説明

スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法

【課題】スクリーン版と被印刷物との隙間へのインク漏れを低減することにより、高精度なスクリーン印刷を可能とする。
【解決手段】スクリーン印刷装置(1)のテーブル角度調整機構(20)は、スキージ(50)がスクリーン版(40)をワーク(被印刷物)(W)側に押し付けて所定の移動方向に移動している間、スキージ(50)の移動位置に応じてスキージ(50)のスクリーン版(40)に対するテンションを一定に保ち、かつ、スキージ(50)がスクリーン版(40)を押し付けている位置より移動方向の前方側ではワーク(W)とスクリーン版(40)とが密着し、スキージ(50)がスクリーン版(40)を押し付けている位置より移動方向の後方側ではワーク(W)とスクリーン版(40)とが離間するようにテーブル(11)の角度を調整することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微細な回路パターンを形成する方法として、スクリーン印刷が採用されている。スクリーン印刷では、スクリーン版と被印刷物との間にクリアランスを設けて設置し、スクリーン版の上方からスキージによって印刷インクを押し込むことにより、被印刷物表面に所定のパターンを印刷する。印刷位置をスキージが通過すると、スクリーン版と被印刷物とが離間して、版離れが完了する。
【0003】
スクリーン版と被印刷物とを版離れさせるためには、スクリーン版に所定のテンション(張力)をかける必要がある。しかし、スクリーン版と被印刷物との間にクリアランスを設けた構造では、スキージを押し付ける位置によってスクリーン版にかかるテンションが異なり、印刷の位置精度に悪影響を与えるおそれがある。これに対して、スキージを押し付ける位置に応じて、被印刷物が設置されるテーブルの角度を変えることにより、スクリーン版にかかるテンションを一定にするスクリーン印刷装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−322451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、スクリーン版と被印刷物との間にクリアランスを設けた状態で印刷を行うと、スキージの進行方向の前方側において、スクリーン版と被印刷物との隙間に印刷インクが漏れ出し、所定のパターンが精度よく転写できないおそれがある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、スクリーン版と被印刷物との隙間へのインク漏れを低減することにより、高精度なスクリーン印刷が可能なスクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のスクリーン印刷装置は、被印刷物に所定のパターンを印刷するためのスクリーン版と、前記スクリーン版を前記被印刷物側に押し付けて印刷インクをスクリーン印刷するためのスキージと、前記被印刷物を載せるためのテーブルと、前記テーブルの角度を調整するためのテーブル角度調整手段と、を備えたスクリーン印刷装置であって、前記テーブル角度調整手段は、前記スキージが前記スクリーン版を前記被印刷物側に押し付けて所定の移動方向に移動している間、前記スキージの移動位置に応じて前記テーブルの角度を調整し、前記テーブル角度調整手段による前記テーブルの角度の調整により、前記スキージが前記スクリーン版を押し付けている位置より移動方向の前方側では、前記スクリーン版は前記テーブルに載せられた前記被印刷物に対して密着し、前記スキージが前記スクリーン版を押し付けている位置より移動方向の後方側では、前記スクリーン版は前記テーブルに載せられた前記被印刷物から離間するとともに、前記スキージの前記スクリーン版に対するテンションを一定に保つことを特徴とする。
【0008】
このスクリーン印刷装置によれば、テーブル角度調整手段によって、テーブルが所定の角度とされることにより、スキージがスクリーン版を押し付けている位置より移動方向の前方側では、テーブルに載せられた被印刷物とスクリーン版とが密着するため、スクリーン版と被印刷物との隙間からのインク漏れを低減できる。一方、スキージがスクリーン版を押し付けている位置より移動方向の後方側では、テーブルに載せられた被印刷物とスクリーン版とが離間するため、良好な版離れを実現できる。また、テーブル角度調整手段によって、スキージが所定の移動方向にスクリーン版を被印刷物側に押し付けて移動している間、スキージの位置に応じてテーブルの角度が調整されることにより、スキージのスクリーン版に対するテンションが一定に維持されることから、スクリーン版の変位量を一定に維持でき、印刷精度を向上することが可能となる。
【0009】
また、上記スクリーン印刷装置において、前記テーブル角度調整手段は、前記スキージの位置に応じて、前記テーブルの前記スキージの移動開始位置側における一端が前記スクリーン版から遠ざかるように角度を調整することが好ましい。この場合には、テーブルの一端のみを移動させる構成により、スキージのスクリーン版に対するテンションを一定に保つことができるため、複雑な構成や大掛かりな機構等を必要とせずに印刷精度を向上させることが可能となる。
【0010】
さらに、上記スクリーン印刷装置において、前記スキージの移動方向の前方側において、前記スクリーン版を前記テーブルに押し付けるための押し付け手段を設けることが好ましい。この場合には、押し付け手段を備えることにより、スクリーン版と被印刷物との密着状態をより確実にすることができるので、スクリーン版と被印刷物との隙間からのインク漏れを一層低減することが可能となる。
【0011】
さらに、上記スクリーン印刷装置において、前記テーブルの初期位置では、前記スクリーン版と前記テーブルに載せられた前記被印刷物全面とが密着した状態となることが好ましい。この場合には、スクリーン版と被印刷物全面とが密着した状態から、テーブル角度調整手段によってテーブル角度を調整することにより、スクリーン版とテーブルとの間に剥離角を生じさせることができ、良好な版離れの実現が可能となる。
【0012】
さらに、上記スクリーン印刷装置において、前記テーブルは、回転軸によって回転可能に支持されており、前記回転軸は、前記スクリーン版の被印刷範囲外に設けられていることが好ましい。この場合には、印刷工程全体を通して回転軸周りにおいて同一回転方向にテーブルを回転させることによりスキージのスクリーン版に対するテンションを一定に保つための制御が簡便となる。
【0013】
本発明のスクリーン印刷方法は、スクリーン版上を所定の移動方向に移動するスキージによって前記スクリーン版を被印刷物側に押し付けることにより、前記スクリーン版に形成された開口部から印刷インクを前記被印刷物上に押し出して所定のパターンを印刷するスクリーン印刷方法であって、前記スキージが前記スクリーン版を前記被印刷物側に押し付けて前記所定の移動方向に移動している間、前記スキージの前記スクリーン版に対するテンションが一定に保たれ、かつ、前記スキージが前記スクリーン版を押し付けている位置より移動方向の前方側では前記テーブルに載せられた前記被印刷物と前記スクリーン版とが密着し、前記スキージが前記スクリーン版を押し付けている位置より移動方向の後方側では前記テーブルに載せられた前記被印刷物と前記スクリーン版とが離間するように前記被印刷物が載せられたテーブルの角度を調整することを特徴とする。
【0014】
このスクリーン印刷方法によれば、スキージがスクリーン版を被印刷物側に押し付けて所定の移動方向に移動している間、テーブルの角度が調整されることにより、スキージのスクリーン版に対するテンションを一定に保つことができるため、スクリーン版の変位量を一定に維持し、印刷精度を向上することが可能となる。また、スキージがスクリーン版を押し付けている位置より移動方向の前方側では、被印刷物とスクリーン版とが密着するため、スクリーン版と被印刷物との隙間からのインク漏れを低減することができる。さらに、スキージがスクリーン版を押し付けている位置より移動方向の後方側では、被印刷物とスクリーン版とが離間するため、良好な版離れを実現できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、スクリーン版と被印刷物との隙間へのインク漏れを低減することにより、高精度なスクリーン印刷が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態に係るスクリーン印刷装置の構成を示す模式図である。
【図2】スクリーン印刷時におけるスキージとテーブルの動きを示す図である。
【図3】スクリーン印刷中のスクリーン版を示す模式図である。
【図4】版開きに起因する印刷位置ズレの原理を説明するための図である。
【図5】スクリーン印刷装置の変形例について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係るスクリーン印刷装置1の構成を示す模式図である。このスクリーン印刷装置1は、基台10と、基台10の内側に配置されるテーブル11と、を備える。基台10は、例えば、上面視にて図1に示す紙面奥行方向に長辺を配置した長方形状を有し、その中央に長方形状を有する開口部10aが設けられている。なお、基台10の構成は、このような形状に限定されるものではなく適宜変更が可能である。
【0018】
テーブル11は、例えば、上面視にて矩形状を有し、基台10の開口部10a内に配置される。テーブル11の上面には、平面状のテーブル面11aが形成されている。テーブル面11aには、スクリーン印刷の対象となる被印刷物(ワーク)Wが載せられる。テーブル11は、基台10内に装備された昇降機構により上下方向に昇降可能に構成されるとともに、基台10内に装備された搬送機構により図1に示す紙面奥行方向に搬送可能に構成される。これらの昇降機構および搬送機構により、テーブル11は、基台10の開口部10a内に設けられたワーク搬入/搬出領域と、印刷実行領域との間を移動可能に構成される。
【0019】
テーブル11は、テーブル角度調整手段を構成するテーブル角度調整機構20を介して基台10に支持されている。テーブル角度調整機構20は、例えば、機構全体の制御を行う制御部20aと、制御部20aにより駆動制御されるモータ20bと、モータ20bからの駆動力に応じて回転する回転軸20cと、を含んで構成される。回転軸20cは、例えば、基台10の開口部10aを規定する一方の内壁面の上端部近傍に配置されている。回転軸20cは、少なくともワークW上におけるスクリーン版40の被印刷範囲外に配置される。回転軸20cは、印刷実行領域に配置されたテーブル11の一端の上端部近傍に連結され、テーブル11を回転可能に支持している。
【0020】
テーブル角度調整機構20は、制御部20aの制御下において、モータ20bからの駆動力によってテーブル11を回転軸20c周りに回転させることで、テーブル11の角度を調整する。制御部20aは、例えば、スクリーン印刷装置1に備わる各種センサからの情報に基づいてモータ20bからの駆動力を制御し、テーブル11の角度を調整する。スクリーン印刷装置1に備わるセンサとしては、例えば、後述するスキージ50の位置を検知する位置センサ、スキージ50の移動速度を検知する速度センサ、テーブル11の角度を感知する角度センサなどが挙げられる。
【0021】
基台10の上面には、開口部10aを挟んで一対のスクリーン版ホルダ30が設けられている。一対のスクリーン版ホルダ30は、基台10の開口部10aを架け渡すようにスクリーン版40を保持する。スクリーン版40は、例えば、メッシュ状に織られた金属または樹脂に感光性乳剤を塗布後、印刷する所定のパターンを露光および現像して乳剤に開口部を形成して製作される。スクリーン版40は、スクリーン版ホルダ30に保持された状態において、その下面が基台10の上面と同一位置に配置される。
【0022】
スクリーン版ホルダ30に保持されたスクリーン版40の上方側には、スキージ50が配置される。スキージ50は、図示しないホルダ(スキージホルダ)に保持されている。スキージ50(スキージホルダ)には、基台10内に装備される駆動機構に接続され、スクリーン版40をテーブル11(ワークW)側に押し付けながら、図示矢印A方向(移動方向A)に移動可能に構成されている。この駆動機構は、スクリーン版40をテーブル11(ワークW)側に押し付けながら移動するために必要となる上下方向および水平方向にスキージ50を移動する機構を含んで構成される。
【0023】
これらの構成を有し、スクリーン印刷装置1は、テーブル11のテーブル面11aに載せられたワークWに対してスクリーン印刷を行う。スクリーン印刷においては、スキージ50がスクリーン版40をテーブル11側に押し付けながら移動方向Aに移動し、スクリーン版40に形成された開口部から印刷インクを押し出すことにより、ワークWの表面に所定のパターンが印刷される。
【0024】
特に、スクリーン印刷装置1においては、テーブル角度調整機構20によりテーブル11を所定の角度とすることで、スキージ50がスクリーン版40を押し付けている位置より移動方向Aの前方側では、スクリーン版40をテーブル11に載せられたワークWと密着させる一方、スキージ50がスクリーン版40を押し付けている位置より移動方向Aの後方側では、スクリーン版40をテーブル11に載せられたワークWと離間させる。さらに、スキージ50が移動開始位置から移動終了位置までスクリーン版40をワークW側に押し付けて所定の移動方向に移動している間、スキージ50の位置に応じてテーブル角度調整機構20によりテーブル11の角度を調整し、スキージ50のスクリーン版40に対するテンションを一定に保つようにしている。
【0025】
以下、本実施の形態に係るスクリーン印刷装置1におけるスクリーン印刷方法について図2を用いて具体的に説明する。図2は、スクリーン印刷時におけるスキージ50とテーブル11の動きを示す図である。なお、図2においては、テーブル角度調整機構20を省略している。以下においては、説明の便宜上、テーブル面11aにおいてワークWが定置された範囲を被印刷範囲と称するものとする。ただし、ワークW上における被印刷範囲は、この範囲に限定されるものではなく適宜変更が可能である。
【0026】
また、図1に示すように、テーブル角度調整機構20によってテーブル11に角度がつけられていない状態を、テーブル11の初期状態と称する。テーブル11の初期状態においては、スクリーン版40も初期状態にある。初期状態のスクリーン版40は、テーブル面11a上のワークWに密着した状態で固定されている。また、テーブル11の初期状態においては、テーブル面11aの上面と基台10の上面とが、略同一平面上に配置されている。
【0027】
図1に示す初期状態からスクリーン印刷を開始する場合、まず、図2Aに示すように、スキージ50をスクリーン版40に沿った移動開始位置に位置させ、スクリーン版40をテーブル11側に押し付ける。このとき、テーブル角度調整機構20は、回転軸20c周りにテーブルを回転させることによりテーブル11の角度を調整する。これにより、テーブル11は、テーブル11の初期状態に対して所定の角度(テーブル角度θ)を有した状態となる。スクリーン版40は、スキージ50によってテーブル11側に押し付けられているため、スキージ50がスクリーン版40を押し付けている位置より移動方向Aの前方側では、テーブル11に載せられたワークWとスクリーン版40とが密着する。ワークWとスクリーン版40とが密着すると、ワークWとスクリーン版40との間にクリアランスが設けられる場合と比較して、印刷中スクリーン伸長率が抑えられるため、印刷位置ズレが低減できる。また、スキージ50がスクリーン版40を押し付けている位置より移動方向Aの後方側では、テーブル11に載せられたワークWとスクリーン版40とが、剥離角θp1を有した状態で離間する。剥離角θp1が生じることにより、ワークWとスクリーン版40との間には自動的にクリアランスが作られ、版離れが良好に行われる。
【0028】
図2Bは、図2Aに示した状態からスキージ50が移動方向Aに所定距離移動した状態を示す。このとき、テーブル角度調整機構20によって、テーブル11が有するテーブル角度θはθ>θとなるように調整されている。スクリーン版40は、スキージ50によってテーブル11側に押し付けられているため、スキージ50がスクリーン版40を押し付けている位置より移動方向Aの前方側では、テーブル11に載せられたワークWとスクリーン版40とが密着する。また、スキージ50がスクリーン版40を押し付けている位置より移動方向Aの後方側では、テーブル11に載せられたワークWとスクリーン版40とが、剥離角θp2(θp2>θp1)を有した状態で離間する。
【0029】
スキージ50は、図2Bに示した状態からさらに移動方向Aに移動し、ワークWの図示右端の移動終了位置まで移動してスクリーン印刷を完了する。この場合において、回転軸20cは被印刷範囲外に設けられているため、テーブル角度調整機構20は、印刷工程全体を通して回転軸20c周りにおいて同一回転方向にテーブル11を回転させることにより、テーブル11の角度を調整することができる。
【0030】
テーブル角度調整機構20は、スキージ50がスクリーン版40をテーブル11側に押し付けながら移動開始位置から移動終了位置まで移動している間において、スキージ50のスクリーン版40に対するテンションを一定に保つように、テーブル11のテーブル角度θを調整している。スクリーン版40のテンションを一定に保つことにより、スクリーン版40の変位量が一定に維持され、印刷精度が向上する。すなわち、スキージ50によってスクリーン版40を押し付けた際の、スクリーン版40の伸長または伸縮に起因する印刷位置ズレが低減するため、印刷精度の向上が可能となる。
【0031】
ここで、テーブル角度調整機構20により調整されるテーブル角度θの演算方法について説明する。
【0032】
図3は、スクリーン印刷中のスクリーン版40を示す模式図である。図3において、「2l」は、初期状態におけるスクリーン版40の長さを示す。「l+l」は、印刷中のスクリーン版40の長さを示す。「θ」は、テーブル角度を示す。「x」は、スキージ50がスクリーン版40を押し付けている位置から被印刷範囲の終端までの水平方向における長さを示す。「x」は、ワークWと密着している部分のスクリーン版40の長さを示す。「θ」は、剥離角を示す。「f」は、スクリーン版40のテンションを示す。「f」は、スクリーン版40の剥離力を示す。
【0033】
このようなモデルにおいて、定テンション条件を式(1)のように付与する。
【数1】

ここで、「β」は、印刷中スクリーン伸長率を示す。
【0034】
また、図3より、「l」,「l」はそれぞれ次の式(2),式(3)により表わされる。
【数2】

【数3】

【0035】
ここで、「l」においては、式(1),式(2)より、次の式(4)が成り立つ。
【数4】

【0036】
そして、式(3),式(4)より、次の式(5)が成り立つ。
【数5】

【0037】
式(5)を展開すると、cosθは、次の式(6)により求めることができる。
【数6】

【0038】
一方、「x」と「x」との間には、図3より、次の式(7)が成り立つ。
【数7】

【0039】
式(7)より、「x」は、次の式(8)により求めることができる。
【数8】

【0040】
したがって、式(6),式(8)より、cosθは、次の式(9)により求めることができる。
【数9】

【0041】
ここで、式(9)において、「β」,「l」は定数であり、変数は「x」のみである。したがって、変数である「x」の値に応じて、テーブル角度調整機構20により式(9)を満たすようにテーブル角度θを調整することで、スキージ50のスクリーン版40に対するテンションは一定に保たれる。
【0042】
このように、スクリーン印刷装置1は、テーブル角度調整機構20により、スキージ50の位置に応じて、スクリーン版40からテーブル11のスキージ50の移動開始移位置側における一端が遠ざかるように角度を調整する構成によって、スキージ50のスクリーン版40に対するテンションを一定に保つことができる。したがって、複雑な構成や大掛かりな機構等を必要とせずに印刷精度を向上させることが可能となる。特に、テーブル11は回転軸20cによって回転可能に支持されており、テーブル角度調整機構20は、印刷工程全体を通して回転軸20c周り同一回転方向にテーブル11を回転させることにより、テーブル角度θを調整する。したがって、簡便な制御によって、スキージ50のスクリーン版40に対するテンションを一定に保つことができる。
【0043】
続いて、スクリーン版40のテンション「f」は、次の式(10)で表わされる。
【数10】

ここで、「k」は、スクリーン版40のバネ定数を示す。「ω」は、スキージ50によって押圧されることによる初期状態からのスクリーン版40の変位を示す。「l」は、スクリーン印刷装置1に取り付ける前の無荷重時におけるスクリーン版40の長さ(2l)の半数を示す。
【0044】
式(10)の右辺第1項における「Δl/l」は、次の式(11)で表わされる。
【数11】

【0045】
したがって、式(10),式(11)より、「f」について次の式(12)が成り立つ。
【数12】

【0046】
式(12)において、「k」,「l」,「l」,「β」は定数であり、変数は「ω」のみである。したがって、変数「ω」が常に一定値であれば、「f」は一定となる。ここで、式(9)を満たすようにテーブル角度調整機構20によってテーブル角度θを調節した場合、「ω」は常に一定値となる。これより、式(9)を満たすようにテーブル角度θを調整することで、スクリーン版40のテンション「f」が一定となることが確認できる。
【0047】
また、スクリーン版40の剥離力「f」は、次の式(13)で表わされる。
【数13】

【0048】
「f」においては、式(13),式(4),式(8)より、次の式(14)が成り立つ。
【数14】

【0049】
式(14)より、スクリーン版40の剥離力「f」は、テーブル角度θおよび変数「x」に応じて変化する。
【0050】
続いて、版開きに起因する印刷位置ズレについて説明する。図4は、版開きに起因する印刷位置ズレの原理を説明するための図である。図4に示すスクリーン印刷装置は、本実施の形態に係るスクリーン印刷装置1とは構成が異なる装置であるが、説明の便宜上、スクリーン印刷装置1と共通の符号を用いる。
【0051】
図4に示すスクリーン印刷装置では、スクリーン版40とワークWとが、クリアランス100を有して設けられている。スクリーン版40には、印刷する所定のパターンが乳剤40aによって区画して形成されている。スクリーン版40とワークWとがクリアランス100を有する場合において、このクリアランス100が小さい場合には、スキージ50の移動方向Aの前方側の乳剤開口部101において、開口幅102にほぼ比例して開口高さ103が変化する。スキージ50の移動方向Aの前方側はインク圧力が高いため、開口高さ103を有する乳剤開口部101から、インク漏れ104が生じるおそれがある。このインク漏れ104が生じると、乳剤輪郭に対してインク漏れ幅の誤差が生じる。これが、版開きに起因する印刷位置ズレである。
【0052】
これに対して、本実施の形態に係るスクリーン印刷装置1では、スキージ50がスクリーン版40を押し付けている位置より移動方向Aの前方側において、スクリーン版40とワークWとが密着しているため、乳剤開口部101に開口高さが生じることはない。したがって、スクリーン印刷装置1を用いたスクリーン印刷では、乳剤開口部101からのインク漏れを低減できるため、版開きに起因する印刷位置ズレを改善できる。
【0053】
図5は、スクリーン印刷装置1の変形例について説明するための図である。図5に示すように、スクリーン印刷装置1は、スキージ50の移動方向Aの前方側において、スクリーン版40をワークW(テーブル11)に押し付けるための押し付け手段60を備えていてもよい。押し付け手段60としては、例えば、スクリーン版40上を回転しながら移動するローラを適用できる。押し付け手段60を備えることにより、スクリーン版40とワークWとの密着状態をより確実にすることができるので、スクリーン版40における乳剤開口部101からのインク漏れが生じる事態を一層低減することが可能となる。
【0054】
また、スクリーン印刷装置1は、スキージ50のかわりに、インクを供給するローラを備えていてもよい。あるいは、インク供給手段と一体化したスキージ50を備えていてもよい。この場合には、スクリーン版40上に余分なインクを供給する必要がなくなるため、乳剤開口部101からのインク漏れをさらに低減することが可能となる。また、インクの無駄を省くことも可能となる。
【0055】
以上説明したように、本実施の形態に係るスクリーン印刷装置1においては、テーブル角度調整機構20によって、スキージ50がスクリーン版40をワークW側に押し付けて所定の移動方向に移動している間中、テーブル11の角度が調整されることにより、スキージ50がスクリーン版40を押し付けている位置より移動方向Aの前方側では、テーブル11に載せられたワークWとスクリーン版40とが密着するため、スクリーン版40とワークWとの間に生じる隙間からのインク漏れを低減することができる。さらに、スキージ50がスクリーン版40を押し付けている位置より移動方向Aの後方側では、テーブル11に載せられたワークWとスクリーン版40とが離間し、剥離角が生じるため、良好な版離れを実現できる。また、スキージ50のスクリーン版40に対するテンションを一定に保つことにより、スクリーン版40の変位量を一定に維持でき、印刷精度を向上することが可能となる。すなわち、スクリーン印刷装置1によって、インク漏れが低減し、かつ、版離れが良好な、高精度のスクリーン印刷が可能となる。
【0056】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、さまざまに変更して実施可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更が可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施可能である。
【0057】
例えば、上記実施の形態においては、テーブル角度調整機構20として、テーブル11を回転可能に支持する回転軸20cを備える場合について説明している。しかしながら、テーブル角度調整機構20の構成については、これに限定されるものではなく適宜変更が可能である。例えば、上記実施の形態と同様の要領でテーブル11の角度を調整できることを前提として、テーブル11の下方側の領域に配置され、テーブル11の一端を昇降可能に構成された昇降装置をテーブル角度調整機構20に備えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 スクリーン印刷装置
10 基台
10a 開口部
11 テーブル
11a テーブル面
20 テーブル角度調整機構
20a 制御部
20b モータ
20c 回転軸
30 スクリーン版ホルダ
40 スクリーン版
40a 乳剤
50 スキージ
60 押し付け手段
100 クリアランス
101 乳剤開口部
102 開口幅
103 開口高さ
104 インク漏れ
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被印刷物に所定のパターンを印刷するためのスクリーン版と、前記スクリーン版を前記被印刷物側に押し付けて印刷インクをスクリーン印刷するためのスキージと、前記被印刷物を載せるためのテーブルと、前記テーブルの角度を調整するためのテーブル角度調整手段と、を備えたスクリーン印刷装置であって、
前記テーブル角度調整手段は、前記スキージが前記スクリーン版を前記被印刷物側に押し付けて所定の移動方向に移動している間、前記スキージの移動位置に応じて前記テーブルの角度を調整し、
前記テーブル角度調整手段による前記テーブルの角度の調整により、前記スキージが前記スクリーン版を押し付けている位置より移動方向の前方側では、前記スクリーン版は前記テーブルに載せられた前記被印刷物に対して密着し、前記スキージが前記スクリーン版を押し付けている位置より移動方向の後方側では、前記スクリーン版は前記テーブルに載せられた前記被印刷物から離間するとともに、前記スキージの前記スクリーン版に対するテンションを一定に保つことを特徴とするスクリーン印刷装置。
【請求項2】
前記テーブル角度調整手段は、前記スキージの位置に応じて、前記テーブルの前記スキージの移動開始位置側における一端が前記スクリーン版から遠ざかるように角度を調整することを特徴とする請求項1記載のスクリーン印刷装置。
【請求項3】
前記スキージの移動方向の前方側において、前記スクリーン版を前記テーブルに押し付けるための押し付け手段を設けたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスクリーン印刷装置。
【請求項4】
前記テーブルの初期位置では、前記スクリーン版と前記テーブルに載せられた前記被印刷物全面とが密着した状態となることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のスクリーン印刷装置。
【請求項5】
前記テーブルは、回転軸によって回転可能に支持されており、前記回転軸は、前記スクリーン版の被印刷範囲外に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のスクリーン印刷装置。
【請求項6】
スクリーン版上を所定の移動方向に移動するスキージによって前記スクリーン版を被印刷物側に押し付けることにより、前記スクリーン版に形成された開口部から印刷インクを前記被印刷物上に押し出して所定のパターンを印刷するスクリーン印刷方法であって、
前記スキージが前記スクリーン版を前記被印刷物側に押し付けて前記所定の移動方向に移動している間、前記スキージの前記スクリーン版に対するテンションが一定に保たれ、かつ、前記スキージが前記スクリーン版を押し付けている位置より移動方向の前方側では前記テーブルに載せられた前記被印刷物と前記スクリーン版とが密着し、前記スキージが前記スクリーン版を押し付けている位置より移動方向の後方側では前記テーブルに載せられた前記被印刷物と前記スクリーン版とが離間するように前記被印刷物が載せられたテーブルの角度を調整することを特徴とするスクリーン印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−56442(P2013−56442A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195251(P2011−195251)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】