説明

シリコーン樹脂組成物、シリコーン樹脂シート、シリコーン樹脂シートの製造方法および光半導体装置

【課題】耐光性と耐熱性に優れるとともに、保存安定性にも優れるシリコーン樹脂シートを得ることができるシリコーン樹脂組成物、そのシリコーン樹脂組成物を用いて得られるシリコーン樹脂シート、該シートの製造方法および該シートにより封止されている光半導体装置を提供すること。
【解決手段】(1)1分子中に少なくとも2個のアルケニルシリル基を有するオルガノポリシロキサン、(2)1分子中に少なくとも2個のヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン、(3)ヒドロシリル化触媒および(4)硬化遅延剤を含有し、前記硬化遅延剤が、水酸化テトラアルキルアンモニウムを含有するシリコーン樹脂組成物を半硬化させてシリコーン樹脂シートを得る。また、そのシリコーン樹脂シートを用いて光半導体素子を封止して光半導体装置を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン樹脂組成物、シリコーン樹脂シート、シリコーン樹脂シートの製造方法および光半導体装置に関する。さらに詳しくは、付加硬化型のシリコーン樹脂組成物、そのシリコーン樹脂組成物からなるシリコーン樹脂シート、該シートの製造方法および該シートにより封止されている光半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般照明への応用が検討されている高出力白色LED装置には、耐光性と耐熱性に優れた封止材料が求められており、近年、いわゆる「付加硬化型シリコーン」が多用されている。付加硬化型シリコーンは、主鎖にビニル基を有するシリコーン誘導体と、主鎖にヒドロシリル基(SiH基)を有するシリコーン誘導体を主成分とする混合物を、白金触媒の存在下で熱硬化させることにより得られるものであり、例えば、特許文献1〜3に開示されている。
【0003】
このような付加硬化型シリコーンを用いてLED素子を封止する方法としては、付加硬化型シリコーンが硬化前は液状を呈するため、好ましくは、LED素子が配置されたカップ内に樹脂を充填して、その後に熱硬化させるという「ポッティング」方法が挙げられる。
【0004】
しかしながら、かかる方法では、近年主流となっている、基板上にLED素子が多数配置されたチップアレイモジュールを製造する際に、液ダレによる封止樹脂高さのバラつきが生じて、得られるLED装置の光学特性が十分ではなくなる。また、硬化前の樹脂は、周囲の環境によって粘度が変わりやすく、ポッティング条件が安定しないために生産性が劣るという問題がある。
【0005】
これに対して、シート状の樹脂を用いてLED素子を封止する方法が提案されており、例えば、特許文献4では、エチレン−酢酸ビニル重合体、ポリウレタン、特許文献5では
、エチレン(メタ)アクリレート共重合体の架橋可能な熱可塑性樹脂からなる封止シートが開示されている。また、特許文献6には、熱硬化性シリコーン樹脂と熱可塑性シリコーン樹脂からなる封止シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−198930号公報
【特許文献2】特開2004−186168号公報
【特許文献3】特開2008−150437号公報
【特許文献4】特開2007−123452号公報
【特許文献5】特許4383768号公報
【特許文献6】特開2009−84511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の樹脂シートは、架橋反応を生じる有機基の耐光性、耐熱性が十分ではないため、高出力LED素子の封止材としては、依然満足できるものではない。
【0008】
また、樹脂シートは、使用まで一旦保存される場合があるため、保存安定性が要求されており、具体的には、保存後においても封止材として用いることができる硬度(低硬度)を維持することが要求されている。
【0009】
本発明の課題は、耐光性と耐熱性に優れるとともに、保存安定性にも優れるシリコーン樹脂シートを得ることができるシリコーン樹脂組成物、そのシリコーン樹脂組成物を用いて得られるシリコーン樹脂シート、該シートの製造方法および該シートにより封止されている光半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
〔1〕 (1)1分子中に少なくとも2個のアルケニルシリル基を有するオルガノポリシロキサン、
(2)1分子中に少なくとも2個のヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン、
(3)ヒドロシリル化触媒、および、
(4)硬化遅延剤を含有し、前記硬化遅延剤が、水酸化テトラアルキルアンモニウムを含有することを特徴とする、シリコーン樹脂組成物、
〔2〕 前記〔1〕に記載のシリコーン樹脂組成物をシート状に成形後、半硬化させてなることを特徴とする、シリコーン樹脂シート、
〔3〕 前記〔1〕に記載のシリコーン樹脂組成物をシート状に成形後、40〜150℃で0.1〜120分の加熱により半硬化させる工程を含むことを特徴とする、シリコーン樹脂シートの製造方法、
〔4〕 前記〔2〕に記載のシリコーン樹脂シートを用いて光半導体素子を封止してなることを特徴とする、光半導体装置
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシリコーン樹脂組成物からなり、本発明のシリコーン樹脂シートの製造方法により得られる本発明のシリコーン樹脂シートは、耐光性と耐熱性に優れるとともに、保存安定性に優れることから、光半導体素子などの封止を良好に行うことができるという優れた効果を奏する。
【0012】
そのため、そのシリコーン樹脂シートを用いて光半導体素子を封止してなる光半導体装置は、優れた耐久性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の光半導体装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のシリコーン樹脂組成物は、(1)1分子中に少なくとも2個のアルケニルシリル基を有するオルガノポリシロキサン、(2)1分子中に少なくとも2個のヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン、(3)ヒドロシリル化触媒、および(4)硬化遅延剤を含有している。
(1)1分子中に少なくとも2個のアルケニルシリル基を有するオルガノポリシロキサン
本発明では、樹脂の構成モノマーとしては、架橋を形成させる観点から、1分子中に少なくとも2個のアルケニルシリル基を有するオルガノポリシロキサン(以降、オルガノポ
リシロキサンAともいう)を用いる。
【0015】
アルケニルシリル基とは、アルケニル基がケイ素原子に結合した基であり、アルケニルシリル基の配置としては、分子末端、主鎖、側鎖のいずれでもよい。
【0016】
アルケニル基としては、置換または非置換のアルケニル基を示し、アルケニル基を骨格に含む有機基であれば、直鎖、分岐鎖または環状であってもよい。該有機基の炭素数は、透明性および耐熱性の観点から、好ましくは、1〜20、より好ましくは、1〜10である。具体的には、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノルボルネニル基、シクロヘキセニル基などが例示される。なかでも、ヒドロシリル化反応に対する反応性の観点から、好ましくは、ビニル基が挙げられる。
【0017】
アルケニル基以外のケイ素原子に結合する有機基としては、特に限定はなく、例えば、
一価の炭化水素基が挙げられる。
【0018】
一価の炭化水素基としては、直鎖、分岐鎖または環状の飽和炭化水素基または芳香族炭化水素基が挙げられる。炭化水素基の炭素数は、透明性および耐熱性の観点から、好ましくは、1〜20、より好ましくは、1〜10である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、フェニル基、ナフチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基などが例示される。なかでも、得られる樹脂組成物の透明性、耐熱性および耐光性の観点から、好ましくは、メチル基、フェニル基が挙げられ、さらに好ましくは、メチル基が挙げられる。
【0019】
オルガノポリシロキサンAの具体例としては、直鎖状の、ビニル末端ポリジメチルシロキサン(ジメチルビニルシリル末端ポリジメチルシロキサン)、ビニル末端ジメチルシロキサン−ジフェニルシロキサン共重合体、ビニル末端ポリ(メチル)(フェニル)シロキサン、ビニル末端ジメチルシロキサン−ジエチルシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ末端ジメチルシロキサン−メチル(ビニル)シロキサン共重合体、シラノール末端ジメチルシロキサン−メチル(ビニル)シロキサン共重合体、ビニル末端ジメチルシロキサン−メチル(ビニル)シロキサン共重合体、トリメチルシロキシ末端ポリ(メチル)(ビニル)シロキサンのほか、これらの環状体、分岐鎖状体、三次元網目状体などが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
上記化合物は市販品であっても、公知の方法に従って合成したものでもよい。
【0021】
オルガノポリシロキサンAの数平均分子量(GPC測定、標準ポリスチレン換算)は、例えば、10000〜100000、好ましくは、15000〜50000である。
【0022】
オルガノポリシロキサンAのアルケニルシリル基官能基当量は、硬化物の強靭性と可撓性の観点から、好ましくは、0.005〜10mmol/g、より好ましくは、0.010〜5mmol/gである。0.005mmol/g以上であれば十分な強度を示し、10mmol/g以下であると良好な可撓性を示す。なお、本明細書において、シリコーン誘導体の官能基当量は、オルガノポリシロキサンA1g当たりのアルケニルシリル基のモル数であって、内部標準物質を用いたH−NMRにより測定することができる。
【0023】
また、オルガノポリシロキサンAの25℃における粘度は、硬化物の強靭性の観点から、好ましくは、100〜500000mPa・s、より好ましくは、300〜100000mPa・sである。本明細書において、粘度は、B形粘度計を用いて測定することができる。
【0024】
オルガノポリシロキサンAの含有量は、本発明におけるシリコーン樹脂組成物中、好ましくは、0.1〜99.9質量%、より好ましくは、1〜99質量%である。
(2)1分子中に少なくとも2個のヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン
本発明では、樹脂の構成モノマーとしては、架橋を形成させる観点から、1分子中に少なくとも2個のヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン(以降、オルガノポリシ
ロキサンBともいう)を用いる。
【0025】
ヒドロシリル基とは、水素原子がケイ素原子に結合した基であり、その配置としては、分子末端、主鎖、側鎖のいずれでもよい。
【0026】
ヒドロシリル基以外のケイ素原子に結合する有機基としては、特に限定はなく、例えば、一価の炭化水素基が挙げられる。
【0027】
一価の炭化水素基としては、上記オルガノポリシロキサンAにおける一価の炭化水素基と同様のものが例示される。なかでも、得られる樹脂組成物の透明性、耐熱性および耐光性の観点から、好ましくは、メチル基、フェニル基が挙げられ、さらに好ましくは、メチル基が挙げられる。
【0028】
オルガノポリシロキサンBの具体例としては、直鎖状の、ジメチルシリル末端ポリジメチルシロキサン、ジメチルシリル末端ジメチルシロキサン−ジフェニルシロキサン共重合体、ジメチルシリル末端ポリ(メチル)(フェニル)シロキサン、ジメチルシリル末端ジメチルシロキサン−ジエチルシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ末端ジメチルシロキサン−メチル(ヒドロ)シロキサン共重合体(トリメチルシリル末端ジメチルシロキサン−メチルヒドロシロキサン共重合体)、トリメチルシロキシ末端ポリ(メチル)(ヒドロ)シロキサンのほか、これらの環状体、分岐鎖状体、三次元網目状体などが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
上記化合物は市販品であっても、公知の方法に従って合成したものでもよい。
【0030】
オルガノポリシロキサンBの数平均分子量(GPC測定、標準ポリスチレン換算)は、例えば、500〜5000、好ましくは、1000〜3000である。
【0031】
オルガノポリシロキサンBのヒドロシリル基官能基当量は、硬化物の強靭性と可撓性の観点から、好ましくは、0.005〜10mmol/g、より好ましくは、0.010〜5mmol/gである。0.005mmol/g以上であれば十分な強度を示し、10mmol/g以下であると良好な可撓性を示す。なお、本明細書において、シリコーン誘導体の官能基当量は、オルガノポリシロキサンB1g当たりのヒドロシリル基のモル数であって、内部標準物質を用いたH−NMRにより測定することができる。
【0032】
また、オルガノポリシロキサンBの25℃における粘度は、硬化物の強靭性の観点から、好ましくは、5〜500000mPa・s、より好ましくは、10〜100000mPa・sである。
【0033】
オルガノポリシロキサンBの含有量は、本発明におけるシリコーン樹脂組成物中、好ましくは、0.1〜99.9質量%、より好ましくは、1〜99質量%である。
【0034】
また、オルガノポリシロキサンBの含有量は、硬化物の強靭性の観点から、オルガノポリシロキサンA100質量部に対して、好ましくは、0.1〜1000質量部、より好ましくは、1〜100質量部、さらに好ましくは、1〜10質量部、とりわけ好ましくは、1〜5質量部である。
【0035】
また、本発明におけるシリコーン樹脂組成物において、オルガノポリシロキサンAとオルガノポリシロキサンBのモル比は、オルガノポリシロキサンAのアルケニルシリル基とオルガノポリシロキサンBのヒドロシリル基を過不足なく反応させる観点から、上記官能基のモル比(アルケニルシリル基/ヒドロシリル基)が、好ましくは、1/50〜50/1、より好ましくは、1/5〜5/1である。
(3)ヒドロシリル化触媒
本発明におけるヒドロシリル化触媒としては、アルケニルシリル基とヒドロシリル基とのヒドロシリル化反応を触媒する化合物であれば特に限定はなく、白金黒、塩化白金、塩化白金酸、白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体などの白金−オレフィン錯体、白金−カルボニル錯体、白金−アセチルアセテートなどの白金触媒;パラジウム触媒、ロジウム触媒などが例示される。なかでも、相溶性、透明性および触媒活性の観点から、好ましくは、白金−オレフィン錯体、より好ましくは、白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体が挙げられる。
【0036】
ヒドロシリル化触媒の含有量は、例えば、白金触媒を用いる場合には、硬化速度の観点から、白金含有量が、オルガノポリシロキサンA100質量部に対して、好ましくは、1.0×10−4〜0.5質量部、より好ましくは、1.0×10−3〜0.05質量部である。
(4)硬化遅延剤
本発明における硬化遅延剤は、必須成分として、水酸化テトラアルキルアンモニウムを含有している。
【0037】
水酸化テトラアルキルアンモニウムは、ヒドロシリル化触媒に対して硬化抑制効果を有しており、互いに同一または相異なる置換基を有していてもよいアルキル基(直鎖、分岐鎖または環状の飽和炭化水素基)を、4つ有するアンモニウムの水酸化物である。
【0038】
このような水酸化テトラアルキルアンモニウムとして、具体的には、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラヘキシルアンモニウム、水酸化テトラデシルアンモニウム、水酸化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムなどの水酸化テトラ無置換アルキルアンモニウム、例えば、水酸化テトラ(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウムなどの水酸化テトラ置換アルキルアンモニウムなどが挙げられる。
【0039】
これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
上記化合物は市販品であっても、公知の方法に従って合成したものでもよい。
【0041】
水酸化テトラアルキルアンモニウムとしては、入手性、耐熱性、硬化反応制御能の観点から、好ましくは、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウムが挙げられる。
【0042】
これら水酸化テトラアルキルアンモニウムは、固体状態、溶液状態など、いずれの状態でも用いることができる。シリコーン樹脂への分散性の観点から、好ましくは、溶液状態が挙げられる。
【0043】
水酸化テトラアルキルアンモニウムを溶液として用いる場合において、その溶媒としては、特に制限されないが、例えば、メタノール、エタノールなどの1価アルコールが挙げられる。
【0044】
水酸化テトラアルキルアンモニウムの含有量は、半硬化状態における保存安定性と硬化性とのバランスの観点から、ヒドロシリル化触媒1モルに対して、好ましくは、1〜1000モル、より好ましくは、10〜500モルである。1モル以上であれば十分な硬化抑制効果が得られ、得られた硬化物を保存しても硬度変化が少なく、1000モル以下であると硬化が遅くなりすぎず、また、硬化物の耐熱性が低下することもない。
【0045】
また、硬化遅延剤は、任意成分として、その他の硬化遅延剤(水酸化テトラアルキルアンモニウムを除く硬化遅延剤)を含有することができる。
【0046】
その他の硬化遅延剤としては、ヒドロシリル化触媒に対して硬化抑制効果を有する化合物であれば特に限定はなく、アセチレン系化合物、オレフィン系化合物、リン系化合物、窒素系化合物、硫黄系化合物、有機過酸化物などが挙げられ、例えば、1−エチニルシクロヘキサノール、3−メチル−1−ブチン−3−オールなどのアセチレン系化合物、1,3,5,7−テトラビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、マレイン酸ジメチルなどのオレフィン系化合物、トリフェニルホスフィンなどのリン系化合物、トリブチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、イミダゾール、ベンゾトリアゾールなどの窒素系化合物、ベンゾチアゾールなどの硫黄系化合物、有機過酸化物などが挙げられる。
【0047】
これらその他の硬化遅延剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0048】
なお、その他の硬化遅延剤が配合される場合において、その配合割合は、目的および用途に応じて適宜設定される。
【0049】
そして、本発明のシリコーン樹脂組成物は、上記各成分を混合することにより調製することができる。
【0050】
シリコーン樹脂組成物において、好ましくは、ポリオルガノシロキサン成分としては、上記したポリオルガノシロキサンAおよび上記したポリオルガノシロキサンBのみを配合する。
【0051】
また、本発明におけるシリコーン樹脂組成物は、上記以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の任意成分を含有することができる。例えば、シリカ、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、層状マイカ、カーボンブラック、珪藻土、ガラス繊維、シリコーン粒子、ランタノイド系元素で賦活された酸化物・窒化物・酸窒化物蛍光体などの無機質充填剤、および、これらの充填剤をオルガノアルコキシシラン、オルガノクロロシラン、オルガノシラザンなどの有機ケイ素化合物により表面処理されたものが挙げられる。充填剤の含有量は、オルガノポリシロキサンA100質量部に対して、好ましくは、1〜100質量部、より好ましくは、1〜75質量部、さらに好ましくは、1〜20質量部である。
【0052】
また、老化防止剤、変性剤、界面活性剤、染料、顔料、変色防止剤、紫外線吸収剤、クリープハードニング防止剤、可塑剤、チクソ性付与剤、防カビ剤などの添加剤を含有してもよい。
【0053】
そして、このようなシリコーン樹脂組成物は、特に制限されず、種々の封止材などとして用いることができるが、好ましくは、シリコーン樹脂組成物を半硬化させたシリコーン樹脂シート、より好ましくは、ポリオルガノシロキサン成分として上記したオルガノポリシロキサンAおよびオルガノポリシロキサンBのみから形成されるシリコーン樹脂シートとして用いる。
【0054】
本発明のシリコーン樹脂シートは、上記のシリコーン樹脂組成物を半硬化させたものであって、硬化遅延剤として、水酸化テトラアルキルアンモニウムを用いることにより、付加硬化型シリコーン樹脂の硬化を調整して半硬化状に硬化させたものであることに大きな特徴を有する。
【0055】
付加硬化型シリコーン樹脂は、通常、活性の高い白金触媒を用いるために、一度、硬化反応が始まると途中で反応を停止させることが極めて難しく、半硬化状態(Bステージ)を形成することは困難である。そこで、白金触媒の触媒活性を低下させるために、反応抑制剤として、リン、窒素、硫黄化合物やアセチレン類を添加することが有効であることが知られている。しかしながら、反応抑制剤として知られている化合物は、樹脂の耐久性に影響を及ぼすため、本発明では、水酸化テトラアルキルアンモニウムを用いて付加硬化型シリコーン樹脂の硬化反応を制御することによって半硬化状態を形成し、かつ、水酸化テトラアルキルアンモニウムが樹脂の安定性に影響を及ぼすことがないために、封止後にも良好な安定性が担保される。
【0056】
本発明のシリコーン樹脂シートは、上記(1)〜(4)成分を、必要により充填剤や添加剤などを加えて、好ましくは、0〜60℃で、1〜120分攪拌することによりシリコーン樹脂組成物を調製して、得られた組成物をシート状に成形することにより調製することができる。具体的には、例えば、表面を剥離処理した離型シート(例えば、ポリエステル基材などの有機ポリマ、セラミクス、金属など)の上にキャスティング、スピンコーティング、ロールコーティングなどの方法により、上記組成物を適当な厚さに塗工し、加熱して乾燥することによりシート状に成形することができる。なお、上記加熱によってヒドロシリル化反応が一部進行して、得られるシートが半硬化状(Bステージ)となる。
【0057】
加熱温度は、好ましくは、20〜200℃、より好ましくは、40〜150℃である。加熱時間は、好ましくは、0.1〜120分、より好ましくは、1〜60分である。
【0058】
シリコーン樹脂シートの厚さは、特に限定されないが、好ましくは、20〜10000μm、より好ましくは、50〜3000μmである。
【0059】
本発明のシリコーン樹脂シートは、該シートを用いて光半導体素子を一括封止できる観点から、硬度が、好ましくは、0.1〜10、より好ましくは、0.1〜5である。なお、本明細書において、シリコーン樹脂シートの硬度は、例えば、デジタル測長計を用い、センサーヘッドで7g/mmの荷重をかけた際に、シート表面からセンサーヘッドが沈んだ距離を測定し、以下の式に基づいて算出することができる。
【0060】
シート硬度=[1−{センサーヘッドが沈んだ距離(μm)/サンプルの膜厚(μm)}]×100
また、本発明のシリコーン樹脂シートを、例えば、5℃にて24時間保存した場合、該シートの硬度は、好ましくは、0.1〜10、より好ましくは、0.1〜5である。
【0061】
かくして得られたシリコーン樹脂シートは、半硬化状態であるために、例えば、光半導体素子の上にそのまま、あるいは公知の樹脂をポッティングした上に載置させて封止加工した後、高温で加熱して樹脂シートを完全に硬化させることにより光半導体装置を調製することができる。
【0062】
図1は、本発明の光半導体装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【0063】
図1において、光半導体装置1は、光半導体素子としての発光ダイオード素子2と、発光ダイオード素子2を封止するシリコーン樹脂シート3とを備えている。
【0064】
発光ダイオード素子2は、実装基板4に実装されており、具体的には、発光ダイオード素子2は、ワイヤボンディングまたはフリップチップボンディングなどによって実装基板4の上面に実装されている。
【0065】
そして、発光ダイオード素子2が、実装基板4上において半硬化状態のシリコーン樹脂シート3に封止され、シリコーン樹脂シート3が完全硬化されることにより、光半導体装置1が形成される。
【0066】
本発明のシリコーン樹脂シートの完全硬化は、上記シートを調製する際に反応した残りのヒドロシリル化反応に関する官能基が反応することにより実施される。ヒドロシリル化反応の進行度は、IR測定によって、ヒドロシリル基に由来するピークの吸収程度によって確認することができる。例えば、吸収強度が初期値(硬化反応前、即ち、載置前のシートの吸収強度)の20%を下回った場合に、ヒドロシリル化反応が完結して全硬化していると判断することができる。
【0067】
シートを基板に載置させてから封止加工する方法は、特に限定はないが、例えば、ラミネーターやプレス装置を用いて、好ましくは、100〜200℃、0.01〜10MPaで、より好ましくは、120〜180℃、0.1〜1MPaで、2〜600秒間加熱することにより熱圧着させてから封止加工する方法が挙げられる。
【0068】
封止加工の加熱温度は、好ましくは、120〜250℃、より好ましくは、150〜200℃である。加熱時間は、好ましくは、0.1〜48時間が好ましく、より好ましくは、0.1〜24時間である。
【0069】
なお、光半導体装置1には、図1において仮想線で示すように、シリコーン樹脂シート3の表面(発光ダイオード素子2を封止する側の面に対して反対側の面)に、必要により、蛍光体層5を積層することができる。
【0070】
蛍光体層5は、特に制限されないが、例えば、YAl12:Ce(YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット):Ce)などのガーネット型蛍光体および樹脂を含む蛍光体組成物から形成することができ、また、例えば、ガーネット型蛍光体を含むセラミックプレートとして形成することもできる。
【0071】
このような蛍光体層5を積層すれば、例えば、発光ダイオード素子2により生じる光の色と蛍光体層5により生じる光の色とを混色することができ、所望の色の光を生じさせることができる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例などによりなんら限定されるものではない。
【0073】
実施例1
ジメチルビニルシリル末端ポリジメチルシロキサン(ビニルシリル基当量0.071mmol/g)20g(1.4mmolビニルシリル基)、トリメチルシリル末端ジメチルシロキサン−メチルヒドロシロキサン共重合体(ヒドロシリル基当量4.1mmol/g)0.40g(1.6mmolヒドロシリル基)、ヘキサメチルジシラザン処理シリカ粒子2g、白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(白金濃度2質量%)0.036mL(1.9μmol)、および、水酸化テトラメチルアンモニウムのメタノール溶液(10質量%)0.063mL(57μmol)を混合し、20℃で10分間撹拌することにより、シリコーン樹脂組成物を調製した。
【0074】
次いで、得られたシリコーン樹脂組成物を、ポリエステルフィルム(50μm厚)上に、塗工膜厚600μmで塗工し、表1に記載の条件で加熱することによって、半硬化状態のシリコーン樹脂シートを作製した。
【0075】
実施例2
ジメチルビニルシリル末端ポリジメチルシロキサン(ビニルシリル基当量0.071mmol/g)20gに代えて、ジメチルビニルシリル末端ポリジメチルシロキサン(ビニルシリル基当量0.040mmol/g)35g(1.4mmolビニルシリル基)を用いた以外は、実施例1と同様にして、半硬化状態のシリコーン樹脂シートを得た。
【0076】
実施例3
トリメチルシリル末端ジメチルシロキサン−メチルヒドロシロキサン共重合体(ヒドロシリル基当量4.1mmol/g)0.40gの代わりに、トリメチルシリル末端ジメチルシロキサン−メチルヒドロシロキサン共重合体(ヒドロシリル基当量7.1mmol/g)0.23g(1.6mmolヒドロシリル基)を用いた以外は、実施例1と同様にして、半硬化状態のシリコーン樹脂シートを得た。
【0077】
実施例4
水酸化テトラメチルアンモニウムのメタノール溶液(10質量%)0.063mLに代えて、水酸化テトラブチルアンモニウムのメタノール溶液(10質量%)0.18mL(58μmol)を用いた以外は、実施例1と同様にして、半硬化状態のシリコーン樹脂シートを得た。
【0078】
比較例1
水酸化テトラメチルアンモニウムのメタノール溶液を用いなかった以外は、実施例1と同様にして、半硬化状態のシリコーン樹脂シートを得た。
【0079】
完全硬化物の調製例1
半硬化状のシリコーン樹脂シートを150℃で5時間加熱して完全硬化物シリコーン樹脂シートを調製した。
【0080】
光半導体装置の作製例1
青色LEDが実装された基板に、上記したシリコーン樹脂シート(半硬化状のシリコーン樹脂シート)を5℃で24時間保存したものを被せ、減圧下、160℃で5分間加熱し、0.2MPaの圧力で圧着させた後、150℃で5時間加熱して光半導体装置を作製した。
【0081】
得られた半硬化物、完全硬化物、光半導体装置について、以下の試験例1〜6に従って、特性を評価した。結果を表1に示す。
試験例1(硬度)
調製直後の半硬化物および完全硬化物について、デジタル測長計(MS−5C、ニコン社製)を用いて、センサーヘッドで7g/mmの荷重をかけた際に、シート表面からセンサーヘッドが沈んだ距離を測定し、以下の式に基づいてシート硬度を求めた。なお、シート硬度の値が大きいほど硬いものであることを示す。
【0082】
シート硬度=[1−{センサーヘッドが沈んだ距離(μm)/サンプルの膜厚(μm)}]×100
試験例2(保存安定性)
調製直後と5℃で24時間保存後の半硬化物について、試験例1と同様にしてシート硬度を求めた。次に、得られたシート硬度の比率(保存後/調製直後×100)を硬度保持率(%)として算出し、以下の評価基準に従って、保存安定性を評価した。硬度保持率の値が小さいほど、半硬化状態での保存安定性が優れることを示す。
〔保存安定性の評価基準〕
◎:硬度保持率が100%以上、200%以下
○:硬度保持率が200%超、900%以下
△:硬度保持率が900%超
試験例3(光透過性)
各完全硬化物の波長450nmにおける光透過率(%)を、分光光度計(U−4100、日立ハイテク社製)を用いて測定した。光透過率が高いほど光透過性に優れることを示す。
試験例4(耐熱性)
各完全硬化物を150℃の温風型乾燥機内に静置し、100時間経過後の完全硬化物の外観を目視で観察し、保存前の状態から変色のないものを「○」、あるものを「×」とした。保存後の外観の変化がないものが耐熱性に優れることを示す。
試験例5(封止性)
各光半導体装置の封止前後の状態を光学顕微鏡で観察し、光半導体素子が完全に包埋され、ボンディングワイヤーに変形、損傷がなく点灯したものを「○」、点灯しなかったものを「×」とした。
試験例6(耐光性)
各光半導体装置に300mAの電流を流してLED素子を点灯させ、試験開始直後の輝度を瞬間マルチ測光システム(MCPD−3000、大塚電子社製)により測定した。その後、LED素子を点灯させた状態で放置し、300時間経過後の輝度を同様にして測定し、下記式により輝度保持率を算出して、耐光性を評価した。輝度保持率が高いほど、耐光性に優れることを示す。
【0083】
輝度保持率(%)=(300時間経過後の輝度/試験開始直後の輝度)×100
【0084】
【表1】

結果、各実施例のシリコーン樹脂シートは、いずれも半硬化物の保存安定性に優れ、耐熱性、耐光性も良好であり、さらには、5℃に保存後のシートでも硬度変化が少なく封止可能であることから、LED封止材として十分な性能を備えていると言える。一方、比較例1のシリコーン樹脂シートは、半硬化物の保存安定性が悪く、5℃で24時間保存後のシートを用いてLEDを封止すると、ボンディングワイヤーが著しく歪曲してショートを起こし、LEDが点灯しなかった。
【符号の説明】
【0085】
1 光半導体装置
2 発光ダイオード素子
3 シリコーン樹脂シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)1分子中に少なくとも2個のアルケニルシリル基を有するオルガノポリシロキサン、
(2)1分子中に少なくとも2個のヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン、
(3)ヒドロシリル化触媒、および、
(4)硬化遅延剤を含有し、
前記硬化遅延剤が、水酸化テトラアルキルアンモニウムを含有することを特徴とする、シリコーン樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のシリコーン樹脂組成物をシート状に成形後、半硬化させてなることを特徴とする、シリコーン樹脂シート。
【請求項3】
請求項1に記載のシリコーン樹脂組成物をシート状に成形後、40〜150℃で0.1〜120分の加熱により半硬化させる工程を含むことを特徴とする、シリコーン樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載のシリコーン樹脂シートを用いて光半導体素子を封止してなることを特徴とする、光半導体装置。

【図1】
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【公開番号】特開2013−23603(P2013−23603A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160630(P2011−160630)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】