スクライビングホイール、その製造方法及びスクライブ方法
【課題】スクライビングホイールを長寿命化すると共に、スクライブ後に脆性材料基板を分断したときの基板の端面強度を強くすること。
【解決手段】円板の周囲の側面の中央部分を最大径とするスクライビングホイール基材を用い、その側面にCVD法によってダイヤモンド膜を形成する。そして側面の中央部分を研磨し、稜線からなる円を含む面がスクライビングホイールの中心軸と垂直となるようにする。これによって稜線部分の荒さを細かくすることができる。このスクライビングホイールを用いて脆性材料基板をスクライブし分断したときに、分断された基材の端面精度が増し、端面強度を向上させることができる。又スクライビングを進めても稜線部分の摩耗が少なく、スクライビングホイールを長寿命化することができる。
【解決手段】円板の周囲の側面の中央部分を最大径とするスクライビングホイール基材を用い、その側面にCVD法によってダイヤモンド膜を形成する。そして側面の中央部分を研磨し、稜線からなる円を含む面がスクライビングホイールの中心軸と垂直となるようにする。これによって稜線部分の荒さを細かくすることができる。このスクライビングホイールを用いて脆性材料基板をスクライブし分断したときに、分断された基材の端面精度が増し、端面強度を向上させることができる。又スクライビングを進めても稜線部分の摩耗が少なく、スクライビングホイールを長寿命化することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脆性材料基板に圧接・転動させてスクライブするためのスクライビングホイール、その製造方法及びスクライブ方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のスクライビングホイールは、特許文献1等に示されるように、超硬合金製又は多結晶焼結ダイヤモンド(以下、PCDという)製の円板を基材としている。PCDはダイヤモンド粒子をコバルトなどと共に焼結させたものである。スクライビングホイールは基材となる円板の両側より円周のエッジを互いに斜めに削り込み、円周面にV字形の刃先を形成したものである。このようにして形成されたスクライビングホイールをスクライブ装置のスクライブヘッド等に回転自在に軸着して脆性材料基板に所定の荷重で押し付け、脆性材料基板の面に沿って移動させることでスクライブすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2003/51784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように多結晶焼結ダイヤモンド(PCD)で形成された従来のスクライビングホイールは、ダイヤモンド粒子と結合材で構成されるため、特にセラミックス基板、サファイア、シリコン等、ガラスと比較して硬度の高い脆性材料基板をスクライブする場合に寿命が短いという欠点があった。尚セラミックス基板には高温焼成セラミックス製の多層基板(HTCC基板)、低温焼成セラミックス製の多層基板(LTCC基板)等の電子部品内蔵基板等が含まれる。又従来のスクライビングホイールでは刃先を研磨しても稜線の粗さを小さくすることが困難であるので、スクライブ荷重が大きくなった場合には脆性材料基板をスクライブし、ブレイクしたときの脆性材料基板の端面強度が低下するという欠点があった。
【0005】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであって、スクライビングホイールの長寿命化、微細化を図ることができるスクライビングホイール及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決するために、本発明のスクライビングホイールは、スクライビングホイール基材と、前記スクライビングホイール基材の刃先部分に形成されたダイヤモンド膜と、前記ダイヤモンド膜を機械研磨して形成された研磨領域と、を具備するものである。
【0007】
ここで前記スクライビングホイール基材は、円板の周囲の側面に最大径となる部分と傾斜面を有するようにしてもよい。
【0008】
この課題を解決するために、本発明のスクライビングホイールの製造方法は、円板の円周部に沿って刃先を有するスクライビングホイールの製造方法であって、スクライビングホイール基材の側面の刃先部分に化学気相成長法によってダイヤモンド膜を形成し、前記ダイヤモンド膜の形成された面を機械研磨により研磨するものである。
【0009】
ここで前記スクライビングホイール基板の円板の中心を中心軸とし、円板の周囲の側面に最大径となる部分を有するように両側から斜めに研磨してスクライビングホイール基材を構成するようにしてもよい。
【0010】
ここで前記スクライビングホイール基材は、側面に中心軸と同軸の円柱状の円周面を形成するようにしてもよい。
【0011】
ここで前記スクライビングホイール基材は、側面に内向き及び外向きのいずれかに湾曲する前記中心軸と同軸の円周面を有するようにしてもよい。
【0012】
ここで前記スクライビングホイール基材は、側面に内向き及び外向きのいずれかに断面がV字状となる前記中心軸と同軸の円周面を有するようにしてもよい。
【0013】
ここで前記スクライビングホイール基材は、超硬合金からなるようにしてもよい。
【0014】
前記スクライビングホイールは、セラミックス基板をスクライブするスクライビングホイールとしてもよい。
【0015】
ここで前記研磨領域の稜線部分を所定間隔で切り欠いた溝を有し、その間を突起とするようにしてもよい。
【0016】
この課題を解決するために、本発明のスクライブ方法は、上記記載のスクライビングホイールを用いて、脆性材料基板をスクライブするものである。
【0017】
ここで前記脆性材料基板がセラミックス基板であるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
このような特徴を有する本発明によれば、従来の焼結ダイヤモンド膜によるスクライビングホイールに比べ、脆性材料基板に接する部分の全てがダイヤモンド膜となるため、スクライビングホイールの耐摩耗性を向上させ、長寿命化することができる。又V字形の刃先部分の脆性材料基板と接する部分全てがダイヤモンド膜となるため稜線の粗さを細かくすることができる。従ってこのスクライビングホイールを用いてスクライブ加工し、ブレイクすると、脆性材料基板の切断面の端面精度が向上し、これに伴い端面強度も向上させることができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】図1Aは本発明の第1の実施の形態によるスクライビングホイールの正面図である。
【図1B】図1Bは第1の実施の形態によるスクライビングホイールの側面図である。
【図2A】図2Aは第1の実施の形態による刃先の稜線部分の拡大断面図である。
【図2B】図2Bは第1の実施の形態による研磨後の稜線部分の拡大断面図である。
【図3A】図3Aは本発明の第2の実施の形態によるスクライビングホイールの刃先の拡大断面図である。
【図3B】図3Bは本実施の形態による研磨後の稜線部分の拡大断面図である。
【図4A】図4Aは本発明の第3の実施の形態(その1)によるスクライビングホイールの刃先の拡大断面図である。
【図4B】図4Bは本実施の形態による研磨後の稜線部分の拡大断面図である。
【図5A】図5Aは本発明の第3の実施の形態(その2)によるスクライビングホイールの刃先の拡大断面図である。
【図5B】図5Bは本実施の形態による研磨後の稜線部分の拡大断面図である。
【図6A】図6Aは本発明の第3の実施の形態(その3)によるスクライビングホイールの刃先の拡大断面図である。
【図6B】図6Bは本実施の形態による研磨後の稜線部分の拡大断面図である。
【図7A】図7Aは本発明の第3の実施の形態(その4)によるスクライビングホイールの刃先の拡大断面図である。
【図7B】図7Bは本実施の形態による研磨後の稜線部分の拡大断面図である。
【図8A】図8Aは本発明の第4の実施の形態によるスクライビングホイールの正面図である。
【図8B】図8Bは第4の実施の形態による研磨後の稜線部分の拡大断面図である。
【図8C】図8Cは図8Aに示す円形部分の拡大図である。
【図9】図9は本発明の実施例1,2及び比較例の走行距離と最低荷重の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1Aは本発明の実施の形態によるスクライビングホイールの正面図、図1Bはその側面図である。スクライビングホイールを製造する際には、例えば、超硬合金、又はセラミック製のスクライビングホイール基材となる円板11の中央にまず図1Aに示すように軸穴となる貫通孔12を形成する。次にこの貫通孔12の中心、即ち円板11の中心軸を12aとする。そして貫通孔12にモータ等の回転軸を連通し、中心軸12aを中心として回転させつつ、円板11の全円周を両側より研磨して図1Bに示すように側面の中央部分が最大径となるように斜面と稜線とを有する垂直断面略V字形に形成する。こうして形成したV字形の斜面を研磨面13とする。ここでV字形の研磨面の頂角の角度α1は例えば80°以上とし、好ましくは90°以上とする。又角度α1は150°以下、好ましくは140°以下とする。80°より小さければ加工が困難となり、150°より大きければ研磨部の刃先角度との差が小さくなりすぎる。
【0021】
次にダイヤモンド薄膜の形成について図2Aの刃先の稜線部分の拡大断面図を用いて説明する。まずダイヤモンド膜の付着が容易になるようにV字形の研磨面13をあらかじめ粗面にしておく。次に粒径がサブミクロン以下の核となるダイヤモンドを斜面部分に形成した後、化学気相反応によってダイヤモンド薄膜を成長させる。このようにしてスクライビングホイールのV字形の斜面部分に化学気相成長法(CVD法)によって、膜厚が例えば10〜30μmのダイヤモンド膜14を形成する。
【0022】
ダイヤモンド膜14を形成した後、少なくとも先端部分を、先端が垂直断面V字状になるように研磨し、刃先の角度をα2とする。研磨は機械研磨など各種研磨方法を実行する。例えば、研磨材を用いて機械研磨により実行してもよい。特に研磨材として砥石を用いると、刃先の両側の斜面の粗さを均一にすることや、稜線を側面視で直線状にすることが容易になる。また、研磨材の粒度は9000番以上が好ましく、さらに好ましくは15000番以上である。研磨材の粒度が9000番より小さい場合には、研磨後の刃先表面及び稜線の算術平均粗さRaを0.03μm以下にすることが難しい。このためスクライブ時に膜のカケや剥離が生じやすく、また分断した脆性材料基板端面には傷が残りやすい傾向がある。図2Bはこの研磨した後の状態を示す部分拡大断面図である。ここで研磨後の刃先角度α2は切断対象に応じて決定されるが、85°以上、好ましくは95°以上とする。又角度α2は160°以下、好ましくは140°以下とする。ここで母材となる円板の研磨面13の頂角α1と刃先角度α2との差は5°以上、20°以下とする。この差が5°未満では研磨時に稜線を形成することが難しい。20°を超えれば研磨量が多くなりすぎて加工時間がかかり、また稜線部分の膜厚が薄くなりすぎてダイヤモンド膜の剥離が起こり易くなる。又研磨後の膜厚は5〜25μmとする。そして研磨した後の稜線から成る円が含まれる面を中心軸12aに対し垂直となるようにする。ここで研磨する領域は稜線を中央に含む帯状の部分のみであってもよい。図2Bの幅w1の領域はこの先端部分の研磨領域を示しており、例えば幅w1は10〜30μmとする。そして研磨部の稜線の粗さRaは0.03μm以下、好ましくは0.015μm以下とする。又研磨後の傾斜面の粗さRaも0.03μm以下、好ましくは0.015μm以下となるまで研磨する。
【0023】
このように研磨することによって従来の焼結ダイヤモンドによるスクライビングホイールに比べ、脆性材料基板に接する部分の全てがダイヤモンドとなるため、スクライビングホイールの耐摩耗性を向上させることができる。又脆性材料基板に接する部分の全てがダイヤモンド膜となるためスクライブに寄与する刃先部分及び稜線の粗さを細かくすることができる。従ってこのスクライビングホイールを用いて脆性材料基板をスクライブし、分断すると、脆性材料基板の切断面の端面精度が向上し、これに伴い端面強度も向上させることができるという効果が得られる。さらに、刃先及び稜線の粗さを細かくすることにより、刃先及び稜線に研削条痕に起因する微細な凹凸が少ないために、ダイヤモンド膜が剥離し難くなるという効果が得られる。そのため本発明のスクライビングホイールはセラミックス基板のような硬質の脆性材料基板をスクライブするのに好適である。
【0024】
次に本発明の第2の実施の形態について説明する。この実施の形態において前述した実施の形態と同一部分は同一符号を付して詳細な説明を省略し、相違点についてのみ説明する。この実施の形態では図3Aに刃先部の稜線部分の拡大断面図を示すように、断面がスクライビングホイールの稜線部分に中心軸を中心として一定の径で且つ短い一定幅の円柱となる円周面16を設けておく。この円周面16の幅w2は例えば2μm以上10μm以下とする。そしてこの後第1の実施の形態と同様に、研磨面13にはCVD法によってダイヤモンド膜14のコーティングを行う。このコーティング後に図3Bに示すように円周部分を研磨して稜線を形成する。そして研磨した後の稜線から成る円が含まれる面を中心軸12aに対し垂直となるようにする。尚幅w2が2μmより小さければ円周面16の加工が困難となる。又研磨面13の面に沿ってダイヤモンド膜が形成されるため、幅w2が10μmを超えていれば研磨して稜線を形成するのが難しくなる。研磨後の稜線の粗さ及び傾斜部の研磨面の粗さRaは第1の実施の形態と同様である。
【0025】
こうすれば第1の実施の形態と同様に、スクライビングホイールの耐摩耗性を向上させることができる。また円周面16によってダイヤモンド膜14の密着性を向上させ、ダイヤモンド膜14の膜厚を厚くすることができる。このスクライビングホイールを用いて脆性材料基板をスクライブし、分断すると、脆性材料基板の切断面の端面精度が向上し、端面強度を向上させることができる。
【0026】
次に本発明の第3の実施の形態について説明する。この実施の形態において前述した実施の形態と同一部分は同一符号を付して詳細な説明を省略し、相違点についてのみ説明する。この実施の形態では第2の実施の形態の円周面を変形させたものである。図4Aはその第1の例を示しており、第2の実施の形態の円周面を外側に凸となるように湾曲させた円周面17を示している。この湾曲した円周面17の幅w3もw2と同様の理由により2μm以上10μm以下とする。そしてこの後第1の実施の形態と同様に、研磨面13にはCVD法によってダイヤモンド膜14のコーティングを行う。このコーティング後に図4Bに示すように円周部分を研磨して稜線を形成する。
【0027】
図5Aはその第2の例を示しており、第2の実施の形態の円周面を2段の傾斜面で外側にV字状となるように研磨した円周面18としたものである。この屈曲した円周面18の幅w4もw2と同様の理由により2μm以上10μm以下とする。そしてこの後第1の実施の形態と同様に、研磨面13にはCVD法によってダイヤモンド膜14のコーティングを行う。このコーティング後に図5Bに示すように円周部分を研磨して稜線を形成する。
【0028】
図6Aはその第3の例を示しており、第2の実施の形態の円周面を凹面となるように内側に湾曲した円周面19としたものである。この湾曲した円周面19の幅w5もw2と同様の理由により2μm以上10μm以下とする。そしてこの後第1の実施の形態と同様に、研磨面13にはCVD法によってダイヤモンド膜14のコーティングを行う。このコーティング後に図6Bに示すように円周部分を研磨して稜線を形成する。
【0029】
図7Aはその第4の例を示しており、第2の実施の形態の円周面を内側にV字状の溝を有する円周面20としたものである。この円周面20の幅w6もw2と同様の理由により2μm以上10μm以下とする。そしてこの後第1の実施の形態と同様に、研磨面13にはCVD法によってダイヤモンド膜14のコーティングを行う。このコーティング後に図7Bに示すように円周部分を研磨して稜線を形成する。
【0030】
第3の実施の形態においても研磨後の稜線の粗さ及び傾斜部の研磨面の粗さは第1の実施の形態と同様とする。この場合にはいすれも研磨した後の稜線から成る円が含まれる面を中心軸12aに対し垂直となるようにする。そして円周面17,18,19,20によってダイヤモンド膜14の密着性を向上させ、ダイヤモンド膜14の膜厚を厚くすることができる。更に第1の実施の形態と同様に、スクライビングホイールの耐摩耗性を向上させることができる。このスクライビングホイールを用いて脆性材料基板をスクライブし、分断すると、脆性材料基板の切断面の端面精度が向上し、端面強度を向上させることができる。
【0031】
次に本発明の第4の実施の形態について説明する。日本国特許第3074143号にはスクライビングホイールの円周面に所定間隔を隔てて多数の溝を形成し、その間を突起として高浸透型としたスクライビングホイールが提案されている。本発明はこのようなスクライビングホイールにも適用することができる。図8Aはこの実施の形態のスクライビングホイールの正面図、図8Bは先の稜線部分の拡大断面図、図8Cは図8Aに一点鎖線で示した円形部分の拡大図である。スクライビングホイールを製造する際には、超硬合金、又はセラミック製等のスクライビングホイール基材となる円板31の中央にまず図8Aに示すように軸穴となる貫通孔32を形成する。次にこの貫通孔32にモータ等の回転軸を連通して回転させつつ、円板31の全円周を両側より研磨してV字形に形成し、斜面を研磨面33とする。この頂角α1は第1の実施の形態と同様に90°〜155°の範囲とする。この場合も第1の実施の形態と同様にスクライビングホイールの刃先部分にCVD法によってダイヤモンド膜34をコーティングし、研磨する。ダイヤモンド膜34の膜厚は10〜30μmとする。研磨後の頂角α2の範囲は95°〜160°とする。また研磨後の稜線の粗さ及び傾斜部の粗さは第1の実施の形態と同様とする。ここで母材となる円板の研磨面33の頂角α1と刃先角度α2との差は5°以上、20°以下とする。そして図8Cに示すようにダイヤモンド膜34の厚みの範囲内で溝35を形成する。高浸透型とするためのスクライビングホイールの溝の深さは例えば10μm程度であるため、ダイヤモンド膜34に溝35を形成することで高浸透型のスクライビングホイールとすることができる。
【0032】
又これに代えてあらかじめスクライビングホイールのV字形の刃先部に溝を形成しておき、このスクライビングホイールにCVD法でダイヤモンド膜をコーティングし研磨することでスクライビングホイールを構成するようにしてもよい。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
第1の実施の形態に基づいて外径2.7mmのスクライビングホイール基材にダイヤモンド膜をコーティングし、砥石で刃先角度132.7°に研磨してスクライビングホイールとした。
【0034】
(実施例2)
第4の実施の形態に基づいて外形2.7mmのスクライビングホイール基材にダイヤモンド膜をコーティングし、機械研磨により刃先角度133.9°のスクライビングホイールを形成した。更に円周部分に多数の溝を形成して高浸透型スクライビングホイールとした。
【0035】
(比較例)
従来のPCD製のスクライビングホイールで、外径2.5mm、刃先角度125°とした。更に円周部分に多数の溝を形成して高浸透型スクライビングホイールとした。
【0036】
又図9は実施例1,2と比較例のスクライビングホイールを用いて0.635mmの厚さのアルミナ基板(HTCC基板)をスクライブしたときの走行距離と、同じホイールを用いて0.7mmの厚さのガラスをスクライブしたときの最低荷重(適正なスクライブラインを形成することができる荷重範囲の下限値)の関係を示す図であり、実施例1によるスクライビングホイールの走行距離を折線Aに、実施例2によるスクライビングホイールの走行距離を折線Bに、比較例によるスクライビングホイールの走行距離を折線Cに示している。
【0037】
この比較例ではスクライビング可能な走行距離は約20mであった。又比較例のスクライビングホイールでは、走行開始には荷重は0.09MPaと低いが、スクライブを進めるに伴って最低荷重が大きくなっており、稜線が摩耗していることがわかる。摩耗が進行したスクライビングホイールを用いて脆性材料基板をスクライブし分断すると、分断した基板の端面の品質が劣化する。
【0038】
これに対して実施例1,2のスクライビングホイールでは、図9より示されるように、実施例1のスクライビングホイールを用いてスクライブしたときには、折線Aに示すようにダイヤモンド膜の剥離までに至る距離は130mであった。このときの最低荷重は、スクライブ開始からダイヤモンド膜が剥離するまでほぼ0.12MPaと一定の値だった。又実施例2のスクライビングホイールを用いてスクライブしたときには折線Bに示すようにダイヤモンド膜の剥離に至るまで85mのスクライブが可能であった。このときの最低荷重はスクライブ開始からダイヤモンド膜が剥離するまでほぼ0.16MPaと一定の値だった。このため比較例に比べてスクライビング可能な距離を大幅に延長することができる。又いずれも最低荷重の値は走行距離にかかわらずほぼ一定であり、増加していないため、スクライビングホイールの刃先はほとんど摩耗していないと判断することができる。このためスクライブ後に脆性材料基板を分断して液晶パネル等を切り出したときに切断面の端面精度が向上し、端面強度を高く保っておくことができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のよるスクライビングホイールは耐摩耗性が高く、端面強度の高い脆性材料基板を切り出せるスクライビングホイールを提供することができ、スクライブ装置に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0040】
10,30 スクライビングホイール
11,31 円板
12,32 貫通孔
13,33 研磨面
14,34 ダイヤモンド膜
16,17,18,19,20 円周面
35 溝
【技術分野】
【0001】
本発明は脆性材料基板に圧接・転動させてスクライブするためのスクライビングホイール、その製造方法及びスクライブ方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のスクライビングホイールは、特許文献1等に示されるように、超硬合金製又は多結晶焼結ダイヤモンド(以下、PCDという)製の円板を基材としている。PCDはダイヤモンド粒子をコバルトなどと共に焼結させたものである。スクライビングホイールは基材となる円板の両側より円周のエッジを互いに斜めに削り込み、円周面にV字形の刃先を形成したものである。このようにして形成されたスクライビングホイールをスクライブ装置のスクライブヘッド等に回転自在に軸着して脆性材料基板に所定の荷重で押し付け、脆性材料基板の面に沿って移動させることでスクライブすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2003/51784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように多結晶焼結ダイヤモンド(PCD)で形成された従来のスクライビングホイールは、ダイヤモンド粒子と結合材で構成されるため、特にセラミックス基板、サファイア、シリコン等、ガラスと比較して硬度の高い脆性材料基板をスクライブする場合に寿命が短いという欠点があった。尚セラミックス基板には高温焼成セラミックス製の多層基板(HTCC基板)、低温焼成セラミックス製の多層基板(LTCC基板)等の電子部品内蔵基板等が含まれる。又従来のスクライビングホイールでは刃先を研磨しても稜線の粗さを小さくすることが困難であるので、スクライブ荷重が大きくなった場合には脆性材料基板をスクライブし、ブレイクしたときの脆性材料基板の端面強度が低下するという欠点があった。
【0005】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであって、スクライビングホイールの長寿命化、微細化を図ることができるスクライビングホイール及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決するために、本発明のスクライビングホイールは、スクライビングホイール基材と、前記スクライビングホイール基材の刃先部分に形成されたダイヤモンド膜と、前記ダイヤモンド膜を機械研磨して形成された研磨領域と、を具備するものである。
【0007】
ここで前記スクライビングホイール基材は、円板の周囲の側面に最大径となる部分と傾斜面を有するようにしてもよい。
【0008】
この課題を解決するために、本発明のスクライビングホイールの製造方法は、円板の円周部に沿って刃先を有するスクライビングホイールの製造方法であって、スクライビングホイール基材の側面の刃先部分に化学気相成長法によってダイヤモンド膜を形成し、前記ダイヤモンド膜の形成された面を機械研磨により研磨するものである。
【0009】
ここで前記スクライビングホイール基板の円板の中心を中心軸とし、円板の周囲の側面に最大径となる部分を有するように両側から斜めに研磨してスクライビングホイール基材を構成するようにしてもよい。
【0010】
ここで前記スクライビングホイール基材は、側面に中心軸と同軸の円柱状の円周面を形成するようにしてもよい。
【0011】
ここで前記スクライビングホイール基材は、側面に内向き及び外向きのいずれかに湾曲する前記中心軸と同軸の円周面を有するようにしてもよい。
【0012】
ここで前記スクライビングホイール基材は、側面に内向き及び外向きのいずれかに断面がV字状となる前記中心軸と同軸の円周面を有するようにしてもよい。
【0013】
ここで前記スクライビングホイール基材は、超硬合金からなるようにしてもよい。
【0014】
前記スクライビングホイールは、セラミックス基板をスクライブするスクライビングホイールとしてもよい。
【0015】
ここで前記研磨領域の稜線部分を所定間隔で切り欠いた溝を有し、その間を突起とするようにしてもよい。
【0016】
この課題を解決するために、本発明のスクライブ方法は、上記記載のスクライビングホイールを用いて、脆性材料基板をスクライブするものである。
【0017】
ここで前記脆性材料基板がセラミックス基板であるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
このような特徴を有する本発明によれば、従来の焼結ダイヤモンド膜によるスクライビングホイールに比べ、脆性材料基板に接する部分の全てがダイヤモンド膜となるため、スクライビングホイールの耐摩耗性を向上させ、長寿命化することができる。又V字形の刃先部分の脆性材料基板と接する部分全てがダイヤモンド膜となるため稜線の粗さを細かくすることができる。従ってこのスクライビングホイールを用いてスクライブ加工し、ブレイクすると、脆性材料基板の切断面の端面精度が向上し、これに伴い端面強度も向上させることができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】図1Aは本発明の第1の実施の形態によるスクライビングホイールの正面図である。
【図1B】図1Bは第1の実施の形態によるスクライビングホイールの側面図である。
【図2A】図2Aは第1の実施の形態による刃先の稜線部分の拡大断面図である。
【図2B】図2Bは第1の実施の形態による研磨後の稜線部分の拡大断面図である。
【図3A】図3Aは本発明の第2の実施の形態によるスクライビングホイールの刃先の拡大断面図である。
【図3B】図3Bは本実施の形態による研磨後の稜線部分の拡大断面図である。
【図4A】図4Aは本発明の第3の実施の形態(その1)によるスクライビングホイールの刃先の拡大断面図である。
【図4B】図4Bは本実施の形態による研磨後の稜線部分の拡大断面図である。
【図5A】図5Aは本発明の第3の実施の形態(その2)によるスクライビングホイールの刃先の拡大断面図である。
【図5B】図5Bは本実施の形態による研磨後の稜線部分の拡大断面図である。
【図6A】図6Aは本発明の第3の実施の形態(その3)によるスクライビングホイールの刃先の拡大断面図である。
【図6B】図6Bは本実施の形態による研磨後の稜線部分の拡大断面図である。
【図7A】図7Aは本発明の第3の実施の形態(その4)によるスクライビングホイールの刃先の拡大断面図である。
【図7B】図7Bは本実施の形態による研磨後の稜線部分の拡大断面図である。
【図8A】図8Aは本発明の第4の実施の形態によるスクライビングホイールの正面図である。
【図8B】図8Bは第4の実施の形態による研磨後の稜線部分の拡大断面図である。
【図8C】図8Cは図8Aに示す円形部分の拡大図である。
【図9】図9は本発明の実施例1,2及び比較例の走行距離と最低荷重の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1Aは本発明の実施の形態によるスクライビングホイールの正面図、図1Bはその側面図である。スクライビングホイールを製造する際には、例えば、超硬合金、又はセラミック製のスクライビングホイール基材となる円板11の中央にまず図1Aに示すように軸穴となる貫通孔12を形成する。次にこの貫通孔12の中心、即ち円板11の中心軸を12aとする。そして貫通孔12にモータ等の回転軸を連通し、中心軸12aを中心として回転させつつ、円板11の全円周を両側より研磨して図1Bに示すように側面の中央部分が最大径となるように斜面と稜線とを有する垂直断面略V字形に形成する。こうして形成したV字形の斜面を研磨面13とする。ここでV字形の研磨面の頂角の角度α1は例えば80°以上とし、好ましくは90°以上とする。又角度α1は150°以下、好ましくは140°以下とする。80°より小さければ加工が困難となり、150°より大きければ研磨部の刃先角度との差が小さくなりすぎる。
【0021】
次にダイヤモンド薄膜の形成について図2Aの刃先の稜線部分の拡大断面図を用いて説明する。まずダイヤモンド膜の付着が容易になるようにV字形の研磨面13をあらかじめ粗面にしておく。次に粒径がサブミクロン以下の核となるダイヤモンドを斜面部分に形成した後、化学気相反応によってダイヤモンド薄膜を成長させる。このようにしてスクライビングホイールのV字形の斜面部分に化学気相成長法(CVD法)によって、膜厚が例えば10〜30μmのダイヤモンド膜14を形成する。
【0022】
ダイヤモンド膜14を形成した後、少なくとも先端部分を、先端が垂直断面V字状になるように研磨し、刃先の角度をα2とする。研磨は機械研磨など各種研磨方法を実行する。例えば、研磨材を用いて機械研磨により実行してもよい。特に研磨材として砥石を用いると、刃先の両側の斜面の粗さを均一にすることや、稜線を側面視で直線状にすることが容易になる。また、研磨材の粒度は9000番以上が好ましく、さらに好ましくは15000番以上である。研磨材の粒度が9000番より小さい場合には、研磨後の刃先表面及び稜線の算術平均粗さRaを0.03μm以下にすることが難しい。このためスクライブ時に膜のカケや剥離が生じやすく、また分断した脆性材料基板端面には傷が残りやすい傾向がある。図2Bはこの研磨した後の状態を示す部分拡大断面図である。ここで研磨後の刃先角度α2は切断対象に応じて決定されるが、85°以上、好ましくは95°以上とする。又角度α2は160°以下、好ましくは140°以下とする。ここで母材となる円板の研磨面13の頂角α1と刃先角度α2との差は5°以上、20°以下とする。この差が5°未満では研磨時に稜線を形成することが難しい。20°を超えれば研磨量が多くなりすぎて加工時間がかかり、また稜線部分の膜厚が薄くなりすぎてダイヤモンド膜の剥離が起こり易くなる。又研磨後の膜厚は5〜25μmとする。そして研磨した後の稜線から成る円が含まれる面を中心軸12aに対し垂直となるようにする。ここで研磨する領域は稜線を中央に含む帯状の部分のみであってもよい。図2Bの幅w1の領域はこの先端部分の研磨領域を示しており、例えば幅w1は10〜30μmとする。そして研磨部の稜線の粗さRaは0.03μm以下、好ましくは0.015μm以下とする。又研磨後の傾斜面の粗さRaも0.03μm以下、好ましくは0.015μm以下となるまで研磨する。
【0023】
このように研磨することによって従来の焼結ダイヤモンドによるスクライビングホイールに比べ、脆性材料基板に接する部分の全てがダイヤモンドとなるため、スクライビングホイールの耐摩耗性を向上させることができる。又脆性材料基板に接する部分の全てがダイヤモンド膜となるためスクライブに寄与する刃先部分及び稜線の粗さを細かくすることができる。従ってこのスクライビングホイールを用いて脆性材料基板をスクライブし、分断すると、脆性材料基板の切断面の端面精度が向上し、これに伴い端面強度も向上させることができるという効果が得られる。さらに、刃先及び稜線の粗さを細かくすることにより、刃先及び稜線に研削条痕に起因する微細な凹凸が少ないために、ダイヤモンド膜が剥離し難くなるという効果が得られる。そのため本発明のスクライビングホイールはセラミックス基板のような硬質の脆性材料基板をスクライブするのに好適である。
【0024】
次に本発明の第2の実施の形態について説明する。この実施の形態において前述した実施の形態と同一部分は同一符号を付して詳細な説明を省略し、相違点についてのみ説明する。この実施の形態では図3Aに刃先部の稜線部分の拡大断面図を示すように、断面がスクライビングホイールの稜線部分に中心軸を中心として一定の径で且つ短い一定幅の円柱となる円周面16を設けておく。この円周面16の幅w2は例えば2μm以上10μm以下とする。そしてこの後第1の実施の形態と同様に、研磨面13にはCVD法によってダイヤモンド膜14のコーティングを行う。このコーティング後に図3Bに示すように円周部分を研磨して稜線を形成する。そして研磨した後の稜線から成る円が含まれる面を中心軸12aに対し垂直となるようにする。尚幅w2が2μmより小さければ円周面16の加工が困難となる。又研磨面13の面に沿ってダイヤモンド膜が形成されるため、幅w2が10μmを超えていれば研磨して稜線を形成するのが難しくなる。研磨後の稜線の粗さ及び傾斜部の研磨面の粗さRaは第1の実施の形態と同様である。
【0025】
こうすれば第1の実施の形態と同様に、スクライビングホイールの耐摩耗性を向上させることができる。また円周面16によってダイヤモンド膜14の密着性を向上させ、ダイヤモンド膜14の膜厚を厚くすることができる。このスクライビングホイールを用いて脆性材料基板をスクライブし、分断すると、脆性材料基板の切断面の端面精度が向上し、端面強度を向上させることができる。
【0026】
次に本発明の第3の実施の形態について説明する。この実施の形態において前述した実施の形態と同一部分は同一符号を付して詳細な説明を省略し、相違点についてのみ説明する。この実施の形態では第2の実施の形態の円周面を変形させたものである。図4Aはその第1の例を示しており、第2の実施の形態の円周面を外側に凸となるように湾曲させた円周面17を示している。この湾曲した円周面17の幅w3もw2と同様の理由により2μm以上10μm以下とする。そしてこの後第1の実施の形態と同様に、研磨面13にはCVD法によってダイヤモンド膜14のコーティングを行う。このコーティング後に図4Bに示すように円周部分を研磨して稜線を形成する。
【0027】
図5Aはその第2の例を示しており、第2の実施の形態の円周面を2段の傾斜面で外側にV字状となるように研磨した円周面18としたものである。この屈曲した円周面18の幅w4もw2と同様の理由により2μm以上10μm以下とする。そしてこの後第1の実施の形態と同様に、研磨面13にはCVD法によってダイヤモンド膜14のコーティングを行う。このコーティング後に図5Bに示すように円周部分を研磨して稜線を形成する。
【0028】
図6Aはその第3の例を示しており、第2の実施の形態の円周面を凹面となるように内側に湾曲した円周面19としたものである。この湾曲した円周面19の幅w5もw2と同様の理由により2μm以上10μm以下とする。そしてこの後第1の実施の形態と同様に、研磨面13にはCVD法によってダイヤモンド膜14のコーティングを行う。このコーティング後に図6Bに示すように円周部分を研磨して稜線を形成する。
【0029】
図7Aはその第4の例を示しており、第2の実施の形態の円周面を内側にV字状の溝を有する円周面20としたものである。この円周面20の幅w6もw2と同様の理由により2μm以上10μm以下とする。そしてこの後第1の実施の形態と同様に、研磨面13にはCVD法によってダイヤモンド膜14のコーティングを行う。このコーティング後に図7Bに示すように円周部分を研磨して稜線を形成する。
【0030】
第3の実施の形態においても研磨後の稜線の粗さ及び傾斜部の研磨面の粗さは第1の実施の形態と同様とする。この場合にはいすれも研磨した後の稜線から成る円が含まれる面を中心軸12aに対し垂直となるようにする。そして円周面17,18,19,20によってダイヤモンド膜14の密着性を向上させ、ダイヤモンド膜14の膜厚を厚くすることができる。更に第1の実施の形態と同様に、スクライビングホイールの耐摩耗性を向上させることができる。このスクライビングホイールを用いて脆性材料基板をスクライブし、分断すると、脆性材料基板の切断面の端面精度が向上し、端面強度を向上させることができる。
【0031】
次に本発明の第4の実施の形態について説明する。日本国特許第3074143号にはスクライビングホイールの円周面に所定間隔を隔てて多数の溝を形成し、その間を突起として高浸透型としたスクライビングホイールが提案されている。本発明はこのようなスクライビングホイールにも適用することができる。図8Aはこの実施の形態のスクライビングホイールの正面図、図8Bは先の稜線部分の拡大断面図、図8Cは図8Aに一点鎖線で示した円形部分の拡大図である。スクライビングホイールを製造する際には、超硬合金、又はセラミック製等のスクライビングホイール基材となる円板31の中央にまず図8Aに示すように軸穴となる貫通孔32を形成する。次にこの貫通孔32にモータ等の回転軸を連通して回転させつつ、円板31の全円周を両側より研磨してV字形に形成し、斜面を研磨面33とする。この頂角α1は第1の実施の形態と同様に90°〜155°の範囲とする。この場合も第1の実施の形態と同様にスクライビングホイールの刃先部分にCVD法によってダイヤモンド膜34をコーティングし、研磨する。ダイヤモンド膜34の膜厚は10〜30μmとする。研磨後の頂角α2の範囲は95°〜160°とする。また研磨後の稜線の粗さ及び傾斜部の粗さは第1の実施の形態と同様とする。ここで母材となる円板の研磨面33の頂角α1と刃先角度α2との差は5°以上、20°以下とする。そして図8Cに示すようにダイヤモンド膜34の厚みの範囲内で溝35を形成する。高浸透型とするためのスクライビングホイールの溝の深さは例えば10μm程度であるため、ダイヤモンド膜34に溝35を形成することで高浸透型のスクライビングホイールとすることができる。
【0032】
又これに代えてあらかじめスクライビングホイールのV字形の刃先部に溝を形成しておき、このスクライビングホイールにCVD法でダイヤモンド膜をコーティングし研磨することでスクライビングホイールを構成するようにしてもよい。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
第1の実施の形態に基づいて外径2.7mmのスクライビングホイール基材にダイヤモンド膜をコーティングし、砥石で刃先角度132.7°に研磨してスクライビングホイールとした。
【0034】
(実施例2)
第4の実施の形態に基づいて外形2.7mmのスクライビングホイール基材にダイヤモンド膜をコーティングし、機械研磨により刃先角度133.9°のスクライビングホイールを形成した。更に円周部分に多数の溝を形成して高浸透型スクライビングホイールとした。
【0035】
(比較例)
従来のPCD製のスクライビングホイールで、外径2.5mm、刃先角度125°とした。更に円周部分に多数の溝を形成して高浸透型スクライビングホイールとした。
【0036】
又図9は実施例1,2と比較例のスクライビングホイールを用いて0.635mmの厚さのアルミナ基板(HTCC基板)をスクライブしたときの走行距離と、同じホイールを用いて0.7mmの厚さのガラスをスクライブしたときの最低荷重(適正なスクライブラインを形成することができる荷重範囲の下限値)の関係を示す図であり、実施例1によるスクライビングホイールの走行距離を折線Aに、実施例2によるスクライビングホイールの走行距離を折線Bに、比較例によるスクライビングホイールの走行距離を折線Cに示している。
【0037】
この比較例ではスクライビング可能な走行距離は約20mであった。又比較例のスクライビングホイールでは、走行開始には荷重は0.09MPaと低いが、スクライブを進めるに伴って最低荷重が大きくなっており、稜線が摩耗していることがわかる。摩耗が進行したスクライビングホイールを用いて脆性材料基板をスクライブし分断すると、分断した基板の端面の品質が劣化する。
【0038】
これに対して実施例1,2のスクライビングホイールでは、図9より示されるように、実施例1のスクライビングホイールを用いてスクライブしたときには、折線Aに示すようにダイヤモンド膜の剥離までに至る距離は130mであった。このときの最低荷重は、スクライブ開始からダイヤモンド膜が剥離するまでほぼ0.12MPaと一定の値だった。又実施例2のスクライビングホイールを用いてスクライブしたときには折線Bに示すようにダイヤモンド膜の剥離に至るまで85mのスクライブが可能であった。このときの最低荷重はスクライブ開始からダイヤモンド膜が剥離するまでほぼ0.16MPaと一定の値だった。このため比較例に比べてスクライビング可能な距離を大幅に延長することができる。又いずれも最低荷重の値は走行距離にかかわらずほぼ一定であり、増加していないため、スクライビングホイールの刃先はほとんど摩耗していないと判断することができる。このためスクライブ後に脆性材料基板を分断して液晶パネル等を切り出したときに切断面の端面精度が向上し、端面強度を高く保っておくことができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のよるスクライビングホイールは耐摩耗性が高く、端面強度の高い脆性材料基板を切り出せるスクライビングホイールを提供することができ、スクライブ装置に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0040】
10,30 スクライビングホイール
11,31 円板
12,32 貫通孔
13,33 研磨面
14,34 ダイヤモンド膜
16,17,18,19,20 円周面
35 溝
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクライビングホイール基材と、
前記スクライビングホイール基材の刃先部分に形成されたダイヤモンド膜と、
前記ダイヤモンド膜を機械研磨して形成された研磨領域と、を具備するスクライビングホイール。
【請求項2】
前記スクライビングホイール基材は、円板の周囲の側面に最大径となる部分と傾斜面を有する請求項1記載のスクライビングホイール。
【請求項3】
前記スクライビングホイール基材は、側面に中心軸と同軸の円柱状の円周面を形成した請求項2記載のスクライビングホイール。
【請求項4】
前記スクライビングホイール基材は、側面に内向き及び外向きのいずれかに湾曲する前記中心軸と同軸の円周面を有する請求項2記載のスクライビングホイール。
【請求項5】
前記スクライビングホイール基材は、側面に内向き及び外向きのいずれかに断面がV字状となる前記中心軸と同軸の円周面を有する請求項1記載のスクライビングホイール。
【請求項6】
前記スクライビングホイール基材は、超硬合金からなる請求項1記載のスクライビングホイール。
【請求項7】
前記スクライビングホイールは、セラミックス基板をスクライブするスクライビングホイールである請求項6記載のスクライビングホイール。
【請求項8】
前記研磨領域の稜線部分を所定間隔で切り欠いた溝を有し、その間を突起とした請求項1〜7のいずれか1項記載のスクライビングホイール。
【請求項9】
円板の円周部に沿って刃先を有するスクライビングホイールの製造方法であって、
スクライビングホイール基材の側面の刃先部分に化学気相成長法によってダイヤモンド膜を形成し、
前記ダイヤモンド膜の形成された面を機械研磨により研磨するスクライビングホイールの製造方法。
【請求項10】
前記スクライビングホイール基板の円板の中心を中心軸とし、円板の周囲の側面に最大径となる部分を有するように両側から斜めに研磨してスクライビングホイール基材を構成する請求項9記載のスクライビングホイールの製造方法。
【請求項11】
前記スクライビングホイール基材は、側面に前記中心軸と同軸の円柱状の円周面を形成した請求項10記載のスクライビングホイールの製造方法。
【請求項12】
前記スクライビングホイール基材は、側面の中央部分に内向き及び外向きのいずれかに湾曲する前記中心軸と同軸の円周面を有する請求項10記載のスクライビングホイールの製造方法。
【請求項13】
前記スクライビングホイール基材は、側面の中央部分に内向き及び外向きのいずれかに断面がV字状となる前記回転軸と同軸の円周面を有する請求項10記載のスクライビングホイールの製造方法。
【請求項14】
前記スクライビングホイール基材は、超硬合金からなる請求項9記載のスクライビングホイールの製造方法。
【請求項15】
前記研磨領域の稜線部分を所定間隔で切り欠いた溝を有し、その間を突起とした請求項9〜14のいずれか1項記載のスクライビングホイールの製造方法。
【請求項16】
請求項1〜8のいずれかに記載のスクライビングホイールを用いて、脆性材料基板をスクライブするスクライブ方法。
【請求項17】
前記脆性材料基板がセラミックス基板である請求項16記載のスクライブ方法。
【請求項1】
スクライビングホイール基材と、
前記スクライビングホイール基材の刃先部分に形成されたダイヤモンド膜と、
前記ダイヤモンド膜を機械研磨して形成された研磨領域と、を具備するスクライビングホイール。
【請求項2】
前記スクライビングホイール基材は、円板の周囲の側面に最大径となる部分と傾斜面を有する請求項1記載のスクライビングホイール。
【請求項3】
前記スクライビングホイール基材は、側面に中心軸と同軸の円柱状の円周面を形成した請求項2記載のスクライビングホイール。
【請求項4】
前記スクライビングホイール基材は、側面に内向き及び外向きのいずれかに湾曲する前記中心軸と同軸の円周面を有する請求項2記載のスクライビングホイール。
【請求項5】
前記スクライビングホイール基材は、側面に内向き及び外向きのいずれかに断面がV字状となる前記中心軸と同軸の円周面を有する請求項1記載のスクライビングホイール。
【請求項6】
前記スクライビングホイール基材は、超硬合金からなる請求項1記載のスクライビングホイール。
【請求項7】
前記スクライビングホイールは、セラミックス基板をスクライブするスクライビングホイールである請求項6記載のスクライビングホイール。
【請求項8】
前記研磨領域の稜線部分を所定間隔で切り欠いた溝を有し、その間を突起とした請求項1〜7のいずれか1項記載のスクライビングホイール。
【請求項9】
円板の円周部に沿って刃先を有するスクライビングホイールの製造方法であって、
スクライビングホイール基材の側面の刃先部分に化学気相成長法によってダイヤモンド膜を形成し、
前記ダイヤモンド膜の形成された面を機械研磨により研磨するスクライビングホイールの製造方法。
【請求項10】
前記スクライビングホイール基板の円板の中心を中心軸とし、円板の周囲の側面に最大径となる部分を有するように両側から斜めに研磨してスクライビングホイール基材を構成する請求項9記載のスクライビングホイールの製造方法。
【請求項11】
前記スクライビングホイール基材は、側面に前記中心軸と同軸の円柱状の円周面を形成した請求項10記載のスクライビングホイールの製造方法。
【請求項12】
前記スクライビングホイール基材は、側面の中央部分に内向き及び外向きのいずれかに湾曲する前記中心軸と同軸の円周面を有する請求項10記載のスクライビングホイールの製造方法。
【請求項13】
前記スクライビングホイール基材は、側面の中央部分に内向き及び外向きのいずれかに断面がV字状となる前記回転軸と同軸の円周面を有する請求項10記載のスクライビングホイールの製造方法。
【請求項14】
前記スクライビングホイール基材は、超硬合金からなる請求項9記載のスクライビングホイールの製造方法。
【請求項15】
前記研磨領域の稜線部分を所定間隔で切り欠いた溝を有し、その間を突起とした請求項9〜14のいずれか1項記載のスクライビングホイールの製造方法。
【請求項16】
請求項1〜8のいずれかに記載のスクライビングホイールを用いて、脆性材料基板をスクライブするスクライブ方法。
【請求項17】
前記脆性材料基板がセラミックス基板である請求項16記載のスクライブ方法。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【公開番号】特開2013−14129(P2013−14129A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−98335(P2012−98335)
【出願日】平成24年4月24日(2012.4.24)
【出願人】(390000608)三星ダイヤモンド工業株式会社 (383)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年4月24日(2012.4.24)
【出願人】(390000608)三星ダイヤモンド工業株式会社 (383)
【Fターム(参考)】
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