説明

シラン架橋ポリエチレン管の異臭除去方法およびそれを用いた給水給湯パイプ

【課題】シラン架橋ポリエチレン管に特有の臭いを容易に除去できる人体に無害なシラン架橋ポリエチレン管の異臭除去方法およびそれを用いた給水給湯パイプを提供する。
【解決手段】シラン架橋ポリエチレン管の中に常温のウーロン茶を充填して満水状態とし、一定時間(例えば、10〜24時間)経過後、前記ウーロン茶を抜き取るか、あるいは、前記ウーロン茶の抜き取り後、前記シラン架橋ポリエチレン管の中に熱湯を一定時間(例えば、0.5〜2時間)流通させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住戸内の給水給湯配管などに用いられるシラン架橋ポリエチレン管の異臭除去技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、住戸内の給水給湯配管には、亜鉛メッキ鋼管や樹脂ライニング鋼管より可撓性、耐食性に優れたポリブテン管やシラン架橋ポリエチレン管などの樹脂管を用いるサヤ管ヘッダー工法が広く採用されるに至っており、サヤ管ヘッダー工法は、サヤ管内の古くなった樹脂管だけを容易に更新できる利点があることから、高い評価を得ている。
【0003】
ところで、サヤ管に挿入する給水給湯用の樹脂管としては、耐熱性や引張強度に優れ、温度が高くなっても物性があまり変化しない等の点で、シラン架橋ポリエチレン管の方がポリブテン管よりも望ましいが、給水給湯用の樹脂管としてシラン架橋ポリエチレン管を用いると、異臭が問題となることが多く、とりわけ給湯パイプとして用いる場合、その傾向が顕著である。
【0004】
即ち、シラン架橋ポリエチレン管は、ポリエチレンにシラン架橋剤を加えて成型した管材に蒸気又は熱湯を接触させて水分を加えることにより、シラン架橋剤が架橋反応を起こし、架橋ポリエチレンとなるものであるが、残留したシラン架橋剤やシラン変性物などが異臭の原因となり、シラン架橋ポリエチレン管に特有の刺激臭が残る。
【0005】
そのため、従来では、シラン架橋剤を加えて成型したポリエチレン管に熱湯(80℃以上の熱水)を一定時間(例えば10時間)循環させることによって、架橋反応を起こさせた後、異臭の除去を目的として、更に10時間以上、熱湯の循環を続行している。しかしながら、この方法によって脱臭処理したシラン架橋ポリエチレン管を給水給湯用の樹脂管に使用した場合、給水パイプにおいては、さほど問題にならないが、給湯パイプとして用いた場合、通水後、給湯水に含まれる異臭がクレーム対象となることがしばしばあった。
【0006】
因みに、実験によれば、ポリエチレンにシラン架橋剤を加えて成型した管材に蒸気を接触させて得たいわゆる蒸気架橋のシラン架橋ポリエチレン管(内径10ミリ、長さ20メートル)を使用し、異臭除去方法として管内部に蒸気を8時間通気した2本の供試体A,Bを作製し、一方の供試体Aには、水道水を充填し、16時間放置後、供試体A内部の水を採取し、他方の供試体Bには、95℃の熱湯を充填し、16時間放置後、供試体B内部の水を採取して、それぞれのサンプリング水について臭いの有無を確認したところ、供試体Aからのサンプリング水には、かすかに異臭が認められ、供試体Bからのサンプリング水には、かなり強い異臭が認められた。
【0007】
従って、この異臭除去方法では、異臭の除去が不完全であり、この方法によって脱臭処理したシラン架橋ポリエチレン管を給水給湯用の樹脂管に使用した場合、特に、給湯パイプとして使用した場合、問題があることが分かった。
【0008】
尚、シラン架橋ポリエチレン管の原料そのものを工夫することで、異臭の発生を抑える方法が特許文献1、2によって提案されており、原料に香料を加えて臭を紛らす工夫も試みられているが、何れも、シラン以外の化学物質を添加することになるので、人体に対する悪影響が懸念される。
【0009】
【特許文献1】特開平6−248089号公報
【特許文献2】特開平10−182757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題点をふまえて成されたものであって、その目的とするところは、シラン架橋ポリエチレン管に特有の臭いを容易に除去できる人体に無害なシラン架橋ポリエチレン管の異臭除去方法およびそれを用いた給水給湯パイプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明が講じた技術的手段は、次の通りである。即ち、請求項1に記載の発明によるシラン架橋ポリエチレン管の異臭除去方法は、シラン架橋ポリエチレン管の内面にウーロン茶を一定時間(例えば、10〜24時間である。この時間が短すぎると、ウーロン茶の成分による異臭除去の効果が乏しく、長すぎると、異臭除去工程が長くて生産性が低下するからである。)接触させることを特徴としている。
【0012】
具体的には、請求項2に記載の発明のように、シラン架橋ポリエチレン管の中にウーロン茶を充填し、一定時間(例えば、10〜24時間)経過後、ウーロン茶を抜き取るか、請求項3に記載の発明のように、シラン架橋ポリエチレン管の中にウーロン茶を充填し、一定時間(例えば、10〜24時間)経過後、ウーロン茶を抜き取り、しかる後、前記シラン架橋ポリエチレン管の中に熱湯を一定時間(例えば、0.5〜2時間である。この時間が短すぎると、熱湯による異臭除去の効果が乏しく、長すぎると、異臭除去工程が長くて生産性が低下するからである。)流通させることになる。ウーロン茶としては、常温のものを使用してもよく、加熱昇温したものを使用してもよい。
【0013】
請求項4に記載の発明では、請求項2に記載のシラン架橋ポリエチレン管の異臭除去方法を用いて脱臭した給水パイプが提供され、請求項5に記載の発明では、請求項3に記載のシラン架橋ポリエチレン管の異臭除去方法を用いて脱臭した給湯パイプが提供される。
【発明の効果】
【0014】
請求項1,2に記載の発明によれば、ウーロン茶の成分によって、シラン架橋ポリエチレン管の異臭を除去することができ、しかも、日常、飲用に供されるウーロン茶の成分以外の化学物質を添加しないので、人体に無害であり、給水パイプとして好適なシラン架橋ポリエチレン管が得られる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、ウーロン茶の成分によるシラン架橋ポリエチレン管の異臭除去作用に、その後の熱湯によるシラン架橋ポリエチレン管の異臭除去作用が付加されることによって、シラン架橋ポリエチレン管の異臭をより一層確実に除去することができる。従って、このシラン架橋ポリエチレン管を給湯パイプとして用いても、給湯水に異臭が含まれる虞がなく、日常、飲用に供されるウーロン茶の成分以外の化学物質を添加しないので、人体に無害であり、給湯パイプとして好適である。
【0016】
しかも、予め、ウーロン茶の成分によるシラン架橋ポリエチレン管の異臭除去を行った後、熱湯による異臭除去を行うので、熱湯の循環のみによる従来の異臭除去方法に比して熱湯の流通時間が短くて済み、熱湯を生成するための熱源を小さくして、省エネルギー化を達成できる。また、熱湯の流通時間が短くて済むので、予め、ウーロン茶を充填したシラン架橋ポリエチレン管又はウーロン茶を充填して一次的な異臭の除去を行ったシラン架橋ポリエチレン管を工場内に必要量ストックしておくことにより、納期、工期の短縮が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(第一の実施形態)
ポリエチレンにシラン架橋剤を加えて成型した管材に蒸気を接触させて得たいわゆる蒸気架橋のシラン架橋ポリエチレン管として、内径10ミリ、長さ20メートルのアルミ三層複合管(シラン架橋ポリエチレンとアルミニウムとから成り、シラン架橋ポリエチレン層間にアルミニウムの層が挟着された3層構造の複合管)を使用し、管の中に常温のウーロン茶(市販のペットボトル入りウーロン茶、例えばサントリー株式会社の「烏龍茶」を使用した。)を充填して満水状態とし、16時間放置後、管の中のウーロン茶を抜いて、脱臭処理されたシラン架橋ポリエチレン管(アルミ三層複合管)を得た。
【0018】
そして、上記の異臭除去方法の効果を確認するために、上記の方法によって異臭除去したシラン架橋ポリエチレン管(アルミ三層複合管)より成る2本の供試体A,Bを作製し、一方の供試体Aには、水道水を充填し、16時間放置後、供試体A内の水を採取し、他の供試体Bには、95℃の熱湯を充填し、16時間放置後、供試体B内の水を採取して、それぞれのサンプリング水について臭いの有無を確認したところ、供試体Aからのサンプリング水は、かすかな芳香(レモンのような香り)がする程度であり、供試体Bからのサンプリング水には、ウーロン茶独特の匂いが認められた。
【0019】
従って、上記の方法によって異臭除去したシラン架橋ポリエチレン管(アルミ三層複合管)は、熱湯を供給する給湯パイプとしては、あまり好ましくはないが、給水パイプとしては、異臭がなく、しかも、日常、飲用に供されるウーロン茶の成分以外の化学物質を添加しないので、人体に無害であり、給水パイプとしての使用に適することが確認できた。
【0020】
(第二の実施形態)
ポリエチレンにシラン架橋剤を加えて成型した管材に蒸気を接触させて得たいわゆる蒸気架橋のシラン架橋ポリエチレン管として、内径10ミリ、長さ20メートルのアルミ三層複合管(シラン架橋ポリエチレンとアルミニウムとから成り、シラン架橋ポリエチレン層間にアルミニウムの層が挟着された3層構造の複合管)を使用し、管の中に常温のウーロン茶(市販のペットボトル入りウーロン茶、例えばサントリー株式会社の「烏龍茶」を使用した。)を充填して満水状態とし、16時間放置後、管の中のウーロン茶を抜いた。しかる後、管の中に80℃の熱湯を1時間循環させて、脱臭処理されたシラン架橋ポリエチレン管(アルミ三層複合管)を得た。
【0021】
そして、上記の異臭除去方法の効果を確認するために、上記の方法によって異臭除去したシラン架橋ポリエチレン管(アルミ三層複合管)より成る2本の供試体A,Bを作製し、一方の供試体Aには、水道水を充填し、16時間放置後、供試体A内の水を採取し、他の供試体Bには、95℃の熱湯を充填し、16時間放置後、供試体B内の水を採取して、それぞれのサンプリング水について臭いの有無を確認したところ、供試体Aからのサンプリング水には、全く匂いがなく、供試体Bからのサンプリング水は、かすかな芳香(レモンのような香り)がする程度であった。
【0022】
従って、上記の方法によって脱臭処理したシラン架橋ポリエチレン管(アルミ三層複合管)は、給水パイプとしては勿論、熱湯を供給する給湯パイプとしても、異臭がなく、しかも、日常、飲用に供されるウーロン茶の成分以外の化学物質を添加しないので、人体に無害であり、使用に適することが確認できた。
【0023】
また、予め、ウーロン茶の成分によるシラン架橋ポリエチレン管の異臭除去を行った後、熱湯による異臭除去を行うので、熱湯の循環のみによる従来の異臭除去方法に比して熱湯の流通時間が短くて済み、熱湯を生成するための熱源を小さくして、省エネルギー化を達成でき、しかも、熱湯の流通時間が短くて済むので、予め、ウーロン茶を充填したシラン架橋ポリエチレン管又はウーロン茶を充填して一次的な異臭の除去を行ったシラン架橋ポリエチレン管を工場内に必要量ストックしておくことにより、納期、工期の短縮が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラン架橋ポリエチレン管の内面にウーロン茶を一定時間接触させることを特徴とするシラン架橋ポリエチレン管の異臭除去方法。
【請求項2】
シラン架橋ポリエチレン管の中にウーロン茶を充填し、一定時間経過後、ウーロン茶を抜き取ることを特徴とする請求項1に記載のシラン架橋ポリエチレン管の異臭除去方法。
【請求項3】
シラン架橋ポリエチレン管の中にウーロン茶を充填し、一定時間経過後、ウーロン茶を抜き取り、しかる後、前記シラン架橋ポリエチレン管の中に熱湯を一定時間流通させることを特徴とする請求項1に記載のシラン架橋ポリエチレン管の異臭除去方法。
【請求項4】
請求項2に記載のシラン架橋ポリエチレン管の異臭除去方法を用いて脱臭した給水パイプ。
【請求項5】
請求項3に記載のシラン架橋ポリエチレン管の異臭除去方法を用いて脱臭した給湯パイプ。

【公開番号】特開2008−24821(P2008−24821A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−198975(P2006−198975)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(505136402)株式会社三葉製作所 (9)
【出願人】(506250158)有限会社テックエスティ (2)
【Fターム(参考)】