説明

ジエン系ゴム組成物

【課題】発熱量の増加を抑えつつ高剛性、耐熱老化性および弾性率をバランス良く改善し、ひいては耐久性を向上させた下部硬質ビードフィラー形成用の加硫成形材料などとして好適に用いられるジエン系ゴム組成物を提供する。
【解決手段】(a)ジエン系ゴム100重量部に対して、(b)モノメタクリル酸亜鉛8〜14重量部、(c)カーボンブラック60〜80重量部および(d)パラオクチルフェノール樹脂、変性ガムロジン、1,3-ペンタジエン樹脂およびジシクロペンタジエン樹脂の少なくとも一種0.5〜8重量部を配合してなるジエン系ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジエン系ゴム組成物に関する。さらに詳しくは、下部硬質ビードフィラー形成用の加硫成形材料などとして好適に用いられるジエン系ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、重荷重用タイヤなど空気入りタイヤの操縦安定性の向上を目的として、ビードコアの外周側に配置するビードフィラーを、JIS-A硬度が85〜95の高硬度ゴムからなる下部ビードフィラーとJIS-A硬度が70〜80の低硬度ゴムからなる上部ビードフィラーとの2層構造にし、ビードフィラー全体の断面高さや下部ビードフィラーの断面高さ等を特定の範囲に設定することが提案されている。
【特許文献1】特開平6−262913号公報
【特許文献2】特開平5−131815号公報
【0003】
かかる下部硬質ビードフィラーは、ビード部およびカーカスターンナップエッジの動きを抑え、エッジセパレーションを防止するために高剛性(高硬度)とする必要があり、またタイヤの軽量化、操縦安定性の向上などの要求から、高弾性率であることが求められる。ここで、一般的に高剛性とするためにはカーボンブラック等の補強性充填剤を増量することが考えられるが、補強性充填剤の増量は発熱量の増加につながり、ひいては耐久性の悪化を引き起こすこととなるため、下部硬質ビードフィラーには高剛性と発熱量増加抑制の両立が要求される。
【0004】
一方、本出願人は先に、加硫後の動的弾性率が高く、かつ破断物性にすぐれた高硬度ゴム組成物を目的として、ジエン系ゴム100重量部に対して特定粒子径のカーボンブラック70〜90重量部、ノボラック型変性フェノール系樹脂5〜20重量部、ヘキサ(またはペンタ)メトキシヘキサメチロールメラミンの単体もしくは部分縮合物1〜10重量部および特定粘度の重合カーダノール20〜35重量部よりなるゴム組成物を提案している。かかるゴム組成物は、所望の目的を達成し得るものの、さらなる耐久性向上のために高硬度化と発熱量抑制の点で改善が求められている。
【特許文献3】特開平5−98081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、発熱量の増加を抑えつつ高剛性、耐熱老化性および弾性率をバランス良く改善し、ひいては耐久性を向上させた下部硬質ビードフィラー形成用の加硫成形材料などとして好適に用いられるジエン系ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる本発明の目的は、(a)ジエン系ゴム100重量部に対して、(b)モノメタクリル酸亜鉛8〜14重量部、(c)カーボンブラック60〜80重量部および(d)パラオクチルフェノール樹脂、変性ガムロジン、1,3-ペンタジエン樹脂およびジシクロペンタジエン樹脂の少なくとも一種0.5〜8重量部を配合してなるジエン系ゴム組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るジエン系ゴム組成物は、その成形品について発熱量の増加を抑えつつ高剛性、耐熱老化性および弾性率をバランス良く改善し、耐久性を向上させるので、空気入りタイヤの下部硬質ビードフィラー形成用の成形材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(a)成分のジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が単独であるいはブレンドゴムとして用いられ、好ましくはNR、BR、SBRまたはこれらのブレンドゴムが用いられる。SBRとしては、乳化重合SBR(E-SBR)、溶液重合SBR(S-SBR)のいずれをも用いることができる。
【0009】
(b)成分のモノメタクリル酸亜鉛は、メタクリル酸が亜鉛に対して配位結合しているものと考えられ、〔CH(CH3)=CHCOO〕2Znで表わされるジメタクリル酸亜鉛とは区別される。実際には、モノメタクリル酸亜鉛として市販されているサートマー社製品SR709等をそのまま用いることができる。また、モノメタクリル酸亜鉛の合成例としては、塩基過剰でメタクリル酸と酸化亜鉛とを反応させて得られた、例えば60重量%のモノメタクリル酸亜鉛と30重量%のジメタクリル酸亜鉛、10重量%の酸化亜鉛とからなる混合塩が挙げられる。
【特許文献4】特表平11−512776号公報
【0010】
モノメタクリル酸亜鉛は、ジエン系ゴム100重量部当り8〜14重量部、好ましくは10〜14重量部の割合で用いられる。モノメタクリル酸亜鉛の配合割合がこれよりも少ないと、耐熱老化性が悪化し、また発熱量も増加するようになり、一方これ以上の割合で用いられると、耐熱老化性が悪化するようになるので好ましくない。ここでモノメタクリル酸亜鉛は、酸化亜鉛と併用することなく亜鉛化合物として単独で用いることもできるし、亜鉛化合物の合計量が14重量部以内であれば、酸化亜鉛等との併用も可能である。
【0011】
(c)成分のカーボンブラックとしては、SAF、ISAF、HAFなどのグレードのカーボンブラック、好ましくはHAFカーボンブラックが、ジエン系ゴム100重量部当り60〜80重量部、好ましくは65〜75重量部の割合で用いられる。カーボンブラックがこれより少ない割合で用いられると、カーボンブラックの補強作用が発揮されないため高剛性を満足させることができず、耐久性が悪化するようになり、一方これより多い割合で用いられると、発熱量が増加し、また耐久性が悪化するようになる。
【0012】
(d)成分の樹脂としては、パラオクチルフェノール樹脂、変性ガムロジン、1,3-ペンタジエン樹脂およびジシクロペンタジエン樹脂の少なくとも一種が、ジエン系ゴム100重量部当り0.5〜8重量部、好ましくは1〜6重量部の割合で用いられる。これらの樹脂を配合することにより、発熱量の増加を抑え耐久性を向上させることができる。樹脂が、これ以下の割合で用いられると、耐久性が悪化するようになり好ましくない。
【0013】
パラオクチルフェノール樹脂は、イソブチレンを原料とした樹脂であり、例えば市販品日立化成工業製品ヒタノール1502Zなどが用いられる。
【0014】
ガムロジンは松の幹に切り傷をつけ、そこから滲み出てくる生松油をろ過精製し、ついで水蒸気蒸留によりテレピン油を除くことで得られる、いくつかの樹脂酸の混合物であり、分子内にカルボキシル基と二重結合を有している。本発明では、ガムロジン変性マレイン酸樹脂などの変性ガムロジン、例えば市販品ハリマ化成工業製品ハリタックAQ-90Aなどが用いられる。
【0015】
1,3-ペンタジエン樹脂としては、例えばC5留分から抽出された高純度の1,3-ブタジエンを主原料に製造された石油樹脂、例えば市販品である日本ゼオン製品クイントンA100などが、またジシクロペンタジエン樹脂としては、例えばC5留分から抽出された高純度のジシクロペンタジエンを主原料に製造された石油樹脂、例えば市販品である日本ゼオン製品クイントン1100などが用いられる。
【0016】
以上の各成分を必須成分とするジエン系ゴム組成物中には、ゴムの配合剤として一般的に用いられている配合剤、例えばジエン系ゴムの種類に応じて硫黄等の加硫剤、チアゾール系、スルフェンアミド系、グアニジン系、チウラム系等の加硫促進剤、タルク、クレー、グラファイト、珪酸カルシウム等の補強剤または充填剤、ステアリン酸、パラフィンワックス、アロマオイル等の加工助剤、老化防止剤、可塑剤などが必要に応じて適宜配合されて用いられる。
【0017】
組成物の調製は、ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機およびオープンロール等を用いる一般的な方法で混練することによって行われ、得られた組成物は、用いられたジエン系ゴム、加硫剤、加硫促進剤の種類およびその配合割合に応じた加硫温度で加硫され、図1に示される下部硬質ビードフィラー1を形成する。
【実施例】
【0018】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0019】
標準例(比較例1)
天然ゴム(STR20) 70重量部
スチレンブタジエン共重合ゴム(日本ゼオン製品Nipol 1502) 30 〃
HAFカーボンブラック(東海カーボン製品シーストV) 80 〃
酸化亜鉛(正同化学工業製品酸化亜鉛3種) 6 〃
ステアリン酸(千葉脂肪酸製品工業用ステアリン酸) 2 〃
パラオクチルフェノール樹脂(日立化成工業製品ヒタノール1502Z) 2 〃
アロマティックオイル(出光興産製品ダイアナプロセスオイルAH-20) 3 〃
老化防止剤(住友化学製品アンチゲンRD-G) 2 〃
不溶性硫黄(Flexsys製品クリステックスHS OT 20) 4 〃
加硫促進剤(大内新興化学工業製品ノクセラーNS-F) 1.5 〃
以上の各成分の内、加硫促進剤と硫黄を除く各成分を2L密閉型ミキサで5分間混練し、160℃に達したとき放出してマスターバッチを得た。このマスターバッチに加硫促進剤と硫黄を加え、オープンロールで混練し、ジエン系ゴム組成物を得た。
【0020】
比較例2
比較例1において、カーボンブラック量が85重量部に変更されて用いられた。
【0021】
比較例3
比較例1において、酸化亜鉛量が8重量部に変更されて用いられた。
【0022】
比較例4
比較例1において、パラオクチルフェノール樹脂量が8重量部に変更されて用いられた。
【0023】
比較例5
比較例1において、酸化亜鉛の代わりにモノメタクリル酸亜鉛(サートマー社製品SR709)6重量部が用いられた。
【0024】
実施例1
天然ゴム(STR20) 70重量部
スチレンブタジエン共重合ゴム(Nipol 1502) 30 〃
HAFカーボンブラック(シーストV) 70 〃
モノメタクリル酸亜鉛(SR709) 12 〃
ステアリン酸(工業用ステアリン酸) 2 〃
パラオクチルフェノール樹脂(ヒタノール1502Z) 6 〃
アロマティックオイル(ダイアナプロセスオイルAH-20) 3 〃
老化防止剤(アンチゲンRD-G) 2 〃
不溶性硫黄(クリステックスHS OT 20) 4 〃
加硫促進剤(ノクセラーNS-F) 1.5 〃
以上の各成分の内、加硫促進剤と硫黄を除く各成分を2L密閉型ミキサで5分間混練し、160℃に達したとき放出してマスターバッチを得た。このマスターバッチに加硫促進剤と硫黄を加え、オープンロールで混練し、ジエン系ゴム組成物を得た。
【0025】
実施例2
実施例1において、パラオクチルフェノール樹脂の代わりに変性ガムロジン(ハリマ化成工業製品ハリタックAQ-90A)が同量用いられた。
【0026】
実施例3
実施例1において、パラオクチルフェノール樹脂の代わりに1,3-ペンタジエン樹脂(日本ゼオン製品クイントンA100)が同量用いられた。
【0027】
実施例4
実施例1において、パラオクチルフェノール樹脂の代わりにジシクロペンタジエン樹脂(日本ゼオン製品クイントン1100)が同量用いられた。
【0028】
実施例5
実施例1において、カーボンブラック量が60重量部に、モノメタクリル酸亜鉛量が14重量部に、またパラオクチルフェノール樹脂量が2重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0029】
比較例6
実施例1において、パラオクチルフェノール量が10重量部に変更されて用いられた。
【0030】
以上の各実施例および比較例で得られたジエン系ゴム組成物を150℃で30分間加硫して加硫ゴムシート(15×15×0.2cm)を得、得られた加硫ゴムシートについて、次の各項目の測定を行った。
硬度:JIS K6253準拠;タイプA デュロメータを用いて測定した値に基づき、標準例
(比較例1)で得られた値を100とする指数で示した
(この値が大きい程硬度が高く好ましいことを示している)
破断強度:JIS K6251準拠;20℃における破断時(TB)の強度を測定し、標準例で得ら れた値を100とする指数で示した
(この値が大きい程破断破断強度が大きいことを示している)
耐熱老化性:JIS K6251準拠; 80℃、96時間後における破断時の強度(TB)を測定し、
室温下における破断強度からの変化率を算出し、標準例で得られた値を
100とする逆数を指数として示した
(この値が大きい程変化量が少ないことを示している)
発熱性:JIS K6394準拠;東洋精機製作所製粘弾性スペクトロメーターを用い、初期
歪10%、振幅±2%、周波数20Hzの条件下で、20℃におけるtanδを測定し、
標準例で得られた値を100とする指数として示した
(この値が大きい程発熱量が抑えられていることを示している)
弾性率:JIS K6394準拠;東洋精機製作所製粘弾性スペクトロメーターを用い、初期
歪10%、振幅±2%、周波数20Hzの条件下で、20℃における弾性率を測定し
、標準例で得られた値を100とする指数で示した
(この値が大きい程弾性率が高いことを示している)
【0031】
得られた結果は、次の表に示される。

硬 度 破断強度 耐熱老化性 発熱性 弾性率
比較例1 100 100 100 100 100
〃 2 103 94 96 94 107
〃 3 101 100 98 105 103
〃 4 99 91 112 92 91
〃 5 105 102 82 95 112
実施例1 104 101 104 108 142
〃 2 102 103 101 108 140
〃 3 102 102 100 108 141
〃 4 103 104 103 107 144
〃 5 100 110 105 106 127
比較例6 102 96 112 100 134
【0032】
以上の結果から、次のようなことがいえる。
(1) 標準例(比較例1)と比較して、カーボンブラックを増量すると、硬度は高くなるものの、発熱量が増加する (比較例2)。
(2) 標準例と比較して、酸化亜鉛量を増量すると耐熱老化性が悪化する(比較例3)。
(3) 標準例と比較して、樹脂を増量するとすべての物性が低下する (比較例4)。
(4) 標準例と比較して、酸化亜鉛の代わりにモノメタクリル酸亜鉛を用いた場合であっても、本発明の規定量未満では、硬度、弾性率は良好ではあるものの、耐熱老化性が悪化し、発熱量も増加する(比較例5)。
(5) 標準例と比較して、酸化亜鉛の代わりにモノメタクリル酸亜鉛を規定量用いても、樹脂を規定量以上用いると、破断強度が低下し、発熱量が増加するようになる(比較例6)。
(6) 実施例1〜4では、いずれも発熱量の増加を抑えつつ、硬度、耐熱老化性および弾性率がバランス良く改善されている。
(7) 実施例5では、カーボンブラック量を規定量の下限値とし、モノメタクリル酸亜鉛量を規定量の上限値としたところ、標準例と硬度は変わらないものの、耐熱老化性を改善せしめるとともに、低発熱性および高弾性率を達成している。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】空気入りタイヤの要部断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 下部硬質ビードフィラー
2 ビードインシュレーションゴム
3 上部軟質ビードフィラー
4 ビードコア
5 カーカス
6 チェーファー
7 リムクッション

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ジエン系ゴム100重量部に対して、(b)モノメタクリル酸亜鉛8〜14重量部、(c)カーボンブラック60〜80重量部および(d)パラオクチルフェノール樹脂、変性ガムロジン、1,3-ペンタジエン樹脂およびジシクロペンタジエン樹脂の少なくとも一種0.5〜8重量部を配合してなるジエン系ゴム組成物。
【請求項2】
空気入りタイヤの下部硬質ビードフィラーの加硫成形材料として用いられる請求項1記載のジエン系ゴム組成物。
【請求項3】
請求項2記載のジエン系ゴム組成物から加硫成形された下部硬質ビードフィラーを有する空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−242579(P2009−242579A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90600(P2008−90600)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】