説明

スクロール圧縮機

【課題】旋回スクロール部品のラップ端部及び背圧室へ冷凍機油が過剰に供給されることを防ぐことにある。
【解決手段】旋回スクロール部品24の旋回運動中に、固定スクロール部品26に設けられた連通窪み63は、旋回スクロール部品24に設けられた第1連通孔61及び第2連通孔62の一方又は両方と周期的に連通する。これにより、油室52は、旋回スクロール部品24の旋回運動中に、第1連通孔61、第2連通孔62及び連通窪み63を介して、圧縮室40及び第2空間37bと周期的に連通する。従って、油室52の内部の冷凍機油が、圧縮室40及び第2空間37bに間欠的に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気調和機及び冷凍機等に用いられるスクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、空気調和機及び冷凍機等に用いられるスクロール圧縮機において、旋回スクロール部品のラップ端面に開口すると共に高圧状態の冷凍機油溜りに連通する給油細孔を介して冷凍機油をチップ(ラップ端部)に差圧給油することで、圧縮室の密封性及びチップの摺動面の潤滑性を向上させる技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2006−118395号公報)に開示されているスクロール圧縮機では、旋回スクロール部品のラップ端面に設けられた給油細孔の開口に隣接して溝が設けられており、冷凍機油溜りから給油細孔へ導かれた冷凍機油が、当該溝を介してチップへ供給される。
【0004】
また、特許文献2(特開2005−188294号公報)に開示されているスクロール圧縮機では、旋回スクロール部品の鏡板内に形成された給油通路に連通する給油細孔がラップ端面に開口していると共に、当該給油通路から背圧室に連通する給油細孔が旋回スクロール部品の鏡板表面に開口している。当該スクロール圧縮機では、冷凍機油がチップ及び背圧室に供給される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これらのスクロール圧縮機では、常時連通している給油細孔を介して冷凍機油を差圧給油しているため、冷凍機油の供給量の制御が困難であるという課題を有している。すなわち、これらのスクロール圧縮機では、旋回スクロール部品の旋回運動中に、高圧の雰囲気下にある冷凍機油溜りから、より低圧の雰囲気下にあるチップ及び背圧室へ冷凍機油が供給され続けることにより、チップ及び背圧室へ冷凍機油が過剰に供給されてしまう場合がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、チップ及び背圧室へ冷凍機油が過剰に供給されることを防ぐことができるスクロール圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明に係るスクロール圧縮機は、旋回スクロール部品と、固定スクロール部品とを備える。旋回スクロール部品は、第1鏡板と、第1ラップと、第2軸受部と、第1連通孔と、第2連通孔とを含む。第1ラップは、第1鏡板の第1平面から第1平面に垂直な方向に向かって渦巻形状を保持して形成される。第2軸受部は、第1平面の背面である第2面に固定して保持される。第1連通孔は、第1開口と第2開口とを有する。第1開口は、第2軸受部の内側の第2面に開口する。第2開口は、第1ラップの端面に開口する。第2連通孔は、第3開口と第4開口とを有する。第3開口は、第2軸受部の外側の第2面に開口する。第4開口は、第1ラップの端面に開口する。固定スクロール部品は、第2鏡板と、第2ラップと、連通窪みとを含む。第2ラップは、第2鏡板の第3平面から第3平面に垂直な方向に向かって渦巻形状を保持して形成される。第2ラップは、第1ラップと噛合する。なお、第1ラップと第2ラップとが噛合することによって、第1鏡板と第2鏡板と第1ラップと第2ラップとによって密閉される空間が形成される。当該空間は、旋回スクロール部品の旋回運動により容積を減少させながら圧縮される圧縮室として作用する。連通窪みは、第3平面に開口する。連通窪みは、旋回スクロール部品の旋回運動中に第1連通孔及び第2連通孔の両方と一時的に連通する。
【0008】
本発明によれば、冷凍機油は、スクロール圧縮機の油溜りから第2軸受部の内側の空間(以下、「軸受内空間」という。)に供給される。なお、第2軸受部の外側の空間(以下、「軸受外空間」という。)は、軸受内空間より常に低圧の状態となっている背圧室である。冷凍機油は、軸受内空間から第1開口を介して第1連通孔に導かれる。旋回スクロール部品の旋回運動により連通窪みが第1連通孔と一時的に連通すると、冷凍機油は、第1ラップの端部(以下、単に「チップ」と言う。)に供給される。また、旋回スクロール部品の旋回運動により連通窪みが第1連通孔及び第2連通孔の両方と一時的に連通すると、冷凍機油は、第1連通孔から連通窪みを経由して第2連通孔に導かれ、第3開口を介して軸受外空間である背圧室に供給される。これにより、本発明に係るスクロール圧縮機は、チップ及び背圧室へ冷凍機油が過剰に供給されることを防ぐことができる。また、本発明に係るスクロール圧縮機は、第1連通孔の形状、第2連通孔の形状及び連通窪みの形状を変化させることで、チップ及び背圧室への冷凍機油の供給量を適切に制御することができる。
【0009】
なお、本発明に係るスクロール圧縮機において、旋回スクロール部品の旋回運動中に、連通窪みは、第1連通孔及び第2連通孔のいずれとも連通していない不連通状態と、第1連通孔のみと連通している第1連通状態と、第1連通孔及び第2連通孔の両方と連通している第2連通状態と、第2連通孔のみと連通している第3連通状態とを取る。このとき、旋回スクロール部品の旋回運動によって旋回角が変化するにつれて、連通窪みは、不連通状態、第1連通状態、第2連通状態及び第3連通状態の順で推移し、第3連通状態の後は不連通状態に復帰する。以下、連通窪みがこのような推移をする際の冷凍機油の流れの変化を説明する。
【0010】
不連通状態では、第1連通孔は連通窪みと連通していないので、冷凍機油は第1連通孔を満たすと共に第2開口で第2鏡板によって堰き止められている。このとき、連通窪みは圧縮室と連通しているので、連通窪みは圧縮室内の冷媒ガスで満たされている。次いで、第1連通状態では、第1連通孔が第2開口を介して連通窪みと連通すると共に、圧縮室も連通窪みと連通している。このとき、軸受内空間から第1連通孔及び連通窪みを経由して、圧縮室へ冷凍機油が供給される。次いで、第2連通状態では、圧縮室は連通窪みと連通せず、第1連通孔が第2開口を介して連通窪みと連通すると共に、第2連通孔も第4開口を介して連通窪みと連通する。このとき、軸受内空間から第1連通孔、連通窪み及び第2連通孔を経由して、軸受外空間へ冷凍機油が供給される。次いで、第3連通状態では、第1連通孔が連通窪みと連通しなくなり、第2連通孔が第4開口を介して連通窪みと連通する。このとき、連通窪みに満たされた高圧の雰囲気下にある冷凍機油は、第2連通孔を経由して軸受外空間へ供給される。また、このとき、冷凍機油は第1連通孔を満たすと共に第2開口で第2鏡板によって堰き止められている。次いで、不連通状態に復帰する。これにより、旋回スクロール部品の旋回運動中に、冷凍機油が軸受内空間から連通窪みを介して圧縮室及び軸受外空間へ間欠的に供給されるので、チップ及び背圧室へ冷凍機油が過剰に供給されることを防ぐことができる。
【0011】
第2発明に係るスクロール圧縮機は、第1発明に係るスクロール圧縮機であって、固定スクロール部品は、複数の連通窪みを有する。
【0012】
本発明によれば、第1発明に係るスクロール圧縮機と同様の原理で、軸受内空間内の冷凍機油が、複数の連通窪みを経由して軸受外空間に供給される。これにより、本発明に係るスクロール圧縮機は、チップ及び背圧室へ冷凍機油が過剰に供給されることを防ぐことができる。また、本発明に係るスクロール圧縮機は、第1連通孔の形状、第2連通孔の形状及び連通窪みの形状・数を変化させることで、チップ及び背圧室への冷凍機油の供給量を適切に制御することができる。
【0013】
第3発明に係るスクロール圧縮機は、第2発明に係るスクロール圧縮機であって、旋回スクロール部品は、複数の第1連通孔及び各々の第1連通孔の近傍に開口する複数の第2連通孔を有する。なお、各々の第1連通孔は、近傍に開口する一の第2連通孔に対応する。また、一の第1連通孔及び一の第1連通孔の近傍に開口する一の第2連通孔は、旋回スクロール部品の旋回運動中に、連通窪みの少なくとも一つと一時的に連通する。
【0014】
本発明によれば、第1発明に係るスクロール圧縮機と同様の原理で、軸受内空間内の冷凍機油が、複数の第1連通孔、複数の連通窪み及び複数の第2連通孔を経由して軸受外空間に供給される。これにより、本発明に係るスクロール圧縮機は、チップ及び背圧室へ冷凍機油が過剰に供給されることを防ぐことができる。また、本発明に係るスクロール圧縮機は、第1連通孔の形状・数、第2連通孔の形状・数及び連通窪みの形状・数を変化させることで、チップ及び背圧室への冷凍機油の供給量を適切に制御することができる。
【0015】
第4発明に係るスクロール圧縮機は、旋回スクロール部品と、固定スクロール部品とを備える。旋回スクロール部品は、第1鏡板と、第1ラップと、第2軸受部と、第1連通孔と、第2連通孔とを含む。第1ラップは、第1鏡板の第1平面から第1平面に垂直な方向に向かって渦巻形状を保持して形成される。第2軸受部は、第1平面の背面である第2面に固定して保持される。第1連通孔は、第1開口と第2開口とを有する。第1開口は、第2軸受部の内側の第2面に開口する。第2開口は、第1ラップの端面に開口する。第2連通孔は、第3開口と第4開口とを有する。第3開口は、第2軸受部の外側の第2面に開口する。第4開口は、第1ラップの端面に開口する。固定スクロール部品は、第2鏡板と、第2ラップとを含む。第2ラップは、第2鏡板の第3平面から第3平面に垂直な方向に向かって渦巻形状を保持して形成される。第2ラップは、第1ラップと噛合する。なお、第1ラップと第2ラップとが噛合することによって、第1鏡板と第2鏡板と第1ラップと第2ラップとによって密閉される空間が形成される。当該空間は、旋回スクロール部品の旋回運動により容積を減少させながら圧縮される圧縮室として作用する。
【0016】
本発明によれば、冷凍機油は、スクロール圧縮機の油溜まりから軸受内空間に供給される。軸受内空間が高圧の状態となっている場合、冷凍機油は、軸受内空間から第1開口を介して第1連通孔に導かれる。このとき、第1連通孔の第2開口と接している第3平面に冷凍機油が付着する。このとき、冷凍機油が、チップへ供給される。次いで、旋回スクロール部品が旋回運動して旋回角が変化すると、第2開口と接している第3平面に付着した冷凍機油は、第2連通孔の第4開口に導かれる。第4第開口に導かれた冷凍機油は、第2連通孔を経由して軸受外空間である背圧室へ供給される。次いで、旋回スクロール部品が旋回運動することで、当初の状態に復帰する。これにより、本発明に係るスクロール圧縮機は、チップ及び背圧室へ冷凍機油が過剰に供給されることを防ぐことができる。また、本発明に係るスクロール圧縮機では、第1連通孔の形状及び第2連通孔の形状を変化させることで、チップ及び背圧室への冷凍機油の供給量を適切に制御することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るスクロール圧縮機は、チップ及び背圧室へ冷凍機油が過剰に供給されることを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態における旋回スクロール部品及び固定スクロール部品の部分断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態における旋回スクロール部品及び固定スクロール部品の部分平面図である。
【図4】本発明の第1実施形態において、連通窪みが不連通状態を取る場合の、旋回スクロール部品及び固定スクロール部品の部分断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態において、連通窪みが不連通状態を取る場合の、旋回スクロール部品及び固定スクロール部品の部分平面図である。
【図6】本発明の第1実施形態において、連通窪みが第1連通状態を取る場合の、旋回スクロール部品及び固定スクロール部品の部分断面図である。
【図7】本発明の第1実施形態において、連通窪みが第1連通状態を取る場合の、旋回スクロール部品及び固定スクロール部品の部分平面図である。
【図8】本発明の第1実施形態において、連通窪みが第2連通状態を取る直前の、旋回スクロール部品及び固定スクロール部品の部分断面図である。
【図9】本発明の第1実施形態において、連通窪みが第2連通状態を取る直前の、旋回スクロール部品及び固定スクロール部品の部分平面図である。
【図10】本発明の第1実施形態において、連通窪みが第2連通状態を取る場合の、旋回スクロール部品及び固定スクロール部品の部分断面図である。
【図11】本発明の第1実施形態において、連通窪みが第2連通状態を取る場合の、旋回スクロール部品及び固定スクロール部品の部分平面図である。
【図12】本発明の第1実施形態において、連通窪みが第3連通状態を取る場合の、旋回スクロール部品及び固定スクロール部品の部分断面図である。
【図13】本発明の第1実施形態において、連通窪みが第3連通状態を取る場合の、旋回スクロール部品及び固定スクロール部品の部分平面図である。
【図14】本発明の第1実施形態の変形例における旋回スクロール部品及び固定スクロール部品の部分平面図である。
【図15】本発明の第1実施形態の変形例における旋回スクロール部品及び固定スクロール部品の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
−第1実施形態−
以下、本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機について説明する。
【0020】
<構成>
本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機1を図1に示す。このスクロール圧縮機1は、冷媒を循環する冷凍サイクルの運転動作を行う冷媒回路(図示せず。)に接続され、冷媒ガスを圧縮する。以下、スクロール圧縮機1の構成について説明する。
【0021】
スクロール圧縮機1は、密閉ドーム型のケーシング10を有する。このケーシング10の内部には、冷媒ガスを圧縮する圧縮機構15と、この圧縮機構15を駆動する圧縮機モータ16とが収容されている。圧縮機モータ16は圧縮機構15の下方に配置されている。そして、圧縮機構15と圧縮機モータ16とは駆動軸17によって連結されている。ケーシング10には、冷媒回路の冷媒を圧縮機構15に導く吸入管19と、ケーシング10の内部の冷媒をケーシング10の外部に吐出させる吐出管20とがそれぞれ気密状に接合されている。
【0022】
圧縮機構15は、固定スクロール部品26と、固定スクロール部品26の下面に密着するように配置されたフレーム23と、固定スクロール部品26に噛合する旋回スクロール部品24とを備えている。フレーム23は全周にわたってケーシング10の内壁に気密状に接合されている。フレーム23には、上面に凹設されたフレーム凹部30と、このフレーム凹部30の下面に凹設された中凹部31と、フレーム23の下面中央に延設された第1軸受部32とが形成されている。この第1軸受部32には、駆動軸17が滑り軸受けを介して回転自在に嵌合している。
【0023】
旋回スクロール部品24は、第1鏡板24aと、渦巻形状の第1ラップ24bとを備えている。また、固定スクロール部品26は、第2鏡板26aと、渦巻形状の第2ラップ26bとを備えている。第1鏡板24aの下面には、第2軸受部34が設けられている。第2軸受部34は、フレーム凹部30及び中凹部31の内側に位置している。また、第2軸受部34には駆動軸17の上端が嵌入されている。第2軸受部34の外側には、中凹部31の内周面に密着するように環状のシール部材36が配設されている。フレーム凹部30及び中凹部31の内側の空間は、シール部材36の外側の第1空間37aと、シール部材36の内側の第2空間37bとに区画されている。
【0024】
旋回スクロール部品24は、自転することなくフレーム23の内側で公転(旋回)する。固定スクロール部品26及び旋回スクロール部品24は、それぞれ互いに摺接する摺動面を有している。また、固定スクロール部品26の第2ラップ26bと旋回スクロール部品24の第1ラップ24bとの間隙は、圧縮室40として区画形成されている。そして、旋回スクロール部品24の公転により圧縮室40が中心に向かって収縮することで、冷媒ガスが圧縮される。圧縮室40で圧縮された冷媒ガスは、吐出通路(図示せず。)を通ってフレーム23の下方の高圧空間28に吐出される。また、第2空間37bの圧力は、スクロール圧縮機1が備える背圧調整機構(図示せず。)により、圧縮前の冷媒ガスの圧力と圧縮後の冷媒ガスの圧力との中間圧力に維持されている。第2空間37bの圧力は、可動スクロール部品26を固定スクロール部品26に対して駆動軸17と平行な方向に押し付ける力(背圧)として作用する。
【0025】
ケーシング10の底部には油溜まり48が形成されており、駆動軸17の回転により油溜まり48の冷凍機油が汲み上げられる。なお、駆動軸17には、汲み上げられた冷凍機油が流れる駆動軸給油路51が形成されている。また、第2軸受部34の内側には、駆動軸17と第2鏡板26aの間に油室52が形成されており、駆動軸給油路51は油室52と接続されている。冷凍機油は、駆動軸給油路51を介して油室52に高圧の状態で供給され、各部の給油箇所にも吐出される。
【0026】
本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機1では、図2及び図3で示されるように、旋回スクロール部品24は、第1連通孔61と第2連通孔62とを有している。第1連通孔61は、第2軸受部34の内側の第1鏡板24aに開口する第1開口71と、第1ラップ24bの端部に開口する第2開口72とを含んでいる。また、第2連通孔62は、第2軸受部34の外側の第1鏡板24aに開口する第3開口73と、第1ラップ24bの端部に開口する第4開口74とを含んでいる。すなわち、第1連通孔61は、油室52と接続され、第2連通孔62は、第2空間37bと接続されている。上述したように、油室52には高圧の冷凍機油が供給されているため、第1連通孔61は常に高圧の冷凍機油で満たされている。なお、油室52の冷凍機油の圧力は、第2空間37bの冷媒ガスの圧力(背圧)より常に大きい。固定スクロール部品26は、旋回スクロール部品24の旋回運動中に、第1連通孔と第2連通孔の両方と一時的に連通する連通窪み63を有している。
【0027】
<動作>
以上の構成において、旋回スクロール部品24の旋回運動中に、油室52の高圧の冷凍機油が、連通窪み63を介して、圧縮室40及び第2空間37bへ間欠的に供給される過程について説明する。
【0028】
連通窪み63は、図4及び図5で示されるように、第1連通孔61及び第2連通孔62のいずれとも連通していない不連通状態を取る。このとき、第2開口72は第2鏡板26aによって閉塞されているので、冷凍機油は圧縮室40及び第2空間37bのいずれにも供給されない。また、このとき、連通窪み63は圧縮室40と接続されているので圧縮室40の冷媒ガスで満たされている。次いで、旋回スクロール部品24が一定の角度だけ旋回運動すると、連通窪み63は、図6及び図7で示されるように、第1連通孔61と連通している第1連通状態を取る。このとき、連通窪み63は圧縮室40と接続されているので、冷凍機油は第1連通孔61及び連通窪み63を介して圧縮室40へ供給される。ここで、旋回スクロール部品24がさらに一定の角度だけ旋回運動して、連通窪み63が第2連通孔62と連通する直前の状態を図8及び図9に示す。このとき、連通窪み63は第1連通孔61と連通している。次いで、旋回スクロール部品24が一定の角度だけ旋回運動すると、連通窪み63は、図10及び図11で示されるように、第1連通孔61及び第2連通孔62と同時に連通している第2連通状態を取る。このとき、連通窪み63は圧縮室40と接続されていないので、冷凍機油は第1連通孔61、連通窪み63及び第2連通孔62を介して第2空間37bへ供給される。次いで、旋回スクロール部品24が一定の角度だけ旋回運動すると、連通窪み63は、図12及び図13で示されるように、第2連通孔62と連通している第3連通状態を取る。このとき、連通窪み63内の冷凍機油は第2連通孔62を介して第2空間37bへ供給される。次いで、旋回スクロール部品24が一定の角度だけ旋回運動すると、連通窪み63は不連通状態に復帰する。以上のように、旋回スクロール部品の旋回運動中に、連通窪み63は不連通状態、第1連通状態、第2連通状態及び第3連通状態をこの順番で繰り返し推移する。これにより、油室52の高圧の冷凍機油が、圧縮室40及び第2空間37bへ間欠的に供給される。
【0029】
<特徴>
本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機1は、旋回スクロール部品24に第1連通孔61及び第2連通孔62を設けると共に、固定スクロール部品26に連通窪み63を設けることで、冷凍機油を圧縮室40及び第2空間37bへ間欠的に供給することができる。これにより、スクロール圧縮機1は、チップ(第1ラップ24bの端部)及び背圧室(第2空間37b)へ冷凍機油が過剰に供給されることを防ぐことができる。
【0030】
従って、本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機1では、旋回スクロール部品24の第1ラップ24bの端部にチップシールを取り付ける必要なしに、第1ラップ24bと第2鏡板26aとの摺動面(以下、「ラップ摺動面」という。)の潤滑特性及び圧縮室40の気密性を確保し、冷媒ガスの漏洩を防止することができる。また、本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機1では、連通窪み63の容積を変化させることで冷凍機油の供給量を適切に制御することができる。
【0031】
<変形例>
(1)
本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機1では、固定スクロール部品26は一の連通窪み63を有しているが、複数の連通窪みを有していてもよい。
【0032】
本発明の第1実施形態の変形例として、二つの連通窪みを有している固定スクロール部品26’を備えるスクロール圧縮機について説明する。このスクロール圧縮機では、図14に示されるように、固定スクロール部品26’は連通窪み63a及び連通窪み63bを有している。連通窪み63aと連通窪み63bは、旋回スクロール部品24’の旋回運動中に、それぞれ異なる圧縮室に接続される位置に配設されている。また、旋回スクロール部品24’は、第1連通孔61と、連通窪み63aと連通する第2連通孔62aと、連通窪み63bと連通する第2連通孔62bとを有している。これにより、本変形例に係るスクロール圧縮機は、連通窪み63a及び連通窪み63bを介して冷凍機油を異なる圧縮室へ供給することができると共に、冷凍機油の供給量を適切に制御することができる。
【0033】
(2)
本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機1では、旋回スクロール部品24は一の第1連通孔61及び一の第2連通孔62を有しているが、複数の第1連通孔と、各々の第1連通孔の近傍にある一の第2連通孔と、第1連通孔と第2連通孔のペアと一時的に連通する複数の連通窪みとを有していてもよい。これにより、本変形例に係るスクロール圧縮機は、冷凍機油の供給量を適切に制御することができる。
【0034】
(3)
本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機1では、固定スクロール部品26は一の連通窪み63を有しているが、図15に示されるように、連通窪みを有していなくてもよい。連通窪みを有していない固定スクロール部品26’’を備えるスクロール圧縮機1’では、最初に、第1連通孔61の内部の冷凍機油が、第2開口72と接している固定スクロール部品26’’の第2鏡板26aの表面に付着する。次いで、旋回スクロール部品24が一定の角度だけ旋回運動すると、第2鏡板26aの表面に付着した冷凍機油が、ラップ摺動面を経由して、第2連通孔62の第4開口74に導かれる。その結果、冷凍機油が第2連通孔62を経由して第2空間37bへ供給される。次いで、旋回スクロール部品24が旋回運動することで、最初の状態に復帰する。これにより、本変形例に係るスクロール圧縮機1’は、冷凍機油をラップ摺動面及び第2空間37bへ間欠的に供給することができ、本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機1と同様に、ラップ摺動面の潤滑特性及び圧縮室40の気密性を確保し、冷媒ガスの漏洩を回避することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係るスクロール圧縮機は、冷凍機油を圧縮室等に間欠的に供給すると共に、冷凍機油の供給量を適切に制御することができる。従って、本発明に係るスクロール圧縮機を空気調和機等に備えることで、空気調和機等の効率的な運用が可能となる。
【符号の説明】
【0036】
1,1’ スクロール圧縮機
24 旋回スクロール部品
24a 第1鏡板
24b 第1ラップ
26,26’’ 固定スクロール部品
26a 第2鏡板
26b 第2ラップ
34 第2軸受部
61 第1連通孔
62 第2連通孔
63 連通窪み
71 第1開口
72 第2開口
73 第3開口
74 第4開口
【先行技術文献】
【特許文献】
【0037】
【特許文献1】特開2006−118395号公報
【特許文献2】特開2005−188294号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1鏡板(24a)と、前記第1鏡板の第1平面から前記第1平面に垂直な方向に向かって渦巻形状を保持して形成される第1ラップ(24b)と、前記第1平面の背面である第2面に固定して保持される第2軸受部(34)と、前記第2軸受部の内側の前記第2面に開口する第1開口(71)と前記第1ラップの端面に開口する第2開口(72)とを有する第1連通孔(61)と、前記第2軸受部の外側の前記第2面に開口する第3開口(73)と前記第1ラップの端面に開口する第4開口(74)とを有する第2連通孔(62)とを含む旋回スクロール部品(24)と、
第2鏡板(26a)と、前記第2鏡板の第3平面から前記第3平面に垂直な方向に向かって渦巻形状を保持して形成されると共に前記第1ラップと噛合する第2ラップ(26b)と、前記第3平面に開口すると共に前記旋回スクロール部品の旋回運動中に前記第1連通孔及び前記第2連通孔の両方と一時的に連通する連通窪み(63)とを含む固定スクロール部品(26)と、
を備えるスクロール圧縮機(1)。
【請求項2】
前記固定スクロール部品は、複数の前記連通窪みを有する請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記旋回スクロール部品は、複数の前記第1連通孔及び各々の前記第1連通孔の近傍に開口する複数の前記第2連通孔を有し、一の前記第1連通孔及び一の前記第1連通孔の近傍に開口する一の前記第2連通孔は、前記旋回スクロール部品の旋回運動中に、前記連通窪みの少なくとも一つと一時的に連通する請求項2に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
第1鏡板(24a)と、前記第1鏡板の第1平面から前記第1平面に垂直な方向に向かって渦巻形状を保持して形成される第1ラップ(24b)と、前記第1平面の背面である第2面に固定して保持される第2軸受部(34)と、前記第2軸受部の内側の前記第2面に開口する第1開口(71)と前記第1ラップの端面に開口する第2開口(72)とを有する第1連通孔(61)と、前記第2軸受部の外側の前記第2面に開口する第3開口(73)と前記第1ラップの端面に開口する第4開口(74)とを有する第2連通孔(62)とを含む旋回スクロール部品(24)と、
第2鏡板(26a)と、前記第2鏡板の第3平面から前記第3平面に垂直な方向に向かって渦巻形状を保持して形成されると共に前記第1ラップと噛合する第2ラップ(26b)とを含む固定スクロール部品(26’’)と、
を備えるスクロール圧縮機(1’)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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