説明

サンプリング装置

【課題】 大気中の半揮発性有機化合物(SVOC)は、低濃度であるため、長時間の測定が必要であるが、高濃度に存在する他の浮遊物質により石英フィルタの目詰まりが発生し、SVOCを精度よく測定することが困難であった。石英フィルタの目詰まりを発生させずに精度よく、SVOCの濃度を測定する。
【解決手段】 吸引ポンプにより、被測定大気9と筐体1内の気圧差を利用し、遮蔽体のピストン5を移動させ、円筒形石英フィルタ4の目詰まりが起こっていない新しい捕集面4bを露出させることにより、円筒形石英フィルタ4の捕集面積を捕集されるSVOCの量に応じて自動的に変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、環境汚染を引き起こす汚染物質である大気中に浮遊するSVOC(Semi Volatile Organic Compounds、準揮発性有機化合物)等の被測定物質をフィルタで捕集し、フィルタに付着した被測定物質を抽出して、これら被測定物質の濃度を測定するためのサンプリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大気中のSVOC等の被測定物質の濃度を分析するために、被測定物質を捕集するサンプリング装置において、これらを捕集するフィルタとして、一般的に石英や高分子吸着剤などのフィルタが用いられる(例えば、非特許文献1参照)。この石英フィルタで捕集されたSVOCなどの被測定物質は溶剤により抽出され、ガスクロマトグラフ質量分析装置に掛けられ、採取された大気の体積から被測定物質の濃度が同定される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【非特許文献1】室内環境学会誌 Vol.5、No.1、pp.13−22
【特許文献1】特開平05−052717号公報(2頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
被測定物質であるSVOC等の分析において、従来のサンプリング装置では、採取された大気の体積からその濃度が同定されるが、フィルタの捕集面積が固定されており、フィルタの捕集面積が小さく、被測定物質や測定対象の浮遊物質等の濃度が高い場合は、フィルタの目詰まりにより測定結果に誤差が生じ、また、フィルタの捕集面積に対して被測定物質の濃度が低く量が少ない場合は、分析中における他の浮遊物質の混入により、精度よく測定することが困難であるという問題があった。
【0005】
この発明は、上述のような問題を解決するためになされたもので、測定対象である大気中の被測定物質の濃度に拘わらず、フィルタに目詰まりを発生させず、フィルタの捕集面積を最適化するサンプリング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、この発明に係るサンプリング装置においては、フィルタに捕集される被測定物質を含む浮遊物質の量により、吸引する大気とフィルタを通過後の大気との気圧差を利用して、自動的にフィルタの捕集面積を変えるものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明は、吸引される被測定物質を含む浮遊物質の量により、フィルタの捕集面積を自動的に調節することにより、被測定大気の被測定物質の濃度に拘わらず、その濃度を精度よく同定することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1におけるサンプリング装置を示す断面斜視図である。図2は、実施の形態1のサンプリング装置の動作を示す断面斜視図である。
図1において、1はサンプリング装置の筐体であり、この筐体1の蓋2には吸気口3が設けられ、石英製ガラスウールで構成される円筒形石英フィルタ4は、この吸気口3の縁にその一端の外周が接するように取り外し可能に固定され、遮蔽体であるピストン5がこの円筒形石英フィルタ4に内接するように配設され、また、このピストン5は筐体1との間に設けられたスプリング6で連結され、矢印7の方向に可動自在に取り付けられている。筐体1には、外部の吸引ポンプ(図示せず)と接続するための排気口8が設けられている。9は採取される大気を、10は円筒形石英フィルタを透過する大気を、11は排気口8から吸引ポンプにより排出される大気をそれぞれ示している。
【0009】
次に、図2により実施の形態1のサンプリング装置を用いて、大気中のSVOC濃度測定するために、フィルタによりSVOCを収集する動作について説明する。
この様に構成されたサンプリング装置においては、外部の吸引ポンプ(図示せず)によって筐体1内の大気11が吸引されることにより、大気9が外部から筐体1の吸気口3に取り入れられるが、吸気口3に取り付けられた円筒形石英フィルタ4により、円筒形石英フィルタ4を透過する大気10は、大気中に被測定物質であるSVOC含む浮遊物質が捕集され、ろ過された大気11は、排気口8を通って吸引ポンプにて外部に引き出される。図2(a)に示すように吸引開始時は、円筒形石英フィルタ4の捕集面4aの目詰まりもなく、ピストン5は、スプリング6により上部に押し上げられた状態で、大気10からSVOCを含む浮遊物質が捕集される。図2(b)に示すように、大気中のSVOCを含む浮遊物質が円筒形石英フィルタ4で捕集されるに従って、円筒形石英フィルタ4の捕集面4aが目詰まりを起こし大気10の流量が低下する。これにより、大気9と筐体1内の大気11の気圧差が大きくなり、筐体1内が負圧となる。大気10の流量を増加させようと吸引力とスプリング6の押し上げる力が釣り合う点まで矢印7で示すようにピストン5が降下し、円筒形石英フィルタ4の新しい捕集面4bが露出する。これにより、大気10の流量が回復し、再び、大気10から円筒形石英フィルタ4によりSVOCを含む浮遊物質が捕集される。この動作が連続的に繰り返され、ピストン5は下方に移動する。予め決められた一定の大気を採取後、円筒形石英フィルタ4を取り外し、捕集された浮遊物質から溶剤によりSVOCを抽出後、ガスクロマトグラフィ質量分析器により、SVOCの量を測定し、採取した大気の体積から濃度を同定する。
【0010】
円筒形石英フィルタ4の捕集面積は大気9と筐体1内部の気圧差とスプリング6の押し上げ力が釣り合う力によって決定されるが、露出させるフィルタの捕集面積の割合はフィルタの目の密度、スプリング6の強度と吸引ポンプの吸引能力とにより自由に調節可能である。
このように、フィルタの捕集能力に応じて、フィルタの新しい捕集面を使用することができ、フィルタが目詰まりを起こすことなく、捕集されるSVOCを含む浮遊物質の量に応じて自動的にフィルタの捕集面積を変えることにより、フィルタの単位面積当たりの捕集量を一定にすることにより高精度にSVOCの濃度を同定することが可能になる。
さらに、SVOC以外の浮遊物質の割合が多く、SVOCの量が少なくてもフィルタで確実に捕集することができ、高精度にSVOCの濃度を同定できる効果がある。
【0011】
実施の形態2.
図3は、この発明の実施の形態2におけるサンプリング装置を示す断面斜視図である。
図3において、実施の形態1では、遮蔽体であるピストン5はフィルタ4に内接するように取り付けられていたが、実施の形態2におけるピストン12は、円筒形石英フィルタ4の外周に接するように取り付けられている。なお、図中、符号1から4及び6から11は、図1と同一又は、相当部分を示す。これらの機能、動作等は図1、図2と同様であり、説明を省略する。
実施の形態2における動作においても、実施の形態1と同様、大気中のSVOCを含む浮遊物質が円筒形石英フィルタ4で捕集されるに従って、円筒形石英フィルタ4の上部が目詰まりを起こし大気10の流量が低下する。これにより、大気9と筐体1内の大気11の気圧差が大きくなり、筐体1内が負圧となる。大気10の流量を増加させようとポンプの吸引力とスプリング6の押し上げる力が釣り合う点まで矢印7で示すようにピストン12が降下し、円筒形石英フィルタ4の新しい捕集面が露出する。これにより、大気10の流量が回復し、再び、大気10から円筒形石英フィルタ4により浮遊物質が捕集される。予め決められた一定の大気を採取後、円筒形石英フィルタ4を取り外し、溶剤によりSVOCを抽出後、ガスクロマトグラフィ質量分析器により、SVOCの量を測定し、採取された大気の体積から濃度を同定する。
【0012】
このように、実施の形態2においても、実施の形態1と同様、フィルタの捕集能力に応じて、フィルタの新しい捕集面を使用することができ、フィルタが目詰まりを起こすことなく、捕集されるSVOCを含む浮遊物質の量に応じて自動的にフィルタの捕集面積を変えることにより、フィルタの単位面積当たりの捕集量を一定にすることにより高精度にSVOCの濃度を同定することが可能になる。
また、実施の形態2では、ピストン12が円筒形石英フィルタ4を受けるように構成されているので、採取された大気9に粉塵が含まれていても、ピストン12上に堆積し、円筒形石英フィルタ4の交換時に、これら粉塵が筐体1内に飛散せず、清掃が容易になる効果もある。
【0013】
実施の形態3.
図4は、この発明の実施の形態3におけるサンプリング装置を示す断面斜視図である。
図4において、13は、筐体1の蓋2の吸引口3にその一端の外周が接するように取り付けられた遮蔽体である円筒であり、円筒形石英フィルタ14はこの円筒13の外周に外接するように取り付けられており、この円筒石英フィルタ14は円板15に取り外し可能に取り付けられている。また、この円板15は筐体1との間に設けられたスプリング6で連結され、矢印7の方向に可動自在に取り付けられており、円筒石英フィルタ14と一体になって動く。実施の形態1では、ピストン5が可動であったが、この実施の形態3では、円筒石英フィルタ14が円筒13に対して可動自在に取り付けられている。なお、図中、符号1から3および6から11は、図1と同一又は、相当部分を示す。これらの機能、動作等は図1、図2と同様であり、説明を省略する。
【0014】
実施の形態3における動作においても、実施の形態1と同様であるが、大気中のSVOCを含む浮遊物質が円筒形石英フィルタ14で捕集されるに従って、円筒形石英フィルタ14の下部が目詰まりを起こし大気10の流量が低下する。これにより、大気9と筐体1内の大気11の気圧差が大きくなり、筐体1内が負圧となる。大気10の流量を増加させようとポンプの吸引力とスプリング6の押し上げる力が釣り合う点まで矢印7で示すように円筒形石英フィルタ14が降下し、円筒形石英フィルタ14の新しい捕集面が露出する。これにより、大気10の流量が回復し、再び、大気10から円筒形石英フィルタ14により浮遊物質が捕集される。予め決められた一定の大気を採取後、円筒形石英フィルタ14を取り外し、溶剤によりSVOCを抽出後、ガスクロマトグラフィ質量分析器により、SVOCの量を測定し、採取した大気の体積から濃度を同定する。
【0015】
このように、実施の形態3においても、実施の形態1と同様、フィルタの捕集能力に応じて、フィルタの新しい捕集面を使用することができ、フィルタが目詰まりを起こすことなく、捕集されるSVOCを含む浮遊物質の量に応じて自動的にフィルタの捕集面積を変えることにより、フィルタの単位面積当たりの捕集量を一定にすることにより高精度にSVOCの濃度を同定することが可能になる。
また、実施の形態3では、実施の形態2と同様、円筒形石英フィルタ14と円板15が受けるように構成されているので、採取された大気9に粉塵が含まれていても、円板15上に堆積し、円筒形石英フィルタ14の交換時に、これら粉塵が筐体1内に飛散せず、清掃が容易になる効果もある。
【0016】
実施の形態4.
図5は、この発明の実施の形態4におけるサンプリング装置を示す断面斜視図である。
図5において、16は、筐体1の蓋2の吸引口3にその一端の外周が接するように取り付けられた方形筒であり、板状石英フィルタ17はこの方形筒16の1面に設けられた窓に取り付けられており、この板状石英フィルタ17は方形筒16に取り外し可能に取り付けられている。遮蔽体であるピストン18がこの方形筒16に内接するように配設され、また、このピストン18は筐体1との間に設けられたスプリング6で連結され、矢印7の方向に可動自在に取り付けられている。実施の形態1では、石英フィルタ4が円筒形状であったが、この実施の形態4では、板状石英フィルタ17としたものである。なお、図中、符号1から3及び6から11は、図1と同一又は、相当部分を示す。これらの機能、動作等は図1、図2と同様であり、説明を省略する。
【0017】
実施の形態4における動作においても、実施の形態1と同様であるが、大気中のSVOCを含む浮遊物質が板状石英フィルタ17で捕集されるに従って、板状石英フィルタ17の上部が目詰まりを起こし大気10の流量が低下する。これにより、大気9と筐体1内の大気11の気圧差が大きくなり、筐体1内が負圧となる。大気10の流量を増加させようとポンプの吸引力とスプリング6の押し上げる力が釣り合う点まで矢印7で示すように方形筒16が降下し、板状石英フィルタ17の新しい捕集面が露出する。これにより、大気10の流量が回復し、再び、大気10から板状石英フィルタ17により浮遊物質が捕集される。予め決められた一定の大気を採取後、板状石英フィルタ17を取り外し、溶剤によりSVOCを抽出後、ガスクロマトグラフィ質量分析器により、SVOCの量を測定し、採取した大気の体積から濃度を同定する。
【0018】
このように、実施の形態4においても、実施の形態1と同様、フィルタの捕集能力に応じて、フィルタの新しい捕集面を使用することができ、フィルタが目詰まりを起こすことなく、捕集されるSVOCを含む浮遊物質の量に応じて自動的にフィルタの捕集面積を変えることにより、フィルタの単位面積当たりの捕集量を一定にすることにより高精度にSVOCの濃度を同定することが可能になる。
また、実施の形態4では、板状石英フィルタ17が使用でき、交換が容易であり、安価なフィルタを利用できる効果もある。
さらに、上記実施の形態4では、方形筒の1面に板状石英フィルタ1枚を取り付ける場合について説明したが、2面以上に板状石英フィルタを取り付ける場合であっても同様の効果があることはいうまでもない。
【0019】
上記実施の形態1から4において、筐体1やピストン5、12およびスプリング6、円板15はSVOCなどの浮遊物質が付着しないように、また、大気中に含まれる腐食ガスの影響を避けるため、腐食が少ないステンレス製が望ましい。フィルタの材質としては、不純物が含まない石英製グラスウールを使用する場合について述べたが、石英製以外であってもよく、例えば、フッ素樹脂製であれば、撥水性もよく、湿度の高い被測定大気では有効である。さらに、スプリングについては、同等の機能を有するもので代用してもよい。
上記実施の形態1から4の説明では、サンプリング装置を垂直に立てて使用する場合について述べたが、横にして使用しても構わず、排気口の位置も吸気口の面と反対の面に取り付けてもよい。遮蔽体あるいはフィルタを気圧差で自動的にフィルタの捕集面積を変える場合について説明したが、一定時間ごとに手動で変える場合であっても効果がある。
【0020】
なお、上記実施の形態1から4においては、SVOCを捕集するサンプリング装置について述べたが、POM(Particulate Organic Matter、粒子状炭化水素)等他の浮遊物質の捕集においても利用できることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施の形態1におけるサンプリング装置を示す断面斜視図である。
【図2】実施の形態1におけるサンプリング装置の動作を示す断面斜視図である。
【図3】実施の形態2におけるサンプリング装置を示す断面斜視図である。
【図4】実施の形態3におけるサンプリング装置を示す断面斜視図である。
【図5】実施の形態4におけるサンプリング装置を示す断面斜視図である。
【符号の説明】
【0022】
1 筐体
3 吸気口
4、14 円筒形石英フィルタ
5、12、18 ピストン
6 スプリング
8 排気口
13 円筒
16 方形筒
17 板状石英フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口と排気口を持つ密閉された筐体と、
前記吸気口から取り入れられた大気の中から浮遊物質を吸着させる筐体内に配設されたフィルタと、
このフィルタの捕集面の一部を遮る遮蔽体とを備え、
前記フィルタあるいは前記遮蔽体のいずれかを可動可能にしたことを特徴とするサンプリング装置。
【請求項2】
大気と筐体内との気圧差に応じて遮蔽体あるいはフィルタのいずれかを可動させることを特徴とする請求項1に記載のサンプリング装置。
【請求項3】
遮蔽体と筐体との間にスプリングを取り付けたことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載のサンプリング装置。
【請求項4】
フィルタと筐体との間にスプリングを取り付けたことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載のサンプリング装置。
【請求項5】
フィルタが石英製ガラスウールで構成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のサンプリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−189324(P2006−189324A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−1481(P2005−1481)
【出願日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】