説明

シール構造、およびこれを用いたガスタービン

【課題】
ガスタービン等の高温条件下で使用されるシール構造であって、被削性,遮熱性にすぐれ、かつシール性に優れる新規なシール構造を提供する。
【解決手段】
対抗する二つの部材よりなるシール構造であって、表面に気泡構造を有するセラミックス層をアブレイダブルコーティングとして用いる。また、気泡構造を有するセラミックスからなるアブレイダブルコーティング層と基体の間に、基体側から、耐食耐酸化合金からなる下地層、および、多孔質セラミック層からなる遮熱層を設ける。さらには、前記気泡構造を有するセラミックスがZrO2,Al23,SiO2の内から選ばれる、いずれか1つ、または複数を含み、空隙率が50〜90%の範囲とする。このような構成とすることで、高温条件下でも優れた被削性と遮熱性を有するシール構造を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンなどの高温条件下で使用され、回転体と静止体の間隙から漏洩する高温燃焼ガスなどの作動流体を低減するためのシール構造、及びガスタービンに関する。
【背景技術】
【0002】
アブレイダブルコーティング(被削性造隙皮膜)とは、対向する部品が接触した場合に優先的に研削を受ける被膜である。ガスタービンでは、動翼と動翼先端部に対向するシュラウドの間に運転中に両者が接触しないよう間隙が設けられている。この間隙が大きすぎると運転効率が低下する。一方、この間隙が小さすぎると動翼,シュラウドが接触することとなる。従って、間隙を可能な限り小さくするとともに、動翼,シュラウドのいずれかに、互いに摺動した場合に容易に研削を受けるアブレイダブルコーティング層を設け、動翼等の損傷を回避することが知られている。
【0003】
このようなアブレイダブルコーティングとしては、種々のコーティングが提案されている。特開2007−170302号公報(特許文献1)には、NiCrAl合金,NiCrFeAl合金,MCrAlY合金と、固体潤滑剤であるベントナイトからなる組成系による合金系アブレイダブルコーティングが開示されている。
【0004】
また、逆に、互いに摺動した場合に相手材を研削するアブレッシブコーティング(研削性皮膜)を設けることで動翼の損傷を防止することも提案されている。特開平4−218698号公報(特許文献2)および特表平9−504340号公報(特許文献3)では、動翼の先端部に、MCrAlY(MはFe,Ni,Coのうちの何れか1以上)合金からなるマトリクス中に研削粒子として、CBN(立方晶窒化硼素)の砥粒を分散させたアブレッシブコーティング(研削性皮膜)を設けることが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2007−170302号公報
【特許文献2】特開平4−218698号公報
【特許文献3】特表平9−504340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近のガスタービンでは高効率化の目的で燃焼ガス温度の高温化が進んでいる。そこで、動翼・静翼・シュラウドなどの特に高温となる上流側の段落表面に、低熱伝導で耐熱性に優れた遮熱層(TBC:Thermal Barrier Coating)を設け、これら部材を高温の燃焼ガスから保護する必要に迫られている。
【0007】
しかしながら、遮熱層として使用されるジルコニア系のセラミック膜は硬く、シュラウドに適用した場合には特許文献1のようにアブレイダブルコーティングとして機能しない。
【0008】
また、特許文献2,3のようなアブレッシブコーティングによりTBCを研削することが可能であるが、アブレッシブコーティングの研削粒子が摺動によって損耗し、長時間の運転ではアブレッシブコーティングの研削性が低下するとともに、シール性が低下するという問題がある。また、シュラウド側にTBCを施工し、動翼側にアブレッシブコーティングを施工する必要から加工が煩雑となる。
【0009】
そこで本願発明の目的は上記課題を解決し、シール性能を向上させた新規なシール構造及びそれを用いたガスタービンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のシール構造は、遮熱性,被削性のよいセラミック系のアブレイダブルコーティングとして、セラミック発泡体を用いる。上記課題を解決する本願発明の特徴は、二つの対向する部材よりなるシール構造であって、一方の表面にアブレイダブルコーティング層として、セラミック発泡体を有することにある。セラミック発泡体とは、発泡セラミックス,セラミックスフォームのような3次元網目構造の多孔質セラミックスである。特に、セラミック発泡体の空隙率は50〜90%であることが好ましい。
【0011】
TBC層を設ける場合には、アブレイダブルコーティング層とシール構造部材の間に設ける。また、アブレイダブルコーティング層には、下地層として、基材の耐食性や耐酸化性能を向上させたり、密着性を向上させる層を設けてもよい。また、必要に応じ、他方の部材にアブレッシブコーティングを設けてもよい。
【0012】
また、他の本発明の特徴は、上記のシール構造を有するガスタービンである。特に、ガスタービンの動翼と、動翼と対向する部材よりなるシール構造に適用することが好ましい。また、動翼に適用する場合には、動翼と対向する部材側に上記のアブレイダブルコーティングを設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
上記の構成によれば、シール性能を向上させた新規のシール構造及びガスタービンを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
高温で使用され、セラミックを主成分とするアブレイダブルコーティング層の具体例について、図を用いて説明する。図1はシール構造を構成する一方の部材を表す図であり、基体40上に下地層41を介して、多孔質セラミックの遮熱層42を設け、その上に気泡構造を有するセラミック層43からなるアブレイダブルコーティング層(被削性造隙皮膜)を設けた例である。
【0015】
気泡構造を有するセラミック層43は、気泡44の外殻に沿って薄膜状のセラミックス45が網目のように取り囲む構造を有している。この薄膜状のセラミックスは摺動によって容易に破壊,脱落して被削性を示し、アブレイダブルコーティングとして機能する。
【0016】
気泡構造を有するセラミックスとしては、ZrO2,Al23,SiO2の内のいずれか、または、複数を含むことが耐熱性の観点から望ましい。また、気泡構造を有するセラミックス層の空隙率は50〜90%の範囲であることが望ましい。これは、空隙率が50%未満では被削性が不十分となり、反対に90%を越えると、被削性は良好となるが気泡構造を有するセラミックス層43の強度が低下し剥離を生じるためである。選択したセラミック材料や製法によって、更に最適な空隙率に適宜調整される。
【0017】
気泡構造を有するセラミックス層43の施工方法としては、セラミックの前駆体を含むスラリーに発泡剤を添加したものを塗布,乾燥,焼成する方法が最も好適であるが、発泡セラミックあるいはセラミック多孔体の製造方法として開示されている種々の方法が適用可能である。
【0018】
また、気泡構造を有するセラミックス層43は基体上に直接設けることも可能であるが、遮熱性の確保を図るために、図1のように低熱伝導で耐熱性に優れた多孔質セラミック層からなる遮熱層42を設けることが好ましい。遮熱層42としては、ジルコニア(ZrO2)系のセラミックスが望ましく、特にY23,MgO,CaO,CeO2,Sc23,Er23,Gd23,Yb23,Al23,SiO2,La23から選ばれた少なくとも1種を含む部分安定化ジルコニアが望ましい。イットリア部分安定化ジルコニア(YSZ)は極めて好適である。また、遮熱層42は、大気中プラズマ溶射法による、気孔率5〜30%の範囲の多孔質セラミック層が望ましい。これは、気孔率が5%未満では気孔による応力緩和と遮熱性向上が十分に機能せず、反対に30%を越えると遮熱性は向上するが、遮熱層42の強度が低下し剥離を生じ易くなるためである。相手材と接触させず、アブレイダブルコーティングの下層に使用するため、硬度が高くとも相手材を損傷させない。その結果、アブレイダブルコーティングの被削性,TBCの遮熱性を併せ持つシール構造を提供できる。また、遮熱層42に大気中プラズマ溶射法による、気孔率5〜30%の範囲の多孔質セラミック層を用いることで、セラミックの前駆体を含むスラリーに発泡剤を添加したものを塗布した際に、スラリーが遮熱層42の気孔内に含浸することで、気泡構造を有するセラミックス層43と遮熱層42の密着性が向上する。この含浸深さは、スラリーの粘度によって調整することが可能であるが、10〜50μm程度が望ましい。10μm以下では密着性の向上が十分に得られず、50μm以上では遮熱層42の気孔率の低下が著しくなり、遮熱性の低下や熱応力緩和機能の低下による剥離を生じやすくなる。
【0019】
なお、TBCの耐久性を向上させるための方法として、セラミック遮熱層に縦方向のクラックを生じさせて熱応力を緩和する方法,電子ビーム物理蒸着法を用いてセラミック遮熱層を柱状組織化して柱状組織間の分離によって熱応力を緩和する方法等が知られている。遮熱層42に対してこれらの処理を施すこともできる。
【0020】
また、さらに遮熱層42と基体の間に、下地層41を設けることも可能である。下地層41としては、耐食性,耐酸化性に優れるものが好ましい。例としては、一般的に遮熱層(TBC)の下地層(ボンドコート)として用いられるMCrAlY合金,NiCr合金,NiAl合金等を用いることができる。下地層は減圧プラズマ溶射法によって形成することが最も望ましいが、HVOF溶射法やHVAF溶射法等の高速ガス溶射法を用いることも可能である。これらの下地層41に用いる合金は、基体よりも多量のCr,Alを含んでおり、高温において保護性を有するCr,Alの酸化皮膜を形成することで、優れた耐食耐酸化性を発揮する。
【0021】
これらの層を設けることにより、気泡構造を有するセラミック層の密着性向上,熱膨張差の緩和による熱応力の低減の効果が期待できる。またその結果、シール構造の耐久性が向上する。
【0022】
気泡構造を有するセラミックス層43は従来よりもアブレイダブルコーティングとしての被削性に優れ、また、シール構造を変更するため、対抗するシール構造の相手部材にアブレッシブコーティングを設けることが不要となる。アブレッシブコーティングを省略することにより、摺動による脱落などのアブレッシブコーティングの損耗(研削性の低下,間隙の拡大によるシール性の低下)を勘案する必要がなくなる。また、一方にアブレッシブコーティング、他方にTBCを付した場合に比して、一方を基材のまま使用することが可能となり、施工上,コスト上で有利となる。
【0023】
次に、ガスタービンについて説明する。ガスタービンの主要部の軸方向断面模式図(上側半分)の一例を図2に示す。ガスタービンは、略円筒形状のケーシング1と、このケーシング1の軸心に位置する略円柱形状のタービンロータ2と、タービンロータ2の外周で軸方向に複数段(図2の例では4段)に設置された動翼3,4,5,6と、各段の動翼の外周部と径方向にわずかな間隙7を隔てた位置でケーシング1に支持されたシュラウド8,9,10,11と、燃焼ガスの流通方向Aで見て各段の動翼の上流側で動翼に対し交互に配置された静翼12,13,14,15とを備えている。動翼は、Ni基合金など耐熱温度の高い金属で形成される。
【0024】
タービンロータ2はタービンディスク16,17,18,19とスペーサ20,21,22を軸方向に重ねて結合した回転体であり、その上流側部には中間軸23が接続し、下流側部には後部軸24が接続されている。
【0025】
タービンロータ2の上流側には燃焼器31が位置しており、動翼3,4,5,6と静翼12,13,14,15を交互に配置して形成されたガスパス30に燃焼器31で生成された高温の燃焼ガスを流し、燃焼ガスの熱エネルギーをタービンロータ2の回転力に変換させることで動力を発生する。各シュラウド8,9,10,11の内周壁はガスパス30の一部を形成している。動翼3,4,5,6の先端部と、当該先端部に対向するシュラウド8,9,10,11の内壁との間には、運転中に両者が接触しないように間隙7(クリアランス)が設けられている。
【0026】
上述の通り、この間隙が大きすぎると動翼3,4,5,6の高圧側から低圧側へ間隙7を通じて燃焼ガスが漏洩し、圧力損失が生じることにより運転効率が低下する。従って、アブレイダブルコーティングによりこの間隙7を必要最小に保ち、燃焼ガスの漏洩をシールする構造によりタービンの効率を向上させることが可能となる。
【0027】
一方、前記の間隙7が小さすぎると、タービン運転時において、動翼3,4,5,6の熱膨張,ロータ2の偏心,タービン全体に発生する振動などの影響により、動翼3,4,5,6の先端部とシュラウド8,9,10,11の内壁とが接触し、動翼の回転によって互いに摺動してしまう場合がある。また、長時間の運転によって高温高圧の燃焼ガスに曝された動翼3,4,5,6やシュラウド8,9,10,11が変形を生じ、やはり動翼本体3,4,5,6の先端部と硬いシュラウド8,9,10,11の内壁とが接触し摺動する原因となる場合もある。従って上記の運転時の振動,変形などの影響を勘案しても動翼と内壁とが接触しない程度に基材と動翼との間隙を保持するとともに、アブレイダブルコーティングを充分な厚さとする必要がある。
【0028】
シュラウド8,9,10,11の内壁表面に被削性の良いアブレイダブルコーティングを設け、動翼3,4,5,6の先端部と接触し、動翼の回転によって互いに摺動した場合に、動翼3,4,5,6の先端によってコーティングが容易に研削を受ける。その結果、動翼3,4,5,6の損傷を防止するとともにガスタービンの回転が適正に行われる。また、動翼3,4,5,6の先端部がアブレイダブルコーティングに食い込むような形で溝が形成されることでシール性が向上する。
【0029】
さらにTBCを併用することにより、耐熱部材の耐久性向上、あるいは、冷却空気低減によるタービン効率向上が可能となる。また、TBC層を設けることにより、セラミック発泡体と基材との間に層を設けることとなり、密着性が向上する。
【0030】
本発明のシール構造は、上述のような動翼とシュラウドとのシールのほか、他の回転体と静止体(ロータと静翼)などのシール構造部分に適用可能である。
【実施例1】
【0031】
試験片基材として、直径40mm,厚さ5mmの円板形状のNi基超合金(IN738L C:Ni−16wt%Cr−8.5wt%Co−1.7wt%Mo−2.6wt%W−1.7wt%Ta−0.9wt%Nb−3.4wt%Al−3.4wt%Ti)を用い、その表面にCoNiCrAlY合金(Co−32wt%Ni−21wt%Cr−8wt%Al−0.5wt%Y)粉末を用いて、減圧雰囲気中プラズマ溶射にて下地層を形成し、拡散熱処理として、真空中で1121℃,2hの熱処理を実施した。下地層の厚さは約200μmである。その後、下地層を設けた基材上に、イットリア部分安定化ジルコニア(ZrO2−8wt%Y23)粉末を用い、大気中プラズマ溶射にて約0.5mm厚さ多孔質セラミックコーティング層を設けた。さらに、この表面に、ZrO2前駆体を含むスラリーとして、ポリビニルアルコール水溶液とジルコニア粉末を3:1で混合分散させたものに、さらに発泡剤として炭酸水素ナトリウムを添加したものを塗布し、ドライヤーで加熱乾燥した。この塗布と乾燥の工程を繰り返し、乾燥後の塗布層の厚さが1mmに達するまで繰り返した。加熱乾燥により、塗布層は熱によって発泡を生じながら乾燥固化する。その後、試験片を約90℃×1h,200℃×1hに電気炉中で加熱し水分を蒸発させ、最終的に、真空中で1121℃×2hの焼成熱処理を実施することで、ZrO2前駆体を含むスラリーから気泡構造を有するZrO2を形成した。塗布乾燥したものの厚さの約半分程度まで、焼成で収縮する。断面組織写真を画像解析して空隙率を求めたところ約70%であった。また、気泡構造を有するZrO2層の一部は、スラリー塗布時に多孔質セラミック層の表面から染み込んで、厚さ約30μmの含浸層を形成していた。
【0032】
比較のために、基材に、イットリア部分安定化ジルコニア層を形成した試験片(気泡構造を有するセラミック層なし)を上記と同様の手法で作成し、遮熱層を有する試験片No.2(従来例)とした。
【0033】
本実施例のアブレイダブルコーティング層の特性を評価するために、上記の方法で作製した試験片に対し、(1)高温磨耗試験,(2)高温酸化試験を行った。
【0034】
(1)の高温磨耗試験は図3に示す試験装置を用いた。本装置は試験片を実機で使用される温度下において、強制的に摺動させ被削性を調べるものである。図3において、その一面に下地層41を介してアブレイダブルコーティング層43を施工されたアブレイダブル試験片50は移動機構51に取り付けられ、一定の速度で移動される。回転軸52に動翼材IN738LC製のテストリング53(直径26mm,内径20mm,高さ15mm)が取り付けられ高速で回転する。アブレイダブル試験片50は、移動機構51により回転するテストリング53に押圧される。アブレイダブル試験片50と回転するテストリング53は電気炉54で加熱される。試験条件は、試験片温度:約850℃,試験片移動速度:0.05mm/秒,移動距離0.8mmまで行った。試験後に、摺動部の外観観察と断面観察を、アブレイダブル試験片50とテストリング53のそれぞれについて行った。
【0035】
本発明の試験片を使用した場合には、摺動部のみ切削され、摺動部以外は試験片の変化がなかった。また、テストリング側の磨耗は見られなかった。
【0036】
一方、比較例の試験片を使用した場合には、摺動部の損耗とともに、アブレイダブルコーティング層が摺動部以外で剥離した。また、相手材のテストリングも激しく磨耗した。
【0037】
(2)の高温酸化試験は、電気炉を用い1000℃で1000hの大気中酸化試験を実施した。試験後に試験片の外観観察と断面観察を行った。いずれの試験片でも、酸化試験では損傷は見られなかった。従って、遮熱層を設けたことにより、従来と同様の遮熱性を示した。
【0038】
これらの結果を表1にまとめて示す。
【0039】
【表1】

【実施例2】
【0040】
実施例1と同様の試験片基材を用い、実施例1と同様にして、CoNiCrAlY合金下地層を減圧雰囲気中プラズマ溶射にて形成し、拡散熱処理後、イットリア部分安定化ジルコニア多孔質セラミックコーティング層を設けた。さらに、この表面に、ZrO2前駆体を含むスラリーとして、コロイダルシリカ溶液とジルコニア粉末を3:1で混合分散させたものに、さらに発泡剤として炭酸水素ナトリウムを添加したものを塗布し、ドライヤーで加熱乾燥した。この塗布と乾燥の工程を繰り返し、乾燥後の塗布層の厚さが1mmに達するまで繰り返した。その後、試験片を約90℃×1h,200℃×1hに電気炉中で加熱し水分を蒸発させ、最終的に、真空中で1121℃×2hの焼成熱処理を実施することで、ZrO2前駆体を含むスラリーから気泡構造を有するZrO2とSiO2の混合セラミックを形成した。断面組織写真を画像解析して空隙率を求めたところ約80%であった。また、気泡構造を有するZrO2とSiO2層の一部は、スラリー塗布時に多孔質セラミック層の表面から染み込んで、厚さ約40μmの含浸層を形成していた。
【0041】
本実施例のアブレイダブルコーティング層の特性を評価するために、実施例1と同様に、作製した試験片に対し、(1)高温磨耗試験,(2)高温酸化試験を行った。その結果、本実施例の試験片では、摺動部のみ切削され、摺動部以外は試験片の変化がなかった。また、テストリング側の磨耗は見られなかった。
【実施例3】
【0042】
実施例1と同様の試験片基材を用い、実施例1と同様にして、CoNiCrAlY合金下地層を減圧雰囲気中プラズマ溶射にて形成し、拡散熱処理後、イットリア部分安定化ジルコニア多孔質セラミックコーティング層を設けた。さらに、この表面に、セラミック前駆体を含むスラリーとして、セラミック系接着剤・充填剤として市販されている東亜合成株式会社製の商品名「アロンセラミックE」を用い、さらに発泡剤として炭酸水素ナトリウムを添加したものを塗布し、ドライヤーで加熱乾燥した。この塗布と乾燥の工程を繰り返し、乾燥後の塗布層の厚さが1mmに達するまで繰り返した。その後、試験片を約90℃×1h,200℃×1hに電気炉中で加熱し水分を蒸発させ、最終的に、真空中で1121℃×2hの焼成熱処理を実施することで、セラミック前駆体を含むスラリーから気泡構造を有するZrO2とSiO2の混合セラミックを形成した。断面組織写真を画像解析して空隙率を求めたところ約60%であった。また、気泡構造を有するZrO2とSiO2層の一部は、スラリー塗布時に多孔質セラミック層の表面から染み込んで、厚さ約20μmの含浸層を形成していた。
【0043】
本実施例のアブレイダブルコーティング層の特性を評価するために、実施例1と同様に、作製した試験片に対し、(1)高温磨耗試験,(2)高温酸化試験を行った。その結果、本実施例の試験片では、摺動部のみ切削され、摺動部以外は試験片の変化がなかった。また、テストリング側の磨耗は見られなかった。
【実施例4】
【0044】
実施例1と同様の試験片基材を用い、実施例1と同様にして、CoNiCrAlY合金下地層を減圧雰囲気中プラズマ溶射にて形成し、拡散熱処理後、イットリア部分安定化ジルコニア多孔質セラミックコーティング層を設けた。さらに、この表面に、セラミック前駆体を含むスラリーとして、セラミック系接着剤・充填剤として市販されている東亜合成株式会社製の商品名「アロンセラミックD」を用い、さらに発泡剤として炭酸水素ナトリウムを添加したものを塗布し、ドライヤーで加熱乾燥した。この塗布と乾燥の工程を繰り返し、乾燥後の塗布層の厚さが1mmに達するまで繰り返した。その後、試験片を約90℃×1h,200℃×1hに電気炉中で加熱し水分を蒸発させ、最終的に、真空中で1121℃×2hの焼成熱処理を実施することで、セラミック前駆体を含むスラリーから気泡構造を有するAl23とSiO2の混合セラミックを形成した。断面組織写真を画像解析して空隙率を求めたところ約75%であった。また、気泡構造を有するZrO2とSiO2層の一部は、スラリー塗布時に多孔質セラミック層の表面から染み込んで、厚さ約30μmの含浸層を形成していた。
【0045】
本実施例のアブレイダブルコーティング層の特性を評価するために、実施例1と同様に、作製した試験片に対し、(1)高温磨耗試験,(2)高温酸化試験を行った。その結果、本実施例の試験片では、摺動部のみ切削され、摺動部以外は試験片の変化がなかった。また、テストリング側の磨耗は見られなかった。
【0046】
以上の結果から、本実施例のアブレイダブルコーティングは、優れた被削性,耐久性を有する。このようなアブレイダブルコーティングをシール構造に使用することで、シール性を向上させることが可能である。
【0047】
また、ガスタービンのシュラウドの表面にアブレイダブルコーティング層と遮熱層を設けた場合、動翼を構成する基材で容易に切削できるアブレイダブルコーティングであると同時に、従来から使用している遮熱層を併用でき、優れたシール性を得られる。また、動翼側にコーティングを設けることが不要であり、施工が容易となる。
【0048】
翼側にアブレイダブルコーティングを設けることも可能であるが、例えばシュラウドが楕円形状に変形した場合には短くなった翼でシール構造のすき間が生じる可能性があるため、シュラウド側にアブレイダブルコーティングを設けることが好ましい。その結果、ガスタービン等の高温条件下でも被削性,遮熱性にすぐれ、かつシール性に優れるシール構造となり、効率向上に寄与する。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のシール構造によれば、ガスタービンなどに適用し、高温条件下でのシール構造として応用できる。また、ガスタービン以外にも蒸気タービン,自動車エンジン等のシール構造として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の高温シールの構成例を示す断面模式図である。
【図2】ガスタービン主要部の軸方向断面模式図(上側半分)の一例を示す断面模式図である。
【図3】高温磨耗試験装置の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0051】
1 ケーシング
2 タービンロータ
3,4,5,6 動翼
7 間隙
8,9,10,11 シュラウド
12,13,14,15 静翼
16,17,18,19 タービンディスク
20,21,22 スペーサ
23 中間軸
24 後部軸
30 ガスパス(燃焼ガス流路)
31 燃焼器
40 基体
41 下地層
42 遮熱層
43 アブレイダブルコーティング層
44 気泡(空隙)
45 セラミック
50 アブレイダブル試験片
51 移動機構
52 回転軸
53 テストリング
54 電気炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二つの対向する部材よりなるシール構造であって、前記部材のうち一方の表面にアブレイダブルコーティング層を有し、前記アブレイダブルコーティング層は、50%〜90%の空隙率を有するセラミック発泡体よりなることを特徴とするシール構造。
【請求項2】
請求項1に記載されたシール構造であって、前記部材と前記アブレイダブルコーティング層との間に設けられた30%以下の気孔率を有する多孔質セラミック層を有することを特徴とするシール構造。
【請求項3】
請求項2に記載されたシール構造であって、前記部材と前記多孔質セラミック層との間に設けられた合金層を有することを特徴とするシール構造。
【請求項4】
請求項1に記載されたシール構造であって、前記アブレイダブルコーティング層はZrO2,Al23,SiO2の少なくともいずれかを含むことを特徴とするシール構造。
【請求項5】
請求項1に記載されたシール構造であって、前記アブレイダブルコーティング層の空隙率が50〜90%の範囲であることを特徴とするシール構造。
【請求項6】
請求項2に記載されたシール構造であって、
前記多孔質セラミック層は、ZrO2を主成分とすることを特徴とするシール構造。
【請求項7】
請求項2に記載されたシール構造であって、
前記多孔質セラミック層は、Y23,MgO,CaO,CeO2,Sc23,Er23,Gd23,Yb23,Al23,SiO2,La23の少なくともいずれかを含有するジルコニアであることを特徴とするシール構造。
【請求項8】
請求項3に記載されたシール構造であって、
前記合金層は、MCrAlY合金,NiCr合金,NiAl合金のいずれかであることを特徴とするシール構造。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかのシール構造を有することを特徴とするガスタービン。
【請求項10】
回転軸と、前記回転軸に固定された動翼と、前記回転軸及び前記動翼を収納するケーシングとを有するガスタービンであって、
前記動翼に対向するケーシングの表面の少なくとも一部に設けられたアブレイダブルコーティング層を有し、前記アブレイダブルコーティング層は、気泡を有するセラミックよりなることを特徴とするガスタービン。
【請求項11】
請求項10に記載されたガスタービンであって、前記ケーシングと前記アブレイダブルコーティング層との間に設けられた多孔質セラミック層を有することを特徴とするガスタービン。
【請求項12】
請求項11に記載されたガスタービンであって、前記部材と前記多孔質セラミック層との間に設けられた合金層を有することを特徴とするガスタービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−151267(P2010−151267A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331836(P2008−331836)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】