説明

ジオメンブレン用品

【課題】加工性に優れ、耐応力クラック性が高く、引張特性に優れ、耐耐衝撃強度が高いジオメンブレン用品。
【解決手段】ジオメンブレン用品をビモダルな中密度ポリエチレンで作る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビモダルな中密度ポリエチレン樹脂を用いて製造されたジオメンブレン(geo-membranes、防水シート)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ジオメンブレン用品(geo-membranes applications、ジオメンブレンのアプリケーション)の製造で使用されるポリエチレンはチーグラー−ナッタ(ZN)触媒系を用いて作られたポリエチレン、例えば、Dowlex(登録商標)2342MまたはStamylan(登録商標)LL0132H200のような樹脂である。これらの樹脂は耐応力クラック性が高く、引張り特性、耐衝撃強度、加工性に優れているが、まだ改良の余地がある。
【0003】
一方、モノモダル(monomodal)な狭い多分散度指数を有するメタロセン触媒を用いて製造した樹脂をこの分野の用途でテストしたが、必要な耐環境応力クラック性と加工性とのバランスが欠けているということがわかった。すなわち、ジオメンブレン用品の分野では400h以上の耐応力クラック性と同時に優れた加工性が要求される。
【0004】
なお、本明細書で多分散性指数Dは数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比Mw/Mnとして定義される。
【0005】
従って、ジオメンブレン用品の製造に使用できる樹脂を作るというニーズがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、耐環境応力クラック性が高いジオメンブレン用品を提供することにある。
本発明の他の目的は、フラットシート押出成形法またはブローシート押出成形法によって簡単に加工ができる樹脂を用いてジオメンブレン用品を製造することにある。
本発明のさらに他の目的は、引張り特性に優れたジオメンブレン用品を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、耐衝撃タフネスに優れたジオメンブレン用品を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、耐引裂き性および耐穿刺性に優れたジオメンブレン用品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は中密度ポリエチレン(MDPE)から成るビモダルな樹脂を用いてフラットシート押出成形法またはブローシート押出成形法によって作られたジオメンブレン用品を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明ではフラットシート押出成形が好ましい。
上記のビモダルなHDPE樹脂は物理的混合または化学的混合で調製できるが、化学的混合で調製するのが好ましい。この化学的混合は例えばダブルループ反応器で単一の触媒系を用い、各ループを互いに異なるポリマー化条件下で運転するか、単一のダブルループ反応器で少なくとも2つまたはそれ以上の触媒系を用いて行なうことができる。
【0009】
ダブルループ反応器を使用する場合には下記の3つのモードで運転できる:
(1)一つの反応装置では低分子量成分が製造され、他の反応装置では多分散度が高くなるように、各反応装置の水素濃度を変える水素スプリット(hydrogne split);
(2)一つの反応装置は低コモノマ濃度にし、他の反応装置は高コモノマ濃度にして、各反応装置のコモノマ濃度を変えるコモノマースプリット(comonomer split);
(3)一つの反応装置は高分子量かつ高コモノマー濃度にし、他の反応装置は低分子量かつ低いコモノマー濃度にするコモノマー/水素スプリット。直接配置(direct configuration)では第1の反応装置を高コモノマー濃度にし、他はその逆にし、逆配置(inverse configuration)では第1の反応装置で低コモノマー濃度にする。
【0010】
本発明は最後のモードの直接配置か逆配位が好ましい。
上記のビモダルなHDPE樹脂はブリッジしたビスインデニル触媒成分をベースにした触媒系を用いて製造するのが好ましい。触媒成分は下記一般式(I)を有する:
R''(Ind)2MQ2 (I)
(ここで、(Ind)は置換または未置換のインデニル基または水素化インデニル基を表し、R''は立体剛性(stereorigidity)を与える2つのインデニル基の間の置換または未置換でブリッジ構造で、C1-C4アルキレン基、ジアルキルゲルマニウムまたはシリコンまたはシロキサン、または、アルキルフォスフィンまたはアミン基であり、Qは1〜20の炭素原子を有するヒドロカルビル基またはハロゲン、Mは周期律表の第4族の遷移金属またはバナジウムである)
【0011】
各インデニル化合物または水素化インデニル化合物はシクロペンタジエニル環またはシクロヘキセニル環およびブリッジ構造の一つまたは複数の位置が同様にまたは互い異なる状態で置換されていてもよい。
インデニル上の各置換基は式XRvで表される置換基から選択できる。ここで、Xは周期律表の第14族、酸素および窒素の中から選択でき、各Rは水素または1〜20の炭素原子を有するヒドロカルビル基から選択され、互いに同一でも異なっていてもよく、v+1はXの結合価である。好ましいXはCである。シクロペンタジエニル環が置換されている場合、置換基はオレフィンモノマーの金属Mへの配位に影響を及ぼすようなバルキーなものであってはならない。シクロペンタジエニル環上の置換基は水素またはCH3としてのRを有するのが好ましい。好ましくは、少なくとも1つ、最も好ましくは両方のシクロペンタジエニル環は未置換である。
【0012】
特に、好ましい実施例では両方のインデニルが未置換で、最も好ましくは未置換の水素化されたインデニルである。
最も好ましいメタロセン触媒成分はイソプロピレデン−ビステトラヒドロインデニルジルコニウムジクロライドである。
【0013】
エチレンを重合するのに使用される活性触媒系は上記の触媒成分と、イオン化作用を有する適切な活性化剤とから成る。適切な活性化剤は周知で、アルミニウムアルキル・アルミノキサンまたは硼素−ベースの化合物から成る。触媒成分は必要に応じて担体で支持できる。
【0014】
この触媒系は液体充填式のダブルループ反応装置で用いるのが好ましい。このダブルループ反応装置では各ループを異なる条件下に運転してビモダルな樹脂を製造する。ダブルループ反応装置は、高コモノマー濃度のコポリマーを最初の反応装置で製造する直接配置か、低コモノマー濃度のホモポリマーを最初の反応装置で製造する逆配置で運転できる。
【0015】
本発明のビモダル樹脂の多分散度指数は3以上、好ましくは3.1〜3.5である。分子量はGPC-DRIで求める。溶液中では長−分枝ポリマーが直鎖よりコンパクトな形態を取り、分子量は予想値よりわずかに低くなる。密度は0.925〜0.945g/cm3、好ましくは0.934〜0.938g/cm3で、溶融流動指数MI2およびHLMIはぞれぞれ0.1〜2dg/分、好ましくは0.5〜1dg/分および5〜30dg/分である。
密度はASTM 1505規格の方法に従って23℃の温度で測定する。溶融流動指数MI2およびHLMIはASTM D 1238規格に従って190℃の温度でそれぞれ2.16および21.6kg下で測定する。
【0016】
ジオメンブレンを製造するのに用いる方法はフラットシート押出成形法か、ブローシート押出成形法である。両方の方法のコアは押出機にある。一般にはスクリュー装置を用いて供給したペレットを押出機中で圧力下に加熱し、ダイに届く前に加熱されたプラスチック塊にする。各成分が熱いプラスチック状態にある間にプラスチック塊を鳩尾ダイから平らなシートに押出すか、円筒形シートにし、それを後で平らなシートに切断する。
【0017】
フラットシート押出成形法では加熱されたプラスチック塊を鳩尾ダイに供給し、水平な直線状スリットから押し出す。ダイに加熱されたプラスチック塊を供給するのに必要な押出機の数はダイの幅に依存し、複数の押出機が必要になることもある。シートの厚さと表面品質を制御するためにスリットの前に高品質金属ローラを用いる。これらのローラーは変形無しに圧力および温度変化を支持でき、冷却液体で冷却できるようになっている。このローラーは全幅でのシート厚さの変動が3%以下となるように制御できるように設計されている。シートをさらに冷却し、その表面仕上げを改善するために第3のローラーを更に用いることもできる。シートの表面仕上げ状態はローラーの表面の品質に正比例する。均一に冷却された最終材料は支持ローラー上を通ってコアパイプ上に巻き取られる。
【0018】
ブロー押出成形法では加熱したプラスチック塊をゆっくり回転する螺旋ダイに供給して、円筒形シートを作る。この円筒形シートの中心に冷却された空気を供給しては円筒形シートが潰れないだけの圧力を維持する。円筒形シートを垂直上方向へ移動させる、一連のローラーで平らにして円筒形シートの上端を閉じる。円筒形シートを折り畳み、シートに切断して平らな表面し、巻き取る。円筒形シートが形成される環状スリットを制御してシートの厚さを調整する。最新装置では厚さは自動制御される。冷却は円筒形シート中へ冷却した空気を吹き込むことと、巻き取り行程中に実行される。
共押出しでは複数の異なる材料を単一の多層シートにすることができる。
【実施例】
【0019】
複数の樹脂でジオメンブレン用品を製造してテストした。選択した樹脂は下記の通り。
樹脂R1、R2はイソプロピリデン−ビス(テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロライド触媒を用いて製造したモノモダルな中密度ポリエチレン(MDPE)樹脂。
樹脂R3、R4は、イソプロピリデン−ビス(テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロライド(THI)触媒を用いて直接配位(すなわち、コモノマーのヘキセンを最初の反応装置に導入し、水素は第2の反応装置に導入する)のダブルループ反応器で製造したビモダルMDPE樹脂である。
樹脂R5はダウ社からDowlex(登録商標)2342Mの名称で市販のチーグラー−ナッタ触媒を用いて製造したHDPEである。
樹脂R6はDSM社からStamylan(登録商標)LL0132H200の名称で市販のチーグラー−ナッタ触媒を用いて製造したHDPEである。
各特性は[表1]に要約した。
【0020】
【表1】

【0021】
本発明のビモダルなポリエチレンの場合には、ダブルループ反応装置の反応装置Rx1およびRx2で異なる製品が得られる。
[図1]は全ての樹脂の分子量分布曲線を示している。予想通り、チーグラー‐ナッタ触媒系を用いて製造した全ての樹脂の分子量分布はメタロセン触媒系を用いて製造した全ての樹脂の分子量分布より広く、さらに、106ダルトン以上の高分子量成分で特徴付けられる非常に長い鎖を含んでいる。メタロセン触媒系を用いて製造した樹脂はモノモダルおよびビモダルの両方で非常に長い鎖は含んでいない。
【0022】
さらに、樹脂の分子構造を調べ、短鎖分枝と長鎖分岐の量を各樹脂で評価した。短鎖分枝(SCB)はNMRで測定した。[表2]には全ての樹脂の短鎖の種類と結果をまとめて示してある。
長鎖分岐の含有量は長鎖分岐指数(LCBI)で決定した。その測定方法は下記文献に記載されている。
【非特許文献1】Schroff R.N. and Mavridis H. in Macromolecules, 32, 8454 (1999)
【0023】
この文献ではLCBIは下記実験式で与える:
LCBI=η00.288/1.88*[η]-1
(ここで、η0はゼロ剪断粘度(Pa.sで表示)であり、[η]は溶液の固有粘度(g/モルで表示)である)
この方法は通常のDow Rheological Index(DRI)またはNMR法より敏感で、多分散性とは独立している。これは実質的に直鎖ポリエチレン、例えばメタロセン触媒で得られたポリエチレンのために開発されたもので、希薄した重合体溶液の固有粘度とゼロ剪断粘度の測定だけが必要である。直鎖の場合にはゼロに等しく、長鎖分岐(LCB)が存在する場合にはゼロからズレる。固有粘度値は直鎖用に開発されたMark-Houwink関係式から計算されるが、この方法は長鎖分岐の含有量が少ない樹脂にした適用されない点に注意しなければならない。ゼロ剪断粘度はCarreau-Yasada装置で得られる。
結果は[表2]に示す。この[表2]はチーグラー‐ナッタ触媒系を用いて製造した樹脂は長鎖分岐を有しないこと、そして、長鎖分岐のレベルが最も高いのはメタロセン触媒系を用いて製造したビモダルな樹脂であることを示している。
【0024】
【表2】

【0025】
ダブルループ反応器を用いて製造した本発明のビモダルな樹脂では最初の反応装置を出ているフラッフは全製品より長鎖分岐の含有量が大きい点に注意しなければならない。
[図2]は角振動数を関数とする複合粘度曲線を示している。この粘度曲線は押出機の最後の所でベンチスケール用レオメータで得た。本発明のビモダルなポリエチレンはLCBの存在に起因してチーグラー−ナッタポリエチレン(ZNPE)樹脂またはモノモダルなmPEよりゼロ-剪断粘度が高いという特徴を有している。[図2]に示すように角振動数が高くなると全ての樹脂の粘度曲線は非常に類似し、押出機の最後の所のアウトプットが類似することを意味する。
【0026】
また、本発明の樹脂R3の加工性をフラットシート押出成形法で2つの異なる加工条件下でテストした。
(A)樹脂R1〜R3を用いて厚さ1.5mmのシートを製造
温度プロフィル: 200/210/220/230/230℃
みかけ剪断速度: 約100s-1
ロール温度: 60℃
延伸比: 1.33
目標アウトプット速度: 95kg/h
実際のアウトプット速度Qは[表3]に示してある。樹脂R1およびR3では標的アウトプットに達したが、[図2]に示すように樹脂R1、R3より粘度高いことで特徴付けられる樹脂R2は標的アウトプットに達しなかったことが分る。厚さの制御および表面平滑度は本発明の樹脂R3の方が優れている。
(B)樹脂R3を用いて厚さ2.5mmのシートを製造
温度プロフィル: 230/230/230/230/230℃
みかけ剪断速度: 約100s-1
ロール温度: 70℃
延伸比: 1.12
目標アウトプット速度: 145kg/h
【0027】
【表3】

【0028】
ジオメンブレン用品の分野のルーチンの機械特性テストは圧縮成形した検査サンプルで行なわれる。
耐応力クラック性はSingle Point Notched Constant Tensile Load(SPNCTL)に従って評価される。このテストではノッチ付きのベル形の検査材料を使って、長期、低レベルの引張り応力によって生じる脆性破壊に対する材料の耐久性を決定する。ASTM D 5397規格のテスト方法では、検査材料を界面活性剤溶液(ここではlpegalの10%溶液を選択)中に50℃の温度で長期間漬け、材料の降伏応力の15%に等しい引張応力を加える。ジオメンブレン用品の分野では少なくとも400時間の暴露前に損傷(failure)が生じてはならない。[表4]は平均損傷時間の結果を示している。
【0029】
【表4】

【0030】
メタロセン触媒を用いて製造したビモダルなポリエチレンはモノモダルなmPEに比べて著しく優れた改良を示す。この結果は一般に使用されているZNPEに匹敵し、場合によってはそれより優れている。分子量と小鎖分岐の含有量が増加することで、耐応力クラック性が増加することが観測された。長い分子はタイ分子の含有率を高くし、タイ分子の絡み合いと結晶性ラメラでのアンカーリングの効率を高くなり、それによって耐応力クラック性が増加すると思われる。コモノマーを入れることもタイ分子の含有量およびタイ分子の絡み合いを増加させるのに寄与する。さらに、メタロセン触媒系は長い分子上に短鎖分枝を最も均一に分布させる。
引張り特性は規格テスト方法ASTM D 638に従って評価した。この方法では降伏強度σy、降伏伸びεy、破壊強度σBおよび破壊伸びεBが得られる。[表5]に結果を示す。[表5]にはヤングモジュラスも示してある。
【0031】
【表5】

【0032】
本発明に従うビモダルな樹脂は引張り特性を少なくとも維持し、いくらかのケースでは向上もする。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】テストした各樹脂の分子量分布を示す図。
【図2】いくつかの樹脂での振動数(ラド/秒で表示)の関数で表した複合粘度(Pasで表示)を表す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.925〜0.945g/cm3の密度を有する中密度ポリエチレン(MDPE)から成るビモダル樹脂を用いてシート押出成形またはブローシート押出成形によって製造した平らなジオメンブレン用品。
【請求項2】
上記MDPE樹脂が、ダブルループ反応器中で単一のメタロセン触媒系を用いて化学的ブレンディングで製造したものである請求項1に記載のジオメンブレン用品。
【請求項3】
メタロセン触媒系がビス−インデニル触媒成分をベースにしたものである請求項2に記載のジオメンブレン用品。
【請求項4】
ビス−インデニル触媒成分がビス-テトラヒドロインデニル触媒成分である請求項3に記載のジオメンブレン用品。
【請求項5】
高分子量を有し、0925〜0.945g/cm3の密度を有し、短鎖分枝のレベルが高く、最適化された短鎖分枝分布を有する中密度ポリエチレンから成るビモダル樹脂のジオメンブレン用品の製造での使用。
【請求項6】
上記のビモダルなMDPEが物理的ブレンディングによって製造される請求項5に記載の使用。
【請求項7】
上記のビモダルMDPEが化学的ブレンディングによって製造される請求項5に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−525552(P2008−525552A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−547515(P2007−547515)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【国際出願番号】PCT/EP2005/057022
【国際公開番号】WO2006/067180
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(504469606)トータル・ペトロケミカルズ・リサーチ・フエリユイ (180)
【Fターム(参考)】