説明

シール材及びその製造方法

【課題】 浸透漏れを抑制しながらカットスルー現象をも防止できるシール材を提供する。
【解決手段】 帯状シール材15は、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルム11が積層されており、さらにこの積層物の層間及び/又は表面に無孔質フッ素樹脂フィルム12が積層されている。そして帯状シール材15の幅Wと厚さtとが、W≧tの関係を満足しており、かつ延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンの積層面13とシール材の幅方向とが形成する角度θが1〜45°になっている。
前記角度θ、幅W、及び厚さtは、好ましくは下記式(1)又は式(2)の関係を満足してもよい。
W>t/tanθ …(1)
W>h/sinθ+t/tanθ …(2)
(式中hは、無孔質フッ素樹脂フィルム12同士の間隔を示す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管や容器(タンクを含む)のフランジ部、マンホール蓋、その他産業用機器等の面接触部分のシールに用いられるシール材(ガスケットなど)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医薬、食品、化学等の分野において腐食性流体が流れる配管の継手部分には、耐食性に優れたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製シール材が広く用いられている。
【0003】
例えば、焼結法により製造された未延伸のポリテトラフルオロエチレン(以下、「焼結PTFE」と称する場合がある)からなるシール材が使用されている。しかし、焼結PTFEは硬質であるため、配管の継手(フランジなど)の微細な凹凸に対する馴染性(追従性)が低く、継手とシール材との界面から流体が漏れる界面漏れと称する現象が生じる場合がある。特にグラスライニングされた継手は、比較的大きな凹凸を有しており、界面漏れが生じやすくなっている。
【0004】
馴染性(凹凸追従性)に優れたPTFE製シール材として、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(以下「ePTFE」と略記する場合がある)製のシール材が注目されている。例えば、特許文献1には、ePTFEフィルムを積層したシート状ガスケットが開示されている。また特許文献2には、ePTFEを積層したテープ状シール材が開示されている。これら特許文献1〜2に開示されているシール材(ガスケット)を図1及び図2に示す。図1はシール材(ガスケット)10をフランジ20に取り付けた状態を示す一部切欠概略斜視図であり、図2はシール部分を拡大して示す断面図である。これら図1〜図2に示すように特許文献1〜2のシール材10は、ePTFEフィルム11がフランジ面21と平行するように積層されている。ePTFE製のシール材10は、焼結PTFE製と比べると軟質であってシール材10の厚さ方向に容易に変形でき、フランジ面21との間からの漏れ(界面漏れ)を防止できる。しかし、ePTFEフィルム11は多孔質構造を有しているため、シール材10内部を通過する漏れ(浸透漏れ)が生じる虞がある。
【0005】
そこで特許文献3では、図3に示すように、ePTFEフィルム11をフランジ面21と直交するように積層している。このようにフランジ面21に対してePTFEフィルム11を直交させれば、その間に緻密PTFE12を介挿することによって、浸透漏れを防止できる。
【特許文献1】実開平3―89133号公報(請求項1、図3)
【特許文献2】米国特許第5964465号明細書(図4)
【特許文献3】特開2002−243041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、フランジ面21に対してePTFEフィルム11を直交させると、図4に示すように、フランジ20を締め付けた際に、その押圧力によってePTFEフィルム11が座屈し、ガスケットの幅が広がってしまうことがある。ガスケットの幅が広がると、シール面の締付圧が低下して界面漏れを引き起こす虞がある。またガスケットが配管内部にはみ出すと、流体の流れが乱されることが懸念される。さらにはグラスライニングフランジなどのように凹凸の大きなフランジでは、図5に示すように、フランジの凸部22に締付荷重が集中する。そのため当該凸部22の大きさや締付荷重によっては、ガスケット10が幅方向に裂けることもあった(この現象を「カットスルー現象」と称する)。
【0007】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、浸透漏れを抑制しながら、ガスケットの幅の広がり現象(特にカットスルー現象)をも防止できるシール材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、フランジ面21に対してePTFEフィルム11が傾斜するようにePTFEフィルムを積層し、この積層物の層間及び/又は表面にさらに無孔質フッ素樹脂フィルム(緻密PTFEなど)を積層すると、シール材の幅方向への広がりを抑制しつつ、浸透漏れを防止できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明の帯状シール材は、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムが積層されており、さらにこの積層物の層間及び/又は表面に無孔質フッ素樹脂フィルムが積層されている。そして本発明では、帯状シール材の幅Wと厚さtとが、W≧tの関係を満足しており、かつ延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンの積層面とシール材の幅方向とが形成する角度θが1〜45°になっている。
【0010】
前記角度θ、幅W、及び厚さtは、好ましくは下記式(1)又は式(2)の関係を満足してもよい。
W>t/tanθ …(1)
W>h/sinθ+t/tanθ …(2)
(式中hは、無孔質フッ素樹脂フィルム同士の間隔を示す)
前記帯状シール材は、長手方向始端と終端を接続して閉環状にしてもよい。
【0011】
前記帯状シール材は、例えば、(1)延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムの積層物の層間及び/又は表面に無孔質フッ素樹脂フィルムが配設されるように、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムと無孔質フッ素樹脂フィルムとを積層していき、(2)次いで得られた積層体の積層面とスリット刃が形成する角度を所定角度θ(ただしθ=1〜45°)に保ちながら、前記積層体を所定間隔tでスリットしていくことによって製造できる。このスリット体の幅が広い場合には、スリット体のスリット面に現れるポリテトラフルオロエチレンの積層線と略平行になりかつこのスリット面とは略直交する面に沿って、所定間隔Wを保ちながらかつW≧tの関係を満足させながら前記スリット体をさらにスリットしていくことによって前記帯状シール材を製造できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のシール材によれば、ePTFEフィルムの積層面とシール材の幅方向とが形成する角度θを1〜45°にし、このePTFEフィルム積層物の層間及び/又は表面に無孔質フッ素樹脂フィルムを積層しているため、シール材の幅方向への広がりを抑制しつつ、浸透漏れも防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明をより詳細に説明する。
【0014】
[シール材]
図6は、本発明の帯状シール材の一例を示す概略斜視図である。
図6の帯状シール材15は、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)フィルム11が積層されており、かつこのePTFEフィルムと平行するように無孔質フッ素樹脂フィルム(図示例では緻密PTFEフィルム)12が介挿されている。この帯状シール材15は、図7に示すように、その長手方向始端14aと終端14bを接続して閉環状にした後、フランジ面21に取り付けて使用するものである。
【0015】
そして本発明では、帯状シール材15の幅Wと厚さtとが、W≧tの関係を満足しており、かつePTFEフィルム11の積層面13とシール材15の幅(W)方向とが形成する角度θが1〜45°の範囲内になっていることが重要である。このようにePTFEフィルム11がフランジ面21に対して傾斜していると、シール材の幅方向への広がりを抑制でき、カットスルー現象を防止できる。また傾斜して積層されたePTFEフィルム11の間に無孔質フッ素樹脂フィルム(緻密PTFEフィルムなど)12を介挿しているため、浸透漏れを防止できる。
【0016】
浸透漏れを確実に防止するためには、無孔質フッ素樹脂フィルム12が、シール材15の底面から上面までの間を貫通しているのが望ましい。図8の断面図に示すように、無孔質フッ素樹脂フィルム12が底面16から上面17までを貫通するには、幅方向にt/tanθの長さが必要であるため、シール材15の幅Wは下記式(1a)を満足しているのが望ましい。
W>t/tanθ …(1a)
【0017】
なおシール材15の厚さtは、通常、0.5mm以上(好ましくは1mm以上、さらに好ましくは1.5mm以上)、10mm以下(好ましくは7mm以下、さらに好ましくは5mm以下)程度の範囲で設定できる。
【0018】
無孔質フッ素樹脂フィルム12は、必ずしも、PTFEフィルム11の積層物の層間に介挿する必要はなく、該積層物の表面に配設(積層)してもよく、層間と表面の両方に配設(積層)してもよい。
【0019】
また無孔質フッ素樹脂フィルム12は、一枚であってもよく、複数枚であってもよい。後述の量産方法によって帯状シール材15を製造する場合には、複数枚の無孔質フッ素樹脂フィルム12が所定間隔を開けながら配設(積層)されている。
【0020】
複数枚の無孔質フッ素樹脂フィルム12が所定間隔で配設された量産タイプの帯状シール材15では、シール材15の幅Wをt/tanθとしても、無孔質フッ素樹脂フィルム12が底面16から上面17までを貫通しない場合がある。例えば図9の断面図に示す例では、無孔質フッ素樹脂フィルム12が途中で側面18に露出してしまい、底面16から上面17までを貫通しない。配設位置によらず確実に貫通させるためには、前記t/tanθに加えて、h/sinθ(式中、hは無孔質フッ素樹脂フィルム12の間隔を示す)の長さ分、シール材15の幅Wを広くする必要がある(図10参照)。すなわちシール材15の幅Wが、下記式(2a)の関係を満足する必要がある。
W>h/sinθ+t/tanθ …(2a)
【0021】
なお間隔hは、例えば、10mm以下、好ましくは7mm以下、さらに好ましくは5mm以下程度である。間隔hを小さくするほど、浸透漏れをより確実に防止できる。さらには前記式(2a)を満足する幅Wの下限を下げることができ、シール材15の設計が容易になる。ただし間隔hを小さくし過ぎると、シール材15の柔軟性が低下する。従って間隔hは、例えば、1mm以上、好ましくは1.5mm以上、さらに好ましくは2mm以上にすることが推奨される。
【0022】
なお本発明のシール材15は、前記式(2a)の関係を必ずしも満足する必要はない。式(2a)を満足していれば、100%の確率で無孔質フッ素樹脂フィルム12が底面16から上面17を貫通するようになるが、幅が太くなるため1本当たりの製造原価が高まり、また適用できるフランジの種類も少なくなる。従ってシール材15の幅は、これらメリット・デメリットを比較して決定してもよい。
【0023】
幅がさらに太くなるというデメリットは生じるが、浸透漏れのリスクをさらに低減する場合には、前記式(1a)及び式(2a)はそれぞれ、下記のように書き改められる。
W>t/tanθ+ΔW …(1b)
W>h/sinθ+t/tanθ+ΔW …(2b)
【0024】
式中ΔWは、幅Wを設定するときの余裕分(安全分)を示すものであり、シール材15をフランジ20に取り付けたときに生じ得る不具合を想定し、当該不具合が発生しても確実に浸透漏れを防止することを目的として追加した項である。このΔWについて、図11及び図12を参照しながら、より詳細に説明する。図11は図8のシール材15をフランジ20に取り付けた状態の一例を示す概略断面図であり、図12は図10のシール材15をフランジ20に取り付けた状態の一例を示す概略断面図である。どちらの図示例も、シール材15の外周側及び内周側の両方にフランジ面21と接触していない部分(ΔWa、ΔWb)が生じる虞があることに基づくものである。そしてこの非接触部部分が発生してしまうと、上記式(1a)、(2a)などのようにして幅Wを設定しても、浸透漏れが生じることがある。そこで式(1b)及び(2b)では、シール材15の幅Wを、式(1a)又は式(2a)から求まる最小値(式1aの場合、t/tanθ;式1bの場合、h/sinθ+t/tanθ)よりもさらに、非接触部部分の合計長さ(ΔWa+ΔWb=ΔW)分広くしている。このようにシール材15の幅Wを広くしておけば、非接触部分が発生しても無孔質フッ素樹脂フィルム12をより確実に機能させることができ、浸透漏れをより確実に防止できる。
【0025】
ΔW(安全分)を大きく設定しておく程、浸透漏れを確実に防止できる。一方シール材15の幅Wは、フランジ面の幅などに応じて上限が制約されており、またΔWを大きくし過ぎると、シール材の製造コストが高くなる。従ってΔWは、例えば、0.5mm以上(特に1mm以上)、5mm以下(特に3mm以下)の範囲内で設定する。
【0026】
また本発明の帯状シール材15は、厚さtと幅Wの比(t/W)が、例えば、0.05以上(好ましくは0.1以上、特に0.12以上)であることが推奨される。比率t/Wが小さすぎると、帯状シール材15を環状にしながらフランジ面21に装着する際に、帯状シール材15がフランジ面21に対して起立しやすくなり、平面状態を維持するのが難しくなる。一方、比率t/Wが大きい程、フランジを締め付けたときにePTFEフィルム11が座屈しやすくなる。従って比率t/Wは、好ましくは1以下、さらに好ましくは0.5以下、特に0.3以下である。
【0027】
ところで前記式(1a)の関係を満足する場合、当該式(1a)から明らかなように、比率t/Wはtanθ未満になる。従ってtanθが1以下(好ましくは0.5以下、特に0.3以下)になるようにθを設定しておけば、t/Wは前記範囲(1以下、さらに好ましくは0.5以下、特に0.3以下)を必ず満足するようになる。以上より、θは、45°(=tan-11)以下、さらに好ましくは27°(≒tan-10.5)以下、特に17°(≒tan-10.3)以下にすることが推奨される。
【0028】
また式(1a)の関係を満足する場合、tanθはt/W超でなければならない。従ってt/Wを前記範囲(0.05以上、好ましくは0.1以上、特に0.12以上)にする場合、tanθも同様の数値範囲(0.05以上、好ましくは0.1以上、特に0.12以上)にする必要がある。従ってθは、2°(≒tan-10.05)以上、好ましくは5°(≒tan-10.1)以上、好ましくは6°(≒tan-10.12)以上にする必要がある。
【0029】
なお式(2a)の関係を満足させる場合、θが小さいと、幅Wが極めて大きくなって不都合な場合がある。従ってθは、好ましくは10°以上(特に15°以上)にすることが推奨される。
【0030】
本発明のシール材は、帯状のものに限られず、閉環状のものであってもよい。この閉環状シール材は、帯状シール材の長手方向始端14aと終端14bを接続することにより製造できる。この帯状シール材では、シール材の幅方向がフランジ面21に対して平行になる。
【0031】
なお閉環状シール材の環形状は特に限定されず、被シール面(フランジ面など)の形状に応じて適宜設計でき、例えば、概略円環状(円環状、楕円環状、トラック形状など)、概略多角形環状(矩形環状など)などのいずれであってもよい。
【0032】
本発明のシール材において、ePTFEフィルム11とは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のファインパウダーと成形助剤を混合成形し、成形助剤を除去した後、高温高速度で延伸し、さらに必要に応じて焼成することによって得られるフィルムのことをいう。このePTFEフィルム11は、1軸延伸されたものであってもよく、2軸延伸されたものであってもよい。1軸延伸PTFEフィルムは、ミクロ的には、延伸方向と略直交する細い島状のノード(折り畳み結晶)が存在し、このノード間を繋ぐようなすだれ状のフィブリル(前記折り畳み結晶が延伸により解けて引出された直鎖状の分子束)が延伸方向に配向している点にミクロ的な特徴がある。また2軸延伸PTFEフィルムは、フィブリルが放射状に広がり、フィブリルを繋ぐノードが島状に点在して、フィブリルとノードとで画された空間が多数存在するクモの巣状の繊維質構造となっている点にミクロ的な特徴がある。
【0033】
ePTFEフィルム11の平均孔径は、延伸倍率に応じて適宜設定でき、例えば、5.0μm以下、好ましくは1.0μm以下である。平均孔径を小さくするほど、フィルム同士の積層密着性を高めることができ、また浸透漏れを低減できる。平均孔径の下限は特に限定されないが、通常、0.05μm以上(特に0.5μm以上)である。ePTFEフィルム11の平均孔径が0.05μmを下まわると、シール材の柔軟性が損なわれ、シール性が低下する虞がある。なお平均孔径は、コールターエレクトロニクス社のコールターポロメーターを用いて測定した値である。
【0034】
ePTFEフィルム11の空孔率も、延伸倍率に応じて適宜設定でき、例えば、10%以上、好ましくは30%以上である。ePTFEフィルム11の空孔率が10%を下まわると、シール材の柔軟性が損なわれ、シール性が低下する虞がある。空孔率を大きくするほど、シール材15を軟質化できる。ただし空孔率が大きくなるほど、浸透漏れが発生し易くなる。従って空孔率の上限は、例えば、95%以下、好ましくは85%以下程度である。なお空孔率は、PTFEフィルムの見掛け密度ρ1(単位:g/cm3、JIS K 6885に準じて測定される)と、PTFEの密度ρ2(2.2g/cm3)から、下記式に基づいて算出される値である。
空孔率(%)=(ρ2−ρ1)/ρ2×100
【0035】
ePTFEフィルム11の厚さは特に限定されないが、例えば、5μm以上(特に15μm以上)、200μm以下(特に100μm以下)程度である。ePTFEフィルム11の厚さが5μmを下まわると、所定厚さtのシール材を得るためのePTFEフィルムの積層数が多くなり、生産性が低下する。またePTFEフィルム11の厚さが200μmを超えると、所定厚さtのシール材を得るためのePTFEフィルムの積層数が少なくなり、無孔質フッ素樹脂フィルム12の配設位置や配設枚数に制約が生じる。
【0036】
無孔質フッ素樹脂フィルム12に使用されるフッ素樹脂としては、PTFE、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などが例示できる。好ましいフッ素樹脂は、PTFEである。無孔質PTFEフィルムとしては、焼結PTFEフィルム、未延伸PTFEフィルム、ePTFEフィルムを圧縮等によって緻密化したもの(緻密PTFEフィルム)などが挙げられる。好ましい無孔質PTFEフィルムは、緻密PTFEフィルムである。無孔質(緻密)とは、流体が透過できない程度に貫通孔が低減されていることを意味し、空孔率とは異なる概念である。
【0037】
本発明のシール材(帯状シール材15、その閉環体、並びに閉環状シール材など)は、その底面16及び/又は上面17に接着層を形成しておくのが望ましい。接着層を形成しておけば、被シール面にシール材を容易に装着できる。接着層としては、シール材を被シール面に固定できるものであれば特に限定されないが、粘着剤がシール材の貼り直しができるため好ましい。粘着剤としては、アクリル系、ゴム系など、従来公知の粘着剤が使用できるが、アクリル系粘着剤が耐熱性に優れているため好ましい。粘着剤として液状のものを塗布してもよく、シート又はテープ状のものを貼り付けてもよいが、離型紙に積層された粘着テープが好ましく用いられる。粘着テープには、シール材の製造工程においてシール材への取付作業が容易であるという利点があり、またシール材を被シール面に貼り付けていく貼付作業時に、離型紙を剥がしながら貼り付けていくことができるため、取扱いが容易であるという利点がある。接着層の幅は、シール材の幅Wに対して、例えば、2/3以下(好ましくは1/2以下)、1/10以上(好ましくは1/4以上)程度の範囲から設定できる。接着剤の幅がシール材の幅Wに対して2/3を超えると接着層が流体と接触しやすくなり、接着層自体の耐熱性、耐薬品性によってはシール性能が低下する虞がある。接着層の幅がシール材の幅Wに対して1/10を下まわると、貼付作業を容易にするほどの接着性を発揮できない場合がある。
【0038】
[シール材の製造方法]
本発明の帯状シール材15は、例えば、図13に示すようにして量産できる。すなわち図13の例では、ePTFEフィルムの積層体であって、幅が狭く、上面から見たときに帯状にみえるもの(すなわち上記帯状シール材15の幅をWとしたとき、幅がW×cosθ程度になっている積層体)31を利用している。この帯状積層体31は、無孔質フッ素樹脂フィルム12を挟み込みながらePTFEフィルム11を積層した後、所定幅W×cosθに切断することによって製造することができる。また幅W×cosθのePTFEフィルム11を、無孔質フッ素樹脂フィルム12を挟み込みながら積層していくことによっても製造できる。そして得られた帯状積層体31の積層面とスリット刃34が形成する角度を所定値θに保ちながら、帯状積層体31を所定間隔tでスリットしていくことによって、帯状シール材15をできる。なお図示例では、帯状積層体31を側方に向けて角度θ(θは傾倒後のePTFE積層面と、傾倒前のePTFE積層面との間の角度)傾け、傾倒前の積層面(非傾倒面)と平行するスリット刃(スリット面)34で所定間隔tを保ちながらスリットしていくことによって、帯状シール材15を製造しているが、スリット刃34をePTFEフィルムの積層面に対して所定角度θ傾けながら、かつスリット刃34の間隔をtに保ちながらスリットしていってもよい。また前記スリットの後、図14に示すように、必要に応じてスリット体32の両側部33,33をトリミングしてもよい。
【0039】
また帯状シール材15は、幅がW×cosθの帯状積層体31ではなく、該帯状積層体31よりも幅が広い積層体を利用することによっても量産できる。図15〜図17は、幅広の積層体41を利用した帯状シール材15の製造方法を説明するための図である。この図示例の方法では、無孔質フッ素樹脂フィルム12を挟み込みながら、ePTFEフィルム11を積層して幅広の積層体41を製造している。そして図15に示すように、スリット刃(第1のスリット面)42をePTFEフィルム11の積層面13に対して所定角度θ傾けながら、かつスリット刃(第1のスリット面)42の間隔をtに保ちながら、前記積層体41をスリットすることにより、図16に示すような第1スリット体43を製造できる。次いで、第1スリット体43のスリット面42に現れるePTFEの積層線13と略平行であって、かつこのスリット面42と略直交する面44を第2のスリット面44に設定し、この第2のスリット面44に沿って、所定間隔Wを保ちながら第1スリット体43をさらにスリットしていくことにより、図17に示すような第2スリット体45を製造できる。この第2スリット体45が上述の帯状シール材15に相当する。
【0040】
なお上述の積層体(帯状積層体31、幅広積層体41など)は、各フィルムを積層した後、通常、熱処理(焼成処理など)することによって製造される。熱処理によって各フィルムを一体化できる。
【0041】
帯状シール材15は、そのまま被シール面に装着して用いてもよく、予め閉環状シール材に加工して用いてもよい。帯状シール材15を被シール面に装着して用いる場合、帯状シール材を被シール面に沿って、粘着テープなどの接着剤で貼り合わせながら装着し、最後にシール材の長手方向始端と終端を接続して閉環する。閉環するための接続方法は特に限定されないが、帯状シール材15の始端と終端をそれぞれテーパーを形成するようにカットし、テーパー面を重ね合わせるようにして接続する方法が好ましい。この場合、接続部は、締付圧によって一体化するが、接着剤や粘着テープを用いて接着により接続してもよい。
【0042】
閉環状シール材は、前記帯状シール材15の長手方向始端と終端を接続することによって製造できる。なお接続には、熱融着、超音波融着、接着剤又は粘着剤による接着などの公知の手法を利用できる。また接続部は、必要により、テーパー処理等を施しておいてもよい。
【0043】
上述したような本発明のシール材は、浸透漏れを抑制しながらシール材の幅の広がりを防止でき、さらにはカットスルー現象をも防止できるため、フランジ面21の他、種々の締め付け面(特にグラスライニング)をシールするのに有利に使用できる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0045】
実施例1
(1)ePTFEフィルム11の製造
乳化重合により得られたポリテトラフルオロエチレンの粉末(ファインパウダー)100重量部に、ソルベントナフサ22重量部を混合し、得られたペースト樹脂をフィルム状に成形した。この成形体をソルベントナフサの沸点以上の温度(この例では200℃)に加熱してソルベントナフサを蒸発除去し、その後ポリテトラフルオロエチレンの融点以下の温度(この例では300℃)で、2軸延伸(引き取り方向の延伸倍率:2倍、該引き取り方向と直交する方向の延伸倍率:10倍)して、厚さ60μm、空孔率80%のePTFEフィルム11を作製した。なお前記延伸は、1秒間に10%以上(この例では10%程度)の割合でフィルムが延びる速度で行った。
【0046】
(2)無孔質フッ素樹脂フィルム12の製造
上記ePTFEフィルムを3枚重ねあわせ、これをロールにて圧力(2.4kN/cm)と温度(70℃)をかけて空孔を圧潰して、厚さ50μmの緻密ePTFEフィルム(無孔質フッ素樹脂フィルム)12を作成した。
【0047】
(3)積層体41の製造
上記ePTFEフィルム11及び無孔質フッ素樹脂フィルム12を用い、図18〜図22のようにして、積層体を製造した。すなわち外径1,000mmのステンレス製中空マンドレル50に、ePTFEフィルム11を合計で220回巻回した。ただし始めに無孔質フッ素樹脂フィルム12を1回巻回し、以後ePTFEフィルム11を55回巻回する毎に無孔質フッ素樹脂フィルム12を1巻き分介挿することによって、合計4巻き分(4層分)の無孔質フッ素樹脂フィルム12を積層した。
【0048】
このようにして作製した巻回体51をオーブンに入れて、365℃で60分間焼成した。焼成後、オーブンから、この巻回体51を取出し、室温まで冷却した。なお内径をD1、外径をD2、軸方向の長さをL1としたときに、この巻回体51の形状は、約1,000mm(D1)×1,020mm(D2)×1,500mm(L1)であった(図18参照)。
冷却後、巻回体51を軸方向に切り開き、約1,500mm(L1)×3,000mm(L2)×10mm(L3)の平板体52を得た(図19参照)。
【0049】
上記平板体52を、L1方向の間隔を50mmにしながら、L2方向にカットすることにより、約50mm(L1)×3,000mm(L2)×10mm(L3)のカット体53を得た(図20参照)。このカット体53を6本使用し、ePTFEフィルムの積層方向(L3方向)に重ねてPTFEの融点以上の温度で熱圧着することによって、約50mm(L1)×3,000mm(L2)×50mm(L3)の積層体41を得た(図21参照)。なお長さL3が60mm(=10mm×6本)ではなく50mmとなっているのは、圧着の圧力のためである。
【0050】
(4)帯状シール材15の製造
上記のようにして得られた積層体41をスリット刃42に対して角度θ(実施例1では、θ=5°)傾け、3mm間隔でスリットした(図22参照)。得られたスリット体の両側部をトリミングし、20mmの幅で再度スリットすることにより(図22、17参照)、帯状シール材15を得た。
【0051】
実施例2〜4及び比較例1〜2
積層体41とスリット刃42との角度θを、15°(実施例2)、30°(実施例3)、45°(実施例4)、0°(比較例1)、又は90°(比較例2)にする以外は、実施例1と同様にして、帯状シール材15を製造した。
【0052】
上記のようにして得られた帯状シール材の耐座屈特性及び耐カットスルー特性を下記試験1及び試験2によって調べた。
【0053】
[試験1]
帯状シール材15を長さ100mmにカットし、厚さt方向に40kN(面圧に換算すると約20MPa)の荷重を室温で60分間負荷した。除荷後のシール材の幅W’と厚さt’を測定し、下記式に基づいて、圧縮特性Zとフロー特性Kを求めた。
Z=t’/t×100
(t’は試験後のシール材の厚さを示し、tは試験前のシール材の厚さを示す)
K=W’−W
(W’は試験後のシール材の幅を示し、Wは試験前のシール材の幅を示す)
圧縮特性Zが大きいほど座屈しにくいと言え、フロー特性Kが小さいほどカットスルーが発生しにくいと言える。
【0054】
[試験2]
帯状シール材15の底面に、両面粘着テープ[住友スリーエム(株)製、「♯9458」]を貼り付けた。この帯状シール材15に貼り付けた両面粘着テープの離型紙を剥がしながら、図23に示すプラテン25の被シール面26に帯状シール材15を装着した。なおシール面26のφ240mmのラインに帯状シール材15のセンターが略沿うようにし、帯状シール材15の始端と終端は両面転着テープ[住友スリーエム(株)製、「♯9458」]で接合して閉環した(内径220mm、外径260mm)。前記始端及び終端は、端部同士を接合し易くするため、角度30°で予めテーパーカットしておいた。
【0055】
シール材15を貼り付けた後、同一形状のプラテンを載せて、シール材15を挟んだ。これらを予め200°に加熱したプレス板にセットし、157kN(面圧に換算すると約20MPa)の荷重を30分間負荷し、カットスルー現象の発生の有無を目視で確認した。
【0056】
結果を表1及び図24に示す。
【表1】

【0057】
表1及び図24から明らかなように、角度θが小さくなるほどカットスルー現象及び座屈現象が起きにくくなる。しかし角度θが0°では浸透漏れを防止することができない。従って角度θは1〜45°程度が望ましいといえる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は従来のシール材の一例を示す概略斜視図である。
【図2】図2は図1の部分拡大断面図である。
【図3】図3は従来のシール材の他の例を示す概略断面図である。
【図4】図4は図3のシール材の使用状態の一例を示す概略断面図である。
【図5】図5は図3のシール材の使用状態の別の例を示す概略断面図である。
【図6】図6は本発明の帯状シール材の一例を示す概略斜視図である。
【図7】図7は図6の帯状シール材の使用状態の一例を示す概略斜視図である。
【図8】図8は本発明の帯状シール材の他の例を示す概略断面図である。
【図9】図9は本発明の帯状シール材のさらに他の例を示す概略断面図である。
【図10】図10は本発明の帯状シール材の別の例を示す概略断面図である。
【図11】図11は本発明の帯状シール材のさらに別の例を示す概略断面図である。
【図12】図12は本発明の帯状シール材の他の例を示す概略断面図である。
【図13】図13は本発明の帯状シール材の製法の一例を示す第1の概略図(斜視図)である。
【図14】図14は本発明の帯状シール材の製法の一例を示す第2の概略図(斜視図)である。
【図15】図15は本発明の帯状シール材の製法の他の例を示す第1の概略図(斜視図)である。
【図16】図16は本発明の帯状シール材の製法の他の例を示す第2の概略図(斜視図)である。
【図17】図17は本発明の帯状シール材の製法の他の例を示す第3の概略図(斜視図)である。
【図18】図18は実施例の帯状シール材の製造手法について説明するための第1の図(斜視図)である。
【図19】図19は実施例の帯状シール材の製造手法について説明するための第2の図(斜視図)である。
【図20】図20は実施例の帯状シール材の製造手法について説明するための第3の図(斜視図)である。
【図21】図21は実施例の帯状シール材の製造手法について説明するための第4の図(斜視図)である。
【図22】図22は実施例の帯状シール材の製造手法について説明するための第5の図(斜視図)である。
【図23】図23は実施例で得られた帯状シール材の試験方法について説明するための二面図(平面図、側面図)である。
【図24】図24は帯状シール材における所定角度θと、圧縮特性Z及びフロー特性Kとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0059】
11:延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)フィルム
12:無孔質フッ素樹脂フィルム
13:ePTFEフィルム積層面
14a:帯状シール材の始端
14b:帯状シール材の終端
15:帯状シール材
31:帯状積層体
41:積層体
34、42、44:スリット刃(スリット面)
43:第1スリット体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムが積層されており、さらにこの積層物の層間及び/又は表面に無孔質フッ素樹脂フィルムが積層されている帯状シール材であって、
この帯状シール材の幅Wと厚さtとが、W≧tの関係を満足しており、かつ
延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムの積層面とシール材の幅方向とが形成する角度θが1〜45°であることを特徴とする帯状シール材。
【請求項2】
前記角度θと、シール材の幅Wと、シール材の厚さtとが、下記式(1)の関係を満足する請求項1に記載の帯状シール材。
W>t/tanθ …(1)
【請求項3】
前記無孔質フッ素樹脂フィルムが所定間隔hを保ちながら複数枚積層されており、
この間隔hと、前記角度θと、シール材の幅Wと、シール材の厚さtとが、下記式(2)の関係を満足する請求項1に記載の帯状シール材。
W>h/sinθ+t/tanθ …(2)
【請求項4】
前記間隔hが1〜10mmの範囲から選択されるものである請求項3に記載の帯状シール材。
【請求項5】
前記角度θが15〜45°である請求項1〜4のいずれかに記載の帯状シール材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の帯状シール材の長手方向始端と終端を接続して閉環状にしたものである閉環状シール材。
【請求項7】
延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムが積層されており、さらにこの積層物の層間及び/又は表面に無孔質フッ素樹脂フィルムが積層されている閉環状シール材であって、
この閉環状帯シール材の幅Wと厚さtとが、W≧tの関係を満足しており、かつ
延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンの積層面とシール材の幅方向とが形成する角度θが1〜45°であることを特徴とする閉環状シール材。
【請求項8】
延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムの積層物の層間及び/又は表面に無孔質フッ素樹脂フィルムが配設されるように、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムと無孔質フッ素樹脂フィルムとを積層していく帯状積層体製造工程、
得られた帯状積層体の積層面とスリット刃が形成する角度を1〜45°の範囲から選択される所定角度θに保ちながら、前記帯状積層体を所定間隔tでスリットしていくスリット工程、
を含む帯状シール材の製造方法。
【請求項9】
延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムの積層物の層間及び/又は表面に無孔質フッ素樹脂フィルムが配設されるように、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムと無孔質フッ素樹脂フィルムとを積層していく積層体製造工程、
得られた積層体の積層面とスリット刃が形成する角度を1〜45°の範囲から選択される所定角度θに保ちながら、前記積層体を所定間隔tでスリットしていく第1スリット工程、
この第1スリット工程によってスリット体を製造した後、スリット体のスリット面に現れるポリテトラフルオロエチレンの積層線と略平行になりかつこのスリット面とは略直交する面に沿って、所定間隔Wを保ちながらかつW≧tの関係を満足させながら前記スリット体をさらにスリットしていく第2スリット工程、
を含む帯状シール材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2007−51257(P2007−51257A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239182(P2005−239182)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【Fターム(参考)】