説明

ジチオレート系金属錯体の製造方法

【課題】 結合位置に炭素原子を有する有機基又は水素原子を有するジチオレート系金属錯体を収率よくかつ簡便に製造する。
【解決するための手段】 式(1)で表わされる化合物を塩基と作用させた後金属化合物と反応させてから酸の存在下で酸化反応させる。


{式(1)中R1及びR2はそれぞれ独立して結合位置に炭素原子を有する置換されていても良い有機基又は水素原子を示す。なおR1及びR2は一体となって環を形成していても良い。またXは酸素原子又は硫黄原子を示す。}

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線吸収色素として有用なジチオレート系金属錯体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ジチオレート系金属錯体は、近赤外線の領域に吸収を有する化合物で、電子機器用赤外線カットフィルター、熱線遮断フィルム、プラズマディスプレイパネル用赤外線吸収フィルター、デジタルカメラ用赤外線フィルター、画像表示装置用フィルター、熱線吸収フィルター、農業用フィルム、光ディスク、サングラス、溶接用メガネ、ビルや自動車、電車、飛行機の窓、工学読み取り用記録、写真用感光剤、赤外線吸収フィルター用色素、熱線遮断用色素、遮光フィルム用色素、光記録用材料色素、データコード用色素、レーザープリンター用色素、一重項酸素クエンチャー、退色防止剤などとしての用途を有する。
【0003】
該金属錯体の一般的な合成方法としては、その金属錯体の中心金属が10族元素の場合、下記式(3)で表されるベンゾイン化合物と五硫化二リンとをジオキサン中で反応させ、酸素原子を硫黄化した後、10族金属の無機塩と作用させ、下記式(4)で表される金属錯体(ここでは、中心金属にNiを用いた例を挙げる)を得る方法がある(非特許文献1)。
【0004】
【化1】

【化2】

{上記式(3)及び式(4)中、Rは水素原子、メチル基、メトキシ基又は塩素原子を示す。}
【0005】
さらに、上記合成方法の反応溶媒として、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン中で金属錯体を合成する方法がある(特許文献1)。
また、反応溶媒をスルホランに変えて副反応を抑えた製造法も提案されている(特許文献2)。
【0006】
また、下記式(5)で表される金属錯体を、下記式(6)の化合物を塩基処理した後、金属塩と作用させ、空気酸化又はヨウ素酸化により誘導する方法も知られている(非特許文献2)。
【化3】

【化4】

{上記式(5)及び式(6)中、Rはアルキル基を示す。}
【0007】
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,87,1483(1965)
【非特許文献2】Mol.Cryst.Liq.Cryst.,56,249(1980)
【特許文献1】特開平2−26478号公報
【特許文献2】特開平3−197488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、非特許文献1記載の合成方法では、反応溶媒としてジオキサンを用いていることから副生成物が多く、目的化合物の収率は非常に低かった。
また、特許文献1記載の合成方法では、特定の化合物を用いた合成では収率の向上が得られるものの、反応溶媒のカルボニル基と五硫化二リンとの副反応などがあるため、アシロイン化合物、ベンゾイン化合物、ジケトン化合物等の硫黄化が遅いものに対しては、金属錯体の収率は非常に低かった。
【0009】
さらに、特許文献2記載の合成方法では、特定の化合物に対しては収率の向上が見られるものの、一般性には乏しかった。
また、非特許文献2記載の合成方法の場合、空気酸化では反応が進み難いものも多く、また、ヨウ素混入は金属錯体の精製の際の妨げになる虞があった。
【0010】
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、所定の一群の基、具体的には、結合位置に炭素原子を有する置換されていても良い有機基、又は、水素原子を有するジチオレート系金属錯体を、収率よくかつ簡便に製造できるジチオレート系金属錯体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、1,3−ジチオール−2−オン類又は1,3−ジチオール−2−チオン類を塩基と作用させた後、金属化合物と酸の存在下で錯化反応させることにより、高収率で目的とするジチオレート系金属錯体が簡便に得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明の要旨は、下記式(1)で表される化合物を塩基と作用させ、金属化合物と反応させた後、酸素存在雰囲気において酸の存在下で、下記式(2)で表されるジチオレート系金属錯体を得ることを特徴とする、ジチオレート系金属錯体の製造方法に存する(請求項1)。
【0013】
【化5】

{式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、結合位置に炭素原子を有する置換されていても良い有機基、又は、水素原子を示す。なお、R1及びR2は、一体となって環を形成していても良い。また、Xは酸素原子又は硫黄原子を示す。}
【0014】
【化6】

{式(2)中、R1、R2、R1′及びR2′は、それぞれ独立して、結合位置に炭素原子を有する置換されていても良い有機基、又は、水素原子を示す。なお、R1及びR2、並びに、R1′及びR2′は、それぞれ一体となって環を形成していても良い。またMは金属原子を示す。}
【0015】
このとき、上記酸は、有機酸であることが好ましい(請求項2)。
また、上記金属原子Mは、Ni、Pd、Pt、Co、Fe、Cu、及び、Znからなる群より選ばれる1以上の金属原子であることが好ましい(請求項3)。
【0016】
さらに、上記のR1、R2、R1′及びR2′は、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、置換されていても良いアルキル基、置換されていても良いアルケニル基、置換されていても良いアルキニル基、置換されていても良いアリール基、置換されていても良い複素環基、置換されていても良いアルキルアミノカルボニル基、置換されていても良いアリールアミノカルボニル基、置換されていても良いアルコキシカルボニル基、置換されていても良いアリールオキシカルボニル基、又は、置換されていても良いアシル基であることが好ましい(請求項4)。
【0017】
また、上記のR1、R2、R1′及びR2′の少なくとも1つは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキル基及び/又はアリール基で置換されていてもよいアミノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、ならびにハロゲン原子からなる群より選ばれる1以上の置換基により置換されていることが好ましい(請求項5)。
【0018】
さらに、上記のR1、R2、R1′及びR2′は、それぞれ独立に、置換されていても良いアルキル基、置換されていてもよいアリール基、又は、置換されていても良いヘテロアリール基であることが好ましい(請求項6)。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、所定の一群の基、具体的には、結合位置に炭素原子を有する置換されていても良い有機基、又は、水素原子を有するジチオレート系金属錯体を、収率よくかつ簡便に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
本発明のジチオレート系金属錯体の製造方法(以下適宜、単に「本発明の製造方法」という)では、公知の化合物である下記式(1)で表される化合物(1,3−ジチオ−2−オン類又は1,3−ジチオ−2−チオン類)に塩基を作用させ、これと公知の化合物である金属化合物とを反応(錯化反応)させた後、酸素存在雰囲気において酸の存在下で酸化反応させるようにする。これにより、下記式(2)で表されるジチオレート系金属錯体を高収率で得ることが可能となる。
【0021】
【化7】

{式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、結合位置に炭素原子を有する置換されていても良い有機基、又は、水素原子を示す。なお、R1及びR2は、一体となって環を形成していても良い。また、Xは酸素原子又は硫黄原子を示す。}
【0022】
【化8】

{式(2)中、R1、R2、R1′及びR2′は、それぞれ独立して、結合位置に炭素原子を有する置換されていても良い有機基、又は、水素原子を示す。なお、R1及びR2、並びに、R1′及びR2′は、それぞれ一体となって環を形成していても良い。また、Mは金属原子を示す。}
【0023】
[1.式(1)で表される化合物]
上記式(1)において、R1及びR2は、それぞれ独立して、結合位置に炭素原子を有する置換されていても良い有機基、又は、水素原子を表わす。
上記の結合位置に炭素原子を有する有機基に制限はなく、その結合位置に炭素原子を有している任意の有機基を用いることができるが、その例としては、炭化水素基、複素環基、アルキルアミノカルボニル基、アリールアミノカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、又は、シアノ基などが挙げられる。
また、上記炭化水素基に制限はなく任意の炭化水素基を用いることができるが、その例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基などが挙げられる。
なお、R1及びR2は置換されていても良い。置換されている場合の置換基の説明は、後述する。
【0024】
上記アルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれのアルキル基を用いることもできる。置換又は無置換のアルキル基の具体例を挙げると、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、2−メチルプロピル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、シクロヘキシルメチル基、ネオペンチル基、2−エチルブチル基、イソプロピル基、2−ブチル基、シクロヘキシル基、3−ペンチル基、tert−ブチル基、1,1−ジメチルプロピル基などが挙げられる。
また、上記アルキル基の炭素数に制限はなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りは任意であるが、通常20以下、好ましくは15以下が望ましい。
【0025】
さらに、上記アルケニル基としても、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれのアルケニル基を用いることもできる。置換又は無置換のアルケニル基の具体例を挙げると、ビニル基、アリル基、プロペニル基、スチリル基、イソプロペニル基などが挙げられる。
また、上記アルケニル基の炭素数に制限はなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りは任意であるが、通常20以下、好ましくは15以下が望ましい。
【0026】
さらに、上記アルキニル基としても、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれのアルキニル基を用いることもできる。置換又は無置換のアルキニル基の具体例を挙げると、エチニル(ethynyl)基、ジエチニル(diethynyl)基、フェニルエチニル(Phenylethynyl)基、トリメチルシリルエチニル(trimethylsilylethynyl)基などが挙げられる。
また、上記アルキニル基の炭素数に制限はなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りは任意であるが、通常20以下、好ましくは15以下が望ましい。
【0027】
さらに、置換又は無置換の上記アリール基の具体例を挙げると、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナンスリル基、アンスリル基などが挙げられる。
また、上記アリール基の炭素数に制限はなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りは任意であるが、通常25以下、好ましくは15以下が望ましい。
【0028】
さらに、上記複素環基に制限はなく任意の複素環基を用いることができる。置換又は無置換の複素環基の例としては、チエニル基、フリル基、ピロールイル基、ピロリジル基、ピリジル基、イミダゾリル基、インドールイル基などが挙げられる。
また、上記複素環基の炭素数に制限はなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りは任意であるが、通常25以下、好ましくは15以下が望ましい。
【0029】
さらに、上記アルキルアミノカルボニル基に制限はなく任意のアルキルアミノカルボニル基を用いることができる。また、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれのアルキルアミノカルボニル基を用いることもできる。置換又は無置換のアルキルアミノカルボニル基の例としては、メチルアミノカルボニル基、n−ブチルアミノカルボニル基、ジエチルアミノカルボニル基、2−エチルヘキシルアミノカルボニル基、ジ−n−オクチルアミノカルボニル基などが挙げられる。
また、上記アルキルアミノカルボニル基の炭素数に制限はなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りは任意であるが、通常20以下、より好ましくは15以下が望ましい。
【0030】
さらに、上記アリールアミノカルボニル基に制限はなく任意のアリールアミノカルボニル基を用いることができる。置換又は無置換のアリールアミノカルボニル基の例としては、フェニルアミノカルボニル基、ジトリルアミノカルボニル基、ナフチルアミノカルボニル基などが挙げられる。
また、上記アリールアミノカルボニル基の炭素数に制限はなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りは任意であるが、通常25以下、好ましくは15以下が望ましい。
【0031】
さらに、上記アルコキシカルボニル基に制限はなく任意のアルコキシカルボニル基を用いることができる。また、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれのアルコキシカルボニル基を用いることもできる。置換又は無置換のアルコキシカルボニル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、n−ヘキシルオキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、フェネチルオキシカルボニル基などが挙げられる。
また、上記アルコキシカルボニル基の炭素数に制限はなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りは任意であるが、通常20以下、好ましくは15以下が望ましい。
【0032】
さらに、上記アリールオキシカルボニル基に制限はなく任意のアリールオキシカルボニル基を用いることができる。置換又は無置換のアリールオキシカルボニル基の例としては、フェニルオキシカルボニル基、トリルオキシカルボニル基、p−フルオロフェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基、キシリルオキシカルボニル基などが挙げられる。
また、上記アリールオキシカルボニル基の炭素数に制限はなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りは任意であるが、通常25以下、好ましくは15以下が望ましい。
【0033】
さらに、上記アシル基に制限はなく任意のアシル基を用いることができる。また、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれのアシル基を用いることもできる。置換又は無置換のアシル基の例としては、アセチル基、エチルカルボニル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基などが挙げられる。
また、上記アシル基の炭素数に制限はなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りは任意であるが、通常20以下、好ましくは15以下が望ましい。
【0034】
上述したR1及びR2のなかでも、アルキル基、アルケニル基、アリール基、複素環基又は水素原子が好ましく、アルキル基、複素環基又は水素原子がより好ましい。また、複素環基の中でも特にヘテロアリール基が好ましい。
【0035】
さらに、上記のR1及びR2は、それぞれ独立に、置換されていても良い。具体的には、R1及びR2として示した上記の炭化水素基、複素環基、アルキルアミノカルボニル基、アリールアミノカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基及びアシル基などの、結合位置に炭素原子を有する有機基が、それぞれ独立に置換されていても良い。
【0036】
1及びR2が置換されている場合、その置換基としては、ジチオレート系金属錯体の安定性に悪影響を与えない基であれば特に限定されず、任意の置換基で置換されていても良い。この置換基の具体例を挙げると、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロアリールチオ基、アミノ基、アシル基、アミノアシル基、ウレイド基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロアリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ヘテロアリールスルホニル基、イミド基、及び、置換又は無置換のシリル基などからなる群より選択された基が挙げられる。
【0037】
これらの置換基について、さらに具体例を例示すると、メチル基、エチル基等の炭素数1〜6程度のアルキル基;ビニル基、プロピレニル基等の炭素数1〜6程度のアルケニル基;エチニル(Ethynyl)基等の炭素数1〜6程度のアルキニル基;フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜20程度のアリール基;チエニル基、フリル基、ピリジル基等の炭素数3〜20程度のヘテロアリール基;エトキシ基、プロポキシ基等の炭素数1〜6程度のアルコキシ基;フェノキシ基、ナフトキシ基等の炭素数6〜20程度のアリールオキシ基;ピリジルオキシ基、チエニルオキシ基等の炭素数3〜20程度のヘテロアリールオキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基等の炭素数1〜6程度のアルキルチオ基;フェニルチオ基、ナフチルチオ基等の炭素数6〜20程度のアリールチオ基;ピリジルチオ基、チエニルチオ基等の炭素数3〜20程度のヘテロアリールチオ基;ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基等の、炭素数1〜20程度のアルキル基やアリール基等の置換基を有していても良いアミノ基;アセチル基、ピバロイル基等の炭素数2〜20程度のアシル基;アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基等の炭素数2〜20程度のアシルアミノ基;3−メチルウレイド基等の炭素数2〜20程度のウレイド基;メタンスルホンアミド基、ベンゼンスルホンアミド基等の炭素数1〜20程度のスルホンアミド基;ジメチルカルバモイル基、エチルカルバモイル基等の炭素数1〜20程度のカルバモイル基;エチルスルファモイル基等の炭素数1〜20程度のスルファモイル基;ジメチルスルファモイルアミノ基等の炭素数1〜20程度のスルファモイルアミノ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2〜6程度のアルコキシカルボニル基;フェノキシカルボニル基、ナフトキシカルボニル基等の炭素数7〜20程度のアリールオキシカルボニル基;ピリジルオキシカルボニル基等の炭素数6〜20程度のヘテロアリールオキシカルボニル基;メタンスルホニル基、エタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基等の炭素数1〜6程度のアルキルスルホニル基;ベンゼンスルホニル基、モノフルオロベンゼンスルホニル基等の炭素数6〜20程度のアリールスルホニル基;チエニルスルホニル基等の炭素数3〜20程度のヘテロアリールオキシスルホニル基;フタルイミド等の炭素数4〜20程度のイミド基;アルキル基及びアリール基からなる群より選ばれる置換基で置換されているシリル基;などが挙げられる。
【0038】
これらの置換基の中でも、上記のR1及びR2に置換する置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキル基及び/又はアリール基で置換されていてもよいアミノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、及び、ハロゲン原子からなる群より選ばれる1以上の置換基が好ましい。
【0039】
また、上記R1及びR2は、互いに結合して一体となって環を形成していても良い。R1及びR2が環を形成した場合の式(1)で表わされる化合物としては、例えば、下記に示すような具体例が挙げられる。
【化9】

【0040】
また、R1及びR2は同一でも異なっていても良いが、生成される式(2)で表わされるジチオレート系金属錯体の溶解性の観点から、異なっている方がより好ましい。
さらに、上記式(1)において、Xは酸素原子又は硫黄原子を示す。中でも、塩基と作用させた場合の開環し易さ(即ち、ジアニオン体の発生のさせ易さ)、及び、上記式(1)で表される化合物自体の工業的な製造のし易さ等の観点から好ましくは酸素原子である。
【0041】
また、上記一般式(1)で表される化合物の分子量に制限は無いが、通常1000以下、好ましくは750以下、より好ましくは500以下である。分子量が大きくなり過ぎると、生成物のグラム吸光係数が低下しすぎる虞があるためである。
なお、上記式(1)で表わされる化合物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0042】
[2.金属化合物]
本発明の製造方法に用いられる金属化合物としては、上記式(1)で表わされる化合物と塩基とが作用することにより系中で発生するジチオールアニオンとの錯化反応が可能なもの、即ち、4配位以上の配位形態をとりうる金属原子M{この金属原子Mが、上記式(2)のMとなる}を含有するものであれば特に限定されない。金属錯体化合物として好ましいものの具体例を挙げると、10族金属原子(Ni、Pd、Pt等)、Co、Fe、Cu及びZnからなる群より選ばれる金属原子の、ハロゲン化物、無機酸塩、有機酸塩、ジケトナート体などが挙げられる。また、無機酸塩としては、炭酸塩、重炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩等が挙げられ、有機酸塩としては、酢酸塩が挙げられ、ジケトナート体としては、アセチルアセトナート、ジベンジリデンアセトナート等が挙げられる。
このうち特に好ましくは10族金属原子を含有する金属化合物であり、さらに好ましくはNiを含有する金属化合物である。また、上記ハロゲン化物、無機酸塩、有機酸塩及びジケトナート体のなかでは、ハロゲン化物が好ましい。
なお、金属化合物は1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0043】
さらに、金属化合物の使用量に制限はなく、目的とするジチオレート系金属錯体が得られる限り任意であるが、上記式(1)で表わされる化合物に対して、通常0.4当量以上、好ましくは0.45当量以上、より好ましくは0.5当量以上、また、通常1.3当量以下、好ましくは1.0当量以下、より好ましくは0.55当量以下で用いることが望ましい。上記範囲の下限を下回ると上記式(1)で表わされる化合物が残存して生成物にコンタミする虞があり、上限を上回ると金属化合物が残存して生成物にコンタミして精製が難しくなる虞がある。
【0044】
[3.製造方法]
本発明の製造方法は、上述の式(1)で表わされる化合物に塩基を作用させ、系中でジチオールアニオン(ジアニオン体)を発生させた後、上記金属化合物と錯化反応させてから、酸素存在雰囲気において、酸の存在下、酸化反応させるものである。
【0045】
<ジアニオン化>
上述の式(1)で表わされる化合物と金属化合物とを接触させて錯化するに当たっては、まず、式(1)で表わされる化合物を塩基と作用させることによって開環させ、系中でジアニオン化させる。
【0046】
ジアニオン化に用いる塩基に制限はなく、上記式(1)で表わされる化合物をジアニオン化ができる限り任意の塩基を用いることができる。塩基の具体例を挙げると、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等のアルカリ金属アルコキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物などが挙げられる。なかでも、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドが好ましい。
なお、塩基は1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0047】
ジアニオン化を行なう際の反応条件に制限はなく、ジアニオン化ができる限り任意であるが、通常は、メタノール、エタノール等のアルコール溶媒;又は、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒などの中で、−30℃〜30℃程度で、上記のような塩基を2〜10当量程度加え、10分〜30分程度撹拌して行なう。
また、ジアニオン化が行われる雰囲気としては、不活性ガス雰囲気下でも空気中でも特に限定されないが、水分が存在すると反応に影響を及ぼす場合があるので、乾燥した雰囲気が好ましい。通常は、乾燥した不活性ガス雰囲気下で行なう方が好ましい。
【0048】
さらに、ジアニオン化に用いる塩基の量は上記式(1)で表わされる化合物をジアニオン化できる限り任意であるが、上記式(1)で表わされる化合物に対して通常2.0当量以上、好ましくは2.1当量以上、より好ましくは2.2当量以上、また、通常5.0当量以下、好ましくは4.0当量以下用いることが望ましい。この範囲の下限を下回ると式(1)で表わされる化合物が充分にジアニオン化されない虞があり、上限を上回ると式(2)で表わされるジチオレート系金属錯体の脱メタル化や、生成物にコンタミが生じたりする虞がある。
【0049】
<錯化反応及び酸化反応>
上記のジアニオン化の後、上記式(1)で表わされる化合物に塩基を作用させたものと金属化合物とを錯化反応させてから、酸素存在雰囲気において酸の存在下で酸化反応させる。この際、式(2)で表わされるジチオレート系金属錯体が生成するメカニズムは、以下のとおりである。即ち、上記方法により生成したジアニオン体に、金属化合物を錯化反応させ、金属錯体中間体を発生させる。引き続き、この金属錯体中間体に、触媒である酸の存在下、酸素存在雰囲気において酸化反応を行ない、目的とするジチオレート系金属錯体に誘導する。
【0050】
錯化反応は、上記のジアニオン体と金属化合物とを反応させて金属錯体中間体を得ることができれば制限は無く任意の方法により行なうことができるが、通常は、上記のジアニオン体と金属化合物とを接触させることにより行なう。なお、錯化反応と酸化反応とは別々の工程として行なってもよく、一連の工程として連続して行なうようにしてもよい。
【0051】
また、酸化反応は、錯化反応により生じる金属錯体中間体に対して、触媒の存在下で行なう。ここで、本発明の製造方法においては、酸化反応の際に用いる触媒として酸を用いる。上記酸としては特に限定されず、目的とするジチオレート系金属錯体が得られる限り任意の酸を用いることができる。したがって、ブレンステッド酸点及び/又はルイス酸点を有する任意の酸を使用することができるが、通常は、ブレンステッド酸点を有するものが好ましい。
【0052】
また、上記の酸は無機酸であっても良く、有機酸であってもよい。無機酸の具体例としては塩酸、硫酸、硝酸、りん酸等が挙げられ、また、有機酸の具体例としてはぎ酸、酢酸、プロピオン酸等が挙げられる。ただし、反応系が1層系となるという点では有機酸類が好ましく、中でも炭素数1〜10の脂肪族カルボン酸類がより好ましい。
【0053】
さらに、上記の酸は液体酸でもよく、固体酸でもよい。中でも、酸濃度の調整や反応終了後の後処理操作の簡便性と言った点では、固体酸の方が好ましい。固体酸の具体例としては、陽イオン交換樹脂、酸型活性炭、酸型アルミナ、シリカ、ゼオライト類等の、上記の酸点が担体上に担持されている形態の酸が挙げられる。これらの固体酸のうち、特に陽イオン交換樹脂又はシリカが好ましい。
【0054】
また、上記酸の酸解離定数pKaに制限はなく、目的とするジチオレート系金属錯体が得られる限り任意であるが、通常1.0以上、好ましくは3.0以上、より好ましくは4.0以上、また、通常6.5以下、好ましくは6.0以下、より好ましくは5.5以下である。この範囲の下限を下回ると式(2)で表わされるジチオレート系金属錯体が脱メタル化を生じる虞があり、上限を上回ると酸化反応が進行しなかったり遅くなったりする虞がある。
【0055】
さらに、上記酸の価数にも制限はなく、目的とするジチオレート系金属錯体が得られる限り任意であるが、通常1価又は2価である。
【0056】
また、上記酸の使用量は任意であり、使用する酸の強度などに応じて適切な量を使用することが好ましい。通常は反応系内のpHが1程度以上となるような量の酸を用い、好ましくは反応系内のpHが弱酸性、具体的には3〜6程度となるように酸の使用量を制御することが望ましい。
【0057】
ただし、上記酸として鉱酸を用いるときは、特に酸強度が強いと脱メタル化の可能性があるので、用いる溶媒で希釈したものを使用することが好ましい。
また、イオン交換樹脂等の固体酸の使用量としては、目的とするジチオレート系金属錯体が得られる限り任意であるが、式(1)で表わされる化合物の重量に対して、通常1重量倍以上、好ましくは5重量倍以上、より好ましくは10重量倍以上用いられる。さらに、使用量を増やしても問題はないが、あまり多すぎるとろ過等の操作が煩雑になるため、効果とのバランスから、通常100重量倍以下、好ましくは50重量倍以下の範囲で用いることが望ましい。
なお、上記酸は1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用するようにしても良い。
【0058】
また、触媒として、求核性が低い求核性酸化剤を用いることもできる。これらの求核性酸化剤としては、例えば、塩素、臭素、四級アンモニウムトリブロマイド、ピリジニウムトリブロマイド、N−クロロスクシンイミド、N−ブロモスクシンイミド、N−ヨードスクシンイミドなどを用いることができる。
【0059】
さらに、本発明の製造方法においては、酸化反応時には系内に酸素が存在するよう、酸素存在雰囲気下で錯化反応を行なう。このとき、系内の酸素濃度については特に限定されないが、通常1ppm以上、好ましくは10ppm以上、より好ましくは100ppm以上、さらに好ましくは500ppm以上とすることが望ましい。上限について制限は無いが、通常は、用いる反応溶媒の飽和酸素濃度が上限となる。ただし、飽和酸素濃度は、反応温度、圧力、混合溶媒系の比率等に依存するので、必要に応じて、これらを調整するのが好ましい。なお、本明細書において「ppm」という場合、特に断らない限り、重量を基準にした割合を表わすものとする。
【0060】
系内を酸素存在雰囲気下とするための具体的手法に制限はなく、公知の方法を任意に用いることができる。例えば、反応系内に空気等の酸素含有気体又は酸素自身をバブリング等により導入する方法や、攪拌翼の形状や攪拌強度を調整し空気等を反応系内に巻き込む方法などが挙げられる。
【0061】
また、反応系内に酸素含有気体を導入することにより系内を酸素雰囲気とする場合には、その酸素含有気体の酸素濃度は目的とするジチオレート系金属錯体が得られる限り任意であるが、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上、特に好ましくは3重量%以上、また、通常25重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下、特に好ましくは8重量%以下となるよう設定することが望ましい。この範囲の下限を下回ると酸化反応の反応速度が遅くなる虞があり、上限を上回ると安全性が低下する虞がある。
【0062】
さらに、通常は、錯化反応及び酸化反応は反応媒中で行なう。錯化反応及び酸化反応の際に用いる反応媒に制限はなく、目的とするジチオレート系金属錯体が得られる限り任意の溶媒を用いることができる。この際、錯化反応及び酸化反応で別々の反応媒を用いても良いが、操作を簡単にするには、同じ反応媒を用いることが望ましい。
ただし、溶媒を選択する際には、以下の点を考慮することが好ましい。即ち、本発明の製造方法により得られるジチオレート系金属錯体は、式(1)で表される化合物から誘導されるジアニオン2分子と金属化合物1分子とから形成されるが、錯化反応の際には、金属原子の価数が異なる金属錯体中間体(中間錯体)を経由し、この中間錯体の金属原子がさらに酸素で酸化されることにより、目的とするジチオレート系金属錯体が形成されると考えられる。このとき、一般に、上記中間錯体の方が、目的とするジチオレート系金属錯体に比較して溶媒に対する溶解度が低いため、効率的に錯化反応を行なうためには、溶存酸素濃度の高さの他、上記中間錯体の溶解度も勘案して、用いる溶媒を選択することが好ましい。
【0063】
このような溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒などが挙げられ、このうちトルエンが好ましい。
【0064】
なお、これらの溶媒は1種を単独で使用しても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。例えば、基質{即ち、上記式(1)で表わされる化合物、及び、金属化合物}等の溶解度が低い溶媒を用いる場合にはハロゲン系溶媒を組み合わせると反応成績が向上し、また、溶存酸素濃度の低い溶媒を用いる場合には非極性溶媒、より好ましくは炭化水素系溶媒を組み合わせると反応成績が向上する。
【0065】
さらに、反応を行なうに当たっては、基質、並びに、触媒(酸や求核性が低い求核性酸化剤)の混合順序等に制限は無く、酸化反応時に上記基質及び触媒を酸素存在雰囲気下に同一系内に共存させるよう任意に設定すればよい。即ち、例えば式(1)で表わされる化合物、金属化合物、塩基、及び触媒を同時に混合しても良く、また、目的とするジチオレート系金属錯体が得られる限り任意の順で別々に混合してもよい。具体的な操作としては、例えば、塩基でジアニオン化された式(1)で表わされる化合物と金属化合物とを溶媒中で混合して錯化反応させ、それに、上述の酸(及び、必要に応じて求核性が低い求核性酸化剤)を有機溶媒と混合したものを接触させ、それから空気をバブリングして酸化反応させる方法が挙げられる。
【0066】
また、錯化反応及び酸化反応を行なう際の反応条件に制限はなく、それぞれ目的とするジチオレート系金属錯体が得られる限り任意である。
したがって、反応温度も任意であるが、通常−5℃以上、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上で行われ、また、その上限としては、反応の進行速度に応じて、用いる溶媒の還流温度までの範囲で任意に設定可能である。
さらに、反応時間も任意であるが、通常は用いる溶媒の種類やその他の反応条件などに応じて適切な時間を設定すればよい。なお、錯化反応や酸化反応の進行度合いは、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)や吸光スペクトルの測定により確認することができる。
【0067】
[4.その他の操作]
以上、本発明の製造方法について詳細に説明したが、本発明の製造方法は上述した各操作に加えて、適宜更に別の操作を行なってもよい。
例えば、反応終了後に、公知の任意の単離・精製方法を用いて目的とする金属錯体を得るようにすることが好ましい。
【0068】
また、例えば、生成物を単離・精製する際には、反応媒を濃縮し、その後、得られる固体を懸洗するのが好ましい。懸洗方法としては、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール系溶媒;水−アルコール系混合溶媒;アセトン等のケトン系溶媒又はアセトニトリル等のニトリル系溶媒などの高極性溶媒をふりかけ洗浄する方法の他、上記高極性溶媒中に固体を懸濁させ、室温〜溶媒の沸点の範囲で攪拌洗浄した後に目的とするジチオレート系金属錯体をろ取する方法などが挙げられる。
【0069】
[5.生成物]
以上の本発明の製造方法により、上記式(2)で表されるジチオレート系金属錯体を製造することができる。
式(2)において、R1及びR2は、それぞれ独立して、上記式(1)のR1及びR2と同様のものである。また、R1′及びR2′も、それぞれ独立して、上記式(1)のR1及びR2と同様のものである。ただし、式(2)で表されるジチオレート系金属錯体は下記式(7)に示すような立体異性体(シス−トランス異性体)を有しており、式(2)はこの異性体も含むものとする。したがって、R1′及びR2′は、R1及びR2、又は、R2及びR1にそれぞれ対応している。
【0070】
【化10】

【0071】
さらに、式(2)において、Mは、上記金属化合物が含有する金属原子を表わす。
なお、R1同士、及び、R2の組み合わせと、R1′及びR2′の組み合わせとは、同一であっても異なっていても良いが、通常は同一の方が好ましい。また、R1及びR2の組み合わせと、R1′及びR2′の組み合わせとが異なる場合には、金属化合物と接触させる原料として2種類の式(1)で表される化合物を用い、錯化反応を行なう系内に2種以上のジアニオン体を存在させるようにすればよい。
【0072】
また、本発明の製造方法により得られるジチオレート系金属錯体は、吸収極大波長が700〜1300nm程度のものである。
さらに、本発明の製造方法により得られるジチオレート系金属錯体は、モル吸光係数が、通常5000以上、好ましくは8000以上の化合物である。
【0073】
加えて、本発明の製造方法により得られるジチオレート系金属錯体のテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;または、これらとトルエン等の芳香族炭化水素系溶媒との混合溶媒(エーテル系又はケトン系:芳香族炭化水素系=1〜3:1)から選ばれる溶媒に対する25℃における溶解度としては、通常0.1%以上、好ましくは0.25%以上、より好ましくは0.5%以上、特に好ましくは1%以上である。
【0074】
さらに、本発明の製造方法による上記ジチオレート系金属錯体の収率は、通常60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは75%以上である。
このような上記式(2)で表される化合物の好ましい具体例を以下に示す。なお、本明細書においてEtはエチル基を表わす。また、下記例示化合物に立体異性体がある場合、いずれの異性体も上記式(2)で表される化合物の例示物である。
【0075】
【化11】

【0076】
【化12】

【0077】
【化13】

【0078】
【化14】

【0079】
【化15】

【0080】
【化16】

【0081】
【化17】

【実施例】
【0082】
以下に実施例を示して本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
【0083】
[実施例1]
上記式(1)で表わされる化合物である4−フェニル−[1,3]ジチオール−2−オン1.5g(7.73mmol)をメタノール10mLに溶かした溶液に、塩基の溶液である1Mナトリウムメトキシド−メタノール溶液(17mL)を加え、25℃で30分撹拌してジアニオン化を行なった。この反応溶液に、金属化合物としてメタノール3mLに溶かした0.5当量の塩化ニッケル六水和物を加え、さらに25℃で30分撹拌し、錯化反応を行なった。
【0084】
この反応溶液を、トルエン60mL、及び、触媒である酢酸8mLの混合溶媒中に注ぎ、空気をバブリングしながら、3時間撹拌し、酸化反応を行なった。
得られた粗生成物にクロロホルムを加え、生成物を完全に溶解させた後、水洗し、有機層を濃縮した。これにメタノール25mLを加え、懸洗後、固体をろ取し、目的化合物(例示化合物1)を1.31g(87%収率)で得た。
また、生成物の吸収極大波長λmax(in THF)を測定したところ、816nmであった。さらに、1H−NMR(プロトン核磁気共鳴スペクトル)(CDCl3,δ)を測定したところ、7.35−7.51(m,10H)、6.86(s,2H)であった。さらに、EI−MS(電子イオン化質量分析)を測定したところ、m/z=390であった。これにより、得られた生成物が目的化合物(例示化合物1)であることが確認された。
【0085】
[実施例2]
触媒として酢酸の代わりに36N硫酸0.1mLを用いた他は、実施例1と同様の操作により反応を行ない、反応液の変化により目的化合物{例示化合物1;1.28g(85%収率)}の生成を確認した。
【0086】
[実施例3]
触媒として酢酸の代わりに12N塩酸0.5mLを用いた他は、実施例1と同様の操作により反応を行ない、反応液の変化により目的化合物{例示化合物1;1.33g(89%収率)}の生成を確認した。
【0087】
[実施例4]
触媒として酢酸の代わりにトリフルオロ酢酸0.1mLを用いた他は、実施例1と同様の操作により反応を行ない、反応液の変化により目的化合物{例示化合物1;1.32g(88%収率)}の生成を確認した。
【0088】
[実施例5]
触媒として酢酸の代わりにp−トルエンスルホン酸50mgを用いた他は、実施例1と同様の操作により反応を行ない、反応液の変化により目的化合物{例示化合物1;0.96g(64%収率)}の生成を確認した。
【0089】
[実施例6]
式(1)で表わされる化合物として4−フェニル−[1,3]ジチオール−2−オンの代わりに4−p−トリル−[1,3]ジチオール−2−オンを用いた他は、実施例1と同様にして、目的化合物(例示化合物2)を1.42g(88%収率)で得た。
また、生成物の吸収極大波長λmax(in THF)を測定したところ、834nmであった。さらに、EI−MSを測定したところ、m/z=418であった。これにより、得られた生成物が目的化合物(例示化合物2)であることが確認された。
【0090】
[実施例7]
式(1)で表わされる化合物として4−フェニル−[1,3]ジチオール−2−オンの代わりに4−tert−ブチル−[1,3]ジチオール−2−オンを用いた他は、実施例1と同様にして、目的化合物(例示化合物10)を1.22g(90%収率)で得た。
また、生成物の吸収極大波長λmax(in THF)を測定したところ、747nmであった。さらに、EI−MSを測定したところ、m/z=350であった。これにより、得られた生成物が目的化合物(例示化合物10)であることが確認された。
【0091】
[実施例8]
式(1)で表わされる化合物として4−フェニル−[1,3]ジチオール−2−オンの代わりに4,5,6,7−テトラヒドロ−ベンゾ[1,3]ジチオール−2−オンを用いた他は、実施例1と同様にして、目的化合物(例示化合物19)を1.22g(91%収率)で得た。
また、生成物の吸収極大波長λmax(in THF)を測定したところ、785nmであった。さらに、EI−MSを測定したところ、m/z=346であった。これにより、得られた生成物が目的化合物(例示化合物19)であることが確認された。
【0092】
[実施例9]
式(1)で表わされる化合物として4−フェニル−[1,3]ジチオール−2−オンの代わりに4−メチル−5−フェニル−[1,3]ジチオール−2−オンを用いた他は、実施例1と同様にして、目的化合物(例示化合物20)を1.42g(88%収率)で得た。
また、生成物の吸収極大波長λmax(in THF)を測定したところ、802nmであった。さらに、EI−MSを測定したところ、m/z=418であった。これにより、得られた生成物が目的化合物(例示化合物20)であることが確認された。
【0093】
[実施例10]
式(1)で表わされる化合物として4−フェニル−[1,3]ジチオール−2−オンの代わりに4,5−ジヒドロ−ナフト[1,2d][1,3]ジチオール−2−オンを用いた他は、実施例1と同様にして、目的化合物(例示化合物23)を1.40g(82%収率)で得た。
また、生成物の吸収極大波長λmax(in THF)を測定したところ、888nmであった。さらに、EI−MSを測定したところ、m/z=442であった。これにより、得られた生成物が目的化合物(例示化合物23)であることが確認された。
【0094】
[実施例11]
式(1)で表わされる化合物として4−フェニル−[1,3]ジチオール−2−オンの代わりにインデノ[1,2d][1,3]ジチオール−2−オンを用いた他は、実施例1と同様にして、目的化合物(例示化合物24)を1.19g(74%収率)で得た。
また、生成物の吸収極大波長λmax(in THF)を測定したところ、889nmであった。さらに、EI−MSを測定したところ、m/z=414であった。これにより、得られた生成物が目的化合物(例示化合物24)であることが確認された。
【0095】
[実施例12]
式(1)で表わされる化合物として4−フェニル−[1,3]ジチオール−2−オンの代わりに4−(4−フルオロフェニル)−[1,3]ジチオール−2−オンを用いた他は、実施例1と同様にして、目的化合物(例示化合物60)を1.45g(84%収率)で得た。
また、生成物の吸収極大波長λmax(in THF)を測定したところ、818nmであった。さらに、EI−MSを測定したところ、m/z=426であった。これにより、得られた生成物が目的化合物(例示化合物60)であることが確認された。
【0096】
[実施例13]
式(1)で表わされる化合物として4−フェニル−[1,3]ジチオール−2−オンの代わりに4−チオフェン−2−イル−[1,3]ジチオール−2−オンを用いた他は、実施例1と同様にして、目的化合物(例示化合物62)を1.32g(85%収率)で得た。
また、生成物の吸収極大波長λmax(in THF)を測定したところ、913nmであった。さらに、EI−MSを測定したところ、m/z=402であった。これにより、得られた生成物が目的化合物(例示化合物62)であることが確認された。
【0097】
[実施例14]
式(1)で表わされる化合物として4−フェニル−[1,3]ジチオール−2−オンの代わりに4−(2、5−ジメチルフェニル)−[1,3]ジチオール−2−オンを用いた他は、実施例1と同様にして、目的化合物(例示化合物65)を1.54g(89%収率)で得た。
また、生成物の吸収極大波長λmax(in THF)を測定したところ、777nmであった。さらに、EI−MSを測定したところ、m/z=446であった。これにより、得られた生成物が目的化合物(例示化合物65)であることが確認された。
【0098】
[比較例1]
トルエン60mL及び触媒である酢酸8mLの混合溶媒を用いずにバブリングを行なった他は実施例1と同様にして、目的化合物(例示化合物1)を0.59g(39%収率)で得た。
また、生成物の吸収極大波長λmax(in THF)を測定したところ、816nmであった。また、1H−NMR(CDCl3,δ)及びEI−MSを測定したところ、測定結果が実施例1と一致した。これにより、得られた生成物が目的化合物(例示化合物1)であることが確認された。
【0099】
[比較例2]
トルエン60mL及び触媒である酢酸8mLの混合溶媒の代わりに1当量のヨウ素を用い、また、得られた組成生物を濃縮後カラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/ヘキサン;2/1)で精製したことの他は、実施例1と同様にして目的化合物(例示化合物1)を0.92g(61%収率)で得た。
また、生成物の吸収極大波長λmax(in THF)を測定したところ、816nmであった。また、1H−NMR(CDCl3,δ)及びEI−MSを測定したところ、測定結果が実施例1と一致した。これにより、得られた生成物が目的化合物(例示化合物1)であることが確認された。
【0100】
実施例1〜14並びに比較例1及び比較例2の結果を、表1に示す。
【表1】

【0101】
表1から分かるように、本発明の製造方法によれば、所定のジチオレート系金属錯体を簡単かつ高収率に製造することができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、産業上の任意の分野で広く用いることができるが、例えば、電子機器用赤外線カットフィルター、熱線遮断フィルム、プラズマディスプレイパネル用赤外線吸収フィルター、デジタルカメラ用赤外線フィルター、画像表示装置用フィルター、熱線吸収フィルター、農業用フィルム、光ディスク、サングラス、溶接用メガネ、ビルや自動車、電車、飛行機の窓、工学読み取り用記録、写真用感光剤、赤外線吸収フィルター用色素、熱線遮断用色素、遮光フィルム用色素、光記録用材料色素、データコード用色素、レーザープリンター用色素、一重項酸素クエンチャー、退色防止剤などとしての用途を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

{式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、結合位置に炭素原子を有する置換されていても良い有機基、又は、水素原子を示す。なお、R1及びR2は、一体となって環を形成していても良い。また、Xは酸素原子又は硫黄原子を示す。}
で表される化合物を塩基と作用させ、金属化合物と反応させた後、酸素存在雰囲気において酸の存在下で、下記式(2)
【化2】

{式(2)中、R1、R2、R1′及びR2′は、それぞれ独立して、結合位置に炭素原子を有する置換されていても良い有機基、又は、水素原子を示す。なお、R1及びR2、並びに、R1′及びR2′は、それぞれ一体となって環を形成していても良い。また、Mは金属原子を示す。}
で表されるジチオレート系金属錯体を得る
ことを特徴とする、ジチオレート系金属錯体の製造方法。
【請求項2】
上記酸が、有機酸である
ことを特徴とする、請求項1に記載のジチオレート系金属錯体の製造方法。
【請求項3】
上記金属原子Mが、Ni、Pd、Pt、Co、Fe、Cu、及び、Znからなる群より選ばれる1以上の金属原子である
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のジチオレート系金属錯体の製造方法。
【請求項4】
上記R1、R2、R1′及びR2′が、それぞれ独立して、水素原子、シアノ基、置換されていても良いアルキル基、置換されていても良いアルケニル基、置換されていても良いアルキニル基、置換されていても良いアリール基、置換されていても良い複素環基、置換されていても良いアルキルアミノカルボニル基、置換されていても良いアリールアミノカルボニル基、置換されていても良いアルコキシカルボニル基、置換されていても良いアリールオキシカルボニル基、又は、置換されていても良いアシル基である
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のジチオレート系金属錯体の製造方法。
【請求項5】
上記のR1、R2、R1′及びR2′の少なくとも1つが、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキル基及び/又はアリール基で置換されていてもよいアミノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、ならびにハロゲン原子からなる群より選ばれる1以上の置換基により置換されている
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のジチオレート系金属錯体の製造方法。
【請求項6】
上記のR1、R2、R1′及びR2′が、それぞれ独立に、置換されていても良いアルキル基、置換されていてもよいアリール基、又は、置換されていても良いヘテロアリール基である
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のジチオレート系金属錯体の製造方法。

【公開番号】特開2006−104066(P2006−104066A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−288416(P2004−288416)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】