説明

シロタモギタケ(Hypsizygusulmarius)抽出物を含んでなる組成物

LTB4が仲介する多形核白血球の走化性、および/またはIL−1βが仲介する多形核白血球の接着に影響を及ぼすために有効な量の、シロタモギタケ(Hypsizygus ulmarius)抽出物を含む局所適用組成物を開示する。シロタモギタケ抽出物は単独で使用してもよいし、あるいは副次的な抗炎症性の皮膚に作用する物質、たとえば他のキノコ抽出物および/または天然抽出物と併用してもよい。副次的な抗炎症物質は、LTB4の仲介する走化性、およびIL−1βの仲介する接着に拮抗することによって作用してもよいし、またはそうでなくてもよい。シロタモギタケ抽出物は、化粧品として許容される基剤に組み入れることができる。本発明は、定められた治療計画において、抗炎症に有効な量のシロタモギタケ抽出物を、炎症を起こした皮膚に塗布することによって、皮膚炎を治療する方法を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品および皮膚科学の分野に関するが、特に、キノコの抽出物を含んでなる抗炎症性局所組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
損傷または攻撃に対する健康なヒト組織の自然な反応が炎症である。人体の組織は、微生物感染、生物でない異物、電離放射線および酸化ストレスなどのさまざまな因子によって攻撃を受け、あるいは損なわれる可能性がある。適正な状態では、炎症は、主要臓器(心臓、脳、肝臓、腎臓など)および皮膚を含めて、人体のほとんどすべての組織型において起こる可能性がある。「酸化ストレス」とは、組織中に存在する活性酸素種(酸化促進物質)によって引き起こされる、動物組織における望ましくない変化のことである。酸化ストレスは、酸化促進物質の効果が、抗酸化物質の効果を超えて優勢となる不均衡によって生じる。ヒト組織に蓄積する酸化促進物質の例には、酸素イオン、フリーラジカル、ならびに過酸化物、たとえばスーパーオキシドおよび過酸化水素がある。活性酸素種は正常な細胞代謝に起因するが、均衡のとれた条件下では、それらの有害な影響は生物体内の抗酸化物質によって抑制(check)される。こうした抗酸化物質の例には、スーパーオキシドジスムターゼおよびカタラーゼがある。
【0003】
ロイコトリエンB4
本発明を正しく理解するのに役立つのは、強い炎症促進物質であるロイコトリエンLTB4の合成および役割を理解することである。炎症刺激に続く複雑な反応カスケードの第1段階は、特定の細胞内へのカルシウムイオンの流入である。こうした細胞には、たとえば、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、マスト細胞、好塩基球およびBリンパ球があると考えられる。これらの細胞内で、流入したカルシウムイオンおよびATPが不活性5−リポキシゲナーゼに結合し、これが5−リポキシゲナーゼの、サイトゾルから細胞膜内への移行をもたらし、そこで5−リポキシゲナーゼは5−リポキシゲナーゼ活性化タンパク質(FLAP)に結合する。カルシウムイオンの流入は、ホスホリパーゼA2の、サイトゾルから細胞膜への移行も促し、そこでアラキドン酸グリセロールエステルを切断する。アラキドン酸グリセロールエステルは、天然に存在する細胞膜のリン脂質成分であり、ホスホリパーゼA2によって切断されると、不飽和脂肪酸であるアラキドン酸がサイトゾル中に放出される。サイトゾルへのアラキドン酸放出の他のメカニズムには、特定のサイトカイン、すなわち腫瘍壊死因子(TNF)およびインターロイキン−1(IL1)の作用がある。とにかく、放出されたアラキドン酸分子は、移行した5−リポキシゲナーゼ分子と結合し、5−ヒドロペルオキシエイコサテトラエン酸(5−HPETE)に変換される。5−HPETEは、順次、サイトゾルの5−リポキシゲナーゼによる作用を受けて、ロイコトリエンA4(LTA4)を形成し、それが次にサイトゾルに放出される。LTA4の一部は細胞により分泌される可能性があるが、一部は細胞内に残存し、LTA4ヒドロラーゼの作用を受けて加水分解されてロイコトリエンB4(LTB4)となる。分泌されたLTA4は、LTA4それ自体を産生しないが、そのほかにLTA4をLTB4に変換することができる細胞に取り込まれる可能性がある。こうした細胞は、LTB4の二次的な供給源と考えられる。LTB4は、主要な細胞または二次的な細胞において産生された後、細胞膜を通過して細胞外環境へ出る。この分泌LTB4は、炎症過程を指示ならびに増幅する、多くの細胞および分子の作用を開始させる。LTB4は、炎症過程のこの段階を導くことを可能にする、多くの機能を有する。概して、LTB4は、走化性、化学運動性、血管作用性、痛みを伝える性質、免疫調節作用および他の特性を有する。LTB4はまた、白血球において、脱顆粒およびスーパーオキシドの産生を刺激する。
【0004】
LTB4は、分泌後、血液中で循環している好中球を罹患部位に引きつける。LTB4は、適当な化学誘引物質受容体を発現する好中球に対する、強い走化性物質である。LTB4のヒト皮膚への局所適用であっても、適用部位で好中球の浸潤を促進することが明らかになっている;“Production of Intraepidermal Microabscesses by Topical Application of Leukotriene B4”, R. Camp, et al., Journal of Investigative Dermatology, 1984, 82, 202-207を参照されたい。上記および引用されたすべての参考文献は、その全体を、参照により本明細書に含めるものとする。LTB4は、好中球表面上の受容体に結合し、このことが運動性に必要な構造の形成を開始させる。血液中の好中球を炎症部位に引きつけると、LTB4はそうした好中球の血管内皮への接着を誘導する。LTB4は血管透過性を高め、好中球は内皮に接着した後、損傷または感染部位で内皮を通り抜けて間質細胞環境に入る。好中球はLTB4の走化性活性によって支配されるが、それは、好中球がLTB4濃度増加の方向に動くことを意味する。ここで、好中球の主たる役割は食作用である。好中球は、炎症組織の細胞外空間において、望ましくない生物および残屑に接着した後、これを貪食する。このときにはもう、炎症部位に、炎症促進性産物、代謝物および残屑からなる水腫状組成物である炎症性浸出液がにじみ出している。好中球は、強力な酵素および有害微生物因子を利用して食作用を行う。もう一つの重要な機能として、LTB4は食作用を有する好中球に影響を及ぼして、多量のグルクロニダーゼおよびリゾチームを細胞外環境に放出させ、そこで、これらは、急性炎症性浸出液および損傷組織の分解に有益な役割を果たす。
【0005】
インターロイキン−1β
LTB4以外に、本発明は、炎症性サイトカインであるインターロイキン−1β(IL−1β)の果たす役割に関する。LTB4は、好中球の内皮細胞への接着を引き起こす役割を果たす可能性があるが、IL−1βは、直接、多形核白血球(PMN)の内皮細胞への接着の原因となる。IL−1βは、内皮細胞の表面で接着分子の発現を誘導するが、これは、好中球が血液から出て罹患組織に入る場合に必要なことである。IL−1βはヒト皮膚に本来存在しており、接着におけるIL−1βの役割を阻止またはそれに拮抗することが、一般に、抗炎症性である。
【0006】
急性炎症と慢性炎症
急性および慢性炎症は、文献ではいくぶんおおまかに定義されているが、組織学的所見および臨床所見に基づいて4つの状況について考えることが役立つ。そうしたものとして、急性炎症は、炎症部位に多形核白血球(主として食作用のある好中球)が存在するという特徴を有する。しかしながら、急性炎症はさらに、最初の攻撃からの時間の長さによって、消散または持続する状態にあると特徴付けることができる。慢性炎症は、急性炎症とは異なる。慢性炎症は、急性プロセスがその状況を完全には消散できなかったその後で、炎症反応の第2段階として起こることもあるし、あるいは急性期と同時に起こることもある。慢性炎症は、持続感染、長期にわたる刺激作用、細胞性免疫応答、急性炎症反応不全、自己免疫疾患、生活様式、長期の精神的ストレスなどによって引き起こされると考えられる。慢性炎症は、炎症部位での単核細胞(大部分は貪食マクロファージであるが、リンパ球、単球および形質細胞もある)の存在を特徴とし、急性炎症と同様に、消散または持続として分類することができる。比較的最近になってはじめて、医学は、多くの病因の中で慢性組織炎症の役割を明らかにし、正しく認識した。炎症が進むにつれて、急性および慢性プロセスの両方が、互いにすぐ近くで同時に発生する可能性があることに留意することが大切である。
【0007】
好中球が炎症部位に浸潤したとき、LTB4によって誘引された好中球は、急性炎症反応を第一に制御するが、食作用がその主たる作用である。しかしながら、活性化された好中球はLTB4の主な供給源であることも注目すべきである。このように、増幅フィードバックループの可能性があり、このループにおいてLTB4は、炎症部位への好中球の動員および活性化を指示し、その好中球はより多くのLTB4を産生および放出し、LTB4はさらに多くの好中球を動員する。急性期における後期の時点で、比較的少数のマクロファージおよびリンパ球も当該部位に浸潤して、組織片および損傷細胞の除去を助けるが、組織構造は依然として好中球によって特徴付けられる。急性期が異常を解決できず、生物をホメオスタシスの状態にもどすことができない場合には、急性から慢性炎症への乗り換えが起こる可能性があり、その時、炎症部位に浸潤している好中球は、それ以上の好中球の動員を減らし、単核細胞の流入を促す化学信号を発する。活性化されたマクロファージが、慢性期炎症の中心となる。こうしたマクロファージが、食作用のように、好中球と同じ機能の多くを果たすが、系全体に及ぶ、より多くの効果を有する可能性もある。また、マクロファージは、細胞分裂およびリンパ球に対する抗原提示の能力も有する。マクロファージは、さまざまなサイトカイン(LTB4を含む)および増殖因子を産生することによって、慢性炎症反応を指揮し、治癒段階を促進する。たとえば、TGF−β(トランスフォーミング増殖因子β)は、マクロファージの炎症作用のダウンレギュレーションに関与するが、一方、マクロファージを刺激して、治癒を補助するサイトカイン、増殖因子、およびコラゲナーゼの産生を引き起こす。
【0008】
慢性炎症の消散には、罹患部位からの免疫細胞(マクロファージおよび白血球)の排除が必要である。白血球およびマクロファージは、動員および/または局所増殖(細胞分裂)により、組織区画に蓄積する傾向がある。好中球、リンパ球およびマクロファージは、遊出および細胞死によって組織区画から枯渇する。炎症反応の好ましい条件下では、免疫細胞は、罹患領域に過剰蓄積が起こらないようにする速度で炎症部位に出入りする。慢性炎症を消散するのとは反対に、遊出および細胞死が動員および増殖に追いつかないときは、慢性炎症の持続が生じる。こうした不均衡は、病的状態であり、一般に、遊出および細胞死を阻害する化学信号が不適切に生じるときに、発生する可能性がある。このメカニズムは、完全には理解されていない。好中球に関して、1つの見方は、罹患組織の間質細胞および線維芽細胞が、好中球の維持を促す間質細胞由来因子1(SDF−1)、ならびに好中球の生存を支持するインターフェロン−β(INF−β)を放出することであると思われる。活性化されたT細胞に関して、類別されたさまざまなインターロイキン、およびI型インターフェロン(INF−αおよびINF−β)はアポトーシスを阻害するので、炎症の持続をもたらす。こうした白血球の病的な蓄積の結果が、エキソサイトーシスによるリソソーム酵素の持続的な放出である。好中球およびマクロファージはいずれも、大量のコラーゲンおよびエラスターゼ破壊酵素を細胞外環境に放出し、そこでこうした酵素は、炎症性浸出液および損傷組織を分解するのに有益な役割を果たす。しかしながら、これらの酵素は、健康な組織を区別せず、それも消化してしまう可能性がある。もしこれらの酵素の量が過剰ならば、健康な組織に重大な損傷が生じるであろう。さらに、食細胞は、健康な組織も攻撃する可能性のある活性酸素代謝物も環境中に放出する。こうした攻撃はそれ自体、炎症反応のイニシエーターとなり、何日も、何ヶ月も、または何年も炎症状態を引き延ばす。このように、慢性の、特に持続性の炎症において、組織は原因因子によって損傷を受け、もちろんその因子に対する炎症反応によっても損傷される。実際、持続性炎症では、当初の原因因子は、ずっと以前に無力化されている可能性がある。
【0009】
ここで行うべき重要な区別がある。一部の処置は、1または複数の元の原因因子を打ち消すので、抗炎症性である。たとえば、侵入する細菌は炎症を引き起こす可能性がある。有効な抗菌治療が侵入する細菌を無力化するならば、炎症は治まるかもしれない。その意味では、抗菌治療は抗炎症性と呼ぶことができるであろう。これは本発明の問題の核心とは異なる。たとえば、侵入する細菌は炎症を引き起こすことができる。今度は、細菌は長期間生き残り、その結果炎症は慢性的に持続する状態になる。その後、侵入細菌は最終的に標的抗菌治療によって無力化されるが、その持続する性質のために、炎症は続く。この段階で、炎症を標的とする処置が望ましい。元の原因因子を除去することは十分でなかった。当初の原因因子を標的とする処置は、持続性炎症の消散には効果がないかもしれない。罹患した人には、炎症過程に入って炎症過程と相互作用するものが必要である。本発明は、炎症を標的にした処置に関する。「炎症を標的とする」、「標的化抗炎症組成物」、「抗炎症に特異の」などは、このように、1または複数の当初の原因因子を無効化することによる以外に、炎症過程に直接的に相互作用する組成物、方法、または処置のことである。
【0010】
LTB4は、乾癬、湿疹、紅斑、座瘡、掻痒、嚢胞性線維症、関節リウマチ、喘息、アレルギー、大腸炎などを含む、多くの皮膚および臓器の持続性炎症性疾患に関与している。これらのすべてにおいて、LTB4レベルの上昇が観察されている。こうした症状は、一般にLTB4介在疾患と呼ばれ、その研究が、慢性炎症性疾患の治療のためのさまざまなLTB4阻害剤および拮抗薬の開発につながっている。拮抗薬は、その作用の標的となり、LTB4が特異的機能を果たすのを阻止する。これに対して阻害剤は、アラキドン酸からのLBT4の生成を阻止する。したがって、阻害剤は、LTB4に依存するすべての機能に影響を与える可能性があり、これは望ましくない結果をもたらす可能性がある。LTB4阻害の方法には、5−リポキシゲナーゼを直接阻害すること、ならびに5−リポキシゲナーゼが細胞膜に移行できないように5−リポキシゲナーゼ活性化タンパク質を遮断することが含まれる。いずれにしても、LTA4の生成に至るカスケードは中断されて、LTB4は産生されない。これに対して、拮抗薬は、白血球および/または内皮細胞上の1または複数の受容体においてLTB4の作用を遮断する。多くの場合、LTB4の活性の一部を制御する、または一部に影響を及ぼすが、他には影響しないことが望ましいと考えられる。そうした場合、LTB4生成の阻害は禁忌であるが、LTB4の拮抗は適応とされる。一例として、慢性的なLTB4レベルの上昇を伴う持続性炎症性疾患の際に、好中球の、LTB4が仲介する走化性、およびIL−1βが仲介する接着を妨げることによって、炎症過程を中断することが望ましいと考えられる。しかしながら、炎症部位にすでに存在する好中球については、LTB4は依然として、エキソサイトーシス、ならびに多量のグルクロニダーゼおよびリゾチームの細胞外環境への放出を引き起こし、そこで好中球は、急性炎症性浸出液および損傷組織の分解に有益な役割を果たす。このように、炎症過程の初期段階は阻止(check)することができる一方で、最終段階は続行可能であり、罹患領域は炎症過程を脱することができる。炎症過程が治まるにつれて、治癒および修復のプロセスが後を引き継ぐ。「治癒」と称される、より良好な解決結果において、組織構造は無傷に維持され、または組織細胞の増殖によって再生することができる。「修復」または「組織化」と称される、より劣った解決結果では、損傷組織は、人体の正常な修復過程によって瘢痕組織で置き換えられる。治癒または修復のいずれかが成功すれば、その炎症過程は中止(check)されるほかなく、それ以上の損傷の可能性は減少または排除されることになる。一般に、持続的なLTB4レベルの上昇を特徴とする、あらゆる疾患治療の有効性は、疾患の症候の寛解または予防によって評価される。
【0011】
キノコ:免疫増強と免疫抑制
キノコは菌界の担子菌門(Basidiomycota phylum)に属する。キノコ全体およびキノコ抽出物は、何世紀にもわたって、多くの報告された効能を求めて使用されてきた。使用方法には、経口摂取、皮下注射および局所適用がある。生物活性物質はどれでも同じように、キノコ特有の効果はさまざまな因子に依存しており、この因子には、厳密なキノコの種、使用されるキノコの部分、キノコの前処理方法、投与方法、治療の標的とする人体の部位、治療計画などが含まれる。
【0012】
キノコ組成物(特に食用組成物)は、多くの場合、免疫増強性および精力増強性のためにおおいに勧められている。免疫増強は炎症反応を促進し、したがってこうしたタイプの組成物は、本発明の抗炎症組成物とは逆であることを忘れてはならない。さらに、キノコ組成物を含む、多くのさまざまな種類の製品がアンチエイジング(加齢防止)を主張する。しかし、頻繁に使用される「アンチエイジング」という言葉は不明確で、アンチエイジング処置を受ける人の最初の状態しだいで、異なる意味、互いに相容れない意味さえも伝達する可能性がある。したがって、一方では、炎症促進(免疫増強)がアンチエイジングであるかもしれないが、他方では抗炎症(免疫抑制)がアンチエイジングとなるかもしれない。バランスのとれた食事を摂り、定期的に運動し、喫煙せず過度のアルコールも摂取せず、害になる量の日光曝露を受けない人を考えてみよう。こうした人が中年を超えると、すべての相当な注意にもかかわらず、いずれは免疫系機能(炎症反応)が弱まる。このような場合、炎症を促す処置は「アンチエイジング」と見なされるであろう。あるいはまた、食事が貧しく、運動せず、日常的に喫煙し、1日あたり6オンスを超えるアルコールを摂取し、屋外で働く30歳を考えよう。この人は30歳で、衰えのない炎症反応を有すると考えられるが、恒常的な外部刺激により、その反応は常に活性化され、すなわち慢性化して、健康な組織の損傷をもたらす可能性がある。この場合、抗炎症処置を、アンチエイジングとみなすべきである。要約すると、「免疫増強」は炎症促進を意味するが、「アンチエイジング」は炎症促進または抗炎症であると考えられる。
【0013】
“Mycological Medicine”(Functional Foods & Nutraceuticals、2002年1月号)と題する論文において、この点が強調された。著者は、「強力な免疫調節物質および免疫賦活物質として、薬用キノコは、全身性エリテマトーデスおよび膠原病自己免疫疾患といった、多くの自己免疫疾患には禁忌とされる」と言及した。さらにこの点を強調して、上記論文の直後にある査読は、「薬用キノコ抽出物の使用が、癌を含む一定の慢性疾患の処置においてその地位を有していることは明らかである。しかしながら、著者は、そうした抽出物の使用が、自己免疫状態のような特定の疾患においては推奨されないことを指摘する。これは十分に根拠のある警告であって、その理由はこうした抽出物が免疫細胞の機能を高めるためであるが、慢性炎症が病気の原因の一部をなす場合には、そうした細胞の活性を高めることは、賢明ではない。」と述べられた。したがって、組成物は、たとえそれがアンチエイジングを主張しても、必ずしも、その組成物で処置されるすべての人にアンチエイジング効果を有するわけではない。その上、1または複数のキノコを共通に含む2つの組成物は、その組成物が2つともアンチエイジングであると主張しても、処置されたすべての人に同じ一般的な効果があるとは限らない。それは、組成物を使用する方法および使用する対象に応じて異なる。分類上異なるキノコからの抽出物を含んでなる組成物が、一般に同じようには機能しないことは言うまでもない。
【0014】
記載のように、特定のキノコを用いて免疫機能を増強することができる。再び論文“Mycological Medicine”から引用すると、「薬用キノコの強力な免疫調節および免疫賦活活性は、免疫機能全体を支え、高めるのに役立つ。研究者らはまた、キノコが、免疫系の基本的な免疫応答(リンパ球、好中球など)および二次的な免疫応答(免疫グロブリンIgE、IgA、IgG)をいずれも直接刺激することができることを明らかにしている。こうした刺激は、サイトカインおよびマクロファージといった免疫防御因子の産生を増加させることができるが、これらは外来抗原の認識および除去において、ならびにインターロイキン1を含めた化学伝達物質の放出においても、不可欠の役割を果たす。」さらに引用すると、「免疫系を増強することが判明している物質には、βグルカン、レクチン、多糖、多糖−ペプチド複合体、トリテルペノイド、ヌクレオシドおよび他の二次代謝産物がある。これらの生物活性物質の多くは、免疫系への刺激作用によって、強い抗腫瘍、抗変異原性および抗癌活性を示している。」注目すべき点は、特定のキノコがサイトカイン産生を増加させ、好中球活性を刺激すると考えられること、すなわち特定のキノコが炎症促進活性の能力を有することである。また、少なくとも一部の場合には、キノコに見られる多糖およびグルカンは免疫系を刺激し、すなわち炎症を促進すると考えられる。著者の説明によれば、「βグルカンはマクロファージおよび他の食作用を有する白血球細胞と、ある特定の受容体で結合し、フリーラジカル生成を刺激することによってそれらの抗感染および抗腫瘍活性を賦活する。これは、次に、異物が細菌、ウイルスまたは腫瘍細胞であろうと、その異物を貪食して破壊するよう、貪食免疫細胞に信号を発する。」このように、抗菌、抗ウイルス、抗変異原性、心血管増強などとして宣伝されるキノコ抽出物の利用の多くは、キノコが免疫系および炎症過程を刺激することによってこれらの状態に対処できることに由来する。最後に、多糖およびβグルカンは大きな分子クラスを代表していることを忘れてはならない。当分野では、すべての多糖類またはすべてのβグルカン類が炎症促進性であると、教示または示唆するものは何も知られていない。最大限言えることは、一部の多糖およびβグルカンが炎症反応に介在することができるということである。
【0015】
健康な皮膚は、体のすべての器官および体全体と同様に、ホメオスタシスの状態を維持しなければならない。一般に、ホメオスタシスは過剰または不足によって乱されるが、その結果は皮膚の完全性の低下である。したがって、皮膚のしわ、および他の加齢した皮膚の兆候は、免疫の弱まり、または過剰な免疫活性(すなわち慢性炎症)の結果であると考えられる。たとえば、実際に高齢の人では、皮膚は次第に薄くなり、より損傷を受けやすくなると考えられる一方で、それ自体を治す能力は減少している。高齢の皮膚では血流が減少するので、免疫応答も低下する。皮膚において炎症を抑制する局所処置は、このような人にとっては禁忌となる可能性がある。他方、湿疹および乾癬は、それを標的とする抗炎症組成物が必要とされる、高炎症性疾患である。
【0016】
実年齢上の加齢および自己免疫疾患に付随する能力の低下のほかに、いかなる年齢の人の皮膚も、外因性または内因性因子であって、その多くが悪化傾向である因子によって影響を受ける。これらの因子には、重力、日光曝露、汚染、喫煙、受動喫煙、医薬品、食事、外傷などがある。これらの因子の大半(おそらく重力ではない)は、皮膚に対して炎症性であり、皮膚の表層においてコラーゲンおよびエラスチン線維網の劣化をもたらす。こうした劣化は、皮膚の弾力性および引き締まった堅さの喪失をもたらし、結果として皮膚のたるみ、およびしわにつながる。したがって、十分に若年の人においても、しわとして目に見えてあらわれる皮膚の変化が生じうる。一般に、これらの目に見える兆候は、皮膚の「早期加齢」と呼ばれる。
【0017】
文献が、抗炎症性を示すキノコ含有組成物を報じている。WO2005/067955号は、エブリコ(Fomitopsis officinalis(一般名Agarikon))の局所湿布が、長い間抗炎症のために使用されてきたこと、ならびにこのキノコを他の形態で結核の治療に使用すると主張する。この論文は、局所湿布がどういう種の炎症を治療するのに有効となりうるのかについて、具体的でない。そしてまた、そのような湿布の製法についても明確でなく、エブリコの濃度すら示されていない。キノコのどの部分を使用するのか、そして湿布に使用する抽出物の調製法も記載されていない。このキノコの報告された成分は、βグルカン、トリテルペノイド、アガリシンおよび抗生物質であるが、エブリコが、仮にそうであるとして、どのように炎症過程に介入するかについて、説明はない。言及された組成物は、炎症の最初の原因因子を無効化するのか、またはその組成物は抗炎症に特異であるのかについて、その組成が開示されていないため知ることができない。
【0018】
他に知られているキノコ抽出物の局所適用組成物には以下のものがあり、これらは皮膚の加齢およびしわを治療または予防すると報告されている。
【0019】
KR2004084581は、「皮膚のしわを予防するための、キヌガサタケ(Dictyophora Indusiata)抽出物を含有する、防腐剤を含まない化粧品組成物であって、その組成物が高い抗菌効果を示し、したがって抗炎症に有効である前記組成物」と題されている。そこに報告されているのは、キヌガサタケ菌糸体のエタノール抽出物を含有する、皮膚のしわ予防のための、防腐剤を含まない化粧品組成物である。抽出物の濃度は、組成物の0.5〜20%である。報告によれば、保湿組成物は、高い抗菌効果を示し、したがって抗炎症に有効である。表題それ自体が説明するように、この組成物のいかなる抗炎症活性も、組成物の抗菌活性に由来する。表題および入手可能な要約から、これは、組成物が侵入した細菌を無力化した後に炎症が治まることを述べていると理解される。表題または要約の中ではキヌガサタケ抽出物が炎症過程に直接介入するとは、何ら示唆されていない。さらに具体的には、表題または要約の中では、キヌガサタケ抽出物が好中球のLTB4による仲介に何らかの影響を及ぼすとは、何も示唆されていない。これは、抗炎症に特異の、好中球のLTB4仲介に影響を与える本発明の組成物とは異なる。
【0020】
JP11292785は、ヒメマツタケ(Agaricus blazei)(アガリクス)キノコの1または複数の抽出物、および菌糸体培養物の濾液を、活性酸素スカベンジャーと併せて含有する局所適用製剤を記述する。報告によれば、この組成物は、紫外線による皮膚線維芽細胞の損傷を抑制する;皮膚において活性酸素によって引き起こされる過酸化脂質の生成を防止する;しわ、または皮膚の弾力性の低下を予防および改善するのに有効である;皮膚の炎症および肌荒れを予防および改善する。この組成物は、アガリクス茸以外の多くの活性種を含有する。たとえば、活性酸素スカベンジャーには、ハマメリス(Hamamelis)、コナラ属(Quercus)、トチノキ属(Aesculus)、ワレモコウ属(Sanguisorba)、ボタン属(Paeonia)、イチョウ(Ginkgo bibloba L.)、カバノキ科(Betulaceae)の木、パセリの抽出物、カロテノイド、フラボノイド、タンニン、スーパーオキシドジスムターゼ、没食子酸およびその塩または誘導体、ヒドロキノン、チオレドキシン、ならびにチオレドキシン還元酵素がある。JP11228439はまた、ヒメマツタケ(Agaricus blazei)の菌糸体抽出物(好ましくは0.0001〜5重量%)、動物起源の少なくとも1種類の生理活性物質(たとえば、ヒトまたはウシといった哺乳動物の胎盤または脾臓抽出物、可溶性卵殻膜タンパク質、塩基性または酸性線維芽細胞増殖因子、上皮細胞成長因子、核酸)、0.0001〜3.0重量%の抗炎症剤、ムコ多糖(たとえば、ヒアルロン酸)ならびに2−ヒドロキシカルボン酸を含んでなる調製物を記載する。報告によれば、この組成物は、保湿効果を増強し、しかも表皮線維芽細胞を活性化して、皮膚の加齢症状を治療する。この組成物で報告されたアガリクスの役割は、皮膚線維芽細胞の活性化であり、それは治癒および修復過程の一部である。一般に、この種のキノコから抽出されたβグルカンは、癌の治療に使用されることが報告されており、それは癌治療においてインターフェロンおよびインターロイキンの産生を助ける(炎症促進)。また、βグルカンは、マクロファージ活性を刺激することが知られている(炎症促進)。当然、そうした治療は一般に局所ではない。要するに、上記参考文献におけるアガリクスの使用は、抗炎症に特異のものではなく、その上JP11228439では、別の抗炎症成分の存在が、アガリクスは炎症を標的としていないことを示している。これは、1または複数のキノコ抽出物が抗炎症に特異であり、好中球のLTB4仲介に影響を及ぼす、本発明の組成物とは異なる。
【0021】
JP63183537は、報告によれば、異担子菌亜綱(Heterobasidiae)(たとえば、キクラゲ(Auricularia auricula-judae)、アラゲキクラゲ(A. polytricha)、ヒダキクラゲ(A. mesenterica)など)の抽出物を含有する、毒性の低い抗炎症剤を記載する。この抽出物の活性成分は多糖であると報告されている。この多糖は、キクラゲの場合、キシロース、マンノース、グルクロン酸などである。キクラゲの抽出成分は、液状、クリーム状、などの状態でさまざまな薬物基剤と混合し、抗炎症剤として使用される。使用される抽出物の濃度は好ましくは0.001〜20.0重量%である。
【0022】
先行の参考文献はどれ1つとして、皮膚において標的とされるLTB4拮抗薬および/またはIL−1β拮抗薬として使用するための、シロタモギタケ(Hypsizygus ulmarius)抽出物を含んでなる、先行技術の組成物を記載せず、出願人もそれを認識していない。シロタモギタケ抽出物が、持続性皮膚炎を消散し、それによって持続性炎症の影響、特に目に見える加齢の兆候、たとえばしわ、を緩和するのに効力を有する可能性があることを、先行技術は何も示唆していない。先行するいずれも、抗炎症作用のある量のシロタモギタケ抽出物を含んでなる局所適用組成物を開示していないが、この抗炎症作用はLTB4拮抗作用および/またはIL−1β拮抗作用である。
【発明の開示】
【0023】
発明の目的
本発明の主たる目的は、持続性炎症の影響を、治療、抑制、予防、または回復するのに有効である、局所適用組成物および方法を提供することである。
【0024】
本発明のもう一つの目的は、シロタモギタケ抽出物を含んでなる、抗炎症に特異の組成物を提供することである。
【0025】
本発明の別の目的は、目に見える加齢した皮膚の兆候、特にしわを治療、抑制、予防、または回復するのに有効である、局所適用組成物および方法を提供することである。
【0026】
本発明のまた1つの目的は、アラキドン酸カスケードを直接妨害はしないが、LTB4に対する走化性抑制剤として有効に機能する局所適用組成物を提供することである。
【0027】
本発明のもう一つの目的は、IL−1βの接着抑制剤として有効に機能する局所適用組成物を提供することである。
【0028】
発明の概要
本発明は、LTB4が仲介する、多形核白血球の走化性および/または接着、ならびにIL−1βの仲介する多形核白血球の接着に影響を及ぼす量のシロタモギタケ抽出物の局所適用組成物を包含する。シロタモギタケ抽出物は、単独で、または副次的な抗炎症性の、皮膚に作用する物質と組み合わせて、使用することができる。副次的な抗炎症物質は、LTB4が仲介する走化性およびIL−1βが仲介する接着に拮抗することによって作用するものであってもよいし、またはそうでなくてもよい。抽出物は化粧品として許容される基剤に組み入れることができる。本発明は、炎症を起こした皮膚に、抗炎症に有効な量のシロタモギタケ抽出物を適用することによって、皮膚の炎症を治療する方法を包含する。好ましくは、本発明の組成物は、LTB4の仲介する持続性皮膚炎を治療するために使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本明細書を通じて、「含んでなる(comprise、comprises、comprising)」という語は、物の集合体が具体的に列挙されたその物に限定されないことを、一貫して意味するものである。
【0030】
Hypsizygus ulmarius(別名elm oyster)(シロタモギタケ)は、次のような分類学上の位置づけを有する:菌(Fungi)界、担子菌(Basidiomycota)門、担子菌(Basidiomycetes)綱、ハラタケ(Agaricales)目、キシメジ(Tricholomataceae)科、シロタモギタケ(Hypsizygus)属。シロタモギタケ(ulmarius)種は、シロタモギタケ属の他のキノコ、すなわちcircinatus、elongatipes、ligustri、ブナシメジ(marmoreus)およびtessulatusと混同してはならない。一部の古い参考文献は“ulmarius”と“tessulatus”を混同している可能性があるが、最近ではこれらの種の相違は解明されている。
【0031】
本発明での使用に適したシロタモギタケ(Hypsizygus ulmarius)抽出物は、野生で、または栽培地で収穫されたキノコから調製することができる。もう一つの方法として、しかも好ましくは、抽出物は、再現性のある条件下で組織培養によって生育したキノコから調製される。培養物は、クローニング法によって、または胞子から調製することができる。組織培養から調製される抽出物の品質および特性は、野生または栽培地での生育による場合よりもはるかに高い信頼性を持って、再現することができる。野生では、シロタモギタケはカエデ、ネグンドカエデ(トネリコバカエデ)の木に生育することができるが、その木から、シロタモギタケは木の幹に埋まった菌糸体網によって栄養分を受け取る。当然のことながら、野生のシロタモギタケキノコの組成には、キノコが生えた正確な木、その木の樹齢、木における位置、木が受ける日光の量、季節、日時などによってばらつきがある。これに対して、組織培養によるシロタモギタケキノコの成分は、おおいに、より均一で、予測可能で、しかも制御可能である。したがって、組織培養から生育したシロタモギタケキノコが好ましい。このようにして製造されたキノコ抽出物は、Fungi Perfecti(登録商標)LLC, Olympia, WA 98507から市販されている。
【0032】
本発明に有用な抽出物は、エタノール溶媒を用いて得られる。一般に、抽出のために使用するエタノールの割合(%)が高いほど、脂溶性物質、この場合は複合糖質、の回収率(%)は高くなるものである。抽出力の点からは、好ましい溶媒は、80%以上のエタノール溶媒である。しかしながら、コストが問題になる場合、適当な抽出物は、30%エタノール溶媒を用いて、あるいはそれ以下でも得ることができる。抽出物はキノコ全体から得ることができるが、菌糸体、すなわちキノコが生育する培養基の内部に存在する、キノコの細かい根のような部分を使用することが好ましい。菌糸体は、吸収のために栄養分を分解する酵素を分泌することによって、培養基から栄養を吸収する。したがって、菌糸体は、キノコの子実体よりも、特定の生物活性物質の豊富な供給源である。抽出物は、液体または固体の状態で本発明の組成物に加えることができる。Fungi Perfecti(登録商標)は、液体状または粉末状のシロタモギタケ(Hypsizygus ulmarius)エタノール抽出物を販売している。
【実施例1】
【0033】
Fungi Perfecti(登録商標)から入手した3つのシロタモギタケ34%エタノール抽出物サンプルに組成分析を行った。サンプル1は粉末の状態でFungi Perfecti(登録商標)から受け取り、それ以上処理しなかった。サンプル2は、13〜17キログレイのγ線を照射した粉末の状態で受け取った。サンプル1および2はいずれも、Refractance WindowsTM技術によって、34%エタノール抽出物から常圧で完全に乾燥した。サンプル3は、液体の状態でFungi Perfecti(登録商標)から受け取り、その後、本出願人らは、40℃で作動するロータリーエバポレーターで、4時間かけて乾燥して粉末とした。乾燥は、溶媒の沸点を下げ、その結果乾燥に必要な温度を下げるために、約1気圧の陰圧で行った。乾燥温度が低くなることは、高温への曝露の破壊的な影響、すなわち抽出物の糖成分のカラメル化を避けるために好ましい。
【0034】
HPLC−PADを用いて、遊離の単糖およびオリゴ糖の測定を行った。次に、10%塩酸溶液を用いて、100℃にて2時間、サンプルを酸加水分解に供した。酸加水分解によって、オリゴ糖および多糖からすべての単糖ユニットが遊離する。その後、サンプルの全糖含量を測定した。その結果を表1に示す。
【表1】

【0035】
サンプル1をさらにタンパク質含量について分析した。分析は、酸加水分解の前後に、6N塩酸を用いて110℃にて16時間行った。表2はその結果を示す。
【表2】

【0036】
表3は、表1および2のデータをさらに分析して要約する。表に示すように、サンプル1および2は、同じ糖プロフィールを示す。サンプル3はサンプル1および2に似ているが、遊離ガラクトースおよび遊離グルコースのパーセンテージが低い。
【表3】

【0037】
テストサンプル間の相違は、乾燥方法およびγ線照射の使用だけであるが、糖プロフィールの相違は注目される。サンプル1および2は、Refractance Windowsにより乾燥したが、全ガラクトースが12%で、すべて遊離であるのに対して、ロータリーエバポレーターで乾燥したサンプルは、総ガラクトースが10%しかなく、そのうちわずか7%が遊離である。同様に、サンプル1および2は、総グルコースが58%であり、そのうち18%が遊離である。これは、サンプル3の総グルコースが56%で、そのうち15%が遊離であることと比較される。サンプル1および2は、ガラクトースおよびグルコースについて同一のプロフィールを有するが、これは、γ線照射がそうした分子種の割合に影響を与えないことを意味する。
【実施例2】
【0038】
シロタモギタケ(Hypsizygus ulmarius)抽出物のLTB4に対する好中球走化性抑制効果
3つのテストサンプルは、実施例1における粉末サンプル1、2および3と同一であり、それらがロイコトリエンB4に対する好中球走化性を抑制する能力についてアッセイした。アッセイは、ある材料が、既知の走化性物質LTB4に対する多形核白血球(PMN)の遊走を抑制する能力を評価するように設計される。ヘパリン添加末梢静脈血(20〜30ml)を健康なヒト供血者(採血前12時間はカフェインの摂取を控えるよう求められた)から採取し、密度勾配(モノ‐ポリ分解培養液, ICN Pharmaceuticals, Costa Mesa, CA)上に層になるように重ね、400×gで30分間遠心した。PMNの濃縮された画分を取り出し、赤血球(RBC)を低張食塩水で溶解させた。PMNはハンクス平衡塩溶液(HBSS)で2回洗浄し、次に0.4%ウシ血清アルブミン(Sigma)を添加したイオンを含む5.0ml HBSS中に再懸濁した。細胞濃度は10×10PMN/mlに調整した。回収されたPMNは、純度が95%より高く、トリパンブルー排除アッセイで評価すると生存細胞が98%を超えていた。
【0039】
アッセイは、5μm孔径フィルター(Millipore)を装着したブラインドウェルチャンバーを有するBoydenチャンバー装置を用いて行った。この装置は、一定の孔径の孔を有するフィルターによって隔てられた、2つの縦方向のチャンバーからなるが、その孔径は、細胞が孔から能動的に這い抜けるには十分大きいが、細胞が物理的に下部チャンバー内に通り抜けて落下することができるほど大きくはない孔となるように選択される。その後PMNは、重量/容量として0.1%および1%の濃度で、キノコサンプルとともにプレインキュベートした。200μlのPMN細胞懸濁液をフィルターの上部に層状に載せ、100μlの走化性因子を下部の区画に加えた。この実験で使用される走化性因子は0.125nM LTB4とした。5%CO、加湿条件下で、37℃にて90分間インキュベートした後、フィルターをプロパノールで固定し、ヘマトキシリンおよびエオジンによる染色を行った。PMNの走化性反応は、誘引する前面までの距離および前面に遊走した細胞の数によって決定した。誘引する前面までの距離は、400×の倍率で、細胞の大部分がフィルターを通過して遊走した距離によって決定した。結果は、誘引する(遊走する)前面での高倍率視野当たりの平均細胞数(PMN/HPF)として表した。このアッセイにおいて、0.5%カフェインを陽性対照として使用した。走化性抑制物質を含まない陰性対照も使用した。表4に示す結果は、陰性対照と比較した走化性活性の減少率(%)である。
【表4】

【0040】
ロータリーエバポレーターで乾燥したシロタモギタケエタノール抽出物は、LTB4に対する有意な好中球走化性抑制活性を示す。どちらの濃度でも有意な活性が存在する。このように、少なくとも0.1%(w/v)の濃度で、シロタモギタケ34%エタノール抽出物の、有意な走化性抑制活性が確認されている。Refractance Windowsによって乾燥されたシロタモギタケエタノール抽出物は、異なる作用をした。非照射サンプルは0.1%濃度では有効ではなかったが、1%(w/v)濃度では有意な(39%)活性を示した(ロータリーエバポレーター乾燥サンプルより低い活性ではある)。照射サンプルは、どちらの濃度でも有意な走化性抑制活性を示さなかった。Refractance WindowsTM乾燥法は、本明細書に記載のロータリーエバポレーター乾燥と比較して、シロタモギタケ抽出物の走化性抑制活性を減少させると結論付けることができる。また、γ線照射は、いずれの乾燥方法を用いるかにかかわらず、シロタモギタケ抽出物の走化性抑制活性を大きく減少させると結論できる。これらの結論に基づいて、本発明において有用なシロタモギタケ抽出物は、走化性抑制活性がすべて失われるほどガンマ線照射を受けるべきではない。さらに、Refractance Windowsにより調製されたサンプルも有効に使用することはできるが、好ましいシロタモギタケ粉末抽出物はロータリーエバポレーターで乾燥される。
【実施例3】
【0041】
シロタモギタケ(Hypsizygus ulmarius)抽出物のLTB4に対する好中球走化性抑制効果
別の時に、実施例2に記載されるものと同じアッセイを、シロタモギタケ34%エタノール抽出物(Fungi Perfectiより)のサンプルについて、(上記重量/容量とは異なり)容量/容量で0.1%および1.0%の濃度の溶液として実施した。結果は劇的に異なっていた。いずれの濃度でも走化性抑制効果は観察されなかった。
【実施例4】
【0042】
3つのキノコ抽出物のLTB4に対する好中球走化性抑制効果
Fungi Perfecti(登録商標)から入手した3つのキノコのエタノール抽出物を、ロイコトリエンB4に対する好中球走化性を抑制する能力についてアッセイした。アッセイサンプルは、エブリコ(Fomitopsis officinalis)、ツガノマンネンタケ(Ganoderma tsugae)、およびシロタモギタケ(Hypiszygus ulmarius)のエタノール抽出物とした。シロタモギタケ抽出物のテストサンプルは上記実施例1および2のサンプル3と同等とした(34%エタノール、ロータリーエバポレーターで乾燥、γ線非照射)。エブリコおよびツガノマンネンタケサンプルは、液体の状態でFungi Perfecti(登録商標)から入手し、上記のようにロータリーエバポレーターで乾燥した。アッセイは実施例2に記載のように行った。シロタモギタケおよびエブリコ抽出物が有意な走化性抑制活性を示すことが明らかになった。この実験において、0.1%(w/v)シロタモギタケ抽出物による走化性の減少率(%)は、陰性対照と有意差はなかった。ツガノマンネンタケ抽出物は、統計的に有意なPMN走化性の低下をもたらさなかった。このアッセイにおいて、陽性対照である0.1%カフェインは、0.125nM LTB4に対して走化性を93%抑制した。結果を表5に示す。
【表5】

【0043】
実施例2、3および4の結果(表4および5)は、示された濃度でのシロタモギタケ抽出物の走化性抑制効果を示す。実施例2および4において、LTB4が仲介する走化性の減少率(%)は、陰性対照サンプルの作用との比較であるが、実験条件、たとえば、実験に使用した好中球の濃度、好中球の誘引に使用したLTB4の量、環境条件などにも依存する。このような理由で、減少率(%)の数字は、同一実験において相互に比較する場合にのみ意味がある。1%(w/v)を超えるシロタモギタケ抽出物の濃度がよりいっそう大きな走化性抑制活性をもたらすことが合理的に予想される。100%の効果に達する前に、少なくとも20%(w/v)濃度まで、LTB4の仲介する好中球走化性のいっそうの減少を期待することができる。
【実施例5】
【0044】
IL−1βが仲介する好中球の接着に対する3つのキノコ抽出物の効果
実施例4と同一の3つのサンプルを、IL−1βの作用を妨げることによって好中球の内皮接着を抑制する能力についてテストした。これらのサンプルは終濃度0.1%および1%(w/v)でテストした。好中球の接着は、テストしたすべてのサンプルによって、用量依存的に抑制された。ヒト皮膚微小血管細胞へのPMNの接着は、感染または刺激作用部位への、白血球動員に必要なステップであり、このアッセイでは以下のようにモデル化された。ヘパリン添加末梢静脈血(20〜30ml)を健康なヒト供血者(採血前12時間はカフェインの摂取を控えるよう求められた)から採取し、密度勾配(モノ‐ポリ分解培養液, ICN Pharmaceuticals, Costa Mesa, CA)上に層になるように重ね、400×gで30分間遠心した。PMNの濃縮された画分を取り出し、RBCを低張食塩水で溶解させた。PMNはハンクス平衡塩溶液(HBSS)で2回洗浄し、次に0.4%ウシ血清アルブミン(Sigma)を添加したイオンを含む5.0ml HBSS中に再懸濁した。細胞濃度は10×10PMN/mlに調整した。回収されたPMNは、純度は95%より高く、トリパンブルー排除アッセイで評価すると生存細胞は98%を超えていた。
【0045】
ヒト皮膚微小血管内皮細胞(HDMEC)は、Clonetics Corp (MD)より入手し、コンフルエントとなるまで説明書にしたがって維持した。PMNは内皮細胞にのせる前に試験物質とともに30分間インキュベートした。予備的な実験で、刺激物質の最適濃度(IL−1β 10U/ml、およびTPA5ng/ml)を決定した。試験物質およびテトラデカノイルホルボールアセテート(TPA5ng/ml)とともに、または試験物質のみと、TPAのみと、もしくは溶媒とともに、(30分)インキュベートした後、PMN(350,000/ウェル)を96ウェルマイクロタイタープレートのウェルに加えたが、そのウェル内ではあらかじめ内皮細胞がコンフルエントに達した状態にしておいた。内皮細胞は、IL−1β(10U/ml)とともに5%CO中、37℃で60分間、プレインキュベート済みであった。2種類の細胞型を2時間にわたり接触した状態にした後、上清を除去し、残存する細胞を穏やかに洗い流して、PBS中0.25%ローズベンガル(ICN)色素100μlを室温で5分間加えた。非接着細胞は、その後2回の洗浄(25mM HEPESおよび10%ウシ胎仔血清を含むMedium199)によって除去された。細胞内に取り込まれた色素は、200μlのエタノール:PBS(1:1)の添加によって放出された。30〜45分後、ウェルをELISAリーダー(Bio-Tek Instruments Inc, Winooslei, Vt, USA)内で、570nmで読み取った。接着の度合いは、内皮細胞およびPMNの入っているウェルについて、OD570で読み取った平均光学密度(OD)から、内皮細胞のみが入っているウェルの平均OD570を差し引いたものとして与えられる。
【0046】
このアッセイの結果(表6を参照されたい)は、3つのキノコサンプルがすべて、有意な用量依存的な接着抑制特性を有することを示している。ツガノマンネンタケ抽出物は他の2つのキノコ抽出物より活性が低いと評価される。このアッセイにおいて、1%カフェイン(陽性対照)はPMN接着を64%低下させた。したがって、少なくとも0.1%(w/v)の濃度で、シロタモギタケの34%エタノール抽出物の有意な接着抑制活性が確認されるが、少なくとも1%(w/v)濃度では、シロタモギタケはカフェイン対照(63%)と同程度に有効であった。繰り返しになるが、減少率(%)の数字は、同一実験における他の数字とのみ意味のある比較ができる。それでもやはり、表6における傾向は、少なくとも10%(w/v)もの高い濃度は、テストした3つすべての抽出物の接着抑制効果を高めるであろうことを示す。
【表6】

【実施例6】
【0047】
寒天およびコーンスターチのLTB4に対する好中球走化性抑制効果
Frutarom Industries, Ltdにより提供された、商標名Polysea PFとして入手可能な1%寒天溶液、ならびに純粋なコーンスターチを、LTB4が仲介する好中球走化性の走化性抑制活性について、上記の方法に従ってアッセイした。サンプルは0.1%および0.5%の濃度でテストした。Frutarom製Polysea PFは、液体の状態でアッセイした。0.1%カフェインを陽性対照として用いた。陰性対照も使用した。Polysea PFは有意な走化性抑制活性を有するが、コーンスターチは活性がなかった。コーンスターチの結果は、必ずしもすべての多糖類が走化性抑制作用を示すものではないことを実証する。その結果を表7に示す。
【表7】

【0048】
実施例1〜6は、いくつかのことを示す。第一に、前処理の方法は、シロタモギタケ抽出物の組成に影響を及ぼすと考えられる。その影響は抽出物の抗炎症性を変化させるのに十分なほどであると考えられる。
【0049】
第二に、走化性抑制および接着抑制に関して、必ずしもすべてのキノコ抽出液が同様に作用するわけではない。したがって、分類学上異なるキノコは、抗炎症治療として使用するとき、同じように作用することを期待すべきでない。
【0050】
第三に、シロタモギタケ抽出物の抗炎症能力は、その糖組成にかなり影響を受ける。多くのキノコ抽出物の組成はそれほど複雑であるとは思われず、大部分は単糖類の組み合わせである。しかしながら、糖プロフィールのわずかな相違が、シロタモギタケ抽出物の抗炎症性を変化させることが示された。また、グルコースの重合体である純粋なコーンスターチは、走化性抑制効果も接着抑制効果もないが、それにもかかわらず(やはりグルコース重合体である)β−グルカンは、炎症過程において広範な効果を明白に示すことが知られている。大多数ではないとしても、多くのキノコ抽出物の炎症性(inflammatory property)は、抽出物の厳密な糖組成に影響されると、合理的に想定することができる。こうしたシロタモギタケ抽出物の糖組成に影響を受ける抗炎症性の感受性は、抽出物を得る際に使用される溶媒にも及ぶ。基本的な溶解挙動に関する知識に基づいて、シロタモギタケの水抽出物がある程度の抗炎症性を有することが予想されるが、ただし商業開発は行う価値がないかもしれない。しかしながら、エタノール抽出物の溶媒濃度を高めると、キノコからより多くの複合糖質が回収される。一般に、複合糖質は、単純糖質より大きな抗炎症性の効果を有する。したがって、本発明に従って組成物を調剤する場合、組成物中のシロタモギタケ抽出物の濃度、ならびに抽出物を採取するために用いられたエタノール溶媒の濃度を考慮することができる。
【0051】
上記のように、大多数ではないとしても、多くのキノコ抽出物の炎症性は、抽出物の厳密な糖組成に影響される。それゆえ、上記実施例の結果は、あるキノコ抽出物の挙動を別の抽出物の挙動から想定することができないことを示す。したがって、単一の組成物中にいくつかの異なるキノコがあることが有益であるかもしれない。単一の組成物中にいくつかのキノコを有することは、対象範囲を広げ、あるいは疾患および効能のより特異的なターゲティングを可能にする。
【0052】
有効量
走化性抑制および接着抑制データは、上記の方法に従って34%エタノール抽出物から得られた、シロタモギタケ粉末の濃度が、少なくとも0.1%(w/v)ほどで、また、最大約20%(w/v)で、「抗炎症に有効」であることを強く示唆する。実施例1、2および4〜6は、粉末状のシロタモギタケ抽出物を使用している。実施例3のように、液体状の抽出物を使用することもできる。34%エタノール抽出物について、2.5%(v/v)の濃度で使用される液体は、0.1%(w/v)の濃度で使用される粉末と同等である。この比率は、液体抽出物を完全に乾燥してその前後の重量および容量を比較することによって容易に決定された。したがって、34%エタノールによる液体抽出物が少なくとも2.5%(v/v)ほどの濃度で抗炎症性として有効であることが期待できる。同様に、25%(v/v)の濃度は、1.0%(w/v)の濃度で使用される粉末形態と同等である。実施例3が示すことは、1%(v/v)(または0.04%w/v)以下の濃度が上記のアッセイにおいて抗炎症活性を示さないということである。したがって、有効性の下限は、34%エタノール抽出物については0.04%から0.1%(w/v)の間にあると認められる。さらに、走化性抑制および接着抑制データは、上記の方法に従って得られた34%シロタモギタケ粉末の抗炎症活性が、少なくとも20%(w/v)まで増加し続けることを強く示唆する。しかしながら、記載のように、有効な抗炎症組成物は、34%とは異なる濃度のエタノール溶媒を用いて得られたシロタモギタケ抽出物を使用することができる。実際、34%より高いいかなる濃度でも、本発明の組成物を作製するために用いることができる。一般に、より高濃度の溶媒を用いて得られる抽出物は、本明細書に記載の抗炎症性に関して、よりすぐれた特性を有していると思われる。したがって、抗炎症性局所適用組成物に使用されるエタノール抽出物の濃度は、抽出に使用されたエタノールの濃度に左右されることになる。本発明者らは基準として34%エタノール抽出物を使用し、34%エタノール抽出物の所定の濃度と同じ抗炎症性挙動を示すエタノール抽出物の濃度として、「34%相当濃度」を定義した。たとえば、85%エタノール抽出物は34%抽出物より高い抗炎症性活性を有すると予想され、したがって、同じ効果を達成するのに、より低い濃度が必要とされるはずである。こうした定義を考えると、「抗炎症に有効な濃度」などは、34%エタノール抽出物の0.1%(w/v)から約20%(w/v)まで、またはそれらの34%相当濃度を意味する。シロタモギタケ抽出物の34%相当濃度は、当業者が通常の試行錯誤を通じて決定することができる。
【0053】
アルコール含有量の高い化粧品基剤に組み入れられる場合、エタノール抽出物の沈澱を避けるように注意すべきである。高熱および放射線で処理することは、抽出物の分解、ならびに走化性抑制活性および接着抑制活性の損失を防止するために、回避すべきである。そうした制限のほかは、本明細書に記載のシロタモギタケ抽出物は、局所適用を目的とする、化粧品としてまたは皮膚科学上許容される、いかなる基剤にも組み込むことができる。こうした基剤には、固体、液体、クリーム、ローション、乳液、ジェル、セラム(美容液)、軟膏、湿布、粉末、固形石鹸などがある。組成物は、その組成物と不利な反応をしない、化粧品および皮膚科用の任意の種類のパッケージ形式およびパッケージ材料で包装することができる。活性成分の活性を保証するために、不透明なまたは放射線耐性のパッケージで本発明の組成物を包装することは好都合であると考えられる。組成物は、ウェットティッシュ、ポンプスプレー、エアゾールスプレー、ローションポンプ、絞り出しチューブ、泡立て石鹸などの任意の適当な方法によって局所適用することができる。
【0054】
他の抗炎症物質および炎症促進物質
本発明は、シロタモギタケ抽出物以外の抗炎症物質を包含することができる。1または複数のこうした物質は、LTB4の仲介する走化性、またはIL−1βの仲介する接着に影響を及ぼすことによって機能することができる。これは、他の抗炎症作用が望ましくない場合、またはLTB4の仲介する走化性もしくはIL−1βの仲介する接着の減少率(%)をさらに操作したい場合には、好ましいかもしれない。あるいはまた、シロタモギタケ抽出物の活性とは異なる活性を有する抗炎症物質を使用することが望ましいこともあり、それに伴って広範な抗炎症治療が与えられる。シロタモギタケ抽出物と相乗的な抗炎症作用をもたらす物質を使用することもできる。適当な抗炎症物質には、局所に使用する時に有効であると当業者に知られているいかなるものも、含めることができる。これには、他のキノコ抽出物、すなわちシロタモギタケとは異なる種から得られるもの、または本明細書の記載と異なる抽出方法で得られるシロタモギタケの抽出物がある。局所適用時に抗炎症性を有することが知られている、または報告されているキノコの例としては、エブリコ(Fomitopsis officinalis (別名Agaricon))、シナトウチュウカソウ(冬虫夏草)(Cordyceps sinensis)、カバノアナタケ(Inonotus obliquus (別名Chaga))、メシマコブ(Phellinus linteus (別名Mesima))、カンバタケ(Piptoporus betulinus (別名Birch Polypore))、ヒメマツタケ(Agaricus blazei)、キヌガサタケ(Dictyophora indusiata)およびキクラゲ(Auricularia auricular-judae)がある。
【0055】
本発明はさらに、炎症促進物質を含んでいてもよい。炎症促進物質を使用して、シロタモギタケ抽出物によって引き起こされる、LTB4の仲介する走化性またはIL−1βの仲介する接着の減少率(%)を操作することができる。たとえば、血中好中球に対する化学誘引物質であるような物質(炎症促進性)をシロタモギタケ抽出物と併せて使用して、炎症部位に動員される好中球の数をより細かく調整することができるであろう。適当な炎症促進物質には、局所に使用する時に有効であると当業者に知られているいかなるものも、含めることができる。これにはキノコ抽出物が含まれる。炎症促進性を有すると報告されたキノコ抽出物の一例は、マンネンタケ(Ganoderma lucidum (別名霊芝、Ling-Zhi))の熱水抽出物である。マンネンタケの熱水抽出物中に存在する特異的な多糖は、好中球に対する強い化学誘引物質、および好中球アポトーシスの効果的な阻害物質であると判明している。(”Signaling Mechanisms Of Enhanced Neutrophil Phagocytosis And Chemotaxis By The Polysaccharide Purified From Ganoderma Lucidum”、Hsuら、British Journal of Pharmacology, 2003, 139, p. 289-298を参照されたい)。他では、たとえ局所的に使用される場合でも、マンネンタケは抗炎症性を有すると報告されているが(たとえば、Botanicals: A Phytocosmetic Desk Reference, Frank S. D’Amelio, Sr., 1999, p. 181を参照されたい)、上記研究が熱水抽出物を、走化性を高めることによる炎症促進性であると最終的に確認していることに注目している。
【0056】
以下の実施例は、シロタモギタケの抗炎症性の利点を、さまざまな種類の天然抽出物を含めることによって微調整する(強めるもしくは弱める)ことができることを実証する。
【実施例7】
【0057】
3つの組み合わせの、LTB4に対する好中球走化性抑制効果
活性物質の3つの組み合わせについて、LTB4に対する好中球走化性を抑制する能力を調べた。3つの組み合わせはすべてシロタモギタケ抽出物を含む。3つのサンプルの成分を表8に示す。この実験における陽性対照は0.5%濃度のカフェインである。結果を表9に示す。
【表8】

【表9】

【実施例8】
【0058】
活性物質の3つの組み合わせのIL−1β仲介接着抑制効果
実施例7と同じ活性物質の3つの組み合わせについて、IL−1βが仲介する好中球の接着を抑制する能力をテストした。この実験における陽性対照は1.0%濃度のカフェインである。結果を下記に示す。
【表10】

【0059】
実施例7および8に関する考察
表9を参照すると、活性物質の3つの組み合わせはすべて、LTB4に対する好中球の走化性を減少させるのに有効である。しかしながら、サンプル2においてシナトウチュウカソウおよびマンネンタケがともに存在することは、シロタモギタケ単独よりもすぐれた走化性抑制活性を与えると思われる。初めは、マンネンタケが上記で炎症促進性であると報告されていたことを考えると、これは驚くべきことと思われるかもしれない。しかしながら、本発明者らはやはり上記で、マンネンタケの熱水抽出物が好中球に対する強力な化学誘引物質であることに注目した。それゆえに、いかなる理論にも拘束されるものではないが、マンネンタケ抽出物はBoydenチャンバーにおいて、好中球についてLTB4と競合する可能性がある。この場合には、それによりLTB4の拮抗または抑制のためではなく、好中球が第2の化学誘引物質に曝露されたために、Boydenチャンバー内でLTB4に向かって遊走する好中球が少なくなる。
【0060】
表10を参照すると、シナトウチュウカソウおよびマンネンタケの存在は、シロタモギタケによって与えられる接着抑制効果を弱めるように思われる。やはり、マンネンタケは最近報告されたように炎症促進性で、今回は接着促進性であるのかもしれない。
【0061】
テストサンプル1の他の成分について、カミメボウキ(ホーリーバジル)(ocimum sanctum)葉抽出物は、既報の多くの性質があり、一般に抗炎症性とされている。オオアザミ(silybum marianum)抽出物は、一般に抗炎症性とされ、ウコン根抽出物は広く抗炎症性とされている。ショウガは、抗炎症性または炎症促進性を有すると報告されており、おそらく使用法に依存する。多くの医薬用途がある。一面では、ショウガは、局所適用されると、血流を増加させて暖かくなる感覚を生じる、血管拡張作用を有することが知られており、炎症促進性とみなされる。あるいはまた、ショウガは関節炎の痛みを軽減するために局所に用いられ、抗炎症性とみなされる。局所に使用された場合、毛包を刺激することも報告されている。
【0062】
このように、使用される抗炎症物質および炎症促進物質の相対的な量に応じて、シロタモギタケ抽出物を含んでなる組成物は、強い抗炎症性、強い炎症促進性、またはそれぞれについて中程度もしくは弱い性質であるとすることができる。いずれの場合にも、本発明は、組成物の使用においてシロタモギタケ抽出物が少なくともある程度の抗炎症性活性を引き起こすことだけを必要とする。言い換えると、組成物中の他の物質は、シロタモギタケ抽出物の抗炎症性活性を完全には弱めないと思われる。したがって、シロタモギタケ抽出物の好ましい局所適用組成物は、全体として、抗炎症性である。
【0063】
利用者に独特で快い感覚上の経験を与えるために、化粧品および医薬品として許容される広範な材料を有利に用いて組成物の物理的特性を維持もしくは変更することができる。たとえば、本発明の精神から逸脱することなしに、有効量の1または複数の下記物質を包含することができる:研磨剤、吸収剤、凝固防止剤、消泡剤、抗真菌剤、抗菌剤、抗酸化剤、結合剤、殺生物剤、緩衝剤、充填剤、着色剤、防錆剤、脱臭剤、皮膜形成剤、芳香剤、湿潤剤、乳白剤、酸化剤、pH調整剤、可塑剤、防腐剤、噴射剤、還元剤、滑り改良剤(slip modifier)、溶媒、安定剤、界面活性剤、粘度調整剤。さらに、化粧品および医薬品として許容される広範な材料および活性物質を用いて、皮膚に利益をもたらすことができる。これらには、有効量の1または複数の下記物質が含まれる:研磨剤、吸収剤、ニキビ抑制物質、抗加齢物質、抗真菌剤、抗炎症剤、抗菌剤、抗酸化剤、制汗剤、収斂剤、殺生物剤、化学角質剥離剤、洗剤、脱臭剤、除毛剤、脱毛剤、外用鎮痛薬、湿潤剤、メイクアップリムーバー、皮膚脱色剤、皮膚コンディショニング剤、皮膚保護剤、日焼け止め剤、日焼け剤、および紫外線吸収剤。局所適用に適した、ほとんどいかなる化粧品、皮膚薬もしくは医薬品も、本発明の範囲に含まれており、唯一要求されるのは、全体としての組成物が、LTB4に対する走化性抑制剤および接着抑制剤として有効に機能すべきことである。
【0064】
本発明の組成物で治療することができる、皮膚の炎症性疾患、または炎症部分を有する疾患には、下記のものがある:座瘡、光線性角化症、血管腫、水虫、水性掻痒症、アトピー性皮膚炎、禿頭症、基底細胞癌、褥瘡、ベーチェット病、眼瞼炎、せつ、ボーエン病、水疱性類天疱瘡、アフタ性口内炎、よう(癰)、蜂窩織炎、塩素座瘡、手足の慢性皮膚炎、発汗異常症、ヘルペス、接触皮膚炎、皮膚爬行症、皮膚炎、疱疹状皮膚炎、皮膚線維腫、湿疹、表皮水疱症、丹毒、紅皮症、摩擦水疱、陰部疣贅、汗腺膿瘍、蕁麻疹、多汗症、魚鱗癬、膿痂疹、いんきんたむし、カポジ肉腫、ケロイド、角化棘細胞腫、毛孔性角化症、シラミ感染症、扁平苔癬、慢性単純性苔癬、脂肪腫、リンパ節炎、悪性黒色腫、肝斑、汗疹、伝染性軟属腫、貨幣状皮膚炎、乳頭のパジェット病、シラミ寄生症、天疱瘡、口囲皮膚炎、光アレルギー、光過敏、バラ色粃糠疹、毛孔性紅色粃糠疹、乾癬、レイノー病、白癬、酒さ、疥癬、強皮症、皮脂嚢腫、脂漏性角化症、脂漏性皮膚炎、帯状疱疹、皮膚癌、糸状線維腫、クモ状静脈、扁平上皮細胞癌、鬱滞性皮膚炎、ダニ咬傷、白癬性毛瘡、頭部白癬、体部白癬、股部白癬、足白癬、爪白癬、癜風、白癬、スナノミ症、白斑、および疣贅。
【0065】
本発明の組成物は、局所に使用される際に適しており、有効である。皮膚はほとんどいつも環境からの攻撃を受けているため、持続性の炎症に起因する加齢の兆候は、長期間にわたる定期的な適用によって、もっともよく対処される。たとえば、持続性炎症に起因する加齢の兆候を予防、緩和または回復するために、皮膚は、少なくとも週三回、好ましくは毎日、もっとも好ましくは一日二回、処置を受けるべきである。好ましくは、いかなる日にも、もっとも過酷な皮膚炎症性因子への曝露より前に、処置が施される。ほとんどの人にとって、これは就寝の直前であるとおもわれ、就寝中に皮膚は、外部因子からの攻撃をもっとも受けにくい。大部分の人にとって、これは、家を出る前の朝のうちであるかもしれない。炎症性因子への曝露より前に皮膚を処置することによって、著しく進行する前に、炎症過程を妨げることができる。本発明の組成物を就寝直前に適用することも有利であるはずである。体が静止して休んでいるので、外部因子からの攻撃をもっとも受けにくく、皮膚の修復にもっともよく影響を与えることができる。したがって、本発明の組成物を就寝直前に適用することによって、シロタモギタケ抽出物により与えられる利益が高められるであろう。この場合、さまざまな環境因子への曝露の炎症促進作用に対処するために処置を利用する。本発明の組成物は、保護が望ましい皮膚の部位に、または加齢の兆候がすでに目に見える皮膚の部位に、適用されるべきである。組成物は、標的部位に塗り広げ、十分な期間、たとえば、少なくとも5分間、好ましくは1時間まで、もっとも好ましくは1時間を超えて、皮膚にとどまるようにしておくことができる。十分な期間は、抽出物の活性成分が皮膚の最外層に浸透するのを可能にするために必要である。このため、水またはアルコールで皮膚を洗うこと、またはそうでなくても処置した皮膚を洗浄することは、その期間のあいだ避けるべきである。塗布する製品の量は、好ましくは少なくとも約0.2mg/cmである。より好ましくは、所定の個人の塗布量は試行錯誤によって達成されうる。本発明の組成物を使用した後、使用者は、観察された結果に基づいて組成物の塗布量を調整することができる。
【0066】
本明細書に記載のシロタモギタケエタノール抽出物は、化粧品としてまたは皮膚科学上許容される、局所適用を目的とするいかなる基剤にも組み入れることができる。抽出物のアルコール性を考慮すると、こうした組み込みは、化粧品科学および皮膚科学の一般的に知られている方法によって影響を受けることが考えられる。この種の方法は、一般に、たとえば、Poucher’s Perfumes, Cosmetics and Soaps(第3巻、第9版、Chapman & Hall)またはRemington’s Pharmaceutical Sciences(第18版、Mack Publishing)に記載されている。
【0067】
本明細書に記載の組成物は、持続性炎症の影響を、治療、抑制、予防または回復する効果があり、同じく、加齢した皮膚の目に見える兆候、特にしわを、治療、抑制、予防または回復する効果もある。記載された局所適用組成物は、LTB4に対する走化性抑制剤として有効に機能するが、アラキドン酸カスケードを直接的に妨げることはない。この組成物はまた、IL−1βに対する接着抑制剤として有効に機能する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗炎症に有効な量のシロタモギタケ(Hypsizygus ulmarius)エタノール抽出物を含んでなる、抗炎症に特異の局所適用組成物。
【請求項2】
抗炎症効果がLTB4の仲介する走化性の抑制を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
抗炎症効果がIL−1βの仲介する接着の抑制を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
シロタモギタケ抽出物が、全組成の少なくとも0.1%(w/v)濃度の34%エタノール抽出物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
シロタモギタケ抽出物の濃度が、全組成の少なくとも1.0%(w/v)である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
シロタモギタケ抽出物の濃度が、全組成の少なくとも20.0%(w/v)である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
抽出物が、菌糸体抽出物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
マンネンタケ(Ganoderma lucidum)抽出物、および/またはシナトウチュウカソウ(Cordyceps sinensis)抽出物をさらに含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
カミメボウキ(ocimum sanctum)葉抽出物、オオアザミ(silybum marianum)果実抽出物、ショウガ根抽出物、およびウコン根抽出物のうち1または複数をさらに含んでなる、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
シロタモギタケ抽出物が、全組成の少なくとも約0.1%(w/v)濃度の34%エタノール抽出物である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1に記載の組成物を、炎症を起こした皮膚に塗布するステップを含んでなる、持続性皮膚炎を治療する方法。
【請求項12】
請求項1に記載の組成物を、目に見えて加齢した皮膚に塗布することを含んでなる、皮膚の加齢の目に見える兆候を処置する方法。
【請求項13】
処置の目的が、1または複数の、皮膚の加齢の目に見える兆候を、予防、緩和または回復することである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
加齢の目に見える兆候が皮膚のしわを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
組成物を少なくとも週に3回皮膚に塗布する、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
組成物を毎日皮膚に塗布する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
組成物を少なくとも1日2回皮膚に塗布する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
組成物を起床直後に皮膚に塗布する、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
組成物を就寝直前に皮膚に塗布する、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
請求項9に記載の組成物を、炎症を起こした皮膚に塗布するステップを含んでなる、持続性皮膚炎を治療する方法。

【公表番号】特表2009−510104(P2009−510104A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−533683(P2008−533683)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【国際出願番号】PCT/US2006/038116
【国際公開番号】WO2007/041327
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(598100128)イーエルシー マネージメント エルエルシー (112)
【Fターム(参考)】