説明

サンプリング装置

【課題】
電子顕微鏡に代表される荷電粒子を利用する観察系を有するサンプリング装置において、微小物体を確実にサンプリングする手段を提供することを目的とする。
【解決手段】
前記目的を達成するために本発明は、微小物体試料を載せる基板と、前記微小物体試料を移動させるプローブと、前記微小物体試料を帯電させる電子線照射手段とを備えるサンプリング装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微小物体をサンプリングするためのサンプリング装置に関する。更に詳しくは、1μ m 程度の微小物体を採取し、分析するための分析前処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微小物体の化学種を同定することは、工業的のみならず、ウイルスや細菌を同定する観点から、医学的にも重要である。微小物体の化学種同定のためには、微小物体を近傍にある基板又は他の材料から物体のみをサンプリングし、高感度な化学分析装置で分析することが有効である。サンプリングし、単離することにより、例えば、質量分析やアトムプローブ等の極めて高感度な分析手段を使うことが可能となる。これらの高感度な分析手段はサンプリングし、分析対象物のみ、分析にかけることが必須である。
【0003】
微小物体のサンプリングには、通常市販されているマイクロマニピュレータシステムが用いられている。
【0004】
光学顕微鏡を用いた従来のマイクロサンプリングシステムでは、光学顕微鏡を用いているので例えば10μm以下のサイズのサンプリングを行うとすればレンズの焦点深度が浅く、焦点ずれのためにサンプリング工具が観察範囲外へとずれるので、操作が非常に困難となる。
【0005】
上記の問題を解決するために、例えば、特許文献1、2,3のように光学顕微鏡よりも焦点深度の大きい走査電子顕微鏡を用いた観察、加工が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-271036
【特許文献2】特開2001-198896
【特許文献3】特開2001-88100
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2、3のように走査電子顕微鏡を用いた観察では荷電粒子を用いるため、絶縁物試料の観察、サンプリングでは、絶縁物試料が電子線照射によって帯電することで、サンプリングが困難となる場合が多い。
【0008】
従って本発明の目的は、電子顕微鏡に代表される荷電粒子を利用する観察系を有するサンプリング装置において、微小物体を確実にサンプリングする手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために本発明は、微小物体試料を載せる基板と、前記微小物体試料を移動させるプローブと、前記微小物体試料を帯電させる電子線照射手段とを備えるサンプリング装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電子顕微鏡に代表される荷電粒子を利用する観察系を有するサンプリング装置において、微小物体を確実にサンプリングする手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例におけるサンプリング装置の基本原理を説明した図
【図2】本発明の実施例におけるサンプリング装置を示した図
【図3】本発明の実施例におけるプローブの拡大図
【図4】本発明の実施例におけるサンプリングフロー図
【発明を実施するための形態】
【0012】
特許文献1、2、3のように走査電子顕微鏡を用いた観察において、絶縁物試料が電子線照射によって帯電することで、サンプリングが困難となる問題は絶縁物試料の抵抗率が高いほど顕著となる。絶縁物試料に照射される荷電粒子の電荷、あるいは絶縁物試料から発生した二次電子が放出されることにより生成する逆符号の電荷がその場に留まりやすいことが原因である。
【0013】
通常の光学顕微鏡下でのサンプリングの場合、微小物体と微小物体をサンプリングする先端が鋭利な工具(以後、プローブと呼ぶ)の間にはファンデルワールス力による引力が働き、プローブを微小物体に近づけることで、微小物体のサンプリングが可能である。
【0014】
一方、走査型電子顕微鏡下でのサンプリングにおいては、微小物体が帯電するため、前記ファンデルワールス力に加え、クーロン相互作用が発生する。そのため、走査型電子顕微鏡で観察中あるいは観察後では、微小物体とそれをサンプリングするプローブの間で複雑な相互作用が働き、単にプローブを微小物体に近づけただけでは、サンプリングに成功する確率は著しく低くなる。
【0015】
以下、上記問題に鑑みてなされた本発明の実施例について説明する。
【0016】
本実施例におけるサンプリング装置の特徴は、サンプリング用プローブの表面に絶縁物の層を設け、絶縁物層を適度に帯電し、同符号に帯電した微小物体との間に斥力を働かせ、もう一方のサンプリング工具上に、微小物体を追い込み、乗り上げさせることにより、サンプリング工具に移載し、微小物体をサンプリングすることである。
【0017】
図2は本実施例におけるサンプリング装置を示す図である。図2中、1は微小物体試料2を載せる基板、2は微小物体試料、3は表面が絶縁膜でコーティングされた金属製のプローブ、4はダイヤモンド製のブレード工具、5は微小物体試料2を観察する空間である試料室、6は電子線照射手段としての電子銃、7はプローブ3及びブレード工具4の操作を行うためのマニピュレータ、8は試料から生成する二次電子を検出する二次電子検出器、9は試料表面で反射する電子を検出する反射電子検出器、10は電子線照射により発生するX線を検出するEDX検出器、11は電子を発生させる電子源、12は電子線を走査するための電極、13は基板1を載せる試料台である。プローブ3及びブレード工具4は外部からの操作が可能なマニピュレータ7の先端に接続されている。プローブ3は、例えば先端の先鋭化が容易なタングステンで製作すると良い。また、検出した二次電子を像として映し出すモニタを備える。なお図2において本実施例の説明に直接関与しない構成要素例えば排気システム等は省略した。
【0018】
本実施例におけるプローブ3の拡大図を図3に示す。21は絶縁物である。本実施例ではプローブ3の材料としてタングステンを用いた。絶縁物21の形成は、タングステンを酸素雰囲気で加熱し、10nm程度、タングテンの酸化層を成長させることにより形成した。
【0019】
本実施例における微小絶縁物試料2をサンプリングするプロセスについて、図1の概念図および図4のフローチャートを用いて説明する。(1)微小物体試料2が付着した基板1を試料台13に設置して、試料室5を所定の真空度に排気する。(2)次いで電子線照射手段としての電子銃6から電子を放出させ、レンズ系で絞った電子線を基板1の表面上に照射する。電子線の加速電圧は、微小物体試料2への損傷を少なくしつつ良好な像分解能を得ることが可能な500Vから2kVが好ましい。そして電子線を偏向させ、絶縁基板1表面で電子線を走査する。このとき、基板1表面から発生する二次電子を検出手段としての二次電子検出器8で測定し、試料表面の二次電子像を得る。得られた二次電子像はモニタに表示される。二次電子像で試料台13の位置を調整してサンプリングするべき部位を決定する。走査速度は、良好なS/N比を保ちつつ試料観察が行うことが可能な、0.5から2フレーム/秒が好ましい。このときの倍率は低倍率で数10倍ほどとなる。さらに電子銃6の鏡筒先端と試料との距離(ワーキングディスタンス)は、プローブ3およびダイヤモンドブレード4を導入するための空間を確保でき、観察が可能である15から30mmが好ましい。
【0020】
この状態で、(3)プローブ3を微小物体2に接近させると、プローブ3、微小物体2がともに同じ極性(プラス)に帯電することにより、斥力がはたらき、ちょうど1μm程度、プローブから離れるように動く。帯電し、斥力が働く様子を図1に示す。この斥力により、微小物体2を所望の場所に精度良く移動させることが可能である。
【0021】
次に(4)プローブ3を移動させることにより、微小物体2をブレード4へ追い込む。プローブ3を精度良く移動させるために、マニピュレータ7にプローブ3を設置する。良好な操作性を確保するために、マニピュレータ7のストロークは5mm以上で移動精度は0.5nmとする。
【0022】
最終的に、(4)微小物体2をブレード4に乗り上げ、移載することにより、サンプリングを完了する。ブレード4は必ずしも必須ではないが、プローブ3と同様、マニピュレータ7に搭載することが望ましい。
【0023】
本実施例では、プローブ3としてタングステンプローブを使っているが、他の材質でも可能である。実験によれば、プローブ3としては金属を用い、その表面上に2nm-20nm程度の絶縁物21の層を設けることが望ましい。絶縁物21の層が2nm以下の場合、帯電が不十分で斥力は働かず、また20nmを超えると、帯電量が多すぎて、微小異物が飛散してしまうことが起こる。いずれの場合もサンプリング成功率が著しく低下する。
【0024】
また、ブレード4としてはダイヤモンドを用いた。微小物体2とダイヤモンド製のブレード4との間に斥力は働かないため(働いたとしてもプローブ3と微小物体2との間の斥力に比べて十分小さいため)、ブレード4に微小物体2をサンプリングすることができる。ブレード4としては硬く先端が鋭利なダイヤモンド工具が最適であるが、サファイヤ、ジルコニア等でも良い。
【0025】
以上のような機構により、電子顕微鏡に代表される荷電粒子を利用する観察系内においても1μm以下の微小物体を高い成功率でサンプリングすることが可能となる。
【0026】
これまで説明してきた実施例は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されない。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 基板
2 微小物体試料
3 プローブ
4 ブレード
5 試料室
6 電子銃
7 マニピュレータ
8 二次電子検出器
9 反射電子検出器
10 EDX検出器
11 電子源
12 電極
13 試料台
21 絶縁体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小物体試料を載せる基板と、
前記微小物体試料を移動させるプローブと、
前記微小物体試料を帯電させる電子線照射手段とを備えるサンプリング装置。
【請求項2】
前記電子線照射手段により前記微小物体試料と前記プローブとの間に斥力を発生させることを特徴とする請求項1に記載のサンプリング装置。
【請求項3】
前記微小物体試料をサンプリングするブレードを備えることを特徴とする請求項1に記載のサンプリング装置。
【請求項4】
請求項1に記載のサンプリング装置において、前記プローブ表面に絶縁体の層が形成されていることを特徴とするサンプリング装置。
【請求項5】
絶縁体の層が望ましくは2nm-20nmであることを特徴とする請求項4に記載のサンプリング装置。
【請求項6】
前記プローブが金属であり、絶縁体の層がその酸化物であることを特徴とする請求項4に記載のサンプリング装置。
【請求項7】
前記プローブの材料がタングステンであることを特徴とする請求項4に記載のサンプリング装置。
【請求項8】
絶縁物をスッパタプロセス、CVDプロセスで成膜して形成することを特徴とする請求項4に記載のサンプリング装置。
【請求項9】
前記ブレードとしてダイヤモンドを使うことを特徴とする請求項3に記載のサンプリング装置。
【請求項10】
前記電子線照射手段により照射した電子線を二次電子として検出する検出手段と、前記検出した二次電子を像として写すモニターとを備える請求項1に記載のサンプリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−98229(P2012−98229A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248046(P2010−248046)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】