シートクッションエアバッグ装置
【課題】エアバッグがシートフレームの支持部に接触するのを簡単な設計で抑制する。
【解決手段】シートクッションエアバッグ装置は、座クッション17がシートフレーム11の支持部Aにより下側から支持されてなる座部10を有する車両用シートSに適用される。同エアバッグ装置は、インフレータ41からの膨張用ガスにより、支持部A及び座クッション17間でエアバッグ50の少なくとも一部を膨張させて座部10の座面10Aを隆起させ、座部10上の乗員Pの前方への移動を拘束する。エアバッグ50において、同エアバッグ50が膨張したときに支持部A側となる面には、可撓性を有し、かつエアバッグ50の支持部Aとの接触を抑制するための接触抑制部材90が設けられている。
【解決手段】シートクッションエアバッグ装置は、座クッション17がシートフレーム11の支持部Aにより下側から支持されてなる座部10を有する車両用シートSに適用される。同エアバッグ装置は、インフレータ41からの膨張用ガスにより、支持部A及び座クッション17間でエアバッグ50の少なくとも一部を膨張させて座部10の座面10Aを隆起させ、座部10上の乗員Pの前方への移動を拘束する。エアバッグ50において、同エアバッグ50が膨張したときに支持部A側となる面には、可撓性を有し、かつエアバッグ50の支持部Aとの接触を抑制するための接触抑制部材90が設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートの座部内に配置されたエアバッグを膨張用ガス等の膨張流体により膨張させて座面を隆起させ、座部に着座している乗員等の被拘束対象物が前方へ移動するのを拘束するようにしたシートクッションエアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両では、前突等により同車両に前方から衝撃が加わった場合、シートベルト装置によって車両用シートに拘束された乗員の腰部が、ラップベルト部から外れて前方へ移動してしまう現象(サブマリン現象)が問題となる。そこで、このサブマリン現象を抑制するために種々の対策が講じられたり提案されたりしている。
【0003】
例えば、特許文献1には、座クッションをシートフレームの支持部によって下側から支持してなる座部を有する車両用シートに適用されるシートクッションエアバッグ装置が記載されている。支持部は、座クッションを下側から弾性支持するばね部材、そのばね部材が掛け止められる係止爪等からなる。
【0004】
上記シートクッションエアバッグ装置は、上面を開口した収容ケース(基部)を、シートフレームの上記支持部よりも前側に備えている。この収容ケース(基部)内には、膨張流体発生源(インフレータ)が配置されている。また、膨張流体発生源(インフレータ)から供給される膨張流体(高圧ガス)により膨張するエアバッグが折り畳まれた状態で上記収容ケース(基部)内に配置されている。さらに、収容ケース(基部)の上端部には接触抑制部材(接触阻止部材)が回動可能に支持されている。この接触抑制部材(接触阻止部材)は、車両に前方から衝撃が加わらずシートクッションエアバッグ装置が作動しないときには、収容ケース(基部)の上端開口を閉塞している。なお、括弧内の語句は、特許文献1で使用されている用語である。
【0005】
上記シートクッションエアバッグ装置によれば、前突等により車両に前方から衝撃が加わると、膨張流体発生源(インフレータ)から膨張流体(高圧ガス)がエアバッグに供給され、同エアバッグが折り状態を解消しながら(展開しながら)膨張する。この展開を伴い上方へ膨張するエアバッグにより、接触抑制部材(接触阻止部材)が上方へ押される。この押圧により接触抑制部材(接触阻止部材)は、後方へ回動し、支持部の前部上に重なる。エアバッグは、接触抑制部材(接触阻止部材)及び支持部と、座クッションとの間で、後方へ展開しながら膨張する。このエアバッグによって座クッションが押上げられて座面が隆起させられ、座部上の乗員の前方への移動を拘束される。このとき、エアバッグとシートフレームの支持部との接触が接触抑制部材(接触阻止部材)によって抑制され、エアバッグが支持部との接触により傷付けられることが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−238016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、接触抑制部材(接触阻止部材)がシートフレーム側に設けられている特許文献1では、折り畳まれて収容されているエアバッグが展開しながら膨張する期間中、どの段階でも支持部に接触しないように、エアバッグの展開距離等を考慮して接触抑制部材(接触阻止部材)を配置しなければならない。そのため、接触抑制部材(接触阻止部材)の設計がしづらい。こうした問題は、エアバッグが収容ケース(基部)から後方へ遠く離れた箇所まで展開するものほど、すなわち、前後方向に長く、容量の多いものほど顕著となる。接触抑制部材(接触阻止部材)は支持部と座クッションとの間で回動しなければならず、この接触抑制部材(接触阻止部材)を大きくするにも限度があるからである。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、エアバッグがシートフレームの支持部に接触するのを簡単な設計で抑制することのできるシートクッションエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、座クッションがシートフレームの支持部により下側から支持されてなる座部を有する車両用シートに適用されるものであり、膨張流体発生源からの膨張流体により、前記支持部及び前記座クッション間でエアバッグの少なくとも一部を膨張させて前記座部の座面を隆起させ、前記座部上の被拘束対象物の前方への移動を拘束するようにしたシートクッションエアバッグ装置において、前記エアバッグについて、同エアバッグが膨張したときに前記支持部側となる面には、可撓性を有し、かつ前記エアバッグの前記支持部との接触を抑制するための接触抑制部材が設けられていることを要旨とする。
【0010】
上記の構成によれば、膨張流体発生源で発生した膨張流体がエアバッグに供給されると、その膨張流体によりエアバッグの少なくとも一部が、シートフレームの支持部と座クッションとの間で膨張する。この膨張により、座部の座面が隆起させられ、座部上の被拘束対象物の前方への移動が抑制される。なお、エアバッグに設けられた接触抑制部材は、そのエアバッグの膨張の阻害要因となり得る。しかし、接触抑制部材は可撓性を有しているため、エアバッグの膨張に追従して撓む。そのため、接触抑制部材がエアバッグの膨張を妨げる程度は小さくてすむ。
【0011】
上記接触抑制部材は、エアバッグにおいて、同エアバッグが膨張したときに支持部側となる面に設けられていることから、エアバッグの膨張期間中、どの段階でもエアバッグと支持部との間に介在する。この接触抑制部材により、少なくともエアバッグが膨張している期間には、エアバッグが支持部に接触することが抑制される。
【0012】
このように、エアバッグにおいて、同エアバッグが膨張したときに少なくとも支持部側となる面に接触抑制部材が設けられる請求項1に記載の発明では、結果的に、エアバッグの展開距離等を考慮して接触抑制部材を配置した場合と同様の効果(エアバッグの支持部との接触抑制)が得られる。従って、エアバッグの配置や設計とは別に、エアバッグの展開距離等を考慮した接触抑制部材の配置や設計をしなくてもよくなり、設計が容易となる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記エアバッグは、前記膨張流体発生源から前記膨張流体が供給されて膨張する膨張部と、同膨張流体が供給されず膨張しない非膨張部とを備えており、前記接触抑制部材は前記エアバッグの前記非膨張部に固定されていることを要旨とする。
【0014】
ここで、エアバッグにおいて、接触抑制部材が固定される箇所は、固定されない箇所よりも硬くなる。そのため、接触抑制部材の固定箇所では、エアバッグが撓みにくくなる。この点、請求項2に記載の発明では、接触抑制部材がエアバッグのうち、膨張に関与しない非膨張部に固定されていて、膨張部には固定されていない。そのため、接触抑制部材の固定箇所が、エアバッグの膨張部の撓みやすさに影響を及ぼしにくく、同膨張部の膨張が阻害されにくい。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記接触抑制部材は1枚のシートからなり、前記シートは、前記エアバッグの互いに離間した複数の箇所に固定されていることを要旨とする。
【0016】
接触抑制部材が1枚のシートからなる場合、その全面において接触抑制部材をエアバッグに固定することも考えられる。しかし、接触抑制部材とエアバッグとの固定に関わる面積が大きくなるに従い、エアバッグの膨張が妨げられる。この点、請求項3に記載の発明によるように、1枚のシートからなる接触抑制部材がエアバッグの互いに離間した複数箇所においてエアバッグに固定されることで、接触抑制部材とエアバッグとの固定に関わる面積が小さくなり、接触抑制部材がエアバッグの膨張を妨げる程度が小さくなる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1つに記載の発明において、前記接触抑制部材の少なくとも前記エアバッグ側がフェルトにより形成されていることを要旨とする。
【0018】
ここで、フェルトは繊維自体を絡ませて布状にしたものであって、可撓性に富む繊維製品である。
上記請求項4に記載の発明の構成によれば、エアバッグと支持部との間に介在する接触抑制部材では、少なくともエアバッグ側がフェルトによって形成されている。このフェルトは、エアバッグを構成する布ほどではないにせよ、樹脂シート等よりも可撓性に富む。そのため、接触抑制部材の少なくともエアバッグ側がこのフェルトによって形成されることで、同接触抑制部材の可撓性が確保され、接触抑制部材がエアバッグの膨張に追従して撓みやすい。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1つに記載の発明において、前記接触抑制部材の少なくとも前記支持部側は軟質の樹脂シートにより形成されていることを要旨とする。
【0020】
上記の構成によれば、エアバッグと支持部との間に介在する接触抑制部材では、少なくとも支持部側が軟質の樹脂シートによって形成されている。この樹脂シートは、一般に、フェルト等よりも高い強度を有する。そのため、この軟質の樹脂シートにおいて接触抑制部材が支持部と接触することで、少なくともエアバッグが膨張している期間には、エアバッグが支持部に接触することが確実に抑制される。
【0021】
また、軟質の樹脂シートは可撓性を有するため、エアバッグの膨張に追従して撓む。そのため、接触抑制部材がエアバッグの膨張を妨げる程度は小さくてすむ。
請求項6に記載の発明は、請求項4又は5に記載の発明において、前記接触抑制部材は、前記エアバッグに対し熱溶着されていることを要旨とする。
【0022】
接触抑制部材は、請求項6に記載の発明によるように、エアバッグに対し熱溶着されてもよい。この場合、接触抑制部材が加熱されて、圧力を加えられることにより、同接触抑制部材の一部が溶けてエアバッグに強固に接合される。
【0023】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1つに記載の発明において、前記エアバッグは、前記膨張流体を充填されることなく展開させられた状態で前記支持部及び前記座クッション間に配置されており、前記接触抑制部材は、前記エアバッグの前記支持部側となる面に設けられていることを要旨とする。
【0024】
上記の構成によれば、エアバッグの非膨張時にも、そのエアバッグと支持部との間に接触抑制部材が介在する。そのため、このときにも、エアバッグが支持部に接触することが抑制される。
【発明の効果】
【0025】
本発明のシートクッションエアバッグ装置によれば、エアバッグがシートフレームの支持部に接触するのを簡単な設計で抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明を具体化した一実施形態において、シートクッションエアバッグ装置が適用された車両用シートを、乗員及びシートベルト装置とともに示す断面図。
【図2】車両用シート及びシートベルト装置の一部を示す斜視図。
【図3】車両用シートにおけるシートフレーム及び収容ケースを示す部分斜視図。
【図4】図1におけるX部を拡大して示す部分断面図。
【図5】インフレータアセンブリが取付けられる前のエアバッグの平面図。
【図6】インフレータアセンブリが取付けられた状態のエアバッグモジュールの底面図。
【図7】図5のエアバッグの平断面図。
【図8】(A)は平面状に展開させられたエアバッグ本体を示す平面図、(B)は(A)のD−D線断面図。
【図9】(A)は平面状に展開させられたインナバッグがエアバッグ本体に結合された状態を示す平面図、(B)は(A)のE−E線断面図。
【図10】(A)は図5のA−A線断面図、(B)は(A)を分断し、かつ拡大して示す断面図。
【図11】図5のB−B線断面図。
【図12】図6のC−C線断面図。
【図13】図12を分断し、かつ拡大して示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を具体化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
なお、以下の説明では、車両の前進方向を前方と記載し、それを基準に前、後、上、下、左、右を規定している。また、各図において、「前」は車両前側を、「後」は車両後側を、「内」は車両内側を、「外」は車両外側をそれぞれ示している。車両内側は、車両の幅方向についての中央位置に近づく側であり、車両外側は上記中央位置から遠ざかる側である。
【0028】
まず、本実施形態のシートクッションエアバッグ装置が適用される車両用シートの概略構成について説明する。
図1及び図2の少なくとも一方に示すように、車両用シートSは、座部(シートクッション)10と、座部10の後端側に傾き調整可能に配置された背もたれ部(シートバック)21と、背もたれ部21の上側に配置されたヘッドレスト22とを備えて構成されている。
【0029】
座部10は、シートクッションエアバッグ装置によって拘束される対象物(被拘束対象物)である乗員Pが着座する箇所である。図3に示すように、座部10の骨格部分をなすシートフレーム11は、左右一対のサイドフレーム部12、前後一対の連結フレーム部13,14、及び複数本のワイヤフレーム部15、及び収容ケース16を備えて構成されている。左右の両サイドフレーム部12は、それぞれ前後方向に延びる板状をなしており、車幅方向(左右方向)に互いに離間した位置に配置されている。前後の両連結フレーム部13,14はそれぞれ車幅方向に延びる棒材により形成されており、前後方向に互いに離間した位置において、上記左右の両サイドフレーム部12間に架設されている。複数本のワイヤフレーム部15は、座り心地向上用の引っ張りばねとして機能するものであり、S字を連続させたような形状に屈曲形成されている。これらのワイヤフレーム部15は、車幅方向に互いに離間した位置に配置されており、前後の両連結フレーム部13,14間に張り渡されている。より詳しくは、連結フレーム部13,14には係止爪(図示略)が設けられており、この係止爪にワイヤフレーム部15が掛け止めされている。そして、これらのワイヤフレーム部15と係止爪とによって、後述する座クッション17を下側から支持する支持部Aが構成されている。
【0030】
収容ケース16は、連結フレーム部13の前側に隣接して配置されており、車幅方向に延びている。収容ケース16は、上面が開放された状態で車幅方向に延びる収容凹部16Aを有している。収容凹部16Aは、後述するエアバッグモジュールAMの前部が収容される箇所である。収容ケース16は、その車幅方向についての両端部において左右の両サイドフレーム部12に固定されている。
【0031】
図4に示すように、シートフレーム11上には座クッション17が配置されている。座クッション17は、布製、皮革製等のカバー18によって被覆されている。
車両には、車両用シートSに着座した乗員Pを拘束するためのシートベルト装置30が設けられている。
【0032】
図1及び図2の少なくとも一方に示すように、シートベルト装置30は、乗員Pを拘束する帯状のウェビング31と、ウェビング31に対しその長さ方向への移動可能に取付けられたタング32と、座部10の車内側に配置されてタング32が係脱可能に装着されるバックル33とを備えている。ウェビング31は、その一端部が、座部10の車外側に固定され、他端部が同車外側に配置されたベルト巻取り装置(図示略)により巻き取られる構成とされている。シートベルト装置30では、ウェビング31に対してタング32を摺動させることで、ラップベルト部34及びショルダベルト部35の各長さを変更可能である。
【0033】
ラップベルト部34は、ウェビング31において、タング32からウェビング31の端部(固定端)までの部分であり、着座した乗員Pの腰部PPの一側方から同腰部PPの前を経由して他側方に架け渡される。ショルダベルト部35は、ウェビング31において、タング32からベルト巻取り装置までの部分であり、着座した乗員Pの肩部PSから斜めに胸部PTの前を経由して腰部PPの側方に架け渡される。
【0034】
上記車両には、サブマリン現象を抑制するためのシートクッションエアバッグ装置(以下、単にエアバッグ装置という)が設けられている。サブマリン現象は、前突等により、車両に対し前方から衝撃が加わった場合に、シートベルト装置30によって車両用シートSに拘束されている乗員Pの腰部PPが、ラップベルト部34から外れて前方へ移動してしまう現象である。
【0035】
上記図4には、エアバッグ装置の概略構成が示されている。ただし、同図4では、細部についての図示が割愛されている。この図4に示すように、上記エアバッグ装置は、エアバッグモジュールAM、衝撃センサ95及び制御装置96を備えている。エアバッグモジュールAMは、インフレータアセンブリ40及びエアバッグ50を備えるとともに、このエアバッグ50が車両用シートSの上記支持部Aと接触するのを抑制する接触抑制部材90を備えている。次に、エアバッグモジュールAMを構成する各部について図5〜図13を参照して説明する。
【0036】
<インフレータアセンブリ40の構成>
図6及び図13の少なくとも一方に示すように、インフレータアセンブリ40は、膨張流体発生源としてのインフレータ41と、そのインフレータ41を覆うリテーナ42とを備えて構成されている。インフレータ41は略円柱状をなしており、その内部にはガス発生剤(図示略)が収容されている。このタイプ(パイロタイプ)のインフレータ41では、ガス発生剤の発熱を伴う化学反応によって膨張流体としての膨張用ガスが発生される。インフレータ41には、生成したガスを噴出するガス噴出口(図示略)が設けられている。インフレータ41の一方の端部には、同インフレータ41への制御信号の印加配線となるハーネス(図示略)が接続されている。
【0037】
なお、インフレータ41として、上記パイロタイプとは異なるタイプが用いられてもよい。こうしたタイプとしては、高圧ガスの充填された高圧ガスボンベの隔壁を火薬等によって破断して膨張用ガスを噴出させるストアードガスタイプや、パイロタイプとストアードガスタイプの両者を組み合わせた形態のハイブリッドタイプ等が挙げられる。
【0038】
一方、リテーナ42は、その大部分が金属板等の板材を曲げ加工等することによって幅方向(図6の上下方向)に細長い略筒状に形成されている。リテーナ42の下面において、幅方向に互いに離間した複数箇所には、下方へ向けて延びるボルト43が固定されている。
【0039】
なお、上記インフレータ41は、リテーナ42と一体に設けられた構成を有するものであってもよい。
<エアバッグ50の構成>
図4及び図12の少なくとも一方に示すように、エアバッグ50は、その外殻部分を構成し、かつ膨張により座部10の座面10Aを隆起させるためのエアバッグ本体51と、上記インフレータアセンブリ40を包み込んだ状態でエアバッグ本体51内に配置されたインナバッグ71とを備えて構成されている。
【0040】
<エアバッグ本体51の構成>
エアバッグ本体51の大部分は、図8(A),(B)に示すように、平面状に展開させられた状態で前後方向に細長い略矩形状の布(以下「基布52」という)によって構成されている。本実施形態では、この基布52が2枚用いられているが、この枚数に限定されるものではない。各基布52は、ポリエステル糸、ポリアミド糸等からなる織布によって形成されており、高い強度と可撓性とを有している。平面状に展開させられた状態の各基布52の後端部には、巻付け部53が一体に形成されている。この巻付け部53により、各基布52の形状が、前後方向については非対称となっている。
【0041】
平面状に展開させられた状態で上側に位置する基布52の前端部上には、幅方向(図8(A)の上下方向)に細長い補強布54が重ねられている。補強布54は、両基布52の前端部の強度を高めるために用いられている。補強布54は、本実施形態では2枚用いられているが、この枚数に限定されるものではない。両基布52及び両補強布54において、幅方向に互いに離間した複数箇所には、上記リテーナ42のボルト43を通すための挿通孔55があけられている。
【0042】
両補強布54及び両基布52において、全ての挿通孔55を取り囲む箇所には無端状結合部56が設けられている。この無端状結合部56の役割は、両補強布54を両基布52に結合するとともに、各挿通孔55の周りの部分を補強して、同部分が裂けるのを防止することである。無端状結合部56は、両補強布54を両基布52に対し縫糸で縫合することにより形成されている。
【0043】
無端状結合部56の上記結合の態様(縫糸を用いた縫合)は、他の結合部、例えば後述する上側円弧結合部63、下側円弧結合部64、周縁結合部65、環状結合部75,81、円環状結合部79、上側インナ結合部82及び下側インナ結合部83についても同様である。また、無端状結合部56の上記役割は、他の結合部、例えば後述する環状結合部75,81及び円環状結合部79についても同様である。
【0044】
本実施形態では、上記各種結合部(無端状結合部56、上側円弧結合部63、下側円弧結合部64、周縁結合部65、環状結合部75,81、円環状結合部79、上側インナ結合部82及び下側インナ結合部83)は、太い破線で図示されることで、通常の破線(隠れ線)と区別されている(図8(A)等参照)。
【0045】
また、平面状に展開させられた状態の基布52の巻付け部53において、同巻付け部53が巻付けられたときに上記挿通孔55に重なる箇所にも、ボルト43が通される貫通孔57があけられている。
【0046】
平面状に展開させられた状態の両基布52の長さ方向についての中央部分には、幅方向(図8(A)の上下方向)に延びる折り線58が設定されている。両基布52は、上記折り線58に沿って折り返されて上下方向に重ね合わされる。平面状に展開させられた状態の両基布52において、この折り線58よりも後側の部分と前側の部分とを区別するために、ここでは、前者を「上側本体布部51U」といい、後者を「下側本体布部51L」というものとする。
【0047】
上側本体布部51U上であって、折り線58寄りの箇所には、その折り線58に向けて円弧状に膨らむ上側円弧補強布61が重ねられている。また、下側本体布部51L上であって、同下側本体布部51Lが折り線58に沿って折り返されたときに上記上側円弧補強布61に重なる箇所にも、折り線58に向けて円弧状に膨らむ下側円弧補強布62が重ねられている。これらの円弧補強布61,62は、本実施形態では1枚ずつ用いられているが、複数枚用いられてもよい。上側円弧補強布61は、その上側円弧補強布61に沿う形状をなす上側円弧結合部63により上側本体布部51Uに結合されている。また、下側円弧補強布62は、その下側円弧補強布62に沿う形状をなす下側円弧結合部64により下側本体布部51Lに結合されている。
【0048】
図5、図7、図11及び図12の少なくとも1つに示すように、平面状に展開させられた状態の上記基布52が上記折り線58に沿って折り返されて、互いに上下方向に重ね合わされた上側本体布部51U及び下側本体布部51Lは、周縁結合部65によって互いに結合されている。この周縁結合部65は、一対の第1周縁結合部66、第2周縁結合部67、及び一対の第3周縁結合部68からなる。
【0049】
両第1周縁結合部66は、互いに幅方向(図5、図7の各上下方向)に離間した状態で前後方向に延びている。第2周縁結合部67は、上記上側円弧結合部63及び下側円弧結合部64に沿って後方へ膨らむ円弧状をなしており、上から下へ順に重ねられた上側本体布部51U、上側円弧補強布61、下側円弧補強布62及び下側本体布部51Lを一体で結合している。第2周縁結合部67の両端部は、上記両第1周縁結合部66の後端部に繋がっている。
【0050】
なお、第2周縁結合部67は、円弧状とは異なる形状、例えば直線状に形成されてもよい。また、本実施形態では、下側本体布部51L及び上側本体布部51Uが折り線58部分で繋がって一体となっているため、第2周縁結合部67は適宜割愛可能である。
【0051】
各第3周縁結合部68は、各第1周縁結合部66の前端部から対向する第1周縁結合部66の前端部へ向けて延びている。
本実施形態では、周縁結合部65の断面を示すにあたり、エアバッグ50の内部構造を示すために、上側円弧補強布61及び下側円弧補強布62間で周縁結合部65を通る面を断面とする場合には、同周縁結合部65での縫糸を、点を一定間隔おきに並べてなる線種(破線の一種)によって表現している(図7参照)。
【0052】
エアバッグ本体51は、上側本体布部51U及び下側本体布部51Lが上記のように周縁結合部65によって結合されることで形成されている。上側本体布部51U及び下側本体布部51Lの前端部は周縁結合部65によって結合されておらず、上側本体布部51U及び下側本体布部51L間であって、両第3周縁結合部68によって挟まれた箇所が開口69(図5参照)となっている。この開口69は、エアバッグ本体51内の前部に配置されるインフレータアセンブリ40のハーネスをエアバッグ本体51の外部へ引出す等のために必要なものである。
【0053】
図4に示すように、上記エアバッグ本体51は、平面状に展開させられた状態で、座クッション17とシートフレーム11との間に配置されている。このエアバッグ本体51の前端部51Fは、座部10の前部(乗員Pの膝部PN)の下方に位置している。この点で、エアバッグ本体51は、一般的なシートクッションエアバッグ装置におけるエアバッグ本体と同様である。また、一般的なシートクッションエアバッグ装置におけるエアバッグ本体の後端部が座部10の前後方向についての中央部付近に位置するのに対し、本実施形態のエアバッグ本体51の後端部51Rは、座部10の後部(乗員Pの臀部PB)の下方に位置している。このように、後端部51Rが座部10の後部に位置することに伴い、エアバッグ本体51ひいてはエアバッグ50が前後に長く、容量の多いものとなっている。
【0054】
<インナバッグ71の構成>
図9(A),(B)に示すように、インナバッグ71の大部分は、略矩形状をなす布(以下「基布72」という)によって構成されている。本実施形態では、この基布72が2枚用いられているが、この枚数に限定されるものではない。各基布72は、エアバッグ本体51と同様の素材からなる織布によって形成されており、高い強度と可撓性とを有している。平面状に展開させられた状態の各基布72の後端部には、巻付け部73が一体に形成されている。この巻付け部73は、エアバッグ本体51の上記巻付け部53と略同一の形状及び大きさを有している。この巻付け部73により、各基布72の形状は、前後方向については非対称となっている。
【0055】
各基布72の前端部であって、幅方向(図9(A)の上下方向)に互いに離間した複数箇所には、上記リテーナ42のボルト43を通すための挿通孔74があけられている。両基布72において、全ての挿通孔74を取り囲む箇所には環状結合部75が設けられている。
【0056】
また、巻付け部73の幅方向に互いに離間した複数箇所には、上記ボルト43を通すための貫通孔76があけられている。隣合う挿通孔74間の間隔、及び隣合う貫通孔76間の間隔は、隣合うボルト43間の間隔と同じである。
【0057】
平面状に展開させられた状態の両基布72の長さ方向についての中央部分には、幅方向に延びる折り線77が設定されている。両基布72は、上記折り線77に沿って折り返されて上下方向に重ね合わされる。平面状に展開させられた状態の両基布72において、この折り線77よりも後側の部分と、前側の部分とを区別するために、ここでは、前者を「上側インナ布部71U」といい、後者を「下側インナ布部71L」というものとする。
【0058】
インナバッグ71の折り線77上には、その折り線77に沿って折り返されたインナバッグ71の内外を連通させ、かつ上記インフレータ41から噴出された膨張用ガスを、後述する第2チャンバ86内の定められた方向(後方)へ向けて放出する放出孔78が設けられている。本実施形態では、この放出孔78が一対設けられているが、この数に限定されるものではない。全ての放出孔78を通過できる膨張用ガスの単位時間当たりの流通量は、インフレータ41から単位時間当たりに噴出される膨張用ガスの量よりも少なく設定されている。両基布72において、各放出孔78の周りには円環状結合部79が設けられている。
【0059】
<インナバッグ71の取付け態様>
インナバッグ71の両巻付け部73は、その貫通孔76を前記貫通孔57に合致させた状態でエアバッグ本体51の両巻付け部53上に重ねられている。そして、エアバッグ本体51の両巻付け部53と、インナバッグ71の両巻付け部73とにおいて、全ての貫通孔57,76を取り囲む箇所には環状結合部81が設けられている。
【0060】
両上側インナ布部71Uは、折り線77から僅かに離れた箇所において幅方向に延びる上側インナ結合部82によって両上側本体布部51Uに結合されている。また、両下側インナ布部71Lは、折り線77から僅かに離れた箇所において幅方向に延びる下側インナ結合部83によって下側本体布部51Lに結合されている。
【0061】
上記エアバッグ本体51の基布52が折り線58に沿って折り返されて、上側本体布部51U及び下側本体布部51Lが互いに上下方向に重ね合わされていることについては、上述した通りである。このエアバッグ本体51の基布52の折り返しに伴い、図10(A),(B)に示すように、インナバッグ71もまた折り線77に沿って折り返されている。この折り返しにより、上側インナ布部71U及び下側インナ布部71Lが、上記上側本体布部51U及び下側本体布部51L間において互いに上下に重ね合わされている。この状態では、インナバッグ71は、エアバッグ本体51の長さ方向についての中央部よりも前側部分に位置している。
【0062】
そして、上側インナ布部71U及び下側インナ布部71Lは、図5及び図11の少なくとも一方に示すように、上述した周縁結合部65の一部によって、上記上側本体布部51U及び下側本体布部51Lに結合(共縫い)されている。より詳しくは、上側インナ布部71U及び下側インナ布部71Lの幅方向(図5の上下方向)についての両側部は、両第1周縁結合部66によって上側本体布部51U及び下側本体布部51Lに結合(共縫い)されている。また、上側インナ布部71U及び下側インナ布部71Lの前側の両角部は、両第3周縁結合部68によって上側本体布部51U及び下側本体布部51Lに結合(共縫い)されている。
【0063】
このように、エアバッグ本体51の上側本体布部51U及び下側本体布部51Lを相互に結合させるための周縁結合部65の一部(第1周縁結合部66及び第3周縁結合部68)が、インナバッグ71の幅方向についての両側部をエアバッグ本体51に結合させる結合部として機能している。表現を変えると、周縁結合部65の一部が、インナバッグ71の幅方向についての両側部をエアバッグ本体51に結合させるための結合部を兼ねている。そのため、上側本体布部51U及び下側本体布部51Lを相互に結合させる際に、インナバッグ71の幅方向についての両側部が一緒に結合される。
【0064】
図7に示すように、インナバッグ71では、両第1周縁結合部66及び両第3周縁結合部68によって囲まれた箇所が、膨張用ガスによって膨張する箇所となる。また、上側インナ布部71U及び下側インナ布部71Lの前端部は周縁結合部65によって結合されておらず、上側インナ布部71U及び下側インナ布部71L間において、両第3周縁結合部68によって挟まれた箇所は開口84となっている。この開口84は、インナバッグ71内に配置されるインフレータアセンブリ40のハーネスをインナバッグ71の外部へ引出す等のために必要なものである。
【0065】
上記のように、エアバッグ本体51にインナバッグ71が結合されたエアバッグ50では、周縁結合部65によって囲まれた箇所が、インフレータ41から膨張用ガスが供給されて膨張する膨張部Cとなっている。この膨張部Cは、図7及び図12の少なくとも一方に示すように、インナバッグ71の後述するテザー87により、インフレータ41の配置されている側のチャンバ(第1チャンバ85)と、配置されていない側のチャンバ(第2チャンバ86)とに区画されている。また、エアバッグ50において周縁結合部65よりも外側となる箇所は、膨張用ガスが供給されず膨張しない非膨張部Dとなっている(図11参照)。
【0066】
また、このエアバッグ50では、インナバッグ71において、上側インナ結合部82と下側インナ結合部83とによって上下方向に挟まれた箇所が、エアバッグ本体51の上下方向の膨張厚みを規制するテザー87を構成している。このテザー87の前後方向についての位置は、第1チャンバ85及び第2チャンバ86の容量を決定する一要素であり、本実施形態では、第1チャンバ85の容量が第2チャンバ86の容量よりも少なくなる位置に設定されている。この位置は、エアバッグ本体51の前後方向についての中央部よりも前側となる。
【0067】
<接触抑制部材90の構成について>
図4及び図6の少なくとも一方に示すように、接触抑制部材90は、上述したように、布からなるエアバッグ50(エアバッグ本体51)が、車両用シートSの支持部Aと接触するのを抑制するためのものである。接触抑制部材90は、支持部Aのなかでも、特に、ワイヤフレーム部15の係止爪との掛け止め部分等、尖った部分を接触抑制の対象としている。
【0068】
接触抑制部材90は1枚のシートからなる。本実施形態では、この接触抑制部材90として、ポリエチレン等の合成樹脂からなる軟質の樹脂シート上にフェルトを積層したものが用いられている。フェルトは、繊維を製織、編成によらず、繊維自体を絡ませて布状にしたものであって、可撓性に富む。
【0069】
接触抑制部材90は平面矩形状をなしており、エアバッグ本体51と同程度の幅(本実施形態では、エアバッグ本体51よりも若干広い幅)を有している。また、接触抑制部材90の前端部90Fは、インナバッグ71の前後方向についての中心部付近(収容ケース16の上端部の後方付近)に位置し、後端部90Rは、エアバッグ本体51の後端部51Rよりも若干後方に位置している。
【0070】
上記接触抑制部材90は、フェルトが上側(エアバッグ50側)となり、樹脂シートが下側(支持部A側)となる姿勢で配置されている。また、接触抑制部材90は、エアバッグ本体51における下側本体布部51Lの下面であって、非膨張部Dの複数の箇所B1,B2,B3,B4に固定されている。
【0071】
これらの箇所B1〜B4において、接触抑制部材90はエアバッグ50に対し、熱溶着されている。この溶着に際しては、接触抑制部材90がエアバッグ本体51の下側本体布部51Lに重ねられる。そして、接触抑制部材90の上記箇所B1〜B4に対応する部分が加熱されて、圧力を加えられることにより、同部分が溶けて下側本体布部51Lに強固に接合される。
【0072】
<エアバッグ50に対するインフレータアセンブリ40の取付け態様>
上述したインフレータアセンブリ40は、図6及び図7の少なくとも一方に示すように、開口69,84を通じて上記インナバッグ71内(エアバッグ本体51内)に挿入され、同インナバッグ71(エアバッグ本体51)の前部(開口69,84の後方近傍)において、幅方向に延びる姿勢で配置されている。リテーナ42の複数本のボルト43が対応する挿通孔74,55に対し上方から下方へ向けて挿通されている。
【0073】
さらに、図6、図12及び図13の少なくとも1つに示すように、エアバッグ本体51の巻付け部53及びインナバッグ71の巻付け部73がインフレータアセンブリ40の外周面に沿って前下方へ巻付けられている。この巻付けにより、インナバッグ71の貫通孔76がエアバッグ本体51の貫通孔57とともにインフレータアセンブリ40の下方に位置している。そして、貫通孔76,57に対し、リテーナ42の対応するボルト43が通されることにより、インナバッグ71の巻付け部73がエアバッグ本体51の巻付け部53とともにボルト43に係止されている。この係止により、エアバッグ本体51及びインナバッグ71の上記開口69,84がともに閉じられるとともに、巻付け部53,73がインフレータアセンブリ40に巻付けられた状態に保持されている。
【0074】
上記のように、インフレータアセンブリ40がエアバッグ50内に取付けられることで、エアバッグモジュールAMが構成されている。このエアバッグモジュールAMは、次の態様で車両用シートSの座部10内に配置され、組付けられている。
【0075】
<エアバッグモジュールAMの配置態様>
図4に示すように、エアバッグ50においてインフレータアセンブリ40の配置された前部は、収容ケース16の収容凹部16A内に収容されている。エアバッグ50において上記前部を除く箇所は、膨張用ガスを充填されることなく平面状に展開させられた状態で、座クッション17と支持部Aとの間に配置されている。
【0076】
<エアバッグモジュールAMの組付け態様>
図13においてインナバッグ71の挿通孔74及び貫通孔76と、エアバッグ本体51の挿通孔55及び貫通孔57とに通されてエアバッグ50の外部に突出している複数本のボルト43は、図4に示すように、収容凹部16Aの底部にあけられた貫通孔16Bに挿通されている。そして、各ボルト43にナット44が螺合されることにより、インフレータアセンブリ40がエアバッグ50と一緒に収容ケース16に締結されている。
【0077】
上述したように、エアバッグ装置は、上記エアバッグモジュールAMのほかに図4に示す衝撃センサ95及び制御装置96を備えている。衝撃センサ95は、加速度センサ等からなり、車両のフロントバンパ(図示略)等に取付けられており、車両の前突等を検出すべく、フロントバンパ等に前方から加わる衝撃を検出する。制御装置96は、衝撃センサ95の検出信号に基づきインフレータ41を制御する。
【0078】
上記のようにして、本実施形態のエアバッグ装置が構成されている。次に、このエアバッグ装置の作用について説明する。
このエアバッグ装置では、前突等によりフロントバンパに対し前方から衝撃が加わらないときには、制御装置96からインフレータ41に対し、これを作動させるための指令信号が出力されず、同インフレータ41から膨張用ガスがエアバッグ50に供給されない。エアバッグ50の前部を除く大部分は、平面状に展開された状態で支持部A及び座クッション17間に配置され続ける(図1、図4参照)。
【0079】
このときには、エアバッグ本体51の下側本体布部51Lに固定された接触抑制部材90は、同下側本体布部51Lと支持部Aとの間に介在する。そのため、エアバッグ50の非膨張時にも下側本体布部51Lが支持部Aに接触することが接触抑制部材90によって抑制される。下側本体布部51Lが支持部A、特に、ワイヤフレーム部15の係止爪との掛け止め部分等、尖った部分との接触により傷付けられることが抑制される。
【0080】
車両の前突等により、同車両に対し前方から衝撃が加わった場合、乗員Pは慣性によって前方へ移動しようとする。この乗員Pは、シートベルト装置30の保持作用によって座部10上に引き留められる。しかし、乗員Pの姿勢によっては、腰部PPがラップベルト部34から外れて前方へ移動しようとすることがある。
【0081】
しかし、上記前方からの衝撃により、フロントバンパに所定値以上の衝撃が加わり、そのことが衝撃センサ95によって検出されると、その検出信号に基づき制御装置96からハーネスを通じてインフレータ41に対し、これを作動させるための指令信号が出力される。この指令信号に応じ、インフレータ41では、高温かつ高圧の膨張用ガスが生成・噴出される。
【0082】
上記膨張用ガスは、図12及び図13に示すように、まず、エアバッグ50において、インフレータ41の配置されている側のチャンバである第1チャンバ85に供給される。第1チャンバ85では、インフレータ41とエアバッグ本体51との間にインナバッグ71が介在している。そのため、第1チャンバ85では、インフレータ41から噴出された高温かつ高圧の膨張用ガスがインナバッグ71によって直接受け止められる。エアバッグ本体51において第1チャンバ85を構成する部分(インナバッグ71の外側となる部分)が、膨張用ガスの高い熱及び圧力を直接受けることはない。
【0083】
膨張用ガスは、放出孔78を通過する際の速度よりも速い速度で第1チャンバ85に充填される。この膨張用ガスの充填により、インナバッグ71が膨張を開始し、それに伴い、エアバッグ本体51において、第1チャンバ85を構成する部分(インナバッグ71の外側となる部分)が図12において二点鎖線で示すように、間接的に膨張させられる。
【0084】
膨張用ガスは、インナバッグ71がある程度膨張した後、放出孔78を通って、エアバッグ50においてインフレータ41の配置されていない側のチャンバである第2チャンバ86に向けて放出される。
【0085】
ここで、本実施形態では、エアバッグ50内を第1チャンバ85及び第2チャンバ86に区画するインナバッグ71のテザー87が、第1チャンバ85の容量が第2チャンバ86の容量よりも少なくなる位置に設定されている。このため、容量の少ない第1チャンバ85が比較的短時間で膨張して内圧が早期に上昇し、それに伴い、第1チャンバ85内の膨張用ガスが放出孔78から第2チャンバ86に放出され始める時期が早まる。その結果、エアバッグ50は前後方向に長く容量の多いものであるが、第2チャンバ86が速いタイミングで膨張を開始することになる。
【0086】
また、インナバッグ71は、同インナバッグ71の幅方向についての両側部において、周縁結合部65(第1周縁結合部66及び第3周縁結合部68)によってエアバッグ本体51に結合されている。このため、インナバッグ71の両側部がエアバッグ本体51に結合されていないもの(特許文献1がこれに該当する)とは異なり、インナバッグ71はインフレータ41からの膨張用ガスを受けても形状変化を起こしにくい。放出孔78の位置が安定し、第2チャンバ86内の定められた方向(後方)へ向けて膨張用ガスが流れるようになる。また、インナバッグ71は、ともに幅方向へ延びる上側インナ結合部82及び下側インナ結合部83によりエアバッグ本体51に結合されている。これらの結合により、膨張用ガスを受けても、インナバッグ71が形状変化をより起こしにくくなる。インナバッグ71の姿勢がより安定し、放出孔78から膨張用ガスが第2チャンバ86の定められた方向(後方)へより一層安定して流れるようになる。
【0087】
インフレータ41からの膨張用ガスによって第1チャンバ85及び第2チャンバ86が膨張すると、その膨張に伴い、エアバッグ本体51の上側本体布部51Uと下側本体布部51Lとの上下方向の間隔が拡がる。
【0088】
ところで、エアバッグ本体51内の中間部に、上側本体布部51U及び下側本体布部51L間を繋ぐものが何らないとすると、膨張用ガスの供給を受けたエアバッグ本体51が上下方向に大きく膨張する(エアバッグ本体51の膨張厚みが大きくなる)。この膨張厚みは、エアバッグ本体51が前後方向に長くなるに従い大きくなる。そのため、本実施形態のように、エアバッグ本体51の後端部51Rが座部10の後部(乗員Pの臀部PB)の下方に位置する、前後に長いエアバッグ本体51では、膨張厚みが過度に大きくなってしまう。
【0089】
しかしながら、本実施形態では、上記上側本体布部51U及び下側本体布部51L間の間隔の拡大に伴い、インナバッグ71において、上側インナ結合部82と下側インナ結合部83とによって挟まれた領域(テザー87)が上下方向に緊張して、エアバッグ本体51の上記膨張厚みを規制する(図12の二点鎖線参照)。
【0090】
そして、上記のようにエアバッグ本体51の膨張厚みを規制されながら、シートフレーム11の支持部Aと座クッション17との間で膨張するエアバッグ50により、座クッション17が押上げられて、座部10の座面10Aが隆起させられる。シートベルト装置30によって車両用シートSに拘束された乗員Pの膝部PNの裏から臀部PBまでの領域が、隆起した座面10Aによって上方へ押圧される。この押圧により押上げられた乗員Pの特に腰部PPが、シートベルト装置30のラップベルト部34に押付けられ、そのラップベルト部34の拘束力が高められる。座部10上で乗員Pの腰部PPが前方へ移動することが規制される。
【0091】
なお、エアバッグ50に設けられた接触抑制部材90は、設けられてないものに比べ、そのエアバッグ50の上記膨張の阻害要因となり得る。
ここで、エアバッグ50と支持部Aとの間に介在する接触抑制部材90では、エアバッグ50側部分がフェルトによって形成されている。このフェルトは、エアバッグ本体51を構成する基布52ほどではないにせよ、樹脂製のシート等よりも可撓性に富む。そのため、上記のように接触抑制部材90のエアバッグ50側部分がこのフェルトによって形成されることで、同接触抑制部材90の可撓性が確保され、接触抑制部材90がエアバッグ50の膨張に追従して撓みやすい。そのため、接触抑制部材90がエアバッグ50の膨張を妨げる程度は小さくてすむ。
【0092】
また、上記接触抑制部材90では、支持部A側部分が軟質の樹脂シートによって形成されている。この樹脂シートは、フェルト等よりも高い強度を有する。そのため、この軟質の樹脂シートにおいて接触抑制部材90が支持部Aと接触することで、エアバッグ50の膨張期間には、エアバッグ50が支持部Aに接触することが確実に抑制される。
【0093】
また、軟質の樹脂シートは、布、フェルト等ほどではないにせよ可撓性を有するため、エアバッグ50の膨張に追従して撓む。そのため、接触抑制部材90がエアバッグ50の膨張を妨げる程度は小さくてすむ。
【0094】
ここで、エアバッグ50において、接触抑制部材90が固定される箇所は、固定されない箇所よりも硬くなる。そのため、エアバッグ50において接触抑制部材90が固定される箇所では、固定されない箇所よりも撓みにくくなる。この点、本実施形態では、接触抑制部材90が、エアバッグ50のうち膨張に関与しない非膨張部Dに固定されていて、膨張部Cには固定されていない。そのため、接触抑制部材90の固定箇所が、エアバッグ50の膨張部Cの撓みやすさに影響を及ぼしにくく、同膨張部Cの膨張が阻害されにくい。なお、非膨張部Dは膨張しない箇所であるため、接触抑制部材90が固定されることで硬くなったとしても、特段の不都合はない。
【0095】
さらに、接触抑制部材90が本実施形態のように1枚のシートからなる場合、その全面において接触抑制部材90をエアバッグ50に固定することも考えられる。しかし、エアバッグ50において接触抑制部材90との固定に関わる面積が大きくなるに従い、エアバッグ50の膨張が妨げられる。この点、1枚のシートからなる接触抑制部材90が互いに離間した複数箇所においてエアバッグ50に固定されている本実施形態では、エアバッグ50の接触抑制部材90との固定に関わる面積が小さく、接触抑制部材90がエアバッグ50の膨張を妨げる程度が小さくなる。
【0096】
接触抑制部材90は、エアバッグ50において、同エアバッグ50が膨張したときに支持部A側となる面(下側本体布部51Lの下面)に設けられていることから、エアバッグ50の膨張期間中のどの段階でもエアバッグ50(下側本体布部51L)と支持部Aとの間に介在する。この接触抑制部材90により、エアバッグ50(下側本体布部51L)が支持部Aに接触することが抑制される。その結果、上述したエアバッグ50の非膨張時と同様、下側本体布部51Lが支持部A、特に、ワイヤフレーム部15の係止爪との掛け止め部分等、尖った部分との接触により傷付けられることが抑制される。
【0097】
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)エアバッグ50において、少なくとも同エアバッグ50が膨張したときに支持部A側となる面(下側本体布部51Lの下面)に、可撓性を有し、かつエアバッグ50の支持部Aとの接触を抑制するための接触抑制部材90を設けている(図4)。
【0098】
そのため、エアバッグ50の展開距離等を考慮して接触抑制部材90を配置した場合と同様の効果(エアバッグ50の支持部Aとの接触抑制)を得ることができる。従って、エアバッグ50の配置や設計とは別に、エアバッグ50の展開距離等を考慮した接触抑制部材90の配置や設計をしなくてもすみ、設計の容易化を図ることができる。
【0099】
(2)エアバッグ50を、インフレータ41から膨張用ガスが供給されて膨張する膨張部Cと、同膨張用ガスが供給されず膨張しない非膨張部Dとによって構成する。そして、接触抑制部材90を、この非膨張部Dにおいてエアバッグ50に固定している(図5、図11)。
【0100】
そのため、エアバッグ50において、接触抑制部材90が固定される箇所は、固定されない箇所よりも硬くなるが、そのことによって膨張部Cの膨張が阻害されるのを抑制することができる。
【0101】
(3)接触抑制部材90を1枚のシートによって形成し、これをエアバッグ50(エアバッグ本体51の下側本体布部51L)の互いに離間した複数の箇所B1〜B4に固定している(図5、図6)。
【0102】
そのため、エアバッグ50の接触抑制部材90との固定に関わる面積を小さくし、接触抑制部材90がエアバッグ50の膨張を妨げる程度を小さくすることができる。
(4)接触抑制部材90のエアバッグ50側部分をフェルトによって形成している。
【0103】
そのため、接触抑制部材90の可撓性をこのフェルトによって確保し、同接触抑制部材90をエアバッグ50の膨張に追従して撓みやすくすることができる。
(5)接触抑制部材90の支持部A側部分を軟質の樹脂シートによって形成している。
【0104】
そのため、エアバッグ50が少なくとも膨張している期間には、そのエアバッグ50が支持部Aに接触するのを確実に抑制することができる。なお、軟質の樹脂シートは可撓性を有するため、エアバッグ50の膨張に追従して撓ませることができ、接触抑制部材90がエアバッグ50の膨張を妨げる程度を最小限に止めることができる。
【0105】
(6)接触抑制部材90を、エアバッグ50に対し熱溶着している。
そのため、接触抑制部材90を溶着箇所においてエアバッグ50に強固に接合させることができる。
【0106】
(7)エアバッグ50を、膨張用ガスを充填されることなく平面状に展開させられた状態で支持部A及び座クッション17間に配置する。そして、接触抑制部材90を、エアバッグ50の支持部A側となる面(下側本体布部51Lの下面)に設けている(図4)。
【0107】
そのため、エアバッグ50の非膨張時にも、エアバッグ50が支持部Aに接触するのを接触抑制部材90によって抑制することができる。
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
【0108】
・各種結合部(無端状結合部56、上側円弧結合部63、下側円弧結合部64、周縁結合部65、環状結合部75,81、円環状結合部79、上側インナ結合部82及び下側インナ結合部83)は、縫糸を用いた縫合とは異なる態様、例えば接着剤を用いた接着、溶着等によって形成されてもよい。
【0109】
・エアバッグ本体51及びインナバッグ71は、折り畳まれた状態で座部10内(座クッション17及びシートフレーム11間)に配置されてもよい。
・前記実施形態では、接触抑制部材90として、エアバッグ50側のみがフェルトによって形成されているものが用いられたが、全体がフェルトによって形成されているものが接触抑制部材90として用いられてもよい。
【0110】
・前記実施形態では、接触抑制部材90として、支持部A側のみが軟質の樹脂シートによって形成されているものが用いられたが、全体が軟質の樹脂シートによって形成されているものが接触抑制部材90として用いられてもよい。
【0111】
・接触抑制部材90は、上述したフェルト及び軟質の樹脂シートとは異なる材料、例えば、布、紙、クッション材等によって形成されたものであってもよい。
・接触抑制部材90は、エアバッグ50の膨張部Cに固定されてもよいし、膨張部Cと非膨張部Dの両方に固定されてもよい。
【0112】
・接触抑制部材90は、複数枚のシートによって形成されてもよい。この場合、エアバッグ50において支持部Aとの接触により特に傷が付きやすい箇所にのみ接触抑制部材90が設けられてもよい。
【0113】
・接触抑制部材90は、熱溶着以外の固定手段によってエアバッグ50に固定されてもよい。
・本発明は、エアバッグ50として、前記実施形態とは異なる構成を有するものが用いられたシートクッションエアバッグ装置にも適用可能である。
【0114】
・本発明は、エアバッグ50の少なくとも一部が、支持部A及び座クッション17間で膨張するシートクッションエアバッグ装置であれば広く適用可能である。
・本発明では、乗員P以外のもの、例えば荷物等が被拘束対象物とされてもよい。この荷物等が被拘束対象物として座部10の上に置かれた場合にも、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0115】
・本発明のシートクッションエアバッグ装置は、乗員Pが着座したときに、車両の前後方向とは異なる方向、例えば直交する方向(車幅方向)を向くように車両用シートSの配置された車両にも適用可能である。
【0116】
・本発明のシートクッションエアバッグ装置は、車両の前席及び後席のいずれについても適用可能である。
・膨張流体発生源として、上記インフレータ41とは異なる構成を有するものが用いられてもよい。また、膨張流体として膨張用ガス以外の流体が用いられてもよい。
【符号の説明】
【0117】
10…座部、10A…座面、11…シートフレーム、17…座クッション、41…インフレータ(膨張流体発生源)、50…エアバッグ、90…接触抑制部材、A…支持部、B1,B2,B3,B4…箇所、C…膨張部、D…非膨張部、P…乗員(被拘束対象物)、S…車両用シート。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートの座部内に配置されたエアバッグを膨張用ガス等の膨張流体により膨張させて座面を隆起させ、座部に着座している乗員等の被拘束対象物が前方へ移動するのを拘束するようにしたシートクッションエアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両では、前突等により同車両に前方から衝撃が加わった場合、シートベルト装置によって車両用シートに拘束された乗員の腰部が、ラップベルト部から外れて前方へ移動してしまう現象(サブマリン現象)が問題となる。そこで、このサブマリン現象を抑制するために種々の対策が講じられたり提案されたりしている。
【0003】
例えば、特許文献1には、座クッションをシートフレームの支持部によって下側から支持してなる座部を有する車両用シートに適用されるシートクッションエアバッグ装置が記載されている。支持部は、座クッションを下側から弾性支持するばね部材、そのばね部材が掛け止められる係止爪等からなる。
【0004】
上記シートクッションエアバッグ装置は、上面を開口した収容ケース(基部)を、シートフレームの上記支持部よりも前側に備えている。この収容ケース(基部)内には、膨張流体発生源(インフレータ)が配置されている。また、膨張流体発生源(インフレータ)から供給される膨張流体(高圧ガス)により膨張するエアバッグが折り畳まれた状態で上記収容ケース(基部)内に配置されている。さらに、収容ケース(基部)の上端部には接触抑制部材(接触阻止部材)が回動可能に支持されている。この接触抑制部材(接触阻止部材)は、車両に前方から衝撃が加わらずシートクッションエアバッグ装置が作動しないときには、収容ケース(基部)の上端開口を閉塞している。なお、括弧内の語句は、特許文献1で使用されている用語である。
【0005】
上記シートクッションエアバッグ装置によれば、前突等により車両に前方から衝撃が加わると、膨張流体発生源(インフレータ)から膨張流体(高圧ガス)がエアバッグに供給され、同エアバッグが折り状態を解消しながら(展開しながら)膨張する。この展開を伴い上方へ膨張するエアバッグにより、接触抑制部材(接触阻止部材)が上方へ押される。この押圧により接触抑制部材(接触阻止部材)は、後方へ回動し、支持部の前部上に重なる。エアバッグは、接触抑制部材(接触阻止部材)及び支持部と、座クッションとの間で、後方へ展開しながら膨張する。このエアバッグによって座クッションが押上げられて座面が隆起させられ、座部上の乗員の前方への移動を拘束される。このとき、エアバッグとシートフレームの支持部との接触が接触抑制部材(接触阻止部材)によって抑制され、エアバッグが支持部との接触により傷付けられることが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−238016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、接触抑制部材(接触阻止部材)がシートフレーム側に設けられている特許文献1では、折り畳まれて収容されているエアバッグが展開しながら膨張する期間中、どの段階でも支持部に接触しないように、エアバッグの展開距離等を考慮して接触抑制部材(接触阻止部材)を配置しなければならない。そのため、接触抑制部材(接触阻止部材)の設計がしづらい。こうした問題は、エアバッグが収容ケース(基部)から後方へ遠く離れた箇所まで展開するものほど、すなわち、前後方向に長く、容量の多いものほど顕著となる。接触抑制部材(接触阻止部材)は支持部と座クッションとの間で回動しなければならず、この接触抑制部材(接触阻止部材)を大きくするにも限度があるからである。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、エアバッグがシートフレームの支持部に接触するのを簡単な設計で抑制することのできるシートクッションエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、座クッションがシートフレームの支持部により下側から支持されてなる座部を有する車両用シートに適用されるものであり、膨張流体発生源からの膨張流体により、前記支持部及び前記座クッション間でエアバッグの少なくとも一部を膨張させて前記座部の座面を隆起させ、前記座部上の被拘束対象物の前方への移動を拘束するようにしたシートクッションエアバッグ装置において、前記エアバッグについて、同エアバッグが膨張したときに前記支持部側となる面には、可撓性を有し、かつ前記エアバッグの前記支持部との接触を抑制するための接触抑制部材が設けられていることを要旨とする。
【0010】
上記の構成によれば、膨張流体発生源で発生した膨張流体がエアバッグに供給されると、その膨張流体によりエアバッグの少なくとも一部が、シートフレームの支持部と座クッションとの間で膨張する。この膨張により、座部の座面が隆起させられ、座部上の被拘束対象物の前方への移動が抑制される。なお、エアバッグに設けられた接触抑制部材は、そのエアバッグの膨張の阻害要因となり得る。しかし、接触抑制部材は可撓性を有しているため、エアバッグの膨張に追従して撓む。そのため、接触抑制部材がエアバッグの膨張を妨げる程度は小さくてすむ。
【0011】
上記接触抑制部材は、エアバッグにおいて、同エアバッグが膨張したときに支持部側となる面に設けられていることから、エアバッグの膨張期間中、どの段階でもエアバッグと支持部との間に介在する。この接触抑制部材により、少なくともエアバッグが膨張している期間には、エアバッグが支持部に接触することが抑制される。
【0012】
このように、エアバッグにおいて、同エアバッグが膨張したときに少なくとも支持部側となる面に接触抑制部材が設けられる請求項1に記載の発明では、結果的に、エアバッグの展開距離等を考慮して接触抑制部材を配置した場合と同様の効果(エアバッグの支持部との接触抑制)が得られる。従って、エアバッグの配置や設計とは別に、エアバッグの展開距離等を考慮した接触抑制部材の配置や設計をしなくてもよくなり、設計が容易となる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記エアバッグは、前記膨張流体発生源から前記膨張流体が供給されて膨張する膨張部と、同膨張流体が供給されず膨張しない非膨張部とを備えており、前記接触抑制部材は前記エアバッグの前記非膨張部に固定されていることを要旨とする。
【0014】
ここで、エアバッグにおいて、接触抑制部材が固定される箇所は、固定されない箇所よりも硬くなる。そのため、接触抑制部材の固定箇所では、エアバッグが撓みにくくなる。この点、請求項2に記載の発明では、接触抑制部材がエアバッグのうち、膨張に関与しない非膨張部に固定されていて、膨張部には固定されていない。そのため、接触抑制部材の固定箇所が、エアバッグの膨張部の撓みやすさに影響を及ぼしにくく、同膨張部の膨張が阻害されにくい。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記接触抑制部材は1枚のシートからなり、前記シートは、前記エアバッグの互いに離間した複数の箇所に固定されていることを要旨とする。
【0016】
接触抑制部材が1枚のシートからなる場合、その全面において接触抑制部材をエアバッグに固定することも考えられる。しかし、接触抑制部材とエアバッグとの固定に関わる面積が大きくなるに従い、エアバッグの膨張が妨げられる。この点、請求項3に記載の発明によるように、1枚のシートからなる接触抑制部材がエアバッグの互いに離間した複数箇所においてエアバッグに固定されることで、接触抑制部材とエアバッグとの固定に関わる面積が小さくなり、接触抑制部材がエアバッグの膨張を妨げる程度が小さくなる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1つに記載の発明において、前記接触抑制部材の少なくとも前記エアバッグ側がフェルトにより形成されていることを要旨とする。
【0018】
ここで、フェルトは繊維自体を絡ませて布状にしたものであって、可撓性に富む繊維製品である。
上記請求項4に記載の発明の構成によれば、エアバッグと支持部との間に介在する接触抑制部材では、少なくともエアバッグ側がフェルトによって形成されている。このフェルトは、エアバッグを構成する布ほどではないにせよ、樹脂シート等よりも可撓性に富む。そのため、接触抑制部材の少なくともエアバッグ側がこのフェルトによって形成されることで、同接触抑制部材の可撓性が確保され、接触抑制部材がエアバッグの膨張に追従して撓みやすい。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1つに記載の発明において、前記接触抑制部材の少なくとも前記支持部側は軟質の樹脂シートにより形成されていることを要旨とする。
【0020】
上記の構成によれば、エアバッグと支持部との間に介在する接触抑制部材では、少なくとも支持部側が軟質の樹脂シートによって形成されている。この樹脂シートは、一般に、フェルト等よりも高い強度を有する。そのため、この軟質の樹脂シートにおいて接触抑制部材が支持部と接触することで、少なくともエアバッグが膨張している期間には、エアバッグが支持部に接触することが確実に抑制される。
【0021】
また、軟質の樹脂シートは可撓性を有するため、エアバッグの膨張に追従して撓む。そのため、接触抑制部材がエアバッグの膨張を妨げる程度は小さくてすむ。
請求項6に記載の発明は、請求項4又は5に記載の発明において、前記接触抑制部材は、前記エアバッグに対し熱溶着されていることを要旨とする。
【0022】
接触抑制部材は、請求項6に記載の発明によるように、エアバッグに対し熱溶着されてもよい。この場合、接触抑制部材が加熱されて、圧力を加えられることにより、同接触抑制部材の一部が溶けてエアバッグに強固に接合される。
【0023】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1つに記載の発明において、前記エアバッグは、前記膨張流体を充填されることなく展開させられた状態で前記支持部及び前記座クッション間に配置されており、前記接触抑制部材は、前記エアバッグの前記支持部側となる面に設けられていることを要旨とする。
【0024】
上記の構成によれば、エアバッグの非膨張時にも、そのエアバッグと支持部との間に接触抑制部材が介在する。そのため、このときにも、エアバッグが支持部に接触することが抑制される。
【発明の効果】
【0025】
本発明のシートクッションエアバッグ装置によれば、エアバッグがシートフレームの支持部に接触するのを簡単な設計で抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明を具体化した一実施形態において、シートクッションエアバッグ装置が適用された車両用シートを、乗員及びシートベルト装置とともに示す断面図。
【図2】車両用シート及びシートベルト装置の一部を示す斜視図。
【図3】車両用シートにおけるシートフレーム及び収容ケースを示す部分斜視図。
【図4】図1におけるX部を拡大して示す部分断面図。
【図5】インフレータアセンブリが取付けられる前のエアバッグの平面図。
【図6】インフレータアセンブリが取付けられた状態のエアバッグモジュールの底面図。
【図7】図5のエアバッグの平断面図。
【図8】(A)は平面状に展開させられたエアバッグ本体を示す平面図、(B)は(A)のD−D線断面図。
【図9】(A)は平面状に展開させられたインナバッグがエアバッグ本体に結合された状態を示す平面図、(B)は(A)のE−E線断面図。
【図10】(A)は図5のA−A線断面図、(B)は(A)を分断し、かつ拡大して示す断面図。
【図11】図5のB−B線断面図。
【図12】図6のC−C線断面図。
【図13】図12を分断し、かつ拡大して示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を具体化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
なお、以下の説明では、車両の前進方向を前方と記載し、それを基準に前、後、上、下、左、右を規定している。また、各図において、「前」は車両前側を、「後」は車両後側を、「内」は車両内側を、「外」は車両外側をそれぞれ示している。車両内側は、車両の幅方向についての中央位置に近づく側であり、車両外側は上記中央位置から遠ざかる側である。
【0028】
まず、本実施形態のシートクッションエアバッグ装置が適用される車両用シートの概略構成について説明する。
図1及び図2の少なくとも一方に示すように、車両用シートSは、座部(シートクッション)10と、座部10の後端側に傾き調整可能に配置された背もたれ部(シートバック)21と、背もたれ部21の上側に配置されたヘッドレスト22とを備えて構成されている。
【0029】
座部10は、シートクッションエアバッグ装置によって拘束される対象物(被拘束対象物)である乗員Pが着座する箇所である。図3に示すように、座部10の骨格部分をなすシートフレーム11は、左右一対のサイドフレーム部12、前後一対の連結フレーム部13,14、及び複数本のワイヤフレーム部15、及び収容ケース16を備えて構成されている。左右の両サイドフレーム部12は、それぞれ前後方向に延びる板状をなしており、車幅方向(左右方向)に互いに離間した位置に配置されている。前後の両連結フレーム部13,14はそれぞれ車幅方向に延びる棒材により形成されており、前後方向に互いに離間した位置において、上記左右の両サイドフレーム部12間に架設されている。複数本のワイヤフレーム部15は、座り心地向上用の引っ張りばねとして機能するものであり、S字を連続させたような形状に屈曲形成されている。これらのワイヤフレーム部15は、車幅方向に互いに離間した位置に配置されており、前後の両連結フレーム部13,14間に張り渡されている。より詳しくは、連結フレーム部13,14には係止爪(図示略)が設けられており、この係止爪にワイヤフレーム部15が掛け止めされている。そして、これらのワイヤフレーム部15と係止爪とによって、後述する座クッション17を下側から支持する支持部Aが構成されている。
【0030】
収容ケース16は、連結フレーム部13の前側に隣接して配置されており、車幅方向に延びている。収容ケース16は、上面が開放された状態で車幅方向に延びる収容凹部16Aを有している。収容凹部16Aは、後述するエアバッグモジュールAMの前部が収容される箇所である。収容ケース16は、その車幅方向についての両端部において左右の両サイドフレーム部12に固定されている。
【0031】
図4に示すように、シートフレーム11上には座クッション17が配置されている。座クッション17は、布製、皮革製等のカバー18によって被覆されている。
車両には、車両用シートSに着座した乗員Pを拘束するためのシートベルト装置30が設けられている。
【0032】
図1及び図2の少なくとも一方に示すように、シートベルト装置30は、乗員Pを拘束する帯状のウェビング31と、ウェビング31に対しその長さ方向への移動可能に取付けられたタング32と、座部10の車内側に配置されてタング32が係脱可能に装着されるバックル33とを備えている。ウェビング31は、その一端部が、座部10の車外側に固定され、他端部が同車外側に配置されたベルト巻取り装置(図示略)により巻き取られる構成とされている。シートベルト装置30では、ウェビング31に対してタング32を摺動させることで、ラップベルト部34及びショルダベルト部35の各長さを変更可能である。
【0033】
ラップベルト部34は、ウェビング31において、タング32からウェビング31の端部(固定端)までの部分であり、着座した乗員Pの腰部PPの一側方から同腰部PPの前を経由して他側方に架け渡される。ショルダベルト部35は、ウェビング31において、タング32からベルト巻取り装置までの部分であり、着座した乗員Pの肩部PSから斜めに胸部PTの前を経由して腰部PPの側方に架け渡される。
【0034】
上記車両には、サブマリン現象を抑制するためのシートクッションエアバッグ装置(以下、単にエアバッグ装置という)が設けられている。サブマリン現象は、前突等により、車両に対し前方から衝撃が加わった場合に、シートベルト装置30によって車両用シートSに拘束されている乗員Pの腰部PPが、ラップベルト部34から外れて前方へ移動してしまう現象である。
【0035】
上記図4には、エアバッグ装置の概略構成が示されている。ただし、同図4では、細部についての図示が割愛されている。この図4に示すように、上記エアバッグ装置は、エアバッグモジュールAM、衝撃センサ95及び制御装置96を備えている。エアバッグモジュールAMは、インフレータアセンブリ40及びエアバッグ50を備えるとともに、このエアバッグ50が車両用シートSの上記支持部Aと接触するのを抑制する接触抑制部材90を備えている。次に、エアバッグモジュールAMを構成する各部について図5〜図13を参照して説明する。
【0036】
<インフレータアセンブリ40の構成>
図6及び図13の少なくとも一方に示すように、インフレータアセンブリ40は、膨張流体発生源としてのインフレータ41と、そのインフレータ41を覆うリテーナ42とを備えて構成されている。インフレータ41は略円柱状をなしており、その内部にはガス発生剤(図示略)が収容されている。このタイプ(パイロタイプ)のインフレータ41では、ガス発生剤の発熱を伴う化学反応によって膨張流体としての膨張用ガスが発生される。インフレータ41には、生成したガスを噴出するガス噴出口(図示略)が設けられている。インフレータ41の一方の端部には、同インフレータ41への制御信号の印加配線となるハーネス(図示略)が接続されている。
【0037】
なお、インフレータ41として、上記パイロタイプとは異なるタイプが用いられてもよい。こうしたタイプとしては、高圧ガスの充填された高圧ガスボンベの隔壁を火薬等によって破断して膨張用ガスを噴出させるストアードガスタイプや、パイロタイプとストアードガスタイプの両者を組み合わせた形態のハイブリッドタイプ等が挙げられる。
【0038】
一方、リテーナ42は、その大部分が金属板等の板材を曲げ加工等することによって幅方向(図6の上下方向)に細長い略筒状に形成されている。リテーナ42の下面において、幅方向に互いに離間した複数箇所には、下方へ向けて延びるボルト43が固定されている。
【0039】
なお、上記インフレータ41は、リテーナ42と一体に設けられた構成を有するものであってもよい。
<エアバッグ50の構成>
図4及び図12の少なくとも一方に示すように、エアバッグ50は、その外殻部分を構成し、かつ膨張により座部10の座面10Aを隆起させるためのエアバッグ本体51と、上記インフレータアセンブリ40を包み込んだ状態でエアバッグ本体51内に配置されたインナバッグ71とを備えて構成されている。
【0040】
<エアバッグ本体51の構成>
エアバッグ本体51の大部分は、図8(A),(B)に示すように、平面状に展開させられた状態で前後方向に細長い略矩形状の布(以下「基布52」という)によって構成されている。本実施形態では、この基布52が2枚用いられているが、この枚数に限定されるものではない。各基布52は、ポリエステル糸、ポリアミド糸等からなる織布によって形成されており、高い強度と可撓性とを有している。平面状に展開させられた状態の各基布52の後端部には、巻付け部53が一体に形成されている。この巻付け部53により、各基布52の形状が、前後方向については非対称となっている。
【0041】
平面状に展開させられた状態で上側に位置する基布52の前端部上には、幅方向(図8(A)の上下方向)に細長い補強布54が重ねられている。補強布54は、両基布52の前端部の強度を高めるために用いられている。補強布54は、本実施形態では2枚用いられているが、この枚数に限定されるものではない。両基布52及び両補強布54において、幅方向に互いに離間した複数箇所には、上記リテーナ42のボルト43を通すための挿通孔55があけられている。
【0042】
両補強布54及び両基布52において、全ての挿通孔55を取り囲む箇所には無端状結合部56が設けられている。この無端状結合部56の役割は、両補強布54を両基布52に結合するとともに、各挿通孔55の周りの部分を補強して、同部分が裂けるのを防止することである。無端状結合部56は、両補強布54を両基布52に対し縫糸で縫合することにより形成されている。
【0043】
無端状結合部56の上記結合の態様(縫糸を用いた縫合)は、他の結合部、例えば後述する上側円弧結合部63、下側円弧結合部64、周縁結合部65、環状結合部75,81、円環状結合部79、上側インナ結合部82及び下側インナ結合部83についても同様である。また、無端状結合部56の上記役割は、他の結合部、例えば後述する環状結合部75,81及び円環状結合部79についても同様である。
【0044】
本実施形態では、上記各種結合部(無端状結合部56、上側円弧結合部63、下側円弧結合部64、周縁結合部65、環状結合部75,81、円環状結合部79、上側インナ結合部82及び下側インナ結合部83)は、太い破線で図示されることで、通常の破線(隠れ線)と区別されている(図8(A)等参照)。
【0045】
また、平面状に展開させられた状態の基布52の巻付け部53において、同巻付け部53が巻付けられたときに上記挿通孔55に重なる箇所にも、ボルト43が通される貫通孔57があけられている。
【0046】
平面状に展開させられた状態の両基布52の長さ方向についての中央部分には、幅方向(図8(A)の上下方向)に延びる折り線58が設定されている。両基布52は、上記折り線58に沿って折り返されて上下方向に重ね合わされる。平面状に展開させられた状態の両基布52において、この折り線58よりも後側の部分と前側の部分とを区別するために、ここでは、前者を「上側本体布部51U」といい、後者を「下側本体布部51L」というものとする。
【0047】
上側本体布部51U上であって、折り線58寄りの箇所には、その折り線58に向けて円弧状に膨らむ上側円弧補強布61が重ねられている。また、下側本体布部51L上であって、同下側本体布部51Lが折り線58に沿って折り返されたときに上記上側円弧補強布61に重なる箇所にも、折り線58に向けて円弧状に膨らむ下側円弧補強布62が重ねられている。これらの円弧補強布61,62は、本実施形態では1枚ずつ用いられているが、複数枚用いられてもよい。上側円弧補強布61は、その上側円弧補強布61に沿う形状をなす上側円弧結合部63により上側本体布部51Uに結合されている。また、下側円弧補強布62は、その下側円弧補強布62に沿う形状をなす下側円弧結合部64により下側本体布部51Lに結合されている。
【0048】
図5、図7、図11及び図12の少なくとも1つに示すように、平面状に展開させられた状態の上記基布52が上記折り線58に沿って折り返されて、互いに上下方向に重ね合わされた上側本体布部51U及び下側本体布部51Lは、周縁結合部65によって互いに結合されている。この周縁結合部65は、一対の第1周縁結合部66、第2周縁結合部67、及び一対の第3周縁結合部68からなる。
【0049】
両第1周縁結合部66は、互いに幅方向(図5、図7の各上下方向)に離間した状態で前後方向に延びている。第2周縁結合部67は、上記上側円弧結合部63及び下側円弧結合部64に沿って後方へ膨らむ円弧状をなしており、上から下へ順に重ねられた上側本体布部51U、上側円弧補強布61、下側円弧補強布62及び下側本体布部51Lを一体で結合している。第2周縁結合部67の両端部は、上記両第1周縁結合部66の後端部に繋がっている。
【0050】
なお、第2周縁結合部67は、円弧状とは異なる形状、例えば直線状に形成されてもよい。また、本実施形態では、下側本体布部51L及び上側本体布部51Uが折り線58部分で繋がって一体となっているため、第2周縁結合部67は適宜割愛可能である。
【0051】
各第3周縁結合部68は、各第1周縁結合部66の前端部から対向する第1周縁結合部66の前端部へ向けて延びている。
本実施形態では、周縁結合部65の断面を示すにあたり、エアバッグ50の内部構造を示すために、上側円弧補強布61及び下側円弧補強布62間で周縁結合部65を通る面を断面とする場合には、同周縁結合部65での縫糸を、点を一定間隔おきに並べてなる線種(破線の一種)によって表現している(図7参照)。
【0052】
エアバッグ本体51は、上側本体布部51U及び下側本体布部51Lが上記のように周縁結合部65によって結合されることで形成されている。上側本体布部51U及び下側本体布部51Lの前端部は周縁結合部65によって結合されておらず、上側本体布部51U及び下側本体布部51L間であって、両第3周縁結合部68によって挟まれた箇所が開口69(図5参照)となっている。この開口69は、エアバッグ本体51内の前部に配置されるインフレータアセンブリ40のハーネスをエアバッグ本体51の外部へ引出す等のために必要なものである。
【0053】
図4に示すように、上記エアバッグ本体51は、平面状に展開させられた状態で、座クッション17とシートフレーム11との間に配置されている。このエアバッグ本体51の前端部51Fは、座部10の前部(乗員Pの膝部PN)の下方に位置している。この点で、エアバッグ本体51は、一般的なシートクッションエアバッグ装置におけるエアバッグ本体と同様である。また、一般的なシートクッションエアバッグ装置におけるエアバッグ本体の後端部が座部10の前後方向についての中央部付近に位置するのに対し、本実施形態のエアバッグ本体51の後端部51Rは、座部10の後部(乗員Pの臀部PB)の下方に位置している。このように、後端部51Rが座部10の後部に位置することに伴い、エアバッグ本体51ひいてはエアバッグ50が前後に長く、容量の多いものとなっている。
【0054】
<インナバッグ71の構成>
図9(A),(B)に示すように、インナバッグ71の大部分は、略矩形状をなす布(以下「基布72」という)によって構成されている。本実施形態では、この基布72が2枚用いられているが、この枚数に限定されるものではない。各基布72は、エアバッグ本体51と同様の素材からなる織布によって形成されており、高い強度と可撓性とを有している。平面状に展開させられた状態の各基布72の後端部には、巻付け部73が一体に形成されている。この巻付け部73は、エアバッグ本体51の上記巻付け部53と略同一の形状及び大きさを有している。この巻付け部73により、各基布72の形状は、前後方向については非対称となっている。
【0055】
各基布72の前端部であって、幅方向(図9(A)の上下方向)に互いに離間した複数箇所には、上記リテーナ42のボルト43を通すための挿通孔74があけられている。両基布72において、全ての挿通孔74を取り囲む箇所には環状結合部75が設けられている。
【0056】
また、巻付け部73の幅方向に互いに離間した複数箇所には、上記ボルト43を通すための貫通孔76があけられている。隣合う挿通孔74間の間隔、及び隣合う貫通孔76間の間隔は、隣合うボルト43間の間隔と同じである。
【0057】
平面状に展開させられた状態の両基布72の長さ方向についての中央部分には、幅方向に延びる折り線77が設定されている。両基布72は、上記折り線77に沿って折り返されて上下方向に重ね合わされる。平面状に展開させられた状態の両基布72において、この折り線77よりも後側の部分と、前側の部分とを区別するために、ここでは、前者を「上側インナ布部71U」といい、後者を「下側インナ布部71L」というものとする。
【0058】
インナバッグ71の折り線77上には、その折り線77に沿って折り返されたインナバッグ71の内外を連通させ、かつ上記インフレータ41から噴出された膨張用ガスを、後述する第2チャンバ86内の定められた方向(後方)へ向けて放出する放出孔78が設けられている。本実施形態では、この放出孔78が一対設けられているが、この数に限定されるものではない。全ての放出孔78を通過できる膨張用ガスの単位時間当たりの流通量は、インフレータ41から単位時間当たりに噴出される膨張用ガスの量よりも少なく設定されている。両基布72において、各放出孔78の周りには円環状結合部79が設けられている。
【0059】
<インナバッグ71の取付け態様>
インナバッグ71の両巻付け部73は、その貫通孔76を前記貫通孔57に合致させた状態でエアバッグ本体51の両巻付け部53上に重ねられている。そして、エアバッグ本体51の両巻付け部53と、インナバッグ71の両巻付け部73とにおいて、全ての貫通孔57,76を取り囲む箇所には環状結合部81が設けられている。
【0060】
両上側インナ布部71Uは、折り線77から僅かに離れた箇所において幅方向に延びる上側インナ結合部82によって両上側本体布部51Uに結合されている。また、両下側インナ布部71Lは、折り線77から僅かに離れた箇所において幅方向に延びる下側インナ結合部83によって下側本体布部51Lに結合されている。
【0061】
上記エアバッグ本体51の基布52が折り線58に沿って折り返されて、上側本体布部51U及び下側本体布部51Lが互いに上下方向に重ね合わされていることについては、上述した通りである。このエアバッグ本体51の基布52の折り返しに伴い、図10(A),(B)に示すように、インナバッグ71もまた折り線77に沿って折り返されている。この折り返しにより、上側インナ布部71U及び下側インナ布部71Lが、上記上側本体布部51U及び下側本体布部51L間において互いに上下に重ね合わされている。この状態では、インナバッグ71は、エアバッグ本体51の長さ方向についての中央部よりも前側部分に位置している。
【0062】
そして、上側インナ布部71U及び下側インナ布部71Lは、図5及び図11の少なくとも一方に示すように、上述した周縁結合部65の一部によって、上記上側本体布部51U及び下側本体布部51Lに結合(共縫い)されている。より詳しくは、上側インナ布部71U及び下側インナ布部71Lの幅方向(図5の上下方向)についての両側部は、両第1周縁結合部66によって上側本体布部51U及び下側本体布部51Lに結合(共縫い)されている。また、上側インナ布部71U及び下側インナ布部71Lの前側の両角部は、両第3周縁結合部68によって上側本体布部51U及び下側本体布部51Lに結合(共縫い)されている。
【0063】
このように、エアバッグ本体51の上側本体布部51U及び下側本体布部51Lを相互に結合させるための周縁結合部65の一部(第1周縁結合部66及び第3周縁結合部68)が、インナバッグ71の幅方向についての両側部をエアバッグ本体51に結合させる結合部として機能している。表現を変えると、周縁結合部65の一部が、インナバッグ71の幅方向についての両側部をエアバッグ本体51に結合させるための結合部を兼ねている。そのため、上側本体布部51U及び下側本体布部51Lを相互に結合させる際に、インナバッグ71の幅方向についての両側部が一緒に結合される。
【0064】
図7に示すように、インナバッグ71では、両第1周縁結合部66及び両第3周縁結合部68によって囲まれた箇所が、膨張用ガスによって膨張する箇所となる。また、上側インナ布部71U及び下側インナ布部71Lの前端部は周縁結合部65によって結合されておらず、上側インナ布部71U及び下側インナ布部71L間において、両第3周縁結合部68によって挟まれた箇所は開口84となっている。この開口84は、インナバッグ71内に配置されるインフレータアセンブリ40のハーネスをインナバッグ71の外部へ引出す等のために必要なものである。
【0065】
上記のように、エアバッグ本体51にインナバッグ71が結合されたエアバッグ50では、周縁結合部65によって囲まれた箇所が、インフレータ41から膨張用ガスが供給されて膨張する膨張部Cとなっている。この膨張部Cは、図7及び図12の少なくとも一方に示すように、インナバッグ71の後述するテザー87により、インフレータ41の配置されている側のチャンバ(第1チャンバ85)と、配置されていない側のチャンバ(第2チャンバ86)とに区画されている。また、エアバッグ50において周縁結合部65よりも外側となる箇所は、膨張用ガスが供給されず膨張しない非膨張部Dとなっている(図11参照)。
【0066】
また、このエアバッグ50では、インナバッグ71において、上側インナ結合部82と下側インナ結合部83とによって上下方向に挟まれた箇所が、エアバッグ本体51の上下方向の膨張厚みを規制するテザー87を構成している。このテザー87の前後方向についての位置は、第1チャンバ85及び第2チャンバ86の容量を決定する一要素であり、本実施形態では、第1チャンバ85の容量が第2チャンバ86の容量よりも少なくなる位置に設定されている。この位置は、エアバッグ本体51の前後方向についての中央部よりも前側となる。
【0067】
<接触抑制部材90の構成について>
図4及び図6の少なくとも一方に示すように、接触抑制部材90は、上述したように、布からなるエアバッグ50(エアバッグ本体51)が、車両用シートSの支持部Aと接触するのを抑制するためのものである。接触抑制部材90は、支持部Aのなかでも、特に、ワイヤフレーム部15の係止爪との掛け止め部分等、尖った部分を接触抑制の対象としている。
【0068】
接触抑制部材90は1枚のシートからなる。本実施形態では、この接触抑制部材90として、ポリエチレン等の合成樹脂からなる軟質の樹脂シート上にフェルトを積層したものが用いられている。フェルトは、繊維を製織、編成によらず、繊維自体を絡ませて布状にしたものであって、可撓性に富む。
【0069】
接触抑制部材90は平面矩形状をなしており、エアバッグ本体51と同程度の幅(本実施形態では、エアバッグ本体51よりも若干広い幅)を有している。また、接触抑制部材90の前端部90Fは、インナバッグ71の前後方向についての中心部付近(収容ケース16の上端部の後方付近)に位置し、後端部90Rは、エアバッグ本体51の後端部51Rよりも若干後方に位置している。
【0070】
上記接触抑制部材90は、フェルトが上側(エアバッグ50側)となり、樹脂シートが下側(支持部A側)となる姿勢で配置されている。また、接触抑制部材90は、エアバッグ本体51における下側本体布部51Lの下面であって、非膨張部Dの複数の箇所B1,B2,B3,B4に固定されている。
【0071】
これらの箇所B1〜B4において、接触抑制部材90はエアバッグ50に対し、熱溶着されている。この溶着に際しては、接触抑制部材90がエアバッグ本体51の下側本体布部51Lに重ねられる。そして、接触抑制部材90の上記箇所B1〜B4に対応する部分が加熱されて、圧力を加えられることにより、同部分が溶けて下側本体布部51Lに強固に接合される。
【0072】
<エアバッグ50に対するインフレータアセンブリ40の取付け態様>
上述したインフレータアセンブリ40は、図6及び図7の少なくとも一方に示すように、開口69,84を通じて上記インナバッグ71内(エアバッグ本体51内)に挿入され、同インナバッグ71(エアバッグ本体51)の前部(開口69,84の後方近傍)において、幅方向に延びる姿勢で配置されている。リテーナ42の複数本のボルト43が対応する挿通孔74,55に対し上方から下方へ向けて挿通されている。
【0073】
さらに、図6、図12及び図13の少なくとも1つに示すように、エアバッグ本体51の巻付け部53及びインナバッグ71の巻付け部73がインフレータアセンブリ40の外周面に沿って前下方へ巻付けられている。この巻付けにより、インナバッグ71の貫通孔76がエアバッグ本体51の貫通孔57とともにインフレータアセンブリ40の下方に位置している。そして、貫通孔76,57に対し、リテーナ42の対応するボルト43が通されることにより、インナバッグ71の巻付け部73がエアバッグ本体51の巻付け部53とともにボルト43に係止されている。この係止により、エアバッグ本体51及びインナバッグ71の上記開口69,84がともに閉じられるとともに、巻付け部53,73がインフレータアセンブリ40に巻付けられた状態に保持されている。
【0074】
上記のように、インフレータアセンブリ40がエアバッグ50内に取付けられることで、エアバッグモジュールAMが構成されている。このエアバッグモジュールAMは、次の態様で車両用シートSの座部10内に配置され、組付けられている。
【0075】
<エアバッグモジュールAMの配置態様>
図4に示すように、エアバッグ50においてインフレータアセンブリ40の配置された前部は、収容ケース16の収容凹部16A内に収容されている。エアバッグ50において上記前部を除く箇所は、膨張用ガスを充填されることなく平面状に展開させられた状態で、座クッション17と支持部Aとの間に配置されている。
【0076】
<エアバッグモジュールAMの組付け態様>
図13においてインナバッグ71の挿通孔74及び貫通孔76と、エアバッグ本体51の挿通孔55及び貫通孔57とに通されてエアバッグ50の外部に突出している複数本のボルト43は、図4に示すように、収容凹部16Aの底部にあけられた貫通孔16Bに挿通されている。そして、各ボルト43にナット44が螺合されることにより、インフレータアセンブリ40がエアバッグ50と一緒に収容ケース16に締結されている。
【0077】
上述したように、エアバッグ装置は、上記エアバッグモジュールAMのほかに図4に示す衝撃センサ95及び制御装置96を備えている。衝撃センサ95は、加速度センサ等からなり、車両のフロントバンパ(図示略)等に取付けられており、車両の前突等を検出すべく、フロントバンパ等に前方から加わる衝撃を検出する。制御装置96は、衝撃センサ95の検出信号に基づきインフレータ41を制御する。
【0078】
上記のようにして、本実施形態のエアバッグ装置が構成されている。次に、このエアバッグ装置の作用について説明する。
このエアバッグ装置では、前突等によりフロントバンパに対し前方から衝撃が加わらないときには、制御装置96からインフレータ41に対し、これを作動させるための指令信号が出力されず、同インフレータ41から膨張用ガスがエアバッグ50に供給されない。エアバッグ50の前部を除く大部分は、平面状に展開された状態で支持部A及び座クッション17間に配置され続ける(図1、図4参照)。
【0079】
このときには、エアバッグ本体51の下側本体布部51Lに固定された接触抑制部材90は、同下側本体布部51Lと支持部Aとの間に介在する。そのため、エアバッグ50の非膨張時にも下側本体布部51Lが支持部Aに接触することが接触抑制部材90によって抑制される。下側本体布部51Lが支持部A、特に、ワイヤフレーム部15の係止爪との掛け止め部分等、尖った部分との接触により傷付けられることが抑制される。
【0080】
車両の前突等により、同車両に対し前方から衝撃が加わった場合、乗員Pは慣性によって前方へ移動しようとする。この乗員Pは、シートベルト装置30の保持作用によって座部10上に引き留められる。しかし、乗員Pの姿勢によっては、腰部PPがラップベルト部34から外れて前方へ移動しようとすることがある。
【0081】
しかし、上記前方からの衝撃により、フロントバンパに所定値以上の衝撃が加わり、そのことが衝撃センサ95によって検出されると、その検出信号に基づき制御装置96からハーネスを通じてインフレータ41に対し、これを作動させるための指令信号が出力される。この指令信号に応じ、インフレータ41では、高温かつ高圧の膨張用ガスが生成・噴出される。
【0082】
上記膨張用ガスは、図12及び図13に示すように、まず、エアバッグ50において、インフレータ41の配置されている側のチャンバである第1チャンバ85に供給される。第1チャンバ85では、インフレータ41とエアバッグ本体51との間にインナバッグ71が介在している。そのため、第1チャンバ85では、インフレータ41から噴出された高温かつ高圧の膨張用ガスがインナバッグ71によって直接受け止められる。エアバッグ本体51において第1チャンバ85を構成する部分(インナバッグ71の外側となる部分)が、膨張用ガスの高い熱及び圧力を直接受けることはない。
【0083】
膨張用ガスは、放出孔78を通過する際の速度よりも速い速度で第1チャンバ85に充填される。この膨張用ガスの充填により、インナバッグ71が膨張を開始し、それに伴い、エアバッグ本体51において、第1チャンバ85を構成する部分(インナバッグ71の外側となる部分)が図12において二点鎖線で示すように、間接的に膨張させられる。
【0084】
膨張用ガスは、インナバッグ71がある程度膨張した後、放出孔78を通って、エアバッグ50においてインフレータ41の配置されていない側のチャンバである第2チャンバ86に向けて放出される。
【0085】
ここで、本実施形態では、エアバッグ50内を第1チャンバ85及び第2チャンバ86に区画するインナバッグ71のテザー87が、第1チャンバ85の容量が第2チャンバ86の容量よりも少なくなる位置に設定されている。このため、容量の少ない第1チャンバ85が比較的短時間で膨張して内圧が早期に上昇し、それに伴い、第1チャンバ85内の膨張用ガスが放出孔78から第2チャンバ86に放出され始める時期が早まる。その結果、エアバッグ50は前後方向に長く容量の多いものであるが、第2チャンバ86が速いタイミングで膨張を開始することになる。
【0086】
また、インナバッグ71は、同インナバッグ71の幅方向についての両側部において、周縁結合部65(第1周縁結合部66及び第3周縁結合部68)によってエアバッグ本体51に結合されている。このため、インナバッグ71の両側部がエアバッグ本体51に結合されていないもの(特許文献1がこれに該当する)とは異なり、インナバッグ71はインフレータ41からの膨張用ガスを受けても形状変化を起こしにくい。放出孔78の位置が安定し、第2チャンバ86内の定められた方向(後方)へ向けて膨張用ガスが流れるようになる。また、インナバッグ71は、ともに幅方向へ延びる上側インナ結合部82及び下側インナ結合部83によりエアバッグ本体51に結合されている。これらの結合により、膨張用ガスを受けても、インナバッグ71が形状変化をより起こしにくくなる。インナバッグ71の姿勢がより安定し、放出孔78から膨張用ガスが第2チャンバ86の定められた方向(後方)へより一層安定して流れるようになる。
【0087】
インフレータ41からの膨張用ガスによって第1チャンバ85及び第2チャンバ86が膨張すると、その膨張に伴い、エアバッグ本体51の上側本体布部51Uと下側本体布部51Lとの上下方向の間隔が拡がる。
【0088】
ところで、エアバッグ本体51内の中間部に、上側本体布部51U及び下側本体布部51L間を繋ぐものが何らないとすると、膨張用ガスの供給を受けたエアバッグ本体51が上下方向に大きく膨張する(エアバッグ本体51の膨張厚みが大きくなる)。この膨張厚みは、エアバッグ本体51が前後方向に長くなるに従い大きくなる。そのため、本実施形態のように、エアバッグ本体51の後端部51Rが座部10の後部(乗員Pの臀部PB)の下方に位置する、前後に長いエアバッグ本体51では、膨張厚みが過度に大きくなってしまう。
【0089】
しかしながら、本実施形態では、上記上側本体布部51U及び下側本体布部51L間の間隔の拡大に伴い、インナバッグ71において、上側インナ結合部82と下側インナ結合部83とによって挟まれた領域(テザー87)が上下方向に緊張して、エアバッグ本体51の上記膨張厚みを規制する(図12の二点鎖線参照)。
【0090】
そして、上記のようにエアバッグ本体51の膨張厚みを規制されながら、シートフレーム11の支持部Aと座クッション17との間で膨張するエアバッグ50により、座クッション17が押上げられて、座部10の座面10Aが隆起させられる。シートベルト装置30によって車両用シートSに拘束された乗員Pの膝部PNの裏から臀部PBまでの領域が、隆起した座面10Aによって上方へ押圧される。この押圧により押上げられた乗員Pの特に腰部PPが、シートベルト装置30のラップベルト部34に押付けられ、そのラップベルト部34の拘束力が高められる。座部10上で乗員Pの腰部PPが前方へ移動することが規制される。
【0091】
なお、エアバッグ50に設けられた接触抑制部材90は、設けられてないものに比べ、そのエアバッグ50の上記膨張の阻害要因となり得る。
ここで、エアバッグ50と支持部Aとの間に介在する接触抑制部材90では、エアバッグ50側部分がフェルトによって形成されている。このフェルトは、エアバッグ本体51を構成する基布52ほどではないにせよ、樹脂製のシート等よりも可撓性に富む。そのため、上記のように接触抑制部材90のエアバッグ50側部分がこのフェルトによって形成されることで、同接触抑制部材90の可撓性が確保され、接触抑制部材90がエアバッグ50の膨張に追従して撓みやすい。そのため、接触抑制部材90がエアバッグ50の膨張を妨げる程度は小さくてすむ。
【0092】
また、上記接触抑制部材90では、支持部A側部分が軟質の樹脂シートによって形成されている。この樹脂シートは、フェルト等よりも高い強度を有する。そのため、この軟質の樹脂シートにおいて接触抑制部材90が支持部Aと接触することで、エアバッグ50の膨張期間には、エアバッグ50が支持部Aに接触することが確実に抑制される。
【0093】
また、軟質の樹脂シートは、布、フェルト等ほどではないにせよ可撓性を有するため、エアバッグ50の膨張に追従して撓む。そのため、接触抑制部材90がエアバッグ50の膨張を妨げる程度は小さくてすむ。
【0094】
ここで、エアバッグ50において、接触抑制部材90が固定される箇所は、固定されない箇所よりも硬くなる。そのため、エアバッグ50において接触抑制部材90が固定される箇所では、固定されない箇所よりも撓みにくくなる。この点、本実施形態では、接触抑制部材90が、エアバッグ50のうち膨張に関与しない非膨張部Dに固定されていて、膨張部Cには固定されていない。そのため、接触抑制部材90の固定箇所が、エアバッグ50の膨張部Cの撓みやすさに影響を及ぼしにくく、同膨張部Cの膨張が阻害されにくい。なお、非膨張部Dは膨張しない箇所であるため、接触抑制部材90が固定されることで硬くなったとしても、特段の不都合はない。
【0095】
さらに、接触抑制部材90が本実施形態のように1枚のシートからなる場合、その全面において接触抑制部材90をエアバッグ50に固定することも考えられる。しかし、エアバッグ50において接触抑制部材90との固定に関わる面積が大きくなるに従い、エアバッグ50の膨張が妨げられる。この点、1枚のシートからなる接触抑制部材90が互いに離間した複数箇所においてエアバッグ50に固定されている本実施形態では、エアバッグ50の接触抑制部材90との固定に関わる面積が小さく、接触抑制部材90がエアバッグ50の膨張を妨げる程度が小さくなる。
【0096】
接触抑制部材90は、エアバッグ50において、同エアバッグ50が膨張したときに支持部A側となる面(下側本体布部51Lの下面)に設けられていることから、エアバッグ50の膨張期間中のどの段階でもエアバッグ50(下側本体布部51L)と支持部Aとの間に介在する。この接触抑制部材90により、エアバッグ50(下側本体布部51L)が支持部Aに接触することが抑制される。その結果、上述したエアバッグ50の非膨張時と同様、下側本体布部51Lが支持部A、特に、ワイヤフレーム部15の係止爪との掛け止め部分等、尖った部分との接触により傷付けられることが抑制される。
【0097】
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)エアバッグ50において、少なくとも同エアバッグ50が膨張したときに支持部A側となる面(下側本体布部51Lの下面)に、可撓性を有し、かつエアバッグ50の支持部Aとの接触を抑制するための接触抑制部材90を設けている(図4)。
【0098】
そのため、エアバッグ50の展開距離等を考慮して接触抑制部材90を配置した場合と同様の効果(エアバッグ50の支持部Aとの接触抑制)を得ることができる。従って、エアバッグ50の配置や設計とは別に、エアバッグ50の展開距離等を考慮した接触抑制部材90の配置や設計をしなくてもすみ、設計の容易化を図ることができる。
【0099】
(2)エアバッグ50を、インフレータ41から膨張用ガスが供給されて膨張する膨張部Cと、同膨張用ガスが供給されず膨張しない非膨張部Dとによって構成する。そして、接触抑制部材90を、この非膨張部Dにおいてエアバッグ50に固定している(図5、図11)。
【0100】
そのため、エアバッグ50において、接触抑制部材90が固定される箇所は、固定されない箇所よりも硬くなるが、そのことによって膨張部Cの膨張が阻害されるのを抑制することができる。
【0101】
(3)接触抑制部材90を1枚のシートによって形成し、これをエアバッグ50(エアバッグ本体51の下側本体布部51L)の互いに離間した複数の箇所B1〜B4に固定している(図5、図6)。
【0102】
そのため、エアバッグ50の接触抑制部材90との固定に関わる面積を小さくし、接触抑制部材90がエアバッグ50の膨張を妨げる程度を小さくすることができる。
(4)接触抑制部材90のエアバッグ50側部分をフェルトによって形成している。
【0103】
そのため、接触抑制部材90の可撓性をこのフェルトによって確保し、同接触抑制部材90をエアバッグ50の膨張に追従して撓みやすくすることができる。
(5)接触抑制部材90の支持部A側部分を軟質の樹脂シートによって形成している。
【0104】
そのため、エアバッグ50が少なくとも膨張している期間には、そのエアバッグ50が支持部Aに接触するのを確実に抑制することができる。なお、軟質の樹脂シートは可撓性を有するため、エアバッグ50の膨張に追従して撓ませることができ、接触抑制部材90がエアバッグ50の膨張を妨げる程度を最小限に止めることができる。
【0105】
(6)接触抑制部材90を、エアバッグ50に対し熱溶着している。
そのため、接触抑制部材90を溶着箇所においてエアバッグ50に強固に接合させることができる。
【0106】
(7)エアバッグ50を、膨張用ガスを充填されることなく平面状に展開させられた状態で支持部A及び座クッション17間に配置する。そして、接触抑制部材90を、エアバッグ50の支持部A側となる面(下側本体布部51Lの下面)に設けている(図4)。
【0107】
そのため、エアバッグ50の非膨張時にも、エアバッグ50が支持部Aに接触するのを接触抑制部材90によって抑制することができる。
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
【0108】
・各種結合部(無端状結合部56、上側円弧結合部63、下側円弧結合部64、周縁結合部65、環状結合部75,81、円環状結合部79、上側インナ結合部82及び下側インナ結合部83)は、縫糸を用いた縫合とは異なる態様、例えば接着剤を用いた接着、溶着等によって形成されてもよい。
【0109】
・エアバッグ本体51及びインナバッグ71は、折り畳まれた状態で座部10内(座クッション17及びシートフレーム11間)に配置されてもよい。
・前記実施形態では、接触抑制部材90として、エアバッグ50側のみがフェルトによって形成されているものが用いられたが、全体がフェルトによって形成されているものが接触抑制部材90として用いられてもよい。
【0110】
・前記実施形態では、接触抑制部材90として、支持部A側のみが軟質の樹脂シートによって形成されているものが用いられたが、全体が軟質の樹脂シートによって形成されているものが接触抑制部材90として用いられてもよい。
【0111】
・接触抑制部材90は、上述したフェルト及び軟質の樹脂シートとは異なる材料、例えば、布、紙、クッション材等によって形成されたものであってもよい。
・接触抑制部材90は、エアバッグ50の膨張部Cに固定されてもよいし、膨張部Cと非膨張部Dの両方に固定されてもよい。
【0112】
・接触抑制部材90は、複数枚のシートによって形成されてもよい。この場合、エアバッグ50において支持部Aとの接触により特に傷が付きやすい箇所にのみ接触抑制部材90が設けられてもよい。
【0113】
・接触抑制部材90は、熱溶着以外の固定手段によってエアバッグ50に固定されてもよい。
・本発明は、エアバッグ50として、前記実施形態とは異なる構成を有するものが用いられたシートクッションエアバッグ装置にも適用可能である。
【0114】
・本発明は、エアバッグ50の少なくとも一部が、支持部A及び座クッション17間で膨張するシートクッションエアバッグ装置であれば広く適用可能である。
・本発明では、乗員P以外のもの、例えば荷物等が被拘束対象物とされてもよい。この荷物等が被拘束対象物として座部10の上に置かれた場合にも、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0115】
・本発明のシートクッションエアバッグ装置は、乗員Pが着座したときに、車両の前後方向とは異なる方向、例えば直交する方向(車幅方向)を向くように車両用シートSの配置された車両にも適用可能である。
【0116】
・本発明のシートクッションエアバッグ装置は、車両の前席及び後席のいずれについても適用可能である。
・膨張流体発生源として、上記インフレータ41とは異なる構成を有するものが用いられてもよい。また、膨張流体として膨張用ガス以外の流体が用いられてもよい。
【符号の説明】
【0117】
10…座部、10A…座面、11…シートフレーム、17…座クッション、41…インフレータ(膨張流体発生源)、50…エアバッグ、90…接触抑制部材、A…支持部、B1,B2,B3,B4…箇所、C…膨張部、D…非膨張部、P…乗員(被拘束対象物)、S…車両用シート。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
座クッションがシートフレームの支持部により下側から支持されてなる座部を有する車両用シートに適用されるものであり、
膨張流体発生源からの膨張流体により、前記支持部及び前記座クッション間でエアバッグの少なくとも一部を膨張させて前記座部の座面を隆起させ、前記座部上の被拘束対象物の前方への移動を拘束するようにしたシートクッションエアバッグ装置において、
前記エアバッグについて、同エアバッグが膨張したときに前記支持部側となる面には、可撓性を有し、かつ前記エアバッグの前記支持部との接触を抑制するための接触抑制部材が設けられていることを特徴とするシートクッションエアバッグ装置。
【請求項2】
前記エアバッグは、前記膨張流体発生源から前記膨張流体が供給されて膨張する膨張部と、同膨張流体が供給されず膨張しない非膨張部とを備えており、
前記接触抑制部材は前記エアバッグの前記非膨張部に固定されている請求項1に記載のシートクッションエアバッグ装置。
【請求項3】
前記接触抑制部材は1枚のシートからなり、前記シートは、前記エアバッグの互いに離間した複数の箇所に固定されている請求項1又は2に記載のシートクッションエアバッグ装置。
【請求項4】
前記接触抑制部材の少なくとも前記エアバッグ側がフェルトにより形成されている請求項1〜3のいずれか1つに記載のシートクッションエアバッグ装置。
【請求項5】
前記接触抑制部材の少なくとも前記支持部側は軟質の樹脂シートにより形成されている請求項1〜4のいずれか1つに記載のシートクッションエアバッグ装置。
【請求項6】
前記接触抑制部材は、前記エアバッグに対し熱溶着されている請求項4又は5に記載のシートクッションエアバッグ装置。
【請求項7】
前記エアバッグは、前記膨張流体を充填されることなく展開させられた状態で前記支持部及び前記座クッション間に配置されており、
前記接触抑制部材は、前記エアバッグの前記支持部側となる面に設けられている請求項1〜6のいずれか1つに記載のシートクッションエアバッグ装置。
【請求項1】
座クッションがシートフレームの支持部により下側から支持されてなる座部を有する車両用シートに適用されるものであり、
膨張流体発生源からの膨張流体により、前記支持部及び前記座クッション間でエアバッグの少なくとも一部を膨張させて前記座部の座面を隆起させ、前記座部上の被拘束対象物の前方への移動を拘束するようにしたシートクッションエアバッグ装置において、
前記エアバッグについて、同エアバッグが膨張したときに前記支持部側となる面には、可撓性を有し、かつ前記エアバッグの前記支持部との接触を抑制するための接触抑制部材が設けられていることを特徴とするシートクッションエアバッグ装置。
【請求項2】
前記エアバッグは、前記膨張流体発生源から前記膨張流体が供給されて膨張する膨張部と、同膨張流体が供給されず膨張しない非膨張部とを備えており、
前記接触抑制部材は前記エアバッグの前記非膨張部に固定されている請求項1に記載のシートクッションエアバッグ装置。
【請求項3】
前記接触抑制部材は1枚のシートからなり、前記シートは、前記エアバッグの互いに離間した複数の箇所に固定されている請求項1又は2に記載のシートクッションエアバッグ装置。
【請求項4】
前記接触抑制部材の少なくとも前記エアバッグ側がフェルトにより形成されている請求項1〜3のいずれか1つに記載のシートクッションエアバッグ装置。
【請求項5】
前記接触抑制部材の少なくとも前記支持部側は軟質の樹脂シートにより形成されている請求項1〜4のいずれか1つに記載のシートクッションエアバッグ装置。
【請求項6】
前記接触抑制部材は、前記エアバッグに対し熱溶着されている請求項4又は5に記載のシートクッションエアバッグ装置。
【請求項7】
前記エアバッグは、前記膨張流体を充填されることなく展開させられた状態で前記支持部及び前記座クッション間に配置されており、
前記接触抑制部材は、前記エアバッグの前記支持部側となる面に設けられている請求項1〜6のいずれか1つに記載のシートクッションエアバッグ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−153339(P2012−153339A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16610(P2011−16610)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】
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