説明

シーリングシステム

【課題】摺動摩耗による密封性能の低下及び密封流体へのダストの侵入をより効果的に抑制することができるシーリングシステムを提供する。
【解決手段】相対的に往復移動するロッド60とシリンダ70との間の環状隙間を封止するシーリングシステムであって、密封流体の漏れを防止するロッドシール10と、流体圧力を緩衝するバッファリング20と、外部からダストが密封流体(O)側に侵入することを防止する第1ダストシール30及び第2ダストシールと、ダストシール30と第4シール40との間に封入される油又はグリースと、を備えたシーリングシステムにおいて、密封領域Xにおいて油又はグリース中に浮遊するダストを通過せしめる大きさの網の目を有し、ダストが沈殿しうる領域を含むロッド60表面から離れた領域とロッド60表面に近い領域との間を仕切るように設けられる金網50を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対的に往復移動する2部材間の環状隙間を封止するシーリングシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、建設機械用の油圧シリンダなどに用いられる密封装置として、図4に示すようなシーリングシステムが開示されている。図4は、従来例に係るシーリングシステムの構成を示す模式的断面図である。
【0003】
図4に示すように、シーリングシステムは、相対的に往復移動する2部材間の環状隙間、図示の例では、ロッド500とシリンダ600との間の環状隙間を封止するものであり、複数のシールを組み合わせて構成されている。
【0004】
シーリングシステムは、ロッドシール100と、バッファリング200と、第1ダストシール300と、第2ダストシール400とを備える。ロッドシール100は、主として密封流体である油の漏れを防止する機能を発揮する。バッファリング200は、ロッドシール100よりも密封流体(O)側に配置され、主として密封流体の圧力(油圧)を緩衝する機能を発揮する。第1ダストシール300は、ロッドシール100よりも大気(A)側に配置され、主として外部からのダストの侵入を防止する機能を発揮する。第2ダストシール400は、ロッドシール100と第1ダストシール300との間に配置され、第1ダストシール300との間に密閉領域Xを形成する。密閉領域X内には、油又はグリースが封入されている。
【0005】
上記各シールは、ロッド500に対して摺動するため、ロッド500との間に摺動部の摩耗を抑制する油膜が形成されるように構成されている。ロッドシール100とバッファリング200の摺動面は、密封流体(O)側に満たされた密封流体である油により、油膜が形成される。一方、第1ダストシール300と第2ダストシール400の摺動面は、密封流体である油によって油膜を安定的に形成することが困難なため、密封流体とは異なる流体である油又はグリースを密閉領域X内に封入することにより、油膜が形成されるように構成されている。
【0006】
このシーリングシステムは、第1ダストシール300の摺動面に形成される油膜に付着して密閉領域X内に進入したダストが、密閉領域X内に封入された油又はグリース中に浮遊するようになることで、ダストがロッド500表面に付着したままロッドシール100まで到達することを抑制できるように構成されている。
【0007】
しかしながら、上記シーリングシステムには、以下のような問題点があった。
【0008】
密閉領域X内に封入されている油又はグリースは、ロッド500の往復移動によって攪拌され、流動する。油膜に付着して密閉領域X内に侵入したダストは、油又はグリースの攪拌によってロッド500の表面から引き離され、油又はグリース中に浮遊するようになる。油又はグリース中を浮遊するダストは、油又はグリース中を拘束なく自由に移動することができる。しかし、油又はグリース中におけるダストの濃度が上昇すると、ダストがロッド500表面から引き離される効果が大きく低減する。すなわち、新たに密閉領域X内に侵入してきたダストの油又はグリース中への溶け出しが、ダスト濃度が高いために妨げられてしまい、ダストがロッド500表面に付着したままの状態となってしまう。また、ダスト濃度が高いことにより、一旦ロッド500表面から引き離されたダストがロッド
500表面に再付着してしまう確率が上昇する。したがって、ロッドシール100へのダストの侵入を十分に抑制するためには、比較的早期に油又はグリースの入れ替えを行う必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−32731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の従来技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、摺動摩耗による密封性能の低下及び密封流体へのダストの侵入をより効果的に抑制することができるシーリングシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明に係るシーリングシステムにあっては、
軸孔を有するハウジングと前記軸孔内を往復移動する軸との間の環状隙間を封止するシーリングシステムであって、
主として密封流体の漏れを防止するために設けられる第1シールと、
前記第1シールよりも密封流体側に配置され、主として密封流体の圧力を緩衝するために設けられる第2シールと、
前記第1シールよりも大気側に配置され、主として外部からダストが密封流体側に侵入することを防止するために設けられる第3シールと、
前記第1シールと前記第3シールとの間に配置される第4シールと、
前記第3シールと前記第4シールとの間に封入される油又はグリースと、
を備えたシーリングシステムにおいて、
前記第3シールと前記第4シールとの間の密閉領域において、前記油又はグリース中に浮遊するダストを通過せしめる大きさの網の目を有し、前記ダストが沈殿しうる領域を含む前記軸表面から離れた領域と前記軸表面に近い領域との間を仕切るように設けられるメッシュ部材を備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、密閉領域内の油又はグリース中に浮遊するダストが軸表面に再付着することを抑制することにより、第1シール側にダストが到達してしまうこと、ダストによって第1シールの摩耗が促進されてしまうことを、より効果的に抑制することができる。
【0013】
密閉領域内に侵入したダストは、軸の往復移動によって生じる密閉領域内の油又はグリースの流動によって軸表面から引き離される。軸表面から引き離されたダストは、油又はグリース中を浮遊し、重力によって密閉領域の下方に向かって徐々に沈殿する。本発明に係るシーリングシステムは、密閉領域における軸表面に近い領域と軸表面から離れた領域との間を仕切るメッシュ部材を備えている。メッシュ部材は、油又はグリース中に浮遊するダストが通過することができる網の目を有している。したがって、油又はグリース中に浮遊するダストは、メッシュ部材の網の目を通過して、軸表面から離れた領域におけるダストの沈殿領域(例えば、密閉領域において軸表面に対向する軸孔表面側の領域のうち軸よりも下方の領域)に徐々に沈殿する。軸による攪拌によって生じる油又はグリースの流動は、軸表面に近い領域と軸表面から離れた領域との間を仕切るメッシュ部材によって、軸表面から離れた領域(ダストの沈殿領域)まで伝播することが抑制される。これにより、軸表面から離れて沈殿したダストが、軸による油又はグリースの攪拌によって舞い上げられて軸表面側に戻ってしまうことが抑制される。したがって、一旦沈殿したダストが再び軸表面に付着してしまうことが抑制される。
【0014】
前記メッシュ部材は、前記軸孔の表面に設けられた環状溝を覆うように設けられるとよい。
【0015】
前記第3シールと前記第4シールとの間に配置され、前記第3シールを越えて前記密封領域に侵入したダストを捕捉するために設けられる不織布をさらに備えるとよい。
【0016】
これにより、第4シールへのダストの到達を遅らせることができる。したがって、密閉領域に封入する油又はグリースの長期的な使用が可能となり、油又はグリースの交換頻度を低減することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、摺動摩耗による密封性能の低下及び密封流体へのダストの侵入をより効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の実施例1に係るシーリングシステムの構成を示す模式的断面図である。
【図2】図2は、図1のA矢視で示すシリンダの模式的断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施例2に係るシーリングシステムの構成を示す模式的断面図である。
【図4】図4は、従来例に係るシーリングシステムの構成を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0020】
(実施例1)
図1及び図2を参照して、本発明の実施例1に係るシーリングシステムについて説明する。図1は、本発明の実施例1に係るシーリングシステムの構成を示す模式的断面図である。図2は、図1のA矢視で示すシリンダの模式的断面図である。
【0021】
<シーリングシステムの構成>
本実施例に係るシーリングシステムは、例えば、建設機械用の油圧シリンダに好適に用いられる。本発明は、環状隙間を形成して互いに往復移動する2部材(軸孔を有するハウジングと軸孔内を往復移動する軸)に対して好適に用いることができるものであり、本実施例では、油圧シリンダを構成するロッド(軸)とシリンダ(ハウジング)の2部材を適用例として説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施例に係るシーリングシステムは、相対的に往復移動するロッド60とシリンダ70との間の環状隙間を封止するものである。シーリングシステムは、第1シールとしてのロッドシール10と、第2シールとしてのバッファリング20と、第3シールとしての第1ダストシール30と、第4シールとしての第2ダストシール40と、メッシュ部材としての金網50と、を備える。また、シーリングシステムは、第1ダストシール30と第2ダストシール40との間の密閉空間Xに油又はグリースが封入されている。図中79は、軸受けとして機能するブッシュである。なお、ブッシュ79は、本発明において必須の構成ではない。
【0023】
<第1シール(ロッドシール)>
第1シールとしてのロッドシール10は、主として密封流体(O)の漏れを防止する機能を発揮する。本実施例において、密封流体(O)は油であり、密閉領域Xに封入される油又はグリースとは異なる流体である。ロッドシール10は、シリンダ70の内周に設けられた第1環状溝71に配置される。ロッドシール10は、断面形状がU字のUパッキン11と、Uパッキン11における大気(A)側の内周端部の損傷を防止するバックアップリング12と、を備えている。
【0024】
Uパッキン11は、ゴム状弾性体により構成されており、内周側と外周側にそれぞれリップ11a,11bを備えている。内周側のリップ11aは、ロッド60の外周表面に摺動自在に密着し、外周側のリップ11bは、シリンダ70の第1環状溝71の溝底面に摺動自在に密着する。ロッドシール10は、流体圧力により第1環状溝71内で大気(A)側に押された状態となる。したがって、ロッド60とシリンダ70が相対的に往復移動する際には、外周側のリップ11b側はあまり摺動しない。また、流体圧力が大きくなるにつれてリップ11a、11bの変形量が大きくなり、ロッド60の外周表面及びシリンダ70の第1環状溝71の溝底面に対する接触面積及び接触圧力が大きくなる。これにより、優れた密封性能が発揮される。
【0025】
バックアップリング12は、樹脂材により構成されるもので、Uパッキン11と第1環状溝71の大気(A)側の側面との間に配置される。これにより、Uパッキン11における大気(A)側の内周端部(内周ヒール)が、ロッド60とシリンダ70との間の狭い隙間にはみ出してしまうことを防止し、この部分が損傷してしまうことを防止する。
【0026】
<第2シール(バッファリング)>
第2シールとしてのバッファリング20は、主として流体圧力(油圧)を緩衝する機能を発揮する。バッファリング20は、シリンダ70の内周に設けられた第2環状溝72に配置される。バッファリング20は、断面形状が略U字のパッキン21と、パッキン21における大気(A)側の内周端部の損傷を防止するバックアップリング22と、を備えている。
【0027】
パッキン21はゴム状弾性体により構成されており、内周側と外周側にそれぞれリップ21a,21bを備えている。内周側のリップ21aは、ロッド60の外周表面に摺動自在に密着し、外周側のリップ21bは、シリンダ70の第2環状溝72の溝底面に摺動自在に密着する。
【0028】
バックアップリング22は、樹脂材により構成されるもので、パッキン21の大気(A)側の内周端部に設けられた環状の切欠部分に装着される。これにより、パッキン21における大気(A)側の内周端部(内周ヒール)が、ロッド60とシリンダ70との間の狭い隙間にはみ出してしまうことを防止し、この部分が損傷してしまうことを防止する。
【0029】
バッファリング20は、密封流体(O)の圧力を受けると大気(A)側にスライドし、パッキン21の大気(A)側の端面が第2環状溝72の大気(A)側の側面に密着する。これにより、油圧を緩衝し、ロッドシール10に高圧力がかかることを防止する。また、バッファリング20の材料として耐熱性に優れたものを用いることで、高温油がロッドシール10に直接触れることを防止する機能も発揮する。
【0030】
また、バッファリング20は、背圧リーク性能を有しており、バッファリング20とロッドシール10との間の蓄圧を防止することができる。すなわち、バッファリング20とロッドシール10との間の領域の流体圧力が、バッファリング20より密封流体(O)側の流体圧力よりも大きくなると、バッファリング20は、第2環状溝72内で密封流体(
O)側にスライドする。これにより、リップ21aまたはリップ21bに設けられた不図示の切欠によって、バッファリング20とロッドシール10との間の領域と、バッファリング20よりも密封流体(O)側の領域との間を連通する流路が形成される。これにより、バッファリング20とロッドシール10との間の領域の流体(油)は、バッファリング20よりも密封流体(O)側に戻される。
【0031】
<第3シール(第1ダストシール)>
第3シールとしての第1ダストシール30は、主として外部からのダストの侵入を防止する機能を発揮する。この第1ダストシール30は、シリンダ70の端部内周に形成された円筒状の切欠部73のうち大気(A)側の端部付近に配置される。第1ダストシール30は、切欠部73の内周面に嵌合される補強環31と、補強環31に焼付け固定されるシール本体32と、を備えている。
【0032】
シール本体32は、ゴム状弾性体により構成されており、密封流体(O)側には油やグリースの漏れを防止するシールリップ32aが備えられ、大気(A)側にはダストの侵入を防止するダストリップ32bが備えられている。シールリップ32aは、摺動面に対する傾斜角度が、大気(A)側の傾斜角度よりも密封流体(O)側の傾斜角度の方が大きくなるように構成されている。
【0033】
<第4シール(第2ダストシール)>
第4シールとしての第2ダストシール40は、ロッドシール10と第1ダストシール30との間に配置される。なお、第2ダストシール40は、第1ダストシール30と同様に、上記の切欠部73に配置される。そして、第2ダストシール40は、切欠部73の内周面に嵌合される補強環41と、補強環41に焼付け固定されるシール本体42と、を備えている。
【0034】
シール本体42はゴム状弾性体により構成されており、大気(A)側には油やグリースの漏れを防止するシールリップ42aが備えられ、密封流体(O)側には補助リップ42bが備えられている。シールリップ42aは、摺動面に対する傾斜角度が、密封流体(O)側の傾斜角度よりも大気(O)側の傾斜角度の方が大きくなるように構成されている。
【0035】
<密閉領域>
第1ダストシール30と第2ダストシール40との間に形成された密閉領域X内には、油又はグリースが封入されている。シリンダ70には、油又はグリースの封入及び排出を行うための第1ポート74及び第2ポート75が設けられている。これらのうちいずれか一方を油又はグリースの封入に用い、他方を排出に用いることができる。これにより、長期使用により、密閉領域Xの油又はグリースが汚れて劣化した場合に、これらを交換することができる。これらのポートは、密閉領域Xに油又はグリースを封入するために、不図示の蓋により閉じられる。この密閉領域X内は、使用条件によっては、油又はグリースによる流体圧力が高くなることもあるので、蓄圧防止のために、いずれかのポートに減圧弁を設けると好適である。
【0036】
また、第1ダストシール30のシールリップ32aと、第2ダストシール40のシールリップ42aは、いずれも、その摺動面に対する傾斜角度が、密閉領域X側の方がその反対側よりも大きくなるように構成されている。そのため、これらのシールリップ32a、42aの摺動面に形成される油膜は、摺動時に積極的に密閉領域Xに引き込まれるように作用する。これにより、密閉領域X内の油又はグリースの漏れを防止することができる。
【0037】
第1ダストシール30とロッド60との摺動により、油膜の厚みよりも小さいダスト(数μm〜100μmレベルの微細なダスト)が、第1ダストシール30のシールリップ3
2aの摺動面に形成される油膜と共に密閉領域Xに引き込まれることがある。密閉領域Xに引き込まれたダストは、密閉領域Xに封入されている油又はグリースがロッド60の往復移動による攪拌によって流動することにより、ロッド60の表面から引き離され、封入された油又はグリース内に遊離する。なお、油の場合には、油膜が封入された油内に溶け出すことによりダストがロッド60の表面から引き離され、グリースの場合には、粘性抵抗によりダストがロッド60の表面から引き離される。
【0038】
ロッド60の表面から引き離され油又はグリース中を浮遊するダストは、油又はグリース中を拘束なく自由に移動することができる。第1ダストシール30を通過して密閉領域Xに侵入するダストは、数μm〜100μmの鉱物(粉末状の鉄鉱石等)であり、油やグリースの比重に対してダストの比重が大きい(油の比重が0.8程度であるのに対し、鉄鉱石からなるダストの比重はおよそ8となる)。そのため、ダストは重力によって徐々に下方に沈殿する。ダストが非常に微細であり、また、油やグリースの粘度が大きいことにより、ダストの沈殿にはある程度の時間がかかる。さらに、ダストは、一旦沈殿しても、ロッド60の往復移動による攪拌によって油又はグリースが流動することにより、油又はグリース中に舞い上げられて再び浮遊状態に戻ってしまうことがある。
【0039】
<メッシュ部材(金網)>
メッシュ部材としての金網50は、密閉領域Xにおいてロッド60の表面に近い領域(軸表面に近い領域)とロッド60の表面から離れた領域(軸表面から離れた領域)との間を仕切るように設けられている。
【0040】
金網50は、円筒部50aと該円筒部50aの両端からそれぞれ外径方向に突出する1対のフランジ部50bとで構成された、コ字断面のリング状部材である。シリンダ70の内周面には、第1ポート74及び第2ポート75が設けられた箇所に環状溝76が設けられている。金網50は、フランジ部50bが環状溝76の側面と密着するようにして環状溝76に装着され、環状溝76を全周にわたって覆う。金網50の網の目(隙間)の大きさは、浮遊するダストが通過できる大きさ(例えば、1〜2mm程度)に設定されている。
【0041】
本実施例における油圧シリンダは、ロッド60が略水平方向に延び、第1ポート74が垂直方向上側に位置し、第2ポート75が垂直方向下側に位置する構成となっている。油又はグリース中に浮遊するダストは、重力によって徐々にロッド60よりも下方の領域に向かって沈んでいく。ダストは、金網50の網の目を通過し、環状溝76においてロッド60下方に位置する領域(第2ポート75が位置する周辺)に徐々に沈殿する。
【0042】
密閉領域X内の油又はグリースは、ロッド60の往復移動によって攪拌され流動するが、環状溝76内に存在する油又はグリースへの流動の伝播は、金網50によって弱められる。これにより、ロッド60が往復移動しても環状溝76内の油又はグリースは静的な状態のままで維持され、環状溝76内に沈殿したダストが再び浮遊状態となることが抑制される。
【0043】
<本実施例の優れた点>
本実施例に係るシーリングシステムによれば、ロッド60表面から遊離してロッド60表面から離れた環状溝76内に沈殿したダストが、ロッド60による油又はグリースの攪拌によって舞い上げられて、再びロッド60表面側に戻ってしまうことを抑制できる。したがって、一旦沈殿したダストが再びロッド60表面に付着してしまうことを抑制できる。これにより、ロッドシール10の摺動面(ロッドシール10を構成するUパッキン11のリップ11aの摺動面)にダストが入り込むことを抑制できる。したがって、ロッドシール10の摺動摩耗(Uパッキン11のリップ11aの摺動摩耗)を抑制することができ
る。以上のことから、密封性能の低下を抑制することができ、耐久性が向上する。また、密封流体(O)の内部へのダストの侵入を抑制することができる。
【0044】
また、本実施例に係るシーリングシステムによれば、沈殿したダストをロッド60表面から離れた位置に保持することができるので、ロッド60表面近傍におけるダストの濃度の上昇を抑制することができる。したがって、ダスト濃度の上昇によるダスト遊離効果の低減を抑制することでき、密閉領域Xに封入する油又はグリースの交換頻度を少なくすることができる。
(実施例2)
図3を参照して、本発明の実施例2に係るシーリングシステムについて説明する。図3は、図1は、本発明の実施例1に係るシーリングシステムの構成を示す模式的断面図である。ここでは、実施例1と異なる点について説明し、実施例1と共通する構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0045】
本実施例に係るシールリングは、第1ダストシール30と第2ダストシール40との間に、密閉領域X内の油又はグリース内を浮遊するダストを捕捉可能な不織布80を備えた構成となっている。
【0046】
本実施例では、シリンダ70が、端部付近において先端部70aと本体部70bに分割可能に構成されている。シリンダ70の端部内周の切欠部73は、先端部70a内周に形成された先端側切欠部73aと、本体部70b内周に形成された本体側切欠部73bと、に分割可能となっている。先端部70aは、ボルト等の締結手段によって本体部70bに固定可能に構成されている。
【0047】
不織布80は、環状に構成されており、外周側の端部がシリンダ70の先端部70aと本体部70bとの分割面に挟み込まれることによりシリンダ70に対して固定される。第1ダストシール30は、先端側切欠部73aの内周面に嵌合され、第2ダストシール40は、本体側切欠部73bの内周面に嵌合されている。したがって、不織布80は、第1ダストシール30と第2ダストシール40との間に位置することになる。また、第1ダストシール30と第2ダストシール40との間の密閉空間Xは、不織布80を境にして、大気(A)側の第1密閉空間Xaと、密封流体(O)側の第2密閉空間Xbとに分割される。第1ダストシール30及び第2ダストシール40の嵌合面にはそれぞれOリング91、92が設けられている。
【0048】
シリンダ70の先端部70aは、第3ポート77と、これに対向する位置に不図示の第4ポートを有している。第1ポート74、第2ポート75は、本体部70bに設けられている。第1密閉空間Xaにおける油又はグリースの封入・排出は、第3ポート77及び不図示の第4ポートにより行うことができる。また、第2密閉空間Xbにおける油又はグリースの封入・排出は、第1ポート74及び第2ポート75により行うことができる。なお、第3ポート77、第4ポートは、第1ポート74、第2ポート75と同様、いずれかに蓄圧防止のための減圧弁を設けると好適である。
【0049】
本実施例に係るシーリングシステムによれば、第1ダストシール30と第2ダストシール40との間に設けられた不織布80が、外部から第1ダストシール30を通過して第1密閉空間Xa内に侵入したダストを捕捉することにより、第2密閉空間Xb内におけるダストによる汚染の進行を遅らせることができる。したがって、密閉空間Xに封入する油又はグリースの使用可能期間を延ばすことが可能となり、密閉領域Xに封入する油又はグリースの交換頻度のさらなる低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0050】
10 ロッドシール(第1シール)
11 Uパッキン
11a、11b リップ
12 バックアップリング
20 バッファリング(第2シール)
21 パッキン
21a、21b リップ
22 バックアップリング
30 第1ダストシール(第3シール)
31 補強環
32 シール本体
32a シールリップ
32b ダストリップ
40 第2ダストシール(第4シール)
41 補強環
42 シール本体
42a シールリップ
42b 補助リップ
50 金網(メッシュ部材)
50b 円筒部
50b フランジ部
60 ロッド
70 シリンダ
71 第1環状溝
72 第2環状溝
73 切欠部
74 第1ポート
75 第2ポート
76 環状溝
79 ブッシュ
80 不織布
91、92 Oリング
X 密閉領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸孔を有するハウジングと前記軸孔内を往復移動する軸との間の環状隙間を封止するシーリングシステムであって、
主として密封流体の漏れを防止するために設けられる第1シールと、
前記第1シールよりも密封流体側に配置され、主として密封流体の圧力を緩衝するために設けられる第2シールと、
前記第1シールよりも大気側に配置され、主として外部からダストが密封流体側に侵入することを防止するために設けられる第3シールと、
前記第1シールと前記第3シールとの間に配置される第4シールと、
前記第3シールと前記第4シールとの間に封入される油又はグリースと、
を備えたシーリングシステムにおいて、
前記第3シールと前記第4シールとの間の密閉領域において、前記油又はグリース中に浮遊するダストを通過せしめる大きさの網の目を有し、前記ダストが沈殿しうる領域を含む前記軸表面から離れた領域と前記軸表面に近い領域との間を仕切るように設けられるメッシュ部材を備えたことを特徴とするシーリングシステム。
【請求項2】
前記メッシュ部材は、前記軸孔の表面に設けられた環状溝を覆うように設けられることを特徴とする請求項1に記載のシーリングシステム。
【請求項3】
前記第3シールと前記第4シールとの間に配置され、前記第3シールを越えて前記密封領域に侵入したダストを捕捉するために設けられる不織布をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載のシーリングシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−261510(P2010−261510A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112878(P2009−112878)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】