説明

シゾチトリウム脂肪酸合成酵素(FAS)ならびにそれに関連した製品および方法

シゾチトリウム(Schizochytrium)由来の脂肪酸合成酵素(FAS)、その生物活性断片および相同体、そのようなFASをコードする核酸配列、その断片および相同体、シゾチトリウムFASをコードする遺伝子、そのFASを組換えにより発現させる宿主細胞および生物体、内因性FASの発現および/または活性が減弱されている宿主細胞および生物体、ならびにこれらのタンパク質、核酸分子、遺伝子、宿主細胞または生物体のいずれかを作製するおよび用いるための様々な方法が開示されている。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般的に、シゾチトリウム(Schizochytrium)由来の脂肪酸合成酵素(FAS)ならびにそれに関連した製品および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
短鎖および中鎖飽和脂肪酸のアセチル-CoAおよびマロニル-CoAからのデノボ合成は、いくつかの酵素活性により触媒される複雑な過程である。たいていの細菌において、および植物において、これらの活性は、別々の単機能のポリペプチドと関連している。しかしながら、真菌および動物において、これらの活性は、1つまたは2つの多機能のポリペプチド鎖へ統合される。脂肪酸、特に油および脂肪の形をとる脂肪酸で、グリセロールエステルであるが、それらは、それらの高エネルギー含有量のために、ヒト栄養物において主要な役割を果たしている。さらに、脂肪酸の特定の型(例えば、DHAのような多価不飽和脂肪酸)は、幅広い範囲の生理学的効果を生じる。これらの脂肪酸(例えば、油および/またはリン脂質の形をとる)を産生する生物体において生成される脂肪酸の特定の型を操作することができることに、大きな関心がもたれている。
【発明の開示】
【0003】
発明の概要
本発明の一つの態様は、以下のものから選択されるアミノ酸配列を含む単離されたタンパク質に関する:(a)以下のものからなる群より選択されるアミノ酸配列:SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:2の1位〜500位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の450位〜1300位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の1250位〜1700位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の1575位〜2100位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の2025位〜2850位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の2800位〜3350位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の3300位〜3900位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の3900位〜4136位からなるアミノ酸配列、およびそれらの生物活性断片;ならびに(b)(a)のアミノ酸配列のいずれかと少なくとも約45%同一であり、かつ(a)のアミノ酸配列の生物活性を有するアミノ酸配列。この態様の他の局面において、単離されたタンパク質は、(a)のアミノ酸配列のいずれかと少なくとも約60%同一、少なくとも約80%同一、または少なくとも約95%同一であるアミノ酸配列を含む。この態様の好ましい局面において、タンパク質は、以下のものから選択されるアミノ酸配列を含む:SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:2の1位〜500位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の450位〜1300位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の1250位〜1700位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の1575位〜2100位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の2025位〜2850位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の2800位〜3350位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の3300位〜3900位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の3900位〜4136位からなるアミノ酸配列、またはこれらの配列のいずれかの生物活性断片。よりいっそう好ましい態様において、タンパク質は、以下のものから選択されるアミノ酸配列を含む:SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、およびSEQ ID NO:13。
【0004】
この態様の一つの局面において、タンパク質は、以下のものからなる群より選択されるいずれか2つまたはそれ以上のアミノ酸配列を含む:SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、およびSEQ ID NO:13。もう一つの局面において、タンパク質は、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、およびSEQ ID NO:13を含む。さらにもう一つの局面において、単離されたタンパク質は、ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)微生物由来、および好ましい態様において、シゾチトリウム微生物由来である。
【0005】
本発明のさらにもう一つの態様は、上で同定されたタンパク質のいずれかをコードする核酸配列、またはそれと完全に相補的である核酸配列を含む単離された核酸分子に関する。本発明のもう一つの態様は、転写制御配列へ機能的に結合されたそのような単離された核酸分子を含む組換え核酸分子に関する。一つの局面において、転写制御配列は、組織特異的転写制御配列である。もう一つの局面において、組換え核酸分子はさらに、ターゲティング配列を含む。本発明のさらにもう一つの態様は、そのような組換え核酸分子で形質転換されている組換え細胞に関する。
【0006】
本発明のもう一つの態様は、生合成過程により短鎖脂肪酸を産生するための遺伝子改変された微生物であって、微生物が上記のような組換え核酸分子で形質転換されている、微生物に関する。
【0007】
本発明のもう一つの態様は、生合成過程により短鎖脂肪酸を産生するための遺伝子改変された植物であって、植物が上記のような組換え核酸分子で形質転換されている、植物に関する。
【0008】
本発明のさらにもう一つの態様は、生合成過程により短鎖脂肪酸を産生するための遺伝子改変された微生物に関する。微生物は、脂肪酸合成酵素をコードする核酸分子を含み、核酸分子は、脂肪酸合成酵素の発現または生物活性を増加するように改変されている。脂肪酸合成酵素は、以下のものから選択されるアミノ酸配列を含む:(a)以下のものからなる群より選択されるアミノ酸配列:SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:2の1位〜500位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の450位〜1300位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の1250位〜1700位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の1575位〜2100位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の2025位〜2850位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の2800位〜3350位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の3300位〜3900位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の3900位〜4136位からなるアミノ酸配列、およびそれらの生物活性断片;または(b)(a)のアミノ酸配列のいずれかと少なくとも約45%同一であり、かつ(a)のアミノ酸配列の生物活性を有するアミノ酸配列。一つの態様において、脂肪酸合成酵素をコードする核酸分子は、微生物における内因性遺伝子である。もう一つの態様において、微生物は、脂肪酸合成酵素をコードする核酸分子で形質転換されている。さらにもう一つの態様において、微生物は、脂肪酸合成酵素をコードする内因性遺伝子を含み、かつ脂肪酸合成酵素をコードする組換え核酸分子で形質転換されている。この態様において、その遺伝子およびその組換え核酸分子の1つまたは両方は、脂肪酸合成酵素の発現または生物活性を増加させるように改変されている。そのような遺伝子改変された微生物は、ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)微生物、および一つの局面において、シゾチトリウム微生物、を含みうる。
【0009】
本発明のもう一つの態様は、上記の遺伝子改変された微生物を含むバイオマス、そのようなバイオマスを含む食品、またはそのようなバイオマスを含む医薬製品に関する。
【0010】
本発明のもう一つの態様は、上記のような遺伝子改変された微生物を発酵培地において培養する段階を含む、生合成過程により短鎖脂肪酸を産生するための方法に関する。本発明のもう一つの態様は、上記のような組換え核酸分子で形質転換されている遺伝子改変された植物を成長させる段階を含む、生合成過程により短鎖脂肪酸を産生するための方法に関する。
【0011】
本発明のさらにもう一つの態様は、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:3、もしくはSEQ ID NO:4、またはそれらと完全に相補的な核酸配列の少なくとも12個の連続したヌクレオチドを含む、オリゴヌクレオチドに関する。
【0012】
本発明のもう一つの態様は、短鎖脂肪酸の産生が低下している遺伝子改変された微生物であって、微生物が、脂肪酸合成酵素遺伝子または機能ドメインをコードするその部分を選択的に減弱するように遺伝子改変されている、微生物に関する。脂肪酸合成酵素遺伝子は、以下のものから選択される核酸配列を含む:(a)SEQ ID NO:2をコードする核酸配列;および(b)SEQ ID NO:2と少なくとも約45%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列であって、そのアミノ酸配列を有するタンパク質が、アセチルトランスフェラーゼ(AT)活性;エノイルACPレダクターゼ(ER)活性;デヒドラーゼ(DH)活性;マロニル/パルミトイルアシルトランスフェラーゼ(M/PAT)活性;第一アシルキャリアタンパク質(ACP)活性;第二アシルキャリアタンパク質(ACP)活性;ケトアシルACPレダクターゼ(KR)活性;ケトアシルACP合成酵素(KS)活性;およびホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(PPT)活性からなる群より選択される生物活性をもつ、核酸配列。一つの局面において、脂肪酸合成酵素遺伝子は、SEQ ID NO:1により表される核酸配列を含む。もう一つの局面において、微生物は、少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸(PUFA)の産生が増加している。微生物は、限定されるわけではないが、ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)微生物、および特に、シゾチトリウムを含みうる。一つの局面において、脂肪酸合成酵素遺伝子は、遺伝子の発現を低下させるように制御領域において改変されている。もう一つの局面において、脂肪酸合成酵素遺伝子は、脂肪酸合成酵素の1つまたは複数の機能ドメインの生物活性を低下させるようにコード領域において改変されている。さらにもう一つの局面において、脂肪酸合成酵素遺伝子は、それによりコードされる脂肪酸合成酵素の発現または活性を低下させるために、脂肪酸合成酵素遺伝子にハイブリダイズし、かつ脂肪酸合成酵素遺伝子のコード領域を改変する異種性核酸配列を含む核酸配列でのターゲットされた相同組換えにより突然変異されている。
【0013】
本発明のもう一つの態様は、直接上記に記載された遺伝子改変された微生物を含むバイオマスであって、微生物が同じ種の野生型微生物と比較して短鎖脂肪酸の産生が低下している、バイオマスに関する。また、本発明に含まれるのは、そのようなバイオマスを含む食品および医薬製品である。
【0014】
本発明のさらにもう一つの態様は、生合成過程における多価不飽和脂肪酸(PUFA)の産生を増加させるための方法に関する。方法は、PUFAを含む脂質を産生するのに効果的な条件下で、真上に示されているような遺伝子改変された微生物を培養する段階を含む。食品および医薬製品を含む、そのような方法により産生された脂質を含む製品もまた、本発明により含まれる。
【0015】
発明の詳細な説明
本発明は、一般的に、シゾチトリウム由来の脂肪酸合成酵素(FAS)、その生物活性断片および相同体、そのようなFAS、その断片および相同体をコードする核酸配列、シゾチトリウムFASをコードする遺伝子、FASを組換えにより発現させる宿主細胞および生物体、内因性FASの発現および/または活性が減弱されている宿主細胞および生物体、ならびにこれらのタンパク質、核酸分子、遺伝子、宿主細胞または生物体のいずれかを作製および使用するための様々な方法に関する。本発明のFASタンパク質は、真菌における2つのタンパク質により含まれる酵素ドメインと、両方のアミノ酸配列に関して、および直線状のドメイン構成において、相同である複数の酵素ドメインを含むタンパク質である。哺乳動物におけるFASドメインもまた、1つの大きなタンパク質上に見出されるが、ドメインの酵素活性の構成および特定の型は、シゾチトリウムおよび真菌FASとは有意に異なる。さらに、シゾチトリウムFASドメインと哺乳動物FASに見出されるものの間のアミノ酸配列相同性は、シゾチトリウムと真菌のFASの間より有意に低い。
【0016】
多機能性タンパク質の発見により、短鎖脂肪酸の実用的な製造への新規なアプローチが提供された。例えば、他の(非哺乳動物の)生物体における少なくとも2つの遺伝子に見出される基本的な連続した酵素機能をもつ1つの遺伝子をクローニングし、かつ発現させることが今や可能であり、それは、生産生物体の遺伝子改変を大いに促進するだろう。さらに、シゾチトリウムFAS遺伝子の酵素ドメインを個々に、または様々な組換え/合成の遺伝子発現を構築するように様々な組み合わせで、1つもしくは複数のドメインを用いることが可能である。
【0017】
より具体的には、本発明者らは、脂肪酸合成酵素をコードする単一のorf(オープンリーディングフレーム)を含むシゾチトリウムsp. ATCC 20888由来のゲノムDNAの領域をクローニングした(FAS遺伝子)。酵素の推定の機能(すなわち、C14:0およびC16:0のような短鎖飽和脂肪酸の合成)は、その遺伝子が破壊されている菌株が生存のために短鎖脂肪酸の補給を必要とすることを示すことにより、検証された。シゾチトリウム遺伝子によりコードされるFASは、いくつかの新規な特徴をもつ。タンパク質におけるドメインの構成は、多くの真菌(例えば、パン酵母)に見出されるものと類似している。しかしながら、今までに特徴付けられた真菌の酵素のすべてにおいて、FASは、2つのサブユニット(すなわち、2つのタンパク質)にコードされており、一方、シゾチトリウムFASは1つの大きなタンパク質である。真菌系との相同性に基づいて、シゾチトリウムFASは、基質として、アセチル-CoAおよびマロニル-CoAをNADHおよびNADPHと共に用いる可能性が高い。産物は、おそらく、アシル-CoAエステルとして放出される。酵母においてのように、タンパク質は、埋め込まれたアシルキャリアタンパク質ドメインを活性化すると考えられているホスホパンテテイニルトランスフェラーゼドメインを含む。シゾチトリウムFASは、短鎖飽和脂肪酸合成のための「一体化している(all-in-one)」タンパク質である。
【0018】
本明細書に用いられる場合、短鎖脂肪酸は、18個以下の炭素を有する脂肪酸として定義される。本発明のFAS系は、短鎖脂肪酸を生成するが、それらは、任意の短鎖脂肪酸、および典型的には、16個、14個または12個の炭素を有する脂肪酸を含みうり、飽和および一不飽和脂肪酸を含む。例えば、FAS系により生成される短鎖脂肪酸は、限定されるわけではないが、C14:0およびC16:0のような短鎖飽和脂肪酸を含む。本発明は、FAS系のいずれの生成物の産生も含む。
【0019】
シゾチトリウムは、DHAに富む油の商業的な供給源として開発された海洋微細藻類である。シゾチトリウムにおけるDHAは、高度に特定化されたPUFA合成酵素(PCT公開公報第WO 00/42195号およびPCT公開公報第WO 02/083870号に記載された)の生成物である。今、本発明者らは、シゾチトリウム油に見出される他の主要な脂肪酸(C14:0およびC16:0)を生成することに関与するFASを記載する。本発明のFASの生成物は、それら自身だけで、およびDHA濃縮化油の主要な成分として、興味深い。シゾチトリウムにおけるFASの活性の変化は、その油に蓄積するDHAおよび中鎖飽和脂肪酸の相対的量に影響を及ぼしうり、それにより、DHA濃縮化油としてのそれの商業的価値を変化させる。
【0020】
従って、本明細書に記載されているようなシゾチトリウムFAS遺伝子およびそれのコードされた産物は、いくつかの用途をもつ。第一に、FASゲノム領域のサブクローンは、ノックアウトプラスミド構築物を作製するために、およびFAS遺伝子が不活性化されているシゾチトリウムの突然変異体を創造するために用いられうる。そのような構築物は、すでに本発明者らにより作製されており、本明細書に記載されている(実施例2および3を参照)。これらの突然変異体は、様々な生化学的および遺伝学的研究において利用がありうる。さらに、シゾチトリウムのようなトラウストチトリド(Thraustochytrid)におけるFAS遺伝子の発現および/または活性の減弱は、トラウストチトリドにおけるFAS活性の低下が生物体において非常に望ましい長鎖脂肪酸の蓄積を増加させることが予想されるため、本発明の特に好ましい態様である。例えば、本発明の一つの態様は、FAS遺伝子発現が減弱され(結果として、FAS活性の低下を生じる)、それにより、その生物体による長鎖脂肪酸および、特に多価不飽和脂肪酸(PUFA)、の蓄積を増加させる、ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)の生物体に関する。本発明による、減弱された遺伝子またはタンパク質への言及は、欠失していないまたは完全には活性化されていないが、発現および/または生物活性が、正常な条件下において野生型遺伝子もしくはタンパク質の発現および/または生物活性と比較して低下している(抑制されている、下方制御されている、または減少している)、遺伝子またはタンパク質に関する。それゆえに、減弱された発現または活性をもつFASは、なお発現され、かつなおいくつかの生物活性をもつが(例えば、FASを発現させる生物体が生存可能であるように)、発現または生物活性は、野生型FASと比較して低下している。
【0021】
もう一つの態様において、異種性系における(植物細胞の細胞質においてのような)この遺伝子の発現は、それらの細胞において短鎖飽和脂肪酸の産生および蓄積へと導くことが予想される。これは、商業的脂肪種子作物において短鎖脂肪酸に富む油を産生するための手段を提供する。これは、植物細胞の色素体へターゲットされる鎖長特異的チオエステラーゼの現行の使用の代替方法であると思われる。シゾチトリウムFASの最終生成物は、CoAのエステルである可能性が高く、それゆえに、それは、植物細胞の細胞質における油およびリン脂質合成と両立すると思われる。
【0022】
従って、本発明の一つの態様は、単離された脂肪酸合成酵素(FAS)に関する。本明細書に用いられる場合、単離されたFASを含む単離されたタンパク質への言及は、それの自然環境から取り出されている(すなわち、人間の操作の対象となっている)タンパク質(ポリペプチドまたはペプチドを含む)に関し、例えば、精製されたタンパク質、部分的に精製されたタンパク質、組換え技術により産生されたタンパク質、および合成的に作製されたタンパク質を含むことができる。それとして、「単離された」とは、タンパク質が精製されている程度を反映しない。好ましくは、本発明の単離されたFASは、組換え技術により産生される。さらに、かつ例として、「シゾチトリウムFAS」とは、シゾチトリウム由来のFAS(一般的に、天然に存在するFASの相同体を含む)、またはシゾチトリウム由来の天然に存在するFASの構造(例えば、配列)、およびことによると機能、の知識から別な方法で作製されているFASタンパク質を指す。換言すれば、シゾチトリウムFASは、シゾチトリウム由来の天然に存在するFASの実質的に類似した構造および機能をもつ、または本明細書で詳細に記載されているように、シゾチトリウム由来の天然に存在するFASの生物学的に活性である(すなわち、生物活性をもつ))相同体である任意のFASを含む。それとして、シゾチトリウムFASタンパク質は、精製された、部分的に精製された、組換えの、突然変異した/改変された、および合成のタンパク質を含みうる。本発明によれば、用語「改変」および「突然変異」は、特に、本明細書に記載されたFASのアミノ酸配列(または核酸配列)の改変/突然変異に関して、交換可能に用いられうる。
【0023】
本発明によれば、FASタンパク質の相同体(すなわち、FAS相同体)は、1つまたは数個に限定されるわけではないが、少なくとも1つまたは数個のアミノ酸が、欠失(例えば、ペプチドまたは断片のようなタンパク質の切断型)、挿入、逆位、置換および/または誘導体化(例えば、グリコシル化、リン酸化、アセチル化、ミリストイル化、プレニル化、パルミチン酸化、ファルネシル化、アミド化、および/またはグリコシルホスファチジルイノシトールの付加による)されているFASタンパク質を含む。好ましい態様において、FAS相同体は、測定可能または検出可能なFAS酵素活性をもつ(すなわち、生物活性をもつ)。測定可能または検出可能なFAS酵素活性は、本発明のFASタンパク質における機能ドメインのうちの1個だけ、2個、3個など、すべての10個までの酵素活性を含みうる(下に詳細に考察されている)。もう一つの態様において、FAS相同体は、測定可能なFAS機能(生物)活性をもつ場合もあるし、もたない場合もあるが、抗体の調製または他のFASタンパク質を同定するために有用なオリゴヌクレオチドの開発に用いられる。例えば、FASに対する抗体の作製ならびにFASのクローニングにおいて有用なプローブおよびプライマーの作製は、遺伝子改変された生物体においてFAS核酸もしくはタンパク質の存在を追跡するために、または他の生物体において(例えば、ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)の他のメンバーにおいて)天然に存在するFAS相同体を同定するために、有用である。
【0024】
FAS相同体は、天然の対立遺伝子の変異または天然の突然変異の結果でありうる。本発明のFAS相同体はまた、限定されるわけではないが、タンパク質への直接的改変、または、例えば、ランダムもしくはターゲットされた突然変異誘発をもたらしうる古典的もしくは組換えDNA技術を用いるタンパク質をコードする遺伝子への改変を含む、当技術分野において公知の技術を用いて作製されうる。FASタンパク質をコードする核酸の天然に存在する対立遺伝子変異体は、本発明のFASタンパク質(例えば、SEQ ID NO:2)をコードするが、例えば、突然変異または組換えにより引き起こされる自然の変異のせいで、類似しているが同一ではない配列を有する遺伝子と本質的に同じゲノムにおける座に存在する遺伝子である。天然の対立遺伝子変異体は、典型的には、それらが比較されることになっている遺伝子によりコードされるタンパク質の活性と類似した活性をもつタンパク質をコードする。対立遺伝子変異体の1つのクラスは、同じタンパク質をコードしうるが、遺伝暗号の縮重により異なる核酸配列を有する。対立遺伝子変異体はまた、遺伝子の5'または3'の非翻訳領域に(例えば、制御管理領域に)変化を含みうる。対立遺伝子変異体は、当業者に周知である。相同体は、限定されるわけではないが、単離された天然に存在するタンパク質への直接的改変、直接的タンパク質合成、または、例えば、ランダムもしくはターゲットされた突然変異誘発をもたらしうる古典的もしくは組換えのDNA技術を用いるタンパク質をコードする核酸配列への改変を含む、タンパク質の作製について当技術分野において公知の技術を用いて作製されうる。
【0025】
野生型タンパク質と比較してのFAS相同体における改変は、天然に存在するタンパク質、FAS、と比較して、FAS相同体の基本的な生物活性を増加させる、減少させる、または実質的には変化させない。一般的に、タンパク質の生物活性または生物作用は、インビボで(すなわち、タンパク質の自然の生理学的環境において)またはインビトロで(すなわち、実験室条件下において)測定または観察されるような、タンパク質の天然に存在する型に帰する、タンパク質により示されたまたは実行された任意の機能を指す。相同体または模倣体(下に考察された)におけるようなタンパク質の改変は、結果として、天然に存在するタンパク質と同じ生物活性をもつタンパク質、または天然に存在するタンパク質と比較して減少もしくは増加した生物活性をもつタンパク質を生じうる。タンパク質発現の減少またはタンパク質の活性の減少を結果として生じる改変は、タンパク質の不活性化(完全または部分的)、下方制御、または作用の減少と呼ばれうる。同様に、タンパク質発現の増加またはタンパク質の活性の増加を結果として生じる改変は、タンパク質の増幅、産生過剰、活性化、増強、上方制御、または作用の増加と呼ばれうる。
【0026】
本発明の一つの態様により、その生物活性のある相同体または断片を含む、生物活性のあるFASは本明細書に記載された野生型または天然に存在するFASタンパク質の生物活性の少なくとも1つの特徴をもつ。FAS生物活性は、短鎖脂肪酸を生成するために基質としてアセチル-CoAおよびマロニル-CoAをNADHおよびNADPHと共に用いることによるを含む、短鎖脂肪酸の合成を触媒する能力を含む。より具体的には、FAS生物活性は、本明細書に記載されたFASの9つのドメインの生物活性のうちのいずれか1つまたは複数を含みうる。本発明によれば、本発明のFASタンパク質は、少なくとも1つ、および好ましくは2つ、およびより好ましくは3つ、およびより好ましくは4つ、およびより好ましくは5つ、およびより好ましくは6つ、およびより好ましくは7つ、およびより好ましくは8つ、および最も好ましくは9つの生物活性をもつ。これらの生物活性は以下のものである:(1)アセチルトランスフェラーゼ(AT)活性;(2)エノイルACPレダクターゼ(ER)活性;(3)デヒドラターゼ(DH)活性;(4)マロニル/パルミトイルアシルトランスフェラーゼ(M/PAT)活性;(5)第一アシルキャリアタンパク質(ACP)活性;(6)第二アシルキャリアタンパク質(ACP)活性;(7)ケトアシルACPレダクターゼ(KR)活性;(8)ケトアシルACP合成酵素(KS)活性;および(9)ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(PPT)活性。FAS生物活性への一般的な言及は、典型的には、すべての生物活性を指すが、生物活性の1つだけ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、または8つへの言及を排除しない。これらの様々な活性を測定するための方法は、当技術分野において公知である。
【0027】
本発明によるタンパク質発現レベルを測定するための方法は、限定されるわけではないが、以下のものを含む:ウェスタンブロット、免疫ブロット、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、放射性免疫測定法(RIA)、免疫沈降、表面プラズモン共鳴、化学ルミネセンス、蛍光偏光、リン光、免疫組織化学分析、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析、マイクロサイトメトリー、マイクロアレイ、顕微鏡法、蛍光活性化細胞分別法(FACS)、およびフローサイトメトリー、ならびに、限定されるわけではないが、基質結合を含むタンパク質の特性に基づいたアッセイ。結合アッセイ法もまた、当技術分野において周知である。例えば、BIAcore装置は、2つのタンパク質間の複合体の結合定数を測定するために用いられうる。複合体の解離定数は、緩衝液がチップ上を通り過ぎていく時間に対しての屈折率における変化をモニターすることにより測定されうる(O'Shannessy et al. Anal. Biochem. 212:457-468 (1993); Schuster et al., Nature 365:343-347 (1993))。一つのタンパク質のもう一つへの結合を測定するための他の適切なアッセイ法は、例えば、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)および放射性免疫測定法(RIA)のような免疫測定法、または蛍光、UV吸収、円偏光二色性もしくは核磁気共鳴(NMR)を通してタンパク質の分光学的もしくは光学的性質における変化をモニターすることによる結合の測定を含む。
【0028】
図1は、酵母FAS系の個々のαおよびβサブユニットのドメイン構成と比較した、本発明のシゾチトリウムFASタンパク質のドメイン構成を示す概略図である。
【0029】
完全なシゾチトリウムFASコード配列は、本明細書にSEQ ID NO:2として表された4136個のアミノ酸配列をコードする、本明細書にSEQ ID NO:1により表された、12,408個のヌクレオチド配列(終止コドンを含まない)である。シゾチトリウムFASタンパク質内に上記のような以下の9つのドメインがある:(a)1つのアセチルトランスフェラーゼ(AT)ドメイン;(b)1つのエノイルACPレダクターゼ(ER)ドメイン;(c)1つのデヒドラーゼ(DH)ドメイン;(d)1つのマロニル/パルミトイルアシルトランスフェラーゼ(M/PAT)ドメイン;(e)2つのアシルキャリアタンパク質(ACP)ドメイン;(f)1つのケトアシルACPレダクターゼ(KR)ドメイン;(g)1つのケトアシルACP合成酵素(KS)活性;および(h)1つのホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(PPT)ドメイン。
【0030】
SEQ ID NO:2は、標準的タンパク質BLAST検索(アミノ酸検索についてblastpを用いるBLAST 2.0 Basic BLAST相同性検索、クエリー配列は、デフォルトにより低複雑性領域についてフィルターをかけられる(参照により全体として本明細書に組み入れられている、Altschul, S.F., Madden, T.L., Schaaffer, A.A., Zhang, J., Zhang, Z., Miller, W. & Lipman, D.J. (1997) "Gapped BLAST and PSI-BLAST: a new generation of protein database search programs." Nucleic Acids Res. 25:3389-3402に記載されている))において既知の配列と比較された。BLAST検索は以下のパラメータを用いた:低複雑性フィルターオフ、マトリックス=BLOSUM62、ギャップペナルティはExistence:11、Extension 1である。全FASタンパク質のBLAST結果により、シゾチトリウムFASは、一般的に、真菌のαおよびβFASサブユニットのヘッド-テイル融合と相同性をもつタンパク質と見なされうる。2つの酵母タンパク質において現在、同定されているドメインのすべては、シゾチトリウムFASにおいて相当するものをもつ。さらに、シゾチトリウムFASは、第二のACPドメインを有する。すべての場合において、BLAST結果におけるベストマッチは、以下のような真菌である:サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、ノイロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)、サッカロマイセス・クルイベリ(Saccharomyces kluyveri)、アスペルギルス・ニドランス(Aspergillus nidulans)およびヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)。アミノ酸レベルにおいて、SEQ ID NO:2と最も高い程度の相同性をもつ配列は以下のものである:(1)カンジダ・アルビカンスFASβ-サブユニット(GenBankアクセッション番号P34731)、SEQ ID NO:2のアミノ酸1位〜2100位と34%同一であった(同一性は、実際、SEQ ID NO:2のこの領域の2038個のアミノ酸に対してだった);および(2)カンジダ・アルビカンスFASα-サブユニット(GenBankアクセッション番号P43098)、SEQ ID NO:2のアミノ酸2101位〜4136位と41%同一であった(同一性は、実際、SEQ ID NO:2のこの領域の1864個のアミノ酸に対してだった)。いくつかの他の酵母菌株は、シゾチトリウムFASのこの部分と類似した相同性を示した。本明細書に記載されたシゾチトリウムFASは2つのACPドメインを有するのに対して、酵母FAS系は1つのみのACPドメインを有するため、酵母α-サブユニットとの相同性は、シゾチトリウムにおける2つのACPの第二のものからそのタンパク質の末端までに見出される。
【0031】
シゾチトリウムFASタンパク質における第一ドメインは、FAS-ATとも本明細書で呼ばれている、アセチルトランスフェラーゼ(AT)ドメインである。このドメインは、SEQ ID NO:2の約1位から約500位まで渡るSEQ ID NO:2の領域内に含まれる。FAS-ATドメインを含むアミノ酸配列は、SEQ ID NO:5(SEQ ID NO:2の45位〜415位)として本明細書に表されている。BLAST結果は、このドメインがいくつかの真菌FASβ-サブユニットの第一ドメインと高い相同性をもつことを示している。本発明のFASタンパク質のこのドメインと最も近い同一性をもつ真菌タンパク質は、ヤロウィア・リポリティカFASβ-サブユニット(GenBankアクセッション番号P34229)の一部であり、SEQ ID NO:5(すなわち、本発明のFASのATドメインを含む)と比較した場合、392個のアミノ酸に対して30%同一である。ATは、一般的に、いくつかの別々のアシル転移反応を行うことができる酵素のクラスを指す。真菌FASβ-サブユニットは、脂肪酸合成のためのプライマーとしての役割を果たすアセチル基を転移することのほかに、特に、マロニルアシルトランスフェラーゼに関連している、アセチルトランスアシラーゼ活性をもつことが示されている。ATドメインにおいて、活性部位モチーフは、GHS*XGと同定され、SEQ ID NO:2ではGHS*QG(SEQ ID NO:2の156位〜160位)であり、S*(SEQ ID NO:2の158位)は、アシル基結合部位である。
【0032】
シゾチトリウムFASタンパク質における第二ドメインは、FAS-ERとも本明細書で呼ばれている、エノイルレダクターゼ(ER)ドメインである。このドメインは、SEQ ID NO:2の約450位から約1300位まで渡るSEQ ID NO:2の領域内に含まれる。FAS-ERドメインを含むアミノ酸配列は、SEQ ID NO:6(SEQ ID NO:2の460位〜1210位)として本明細書に表されている。BLAST結果は、このドメインがいくつかの真菌FASβ-サブユニットの第二ドメインと高い相同性をもつことを示している。本発明のFASタンパク質のこのドメインと最も近い同一性をもつ真菌タンパク質は、エメリセラ・ニドランス(Emericella nidulans)FASβ-サブユニット(GenBankアクセッション番号AAB41494.1)の一部であり、SEQ ID NO:6(すなわち、本発明のFASのERドメインを含む)と比較した場合、561個のアミノ酸に対して46%同一である。ER酵素は、脂肪酸アシル-ACPにおけるトランス二重結合(DH活性により導入された)を還元し、結果として、それらの炭素を完全に飽和にすることを生じる。
【0033】
シゾチトリウムFASタンパク質における第三ドメインは、FAS-DHとも本明細書で呼ばれている、デヒドラターゼ(DH)ドメインである。このドメインは、SEQ ID NO:2の約1300位から約1700位まで渡るSEQ ID NO:2の領域内に含まれる。FAS-DHドメインを含むアミノ酸配列は、SEQ ID NO:7(SEQ ID NO:2の1450位〜1575位)として本明細書に表されている。BLAST結果は、このドメインがいくつかの真菌FASβ-サブユニットの第三ドメインと高い相同性をもつことを示している。本発明のFASタンパク質のこのドメインと最も近い同一性をもつ真菌タンパク質は、マグナポルテ・グリセア(Magnaporthe grisea)モノアミン酸化酵素C(MaoC)タンパク質(GenBankアクセッション番号EAA50359.1)であり、SEQ ID NO:7(すなわち、本発明のFASのDHドメインを含む)と比較した場合、121個のアミノ酸に対して39%同一である。MaoCは、FAS β-ケト-アシルデヒドラターゼ(DH)活性を含む、様々な機能をもつタンパク質のファミリーと類似性を共有する。酵素のこのクラスは、β-ケトアシル-ACPからHOHを除去し、炭素鎖にトランス二重結合を残す。
【0034】
シゾチトリウムFASタンパク質における第四ドメインは、FAS-M/PATとも本明細書で呼ばれている、マロニル/パルミトイルアシルトランスフェラーゼ(M/PAT)ドメインである。このドメインは、SEQ ID NO:2の約1575位から約2100位まで渡るSEQ ID NO:2の領域内に含まれる。FAS-M/PATドメインを含むアミノ酸配列は、SEQ ID NO:8(SEQ ID NO:2の1575位〜2025位)として本明細書に表されている。BLAST結果は、このドメインがいくつかの真菌FASβ-サブユニットの第四ドメインと高い相同性をもつことを示している。本発明のFASタンパク質のこのドメインと最も近い同一性をもつ真菌タンパク質は、ノイロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)タンパク質(GenBankアクセッション番号EAA33229.1)の一部であり、SEQ ID NO:8(すなわち、本発明のFASのM/PATドメインを含む)と比較した場合、397個のアミノ酸に対して47%同一である。酵母FASにおいて、FabD(マロニル-CoA:ACPアシルトランスフェラーゼ)は、マロニル基をCoAからFAS ACPドメインへ転移すること、およびまた、FASの脂肪酸生成物(パルミトイル基)をFAS ACPからCoAへ転移することの二重の機能をもつことが示されている。このタンパク質の活性部位モチーフは、GHS*XGであり、シゾチトリウムFAS-M/PATにおいては、GHS*LG(SEQ ID NO:2の1723位〜1727位)であり、S*(SEQ ID NO:2の1725位)は、アシル基が結合する位置である。
【0035】
シゾチトリウムFASタンパク質における第五および第六ドメインは、FAS-ACPとも本明細書で呼ばれている、アシルキャリアタンパク質(ACP)ドメインである。これらのドメインは、SEQ ID NO:2の約2025位から約2850位まで渡るSEQ ID NO:2の領域内に含まれる。第一FAS-ACPドメイン(FAS-ACP1)を含むアミノ酸配列は、SEQ ID NO:9(SEQ ID NO:2の2140位〜2290位)として本明細書に表されている。第二FAS-ACPドメイン(FAS-ACP2)を含むアミノ酸配列は、SEQ ID NO:10(SEQ ID NO:2の2325位〜2585位)として本明細書に表されている。BLAST結果は、これらのドメインが、文献でACPドメインと名付けられているいくつかの酵母FASα-サブユニットのN末端と高い相同性をもつことを示している。しかしながら、本発明のシゾチトリウムFASタンパク質が2つのACPドメインを有するのに対して、すべてのFASタンパク質は、1つのみのACPドメインを有するように思われる。本発明のFASタンパク質の第一ACPドメインと最も近い同一性をもつ真菌タンパク質は、ノイロスポラ・クラッサのタンパク質(GenBankアクセッション番号EAA33230.1)の一部であり、SEQ ID NO:9(すなわち、本発明のFASの第一ACPドメインを含む)と比較した場合、149個のアミノ酸に対して44%同一である。本発明のFASタンパク質の第二ACPドメインと最も近い同一性をもつ真菌タンパク質は、ノイロスポラ・クラッサのタンパク質(GenBankアクセッション番号EAA33230.1)の一部であり、SEQ ID NO:10(すなわち、本発明のFASの第二ACPドメインを含む)と比較した場合、262個のアミノ酸に対して36%同一である。酵母配列とのアラインメントにより、2つの推定ホスホパンテリル化部位(phosphopanthelyation site)は、ACPドメインにおいて同定される:SEQ ID NO:2の2160位(FAS-ACP1における)および2353位(FAS-ACP-2における)のセリン残基。アシルキャリアタンパク質(ACP)生物活性(機能)をもつドメインまたはタンパク質は、そのタンパク質の共有結合した補欠因子へのチオエステル結合を介して脂肪酸アシル鎖を伸長するための担体として機能する小さなポリペプチド(典型的には、80〜100アミノ酸長)であると特徴付けられる。それらは、別々のユニットとして、またはより大きなタンパク質内のドメインとして、存在する。ACPは、CoAのホスホパンテテイニル部分のACPの高度に保存されたセリン残基への転移により、不活性アポ型から機能性ホロ型へ変換される。アシル基は、ホスホパンテテイニル部分の遊離末端においてチオエステル結合によりACPに付着している。
【0036】
シゾチトリウムFASタンパク質における第七ドメインは、FAS-KRとも本明細書で呼ばれている、ケトアシルACPレダクターゼ(KR)ドメインである。このドメインは、SEQ ID NO:2の約2800位から約3350位まで渡るSEQ ID NO:2の領域内に含まれる。FAS-KRドメインを含むアミノ酸配列は、SEQ ID NO:11(SEQ ID NO:2の2900位〜3100位)として本明細書に表されている。BLAST結果は、このドメインがいくつかの真菌FASα-サブユニットの第二ドメイン(FabGまたはβ-ケトアシルACPレダクターゼ)と高い相同性をもつことを示している。本発明のFASタンパク質のこのドメインと最も近い同一性をもつ真菌タンパク質は、ノイロスポラ・クラッサのタンパク質(GenBankアクセッション番号EAA33220.1)の一部であり、SEQ ID NO:11(すなわち、本発明のFASのKRドメインを含む)と比較した場合、205個のアミノ酸に対して50%同一である。酵母FASにおいてのように、ケトアシルACPレダクターゼ(KR)生物活性(機能)をもつドメインまたはタンパク質は、ACPのβ-ケトアシル型のピリジン-ヌクレオチド依存性還元を触媒する酵素と特徴付けられる。それは、デノボの脂肪酸生合成伸長サイクルにおける最初の還元段階である。
【0037】
シゾチトリウムFASタンパク質における第八ドメインは、FAS-KSとも本明細書で呼ばれている、ケトアシルACP合成酵素(KS)ドメインである。このドメインは、SEQ ID NO:2の約3300位から約3900位まで渡るSEQ ID NO:2の領域内に含まれる。FAS-KSドメインを含むアミノ酸配列は、SEQ ID NO:12(SEQ ID NO:2の3350位〜3875位)として本明細書に表されている。BLAST結果は、このドメインがいくつかの真菌FASα-サブユニットの第三ドメイン、および特に、FabB(β-ケトアシルACP合成酵素)と高い相同性をもつことを示している。本発明のFASタンパク質のこのドメインと最も近い同一性をもつ真菌タンパク質は、カンジダ・アルビカンスFASα-サブユニットタンパク質(GenBankアクセッション番号P43098)の一部であり、SEQ ID NO:12(すなわち、本発明のFASのKSドメインを含む)と比較した場合、548個のアミノ酸に対して55%同一である。このドメインの活性部位システインは、SEQ ID NO:2の3350位に同定されている。本発明によれば、(KS)生物活性(機能)をもつドメインまたはタンパク質は、FAS伸長反応サイクルの第一段階を実行する酵素と特徴付けられる。伸長することになっているアシル基は、酵素の活性部位におけるシステイン残基へチオエステル結合により連結される。多段階反応において、アシル酵素は、マロニル-ACPとの縮合を起こし、ケトアシル-ACP、CO2および遊離酵素を形成する。KSは、伸長サイクルにおいて重要な役割を果たしており、多くの系において、反応サイクルの他の酵素より高い基質特異性を有することが示されている。
【0038】
シゾチトリウムFASタンパク質における第九ドメインは、FAS-PPTとも本明細書で呼ばれている、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(PPT)ドメインである。このドメインは、SEQ ID NO:2の約3900位から約4136位まで渡るSEQ ID NO:2の領域内に含まれる。FAS-PPTドメインを含むアミノ酸配列は、SEQ ID NO:13(SEQ ID NO:2の4025位〜4136位)として本明細書に表されている。BLAST結果は、このドメインがいくつかの真菌FASα-サブユニットのC末端ドメイン、および特に、AcpS(ホロ-ACP合成酵素、4-ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼとしても知られている)と高い相同性をもつことを示している。本発明のFASタンパク質のこのドメインと最も近い同一性をもつ真菌タンパク質は、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)FASα-サブユニットタンパク質(GenBankアクセッション番号BAB62031.1)の一部であり、SEQ ID NO:13(すなわち、本発明のFASのPPTドメインを含む)と比較した場合、110個のアミノ酸に対して46%同一である。PPTドメインは、活性ホロ-ACPを生じうるホスホパンテテイン補欠因子の付着に必要とされる。
【0039】
一つの態様において、FASタンパク質(例えば、シゾチトリウムから単離され、かつ本明細書で詳細に記載されたFASの相同体を含む)は、以下のものの少なくとも1つを有するタンパク質を含む:(a)アセチルトランスフェラーゼ(AT)活性;(b)エノイルACPレダクターゼ(ER)活性;(c)デヒドラターゼ(DH)活性;(d)マロニル/パルミトイルアシルトランスフェラーゼ(M/PAT)活性;(e)アシルキャリアタンパク質(ACP)活性;(f)ケトアシルACPレダクターゼ(KR)活性;(g)ケトアシルACP合成酵素(KS)活性;および(h)ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(PPT)活性。本発明の一つの態様において、単離されたFASは、以下のものから選択されるアミノ酸を含む:(a)以下のものから選択されるアミノ酸配列:SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:2の1位〜500位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の450位〜1300位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の1250位〜1700位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の1575位〜2100位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の2025位〜2850位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の2800位〜3350位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の3300位〜3900位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の3900位〜4136位からなるアミノ酸配列、もしくはこれらの配列のいずれかの生物活性断片もしくはこれらの配列の任意の組み合わせ;または(b)これらの配列のいずれかと少なくとも約45%同一であるアミノ酸配列であって、参照配列の生物活性(これらの配列の生物活性は上に記載されている)を有する、アミノ酸配列。
【0040】
本発明の一つの局面において、上で議論されているように、FASタンパク質は、本発明の完全長FAS(すなわち、SEQ ID NO:2)、本発明のFASの生物活性ドメインを含む領域(すなわち、上の位置番号により定義されたSEQ ID NO:2の領域)、または本発明のFASの生物活性ドメイン(すなわち、SEQ ID NO:5〜13のいずれか一つ)を表す上記のアミノ酸配列のいずれかと、そのタンパク質の完全長、領域、またはドメインに対して、少なくとも45%同一であるアミノ酸配列を含む。もう一つの局面において、本発明のFASタンパク質は、上で同定されたタンパク質、領域またはドメインのいずれかと少なくとも50%同一である、およびもう一つの局面において、上で同定されたタンパク質、領域またはドメインのいずれかを定義するアミノ酸配列と、少なくとも約55%同一、およびもう一つの局面において少なくとも約60%同一、およびもう一つの局面において少なくとも約65%同一、およびもう一つの局面において少なくとも約70%同一、およびもう一つの局面において少なくとも約75%同一、およびもう一つの局面において少なくとも約80%同一、およびもう一つの局面において少なくとも約85%同一、およびもう一つの局面において少なくとも約90%同一、およびもう一つの局面において少なくとも約95%同一、およびもう一つの局面において少なくとも約96%同一、およびもう一つの局面において少なくとも約97%同一、およびもう一つの局面において少なくとも約98%同一、およびもう一つの局面において少なくとも約99%同一である、アミノ酸配列を含む。好ましくは、本発明のFASタンパク質は、以下のものから選択されるFASタンパク質の少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つまたは9つすべての生物活性を含む:(a)アセチルトランスフェラーゼ(AT)活性;(b)エノイルACPレダクターゼ(ER)活性;(c)デヒドラターゼ(DH)活性;(d)マロニル/パルミトイルアシルトランスフェラーゼ(M/PAT)活性;(e)アシルキャリアタンパク質(ACP)活性;(f)ケトアシルACPレダクターゼ(KR)活性;(g)ケトアシルACP合成酵素(KS)活性;および(h)ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(PPT)活性。
【0041】
本発明の一つの態様において、本発明によるFAS相同体は、本発明による、完全長FASタンパク質、またはその領域もしくはドメインについて上で同定されたアミノ酸配列のいずれかと、約100%未満同一であるアミノ酸配列を有する。本発明のもう一つの局面において、本発明によるFAS相同体は、全整数きざみで、上で同定されたアミノ酸配列のいずれかと約99%未満同一である、およびもう一つの態様において、上で同定されたアミノ酸配列のいずれかと約98%未満同一である、およびもう一つの態様において、上で同定されたアミノ酸配列のいずれかと約97%未満同一である、およびもう一つの態様において、上で同定されたアミノ酸配列のいずれかと約96%未満同一である、およびもう一つの態様において、上で同定されたアミノ酸配列のいずれかと約95%未満同一である、およびもう一つの態様において、上で同定されたアミノ酸配列のいずれかと約94%未満同一である、およびもう一つの態様において、上で同定されたアミノ酸配列のいずれかと約93%未満同一である、およびもう一つの態様において、上で同定されたアミノ酸配列のいずれかと約92%未満同一である、およびもう一つの態様において、上で同定されたアミノ酸配列のいずれかと約91%未満同一である、およびもう一つの態様において、上で同定されたアミノ酸配列のいずれかと約90%未満同一であるなど、のアミノ酸配列を有する。
【0042】
本明細書に用いられる場合、他に特定されない限り、パーセント(%)同一性への言及は、以下を用いて実行される相同性の評価を指す:(1)標準デフォルトパラメータでアミノ酸検索についてblastp、および核酸配列についてblastnを用いるBLAST 2.0 Basic BLAST相同性検索、クエリー配列は、デフォルトにより低複雑性領域についてフィルターをかけられる(参照により全体として本明細書に組み入れられている、Altschul, S.F., Madden, T.L., Schaaffer, A.A., Zhang, J., Zhang, Z., Miller, W. & Lipman, D.J. (1997) "Gapped BLAST and PSI-BLAST: a new generation of protein database search programs." Nucleic Acids Res. 25:3389-3402に記載されている);(2)BLAST 2アラインメント(下記のパラメータを用いる);(3)および/または標準デフォルトパラメータでのPSI-BLAST(位置特異的繰り返しBLAST(Position-Specific Iterated BLAST))。BLAST 2.0 Basic BLASTとBLAST 2の間の標準パラメータにおけるいくつかの違いのために、2つの特定の配列が、BLAST 2を用いて有意な相同性をもつと認識されたとしても、クエリー配列としてその配列の1つを用いるBLAST 2.0 Basic BLASTにおいて実行された検索は、トップマッチにおいて第二配列を同定しない場合があることに留意する。さらに、PSI-BLASTは、配列相同体を見つけるための高感度方法である、「プロファイル」検索の自動化の使いやすいバージョンを提供する。プログラムは、まず、ギャップド(gapped)BLASTデータベース検索を実行する。PSI-BLASTプログラムは、データベース検索の次のラウンドとしてクエリー配列に取って代わる、位置特異的スコア行列を構築するために、戻された任意の有意なアラインメントからの情報を用いる。それゆえに、パーセント同一性はこれらのプログラムのいずれか一つを用いることにより決定されうることは、理解されるべきである。
【0043】
2つの特定の配列は、参照により全体として本明細書に組み入れられている、Tatusova and Madden, (1999), "Blast 2 sequences - a new tool for comparing protein and nucleotide sequences", FEMS Microbiol Lett. 174:247-250に記載されているように、BLAST 2配列を用いてお互いに整列されうる。BLAST 2配列アラインメントは、結果として生じるアラインメントにおいてギャップ(欠失および挿入)の導入を許す2つの配列間でギャップド(Gapped)BLAST検索(BLAST 2.0)を実行するためのBLAST 2.0アルゴリズムを用いてblastpまたはblastnにおいて実行される。本明細書での明確さを目的として、BLAST 2配列アラインメントは、以下のような標準デフォルトパラメータを用いて実行される。
0 BLOSUM62マトリックスを用いるblastnについて:
マッチの報酬=1
ミスマッチのペナルティ=-2
オープンギャップ(5)および伸長ギャップ(2)ペナルティ
ギャップx_ドロップオフ(50)期待(10)ワードサイズ(11)フィルター(オン)
0 BLOSUM62マトリックスを用いるblastpについて:
オープンギャップ(11)および伸長ギャップ(1)ペナルティ
ギャップx_ドロップオフ(50)期待(10)ワードサイズ(3)フィルター(オン)
【0044】
FASタンパク質はまた、上で同定されたアミノ酸配列のいずれかの少なくとも10個の連続したアミノ酸残基(すなわち、参照アミノ酸配列の10個の連続したアミノ酸と100%同一性をもつ10個の連続したアミノ酸残基)を含むアミノ酸配列を有するタンパク質を含みうる。もう一つの局面において、FASアミノ酸配列の相同体は、SEQ ID NO:2により表されたアミノ酸配列の少なくとも約4130個の連続したアミノ酸残基まで10アミノ酸きざみで、少なくとも20個、または少なくとも約30個、または少なくとも約40個、または少なくとも約50個、または少なくとも約75個、または少なくとも約100個、または少なくとも約115個、または少なくとも約130個、または少なくとも約150個、または少なくとも約200個、または少なくとも約250個、または少なくとも約300個、または少なくとも約350個、または少なくとも約400個、または少なくとも約500個、または少なくとも約600個、または少なくとも約700個、または少なくとも約800個、または少なくとも約900個、または少なくとも約1000個、または少なくとも約1100個、または少なくとも約1200個など、を含むアミノ酸配列を含む。FAS相同体は、SEQ ID NO:1により表された核酸配列の少なくとも約12,400個の連続したヌクレオチドまで30ヌクレオチドきざみで、少なくとも約30個、または少なくとも約60個、または少なくとも約90個、または少なくとも約150個、または少なくとも約225個、または少なくとも約300個、または少なくとも約750個、または少なくとも約900個、または少なくとも約1050個、または少なくとも約1200個、または少なくとも約1500個、または少なくとも約1800個、または少なくとも約2100個、または少なくとも約2400個、または少なくとも約2700個、または少なくとも約3000個など、を含む核酸配列によりコードされるタンパク質を含みうる。好ましい態様において、FAS相同体は、本発明のFASについて記載された生物活性のいずれか1つまたは複数を含む、上記のように、測定可能なFAS生物活性をもつ(すなわち、生物活性をもつ)。
【0045】
本発明によれば、本明細書に記載された核酸またはアミノ酸配列に関して、用語「連続した(contiguous)」または「連続的な(consecutive)」は、間断のない配列として連結されていることを意味する。例えば、第一配列が第二配列の30個の連続した(または連続的な)アミノ酸を含むこととは、第一配列が、第二配列における30個のアミノ酸残基の間断のない配列と100%同一である30個のアミノ酸残基の間断のない配列を含むことを意味する。同様に、第一配列が第二配列と「100%同一性」をもつこととは、第一配列が、ヌクレオチドまたはアミノ酸間にギャップを含まずに第二配列とぴったりマッチすることを意味する。
【0046】
もう一つの態様において、FAS相同体を含むFASタンパク質は、相同体をコードする核酸配列が、天然のFASをコードする核酸分子へ(すなわち、と(with))(すなわち、天然のFASアミノ酸配列をコードする核酸鎖の相補体へ)、中程度の、高いまたは非常に高いストリンジェント性条件(下に記載された)下でハイブリダイズする能力がある、天然のFASアミノ酸配列と十分に類似しているアミノ酸配列を有するタンパク質を含む。好ましくは、FASタンパク質の相同体は、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12またはSEQ ID NO:13を含むタンパク質をコードする核酸配列の相補体へ、中程度の、高いまたは非常に高いストリンジェント性条件下でハイブリダイズする核酸配列を含む核酸分子によりコードされる。よりいっそう好ましくは、FASタンパク質の相同体は、SEQ ID NO:1により表される核酸配列の相補体へ中程度の、高いまたは非常に高いストリンジェント性条件下でハイブリダイズする核酸配列を含む核酸分子によりコードされる。
【0047】
本発明のFASをコードする核酸配列の核酸配列相補体は、FASをコードする鎖と相補的である核酸鎖の核酸配列を指す。与えられたアミノ酸配列をコードする二本鎖DNAは、一本鎖DNA、およびその一本鎖と相補的である配列を有するそれの相補鎖を含むことは、認識されているものと思われる。それとして、本発明の核酸分子は、二本鎖または一本鎖のいずれかでありうり、例えば、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列をコードする核酸配列と、および/またはSEQ ID NO:2のアミノ酸配列をコードする核酸配列の相補体と、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で安定なハイブリッドを形成する核酸分子を含む。相補的な配列を推論するための方法は、当業者に公知である。核酸シーケンシングテクノロジーは完全にはエラーはなくならないため、本明細書に提示された配列は、せいぜい、本発明のFASタンパク質の見かけの配列を表しているにすぎない。
【0048】
本明細書に用いられる場合、ハイブリダイゼーション条件への言及は、核酸分子が類似した核酸分子を同定するために用いられる標準的ハイブリダイゼーション条件を指す。そのような標準条件は、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Labs Press, 1989に開示されている。Sambrook et al., 前記個所は参照により全体として本明細書に組み入れられている(具体的には、ページ9.31〜9.62参照)。さらに、ヌクレオチドの様々な程度のミスマッチを許容するハイブリダイゼーションを達成するための適切なハイブリダイゼーションおよび洗浄条件を計算するための式は、例えば、Meinkoth et al., 1984, Anal. Biochem. 138, 267-284に開示されている; Meinkoth et al., 前記個所は参照により全体として本明細書に組み入れられている。
【0049】
より具体的には、本明細書に言及される場合、中程度のストリンジェント性ハイブリダイゼーションおよび洗浄条件は、ハイブリダイゼーション反応において探索するために用いられることになっている核酸分子と少なくとも約70%核酸配列同一性をもつ核酸分子の単離を許容する条件を指す(すなわち、ヌクレオチドの約30%以下のミスマッチを許容する条件)。本明細書に言及される場合、高いストリンジェント性ハイブリダイゼーションおよび洗浄条件は、ハイブリダイゼーション反応において探索するために用いられることになっている核酸分子と少なくとも約80%核酸配列同一性をもつ核酸分子の単離を許容する条件を指す(すなわち、ヌクレオチドの約20%以下のミスマッチを許容する条件)。本明細書に言及される場合、非常に高いストリンジェント性ハイブリダイゼーションおよび洗浄条件は、ハイブリダイゼーション反応において探索するために用いられることになっている核酸分子と少なくとも約90%核酸配列同一性をもつ核酸分子の単離を許容する条件を指す(すなわち、ヌクレオチドの約10%以下のミスマッチを許容する条件)。上で考察されているように、当業者は、ヌクレオチドミスマッチのこれらの特定のレベルを達成しうる適切なハイブリダイゼーションおよび洗浄条件を計算するためにMeinkoth et al., 前記個所における式を用いることができる。そのような条件は、DNA:RNAハイブリッドかまたはDNA:DNAハイブリッドが形成されるかに依存して、変わる。DNA:DNAハイブリッドについての計算された融解温度は、DNA:RNAハイブリッドについてより10℃低い。特定の態様において、DNA:DNAハイブリッドについてのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、適切な洗浄条件と共に、約20℃と約35℃の間(より低いストリンジェント性)、より好ましくは、約28℃と約40℃の間(よりストリンジェントな)、およびよりいっそう好ましくは、約35℃と約45℃の間(よりいっそうストリンジェントな)の温度における6× SSC(0.9 M Na+)のイオン強度を含む。特定の態様において、DNA:RNAハイブリッドについてのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、同様にストリンジェントな洗浄条件と共に、約30℃と約45℃の間、より好ましくは、約38℃と約50℃の間、およびよりいっそう好ましくは、約45℃と約55℃の間の温度における6× SSC(0.9 M Na+)のイオン強度を含む。これらの値は、約100ヌクレオチドより大きい分子、0%ホルムアミドおよび約40%のG+C含有量についての融解温度の計算に基づいている。または、Tmは、Sambrook et al., 前記、ページ9.31〜9.62に示されているように経験的に計算されうる。一般的に、洗浄条件は、可能な限りストリンジェントであるべきであり、かつ選択されたハイブリダイゼーション条件に適しているべきである。例えば、ハイブリダイゼーション条件は、塩、および特定のハイブリッドの計算されたTmよりおよそ20℃〜25℃下である温度条件の組み合わせを含みうり、洗浄条件は、典型的には、塩、および特定のハイブリッドの計算されたTmよりおよそ12℃〜20℃下である温度条件の組み合わせを含む。DNA:DNAハイブリッドでの使用に適したハイブリダイゼーション条件の一つの例は、約42℃で6× SSC(50%ホルミアミド)における2時間〜24時間ハイブリダイゼーションを含み、続いて、約2× SSCにおける室温での1回または複数回の洗浄を含む洗浄段階、続いて、より高い温度およびより低いイオン強度で(例えば、約0.1×〜0.5× SSCにおける約37℃での少なくとも1回の洗浄、続いて、約0.1×〜0.5× SSCにおける約68℃での少なくとも1回の洗浄)の追加の洗浄を行う。
【0050】
FASタンパク質はまた、融合体(例えば、例として、組換えタンパク質の可溶性、活性型を過剰発現させるために用いられる融合タンパク質)の、突然変異を誘発された遺伝子(遺伝子転写および翻訳を増強しうるコドン改変をもつ遺伝子のような)の、および切断された遺伝子(膜タンパク質の可溶性型を生じるように膜結合ドメインが除去された遺伝子、または特定の組換え宿主において耐容性が悪いシグナル配列を除去された遺伝子のような)の発現産物を含む。本発明のFASおよびタンパク質相同体は、いずれのFAS活性ももたない、またはより好ましくは、減弱されたFAS活性をもつタンパク質を含むことに留意する。そのようなタンパク質は、例えば、抗体の産生のために、または1つもしくは複数の短鎖脂肪酸を産生する能力を欠く遺伝子改変された生物体の作製のために、有用である。
【0051】
本発明のタンパク質および/または相同体の最小サイズは、FAS生物活性をもつのに十分な、またはタンパク質がそのような活性をもつことを必要とされない場合、天然に存在するFASに結合する抗体の産生のためのような、本発明のFASタンパク質と関連したもう一つの目的に有用であるのに十分な、サイズである。それとして、本発明のFASまたは相同体の最小サイズは、抗体により認識されうる少なくとも1つのエピトープを形成するのに適したサイズであり、典型的には、少なくとも8アミノ酸長、および好ましくは10、およびより好ましくは15、およびより好ましくは20、およびより好ましくは25、およびよりいっそう好ましくは30アミノ酸長であり、かつ所望されるのが、そのようなタンパク質の完全長か、多価性部分(すなわち、それぞれが機能をもつ1つより多いドメインを有する融合タンパク質)か、または機能性部分かに依存する好ましいサイズをもつ、4136アミノ酸長までの、1から4136までの全整数のいずれものきざみである。タンパク質が、FASタンパク質(FAS相同体を含む)の一部または完全長FASを含みうる点において、そのようなタンパク質の最大サイズへの、実際的な制限以外に制限はない。
【0052】
同様に、本発明の核酸分子の最小サイズは、FAS活性(本発明のFASの1つまたは複数のドメインの活性を含む)をもつタンパク質をコードするのに十分な、抗体に結合する少なくとも1つのエピトープを含むタンパク質をコードするのに十分な、または天然のFASをコードする核酸分子の相補的配列と安定なハイブリッドを形成する(例えば、低い、中程度の、または高いストリンジェント性条件下で)能力があるプローブまたはオリゴヌクレオチドプライマーを形成するのに十分なサイズである。それとして、そのようなタンパク質をコードする核酸分子のサイズは、核酸組成物、および核酸分子と相補性配列の間のパーセント相同性または同一性、加えてハイブリダイゼーション条件それ自体(例えば、温度、塩濃度、およびホルムアミド濃度)に依存しうる。オリゴヌクレオチドプライマーとして、またはプローブとして用いられる核酸分子の最小サイズは、典型的には、核酸分子がGCリッチである場合には、少なくとも約12〜約15ヌクレオチド長であり、それらがATリッチである場合には、少なくとも約15〜約18塩基長である。核酸分子が、FASコード配列の一部、完全長FASをコードする核酸配列(FAS遺伝子を含む)、または複数の遺伝子もしくはそれらの部分を含みうる点において、本発明の核酸分子の最大サイズへの、実際的制限以外の制限はない。
【0053】
本発明はまた、1つまたは複数の融合セグメントに付着したFAS含有ドメイン(FASの相同体または機能ドメインを含む)を含む融合タンパク質を含む。本発明と共に使用するための適切な融合セグメントは、限定されるわけではないが、以下のことができるセグメントを含む:タンパク質の安定性を増強する;他の所望の生物活性を与える;および/またはFASタンパク質の精製(例えば、アフィニティークロマトグラフィーによる)を援助する。適切な融合セグメントは、所望の機能を有する(例えば、安定性、溶解性、作用もしくは生物活性の増加を与える;および/またはタンパク質の精製を単純化する)任意のサイズのドメインでありうる。融合セグメントは、タンパク質のFAS含有ドメインのアミノおよび/またはカルボキシル末端に連結されうり、FASタンパク質の容易な回収を可能にするために切断されやすくありうる。融合タンパク質は、好ましくは、FAS含有ドメインのカルボキシルおよび/またはアミノ末端のいずれかに付着した融合セグメントを含むタンパク質をコードする融合核酸分子で形質転換された組換え細胞を培養することにより産生される。
【0054】
本発明の一つの態様において、本明細書に記載されたアミノ酸配列のいずれかは、少なくとも1個からの、かつ約20個までの追加の異種性アミノ酸が、特定されたアミノ酸配列のC末端および/またはN末端のそれぞれに隣接して、作製されうる。結果として生じたタンパク質またはポリペプチドは、特定されたアミノ酸配列「から本質的になる」と呼ばれうる。本発明によれば、異種性アミノ酸は、特定されたアミノ酸配列に隣接することが本来見出されない(すなわち、天然において、インビボで見出されない)、または特定されたアミノ酸配列の機能に関連していない、または天然に存在する配列におけるそのようなヌクレオチドが、与えられたアミノ酸配列が由来している生物体についての標準的なコドン使用を用いて翻訳されたならば、その遺伝子に存在しているように、特定されたアミノ酸配列をコードする天然に存在する核酸配列に隣接するヌクレオチドによりコードされないであろう、アミノ酸の配列である。同様に、本明細書に核酸配列に関して用いられる場合、句「から本質的になる」とは、特定されたアミノ酸配列をコードする核酸配列の5'末端および/または3'末端のそれぞれにおいて少なくとも1個、かつ約60個ほどまでの追加の異種性ヌクレオチドにより隣接されうる、特定されたアミノ酸配列をコードする核酸配列を指す。異種性ヌクレオチドは、天然の遺伝子に存在しているように、特定されたアミノ酸配列をコードする核酸配列に隣接することが本来見出されない(すなわち、天然において、インビボで見出されない)、またはタンパク質に任意の追加の機能を与えるもしくは特定されたアミノ酸配列を有するタンパク質の機能を変化させるタンパク質をコードしない。
【0055】
本明細書に記載されているようなFASタンパク質は、ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)のメンバーを含む様々な微生物から単離されうる。例えば、本発明のFASタンパク質が由来しうる好ましい微生物は、限定されるわけではないが、以下のものを含む属由来の微生物を含む:トラウストチトリウム(Thraustochytrium)、ラビリンチュロイデス(Labyrinthuloides)、ジャポノチトリウム(Japonothytrium)およびシゾチトリウム(Schizochytrium)。これらの属内の好ましい種は、限定されるわけではないが、以下のものを含む:シゾチトリウム・アグレガツム(Schizochytrium aggregatum)、シゾチトリウム・リマシヌム(Schizochytrium limacinum)、シゾチトリウム・ミヌツム(Schizochytrium minutum)を含む任意のシゾチトリウム種;任意のトラウストチトリウム種(旧ウルケニア(Ulkenia)種、例えば、U. ビスルゲンシス(U. visurgensis)、U. アモエボイダ(U. amoeboida)、U. サルカリアナ(U. sarkariana)、U. プロフンダ(U. profunda)、U. ラディアダ(U. radiata)、U. ミヌタ(U. minuta)およびウルケニア種BP-5601を含む)およびトラウストチトリウム・ストリアツム(Thraustochytrium striatum)、トラウストチトリウム・アウレウム(Thraustochytrium aureum)、トラウストチトリウム・ロセウム(Thraustochytrium roseum)を含む;ならびに、任意のジャポノチトリウム種。ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)の特に好ましい菌株は、限定されるわけではないが、以下のものを含む:シゾチトリウム sp. (S31)(ATCC 20888);シゾチトリウム sp. (S8)(ATCC 20889);シゾチトリウム sp. (LC-RM)(ATCC 18915);シゾチトリウム sp. (SR21);シゾチトリウム・アグレガツム(Goldstein et Belsky)(ATCC 28209);シゾチトリウム・リマシヌム(Honda et Yokochi)(IFO 32693);トラウストチトリウム sp. (23B)(ATCC 20891);トラウストチトリウム・ストリアツム(Schneider)(ATCC 24473);トラウストチトリウム・アウレウム(Goldstein)(ATCC 34304);トラウストチトリウム・ロセウム(Goldstein)(ATCC 28210);およびジャポノチトリウム sp. (L1)(ATCC 28207)。
【0056】
本発明によれば、用語/句「トラウストチトリド(Thraustochytrid)」、「ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)微生物」および「ヤブレツボカビ目(order Thraustochytriales)の微生物」は、交換可能に用いられうり、ヤブレツボカビ科(Thraustochytriaceae)およびラビリンチュラ科(Labyrinthulaceae)の両方を含むヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)の任意のメンバーを指す。用語「ラビリンチュリド(Labyrinthulid)」および「ラビリンチュラ科(Labyrinthulaceae)」は、ラビリンチュラ科(Labyrinthulaceae)のメンバーを明確に指すために本明細書に用いられる。ヤブレツボカビ科(Thraustochytriaceae)のメンバーであるトラウストチトリドに明確に参照をつけるために、用語「ヤブレツボカビ科(Thraustochytriaceae)」が本明細書に用いられる。従って、本発明について、ラビリンチュリドのメンバーは、トラウストチトリドに含まれるとみなされる。
【0057】
結果として、発展は、トラウストチトリドの分類学の頻繁な改訂を生じた。分類学の理論家は、一般的に、トラウストチトリドを藻類または藻類様原生生物と共に置く。しかしながら、分類学的不確定性のため、トラウストチトリドとして本発明に記載された菌株を以下の生物体を含むものとみなすことは、本発明の目的として最善であるように思われる:目:ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales);科:ヤブレツボカビ科(Thraustochytriaceae)(属:トラウストチトリウム、シゾチトリウム、ジャポノチトリウム、アプラノチトリウム(Aplanochytrium)またはエリナ(Elina))、またはラビリンチュラ科(Labyrinthulaceae)(ラビリンチュラ属(Labyrinthula)、ラビリンチュロイデス属(Labyrinthuloides)、またはラビリントミキサ属(Labyrinthomyxa))。また、以下の属は、時々、ヤブレツボカビ科(Thraustochytriaceae)かまたはラビリンチュラ科(Labyrinthulaceae)のいずれかに含まれる:アルトルニア(Althornia)、コラロチトリウム(Corallochytrium)、ディプロフィリス(Diplophyrys)およびピュロソルス(Pyrrhosorus)、かつ本発明の目的として、トラウストチトリドまたはヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)のメンバーへの言及により含まれる。本発明の時点において、トラウストチトリドの分類における改訂は、ラビリンチュロイデス属をラビリンチュラ科(Labyrinthulaceae)に置き、ストラメノパイル(Stramenopile)系統内に2つのヤブレツボカビ科(Thraustochytriaceae)およびラビリンチュラ科(Labyrinthulaceae)の配置を確定する。ラビリンチュラ科(Labyrinthulaceae)は、時々、一般的に、ラビリンチュリドまたはラビリンチュラ、またはラビリンチュロイデスと呼ばれ、ヤブレツボカビ科(Thraustochytriaceae)は、一般的に、トラウストチトリドと呼ばれるが、上で考察されているように、本発明の明確さを目的として、トラウストチトリドへの言及は、ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)のいずれのメンバーも含む、ならびに/またはヤブレツボカビ科(Thraustochytriaceae)およびラビリンチュラ科(Labyrinthulaceae)の両方のメンバーを含む。最近の分類学的変化は、下に要約されている。
【0058】
本明細書に開示された特定の単細胞微生物の菌株は、ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)のメンバーである。トラウストチトリドは、進化する分類学的歴史をもつ海洋真核生物である。トラウストチトリドの分類学的配置に関する問題は、Moss(「The Biology of Marine Fungi」, Cambridge University Press p. 105 (1986), Bahnweb and Jackle (前記個所、P.131)およびChamberian and Moss(BioSystems 21:341 (1988))により概説されている。
【0059】
便宜上、トラウストチトリドは、最初、分類学者により、藻菌類(藻類様真菌)に他の無色の遊走子真核生物と共に置かれた。しかしながら、藻菌類という名前は、結局、分類学的地位から落とされ、トラウストチトリドが、卵菌類(2鞭毛の遊走子真菌)に保持された。卵菌類は不等毛の藻類に関連していることが最初に仮定され、結局、Barr(Barr. Biosystems 14:359 (1981))により要約された、幅広い範囲の超微細構造的および生化学的研究がこの仮定を支持した。卵菌類は、実際、不等毛の藻類の一部として、Leedale(Leedale. Taxon 23:261 (1974))および他の藻類学者により認められた。しかしながら、それらの従属栄養性性質に起因する都合上、卵菌類およびトラウストチトリドは、主として、藻類学者(藻類を研究する科学者)よりむしろ、菌学者(真菌を研究する科学者)により研究されてきた。
【0060】
もう一つの分類学的視点から、進化生物学者は、真核生物がどのように進化したかに関する考えの2つの一般的な学派を展開した。1つの理論は、一連の内部共生を通しての膜結合型細胞小器官の外因性起源を提案する(Margulis, 1970, Origin of Eukaryotic Cells. Yale University Press, New Haven);例えば、ミトコンドリアは細菌の内部共生に由来、葉緑体は藍色植物に由来、および鞭毛はスピロヘータに由来している。他方の理論は、自己的過程による原核生物祖先の非膜結合型系からの膜結合型細胞小器官のゆっくりした進化を提唱する(Cavalier-Smith, 1975, Nature(Lond.) 256:462-468)。進化生物学者の両方のグループは、しかしながら、卵菌類およびトラウストチトリドを真菌から除去し、それらを黄色植物(Chromophyta)界(Cavalier-Smith BioSystems 14:461 (1981))(この界は最近、他の原生生物を含むように拡大され、この界のメンバーは、今、ストラメノパイル(Stramenopiles)と呼ばれる)における黄色植物藻類と共にかまたは原生生物界(Protoctista)(Margulis and Sagen. Biosystems 18:141 (1985))における全ての藻類と共にかのいずれかに置く。
【0061】
電子顕微鏡法の開発で、トラウストチトリドの2つの属、トラウストチトリウムおよびシゾチトリウムの遊走子の超微細構造に関する研究(Perkins, 1976, pp. 279-312, 「Recent Advances in Aquatic Mycology」 (ed. E.B.G. Jones), John Wiley & Sons, New York; Kazama. Can. J. Bot. 58:2434 (1980); Barr, 1981, Biosystems 14:359-370)は、ヤブレツボカビ科(Thraustochytriaceae)が卵菌類に遠い関連があるのみであるという良い証拠を提供した。さらに、5-SリボソームRNA配列の対応分析(多変量統計の一形式)を表す遺伝子データは、ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)が明らかに、真核生物の独自の群で、真菌から完全に分離しており、かつ赤色および褐色藻類に、ならびに卵菌類のメンバーに、最も近く関連していることを示している(Mannella et al. Mol. Evol. 24:228 (1987))。たいていの分類学者は、トラウストチトリドを卵菌類から除くことに同意した(Bartnicki-Garcia. p. 389 「Evolutionary Biology of the Fungi」 (eds. Rayner, A.D.M., Brasier, C.M. & Moore, D.), Cambridge University Press, Cambridge)。
【0062】
要約すれば、Cavalier-Smithの分類学系(Cavalier-Smith. BioSystems 14:461 (1981); Cavalier-Smith. Microbiol Rev. 57:953 (1993))を用いて、トラウストチトリドは、黄色植物界(ストラメノパイル)に黄色植物藻類と共に分類される。この分類学的配置は、最近、不等毛類(Heterokonta)の18s rRNAシグネチャーを用いてトラウストチトリドが真菌ではなく、クロミスト(chromists)であることを実証したCavalier-Smith et al.により再確認された(Cavalier-Smith et al. Phil. Tran. Roy. Soc. London Series BioSciences 346:387 (1994))。これは、トラウストチトリドを、すべてEufungi界に置かれる真菌とは完全に異なる界に置く。
【0063】
現在、真核生物の71個の別々の群があり(Patterson. Am. Nat. 154:S96(1999))、これらの群内に4つの主な系統がいくらかの確信をもって同定された:(1)アルベオラーテ(Alveolates)、(2)ストラメノパイル(Stramenopiles)、(3)陸上植物-緑藻-紅藻_灰色藻(Land Plant-green algae-Rhodophyte_Glaucophyte)(「植物」)クレード、および(4)オピストコント(Opisthokont)クレード(真菌および動物)。以前は、これらの4つの主な系統は、界と呼ばれていたものだったが、「界」概念の使用はもはや、ある研究者らにより有用とはみなされていない。
【0064】
Armstrongにより述べられているように、ストラメノパイルとは、3つに分かれた管状の毛を指し、この系統のたいていのメンバーは、そのような毛をもつ鞭毛を有する。ストラメノパイルの運動性細胞(単細胞生物、精子、遊走子)は、2つの側部に挿入された鞭毛、1つは鞭毛の推力を逆転させる、3つに分かれた管状の毛をもつ長いもの、1つは短くかつ無毛のもの、を有して非対称である。以前は、そのグループがそれほど広くなかった場合、それらのグループは、黄緑藻、黄金色藻、真正眼点藻植物(Eustigmatophytes)および珪藻植物と共に、褐藻(Brown Algae)または褐藻植物(Phaeophytes)からなったため、クロミスタ界または不等毛(=異なる鞭毛)藻と呼ばれた。その後、いくつかの従属栄養の真菌様生物体、水生菌およびラビリンチュリド(粘液網アメーバ)、が類似した運動性細胞を有することが見出され、それゆえ、光合成色素または藻と呼ばれるグループ名は、不適当になった。現在、ストラメノパイル系統内の2つのファミリーは、ラビリンチュラ科(Labyrinthulaceae)およびヤブレツボカビ科(Thraustochytriaceae)である。歴史的に、これらの独特な微生物についての多数の分類ストラテジーがあり、それらは、しばしば、同じ目(すなわち、ヤブレツボカビ目(Thraustochytriaceae))の下に分類される。これらのグループにおけるメンバーの関係は、まだ発展途上にある。PorterおよびLeanderは、単系におけるトラウストチトリド-ラビリンチュリドのクレードを示す18SのスモールサブユニットリボソームDNAに基づいてデータを発展させた。しかしながら、クレードは、2つの分岐により支えられる;第一は、トラウストチトリウムの3つの種およびウルケニア・プロフンダ(Ulkenia profunda)を含み、第二は、ラビリンチュラの3つの種、ラビリンチュロイデスの2つの種およびシゾチトリウム・アグレガツムを含む。
【0065】
本発明に用いられる場合、トラウストチトリドの分類学的配置は、それゆえに、下に要約されている:
界:黄色植物(ストラメノパイル)
門:不等毛類
目:ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)(Thraustochytrids)
科:ヤブレツボカビ科(Thraustochytriaceae)またはラビリンチュラ科(Labyrinthulaceae)
属:トラウストチトリウム、シゾチトリウム、ジャポノチトリウム、アプラノチトリウム、エリナ、ラビリンチュラ、ラビリンチュロイデス、またはラビリンチュロミキサ
【0066】
ある初期の分類学者らは、トラウストチトリウム属(アメーバ様ライフステージをもつもの)の数個の最初のメンバーをウルケニアと呼ばれる異なる属へ分類した。しかしながら、すべてではないにしても、たいていのトラウストチトリド(トラウストチトリウムおよびシゾチトリウムを含む)は、アメーバ様ステージを示し、それとして、ウルケニアは、ある人たちにより妥当な属であるとみなされていない。本明細書に用いられる場合、トラウストチトリウム属はウルケニアを含むものとする。
【0067】
門および界のより高い分類内の分類学的配置の不確定性にもかかわらず、トラウストチトリドは、メンバーがヤブレツボカビ目(Thraustochtriales)内に分類可能のままである、示差的かつ特徴的なグループ分けを存続している。
【0068】
本発明のさらなる態様は、FASタンパク質をコードする核酸分子を含む。本発明の単離された核酸分子は、上記のFAS相同体または断片を含む、単離されたFASタンパク質のいずれかをコードする核酸配列を含む核酸分子を含む。
【0069】
一つの態様において、そのような核酸分子は、天然に存在するFASタンパク質をコードする核酸配列の相補体(すなわち、FASタンパク質をコードする天然に存在する対立遺伝子変異体を含む)と、中程度のストリンジェント性条件下、およびよりいっそう好ましくは高いストリンジェント性条件、およびよりいっそう好ましくは非常に高いストリンジェント性条件下でハイブリダイズする単離された核酸分子を含む。好ましくは、本発明のFASタンパク質をコードする単離された核酸分子は、上記のタンパク質のいずれかをコードする核酸配列の相補体へ中程度、高いまたは非常に高いストリンジェント性条件下でハイブリダイズする核酸配列を含む。一つの態様において、単離された核酸分子は、SEQ ID NO:1により表された核酸配列の相補体へ中程度、高いまたは非常に高いストリンジェント性条件下でハイブリダイズする核酸配列を含む。そのような条件は、上で詳細に記載されている。
【0070】
本発明に従って、単離された核酸分子は、それの天然の環境から取り出されている(すなわち、ヒトの操作を受けている)核酸分子であり、DNA、RNA、またはcDNAを含むDNAもしくはRNAのいずれかの誘導体を含みうる。それとして、「単離された」とは、核酸分子が精製されている程度を反映しない。本発明の単離されたFAS核酸分子は、それの天然の源から単離されうる、または組換えDNAテクノロジー(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅、クローニング)もしくは化学合成を用いて作製されうる。単離されたFAS核酸分子は、例えば、FAS遺伝子、FAS遺伝子の天然の対立遺伝子変異体、それらのFASコード領域または部分、ならびに改変が、本発明のFASタンパク質をコードするまたは天然の遺伝子単離物とストリンジェントな条件下で安定なハイブリッドを形成する核酸分子の能力に実質的に干渉しないような様式で、ヌクレオチド挿入、欠失、置換および/もしくは逆位により改変されたFASコードおよび/または制御領域を含みうる。単離されたFAS核酸分子は、縮重を含みうる。本明細書に用いられる場合、縮重は、1つのアミノ酸が、異なるヌクレオチドコドンによりコードされうる現象を指す。従って、本発明のFASタンパク質をコードする核酸分子の核酸配列は、縮重のために変わりうる。本発明の単離されたFAS核酸分子は、FAS活性をもつタンパク質をコードするために必要とはされないことに留意する。FAS核酸分子は、例えば、切断された、突然変異した、または不活性のタンパク質をコードしうる。そのような核酸分子およびそのような核酸分子によりコードされるタンパク質は、他のFASタンパク質の同定のためのプローブおよびプライマーとして有用である。
【0071】
本発明によれば、FAS遺伝子への言及は、天然の(すなわち、野生型)FAS遺伝子に関連したすべての核酸配列を含むが、例えば、その遺伝子によりコードされるFASの産生を調節する制御領域(限定されるわけではないが、転写、翻訳または翻訳後調節領域のような)、加えてコード領域自身である。本発明者らは、本発明のFAS遺伝子の5'非翻訳領域(SEQ ID NO:4により本明細書に表されている)、加えて3'非翻訳領域(SEQ ID NO:3により本明細書に表されている)を本明細書に提供する。内因性FAS遺伝子のようなFASコード核酸分子の発現および/もしくは生物活性を制御するための、または異種性核酸分子(すなわち、異なるタンパク質をコードする分子)の発現もしくは活性を制御するための、FAS遺伝子のこれらの領域の使用は本発明により含まれる。さらに、本発明によるFAS遺伝子もしくはタンパク質の発現または活性の制御はまた、FASの発現および/または生物活性を制御しうる異種性制御配列ならびにタンパク質(すなわち、FAS遺伝子またはタンパク質と天然では付随していないもの)を含む、任意の制御配列またはタンパク質の使用を含む。そのような使用は、下に記載される。
【0072】
もう一つの態様において、FAS遺伝子は、与えられたFASタンパク質をコードする核酸配列と、同一ではないが類似した配列を含む天然に存在する対立遺伝子変異体でありうる。対立遺伝子変異体は、前に上で記載されている。句「核酸分子」および「遺伝子」は、核酸分子が上記のような遺伝子を含む場合、交換可能に用いられうる。
【0073】
FAS核酸分子相同体(すなわち、FAS相同体をコードする)は、当業者に公知のいくつかの方法を用いて作製されうる(例えば、Sambrook et al.参照)。例えば、核酸分子は、限定されるわけではないが、古典的な突然変異誘発および組換えDNA技術(例えば、部位特異的突然変異誘発、化学処理、制限酵素切断、核酸断片のライゲーションおよび/またはPCR増幅)、または核酸分子の混合物およびその組み合わせを「構築する」ためのオリゴヌクレオチド混合物の合成ならびに混合物群のライゲーションを含む、様々な技術を用いて改変されうる。FASをコードする組換え核酸分子を改変するためのもう一つの方法は、遺伝子シャッフリング(すなわち、分子ブリーディング)である(例えば、Stemmerの米国特許第5,605,793号; Minshull and Stemmer, 1999, Curr. Opin. Chem. Biol. 3:284-290; Stemmer, 1994, P.N.A.S. USA 91:10747-10751参照、それらのすべては参照により全体として本明細書に組み入れられている)。この技術は、FAS活性に複数の同時的変化を効率的に導入するために用いられうる。核酸分子相同体は、FAS遺伝子とのハイブリダイゼーションにより、または核酸分子によりコードされるタンパク質の機能(例えば、酵素活性)をスクリーニングすることにより、選択されうる。
【0074】
本発明の一つの態様は、SEQ ID NO:1およびそれに完全に相補的な核酸配列の少なくとも12個の連続したヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドに関する。オリゴヌクレオチドプライマーとしてまたはプローブとして用いられる核酸分子の最小サイズは、典型的には、核酸分子がGCリッチである場合には、少なくとも約12〜約15ヌクレオチド長、それらが、ATリッチである場合には、少なくとも約15〜約18塩基長である。プローブまたはプライマーが、意図された使用に適している本発明のFAS遺伝子の任意の部分を含みうり、プローブが典型的にはプライマーより大きいという点において、本発明のオリゴヌクレオチドプローブまたはプライマーの最大サイズに、実際的な制限以外に制限はない。それとして、本発明のオリゴヌクレオチドは、約12ヌクレオチドと約12,408ヌクレオチドの間の、全整数における(例えば、12、13、14、15、16......12,407、12,408)、任意の長さの断片、またはよりいっそう長いプローブを含みうる。
【0075】
本発明の一つの態様は、組換え細胞を形成するように宿主細胞へ核酸分子を発現させるおよび/または送達するような、核酸分子をクローニング、シーケンシングおよび/または操作するのに適している任意の核酸ベクター(例えば、組換えベクター)へ挿入される本発明の少なくとも1つの単離された核酸分子を含む、組換え核酸分子を含む。そのようなベクターは、天然では本発明の核酸分子に隣接して見出されない核酸配列である異種性核酸配列を含むが、ベクターはまた、天然で本発明の核酸分子に隣接して見出される制御核酸配列(例えば、プロモーター、非翻訳領域)を含みうる(下で詳細に考察されている)。ベクターは、RNAかまたはDNAのいずれか、原核生物かまたは真核生物のいずれかでありうり、典型的には、ウイルスまたはプラスミドである。ベクターは、染色体外要素(例えば、プラスミド)として維持されうる、またはそれは染色体へ組み込まれうる。ベクター全体は、宿主細胞内の変わらない位置にありうる、または特定の条件下で、プラスミドDNAは除去されて、本発明の核酸分子を置き去りにしうる。組み込まれた核酸分子は、染色体プロモーター制御下、本来のもしくはプラスミドのプロモーター制御下、またはいくつかのプロモーター制御の組み合わせの下でありうる。核酸分子の単一または複数のコピーが、染色体へ組み込まれうる。ベクターは、組織特異的プロモーターを用いることによるような、宿主細胞における組織特異的発現のために設計されうる。いくつかの組換えベクターを含む本発明に有用ないくつかの組換え核酸分子は、実施例で詳細に記載されている。
【0076】
典型的には、組換え分子は、1つまたは複数の転写制御配列(例えば、プロモーター、オペレーター、リプレッサー、エンハンサー、ターミネーター)に機能的に結合された本発明の核酸分子を含む。本明細書に用いられる場合、句「組換え分子」または「組換え核酸分子」は、主として、転写制御配列に実施可能に連結した核酸分子または核酸配列を指すが、そのような核酸分子が本明細書に考察されているような組換え分子である場合、句「核酸分子」と交換可能に用いられうる。本発明によれば、句「機能的に結合された」とは、核酸分子を転写制御配列に、その分子が、宿主細胞へ形質転換される(すなわち、形質転換される、形質導入される、トランスフェクションされる、または接合される)場合、発現されることができるような様式で連結することを指す。転写制御配列は、転写の開始、伸長または終結を制御する配列である。特に重要な転写制御配列は、プロモーター、エンハンサー、オペレーター、およびリプレッサー配列のような転写開始を制御するものである。適した転写制御配列は、本発明のFASタンパク質を発現させるために有用な組換え細胞の少なくとも1つにおいて機能することができる任意の転写制御配列を含む。様々なそのような転写制御配列は、当業者に公知である。好ましい転写制御配列は、ヤブレツボカビ目の微生物、細菌、真菌(例えば、酵母)または植物細胞において機能するものを含む。他の好ましい転写制御配列は、植物についてであり、特定の組織(例えば、葉、茎、根、花、種)における遺伝子発現を促進するものを含み、本明細書では、組織特異的転写制御配列と呼ばれうる。そのような配列は、当技術分野において周知である。
【0077】
本発明の一つの態様において、適した転写制御配列は、天然で本発明のFAS遺伝子に見出される制御配列を含む。例えば、シゾチトリウムFASの制御配列は、FASプロモーターを含むが、SEQ ID NO:3により本明細書に表されたヌクレオチド(3'非翻訳領域)に、またはSEQ ID NO:4により本明細書に表されたヌクレオチド(5'非翻訳領域)に見出される。もう一つの態様において、本発明の内因性および/もしくは組換えFAS遺伝子もしくはタンパク質の発現ならびに/または生物活性を増加させる(増強する、上方制御する)、可能にする/維持する、または減少させる(減弱させる、下方制御する、低下させる)任意の制御配列が、用いられうる。様々な宿主生物体についてのプロモーター配列を含む制御配列は、当技術分野において公知であり、すべて、本発明での使用として含まれる。
【0078】
DNAまたはRNAのいずれかでありうる、本発明の組換え分子はまた、組換え細胞と適合性のある、転写制御配列、翻訳制御配列、複製起点、および他の制御配列のような追加の制御配列を含みうる。一つの態様において、宿主細胞染色体へ組み込まれるものを含む、本発明の組換え分子はまた、発現されるFASが、そのタンパク質を産生する細胞から分泌される、または特定の細胞小器官もしくは膜へターゲットされるのを可能にしうるシグナル(ターゲティング)(すなわち、シグナルセグメント核酸配列)を含む。例えば、一つの態様において、適したシグナルセグメントは、天然で本発明のFASと付随しているシグナルセグメント、または本発明によるFASタンパク質の分泌を方向づける能力がある任意の異種性シグナルセグメントを含む。もう一つの態様において、本発明の組換え分子は、発現されたFASタンパク質が宿主細胞の膜へ送達され、かつ挿入されるのを可能にしうるシグナル配列を含む。もう一つの態様において、本発明の組換え分子は、小胞体、葉緑体、有色体、他の色素体、または細胞質のような特定の細胞下の細胞小器官またはコンパートメントへのFASの送達を特異的にターゲットするシグナル配列を含む。
【0079】
本発明の1つまたは複数の組換え分子は、本発明のコードされた産物(例えば、FASタンパク質)を産生するために用いられうる。一つの態様において、コードされた産物は、本明細書に記載されているような核酸分子をそのタンパク質を産生するのに効率的な条件下で発現させることにより、産生される。コードされた産物を産生するための好ましい方法は、宿主細胞を1つまたは複数の組換え分子で形質転換して、組換え細胞を形成することによる。形質転換するための適切な宿主細胞は、限定されるわけではないが、形質転換されうる、ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)の微生物を含む任意の微細藻類細胞、または任意の細菌細胞、真菌(例えば、酵母)細胞、他の微生物細胞、または植物細胞を含む。宿主細胞は、形質転換されていない細胞か、または少なくとも1つの核酸分子ですでに形質転換されている細胞のいずれかでありうる。
【0080】
本発明での使用のために好ましい宿主細胞は、限定されるわけではないが、以下のものを含む、本発明のFASタンパク質の発現に適している任意の微生物細胞または植物細胞を含む:(1)限定されるわけではないが、作物(例えば、キャノーラ - ブラシカ・ナプス(Brassica napus)、コメ、トウモロコシ、アマ、ベニバナ、ダイズ、ヒマワリ、ナタネ、アマニ)を含む植物;(2)限定されるわけではないが、フィコマイセス sp.(Phycomyces sp.)、ニューロスポラ sp.(Neurospora sp.)、ムコール sp.(Mucor sp.)(例えば、ムコール・シルシネロイデス(Mucor circinelloides))、ブラケスレア sp.(Blakeslea sp.)、モルチエレラ sp.(Mortierella sp.)(例えば、モルチエレラ・アルピナ(Mortierella alpina))、ロドトルラ sp.(Rhodotorula sp.)、リポマイセス sp.(Lipomyces sp.)(例えば、リポマイセス・スタルケイ(Lipomyces starkeyi))、クリプトコッカス sp.(Cryptococcus sp.)(例えば、クリプトコッカス・クルバツス(Cryptococcus curvatus)、アピオトリクム・クルバツム(Apiotricum curvatum)としても知られている)、クニングハメラ sp.(Cunninghamella sp.)(例えば、クニングハメラ・エチヌラータ(Cunninghamella echinulata))、ヤロウィア sp.(Yarrowia sp.)(例えば、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica))、および酵母(例えば、サッカロマイセス sp.(Saccharomyces sp.)(例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))、ファーフィア・ロドザイマ(Phaffia rhodozyma)、キサントフィロマイセス・デンドロホウス(Xanthophyllomyces dendrohous)、カンジダ sp.(Candida sp.)(例えば、カンジダ・ユーティルス(Candida utilus))を含む真菌;(3)限定されるわけではないが、緑藻類(例えば、ヘマトコッカス・プルビアルス(Haematococcus pluvialus)、クロロコッカム(Chlorococcum)、スポンジオコッカム(Spongiococcum)、ネオスポンジオコッカム(Neospongiococcum)、デュナリエラ(Dunaliella))、クリプテコジニウム・コーニー(Crypthecodinium cohnii)、ポルフィリジウム・クルエンツム(Porphyridium cruentum)、フェオダクチルム・トリコルニクム(Phaeodactylum tricornicum)、ナノクロロプシス・オクラータ(Nannochloropsis oculata)、イソチリシス・ガルバナ(Isochrysis galbana))、コレラ sp.(Chlorella sp.)を含む藻類;(4)限定されるわけではないが、藍藻類(例えば、スピルリナ(Spirulina)、シネココッカス(Synechococcus)、シネコシスティス(Synechocystis))、大腸菌(Escherichia coli)、フラボバクテリウム(Flavobacterium)、パラコッカス(Paracoccus)、エルウィニア(Erwinia)、アグロバクテリウム(Agrobacterium)、ロドコッカス(Rhodococcus)、マイコバクテリウム(Mycobacterium)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、トードコッカス(Thodococcus)、ノカルディア(Nocardia)、シュードモナス(Pseudomonas)を含む細菌;および(5)限定されるわけではないが、以下のものを含むヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)のメンバー:トラウストチトリウム sp.(Thraustochytrium sp.)(U. ビスルゲンシス(U. visurgensis)、U. アモエボイダ(U. amoeboida)、U. サルカリアナ(U. sarkariana)、U. プロフンダ(U. profunda)、U. ラディアタ(U. radiata)、U. ミヌタ(U. minuta)、およびウルケニア sp. BP-5601(Ulkenia sp. BP-5601)のような旧ウルケニア種を含む、ならびにトラウストチトリウム・ストリアツム(Thraustochytrium striatum)、トラウストチトリウム・オーレウム(Thraustochytrium aureum)およびトラウストチトリウム・ロゼウム(Thraustochytrium roseum)を含む);ラビリンチュロイデス(Labyrinthuloides)、ジャポノチトリウム(Japonochytrium)(例えば、ジャポノチトリウム sp.(Japonochytrium sp.)およびシゾチトリウム(Schizochytrium)(例えば、シゾチトリウム sp.(Schizochytrium sp.)、シゾチトリウム・アグレガツム(Schizochytrium aggregatum)、シゾチトリウム・リマシヌム(Schizochytrium limacinum)、シゾチトリウム・ミヌツム(Schizochytrium minutum))。
【0081】
本発明によれば、用語「形質転換された」または「形質転換」は、外因性核酸分子(すなわち、組換え核酸分子)が細胞へ挿入されうる任意の方法を指すために用いられる。微生物系において、用語「形質転換」は、微生物による外因性核酸の獲得による遺伝する変化を記載するために用いられ、動物細胞における同様の過程に関してより一般的に用いられる用語「トランスフェクション」と本質的に同義でありうる。用語「形質転換」は、好ましくは、細菌および酵母のような微生物細胞への、または植物細胞への核酸分子の導入を指すために本明細書に用いられる。それゆえに、形質転換技術は、限定されるわけではないが、トランスフェクション、電気穿孔法、マイクロインジェクション、リポフェクション、微粒子銃法(粒子衝突)、吸着、アグロバクテリウム媒介型形質転換、感染およびプロトプラスト融合を含む。原核生物および真核生物の宿主細胞を形質転換する方法は、当技術分野において周知である。例えば、参照により全体として本明細書に組み入れられている、Maniatis et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harobr, NY (1982), Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, NY (1989)を参照。ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)のメンバーを形質転換するための好ましい方法は、参照により全体として本明細書に組み入れられている、2002年4月16日に出願された、米国特許出願第10/124,807号に記載されている。
【0082】
生物学的および物理学的形質転換プロトコールを含む植物形質転換のためのいくつかの方法が開発されている。例えば、Miki et al., 「Procedures for Introducing Foreign DNA into Plants」, Methods in Plant Molecular Biology and Biotechnology, Glick, B.R. and Thompson, J.E. Eds. (CRC Press, Inc., Boca Raton, 1993) pp. 67-88を参照。さらに、植物細胞または組織の形質転換および植物の再生のためのベクターならびにインビトロの培養方法が利用できる。例えば、Gruber et al., 「Vectors for Plant Transformation」, Methods in Plant Molecular Biology and Biotechnology, Glick, B.R. and Thompson, J.E. Eds. (CRC Press, Inc., Boca Raton, 1993) pp. 89-119を参照。
【0083】
植物へ発現ベクターを導入するための最も広く利用されている方法は、アグロバクテリウムの天然の形質転換系に基づいている。例えば、Horsch et al., Science 227:1229 (1985)を参照。A. ツメファシエンス(A. tumefaciens)およびA. リゾゲネス(A. rhizogenes)は、遺伝的に植物細胞を形質転換する植物病原性土壌細菌である。A. ツメファシエンスおよびA. リゾゲネスのそれぞれのTiならびにRiプラスミドは、植物の遺伝的形質転換の原因である遺伝子を有する。例えば、Kado, C.I., Crit. Rev. Plant. Sci. 10:1 (1991)を参照。アグロバクテリウムベクター系およびアグロバクテリウム媒介型遺伝子移入のための方法の記載は、それぞれが参照により全体として本明細書に組み入れられている、Gruber et al., 前記, Miki et al., 前記, Moloney et al., Plant Cell Reports 8:238 (1989), ならびに米国特許第4,940,838号および第5,464,763号を含む、いくつかの参照文献により提供されている。
【0084】
植物形質転換の一般的に適用できる方法は、DNAが微粒子の表面上に保有されている微粒子媒介型形質転換である。発現ベクターは、植物細胞壁および膜を貫通するのに十分な速度まで微粒子を加速する微粒子銃装置で植物組織へ導入される。Sanford et al., Part. Sci. Technol. 5:27 (1987), Sanford, J.C., Trends Biotech. 6:299 (1988), Sanford, J.C., Physiol. Plant 79:206 (1990), Klein et al., Biotechnology 10:268 (1992)、それぞれは、参照により全体として本明細書に組み入れられている。
【0085】
植物へのDNAの物理的送達のもう一つの方法は、標的細胞の超音波処理である。Zhang et al., Bio/Technology 9:996 (1991)。または、リポソームまたはスフェロプラスト融合は、植物へ発現ベクターを導入するために用いられている。Deshayes et al., EMBO J., 4:2731 (1985), Christou et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:3962 (1987)、それぞれは、参照により全体として本明細書に組み入れられている。CaCl2沈澱、ポリビニルアルコールまたはポリ-L-オルニチンを用いるプロトプラストへのDNAの直接的取り込みもまた、報告されている。Hain et al., Mol. Gen. Genet. 199:161 (1985)およびDraper et al., Plant Cell Physiol. 23:451 (1982)、それぞれは参照により全体として本明細書に組み入れられている。プロトプラストおよび細胞全体および組織の電気穿孔法もまた記載されている。Donn et al., In Abstracts of VIIth International Congress on Plant Cell and Tissue Culture IAPTC, A2-38, p. 53 (1990); D'Halluin et al., Plant Cell 4:1495-1505 (1992)およびSpencer et al., Plant Mol. Biol. 24:51-61 (1994)、参照により全体として本明細書に組み入れられている。
【0086】
一つの態様において、本発明の単離されたFASタンパク質は、そのタンパク質を産生するのに効果的な条件下でそのタンパク質を発現させる細胞を培養し、そのタンパク質を回収することにより、作製される。培養するために好ましい細胞は、本発明の組換え細胞である。効果的な培養条件は、限定されるわけではないが、タンパク質産生を可能にする、有効な培地、バイオリアクター、温度、pHおよび酸素条件を含む。有効な培地とは、細胞が、本発明のFASタンパク質を産生するように培養される任意の培地を指す。そのような培地は、典型的には、同化できる炭素、窒素、およびリン酸源、ならびに適切な塩、ミネラル、金属およびビタミンのような他の栄養分を有する水性培地を含む。本発明の細胞は、通常の発酵バイオリアクター、振盪スラスコ、試験管、マイクロタイター皿、およびペトリプレートで培養されうる。培養は、組換え細胞に適切な温度、pHおよび酸素含有量で行われうる。そのような培養条件は、当業者の専門知識内である。
【0087】
産生のために用いられるベクターおよび宿主系に依存して、本発明の結果として生じるタンパク質は、組換え宿主細胞内に留まってもよい;培地へ分泌されてもよい;大腸菌における細胞膜周辺腔のような、2つの細胞膜間の空間へ分泌されてもよい;または細胞膜の外側の空間へ保持されてもよいかのいずれかである。句「タンパク質を回収すること」とは、タンパク質を含む全培地を収集することを指し、分離または精製の追加の段階を含む必要はない。本発明のタンパク質は、必要に応じて、限定されるわけではないが、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、濾過、電気泳動、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、コンカナバリンAクロマトグラフィー、等電点電気泳動および示差的可溶化のような標準タンパク質精製技術を用いて精製されうる。本発明のタンパク質が精製される場合には、それらは、好ましくは、「実質的に純粋な」形で回収される。本明細書に用いられる場合、「実質的に純粋な」とは、生体触媒または他の試薬としてのタンパク質の効果的使用を可能にする純度を指す。
【0088】
本発明の方法により短鎖脂肪酸の有意に高い収量を産生するために、微生物または植物(または植物の部分、例えば、種、花粉、胚、花、果実、苗条、葉、根、茎、外植片など)が本発明のFASタンパク質の作用を増加させるように、ならびに好ましくは、FASタンパク質、およびそれにより、短鎖脂肪酸最終産物の産生を増強するように、遺伝子改変されうる。
【0089】
本発明の好ましい態様において、本発明の内因性FASタンパク質を含む微生物(例えば、シゾチトリウム)は、FASタンパク質の発現および活性を増加させるまたは低下させるように遺伝子改変される。理論にとらわれるつもりはないが、本発明者らは、シゾチトリウムのようなトラウストチトリドにおける内因性FASタンパク質の発現または活性の減弱が、生物体による非常に望ましい多価不飽和脂肪酸(PUFA)の蓄積を増加させ、PUFAの合成が、FAS系と同じ基質の一部を共有するPUFAポリケチド合成酵素(PKS)を用いて進行する、と考える(このPUFA PKS系は、参照により全体として本明細書に組み入れられている、2002年10月24日に公開されたPCT公開第WO 02/083870号に詳細に記載されている)。それゆえに、微生物においてFASの発現または活性を減少させることは、PUFAの産生を増加させる。
【0090】
本明細書に用いられる場合、遺伝子改変された細菌、原生生物、微細藻類、真菌、または他の微生物、および特に、本明細書に記載されたヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)(例えば、トラウストチトリド)の属の任意のメンバー(例えば、シゾチトリウム、トラウストチトリウム、ジャポノチトリウム、ラビリンチュロイデス)のような遺伝子改変された微生物は、所望の結果が達成される(すなわち、増加したもしくは改変されたFAS発現および/もしくは活性、FASタンパク質を用いる所望の生成物の産生、または減少したもしくは改変されたFAS発現および/もしくは活性)ように、それの通常の(すなわち、野生型または天然に存在する)型から改変されている(すなわち、突然変異している、または変化している)ゲノムを有する。微生物の遺伝子改変は、古典的な菌株発生および/または分子遺伝学的技術を用いて達成されうる。そのような技術は、一般的に、微生物について、例えば、参照により全体として本明細書に組み入れられている、Sambrook et al., 1989, 前記に開示されている。遺伝子改変された微生物は、そのような改変が微生物内で所望の効果を与えるような様式で、核酸分子が挿入、欠失または改変されている(すなわち、突然変異している;例えば、ヌクレオチドの挿入、欠失、置換および/または逆位により)微生物を含みうる。
【0091】
本発明に従って改変しうる好ましい微生物宿主細胞は、限定されるわけではないが、任意の細菌、原生生物、微細藻類、真菌または原生動物を含む。一つの局面において、遺伝子改変しうる好ましい微生物は、限定されるわけではないが、ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)の任意の微生物を含む。本発明での使用に特に好ましい宿主細胞は、限定されるわけではないが、以下を含む属由来の微生物を含みうる:トラウストチトリウム、ラビリンチュロイデス、ジャポノチトリウム、およびシゾチトリウム。これらの属内の好ましい種は、限定されるわけではないが、以下を含む:シゾチトリウム・アグレガツム、シゾチトリウム・リマシヌム、シゾチトリウム・ミヌツムを含む任意のシゾチトリウム種;任意のトラウストチトリウム種(U. ビスルゲンシス、U. アモエボイダ、U. サルカリアナ、U. プロフンダ、U. ラディアタ、U. ミヌタ、およびウルケニア sp. BP-5601のような旧ウルケニア種を含む)、およびトラウストチトリウム・ストリアツム、トラウストチトリウム・オーレウム、トラウストチトリウム・ロゼウムを含む;ならびに任意のジャポノチトリウム種。ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)の特に好ましい菌株は、限定されるわけではないが、以下を含む:シゾチトリウム sp. (S31)(ATCC 20888);シゾチトリウム sp. (S8)(ATCC 20889);シゾチトリウム sp. (LC-RM)(ATCC 18915);シゾチトリウム sp. (SR21);シゾチトリウム・アグレガツム(Goldstein et Belsky)(ATCC 28209);シゾチトリウム・リマシヌム(Honda et Yokochi)(IFO 32693);トラウストチトリウム sp. (23B)(ATCC 20891);トラウストチトリウム・ストリアツム(Schneider)(ATCC 24473);トラウストチトリウム・アウレウム(Goldstein)(ATCC 34304);トラウストチトリウム・ロセウム(Goldstein)(ATCC 28210);およびジャポノチトリウム sp. (L1)(ATCC 28207)。遺伝子改変のための適切な宿主微生物の他の例は、限定されるわけではないが、サッカロマイセス・セレビシエ、サッカロマイセス・カールスベルゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)を含む酵母、またはカンジダ、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)のような他の酵母、または他の真菌、例えば、アスペルギルス、ノイロスポラ、ペニシリウムなどのような糸状真菌を含む。細菌細胞もまた宿主として用いられうる。これは、発酵過程に有用でありうる大腸菌を含む。または、ラクトバチルス種またはバチルス種のような宿主が宿主として用いられうる。
【0092】
本明細書に用いられる場合、遺伝子改変された植物は、本発明の所望の産物(例えば、短鎖脂肪酸または任意の他の脂質産物)を産生するのに有用な高等植物、および特に、任意の消費できる植物を含む、任意の遺伝子改変された植物を含みうる。そのような遺伝子改変された植物は、所望の結果が達成される(すなわち、増加したもしくは改変されたFAS発現および/もしくは活性ならびに/またはFASタンパク質を用いる所望の生成物の産生)ように、それの通常の(すなわち、野生型または天然に存在する)型から改変されている(すなわち、突然変異している、または変化している)ゲノムを有する。植物の遺伝子改変は、古典的な系統発生および/または分子遺伝学的技術を用いて達成されうる。所望のアミノ酸配列をコードする組換え核酸分子が植物のゲノムへ組み入れられている、トランスジェニック植物を作製するための方法は、当技術分野において公知であり、上で簡単に記載されている。本発明に従って遺伝子改変しうる好ましい植物は、好ましくは、ヒトを含む動物による消費に適した植物である。
【0093】
本発明に従って遺伝子改変しうる好ましい植物(すなわち、植物宿主細胞)は、限定されるわけではないが、任意の高等植物、および特に、作物および特にそれらの油について用いられる植物を含む消費できる植物、を含む。そのような植物は、例えば、以下を含みうる:キャノーラ、ダイズ、ナタネ、アマニ、トウモロコシ、ベニバナ、アマ、ヒマワリ、タバコ、コメ、トマトおよびニンジン。他の好ましい植物は、薬剤、香料添加剤、栄養補助剤、機能性食品成分、もしくは美容的活性剤として用いられる化合物を産生することが知られている植物、またはこれらの化合物/作用物質を産生するように遺伝子操作されている植物を含む。
【0094】
本発明によれば、遺伝子改変された微生物または植物は、組換えテクノロジーを用いて改変されている微生物または植物を含む。本明細書に用いられる場合、結果として、遺伝子発現における、遺伝子の機能における、または遺伝子産物(すなわち、遺伝子によりコードされるタンパク質)の機能における減少を生じる遺伝子改変は、遺伝子の不活性化(完全または部分的)、減弱、欠失、中断、妨害または下方制御と呼ばれうる。例えば、結果として、そのような遺伝子によりコードされるタンパク質の機能において減少を生じる遺伝子における遺伝子改変は、遺伝子の完全な欠失(すなわち、遺伝子が存在しない、かつそれゆえに、タンパク質が存在しない)、結果としてタンパク質の不完全な翻訳を生じるかもしくは全く翻訳を生じない遺伝子における突然変異(例えば、タンパク質が発現されない)、またはタンパク質の発現および/もしくは本来の機能を減少させる、減弱するもしくは消滅させる、遺伝子における突然変異、もしくは宿主への制御配列もしくはタンパク質の導入(例えば、酵素活性もしくは作用が減少しているか、または酵素活性もしくは作用をもたないタンパク質が発現される)の結果でありうる。本発明において、FASの発現または活性を減少させる遺伝子改変は、好ましくは、完全な不活性化ではないが、そのような突然変異は微生物において致死的であるためである。好ましくは、そのような改変は、FASタンパク質の発現または機能を低下させる、または減弱するが、完全には欠失させない。結果として、遺伝子発現または機能における増加を生じる遺伝子改変は、遺伝子の増幅、過剰産生、過剰発現、活性化、増強、付加、上方制御と呼ばれうる。
【0095】
本発明の一つの態様において、微生物または植物の遺伝子改変は、本発明のFASタンパク質の発現および/または活性を増加または減少させる。そのような遺伝子改変は、任意の型の改変を含み、具体的には、組換えテクノロジーにより、および/または古典的突然変異誘発によりなされる改変を含む。FASの作用(活性)を増加させることへの言及は、問題になっている微生物もしくは植物における、および/または結果としてタンパク質の機能性の増加を生じている生物体を形質転換しているFASコード化DNAを含む組換え核酸における、任意の遺伝子改変を指し、かつタンパク質のより高い活性(例えば、特異的活性またはインビボの酵素活性)、タンパク質の抑制または分解の低減、およびタンパク質の過剰発現を含みうることに留意するべきである。例えば、遺伝子コピー数が増加させられうる、発現レベルが、本来のプロモーターのよりも高いレベルの発現を与えるプロモーターの使用により増加させられうる、または遺伝子が、酵素の作用を増加させうる遺伝子操作または古典的突然変異誘発により変化させられうる。一つの局面において、FAS活性または発現は、FAS遺伝子もしくはタンパク質と相互作用し、通常では、FAS遺伝子もしくはタンパク質の発現もしくは活性を調節する、核酸またはタンパク質を改変することにより改変されうる。そのような改変は、組換えまたは古典的突然変異の技術により達成されうる。
【0096】
同様に、FASタンパク質の作用(活性)を減少させることへの言及は、問題になっている微生物もしくは植物における、および/または結果として酵素の機能性の減少を生じている生物体を形質転換しているFASコードDNA(FAS制御領域またはその阻害剤を含む)を含む組換え核酸における、任意の遺伝子改変を指し、かつ酵素の活性の減少(例えば、特異的活性)、酵素の抑制または分解の増加、および酵素の発現の低下または消失を含む。例えば、本発明のFASの作用は、そのタンパク質の産生を遮断するまたは低下させること、そのタンパク質をコードする遺伝子の全部もしくは一部を「ノックアウトすること」、FAS活性を低下させること、またはFASの活性(本発明のFASの生物活性のいずれか1つ、2つまたはそれ以上)を阻害することにより、減少させられうる。酵素の産生を遮断するまたは低下させることは、そのタンパク質をコードする遺伝子を、成育培地において誘導化合物の存在を必要とする異種性プロモーターの制御下に置くことを含みうる。誘導物質が培地から枯渇するような条件を確立することにより、そのタンパク質をコードする遺伝子の発現(および、それゆえに、タンパク質合成の)は、要望どおり、オフまたはオンにされうる。タンパク質の活性を遮断するまたは低下させることはまた、参照により全体として本明細書に組み入れられている、米国特許第4,743,546号に記載されたものと類似した切除テクノロジーアプローチを用いることを含みうる。このアプローチを用いるために、対象となるタンパク質をコードする遺伝子は、ゲノムからの遺伝子の特定の制御された切除を可能にする特定の遺伝子配列間にクローニングされる。切除は、例えば、米国特許第4,743,546号においてのように、培養の培養温度におけるシフトにより、またはいくつかの他の物理的もしくは栄養的シグナルにより、促されうる。2002年10月24日に公開されたPCT公開第WO 02/083869号は、ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)における遺伝子の不活性化のための方法を記載し、参照により全体として本明細書に組み入れられている。
【0097】
本発明の一つの態様において、突然変異誘発プログラムは、対象となる微生物を得るために選択的スクリーニング過程と組み合わせられうることが企図される。突然変異誘発方法は、限定されるわけではないが、以下を含みうる:化学的突然変異誘発、遺伝子混合、特定の酵素ドメインをコードする遺伝子の領域の切り換え、またはそれらの遺伝子の特定の領域に限定された突然変異誘発、加えて他の方法。例えば、ハイスループット突然変異誘発方法は、所望の脂肪酸または他の脂質産物の産生に影響を及ぼす、またはを最適化するために用いられうる。そのような方法は、分子生物学的技術によりFASの選択的(すなわち、ターゲットされた、または方向づけられた)改変と組み合わせられうる。例えば、微生物を、例えば、本発明のFASタンパク質をコードする組換え核酸分子の、内因性FASを含む宿主細胞を含む任意の適した宿主細胞への導入により改変するために、選択的改変技術を用いることができ、その後、脂肪酸産生を最適化するために、および脂肪酸合成活性を改善した菌株を創造するために、または他の改善されたもしくは所望の質をもつ微生物について選択するために、突然変異誘発テクノロジーを用いることができる。スクリーニング方法はまた、シゾチトリウムのFASと相同的なFAS遺伝子を有する他の生物体を同定するために有用である。そのような生物体において同定された相同性FAS遺伝子は、本明細書に記載されたものと同様の方法に用いられうる。
【0098】
本発明の一つの態様において、遺伝子改変された微生物または植物は、一般的に脂肪酸を合成する能力の増強、または特定の短鎖脂肪酸を合成する能力の増強をもつ微生物または植物を含む。本発明によれば、産物を「合成する能力の増強」とは、微生物または植物が、同じ条件下で培養または増殖された野生型微生物または植物と比較して、増加した量の産物を産生するような、産物の合成に関連した経路における任意の増強または上方制御を指す。本発明の一つの態様において、短鎖脂肪酸を合成する微生物または植物の能力の増強は、FAS遺伝子の発現の増幅により達成される。FASの発現の増幅は、例えば、ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)の場合、FAS遺伝子をコードする組換え核酸分子の導入により、または本来のFAS遺伝子に関する調節管理を改変することにより、任意の適した宿主細胞(例えば、ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)細胞、細菌細胞、酵母細胞、植物細胞)において達成されうる。
【0099】
本発明によれば、生物体または核酸分子の「選択的改変」は、ターゲットされた、または方向づけられた改変を指し、行われうる改変は、例えば、本発明のFASの遺伝子構造の知識によりあらかじめ決められて、設計される。例えば、生物体の選択的改変は、FASタンパク質をコードする組換え核酸分子の導入(例えば、過剰発現)により、または相同組換えによるような内因性遺伝子のターゲットされた改変により、達成されうる。選択的改変は、ランダムな突然変異誘発技術とは区別され、後者の過程において、突然変異は、非標的特異的方法によりランダムに引き起こされ、所望の表現型は、その後、その表現型についての突然変異体のスクリーニングを通して選択される。選択的改変技術および古典的ランダムな突然変異誘発およびスクリーニング技術は、様々な遺伝子改変された生物体を作製するために本発明において組み合わせられうる。
【0100】
それゆえに、本発明のFASをコードする核酸配列を含む組換え核酸分子で形質転換されている微生物または植物を提供することが本発明の態様である。そのような核酸配列を含む好ましい組換え核酸分子は、前に本明細書に記載されたFAS核酸配列のいずれかを含む組換え核酸分子を含む。突然変異体の、または相同体のFASをコードする核酸配列を含む遺伝子改変された組換え核酸分子で形質転換されている微生物または植物を提供することが、本発明の一つの態様である。タンパク質相同体は、本明細書で詳細に記載されている。
【0101】
微生物が、本発明のFASタンパク質をコードする核酸分子を含み、かつFASタンパク質をコードする核酸分子が、FASの発現または生物活性を増加させるように改変されている、生合成過程により脂肪酸を産生するための遺伝子改変された微生物を提供することが、本発明のもう一つの態様である。FASは、本明細書に記載されているような相同体および生物活性断片を含む、本明細書に記載された任意のFASでありうる。本発明の一つの局面において、微生物は内因性FASを有し(例えば、ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)のメンバー)、内因性遺伝子は、FASの発現または活性を増加させるように改変されている(例えば、本来のプロモーターのより高いレベルの発現を与えるプロモーターを導入することにより、酵素の活性を増加させるように内因性遺伝子を遺伝的に突然変異することにより、など)。もう一つの態様において、微生物は、本発明のFASをコードする組換え核酸分子による形質転換により遺伝子改変されている。そのような微生物は、任意の適した宿主微生物でありうり、一つの態様においては、微生物が内因性FASおよび組換えFASの両方を含むような、ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)微生物(例えば、シゾチトリウム)である。このシナリオにおけるFASタンパク質は、同一である必要はないが、なぜなら、内因性および組換えFASタンパク質の一方または両方は、FAS相同体を作製するように、本明細書に開示された野生型シゾチトリウムFASと比較して改変されうるからである。例えば、内因性もしくは組換えFASコード化核酸分子の一方または両方は、FASタンパク質の発現または活性を増加させるように改変されうる。
【0102】
従って、本発明の一つの態様は、上記のように、FASの発現または生物活性を増加させるように改変されている、本発明のFASをコードする核酸分子を含む本明細書に記載された微生物のいずれかを含むバイオマスである。本明細書に用いられる場合、バイオマスは、発酵または培養過程から収集されている微生物細胞の集団を指す。微小植物相のバイオマスを接種する、増殖させる、および回収するための様々な発酵パラメーターは、参照により全体として本明細書に組み入れられている、米国特許第5,130,242号で詳細に考察されている。発酵生産から収集されたバイオマスは、乾燥され(例えば、噴霧乾燥、トンネル乾燥、真空乾燥、または類似した過程)、任意の食品、医薬製品または他の望ましい製品に用いられうる。または、収集かつ洗浄されたバイオマスは、様々な製品に直接的に(乾燥なしで)用いられうる。それの有効期間を延ばすために、湿ったバイオマスは、酸性化されうる(約pH=3.5〜4.5)および/または酵素を不活性化するために低温殺菌されうるもしくはフラッシュ加熱殺菌されうる、およびその後、真空または非酸化雰囲気(例えば、N2またはCO2)下で缶詰にされうる、瓶詰めされうる、または包装されうる。
【0103】
本発明の一つの態様は、上記のようなFASタンパク質の発現または生物活性の増加をもつ遺伝子改変された微生物を発酵培地で培養する段階を含む、生合成により短鎖脂肪酸を産生するための方法である。例えば、微生物は、相同体および酵素活性部分を含む、本明細書に記載された任意のFASタンパク質の発現または生物活性の増加をもちうる。FASタンパク質は、本発明による内因性FASタンパク質および/または組換えFASタンパク質でありうる。微生物は、所望の脂肪酸または他の脂質産物を産生するのに効果的な条件下で適した培地において培養または増殖される。適切なまたは効果的な培地は、本発明の遺伝子改変された微生物が所望の産物を産生することができる任意の培地を指す。そのような培地は、典型的には、同化できる炭素、窒素およびリン酸源を含む水性培地である。そのような培地はまた、適切な塩、ミネラル、金属および他の栄養素を含みうる。本発明の微生物は、通常の発酵バイオリアクターで培養されうる。微生物は、限定されるわけではないが、バッチ培養、流加培養、細胞再利用、および連続発酵を含む任意の発酵方法により培養されうる。本発明による可能性のある宿主微生物のための好ましい増殖条件は、当技術分野において周知である。遺伝子改変された微生物により産生される所望の産物は、通常の分離および精製技術を用いて発酵培地から回収されうる。例えば、発酵培地は、微生物、細胞片および他の粒子性物質を除去するために濾過または遠心分離されうり、産物は、例えば、イオン交換、クロマトグラフィー、抽出、溶媒抽出、膜分離、電気透析、逆浸透、蒸留、化学誘導体化、および結晶化のような通常の方法により無細胞上清から回収されうる。または、所望の産物、またはその抽出物および様々な画分を生じる微生物は、本発明でのバイオマスにおいてのような、産物からの微生物成分の除去なしに用いられうる。
【0104】
本発明の一つの態様は、前に本明細書で記載されているように、本発明の遺伝子改変された植物を栽培または培養することにより短鎖脂肪酸を産生するための方法である。そのような方法は、FASの作用を増加させうる遺伝子改変を有する植物を、発酵培地において培養する段階、または土壌のような適した環境において栽培する段階を含む。好ましくは、遺伝子改変は、FAS生物活性をもつタンパク質を発現させる組換え核酸分子での植物の形質転換またはトランスフェクションを含む。そのようなタンパク質は、生物活性をもつ天然に存在するFASの任意の相同体を含む、本明細書に記載されたFASタンパク質のいずれかを含みうる。
【0105】
本発明の短鎖脂肪酸を産生するための方法において、FASの作用を増加させうる遺伝子改変を有する植物は、FASの産生のために、発酵培地において培養される、または土壌のような適した媒体において栽培される。適切な、または効果的な発酵培地は、上で詳細に考察されている。高等植物のための適した栽培媒体は、限定されるわけではないが、土、砂、根成長を支える任意の他の粒子性媒体(例えば、バーミキュライト、パーライトなど)、または水耕栽培、加えて高等植物の栽培を最適化する適切な光、水および栄養補助剤を含む、植物のための任意の栽培媒体を含む。本発明の遺伝子改変された植物は、本発明のFASタンパク質の作用の増加を通して短鎖脂肪酸の有意な量を産生するように操作される。短鎖脂肪酸は、植物からこれらの産物を抽出する精製過程を通して回収されうる。好ましい態様において、脂肪酸は、植物または植物画分(例えば、油)を収集することにより回収される。この態様において、植物または植物画分は、それの自然状態で消費されうる、または消費できる製品へさらに加工されうる。
【0106】
本発明のもう一つの態様は、FAS遺伝子または機能ドメインをコードするその部分を選択的に除去するが、より好ましくは減弱する(遺伝子またはそれのタンパク質産物を実際に除去するまたは完全に不活性化することなしに、発現または活性を抑制する、低下させるなど)ように遺伝子改変されている、短鎖脂肪酸を産生する能力の低下をもつ(結果として、微生物において短鎖脂肪酸産生の量の低下を生じる)遺伝子改変された微生物を指す。好ましい態様において、微生物は、微細藻類であり、より好ましい態様においては、ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)微生物である(例えば、シゾチトリウム)。FAS遺伝子は、FAS遺伝子の発現および/または生物活性が低下している、ならびに好ましくは、微生物が短鎖脂肪酸の産生を低下させている、より好ましくは、長鎖脂肪酸、特に多価不飽和脂肪酸(PUFA)、の産生を増加させているように抑制されているような、FAS遺伝子のコード領域への、またはFAS遺伝子の制御領域への改変により改変されうる。一つの態様において、FAS遺伝子は、相同組換えを通した遺伝子破壊によるような、遺伝子を非FAS核酸配列と置換することによることを含め、部分的もしくは完全に、除去されるまたは不活性化される。この局面において、FAS遺伝子は、FAS遺伝子のコード領域を破壊する異種性核酸配列を含むFAS遺伝子にハイブリダイズする核酸配列でのターゲットされた相同組換えにより、突然変異または不活性化(または除去)される。
【0107】
FAS発現または活性を低下させている微生物の作製は、上記のように、商業的利益をもつ。本発明のFASを含む微生物は、ω-3脂肪酸のような高度不飽和脂肪酸を含む多価不飽和脂肪酸(PUFA)の高レベルを含む脂質の生産のための価値のある生物体であることが知られている、ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)のメンバーを含む。多価不飽和脂肪酸(PUFA)は、たいていの真核生物における膜脂質の重要な成分であり(Lauritzen et al., Prog. Lipid Res. 401 (2001); McConn et al., Plant J. 15,521 (1998))、特定のホルモンおよびシグナル伝達分子の前駆体である(Heller et al., Drugs 55, 487 (1998); Creelman et al., Annu. Rev. Plant Physiol. Plant Mol. Biol. 48, 355 (1997))。本発明によれば、好ましいPUFAは、18個の炭素またはそれ以上を有するPUFAとして定義される、長鎖PUFAである。PUFAは、3つ以上の二重結合をもつ任意のω-3またはω-6多価不飽和脂肪酸を含む。ω-3 PUFAは、最後のエチレン結合が、脂肪酸の末端メチル基を含む、それから3つ目の炭素であり、例えば、ドコサヘキサエン酸C22:6(n-3)(DHA)およびω-3ドコサペタエン酸C22:5(n-3)(DPAn-3)を含む。ω-6 PUFAは、最後のエチレン結合が、脂肪酸の末端メチル基を含む、それから6つ目の炭素であり、例えば、アラキドン酸C20:4(n-6)(ARA)、C22:4(n-6)、ω-6ドコサペタエン酸C22:5(n-6)(DPAn-6)およびジホモガンマリノレン酸C20:3(n-6)(ジホモGLA)を含む。シゾチトリウムのようなヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)のメンバーは、PUFAに富む大量のトリアシルグリセロールを蓄積する。これらの脂質産物は、様々な食品および他の商業的製品において有用であるため、優先的にPUFAを産生する微生物の能力を増強することが有用であると思われる。本発明は、この目的が達成されうる一つの方法(すなわち、競合するFAS系の減弱による)を提供する。
【0108】
従って、本発明のもう一つの態様は、上記のように、同じ種の野生型微生物と比較して、短鎖脂肪酸合成の低下、およびより好ましくはPUFA合成の増加をもつ遺伝子改変された微生物(例えば、ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)の微生物(例えば、シゾチトリウム、トラウストチトリウム))を含むバイオマスに関する。本明細書に記載された完全長FASの生物活性の類似性および大部分または全部をもつFASタンパク質を含むヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)以外の生物体が、発見される可能性があることは、理解されるべきである。そのような微生物もまた、特にそのような微生物もまたPUFAを産生するために有用である場合には、FAS系の発現または活性を低下させるように改変されうる。
【0109】
本発明の方法に従って産生される脂肪酸は、典型的には、脂質として産生される。本明細書に用いられる場合、用語「脂質」は、リン脂質(PL);遊離脂肪酸;脂肪酸のエステル;トリアシルグリセロール(TAG);ジアシルグリセリド;ホスファチド;ステロールおよびステロールエステル;カロテノイド;キサントフィル(例えば、オキシカロテノイド);ハイドロカーボン;ならびに当業者に公知の他の脂質を含む。用語「脂肪酸」(その用語が「多価不飽和脂肪酸」および「PUFA」に用いられる場合を含む)は、遊離脂肪酸型だけでなく、トリアシルグリセロール(TAG)型およびリン脂質(PL)型のような他の型も同様に含む。
【0110】
本明細書に用いられる場合、食品とは、任意の食物成分(例えば、油のような、もう一つの食品の部分である食品)を含み、限定されるわけではないが、以下もまた含む:完成されたベーカリー製品、パンおよびロールパン、朝食用シリアル、プロセスチーズおよび非プロセスチーズ、香辛料(ケチャップ、マヨネーズなど)、乳製品(ミルク、ヨーグルト)、プディングおよびゼラチンデザート、炭酸飲料、茶、粉末飲料ミックス、魚の加工製品、果物ベース飲料、チューイングガム、堅い菓子類、冷凍乳製品、食肉加工製品、ナッツおよびナッツベースのスプレッド、パスタ、鶏肉加工製品、グレービーおよびソース、ポテトチップスおよび他のチップスまたはクリスプ、チョコレートおよび他の菓子類、スープおよびスープミックス、大豆ベース製品(ミルク、飲料、クリーム、粉末クリーム)、植物油性ベーススプレッド、ならびに植物ベース飲料。他の製品は、栄養補助食品、医薬製剤、ヒト化した動物乳、および特殊調製粉乳を含む。適した医薬製剤は、限定されるわけではないが、抗炎症剤、化学療法剤、活性賦形剤、骨粗鬆症薬、抗欝剤、抗痙攣剤、抗ヘリコバクター・ピロリ(Helicobactor pylori)薬、神経変性疾患の処置のための薬物、変性肝臓疾患の処置のための薬物、抗生物質、コレステロール降下剤、および以下からなる群より選択される状態を処置するために用いられる製品を含む:慢性炎症、急性炎症、胃腸疾患、癌、悪液質、心臓再狭窄、神経変性障害、肝臓の変性疾患、血中脂質異常、骨粗鬆症、変形性関節症、自己免疫疾患、子癇前症、早産、加齢性黄斑、肺疾患、およびペルオキシソーム病。
【0111】
それゆえに、本発明のもう一つの態様は、脂質、および好ましくはPUFA、を生合成過程から生産するための方法であって、前に本明細書で記載されているように、脂質を産生するのに効果的な条件下で、遺伝子改変された微生物(例えば、ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)の)を培養する段階を含み、微生物が、上記のようにFAS遺伝子を選択的に増加させるまたは減少させる(目的に依存して)ように遺伝子改変されている、方法に関する。脂質は、当技術分野において公知の様々な回収技術のいずれか1つを用いて回収されうる、または微生物全体またはその抽出物が回収されうる。本発明の一つの局面は、生合成過程から脂質を回収するための方法であって、遺伝子改変された微生物(例えば、ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)の)の培養物から脂質を回収する段階を含み、微生物が、上記のように、FAS遺伝子を選択的に増加させるまたは減少させるように遺伝子改変されている、方法に関する。培養物からの脂質の回収についての技術は、当技術分野において公知であり、限定されるわけではないが、イオン交換、クロマトグラフィー、抽出、溶媒抽出、相分離、膜分離、電気透析、逆浸透、蒸留、化学誘導体化、および結晶化を含む。
【0112】
本発明のもう一つの態様は、本明細書に記載されているようなFASの相同体を含む、単離されたFASを用いて短鎖脂肪酸を生産するための方法である。方法は、撹拌タンク、栓流カラムリアクター、または当業者に公知の他の装置を用いて、バッチまたは連続様式で操作されうる。
【0113】
一つの態様において、FASは固体支持体に結合している、すなわち、固定化酵素である。本明細書に用いられる場合、固体支持体に結合したFAS(すなわち、固定化FAS)は、固定化単離FAS、FASを含む固定化細胞(固定化され、かつ遺伝子改変されたヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)、細菌、真菌(例えば、酵母)、微細藻類、または植物の細胞)、安定化された無傷の細胞、および安定化された細胞/膜ホモジネートを含む。安定化された無傷の細胞および安定化された細胞/膜ホモジネートは、FASを発現させる天然に存在する微生物由来の、または本明細書の他の所で開示されているような遺伝子改変された微生物もしくは植物由来の細胞およびホモジネートを含む。従って、FASを固定化するための方法が下で考察されているが、そのような方法は、細胞を固定化することに等しく適用でき、そのような態様において、細胞は溶解されうる。
【0114】
酵素を固定化するための様々な方法は、参照により全体として本明細書に組み入れられている、Industrial Enzymology 2nd Ed., Godfrey, T. and West, S. Eds., Stockton Press, New York, N.Y., 1996, pp. 267-272; Immobilized Enzymes, Chibata, I. Ed., Halsted Press, New York, N.Y., 1978; Enzymes and Immobilized Cells in Biotechnology, Laskin, A. Ed., Benjamin/Cummings Publishing Co., Inc., Menlo Park, California, 1985; およびApplied Biochemistry and Bioengineering, Vol.4, Chibata, I. and Wingard, Jr., L. Eds, Academic Press, New York, N.Y., 1983に開示されている。
【0115】
簡単には、固体支持体は、単離されたFASの活性に有意に影響を及ぼすことなく、FAS(または細胞)との結合を形成することができる、任意の固体有機支持体、人工膜、バイオポリマー支持体、または無機支持体を指す。例示的な有機固体支持体は、ポリスチレン、ナイロン、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、アクリルコポリマー(例えば、ポリアクリルアミド)のようなポリマー、安定化された無傷の細胞全体、および安定化された未精製の細胞全体/膜ホモジネートを含む。例示的なバイオポリマー支持体は、セルロース、ポリデキストラン(例えば、Sephadex(登録商標))、アガロース、コラーゲンおよびキチンを含む。例示的な無機支持体は、ガラスビーズ(多孔性および非多孔性)、ステンレススチール、金属酸化物(例えば、ZrO2、TiO2、Al2O3およびNiOのような多孔性セラミックス)および砂を含む。好ましくは、固体支持体は、安定化された無傷細胞および/または未精製の細胞ホモジネートからなる群より選択される。そのような支持体の調製は、最小限の操作および費用を必要とする。さらに、そのような支持体は、酵素の優れた安定性を提供する。
【0116】
安定化された無傷細胞および/または細胞/膜ホモジネートは、例えば、細胞および細胞ホモジネートを安定化させるために二官能性架橋剤(例えば、グルタルアルデヒド)を用いることにより、作製されうる。無傷細胞および細胞膜の両方において、細胞壁および膜は、支持体を固定化することの役割を果たす。そのような系において、複合的な膜タンパク質は、「最良の」脂質膜環境にある。無傷細胞から始めようが、ホモジネートから始めようが、この系において、細胞は、もはや「生きて」いないもしくは「代謝して」いないか、または、「静止している」(すなわち、細胞は代謝潜在能力および活性FASを維持するが、培養条件下で増殖していない)かのいずれかである;いずれの場合においても、固定化細胞または膜は、生体触媒としての役割を果たす。
【0117】
FASは、吸着、架橋結合(共有結合を含む)および捕捉を含む様々な方法により固体支持体へ結合されうる。吸着は、ファンデルワールス力、水素結合、イオン結合、または疎水結合を通してありうる。吸着固定化のための例示的な固体支持体は、高分子吸着材およびイオン交換樹脂を含む。ビーズ型における固体支持体は、特によく適している。吸着固体支持体の粒子サイズは、固定化酵素がメッシュフィルターによりリアクターに保持され、一方、基質(例えば、所望の脂肪酸を生成しうる出発物質として用いられる前駆体または基質)が所望の速度でリアクターを流れるのを可能にするように選択されうる。多孔性粒子性支持体に関して、FASまたは遺伝子改変された微生物細胞が粒子の空洞内へ埋め込まれるのを可能にするように吸着過程を制御することは可能であり、それに従って、活性の受け入れられない損失のない保護を与える。
【0118】
FASの固体支持体への架橋結合は、固体支持体とFASの間に化学結合を形成することを含む。架橋結合は、一般的に、媒介化合物を用いてFASを固体支持体へ連結することを含むが、媒介化合物の使用なしに直接的に酵素と固体支持体の間に共有結合を得ることも可能であることは認識されているものと思われる。架橋結合は、一般的に、酵素のカルボキシル基、アミノ基、イオウ基、水酸基、または他の官能基を活性化し、かつ固体支持体へ付着させるために二官能性または多官能性試薬を用いる。用語「活性化する」とは、官能基において結合の形成を可能にする官能基の化学的変換を指す。例示的なアミノ基活性化試薬は、水溶性カルボジイミド、グルタルアルデヒド、臭化シアン、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、トリアジン、塩化シアヌルおよびカルボニルジイミダゾールを含む。例示的なカルボキシル基活性化試薬は、水溶性カルボジイミド、およびN-エチル-5-フェニルイソキサゾリウム-3-スルフォネートを含む。例示的なチロシル基活性化試薬は、ジアゾニウム化合物を含む。そして、例示的なスルフィドリル基活性化試薬は、ジチオビス-5,5'-(2-ニトロ安息香酸)、およびグルタチオン-2-ピリジルジスルフィドを含む。酵素を直接的に固体支持体へ共有結合性に連結するための系は、Eupergit(登録商標)、Rohm Pharma(Darmstadt, Germany)から、Kieselguhl(Macrosorbs)Sterling Organicsから入手できるポリメタクリレートビーズ支持体、「Biofix」支持体としてEnglish China Clayから入手できるカオリナイト、W.R. Graceから入手できる、シラン処理により活性化されうるシリカゲル、およびUOP(Des Plaines, IL)から入手できる高密度アルミナを含む。
【0119】
捕捉もまた、FASを固定化するために用いられうる。FASの捕捉は、とりわけ、ゲル(有機または生体高分子を用いる)、ベシクル(マイクロカプセル化を含む)、半透膜または他のマトリックスの形成を含む。酵素の捕捉に用いられる例示的な材料は、コラーゲン、ゼラチン、寒天、セルローストリアセテート、アルギネート、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリウレタン、エポキシ樹脂、カラギーナンおよび卵アルブミンを含む。高分子の一部、特にセルローストリアセテート、はそれらが繊維に紡がれるため、酵素を捕捉するために用いられうる。ポリアクリルアミドゲルのような他の材料は、酵素を捕捉するために溶液中で重合されうる。重合可能なビニル末端基で官能基化されているポリグリコールオリゴマーのようなさらに他の材料は、光増感剤の存在下でUV光照明で架橋重合体を形成することにより酵素を捕捉できる。
【0120】
本発明はまた、本発明のFASタンパク質へ選択的に結合する能力がある単離された(すなわち、それらの天然の環境から取り出された)抗体、またはそれらの抗原結合断片を含む(例えば、FAS抗体)。句「選択的に結合する」とは、任意の標準アッセイ法(例えば、免疫測定法)により測定される場合の結合のレベルが、アッセイについてのバックグラウンド対照より統計学的に有意に高い、一つのタンパク質のもう一方(例えば、抗体、その断片、または抗原に対する結合パートナー)への特異的結合を指す。例えば、免疫測定法を行う場合、対照は、典型的には、抗体またはその抗原結合断片を含む反応ウェル/チューブを含み(すなわち、抗原の非存在下において)、ここで抗原の非存在下における抗体またはその抗原結合断片による反応性の量(例えば、ウエルへの非特異的な結合)が、バックグラウンドであるとみなされる。結合は、酵素免疫測定法(例えば、ELISA)、免疫ブロットなどを含む当技術分野において標準的な様々な方法を用いて測定されうる。本発明の抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体、抗体断片のような機能的等価物、および一本鎖抗体もしくは1つより多いエピトープに結合することができる二重特異性抗体を含むキメラ抗体を含む遺伝子操作された抗体でありうる。
【0121】
一般的に、抗体の産生において、例えば、限定されるわけではないが、ウサギ、ヒツジ、ハムスター、モルモット、マウス、ラットまたはニワトリのような適した実験動物が、抗体が望まれる抗原に曝される。典型的には、動物は、動物へ注入される有効量の抗原で免疫される。抗原の有効量は、動物による抗体産生を誘導するために必要とされる量を指す。動物の免疫系を、その後、あらかじめ決められた時間に渡って応答するようにさせておく。免疫化過程は、免疫系が抗原に対して抗体を産生していることが見出されるまで、繰り返されうる。抗原に特異的なポリクローナル抗体を得るために、所望の抗体を含む動物から血清が収集される(またはニワトリの場合には、抗体は卵から収集されうる)。そのような血清は試薬として有用である。ポリクローナル抗体は、例えば、血清を硫酸アンモニウムで処理することにより、血清(または卵)からさらに精製されうる。
【0122】
モノクローナル抗体は、KohlerおよびMilstein(Nature 256:495-497, 1975)の方法により作製されうる。例えば、Bリンパ球が、免疫された動物の脾臓(または任意の適した組織)から回収され、その後、骨髄腫細胞と融合され、適した培地において連続的な増殖の能力があるハイブリドーマ細胞の集団を得る。所望の抗体を産生するハイブリドーマは、ハイブリドーマにより産生される抗体の所望の抗原に結合する能力を試験することにより選択される。
【0123】
本発明の遺伝子操作された抗体は、抗体可変および/または定常領域をコードするDNAの操作ならびに再発現を含む標準的組換えDNA技術により作製されるものを含む。特定の例は、抗体のVHおよび/またはVLドメインが抗体の残りと異なる源に由来するキメラ抗体、ならびに少なくとも1つのCDR配列および任意で少なくとも1つの可変領域フレームワークアミノ酸が1つの源に由来し、かつ可変および定常領域の残りの部分(必要に応じて)が異なる源に由来する、CDRグラフト化抗体(およびその抗原結合断片)を含む。キメラおよびCDRグラフト化抗体の構築は、例えば、欧州特許出願:EP-A 0194276、EP-A 0239400、EP-A 0451216およびEP-A 0460617に記載されている。
【0124】
以下の実施例は、例証を目的として提供され、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【0125】
実施例
実施例1
以下の実施例は、本発明のシゾチトリウムFASタンパク質のクローニングおよび特徴付けを記載する。
【0126】
簡単には、cDNAライブラリーが、Metz et al., Science 293, pp 290-292 (2001)に記載されているようにシゾチトリウム細胞から単離されたmRNAから調製された。約8,500個のクローンが無作為に選択され、ベクター由来プライマーを用いて5'末端からシーケンシングされた。クエリーとして様々なFASタンパク質を用いるこのデータベースの検索により、多くの相同体の存在が明らかにされた。データベースが酵母FASサブユニット(aおよびb)を用いてクエリーされる場合、40個を超える配列が、有意な相同性をもって見出された。これらのシゾチトリウム配列の大部分は、集合して、単一の大きな(〜4000 bp)コンティグへ構築されえた。個々のcDNA配列がBLAST検索(tblastn)においてクエリーとして用いられる場合、ベストマッチは、たいていの場合、真菌生物体のFASサブユニットに対してだった。これらの生物体において、I型FASは、2つのサブユニット(aおよびb)から構成され、それぞれが酵素ドメインの別個のセットを有する。cDNA配列データの1つの異常は、マッチの1つだけを除いて全部が「a」サブユニットに対してであることだった。ガイドとして配列タグを用いて、本発明者らは、それらのcDNA由来配列をコードするゲノムDNAの対応する領域をクローニングした。プロジェクトが進行するにつれて、cDNAライブラリーにおけるサブユニットの異常な表示についての理由が明らかになった。シゾチトリウムにおけるFASは、単一の大きな遺伝子によりコードされる。FAS Orfは、12,408 bpを含み、444,884ダルトンの推定分子量をもつタンパク質をコードする。ゲノム配列自身の分析によっても、または有効なcDNA配列との比較によっても、イントロンの証拠は見出されることができなかった。BlastおよびPfam結果、加えてモチーフ分析が、このI型タンパク質のドメインの仮構造および機能的同定を確立するために用いられた。アミノ酸配列に関して、および配列の構成での両方において、シゾチトリウムFASは、真菌FAS aサブユニットの頭(N末端)のbサブユニットの尾(C末端)への融合に似ている。
【0127】
シゾチトリウムFASオープンリーディングフレームを含むDNA断片は、ゲノムDNAのλライブラリーからクローニングされた。標準的方法が、そのライブラリー、および個々のDNA断片の単離のためのPCR由来プローブ(cDNAクローンから得られた配列に基づいて)を作製するために用いられた。FAS遺伝子をコードするOrfは、サブクローニングおよびプライマーウォーキングの組み合わせを用いてシーケンシングされた。
【0128】
完全なシゾチトリウムFASコード配列は、SEQ ID NO:2として本明細書に表示された4136個のアミノ酸配列をコードする、SEQ ID NO:1により本明細書に表示された12,408個のヌクレオチド配列(終止コドンを含まない)である。シゾチトリウムFASタンパク質内に上記のような以下の9つのドメインがある:(a)1つのアセチルトランスフェラーゼ(AT)ドメイン(SEQ ID NO:5);(b)1つのエノイルACPレダクターゼ(ER)ドメイン(SEQ ID NO:6);(c)1つのデヒドラーゼ(DH)ドメイン(SEQ ID NO:7);(d)1つのマロニル/パルミトイルアシルトランスフェラーゼ(M/PAT)ドメイン(SEQ ID NO:8);(e)2つのアシルキャリアタンパク質(ACP)ドメイン(SEQ ID NO:9およびSEQ ID NO:10);(f)1つのケトアシルACPレダクターゼ(KR)ドメイン(SEQ ID NO:11);(g)1つのケトアシルACP合成酵素(KS)活性(SEQ ID NO:12);および(h)1つのホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(PPT)ドメイン(SEQ ID NO:13)。
【0129】
図1は、本発明者らによるこのタンパク質の同定、クローニングおよびシーケンシング、続いて配列の分析に基づいた、シゾチトリウムFASタンパク質に存在する推定酵素ドメインの概略図である。タンパク質全体に対する推定ドメインのサイズおよび位置、ならびにそれらのドメインの機能の同定は、Pfam解析結果に、およびパン酵母(サッカロマイセス・セレビシエ)の十分特徴付けられたFAS(αおよびβサブユニット)との相同性に基づいている(参照文献1、2&3)。酵母FAS(αおよびβサブユニット)の、ドメイン構成および全体のタンパク質サイズに対するサイズが、比較として示されている。
【0130】
略語:(AT)アセチルトランスフェラーゼ;(ER)エノイルACPレダクターゼ;(DH)デヒドラーゼ;(M/PAT)マロニル/パルミトイルアシルトランスフェラーゼ;(ACP #1)第一アシルキャリアタンパク質;(ACP #2)第二アシルキャリアタンパク質;(R)ケトアシルACPレダクターゼ;(KS)ケトアシルACP合成酵素;および(PPT)ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ。
【0131】
参照文献
1. Mohamed et al., J Biol Chem. 1988, Sep 5; 263(25):12315-25
2. Chirala et al., J Biol Chem. 1987, Mar 25; 262(9):4231-40
3. Fichtlscherer et al., Eur J Biochem. 2000, May; 267(9):2666-71
【0132】
実施例2
以下の実施例は、シゾチトリウムFAS遺伝子のターゲットされた不活性化を記載する。
【0133】
シゾチトリウムFAS遺伝子は、2002年10月24日公開されたPCT公開第WO 02/083869号に記載されているテクノロジーを用いて、ターゲットされた不活性化により不活性化された。PCT公開第WO 02/083869号は、参照により全体として本明細書に組み入れられている。
【0134】
図2Aは、シゾチトリウムFAS遺伝子のターゲットされる不活性化のために用いられるプラスミドの構築を図解する。直線は、FAS遺伝子を含むシゾチトリウム染色体の領域を表す。その線より上の矢印は、FASタンパク質をコードするオープンリーディングフレーム(Orf)の位置を示す。線上のボックス領域(ストライプおよび塗りつぶしの両方)は、プラスミド;JK870へクローニングされる染色体の部分を表す。JK870の制限酵素BglIIでの消化、続いて希釈およびライゲーションは、結果として、BglII断片(塗りつぶしボックス)が欠失しているプラスミドJK876の回復を生じた。BamHIでの消化によりプラスミドpTUBZEO11-2から単離された、α-チューブリンプロモーター領域およびSV40ターミネーター領域(下記参照)と共にble遺伝子(Zeocin(商標)に対する耐性を与えるタンパク質をコードする)を含むDNAの断片は、その後、JK876のBglII部位へクローニングされて、プラスミドJK874を生じた。
【0135】
図2Bは、シゾチトリウムにおいて、発生し、結果として、FAS遺伝子の安定な不活性化を生じると考えられる事象を図解する。プラスミドJK874は、微粒子銃によりシゾチトリウム(20888株かまたは細胞壁欠損株 - AC66)の細胞全体へ導入される(PCT公開第WO 02/083869号、前記個所、に記載)。形質転換された細胞(すなわち、機能的様式で染色体へ導入されたプラスミドJK874からのZeocin(商標)耐性遺伝子を有する)についての最初の選択は、Zeocin(商標)を含む増殖培地を含み、かつβ-シクロデキストリンで溶解された遊離飽和脂肪酸(すなわち、C16:0)を追加された寒天プレート上でなされた。これらの選択的条件下で増殖するコロニーは、グリッド様アレイにおける新しいプレートへ移された。形質転換体は、その後、Zeocin(商標)を含むが脂肪酸を欠くプレートへコロニーから細胞を移すことにより、脂肪酸補充なしで増殖するそれらの能力について試験された。Zeocin(商標)耐性であり、かつ増殖のために16:0脂肪酸での補充を必要とするコロニーは、相同組換え事象により不活性化されたFAS遺伝子を有していると推定された。16:0原栄養性への復帰突然変異を示さなかったそれらのコロニーは、図解されているように二重クロスオーバー事象によりZeocin(商標)耐性遺伝子カセットをFAS領域へ組み込んでいると推定された。表現型(増殖のための16:0脂肪酸での補充の要求)の安定性は、FAS Orfの一部がZeocin(商標)耐性を与えるDNAで置換されていることを示す。染色体のFAS部分への組み込みは、その後、図解されているように、PCR反応により確認された。この方法において、シゾチトリウム菌株ATCC 20888およびAC66の両方におけるFASノックアウトが得られた。
【0136】
実施例3
以下の実施例は、本発明のシゾチトリウムFAS系が不活性化されている菌株におけるインビトロの脂肪酸合成アッセイを記載する。
【0137】
図3は、PUFAポリケチド合成酵素orfC遺伝子(PUFA-KO)またはFAS遺伝子(FAS-KO)(上の図2Aおよび2B参照)のいずれかが不活性化されているシゾチトリウムの細胞壁欠損菌株(AC66)およびその菌株の突然変異体からの無細胞ホモジネートにおける[1-14C]-マロニル-CoAからの脂肪酸の合成を示す。細胞は、2 mM DTT、1 mM EDTAおよび10%グリセロールを含む100 mM リン酸緩衝液、pH 7.2における超音波処理により破壊された。ホモジネートのアリコートは、10 μM アセチル-CoA、100 μM [1-14C]-マロニル-CoA、2 mM NADHおよび2 mM NADPHを補充され、30℃で30分、インキュベートされた。反応混合物における脂肪酸は、メチルエステルへ変換され、ヘキサンへ抽出され、AgNO3薄層クロマトグラフィー(TLC)(溶媒:ヘキサン/ジエチルエーテル/HOAc 容量で70/30/2)により分離された。TLCプレート上の放射能は、Molecular Dynamicsリン光画像化システムを用いて検出された。脂肪酸メチルエステル標準(16:0、18:1、DPA、n-6およびDHA)の移動距離は、図の右側に示されている。
【0138】
AC66親株のホモジネートのアッセイにより、16:0-、18:1-、およびDHA-メチルエステル標準と共に移動する放射標識されたバンドの存在が明らかにされた。PUFA-KO突然変異株において、DHAメチルエステル標準と共に移動する放射標識されたバンドが非常に低減している(または欠けている)。FAS-KO株において、16:0-および18:1-メチルエステル標準と共に移動する放射標識されたバンド(およびもう一つのバンド)が非常に低減している(または欠けている)。これらのデータは、FAS遺伝子の不活性化が、結果として、短鎖飽和脂肪酸を合成する能力の喪失を生じることを示し、18:1がFASの産物由来であることを示唆している。データはまた、シゾチトリウムにおけるDHAおよびDPAの合成が、FAS系の産物に依存しないことを示している。
【0139】
本明細書に引用された各刊行物は、参照により全体として本明細書に組み入れられている。特に、米国仮出願第60/544,692号の全開示は、参照により本明細書に組み入れられている。
【0140】
本発明の様々な態様が詳細に記載されているが、それらの態様の改変および適応が当業者にとって思い付くと考えられることは、明らかである。しかしながら、そのような改変および適応が、特許請求の範囲に示されているような本発明の範囲内であることは、はっきりと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】シゾチトリウムFASタンパク質に存在する推定の酵素ドメインの概略図である。
【図2A】シゾチトリウムFAS遺伝子のターゲットされる不活性化に用いられるプラスミドの構築の概略図である。
【図2B】シゾチトリウムにおいて、発生し、結果として、FAS遺伝子の安定な不活性化を生じると考えられる事象の概略図である。
【図3】PUFAポリケチド合成酵素orfC遺伝子(PUFA-KO)またはFAS遺伝子(FAS-KO)のいずれかが不活性化されているシゾチトリウムの細胞壁欠損株(AC66)およびその菌株の突然変異体からの無細胞ホモジネートにおける[1-14C]-マロニル-CoAからの脂肪酸の合成のデジタル画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のものからなる群より選択されるアミノ酸配列を含む単離されたタンパク質:
a)以下のものからなる群より選択されるアミノ酸配列:SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:2の1位〜500位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の450位〜1300位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の1250位〜1700位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の1575位〜2100位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の2025位〜2850位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の2800位〜3350位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の3300位〜3900位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の3900位〜4136位からなるアミノ酸配列、およびそれらの生物活性断片;ならびに
(b)(a)のアミノ酸配列のいずれかと少なくとも約45%同一であり、かつ(a)のアミノ酸配列の生物活性を有するアミノ酸配列。
【請求項2】
(a)のアミノ酸配列のいずれかと少なくとも約60%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1記載の単離されたタンパク質。
【請求項3】
(a)のアミノ酸配列のいずれかと少なくとも約80%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1記載の単離されたタンパク質。
【請求項4】
(a)のアミノ酸配列のいずれかと少なくとも約95%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1記載の単離されたタンパク質。
【請求項5】
以下のものからなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1記載の単離されたタンパク質:以下のものからなる群より選択されるアミノ酸配列:SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:2の1位〜500位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の450位〜1300位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の1250位〜1700位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の1575位〜2100位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の2025位〜2850位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の2800位〜3350位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の3300位〜3900位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の3900位〜4136位からなるアミノ酸配列、またはこれらの配列のいずれかの生物活性断片。
【請求項6】
以下のものからなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1記載の単離されたタンパク質:SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、およびSEQ ID NO:13。
【請求項7】
以下のものからなる群より選択されるいずれか2つ以上のアミノ酸配列を含む、請求項1記載の単離されたタンパク質:SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、およびSEQ ID NO:13。
【請求項8】
SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、およびSEQ ID NO:13を含む、請求項1記載の単離されたタンパク質。
【請求項9】
ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)微生物由来である、請求項1記載の単離されたタンパク質。
【請求項10】
シゾチトリウム(Schizochytrium)微生物由来である、請求項1記載の単離されたタンパク質。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項記載のタンパク質をコードする核酸配列、または請求項1〜10のいずれか一項記載の核酸配列と完全に相補的である核酸配列を含む、単離された核酸分子。
【請求項12】
転写制御配列へ機能的に結合された、請求項11記載の単離された核酸分子を含む、組換え核酸分子。
【請求項13】
転写制御配列が組織特異的転写制御配列である、請求項12記載の組換え核酸分子。
【請求項14】
ターゲティング配列をさらに含む、請求項13記載の組換え核酸分子。
【請求項15】
請求項12記載の組換え核酸分子で形質転換されている組換え細胞。
【請求項16】
請求項12記載の組換え核酸分子で形質転換されている、生合成過程により短鎖脂肪酸を生産するための遺伝子改変された微生物。
【請求項17】
請求項12記載の組換え核酸分子で形質転換されている、生合成過程により短鎖脂肪酸を生産するための遺伝子改変された植物。
【請求項18】
脂肪酸合成酵素をコードする核酸分子を含み、かつ脂肪酸合成酵素をコードする核酸分子が、脂肪酸合成酵素の発現または生物活性を増加するように改変されている、生合成過程により短鎖脂肪酸を生産するための遺伝子改変された微生物であって、脂肪酸合成酵素が、以下のものからなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、遺伝子改変された微生物:
a)以下のものからなる群より選択されるアミノ酸配列:SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:2の1位〜500位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の450位〜1300位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の1250位〜1700位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の1575位〜2100位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の2025位〜2850位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の2800位〜3350位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の3300位〜3900位からなるアミノ酸配列、SEQ ID NO:2の3900位〜4136位からなるアミノ酸配列、およびそれらの生物活性断片;ならびに
(b)(a)のアミノ酸配列のいずれかと少なくとも約45%同一であり、かつ(a)のアミノ酸配列の生物活性を有するアミノ酸配列。
【請求項19】
脂肪酸合成酵素をコードする核酸分子が微生物における内因性遺伝子である、請求項18記載の遺伝子改変された微生物。
【請求項20】
脂肪酸合成酵素をコードする核酸分子で形質転換されている、請求項18記載の遺伝子改変された微生物。
【請求項21】
脂肪酸合成酵素をコードする内因性遺伝子を含み、かつ脂肪酸合成酵素をコードする組換え核酸分子で形質転換されており、その遺伝子および組換え核酸分子の一方または両方が、脂肪酸合成酵素の発現または生物活性を増加するように改変されている、請求項18記載の遺伝子改変された微生物。
【請求項22】
ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)微生物である、請求項19または請求項21記載の遺伝子改変された微生物。
【請求項23】
シゾチトリウム微生物である、請求項19または請求項21記載の遺伝子改変された微生物。
【請求項24】
請求項18〜21のいずれか一項記載の遺伝子改変された微生物を含むバイオマス。
【請求項25】
請求項24記載のバイオマスを含む食品。
【請求項26】
請求項24記載のバイオマスを含む医薬製品。
【請求項27】
請求項18記載の遺伝子改変された微生物を発酵培地において培養する段階を含む、生合成過程により短鎖脂肪酸を生産する方法。
【請求項28】
請求項12記載の組換え核酸分子で形質転換されている遺伝子改変された植物を栽培する段階を含む、生合成過程により短鎖脂肪酸を生産する方法。
【請求項29】
SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:3、もしくはSEQ ID NO:4、またはそれと完全に相補的な核酸配列の少なくとも12個の連続したヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチド。
【請求項30】
短鎖脂肪酸の産生が低下した遺伝子改変された微生物であって、脂肪酸合成酵素遺伝子または機能ドメインをコードするその部分を選択的に減弱するように遺伝子改変されており、脂肪酸合成酵素遺伝子が、以下のものからなる群より選択される核酸配列を含む、遺伝子改変された微生物:
a)SEQ ID NO:2をコードする核酸配列;および
b)SEQ ID NO:2と少なくとも約45%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列であって、該アミノ酸配列を有するタンパク質が、アセチルトランスフェラーゼ(AT)活性;エノイルACPレダクターゼ(ER)活性;デヒドラーゼ(DH)活性;マロニル/パルミトイルアシルトランスフェラーゼ(M/PAT)活性;第一アシルキャリアタンパク質(ACP)活性;第二アシルキャリアタンパク質(ACP)活性;ケトアシルACPレダクターゼ(KR)活性;ケトアシルACP合成酵素(KS)活性;およびホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(PPT)活性からなる群より選択される生物活性をもつ、核酸配列。
【請求項31】
脂肪酸合成酵素遺伝子がSEQ ID NO:1により表された核酸配列を含む、請求項30記載の遺伝子改変された微生物。
【請求項32】
少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸(PUFA)の産生を増加させている、請求項30記載の遺伝子改変された微生物。
【請求項33】
ヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)微生物である、請求項30記載の遺伝子改変された微生物。
【請求項34】
シゾチトリウムである、請求項30記載の遺伝子改変された微生物。
【請求項35】
脂肪酸合成酵素遺伝子が、該遺伝子の発現を低下させるように制御領域において改変されている、請求項30記載の遺伝子改変された微生物。
【請求項36】
脂肪酸合成酵素遺伝子が、脂肪酸合成酵素の1つまたは複数の機能ドメインの生物活性を低下させるようにコード領域において改変されている、請求項30記載の遺伝子改変された微生物。
【請求項37】
脂肪酸合成酵素遺伝子にハイブリダイズし、かつ脂肪酸合成酵素遺伝子のコード領域をそれによりコードされる脂肪酸合成酵素の発現または活性を低下させるように改変する異種性核酸配列を含む、核酸配列でのターゲットされた相同組換えにより、脂肪酸合成酵素遺伝子が突然変異されている、請求項30記載の遺伝子改変された微生物。
【請求項38】
微生物が、同じ種の野生型微生物と比較して、短鎖脂肪酸の産生を低下させている、請求項30〜37のいずれか一項記載の遺伝子改変された微生物を含むバイオマス。
【請求項39】
請求項38記載のバイオマスを含む食品。
【請求項40】
請求項38記載のバイオマスを含む医薬製品。
【請求項41】
請求項30〜37のいずれか一項記載の遺伝子改変された微生物を、多価不飽和脂肪酸(PUFA)を含む脂質を産生するのに効果的な条件下で培養する段階を含む、生合成過程における多価不飽和脂肪酸(PUFA)の産生を増加させるための方法。
【請求項42】
請求項41記載の方法により産生された脂質を含む製品。
【請求項43】
食品である、請求項42記載の製品。
【請求項44】
医薬製品である、請求項42記載の製品。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2007−521837(P2007−521837A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−553316(P2006−553316)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【国際出願番号】PCT/US2005/004611
【国際公開番号】WO2005/079367
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(501316356)マーテック・バイオサイエンシーズ・コーポレーション (11)
【Fターム(参考)】