説明

シール構造とその制御方法

【課題】回転部と固定部の間のシール性能を向上できるとともに蒸気タービンのスムーズな立ち上げが可能で、回転部が長時間連続して回転しても回転部の温度上昇を抑制できるシール構造とその制御方法を提供することを課題とする。
【解決手段】シール基板61側のシールフィン62とロータ2a側の通気性スペーサ4bが対向するとともに、シール基板61側の通気性スペーサ4aとロータ2a側のシールフィン2a1が対向するように構成されるシール構造であって、シール基板61は、ロータ2aに対して近接・離反する方向に移動可能に備わっている。蒸気Stの圧力が低いと、シールフィン62と通気性スペーサ4b及びシールフィン2a1と通気性スペーサ4aは非接触状態になり、蒸気Stの圧力が高くなると、シールフィン62と通気性スペーサ4b及びシールフィン2a1と通気性スペーサ4aが接触状態になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンに備わるシール構造とその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラ等の蒸気発生器が発生する蒸気でタービン(蒸気タービン)を回転して発電する発電プラントの場合、蒸気タービンは蒸気の流れの上流側から、高圧タービン、中圧タービン、及び低圧タービンが備わり、低圧タービンを回転させた蒸気は、排気室を経由して復水器に導入され、復水器で凝縮されて給水となり蒸気発生器に還流する。
このような発電プラントを構成する蒸気タービンは、ケーシングの内側に固定される静翼が、ロータと一体に回転する動翼と動翼の間に配置され、動翼と静翼で段落が形成される。
【0003】
そして、ケーシングの内部に導入された蒸気は、蒸気タービンのケーシングの内部を流れ、静翼と、ケーシングに回転自在に支持されるロータに固定される動翼との間を交互に通りながら膨張し、ロータを回転させる。そして、ロータの最も下流に備わる動翼、すなわち最終段の動翼を通過した蒸気は、ケーシングの外に排気されるように構成される。
【0004】
このような蒸気タービンにおいては、蒸気が動翼に当たることでロータを回転することから、蒸気を効率よく使用するために、例えば静翼とロータなど、固定部と回転部の間のクリアランスからの蒸気の漏れをできるだけ少なくするように、固定部と回転部の間のシール性能を向上することが要求される。
【0005】
このような問題に対応するため、従来、ロータなどの回転部と静翼などの固定部との間に、フィン(シールフィン)を有するラビリンスシール装置を備え、さらにフィンと対向する位置に切削性に優れる部材(アブレイダブル材)を用いたシール構造の技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示される技術によると、フィンとアブレイダブル材とが接触しても、フィンによってアブレイダブル材が切削されるため、フィンの損傷を防止できる。
【0006】
しかしながら、シール性能向上のために、回転部と固定部の間のクリアランスが極力小さくなるようにフィンとアブレイダブル材を配置すると、フィンとアブレイダブル材の接触が多くなって回転部の回転に対する抵抗(回転抵抗)が増大するため、例えば、蒸気タービンの立ち上げ初期など、蒸気圧が比較的低い場合は、ロータが回転しにくくなり、蒸気タービンのスムーズな立ち上げが困難になるという問題が生じる。
【0007】
さらに、例えば回転部に備わるフィンと固定部に備わるアブレイダブル材の接触によって発生する摩擦熱が回転部に伝熱して回転部が高温になり、熱膨張や熱曲りなど、回転に支障をきたすような熱変形が発生する。そして、蒸気タービンのタービン効率が低下するという問題が発生する。
そこで、回転部への伝熱を抑制するような断熱層を有するシール構造の技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
特許文献2に開示される技術によると、例えば回転部に備わるフィンと、回転部の間に断熱層を有することで、回転部と固定部の接触によって発生する摩擦熱が回転部に伝熱することを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−228013号公報
【特許文献2】特開2007−16704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に開示される技術では、回転部が長時間連続して回転し、フィンとアブレイダブル材の接触が長時間に亘ると、発生する摩擦熱が断熱層に蓄熱され、さらに、断熱層に蓄熱された熱が回転部に伝熱して回転部が高温になるという問題がある。
【0010】
また、フィンとアブレイダブル材の接触で回転抵抗が増大し、蒸気の圧力が低いときにロータがスムーズに回転せず、蒸気タービンのスムーズな立ち上げは達成できない。
フィンとアブレイダブル材の接触を防止するため、フィンとアブレイダブル材の間のクリアランスを大きくすると、回転部と固定部の間のクリアランスが大きくなることになって蒸気の漏れが大きくなるため、蒸気タービンのタービン効率の向上が望めなくなる。
【0011】
そこで、本発明は、回転部と固定部の間のシール性能を向上できるとともに蒸気タービンのスムーズな立ち上げが可能で、回転部が長時間連続して回転しても回転部の温度上昇を抑制できるシール構造とその制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明は、回転部に備わるフィンと固定部に備わるスペーサが互いに対向して、固定部に備わるフィンと回転部に備わるスペーサが互いに対向し、さらに、スペーサを通気性金属で形成するとともに、固定部に備わるフィンとスペーサが、回転部に対して近接・離反する方向に移動可能なシール構造とその制御方法とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、回転部と固定部の間のシール性能を向上できるとともに蒸気タービンのスムーズな立ち上げが可能で、回転部が長時間連続して回転しても回転部の温度上昇を抑制できるシール構造とその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る蒸気タービンを備える発電プラントの概略系統図である。
【図2】図1の蒸気タービンの一部拡大図である。
【図3】図2のA1部拡大図である。
【図4】図3のA2部拡大図である。
【図5】(a)は、図2のX1―X1断面図、(b)は、図5の(a)のA3部拡大図である。
【図6】ハイロー型のラビリンスシール装置の一構成例を示す概略図であって、シール基板にシールフィンが備わる形態を示す図である。
【図7】ハイロー型のラビリンスシール装置の一構成例を示す概略図であって、ロータにシールフィンが備わる形態を示す図である。
【図8】(a)は、図2のX2―X2断面図、(b)は、図8の(a)のA4部拡大図である。
【図9】動翼の先端を示す概略図である。
【図10】ピストン本体を周方向に連結する圧縮バネを備えるラビリンスシール装置の一構成例を示す概略図である。
【図11】駆動用蒸気を高圧蒸気供給源から与圧室に流入してピストンヘッドを移動するラビリンスシール装置の一構成例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について、適宜図を用いて詳細に説明する。
図1に示すように、発電プラント1は、ボイラ10と、蒸気タービン2(高圧タービン12、中圧タービン14、及び低圧タービン16)、発電機18、復水器20などを備えている。そして、低圧タービン16のロータ2aは発電機18の駆動軸22に連結され、低圧タービン16の回転によって発電機18が駆動され発電される構成である。
【0016】
ボイラ10は蒸気発生器であって、再熱器24を備え、配管26を介して高圧タービン12の入口側に接続されている。高圧タービン12の出口側は配管28を介してボイラ10の再熱器24に接続される。再熱器24は配管30を介して中圧タービン14の入口側に接続され、中圧タービン14の出口側は配管32を介して低圧タービン16の入口側に接続されている。
【0017】
配管26と配管30には調節弁Bが備わり、それぞれ、高圧タービン12及び中圧タービン14に流入する蒸気Stの量を制御するための制御弁として機能する。これらの調節弁Bは、制御装置54によって制御され、高圧タービン12及び中圧タービン14に流入する蒸気Stの量が制御される。
【0018】
ボイラ10で発生した蒸気Stは、高圧タービン12、中圧タービン14を介して低圧タービン16に流入し、低圧タービン16に備わるロータ2aを回転させる。ロータ2aを回転して低圧タービン16から排気された蒸気Stは、排気室3を介して復水器20で凝縮されて水(給水)となった後、給水加熱器21に送り込まれて、給水加熱器21で加熱され、更に他の給水加熱器(図示省略)や高圧給水ポンプ(図示省略)などを経由して蒸気発生器であるボイラ10に再度導入される。
【0019】
図2に示すように、蒸気タービン2(例えば、図1に示す高圧タービン12)には、ロータ2aの外周に沿った方向に固定される複数の動翼2bが、軸方向に複数列配置されている。
さらに、ロータ2a及び複数の動翼2bを内包するケーシング2dと、ケーシング2dにノズルダイヤフラム外輪側80を介して固定される複数の静翼2cが備わる。そして、複数の動翼2bと複数の静翼2cは、ロータ2aの軸方向に交互に配置され、段落が形成される。
以下、ロータ2aの外周に沿った方向を周方向と称する。すなわち、ロータ2aは、周方向に回転する。
【0020】
ボイラ10(図1参照)で発生した蒸気Stは蒸気タービン2のケーシング2dの内部に流入すると、減圧及び膨張しながら静翼2cと動翼2bの間を交互に通るように流通し、ロータ2aを回転させる。
そして、ロータ2aの最も下流に備わる動翼2b、すなわち最終段の動翼2bを通過した蒸気Stはケーシング2dの外部に排気されるように構成される。
【0021】
このように構成される蒸気タービン2においては、ケーシング2dの内部を流通する蒸気Stで効率よくロータ2aを回転するため、回転部であるロータ2a及び動翼2bと、固定部であるケーシング2d及び静翼2cの間のシール性能を向上し、回転部と固定部の間のクリアランスから漏れる蒸気St(漏れ蒸気)の量を抑制することが要求される。
【0022】
例えば、ロータ2aの回転に対する回転抵抗を軽減するために、静翼2cの先端に備わるノズルダイヤフラム内輪側70とロータ2aの間にクリアランスを設ける場合があるが、このクリアランスは静翼2cに流入する蒸気Stの漏れ蒸気の原因となる。そして、漏れ蒸気となる蒸気Stは、ロータ2aの回転に寄与しないことから、漏れ蒸気の量が多くなると、蒸気タービン2のタービン効率が低下することになる。したがって、蒸気タービン2のタービン効率を向上するためには、漏れ蒸気の量を少なくすることが好適である。
このため、ノズルダイヤフラム内輪側70とロータ2aの間に、ラビリンスシール装置60などのシール装置を組み込んでロータ2aと静翼2cの間のクリアランスを小さくする構成が一般的である。この構成によってロータ2aと静翼2cの間のシール性能が向上して、漏れ蒸気の量を少なくできる。
【0023】
図3、図4に示すように、本実施形態に係るノズルダイヤフラム内輪側70のロータ2a側には、複数のシールフィン62を備えたシール基板61が備わっている。
シール基板61には、ロータ2aの軸方向に並んで周方向に形成される複数の溝63を所定間隔で設け、この複数の溝63のそれぞれにシールフィン62をコーキングして固定する。
【0024】
さらに、ロータ2aにもロータ2aの軸方向に並んで周方向に形成される複数の溝2a2を所定間隔で設け、この複数の溝2a2のそれぞれに、シールフィン2a1をコーキングして固定する。
【0025】
そして、シール基板61側のシールフィン62,62,・・・とロータ2a側のシールフィン2a1,2a1,・・・が、ロータ2aの軸方向に交互に重なり合うように配置する。
このように、複数のシールフィン62が備わるシール基板61を含んでラビリンスシール装置60が構成される。
【0026】
従来、シール基板61側のシールフィン62,62,・・・とロータ2a、及びロータ2a側のシールフィン2a1,2a1,・・・とシール基板61は非接触に構成される。この構成によって、シールフィン62,62,・・・とロータ2aの間、及びシールフィン2a1,2a1,・・・とシール基板61の間には微小なクリアランスが生じ、ロータ2aの回転に対する回転抵抗が軽減される。
【0027】
しかしながら、これらのクリアランスを通過する蒸気Stは、ロータ2aの回転に寄与することなく漏れ蒸気となる。そして、漏れ蒸気によって蒸気漏洩損失が発生し、蒸気タービン2(図1参照)のタービン効率が低下する。
そこで、本実施形態においては、シール基板61側のシールフィン62,62,・・・とロータ2aの間、及びロータ2a側のシールフィン2a1,2a1,・・・とシール基板61の間に、通気性金属からなる通気性スペーサ4,4,・・・(スペーサ)が取り付けられる。
【0028】
さらに、シールフィン62,62,・・・と通気性スペーサ4,4,・・・が備わるシール基板61が、ロータ2aに対して近接・離反する方向、すなわち、ロータ2aの回転半径方向に移動可能に設けてある。
以下、シール基板61側の通気性スペーサ4を4a、ロータ2a側の通気性スペーサ4を4bとする。
そして、この構成によって、固定部である静翼2c(図2参照)に備わるシールフィン62,62,・・・及び通気性スペーサ4a,4a,・・・は、回転部であるロータ2aに対して近接・離反する方向に移動可能になる。
【0029】
図3に示すように、ロータ2aには、シール基板61側のシールフィン62,62,・・・に対向する位置に通気性スペーサ4b,4b,・・・が取り付けられている。
また、シール基板61には、ロータ2a側のシールフィン2a1,2a1,・・・に対向する位置に通気性スペーサ4a,4a,・・・が取り付けられている。
【0030】
この構成によって、ロータ2a(回転部)及びシール基板61(固定部)の両方に、通気性金属からなる通気性スペーサ4,4,・・・が取り付けられるシール構造になる。
なお、ロータ2a及びシール基板61に、通気性スペーサ4を取り付ける方法は限定されるものではなく、例えばロウ付けなどによって固定すればよい。
【0031】
また、ロータ2a側の複数の通気性スペーサ4bのそれぞれは周方向に沿って、ロータ2aの外周に取り付けられ、シール基板61側のシールフィン62,62,・・・とロータ2a側の通気性スペーサ4b,4b,・・・は、ロータ2aが回転しても常に対向するように構成される。さらに、ロータ2a側の複数のシールフィン2a1のそれぞれは周方向に沿って備わり、ロータ2a側のシールフィン2a1,2a1,・・・とシール基板61側の通気性スペーサ4a,4a,・・・は、ロータ2aが回転しても常に対向するように構成される。
【0032】
本実施形態に係る通気性スペーサ4を形成する通気性金属は、多孔質金属の空間部(ポア)が連結した構造で、内部を気体(蒸気St)が通気できる金属素材である。また、通気性金属は、切削性に優れている素材(アブレイダブル材)であり、例えば、シール基板61側のシールフィン62の先端とロータ2a側の通気性スペーサ4bとが接触した状態(接触状態)でロータ2aが回転した場合、例えば、図4に示すように通気性スペーサ4(4b)は削られるがシールフィン62は損傷しない。
したがって、シールフィン62の先端がロータ2a側の通気性スペーサ4bに接触するように構成して、静翼2c(図2参照)とロータ2aの間のシール性能を向上することができる。
同様に、ロータ2a側のシールフィン2a1の先端がシール基板61側の通気性スペーサ4a(図3参照)に接触するように構成して、静翼2cとロータ2aの間のシール性能を向上することができる。
【0033】
図3に示すように、シールフィン62,62,・・・とロータ2aの間、及びシールフィン2a1,2a1,・・・とシール基板61の間のクリアランスを無くして、もしくは小さくして、静翼2c(図2参照)とロータ2aの間のシール性能を向上するために、ロータ2aの、シールフィン62,62,・・・に対向する位置、及びシール基板61の、シールフィン2a1,2a1,・・・に対向する位置に、例えばアブレイダブル材など切削性に優れた素材からなるスペーサを備える技術は、前記のように公知の技術である。
しかしながらこの技術では、例えばロータ2aと一体に回転するスペーサとシールフィン62,62,・・・との摩擦による摩擦熱がロータ2aに伝熱して、ロータ2aが高温になる。そして、ロータ2aの、例えば不均一な温度分布による熱曲がりなどの熱変形によって、軸振動が発生するなどの問題が発生する可能性がある。
【0034】
また、シール基板61側のシールフィン62,62,・・・とロータ2aの間、及びロータ2a側のシールフィン2a1,2a1,・・・とシール基板61の間に、図示しない断熱部材からなる断熱層を備える技術も公知であるが、この技術であっても、ロータ2aが長時間連続して回転してロータ2aと一体に回転するスペーサとシールフィン62,62,・・・が長時間接触していると、例えばシールフィン62,62,・・・とスペーサとの摩擦熱が徐々に蓄熱されて断熱層が高温になる。そして、断熱層の熱がロータ2aに伝熱してロータ2aが高温になり、不均一な温度分布による熱曲がりなどの熱変形が発生する。
【0035】
例えば、図4に示すように、ロータ2aに取り付けられるスペーサを通気性金属からなる通気性スペーサ4(4b)とすると、通気性スペーサ4(4b)の内部には微量の蒸気Stが通気する。
そして、通気性スペーサ4の内部を通気する蒸気Stによって、通気性スペーサ4は蒸気Stと同等の温度に均一に保たれる。すなわち、通気性スペーサ4は、蒸気Stより高温になることがない。
【0036】
通気性スペーサ4の通気量は、シール性能に影響がない程度の通気量であって、かつ通気性スペーサ4が、蒸気Stと同等の温度に均一に保たれる通気量とすればよい。通気性スペーサ4を形成する通気性金属の通気量は微量であり、ポアの配置密度や大きさによって決まる通気性金属の特性値であることから、シール性能に影響がなく、かつ通気性スペーサ4を蒸気Stと同等の温度に均一に保つ効果が期待できる通気量が確保できる通気性金属を使用して通気性スペーサ4を形成すればよい。
【0037】
このように通気性スペーサ4の温度を蒸気Stと同等に均一に保つことで、ロータ2aが長時間連続して回転し、例えばシールフィン62,62,・・・と、ロータ2aと一体に回転する通気性スペーサ4b,4b,・・・とが長時間接触する場合であっても、通気性スペーサ4b,4b,・・・の温度が蒸気Stより高温にならない。したがって、ロータ2aの温度が蒸気Stより高温になることを抑制できるという優れた効果を奏する。ロータ2aは、蒸気Stの温度に対して耐熱性をもって設計されることから、ロータ2aの温度が蒸気Stの温度に保たれていれば、例えば過大な熱応力や熱曲がりなどの熱変形が発生することはなく、蒸気タービン2(図1参照)の運転に支障をきたすことはない。
【0038】
なお、図3に示すラビリンスシール装置60においては、ロータ2a側、もしくはシール基板61側のいずれか一方にのみ通気性スペーサ4,4,・・・を備える構成であってもよい。
また、図4に示すように通気性スペーサ4を通気する蒸気Stの量は、シールフィン62とロータ2aとの間のクリアランスから漏れ出る量に比べて微量であることから、蒸気タービン2(図1参照)のタービン効率には影響しない。
【0039】
さらに、本実施形態に係るシール基板61は、ロータ2aに対して近接・離反する方向に移動可能に備わっている。
図5の(a)に示すように、静翼2cの内周側の先端には、周方向に沿ってノズルダイヤフラム内輪側70が備わり、ノズルダイヤフラム内輪側70の内周側の先端には、例えば周方向に6等分された6個のシール基板61が、ロータ2aを囲むように備わっている。
【0040】
図5の(b)に示すように、1つのシール基板61のロータ2aの側には、ロータ2aの周方向に沿って立設するシールフィン62,62,・・・がコーキング等で固定されて備わり、ロータ2aの外周には、シールフィン62,62,・・・と対向する位置に、通気性金属からなる通気性スペーサ4b,4b,・・・が取り付けられている。
また、図3に示すように、1つのシール基板61には、ロータ2a側のシールフィン2a1,2a1,・・・に対向する位置に、周方向に沿った形状に、通気性金属からなる通気性スペーサ4a,4a,・・・が取り付けられている。
【0041】
そして、本実施形態において、全てのシール基板61は、ロータ2aに対して近接・離反する方向、すなわち、ロータ2aの回転半径方向に移動可能に、ノズルダイヤフラム内輪側70に備わっている。
【0042】
例えば、図3に示すように、ノズルダイヤフラム内輪側70には、中空の与圧室71が形成され、与圧室71内には、ロータ2aに対して近接・離反する方向に往復動するピストンヘッド64が備わっている。ピストンヘッド64は、例えば周方向に並んで2列に配置される複数の戻りバネ66(付勢手段)で弾性支持され、複数の戻りバネ66によって、ロータ2aから離反する方向に、相当の付勢力で付勢されている。
なお、複数の戻りバネ66の数は、適宜決定すればよい。
【0043】
与圧室71は、蒸気通路72によってノズルダイヤフラム内輪側70の外側と連通し、ノズルダイヤフラム内輪側70の外側を流通する蒸気Stが与圧室71に流入するように構成される。そして、蒸気Stの圧力がピストンヘッド64に作用したとき、ピストンヘッド64がロータ2aと近接する方向に移動するように構成される。
【0044】
ピストンヘッド64にはピストン本体65が備わっている。ピストン本体65は、与圧室71からロータ2aの側に延びて、先端部がノズルダイヤフラム内輪側70の外部に突出し、その先端部にシール基板61が取り付けられる。
ピストン本体65は、例えばピストンヘッド64と一体に形成すればよい。また、ピストン本体65にシール基板61を取り付ける方法は限定するものではなく、例えば、図示しないスクリューでシール基板61をピストン本体65に固定すればよい。
そして、ピストンヘッド64、ピストン本体65、及びシール基板61を含んで可動部が構成される。
【0045】
そして、ピストンヘッド64が、複数の戻りバネ66の付勢力でロータ2aから離反した位置で支持されているとき、シール基板61はロータ2aから離反した位置に移動した状態にあり、互いに対向するシール基板61側のシールフィン62,62,・・・とロータ2a側の通気性スペーサ4b,4b,・・・が接触しない状態(非接触状態)になって、シールフィン62,62,・・・と通気性スペーサ4b,4b,・・・の間にクリアランスが形成される。
同様に、互いに対向するロータ2a側のシールフィン2a1,2a1,・・・とシール基板61側の通気性スペーサ4a,4a,・・・が非接触状態になって、シールフィン2a1,2a1,・・・と通気性スペーサ4a,4a,・・・の間にクリアランスが形成される。
【0046】
本実施形態におけるラビリンスシール装置60は、シール基板61に加え、与圧室71、蒸気通路72、ピストンヘッド64、ピストン本体65、及び複数の戻りバネ66を含んで構成される。
そして、ラビリンスシール装置60と、ロータ2a側のシールフィン2a1,2a1,・・・及び通気性スペーサ4b,4b,・・・を含んだシール構造が蒸気タービン2(図1参照)に組み込まれることになる。
【0047】
ボイラ10(図1参照)で発生する蒸気Stが蒸気タービン2に流入すると、蒸気Stが静翼2cと動翼2bの間を通るときに、蒸気Stの一部が蒸気通路72を流通して与圧室71に流入する。
与圧室71に流入する蒸気Stの圧力がピストンヘッド64をロータ2aと近接する方向に移動させる力(押圧力)が、複数の戻りバネ66の付勢力より小さければ、複数の戻りバネ66は、ピストンヘッド64をロータ2aから離反した位置で支持している。
【0048】
例えば、蒸気タービン2(図1参照)に接続される負荷が増大して、蒸気タービン2を流通する蒸気Stの圧力が高くなると、与圧室71に流入する蒸気Stの圧力も高くなる。そして、蒸気Stの圧力が、ピストンヘッド64をロータ2aと近接する方向に移動させる押圧力が、複数の戻りバネ66の付勢力以上になると、ピストンヘッド64は蒸気Stの圧力でロータ2aと近接する方向に移動し、ピストンヘッド64とピストン本体65を介して接続されるシール基板61が、ロータ2aと近接する方向に移動する。
【0049】
ピストンヘッド64が、与圧室71内で、ロータ2aと近接する側の停止位置まで移動したときに、シール基板61側のシールフィン62,62,・・・とロータ2a側の通気性スペーサ4b,4b,・・・が接触状態になるように構成すると、与圧室71に流入する蒸気Stの圧力が高くなると、互いに対向するシールフィン62,62,・・・と通気性スペーサ4b,4b,・・・を接触状態にすることができる。そして、シールフィン62,62,・・・と通気性スペーサ4b,4b,・・・の間のクリアランスが無くなり、静翼2c(図2参照)とロータ2aの間のシール性能が向上する。
【0050】
同様に、ピストンヘッド64が、与圧室71内で、ロータ2aと近接する側の停止位置まで移動したときに、シール基板61側の通気性スペーサ4a,4a,・・・と、ロータ2a側のシールフィン2a1,2a1,・・・が接触状態になるように構成すると、与圧室71に流入する蒸気Stの圧力が高くなると、互いに対向する通気性スペーサ4a,4a,・・・とシールフィン2a1,2a1,・・・を接触状態にすることができ、静翼2c(図2参照)とロータ2aの間のシール性能が向上する。
【0051】
このように、シール基板61側のシールフィン62,62,・・・とロータ2a側の通気性スペーサ4b,4b,・・・が接触状態になり、且つ、ロータ2a側のシールフィン2a1,2a1,・・・とシール基板61側の通気性スペーサ4a,4a,・・・が接触状態になると、ロータ2aの回転に対する回転抵抗が増大するが、蒸気Stの圧力が高い状態であれば、シールフィン62,62,・・・と通気性スペーサ4b,4b,・・・の接触、及びシールフィン2a1,2a1,・・・と通気性スペーサ4a,4a,・・・の接触によって増大する回転抵抗に抗してロータ2aを回転させることができる。すなわち、シールフィン62,62,・・・及びシールフィン2a1,2a1,・・・と通気性スペーサ4,4,・・・の接触によって増大する回転抵抗の影響を受けることなく、ロータ2aを回転させることができる。
【0052】
換言すると、シールフィン62,62,・・・と通気性スペーサ4b,4b,・・・の接触、及びシールフィン2a1,2a1,・・・と通気性スペーサ4a,4a,・・・の接触によって増大する回転抵抗の影響を受けることなくロータ2aを回転できる蒸気Stの圧力で、ピストンヘッド64がロータ2aと近接する方向に移動するように、複数の戻りバネ66の付勢力を設定すればよい。
【0053】
なお、蒸気タービン2(図1参照)内を流通する蒸気Stは、上流から下流に向って膨張して減圧することから、蒸気Stの流れの下流ほど、静翼2cのラビリンスシール装置60に備わる複数の戻りバネ66の付勢力を弱くする構成であってもよい。
【0054】
また、シール基板61の数は6個に限定するものではなく、7個以上のシール基板61を周方向に沿って備えるラビリンスシール装置60であってもよいし、5個以下のシール基板61を周方向に沿って備えるラビリンスシール装置60であってもよい。
【0055】
そして、このように構成されるシール構造が組み込まれた蒸気タービン2(図1参照)は、蒸気Stの圧力が低い立ち上げ初期には、シール基板61側のシールフィン62,62,・・・とロータ2a側の通気性スペーサ4b,4b,・・・が非接触状態になり、且つ、ロータ2a側のシールフィン2a1,2a1,・・・とシール基板61側の通気性スペーサ4a,4a,・・・が非接触状態になる。
したがって、ロータ2aの回転に対する回転抵抗が軽減して、ロータ2aは、低い圧力の蒸気Stで効率よく回転する。
【0056】
蒸気タービン2(図1参照)の負荷が増大して蒸気Stの圧力が高くなると、シールフィン62,62,・・・と通気性スペーサ4b,4b,・・・が接触状態になるとともに、シールフィン2a1,2a1,・・・と通気性スペーサ4a,4a,・・・が接触状態になって、静翼2c(図2参照)とロータ2aの間のシール性能が向上する。したがって、蒸気タービン2のタービン効率が向上する。
また、圧力が高い蒸気Stは、シールフィン62,62,・・・と通気性スペーサ4b,4b,・・・の接触、及びシールフィン2a1,2a1,・・・と通気性スペーサ4a,4a,・・・の接触によって増大する回転抵抗の影響を受けることなくロータ2aを効率よく回転できる。
【0057】
すなわち、蒸気タービン2(図1参照)は、立ち上げ初期など、蒸気Stの圧力が比較的低いときは、シール基板61側のシールフィン62,62,・・・とロータ2a側の通気性スペーサ4b,4b,・・・が非接触状態になるとともに、ロータ2a側のシールフィン2a1,2a1,・・・とシール基板61側の通気性スペーサ4a,4a,・・・が非接触状態になってロータ2aの回転に対する回転抵抗が軽減する。したがって、低い圧力の蒸気Stでロータ2aを効率よく回転して蒸気タービン2をスムーズに立上げることができる。
【0058】
また、蒸気タービン2(図1参照)は、負荷が増大して蒸気Stの蒸気圧が高くなったときに、シール基板61側のシールフィン62,62,・・・とロータ2a側の通気性スペーサ4b,4b,・・・が接触状態になるとともに、ロータ2a側のシールフィン2a1,2a1,・・・とシール基板61側の通気性スペーサ4a,4a,・・・が接触状態になって静翼2c(図2参照)とロータ2aの間における漏れ蒸気の量が少なくなり、タービン効率が向上する。
【0059】
以上、ロータ2aとラビリンスシール装置60に複数の通気性スペーサ4を取り付ける一構成例、及び、ラビリンスシール装置60を構成するシール基板61が、ロータ2aに対して近接・離反する方向に移動可能に、ノズルダイヤフラム内輪側70に備えられる一構成例について説明したが、本発明の構成は、これに限定されるものではない。
【0060】
例えば、ラビリンスシール装置60には、図3に示す形状のほか、ハイロー型のラビリンスシール装置もある。そして、ハイロー型のラビリンスシール装置にも本発明を適用できる。
【0061】
図6に示すように、ハイロー型のラビリンスシール装置60aは、ノズルダイヤフラム内輪側70に、周方向に沿って立設するシールフィン62,62,・・・を備えたシール基板61がロータ2aに対して近接・離反する方向に移動可能に備えられ、ロータ2aの外周には、周方向に沿った凸部2a3,2a3,・・・が形成されている。そして、シール基板61側のシールフィン62,62,・・・は、ロータ2aの凸部2a3,2a3,・・・とその間に形成される凹部2a4,2a4,・・・に対向して配置されている。
【0062】
さらに、ラビリンスシール装置60aは、与圧室71、蒸気通路72、ピストンヘッド64、ピストン本体65、及び周方向に並んで2列に配置される複数の戻りバネ66を含んで構成される。
【0063】
また、図6に示すように、ロータ2aに形成される凸部2a3,2a3,・・・、及び凹部2a4,2a4,・・・には、シール基板61側のシールフィン62,62,・・・に対向して通気性スペーサ4b,4b,・・・が取り付けられている。
このように通気性スペーサ4b,4b,・・・を取り付けることで、静翼2c(図2参照)とロータ2aの間のシール性能を向上することができる。
【0064】
そして、蒸気タービン2(図1参照)には、ラビリンスシール装置60aと、ロータ2a側の通気性スペーサ4b,4b,・・・を含んだシール構造が組み込まれることになる。
なお、図6に示すハイロー型のラビリンスシール装置60aにおいては、ロータ2aの凸部2a3,2a3,・・・、又は凹部2a4,2a4,・・・のいずれか一方に通気性スペーサ4b,4b,・・・を備える構成としてもよい。
【0065】
そして、ハイロー型のラビリンスシール装置60aにおいても、シール基板61を、ロータ2aに対して近接・離反する方向に移動可能に、ノズルダイヤフラム内輪側70に備えることができる。
この構成によって、固定部である静翼2c(図2参照)に備わるシールフィン62,62,・・・は、回転部であるロータ2aに対して近接・離反する方向に移動可能になる。
【0066】
蒸気Stは、図3に示す構成と同様に、蒸気通路72を流通して与圧室71に流入する。蒸気Stの圧力が高く、ピストンヘッド64をロータ2aと近接する方向に移動させる押圧力が、複数の戻りバネ66の付勢力以上であれば、ピストンヘッド64がロータ2aと近接する方向に移動し、ピストン本体65を介してピストンヘッド64と一体に動作するシール基板61がロータ2aと近接する方向に移動する。
【0067】
ピストンヘッド64が、与圧室71内で、ロータ2aと近接する側の停止位置まで移動したときに、シール基板61側のシールフィン62,62,・・・とロータ2aの凸部2a3,2a3,・・・、及び凹部2a4,2a4,・・・に取り付けられる通気性スペーサ4b,4b,・・・が接触状態になるように構成すると、与圧室71に流入する蒸気Stの圧力が高くなったときに、シール基板61側のシールフィン62,62,・・・と、ロータ2aの凸部2a3,2a3,・・・及び凹部2a4,2a4,・・・に取り付けられる通気性スペーサ4b,4b,・・・と、が接触状態になって、シールフィン62,62,・・・と通気性スペーサ4b,4b,・・・の間のクリアランスが無くなり、静翼2c(図2参照)とロータ2aの間のシール性能が向上する。
【0068】
また、図7に示すように、ロータ2aの外周に複数のシールフィン2a5が備わった形状のハイロー型のラビリンスシール装置60bであってもよい。
この場合、シール基板61aには、ロータ2aの軸方向に並んで、周方向に沿った形状の複数の凸部61a及び複数の凹部61aが形成され、複数の凸部61a及び複数の凹部61aのそれぞれには、周方向に沿った形状の通気性スペーサ4aが取り付けられる。
【0069】
そして、ラビリンスシール装置60bは、通気性スペーサ4aが取り付けられたシール基板61a、与圧室71、蒸気通路72、ピストンヘッド64、ピストン本体65、及び、例えば周方向に並んで2列に配置される複数の戻りバネ66を含んで構成される。
【0070】
さらに、ロータ2aの外周には、シール基板61aの凸部61a,61a,・・・及び凹部61a,61a,・・・と対向する位置に、周方向に沿って立設するシールフィン2a5,2a5,・・・が備わっている。
【0071】
そして、蒸気タービン2(図1参照)には、ラビリンスシール装置60bと、ロータ2a側のシールフィン2a5を含んだシール構造が組み込まれることになる。
【0072】
このように構成されるラビリンスシール装置60bにおいても、シール基板61aを、ロータ2aに対して近接・離反する方向に移動可能に、ノズルダイヤフラム内輪側70に備えることができる。
この構成によって、固定部である静翼2c(図2参照)に備わる通気性スペーサ4a,4a,・・・は、回転部であるロータ2aに対して近接・離反する方向に移動可能になる。
蒸気Stは、図3に示すラビリンスシール装置60と同様、蒸気通路72を流通して与圧室71に流入する。蒸気Stの圧力が高く、ピストンヘッド64をロータ2aと近接する方向に移動させる押圧力が、複数の戻りバネ66の付勢力以上のとき、ピストンヘッド64がロータ2aと近接する方向に移動し、ピストン本体65を介してピストンヘッド64と一体に動作するシール基板61aがロータ2aと近接する方向に移動する。
【0073】
ピストンヘッド64が、与圧室71内で、ロータ2aと近接する側の停止位置まで移動したときに、シール基板61a側の通気性スペーサ4a,4a,・・・とロータ2a側のシールフィン2a5,2a5,・・・が接触状態になるように構成すると、与圧室71に流入する蒸気Stの圧力が高くなったときに、シール基板61a側の通気性スペーサ4a,4a,・・・とロータ2a側のシールフィン2a5,2a5,・・・が接触状態になって、通気性スペーサ4a,4a,・・・とシールフィン2a5,2a5,・・・の間のクリアランスが無くなり、静翼2c(図2参照)とロータ2aの間のシール性能が向上する。
【0074】
このように、ハイロー型のシール基板61aを、ロータ2aに対して近接・離反する方向に移動可能にノズルダイヤフラム内輪側70に備えてラビリンスシール装置60bを構成することができ、図3に示すラビリンスシール装置60と同等の効果を奏する。
【0075】
また、本実施形態は、ノズルダイヤフラム外輪側80(図2参照)と動翼2b(図2参照)の間に備わるラビリンスシール装置にも適用できる。
図8の(a)に示すように、動翼2bの先端には、ノズルダイヤフラム外輪側80と動翼2bの間のクリアランスを小さくするためのカバー2gが備わり、図8の(b)に示すように、カバー2gには複数のシールフィン2g1が備わっている。
【0076】
図8の(a)に示すように、カバー2gは、動翼2bの先端に、周方向に沿った環状に備わり、シールフィン2g1,2g1,・・・(図8の(b)参照)は、カバー2gに、周方向に沿って立設して備わっている。
そして、ノズルダイヤフラム外輪側80には、動翼2bに備わるカバー2gと対向するようにシール基板91が備えられる。
【0077】
ノズルダイヤフラム外輪側80の動翼2b側は、周方向に沿って形成され、ノズルダイヤフラム外輪側80と動翼2bの間には、例えば周方向に6等分された6個のシール基板91が、動翼2bを囲むように備わっている。
【0078】
図8の(b)に示すように、1つのシール基板91の動翼2b側には、周方向に沿って通気性スペーサ4a,4a,・・・が取り付けられ、カバー2gには、通気性スペーサ4a,4a,・・・と対向する位置に、シールフィン2g1,2g1,・・・が備わっている。
【0079】
そして、本実施形態において、全てのシール基板91は、動翼2bに対して近接・離反する方向、すなわち、動翼2bの回転半径方向に移動可能に、ノズルダイヤフラム外輪側80に備わっている。
【0080】
図9に示すように、シール基板91は、例えば、ハイロー型であって、シール基板91には、動翼2bの回転方向、すなわち周方向に沿った形状の複数の凸部91a及び複数の凹部91bが、ロータ2a(図2参照)の軸方向に並んで形成される。そして、複数の凸部91a及び複数の凹部91bのそれぞれには、周方向に沿った形状に通気性スペーサ4aが取り付けられる。
この構成によって、固定部であるケーシング2d(図2参照)に備わる通気性スペーサ4a,4a,・・・は、回転部である動翼2bに対して近接・離反する方向に移動可能になる。
【0081】
また、動翼2bのカバー2gには、シール基板91の凸部91a,91a,・・・及び凹部91b,91b,・・・と対向する位置に、シールフィン2g1,2g1,・・・が、周方向に沿って立設して備わっている。
【0082】
ノズルダイヤフラム外輪側80には、中空の与圧室81が形成され、与圧室81の内部には、動翼2bに対して近接・離反する方向に往復動するピストンヘッド92が備わっている。ピストンヘッド92は、例えば、周方向に並んで2列に配置される複数の戻りバネ94(付勢手段)で弾性支持され、複数の戻りバネ94によって、動翼2bから離反する方向に付勢されている。
なお、複数の戻りバネ94の数は、適宜設定すればよい。
【0083】
与圧室81は、蒸気通路82によってノズルダイヤフラム外輪側80の外側と連通し、ノズルダイヤフラム外輪側80の外側を流通する蒸気Stが与圧室81に流入するように構成される。そして、蒸気Stの圧力がピストンヘッド92に作用したとき、ピストンヘッド92が動翼2bと近接する方向に移動するように構成される。
【0084】
ピストンヘッド92にはピストン本体93が備わっている。ピストン本体93は、与圧室81から動翼2bの側に延びて、先端部がノズルダイヤフラム外輪側80の外部に突出し、その先端部にシール基板91が取り付けられる。
ピストン本体93は、例えばピストンヘッド92と一体に形成すればよい。また、ピストン本体93にシール基板91を取り付ける方法は限定するものではなく、例えば、図示しないスクリューでシール基板91をピストン本体93に固定すればよい。
そして、ピストンヘッド92、ピストン本体93、及びシール基板91を含んで可動部が構成される。
また、シール基板91、ピストンヘッド92、ピストン本体93、複数の戻りバネ94、与圧室81、及び、蒸気通路82を含んでラビリンスシール装置90が構成される。
【0085】
そして、蒸気タービン2(図1参照)には、ラビリンスシール装置90と、動翼2b側のシールフィン2g1,2g1,・・・を含んだシール構造が組み込まれることになる。
【0086】
ラビリンスシール装置90のピストンヘッド92が、複数の戻りバネ94の付勢力で動翼2bから離反した位置で支持されているとき、シール基板91は動翼2bから離反した位置に移動した状態にあり、互いに対向するシール基板91側の通気性スペーサ4a,4a,・・・と動翼2bのカバー2g側のシールフィン2g1,2g1,・・・が非接触状態になって、通気性スペーサ4a,4a,・・・とシールフィン2g1,2g1,・・・の間にクリアランスが形成される。
【0087】
ボイラ10(図1参照)で発生した蒸気Stが蒸気タービン2(図1参照)に流入すると、蒸気Stがノズルダイヤフラム外輪側80の外部を通るときに、蒸気Stの一部が蒸気通路82を流通して与圧室81に流入する。
与圧室81に流入する蒸気Stの圧力がピストンヘッド92を動翼2bと近接する方向に移動させる押圧力が、複数の戻りバネ94の付勢力より小さければ、複数の戻りバネ94は、ピストンヘッド92を動翼2bから離反した位置で支持している。
そして、ピストンヘッド92が、複数の戻りバネ94の付勢力で動翼2bから離反した位置で支持されているとき、シール基板91は動翼2bから離反した位置に移動した状態にあり、互いに対向するシール基板91側の通気性スペーサ4a,4a,・・・と動翼2bのカバー2g側のシールフィン2g1,2g1,・・・が接触しない状態(非接触状態)になって、通気性スペーサ4a,4a,・・・とシールフィン2g1,2g1,・・・の間にクリアランスが形成される。
【0088】
蒸気タービン2(図1参照)に流入する蒸気Stの圧力が高くなると、与圧室81に流入する蒸気Stの圧力も高くなる。そして、蒸気Stの圧力がピストンヘッド92を動翼2bと近接する方向に移動させる押圧力が、複数の戻りバネ94の付勢力以上になると、ピストンヘッド92は蒸気Stの圧力で動翼2bと近接する方向に移動し、ピストンヘッド92とピストン本体93を介して接続されるシール基板91が、動翼2bと近接する方向に移動する。
【0089】
ピストンヘッド92が、与圧室81内で、動翼2bと近接する側の停止位置まで移動したときに、シール基板91側の通気性スペーサ4a,4a,・・・と動翼2bのカバー2g側のシールフィン2g1,2g1,・・・が接触状態になるように構成すると、与圧室81に流入する蒸気Stの圧力が高くなったときに、シール基板91側の通気性スペーサ4a,4a,・・・と動翼2bのカバー2g側のシールフィン2g1,2g1,・・・を接触状態にすることができる。その結果、シールフィン2g1,2g1,・・・と通気性スペーサ4a,4a,・・・の間のクリアランスが無くなり、ノズルダイヤフラム外輪側80と動翼2bの間のシール性能が向上する。
【0090】
なお、図3に示すラビリンスシール装置60と同様に、シールフィン2g1,2g1,・・・と通気性スペーサ4a,4a,・・・の接触によって増大する回転抵抗の影響を受けることなくロータ2aを回転できる蒸気Stの圧力でピストンヘッド92が動翼2bと近接する方向に移動するように複数の戻りバネ94の付勢力を設定すればよい。
また、蒸気タービン2(図1参照)内を流通する蒸気Stは、上流から下流に向って膨張して減圧することから、図3に示すラビリンスシール装置60と同様に、蒸気Stの流れの下流ほど、複数の戻りバネ94の付勢力を弱くする構成としてもよい。
【0091】
また、シール基板91の数は6個に限定するものではなく、7個以上のシール基板91を周方向に沿って備えるラビリンスシール装置90であってもよいし、5個以下のシール基板91を周方向に沿って備えるラビリンスシール装置90であってもよい。
【0092】
図9に示すラビリンスシール装置90と動翼2bのカバー2g側のシールフィン2g1,2g1,・・・を含んだ蒸気タービン2(図1参照)は、立ち上げ初期など、蒸気Stの圧力が比較的低いときは、シール基板91側の通気性スペーサ4a,4a,・・・と動翼2bのカバー2g側のシールフィン2g1,2g1,・・・が非接触状態になって、通気性スペーサ4a,4a,・・・とシールフィン2g1,2g1,・・・の間にクリアランスが生じ、動翼2b(回転部)の回転に対する回転抵抗が軽減する。ロータ2aは、圧力の低い蒸気Stで効率よく回転し、蒸気タービン2はスムーズに立上がる。
【0093】
そして、蒸気タービン2(図1参照)の負荷が増大して蒸気Stの蒸気圧が高くなったとき、蒸気タービン2は、シール基板91側の通気性スペーサ4a,4a,・・・と動翼2bのカバー2g側のシールフィン2g1,2g1,・・・が接触状態になって通気性スペーサ4a,4a,・・・とシールフィン2g1,2g1,・・・の間のクリアランスがなくなり、ノズルダイヤフラム外輪側80と動翼2bの間のシール性能が向上する。そして、蒸気タービン2は、ノズルダイヤフラム外輪側80と動翼2bの間に発生する漏れ蒸気の量が少なくなってタービン効率が向上する。
【0094】
なお、図9に示すラビリンスシール装置90は、シール基板91に複数の通気性スペーサ4aが取り付けられ、カバー2gに複数のシールフィン2g1が備わる構成となっているが、シール基板91に複数のシールフィンが備わり、カバー2gに複数の通気性スペーサが取り付けられる構成であってもよい。
【0095】
または、シール基板91とカバー2gの両方に複数のシールフィンが備わる構成であってもよい。この場合、カバー2gの、シール基板91側の複数のシールフィンと対向する位置、及びシール基板91の、カバー2g側の複数のシールフィンと対向する位置に、複数の通気性スペーサを取り付ける構成とすればよい。
【0096】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前記の実施形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜設計変更が可能である。
【0097】
例えば、図3に示すラビリンスシール装置60において、シール基板61は、与圧室71内でピストンヘッド64を弾性支持する複数の戻りバネ66によって、ロータ2aから離反する方向に付勢されているが、図10に示すように、隣接するシール基板61のピストン本体65を、圧縮バネ66a(付勢手段)で周方向に連結する構成であってもよい。
【0098】
圧縮バネ66aは、隣接するピストン本体65の間に圧縮した状態で備わり、隣接するピストン本体65を互いに離反する方向にピストン本体65を付勢する。
1つのピストン本体65は、ロータ2aから離反した位置に移動した状態で圧縮バネ66aに弾性支持されることになり、シール基板61はピストン本体65に取り付けられることから、シール基板61は、ロータ2aから離反した位置で支持される。
【0099】
そして、与圧室71に蒸気St(図3参照)が流入したとき、蒸気Stの圧力がピストンヘッド64をロータ2aと近接する方向に移動させる押圧力が、圧縮バネ66aの付勢力を上回ると、ピストンヘッド64がロータ2aと近接する方向に移動する。そして、ピストンヘッド64の移動に伴って、シール基板61がロータ2aと近接する方向に移動する。
したがって、図3に示すラビリンスシール装置60と同様の効果を奏する。
【0100】
また、図3に示すラビリンスシール装置60において、ピストンヘッド64は、蒸気タービン2(図1参照)を流通する蒸気Stの圧力によって駆動する構成であるが、例えば、図11に示すように、高圧蒸気供給源102から与圧室71に流入する、ピストンヘッド64を駆動するための高圧の蒸気(駆動用蒸気)の圧力でピストンヘッド64をロータ2aと近接する方向に移動させる構成であってもよい。
【0101】
図11に示すラビリンスシール装置60cは、図3に示すラビリンスシール装置60の構成に加え、弁制御装置100、運転状態検出装置101、高圧蒸気供給源102、及び電磁弁103を含んで構成される。
【0102】
そして、蒸気タービン2(図1参照)には、ラビリンスシール装置60cと、ロータ2a側の複数のシールフィン2a1及び複数の通気性スペーサ4bを含んだシール構造が組み込まれることになる。
【0103】
与圧室71には、高圧蒸気供給源102が電磁弁103を介して接続される。さらに、電磁弁103の開閉を制御する弁制御装置100が備わっている。
また、弁制御装置100は、蒸気タービン2(図1参照)の運転状態に基づいて電磁弁103の開閉を制御する構成が好適であり、蒸気タービン2の運転状態を検出する運転状態検出装置101が備わっている。
この構成によると、弁制御装置100は、ピストンヘッド64、ピストン本体65、及びシール基板61を含んでなる可動部を、蒸気タービン2の運転状態に基づいて、ロータ2aと近接する方向に移動させることができる。
そして、与圧室71、弁制御装置100、高圧蒸気供給源102、及び電磁弁103を含んで駆動装置が構成される。
【0104】
蒸気タービン2(図2参照)の運転状態は、例えば、ロータ2aの回転速度によって検出することが好適であり、運転状態検出装置101は、ロータ2aの回転速度を検出する回転速度検出装置になる。
回転速度検出装置である運転状態検出装置101は、ロータ2aの回転速度を検出して検出信号に変換し、弁制御装置100に入力する。
弁制御装置100は、運転状態検出装置101(回転速度検出装置)から入力される検出信号に基づいてロータ2aの回転速度を算出する。
【0105】
そして、弁制御装置100は、算出したロータ2aの回転速度が、予め設定される所定回転速度より小さい場合は電磁弁103を閉弁する制御信号を電磁弁103に送信する。
このときの所定回転速度は、蒸気タービン2(図1参照)の性能等に基づいて適宜設定すればよい。
電磁弁103は、弁制御装置100から送信される制御信号に基づいて閉弁し、高圧蒸気供給源102からの与圧室71への駆動用蒸気の流入を遮断する。
【0106】
与圧室71に駆動用蒸気が流入しないとき、ピストンヘッド64は、複数の戻りバネ66の付勢力によってロータ2aから離反する方向に移動する。
ピストンヘッド64がロータ2aから離反する方向に移動すると、シール基板61がロータ2aから離反する方向に移動し、シール基板61側のシールフィン62,62,・・・とロータ2a側の通気性スペーサ4b,4b,・・・が非接触状態になるとともに、シール基板61側の通気性スペーサ4a,4a,・・・とロータ2a側のシールフィン2a1,2a1,・・・が非接触状態になる。そして、ロータ2aの回転に対する回転抵抗が軽減する。
【0107】
また、弁制御装置100は、算出したロータ2aの回転速度が、予め設定される所定回転速度以上の場合は電磁弁103を開弁する制御信号を電磁弁103に送信する。
電磁弁103は、弁制御装置100から送信される制御信号に基づいて開弁し、高圧蒸気供給源102から与圧室71に、駆動用蒸気が流入する。
【0108】
ピストンヘッド64は、高圧蒸気供給源102から与圧室71に流入する駆動用蒸気の圧力によってロータ2aと近接する方向に移動する。
ピストンヘッド64がロータ2aと近接する方向に移動すると、シール基板61がロータ2aと近接する方向に移動し、シール基板61側のシールフィン62,62,・・・とロータ2a側の通気性スペーサ4b,4b,・・・が接触状態になるとともに、ロータ2a側のシールフィン2a1,2a1,・・・とシール基板61側の通気性スペーサ4a,4a,・・・が接触状態になる。
そして、静翼2c(図2参照)とロータ2aの間のシール性能が向上する。
【0109】
例えば蒸気タービン2(図1参照)の立ち上げ初期などロータ2aの回転速度が小さい場合、弁制御装置100は、電磁弁103を閉弁してシール基板61側のシールフィン62,62,・・・とロータ2a側の通気性スペーサ4b,4b,・・・を非接触状態にするとともに、ロータ2a側のシールフィン2a1,2a1,・・・とシール基板61側の通気性スペーサ4a,4a,・・・を非接触状態にし、ロータ2aの回転に対する回転抵抗を軽減する。ロータ2aは、蒸気Stによって効率よく回転し、蒸気タービン2がスムーズに立ち上がる。
【0110】
そして、蒸気タービン2(図1参照)が立ち上がってロータ2aの回転速度が大きくなったとき、弁制御装置100は、電磁弁103を開弁してシール基板61側のシールフィン62,62,・・・とロータ2a側の通気性スペーサ4b,4b,・・・を接触状態にするとともに、ロータ2a側のシールフィン2a1,2a1,・・・とシール基板61側の通気性スペーサ4a,4a,・・・を接触状態にする。
蒸気タービン2は、静翼2c(図2参照)とロータ2aの間のシール性能が向上して、タービン効率が向上する。
【0111】
なお、駆動用蒸気の圧力は、複数の戻りバネ66の付勢力に抗してピストンヘッド64をロータ2aと近接する方向に移動させることができる圧力であることが好適である。
【0112】
また、蒸気タービン2の運転状態を、例えば、蒸気Stの圧力によって検出する構成であってもよい。この場合、運転状態検出装置101は、蒸気Stの圧力を検出する圧力検出装置になる。
圧力検出装置である運転状態検出装置101は、蒸気タービン2(図1参照)を流通する蒸気Stの圧力を検出して検出信号を弁制御装置100に入力し、弁制御装置100は蒸気Stの圧力を算出する。
【0113】
そして、弁制御装置100は、蒸気Stの圧力が予め設定される所定圧力値より低い場合は電磁弁103を閉弁する制御信号を電磁弁103に送信する。
電磁弁103は、弁制御装置100から送信される制御信号に基づいて閉弁し、高圧蒸気供給源102からの与圧室71への駆動用蒸気の流入を遮断する。
このときの所定圧力値は、蒸気タービン2(図1参照)の性能等に基づいて適宜設定すればよい。
【0114】
与圧室71に駆動用蒸気が流入しないとき、ピストンヘッド64は、複数の戻りバネ66の付勢力によってロータ2aから離反する方向に移動する。
ピストンヘッド64がロータ2aから離反する方向に移動すると、シール基板61がロータ2aから離反する方向に移動し、シール基板61側のシールフィン62,62,・・・とロータ2a側の通気性スペーサ4b,4b,・・・が非接触状態になるとともに、シール基板61側の通気性スペーサ4a,4a,・・・とロータ2a側のシールフィン2a1,2a1,・・・が非接触状態になる。そして、ロータ2aの回転に対する回転抵抗が軽減する。
【0115】
また、弁制御装置100は、蒸気Stの圧力が予め設定される所定圧力値以上の場合は電磁弁103を開弁する制御信号を電磁弁103に送信する。
電磁弁103は、弁制御装置100から送信される制御信号に基づいて開弁し、高圧蒸気供給源102から、与圧室71に駆動用蒸気が流入する。
【0116】
ピストンヘッド64は、高圧蒸気供給源102から与圧室71に流入する駆動用蒸気の圧力によってロータ2aと近接する方向に移動する。
ピストンヘッド64がロータ2aと近接する方向に移動すると、シール基板61がロータ2aと近接する方向に移動し、シール基板61側のシールフィン62,62,・・・とロータ2a側の通気性スペーサ4b,4b,・・・が接触状態になるとともに、ロータ2a側のシールフィン2a1,2a1,・・・とシール基板61側の通気性スペーサ4a,4a,・・・が接触状態になる。
そして、静翼2c(図2参照)とロータ2aの間のシール性能が向上する。
【0117】
例えば、蒸気タービン2(図1参照)の立ち上げ初期など、蒸気Stの圧力が所定圧力値より低いとき、弁制御装置100は、電磁弁103を閉弁してシール基板61側のシールフィン62,62,・・・とロータ2a側の通気性スペーサ4b,4b,・・・を非接触状態にするとともに、ロータ2a側のシールフィン2a1,2a1,・・・とシール基板61側の通気性スペーサ4a,4a,・・・を非接触状態にして、ロータ2aの回転に対する回転抵抗を軽減する。ロータ2aは、圧力の低い蒸気Stによって効率よく回転し、蒸気タービン2がスムーズに立ち上がる。
【0118】
蒸気タービン2(図2参照)が立ち上がって蒸気Stの圧力が所定圧力値以上になったら、弁制御装置100は、電磁弁103を開弁してシール基板61側のシールフィン62,62,・・・とロータ2a側の通気性スペーサ4b,4b,・・・を接触状態にするとともに、ロータ2a側のシールフィン2a1,2a1,・・・とシール基板61側の通気性スペーサ4a,4a,・・・を接触状態にする。
蒸気タービン2は、静翼2c(図2参照)とロータ2aの間のシール性能が向上し、タービン効率が向上する。
【0119】
すなわち、蒸気タービン2(図2参照)は、立ち上げ初期など、蒸気Stの圧力が所定圧力値より低いときは、静翼2c(図2参照)とロータ2aの間にクリアランスが生じてロータ2aの回転に対する回転抵抗が軽減し、ロータ2aが蒸気Stで効率よく回転してスムーズに立ち上がる。そして、蒸気タービン2は、蒸気Stの圧力が所定圧力値以上になると、静翼2c(図2参照)とロータ2aの間のシール性能が向上して、タービン効率が向上する。
【0120】
なお、図11に示すラビリンスシール装置60cは、駆動用蒸気を高圧蒸気供給源102から与圧室71に流入してピストンヘッド64をロータ2aと近接する方向に移動させる構成としたが、例えば図示しないアクチュエータなどの駆動手段で、ピストンヘッド64をロータ2aと近接する方向に移動させる構成であってもよい。
また、ノズルダイヤフラム外輪側80と動翼2bの間に組み込まれるシール構造(図9参照)を、図11に示すシール構造と同じ構成にしてもよい。
【0121】
以上のように、本実施形態に係る蒸気タービン2(図1参照)は、図3に示すように、固定部である静翼2c(図2参照)と、回転部であるロータ2aの間に、ラビリンスシール装置60、ロータ2a側のシールフィン2a1,2a1,・・・、及びロータ2a側の通気性スペーサ4b,4b,・・・を含んだシール構造が組み込まれている。
そして、ラビリンスシール装置60のシール基板61側のシールフィン62,62,・・・が、ロータ2a側の通気性スペーサ4b,4b,・・・と接触するとともに、ロータ2a側のシールフィン2a1,2a1,・・・がシール基板61側の通気性スペーサ4a,4a,・・・と接触するように構成した。この構成によって静翼2cとロータ2aの間のシール性能を向上し、漏れ蒸気によるタービン効率の低下を抑制できるという優れた効果を奏する。
【0122】
さらに、通気性スペーサ4(4a,4b)を、切削性に優れるアブレイダブル材である通気性金属で形成する構成とした。この構成によって、シールフィン62及びシールフィン2a1と通気性スペーサ4が接触しても通気性スペーサ4が切削されることで、シールフィン62及びシールフィン2a1の損傷を防止できるという優れた効果を奏する。
【0123】
また、通気性金属からなる通気性スペーサ4には、微量の蒸気Stを通気させることができ、シールフィン62及びシールフィン2a1と通気性スペーサ4の接触によって発生する摩擦熱を、通気性スペーサ4を通気する蒸気Stで冷却することができる。したがって、通気性スペーサ4が蒸気Stの温度より高温になることを防止できる。
例えば、ロータ2aが長時間回転し、シールフィン62及びシールフィン2a1と通気性スペーサ4に長時間摩擦熱が発生する場合であっても、通気性スペーサ4は蒸気Stの温度より高温にならず、通気性スペーサ4が取り付けられるロータ2a及びシール基板61が、蒸気Stの温度より高温になることがない。したがって、ロータ2a及びシール基板61に熱変形が発生することを防止できるという優れた効果を奏する。
【0124】
例えば、多孔質金属からなるスペーサは切削性に優れているアブレイダブル材であって、シールフィン62及びシールフィン2a1と多孔質金属からなるスペーサが接触する場合、多孔質金属からなるスペーサが切削されてシールフィン62及びシールフィン2a1の損傷を防止することができる。
しかしながら、多孔質金属のポアは互いに連結していない場合があり、多孔質金属からなるスペーサは、蒸気Stを通気させることができない。したがって、シールフィン62及びシールフィン2a1と多孔質金属からなるスペーサの接触によって発生する摩擦熱を、蒸気Stで冷却することができない。
本実施形態においては、通気性金属からなる通気性スペーサ4を備えることで、シールフィン62及びシールフィン2a1と通気性スペーサ4の接触によって発生する摩擦熱を、通気性スペーサ4を通気する蒸気Stで冷却することができる。
【0125】
また、シールフィン62,62,・・・と通気性スペーサ4a,4a,・・・が備わるシール基板61を、ロータ2aに対して近接・離反する方向に移動可能に、ノズルダイヤフラム内輪側70に備え、蒸気Stが低圧のときは、シール基板61側のシールフィン62,62,・・・とロータ2a側の通気性スペーサ4b,4b,・・・が非接触状態になり、且つ、ロータ2a側のシールフィン2a1,2a1,・・・とシール基板61側の通気性スペーサ4a,4a,・・・が非接触状態になる構成とした。
【0126】
この構成によって、例えば蒸気タービン2(図1参照)の立ち上げ初期など、蒸気Stが低圧のときはシールフィン62,62,・・・及びシールフィン2a1,2a1,・・・と通気性スペーサ4,4,・・・が非接触状態になり、ロータ2aの回転に対する回転抵抗を軽減できる。したがって、蒸気Stの圧力が低くてもロータ2aを効率よく回転することができ、蒸気タービン2をスムーズに立ち上げられるという優れた効果を奏する。
また、蒸気タービン2の負荷が大きくなって蒸気Stの圧力が高くなると、シールフィン62,62,・・・及びシールフィン2a1,2a1,・・・と通気性スペーサ4,4,・・・を接触状態にして、静翼2c(図2参照)とロータ2aの間のシール性能を向上できる。したがって、蒸気タービン2のタービン効率の低下を抑制できるという優れた効果を奏する。
【0127】
なお、例えば、図3に示す、ラビリンスシール装置60、複数のシールフィン2a1、及び複数の通気性スペーサ4bを含んだシール構造は、ノズルダイヤフラム内輪側70とロータ2aの間に限定されず、ケーシング2d(図2参照)とロータ2aの間など、他の固定部と回転部の間に組み込むことができる。
また、固定部側のシールフィン62,62,・・・及び通気性スペーサ4a,4a,・・・が、回転部に対して近接・離反する方向に移動することなく取り付けられるラビリンスシール装置60であっても、蒸気Stが通気性スペーサ4,4,・・・を通気することによる冷却の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0128】
1 発電プラント
2 蒸気タービン
2a ロータ(回転部)
2a1,2a5,2g1,62 シールフィン(シール構造)
2b 動翼(回転部)
2c 静翼(固定部)
2d ケーシング(固定部)
2g カバー
4(4a,4b) 通気性スペーサ(スペーサ、シール構造)
60,60a,60b,60c,90 ラビリンスシール装置(シール構造)
61,61a,91 シール基板(可動部)
64,92 ピストンヘッド(可動部)
65,93 ピストン本体(可動部)
66,94 戻りバネ(付勢手段)
66a 圧縮バネ(付勢手段)
71,81 与圧室(駆動装置)
72,82 蒸気通路
100 弁制御装置(駆動装置)
101 運転状態検出装置(回転速度検出装置、圧力検出装置)
102 高圧蒸気供給源(駆動装置)
103 電磁弁(駆動装置)
St 蒸気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ及び前記ロータと一体に回転する部材からなる回転部と、
前記回転部を内包するケーシング及び前記ケーシングに固定される部材からなる固定部と、を有する蒸気タービンに組み込まれ、
前記回転部と前記固定部の両方またはいずれか一方にシールフィンを備え、
前記回転部と前記固定部の両方またはいずれか一方に通気性金属からなるスペーサを備えるシール構造であって、
前記回転部に備わる前記シールフィンと前記固定部に備わる前記スペーサは互いに対向するとともに、前記固定部に備わる前記シールフィンと前記回転部に備わる前記スペーサは互いに対向し、
前記固定部に前記シールフィンが備わる場合、前記固定部に備わる前記シールフィンは、前記回転部に対して近接・離反する方向に移動可能であり、
前記固定部に前記スペーサが備わる場合、前記固定部に備わる前記スペーサは、前記回転部に対して近接・離反する方向に移動可能であることを特徴とするシール構造。
【請求項2】
前記ケーシングに固定される部材は、前記ケーシングに備わる静翼であって、
前記静翼の先端と、前記ロータの前記静翼の先端に対向する位置と、の両方またはいずれか一方に前記シールフィンを備え、
前記静翼の先端と、前記ロータの前記静翼の先端に対向する位置と、の両方またはいずれか一方に前記スペーサを備え、
前記静翼の先端に前記シールフィンが備わる場合、前記静翼の先端に備わる前記シールフィンは、前記ロータに対して近接・離反する方向に移動可能であり、
前記静翼の先端に前記スペーサが備わる場合、前記静翼の先端に備わる前記スペーサは、前記ロータに対して近接・離反する方向に移動可能であることを特徴とする請求項1に記載のシール構造。
【請求項3】
前記ロータと一体に回転する部材は、前記ロータに備わる動翼であって、
前記ケーシングの前記動翼の先端に対向する位置と、前記動翼の先端と、の両方またはいずれか一方に前記シールフィンを備え、
前記ケーシングの前記動翼の先端に対向する位置と、前記動翼の先端と、の両方またはいずれか一方に前記スペーサを備え、
前記ケーシングに前記シールフィンが備わる場合、前記ケーシングに備わる前記シールフィンは、前記動翼の先端に対して近接・離反する方向に移動可能であり、
前記ケーシングに前記スペーサが備わる場合、前記ケーシングに備わる前記スペーサは、前記動翼の先端に対して近接・離反する方向に移動可能であることを特徴とする請求項1に記載のシール構造。
【請求項4】
前記固定部には、付勢手段によって前記回転部から離反する方向に付勢されるとともに、前記蒸気タービンを流通する蒸気の圧力によって前記回転部と近接する方向に移動可能な可動部が備わり、
前記固定部に前記シールフィンが備わる場合、前記固定部に備わる前記シールフィンは前記可動部に取り付けられ、
前記固定部に前記スペーサが備わる場合、前記固定部に備わる前記スペーサは前記可動部に取り付けられ、
前記蒸気の圧力が前記可動部を前記回転部と近接する方向に移動させる押圧力が、前記付勢手段が前記可動部を前記回転部から離反する方向に付勢する付勢力より小さいときは、前記可動部が前記回転部から離反した位置に移動して、互いに対向する前記シールフィンと前記スペーサが非接触状態になり、
前記押圧力が前記付勢力以上になると、前記可動部が前記回転部と近接した位置に移動して、互いに対向する前記シールフィンと前記スペーサが接触状態になることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のシール構造。
【請求項5】
前記固定部には、付勢手段によって前記回転部から離反する方向に付勢されるとともに、前記回転部と近接する方向に移動可能な可動部が備わり、
前記固定部に前記シールフィンが備わる場合、前記固定部に備わる前記シールフィンは前記可動部に取り付けられ、
前記固定部に前記スペーサが備わる場合、前記固定部に備わる前記スペーサは前記可動部に取り付けられ、
前記蒸気タービンの運転状態を検出する運転状態検出装置と、
前記可動部を前記回転部と近接する方向に移動させる駆動装置と、がさらに備わり、
前記駆動装置は、前記運転状態検出装置が検出する前記蒸気タービンの運転状態に基づいて前記可動部を前記回転部と近接する方向に移動し、互いに対向する前記シールフィンと前記スペーサを接触状態にすることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のシール構造。
【請求項6】
前記運転状態検出装置は、前記ロータの回転速度を検出する回転速度検出装置であって、前記蒸気タービンの運転状態を前記ロータの回転速度で検出し、
前記駆動装置は、前記ロータの回転速度が所定回転速度以上のときに、前記可動部を前記回転部と近接する方向に移動することを特徴とする請求項5に記載のシール構造。
【請求項7】
前記運転状態検出装置は、前記蒸気タービンを流通する蒸気の圧力を検出する圧力検出装置であって、前記蒸気タービンの運転状態を前記蒸気の圧力で検出し、
前記駆動装置は、前記蒸気の圧力が所定圧力値以上のときに、前記可動部を前記回転部と近接する方向に移動することを特徴とする請求項5に記載のシール構造。
【請求項8】
ロータ及び前記ロータと一体に回転する部材からなる回転部と、
前記回転部を内包するケーシング及び前記ケーシングに固定される部材からなる固定部と、を有する蒸気タービンに組み込まれ、
前記回転部と前記固定部の両方またはいずれか一方にシールフィンを備え、
前記回転部と前記固定部の両方またはいずれか一方に通気性金属からなるスペーサを備え、
前記回転部に備わる前記シールフィンと前記固定部に備わる前記スペーサは互いに対向するとともに、前記固定部に備わる前記シールフィンと前記回転部に備わる前記スペーサは互いに対向し、
前記固定部には、付勢手段によって前記回転部から離反する方向に付勢されるとともに、駆動装置によって前記回転部と近接する方向に移動可能な可動部が備わり、
前記固定部に前記シールフィンが備わる場合、前記固定部に備わる前記シールフィンは前記可動部に取り付けられ、
前記固定部に前記スペーサが備わる場合、前記固定部に備わる前記スペーサは前記可動部に取り付けられるシール構造の制御方法であって、
前記回転部の回転速度を検出する手順と、
前記回転部の回転速度が所定回転速度以上のときに、前記可動部を前記回転部と近接する方向に移動する手順と、を備え、
前記回転部の回転速度が前記所定回転速度以上のときに、互いに対向する前記シールフィンと前記スペーサを接触状態にすることを特徴とするシール構造の制御方法。
【請求項9】
ロータ及び前記ロータと一体に回転する部材からなる回転部と、
前記回転部を内包するケーシング及び前記ケーシングに固定される部材からなる固定部と、を有する蒸気タービンに組み込まれ、
前記回転部と前記固定部の両方またはいずれか一方にシールフィンを備え、
前記回転部と前記固定部の両方またはいずれか一方に通気性金属からなるスペーサを備え、
前記回転部に備わる前記シールフィンと前記固定部に備わる前記スペーサは互いに対向するとともに、前記固定部に備わる前記シールフィンと前記回転部に備わる前記スペーサは互いに対向し、
前記固定部には、付勢手段によって前記回転部から離反する方向に付勢されるとともに、駆動装置によって前記回転部と近接する方向に移動可能な可動部が備わり、
前記固定部に前記シールフィンが備わる場合、前記固定部に備わる前記シールフィンは前記可動部に取り付けられ、
前記固定部に前記スペーサが備わる場合、前記固定部に備わる前記スペーサは前記可動部に取り付けられるシール構造の制御方法であって、
前記蒸気タービンを流通する蒸気の圧力を検出する手順と、
前記蒸気の圧力が所定圧力値以上のときに、前記可動部を前記回転部と近接する方向に移動する手順と、を備え、
前記蒸気の圧力が前記所定圧力値以上のときに、互いに対向する前記シールフィンと前記スペーサを接触状態にすることを特徴とするシール構造の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−261351(P2010−261351A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112332(P2009−112332)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】