説明

シリコンウエハ及びその製造方法

【課題】酸化膜耐圧特性に優れ、Cモード特性の高いシリコン結晶で構成されるシリコン
ウエハを提供する。また、前記シリコンウエハの製造方法を提供する。
【解決手段】窒素及び水素を含有するシリコンウエハであって、泡状のボイド集合体を構
成する複数のボイドが、総ボイド数の50%以上存在し、ボイド密度が2×10/cm
を超えて1×10/cm未満であるV1領域が、前記シリコンウエハの総面積中2
0%以下を占め、ボイド密度が5×10〜2×10/cmであるV2領域が、前記
シリコンウエハの総面積中80%以上を占め、並びに、内部微小欠陥密度が5×10
cm以上であることを特徴とするシリコンウエハである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウエハ及びその製造方法に関する。より具体的には、ボイド領域を
使用し、窒素、水素、および炭素をドープして研磨(ミラー加工)したシリコンウエハ(
ミラーウエハ)、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チョクラルスキー法(CZ法)によるシリコン単結晶の特徴は、(1)重力的には安定
した融液の自由表面から結晶育成ができる点、(2)比抵抗の調整に必要な不純物の添加
・調整が容易であるが不純物種類による固有の偏析係数での軸方向濃度勾配を伴う点、(
3)金属不純物のゲッターに効果のある酸素が必然的にるつぼの溶解で付与でき、かつ酸
素濃度やドーパント濃度の制御も引上げ条件制御で可能である点、(4)育成に必要な石
英るつぼや黒鉛部品などの高純度化と大型化への取組みが可能である点、(5)大口径結
晶化への取組みが無転位結晶と装置の大型化で比較的容易である点などが挙げられる。し
たがって、チョクラルスキー法(CZ法)によるシリコン単結晶は、大型の単結晶を製造
しやすい為、LSI用基板として使用される傾向にあることから、シリコン結晶の品質に
対しては厳しい品質管理が要求されている。
【0003】
なかでも、シリコン単結晶育成直後の結晶内に内在するGrown−in欠陥やデバイ
ス製造プロセスにおいて誘起される酸素析出物と転位、積層欠陥などがデバイス特性を劣
化させるが、一方では重金属のゲッタリングサイトや基板の機械的強度増加などに有効に
活用できることも明らかにされ、現在では必要不可欠な不純物とされ、これらの結晶欠陥
の制御は非常に重要な課題である。
【0004】
そこで、これら結晶欠陥の制御する課題を解決する技術分野において、Grown−i
n欠陥の密度またはサイズを制御したウエハを製造する様々な試みがなされており、例え
ば、特許文献1では、シリコン結晶を製造する際に、当該単結晶中の窒素が1×1012
〜5×1014atoms/cm以下とし、且つ育成装置内の雰囲気ガス中の水素分圧を40〜400Pa以下とすることでGrown−in欠陥を存在させない無欠陥領域がウエハ面全面に拡大され、かつ内部にはゲッタリング作用を有するBMD(または、内部微小欠陥とも称する。)を十分に有するシリコン単結晶を製造する旨を開示している。
【0005】
上記特許文献1の製造方法によれば、水素分圧下を必須の要件として、炭素等添加により、結晶中に現れるリング状のOSFの形成を抑制し、その結果として、OSF核の顕在化に伴って規定されていた酸素濃度の許容上限を高めることができるため、酸素濃度が高くてもデバイス特性を低下させることなく、無欠陥領域からなるウエハを作製できる旨等が開示されている。また、当該無欠陥領域とは、酸化誘起積層欠陥(以下、単に「OSF」ともいう)領域、P領域(空孔が優勢な無欠陥領域)及びP領域(格子間元素が優勢な無欠陥領)であることも当該特許文献1に開示されている。
【0006】
さらに、特許文献2では、シリコン融液に炭素および窒素をシリコン単結晶棒にドープして育成したシリコン単結晶をスライスした後に、900℃〜シリコン融点の温度で混合ガス雰囲気下熱処理するシリコン単結晶ウエハの製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−312576号公報
【特許文献2】特開2005−142434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1では、段落「0048」〜「0052」および図4に示すように、所定の水素分圧下で、かつ結晶中心部(Gc)よりも結晶周辺部(Ge)が小さいホットゾーンを持つ育成装置によりシリコン結晶を引き上げると、P領域が広くなるため、I領域であった範囲を無欠陥領域として使用できることが確認されている。しかし、P領域はBMDができないためIG効果が要求される用途には不適当であるという観点から、所定の水素分圧下および所定の窒素添加濃度または炭素添加濃度で、かつ結晶中心部(Gc)よりも結晶周辺部(Ge)が小さいホットゾーンを持つ育成装置によりシリコン結晶を引き上げることによりP領域の拡大を図ったが、炭素添加ではほとんどP領域が変わらず、窒素添加では水素分圧が160Paを超えるとP領域が変化しないことが確認されている。
【0009】
そのため、特許文献1の製造方法では、P領域の拡大を効果的に制御できないという問題があり、現に実施例では、特定の水素分圧下による炭素添加の条件、および特定の水素分圧下による窒素添加の条件を各々行うことで結晶欠陥を制御している。
【0010】
また、上記特許文献2では、窒素および炭素をドープすることでGrown−in欠陥のサイズをできるだけ小さくした後、シリコンウエハを熱処理することで特にウエハ表層部の欠陥を低減させることで結晶性が高く、熱伝導率が高いシリコン単結晶ウエハを製造するものであるが、結晶欠陥の密度が低いため十分なIG効果を示さないという問題がある。
【0011】
また、上記特許文献1及び2の製造方法によれば、特にOSF領域にはボイド(空孔)が少ない。しかし、かかるOSF領域は、結晶中に酸化膜耐圧特性を劣化させる結晶欠陥が存在しないことを示す指標、すなわちCモード(真性破壊領域)特性(高Cモード合格率)が低い。また、かかる窒素ドープ結晶のうち、ボイド密度が比較的小さな領域(具体的には、窒素ドープ結晶で1×10/cmを超えて5×10/cm以下である領域)もCモード特性が低い。結局のところ、上記特許文献2で得られる窒素ドープ結晶は全体的にCモード特性が高いとはいえず、酸化膜耐圧特性に劣る。このことは、当該窒素ドープ結晶全体に亘ってボイドまたは何らかの微小欠陥が存在することを意味し、半導体デバイスへの使用には適さないという問題があった。
【0012】
そこで本発明の目的は、ゲッタリングサイトとなりうるBMDを内部に形成し、かつG
row−in欠陥が少なく、酸化膜耐圧特性に優れ、Cモード特性の高い(高Cモード合
格率の良好な)シリコン結晶で構成されるシリコンウエハを提供することである。また、
本発明の他の目的は、前記シリコンウエハの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題に鑑み、本発明者らが鋭意研究を行った結果、窒素、炭素及び水素を所定の濃
度で添加することにより、酸化膜耐圧特性に優れ、Cモード特性の高い(高Cモード合格
率の良好な)シリコン結晶(単結晶シリコン)が得られることを見出した。
【0014】
また、本発明者らは、シリコン結晶を育成する条件として、シリコン結晶中に炭素濃度
を所定濃度以上添加しない場合は、シリコン融液中の水素量をどんなに上げてもOSFが
消えないことを見出した。
【0015】
さらに、窒素、炭素及び水素を所定の濃度で添加することに加えて、シリコン結晶を引き上げる際、所定の温度勾配(以下、「結晶成長軸方向の平均温度勾配」または単に「G」ともいう)及び所定の引上げ速度(以下、単に「V」ともいう)で「急冷」処理を行う。これにより、酸化膜耐圧特性に一層優れ、Cモード特性の一層高いシリコン結晶が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
ここで、本発明における「急冷」の特徴について述べる。従来より、生産性を高める観
点より、シリコン結晶を急冷する操作が行われている。しかし、従来の急冷処理では、温
度勾配も引上げ速度も共に大きくするのが一般的である。その一方、本発明者らは試行錯
誤の結果、「急冷」に際し、引上げ速度は従来と同様の大きさとする反面、温度勾配を非
常に限られた所定の範囲とすることによって、ボイド密度を有意に小さくし、且つボイド
集合体の形状が泡状となって半導体デバイスに影響を及ぼさないことを見出した。
【0017】
すなわち、上記目的を達成するための本発明は、窒素、炭素及び水素を含有するシリコ
ンウエハであって、泡状のボイド集合体を構成する複数のボイドが、総ボイド数に対して
50%以上存在し、ボイド密度が2×10/cmを超えて1×10/cm未満であるV1領域が、前記シリコンウエハの総面積中20%以下を占め、ボイド密度が5×10〜2×10/cmであるV2領域が、前記シリコンウエハの総面積中80%以上を占め、並びに、内部微小欠陥密度が5×10/cm以上であることを特徴とする、シリコンウエハに係る。
【0018】
また、上記目的を達成するための本発明に係るシリコンウエハの製造方法は、シリコン結晶中の窒素濃度を3×1013〜3×1015atoms/cmとし、炭素濃度を1×1015〜9×1015atoms/cmとし、結晶引上炉内の水素分圧を3〜60Paとし、前記シリコン結晶を引き上げる際の1100〜1200℃における前記シリコン結晶の長手方向の温度勾配を3.5℃/mm以上とし、並びに、結晶引き上げ速度の上限値として、ボイド密度が2×10/cmを超えて1×10/cm未満であるV1領域が前記シリコンウエハの総面積の20%となり、且つ結晶引き上げ速度の下限値として、ボイド密度が5×10〜2×10/cmであるV2領域が前記シリコンウエハの総面積の80%となるように制御することによって、引き上げたシリコン結晶を切り出してシリコンウエハを得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ゲッタリングサイトになりうるBMDを内部に十分存在させ、かつ酸
化膜耐圧特性に優れ、Cモード特性の高い(高Cモード合格率の良好な)シリコン結晶で
構成された、半導体デバイスに好適に使用可能な高品質のシリコンウエハ(ミラーウエハ
)が得られる。また、シリコン結晶の引き上げ速度を一層大きくすることができるので、
生産性も有意に向上しうる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による、窒素及び水素のドープ処理、並びに急冷処理を施した場合の、結晶欠陥の発生への影響を概略的に示した、シリコン結晶の断面図である。
【図2】水素分圧とOSF密度との関係を示す図である。
【図3】通常のシリコンウエハに存在する、八面体状のボイド集合体を示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明に係るシリコンウエハに存在する、泡状のボイド集合体を示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図5】八面体状ボイド、および泡状ボイドが酸化膜形成に与える影響を模式的に示した図である。
【図6】本発明に用いる単結晶製造装置の一例を示す概略断面図である。
【図7】シリコン結晶の引き上げ速度と欠陥領域との関係を示す図である。
【図8】シリコン結晶中のボイド及びOSFの面内分布、並びに高Cモード合格率の関係を調べた結果を示すグラフである。
【図9】シリコン結晶における、V1領域およびV2領域と、V/GおよびVとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付した図面を参照しつつ、本発明を適用した最良の実施形態を説明する。なお
、当該図面は概略的なものであって、本発明の理解の一助とするために、寸法及び形状の
比例関係並びに構成などを誇張しつつ描いている。したがって、当該図面は現実のものと
相違する。
【0022】
本発明の第1は、窒素、炭素及び水素を含有するシリコンウエハであって、泡状のボイ
ド集合体を構成する複数のボイドが、総ボイド数に対して50%以上存在し、ボイド密度
が2×10/cmを超えて1×10/cm未満であるV1領域が、前記シリコンウエハの総面積中20%以下を占め、ボイド密度が5×10〜2×10/cmであるV2領域が、前記シリコンウエハの総面積中80%以上を占め、並びに、内部微小欠陥密度が5×10/cm以上であることを特徴とするシリコンウエハである。
【0023】
これにより、ゲッタリングサイトになりうるBMDを内部に十分存在させ、かつ酸化膜
耐圧特性に優れ、Cモード特性の高い(高Cモード合格率の良好な)シリコン結晶で構成
されたシリコンウエハ(ミラーウエハ)を得られる。
【0024】
本発明に係るシリコンウエハは、窒素、炭素及び水素を含有する点、デバイスプロセスでのゲッタリングに必要な程度の内部微小欠陥(以下、「BMD値」という)を有する点、並びにボイドの密度、形状及び集合体の形成という点を、一体不可分として有することを技術上の意義とする。以下、これらの各点(条件)について詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明による、窒素及び水素のドープ処理並びに「急冷」処理を施した場合の
、結晶欠陥の発生への影響を概略的に示した、シリコン結晶の断面図である(「急冷」処
理については後述する)。より詳細には、図1に示されたシリコン結晶は、縦方向で見た
際に、上に行けば行くほど、引き上げ速度が大きいことを表している。また、図1の[A]はドープ無しの区分、[B]は窒素ドープのみ有りの区分、[C]は水素ドープのみ有りの区分、[D]は窒素ドープ有り及び「急冷」処理有りの区分、[E]は窒素及び水素ドープ有り、並びに「急冷」処理有り、そして[F]は窒素、水素及び炭素ドープあり、並びに「急冷」処理有りの区分をそれぞれ示している。図1の[A]〜[F]はいずれも、ボイドを有するV領域(シリコン原子の不足から発生する凹部、すなわち空孔の多い領域)、OSF領域(酸化した時にシリコンに注入される格子間シリコンにより発生する積層欠陥領域)、Pv領域、Pi領域、及びI領域(シリコン原子が余分に存在することにより発生する転位や余分なシリコン原子の塊が多い領域)を有する。そして、図1の[A]〜[D]と[E]、[F]とではボイドの形状が異なる上、図1のうち[D]、[E]と[F]がV領域の一部に特殊なV1領域及びV2領域を有するという特徴がある。図1の[A]〜[F]の各処理の有無を下記表1にまとめる。
【0026】
ここで本明細書において、「V1領域」とは、ボイド密度が2×10/cmを超え
て1×10/cm未満の範囲の領域をいい、「V2領域」とは、ボイド密度が5×1
〜2×10/cmの範囲の領域をいう。
【0027】
【表1】

【0028】
まず、従来のシリコン結晶のV領域に存在するボイドの形状は図3に示すように{11
1}面を有する八面体であることが明らかとなっている(図1ではスクエアの記号で表示
)。チョクラルスキー法で製造される結晶径が200mm以上のシリコン結晶では、八面
体ボイドのサイズは100〜300nm程度である。かかる八面体状のボイドはデバイス
性能、特に酸化膜耐圧特性の低下に大きく影響し得る。
【0029】
これに対し、本発明に係るシリコンウエハにおいては、複数個のボイドで構成される泡
状のボイド集合体(図1では3個の円の記号で表示)が存在する。そして、かかる泡状の
ボイド集合体に含まれるボイドの個数が、総ボイド数に対して50%以上存在する(図1
の(E)、及び[F])。ここで、前記「総ボイド数」とは、泡状のボイド集合体に含まれるボイドと含まれないボイドとの合計の数を表す。
【0030】
本発明者らは、鋭意研究の結果として、透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子製JEM−2010)でシリコン結晶(シリコンウエハ)を観察した。観察方向は110方向であり、回折条件として、220反射が励起する二波条件に設定した。ブラッグ条件からのずれ量Sを1gより大きくしたところ、上記の泡状のボイド集合体を発見し、かかる泡状のボイド集合体が従来の八面体状のボイドと比較して有意にCモード特性を向上させるという関係を見出したのである。以下、泡状のボイド集合体について説明する。
【0031】
図4は、本発明に係るシリコン結晶に存在する、泡状のボイド集合体を示す透過型電子顕微鏡写真である。前記泡状とは、図3に示すような、一般的なシリコン結晶に存在する八面体構造のボイドではなく、{111}面を有さない不定形のボイドが複数集合すると、図4に示されるようにいわゆる泡状に見える。そのため、本実施形態に係るシリコンウエハ(シリコン結晶)において特異的に見られるボイドの集合を「泡状のボイド集合体」と称する。このようなボイド構成を採るシリコンウエハの場合、後述するように、ボイドがデバイスに対して悪影響をほとんど及ぼさないという効果を奏する。さらにいえば、本実施形態における泡状のボイドの集合体は、結果として相当に「無害」なボイドであると言い得る。
【0032】
当該泡状ボイドが酸化膜耐圧特性を低下させにくい難いメカニズムは以下のように推測される。図5はシリコンウエハ411表面に露出したボイドの上に酸化膜411を形成した状態を示す概略的な断面図である。まず、(A)は八面体ボイド41の場合、および(B)は泡状のボイド集合体42の場合を示す。八面体ボイド41の場合は、ボイドが酸化膜で埋め尽くされることはなく、酸化膜が不完全に形成された状態になる。このような酸化膜は、耐圧特性が劣化低下しやすい。一方で泡状のボイド集合体42が表面に露出した場合は、泡状のボイド集合体42を構成している個々のボイド43のサイズは小さいため、酸化膜で容易に埋め尽くされる。その結果、酸化膜の耐圧特性は低下しにくい。他方、窒素のみを添加したシリコン結晶のボイド44は、板状・あるいは棒状44であることが知られている。(特開2001−151596号公報参照)。このようなボイドの場合は、(C)に示すようにボイドが酸化膜で埋め尽くされることはないため、上記の(A)と同様に耐圧特性が低下しやすいと考えられる。
【0033】
以上のことから、ボイドが泡状のボイド集合体を形成し、泡状のボイド集合体を構成する個々のボイドのサイズが小さく、且つ個々のボイドの形状が球に近い不定形である場合は、酸化膜耐圧特性を低下させにくくなると考えられる。なお、本明細書における「球に近い不定形」とは、ボイドをある観察面から見てサイズを計測したときに、最大の径Aと、Aが得られる方向と垂直な方向の径Bとの比率A/B(アスペクト比)が2以下であるような形状を意味する。アスペクト比が2を超えるとなると、図5(C)に示すように、酸化膜で埋め尽くされることがなるため、耐圧特性が低下しやすいと考えられる。
【0034】
本発明に係る泡状の集合体を構成する不定形のボイドのサイズは50nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましい。集合体を構成するボイドの数は、上記のように複数であれば特に制限されないが、好ましくは5個以上であり、より好ましくは10個以上であり、さらに好ましくは20〜100個である。上記した範囲内にある場合、当該集合体の「無害」化の程度が一層高くなりうる。特に、当該集合体を構成するボイドの数が5個以上の場合、集合体のTEMによる同定(後述)が容易となりうる。すなわち、本明細書におけるボイドに関する観察(観測)の際に顕微鏡を用いる場合にあっては、解像上の限界はあるものの、全て上記したTEMを使用するものとする。
【0035】
また、集合体がボイド(泡状や八面体状を含むあらゆる形状のボイド)全体の50%以上存在することが好ましく、60%以上存在することがより好ましく、70%以上存在することがさらに好ましい。上記した範囲内にある場合、集合体の「無害」化の程度が一層高くなりうる。
【0036】
次に泡状のボイド集合体の比率と酸化膜耐圧特性との関係について述べる。上述のように、泡状のボイド集合体は酸化膜耐圧特性を低下させにくい。よって、ボイド総数のうち、酸化膜耐圧特性に無害な泡状のボイド集合体の比率を増やすことで、酸化膜耐圧特性を改善することができる。泡状のボイド集合体の比率を50%以上にすると、ボイド密度が1×10〜2×10/cmであるV1領域の高Cモード合格率が20〜40%となり、ボイド密度が2×10〜5×10/cmであるV2領域の高Cモード合格率が70〜100%となる。泡状のボイド集合体が存在しない場合、V1領域およびV2領域ともに、高Cモード合格率が20〜40%となる。
【0037】
本明細書において、欠陥(ボイド)領域は次のような方法により評価(同定)した。シリコンウエハ中のボイドの面内分布は、市販の欠陥評価装置であるレイテックス社製LSTDスキャナ(MO−6)を用いて測定する。このMO−6は可視光レーザーをブリュースター角から照射し、鉛直方向に配置したカメラでp偏光の散乱像を欠陥像として検知する。レーザーは基板表面から5μmまでしか浸透しないので、基板表面から5μmまでの深さにある欠陥が計測できる。測定に際しては検出感度を調整して、球換算でサイズ50nm以上のボイドが測定できるようにする。測定したボイドの面積密度と測定深さ5μmからボイドの体積密度を算出した。そして、ボイド密度が2×10/cmを超えて1×10/cm未満となる領域をV1領域とし、5×10〜2×10/cmとなる領域をV2領域とした。
【0038】
また、本明細書において、泡状のボイド集合体は次のような方法により同定した。MO−6で観察されたボイドのうち10個程度を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察し、ボイドの形状を調べる。そして、ボイドが複数個(図4の写真に示したボイド集合体には、ボイドが40個以上存在することを確認している)凝集しているボイドを泡状のボイド集合体とする。集合体の比率は、TEMでの観察結果から求める。
【0039】
前記ボイド構成に加えて前記シリコンウエハは、ボイド密度がV領域よりも有意に小さな所定範囲内にある2つの領域(V1領域、V2領域)を有する。上記表1、図1の[A]と、上記表1、図1の[F]とを比較すると、窒素、炭素および水素を含有する本発明に係るシリコンウエハは、空孔の多い領域であった範囲に、所定の大きさ、所定の密度のボイドを有する領域(V1およびV2領域)を形成しているため、この領域が実質的に無欠陥領域として機能することができる。
【0040】
また、当該V1およびV2領域は、本来的に空孔(BMD)の多い領域であったため十分なゲッタリングサイトを確保することができる。
【0041】
これらV1およびV2領域については、後述でも詳説するが、V1およびV2領域を形成させるには、所定の窒素添加濃度、所定の水素分圧下、および所定の冷却速度を一体不可分とするが、図2に示すように、シリコン結晶内にある程度の炭素濃度が存在しないと、水素分圧の量を変化させてもOSFが消えず(図1の[F]を参照すると、OSF領域が下方に移動しない)、実質的には無欠陥領域として機能する程度のボイド密度を有するV1およびV2領域を形成しないことが本発明者らによって確認された。
【0042】
本発明者らは、種々の水素分圧、炭素濃度のウエハに対して、下記の方法でOSF評価を行った。まず、サブストレートを1100℃で1時間、水蒸気含有酸素雰囲気中で酸化処理した。その後、フッ酸で酸化膜を除去し、それからライトエッチ液にて1.5μmエッチングし、表面に発生した楕円状、半月状または棒状のOSFピットを光学顕微鏡で観察した。OSF面積密度[個/cm]は、光学顕微鏡にて直径2.5mmの視野でOSFピット個数をカウントし、「OSFピット個数/観察面積」で求めた。ウエハの直径方向に沿ってOSF面積密度を調べて、その中の最大のOSF面積密度を求めた。その結果、図2に示すように、炭素が1×1015〜9×1015atoms/cm添加されているウエハでは、水素分圧が60Pa以下になると、OSFが消える。一方で、炭素が意図的に添加されておらず、炭素濃度が1×1015atoms/cm未満であるウエハでは、水素分圧を変えてもOSFは消えることがなかった。
【0043】
ここで、本明細書における「ボイド密度」とは、単位面積当たりの、泡状や八面体状を含むあらゆる形状のボイドの個数を意味する。なお、泡状のボイド集合体の場合には、集合体を構成する各ボイドを1つのボイドとして計測する。
【0044】
図1の[F]に表されるように、本実施形態におけるV1領域及びV2領域は、V領域とOSF領域との間に存在する。V領域(1×10/cm超)よりも有意に小さなボイド密度を有するV1領域及びV2領域(特にV2領域)は、存在するボイドの大部分が泡状の集合体であることと相まって、従来に比して、本発明において、酸化膜耐圧特性に有意に優れ、Cモード特性の有意に高いシリコン結晶が得られる要因となっていると考えられる。
【0045】
前記シリコンウエハが、上記のボイド構成に加えて水素を実質的に含有しない場合(図1の[A]、[B]及び[D])、たとえボイド密度を2×10/cm以下にできたとしても、ボイドの形状(八面体)の観点等から、半導体デバイスに好適に使用可能な程度の高いCモード特性を得ることが困難となる。さらに、水素を含有する場合(図1の[C]および[E])であっても、V1領域及びV2領域が狭いため、ボイド密度が高く、空孔欠陥が数多くシリコンウエハに残存し近年の微細化集積回路の歩留まり低下の原因となる。
【0046】
これに対し、本発明に係るシリコンウエハでは、窒素に加えて水素、炭素もドープし、且つ上記の「急冷」処理を施すことによって、ボイドが主に八面体状でなく泡状となり(図1の(F))、さらにボイド密度を従来に比して有意に小さくすることができる。上記のボイド構成に加えてボイド密度が2×10/cm以下(V2領域の上限値)の場合、結果として酸化膜に悪影響をほとんど与えない。結果として、本実施形態におけるシリコン結晶は、酸化膜耐圧特性に優れ、Cモード特性が有意に高くなる。すなわち、炭素を添加した場合(図1の(F))、炭素を添加しない場合(図1の(E))に比べてV1領域下側境界が上方向に、V2領域上側境界が下方向にシフトする。その結果、V2領域の幅が広くなり、炭素を添加しない場合に比べてウエハ全体で高Cモード合格率70%以上を容易に実現できる。一方で、炭素を添加した場合でも水素ドープ量が多い場合は、OSF領域が拡大してV2領域がなくなるため、高Cモード合格率70%以上を実現することは困難である。
【0047】
また、上記のボイド構成に加えて、ボイド密度が5×10/cm以上(V2領域の下限値)である領域は、ボイド密度が5×10/cm未満の領域に存在するOSF領域と大部分において重複することがない。そのため、本発明に係るシリコンウエハを用いた半導体デバイスに好適に使用可能な程度の高いCモード特性が得られる。なお、図1の(F)中、f1−f2間の領域は本発明に係るシリコンウエハを表す。図1の(F)を見ると、シリコンウエハのうち、両端のごく一部のみがOSF領域を含んでいることが分かる。
【0048】
ここで、ボイド密度1×10/cm超のV領域は、高Cモード合格率が0%であるが、この様な領域がウエハ内に少しでも存在すると、ウエハ全体で高Cモード合格率70%以上のウエハを製造することは困難となりうる。一方で、ボイド密度が5×10〜2×10/cmのV2領域は、高Cモード合格率が70〜100%であるので、ウエハ全面をV2領域とすることで、ウエハ全体で高Cモード合格率70%以上のウエハを製造することが可能となりうる。V領域とV2領域との間に位置するV1領域は、高Cモード合格率が20〜40%であるが、この領域がウエハの全面積に対して20%以下の比率で存在している限り、ウエハ全体で高Cモード合格率70%以上を実現することが可能となりうる。
【0049】
ボイド密度はできる限り小さい方がgrow−in欠陥の発生を抑制する点より好ましいが、生産性の観点から、後述するV/Gの下限値を0.7に規定すると、ボイド密度が5×10/cm以上になる。
【0050】
このようにして規定されたV2領域が、本発明に係るシリコンウエハの総面積中80%以上を占める。かかる場合、酸化膜耐圧特性が極めて良好になると共に、高Cモード合格率が70%以上になりうる。高Cモード合格率が70%以上の場合、フラッシュメモリーに比べて酸化膜耐圧特性の要求がそれほど厳しくないDRAM等のデバイスでは十分に使える。また、V2領域は、シリコンウエハの総面積中、90%以上を占めることが好ましく、95〜100%を占めることがより好ましい。
【0051】
一方、V1領域(ボイド密度が2×10/cmを超えて1×10/cm未満の領域)がシリコンウエハの総面積中20%以下を占める。かかる場合、酸化膜耐圧特性がさらに一層良好になると共に、高Cモード合格率が確実に70%以上となる。
【0052】
本発明に係るシリコンウエハの内部微小欠陥密度(BMD密度)は、5×10/cm
以上であり、好ましくは1×10/cm以上であり、より好ましくは5×10/cm以上である。なお、上記BMD密度は、正確には熱処理後のBMD密度を意味する。かような範囲内にある場合、十分なゲッタリング能力が得られる。
【0053】
本明細書におけるBMD密度は、以下のようにして測定する。まず、シリコンウエハに780℃で3時間、続いて1000℃で16時間の酸素析出のための熱処理(以下、「析出熱処理」ともいう)を施す。その後、シリコンウエハをへき開して、レイテックス社製BMDアナライザーMO−4にて、シリコンウエハ面内のBMDを測定する。測定点の面内位置は、中心から10mmピッチでエッジ10mmまでとした。得られたBMD密度の値を求める。
【0054】
本発明に係るシリコンウエハ中の窒素濃度は、3×1013〜3×1015atoms/cmであり、好ましい窒素濃度は、2×1014atoms/cm〜2×1015atoms/cmである。
【0055】
当該窒素濃度が3×1013atoms/cm以上の場合、BMD密度を5×10/cm以上とすることができ、窒素濃度の下限値が2×1014atoms/cm以上であると、BMD密度を1×10/cm以上とすることができる。また、当該窒素濃度が3×1015atoms/cm以下であると、OSF領域とV2領域との重複がほとんど無いため、得られるシリコンウエハ中の大部分の領域の高Cモード合格率を80%以上とすることができる。なお、シリコン結晶中の窒素濃度と、得られるシリコンウエハ中の窒素濃度とは実質的に同一である。
【0056】
本発明に係るシリコンウエハ中の炭素濃度は、1×1015〜9×1015atoms/cmであり、好ましい炭素濃度は、3×1015〜5×1015atoms/cmである。
【0057】
当該炭素濃度が3×1015〜5×1015atoms/cmであると、ウエハ全面をV2領域にすることが比較的容易になり、加えて水素分圧を35〜54Paにすることによって、高Cモード合格率を90%以上にすることが可能となる。なお、シリコン結晶中の炭素濃度と、得られるシリコンウエハ中の炭素濃度とは実質的に同一である。
【0058】
また、本発明に係るシリコン結晶は、窒素、炭素及び水素を含有し、かつ泡状のボイド集合体を構成する複数のボイドが、総ボイド数に対して50%以上存在し、ボイド密度が2×10/cmを超えて1×10/cm未満であるV1領域が、前記シリコンウエハの総面積中20%以下を占め、ボイド密度が5×10〜2×10/cmであるV2領域が、前記シリコンウエハの総面積中80%以上を占め、並びに、内部微小欠陥密度が5×10/cm以上であることが好ましく、本発明に係るシリコンウエハは、当該本発明に係るシリコン結晶から切り出されたものである。
【0059】
本発明の第2は、本発明に係るシリコンウエハの製造方法であって、シリコン結晶中の窒素濃度を3×1013〜3×1015atoms/cmとし、シリコン結晶中の炭素濃度を1×1015〜9×1015atoms/cmとし、結晶引上炉内の水素分圧を3〜60Paとし、前記シリコン結晶を引き上げる際の1100〜1200℃における前記シリコン結晶の長手方向の温度勾配を3.5℃/mm以上とし、並びに、結晶引き上げ速度の上限値として、ボイド密度が2×10/cmを超えて1×10/cm未満であるV1領域が前記シリコンウエハの総面積の20%となり、且つ結晶引き上げ速度の下限値として、ボイド密度が5×10〜2×10/cmであるV2領域が前記シリコンウエハの総面積の80%となるように制御して、引き上げるシリコン結晶の製造方法である。
【0060】
また、本発明の第3は、前記引き上げたシリコン結晶を切り出してシリコンウエハを得
るシリコンウエハの製造方法である。
【0061】
前記引き上げ速度の制御は、V1領域(ボイド密度が2×10/cmを超えて1×
10/cm未満の領域)、V2領域(ボイド密度が5×10〜2×10/cmの領域)、及びOSF領域のサイズ(幅)を制御することにより行う。なお、上記の引上炉は、本発明における結晶の育成条件を実施することができるものであれば、特に制限はない。また、引き上げ速度の制御については後述する。
【0062】
本発明に係るシリコン結晶およびシリコンウエハの製造方法は、窒素、炭素及び水素を
所定濃度添加(ドープ)する点、結晶引き上げの際に所定の温度勾配及び引上げ速度で急
冷処理する点、並びにボイド密度が所定の範囲内に存するように調節する点を一体不可分
として有することを技術上の意義とする。また、必要によりシリコン結晶の直径及び結晶
引上炉内の圧力を所定の値とするとよい。
【0063】
本発明における構成(特に、窒素、炭素及び水素を所定濃度添加し、且つ上述のような
所定の温度勾配及び速度で「急冷」処理すること)により、OSF領域を縮小化(shr
ink)することができる。その結果、OSF領域に存在しうる何らかの微小欠陥を排除
することができる。これにより、ゲッタリングサイトとしてのBMD濃度を所定量維持し
つつ、かつ酸化膜耐圧特性に優れ、Cモード特性の高いシリコンウエハを製造することが
できる。換言すれば、OSF領域の縮小化に伴い、OSF領域と交わることのない低ボイ
ド密度領域を広範囲に亘って出現させることができる。そして、本発明に係るシリコン結
晶またはシリコンウエハ製造方法により得られるシリコンウエハの大部分は、かかる低ボ
イド密度領域であり、縮小したOSF領域が僅かに存在する(図1の(F)のシリコンウ
エハの端部)。
【0064】
次に、ボイド密度が有意に小さくなったとはいえ、未だ相当数のボイドが存在し、酸化膜耐圧特性やCモード特性の低下に繋がりうる。しかし、本発明における構成(特に、窒素、
炭素及び水素を所定濃度添加し、且つ所定の温度勾配及び引上げ速度で「急冷」処理すること)により、ボイドの形状を従来の八面体状ではなく泡状にし、結果として相当程度に無害化することができる。前記「無害化」とは、ボイドがデバイスにおいて実質的に悪影響を及ぼさないことを意味する。したがって、酸化膜耐圧特性に優れ、Cモード特性の高いシリコンウエハを製造することができる。さらにかかる場合、引き上げ速度(V)が有意に大きくなるため、生産性も有意に向上しうる。
【0065】
そこで、以下かかる技術上の意義について詳説する。まず、上記の窒素、炭素及び水素を所定濃度添加(ドープ)する点について以下説明する。
【0066】
本発明に係るシリコン結晶中の窒素濃度は、3×1013〜3×1015atoms/cmであり、好ましい窒素濃度は、2×1014atoms/cm〜2×1015atoms/cmである。
【0067】
当該窒素濃度が3×1013atoms/cm以上の場合、BMD密度を5×10/cm以上とすることができ、窒素濃度の下限値が2×1014atoms/cm以上であると、BMD密度を1×10/cm以上とすることができる。また、当該窒素濃度が3×1015atoms/cm以下であると、OSF領域とV2領域との重複がほとんど無いため、得られるシリコンウエハ中の大部分の領域の高Cモード合格率を80%以上とすることができる。また、シリコン結晶中に窒素を添加する方法は、公知の方法で行うことができ、例えば、上記窒素濃度になるように、窒化膜付きシリコンウエハをシリコン融液中に投入する。なお、シリコン結晶中の窒素濃度と、得られるシリコンウエハ中の窒素濃度とは実質的に同一である。
【0068】
本発明に係るシリコン結晶中の酸素濃度は、日本電子機械工業会(JEITA)の換算係数(3.03×1017/cm)を用いて算出した値を用いる。具体的には、赤外吸収によるシリコン結晶中の格子間酸素原子濃度の標準測定法(旧JEIDA−61)を用いる。前記酸素濃度は、8.0×1017atoms/cm以下にすることが好ましく、7.0×1017atoms/cm以下にすることがより好ましく、5.0×1017〜7.0×1017atoms/cmにすることがさらに好ましい。前記酸素濃度が8.0×1017atoms/cm以下の場合、Cモード特性不良欠陥を抑制することができる。また、前記酸素濃度が5.0×1017atoms/cm未満になると、結晶引上の歩留が極端に低下するので好ましくない。なお、シリコン結晶中の酸素濃度と、得られるシリコンウエハ中の酸素濃度とは実質的に同一である。酸素は、結晶引き上げ中にシリコン融液を保持している石英坩堝が融液中に溶け込むことによってシリコン中に取り込まれる。
【0069】
本発明に係るシリコン結晶の製造方法において、シリコン結晶中に水素を取り込ませる方法としては、シリコン結晶育成中の雰囲気に水素ガスを供給しても、水や、酸や、またはアルコール、CH、Cなどの炭化水素をシリコン融液中に添加してもよいが、シリコン結晶育成中の雰囲気に水素ガスを供給することが好ましく、シリコン結晶引上炉内の水素分圧を3〜60Paにする。前記結晶引上炉内の水素分圧は、3Pa以上60Pa以下が好ましく、20Pa以上50Pa以下がより好ましく、35Pa以上45Pa以下がさらに好ましい。
【0070】
当該水素分圧が、3Pa以上であると泡状ボイドの比率が50%以上になり、特に前記
分圧が35Pa以上の場合、泡状ボイドの比率が60%以上となる。また、前記分圧が6
0Pa以下であると、OSF領域とV2領域との重複がなくなるため、得られるシリコン
ウエハ中の大部分の領域の高Cモード合格率を80%以上とすることができる。
【0071】
本発明に係るシリコンウエハ中の炭素濃度は、1×1015〜9×1015atoms/cmであり、好ましい炭素濃度は、3×1015〜5×1015atoms/cmである。
【0072】
当該炭素濃度が3×1015〜5×1015atoms/cmであると、ウエハ全面をV2領域にすることが比較的容易になり、加えて水素分圧を35〜45Paにすることによって、高Cモード合格率を90%以上にすることが可能となる。なお、シリコン結晶中の炭素濃度と、得られるシリコンウエハ中の炭素濃度とは実質的に同一である。
【0073】
次に、上記の結晶引き上げの際に所定の温度勾配及び引上げ速度で急冷処理する点を説
明する前に、当該急冷処理を実施することのできる単結晶製造装置および当該装置を用い
たシリコン結晶およびシリコンウエハの製造方法の好ましい実施形態の一例について、例
を挙げて説明する。図6は、本発明に用いる単結晶製造装置の一例を示す概略断面図であ
る。図6に示す単結晶製造装置は、半導体材料を溶融するための部材や成長した単結晶を
引き上げる機構などを有しており、半導体材料溶融のための部材は加熱チャンバ2a内に
収容され、単結晶を引き上げる機構は、この加熱チャンバ2aから分離可能とされた上部
構造体の一部を構成する引き上げチャンバ2bの内部および外部に設けられている。この
上部構造体は、中間チャンバ2cも有している。
【0074】
加熱チャンバ2a内には、溶融液Lを収容するルツボが設けられ、このルツボは回転軸5によって回転・昇降自在に支持され、回転軸5は図示しない駆動装置によって回転・昇降がなされる。駆動装置は、単結晶Sの引き上げに伴う液面低下を補償すべくルツボを液面低下分だけ上昇させ、また、溶融液Lの攪拌を行うためにルツボを常時所定の回転数で回転させる。ルツボは、石英ルツボ3aとこれを保護する黒鉛製ルツボ3bとから構成される。ルツボの側壁部分には、シリコンを溶融させる加熱ヒータ4がその周囲を取り囲むように配置されている。この加熱ヒータ4の外側には、この加熱ヒータ4からの熱が加熱チャンバ2aに直接輻射されるのを防止する断熱材12がその周囲を取り囲むように設けられている。
【0075】
引き上げチャンバ2bには、一端がワイヤ巻き上げ機11に取り付けられ、中間チャンバ2cの天井部の頂壁を挿通して垂れ下げられた引き上げワイヤ8が設けられ、この引き上げワイヤ8の下端には、種結晶9を保持するチャック10が取り付けられている。ワイヤ巻き上げ機11は種結晶9の下端側に徐々に成長する単結晶Sをその成長速度等に従って引き上げ、同時に、ルツボの回転方向とは反対に常時回転させる。
【0076】
引き上げチャンバ2bの収容部に形成されたガス導入口13からはアルゴンと水素が混合されたガスが導入され、この混合ガスは加熱チャンバ2a内を流通した後にガス排出口14から排出されるようになっている。このようにチャンバ内に混合ガスを流通させるのは、前述したように、加熱ヒータ4の加熱によるシリコンの溶融に伴ってチャンバ内に発生するSiOガスやCOガスをシリコン融液内に混入させないようにするためである。
【0077】
チャンバ内のルツボの上方には、成長する単結晶を取り囲むように液冷構造体21と冷却体22とが配置される。液冷構造体21は、内部に液体の冷媒を流通させた構造体である。図6では、液冷構造体21は水を冷媒としたステンレス鋼製の水冷チャンバとして構成されている。
【0078】
高熱伝導材からなる冷却体22は成長する単結晶Sを冷却するように配置される。冷却
体22を構成する材料としては、熱伝導率および熱輻射率の大きい物質、例えば、銀、銀
合金、カーボンや銅などから選択することができるが、熱伝導率が高く同時に溶融液や単
結晶を汚染する懸念のない材料として、銀又は銀合金を用いると最も好ましい。銅または
銅合金の表面に金又は銀もしくはそれらの合金をコーティングする方法を採用することも
できる。
【0079】
液冷構造体21に冷却体22が接合され、冷却体22と液冷構造体21との接合部は爆
着接合された爆着接合部25を構成している。爆着においては、接合する材料同士を適当
な間隔を開けて平行に配置する。一方の材料の上に緩衝材を介して適当な量の爆薬を載せ
、その一端を雷管によって起爆すると、爆発の進行と共に両材料が衝突し、衝突点では両
方の金属が非常に大きな変形速度と高圧によって粘性流体的な挙動を示し、衝突点から前
方に金属の噴流が発生する。この金属ジェットによって金属表面の酸化皮膜やガスの吸着
層が除去されるため、現れた清浄表面が高圧によって密着し、両材料は完全に金属組織的
に接合する。
【0080】
冷却体22と液冷構造体21との接合部は爆着接合されているので、異種金属接合部で
あるにもかかわらず良好な接合部を形成し、さらに接触面積のうちの接触率をほぼ100
%に確保することができる。そのため、冷却体22から液冷構造体21への伝熱が極めて
良好となり、冷却体22の温度を低下させることが可能になる。冷却体22は、成長する
単結晶Sの中心軸に対して略回転対称形状をなしてルツボや溶融液Lから単結晶Sへの輻
射熱を遮断する位置に配置され、冷却体22の上端部において液冷構造体21と接合して
いる。
【0081】
図6では、冷却体22を円筒形状とし、冷却体22と液冷構造体21との爆着接合部2
5の接触面積は、冷却体本体の断面積とほぼ等しい面積を有している。冷却体22の表面
性状については、単結晶Sに対向する冷却体22の内側を黒くすることにより、入射した
熱放射を吸収することができる。また、ルツボや冷却体22の外側は、入射した熱放射を反射するように反射率の高い表面とすることができる。
【0082】
液冷構造体21は、その形状がドーナツ型の水冷チャンバであって、中間チャンバ2c
の側壁部と加熱チャンバ2aとの間に配置されている。
【0083】
まず、単結晶Sを製造するにあたって、引き上げチャンバ2bと中間チャンバ2cと冷
却体22を爆着した液冷構造体21とを有する上部構造体を加熱チャンバ2aから分離し
、ルツボに原料となるシリコン多結晶体と非常に微量のドーパントとなる不純物とを投入
して、その後、上部構造体を加熱チャンバ2aに再び取り付ける。この状態で加熱ヒータ
4を加熱してルツボ内の半導体材料が溶融されるのを待つ。半導体材料が溶融状態となっ
たら、ワイヤ巻き上げ機11を作動させて引き上げワイヤ8を下ろし、チャック10に取
り付けられた種結晶9が溶融液L表面に接するようにする。この状態で、種結晶9に単結
晶Sが成長し始めると、今度はワイヤ巻き上げ機11を所定の速度で引き上げて単結晶S
を成長させていく。
【0084】
このように、溶融液Lから単結晶Sを引き上げつつ成長させる過程において、単結晶S
からの輻射光は、高熱伝導率材からなる冷却体22に入射する。このとき冷却体22は、
液体冷媒で冷却された液冷構造体21と爆着接合されており、低温に保たれているため、
単結晶Sとの輻射熱交換が良くなり、単結晶Sの冷却速度を向上させることが可能になる
。併せて、引き上げ中の単結晶Sを急冷することができるので、単結晶Sの結晶欠陥の発
生がきわめて少なくなる。
【0085】
そして、引き上げた単結晶Sを切り出し、所望により研磨(ミラー加工)してシリコンウエハ(ミラーウエハ)を得る。その際、デバイスプロセスでのゲッタリングに必要な程度のBMD密度を得るために、酸素析出のための熱処理(析出熱処理)を行ってもよい。かかる熱処理の条件として、所望のBMD密度が得られる限り、特に制限されることはないが、700〜1000℃で1〜30時間が好ましい。また、かかる熱処理は、処理温度ないし処理時間を一定としてもよいし、少なくともいずれかを処理中に変化させる2段階からなってもよく、例えば、特開2007−176732号公報に記載される熱処理を行うことができる。なお、上記の本明細書におけるBMD密度の測定方法として採用した析出熱処理では2段階の熱処理を行っている。さらに、公知の方法で当該ミラーウエハの表面にエピタキシャル層を形成させてもよい。
【0086】
続いて、上記の結晶引き上げの際に所定の温度勾配及び引上げ速度で急冷処理する点を以下説明する。
【0087】
前記シリコン結晶を引き上げる際の1100〜1200℃における前記シリコン結晶の長手方向の温度勾配を3.5℃/mm以上とする。前記温度勾配を3.5℃/mm以上とした場合、前記温度勾配を一定の程度まで大きくした状態で、且つ引き上げ速度を一定の程度まで小さくしつつ引き上げを行うことによって、ボイド領域とOSF領域の間に上記のV2領域を広範囲に出現させることができる。かかるV2領域の出現は、1100〜1200℃という温度域で点欠陥の相互作用が起こっているためであると推測される。前記シリコン結晶の長手方向の温度勾配を好ましくは3.5〜5.0℃/mm、より好ましくは3.5〜4.8℃/mm、特に好ましくは3.8〜4.2℃/mmである。このように、「急冷」に際して温度勾配を非常に限られた上記範囲とすることにより、ボイド密度を有意に小さくし、且つボイド集合体が泡状となって半導体デバイスに影響をほとんど及ぼさなくなる。また、比較的小さな引き上げ速度で安定的かつ容易に結晶を引き上げることができるため好適である。特に、前記温度勾配の上限を5.0℃/mmとした場合、比較的小さな引き上げ速度でも結晶育成が安定しているため好適である。
【0088】
次に、本発明に係るシリコン結晶の引き上げ速度は、シリコンウエハの総面積に占めるV1領域またはV2領域の割合を規定することによって制御する。具体的には、結晶引き上げ速度の上限値は、V1領域が前記シリコンウエハの総面積の20%となる時の値である。一方、結晶引き上げ速度の下限値は、V2領域が前記シリコンウエハの総面積の80%となる時の値である。また、好ましい前記割合として、前記上限値は、V1領域が前記シリコンウエハの総面積の0%となる時の値、かつ、前記下限値は、V2領域が前記シリコンウエハの総面積の80%となる時の値である。さらに、より好ましい前記割合として、前記上限値は、V1領域が前記シリコンウエハの総面積の0%となる時の値であり、かつ、前記下限値は、V2領域が前記シリコンウエハの総面積の100%となる時の値である。この場合、ウエハ全面がV2領域となる。
【0089】
さらにより詳細にいえば、かかる上限値及び下限値の設定による結晶引き上げ速度の制
御は、V1領域及びV2領域並びにOSF領域のサイズ(幅)を制御することにより行う
。V1領域及びV2領域のサイズ(幅)の制御は、上記した通りである。OSF領域のサ
イズ(幅)の制御は、上述したOSF領域の縮小化(shrink)に因る。
【0090】
図7は、シリコン結晶の引き上げ速度と欠陥領域との関係を示す図である。図7のうち下の図は、引上げた結晶の断面を示す図である。そして、当該図中、(a)、(b)及び(c)の地点における切断面を図7のうち上の図に示している。(a)、(b)及び(c)での切断面はいずれも、V2領域の面積率が80%以上であるのに対し、V1領域+OSF領域の面積率が20%以下であることを見出した。すなわち、(a)及び(c)の地点を境界として、その間の断面は常に、結晶引き上げ速度の上限値としてV1領域が前記シリコンウエハの総面積の20%となり、且つ結晶引き上げ速度の下限値としてV2領域が前記シリコンウエハの総面積の80%となる領域である。したがって、(a)及び(c)の地点を両端とする内側の領域は、本発明により得られるシリコンウエハとして所望のものである。より詳細には、V1領域が前記シリコンウエハの総面積の20%となる引き上げ速度(V)は、V領域とV1領域との境界と、V1領域とV2領域との境界との2つであり、V2領域が前記シリコンウエハの総面積の80%となる引き上げ速度(V)は、V1領域とV2領域との境界と、V2領域とOSF領域との境界の2つであるが、本発明における引き上げ速度(V)は、V1領域とV2領域との境界からV2領域とOSF領域との境界までの範囲が好ましい。
【0091】
また、本発明に係る結晶引き上げ速度(V)の範囲自体を示すと、0.40〜0.87mm/分であり、好ましくは0.53〜0.68mm/分であり、より好ましくは0.53〜0.63mm/分であり、特に好ましくは0.56〜0.63mm/分である。これらの範囲はそれぞれ、上記したシリコンウエハの総面積に占めるV1領域またはV2領域の割合についての範囲、好ましい範囲及びより好ましい範囲にそれぞれ対応する。結晶引き上げ速度が0.87mm/分以下であると、前記シリコンウエハの全面がV1領域となる状態を回避でき、V2領域を発生させることができるため、酸化膜耐圧特性が極めて良好になると共に、高Cモード合格率が70%以上になりうる。一方、結晶引き上げ速度が0.40mm/分超であると、前記シリコンウエハの全面がOSF領域になる状態を回避でき、高Cモード合格率が70%以上になりうる。
【0092】
なお、本明細書における酸化膜耐圧測定(高Cモード合格率の算出)は、以下のように
して実施する。本発明に係るシリコン結晶を切り出して得たシリコンウエハの表面に、1
000℃の乾燥酸素雰囲気で25nmの酸化膜を形成し、酸化膜耐圧を測定する。耐圧測
定に用いた電極は、ウエハ面内に164個であって面積20mmのポリシリコン電極で
ある。判定電流100mA、且つ電界強度11MV/cm以上の耐圧性を示す電極の割合
を高Cモード合格率と定義し、高Cモード合格率70%以上をデバイス性能との関係から
「良好」と判定する。
【0093】
さらに、ボロンコフ理論(V.V.Voronkov;Journal of Cry
stal Growth,59(1982)625〜643)によれば、結晶引き上げ速
度(V)と結晶成長軸方向の平均温度勾配(G)の比であるV/Gというパラメータが微
小欠陥(点欠陥)のタイプとトータルの濃度とを決定する。ここで、Gは融点から135
0℃までの結晶成長軸方向の平均温度勾配である。したがって、V/Gを算出することに
よっても本実施形態における結晶引き上げ速度の制御を規定できるため、以下、説明する。
【0094】
相対V/G値を下記のようにして定義した。当該窒素及び炭素及び水素を添加した結晶を引き上げた引上炉と同じ構造の引上炉で、窒素及び炭素及び水素が添加されていない結晶を種々の引き上げ速度Vで引き上げた。次に、引き上げた結晶からウエハを切り出し、780℃で3時間、続いて1000℃で16時間の析出熱処理を施し、その後、BMDアナライザーでBMD密度を測定した。BMD密度が1×10/cm以上となる領域をVリッチ領域(Pv領域、OSF領域、V領域)、1×10/cm未満となる領域をIリッチ領域(Pi領域、I領域)として、Vリッチ領域とIリッチ領域の境界をV−I境界と定義した。この場合、V−I境界に位置するV/G値が(V/G)critに相当する。
【0095】
V/Gの絶対値は、Gの絶対値が分からなければ求めることはできない。しかし、V/Gを(V/G)critで規格化した相対V/Gを定義すれば、相対V/Gが1より大きければVリッチ領域、1より小さければIリッチ領域になると考えることができる。引き上げ速度とV−I境界位置の関係を調べておけば、同じ構造の引上炉を用いて、ある引き上げ速度Vで引き上げた結晶の面内の相対V/G値を求めることができる。
【0096】
V/GによるV1領域、V2領域制御の仕方は次の通りである。図1の(F)に示す実施形態において、V1領域はV/Gが1.1×(V/G)crit以上の範囲に現れる。またV2領域はV/Gが1.1×(V/G)crit〜0.7×(V/G)critの範囲に現れる。よって、本実施形態は、V/Gが1.1×(V/G)crit以上である領域が前記シリコンウエハの総面積の20%以下であり、かつ、V/Gが1.1×(V/G)crit〜0.7×(V/G)critである領域が前記シリコンウエハの総面積の80%以上である。より好ましくは、前記ウエハ全面においてV/Gが1.1×(V/G)crit以下であり、かつ、V/GがV/Gが1.1×(V/G)crit〜0.7×(V/G)critである領域が前記シリコンウエハの総面積の80%以上である。さらに好ましくは、前記ウエハ全面において1.1×(V/G)crit〜0.7×(V/G)critである。シリコン結晶における、V1領域およびV2領域と、V/GおよびVとの関係を図9に示す。
【0097】
続いて、上記(3)ボイド密度が所定の範囲内に存するように調節する点は、上記本発明の第1で説明したようにV1領域およびV2領域を制御するものであるので、上記第1発明と条件と重複するため、ここでは説明を省略するが、シリコン結晶中のボイド密度の面内分布、OSFの面内分布、および高Cモード合格率の相互関係を以下説明する。
【0098】
図8に示すように、本発明者らは、シリコン結晶中のボイド及びOSFの面内分布、並びに高Cモード合格率の相互関係を調べた。シリコン結晶中のボイド及びOSFの面内分布は、上記した市販の欠陥評価装置であるレイテックス社製LSTDスキャナ(MO−6)を用いて測定した。MO−6の測定条件については上述した通りであるため、ここでは説明を省略する。測定したボイド及びOSFの面積密度(density[/cm])と測定深さ5μmとから、ボイド及びOSFの体積密度(density[/cm])を算出した。実験系としては、(B)窒素ドープのみ(水素ドープ及び本発明の「急冷」処理無し)の系、(D)窒素ドープ+本発明の「急冷」処理有りの系(水素ドープ無し)、並びに(F)窒素ドープ+水素ドープ+炭素ドープ+本発明の「急冷」処理有りの系が挙げられる。
【0099】
シリコン結晶中のボイド及びOSFの面内分布、並びに高Cモード合格率の関係を調べた結果を図8に示す。なお、図8の[B]〜[F]における各条件を下記表2にまとめる。
【0100】
【表2】

【0101】
図8より、(F)の系における、ボイド密度が5×10〜2×10/cmの範囲の領域において、良好な高Cモード合格率(70〜100%)を示した。なお、その他の領域の高Cモード合格率は良好といえず、0〜40%であった。
【0102】
次に、上記シリコン結晶の直径及び結晶引上炉内の圧力を所定の値とする点を以下説明する。
【0103】
本発明に係るシリコン結晶の直径は、以下に限定されることはないが、200mm以上とすることが好ましい。200mm以上の場合、DRAM等のデバイスにおいて主として用いられている200mm以上のシリコン結晶に、本発明を好適に適用可能となる。
【0104】
本発明に係るシリコン結晶の製造方法において、結晶引上炉内の圧力を40〜250mbarにする。前記圧力(下限値)が40mbar以上、好ましくは60mbar以上、より好ましくは80mbar以上の場合、引き上げ時の製品歩留まりの低下を効果的に回避できる。一方、前記圧力(上限値)が250mbar以下、好ましくは150mbar以下、より好ましくは100mbar以下の場合、引き上げ時の製品歩留まりの低下を効果的に回避できる。
【実施例】
【0105】
以下、本発明の実施例を説明する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。すなわち、下記実施例は単なる例示に過ぎず、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様の作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0106】
[実施例1]
シリコン結晶製造装置を用いてシリコン単結晶の引き上げを行った。本実施例に用いた
シリコン結晶製造装置は、図6に示す冷却体22を有する単結晶製造装置である。かかる
装置は、通常のCZ法によるシリコン結晶製造に用いられ、上記の装置を用いてルツボ直
径は22インチ、ルツボに挿入するシリコン半導体材料は100kgであり、成長する単
結晶Sは8インチ結晶であった。
【0107】
冷却体22には材料として銀を用い、冷却体22の内径は260mm、外径は300mm、長さは280mmであった。液冷構造体21としては、内部に冷却水配管を有するドーナツ形状の水冷チャンバとし、中間チャンバ2cの下部に液冷構造体31を取り付ける構成とした。
【0108】
具体的に、当該製造装置は、1100℃以上の引上げ速度を上げるために、上記の方法で冷却した引上炉1または引上炉2、あるいは一般的な引上げ速度を有する引上炉3である。引上炉1、引上炉2では、冷却体22と液冷構造体21との接合部を爆着接合した。他方、引上炉3では、冷却体22と液冷構造体21との接合部をボルト接合した。
【0109】
引上炉1で結晶を引き上げたときの、1100〜1200℃における結晶の長手方向温
度勾配を4℃/mmとし、引上炉2における当該温度勾配を5℃/mmとし、引上炉3に
おける当該温度勾配を3℃/mmとした。各実施例及び各比較例における上記引上炉の種
類(表3中の項目「引上炉」)、及び当該温度勾配は、下記の表3に記載した。
【0110】
この装置を利用して育成したシリコン結晶は、伝導型がp型(ボロンドープ)であり、
結晶径(直径)が200mm(8インチ)であった。
【0111】
窒素添加は、シリコン融液中に窒化膜付きウエハを投入することによって行った。炭素
添加は、シリコン融液中に炭素粉を投入することによって行った。引上げた結晶をスライ
スして得られたシリコンウエハの窒素濃度は、二次イオン質量分析装置(SIMS)を用
いて測定した。酸素及び炭素濃度は、赤外吸収法により測定し、換算係数としてJEIT
A(電子情報技術産業協会)の値を使った。すなわち、格子間酸素濃度の換算係数は3.
03×1017/cm、炭素濃度の換算係数は8.1×1016/cmである。
【0112】
但し、5×1014atoms/cm以下の窒素濃度を有するウエハはSIMSを用
いて測定できないため、以下の数式により求めた窒素濃度を使用した。かかる数式につい
て以下、詳細に説明する。
【0113】
本発明に係る製造方法における窒素の添加方法は、特に制限されるものではなく公知の
方法を使用することができ、例えば、シリコン原料溶解中に窒素ガスを導入する方法や、
窒化物をCVD法等によって堆積させたシリコン基板を原料溶解中に混入させる方法等が
挙げられる。また、シリコン融液の凝固後の結晶中に取り込まれる不純物の融液中濃度に
対する比率である偏析係数kは窒素の場合7×10−4である(W. Zulehner and D. Huber, Crystal Growth, Properties and Applications, p28, Springer−Verlag, New York, 1982)。
【0114】
本発明の製造方法に使用されるシリコン融液から結晶中に取り込まれる窒素濃度は、
【0115】
【数1】

【0116】
で算出できる。なお、融液中の窒素濃度は初期融液窒素濃度とも称することができる。こ
こで、シリコン結晶の固化率(g)は、
【0117】
【数2】

【0118】
によって求められる。
【0119】
なお、窒素濃度の測定値[atoms/cm]は下記の表3に記載した。
【0120】
また、水素添加は、水素混合ガスを各引上炉中に導入することにより行った。なお、水素分圧[Pa]は、下記の表3に記載した条件を設定した。
【0121】
また、結晶の引き上げ速度V、およびを次のように制御した。第1に、引き上げ速度の上限値として、ボイド密度が2×10/cmを超えて1×10/cm未満であるV1領域が前記シリコンウエハの総面積の20%以下となるように制御した。また、第二に、引き上げ速度の下限値として、ボイド密度が5×102/cmを超えて2×104/cm未満であるV2領域が前記シリコンウエハの総面積の80%以上となるように制御した。その際の結晶の引き上げ速度の値、および前記シリコンウエハ面内のV/G最大値(ウエハ中心のV/G)、最小値(ウエハエッジのV/G)については下記の表3に記載した通りである。
なお、V/Gは、(V/G)critに対する比率で表すこととする。これにより、この単結晶の同一部位から基板を複数枚切り出し、ミラー加工し、目的のシリコンウエハを得た。
【0122】
サブストレートのV領域は、結晶育成中に固液界面から過剰の原子空孔が導入された結
果、ボイドが発生して形成される領域である。そこでシリコンウエハのV領域は、具体的
には、前記ボイドの密度で規定することができる。
【0123】
シリコンウエハ内の欠陥(ボイド)領域の評価(同定)は、上述の方法により行った。
そして、上述のように、ボイドの体積密度を算出し、V1領域及びV2領域を決定した。
このようにして決定したV1領域及びV2領域の内径及び外径[cm]を下記表3に記載
した。
【0124】
シリコンウエハのOSF評価は、下記の方法で行った。まず、サブストレートを110
0℃で1時間、水蒸気含有酸素雰囲気中で酸化処理した。その後、フッ酸で酸化膜を除去
し、それからライトエッチ液にて1.5μmエッチングし、表面に発生した楕円状、半月
状または棒状のOSFピットを光学顕微鏡で観察した。OSF面積密度[個/cm]は、光学顕微鏡にて直径2.5mmの視野でウエハの直径方向を走査してOSFピット個数をカウントし、「OSFピット個数/観察面積」で求めた。OSF面積密度が100個/cm以上となる領域をOSF領域とした。このようにして決定したOSF領域の内径及び外径[cm]を下記表3に記載した。
【0125】
さらに、シリコンウエハ中の酸素濃度、ボイド全体に対する泡状のボイド集合体の比率、BMD密度、及び高Cモード合格率(酸化膜耐圧値)はそれぞれ、上述した方法により測定した値を下記表3に記載した。
【0126】
[実施例2]
酸素濃度、窒素濃度、炭素濃度、引き上げ速度、およびV/Gの最小値及び最大値を下記表3に記載した条件で行った点以外は、実施例1と同様にして行った。
【0127】
[実施例3]
窒素濃度、酸素濃度、炭素濃度、引き上げ速度、およびV/Gの最小値及び最大値を下記表3に記載した条件で行った点以外は、実施例1と同様にして行った。
【0128】
[実施例4]
窒素濃度、炭素濃度、引き上げ速度、およびV/Gの最小値及び最大値を下記表3に記載した条件で行った点以外は、実施例1と同様にして行った。
【0129】
[実施例5]
炭素濃度、酸素濃度、引き上げ速度、水素分圧およびV/Gの最小値及び最大値を下記表3に記載した条件で行った点以外は、実施例1と同様にして行った。
【0130】
[実施例6]
炭素濃度、酸素濃度、引き上げ速度、水素分圧およびV/Gの最小値及び最大値を下記表3に記載した条件で行った点以外は、実施例1と同様にして行った。
【0131】
[実施例7]
酸素濃度、炭素濃度、引き上げ速度、V/Gの最小値及び最大値を下記表3に記載した条件で行った点以外は、実施例1と同様にして行った。
【0132】
[実施例8]
酸素濃度、炭素濃度、引き上げ速度、V/Gの最小値及び最大値、引上炉、および温度勾配を下記表3に記載した条件で行った点以外は、実施例1と同様にして行った。
【0133】
[比較例1〜7]
酸素濃度、炭素濃度、水素濃度、引き上げ速度、V/Gの最小値及び最大値、引上炉、水素分圧および温度勾配を下記表3に記載した条件で行った点以外は、実施例1と同様にして行った。
【0134】
上記の実施例及び比較例の結果を表3に示す。
【0135】
【表3】

【0136】
表3より、実施例1〜8で得られたシリコンウエハの高Cモード合格率はいずれも70%超という優れた結果を示した。したがって、各実施例で得られたシリコンウエハはいずれも、グレードの低いデバイスを含むいかなるデバイスにも使用でき得るといえる。さらに、実施例1〜8の中でも、引上げ速度が0.56〜0.62であり、且つV/G最小値が0.7以上であってV/G最大値が1.1以下である場合、シリコンウエハの高Cモード合格率はいずれも90%超という一層優れた結果を示した。
【0137】
なお、実施例1〜8の間の結晶引き上げの安定性について調べたところ、実施例8と比較してその他の実施例1〜7の方が有意に結晶引き上げが安定的であった。かかる結果は、結晶引き上げの安定性にとって、実施例1〜7で設定した引き上げ速度及び温度勾配の条件が顕著に好適であることを示していると考えられる。
【0138】
これに対し、各比較例はいずれも、高Cモード合格率が70%を下回っていたか、または結晶の引き上げ自体ができなかった。したがって、各比較例で得られたシリコンウエハはいずれも、グレードの低いデバイスを含むいかなるデバイスにも使用できないといえる。各比較例がこのような悪い結果となった理由を考察する。比較例1は、前記シリコンウエハの総面積におけるV1領域の面積率が20%を超えているためである。比較例2は、前記シリコンウエハの総面積におけるV2領域の面積率が80%に有意に満たないためである。比較例3は、水素分圧が顕著に不足しており、泡状のボイド集合体がほとんど形成されなかったとともに、V2領域の面積率が80%に有意に満たないためである。比較例4は、水素分圧が顕著に大きく、V2領域が狭くなったためである。比較例5は、炭素が顕著に不足しており、V2領域が狭くなったためである。比較例6は、本発明に固有の「冷却」処理が不十分であったためである。比較例7は、窒素濃度が高く、ウエハ全面がOSF領域になっているため、OSF領域に存在しうる何らかの微小欠陥を排除することができないためである。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明は、特に、微細な半導体デバイスにおいて好適に使用可能である。
【符号の説明】
【0140】
2a 加熱チャンバ、
2b 引き上げチャンバ、
2c 中間チャンバ、
3a 石英ルツボ、
3b 黒鉛製ルツボ、
4 加熱ヒータ、
5 回転軸、
8 引き上げワイヤ、ワイヤ巻き上げ機、
9 種結晶、
10 チャック、
11 ワイヤ巻き上げ機、
12 断熱材、
13 ガス導入口、
14 ガス排出口、
21 液冷構造体、
22 冷却体、
25 爆着接合部、
L 溶融液、
S 単結晶、
41 八面体状のボイド、
42 泡状のボイドの集合体、
43 泡状のボイドの集合体を構成するボイド、
44 アスペクト比2以上のボイド、
410 酸化膜、
411 シリコンウエハ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン結晶中の窒素濃度を3×1013〜3×1015atoms/cmとし、
シリコン結晶中の炭素濃度を1×1015〜9×1015atoms/cmとし、
結晶引上炉内の水素分圧を3〜60Paとし、
前記シリコン結晶を引き上げる際の1100〜1200℃における前記シリコン結晶の
長手方向の温度勾配を3.5℃/mm以上とし、並びに、
結晶引き上げ速度の上限値として、ボイド密度が2×10/cmを超えて1×10
/cm未満であるV1領域が前記シリコンウエハの総面積の20%となり、且つ結晶引き上げ速度の下限値として、ボイド密度が5×10〜2×10/cmであるV2領域が前記シリコンウエハの総面積の80%となるように制御することによって、引き上げることを特徴とする、シリコン結晶の製造方法。
【請求項2】
シリコン結晶中の酸素濃度を7×1017atoms/cm(JEITA、換算係数
3.03×1017/cm)以下にすることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
窒素、水素、および炭素を含有するシリコンウエハであって、
泡状のボイド集合体を構成する複数のボイドが、総ボイド数に対して50%以上存在し

ボイド密度が2×10/cmを超えて1×10/cm未満であるV1領域が、
前記シリコンウエハの総面積中20%以下を占め、
ボイド密度が5×10〜2×10/cmであるV2領域が、前記シリコンウエハ
の総面積中80%以上を占め、並びに、
内部微小欠陥密度が5×10/cm以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載のシリコン結晶から切り出されたシリコンウエハ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−153069(P2011−153069A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293890(P2010−293890)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(599119503)ジルトロニック アクチエンゲゼルシャフト (223)
【氏名又は名称原語表記】Siltronic AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】