説明

シール治具及びめっき処理装置

【課題】被処理面へのシール位置の位置決め精度を向上できること。
【解決手段】シリンダブロック1の被処理面であるシリンダ内周面3に処理液を導く際に、シリンダ内周面に接触してこのシリンダ内周面をシールするシール治具13において、伸縮自在な材料にて構成され、浮き輪形状のシール部材33と、このシール部材の下側面33Cを支持するシール下板34と、このシール下板に対向して配置され、シール部材の上側面33Bを支持するシールベース35とを有し、シール部材33は、エアが内部に導入されたときに、シール下板34とシールベース35により規制されて半径方向のみに拡張され、シリンダ内周面3に接触可能に構成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックの被処理面であるシリンダ内周面に処理液を導く際に、シリンダ内周面をシールするシール治具、及びこのシール治具を備え、シリンダ内周面をめっき前処理またはめっき処理するめっき処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリンダブロックのシリンダ内周面に処理液を導いて流動させ、シリンダ内周面にめっき処理などの表面処理を施す装置において、シリンダ内周面をシールする方法が開示されている。
【0003】
例えば特許文献1に記載の表面処理装置では、シール部材を拡径させる動作と、このシール部材を含むシール治具全体をシリンダ内部で移動させる動作とを複数回繰り返した後に、シール部材を完全に拡径させて、シリンダ内周面のシールを完了している。
【0004】
また、特許文献2に記載の表面処理装置では、エアチューブを用い、このエアチューブを膨張させてシリンダ内周面に接触させ、このシリンダ内周面をシールしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−199390号公報
【特許文献2】特開平8−144082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1に記載の表面処理装置では、シール部材の拡径量の調整や、シール治具の移動量の調整に不具合があった場合に、被処理面であるシリンダ内周面を損傷したり、シリンダ内周面に対するシール位置がずれてしまい、シール位置精度が低下する恐れがある。
【0007】
また、特許文献2に記載の表面処理装置では、エアチューブの位置決めが不十分であるため、エアチューブ膨張時の形状やシール位置の制御が不可能となる。従って、この場合にも、シリンダ内周面のシール位置精度が不十分となる恐れがある。
【0008】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、被処理面へのシール位置の位置決め精度を向上できるシール治具及びめっき処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るシール治具は、シリンダブロックの被処理面であるシリンダ内周面に処理液を導く際に、前記シリンダ内周面に接触して前記シリンダ内周面をシールするシール治具において、伸縮自在な材料にて構成され、浮き輪形状のシール部材と、このシール部材の一方の片側を支持するシール支持部材と、このシール支持部材に対向して配置され、前記シール部材の他方の片側を支持するシールベースとを有し、前記シール部材は、流体が内部に導入されたときに、前記シール支持部材と前記シールベースとにより規制されて半径方向のみに拡張され、前記シリンダ内周面に接触可能に構成されたことを特徴とするものである。
【0010】
本発明に係るめっき処理装置は、シリンダブロックの被処理面であるシリンダ内周面に処理液を導く際に、前記シリンダ内周面に接触して当該シリンダ内周面をシールするシール治具を備え、前記シリンダ内周面をめっき前処理またはめっき処理するめっき処理装置であって、前記シール治具が、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のシール治具であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るシール治具、及びこのシール治具を備えためっき処理装置によれば、シール部材が、内部への流体の導入時に半径方向のみに拡張されてシリンダ内周面に接触するので、被処理面であるシリンダ内周面へのシール位置の位置決め精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るめっき処理装置の第1の実施の形態を示す全体正面図。
【図2】図1のめっき処理装置における電極及びエアジョイント周りを示す断面図。
【図3】図2のシール治具を示し、(A)がシール部材の拡張状態を示す断面図、(B)がシール部材の収縮状態を示す断面図。
【図4】図3のシール部材を示す平面図。
【図5】図4のV−V線に沿う断面図。
【図6】図3のシール支持部材としてのシール下板を示す平面図。
【図7】図6のVII−VII線に沿う断面図。
【図8】図3のシールベースを示す平面図。
【図9】図8のIX−IX線に沿う断面図。
【図10】図3の絶縁部材としてのシール治具取付板を示す平面図。
【図11】図10のXI−XI線に沿う断面図。
【図12】本発明に係るめっき処理装置の第2の実施の形態の電極及びエアジョイント周りを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づき説明する。但し、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。
【0014】
[A]第1の実施の形態(図1〜図11)
図1は、本発明に係るめっき処理装置の第1の実施の形態を示す全体正面図である。図2は、図1のめっき処理装置における電極及びエアジョイント周りを示す断面図である。
【0015】
図1に示すめっき処理装置10は、エンジンにおけるシリンダブロック1の被処理面であるシリンダ内周面3に処理液(めっき前処理液またはめっき液)を導いて、シリンダ内周面3を高速でめっき前処理またはめっき処理するものであり、装置本体11、電極12、シール治具13、ワーク保持治具14、エアジョイント15、クランプ用シリンダ16及び電極用シリンダ17を有して構成される。本実施の形態では、シリンダブロック1がV型エンジンのV型シリンダブロックであり、このシリンダブロック1において所定角度差を有して形成された複数のシリンダ2のシリンダ内周面3が、めっき処理装置10によって同時にめっき前処理またはめっき処理される。
【0016】
装置本体11は架台18に設置して固定され、シリンダブロック1を載置するワーク載置台19を備える。シリンダブロック1は、ヘッド面4を下方にしてワーク載置台19に載置される。装置本体11にはワーク載置台19の上方にワーク保持治具14が、クランプ用シリンダ16によって昇降可能に設置される。このワーク保持治具14には、図示しないクランプが設けられている。ワーク保持治具14は、下降位置で、ワーク載置台19に載置されたシリンダブロック1のクランクケース面5に当接する。このとき、ワーク保持治具14の前記クランプがシリンダブロック1のクランクケース面5側を把持して、シリンダブロック1がワーク載置台19とワーク保持治具14間に保持される。
【0017】
電極12は電極支持部20に支持され、この電極支持部20が装置本体11に設置された電極用シリンダ17に取り付けられる。この電極用シリンダ17の進退動作によって、電極12がシリンダブロック1のシリンダ2内へ挿入され、また、電極12がシリンダブロック1のシリンダ2から退避される。図1の左側の電極12がシリンダ2内への挿入状態を示し、図1の右側の電極12がシリンダ2からの退避状態を示す。
【0018】
電極12がシリンダブロック1のシリンダ2内へ挿入されたときには、電極支持部20に設置されたシリコンゴムシートなどのシールリング21(図2)がシリンダのヘッド面4に接触して、シリンダ内周面3のヘッド面4側がシールされる。
【0019】
図1に示すように、電極12の上端にシール治具13が、また、ワーク保持治具14にエアジョイント15がそれぞれ設置される。これらのシール治具13及びエアジョイント15は、後に詳説するが、電極12がシリンダブロック1のシリンダ2内へ挿入されたときに、図2に示すようにシール治具13がエアジョイント15に当接して、このエアジョイント15のメインエア継手22からシール治具13のシール部材33へ流体としてのエア(空気)が供給される。これにより、シール部材33が半径方向のみに拡張してシリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触し、このシリンダ内周面3のクランクケース面5側がシールされる。
【0020】
図1に示す電極支持部20には処理液パイプ23が接続され、この処理液パイプ23が送液ポンプ24(図2)に接続される。この送液ポンプ24は、シリンダブロック1のシリンダ内周面3におけるクランクケース面5側がシール部材33によりシールされた状態において、貯留タンク25に貯溜された処理液(めっき前処理液またはめっき液)を処理液パイプ23及び電極支持部20を経て電極12内へ導く。この電極12内に導かれた処理液は、図2の矢印に示すように、シール治具13のシール下板34(後述)と電極12との間のスリット26を経て、電極12の外周面とシリンダブロック1のシリンダ内周面3とにより区画される空間27内へ導かれ、この空間27と貯留タンク25との間で循環する。
【0021】
図1及び図2に示すように、電極支持部20にはリード線28が接続され、このリード線28が電源装置30に接続される。電源装置30は、前記空間27が処理液で満たされた状態で、リード線28及び電極支持部20を経て電極12へ電気を供給する。この給電は、めっき前処理時には電極12がマイナス極、シリンダブロック1がプラス極になるように実施され、これによりシリンダブロック1のシリンダ内周面3がめっき前処理される。めっき処理時には電極12がプラス極、シリンダブロック1がマイナス極に給電され、シリンダ内周面3がめっき処理されて、このシリンダ内周面3にめっき皮膜が形成される。ここで、めっき前処理とめっき処理は、処理液と通電条件を異ならせることで実施される。
【0022】
尚、エアジョイント15は、図1に1個図示されているが、電極12の個数に対応した個数がワーク保持治具14に設置されている。また、図1中の符号31は、シリンダブロック1のシリンダ内周面3にめっき前処理またはめっき処理がなされて、電極12がシリンダブロック1から退避した後に進出して、シリンダブロック1のシリンダ2内へ洗浄液を噴射し洗浄するための洗浄シャッターである。
【0023】
次に、前記シール治具13とエアジョイント15などの構成を、図2〜図11を用いて詳説する。
【0024】
シール治具13は、シリンダブロック1のシリンダ内周面3に処理液を導く際に、このシリンダ内周面3に接触してこのシリンダ内周面3をシールするものであり、シール部材33、シール下板34及びシールベース35を有して構成される。
【0025】
シール部材33は、図3、図4及び図5に示すように、伸縮自在な材料(例えばゴムなどの弾性部材)にて構成され、浮き輪形状に形成される。このシール部材33の内周側部分は開口されて開口部49が設けられると共に、この開口部49近傍の両側に係合突起36が形成される。このシール部材33の外周部33Aが、シリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触可能とされる。
【0026】
シール下板34は、図3、図6及び図7に示すように、円板部32の中央に膨出部37が一体成形されて構成される。膨出部37の外周に、周溝38が形成されたリング部材39が配置される。また、膨出部37にはメインエア流路40C及び40Dが連通して形成される。このうちメインエア流路40Dは、シール下板34の周方向に複数本、例えば3本等間隔に形成される。このメインエア流路40Dは、リング部材39の周溝38に連通し、このリング部材39の周方向複数箇所(例えば3箇所)に周溝38に連通して形成されたメインエア流路40Eと連通する。
【0027】
また、シール下板34の円板部32には、膨出部37との境界部分に係合溝41がリング形状に形成される。この係合溝41に、シール部材33の係合突起36が係合される。また、円板部32及び膨出部37には、締結用の雌ねじ部42と、ボルト43挿入用のボルト貫通穴44が設けられる。このように構成されたシール下板34は、図3に示すように、リング部材39にシール部材33の開口部49を嵌合させ、係合溝41にシール部材33の係合突起36が係合した状態で、円板部32がシール部材33の一方の片側面(図3の下側面33C)を支持する。
【0028】
シールベース35は、図3、図8及び図9に示すように、円板部45の中央に膨出部46が一体成形されて構成され、膨出部46にシート座47及びメインエア流路40Bが形成される。シート座47にシールシート48が装着され、このシールシート48に、メインエア流路40Bに連通するメインエア流路40Aが形成される。メインエア流路40Bは、シール下板34のメインエア流路40Cに連通可能に設けられる。
【0029】
また、円板部45には、シート座47と反対位置に、シール下板34の膨出部37を嵌合可能な凹部50が形成され、この凹部50の外周側に係合溝51がリング状に形成される。円板部45のシート座47の反対側に形成される多段状で同心状の凹部50,51に、シール下板34の膨出部37とシール部材33の係合突起36がそれぞれ係合している。この係合溝51にシール部材33の係合突部36が係合される。円板部45及び膨出部46には、ボルト43螺挿用のボルトねじ穴52が形成される。
【0030】
図3に示すように、シール下板34の膨出部37がシールベース35の凹部50に嵌合し、シール部材33の開口部49がシール下板34のリング部材39に嵌合し、シール部材33の係合突起36がシール下板34の係合溝41及びシールベース35の係合溝51に係合した状態で、シール下板34のボルトねじ穴44とシールベース35のボルトねじ穴52にボルト43が螺合され、シール部材33、シール下板34及びシールベース35が一体化されてシール治具13が構成される。
【0031】
この状態で、シール下板34とシールベース35とが互いに対向配置され、シール下板34の円板部32がシール部材33の一方の片側面(図3の下側面33C)を、シールベース35の円板部45がシール部材33の他方の片側面(図3の上側面33B)をそれぞれ面接触により支持する。更に、シール部材33、シール下板34及びシールベース35が一体化された状態で、互いに連通するメインエア流路40A、40B、40C、40D及び40Eが、シール部材33の内部に連通する。
【0032】
図2に示すように、シール治具13は、絶縁部材としてのシール治具取付板53を介して電極12の上端に取り付けられる。このシール治具取付板53は、図2、図10及び図11に示すように、4方向が切り欠かれた略十字形状に形成され、中央部に締結用の雄ねじ部54が形成される。この略十字形状のシール治具取付板53の先端部がボルト55により電極12に固定される。そして、シール治具取付板53の雄ねじ部54がシール治具13のシール下板34における雌ねじ部42に螺合して、シール部材33、シール下板34及びシールベース35が一体化されたシール治具13がシール治具取付板53に取り付けられる。
【0033】
このシール治具取付板53は、非導電性の樹脂などにて構成され、導電性の金属にて構成されたシール下板34及びシールベース35を電極12に対して絶縁する。また、略十字形状のシール治具取付板53の切り欠かれた部分を通って処理液が、図2の矢印に示すように前記スリット26へ向かって流動する。
【0034】
図1及び図2に示すエアジョイント15は、前述の如くメインエア継手22を備えると共に、メインエア供給流路56が形成されている。メインエア継手22は、メインエア供給配管57を介して図示しないエア供給バルブ及びコンプレッサに接続される。また、エアジョイント15は、電極12がシリンダブロック1のシリンダ2内に挿入されたときに、電極12に取り付けられたシール治具13のシールシート48に当接し、この状態でメインエア供給流路56がシールシート48のメインエア流路40Aに連通する。メインエア供給流路56からメインエア流路40Aへエアが供給されるが、この際のエアの漏洩がシールシート48により防止される。
【0035】
メインエア供給流路56からメインエア流路40Aへ供給されたエアは、図3に示すように、メインエア流路40B、40C、40D及び40Eを経てシール部材33内へ導入される。このシール部材33は、上側面33Bがシールベース35により、下側面33Cがシール下板34によりそれぞれ支持されて膨張が規制されるので、図3(A)に示すように半径方向のみに拡張され、シール部材33の外周部33Aがシリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触して、このシリンダ内周面3のクランクケース面5側をシールする。これにより、シリンダ内周面3と電極12の外周面とにより区画された空間27(図2)からクランクケース面5側へ、めっき前処理液またはめっき液が液漏れすることが防止される。
【0036】
メインエア継手22からシール部材33内へのエアの供給が遮断されたときには、図3(B)に示すように、シール部材33は半径方向に収縮して、その外周部33Aがシリンダ内周面3から離反する。
【0037】
このシール部材33の拡張、収縮を確認する確認手段が、図2に示すようにシール治具13及びエアジョイント15に設けられている。この確認手段は、エアジョイント15側のサブエア継手58及びサブエア供給流路59と、シール治具13側のサブエア流路60と、エア圧センサ61及び制御回路62とである。
【0038】
サブエア継手58は、エアジョイント15に複数個、例えば3個配置されている。サブエア供給流路59は、サブエア継手58に対応してエアジョイント15に複数本、例えば3本形成され、それぞれがサブエア継手58に連通して設けられる。
【0039】
サブエア流路60は、シール治具13のシールベース35に形成される。このシールベース35には、図8及び図9に示すように、膨出部46の天面に同心円状のリング溝63が、サブエア供給流路59の本数に対応して複数個(例えば3個)形成されており、それぞれが各サブエア供給流路59に連通可能とされる。シールベース35には、更に、各リング溝63の個数に対応して複数本(例えば3本)のサブエア流路60が放射状に等間隔に形成される。それぞれのサブエア流路60が各リング溝63に連通して設けられる。これらのサブエア流路60のそれぞれには、シールベース35の外周端部において吹出口64が形成される。この吹出口64は、図3に示すように、シール部材33の拡張時にこのシール部材33によって閉塞され、シール部材33の収縮時に開放される位置に設けられる。
【0040】
図2に示すエアジョイント15に備えられたサブエア継手58から導入される流体としてのエアは、サブエア供給流路59を通り、シール治具13(図3)のリング溝63及びサブエア流路60を経て吹出口64から吹き出し可能に設けられる。この吹出口64からのエアの吹き出しは、図3(B)に示すように、シール部材33の収縮時に吹出口64がシール部材33により閉塞されず開放されているときに実施される。このときには、サブエア流路60、サブエア供給流路59及びサブエア継手58のエア圧が低くなる。これに対し、シール部材33の拡張時には、図3(A)に示すように、吹出口64がシール部材33により閉塞されてエアが吹出口64から吹き出されず、サブエア流路60、サブエア供給流路59及びサブエア継手58内のエア圧が上昇する。
【0041】
図2に示すエア圧センサ61は、例えば複数本のサブエア継手58へそれぞれエアを導く複数本、例えば3本のサブエア供給配管65に配置されて、上述のサブエア流路60のエア圧を検出する。このエア圧の検出値によって、シール治具13のシール部材33の拡張または収縮を確認することが可能となる。つまり、シール部材33が拡張してシリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触し、このシリンダ内周面3を液密にシールしている状態であるか、またはシール部材33が収縮して、シリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触せず、このシリンダ内周面3がシールされていない状態であるかを確認することが可能となる。
【0042】
エア圧によるシール確認の具体例を次に示す。サブエア継手58からの供給エア圧を、例えば、0.10MPaとしてサブエア流路60へエアを供給した場合、シール部材33の拡張状態ではサブエア流路60内のエア圧は0.09〜0.10MPaとなる。このサブエア流路60内のエア圧は、シール部材33の動作不具合や劣化により低下することがあるが、このエア圧が0.06〜0.10MPaの範囲内であれば、シール部材33が拡張してシリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触し、このシール部材33によりシリンダ内周面3がシールされていることが確認される。これに対し、サブエア流路60内のエア圧が0.05MPa以下の場合には、シール部材33が収縮してシリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触していず、このシール部材33によってシリンダ内周面3がシールされていないことが確認され、液漏れの恐れがあると確認される。
【0043】
シール部材33の拡張、収縮によるシリンダブロック1のシリンダ内周面3のシールの確認は、サブエア流路60がシールベース35(つまりシール部材33)の周方向に複数本等間隔に、例えばシール部材33の周方向に120度の等間隔で3本形成されているので、シール部材33の全周に亘ってなされる。これにより、シール部材33の周方向の一部に劣化や亀裂、破損が発生して、その箇所以外ではシール部材33の拡張が正常になされるが、亀裂等が発生した箇所ではシール部材33の拡張が不充分となって、シリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触していない場合にも、このシール部材33の周方向の拡張、収縮状況を確認して、シリンダ内周面3のシールを確認することが可能となる。
【0044】
図2に示す制御回路62は、エア圧センサ61からの検出値を取り込んで、送液ポンプ24及び電源装置30の駆動を制御する。つまり、制御回路62は、エア圧センサ61からの検出値が所定値よりも高い場合に、シール治具13のシール部材33が拡張してシリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触し、このシリンダ内周面3のシールが良好になされていると判断する。このとき、制御回路62は、送液ポンプ64を起動して処理液を、シリンダ内周面3と電極12の外周面とにより区画された空間27へ供給し、その後、電源装置30を駆動して電極12へ給電し、シリンダ内周面3にめっき前処理またはめっき処理を実施させる。
【0045】
制御回路62は、エア圧センサ61からの検出値が所定値以下の場合には、シール治具13のシール部材33が適正に拡張せずまたは収縮して、シリンダ内周面3に接触していず、このシリンダ内周面3のシールが不完全であると判断して、送液ポンプ24及び電源装置30を駆動せず、またはこれらの駆動中にはこれらの駆動を中止する。
【0046】
以上のように構成されたことから、本実施の形態によれば、次の効果(1)〜(5)を奏する。
【0047】
(1)シール治具13のシール部材33は、上側面33Bがシールベース35により、下側面33Cがシール下板34によりそれぞれ支持されているので、シール部材33内へのエアの導入時に、これらのシール下板34及びシールベース35によって膨張が規制されて、半径方向のみに拡張され、外周部33Aがシリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触する。この結果、シリンダ内周面3に接触するシール部材33の位置を精度よく位置決めできる。シリンダブロック1のシリンダ内周面3にめっき皮膜を施す場合、本実施の形態によってめっき範囲を高精度に制御できるので、高品質なめっき皮膜を有するシリンダブロック1を製造することができる。
【0048】
(2)シール治具13のシールベース35に、エアを吹き出し可能な吹出口64が設けられたサブエア流路60が形成され、この吹出口64が、シール部材33の半径方向への拡張時にシール部材33により閉塞され、シール部材33の収縮時に開放され、このサブエア流路60内のエア圧に基づきシール部材33のシリンダ内周面3への接触の有無が確認される。このため、シール部材33がシリンダ内周面3に接触して、このシリンダ内周面3がシール部材33によりシールされている場合のみに、シリンダ内周面3を含む空間27へ処理液を導くことで、この空間27での液漏れを防止できる。
【0049】
また、この空間27へ処理液が導かれているときに、シール部材33によるシリンダ内周面3の接触が確認されなくなった場合には、空間27への処理液の供給を中止することで、空間27での液漏れを防止できる。
【0050】
(3)シール治具13のシールベース35には、シール部材33の拡張、収縮を確認するための、吹出口64を備えたサブエア流路60が、シール部材33の周方向に沿って複数本設けられたことから、シール部材33の一部に劣化や亀裂、破損などが生じて、この箇所でのシール部材33の拡張が不充分となった場合にも、このようなシール部材33の部分的な不具合を検出でき、シール部材33によるシリンダ内周面3のシール不良を正確に確認することができる。
【0051】
(4)シール部材33を拡張、収縮させるために、エアジョイント15のメインエア継手22からメインエア流路40A、40B、40C、40D及び40Eなどを経てシール治具13のシール部材33へエアを供給している。また、シール部材33の拡張、収縮を確認するために、吹出口64を備えたサブエア流路60へエアジョイント15のサブエア継手58からエアを供給している。シール部材33の拡張、収縮動作や、シール部材33の拡張、収縮の確認動作のために、電気スイッチや電気配線を備えた電動による機構を用いた場合には、電極12の影響で電気的な誤動作が生じやすく、更にリン酸や硫酸などの腐食性の高い処理液によって電気配線などが損傷を蒙り、耐久性が低下する恐れがある。シール部材33の拡張、収縮動作と、シール部材33の拡張、収縮の確認動作が上述のようにエア駆動であることから、電気的な誤動作や耐久性低下などの上述の不具合の発生を回避できる。
【0052】
(5)シール治具13が絶縁部材としてのシール治具取付板53を介して電極12の上端に取り付けられたことから、シール治具13の金属製のシール下板34及びシールベース35に、電気腐食や電析物の付着などの不具合を回避できる。
【0053】
尚、本実施の形態では、シール治具13のシールベース35にサブエア流路60が周方向に沿って3本形成されたものを述べたが、その本数は必要に応じて増減してもよい。また、このサブエア流路60は、シール治具13のシール下板34に形成してもよい。
【0054】
[B]第2の実施の形態(図12)
図12は、本発明に係るめっき処理装置の第2の実施の形態の電極及びエアジョイント周りを示す断面図である。この第2の実施の形態において、前記第1の実施の形態と同様な部分には同一の符号を付して説明を簡略化し、または省略する。
【0055】
本実施の形態のめっき処理装置70が前記第1の実施の形態のめっき処理装置10と異なる点は、電極12とシール治具74のシール下板34との間にスリット26(図2参照)が形成されず、これらの電極12とシール下板34とが接近して配置されると共に、シール下板34に絶縁カバー71が装着され、電極12に連通口72が形成された点である。
【0056】
つまり、シール治具74のシール下板34は、シールベース35と共に金属製であり、絶縁材料からなるシール治具取付板53を介して電極12に取り付けられる。また、シール下板34は、円板部32の外周部分に電極12の外径よりも大きな突出部73が設けられ、この突出部73と円板部32の外周部の下面に絶縁カバー71が装着される。この絶縁カバー71は、非導電性樹脂などの絶縁材料にて構成される。そして、電極12は、その上端が、シール下板34に装着された絶縁カバー71に当接するまで接近して構成されると共に、シール下板34の近傍位置に連通口72が形成される。電極12内へ供給された処理液は、図12の矢印に示すように連通口72を通って、シリンダブロック1のシリンダ内周面3を含む空間27へ流れ、このシリンダ内周面3へ処理液が導かれる。また、処理液は、シリンダ内周面3を含む空間27から連通口72を経て電極12内へ流れる。
【0057】
従って、本実施の形態によれば、前記第1の実施の形態の効果(1)〜(5)と同様な効果を奏するほか、次の効果(6)及び(7)を奏する。
【0058】
(6)電極12が、シール治具74のシール下板34に装着された絶縁カバー71に当接するまで接近して、つまりシール治具74のシール部材33に接近して配置されたので、シリンダ内周面3におけるめっき処理領域のクランクケース面5側の端部まで、均一な厚さのめっき皮膜を形成することができる。
【0059】
(7)シール下板34に絶縁カバー71が装着されていない場合には、シール治具74のシール下板34に、電極12の外径よりも大きな突出部73が形成されて、この突出部73とシリンダブロック1のシリンダ内周面3との距離が短くなっているため、このシール下板34の突出部73に電荷が集中し易く、めっきが異常成長する花咲現象が生じたり、シリンダ内周面3を電気的にエッチングする場合にエッチング量が過大になる事態が生ずる。これ対し、本実施の形態では、シール下板34の突出部73に絶縁カバー71が装着されているため、この突出部73に電荷が集中せず、従って、上述のめっきの花咲現象や過剰なエッチングの発生を未然に防止できる。
【0060】
尚、シール治具74のシール下板34に絶縁カバー71を装着する代わりに、このシール下板34を被導電性樹脂などの絶縁材料にて構成し、このシール下板34を電極12にシール治具取付板53を介して、または直接取り付けてもよい。この場合にも、シール下板34に絶縁カバー71を装着した場合と同様な効果を奏する。
【符号の説明】
【0061】
1 シリンダブロック
3 シリンダ内周面(被処理面)
10 めっき処理装置
12 電極
13 シール治具
15 エアジョイント
22 メインエア継手
24 送液ポンプ
27 空間
33 シール部材
34 シール下板(シール支持部材)
35 シールベース
40A〜40E メインエア流路
53 シール治具取付板(絶縁部材)
56 メインエア供給流路
58 サブエア継手
59 サブエア供給流路
60 サブエア流路
61 エア圧センサ
64 吹出口
70 めっき処理装置
71 絶縁カバー
72 連通口
73 突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックの被処理面であるシリンダ内周面に処理液を導く際に、前記シリンダ内周面に接触して前記シリンダ内周面をシールするシール治具において、
伸縮自在な材料にて構成され、浮き輪形状のシール部材と、
このシール部材の一方の片側を支持するシール支持部材と、
このシール支持部材に対向して配置され、前記シール部材の他方の片側を支持するシールベースとを有し、
前記シール部材は、流体が内部に導入されたときに、前記シール支持部材と前記シールベースとにより規制されて半径方向のみに拡張され、前記シリンダ内周面に接触可能に構成されたことを特徴とするシール治具。
【請求項2】
前記シール支持部材が金属製であり、絶縁部材を介して電極に設置され、このシール支持部材における前記電極よりも外径の大きな突出部に絶縁性のカバーが装着されたことを特徴とする請求項1に記載のシール治具。
【請求項3】
前記シール支持部材は、電極よりも外径の大きな突出部を備えると共に絶縁材料にて構成され、前記電極に直接、または絶縁部材を介して設置されたことを特徴とする請求項1に記載のシール治具。
【請求項4】
前記シール支持部材またはシールベースには、流体を吹き出し可能な吹出口が設けられた流体通路が形成され、前記吹出口が、シール部材の半径方向への拡張時に前記シール部材により閉塞されると共に、当該シール部材の収縮時に開放され、前記流体流路内の圧力に基づき、前記シール部材のシリンダ内周面への接触が確認可能に構成されたことを特徴とする請求項1に記載のシール治具。
【請求項5】
前記吹出口を備えた流体流路が、シール部材の周方向に複数箇所設けられたことを特徴とする請求項4に記載のシール治具。
【請求項6】
前記シール部材の内部へ供給される流体と、前記吹出口を備えた流体通路内へ供給される流体とがエアであることを特徴とする請求項1に記載のシール治具。
【請求項7】
シリンダブロックの被処理面であるシリンダ内周面に処理液を導く際に、前記シリンダ内周面に接触して当該シリンダ内周面をシールするシール治具を備え、前記シリンダ内周面をめっき前処理またはめっき処理するめっき処理装置であって、
前記シール治具が、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のシール治具であることを特徴とするめっき処理装置。
【請求項8】
前記シール治具のシール支持部材が電極に設置され、この電極における前記シール支持部材近傍に、前記電極内部とシリンダ内周面側との間で処理液の流出入を可能とする連通口が形成されたことを特徴とする請求項7に記載のめっき処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−235566(P2009−235566A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49483(P2009−49483)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】