説明

スイッチトキャパシタ回路を含む装置

【課題】スイッチトキャパシタ回路の各接続状態におけるセトリング時間の相違に応じたクロック(スイッチのオン/オフ信号)を生成することを可能とすること。
【解決手段】本発明による装置1は、第1及び第2のスイッチのオン/オフ切替により第1及び第2の接続状態を形成するスイッチトキャパシタ回路20と、クロック信号に基づいて、前記スイッチトキャパシタ回路の前記第1及び第2のスイッチのそれぞれ用に、互いにオーバラップしない第1及び第2のオン/オフ信号を生成するノンオーバーラップクロック発生器10とを備え、前記ノンオーバーラップクロック発生器は、前記第1及び第2のオン/オフ信号が互いに異なる第1及び第2のデューティを有するように、前記第1及び第2のオン/オフ信号を生成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチトキャパシタ回路を含む装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、キャパシタ、オペアンプ及び複数のスイッチを備え、当該複数のスイッチを切り替えることによりキャパシタに入力電圧をサンプリング若しくはホールドするスイッチトキャパシタ回路の技術は知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1には、複数個の駆動段を設けることにより、大きな負荷に対して所定の基準電圧と良好なセトリング特性を得ることが容易とした基準電圧発生回路の構成が開示されている。
【特許文献1】特開2001−6384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、スイッチトキャパシタ回路におけるスイッチの切替速度(スイッチング速度)はスイッチトキャパシタ回路の各接続状態におけるセトリング時間により制限される。このセトリング時間を決めるのは各接続状態での回路の時定数であり、時定数が大きいほどセトリング時間が長くなる関係となる。
【0004】
しかしながら、従来ではスイッチトキャパシタ回路のスイッチングに用いるノンオーバーラップクロック発生器(図1参照)は、図2に示すように、デューティ比50%のクロックを生成する。従って、このクロックは、時定数の最も大きい接続状態に合わせて生成されることになる。このため、時定数の最も大きい接続状態に合わせて生成されるクロックが、時定数の小さい接続状態にも適用され、時定数の小さい接続状態においてスイッチ速度が制限されるという問題があった。即ち、最大の時定数以外の接続状態においては、最大の時定数に合わせたセトリング時間でセトリングされるため、セトリング時間に余裕があるにもかかわらず、スイッチ速度が制限されるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、スイッチトキャパシタ回路の各接続状態におけるセトリング時間の相違に応じたクロック(オン/オフ信号)を生成することを可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面によれば、第1及び第2のスイッチのオン/オフ切替により第1及び第2の接続状態を形成するスイッチトキャパシタ回路と、
クロック信号に基づいて、前記スイッチトキャパシタ回路の前記第1及び第2のスイッチのそれぞれ用に、互いにオーバラップしない第1及び第2のオン/オフ信号を生成するノンオーバーラップクロック発生器とを備え、
前記ノンオーバーラップクロック発生器は、互いに異なる第1及び第2のデューティを有する前記第1及び第2のオン/オフ信号を生成することを特徴とする装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、スイッチトキャパシタ回路の各接続状態におけるセトリング時間の相違に応じたクロック(スイッチのオン/オフ信号)を生成することを可能とする装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【0009】
図3は、本発明による装置1の全体構成を示す図である。装置1は、ノンオーバーラップクロック発生器10と、スイッチトキャパシタ回路20とを備える。ノンオーバーラップクロック発生器10には、一定の周期で同期間のHi状態とLow状態とを繰り返すクロックCLKIが外部から入力される。
【0010】
スイッチトキャパシタ回路20は、キャパシタ、オペアンプ及び複数のスイッチを備え、本実施例のノンオーバーラップクロック発生器10からの出力信号CLKO_P、CLKO_Nによりスイッチの切替が行われる。尚、スイッチトキャパシタ回路20は、入力信号の増幅、加減算、積分等を行う任意の構成であってよい。スイッチトキャパシタ回路20は、スイッチの切替状態の相違に応じて形成される接続状態であって、回路の時定数(セトリング時間)が異なる互いに異なる少なくとも2つの接続状態を有するものであればよい。尚、セトリング時間のセトリング(Settling)とは「収束する」との意味である。
【0011】
図4は、装置1に組み込まれる本実施例のノンオーバーラップクロック発生器10の回路構成を示す図である。
【0012】
ノンオーバーラップクロック発生器10は、クロックCLKIに基づいて、出力信号CLKO_P、CLKO_Nが互いにオーバラップしない態様で(即ち、同時にHiになる瞬間を形成しない態様で)、スイッチトキャパシタ回路20のスイッチ切り替え用の出力信号CLKO_P、CLKO_Nを生成する。
【0013】
ノンオーバーラップクロック発生器10は、図1に示した従来のノンオーバーラップクロック発生器に対して遅延回路17が追加されている点が主に異なる。具体的には、ノンオーバーラップクロック発生器10は、フリップフロップを構成する態様で接続された2つのNOR回路14,16を備え、NOR回路16の入力端子には、クロックCLKIが直接入力されると共に、NOR回路14の入力端子には、クロックCLKIがインバータ12及び遅延回路17を介して入力される。
【0014】
遅延回路17は、クロックCLKIの反転信号の立ち上がりに遅延を発生させる一方、クロックCLKIの反転信号の立ち下がりに遅延を発生させないように構成される。図4に示す例では、遅延回路17は、遅延素子18とスイッチ19とからなる。スイッチ19は、クロックCLKIの反転信号の立ち上がり時に遅延素子18を機能させ(図4に示す状態にし)且つクロックCLKIの反転信号の立ち下がり時に遅延素子18を遮断する(即ちインバータ12の出力を直接NOR回路14の入力端子に接続する)ように、オン・オフ動作される。
【0015】
図5は、図4に示す遅延回路17の具体例を組み込んだ本実施例のノンオーバーラップクロック発生器10の回路構成を示す図である。
【0016】
図5に示す例では、遅延回路17は、遅延素子18としてのキャパシタと、スイッチ19を構成する2つのスイッチ19a,19bとからなる。スイッチ19aは、クロックCLKIの反転信号によりオン・オフされる。スイッチ19bは、クロックCLKIによりオン・オフされる。キャパシタの一端は、スイッチ19aを介してインバータ12とNOR回路14の入力端子の間に接続され、キャパシタの他端は、グランドに接続される。スイッチ19bは、キャパシタの両端子間に設けられる。
【0017】
図6は、図5に示した本実施例のノンオーバーラップクロック発生器10のタイミングチャートを示す図である。図6には、対照例として遅延回路17の無い場合の波形(即ち図2に示した波形)が点線にて示されている。また、図6には、各信号に対する閾値(HiとLowが切り替る閾値)が一点鎖線で示されている。
【0018】
クロックCLKIの立ち下がり時(反転信号CLKBの立ち上がり時)は、図5に示したように、スイッチ19aがオン状態となりスイッチ19bがオフ状態となり、遅延素子18としてのキャパシタが働く。これにより、図6の反転信号CLKBの波形が示すように、反転信号CLKBの立ち上がりに遅延が発生する(対数関数的に立ち上がる)。次いで、クロックCLKIの立ち上がり時(反転信号CLKBの立ち下がり時)は、図5に示したように、スイッチ19aがオフ状態となりスイッチ19bがオン状態となり、反転信号CLKBが直接NOR回路14の入力端子に入力される。このとき、遅延素子18(キャパシタ)の両端子間の電位差はスイッチ19bのオンによりゼロに降下する。
【0019】
クロックCLKIの立ち下がり時は、上述の如く反転信号CLKBの立ち上がりに遅延が発生するので、NOR回路14の出力CLKO_Pは、反転信号CLKBの立ち上がりの遅延分に対応して、立ち下がりが遅れる。他方、クロックCLKIの立ち上がり時は、上述の如く反転信号CLKBの立ち下がりに遅延が発生しないので、NOR回路14の出力CLKO_Pは、遅延無く立ち上がる。従って、NOR回路14の出力CLKO_Pは、図6に示すように、立ち下がりの遅延分に対応してデューティ比が大きくなり、時定数の大きい接続状態(即ちセトリング時間の長い接続状態)に適した信号となる。
【0020】
同様に、クロックCLKIの立ち下がり時は、上述の如く反転信号CLKBの立ち上がりに遅延が発生するので、NOR回路16の出力CLKO_Nは、反転信号CLKBの立ち上がりの遅延分に対応して、立ち上がりが遅れる(図6の記号Aで示した矢印参照)。他方、クロックCLKIの立ち上がり時は、上述の如く反転信号CLKBの立ち下がりに遅延が発生しないので、NOR回路16の出力CLKO_Nは、遅延無く立ち下がる。従って、NOR回路14の出力CLKO_Nは、図6に示すように、立ち上がりの遅延分に対応してデューティ比が小さくなり、時定数の小さい接続状態(即ちセトリング時間の短い接続状態)に適した信号となる。
【0021】
このようにして本実施例のノンオーバーラップクロック発生器10では、遅延素子18(キャパシタ)を用いて遅延を発生させることによって、その出力CLKO_P及びCLKO_Nをデューティ可変とすることができる。従って、デューティ比を各接続状態の時定数(又はセトリング時間)に合わせ、時定数が大きい時にはクロックの周期を長くし、時定数が小さいときにはクロックの周期を短くすることによりスイッチング速度の高速化を図ることが可能となる。
【0022】
図7は、スイッチトキャパシタ回路20の一例としてSC(Switched Capacitor)積分器を示す図である。図7(A)は、SC積分器におけるサンプリング時の接続状態を示し、図7(B)は、SC積分器における積分時の接続状態を示す。
【0023】
図示のスイッチトキャパシタ回路20としてのSC積分器は、オペアンプ22と、4つのスイッチSW1−SW4と、各種容量成分CS,CP,C,CLoadとを備える。SC積分器は、図7(A)に示すサンプリング時の接続状態と、図7(B)に示す積分時の接続状態とを互いにオーバラップしない態様で(即ちスイッチSW1−SW4の全てが同時にオンする瞬間を形成しない態様で)、交互に形成することで、サンプリング時毎にCsに溜まる電荷を、積分時の接続状態でCに引き渡す積分機能を実現する。
【0024】
ここで、図7(A)に示すサンプリング時の接続状態における回路の時定数τSは、帰還率βS及び実効負荷容量CLSを用いて以下の通り表せる。
τS=CLS/(βS×g
ここで、gはオペアンプ22の電流増幅率であり、帰還率βS及び実効負荷容量CLSは、以下の通りである。
βS=C/(C+CP
CLS=CLoad+C×CP/(C+CP
他方、図7(B)に示す積分時の接続状態における回路の時定数τIは、帰還率βI及び実効負荷容量CLIを用いて以下の通り表せる。
τI=CLI/(βI×g
ここで、帰還率βI及び実効負荷容量CLIは、以下の通りである。
βI=C/(C+CP+CS
CLI=CLoad+C×(CP+CS)/(C+CP+CS
このように、図示のSC積分器では、一般的なスイッチトキャパシタ回路と同様、各接続状態により、帰還率及び実効負荷容量が変化することにより時定数τが変化するため、各接続状態におけるセトリング時間が変化する。従って、本実施例のノンオーバーラップクロック発生器10を用いることで、ノンオーバーラップクロック発生器10の出力のデューティ比を各接続状態の時定数τの比に合わせることによりスイッチング速度の高速化を達成することができる。例えば、図示のSC積分器の場合、本実施例のノンオーバーラップクロック発生器10のデューティ比を各接続状態の時定数τS、τIの比(例えば、τS/(τI+τS))に合わせることによって、図示のSC積分器のスイッチング速度の高速化を達成することができる。より具体的には、図6に示すCLKO_Pを用いてSC積分器のスイッチSW1、SW3をオン・オフさせ、図6に示すCLKO_Nを用いてSC積分器のスイッチSW2、SW4をオン・オフさせる場合、CLKO_Pのデューティ比が時定数τS、τIの比τS/(τI+τS)に合わせられてよい(それに伴いCLKO_Nのデューティ比が時定数τI、τSの比τI/(τI+τS)に合わせられる)。尚、かかるCLKO_Pのデューティ比(それに伴うCLKO_Nのデューティ比)の調整・設定は、遅延素子18の遅延態様(典型的には、遅延素子18としてのキャパシタの容量)を調整することで実現されてよい。
【0025】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0026】
例えば、上述した実施例では、2つの接続状態を備えるスイッチトキャパシタ回路20が例示されているが、本発明は、他の数の接続状態(例えば4つの接続状態)を備えるスイッチトキャパシタ回路にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
上述した実施例のスイッチトキャパシタ回路20を含む装置1は、例えばIC(半導体集積回路)内での信号処理用に好適であり、例えば車両搭載用に用いるなら、各種センサからの信号を処理し、アクチュエータを動作させるためのICに応用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】従来のノンオーバーラップクロック発生器の回路構成を示す図である。
【図2】図1の従来のノンオーバーラップクロック発生器のタイミングチャートを示す図である。
【図3】本発明による装置1の全体構成を示す図である。
【図4】装置1に組み込まれるノンオーバーラップクロック発生器10の回路構成を示す図である。
【図5】図4に示す遅延回路17の具体例を組み込んだ本実施例のノンオーバーラップクロック発生器10の回路構成を示す図である。
【図6】本実施例のノンオーバーラップクロック発生器10のタイミングチャートを示す図である。
【図7】スイッチトキャパシタ回路20の一例としてSC積分器を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 装置
10 ノンオーバーラップクロック発生器
12 インバータ
14 NOR回路
16 NOR回路
17 遅延回路
18 遅延素子
19 スイッチ
20 スイッチトキャパシタ回路
22 オペアンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2のスイッチのオン/オフ切替により第1及び第2の接続状態を形成するスイッチトキャパシタ回路と、
クロック信号に基づいて、前記スイッチトキャパシタ回路の前記第1及び第2のスイッチのそれぞれ用に、互いにオーバラップしない第1及び第2のオン/オフ信号を生成するノンオーバーラップクロック発生器とを備え、
前記ノンオーバーラップクロック発生器は、互いに異なる第1及び第2のデューティを有する前記第1及び第2のオン/オフ信号を生成することを特徴とする、装置。
【請求項2】
前記第1及び第2のデューティは、前記第1及び第2の接続状態のそれぞれにおけるセトリング時間に応じて設定される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1及び第2のデューティは、前記第1及び第2の接続状態のそれぞれでの回路の時定数に応じて設定される、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記ノンオーバーラップクロック発生器は、遅延素子を備えることにより、前記第1及び第2のデューティ間の相違を形成する、請求項1に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−154123(P2010−154123A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328745(P2008−328745)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】