説明

シリコン溶解装置

【課題】シリコン融液を出湯させる際に下部に設置してある鋳型の周囲にシリコン融液を飛散させずに、シリコン融液を安定して鋳型6内に注湯することのできるシリコン溶解装置を提供することを目的とする。
【解決手段】内部にシリコン原料を保持し溶融させる溶融坩堝1aと、前記シリコン原料を加熱し融液とするための加熱手段2と、前記溶融坩堝1aの底部に設けられた出湯口3と、前記出湯口3の下方に配置された鋳型6とから成るシリコン溶解装置であって、前記溶融坩堝1aは、その出湯口3に、一端が出湯口3に直結し且つ他端が融液出口となるとともに、前記融液出口におけるシリコン融液の表面張力を抑える貫通孔8を有する融液ガイド7を設けたことを特徴とするシリコン溶解装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に太陽電池用多結晶シリコンを鋳造するのに適したシリコン溶解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は入射した光エネルギーを電気エネルギーに変換するものである。太陽電池のうち主要なものは使用材料の種類によって結晶系、アモルファス系、化合物系などに分類される。このうち、現在市場で流通しているのはほとんどが結晶系シリコン太陽電池である。この結晶系シリコン太陽電池はさらに単結晶型、多結晶型に分類される。単結晶型のシリコン太陽電池は基板の品質がよいために高効率化が容易であるという長所を有する反面、基板の製造コストが高いという短所を有する。これに対して多結晶型のシリコン太陽電池は基板の品質が劣るために高効率化が難しいという短所はあるものの、低コストで製造できるという長所がある。また、最近では多結晶シリコン基板の品質の向上やセル化技術の進歩により、研究レベルでは18%程度の変換効率が達成されている。
【0003】
一方、量産レベルの多結晶シリコン太陽電池は低コストであったため、従来から市場に流通しており、近年環境問題が取りざたされる中でさらに需要が増してきている。
【0004】
多結晶シリコン太陽電池に用いる多結晶シリコン基板は一般的にキャスティング法と呼ばれる方法で製造される。このキャスティング法とは、離型材を塗布した石英などからなる鋳型内のシリコン融液を冷却固化することによってシリコン鋳塊を形成する方法である。このシリコン鋳塊の端部を除去し、所望の大きさに切断して切り出して、切り出した鋳塊を所望の厚みにスライスすることで太陽電池を形成するための多結晶シリコン基板を得る。
【0005】
図5は、シリコン材料を溶融する従来のシリコン溶解装置を示す(例えば、特許文献1参照)。図5において、1は坩堝、1aは溶融坩堝、1bは保持坩堝、2は加熱手段、2aは上部加熱手段、2bは側部加熱手段、3は出湯口、4は出湯口を塞ぐシリコン原料、5はノズル、6は鋳型を示す。
【0006】
シリコン原料を溶融するための溶融坩堝1aが保持坩堝1bに保持されて配置されている。溶融坩堝1aの底部にはシリコン融液を出湯させるための出湯口が設けられ、例えば口径dが5mmから20mm程度の出湯口3が設けられている。この出湯口を塞ぐためにシリコン原料4を用いている。その上に、溶融坩堝1a内に溶解用のシリコン原料が投入されている。そして出湯口3を覆うように垂下し、鉛直下方に対して垂直に切断したときの内断面が略円形状であるノズル5が設けられている。また、坩堝1の上部と側部にはそれぞれ加熱手段2(上部加熱手段2a、側部加熱手段2b)が配置されている。また、このとき溶融坩堝1a、ノズル5はシリコン融液中への不純物の溶出を抑えるために、高純度の石英などが用いられている。
【0007】
溶融坩堝1a内のシリコン原料は上部加熱手段2aと側部加熱手段2bにより、上部のシリコン原料から下部のシリコン原料へ徐々に溶解して、最後に出湯口を塞ぐシリコン原料4を溶解させ、出湯口3に設けられたノズル5から溶融したシリコン融液を鋳型6に出湯させるように構成されている。また、鋳型6の内側には離型材(不図示)が塗布されている。このように溶融坩堝1aの上部から徐々にシリコン原料を溶融させ、シリコン原料が完全に融液となった瞬間に出湯が開始されることからシリコン原料が溶融した後の出湯を効率よく行うことができ、装置を極めて簡略化することができる。また、出湯口3に設けられたノズル5により整流されたシリコン融液を鋳型に出湯することができ、シリコン融液が周囲に飛散するのを抑制することができる。
【特許文献1】特開2003−247783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ノズル5を設けることによるシリコン融液の飛散を抑制する効果は十分とは言えず、鋳型6内にシリコン融液が入らずに鋳型6の外に漏れたり、シリコン融液を出湯して鋳型6に注湯する時、その流れが十分に安定せず、乱れているために、シリコン融液が周囲に飛散したりすることによって、装置を破損させてしまったり、シリコン融液が鋳型6を構成している部品に付着することにより部品の消耗を激しくし、生産性が低下するといった問題があった。
【0009】
また、シリコン融液は出湯時に流れ方向に乱れがあると、鋳型6内で跳ね飛ぶ割合が多くなり、鋳型内側面に付着し、その後付着したシリコン粒が急速に固まる。後の出湯したシリコン融液と鋳型内で混じりあった時、シリコンの結晶性を悪くさせ基板特性を低下させ、さらには急速に固まったシリコン粒が鋳型内部の離型材と共に剥がれ、シリコン融液内部に異物として混入して、切断、切削性を悪化させる。また、不純物による基板特性の低下を招く問題もあった。
【0010】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的はシリコン融液を出湯させる際に下部に設置してある鋳型の周囲にシリコン融液を飛散させずに、シリコン融液を安定して鋳型6内に注湯することのできるシリコン溶解装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上述の問題に鑑み、鋭意検討を行ったところ、以下の事実を知見した。
【0012】
図7は、従来のシリコン溶解装置においてシリコン融液が出湯する状態を示す模式図である。従来の場合、融液出湯の際、融液出口付近において、ノズル5を構成する石英とシリコン融液との濡れ性により表面張力が生じ、白矢印に示すように、融液に対して水平方向の速度成分が付与されていた。その結果、融液が飛散する現象が起こっていた。そこで、本発明者らは融液出口付近においてシリコン融液との間に生じる表面張力を抑制できれば、融液の水平方向の速度成分の増加を抑え、融液の飛散を抑制できる可能性に着目した。この知見に基づき、実験を繰り返し行ない本発明に到達したのである。
【0013】
すなわち、本発明の請求項1に係るシリコン溶解装置は、内部にシリコン原料を保持し溶融させる溶融坩堝と、前記シリコン原料を加熱し融液とするための加熱手段と、前記溶融坩堝の底部に設けられた出湯口と、前記出湯口の下方に配置された鋳型とから成るシリコン溶解装置であって、前記溶融坩堝は、その出湯口に、一端が出湯口に直結し且つ他端が融液出口となるとともに、前記融液出口におけるシリコン融液の表面張力を抑える貫通孔を有する融液ガイドを設けたことを特徴とするシリコン溶解装置である。
【0014】
本発明の請求項2に係るシリコン溶解装置は、請求項1に記載のシリコン溶解装置において、前記融液ガイドは、前記貫通孔の融液出口側から鉛直上方に向かって平面視したときに、前記融液出口における貫通孔の口径をd、前記融液出口における前記融液ガイドの外径をTとした場合、前記融液ガイドの縁部における肉厚部分の最長表面距離(T−d)maxが0.1d≦(T−d)max/2<0.2dの関係を満足することを特徴とするシリコン溶解装置である。
【0015】
本発明の請求項3に係るシリコン溶解装置は前記融液ガイドの外形形状が、下方に向かって外径が細くなる円錐台または角錐台の外形を成し、その側面は鉛直方向に対して5度以上60度未満の角度で傾斜する請求項1又は請求項2に記載のシリコン溶解装置である。
【0016】
本発明の請求項4に係るシリコン溶解装置は、前記融液ガイドの貫通孔の内面形状が、下方に向かって口径が細くなるように設定されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のシリコン溶解装置である。
【0017】
本発明の請求項5に係るシリコン溶解装置は内部にシリコン原料を保持し溶融させる溶融坩堝と、前記シリコン原料を加熱し融液とするための加熱手段と、前記溶融坩堝の底部に設けられた出湯口と、前記出湯口の下方に備えられた鋳型ととから成るシリコン溶解装置であって、前記溶融坩堝は、出湯口の外表面側におけるシリコン融液の表面張力を抑えるべく、出湯口の外表面周囲に、切欠部を周設したこと特徴とするシリコン溶解装置である。
【0018】
本発明の請求項6に係るシリコン溶解装置は、請求項5に記載のシリコン溶解装置であって、前記出湯口は、鉛直方向の直線に直交する平面で切断した出湯口外表面での口径をd、前記出湯口の外径をTとした場合、前記出湯口の縁部における前記切欠部の肉厚部分の最長表面距離(T−d)maxが、0.1d≦(T−d)max/2<0.2dの関係を満足することを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項7に係るシリコン溶解装置は、請求項5、または請求項6に記載のシリコン溶解装置において、前記出湯口の外表面に周設した切欠部を構成する面のうち、最も内側の面は、鉛直方向に対して5度以上60度未満の角度で傾斜しているシリコン溶解装置である。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明に係るシリコン溶解装置によれば、内部にシリコン原料を保持し溶融させる溶融坩堝と、前記シリコン原料を加熱し融液とするための加熱手段と、前記溶融坩堝の底部に設けられた出湯口と、前記出湯口の下方に配置された鋳型とから成るシリコン溶解装置であって、前記溶融坩堝は、その出湯口に、一端が出湯口に直結し且つ他端が融液出口となるとともに、前記融液出口におけるシリコン融液の表面張力を抑える貫通孔を有する融液ガイドを設けたことによって、この融液ガイドの融液出口から前記融液を出湯するときに、この融液中に鉛直方向以外の速度成分が増加することを制限するようにしている。
【0021】
もしくは、内部にシリコン原料を保持し溶融させる溶融坩堝と、前記シリコン原料を加熱し融液とするための加熱手段と、前記溶融坩堝の底部に設けられた出湯口と、前記出湯口の下方に備えられた鋳型ととから成るシリコン溶解装置であって、前記溶融坩堝は、出湯口の外表面側におけるシリコン融液の表面張力を抑えるべく、出湯口の外表面周囲に、切欠部を周設したこと特徴とすることによって、この出湯口の融液出口から前記融液を出湯するときに、この融液中に鉛直方向以外の速度成分が増加することを制限するようにしている。
【0022】
このように、融液出口から融液を出湯するときに、前記融液との間の表面張力を制限して、この前記融液中に鉛直方向以外の速度成分が増加することを制限するため、鋳型に注湯した融液が周囲に飛散することを効果的に抑制することができる。その結果、飛散した融液で装置を破損させることがなく、融液が鋳型を構成している部品に付着することで生じる部品の消耗を軽減できるため、生産性と歩留まりを向上できる。
【0023】
さらには、跳ね飛ぶ融液を抑えられるため、シリコン融液が鋳型内側面に付着し、その後付着した融液の粒が急速に固まり、後に鋳型内に出湯した融液と混じりあった時に、結晶性を悪くさせ基板特性を低下させる現象を回避できる。また、急速に固まった融液の粒が鋳型内部の離型材と共に剥がれ、融液内部に異物として混入して、切断、切削性を悪化させることを防止できる。さらに、不純物による基板特性の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0025】
まず本発明の第一実施形態に係るシリコン溶解装置について説明する。図1(a)は、本発明に係るシリコン溶解装置の第一実施形態の断面の構造を示す図であり、1は坩堝、1aは溶融坩堝、1bは保持坩堝、2は加熱手段、2aは上部加熱手段、2bは側部加熱手段、3は出湯口、4は出湯口を塞ぐシリコン原料、6は鋳型、7は融液ガイド、8は貫通孔である。
【0026】
また図1(b)は図1(a)の融液ガイドの先端部拡大図であり、図1(c)は図1(b)を、貫通孔8の融液出口側から鉛直上方に向かって平面視したときの図である。図1(c)において融液ガイド7の外径をT、貫通孔8の融液出口側の口径をdとした。ここで、融液ガイドのリング形状の肉厚部分はT−dとする。また、図3(c)に示すように、複数の略円筒形が鉛直方向に重なった形状でもよい。
【0027】
図1(a)に示すように、溶融坩堝1aは、投入されたシリコン原料を内部に保持して加熱溶解してシリコン融液を鋳型に注湯するものである。なお、溶融坩堝1aで溶解されて鋳型6に注湯されたシリコン融液が冷却、凝固したシリコン鋳塊は、例えば太陽電池用多結晶シリコン基板材料などに用いられる。
【0028】
溶融坩堝1a、保持坩堝1bの下部に配置された鋳型6は石英などの二酸化珪素や黒鉛などのカーボン材、またはセラミック材からなり、その内側には離型材(不図示)を塗布して用いられる。また、この鋳型6の周りには抜熱を抑制するための鋳型断熱材(不図示)が設置される。鋳型断熱材は耐熱性、断熱性などを考慮してカーボン系の材質が一般的に用いられる。また鋳型6の下方には注湯されたシリコン融液を冷却・固化するための冷却板(不図示)を設置してもよい。なお、これらはすべて真空容器(不図示)内に設置される。
【0029】
溶融坩堝1aは通常、高純度の石英などが用いられるが、シリコン原料の融解温度以上の温度において、融解、蒸発、軟化、変形、分解などを生じにくく、かつ太陽電池特性を落とさない純度であれば特に限定されない。
【0030】
溶融坩堝1aの底部に設ける出湯口3の位置は溶融坩堝1a内の最低部であれば、図上の如何なる位置でも構わないが、溶融坩堝1a内での水平方向の温度分布を考慮して中心位置に設けるのが望ましい。溶融坩堝1aの底部に備えられた出湯口3出口に連設され垂下された融液ガイド7は、貫通孔8を有している。そして、融液ガイド7の下方には鋳型6を設けている。そのため、シリコン融液が出湯口3を通り、融液ガイド7の貫通孔8を通過し、融液ガイド7の下方にある鋳型6へと流れ込む。出湯初期においては、シリコン融液は液位による圧力によって押し出されるが、出湯後期には液位による圧力がほとんどなくなるために、自重による落下で貫通孔8から流れ出るようになる。したがって、無駄なく出湯させるためには、溶融坩堝1aの底部はある一定以上の傾斜があるほうが好ましい。そして、溶融坩堝1aの底部に設けられた出湯口3は、例えば口径dが5mmから20mm程度の大きさを有している。また、溶融坩堝1aの本体の形状は特に限定されるものではない。
【0031】
溶融坩堝1a、保持坩堝1bの上部と側部にはそれぞれ上部加熱手段2a、側部加熱手段2bが配置されている。これらの上部加熱手段2a、側部加熱手段2bによって、溶融坩堝1a内部のシリコン原料を加熱溶融して、シリコン融液とするのである。なお、これらの加熱手段2としては、例えば、抵抗加熱式のヒーターや誘導加熱式のコイルなどを用いることができる。
【0032】
さらに、出湯口3を塞ぐシリコン原料4によりあらかじめ出湯口3は塞がれている。出湯口3を塞ぐシリコン原料4上で溶融坩堝1a内の溶解させるシリコン原料を保持し、上部加熱手段2aおよび側部加熱手段2bによって、溶融坩堝1a内のシリコン原料が上部から下部へと徐々に溶解させていき、最後に出湯口3を塞ぐシリコン原料4が溶解して、シリコン融液が出湯する。ゆえに、出湯口3を塞ぐシリコン原料4は、溶解させるシリコン原料が完全に溶解される前に出湯漏れが起こらないようにする役割を有している。
【0033】
出湯口3に、一端が出湯口3に直結し且つ他端が融液出口となるとともに、融液との間の表面張力を制限することによって、この融液出口から融液を出湯するときに、この融液中に鉛直方向以外の速度成分が増加することを抑制することができる。この原理を以下に示す。
【0034】
図6に本発明に係るシリコン溶解装置において、シリコン融液が出湯する状態を示す模式図、図7に従来のシリコン溶解装置において、シリコン融液が出湯する状態の模式図を示す。図7に示されるように従来は、ノズル5を設けることで融液の跳ね飛びを軽減するものであったが、出湯口3先端が平面もしくは平面に近い形状であったために、シリコンと石英の濡れ性により水平方向に発生する表面張力によって、鉛直方向以外の、例えば水平方向の速度成分が増加し、シリコン融液が出湯するときに出湯口3の周囲に拡散し跳ね飛んでいた。
【0035】
しかしながら本発明においては、図6に示されるように、出湯口3の先端に設けられた融液ガイド7の融液出口において、水平方向に広がる面積を少なくすることでシリコンと石英の濡れ性により水平方向に発生する表面張力を制限することができ、シリコン融液中に鉛直方向以外の、例えば水平方向の速度成分が増加することを抑え、鋳型6に注湯したシリコン融液が周囲に飛散することを抑制できる。
【0036】
なお、融液ガイド7は、溶融坩堝1aとは別体に形成し、溶融坩堝1aの底部に取り付けるようにしてもよい。また、融液ガイド7は保持坩堝1bにぶつからない範囲で、熱により融液ガイド7の形状が変化しない程度の強度を持たせるために、融液ガイド7の縁部における肉厚部分の最長表面距離(T−d)maxが所定の範囲とすることが望ましい。また、貫通孔8は、シリコン融液の内部の圧力を均等に分布させるために、鉛直下方方向に対して垂直に切断したときの外形形状が略円形状となっていることが望ましい。そして、貫通孔8は少なくとも直径1mmの球が通過できる口径dとすることが望ましく、その内面形状が、下方に向かって口径dが細くなるように設定されていることが望ましい。このようにすることで、融液が融液ガイド7の融液出口側に向かって収束される。出湯時において、融点近傍のシリコンは粘性が高いため、貫通孔8の口径dが1mmよりも小さければシリコン融液を鋳型6に円滑に出湯させることが困難である。
【0037】
図3に本発明のシリコン溶解装置の第一実施形態に係る融液ガイド7の例を示す。図3(a)、(b)のように融液ガイド7の外形形状は、下方に向かって外径が細くなった円錐台または、角錐台の外形形状を有し、その側面と、鉛直方向の直線に対してなす角度をθとした。ここで、このなす角度θは内角を示すこととする。この角度θが5度以上60度未満で傾斜するようにすることで、上述したような原理によって、シリコン融液と石英との間の表面張力を制限でき、シリコン融液中に鉛直方向以外の速度成分が増加することを防ぐことができる。さらに角度θは15度以上45度未満の角度で傾斜していることがより好ましい。その結果、よりシリコン融液中に鉛直方向以外の速度成分が増加することを抑え、鋳型6に注湯したシリコン融液が周囲に飛散することを抑制できる。
【0038】
しかし、融液ガイド7の側面が、鉛直方向の直線に対して5度より小さい角度θで傾斜している場合、融液ガイド7の先端の強度不足によって歪みが生じる恐れがある。また、融液ガイド7の先端部は高温のシリコン融液による軟化の影響が大きいために、融液ガイド7が変形してシリコン融液中に鉛直方向以外の速度成分が増加し、この結果、鋳型に注湯したシリコン融液が周囲に飛散する恐れがある。
【0039】
また、側面が、鉛直方向の直線に対して60度以上大きい角度θで傾斜している場合、下方方向に対して水平方向に発生する表面張力を制限することができず、シリコン融液中に鉛直方向以外の速度成分の増加を抑制することができない恐れがある。そのため、鋳型に注湯したシリコン融液が周囲に飛散する恐れがある。
【0040】
さらに、図1(c)に示すように本発明に係る貫通孔8は、鉛直方向の直線に直交する平面で切断したときに略円形状を有するようにし、また前記融液ガイド7は、前記貫通孔8の融液出口側から鉛直上方に向かって平面視したときに、融液出口側における貫通孔8の口径をd、融液出口における前記融液ガイド7の外径をTとした場合、この融液ガイド7の縁部における肉厚部分はT−dで示すことができる。この肉厚部分が最大となる長さを最長表面距離とし(T−d)maxとする。この融液ガイド7の縁部における肉厚部分の最長表面距離(T−d)maxが、0.1d≦(T−d)max/2<0.2dとすることが望ましい。融液ガイド7は、円錐台、角錐台形状に限らず、図3(c)に示す円筒形が重なった外形をとる場合においても、この融液ガイド7の縁部における肉厚部分のうち最大となる最長表面距離(T−d)maxが、0.1d≦(T−d)max/2<0.2dとすることが望ましい。この範囲にすることで、より効果的にシリコン融液中に鉛直方向以外の速度成分が増加することを抑え、鋳型6に注湯したシリコン融液が周囲に飛散することを効果的に抑制できる。
【0041】
しかし、(T−d)max/2が0.1dより小さい場合、融液ガイド7の融液出口側の先端部の強度不足によって融液ガイド7の融液出口側先端部に歪みが生じ、高温による軟化の影響が大きいために融液ガイド7が変形してシリコン融液の水平方向の拡散を十分に抑えることができない恐れがある。また、(T−d)max/2が0.2d以上の場合、水平方向に発生する表面張力の影響を抑制する効果が小さいため、シリコン融液の水平方向の拡散が抑えられず、安定した垂直方向へのシリコン融液の流れを十分に得ることができない可能性がある。以上のようにして、本発明の第一実施形態を実施することができる。
【0042】
次に、本発明に係るシリコン溶解装置の第二実施形態について説明する。
【0043】
図2(a)は、本発明に係るシリコン溶解装置の第二実施形態を示す断面構造図であり、1は坩堝、1aは溶融坩堝、1bは保持坩堝、2は加熱手段、2aは上部加熱手段、2bは下部加熱手段、3は出湯口、4は出湯口を塞ぐシリコン原料、6は鋳型である。また、図2(b)は、出湯口3の融液出口の側から鉛直上方に向かって平面視した図である。溶融坩堝1aには出湯口3の外表面周囲に、切欠部kを周設した。図2(c)中、切欠部kによって囲われて成る出湯口外表面での口径をd、出湯口の外径をTとした場合、切欠部kの出湯口外表面における肉厚部分はT−dで示すことができる。そして、図2(c)において、点線で囲った部分と隣接する2つの外郭線は切欠部kを示す。以下、出湯口の外表面に周設した切欠部kを構成する最も内側の面とは、出湯口3の外表面において、肉厚部分T−d以外の面で最も出湯口3に近い切欠部kの面を指すものとする。
【0044】
第二実施形態においても第一実施形態と同様に、溶融坩堝1aは高温になると軟化して、形を保てないために、グラファイトなどからなる保持坩堝1bで保持される。また、溶融坩堝1a、保持坩堝1bの寸法は、一度に溶解する溶解量に応じたシリコン原料を内包できる寸法とする。シリコン原料の溶解量は、およそ1kgから150kgの範囲である。
【0045】
第二実施形態と第一実施形態で大きく異なる点は、出湯口3の融液出口側の構造である。第二実施形態では、溶融坩堝1aに切欠部を設けることで、出湯口3の融液出口側に対し、第一実施形態での融液ガイド7と同等な効果を奏するようにしている。つまり、本発明においては、図6に示されるように、出湯口3の融液出口側に設けられた切欠部kにより、シリコン融液が水平方向に広がる面積を少なくすることでシリコン融液中に鉛直方向以外の速度成分が増加することを抑えることができる。その結果、鋳型6に注湯するときにシリコン融液が周囲に飛散することを抑制できる。
【0046】
図4に出湯口3の融液出口側に設けられた切欠部の好ましい例を示す。図4(a)に第二実施形態における切欠部kを構成する最も内側の面と鉛直方向の直線とがなす角度θについて示す。ここで、このなす角度θは内角を示すこととする。第二実施形態において、出湯口3の融液出口の外表面に周設した切欠部kを構成する面のうち、最も内側の面は、鉛直方向の直線に対してなす角度θが5度以上60度未満で傾斜していることが好ましく、さらに角度θは15度以上45度未満の角度で傾斜していることがより好ましい。このようなテーパー形状を設けることによって、よりシリコン融液中に鉛直方向以外の速度成分が増加することを抑え、鋳型6に注湯したシリコン融液が周囲に飛散することを抑制できる。
【0047】
しかし、これら出湯口3融液出口形状の下方方向と切欠部kを構成する面のうち、最も内側の面は、鉛直方向の直線に対して角度θが5度より小さい場合、出湯口3融液出口の強度不足によって歪みが生じる可能性がある。また、出湯口3の融液出口の先端部は高温のシリコン融液による軟化の影響が大きいために、出湯口3の融液出口が変形してシリコン融液中に鉛直方向以外の速度成分が増加する恐れがある。この結果、鋳型6に注湯したシリコン融液が周囲に飛散する恐れがある。
【0048】
また、出湯口3融液出口形状の下方方向と切欠部を構成する面のうち、最も内側の面は、鉛直方向の直線に対して角度θが60度以上大きい場合、下方方向に対して水平方向に発生する表面張力を制限することができない可能性があり、シリコン融液中に鉛直方向以外の速度成分の増加を抑制することができない恐れがある。そのため、鋳型6に注湯したシリコン融液が周囲に飛散する可能性がある。
【0049】
また、図2(c)に示されるように、融液出口の側から鉛直上方に向かって平面視したときに、切欠部kによって囲われて成る出湯口外表面での口径をd、出湯口の外径をTとした場合、切欠部kの出湯口外表面における肉厚部分はT−dで示すことができる。
【0050】
また、この肉厚部分が最大となる長さを最長表面距離とし、(T−d)maxとする。この最長表面距離(T−d)maxが0.1d≦(T−d)max/2<0.2dとなることが好ましく、より効果的にシリコン融液中に鉛直方向以外の速度成分が増加することを抑え、鋳型6に注湯したシリコン融液が周囲に飛散することを効果的に抑制できる。また、図4に出湯口3出口形状の例を示す。図4(b)、(c)の形状をとった場合でもよく、この場合もリング形状の肉厚部分が最大となる最長表面距離(T−d)maxが0.1d≦(T−d)max/2<0.2dである方が好ましい。
【0051】
しかし、(T−d)max/2が0.1dより小さい場合、出湯口3の外表面における融液出口側の強度不足によって歪みが生じ、高温による軟化の影響が大きくなり、出湯口3の融液出口側が変形してシリコン融液の水平方向の拡散を十分に抑えることができない可能性がある。また、(T−d)max/2が0.2d以上大きい場合、水平方向に発生する表面張力の影響を抑制する効果が小さいため、シリコン融液の水平方向の拡散が抑えられず、安定した垂直方向へのシリコン融液の流れを十分に得ることができない恐れがある。以上のようにして第二実施形態を実施することができる。
【0052】
上述したような、本発明の溶解装置によって溶解したシリコン融液は、溶融坩堝1aの底部に設けられた貫通孔8から、その下方に配置された鋳型6に注湯され、いわゆる、一方向凝固法により冷却固化され多結晶シリコンインゴットとなる。この多結晶シリコンインゴットから端部を除去し、所望の大きさに切断して切り出し、切り出した鋳塊を所望の厚みにスライスして例えば太陽電池を形成するための多結晶シリコン基板を得ることができる。
【0053】
このとき、本発明に係るシリコン溶解装置によれば融液出口から融液を出湯するときに、前記融液との間の表面張力を制限して、この前記融液中に鉛直方向以外の速度成分が増加することを制限するため、鋳型6に注湯した融液が周囲に飛散することを効果的に抑制することができる。その結果、飛散した融液で装置を破損させることがなく、融液が鋳型6を構成している部品に付着することで生じる部品の消耗を軽減できるため、生産性と歩留まりを向上できる。
【0054】
さらには、跳ね飛ぶ融液を抑えられるため、シリコン融液が鋳型6内側面に付着し、その後付着した融液の粒が急速に固まり、後に鋳型内に出湯した融液と混じりあった時に、結晶性を悪くさせ基板特性を低下させる現象を回避できる。また、急速に固まった融液の粒が鋳型内部の離型材と共に剥がれ、融液内部に異物として混入して、切断、切削性を悪化させることを防ぐことができる。さらに、不純物による基板特性の低下も防ぐことができる。
【0055】
なお、本発明の実施形態は上述の例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることはもちろんである。
【0056】
例えば、融液ガイド7の貫通孔8の内面形状が、下方に向かって口径が細くなくてもよい。出湯口8の口径に対して融液ガイド7の融液出口側で、出湯口8の口径よりも小さくなっていればよい。
【0057】
また、出湯口3を塞ぐシリコン原料4を加熱する加熱手段を別に設けても良い。このようにすることで、その他の部分の影響を考慮することなく、出湯口3を塞ぐシリコン原料4を溶解させることが可能になるとともに、短時間で出湯口3を塞ぐシリコン原料4を溶解させることができるようになるため、溶融坩堝1aの中のシリコン融液の出湯のタイミングを任意に図ることが可能になる。
【0058】
さらに、鋳型6と溶融坩堝1aの間に、鋳型加熱手段を設けてもよい。この鋳型加熱手段は、例えば、カーボンヒーターなどによって構成され、鋳型6に出湯したシリコン融液の表面を適度に加熱することによって、シリコン融液を鋳型6の下部から徐々に上方向に向かって一方向凝固させる機能を有する。さらに、鋳型6の周囲に断熱材を設けて周方向からの抜熱を防いだり、鋳型6の下部に冷却板を設けて下部から抜熱するようにしたりしてもよく、これによって、鋳型6の内部のシリコン融液を下部から上部へ向けて一方向凝固する効果がより促進される。
【0059】
また、上述の説明では融液出口側において、融液ガイド7や、出湯口3の出口側に切欠部を設けるなどして、融液との接触する面積を減らすことでシリコン融液が出湯するときに、この融液中に鉛直方向以外の速度成分が増加することを防ぐようにしたが、これに限らず、融液ガイド7の融液出口の先端部を加熱する機構を設けてもよい。この機構によって、シリコン融液の出口付近を加熱することでシリコン融液の粘度が低くなり、表面張力が制限され、本発明の効果を得ることができる。
【0060】
さらに、融液ガイド7や、出湯口3の出口側にあるシリコン融液出口側において図1(c)、図2(c)に示すリング形状の厚み部分を石英よりもシリコン融液に対して濡れ性の悪い材質のものでコーティングしてもよい。その結果、シリコン融液の表面張力が制限され本発明の効果を得ることができる。
【0061】
また、本発明に係る融液ガイド7の中にノズルを有しているようにしてもよく、本発明の効果を得ることができる。
【実施例1】
【0062】
以下、本発明の第一実施形態の実施例について説明する。
【0063】
底部に出湯口3を持ち、さらに融液ガイド7を出湯口3に連設して垂下させた石英からなる溶融坩堝1aをグラファイトからなる保持坩堝1bで保持し、溶融坩堝1a内に80kgのシリコン原料を投入した。融液ガイド7を通る貫通孔8は筒状で、融液ガイド7の最大肉厚部分は15mmであり、上端部から下端部までの直線距離を60mmとし、貫通孔8の融液出口側の口径dは10mmの略円形状とした。また、出湯口3の口径は15mmとし、融液出口側までは貫通孔8の内面形状がテーパー形状となるようにした。
【0064】
鋳型6は内寸350mm×350mm、深さ350mmからなる石英鋳型であり、鋳型内面には炭化珪素からなる離型材層が形成されている。
【0065】
溶融坩堝1aの上部に上部加熱手段を設け、側部には融液ガイド7より上方に側部加熱手段を設置し、加熱手段によって溶融坩堝1a内のシリコン原料を溶解させた。溶融坩堝1a内のシリコン融液の温度を上昇させ、出湯口3を塞ぐシリコン原料4を溶解し、溶融坩堝1a下部に融液ガイド7の先端から鋳型6上部までの距離が350mmとなるように配設された鋳型6内にシリコン融液を注湯した。
【0066】
このとき、融液ガイド7の外形形状が図3(a)に示されるように、融液ガイド7が下方に向かって外径Tが細くなった円錐台の外形形状を有し、その側面が、鉛直方向の直線に対して交わる角度θを3度から65度の範囲で変化させた試料を用意し、それぞれの試料において鋳型6内側面へのシリコン融液の付着頻度と融液ガイド7の歪みの有無を調べた。
【0067】
また、従来例として図5に示す外形形状が円筒形のノズル5を備えた試料を準備した。融液出口側の口径が10mm、融液出口側のノズル5における最大肉厚部分を15mmとした。
【0068】
これらの結果を表1に示す。表1の評価結果において、記号で示した内容は以下の通りである。
【0069】
(鋳型6内側面へのシリコン融液の付着頻度)
◎:全く観察されなかった、○:わずかに認められるが全く問題なし、△:若干認められるが可、×:顕著に認められ不可
【表1】

【0070】
表1より、従来例である試料No.1については、鋳型6内側面にシリコン融液の付着が顕著に認められ、鋳型6に注湯したシリコン融液の周囲への飛散を抑制できないことが確認された。
【0071】
また、角度θが60度以上の試料No.8、9においては、鋳型6内側面に若干シリコン融液の付着が認められたが、特に影響はなく、本発明の効果が確認された。
【0072】
また、角度θが55度以上60度未満の試料No.6、7においては、鋳型6内側面にシリコン融液の付着がわずかに認められたが、鋳型6に注湯したシリコン融液の周囲への飛散を抑制でき、本発明の効果が確認された。
【0073】
また、角度θが5度以上55度未満の試料No.3、4、5においては、鋳型6内側面にシリコン融液の付着が認められず、鋳型6に注湯したシリコン融液の周囲への飛散を効果的に抑制でき、本発明の効果を良好に奏することが確認された。
【0074】
また、角度θが3度の試料No.2においては、鋳型6内側面にシリコン融液の付着がわずかに認められた。融液ガイド7の先端に若干ゆがみが確認されたが出湯には問題がなかった。
【実施例2】
【0075】
次に、本発明の第一実施形態における他の実施例について説明する。
【0076】
実施例2においても実施例1と同様の方法で、坩堝から融液ガイド7を利用して鋳型6にシリコン融液を注湯した。このとき実施例1と同様に、融液ガイド7を通る貫通孔8は筒状で、融液ガイド7の最大肉厚部分は15mmであり、上端部から下端部までの直線距離を60mmとし、融液出口側の口径dは10mmの略円形状とした。また、出湯口3の口径は15mmとし、融液出口側までは貫通孔8の内面形状がテーパー形状となるようにした。
【0077】
ここで、融液ガイド7の形状において、図3(c)に示されるように、貫通孔8の融液出口側から鉛直上方に向かって平面視したときに、融液ガイド7の縁部における肉厚部分はT−dで示すことができる。この肉厚部分が最大となる長さを最長表面距離(T−d)maxとした。このとき、(T−d)max/2がd/15からd/4の範囲で変化させた試料を用意し、それぞれの試料において鋳型6内側面へのシリコン融液の付着頻度と出湯口3の歪みの有無を調べた。このとき、融液ガイド7にはテーパー角は設けずに実施した。
【0078】
さらに、従来例として図5に示す外形形状が円筒のノズル5を備えた試料を用意した。ノズル5の融液出口側口径は10mm、その最大肉厚部分は15mmとした。
【0079】
これらの結果を表1に示す。表1の評価結果において、記号で示した内容は以下の通りである。
【0080】
(鋳型6内側面へのシリコン融液の付着頻度)
◎:全く観察されなかった、○:わずかに認められるが全く問題なし、△:若干認められるが可、×:顕著に認められ不可
表1より、(T−d)max/2が0.2d以上の試料No.14、15においては、鋳型6の側面に若干のシリコン融液の付着が認められたが、特に影響はなく本発明の効果が確認された。
【0081】
また、(T−d)max/2がd/6の試料No.13においては、鋳型6内側面にシリコン融液の付着がわずかに認められたが、鋳型6に注湯したシリコン融液の周囲への飛散を抑制でき、本発明の効果が確認された。
【0082】
また、(T−d)max/2がd/10以上d/6未満の試料No.11、12においては、鋳型6内側面にシリコン融液の付着が認められず、鋳型6に注湯したシリコン融液の周囲への飛散を効果的に抑制でき、本発明の効果を良好に奏することが確認された。
【0083】
また、(T−d)max/2がd/15の試料No.10においては、鋳型6内側面にシリコン融液の付着がわずかに認められた。融液ガイド7の先端に若干ゆがみが確認されたが出湯には問題がなかった。
【実施例3】
【0084】
次に、本発明の第二実施形態の実施例について説明する。
【0085】
底部に出湯口3を持つ石英からなる溶融坩堝1aをグラファイトからなる保持坩堝1bで保持し、溶融坩堝1a内に80kgのシリコン原料を投入した。
【0086】
鋳型6は内寸350mm×350mm、深さ350mmからなる石英鋳型であり、鋳型内面には炭化珪素からなる離型材層が形成されている。
【0087】
溶融坩堝1aの上部に上部加熱手段2aを設け、側部には溶融坩堝1aと同等の高さに側部加熱手段2bを設置し、加熱手段2によって溶融坩堝1a内のシリコン原料を溶解させた。溶融坩堝1a内のシリコン融液の温度を上昇させ、出湯口3を塞ぐシリコン原料を溶解し、溶融坩堝1a下部に出湯口3から鋳型6内側面までの距離が350mmとなるように配設された鋳型6内にシリコン融液を注湯した。
【0088】
このとき図4(a)に示されるように、溶融坩堝1の出湯口3の口径dは10mmとし、出湯口3の外表面周囲に切欠部kを周設し、この切欠部kを構成する面のうち、最も内側の面が、鉛直方向の直線に対して交わる角度θを3度から65度の範囲で変化させた試料を用意し、それぞれの試料において鋳型6内側面へのシリコン融液の付着頻度と出湯口3の融液出口付近における歪みの有無を調べた。
【0089】
また、従来例として出湯口3の外表面周囲に、切欠部kを周設していない坩堝1を用いた。出湯口3の口径が10mmとし、出湯口3融液出口側の形状はテーパー角がついていないものとした。
【0090】
これらの結果を表2に示す。表2の評価結果において、記号で示した内容は以下の通りである。
【0091】
(鋳型6内側面へのシリコン融液の付着頻度)
◎:全く観察されなかった、○:わずかに認められるが全く問題なし、△:若干認められるが可、×:顕著に認められ不可
【表2】

【0092】
表2より、従来例である試料No.16については、鋳型6内側面にシリコン融液の付着が顕著に認められ、鋳型6に注湯したシリコン融液の周囲への飛散を抑制できないことが確認された。
【0093】
また、角度θが60度以上の試料No.23、24においては、鋳型6内側面に若干のシリコン融液の付着が認めらたが、特に影響はなく本発明の効果が確認された。
【0094】
また、角度θが45度以上60度未満の試料No.21、22においては、鋳型6内側面にシリコン融液の付着がわずかに認められたが、鋳型6に注湯したシリコン融液の周囲への飛散を抑制でき、本発明の効果が確認された。
【0095】
また、角度θが5度以上45度未満の試料No.18、19、20においては、鋳型6内側面にシリコン融液の付着が認められず、鋳型6に注湯したシリコン融液の周囲への飛散を効果的に抑制でき、本発明の効果が確認された。
【0096】
また、角度θが3度の試料No.17においては、鋳型6内側面にシリコン融液の付着がわずかに認められた。そして、出湯口3の先端に若干の歪みが確認されたが出湯に何ら影響はなく、本発明の効果が確認された。
【実施例4】
【0097】
次に、第二実施形態の他の実施例について説明する。
【0098】
実施例4においても実施例3と同様の方法で、坩堝から鋳型6にシリコン融液を注湯した。
【0099】
出湯口3の融液出口側の形状において、図4(c)に示されるように、融液出口の側から鉛直方向の直線に直交する平面で切断した出湯口3外表面での口径をd、切欠部kを周設したことによる出湯口3外表面の外径をTとした。このように、出湯口3の縁部における肉厚部分はT−dで示すことができる。この肉厚部分が最大となる長さを最長表面距離(T−d)maxとした。このとき、(T−d)max/2がd/15からd/4の範囲で変化させた試料を用意し、それぞれの試料において鋳型6内側面へのシリコン融液の付着頻度と出湯口3の歪みの有無を調べた。本実施例において、出湯口3の融液出口側口径dは10mmとし、最長表面距離(T−d)maxを上記のように変化させた坩堝1を用意した。
【0100】
従来例として、実施例3と同様に出湯口の外表面周囲に、切欠部kを周設していない坩堝であり、出湯口の融液出口側の口径が10mm、この出湯口の口径はテーパー角がついていないものを用いた。
【0101】
これらの結果を表2に示す。表2の評価結果において、記号で示した内容は以下の通りである。
【0102】
(鋳型6内側面へのシリコン融液の付着頻度)
◎:全く観察されなかった、○:わずかに認められるが全く問題なし、△:若干認められるが可、×:顕著に認められ不可
表2において、(T−d)max/2がd/5以上の試料No.29、30においては、鋳型6内側面に若干のシリコン融液の付着が認められたが、特に影響はなく本発明の効果が確認された。
【0103】
また、(T−d)max/2がd/6の試料No.28においては、鋳型6内側面にシリコン融液の付着がわずかに認められたが、鋳型6に注湯したシリコン融液の周囲への飛散を抑制でき、本発明の効果が確認された。
【0104】
また、(T−d)max/2がd/10以上1/6未満の試料No.26、27においては、鋳型6内側面にシリコン融液の付着が認められず、鋳型6に注湯したシリコン融液の周囲への飛散を効果的に抑制でき、本発明の効果を良好に奏することが確認された。
【0105】
また、(T−d)max/2がd/15の試料No.25においては、鋳型6内側面にシリコン融液の付着がわずかに認められた。出湯口3の先端に歪みが確認されたが出湯に何ら影響はなく本発明の効果が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】(a)本発明に係るシリコン溶解装置の第一実施形態を示す概略断面構造図である。
【0107】
(b)本発明に係るシリコン融解装置の第一実施形態において融液ガイド部の先端部部分拡大図である。
【0108】
(c)本発明に係るシリコン溶解装置の第一実施形態において融液ガイド部を鉛直上方に平面視したときの図である。
【図2】(a)本発明に係るシリコン溶解装置の第二実施形態を示す概略断面構造図である。
【0109】
(b)本発明に係るシリコン融解装置の第二実施形態において出湯口融液出口側の部分拡大図である。
【0110】
(c)本発明に係るシリコン溶解装置の第二実施形態において出湯口融液出口側の部分を鉛直上方に平面視したときの図である。
【図3】(a)〜(c)は本発明に係る融液ガイドの第一実施形態を示す図である。
【図4】(a)〜(c)は本発明に係る出湯口出口側形状の第二実施形態を示す図である。
【図5】従来のシリコン溶解装置を示す概略断面構造図である。
【図6】本発明に係るシリコン溶解装置においてシリコン融液が出湯する状態を示す模式図である。
【図7】従来のシリコン溶解装置においてシリコン融液が出湯する状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0111】
1・・・坩堝
1a・・・溶融坩堝
1b・・・保持坩堝
2・・・加熱手段
2a・・・上部加熱手段
2b・・・側部加熱手段
3・・・出湯口
4・・・出湯口を塞ぐシリコン原料
5・・・ノズル
6・・・鋳型
7・・・融液ガイド
8・・・貫通孔
・・・融液出口における貫通孔の口径
・・・融液出口における融液ガイドの外径
・・・出湯口外表面での口径
・・・溶融坩堝に切欠部を設けた場合の出湯口の外径
k・・・切欠部の範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にシリコン原料を保持し溶融させる溶融坩堝と、
前記シリコン原料を加熱し融液とするための加熱手段と、
前記溶融坩堝の底部に設けられた出湯口と、
前記出湯口の下方に配置された鋳型とから成るシリコン溶解装置であって、
前記溶融坩堝は、その出湯口に、一端が出湯口に直結し且つ他端が融液出口となるとともに、前記融液出口におけるシリコン融液の表面張力を抑える貫通孔を有する融液ガイドを設けたことを特徴とするシリコン溶解装置。
【請求項2】
前記融液ガイドは、前記貫通孔の融液出口側から鉛直上方に向かって平面視したときに、前記融液出口における貫通孔の口径をd、前記融液出口における前記融液ガイドの外径をTとした場合、前記融液ガイドの縁部における肉厚部分の最長表面距離(T−d)maxが0.1d≦(T−d)max/2<0.2dの関係を満足することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシリコン溶解装置。
【請求項3】
前記融液ガイドの外形形状が、下方に向かって外径が細くなる円錐台または角錐台の外形を成し、その側面は鉛直方向に対して5度以上60度未満の角度で傾斜する請求項1又は請求項2に記載のシリコン溶解装置。
【請求項4】
前記融液ガイドの貫通孔の内面形状が、下方に向かって口径が細くなるように設定されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のシリコン溶解装置。
【請求項5】
内部にシリコン原料を保持し溶融させる溶融坩堝と、
前記シリコン原料を加熱し融液とするための加熱手段と、
前記溶融坩堝の底部に設けられた出湯口と、
前記出湯口の下方に備えられた鋳型ととから成るシリコン溶解装置であって、
前記溶融坩堝は、出湯口の外表面側におけるシリコン融液の表面張力を抑えるべく、出湯口の外表面周囲に、切欠部を周設したこと特徴とするシリコン溶解装置。
【請求項6】
前記出湯口は、鉛直方向の直線に直交する平面で切断した出湯口外表面での口径をd、前記出湯口の外径をTとした場合、前記出湯口の縁部における前記切欠部の肉厚部分の最長表面距離(T−d)maxが、0.1d≦(T−d)max/2<0.2dの関係を満足することを特徴とする請求項5または請求項6に記載のシリコン溶解装置。
【請求項7】
前記出湯口の外表面に周設した切欠部を構成する面のうち、最も内側の面は、鉛直方向に対して5度以上60度未満の角度で傾斜している請求項5又は請求項6に記載のシリコン溶解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−142353(P2006−142353A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−337606(P2004−337606)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】