説明

シート状物の製造方法

【課題】連続的にスムーズに変化する模様を有するシート状物を、効率よく製造すること。
【解決手段】支持体上に非球状磁性顔料を含有する高分子弾性体溶液を塗布し、支持体の裏面において磁力を有する物体が運動することにより模様を形成し、乾燥してフィルムとし、次いで該フィルムを基材に張り合わせるシート状物の製造方法。さらには、支持体が長尺シートロールであって、フィルムを張り合わせる基材が長尺シート基材であることが好ましく、加えて支持体の巻き出し部と巻き取り部の中間部にてキャスト法を行いフィルムとし、次いで該フィルムを基材に張り合わせる方法であることや、磁力を有する物体の運動が支持体の走行方向に対し、直角方向の成分を含む運動であることが好ましい。また、非球状磁性顔料が薄板状であることや、板状マイカに強磁性体をコーティングしたものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続的な模様を有するシート状物の製造方法に関し、さらに詳しくは連続的にスムーズに変化する模様を有し、人工皮革に最適なシート状物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料中に磁性材料の粉末を混入させ、これを用いた塗膜に磁石を作用させて磁性材料の分布を変える事により、図形や模様を形成する方法が知られている。磁性材料を含む塗膜に図形や模様の刻印された磁石を作用させることにより、図形を形成する方法である。均一な塗膜に磁力を作用させることにより、磁力の作用を受けた部分の磁性顔料が移動し、分布が変化したり配向が変わるので他の部分との状態が変わり、図形や模様を形成することができるのである。
【0003】
例えば特許文献1では、塗膜の塗着一分後の塗膜固形分を70重量%以下にコントロールすることにより、塗膜中の磁性顔料の動きの制約を小さくし、模様を浮き上がらせる方法が開示されている。しかしこのように塗膜固形分を小さくしたとしても、まだ磁石を作用させる時間が数分間は必要であり、効率よく生産をできないという問題があった。
【0004】
また、一定面積の図柄の場合は何とかできるかも知れないが、長尺シート状物の生産には不向きな方法であった。特に長尺シート状物の連続生産を試みた場合には、図形や模様の刻印された磁石を一定面積ごとに上下させて、接触と移動とを繰り返す工程などが必要であり、大掛かりでかつ複雑な装置とならざるを得ないという問題があったのである。
【0005】
さらに例え連続生産が行えたとしても、一定面積の磁石を用いた繰り返し生産では、どうしても継ぎ目が発生し、また単調な図形の繰り返しとならざるを得ず、長さ方向にスムーズ変化する、連続模様を有する長尺シート状物を生産することができない、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−176452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
連続的にスムーズに変化する模様を有するシート状物を効率よく製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のシート状物の製造方法は、支持体上に非球状磁性顔料を含有する高分子弾性体溶液を塗布し、支持体の裏面において磁力を有する物体が運動することにより模様を形成し、乾燥してフィルムとし、次いで該フィルムを基材に張り合わせることを特徴とする。
【0009】
さらには、支持体が長尺シートロールであって、フィルムを張り合わせる基材が長尺シート基材であることが好ましく、加えて支持体の巻き出し部と巻き取り部の中間部にて高分子弾性体溶液の塗布、乾燥を行いフィルムとし、次いで該フィルムを基材に張り合わせる方法であることや、磁力を有する物体の運動が支持体の走行方向に対し、直角方向の成分を含む運動であることが好ましい。
【0010】
また、磁力を有する物体の運動が往復運動であることや、非球状磁性顔料が薄板状であること、非球状磁性顔料が板状マイカに強磁性体をコーティングしたものであることが好ましい。磁力を有する物体が永久磁石であることや、高分子弾性溶液中の非球状磁性顔料の固形分含有量が5〜50重量%であること、支持体上の高分子弾性体溶液中において、非球状磁性顔料が配向していることが好ましい。支持体が離型紙であることや、高分子弾性体がポリウレタンであること、基材が繊維と高分子弾性体からなるものであることが好ましい。
【0011】
もう一つの本発明であるキャストフィルムの製造方法は、支持体上に高分子弾性体溶液を塗布し乾燥するキャスト法によるフィルムの製造方法であって、高分子弾性体溶液が非球状磁性顔料を含有し、支持体の裏面において磁力を有する物体が運動することにより模様を形成することを特徴とする。さらには、支持体が長尺シートであって、巻き出し部と巻き取り部の中間にてキャスト法によるフィルムの製造が行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、連続的にスムーズに変化する模様を有するシート状物を、効率よく製造する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のシート状物の製造方法は、支持体上に非球状磁性顔料を含有する高分子弾性体溶液を塗布し、支持体の裏面において磁力を有する物体が運動することにより模様を形成し、乾燥してフィルムとし、次いで該フィルムを基材に張り合わせる製造方法である。このようにフィルムを基材に張り合わせる方法は、一般にラミネート法と呼ばれる方法であり、フィルムと同様の高分子弾性体からなる接着剤を用いることにより、より一体感の優れたシート状物とすることができる。
【0014】
ラミネート法においては、通常生産ライン上を支持体(離型紙)が流れ連続生産が行われるのであるが、本発明においても、支持体が長尺シートロールであって、フィルムを張り合わせる基材が長尺シート基材であることや、支持体の巻き出し部と巻き取り部の中間部にて塗布、乾燥を行い、いわゆるキャスト法を行ってフィルムとし、次いで該フィルムを基材に張り合わせる方法であることが、大量生産を行なう上で好ましい方法である。
【0015】
またもう一つの本発明のキャストフィルムの製造方法は、上記のラミネート法に適したフィルムの製造方法であり、支持体上に高分子弾性体溶液を塗布し乾燥するキャスト法によるフィルムの製造方法であって、高分子弾性体溶液が非球状磁性顔料を含有し、支持体の裏面において磁力を有する物体が運動することにより模様を形成するものである。さらには、支持体が長尺シートであって、巻き出し部と巻き取り部の中間にてキャスト法によるフィルムの製造が行われるものであることが好ましい。
【0016】
本発明においては、特にその支持体(離型紙)の裏面から磁力を有する物体を作用させ、かつその物体を運動させるため、長さ方向に連続的に変化した模様を、きわめて容易に得ることが可能となったのである。さらには、磁力を有する物体の運動が工程上の支持体(離型紙)の流れる方向に対し直角方向の成分を含む運動であることや、磁力を有する物体の運動が往復運動であることが好ましい。さらには単純に直角方向のみの往復運動であることが好ましい。このように磁力を有する物体を運動させることにより、支持体(離型紙)上の高分子弾性体中の非球状磁性体顔料の方向性が磁力線によって変化し、滑らかな動きがあり、かつ連続性を有する模様が形成されるのである。
【0017】
この本発明の製造方法において用いられる非球状磁性顔料としては、薄板状であることが好ましく、さらには板状マイカに強磁性体、例えばコバルト鉄酸化物をコーティングしたものであることが好ましい。厚さとしては0.5〜5μmであることが好ましく、大きさとしては1〜100μm程度であることが好ましい。非球状磁性顔料の移動や配向は磁力によって行われるのであるが、非球状磁性顔料が薄板状である場合には、顔料の角度(配向)による外観変化度が大きく、非球状磁性顔料によって、より明確な立体模様が表現されやすい。
【0018】
またこの高分子弾性体溶液中の非球状磁性顔料の固形分含有量としては、5〜50重量%であることが好ましい。乾燥した後の高分子弾性体固形分重量に対し、非球状磁性顔料の固形分含有量が少ない場合には、非球状磁性顔料密度が低下し、外観に表現されにくくなる傾向にある。逆に多すぎる場合には、フィルム(表面層)における他の成分である高分子弾性体の量が低下し、引っかき強度等の物性が低下する傾向にある。
【0019】
また、支持体(離型紙)上に塗布する非球状磁性顔料を含有する高分子弾性体溶液としては、その粘度が低いことが好ましい。本発明の製造方法では、高分子弾性体中の非球状磁性顔料は磁力によりその配向性を変化させているため、溶液の粘度が低い方がより模様を形成しやすくなるのである。
【0020】
ここで支持体(離型紙)上に塗布する溶液中の高分子弾性体としては、ポリウレタンを主成分とするものであることが好ましい。より具体的には、例えばポリウレタン、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、あるいはポリブタジエン、ポリイソプレンなどの合成ゴムなどを挙げることができる。特にこの中では、耐摩耗性、弾性回復性、柔軟性等の面からポリウレタンが好ましく用いられる。
【0021】
本発明の製造方法においては、支持体(離型紙)上に非球状磁性顔料を含有する高分子弾性体を塗布するが、このとき高分子弾性体が、塗布後すぐの、乾燥前の流動性のある状態において、支持体(離型紙)の裏面方向より磁力を有する物体を作用させることが好ましい。
【0022】
磁力を有する物体としては、従来公知の通常の磁石や電磁石等を用いることができる。形成される模様は、磁力を有する物体の幅や間隔で決まるため、必要に応じたサイズの物体を用意する。明確な模様を発生させるためには小さな磁石を複数個並べたものであることが好ましく、大きさとしては0.2〜10cmの幅であることが好ましい。支持体(離型紙)の幅方向に運動する事により、より容易に滑らかな連続的に変化する模様を生産することが可能となる。
【0023】
磁力を有する物体としては、永久磁石や電磁石、マグネットシートなどのさまざまな強度の、さまざまな形状のものを適用することができ、高分子弾性体溶液中の非球状磁性顔料に与える磁力の強さや向きを変更することにより、さまざまな曲線状の模様を形成することができる。
【0024】
例えば、必要に応じたサイズの磁石を用意し、磁石の幅や間隔を変更することにより、曲線のピッチ間隔を最適化する。より具体的には、作成しようとするシート状物の幅に合わせ、プレート上に用意した磁石を直角方向に一列並べ、往復運動させる事により製造することができる。往復運動としては、磁力を有する物体の反復移動量が大きければ曲線の描く山の高さが大きくなり、反復移動量が小さければ山の高さが小さくなる。また往復運動のスピードは速ければ、描かれる繰り返し単位の山と山の間のピッチは小さくなり、スピードが遅ければ描かれる繰り返しの山のピッチは広くなることになる。使用する磁石としては、運動させやすい面からは永久磁石が望ましいが、電磁石、マグネットシートなども使用できる。
【0025】
本発明においては高分子弾性体溶液中に存在する非球状磁性顔料は、容易にその配向性を変化させるが、より立体的な模様とするためには、より高い磁力を有する磁石を用いることが好ましい。高い磁力により、磁性顔料が強度に配向した部分が多く発生し、より模様が立体的に形成される。また製造工程のラインスピードを高める場合にも、高い磁力を発する物体であることが好ましい。ラインスピードとしては3〜15m/minが好ましい。ラインスピードが遅い場合には生産性が悪く、速すぎる場合には、磁力による非球状磁性顔料の移動や配向度が低下し、模様、特に立体構造が表現しにくくなる。
【0026】
なお、磁力を作用させるこの工程においては、高分子弾性体が塗布後すぐであって、乾燥前の流動性のある状態であることが好ましい。高分子弾性体に流動性がある場合には、比較的弱い磁力であっても短時間で模様を形成することが可能となる。この工程での高分子弾性体溶液の粘度としては1〜500ポイズであることが好ましく、さらには5〜50ポイズであることが好ましい。また濃度としては5〜30%であることが好ましく、さらには15〜25%であることが好ましい。
【0027】
そして支持体(離型紙)の裏面から磁力を作用させた後は、速やかに乾燥させることが好ましい。乾燥までの時間が長いと、一度配向した非球状磁性顔料が、乾燥固定化される前に再度変動し模様がぼやける傾向にある。この乾燥工程において、高分子弾性体溶液から溶媒が揮発し、厚さが減少する際に、非球状磁性顔料の配向性の差異が増幅され、本発明の連続した模様がより鮮明となる。
【0028】
通常、塗料中に磁性顔料を混入する場合、液垂を防止するために霧吹き等にて小滴にして付着させることが一般的だが、本発明においては逆に低濃度の溶液を厚く塗ることが重要である。溶液の塗布目付けとしては30〜150g/mであることが好ましい。塗膜の厚さとしては乾燥前では20〜130μmであることが好ましく、さらには50〜100μmであることが好ましい。乾燥後の最終厚さとしては5〜30μmであることが好ましい。乾燥工程としては、溶剤が揮発しやすい熱風乾燥であることが好ましく、温度としては80〜120℃であることが、乾燥時間としては20秒以上であることが好ましい。
【0029】
このようにして、支持体上に高分子弾性体溶液を塗布し乾燥することにより、非球状磁性顔料によって模様が形成された、キャスト法によるフィルムが製造されるのである。
そして本発明のシート状物の製造方法では、上記のように表皮層が乾燥チャンバーに入り乾燥しキャスト法フィルムとした後に、通常はその上に接着層を塗布する。その後繊維質基体等の基材と貼り合わせ、最後に支持体(離型紙)を除去することにより皮革様のシート状物が完成する。
【0030】
接着層としては、繊維質基体などの基材にポリウレタンなどを主成分とする表皮層を接着することができるものであれば特に制限は無く、有機溶剤系、水系のいずれをも使用できるが、着色された表皮層と同じく、ポリウレタンを主成分とするものであることが好ましい。さらにはその中でもポリウレタン系接着剤、ポリイソシアネート系接着剤が好ましく、さらには水系のポリウレタンであることが好ましい。
【0031】
なお、この接着層用の溶液に対しても、非球状磁性顔料を含有してもよいが、非球状磁性顔料を有効活用する観点からは、支持体(離型紙)上に、非球状磁性顔料を含有するコート層(フィルム)を塗布し、その上に非球状磁性顔料を含有しない接着層を塗布し、基体層と張り合わせる製造方法であることが好ましい。シート状物の表面に近いコート層の部分に非球状磁性顔料が多く存在することにより、より鮮明な模様を形成することが可能となる。またコート層用の高分子弾性体は一般に接着層用の高分子弾性体よりも低粘度であり、その意味でも模様を形成するために適している。
【0032】
このような非球状磁性顔料を有する高分子弾性体を張り合わせる基材としては、繊維を主とした繊維質基材であることが好ましく、繊維集合体と高分子弾性体からなるいわゆる皮革様シート状物であることが好ましい。さらには、その繊維質基材上に高分子弾性体からなる表面層をさらに有するものであってもよい。
【0033】
より具体的な繊維の集合体としては、不織布や織編物を挙げることができ、これらを構成する繊維としては、例えばポリエステル、ポリアミドなどの合成繊維、または綿、麻、羊毛などの天然繊維、またはレーヨンなどの半合成繊維が挙げられ、また、これらの2種以上の混合物であってもよい。
【0034】
また繊維が極細繊維であることも好ましく、より平滑性が高くソフトな基材となるので、支持体(離型紙)上の非球状磁性顔料による模様がより鮮明となる。このような極細繊維を得る方法としては、例えば2種の成分を混合紡糸し、分割してなる方法や、多数の島成分を有する海島繊維から海成分を溶解除去して極細繊維を形成することができる。
【0035】
また、基材として用いられる繊維集合体と高分子弾性体からなる複合繊維集合体としては、上記の繊維集合体に高分子弾性体を含浸、凝固、乾燥させたものであることが好ましい。高分子弾性体としては、例えばポリウレタン、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、あるいはポリブタジエン、ポリイソプレンなどの合成ゴムなどを挙げることができる。この中では、耐摩耗性、弾性回復性、柔軟性等の面からポリウレタンが特に好ましく用いられる。これらの高分子弾性体は有機溶剤に溶解、あるいは分散された溶液、あるいは水系の分散液として含浸に供される。好ましくは、これらの高分子は地球環境保護、および作業環境保護のためにも水溶液、あるいは水分散液として含浸に供されることが好ましい。
【0036】
またこの基材には、フィルム(表面層)に加えて、その基体とフィルム(表面層)の間に高分子弾性体からなる中間層が存在してもかまわない。この高分子弾性体からなる中間層は無孔質でも良いが、好ましくは多孔質層であり、特には、繊維質基体とフィルム(表面層)の間の中間層として高分子多孔質層が存在する皮革様シート状物であることが好ましい。この中間層を形成する高分子弾性体としては、特にはポリウレタンを主成分とするものであることが好ましい。
【0037】
この中間層に用いることができるポリウレタンとしては、人工皮革用として使用されるものが適当であり、このような中間層としての多孔質層を得る方法としては、従来から知られている方法が採用できる。例えば、ポリウレタンの良溶剤であり、かつ水と相溶性の有機溶剤にポリウレタンを溶解させ、このポリウレタン溶液を任意の厚みで支持体上にコーティングし、水浴中に浸漬して多孔質凝固させるいわゆる湿式凝固法、またはポリウレタンを水と相溶性はないがポリウレタンを溶解あるいは分散できる有機溶剤に溶解、あるいは分散させた溶液、あるいは分散液を任意の厚みで支持体上にコーティングし、水の蒸発を妨げながら有機溶剤を選択的に蒸発させる乾式多孔成形法、またはポリウレタンの水溶液、あるいは水分散液中に熱膨張性微粒子カプセルを分散させ任意の厚みで支持体上にコーティングし、乾燥しながら熱膨張性カプセルを膨張させる方法、またはポリウレタンの分子末端にアルコール性水素を有するプレポリマーとポリイソシアネート、および水を混合し、直後に任意の厚みで支持体上にコーティングする方法、または溶融ポリウレタン中に不活性ガスを分散させて任意の厚みで支持体上にコーティング、発泡させる方法、または、ケミカル発泡剤を混合したポリウレタン溶液あるいは分散液を任意の厚みで支持体上にコーティングする方法などが挙げられる。中でも、湿式凝固法が孔の形状を制御し易く多孔質を得るのに好ましい。
【0038】
このような中間層となる高分子重合体からなる多孔質層は、前述の繊維質基体上に直接コーティング法などにより形成することができる。また、本発明に用いる基材としては、これらの高分子重合体多孔質層を有さない繊維質基体のまま用いることも当然可能である。
【0039】
本発明のシート状物の製造方法では、このような基材を用いてラミネート法により模様を有するシート状物とすることになる。そのようにして、基体上に非球状磁性顔料により模様が形成された層(キャストフィルム)を転写(ラミネート)するのである。
【0040】
なお、本発明の製造方法にて得られるシート状物としては、長尺のシート状物であることが好ましい。長尺とは、一枚のシート状物として保管することが非効率である程度の長さを有するものであることを意味し、巻物として保管されるようなシート状物である。さらには2m以上であることが好ましく、特には10〜500m程度のロールとして保管されたシート状物であることが好ましい。幅としては特に制限は無いが、通常は0.2〜5m、好ましくは1〜2mの幅であることが好ましい。また通常は巻物として保管するために、その厚さとしては0.2〜5mm、さらには0.4〜2mmであることが好ましい。
【0041】
本発明の製造方法では、上記のように支持体(離型紙)上に塗布した高分子弾性体溶液中に非球状磁性顔料を有し、ラミネート法による加工後に、その非球状磁性顔料が模様を表現するものであり、その模様が長さ方向に連続して変化する模様を形成するシート状物が製造される。長さ方向に連続して変化するとは、途切れることなく非球状磁性顔料が分布し、その非球状磁性顔料の配向等により滑らかに変化し、つながって連続した模様を有することをいう。本発明の製造方法においては、非球状磁性材料の僅かな配向差により大きな色調の変化が生まれるのである。なお、本発明のような連続生産では無く、ロット毎の断続生産を行った場合には、本発明のように滑らかに連続して変化する模様を形成することは、極めて困難である。
【0042】
このような本発明の製造方法により得られたシート状物は、フィルム(表面層)中の非球状磁性顔料の配向差により立体的な模様が、長さ方向に整然と連続し、変化したシート状物となる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。なお、実施例および比較例における部および%は、特に断らない限り重量基準である。また、実施例中の各測定値は次の方法により測定した。
(1)厚さ
スプリング式ダイアルゲージ(荷重1.18N/cm)にて測定した。
(2)重量
10cm×10cmに切断した試験片を、精密天秤にて測定した。
【0044】
[実施例1]
<繊維集合体の作成>
ナイロン6(融点220℃)と低密度ポリエチレンを50/50で混合、エクストルーダーで溶融、混合し290℃で混合紡糸し、延伸、油剤を処理しカットし5.5dtex、51mmの繊維を得た。これをカード、クロスラッパー、ニードルロッカー、カレンダーの工程を通し、単位面積あたりの重さ(目付け)450g/m、厚さ1.6mm、見掛け密度0.28g/cmの繊維集合体を得た。
【0045】
<多孔質皮膜層を表面に有する繊維質基体−1の作成>
上記の繊維集合体を10重量%のポリウレタン(大日本インキ化学工業(株)製;クリスボンTF50P、融点180℃)−DMF溶液に浸漬させた後、繊維集合体表面の余分な溶液をかきとり、基材厚さの90%でスクイズした後、その表面に20重量%のポリウレタン(大日本インキ化学工業(株)製;クリスボンTF50P)−DMF溶液(添加剤として東レ・ダウコーニング製SH28PAを溶液100部に対し0.3部を使用)を800g/mの目付けでコーティングし、次いで5%のDMFを含んだ水中に浸漬してポリウレタンを凝固させ、DMFを水で十分に洗浄除去した後120℃で乾燥して、ポリウレタン多孔質層からなる多孔質皮膜層が基材上に形成されたシートを得た。
得られたシートを85℃の熱トルエン中で圧縮、緩和を繰り返し、繊維中のポリエチレン成分を抽出除去し、繊維集合体中のナイロン繊維を0.003dtexの極細繊維とした。この得られた基材は、極細繊維と高分子弾性体からなる繊維質基体上に、ポリウレタンからなる湿式多孔層である多孔質皮膜の形成された繊維質基体である。得られた基材の単位面積あたりの重さ(目付け)は460g/m、厚さ1.3mm、見掛け密度0.35g/cm、繊維質基材中の高分子弾性体と繊維の比率(R/F)は48%であった。
【0046】
<シート状物−1の作成>
転写貼り合わせラインにて、ラインスピード5m/minで152cm幅の離型紙(リンテック社製ES160SK)を流し、離型紙上に、レザミンLU−2109HV(ポリウレタン濃度25%、大日精化株式会社製、融点150℃)100部、DMF15部、イソプロピルアルコール15部、および非球状形磁性材料5部(厚さ1μm粒径5〜50μmの板状マイカにコバルト鉄酸化物をコーティングしたもの)を混合した溶液を目付け85g/mで塗布した。塗布液は、濃度20%、膜厚80μmの均一膜厚のコーティング塗布層であった。ここで均一とは、重力により表面が水平になることである。
直後に、塗布した離型紙の裏面にプレート上に隙間無く離型紙幅方向に隙間無く150個並べた1辺1cm角、高さ5mmのネオジム磁石を接触させ、このプレートを離型紙の流れる方向に対し、直角方向に5cmの振幅量で1分間に60回の往復運動をさせた。
その後、乾燥チャンバーにて、110℃で2分間乾燥して厚さ0.01mmの高分子弾性体を主成分とする表皮層(キャストフィルム)を形成した。
【0047】
さらにその表皮層(キャストフィルム)の上に接着層として、ポリウレタン系接着剤100部にレザミンNE架橋剤10部、DMF10部、MEK10部の調合液を、目付け130g/mにてコートし、接着層とした。次いで、温度90℃で2分乾燥後、その離型紙上の2種類の高分子弾性体の上に、多孔質皮膜を表面に有する繊維質基体とを重ね合わせ、温度110℃の加熱シリンダー表面上で0.6mmの間隙のロールに通過させ圧着し、さらに100℃で1分間加熱した。その後、温度70℃の雰囲気下で2日間放置した後、離型紙を剥ぎ取り、シート状物−1を得た。
できあがったシート状物は、幅方向には1cm間隔であり、長さ方向には山の高さが5cmでその山のピッチが約8cmの曲線模様が表現されており、表面が平滑であるにもかかわらず奥行き感のある立体模様となっていた。
マイクロスコープにて表面状態を確認したところ、1辺1cm角の磁石の接触した部分で、磁石中央部は非球状形磁性材料が直立しており磁石端部分に行くに従って徐々に平行になる様に変化していた。
【0048】
[実施例2]
<多孔質皮膜層を表面に有しない繊維質基体−2の作成>
実施例1と同様に繊維集合体に10重量%のポリウレタン(大日本インキ化学工業(株)製;クリスボンTF50P、融点180℃)−DMF溶液に浸漬させた後、繊維集合体表面の余分な溶液をかきとり、基材厚さの90%でスクイズするが、その表面にはウレタン溶液をコーティングすることなく、5%のDMFを含んだ水中に浸漬してポリウレタンを凝固させ、DMFを水で十分に洗浄除去した後120℃で乾燥して、多孔質皮膜層を表面に有しない繊維質基体を得た。
得られたシートを85℃の熱トルエン中で圧縮、緩和を繰り返し、繊維中のポリエチレン成分を抽出除去し、繊維集合体中のナイロン繊維を0.003dtexの極細繊維とした。得られた繊維質基体は、極細繊維と高分子弾性体からなる繊維質基体であり、表面はポリウレタン多孔質層が形成されていない繊維とポリウレタンが混在するものであり、このときの単位面積あたりの重さ(目付け)は300g/m、厚さ1.1mm、見掛け密度0.27g/cm、繊維質基体中の高分子弾性体と繊維の比率(R/F)は33%であった。
【0049】
<シート状物−2の作成>
実施例1の皮革様シート状物−1の作成方法において、多孔質皮膜を表面に有する繊維質基体を用いる代わりに多孔質皮膜層を表面に有しない繊維質基体−2を用いる以外は実施例1と同様にして、転写貼り合わせラインにて長尺シート状物−2を得た。
できあがったシート状物は、曲線模様が表現されており、表面が平滑であるにもかかわらず奥行き感のある立体模様となっていた。
【0050】
[実施例3]
<シート状物−3の作成>
実施例1と同様に多孔質皮膜層を表面に有する繊維質基体−1を作成し、その後、非球状形磁性材料を5部添加する代わりに1部添加した以外は、実施例1と同様に作成して転写貼り合わせラインにてシート状物−3を得た。得られたシート状物は、曲線模様が表現されており、実施例1に比較し若干奥行き感には劣るものの立体模様が形成されていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に非球状磁性顔料を含有する高分子弾性体溶液を塗布し、支持体の裏面において磁力を有する物体が運動することにより模様を形成し、乾燥してフィルムとし、次いで該フィルムを基材に張り合わせることを特徴とするシート状物の製造方法。
【請求項2】
支持体が長尺シートロールであって、フィルムを張り合わせる基材が長尺シート基材である請求項1記載のシート状物の製造方法。
【請求項3】
支持体の巻き出し部と巻き取り部の中間部にて、高分子弾性体溶液の塗布、乾燥を行いフィルムとし、次いで該フィルムを基材に張り合わせる方法である請求項2記載のシート状物の製造方法。
【請求項4】
磁力を有する物体の運動が、支持体の走行方向に対し、直角方向の成分を含む運動である請求項3記載のシート状物の製造方法。
【請求項5】
磁力を有する物体の運動が、往復運動である請求項1〜4のいずれか1項記載のシート状物の製造方法。
【請求項6】
非球状磁性顔料が、薄板状である請求項1〜5のいずれか1項記載のシート状物の製造方法。
【請求項7】
非球状磁性顔料が、板状マイカに強磁性体をコーティングしたものである請求項1〜6のいずれか1項記載のシート状物の製造方法。
【請求項8】
磁力を有する物体が永久磁石である請求項1〜7のいずれか1項記載のシート状物の製造方法。
【請求項9】
高分子弾性溶液中の非球状磁性顔料の固形分含有量が5〜50重量%である請求項1〜8のいずれか1項記載のシート状物の製造方法。
【請求項10】
支持体上の高分子弾性体溶液中において、非球状磁性顔料が配向している請求項1〜9のいずれか1項記載のシート状物の製造方法。
【請求項11】
支持体が離型紙である請求項1〜10のいずれか1項記載のシート状物の製造方法。
【請求項12】
高分子弾性体がポリウレタンである請求項1〜11のいずれか1項記載のシート状物の製造方法。
【請求項13】
基材が、繊維と高分子弾性体からなるものである請求項1〜12のいずれか1項記載のシート状物の製造方法。
【請求項14】
支持体上に高分子弾性体溶液を塗布し乾燥するキャスト法によるフィルムの製造方法であって、高分子弾性体溶液が非球状磁性顔料を含有し、支持体の裏面において磁力を有する物体が運動することにより模様を形成することを特徴とするキャストフィルムの製造方法。
【請求項15】
支持体が長尺シートであって、巻き出し部と巻き取り部の中間にてキャスト法によるフィルムの製造が行われる請求項14記載のキャストフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2013−618(P2013−618A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131243(P2011−131243)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(303000545)帝人コードレ株式会社 (66)
【Fターム(参考)】