂部スラグインの生成には影響をおよぼさないが、これらの成分の内、SiO2、CaF2、CaO、MgOおよびAl2O3の配合比によりスラグインが発生しやすくなる。具体的には、溶接金属の引張強度が800MPa以上の場合は、Si02量やCaF2量が適正な範囲でも、式(1)で計算される塩基度が1.1未満では図2が示す様に頂部スラグインが発生する。そのため下限を1.1とした。
【0067】
一方、上限は本発明の効果からは特に限定は無いが、式(1)で計算される塩基度が高くなるに従いフラックスがより結晶質になるため、フラックスの表面積が多くなり吸着水が多くなる結果、溶接金属中の水素が増加し割れ等の欠陥が発生する頻度が高くなる。そのためフラックスの乾燥や乾燥した後の保管方法で対策が必要でありコスト的に不利になる。そのため上限を3.2とした。
B=6.05N[CaO]+4.0N[MgO]+5.1N[CaF2]−0.2N[Al2O3]−6.3N[SiO2] ・・・(1)
ここで、N[CaO]、N[MgO]、N[CaF2]、N[Al2O3]、および、N[SiO2]は、CaO、MgO、CaF2、Al2O3、および、SiO2のモル分率を意味する。
【0068】
次ぎに、溶接金属の化学組成の限定理由について述べる。サブマージアーク溶接においては溶接金属の特性はその化学組成で決まるため、成分範囲は重要である。
【0069】
C:0.03%〜0.12%
Cは、溶接金属の焼き入れ性を確保し、強度と靭性を得るために重要な元素である。0.03%未満では強度が得られない。一方、0.12%を超えると強度が過剰となる。また、炭化物が形成し靭性が低下する。そのため、0.12%以下とした。
【0070】
Si:0.03%〜0.40%
Siは脱酸元素として必要であり、0.03%以上は必要である。一方、0.40%を超えて添加するとSiが過剰となり、過剰Siは溶接金属中に固溶し靭性を低下する。そのため、上限を0.40%とした。
【0071】
Mn:0.5%〜3.0%
Mnは、焼き入れ性を向上させ溶接金属の強度を得るために0.5%以上必要である。一方、3.0%を超えると強度が過剰となり靭性が低下するため、上限を3.0%とした。
【0072】
Ti:0.002%〜0.025%
Tiは溶接金属の組織を微細化するのに最低限0.002%以上は必要である。しかし、0.025%を越えると、固溶Tiが増加し溶接金属の靭性が低下する。そのため、上限を0.025%とした。
【0073】
Al:0.002〜0.030%
Alは、母材、ワイヤおよびフラックスから移行してくるため溶接金属中には不純物として存在する。しかし、0.030%を超えると粗大な酸化物が形成し溶接金属の靭性が低下する。そのため、上限を0.030%とした。下限は本発明の効果からは特に限定する必要がないが、母材やフラックスかの不可避の不純物として0.002%以上は含まれる。
【0074】
Nb:0.04%以下
Nbは溶接材料には不可避の不純物程度にしか含まれないが、母材にはNbを添加する場合もあるため、母材から溶接金属に供給される。Nbが過剰に溶接金属に含有すると炭化物を形成し靭性が低下する原因となる。そのため、上限を0.04%とした。
【0075】
O:0.018%〜0.035%
Oは溶接金属の靭性を確保するために重要な元素である。0.018%未満では、組織を微細化して靭性を向上させるのに必要な酸化物を形成することができない。そのため0.018%以上は必要である。しかし、0.035%を超えると、粗大な酸化物を形成するようになり、溶接金属の靭性は低下する。そのため、上限を0.035%とした。
【0076】
Cr:0.1%〜1.5%、Ni:0.1%〜4.0%、および、Mo:0.1%〜2.0%のうちの何れか1種または2種以上を含む:
Cr、NiおよびMoは溶接金属の強度を向上させる元素であるため添加する。しかし、過剰添加は靭性あるいは溶接性を低下させるため上限をきめた
Crは、焼き入れ性を向上させ溶接金属の強度を得るため添加する。この効果を得るためには0.1%以上必要である。しかし、1.5%を超えると、過剰のCrは溶接金属の靭性を低下させる。そのため、上限を1.5%とした。
【0077】
Niは、溶接金属の強度と靭性を向上させるために添加する。この効果を得るためには0.1%以上必要である。しかし、4.0%を超えると、溶接時の高温割れが発生する危険性が高くなる。そのため上限を4.0%とした。
【0078】
Moは焼き入れ性を向上させ溶接金属の強度を得るため添加する。この効果を得るためには0.1%以上必要である。しかし、2.0%を超えると、過剰のMoは溶接金属の強度を過剰に高め、靭性を低下させる。そのため、上限を2.0%とした。
【0079】
次ぎに溶接金属の化学組成を用い低式(2)で計算されるPcmの値を0.22〜0.38とした。0.22以下では溶接金属の強度が800MPa未満となるため、下限を0.22とした。また、0.38を超えると溶接金属の強度が高くなりすぎるため、上限を0.38とした。
【0080】
次ぎに請求項3および請求項4に記載の母材の化学組成の限定理由について述べる。サブマージアーク溶接では母材の希釈率が高いため、サブマージアーク溶接の溶接金属の化学組成は母材の化学組成と溶接材料の化学組成との両方の影響を受ける。そのため、母材の化学組成を規定することにより容易に適切な化学組成の溶接金属を得ることができる。また、用いる母材の化学組成を限定することにより母材の特性を向上することができ、より良好な溶接継手を得ることができる。
【0081】
C:0.03%〜0.15%
Cは焼き入れ性を高め、組織を微細化するために重要名元素であり。母材の強度を確保するためには0.03%以上必要である。また、溶接金属に安定してCを供給するために、0.03%以上必要である。一方、0.15%を越えて添加するとCが過剰となる。そのため、母材の溶接熱影響部の硬化が著しく、靭性に悪影響をおよぼす。そのため上限を0.15%とした。
【0082】
Si:0.01%〜0.50%
Siは母材の製造時に脱酸元素として必要であり、その効果を得るために0.01%以上必要である。一方、0.50%を超えて添加すると母材の靭性が低下する。また、溶接金属への移行するSi量が過剰となり溶接金属の靭性も低下させる危険性があるため、上限を0.5%とした。
【0083】
Mn:0.5%〜3.0%
Mnは母材の焼き入れ性を高め強度を得るために必要な元素で、少なくとも0.5%以上必要である。一方、3.0%を超えて添加すると強度が高くなりすぎ靭性を低下させる。また、偏析が大きくなり、鋼材の組織も不均一にする。そのため、上限を3.0%とした。
【0084】
Ti:0.001%〜0.02%
Tiは、微量添加により母材の強度を向上させ靭性も改善するため、0.001%以上必要である。しかし、過剰のTiは母材強度を過剰にする。そのため上限を0.02%とした。
【0085】
Al:0.001%〜0.04%
Alは脱酸元素として母材に必要で、0.001%以上添加される必要がある。しかし、0.04%を超えて添加すると粗大な酸化物を形成して母材の靭性は低下すため、上限を0.04%とした。
【0086】
Cr:0.1%〜1.5%、Ni:0.1%〜2.5%、Mo:0.1%〜2.0%、Nb:0.005%〜0.06%の何れか1種又は2種以上を含む:
Cr、Ni、Mo、Nbは何れも母材の強度を向上させるために何れかを1種あるいは2種以上添加するが、過剰添加により、母材の靭性を低下させるため、上限を決めた。
Crは焼き入れ性を高めて、強度を確保するため添加する。この効果を得るためには、0.1%以上必要である。しかし、1.5%を超えて添加すると母材の靭性を低下させる。そのため、上限を1.5%とした。
【0087】
Niは、母材の強度を向上させるために添加する。この効果を得るためには、0.1%以上は必要である。しかし、2.5%を超えて添加すると溶接金属に移行するNiが過剰となり溶接金属に高温割れが発生しやすくなる。また、経済的な観点からも過剰の添加は好ましくないので上限を2.5%とした。
【0088】
Moは、母材の強度を向上させるために添加する。この効果をえるためには、0.1%以上必要である。しかし、2.0%を超えて添加すると母材の強度が過剰となり母材の靭性が低下する。また、経済的な観点からも過剰の添加は好ましくないので、上限を2.0%とした。
【0089】
Nbは、母材の強度を向上させるために添加する。この効果を得るためには、0.005%以上必要である。しかし、0.06%を超えて添加すると強度が過剰となり靭性が低下する危険性が高くなるため、上限を0.06%とした。好ましくは0.005〜0.05%である。
【0090】
次ぎに、請求項5に記載の用いるソリッドワイヤの化学組成およびメタルコアードワイヤの平均の化学組成の限定理由について説明する。溶接金属の化学組成は、母材と溶接材料により決定される。そのため、溶接に用いるソリッドワイヤあるいはメタルコアードワイヤの化学組成を規定することにより、容易に溶接金属の組成を設計することができる。酸素量以外はソリッドワイヤとメタルコアードワイヤとは化学組成の範囲は同じである。酸素量はメタルコアードワイヤのみ限定する。
【0091】
C:0.03%〜0.15%
Cは焼き入れ性を高めて、溶接金属の強度を確保するために重要な元素である。そのため、0.03%以上必要である。しかし、0.15%を超えて添加すると溶接金属のC量が過剰となり強度が高くなり靭性が低下する。そのため、上限を0.15%とした。
【0092】
Si:0.02%〜0.80%
Siは溶融した溶接金属の粘性を高める元素であり、作業性の観点から0.02%以上は必要である。しかし。0.80%を超えて添加すると溶接金属中のSi量が過剰となり靭性が低下するため、上限を0.080%とした。
【0093】
Mn:0.2%〜4.0%
MnもCと同様、溶接金属の焼き入れ性を高め強度を確保するために添加する元素である。そのため、0.2%以上は必要である。しかし、4.0%を超えて添加すると、溶接金属中のMn量が過剰となり靭性が低下するため、上限を4.0%とした。
【0094】
Ti:0.002%〜0.10%
Tiは酸素と結合して酸化物を形成して、溶接金属の組織の微細化に役立つ重要な元素である。0.002%未満ではワイヤからの添加量が足らず、その効果が得られないため、溶接金属の靭性が低下する。そのため、0.002%以上は必要である。しかし。0.10%を超えてワイヤに添加すると、酸化物を形成するに必要なTi以上が溶接金属に供給されるため固溶したTiが溶接金属中に増加し、溶接金属の靭性が低下する。そのため、上限を0.10%とした。
【0095】
Al:0.001%〜0.02%
Alは溶接金属の靭性に対して酸化物を形成して低下させる。当然ワイヤからも溶接金属に移行するため、上限をさだめた。0.02%を超えてワイヤに含まれると、溶接金属のAl量が過剰となり靭性が低下する。下限は特に溶接金属の靭性の観点からは必要ないが通常0.001%以上は不可避の不純物として含まれる。
【0096】
Cr:0.25%〜3.0%、Ni:0.25%〜8.0%、および、Mo:0.25%〜4.0%の何れか1種又は2種以上を含む:
Cr、Ni、Moは溶接金属の強度を確保するために1種または2種以上添加する。そのため、母材から供給される量の不足分は溶接材料から供給される。
【0097】
Crは溶接金属の焼き入れ性を高め強度を確保するために必要に応じてワイヤに添加する元素である。溶接金属がこの効果を得るためにはワイヤには0.25%以上必要である。しかし、過剰のCrは靭性を低下させる。3.0%を超えて添加すると溶接金属中のCrが過剰となり溶接金属の靭性が低下する。そのため、3.0%以下とした。
【0098】
NiもCrと同様焼き入れ性を高めて強度を確保するため、必要に応じてワイヤから溶接金属に添加する元素である。溶接金属がこの効果を得るためにはワイヤには0.25%以上必要である。しかし、8.0%を超えてNiを添加すると、溶接金属中のNi量が過剰となり、高温割れを引き起こす。そのため、上限を8.0%とした。
【0099】
MoもNiおよびCrと同様焼き入れ性を高めて強度を確保するため、必要に応じてワイヤから溶接金属に添加する元素である。溶接金属がこの効果を得るためにはワイヤには0.25%以上必要である。しかし、4.0%を超えてMoを添加すると、溶接金属の強度が過剰となり靭性が低下する。そのため、上限を4.0%とした。
【0100】
次にメタルコアードワイヤの酸素量の限定理由について述べる。
【0101】
O:0.03%〜0.50%%
メタルコアードワイヤの酸素量を質量%で0.03%〜0.50%に限定した。本発明では、メタルコアードワイヤから酸素を溶接金属に添加するのが目的である。そのため、メタルコアードワイヤの酸素量を規定する。0.03%未満では酸素量が少なく、溶接金属中に十分な酸素量が供給されない。そのため0.03%以上は必要である。一方、0.50%を超えると、酸素量が過剰となった結果、ガス成分が多くなりブローホール等の欠陥が生じ易くなる。そのため上限を0.50%以下とした。また、0.50%以下の酸素量のメタルコアードワイヤであれば、式(1)で計算される塩基度が本発明の範囲のフラックスを用いている限り、溶接金属は酸素過剰にはならない。
【実施例1】
【0102】
以下に、実施例を用いて本発明を説明する。
【0103】
実施例に用いた溶接方法は、1電極から5電極までのサブマージアーク溶接を使用した。表2に実施例で用いた溶接条件を示す。開先形状は図11に示すV開先を用いた。開先角度は80度で開先深さDkは表3に示す様に入熱に応じた開先深さを用いた。この開先内に表2に示した溶接条件で1層溶接を行った。
【0104】
表4に実施例で用いたソリッドワイヤを示す。ソリッドワイヤは化学組成が異なるワイヤを16種類用いた。このうち、ワイヤS1からワイヤS11までは、請求項5に記載された成分範囲を持つソリッドワイヤである。ソリッドワイヤの直径は主に3.2mmで、一部の実施例で4.0mmのソリッドワイヤを使用した。
【0105】
表5に実施例で用いたメタルコアードワイヤを示す。メタルコアードワイヤは化学組成の異なるかしめ型メタルコアードワイヤを20種類準備した。強度レベルが1000MPa未満のワイヤはかしめ型メタルコアードワイヤ、1000MPa以上はシームレスメタルコアードワイヤを用いた。ワイヤC1からワイヤC13までは請求項5に記載された成分範囲を持つメタルコアードワイヤである。C12は、使用する直前まで開封せず、表面への酸素吸着を防いだ状態で保管した鉄粉を使用したため酸素量の少ないCWになっている。また、C13は鉄粉量を多くしているため、CW中の酸素量が高い。ワイヤC14からワイヤC20までは化学成分の一部が請求項5の範囲外である。メタルコアードワイヤの直径はすべて3.2mmである。
【0106】
表6に実施例に用いたフラックの組成を示す。フラックスはメルトタイプのフラックスを用いた。フラックスaからスラックスgまではCaF2量、SiO2量および式(1)で計算される塩基度が本発明の範囲内である。一方、フラックスhからフラックスkは式(1)で計算される塩基度が本発明の範囲外である。また、スラックスhは式(1)で計算される塩基度とともにCaF2量も発明の範囲以上である。フラックスjは式(1)で計算される塩基度とともにSiO2量が本発明の範囲外である。フラックスkは式(1)で計算される塩基度とともにCaF2量、SiO2量も本発明の範囲外である。一方、フラックスlからフラックスnまでは式(1)で計算される塩基度は本発明の範囲であるが、CaF2およびSiO2のいずれか一方、あるいは両方の含有量が本発明の範囲外である。これらのフラックスは何れも、使用前に250℃で1時間乾燥した後に使用した。一部のフラックスは乾燥後の吸湿を防ぐため、使用直前まで容器に密閉して保管した。
【0107】
表7に実施例で用いた母材を示す。母材は板厚20mm、長さ1000mm、幅150mmの寸法で、強度が850MPa、950MPaおよび1000MPa級の鋼板を用いた。母材Bは請求項2の成分範囲の母材である。母材Cから母材Lまでは請求項3の範囲の成分を満足する母材である。これらの鋼板に、図11に示した片面V開先を1000mm長さの方向に全長にわたり加工し溶接に供した。
【0108】
これらの、化学組成の異なる母材、化学組成の異なるソリッドワイヤおよび化学組成の異なるメタルコアードワイヤを組み合わせることにより溶接金属の化学成分を調整し、溶接金属の強度を調整した。
【0109】
評価は、頂部スラグインの発生の有無、頂部スラグイン以外の内部欠陥の有無、ビード形状、ミクロ組織、溶接金属引張強度および−30℃の溶接金属吸収エネルギーで評価した。ビード形状は、作成した溶接ビードの目視外観で評価した。頂部スラグインの発生の有無は、先ず溶接ままで全長にわたり放射線透過試験を行い、欠陥の調査をした。その後、溶接ビードの有る面とは逆側の裏面から15mm減厚して頂部スラグイン以外の欠陥を除去した後、再度放射線透過試験を行い、頂部スラグインの有無を判断した。この際、頂部スラグイン以外の割れ等の内部欠陥も2回の放射線透過試験で評価を行った。引張試験のための試験片は、図12に示す様に表面から5mmの位置の溶接金属中央部から、丸棒型のJISA2号引張試験片Tsを引張試験片の平行部が溶接線と平行になるように採取した。衝撃試験のための試験片は図13に示す様に、表層から6mmの位置よりノッチ方向が溶接線方向になるように2mmVシャルピー衝撃試験片Tpを採取して測定した。また、組織観察用試験片を機械試験片採取用の溶接継手より溶接スタート側、溶接ビード長さの1/2位置および溶接クレータ側の3カ所から各溶接条件で3個づつ採取し、組織観察を行い組織の健全性を調査した。溶接継手は、放射線透過試験用と、それ以外の評価用に各々の条件につき2体づつ作成した。
【0110】
【表2】
【0111】
【表3】
【0112】
【表4】
【0113】
【表5】
【0114】
【表6】
【0115】
【表7】
【0116】
表8−1及び8−2は1電極サブマージアーク溶接へ適用した発明例である。発明例1から発明例24まで、何れも用いているフラックスは式(1)で計算される塩基度が1.1以上のフラックスであるが、本発明の範囲内の酸素量を含有するメタルコアードワイヤを全溶着金属に対して適正な量を適正な位置で溶融池に加えることで溶接金属に酸素を供給しているため、溶接金属の酸素量は適正で溶接金属の低温靭性は良好である。また、用いているフラックスの成分、フラックスの式(1)で計算される塩基度が本発明の範囲に入っているため、頂部スラグインは発生していない。さらに、メタルコアードワイヤの酸素量が本発明の範囲であるため、ピット等の欠陥も発生していない。さらに溶着金属量の全溶着金属量に占める割合や、メタルコアードワイヤの配置位置が本発明の範囲にはいっているため、溶接金属中にも未溶融等の冶金的問題も発生していない。
【0117】
発明例18は、酸素量の少ないC12のメタルコアードワイヤを使用しているが溶接金属中の酸素量は確保できている。また、発明例24は、酸素量の多いC13のメタルコアードワイヤを使用しているが酸素量は適正な範囲に入っている。また、メタルコアードワイヤの酸素量は本発明の範囲内のためピット等の溶接欠陥も発生していない。発明例14、発明例20、発明例21および発明例22は、同じソリッドワイヤ、メタルコアードワイヤおよびフラックスの組み合わせで、ソリッドワイヤの電極とメタルコアードワイヤの距離を変化させたものであるが、何れも本発明の範囲内のため均一な溶接金属が得られ、靭性は良好である。発明例23は発明例15と同じワイヤの組み合わせであるが、メタルコアードワイヤが溶接線上に無く、ソリッドワイヤとメタルコアードワイヤを結ぶ線と溶接線のなす角度が13度である。しかし本発明の15度以下の範囲に入っているために、溶融の不均一等も起こらず良好な靭性が得られている。
【0118】
【表8−1】
【0119】
【表8−2】
【0120】
表9から表12に多電極サブマージアーク溶接の発明例を示す。
【0121】
表9−1及び9−2は、2電極サブマージアーク溶接についての発明例である。発明例25から発明例33までは、何れも用いているフラックスは式(1)で計算される塩基度が3.0のフラックスbおよびフラックスは式(1)で計算される塩基度が1.7のフラックスeを使用しているが、本発明の範囲内の酸素量のメタルコアードワイヤを、本発明の範囲内の量を溶融池に加えることで溶接金属に酸素を供給しているため、溶接金属の酸素量は適正で溶接金属の低温靭性は良好である。
【0122】
また、用いているフラックスの成分、フラックスの式(1)で計算される塩基度が本発明の範囲に入っているため、頂部スラグインは発生していない。さらに、メタルコアードワイヤの酸素量が本発明の範囲であるため、ピット等の欠陥も発生していない。さらに溶着金属量の全溶着金属量に占める割合や、メタルコアードワイヤの配置位置も本発明の範囲にはいっているため、溶接金属中にも未溶融等の冶金的問題も発生していない。
【0123】
表10−1及び10−2は、3電極サブマージアーク溶接についての発明例である。発明例34から発明例75までは、何れも用いているフラックスは式(1)で計算される塩基度が、1.2から2.8のフラックスを使用しているが、本発明の範囲内の酸素量のメタルコアードワイヤを、本発明の範囲内の量で溶融池に加えることで溶接金属に酸素を供給しているため、溶接金属の酸素量は適正で溶接金属の低温靭性は良好である。
【0124】
また、用いているフラックスの成分、フラックスの式(1)で計算される塩基度が本発明の範囲に入っているため、頂部スラグインは発生していない。さらに、メタルコアードワイヤの酸素量が本発明の範囲であるため、ピット等の欠陥も発生していない。さらに溶着金属量の全溶着金属量に占める割合や、メタルコアードワイヤの配置位置も本発明の範囲にはいっているため、溶接金属中にも未溶融等の冶金的問題も発生せず良好な靭性を示している。
【0125】
発明例68から発明例71までは、最後尾のソリッドワイヤとその後方に配置されたメタルコアードワイヤの距離が違うが何れも頂部スラグインの無い良好な靭性を持つ溶接金属が得られている。
【0126】
発明例72から発明例74までは全てのソリッドワイヤの直径が4.0mmの例である。第3電極のソリッドワイヤの後方30mmの位置にメタルコアードワイヤを配置しているが、32mm以下の位置のため、メタルコアードワイヤは十分溶解し溶融池内で十分攪拌されているため、良好な靭性を示している。さらに、発明例75は第一電極のソリッドワイヤの直径が4.0mmの例である。それ以外の電極のソリッドワイヤは3.2mmである。第3電極の後方30mmの位置にメタルコアードワイヤを配置しているが、最も太いワイヤの4.0mmの8倍の距離以下の位置のため溶融池内で溶融したメタルコアードワイヤは攪拌され、良好な靭性を示している。
【0127】
表11−1及び11−2は4電極サブマージアーク溶接についての発明例である。発明例76から発明例80までは、何れも用いているフラックスは式(1)で計算される塩基度が1.2のフラックスgを使用しているが、本発明の範囲内の酸素量のメタルコアードワイヤを、本発明の範囲内の量で溶融池に加えることで溶接金属に酸素を供給しているため、溶接金属の酸素量は適正で溶接金属の低温靭性は良好である。
【0128】
また、用いているフラックスの成分、フラックスの式(1)で計算される塩基度が本発明の範囲に入っているため、頂部スラグインは発生していない。さらに、メタルコアードワイヤの酸素量が本発明の範囲であるため、ピット等の欠陥も発生していない。さらに溶着金属量の全溶着金属量に占める割合や、メタルコアードワイヤの配置位置も本発明の範囲にはいっているため、溶接金属中にも未溶融等の冶金的問題も発生せず良好な靭性を示している。
【0129】
発明例78、発明例79および発明例80は、メタルコアードワイヤから供給される溶着金属量の全溶着金属量に占める割合は8%と小さいが、溶接金属中の酸素量は適正な範囲に入り、良好な溶接金属靭性が得られている。発明例80は発明例79と比較して、最後尾のソリッドワイヤとメタルコアードワイヤとを結ぶ線と溶接線とのなす角度が15度の場合である。しかし、本発明の範囲内のため、メタルコアードワイヤは十分溶融し溶融池内で攪拌されているため、冶金的な問題は生じることなく、良好な靭性が得られている。
【0130】
表12−1及び12−2は5電極サブマージアーク溶接についての発明例である。発明例81から発明例89までは、何れも用いているフラックスは式(1)で計算される塩基度が1.2および3.2のフラックスを使用しているが、本発明の範囲内の酸素量のメタルコアードワイヤを、本発明の範囲内の量で溶融池に加えることで溶接金属に酸素を供給しているため、溶接金属の酸素量は適正で溶接金属の低温靭性は良好である。
【0131】
また、用いているフラックスの成分、フラックスの式(1)で計算される塩基度が本発明の範囲に入っているため、頂部スラグインは発生していない。さらに、メタルコアードワイヤの酸素量が本発明の範囲であるため、ピット等の欠陥も発生していない。さらに溶着金属量の全溶着金属量に占める割合や、メタルコアードワイヤの配置位置も本発明の範囲にはいっているため、溶接金属中にも未溶融等の冶金的問題も発生せず良好な靭性を示している。
【0132】
メタルコアードワイヤから供給される溶着金属量の全溶着金属量に占める割合は6%から38%までの範囲があるが、いずれも本発明の範囲内のメタルコアードワイヤを使用しているため溶接金属中の酸素量は適正な範囲であり、その結果溶接金属の靭性は良好である。
【0133】
【表9−1】
【0134】
【表9−2】
【0135】
【表10−1】
【0136】
【表10−2】
【0137】
【表11−1】
【0138】
【表11−2】
【0139】
【表12−1】
【0140】
【表12−2】
【0141】
次に比較例について説明する。
【0142】
表13−1及び13−2はメタルコアードワイヤを使用しない場合の比較例である。メタルコアードワイヤは使用せずソリッドワイヤのみ使用して溶接した場合の比較例である。比較例1および比較例2は1電極サブマージアーク溶接、比較例3から比較例5までは2電極サブマージアーク溶接、比較例6から比較例25までは3電極サブマージアーク溶接の比較例である。
【0143】
フラックスaからフラックスgを使用している比較例1から比較例4および比較例6から比較例14ではフラックスのCaF2量、SiO2量および式(1)で計算される塩基度が本発明の範囲内のため頂部スラグインは発生していないが、溶接金属の酸素量を増加する手段を講じていないため溶接金属中の酸素量が少なく、そのため溶接金属の靭性が低い。
【0144】
比較例15はフラックスhを使用している。このフラックスは式(1)で計算される塩基度が高く、CaF2量が多く、SiO2量が少ないため、頂部スラグインは発生していない。しかし、高塩基性のフラックスのため溶接金属の酸素量が低く靭性が低い。また、フラックス中のCaF2量が過剰でアークが安定せず、そのため溶接ビードが蛇行している。さらに、式(1)で計算される塩基度が高すぎるフラックスが結晶質となり吸湿しやすいため、溶接直前まで容器に密閉する必要があった。
【0145】
比較例5および比較例16から比較例20はフラックスiあるいはフラックスjを使用している。溶接金属の酸素量は0.018%以上、0.035%以下のため溶接金属の靭性は良好であるが、頂部スラグインが発生している。
【0146】
比較例21および比較例22はフラックスkを使用している。溶接金属の酸素量も過剰のため溶接金属の靭性が低い。またCaF2が本発明の範囲未満で且つSiO2が本発明の範囲を超えているため、頂部スラグインも発生している。
【0147】
比較例23はフラックスlを使用している。このフラックスは、SiO2が25.0%以下、CaF2は30.0%以上で、式(1)で計算される塩基度は1.1以上のため頂部スラグインは発生していないが、溶接金属の酸素量が低くそのため溶接金属の靭性が低い。さらにCaF2量が本発明の範囲を超えているため、アークの安定性が損なわれて溶接ビードが蛇行している。さらに、SiO2量が本発明の範囲未満のため、フラックスが結晶質となり吸湿しやすいため、溶接直前まで容器に密閉する必要があった。
【0148】
比較例24はフラックスmを使用している。フラックスのCaF2量が本発明の範囲未満のため、頂部スラグインが発生している。また、溶接金属の酸素量が少なく、溶接金属の靭性が低い。
【0149】
比較例25はフラックスnを使用している。フラックスのSiO2量が本発明の範囲を越えているため頂部スラグインが発生している。また、溶接金属中の酸素量が少ないため、溶接金属の靭性も低い。
【0150】
【表13−1】
【0151】
【表13−2】
【0152】
表14−1及び14−2は1電極サブマージアーク溶接にメタルコアードワイヤを使用した場合の比較例である。メタルコアードワイヤの配置位置、メタルコアードワイヤの添加量、用いているソリッドワイヤ、フラックスおよび母材は本発明の範囲である。しかし比較例26はメタルコアードワイヤに酸素量が本発明の範囲を超えているC20を使用しているため、ピットが発生している。比較例27は逆に、酸素量が本発明の範囲未満のメタルコアードワイヤC19を使用しているため、溶接金属中の酸素量が低く溶接金属の靭性が低い。
【0153】
【表14−1】
【0154】
【表14−2】
【0155】
表15−1及び15−2は3電極サブマージアーク溶接にメタルコアードワイヤを使用した場合の比較例である。比較例28は第2電極と第3電極の間、および第3電極の後方にメタルコアードワイヤを配置しているが、第3電極とその後方に配置されたメタルコアードワイヤとの距離が30mmである。電極に使用しているワイヤの直径が3.2mmであるため、その8倍の25.6mm以上の距離である。そのため、メタルコアードワイヤの挿入位置が溶融池の後方によりすぎ、メタルコアードワイヤが完全に溶融できず、さらに溶融池の中で十分攪拌されていない。その結果、酸素量は適正な範囲に入っているにもかかわらず溶接金属の靭性が低い。
【0156】
比較例29は第2電極と第3電極の間、および第3電極の後方にメタルコアードワイヤを配置しているが最後尾のソリッドワイヤとメタルコアードワイヤとを結ぶ線と溶接線とのなす角度が20度の場合の例である。角度が本発明の範囲以上のため、メタルコアードワイヤが十分溶融・攪拌されていない。その結果、酸素量は適正な範囲に入っているにもかかわらず溶接金属の靭性が低い。
【0157】
比較例30は第2電極と第3電極の間、および第3電極の後方にメタルコアードワイヤを配置しているが、第2電極と第3電極のソリッドワイヤを結んだ線とメタルコアードワイヤとの距離が8mmで、本発明の範囲であるソリッドワイヤの直径の2倍の6.4mm以上である。そのため、メタルコアードワイヤが十分溶融・攪拌されていない。その結果、酸素量は適正な範囲に入っているにもかかわらず溶接金属の靭性が低い。
【0158】
比較例31はフラックスhを使用した例である。塩基度の高いフラックスを使用しているがメタルコアードワイヤを3本使用して溶接金属に酸素を供給しているため、溶接金属中の酸素量は適正範囲である。そのため溶接金属の靭性は良好である。しかし、フラックス中のCaF2量が本発明の範囲を超えて過剰でアークが安定せず、そのため溶接ビードが蛇行している。さらに、式(1)で計算される塩基度が本発明の範囲を超え高いためフラックスが結晶質となり吸湿しやすいため、溶接直前まで容器に密閉する必要があった。
【0159】
比較例32は3電極サブマージアーク溶接にメタルコアードワイヤ3本使用したものである。塩基度の高いフラックスのフラックスlを使用しているがメタルコアードワイヤを使用しているため溶接金属の酸素量は適正範囲である。そのため、溶接金属の靭性は良好である。また、フラックスlは、SiO2が25.0%以下、CaF2は30.0%以上で、式(1)で計算される塩基度は1.1以上のため頂部スラグインは発生していない。しかし、CaF2量が本発明の範囲を超えているため、アークの安定性が損なわれて溶接ビードが蛇行している。さらに、SiO2量が低いため、フラックスが結晶質となり吸湿しやすいため、溶接直前まで容器に密閉する必要があった。
【0160】
比較例33は第2電極と第3電極の間、および第3電極の後方にメタルコアードワイヤを配置しているが、メタルコアードワイヤの送給速度を速くして、メタルコアードワイヤから供給される溶着金属量の全溶着金属量に占める割合を本発明の範囲を超える45%まで高めた。その結果、メタルコアードワイヤが十分溶融できず溶融池の中で完全に攪拌されていないため、酸素量は適正な範囲に入っているにもかかわらず溶接金属の靭性が低い。
【0161】
比較例34は第3電極の後方にメタルコアードワイヤを配置しているが、メタルコアードワイヤの送給速度を遅くして、メタルコアードワイヤから供給される溶着金属量の全溶着金属量に占める割合を本発明の範囲未満の3%まで小さくした。その結果、用いているメタルコアードワイヤは酸素量の高いC13を用いているにも関わらず、溶接金属の酸素量が低く溶接金属の靭性は低い。
【0162】
比較例35から比較例44までは用いているフラックスは本発明の範囲内であるが、用いているソリッドワイヤあるいはメタルコアードワイヤの化学組成の一部が過剰かあるいは不足しているため、溶接金属の成分が本発明の範囲から外れている。その結果、強度過剰ともに靭性が低い、あるいは強度不足等の問題が生じている。さらには比較例37および比較例43では溶接金属のNi量が過剰で、その結果高温割れが生じている。
【0163】
比較例35は、C量が請求項5の範囲未満のソリッドワイヤおよびメタルコアードワイヤを使用している。そのため、溶接金属中のCが不足している。また、溶接金属のPcmも本発明の範囲未満である。そのため、強度が低い。比較例36は用いているソリッドワイヤおよびメタルコアードワイヤのMo量およびTi量が過剰で、そのため溶接金属の化学組成もMo量およびTi量が過剰となり靭性が低い。また、Pcmも高いため強度が過剰である。
【0164】
比較例37は溶接金属中のNi量が過剰となり高温割れが発生している。また、溶接金属中のMo量も過剰のため、靭性も低い。比較例38は、溶接金属中のC量およびMn量も過剰となっている。そのため、溶接金属のPcmが本発明の範囲を超えており、強度過剰で溶接金属の靭性が低い。
【0165】
比較例39は、溶接金属中のAl量が過剰で低強度であるにもかかわらず靭性が低い。比較例40はMn量およびTi量の多いS16およびC18を使用しているため溶接金属のMn量およびTi量が過剰で靭性が低い。比較例41はPcmが本発明の範囲未満であり低強度である。しかし溶接金属中のAl量が高いため低強度にもかかわらず靭性が低い。比較例42は溶接金属中のCr量、Mn量およびTi量も過剰で、溶接金属のPcmも本発明の範囲を超えている。その結果靭性が低い。また溶接金属中のNb量も高く、これも溶接金属の靭性を低下させている。比較例43は溶接金属のC量、Si量およびNi量が過剰で強度が過剰となり靭性が低い。さらに、Ni量が過剰のため溶接時に高温割れが発生している。また、溶接金属中のNb量も高く、これも溶接金属の靭性を低下させている。比較例44は溶接金属のCr量が過剰で、溶接金属のPcmも本発明の範囲を超えている。また溶接金属中のNb量も高い。これらの原因で溶接金属の靭性が低い。
【0166】
表16−1及び16−2は4電極サブマージアーク溶接にメタルコアードワイヤを使用した場合の比較例である。比較例45は4電極サブマージアーク溶接で、メタルコアードワイヤを4本使用したものである。用いているメタルコアードワイヤの酸素量が本発明の範囲未満のため、メタルコアードワイヤから供給される溶着金属量の全溶着金属量に占める割合を40%であるにもかかわらず、溶接金属中の酸素量が低く溶接金属の靭性が低い。
【0167】
比較例46は4電極サブマージアーク溶接で、メタルコアードワイヤの送給速度を遅くして、メタルコアードワイヤから供給される溶着金属量の全溶着金属量に占める割合を3%まで小さくしたものである。その結果、用いているメタルコアードワイヤは酸素量の高いC6を用いているにも関わらず、溶接金属の酸素量が低く溶接金属の靭性は低い。
【0168】
表17−1及び17−2は5電極サブマージアーク溶接にメタルコアードワイヤを使用した場合の比較例である。比較例47は5電極サブマージアーク溶接で、メタルコアードワイヤを5本使用したものである。用いているメタルコアードワイヤの酸素量が本発明の範囲未満のため、メタルコアードワイヤから供給される溶着金属量の全溶着金属量に占める割合を40%であるにもかかわらず、溶接金属中の酸素量が低く溶接金属の靭性が低い。
比較例48は5電極サブマージアーク溶接で、メタルコアードワイヤの送給速度を遅くして、メタルコアードワイヤから供給される溶着金属量の全溶着金属量に占める割合を3%まで小さくしたものである。その結果、用いているメタルコアードワイヤは酸素量の高いC6を用いているにも関わらず、溶接金属の酸素量が低く溶接金属の靭性は低い。
【0169】
【表15−1】
【0170】
【表15−2】
【0171】
【表16−1】
【0172】
【表16−2】
【0173】
【表17−1】
【0174】
【表17−2】
【産業上の利用可能性】
【0175】
以上の様に、本発明を用いることにより容易に靭性の優れた頂部スラグインの無い下向きサブマージ溶接部を得ることができ、産業上貢献するところが大きい。
【図面の簡単な説明】
【0176】
【図1】頂部スラグインの模式図である。
【図2】フラックスの式(1)で計算される塩基度と頂部スラグインの発生傾向の関係を示す図である。
【図3】フラックスの式(1)で計算される塩基度と溶接金属中の酸素量の関係を示す図である。
【図4】メタルコアードワイヤの断面図である。
【図5】メタルコアードワイヤを使用した場合の溶接金属中の酸素量を示す図である。
【図6】1電極サブマージアーク溶接におけるソリッドワイヤおよびメタルコアードワイヤの配置図である。
【図7】多電極サブマージアーク溶接においてソリッドワイヤ間にメタルコアードワイヤの配置した場合の模式図である。
【図8】多電極サブマージアーク溶接において最後尾のソリッドワイヤの後方にメタルコアードワイヤの配置した場合の模式図である。
【図9】フラックス中のSiO2量と頂部スラグインの関係を示す図である。
【図10】フラックス中のCaF2量と頂部スラグインの関係を示す図である。
【図11】実施例に用いた開先形状を示す図である。
【図12】引張試験片採取要領を示す図である。
【図13】衝撃試験片採取要領を示す図である。
【符号の説明】
【0177】
S:頂部スラグイン
A:かしめ型メタルコアードワイヤの外皮
B:シームレスメタルコアードワイヤの外皮
C:金属粉末あるいは合金粉末
W:シームレスメタルコアードワイヤの外皮の溶接部
K:かしめ型メタルコアードワイヤのかしめ部
a:電極でないメタルコアードワイヤ
b:第1電極のソリッドワイヤ
c:第2電極のソリッドワイヤ
d:第3電極のソリッドワイヤ
m:溶融池
wl:溶接線
wb:溶接ビード
M:母材
Dk:開先き深さ
L:1電極サブマージアーク溶接においては電極、多電極サブマージアーク溶接においては最後尾の電極とその後方に配置されたメタルコアードワイヤとの距離
D:電極の間にメタルコアードワイヤを配置した場合の両側の電極を結んだ線とメタルコアードワイヤの先端との距離
θ:1電極サブマージアーク溶接においては電極、多電極サブマージアーク溶接においては最後尾の電極とその後方に配置されたメタルコアードワイヤとを結んだ線と、溶接線とのなす角度
Ts:引張り試験片
Tp:衝撃試験片
【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張強度が800〜1200MPaの鋼材を、該鋼材の開先内に高塩基性フラックスを充填し、1電極を用いてサブマージアーク溶接することにより、引張強度が800〜1200MPaの溶接金属を形成するサブマージアーク溶接方法において、
前記電極をソリッドワイヤとするとともに、該電極の後方に、鋼製外皮中に金属粉末または合金粉末を充填し、かつワイヤ全体に対する質量%でO:0.03%〜0.50%を含有するメタルコアードワイヤを配置し、前記電極と該メタルコアードワイヤとの距離を、前記電極のソリッドワイヤの直径の8倍以下とし、かつ、溶接線上にある前記電極の中心位置と該メタルコアードワイヤの中心間を結ぶ線と、溶接線とのなす角度が15度以下となるようにするとともに、
前記電極から発生するアーク内、または、該アークによって形成された溶融池内に、前記メタルコアードワイヤを挿入し、該メタルコアードワイヤの溶着金属量が、溶着金属全体に対する質量%で5%〜40%となるように、該メタルコアードワイヤを溶融し、
前記高塩基性フラックスの成分組成が、該フラックスに対する質量%で、SiO2:5.0%〜20.0%未満、CaF2:30.0%〜50.0%、CaO:5.0%〜25.0%、MgO:1.0%〜5.0%、Al2O3:15.0%〜30.0%を含有し、かつ、該フラックスの成分組成が下記(1)式で計算される塩基度Bの値が1.1〜3.2を満足し、
前記溶接金属の成分組成が、該溶接金属に対する質量%で、
C:0.03%〜0.12%、
Si:0.03%〜0.40%、
Mn:0.5%〜3.0%、
Ti:0.002%〜0.025%、
Al:0.002%〜0.030%、
O:0.018%〜0.035%を含有し、
Nb:0.04%以下に制限し、
さらに、Cr:0.1%〜1.5%、Ni:0.1%〜4.0%、および、Mo:0.1%〜2.0%のうちの何れか1種または2種以上を含み、残部がFeおよび不可避の不純物であり、かつ、該溶接金属の化学組成が下記(2)式で求められるPcmの値が0.22〜0.38を満足することを特徴とする、サブマージアーク溶接方法。
B=6.05×N[CaO]+4.0×N[MgO]+5.1×N[CaF2]−0.2×N[Al2O3]−6.3×N[SiO2] ・・・(1)
Pcm=[C]+[Si]/30+([Mn]+[Cr])/20+[Ni]/60+[Mo]/15 ・・・(2)
但し、
上記N[CaO]、N[MgO]、N[CaF2]、N[Al2O3]、および、N[SiO2]は、それぞれCaO、MgO、CaF2、Al2O3、および、SiO2のモル分率を示し、
[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Ni]、および、[Mo]は、それぞれC、Si、Mn、Cr、Ni、および、Moの質量%を示す。
【請求項2】
引張強度が800〜1200MPaの鋼材を、該鋼材の開先内に高塩基性フラックスを充填し、複数電極を用いて一つの溶融池を作成してサブマージアーク溶接することにより、引張強度が800〜1200MPaの溶接金属を形成するサブマージアーク溶接方法において、
前記複数電極をソリッドワイヤとし、該複数電極の何れかの隣接する2電極間あるいは最後尾電極の後方の少なくとも一カ所以上に、鋼製外皮中に金属粉末または合金粉末を充填し、かつワイヤ全体に対する質量%でO:0.03%〜0.50%を含有するメタルコアードワイヤを配置するとともに、隣接する2電極間にメタルコアードワイヤを配置する場合は該メタルコアードワイヤの中心位置と溶接線までの最短距離が、前記複数電極のソリッドワイヤの最大直径の2倍以下となるようにし、最後尾電極の後方にメタルコアードワイヤを配置する場合は、複数電極のソリッドワイヤの最大直径の8倍以下とし、かつ、溶接線上にある前記1電極の中心位置または複数電極のうちの最後尾電極の中心位置と該メタルコアードワイヤの中心間を結ぶ線と、溶接線とのなす角度が15度以下となるようにするとともに、
前記電極から発生するアーク内、または、該アークによって形成された溶融池内に、前記メタルコアードワイヤを挿入し、該メタルコアードワイヤの溶着金属量が、溶着金属全体に対する質量%で5%〜40%となるように、該メタルコアードワイヤを溶融し、
前記高塩基性フラックスの成分組成が、該フラックスに対する質量%で、SiO2:5.0%〜20.0%未満、CaF2:30.0%〜50.0%、CaO:5.0%〜25.0%、MgO:1.0%〜5.0%、Al2O3:15.0%〜30.0%を含有し、かつ、該フラックスの成分組成が下記(1)式で計算される塩基度Bの値が1.1〜3.2を満足し、
前記溶接金属の成分組成が、該溶接金属に対する質量%で、
C:0.03%〜0.12%、
Si:0.03%〜0.40%、
Mn:0.5%〜3.0%、
Ti:0.002%〜0.025%、
Al:0.002%〜0.030%、
O:0.018%〜0.035%を含有し、
Nb:0.04%以下に制限し、
さらに、Cr:0.1%〜1.5%、Ni:0.1%〜4.0%、および
、Mo:0.1%〜2.0%のうちの何れか1種または2種以上を含み、残部がFeおよび不可避の不純物であり、かつ、該溶接金属の化学組成が下記(2)式で求められるPcmの値が0.22〜0.38を満足することを特徴とする、サブマージアーク溶接方法。
B=6.05×N[CaO]+4.0×N[MgO]+5.1×N[CaF2]−0.2×N[Al2O3]−6.3×N[SiO2] ・・・(1)
Pcm=[C]+[Si]/30+([Mn]+[Cr])/20+[Ni]/60+[Mo]/15 ・・・(2)
但し、
上記N[CaO]、N[MgO]、N[CaF2]、N[Al2O3]、および、N[SiO2]は、それぞれCaO、MgO、CaF2、Al2O3、および、SiO2のモル分率を示し、
[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Ni]、および、[Mo]は、それぞれC、Si、Mn、Cr、Ni、および、Moの質量%を示す。
【請求項3】
前記鋼材の成分組成が、質量%で、
C:0.03%〜0.15%、
Si:0.01%〜0.50%、
Mn:0.5%〜3.0%、
Ti:0.001%〜0.02%、
Al:0.001%〜0.04を含有し、
残部がFeおよび不可避の不純物であることを特徴とする、請求項1または2に記載のサブマージアーク溶接方法。
【請求項4】
前記鋼材の成分組成が、質量%で、さらに、Cr:0.1%〜1.5%、Ni:0.1%〜2.5%、Mo:0.1%〜2.0%、および、Nb:0.005%〜0.06%のうちの何れか1種または2種以上を含むことを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載のサブマージアーク溶接方法。
【請求項5】
前記ソリッドワイヤの成分組成が、質量%で、
C:0.03%〜0.15%、
Si:0.02%〜0.80%、
Mn:0.2%〜4.0%、
Ti:0.002%〜0.10%、
Al:0.001%〜0.02%を含有し、
さらに、Cr:0.25%〜3.0%、Ni:0.25%〜8.0%、および、Mo:0.25%〜4.0%のうちの何れか1種または2種以上を含み、残部がFeおよび不可避の不純物であり、
前記メタルコアードワイヤの成分組成が、質量%で、
C:0.03%〜0.15%、
Si:0.02%〜0.80%、
Mn:0.2%〜4.0%以下、
Ti:0.002%〜0.10%、
Al:0.001%〜0.02%、
O:0.03%〜0.50%を含有し、
さらに、Cr:0.25%〜3.0%、Ni:0.25%〜8.0%、および、Mo:0.25%〜4.0%のうちの何れか1種または2種以上を含み、残部がFeおよび不可避の不純物であることを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載のサブマージアーク溶接方法。
【請求項1】
引張強度が800〜1200MPaの鋼材を、該鋼材の開先内に高塩基性フラックスを充填し、1電極を用いてサブマージアーク溶接することにより、引張強度が800〜1200MPaの溶接金属を形成するサブマージアーク溶接方法において、
前記電極をソリッドワイヤとするとともに、該電極の後方に、鋼製外皮中に金属粉末または合金粉末を充填し、かつワイヤ全体に対する質量%でO:0.03%〜0.50%を含有するメタルコアードワイヤを配置し、前記電極と該メタルコアードワイヤとの距離を、前記電極のソリッドワイヤの直径の8倍以下とし、かつ、溶接線上にある前記電極の中心位置と該メタルコアードワイヤの中心間を結ぶ線と、溶接線とのなす角度が15度以下となるようにするとともに、
前記電極から発生するアーク内、または、該アークによって形成された溶融池内に、前記メタルコアードワイヤを挿入し、該メタルコアードワイヤの溶着金属量が、溶着金属全体に対する質量%で5%〜40%となるように、該メタルコアードワイヤを溶融し、
前記高塩基性フラックスの成分組成が、該フラックスに対する質量%で、SiO2:5.0%〜20.0%未満、CaF2:30.0%〜50.0%、CaO:5.0%〜25.0%、MgO:1.0%〜5.0%、Al2O3:15.0%〜30.0%を含有し、かつ、該フラックスの成分組成が下記(1)式で計算される塩基度Bの値が1.1〜3.2を満足し、
前記溶接金属の成分組成が、該溶接金属に対する質量%で、
C:0.03%〜0.12%、
Si:0.03%〜0.40%、
Mn:0.5%〜3.0%、
Ti:0.002%〜0.025%、
Al:0.002%〜0.030%、
O:0.018%〜0.035%を含有し、
Nb:0.04%以下に制限し、
さらに、Cr:0.1%〜1.5%、Ni:0.1%〜4.0%、および、Mo:0.1%〜2.0%のうちの何れか1種または2種以上を含み、残部がFeおよび不可避の不純物であり、かつ、該溶接金属の化学組成が下記(2)式で求められるPcmの値が0.22〜0.38を満足することを特徴とする、サブマージアーク溶接方法。
B=6.05×N[CaO]+4.0×N[MgO]+5.1×N[CaF2]−0.2×N[Al2O3]−6.3×N[SiO2] ・・・(1)
Pcm=[C]+[Si]/30+([Mn]+[Cr])/20+[Ni]/60+[Mo]/15 ・・・(2)
但し、
上記N[CaO]、N[MgO]、N[CaF2]、N[Al2O3]、および、N[SiO2]は、それぞれCaO、MgO、CaF2、Al2O3、および、SiO2のモル分率を示し、
[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Ni]、および、[Mo]は、それぞれC、Si、Mn、Cr、Ni、および、Moの質量%を示す。
【請求項2】
引張強度が800〜1200MPaの鋼材を、該鋼材の開先内に高塩基性フラックスを充填し、複数電極を用いて一つの溶融池を作成してサブマージアーク溶接することにより、引張強度が800〜1200MPaの溶接金属を形成するサブマージアーク溶接方法において、
前記複数電極をソリッドワイヤとし、該複数電極の何れかの隣接する2電極間あるいは最後尾電極の後方の少なくとも一カ所以上に、鋼製外皮中に金属粉末または合金粉末を充填し、かつワイヤ全体に対する質量%でO:0.03%〜0.50%を含有するメタルコアードワイヤを配置するとともに、隣接する2電極間にメタルコアードワイヤを配置する場合は該メタルコアードワイヤの中心位置と溶接線までの最短距離が、前記複数電極のソリッドワイヤの最大直径の2倍以下となるようにし、最後尾電極の後方にメタルコアードワイヤを配置する場合は、複数電極のソリッドワイヤの最大直径の8倍以下とし、かつ、溶接線上にある前記1電極の中心位置または複数電極のうちの最後尾電極の中心位置と該メタルコアードワイヤの中心間を結ぶ線と、溶接線とのなす角度が15度以下となるようにするとともに、
前記電極から発生するアーク内、または、該アークによって形成された溶融池内に、前記メタルコアードワイヤを挿入し、該メタルコアードワイヤの溶着金属量が、溶着金属全体に対する質量%で5%〜40%となるように、該メタルコアードワイヤを溶融し、
前記高塩基性フラックスの成分組成が、該フラックスに対する質量%で、SiO2:5.0%〜20.0%未満、CaF2:30.0%〜50.0%、CaO:5.0%〜25.0%、MgO:1.0%〜5.0%、Al2O3:15.0%〜30.0%を含有し、かつ、該フラックスの成分組成が下記(1)式で計算される塩基度Bの値が1.1〜3.2を満足し、
前記溶接金属の成分組成が、該溶接金属に対する質量%で、
C:0.03%〜0.12%、
Si:0.03%〜0.40%、
Mn:0.5%〜3.0%、
Ti:0.002%〜0.025%、
Al:0.002%〜0.030%、
O:0.018%〜0.035%を含有し、
Nb:0.04%以下に制限し、
さらに、Cr:0.1%〜1.5%、Ni:0.1%〜4.0%、および
、Mo:0.1%〜2.0%のうちの何れか1種または2種以上を含み、残部がFeおよび不可避の不純物であり、かつ、該溶接金属の化学組成が下記(2)式で求められるPcmの値が0.22〜0.38を満足することを特徴とする、サブマージアーク溶接方法。
B=6.05×N[CaO]+4.0×N[MgO]+5.1×N[CaF2]−0.2×N[Al2O3]−6.3×N[SiO2] ・・・(1)
Pcm=[C]+[Si]/30+([Mn]+[Cr])/20+[Ni]/60+[Mo]/15 ・・・(2)
但し、
上記N[CaO]、N[MgO]、N[CaF2]、N[Al2O3]、および、N[SiO2]は、それぞれCaO、MgO、CaF2、Al2O3、および、SiO2のモル分率を示し、
[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Ni]、および、[Mo]は、それぞれC、Si、Mn、Cr、Ni、および、Moの質量%を示す。
【請求項3】
前記鋼材の成分組成が、質量%で、
C:0.03%〜0.15%、
Si:0.01%〜0.50%、
Mn:0.5%〜3.0%、
Ti:0.001%〜0.02%、
Al:0.001%〜0.04を含有し、
残部がFeおよび不可避の不純物であることを特徴とする、請求項1または2に記載のサブマージアーク溶接方法。
【請求項4】
前記鋼材の成分組成が、質量%で、さらに、Cr:0.1%〜1.5%、Ni:0.1%〜2.5%、Mo:0.1%〜2.0%、および、Nb:0.005%〜0.06%のうちの何れか1種または2種以上を含むことを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載のサブマージアーク溶接方法。
【請求項5】
前記ソリッドワイヤの成分組成が、質量%で、
C:0.03%〜0.15%、
Si:0.02%〜0.80%、
Mn:0.2%〜4.0%、
Ti:0.002%〜0.10%、
Al:0.001%〜0.02%を含有し、
さらに、Cr:0.25%〜3.0%、Ni:0.25%〜8.0%、および、Mo:0.25%〜4.0%のうちの何れか1種または2種以上を含み、残部がFeおよび不可避の不純物であり、
前記メタルコアードワイヤの成分組成が、質量%で、
C:0.03%〜0.15%、
Si:0.02%〜0.80%、
Mn:0.2%〜4.0%以下、
Ti:0.002%〜0.10%、
Al:0.001%〜0.02%、
O:0.03%〜0.50%を含有し、
さらに、Cr:0.25%〜3.0%、Ni:0.25%〜8.0%、および、Mo:0.25%〜4.0%のうちの何れか1種または2種以上を含み、残部がFeおよび不可避の不純物であることを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載のサブマージアーク溶接方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−50866(P2009−50866A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217654(P2007−217654)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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