説明

サブマージアーク溶接用ボンドフラックス及びソリッドワイヤ並びに低温用鋼のサブマージアーク溶接方法

【課題】低温破壊靭性が優れた溶接部(溶接金属)を、優れた溶接作業性で得ることができるサブマージアーク溶接用ボンドフラックス及びソリッドワイヤ並びに低温用鋼のサブマージアーク溶接方法を提供する。
【解決手段】ボンドフラックスは、MgO:23乃至43%、Al:11乃至31%、CaF:6乃至16%、SiO:7乃至20%、金属炭酸塩:CO換算で1.0乃至8.0%、CaO及びBaOの1種又は2種:合計で2乃至16%を含有すると共に、金属Si:0.4乃至1.5%、金属Ti及びTi酸化物(total Ti):Ti換算値の合計で1.0乃至7.0%、金属B及びB酸化物の1種又は2種:B換算値の両者の合計で0.01乃至0.20%、アルカリ金属Na、K及びLiの酸化物:各元素への換算値の合計で1.0乃至6.0%を含有しており、(Ti換算値+B換算値)/SiO:0.05乃至0.55を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサブマージアーク溶接用ボンドフラックス及びワイヤに関し、特に−40℃程度の低温まで優れた破壊靭性を有する溶接部を得ることができ、主として海洋構造物又はLPGタンク等に使用される低温高強度用鋼の溶接に適したサブマージアーク溶接用ボンドフラックス及びソリッドワイヤ並びに低温用鋼のサブマージアーク溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低温用鋼は、寒冷地でのラインパイプ、海洋での石油掘削基地等の海洋構造物、LPGタンク等に使用されている。これらの構造物では、安全性及び耐久性の観点から、更に一層の品質向上が求められており、その中で、溶接部へのより厳しい性能の向上が要求されている。
【0003】
この溶接部の品質として、低温における破壊靭性性能があり、この靭性の評価基準として、シャルピ−衝撃試験での吸収エネルギ及び設計温度での破壊靭性値(CTOD)がある。
【0004】
従来、この低温における破壊靭性性能の向上を目的とした技術として、本願出願人は、特許文献1に開示されたものを提案した。この特許文献1に開示されたサブマージアーク溶接用ボンドフラックスは、MgO:20〜45%、Al:10〜30%、CaF:5〜15%、SiO:5〜20%、金属炭酸塩(CO換算):2〜10%、CaO及びBaOの1種又は2種の合計:2〜20%を含有すると共に、金属Si、金属Al及び金属Tiの1種又は2種以上の合計:0.5〜5%、金属Ti及びTi酸化物(Ti換算)の合計(totalTi):1〜7%、金属B及びB酸化物(B換算)の1種又は2種の合計:0.1〜0.5%、S:0.005〜0.15%を含有するものである。
【0005】
また、特許文献2においては、低温用鋼用のTi脱酸鋼に代表される制御脱酸の多層溶接において、良好な溶接作業性とAW(溶接のまま)及びPWHT(応力除去焼鈍後)とも良好な靭性を具備する溶接部を得ることを目的とした低温用鋼のサブマージアーク溶接用ワイヤとして、Ca、Mg、Zr及びAlから選択された1種以上の元素量の合計が重量%で0.015%以下のTi脱酸鋼に代表される制御脱酸鋼板を溶接するサブマージアーク溶接用ボンドフラックス及びワイヤであって、下記式(1)〜(3)を満たし、8≦(SiO)F≦16%、(Si)F≦0.5%、0.1≦(Al)F≦1.5%、(Mg)F≦4.5%、0.1≦(Al)F+0.25×(Mg)F≦1.5%であるサブマージアーク溶接用ボンドフラックスと、同じく下記式(1)〜(3)を満足し、かつ0.005%≦[C]W≦0.08%、0.005%≦[Si]W≦0.10%、1.5%≦[Ni]W≦3.5%であるサブマージアーク溶接用ワイヤが開示されている。
0.002≦0.1×(B+6×[B]+3×[B]≦0.025
・・・(1)
0.05≦0.01×(TiO+0.1×(Ti)+3×[Ti]+1.5×[Ti]≦0.22・・・(2)
0.1×(P)+0.6×[P]+0.3×[P]≦0.012・・・(3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−256489号公報
【特許文献2】特開平10−113791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1においては、フラックスの塩基度とTi、B等の合金成分の調整により、溶接金属中の酸素、Ti、B量を適正化し、−60℃まで優れた破壊靭性を確保できる。しかし、溶接金属の強度レベルは、0.2%耐力が450MPa程度であるため、更に一層の高強度化が要望されている。
【0008】
また、特許文献2においては、海洋構造物及びLPGタンク等に使用される低温用鋼の溶接に際し、AW(溶接のまま)及びPWHT(応力除去焼鈍後)の状態で、−70℃までの低温靭性が優れた溶接金属を得ようとしているが、低温破壊靭性(特にCTOD性能)を向上させるには至っていない。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、ワイヤ及びフラックスの組成を適切に規定することにより、低温破壊靭性が優れた溶接部(溶接金属)を、優れた溶接作業性で得ることができるサブマージアーク溶接用ボンドフラックス及びソリッドワイヤ並びに低温用鋼のサブマージアーク溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るサブマージアーク溶接用ボンドフラックスは、MgO:23乃至43質量%、Al:11乃至31質量%、CaF:6乃至16質量%、SiO:7乃至20質量%、金属炭酸塩:CO換算で1.0乃至8.0質量%、CaO及びBaOの1種又は2種:合計で2乃至16質量%を含有すると共に、金属Si:0.4乃至1.5質量%、金属Ti及びTi酸化物(total Ti):Ti換算値の合計で1.0乃至7.0質量%、金属B及びB酸化物の1種又は2種:B換算値の両者の合計で0.01乃至0.20質量%、アルカリ金属Na、K及びLiの酸化物:各元素への換算値の合計で1.0乃至6.0質量%を含有しており、(Ti換算値+B換算値)/SiO:0.05乃至0.55を満足することを特徴とする。
【0011】
本発明に係るサブマージアーク溶接用ソリッドワイヤは、C:0.10乃至0.15質量%、Mn:1.5乃至2.5質量%、Ni:2.0乃至2.6質量%を含有し、Mo:0.05質量%以下、N:0.008質量%以下に規制し、残部がFe及び不可避的不純物であると共に、[Ni]/([Mn]+[Mo]):0.9乃至1.5を満足することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る低温用鋼のサブマージアーク溶接方法は、
MgO:23乃至43質量%、Al:11乃至31質量%、CaF:6乃至16質量%、SiO:7乃至20質量%、金属炭酸塩:CO換算で1.0乃至8.0質量%、CaO及びBaOの1種又は2種:合計で2乃至16質量%を含有すると共に、金属Si:0.4乃至1.5質量%、金属Ti及びTi酸化物(total Ti):Ti換算値の合計で1.0乃至7.0質量%、金属B及びB酸化物の1種又は2種:B換算値の両者の合計で0.01乃至0.20質量%、アルカリ金属Na、K及びLiの酸化物:各元素への換算値の合計で1.0乃至6.0質量%を含有しており、(Ti換算値+B換算値)/SiO:0.05乃至0.55を満足するサブマージアーク溶接用ボンドフラックスと、
C:0.10乃至0.15質量%、Mn:1.5乃至2.5質量%、Ni:2.0乃至2.6質量%を含有し、Mo:0.05質量%以下、N:0.008質量%以下に規制し、残部がFe及び不可避的不純物であると共に、[Ni]/([Mn]+[Mo]):0.9乃至1.5を満足するサブマージアーク溶接用ソリッドワイヤとを使用し、
B:0.0010乃至0.0050質量%及びTi:0.010乃至0.050質量%を含有し、[Ti]/[O]:0.50乃至0.90を満足する溶接金属を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のサブマージアーク溶接用ボンドフラックスによれば、フラックスの組成を適切に規定することにより、優れた溶接作業性及び破壊靭性を有する溶接金属を得ることができる。
【0014】
また、本発明のサブマージアーク溶接用ソリッドワイヤによれば、ワイヤの組成を適切に規定することにより、高強度且つ優れた破壊靭性を有する溶接金属を得ることができる。
【0015】
更に、本発明の低温用鋼のサブマージアーク溶接方法によれば、0.2%耐力が500MPa以上、引張強さが610MPa以上、CTOD値δ(−40℃)が0.25mm以上の溶接金属を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】溶接金属の各性質に及ぼすワイヤの[Ni]/([Mn]+[Mo])比率の影響を示すグラフ図である。
【図2】溶接金属の各性質に及ぼすフラックスの(Ti換算値+B換算値)/SiOの影響を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
従来、溶接金属の高靭性化技術が多数提案されているが、特許文献1に開示された技術は、フラックス塩基度と合金成分の調整により、高靭性化を達成している。また、特許文献2においては、フラックスとワイヤ中の夫々の合金成分の調整により、高靭性化を達成している。しかし、これらの従来の技術においては、0.2%耐力が450MPa程度であり、またCTOD値が低いものであった。本発明は、このような従来技術の問題点を解消するためになされたものであって、フラックスとワイヤの合金成分の調整により、強度レベル0.2%耐力が500MPa以上、引張強さが610MPa以上、CTODが−40℃まで0.25mm以上で優れた破壊靭性を有する溶接金属を開発したものである。
【0018】
以下、本発明のフラックス及びワイヤの組成限定理由について説明する、先ず、サブマージアーク溶接用ボンドフラックスの組成について説明する。
【0019】
(1)サブマージアーク溶接用ボンドフラックス
「MgO:23乃至43質量%」
MgOは、その添加により、塩基度を高めると共に、脱酸剤として溶接金属中の酸素を低下させる作用を有するため、酸素低減に効果がある。また、MgOの添加は、スラグの耐火性も増加させる。MgOが23質量%未満では、この作用が発揮されない。また、MgOが43質量%を超えると、スラグの剥離及びビード外観が悪化する。
【0020】
「Al:11乃至31質量%」
Alはスラグ形成剤としての作用を持ち、ビードのスラグ剥離性を確保する効果がある。また、Alはアークの集中性及び安定性を高める作用を有する。しかし、Alが11質量%未満では、スラグの剥離性が劣化し、アークが不安定で溶接が困難になる。また、Alが31質量%を超えると、溶接金属中の酸素が増加して、溶接金属の靭性を劣化させる。
【0021】
「CaF:6乃至16質量%」
CaFは生成スラグの融点を調整するという作用が公知であるが、CaFは溶接金属中の酸素を低減させる効果も有する。しかし、CaFが6質量%未満では、この効果が発揮されず、またCaFが16質量%を超えると、アークが不安定になり、ビード外観が劣化し、またビード上にポックマークが発生することがある。
【0022】
「SiO:7乃至20質量%」
SiOは、スラグ形成剤としてビード外観及びビード形状を整える作用があるが、SiOが7質量%未満ではこの効果が発揮されず、またSiOが20質量%を超えると、溶接金属中の酸素を増加させ、靭性を劣化させる。
【0023】
「金属炭酸塩:CO換算で1.0乃至8.0質量%」
金属炭酸塩は、溶接熱によりガス化して、アーク雰囲気中の水蒸気分圧を下げ、溶接金属中の拡散性水素量を下げるというアークのシールド効果を有する。しかし、金属炭酸塩が1.0質量%未満ではこの効果が発揮されない。また、金属炭酸塩が8.0質量%を超えると、スラグの剥離性が悪化し、時にはビード上にポックマークが発生し、作業性が不良になる。一般的に、金属炭酸塩としては、CaCO、BaCO等が挙げられる。
【0024】
「CaO及びBaOの1種又は2種:合計で2乃至16質量%」
CaO及びBaOは、MgOと共に、塩基度を高め、溶接金属中の酸素低減に効果がある。また、CaO及びBaOは同一の作用効果を有する。しかし、CaO及びBaOは、これらの1種又は2種の合計で2質量%未満では、この効果を発揮せず、また16質量%を超えると、アーク安定性とビード外観が劣化する。
【0025】
「金属Si:0.4乃至1.5質量%」
金属Siは、溶接金属中の酸素量を低下させる脱酸効果を有する。この金属Siは、通常、Fe−Si合金の形で添加される。この合金中のSiが、フラックス質量あたり、0.4質量%未満では、脱酸効果が発揮されない。また、Siが1.5質量%を超えると、脱酸効果が飽和してしまい、逆に、溶接金属の靭性が劣化すると共に、強度が上がりすぎてしまう。
【0026】
「金属Ti及びTi酸化物(total Ti):Ti換算値の合計で1.0乃至7.0質量%」
金属Tiは、溶接金属中の酸素量を低下させる脱酸効果を有する。また、Ti酸化物はスラグ形成剤として粘性及び流動性を調整する効果を有する。金属Tiも溶接中に酸化して、Ti酸化物となり、スラグ形成剤として、粘性及び流動性を調整する効果を有する。これらの合計(total Ti)が1.0質量%未満ではこの効果が発揮されず、7.0質量%を超えると、脱酸過剰となり、またスラグ量が過剰になり、ビード表面に焼き付きを起こし、スラグ剥離性が劣化する。このように、金属Ti及びTi酸化物は、相互に密接な関連性を有し、total Tiとして、その量を規制する。フラックスの金属Ti及びTi酸化物(Ti換算値)の合計(total Ti)のより好ましい範囲は、0.3乃至1.3質量%である。
【0027】
「金属B及びB酸化物の1種又は2種:B換算値の両者の合計で0.01乃至0.20質量%」
金属B及びB酸化物は溶接金属中の固溶B量を制御する効果を有するが、B換算値が金属Bとの合計で0.01質量%未満では、固溶Bの粒界偏析における微細な組織を抑制し、靭性向上効果が発揮されず、B換算値の合計が0.20質量%を超えると、溶接金属の焼入れ性が大幅に上昇し、靭性が低下する。フラックスの金属B及びB酸化物の1種又は2種は、B換算値の合計で、より好ましい範囲は0.01乃至0.15質量%である。
【0028】
「アルカリ金属Na、K及びLiの酸化物:各元素への換算値の合計で1.0乃至6.0質量%」
アルカリ金属Na、K、及びLiの酸化物はアークを安定させる効果を有するが、これらの酸化物は、各元素への換算値の合計で1.0質量%未満では、この効果が発揮されない。また、各元素への換算値の合計が6.0質量%を超えると、脱酸効果が向上せず、溶接金属の靭性が劣化すると共に、強度が上がりすぎてしまう。
【0029】
「(Ti換算値+B換算値)/SiO:0.05乃至0.55」
本発明においては、破壊靭性と溶接作業性の双方を確保するために、上述のように各成分の組成を限定するが、本発明者等は、更に、(Ti換算値+B換算値)/SiOを0.05乃至0.55を満足する範囲に規定することにより、破壊靭性と溶接作業性の双方を確保できることを見出した。(Ti換算値+B換算値)/SiOが0.05未満であると、溶接金属酸素量が高い粗大な組織を生成することにより、破壊靭性が低下する。また、(Ti換算値+B換算値)/SiOが0.55を超えると、スラグの剥離性及びビード形状等の溶接作業性が劣化し、溶接金属強度も上がり、破壊靭性が低下する。フラックスの(Ti換算値+B換算値)/SiOのより好ましい範囲は、0.10乃至0.40である。
【0030】
(2)次に、ソリッドワイヤの組成について説明する。
【0031】
「C:0.10乃至0.15質量%」
Cは良好な靭性を得るために、低くする必要があり、溶接金属で良好な低温靭性を得るために、0.15質量%以下にする必要がある。但し、Cが0.10質量%未満では、脱酸不足となり、靭性が劣化する。
【0032】
「Mn:1.5乃至2.5質量%」
Mnは溶接金属の焼入れ性を確保し、粒内フェライトの変態核を生成するうえで必要である。このようなMnの効果は、1.5質量%以上で得られるが、Mnが2.5質量%を超えると、溶接金属の焼入れ性が過大となり、靭性が劣化する。
【0033】
「Ni:2.0乃至2.6質量%」
Niは溶接金属のマトリックスに固溶してフェライトそのものを高靭性化する。このようなNiの効果は2.0質量%以上で得られる。一方、Niが2.6質量%を超えると、P及びSが粒界に析出しやすく、高温割れが生じ易くなる。
【0034】
「Mo:0.05質量%以下」
Moは溶接金属の焼入れ性を向上させる効果がある。但し、Moが0.05質量%を超えると、溶接金属の焼入れ性が上昇しすぎてしまい、溶接金属の靭性が低下する。
【0035】
「N:0.008質量%以下」
Nは靭性を劣化させる元素であり、できるだけ低い方がよく、このため、Nの上限を0.008質量%とする。なお、本発明のソリッドワイヤの残部は、Fe及び不可避的不純物である。
【0036】
「[Ni]/([Mn]+[Mo]):0.9乃至1.5」
本発明においては、破壊靭性と耐高温割れ性の双方を向上させるために、ソリッドワイヤの組成を上述のように規定するが、本発明者等は、更に、[Ni]/([Mn]+[Mo])が0.9乃至1.5を満足する範囲に各成分の組成を調整すると、破壊靭性と耐高温割れ性の双方を更に確実に向上させることができることを見出した。[Ni]/([Mn]+[Mo])が0.9未満であると、溶接金属の焼入れ性が高く破壊靭性が低下する。また、[Ni]/([Mn]+[Mo」]が1.5を超えると、高温割れが生じ易くなる。ワイヤの[Ni]/([Mn]+[Mo])のより好ましい範囲は、1.0乃至1.4である。
【0037】
(3)次に、本発明の溶接方法により得られる溶接金属の組成について説明する。
【0038】
「B:0.0010乃至0.0050質量%」
Bは0.0010質量%未満では、初析フェライトの抑制効果を発揮できず、靭性が劣化する。一方、Bは0.0050質量%を超えると、溶接金属の焼入れ性が大きくなり、これにより、靭性が劣化する。
【0039】
「Ti:0.010乃至0.050質量%」
Tiは0.010質量%未満では、粒内アシキュラーフェライトの変態核の生成が阻害され、靭性が劣化する。一方、Tiは0.050質量%を超えると、粗大なラス状ベイナイトの生成により、靭性が劣化する
「[Ti]/[O]:0.50乃至0.90」
[Ti]/[O]が0.50未満では、脱酸不足のため、粗大な初析フェライトの生成により、靭性が劣化する。一方、[Ti]/[O]が0.90を超えると、粗大なラス状ベイナイトの生成により、靭性が劣化する。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例により本発明の効果を更に具体的に説明する。下記表1に示すW1〜W6の6種類のワイヤを作製した。表1中W1〜W3が本発明の範囲に入る実施例、W4〜W6が本発明の範囲から外れる比較例である。ワイヤ径は全てのワイヤにおいて、4.0mmである。同様に、下記表2及び表3に示すF1〜F15の15種類のフラックスを作製した。これらのフラックスは原料粉を水ガラスを固着材として造粒した後、500℃で夫々焼成し、10乃至48メッシュの粒度に整粒した。下記表2及び表3中、F1〜F5が本発明の範囲に入る実施例、F6〜F15が本発明の範囲から外れる比較例である。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
上記表1に示すソリッドワイヤと、上記表2及び表3に示すフラックスを組み合わせて、下記表4に示す鋼板を、下記表5に示す溶接条件により、全溶着金属溶接試験した。この表5に示す溶接試験条件によって溶接した溶接金属の機械的性質、溶接作業性及び化学成分を下記表6に示す試験方法によって求めた。機械的性質においては、降伏強度が500MPa以上、引張強さが610MPa以上及び−40℃のCTOD値が0.25mm以上を合格とした。
【0045】
【表4】

【0046】
【表5】

【0047】
【表6】

【0048】
次に、耐高温割れ性能試験について説明する。上記表1に示すワイヤを使用し、上記表2及び表3に示すフラックスを組合せて、上記表4に示す組成の鋼板を使用して、下記表7に示す溶接条件により溶接した溶接金属の耐高温割れ性を、拘束突合せ溶接割れ試験によって求めた。割れ率は、破断したビードのビード長に対する割れ長さの比率(質量%)とし、10質量%以下を合格(クレータ割れを含む)とした。
【0049】
【表7】

【0050】
上記全溶着金属溶接試験及び耐高温割れ性能試験の結果を、下記表8乃至表10と図1及び図2に示す。表8は本発明の実施例及び比較例の機械的性質、表9は同じく溶接作業性及び割れ率を示す。また、表10は本発明の実施例及び比較例の溶接金属組成(残部は、Fe及び不可避的不純物)を示す。なお、溶接作業性欄の○は良好、×は不良を示す。
【0051】
【表8】

【0052】
【表9】

【0053】
【表10】

【0054】
本発明の実施例のソリッドワイヤW1〜W3とフラックスF1〜F5を使用した溶接試験T1〜T5の場合は、表8に示すように、0.2%耐力と、引張強さの双方が高く、また、−60℃の吸収エネルギも高く、CTOD(−40℃)も大きな値が得られた。これに対し、比較例のソリッドワイヤW4〜W6とフラックスF6〜F15を使用した溶接試験T6〜T15の場合は、0.2%耐力、引張強さ、−60℃の吸収エネルギ、CTOD(−40℃)のいずれかが劣るものであった。
【0055】
また、表9に示すように、本発明の実施例T1〜T5は、溶接作業性を示すスラグ剥離性、ビード外観、ポックマーク、ビードの焼き付き、拡散性水素量及び割れ率の全てが優れているのに対し、比較例T6〜T15は、上記特性のいずれかが劣るものであった。
【0056】
更に、本発明の実施例T1〜T5は、溶接金属の組成が本発明の範囲を満たし、比較例T6〜T15は、溶接金属の組成が本発明の範囲を満たさないものであった。
【0057】
また、図1及び図2は、夫々、溶接金属の各性質に及ぼすワイヤの[Ni]/([Mn]+[Mo])比率と、フラックスの(Ti換算値+B換算値)/SiOの影響を示すグラフ図である。この図1は表1に示すソリッドワイヤW1〜W6をプロットし、図2は表2及び表3に示すフラックスF1〜F15をプロットしたものである。ソリッドワイヤW1〜W6において、[Ni]/([Mn]+[Mo])が0.9未満であると、溶接金属の焼入れ性が高すぎ、破壊靭性が低下する。また、[Ni]/([Mn]+[Mo」]が1.5を超えると、高温割れが生じ易くなる。一方、フラックスF1〜F15において、(Ti換算値+B換算値)/SiOが0.05未満であると、溶接金属の酸素量が高すぎ、粗大な組織を生成することにより、破壊靭性が低下する。また、(Ti換算値+B換算値)/SiOが0.55を超えると、スラグの剥離性及びビード外観等の溶接作業性が劣化し、溶接金属強度も上がり、破壊靭性が低下する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgO:23乃至43質量%、Al:11乃至31質量%、CaF:6乃至16質量%、SiO:7乃至20質量%、金属炭酸塩:CO換算で1.0乃至8.0質量%、CaO及びBaOの1種又は2種:合計で2乃至16質量%を含有すると共に、金属Si:0.4乃至1.5質量%、金属Ti及びTi酸化物(total Ti):Ti換算値の合計で1.0乃至7.0質量%、金属B及びB酸化物の1種又は2種:B換算値の両者の合計で0.01乃至0.20質量%、アルカリ金属Na、K及びLiの酸化物:各元素への換算値の合計で1.0乃至6.0質量%を含有しており、(Ti換算値+B換算値)/SiO:0.05乃至0.55を満足することを特徴とするサブマージアーク溶接用ボンドフラックス。
【請求項2】
C:0.10乃至0.15質量%、Mn:1.5乃至2.5質量%、Ni:2.0乃至2.6質量%を含有し、Mo:0.05質量%以下、N:0.008質量%以下に規制し、残部がFe及び不可避的不純物であると共に、[Ni]/([Mn]+[Mo]):0.9乃至1.5を満足することを特徴とするサブマージアーク溶接用ソリッドワイヤ。
【請求項3】
MgO:23乃至43質量%、Al:11乃至31質量%、CaF:6乃至16質量%、SiO:7乃至20質量%、金属炭酸塩:CO換算で1.0乃至8.0質量%、CaO及びBaOの1種又は2種:合計で2乃至16質量%を含有すると共に、金属Si:0.4乃至1.5質量%、金属Ti及びTi酸化物(total Ti):Ti換算値の合計で1.0乃至7.0質量%、金属B及びB酸化物の1種又は2種:B換算値の両者の合計で0.01乃至0.20質量%、アルカリ金属Na、K及びLiの酸化物:各元素への換算値の合計で1.0乃至6.0質量%を含有しており、(Ti換算値+B換算値)/SiO:0.05乃至0.55を満足するサブマージアーク溶接用ボンドフラックスと、
C:0.10乃至0.15質量%、Mn:1.5乃至2.5質量%、Ni:2.0乃至2.6質量%を含有し、Mo:0.05質量%以下、N:0.008質量%以下に規制し、残部がFe及び不可避的不純物であると共に、[Ni]/([Mn]+[Mo]):0.9乃至1.5を満足するサブマージアーク溶接用ソリッドワイヤとを使用し、
B:0.0010乃至0.0050質量%及びTi:0.010乃至0.050質量%を含有し、[Ti]/[O]:0.50乃至0.90を満足する溶接金属を得ることを特徴とする低温用鋼のサブマージアーク溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−176435(P2012−176435A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−279994(P2011−279994)
【出願日】平成23年12月21日(2011.12.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 : 社団法人 溶接学会 刊行物名 : 溶接学会全国大会講演概要 第87集 平成22年度秋季全国大会 発行年月日 : 平成22年8月18日
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】