説明

シート形成性単量体組成物、熱伝導性シート及びその製法

【課題】高い熱伝導性と十分な柔軟性を両立し、熱伝導性シートの表面部分が十分な凝集力を有し、シートを剥がすときに糊残りや電子機器などの破損を生じることがない熱伝導性シートの形成に有用な組成物を提供すること。
【解決手段】組成物が、(A)(メタ)アクリル系単量体又はその部分重合体からなる光重合性成分、(B)熱伝導性フィラー、(C)前記光重合性成分の重合を開始させるための光反応開始剤、及び(D)前記光重合性成分の重合を行うために用いられる電磁線から所定の波長帯域を吸収し、取り除くための光吸収剤を含んでなるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート形成性単量体組成物に関し、特に熱伝導性シートを作製するためのシート形成性単量体組成物に関する。また、本発明は、この単量体組成物を出発材料として使用した熱伝導性シートの製造方法、及び得られる熱伝導性シートに関する。本発明の熱伝導性シートは、放熱シートとして有用であり、ヒートシンク、放熱板などを電子機器、例えば半導体パッケージなどに貼付する際に有利に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、熱伝導性シートは、電子機器において発生した熱を効率よく冷却したり放出させるため、ヒートシンク(冷却体)、放熱板等を電子機器に貼付するために広く用いられている。近年では、電子機器の小型化や高集積化が進んでおり、それにあわせて、熱伝導率が高く、かつ、使用時、柔軟でCPUチップ等に対する負荷が少ない熱伝導性シートの要求が大きくなっている。同時に、電子機器における接点不良をケイ素系化合物が引き起こすことに着目し、接点不良を引き起こす心配のない非シリコーン系樹脂(シロキサンを含む)を使用した熱伝導性シートの要求が大きくなっている。
【0003】
非シリコーン系樹脂を使用した熱伝導性シートは、例えば、特許文献1及び2に記載されている。例えば、特許文献1は、熱可塑性エラストマー(ブロック共重合体)からなるベース樹脂100重量部に対して100〜700重量部の酸化アルミニウム等の熱伝導性フィラー及び400〜900重量部の軟磁性粉末を添加して得た熱伝導性組成物の熱伝導性成形体を記載している。また、特許文献2は、エチルアクリレート系重合体及びエチレン−メチルアクリレート系共重合体からなるバインダ樹脂100重量部に対して100〜150重量部の金属水酸化物系難燃剤、1〜10重量部の赤リン及び500〜700重量部の熱伝導性フィラーの粉末を配合したノンハロゲン難燃性放熱シートを記載している。しかしながら、これらの特許文献に記載された方法では、熱伝導性を向上させるために熱伝導性フィラーを多量に充填しようとすると、高分子成分とフィラーを含む熱伝導性組成物の粘度が非常に高くなり、組成物からシートを成形するとき、混練作業や成形作業が困難であった。
【0004】
熱伝導性フィラーを高充填するための試みも、例えば特許文献3〜5に記載されている。例えば、特許文献3は、(メタ)アルキルアクリレート系単量体と、光重合性開始剤と、熱伝導性で電気絶縁性のフィラー粒子と、高分子系分散剤とを含有する難燃性、熱伝導性及び電気絶縁性の感圧接着剤組成物と、この組成物に対する紫外線や放射線の照射による硬化(光重合)により形成された粘着シートを記載している。また、特許文献4は、100重量部の、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとこれと共重合可能なモノエチレン性単量体とからなる単量体の共重合体、20〜400重量部の可塑剤及び10〜1,000重量部の熱伝導性フィラーを含む剥離可能な熱伝導性感圧接着剤と、これを塗布、転写するなどして形成された接着シートを記載している。重合性組成物に対する紫外線の照射による光重合によって接着シートを製造することもできる。さらに、特許文献5は、炭素数18以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体の重合体からなる結晶性アクリル重合体を含むバインダ成分と、熱伝導性フィラーとを含むアクリル系熱伝導性組成物と、この組成物をシート状に加工したアクリル系熱伝導性シートを記載している。バインダ成分の前駆体(単量体)の重合には、熱重合法又は紫外線重合法を用いることができる。
【0005】
しかしながら、上記した方法にも問題がある。例えば、単量体の重合及び硬化により重合体からなる熱伝導性シートを形成する場合、硬化方法としては、省エネルギーとシート特性制御の容易さの観点から、上記した熱重合法及び紫外線重合法のうち紫外線重合法を用いることが好ましい。しかし、紫外線重合法を使用する場合において、熱伝導性フィラーを単に高充填しただけでは、得られる熱伝導性シートの柔軟性が著しく劣るものとなるという問題がある。よって、例えば特許文献4に例示されているように、熱伝導性組成物に可塑剤を添加することが必要となる。さらに、より十分な柔軟性を発現させるためには、可塑剤を添加しただけでは十分ではなく、熱伝導性組成物に含まれる(メタ)アクリル系単量体又はその部分重合体に含まれる単量体成分の98重量%以上を、ホモポリマーの有するガラス転移点が−40℃以下のアルキル(メタ)アクリル系単量体とすることが好ましい。しかしながら、この場合に得られる熱伝導性シートは、その表面部分の凝集力が著しく低いものとなる。したがって、この技術分野においてしばしば行われているように、熱伝導性シートを電子機器などに貼付し、放熱板などを固定した後に、熱伝導性シートを再び剥がすような場合に、糊残りや電子機器などの破損が生じ易く、シートを剥がすことが非常に困難である。熱伝導性シートの貼り直し作業は頻繁に行われるため、熱伝導性シートの表面部分の凝集力が低いことは、非常に大きな問題である。また、紫外線硬化により得た熱伝導性シートは、その製造方法の特徴から、熱伝導性シートを厚さ方向に観察した場合、シートの表面部分の(メタ)アクリル系重合体成分の分子量のほうが内部のそれよりも低分子量になり易く、また、シートの表面部分における凝集力の低下は、紫外線硬化法のほうが、熱硬化法に比べてさらに著しいものとなる。
【0006】
【特許文献1】特開2001−310984号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2003−238760号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2004−59851号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平10−316953号公報(特許請求の範囲、段落0033〜0041)
【特許文献5】特開2004−315663号公報(特許請求の範囲、段落0024〜0026)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明のある具体的な実施の形態の目的は、上記のような従来技術の問題点を克服して、高い熱伝導性と十分な柔軟性を両立し、かつ熱伝導性シートの表面部分が十分な凝集力を有するような熱伝導性シート形成用単量体組成物を提供することにある。
【0008】
また、本発明のある具体的な実施の形態の目的は、そのような単量体組成物を使用して熱伝導性シートを作製する方法及び得られる熱伝導性シートにある。
【0009】
本発明の上記した目的やその他の種々の具体的な実施の形態の目的は、以下の詳細な説明から容易に理解することができるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、熱伝導性シートを形成する際に有用な組成物を見い出すべく鋭意研究した結果、所定の単量体を光重合によって硬化させるとともに、光重合に用いられる電磁線から所定の波長帯域を吸収しうる光吸収剤を単量体組成物中に配合するのが有用であるということを発見し、以下に詳細に説明する本発明を完成した。
【0011】
本発明は、その1つの面において、下記の成分:
(A)(メタ)アクリル系単量体又はその部分重合体からなる光重合性成分、
(B)熱伝導性フィラー、
(C)前記光重合性成分の重合を開始させるための光反応開始剤、及び
(D)前記光重合性成分の重合を行うために用いられる電磁線から少なくとも部分的に所定の波長帯域を吸収し、取り除くための光吸収剤
を含んでなることを特徴とする熱伝導性シート形成用単量体組成物にある。
【0012】
また、本発明は、そのもう1つの面において、本発明の単量体組成物から形成されたことを特徴とする熱伝導性シートにある。
【0013】
さらに、本発明は、そのもう1つの面において、本発明の単量体組成物に所定の波長帯域の電磁線を常温で照射する工程を含むことを特徴とする熱伝導性シートの製造方法にある。
【発明の効果】
【0014】
本発明の種々の具体的な実施の形態によれば、以下の詳細な説明から理解されるように、多くの注目すべき効果を得ることができる。例えば、本発明では、非シリコーン系樹脂を使用しているので、電子機器の接点不良を起こす心配がない。また、熱重合に比べて省エネルギーであり、シート特性の制御も容易に実施可能である。さらに、本発明では、高い熱伝導性と十分な柔軟性を両立し、しかも熱伝導性シートの表面部分が十分な凝集力を有することができる。さらにまた、本発明では、熱伝導性シートの剥離あるいは貼り直しのときにシートを容易に剥がすことができ、熱伝導性シートからの残留汚染物や糊残りや電子機器などの破損を生じることがない。さらにまた、本発明では、熱伝導性シートの作製において、煩雑な混練作業や成形作業を伴うことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の具体的な実施の形態は、熱伝導性シート形成用単量体組成物と、それを使用した熱伝導性シートと、そのような熱伝導性シートを製造する方法を含む。ここで、「熱伝導性シート」とは、電子技術やその他の技術分野において電子機器など(例えば、半導体パッケージ、半導体装置など)で発生した熱の伝達、放出のために広く使用されているシート、フィルム等の形をした製品を意味し、その形状やサイズが特に限定されることはない。熱伝導性シートは、通常、電子機器などで発生した熱を効率よく冷却したり放出させるため、ヒートシンク(冷却体)、放熱板等を電子機器に貼付するために用いられる。
【0016】
図1は、本発明による熱伝導性シートの1使用例を示した断面図である。図では、例えばシリコン基板のような回路基板1の上に半導体パッケージ12が搭載されている。半導体パッケージ12は、図示しないが、その内部にLSIチップなどの半導体素子やその他の電子部品が内蔵されている。また、半導体パッケージは一例であって、その代わりにトランスやその他の部品が搭載されていてもよい。もちろん、必要に応じて、複数の素子や部品などを任意に組み合わせて搭載してもよい。半導体パッケージ12は、使用中に発熱する傾向があるので、放熱目的で、図示のように多数のフィンを備えた放熱板13が本発明の熱伝導性シート12を介して取り付けられている。なお、図では放熱板13が取り付けられているが、これに代えてヒートシンクを使用してもよい。
【0017】
本発明の熱伝導性シートは、「発明の効果」の項にも説明したように、多くの顕著な作用効果を奏することができ、よって、上記のような放熱手段や冷却手段を電子機器などに取り付ける際に非常に有利に利用することができる。
【0018】
ここで改めて記載すると、本発明の熱伝導性シートでは、高い熱伝導性を達成することができる。例えば、本発明では、約2Wもしくはそれ以上の熱伝導率を達成することができる。ところで、熱伝導性は、通常、熱伝導性フィラーを多量に充填することで高めることができるが、従来の技術では、フィラーの充填量が増加すればするほど塗工液の粘度が増大し、生産性が悪化したが、本発明ではこのような問題を回避することができる。また、フィラーの増量の結果、従来の技術では、得られるシートにおいて柔軟性が乏しくなる傾向にあるが、本発明ではこれも回避でき、よって、取扱い性などが向上する。特に柔軟性が向上させられる結果、圧力に弱くて取扱いに注意を有するボールグリッドアレイ(BGA)技術などにおいても本発明の熱伝導性シートは安心して取り扱うことができる。このことは、初期の圧縮応力によっても示すことができ、本発明の場合、50%の圧縮率において50N/cm以下の圧縮応力を実現することができる。
実際に、本発明の熱伝導性シートでは、良好な柔軟性を達成することができる。よって、本発明のシートは、それを発熱部品と放熱部品あるいは冷却部品の間に挟んだときに、それぞれの部品の形態に応じて任意に変形可能であり、良好な形態応答性を示すことができ、換言すると、部品に負担をかけないですむ。
【0019】
ここで、熱伝導性シートの柔軟性は、「アスカーC」硬度によって表すことが好ましい。アスカーC硬度の測定は、10枚の供試熱伝導性シート(厚さ1mm)を積層して厚さ10mmのサンプルを作製することにより行う。このサンプルをアスカーC硬度計にかけ、荷重1kgで測定した値を「硬度(アスカーC)」という。なお、ここでは、硬度計がサンプルに接触してから10秒後の目盛り値を測定値とした。アスカーC硬度は、最高で100であり、また、取扱い性との関係から、最低で5である。アスカーC硬度は、好ましくは、5〜25であり、さらに好ましくは、約8〜18である。
【0020】
また、本発明の熱伝導性シートは、難燃性にも優れており、電子部品に要求されている基準を満足させることができる。すなわち、本発明によれば、UL耐炎性試験規格UL−94(Underwriters Laboratories, Inc. Standard No. 94, 「デバイス及び電気機器部品用プラスチック材料の難焼性試験」(1966年))において難燃性等級V−0を比較的に簡単に合格することができる。なお、本試験は、サンプルを立てた状態で行う垂直燃焼試験であるため、サンプルが柔らかいほど、厚みが薄いほど、V−0の達成が困難になるが、本発明ではそのような問題も発生しないという点で注目に値する。例えば、サンプルの厚みが約1〜2mmであっても、V−0を達成することができる。
【0021】
さらに、本発明の熱伝導性シートは、作業性にも優れている。すなわち、シートにコシがあり、シートの表層部が強度を有するとともに、糊残りすることがなく、取扱い時に変形することもない。
【0022】
さらに、本発明の熱伝導性シートは、この技術分野において広く使用されているシリコーン樹脂を含まないということにも特徴があり、低汚染性を達成することができる。すなわち、シリコーン樹脂から低分子シロキサンのガスが発生することがないので、そのようなガスによって引き起こされる電子機器の接点不良を回避することができる。
【0023】
さらにまた、本発明の熱伝導性シートは、良好な凝集性を示すことができる。常用のシートでは、シートの凝集性は柔軟性とカウンターバランスとなりやすいところを、本発明ではシートの柔軟性と凝集性を両立させることができる。よって、例えばリワーク時、シートを剥離したとしても糊残りを生じることがない。
【0024】
以上のような特徴的な利点に加えて、本発明の熱伝導性シートは、生産性に優れており、その製造プロセスにおいて、混練作業、成形作業などを容易にかつ短時間で行うことができ、シートの歩留まりもよい。特に本発明では、出発物質として、従来の重合体に代えて反応性単量体を使用しているので、その単量体に熱伝導性フィラーを配合してシート形成性単量体組成物を調製した後、その組成物に電磁線を照射することによって光重合を進行させるだけで、所望とする熱伝導性シートを得ることができる。また、反応性単量体を使用したことでフィラーの充填量を上げることができ、組成物の粘度も低く調整することができる。さらに、光重合によるシートの硬化を採用したことで、常温(ほぼ室温)を含めた現場温度、通常約−10〜50℃の温度で製造プロセスを実施できるばかりでなく、設備面での経済性の向上や、設計のし易さ、品質制御の容易さなどを達成することができる。なお、光重合プロセスは、従来の熱重合プロセスとほぼ同じ時間で実施することができる。
【0025】
本発明による熱伝導性シートは、本発明のフィルム形成性単量体組成物、すなわち、下記の成分:
(A)(メタ)アクリル系単量体又はその部分重合体からなる光重合性成分、
(B)熱伝導性フィラー、
(C)前記光重合性成分の重合を開始させるための光反応開始剤、及び
(D)前記光重合性成分の重合を行うために用いられる電磁線から少なくとも部分的に所定の波長帯域を吸収し、取り除くための光吸収剤
を含むシート形成性単量体組成物から、任意の光重合によって形成することができる。シート形成性単量体組成物は、必要に応じて、追加の成分を有していてもよい。以下、それぞれの成分について説明する。
【0026】
(A)光重合性成分
光重合性成分は、本発明の単量体組成物において、結合剤としての役割を奏することから、バインダ成分とも言うことができる。光重合性成分は、(メタ)アクリル系単量体又はその部分重合体からなり、その詳細は特に限定されるものではない。具体的には、(メタ)アクリル系単量体は、炭素数が20以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル系単量体が好適に用いられ、より詳細には、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
また、得られる熱伝導性組成物の凝集力を高めるために、ホモポリマー(単独重合体)のガラス転移温度が20℃以上である(メタ)アクリル系単量体、および/または多官能(メタ)アクリレートを併用することも好ましい。ホモポリマー(単独重合体)のガラス転移温度が20℃以上である(メタ)アクリル系単量体としては、アクリル酸及びその無水物、メタクリル酸及びその無水物、イタコン酸及びその無水物、マレイン酸及びその無水物などのカルボン酸及びそれらの対応する無水物が挙げられる。また、ホモポリマーのガラス転移温度が20℃以上である(メタ)アクリル系単量体の他の例としては、シアノアルキル(メタ)アクリレート、アクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミドなどの置換アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルピペリジン、アクリロニトリルなどのような極性を有する窒素含有材料が含まれる。さらに他の単量体には、トリシクロデシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(メタ)アクリレート、塩化ビニルなどが含まれる。多官能(メタ)アクリレートとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、1,2−エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0027】
本発明では、得られる熱伝導性シートの柔軟性の観点から、光重合性成分の全量を基準にして、その98重量%以上を、そのホモポリマーの有するガラス転移点が−40℃以下のアルキル(メタ)アクリル系単量体とすることが好ましい。適当なアルキル(メタ)アクリル系単量体の典型的な例として、以下に列挙するものに限定されないが、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレートなどを挙げることができる。
【0028】
光重合性成分は、必要に応じて、(メタ)アクリル系単量体の部分重合体を有していてもよい。(メタ)アクリル系単量体の部分重合体は、かかる光重合成分に熱伝導性フィラーを混合したときに、得られる単量体組成物においてフィラーが沈降してしまうのを防止するうえで有用である。すなわち、(メタ)アクリル系単量体の一部を予め部分重合しておくことで、増粘効果によるフィラー沈降の防止を図ることができる。(メタ)アクリル系単量体の部分重合体の添加量は、通常、単量体組成物の全量の約5〜20重量%であることが好ましい。その結果、単量体組成物の粘度を約100〜10,000センチポイズ(cP)に調整することができる。(メタ)アクリル系単量体の部分重合は、任意の手法で実施することができ、例えば、熱重合、紫外線重合、電子線重合などを挙げることができる。
【0029】
光重合性成分として使用される上記したような(メタ)アクリル系単量体又はその部分重合体は、単独で使用してもよく、2種類もしくはそれ以上を任意に組み合わせて使用してもよい。本発明では、かかる光重合性成分をいろいろな量で使用することができる。光重合性成分の使用量は、例えば水酸化アルミニウムのフィラーの場合は、約5〜30重量%の範囲であり(単量体組成物の全量を基準とする)、好ましくは、約8〜25重量%の範囲である。光重合性成分の使用量が5重量%を下回ると、柔軟性が低下するとともに、場合によってさらに凝集力が低下することとなり、反対に30重量%を上回ると、熱伝導率が不十分となる。
【0030】
(B)熱伝導性フィラー
本発明のシート形成性単量体組成物では、得られる熱伝導性シートにおいて高レベルの熱伝導性を達成するために熱伝導性フィラーが用いられる。この熱伝導性フィラーは、従来の熱伝導性フィラーに比較して高濃度で添加でき、かつ高濃度の添加にもかかわらず、単量体組成物の凝集力を高めることができる。
【0031】
熱伝導性フィラーとしては、例えば、セラミックス、金属酸化物、金属水酸化物、金属などを使用することができる。これらのフィラーは、単量体組成物に均一に分散させて使用することが好ましいので、通常、多角形状、楕円形、球形、針状、平板状、フレーク状などの粉末や粒子など(以下、総称して「粒子」という)で用いられる。フィラー粒子の粒径は、広い範囲で変更することができるというものの、通常、約500μm以下であり、好ましくは、約1〜30μmであり、さらに好ましくは、約1〜15μmである。フィラーの粒径が大きすぎても小さすぎても、得られるシートの強度が低下するので、好ましくない。なお、フィラーの粒径は、ほぼ同じであってもよく、さもなければ、比較的に大きな粒子と比較的に小さな粒子をバランスよく組み合わせたものであってもよい。異なるサイズのフィラーを使用することで、大粒子の間に小粒子を配置し、充填効率の向上を図ってもよい。また、それぞれのフィラー粒子の表面に例えばシラン処理、チタネート処理、ポリマー処理などの処理が施されていてもよい。これらの表面処理により、強度、耐水性、絶縁性などをシートに付与することもできる。
【0032】
本発明の実施においては、充填性、経済性及び難燃性の観点から、金属水酸化物を熱伝導性フィラーとして使用するのが好ましい。適当な金属水酸化物の例は、以下に列挙するものに限定されないが、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどを包含し、とりわけ水酸化アルミニウムが有用である。必要に応じて、アルミナ等の熱伝導性フィラーをさらに添加してもよい。
【0033】
上記した熱伝導性フィラーは、フィルム形成性単量体組成物のなかでいろいろな量で使用することができる。特に、熱伝導性フィラーの含有量は、十分な熱伝導性と難燃性を得るため、光重合性成分(A)、すなわち、(メタ)アクリル系単量体又はその部分重合体の100質量部に対して、約400〜1,000質量部の割合であることが好ましい。さらに好ましくは、熱伝導性フィラーの含有量は、水酸化アルミニウムの場合、光重合性成分(A)の100質量部に対して、約400〜1,000質量部の割合である。フィラーの含有量が400質量部を下回ると、難燃性や導電性が不足するようになり、反対に1,000質量部を上回ると、得られる熱伝導性単量体組成物の粘度が著しく高くなり、成形が困難になる。なお、かかる熱伝導性フィラーの含有量は、単量体組成物の全量を基準にして表した場合、少なくとも約60重量%、好ましくは少なくとも約70重量%の多量であることを意味する。
【0034】
本発明では、熱伝導性フィラーの使用が必須である。加えて、必要ならば、その他の特性のフィラーを追加的に使用してもよい。すなわち、本発明では、光重合性成分(A)の重合を行うために用いられる電磁線から所定の波長帯域を吸収し、取り除くために光吸収剤(D)を使用するが、もしも光吸収剤と同じ機能が得られるのであれば、電磁波吸収性フィラーを補助的に使用してもよい。電磁波吸収性フィラーとしては、例えば、ソフトフェライト化合物、難磁性金属、カーボン粉末などを挙げることができる。
【0035】
(C)光反応開始剤
本発明のシート形成性単量体組成物では、光重合性成分の重合を開始させるため、光反応開始剤が用いられる。光反応開始剤は、光重合性成分(A)、すなわち、(メタ)アクリル系単量体又はその部分重合体の重合特性に応じて任意の光反応開始化合物をいろいろな量で使用することができる。
【0036】
本発明の実施において、光重合のため、好ましくは紫外線が露光電磁線として使用されるが、これにあった化合物を光反応開始剤として使用するのが好ましい。特に本発明では、光重合性成分の重合を行うため、紫外線から所定の波長帯域を取り除いた後の紫外線を使用するので、約400〜450nmの波長領域に吸収を有するホスフォンオキサイド系化合物を光反応開始剤として使用するのが有利である。かかるホスフォンオキサイド系化合物の典型例として、以下に列挙するものに限定されるわけではないが、ビス(2,4,6−トリメチルベンジル)フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンジルジフェニルホスフィンオキサイドなどを挙げることができる。これらの光反応開始剤は、単独で使用してもよく、2種類もしくはそれ以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0037】
光反応開始剤は、上記したように、フィルム形成性単量体組成物のなかでいろいろな量で使用することができる。光反応開始剤の含有量は、通常、光重合性成分(A)、すなわち、(メタ)アクリル系単量体又はその部分重合体の100質量部に対して、約0.05〜1.0質量部の割合であることが好ましい。さらに好ましくは、光反応開始剤の含有量は、光重合性成分(A)の100質量部に対して、約0.1〜0.6質量部の割合である。光反応開始剤の含有量が0.05質量部を下回ると、反応転化率が低下し、シートのアクリル臭が強くなるようになり、反対に1.0質量部を上回ると、シートの凝集力が低下し、作業性が悪化する。
【0038】
(D)光吸収剤
本発明のシート形成性単量体組成物では、光重合性成分の重合を行うために用いられる電磁線から所定の波長帯域を吸収し、取り除くために光吸収剤が用いられる。ここで、電磁線から所定の波長帯域を吸収し、取り除く必要性を、本発明の実施において電磁線として有利に使用できる紫外線を例にとって、図3及び図4を参照しながら説明する。
【0039】
図3は、熱伝導性シート10に熱伝導性フィラー4が、従来技術におけるように沈降すすることなく、本発明に従いほぼ均一に分散した状態を模式的に示している。なお、ここでは、光重合性成分の重合を行うために紫外線が用いられ、また、熱伝導性シート10は、それに紫外線を照射して光重合による硬化を進めている状態、すなわち、未硬化あるいは硬化途中の熱伝導性シート10(シート状に付形された後のシート形成性単量体組成物)の状態を示している。
【0040】
通常、未硬化あるいは硬化途中の熱伝導性シート10に紫外線を照射すると、図示されるように、比較的に短い波長を有する紫外線(S−UV)と比較的に長い波長を有する紫外線(L−UV)とが同時にシート10に照射されることとなる。ここで考察するに、短波長の紫外線(S−UV)は、散乱し易く、シート10の表面付近において顕著な散乱現象を示し、表面付近の反応開始点が多くなり、その結果、表面付近が低分子量となり、凝集力が低下する。凝集力の低下は、糊残りなどの問題に関係してくる。一方、長波長の紫外線(L−UV)は、散乱しがたく、図示される通り、途中に存在するフィラー4の影響を被ることなく、そのまま表面から内部に向けて直進可能である。
【0041】
このような状況下において、最近における電子機器の分野における技術を考慮しなければならない。すなわち、電子機器に対して熱伝導性シートを介して放熱板などを取り付ける場合、その電子機器が例えばBGAチップなどであるとすると、放熱板などの取り付け時の初期の圧縮応力が問題となる。通常、熱伝導性シートは電子機器に押し付けて使用されるが、そのときに、慎重に取り扱ったとしても、余計な負荷がかかり、チップが変形したり電気的性能が低下したりするおそれがある。このような問題を回避するため、熱伝導性シートの初期圧縮応力は、50N/cm以下であることが望ましい。ところが、実際には、上記のような紫外線の波長が影響して、所望の初期圧縮応力を達成することができない。よって、熱伝導性及びコストはそのまま維持しつつ、50%圧縮時に初期圧縮応力を50N/cm以下に低減しうる熱伝導性シートを開発することが本発明者らの課題としてあった。
【0042】
本発明者らは、熱伝導性シートの表面における凝集力の低下の問題を圧縮応力に影響をあまり与えずに解消することを検討した。検討の結果、紫外線からそれに含まれる短波長の紫外線(S−UV)を取り除けば、シートの表面付近も凝集力が向上することが考えられた。
【0043】
図4を参照すると、紫外線の波長は一般的に常約180〜460nmの範囲であるが、図示の紫外線Iは、300nm近傍から400nm近傍までの波長範囲を有している。図中、波長350nmを下回る領域Aが、本発明でいう所定の波長帯域、特に短波長の紫外線領域(S−UV)である。一方、波長350nmを上回る領域Bが、長波長の紫外線領域(L−UV)である。紫外線から短波長の紫外線領域(S−UV)を取り除くかもしくは減少させる一方で、長波長の紫外線領域(L−UV)を残すということが本発明のコンセプトである。紫外線から短波長の紫外線領域(S−UV)を取り除く技術として、本発明では特に、ここで説明する光吸収剤を有利に使用することができる。なお、必要ならば、光吸収剤の使用に代えて、紫外線そのものを本発明の実施に好適なように変形してもよい。例えば、光重合性成分の重合を行うために用いられる紫外線として、すでにそれに好適な波長をもった特定の紫外線を使用するか、さもなければ、照射前の紫外線をフィルタもしくは分光手段にかけて、不要なあるいは悪影響を及ぼす波長帯域のみを選択的に除去してもよい。
【0044】
電磁線から所定の波長帯域を吸収し、取り除くため、いろいろな光吸収剤をシート形成性単量体組成物において使用することができる。光吸収剤の種類及び使用量は、光重合性成分の種類や性質などに応じて任意に変更することができる。本発明の実施には、上記から理解されるように、電磁線として紫外線が有利に用いられ、また、その紫外線から短波長の紫外線領域(S−UV)が選択的に取り除かれる。短波長の紫外線領域(S−UV)とは、通常、約345nmよりも短い波長の紫外線帯域である。よって、本発明では、光吸収剤として、紫外線から約345nmよりも短い波長の帯域を取り除き得る化合物(紫外線吸収剤)を有利に使用することができる。
【0045】
紫外線から約345nmよりも短い波長の帯域を取り除き得る紫外線吸収剤として、いろいろな化合物を使用することができる。紫外線吸収剤の例としては、以下に列挙するものに限定されないが、トリアジン系化合物などを挙げることができ、とりわけトリアジン系化合物を有利に使用することができる。トリアジン系化合物の典型例は、例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の「チヌビン(TINUVIN)、登録商標」シリーズの紫外線吸収剤、例えばTINUVIN400、TINUVIN405などである。
【0046】
光吸収剤は、フィルム形成性単量体組成物のなかでいろいろな量で使用することができる。光吸収剤の含有量は、通常、光重合性成分(A)、すなわち、(メタ)アクリル系単量体又はその部分重合体の100質量部に対して、約0.5〜6質量部の割合であることが好ましい。さらに好ましくは、光吸収剤の含有量は、光重合性成分(A)の100質量部に対して、約1〜5質量部の割合である。光吸収剤の含有量が0.5質量部を下回ると、シートの凝集力が低下し、作業性が悪化するようになり、反対に5質量部を上回ると、反応転化率が低下し、シートのアクリル臭が強くなる。なお、光吸収剤は、単独で使用してもよく、2種類もしくはそれ以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0047】
(E)可塑剤
本発明のフィルム形成性単量体組成物は、光重合性成分(A)、熱伝導性フィラー(B)、光反応開始剤(C)及び光吸収剤(D)に加えて、フィルム形成の分野において一般的に使用されている可塑剤をさらに有することができる。可塑剤は、柔軟性の付与を目的としたものであり、耐熱性の観点から、その沸点が150℃以上であるものが好ましい。
沸点が150℃を下回る可塑剤を使用すると、熱伝導性シートの長期使用中に可塑剤の蒸発が発生し、電子部品などを汚染する可能性がある。適当な可塑剤の例として、以下に列挙するものに限定されないが、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、テトラエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキソネートなどを挙げることができる。可塑剤は、単独で使用してもよく、2種類もしくはそれ以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0048】
可塑剤は、フィルム形成性単量体組成物のなかでいろいろな量で使用することができる。可塑剤の含有量は、通常、光重合性成分(A)、すなわち、(メタ)アクリル系単量体又はその部分重合体の100質量部に対して、約40〜200質量部の割合であることが好ましい。さらに好ましくは、可塑剤の含有量は、光重合性成分(A)の100質量部に対して、約40〜120質量部の割合である。可塑剤の含有量が40質量部を下回ると、シートに対して十分な柔軟性を付与することができず、反対に200質量部を上回ると、シートの凝集力が著しく低下し、作業性が悪化する。
【0049】
(F)その他の成分
本発明のシート形成性単量体組成物では、必要に応じて、熱伝導性シートの分野で使用されている任意の添加剤を使用することもできる。適当な添加剤として、例えば、酸化防止剤、金属不活性化剤、難燃剤、粘着付与剤、沈降防止剤、チクソトロープ剤、界面活性剤、消泡剤、着色剤、帯電防止剤などを挙げることができる。
【0050】
本発明によれば、上記のようなシート形成性単量体組成物を出発物質として使用して、その光重合により本発明の熱伝導性シートを作製することができる。
【0051】
熱伝導性シートは、本発明の範囲内において、いろいろな手法を使用して作製することができる。一般的には、上記の成分を混合装置に一括して添加するかもしくは添加順序を任意にずらして添加し、さらに得られた混合物を入念に混練して目的とするシート形成性単量体組成物を調製する。混合物の混練には、市販の混練装置、例えばプラネタリーミキサーなどを使用することができる。混練後、得られた単量体組成物からシートを成形する。シートの成形には、例えば、カレンダー成形やプレス成形を使用することができる。これらの成形法は、慣用の手法を使用して実施できる。例えばカレンダー成形は、単量体組成物に対して剥離性を有するかもしくは剥離処理した支持体、例えばライナーにシート形成性単量体組成物を所定の厚さで塗布して、未硬化の単量体組成物の塗膜を形成する。支持体としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムやその他のプラスチックフィルムを有利に使用することができるが、金属箔などを使用してもよい。但し、後段の工程で光重合のための電磁線を照射するので、そこで使用される電磁線が透過可能な性質を備えた、すなわち、電磁線に対して透明な支持体を使用するのが有利である。塗布手段としては、例えば、ダイコート、ローラーコートなどを挙げることができる。単量体組成物の塗膜の厚さは、所望とする熱伝導性シートの厚さに応じて任意に変更可能である。
【0052】
単量体組成物の塗膜の形成後、それを光重合により硬化させて熱伝導性シートを形成する。光重合には、好ましくは、紫外線重合が用いられるが、光重合性成分の種類に応じてその他の電磁線を使用してもよい。使用可能な電磁線の一例を示すと、アルファ線、ガンマ線、中性子線などである。要は、用いられる電磁線が、光重合時、本発明で意図する方向で光重合性成分の重合を惹起し得るか否かが重要である。紫外線源として、いろいろな光源を使用することができるが、一般的には、入手の容易性や価格などの観点から、水銀アーク、低圧、中圧及び高圧水銀ランプ、水銀灯、メタルハライドランプなどを有利に使用することができる。また、電磁線の照射強度及び照射時間は、光重合性成分の種類、塗膜の厚さなどのファクターに応じて任意に変更可能である。例えば紫外線を例にとると、照射強度は、通常、約0.1〜100mW/cmの範囲であり、好ましくは約0.3〜10mW/cmの範囲である。また、紫外線の照射時間は、通常、約5〜30分間である。光重合工程は、通常、20〜50℃の温度で行われる。
【0053】
光重合の結果、目的とする熱伝導性シートが得られる。熱伝導性シートの厚さは、広い範囲で変更することができるが、製造可能性、取扱い性、そして電子機器に対する使用などの観点から、なるべく薄く使用できることが好ましい。熱伝導性シートの厚さは、通常、少なくとも0.1mmであり、最高で約10.0mmである。熱伝導性シートの厚さは、好ましくは約0.5〜5.0mmの範囲であり、さらに好ましくは約1.0〜2.5mmの範囲である。
【0054】
熱伝導性シートは、通常、単層で用いられるけれども、必要に応じて、2層もしくはそれ以上の多層で使用することもできる。図2は、低硬度の第1の熱伝導性シート層(本発明の熱伝導性シート)1と高硬度の第2の熱伝導性シート層2とから熱伝導性シート10を構成した例であり、熱伝導性シート10は、PETライナー3によって支持されている。第1の熱伝導性シート層の厚さは、いろいろに変更できるが、通常、約1.0〜2.0mmの範囲である。また、第2の熱伝導性シート層の厚さは、通常、第1の熱伝導性シート層よりも薄くて、約0.1〜0.2mmの範囲である。さらに、第2の熱伝導性シート層は、従来の熱伝導性シートであってよく、その詳細が特に限定されることはない。このような熱伝導性複合シートは、常用の積層技術を使用して作製することができる。第1の熱伝導性シート層に対して、それよりも高硬度の第2の熱伝導性シート層を積層した結果、熱伝導性シートの取扱い性が向上し、変形を防止することもできる。なお、図示の例は、少なくとも一方の熱伝導性シート層が本発明のシートの例であるが、第1及び第2のシート層の両方が本発明のシートであってもよい。
【0055】
本発明による熱伝導性シートは、その優れた特性により、電子分野をはじめとしたいろいろな技術分野において有利に使用することができる。熱伝導性シートは、好ましくは、電子機器、例えば半導体パッケージ、パワートランジスタ、半導体チップ(ICチップ、LSIチップ、VLSIチップ等)、中央処理装置(CPU)などにヒートシンクや放熱板などを取り付けるときに有利に使用することができる。もちろん、ここで使用されるヒートシンクや放熱板などは、その形態やサイズなどが限定されることはない。
【実施例】
【0056】
引き続いて、本発明をその実施例を参照して説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものでない。
【0057】
〔出発成分〕
本実施例では、シート形成性単量体組成物を調製するため、次のような出発成分を使用した。
【0058】
光重合性成分:
EHA(2−エチルヘキシルアクリレート)
アクリル酸
【0059】
架橋剤:
1,6−ヘキサンジオールジアクリレート
【0060】
可塑剤:
テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキソネート
【0061】
光反応開始剤:
Irgacure(イルガキュア)819、商品名、チバ・スペシャルテイ・ケミカルズ社製
Irgacure(イルガキュア)651、商品名、チバ・スペシャルテイ・ケミカルズ社製
【0062】
カップリング剤:
Titacoat(チタコート)S−151、チタネートカップリング剤の商品名、日本曹達社製
【0063】
紫外線吸収剤:
TINUVIN(チヌビン)400、商品名、チバ・スペシャルテイ・ケミカルズ社製
【0064】
熱伝導性フィラー:
水酸化アルミニウム(平均粒径:4μm)
【0065】
実施例1
下記の第1表に記載するように、100重量部の光反応性成分:EHA(2−エチルヘキシルアクリレート)、0.1重量部の架橋剤:1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、60重量部の可塑剤:テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキソネート、0.4重量部の光反応開始剤:Irgacure 819、4重量部のカップリング剤:Titacoat S−151、4重量部の紫外線吸収剤:TINUVIN 400及び600重量部の熱伝導性フィラー:水酸化アルミニウムを出発成分として用意した。これらの出発成分をプラネタリーミキサーに一括して仕込み、50mmHgの減圧下に30分間にわたって混練した。
【0066】
得られた熱伝導性組成物を、それぞれシリコーン剥離剤で処理された2枚の透明なポリエチレンテレフタレート(PET)ライナー(約50μm厚)の間に挟み、シート状にカレンダー成形した。さらに、2枚のPETライナーの内側に熱伝導性組成物のシートを保持したまま、0.3mW/cmの照射強度の紫外線をシートの両面にそれぞれ6分間にわたって照射し、さらに続けて、7.0mW/cmの照射強度の紫外線をシートの両面にそれぞれ10分間にわたって照射した。熱伝導性組成物のシートが光重合により硬化し、厚さ1mmのアクリル系熱伝導性シートが得られた。
【0067】
比較例1〜5
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例では、比較のため、下記の第1表に記載のように出発成分を変更した。厚さ1mmのアクリル系熱伝導性シートが得られた。
【0068】
【表1】

【0069】
試験例1
前記実施例1及び比較例1〜5で作製したアクリル系熱伝導性シートについて、下記の手法により、(1)熱伝導率、(2)シート硬度及び(3)シート表面の凝集力を評価したところ、下記の第2表に記載するような評価結果が得られた。
【0070】
〔熱伝導率の測定〕
それぞれのアクリル系熱伝導性シート(厚さ:L(m))から縦0.01m×横0.01mの正方形の切片(測定面積:1.0×10−4)を作製し、測定試料とする。作製した試料を発熱板と冷却板で挟み、7.6×10N/mの一定加重の下、4.8Wの電力を加えて5分間にわたって保持する。このとき、発熱板と冷却板の温度差を測定し、次式により熱抵抗Rを求める。
【0071】
(K・m/W)=温度差(K)×測定面積(m)/電力(W)
【0072】
さらに、上記した切片を2枚積層したサンプルを作製し、厚さが2L(m)の試料の熱抵抗R2L(K・m/W)を上記と同様にして測定する。次いで、得られた熱抵抗R及びR2Lを用いて、次式により熱伝導率λ(W/m・K)を算出する。
【0073】
λ(W/m・K)=L(m)/〔R2L(K・m/W)−R(K・m/W)〕
【0074】
〔シート硬度の測定〕
それぞれのアクリル系熱伝導性シートを10枚積層して測定用サンプルとし、アスカーC硬度計(高分子計器社製)によってサンプルの硬度を荷重1kgで測定する。この際に、硬度計がサンプルに接触してから10秒後の目盛り値を測定値とする。なお、アスカーC硬度は、その値が小さいほど柔軟性であることを意味する。
【0075】
〔シート表面の凝集力の測定〕
それぞれのアクリル系熱伝導性シートについて、2枚のうちの片面のPETライナーを剥がして、その剥離面に片面テープ#851A(住友スリーエム社製)を貼り付け、さらに200gのローラーを一往復させて圧着する。片面テープを圧着してから1分間後に、そのテープの一方の端をもって180°方向に300mm/分程度の速度で、手でもってテープを剥離する。テープを剥離した後に、そのテープの表面に付着物があるか否かを目視によって観察する。ここで、付着物がすくないほど、熱伝導性シートの表面の凝集力が強いことを意味する。なお、本例では、テープ表面への付着物が面積率で2%未満のものを「良好」、2%以上10%未満のものを「可」、そして10%以上のものを「不可」とした。
【0076】
【表2】

【0077】
上記第2表に記載の評価結果から理解することができるように、実施例1(本発明例)に記載のように出発成分を組み合わせて使用すると、熱伝導率、シート硬度及びシート表面の凝集力のすべてにおいて良好な結果を得ることができる。
【0078】
比較例6及び7、実施例2〜4
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例では、熱伝導性フィラーの添加量が熱伝導率に及ぼす影響を考察するため、熱導電性フィラーの含有量を、下記の第3表に記載のように、熱伝導性組成物の全量を基準にして熱伝導性フィラー(水酸化アルミニウム)の含有量が50、57、62、65及び70体積%となるように変更した。なお、熱伝導性フィラーの含有量は、水酸化アルミニウムの比重を2.4g/cm、マトリックス部分の比重を1.0g/cmとして算出した。それぞれの熱伝導性シートの熱伝導率を上記の方法によって測定したところ、下記の第3表に記載のような測定結果が得られた。さらに、厚さ1mmのサンプルについて、UL耐炎性試験規格UL−94に従って難燃性を試験したところ、次のような測定結果が得られた。
【0079】
【表3】

【0080】
上記第3表の測定結果から理解されるように、熱伝導性フィラーとして使用した水酸化アルミニウムは、難燃性の観点から、50体積%以上であることが望ましいが、実施例2〜4(本発明例)では、この要件を満たすとともに、2.0(W/m・K)を上回る好ましい熱伝導率を保証することができる。
【0081】
実施例5
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例では、熱伝導性フィラーの添加量を同一としたときに、可塑剤、紫外線吸収剤及び架橋剤の含有量がシート硬度及びシート表面の凝集力に及ぼす影響を考察するため、それらの含有量を下記の第4表に記載のように変更した。なお、得られた測定結果の評価をわかりやすくするために、可塑剤の量は40、60又は80重量部、紫外線吸収剤の量は1、3又は6重量部、そして架橋剤の量は0.1、0.2又は0.3重量部に設定した。下記の第4表〜第6表に記載のような測定結果が得られた。
【0082】
【表4】

【0083】
【表5】

【0084】
【表6】

【0085】
上記第4表〜第6表に記載のような測定結果から、ケース11及び23が特に好ましく、ケース14及び24も好ましいことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明による熱伝導性シートの1使用例を示した断面図である。
【図2】本発明による熱伝導性シートの一例を示した断面図である。
【図3】熱伝導性シートのUV硬化時の紫外線光の挙動を模式的に示した断面図である。
【図4】紫外線光の発光スペクトルを示したスペクトル図である。
【符号の説明】
【0087】
1 低硬度の熱伝導性シート層
2 高硬度の熱伝導性シート層
3 ライナー
4 熱伝導性フィラー
10 熱伝導性シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分:
(A)(メタ)アクリル系単量体又はその部分重合体からなる光重合性成分、
(B)熱伝導性フィラー、
(C)前記光重合性成分の重合を開始させるための光反応開始剤、及び
(D)前記光重合性成分の重合を行うために用いられる電磁線から少なくとも部分的に所定の波長帯域を吸収し、取り除くための光吸収剤
を含んでなることを特徴とする熱伝導性シート作製用シート形成性単量体組成物。
【請求項2】
前記光重合性成分(A)において、(メタ)アクリル系単量体は、そのホモポリマーが−40℃以下のガラス転移温度を有している、請求項1に記載の単量体組成物。
【請求項3】
前記熱伝導性フィラー(B)は、100質量部の前記光重合性成分(A)に対して、400〜1,000質量部の割合で含まれる、請求項1又は2に記載の単量体組成物。
【請求項4】
前記電磁線が紫外線である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の単量体組成物。
【請求項5】
前記電磁線が紫外線であり、かつ前記光吸収剤(D)は、その紫外線から345nmよりも短い波長の帯域を少なくとも部分的に取り除き得る化合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の単量体組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のシート形成性単量体組成物から形成されたことを特徴とする熱伝導性シート。
【請求項7】
前記単量体組成物に所定の波長帯域の電磁線を照射することによって現場温度で形成されたものである、請求項6に記載の熱伝導性シート。
【請求項8】
多層構造を有している、請求項6又は7に記載の熱伝導性シート。
【請求項9】
低硬度の第1の熱伝導性シート層及び高硬度の第2の熱伝導性シート層を少なくとも有しており、かつ前記第1の熱伝導性シート層が少なくとも該熱伝導性シートからなる、請求項6〜8のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の単量体組成物に所定の波長帯域の電磁線を現場温度で照射する工程を含むことを特徴とする熱伝導性シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−111053(P2008−111053A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−295376(P2006−295376)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】