説明

シクロオキシゲナーゼ阻害剤及びそれを含有する飲食品

【課題】副作用がなく、呈味性に優れたシクロオキシゲナーゼ阻害剤及びそれを含有する飲食品を提供する。
【解決手段】マンゴスチンの果皮から含水有機溶剤又は有機溶剤で抽出して得られる抽出物、α−マンゴスチン及びγ−マンゴスチンを有効成分とするシクロオキシゲナーゼ阻害剤及びそれを含有する飲食品とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンゴスチン由来のシクロオキシゲナーゼ阻害剤及びそれを含有するシクロオキシゲナーゼ阻害作用を有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
アスピリン、インドメタシンに代表される多くのシクロオキシゲナーゼ阻害剤は、プロスタグランジン類の生合成を抑制する作用を有するため、プロスタグランジンが関与する疾病に有効であるが、現在使用されているシクロオキシゲナーゼ阻害剤の多くは、消化性潰瘍、めまい等の副作用があり、また、治療に必要とする使用量と副作用が発現する使用量との間に大きな差がないため、より安全性の高いシクロオキシゲナーゼ阻害剤の開発が望まれている。
【0003】
さらに、従来のシクロオキシゲナ−ゼ阻害剤は、これを飲食品に添加すると呈味、風味に影響を及ぼして商品価値を著しく損なう恐れがあった。
【0004】
一方、マンゴスチン(Garcinia mangostana L.)の果実は、一般的な利用法として果肉は食用として用いられており、果皮については原産国のタイで民間薬として下痢止めや創傷の治療に用いられている。
【0005】
マンゴスチン(Garcinia mangostana L.)の果皮の他の利用法としては、特開平6−98738号公報及び特開平7−147951号公報に食品用保存剤、特開平5−17365号公報に5α−レダクターゼ阻害剤、特開平7−250658号公報に抗菌剤、特開平8−208501号公報に抗ヘリコバクター・ピロリ薬、特開平9−87155号公報に紫外線吸収剤、特開平10−120586号公報にセリンプロテアーゼ阻害剤が記載されている。
【0006】
さらに、マンゴスチン(Garcinia mangostana L.)果皮の水溶性抽出物については、特開平4−244004号公報に肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制作用による美白・抗炎症作用、マンゴスチン(Garcinia mangostana L.)果皮の極性溶媒抽出物及びα−マンゴスチン、γ−マンゴスチンについては、特開平10−72357号公報にヒスタミン及びセロトニンに対する拮抗作用による抗アレルギー作用が記載されている。
【0007】
しかしながら、従来技術には、マンゴスチン(Garcinia mangostana L.)のシクロオキシゲナーゼ阻害作用に関するものはない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、副作用がなく安全で、呈味性、安定性に優れ、シクロオキシゲナーゼ阻害作用の強いシクロオキシゲナーゼ阻害剤を提供すること及びそれを有効成分として含有する呈味に優れたシクロオキシゲナーゼ阻害用の飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行い、マンゴスチン(Garcinia mangostana L.)の果皮から各種溶媒で抽出し、さらにその抽出物に含まれる数種の成分を単離し、それらの抽出物及び成分についてシクロオキシゲナーゼ阻害剤としての効果を確認した結果、次式
【0010】
【化1】

で表されるα−マンゴスチン及び次式
【0011】
【化2】

で表されるγ−マンゴスチンに優れたシクロオキシゲナーゼ阻害作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち本発明は、α−マンゴスチン及びγ−マンゴスチンを有効成分とするシクロオキシゲナーゼ阻害剤である。
【0013】
また、本発明は、上記シクロオキシゲナ−ゼ阻害剤を含有する呈味、風味に優れたシクロオキシゲナ−ゼ阻害用の飲食品である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の有効成分であるマンゴスチンの果皮から含水有機溶剤又は有機溶剤で抽出して得られる抽出物は、オトギリソウ科植物のマンゴスチン(Garcinia mangostana L.)の果実(生又は乾燥済み)から得られ果皮を使用する。マンゴスチンの果皮はそのまま使用してもよいが、乾燥して破砕することにより粉末として使用した方が抽出効率がよくなり好適である。また、マンゴスチンの果皮を含水有機溶剤又は有機溶剤で抽出する前に、n−ヘキサン、石油エーテル等の非極性溶剤で脱脂してもよい。
【0015】
抽出溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、クロロホルム、グリセリン、エチルグリコール、プロピルグリコール等の有機溶剤、好ましくは極性溶剤、特にエタノールのようなアルコール類、あるいは有機溶剤に水を混ぜたものを使用する。水との混合比率は、特に制限はないが、水の割合が好ましくは70%v/v以下、さらに好ましくは60%v/v以下である。抽出温度については、抽出効率を考慮すれば室温から溶媒の還流温度が好適である。抽出時間は、抽出溶媒の種類、果皮の破砕状態及び抽出温度により変化するが、0.5時間〜24時間が好適である。
【0016】
上記抽出溶媒で抽出して得られる抽出物は、必要によりエバポレータ等により抽出溶媒を濃縮したり、あるいは除去してもよい。
【0017】
本発明の有効成分であるα−マンゴスチン及びγ−マンゴスチンは、マンゴスチン(Garcinia mangostana L.)の果実等から公知の方法によって抽出・精製して製造することができるが、合成したものを使用することもできる。
【0018】
このようにして得られた本発明のシクロオキシゲナ−ゼ阻害剤は、プロスタグランジンが病原性物質として関与している疾病の治療、予防に有効であり、例えば、痛み、発熱、炎症、インフルエンザ又は他のウイルス感染に関連する症状、細菌感染による風邪、咽頭炎、咽頭の痛み、気管支炎、扁桃炎、歯周炎、歯槽骨炎、歯痛、歯肉炎、痛風、関節炎、腎炎、肝炎、気管支炎、月経困難症、頭痛、潰瘍性大腸炎、捻挫及び挫傷、筋肉痛、神経痛、滑膜炎、やけど、並びに外科的及び歯科的処置後の炎症の治療、予防に使用できる。
【0019】
また、本発明のシクロオキシゲナ−ゼ阻害剤は、シクロオキシゲナーゼが関与する腫瘍細胞の増殖・転移を阻害することができ、大腸癌等の癌治療や癌予防に用いることもできる。
【0020】
さらに、本発明のシクロオキシゲナ−ゼ阻害剤は、収縮性プロスタグランジンの合成を妨げることによってプロスタグランジン誘発平滑筋収縮を阻害する能力により、月経困難症、早期分娩、骨の欠損の治療(変形性関節症の治療)、瀕尿、切迫性尿失禁治療、心筋梗塞、脳溢血の予防・治療に用いることができる。
【0021】
さらにまた、本発明のシクロオキシゲナ−ゼ阻害剤は、睡眠誘発性プロスタグランジンの合成を妨げることによってプロスタグランジンによる睡眠を抑制する作用により、眠気防止にも有効である。
【0022】
本発明のシクロオキシゲナーゼ阻害剤は、マンゴスチン(Garcinia mangostana L.)の果皮の含水有機溶剤又は有機溶剤抽出物並びにα−マンゴスチン及びγ−マンゴスチンを、単独であるいは他の医薬もしくは任意の製剤用担体、希釈剤等と混合し、任意の剤形にして医薬として利用できる。例えば、剤形として錠剤、顆粒剤、細粒剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、経口用液体製剤、注射剤等を例示することができる。
【0023】
また、本発明のシクロオキシゲナーゼ阻害用飲食品は、本発明のシクロオキシゲナーゼ阻害剤であるマンゴスチン抽出物並びにα−マンゴスチン及びγ−マンゴスチンの1種以上を各種の食品に配合して製造することができる。例えば、シクロオキシゲナーゼ阻害用飲食品としては、清涼飲料、菓子、冷菓、乳製品、酒類、肉類等を挙げることができる。
【0024】
本発明のシクロオキシゲナーゼ阻害剤の有効成分であるマンゴスチン抽出物並びにα−マンゴスチン及びγ−マンゴスチンの有効量については、投与方法及び必要な治療によって変化し一概には規定することは困難であるが、マンゴスチン抽出物は動物体重1kg当たり乾燥重量で0.5mg〜500mg、ヒト(成人70kg)に対しては1日当たりの全投与量が好ましくは5mg〜5g、さらに好ましくは5mg〜1gであり、α−マンゴスチン及びγ−マンゴスチンについては動物体重1kg当たり0.1mg〜100mg、ヒト(成人70kg)に対しては1日当たりの全投与量が好ましくは1mg〜1000mg、さらに好ましくは5mg〜500mgである。
【0025】
本発明のシクロオキシゲナーゼ阻害用飲食品における有効成分としてのマンゴスチン抽出物並びにα−マンゴスチン及びγ−マンゴスチンの含有量としては、飲食品としての1日の通常摂取量で上記の有効量を満たすように含有量を規定することができる。
【0026】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲は以下の例にのみ限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
まず、マンゴスチン(Garcinia mangostana L.)の果皮からシクロオキシゲナーゼ阻害作用を有する抽出物並びにα−マンゴスチン及びγ−マンゴスチンを調製する実施例を示し、次にそれらのプロスタグランジン生合成阻害作用、シクロオキシゲナーゼ阻害作用を確認する試験の方法及び結果について示し、さらに本発明のシクロオキシゲナーゼ阻害剤及びシクロオキシゲナーゼ阻害用飲食品の例を示す。
【0028】
〔実施例1〕マンゴスチンメタノール抽出物
マンゴスチン(Garcinia mangostana L.)の未乾燥果皮1kgを10Lのメタノールに浸漬し、24時間室温下抽出した。ろ過後、ろ液をエバポレータで減圧乾燥させて80gの本発明のシクロオキシゲナーゼ阻害剤を得た。
【0029】
〔実施例2〕マンゴスチン40%エタノール水溶液抽出物
マンゴスチン(Garcinia mangostana L.)の乾燥果皮粉末500gを5Lの40%エタノールに浸漬し、24時間室温下抽出した。ろ過後、ろ液をエバポレータで減圧乾燥させて104gの本発明のシクロオキシゲナーゼ阻害剤を得た。
【0030】
〔実施例3〕マンゴスチン70%エタノール水溶液抽出物
マンゴスチン(Garcinia mangostana L.)の乾燥果皮粉末480gを5Lの70%エタノールで4時間(60℃)攪拌抽出した。ろ過後、ろ液をエバポレータで減圧乾燥させて128gの本発明のシクロオキシゲナーゼ阻害剤を得た。
【0031】
〔実施例4〕マンゴスチンエタノール抽出物
マンゴスチン(Garcinia mangostana L.)の乾燥果皮粉末1.1kgを11Lのエタノールで4時間(60℃)攪拌抽出した。ろ過後、ろ液をエバポレータで減圧乾燥させて128gの本発明のシクロオキシゲナーゼ阻害剤を得た。
【0032】
〔実施例5〕α−マンゴスチン及びγ−マンゴスチンの調製
実施例1の抽出物80gを350mlの酢酸エチルに溶解後、200mlの水で2回洗浄した。酢酸エチル画分をエバポレータで溶媒を溜去させ20gの乾燥物を得た。この乾燥物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。溶出はヘキサン−酢酸エチル系で漸次、極性をあげるグラジエント溶出を行い、3つの画分を得た。最初に得られた画分(5g)を再度、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル、10:90→30:70→50:50)で精製し、黄色結晶状のα−マンゴスチン2gを得た。2つめの画分(2g)を再度シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル、30:70→50:50、続いて酢酸エチルのみ、最後に酢酸エチル−メタノール、50:50)で精製し、黄色非結晶状のγ−マンゴスチン500mgを得た。
【0033】
〔試験例1〕プロスタグランジン生合成阻害試験
6穴プレートに15%ウマ血清及び2.5%牛胎児血清を含んだF−10 Nutrient Mixture(Ham)培地とC6ラットグリオーマ細胞を1.0×10cells/mlになるように加えた。37℃、5%COインキュベータ中で3日間培養した。その後、被験物質を加えて37℃で10分間培養し、さらに100μMのCaイオノフォア A23187を100μM加えて10分間培養した。あらかじめ氷冷しておいた反応停止液(100μM インドメタシン−50mM EDTA)を加え、培養上清を回収した。培養上清に1N 塩酸を加えてpH4とし、酢酸エチルを加えて分配し、生成したプロスタグランジンEを酢酸エチル層に移行させた。酢酸エチル層を回収し、減圧乾固させた後、0.5mlの10mM Tris−塩酸緩衝液(pH7.6)に溶解させた。この溶液に[3H]プロスタグランジンE溶液と抗プロスタグランジンE抗体を加えて、4℃で24時間反応させた。その後、チャーコール液を加えて遠心し、上清の放射活性を液体シンチレーションカウンターで計測し、培地中に遊離したプロスタグランジンE量を定量した。被験物質を含まないコントロールのプロスタグランジンE生成量に対する被験物質によるプロスタグランジンE生成量の低下をプロスタグランジンE生成阻害率で表した。その結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
〔試験例2〕シクロオキシゲナーゼ活性阻害試験
シクロオキシゲナーゼとしてヒツジ精嚢腺ミクロソームを使用する。シクロオキシゲナーゼ反応は、最終濃度270μg/mlのヒツジ精嚢腺ミクロソーム、5mMトリプトファン、1mMフェノール、0.23mMハイドロキノン、1μMヘマチン、20μMアラキドン酸を含む0.1Mリン酸緩衝液(pH7.5)に、メタノールに溶解させた被験物質を添加し、37℃で10分間反応させる。反応液を煮沸して反応を停止させ、上清中のプロスタグランジンE量をEIAにて定量した。被験物質を含まないコントロールのプロスタグランジンE生成量に対する被験物質によるプロスタグランジンE生成量の低下をシクロオキシゲナーゼ阻害率で表した。その結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
これら試験例1,2の結果より、本発明のマンゴスチン抽出物、α−マンゴスチン及びγ―マンゴスチンがプロスタグランジン生合成阻害作用を持つこと、さらに本発明のマンゴスチン抽出物、α−マンゴスチン及びγ−マンゴスチンがシクロオキシゲナーゼ阻害作用を持つことから、本発明品は哺乳動物のプロスタグランジンが病原性物質として関与している疾病の治療及び予防に有用である。
【0038】
〔実施例6〕散剤
乳糖 25部
馬鈴薯でんぷん 10部
実施例1の抽出物 5部
【0039】
〔実施例7〕錠剤
D−マンニトール 10部
乳糖 10部
結晶セルロース 2部
ヒドロキシプロピルセルロース 1部
α−マンゴスチン 0.5部
【0040】
〔実施例8〕シロップ剤
単シロップ 10部
カルボキシメチルセルロース 1部
γ−マンゴスチン 0.3部
【0041】
〔実施例9〕注射剤
クロロブタノール 0.5部
塩化ナトリウム 0.9部
注射用水 100部
実施例2の抽出物 1部
【0042】
〔実施例10〕キャンディー
グラニュー糖 45部
水飴(D.E.42) 50部
水 20部
γ−マンゴスチン 0.5部
レモン香料 1部
【0043】
〔実施例11〕チョコレート
カカオビター 20部
カカオバター 17部
砂糖 43部
全脂粉乳 20部
実施例2の抽出物 1部
バニラ香料 0.1部
【0044】
〔実施例12〕チューインガム
ガムベース 20部
砂糖 56部
水飴 13部
ブドウ糖 10部
軟化剤 1部
実施例3の抽出物 0.5部
ミント香料 0.5部
【0045】
〔実施例13〕錠菓
砂糖 75部
ブドウ糖 19部
ショ糖脂肪酸エステル 0.2部
実施例4の抽出物 0.5部
水 4部
【0046】
本発明のα−マンゴスチン及びγ−マンゴスチンを有効成分とするシクロオキシゲナーゼ阻害剤は、天然物から調製することができるので副作用がなく安全であり、優れたシクロオキシゲナーゼ阻害作用及びプロスタグランジン生合成阻害作用を有するため、これらに起因する疾病の予防、治療に有効である。
【0047】
また、本発明のシクロオキシゲナーゼ阻害剤は、呈味性に優れているので、これらを飲食品に含有させることで呈味性の優れたシクロオキシゲナーゼ阻害用の飲食品を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
【化1】

で表されるα−マンゴスチンを有効成分とすることを特徴とするシクロオキシゲナーゼ阻害剤。
【請求項2】
式:
【化2】

で表されるγ−マンゴスチンを有効成分とすることを特徴とするシクロオキシゲナーゼ阻害剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシクロオキシゲナーゼ阻害剤を含有することを特徴とするシクロオキシゲナーゼ阻害用飲食品。

【公開番号】特開2011−12079(P2011−12079A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227069(P2010−227069)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【分割の表示】特願2000−235023(P2000−235023)の分割
【原出願日】平成12年8月2日(2000.8.2)
【出願人】(307013857)株式会社ロッテ (101)
【Fターム(参考)】