説明

スクロール圧縮機

【課題】リリース弁装置を設置した際の弁押圧体の圧入による固定スクロールへの変形を抑制するとともに、衝突によるリテーナ及び弁押圧体の変形や衝突音を抑制することを課題とする。
【解決手段】固定スクロールは、圧縮室の圧力が設定圧力より上昇すると、圧縮室と吐出圧室とを連通するように開路するリリース弁装置を有し、リリース弁装置は、圧縮室と吐出圧室とを連通するリリース流路と、リリース流路を開閉するリリース弁と、リリース弁とリテーナとの間に配置されリリース弁に弾性押圧力を付与する弁押圧体と、弁押圧体の移動範囲を制限するリテーナと、を有し、リリース弁がリリース流路を閉じた状態及びリリース流路を開いた状態の何れの状態においても、弾性押圧力により弁押圧体がリテーナに押し付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷凍空調機器等に用いられるスクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
ルームエアコン等に用いられるスクロール圧縮機は広範囲の運転条件で使用されるため、冷媒ガスの過圧縮や、冷媒,冷凍機油の液圧縮の状態で運転することが避けられない。そのため、これに耐える構造のスクロール圧縮機が求められる。
【0003】
特許文献1は、過圧縮や液圧縮を防止する従来のスクロール圧縮機を開示する。以下、特許文献1のスクロール圧縮機について説明する。吸入口と排出口とを有する密閉容器内に、吐出圧室が形成される。この吐出圧室内には、電動機と圧縮機構部とが収納される。圧縮機構部は、渦巻状のガス通路を有する固定スクロールと、この固定スクロールに相対向して移動可能に配置され渦巻状のラップを有する旋回スクロールとが噛み合わされて、圧縮室を形成する。旋回スクロールは、旋回スクロールの自転を阻止しながら公転運動をさせるオルダムリングに連結されるとともに、電動機により回転駆動されるクランク軸の偏心部にも連結される。
【0004】
電動機の駆動によって、旋回スクロールを旋回させながら、吸入口から吸込んだ冷媒を、固定スクロールと旋回スクロールとで構成する圧縮室に導いて順次圧縮する。圧縮された冷媒は、固定スクロールの吐出口から吐出圧室に排出する。その後、吐出圧室に排出された冷媒は、密閉容器の排出口から排出する。このスクロール圧縮機には、固定スクロールの上部の台板に、圧縮室と吐出圧室とを連繋するリリース弁装置が設けられる。
【0005】
このリリース弁装置は、リリース穴,弁シート部,リリース弁室,ブッシュ圧入部が連続して形成され、且つそれらの中心線が同心となるように形成される。更に、リリース弁装置は、弁シート部にリリース弁を当接し、ブッシュのスプリング係止部に係止したスプリングをリリース弁の上面に当接し、ブッシュをブッシュ圧入部に圧入する。これにより、弁シート部にリリース弁が常時押し付けられる。また、ブッシュには、過圧縮されたガスや液体を排出する圧力逃がし穴が開口される。
【0006】
このリリース弁装置は、圧縮行程の途中で、圧縮室内の圧力が吐出圧力以上になる過圧縮時や、運転時の温度条件などによって吸込口より液冷媒が吸込まれる液圧縮時等に、スプリングが圧縮されてリリース弁が開く。リリース弁が開くのは、設定圧力(吐出圧力+リリース弁の重量+スプリングの弾性押圧力)以上に過圧縮された場合である。リリース弁が開くことによって、吐出圧室の設定圧力以上に上昇したガスや液冷媒は、圧縮室内から吐出圧室に排出される。このような構造により、固定スクロールと旋回スクロール間の過圧縮損失の低減とラップの損傷を防止できる。
【0007】
なお、旋回スクロールの回転に伴って、吐出圧力以下の圧力の圧縮室がその後リリース穴に連通すると、スプリングが伸びてリリース弁が閉じる。過圧縮時や液圧縮時には、このような状態が繰り返される。
【0008】
特許文献2は、過圧縮や液圧縮を防止する他の従来のスクロール圧縮機を開示する。このスクロール圧縮機は、旋回スクロール及び固定スクロールを噛み合わせて圧縮室を形成し、圧縮室に吸入した作動流体を圧縮する圧縮機構部と、圧縮機構部を収納すると共に圧縮室で圧縮された作動流体が吐出される吐出圧室を形成する密閉容器とを備える。圧縮室の圧力が設定圧力より上昇すると圧縮室と吐出圧室とを連通するように開路するリリース弁装置が、固定スクロールに有する。
【0009】
リリース弁装置は、圧縮室と吐出圧室とを連通するように固定スクロールに形成されたリリース流路と、リリース流路を開閉するように設けられたリリース弁と、リリースが閉じられる際にそれに弾性押圧力を付加する弁押圧体と、弁押圧体の移動範囲を制限するリテーナとを備える。弁押圧体はリリース弁とリテーナとの間に配置され、リリース弁がリリース流路を閉じた状態でフリーになり且つリリース弁がリリース流路を開いた状態で圧縮される弾性部を有する。
【0010】
リリース弁が開放するための設定圧力として、特許文献1のスクロール圧縮機においてブッシュの圧入によりリリース弁へ常時負荷されていた弾性部材の弾性押圧力をなくすことができる。代りに弁押圧体(弾性部材とガイド部材)の自重のみが負荷されるので、リリース弁を開放する設定圧力を格段に下げることができる。つまり、リリース弁の開き遅れによる圧縮室内の圧力上昇分の電動機負荷の低減が図られ、圧縮機性能を向上することができる。また、ブッシュ圧入穴や弾性部材のばね定数等の製作精度のばらつきによるリリース弁が開く圧力の変動をなくして、圧縮機性能のばらつきをなくすことができる。従って、弁押圧体を構成するガイド部材と弾性部材の重量を管理するのみでよく、リリース弁が開放する設定圧力の安定化を図ることができ、安定した性能のスクロール圧縮機を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−221171号公報
【特許文献2】特開2006−9781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1のスクロール圧縮機のリリース弁装置では、ブッシュはブッシュ圧入部に圧入されるため、固定スクロールに圧縮応力が発生して渦巻側への変形が生じ、信頼性や性能面での課題がある。また、ブッシュ圧入部の製作時における深さ精度のばらつき、ブッシュの圧入時における位置精度のばらつきなどにより、スプリングの押し付け力が変化する。従って、リリース弁が開く圧力に大きなばらつきが発生し、安定したリリース弁機能を量産的に得ることが困難である。
【0013】
特許文献2のスクロール圧縮機のリリース弁装置では、リリース弁がリリース流路を閉じた状態で弁押圧体がフリーになることから、ガイド部での弁押圧体の上下方向の動きが容易に起こりやすい。従って、リテーナと弁押圧体との衝突音が発生するほか、衝突によるリテーナ又は弁押圧体の変形により強度が不足して信頼性が低下するという課題が生じる。
【0014】
本発明は、リリース弁装置を設置した際の弁押圧体の圧入による固定スクロールへの変形を抑制するとともに、衝突によるリテーナ及び弁押圧体の変形や衝突音を抑制して、スクロール圧縮機の性能及び信頼性を高めることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明のスクロール圧縮機は、旋回スクロール及び固定スクロールを有し、旋回スクロール及び固定スクロールにより形成された圧縮室に吸入した作動流体を圧縮する圧縮機構部と、圧縮機構部を収納すると共に、圧縮室で圧縮された作動流体が吐出される吐出圧室を有する密閉容器と、を備え、固定スクロールは、圧縮室の圧力が設定圧力より上昇すると、圧縮室と吐出圧室とを連通するように開路するリリース弁装置を有し、リリース弁装置は、圧縮室と吐出圧室とを連通するリリース流路と、リリース流路を開閉するリリース弁と、リリース弁とリテーナとの間に配置されリリース弁に弾性押圧力を付与する弁押圧体と、弁押圧体の移動範囲を制限するリテーナと、を有し、リリース弁がリリース流路を閉じた状態及びリリース流路を開いた状態の何れの状態においても、弾性押圧力により弁押圧体がリテーナに押し付けられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、リリース弁装置を設置した際の弁押圧体の圧入による固定スクロールへの変形を抑制するとともに、衝突によるリテーナ及び弁押圧体の変形や衝突音を抑制して、スクロール圧縮機の性能及び信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】スクロール圧縮機の断面図。
【図2】図1のA−A線に沿った圧縮機構部の横断面図。
【図3】図1のリリース弁装置における閉路状態の拡大断面図。
【図4】図3のリリース弁装置における開路状態の拡大断面図。
【図5】図1の固定スクロールの平面図。
【図6】図1の弁押圧体の平面図。
【図7】リテーナの窒化処理の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施例を、図1〜図7を用いて説明する。図1は縦型のスクロール圧縮機1の断面図である。スクロール圧縮機1の密閉容器2内部には、電動機4と、固定スクロール5と電動機4により駆動される旋回スクロール6とを噛み合わせて構成し冷媒を圧縮するスクロール圧縮機構部3と、旋回スクロール6を固定スクロール5に対して自転させずに旋回運動させるように固定スクロール5とフレーム9との間で支持案内する自転規制部材であるオルダムリング12と、を有する。
【0019】
図2は図1のA−A線に沿った圧縮機構部の横断面図である。旋回スクロール6は、クランク軸7を介して電動機4の回転を受け、オルダムリング12に規制されながら旋回駆動する。吸入口5aより吸込まれた冷媒ガスは圧縮されて、吐出口5eから吐出圧力空間である密閉容器2内に吐出され、密閉容器2内の冷媒は排出口2eより密閉容器2外部へ排出される。排出された冷媒は、冷凍サイクル内を循環して吸入口2dから再び吸入口5aへ吸込まれる。密閉容器2は、円筒状のケース2aに蓋チャンバ2bと底チャンバ2cが上下に溶接される。
【0020】
図1に示すスクロール圧縮機1はいわゆる高圧チャンバタイプの圧縮機であり、鉄製の密閉容器2の内部は排出口2eに連通する高圧雰囲気となる。電動機4の回転とともに固定スクロール5中央の吐出口5eより密閉容器2上部へ冷媒ガスが吐出される。固定スクロール5と噛み合って圧縮室11を形成する旋回スクロール6は、渦巻状の旋回スクロールラップ6aと旋回軸とを直立させたラップ支持円盤とから構成される。固定スクロール5は、台板5dと渦巻状の固定スクロールラップ5cとから構成され、固定スクロールラップ5cの中央部に吐出口5e、外周部に吸入口5aが配置される。
【0021】
次に、リリース弁装置15に関して図3〜図6を用いて説明する。図3は図1のリリース弁装置15における閉路状態の拡大断面図、図4は図3のリリース弁装置15における開路状態の拡大断面図、図5は図1の固定スクロールの平面図、図6は図1の弁押圧体の平面図である。
【0022】
リリース弁装置15は、圧縮室11内の圧力が吐出圧力以上になったとき、圧縮室11から吐出圧室2fに吐出するための装置である。リリース弁装置15は、圧縮機構部3に形成される複数の圧縮室11に対応して、固定スクロール5の複数箇所に設置される(図5参照)。
【0023】
リリース弁装置15は通常は閉路されていて、吸入口2dからガス冷媒又はルームエアコン等の運転条件によっては液冷媒やミスト状の潤滑油13等が作動流体として圧縮室11に吸入される。旋回スクロール6の旋回運動によって作動流体が圧縮される過程で、圧縮室11内の圧力が吐出圧力以上になると、リリース弁装置15は開路して、圧縮室11と吐出圧室2fとを連通する。
【0024】
図3及び図4に示すように、リリース弁装置15は、リリース流路15i,リリース弁15d,弁押圧体15h、及びリテーナ16を備える。リリース流路15iは、リリース穴15a及びリリース弁室15cから構成され、圧縮室11と吐出圧室2fとを連通するように固定スクロール5の台板5dに形成される。リリース弁15dによりリリース流路15iが開閉される。
【0025】
弁押圧体15hは、リリース弁室15c内の移動をガイドするガイド部と、弾性押圧力を発生する弾性部とを備える。弁押圧体15hは、リリース弁室15c内であってリリース弁15dとリテーナ16との間に配置され、リリース弁15dに弾性押圧力を付加する。リテーナ16は、弁押圧体15hの移動範囲を制限し、弁押圧体15hを所定の位置であるリリース弁室15c内に保持する。
【0026】
圧縮室11に連通するリリース穴15aと、円環状の弁シート15bと、吐出圧室2fに連通するリリース弁室15cとが固定スクロール5に連続して形成され、圧縮室11と吐出圧室2fとを結ぶリリース流路15iを構成する。リリース穴15aが小径に、リリース弁室15cが大径にそれぞれ形成され、リリース弁室15cの段部に弁シート15bが形成される。
【0027】
即ち、リリース穴15aと弁シート15bとリリース弁室15cとは固定スクロール5の台板5dの厚さ方向の領域に形成される。リリース穴15aの容積は圧縮室11の容積の一部となり、圧縮行程で残ったガスの再膨張損失を伴うデッドボリュームとなるため、リリース穴15aの容積(内径寸法や長さ寸法)は極力小さくする。
【0028】
また、リリース弁室15cは、機能を十分に確保できる弁押圧体15hの大きさとするように、リリース穴15aより大径とする。
【0029】
リリース弁室15cには、圧縮室11内の圧力が吐出圧室2fの設定圧力を超えたると開き、圧縮室11内のガスや流体を吐出圧室2fに逃がすリリース弁15dが配設される。リリース穴15aのリリース弁室15c側であってリリース穴15aとリリース弁室15cとの境界面上に設けられた円環状の弁シート15bには、円盤状のばね鋼板等で成形されたリリース弁15dが当接するように配置される。
【0030】
リリース弁15dの上部には、ガイド部を構成するガイド部材15fと弾性部を構成する弾性部材15eとから構成される弁押圧体15hが配置される。弁押圧体15hは、焼結金属等で成形されたガイド部材15fの一部に、弾性部材15eの一端を圧入等で一体に組み合わせて構成される。
【0031】
リリース流路15iは上下方向に形成され、リリース弁15dは弁押圧体15hの荷重と弾性部材15eの弾性押圧力を受けるように構成される。設定圧力(吐出圧力+リリース弁15dの重量+弾性部材15eの弾性押圧力)以上に過圧縮されると、リリース弁15dが開く。本実施例に示す各部材の重量は、例えば、リリース弁15dが約0.06g、弾性部材15eが約0.12g、ガイド部材15fが約2.48gとすることができる。この場合、弾性押圧力を含めた作動圧力は合計で約3kPa程度であり、例えば、HFC(ハイドロフルオロカーボン)410A混合冷媒(HFC32+HFC125)の場合、圧縮室11内での旋回スクロール6の回転に伴う圧力上昇は1〜3MPa程度である。従って、圧縮室11の圧力上昇に対してリリース弁15dの作動圧力は極僅かである。
【0032】
ガイド部材15fは円柱体で成形される。ガイド部材15f、その外径がリリース弁室15cの内径より若干小さく構成され、リリース弁室15c内を上下方向に移動することができる。ガイド部材15fの中央部には逃がし穴15gが形成されるとともに、逃がし穴15gの周囲には複数の逃がし穴15Lが形成される。また、ガイド部材が必要以上にリリース穴側に近づくことを規制するために、リリース弁室15cを2段形状とする。このリリース弁室15cのガイド部材15fが上下に移動可能な深さは、ガイド部材15fの外周側の厚みに対してわずかに深く設計されており、弾性部材15eの弾性押圧力によりリテーナ16に対して、押し付けられる構造としている。このガイド部材15fは従来のブッシュと類似構造であるため、生産設備を利用することができると共に、ガイド部材15fから作動流体を逃がす性能を従来と同様に確保することができる。鉄系焼結合金,アルミ合金、又は樹脂でガイド部材15fを形成することで、細かな形状でも安価に製作できる。
【0033】
弾性部材15eはコイルばねであり、ガイド部材15fに装着され、ガイド部材15fと一緒に移動する。また、弾性部材15eを構成するコイルばねの両端に密着巻き部を設ける。コイルばねの両端を密着巻き部とすることで、ガイド部材15fとの組立時にコイルばねの組付け方向が一方向だけではないので組立性が良い。また、密着巻き部によりガイド部材15fから外れ難くなり、安価な構造で組立性を向上し、コイルばねの外れを防止することができる。
【0034】
リリース弁15dがリリース流路15iを閉じた状態及びリリース弁15dがリリース流路15iを開いた状態の何れの状態においても、弾性部材15eによる弾性押圧力によりガイド部材15f(弁押圧体15h)がリテーナ16に押し付けられるように構成される。ガイド部材15f(弁押圧体15h)がリテーナ16に押し付けられる状態とは、ガイド部材15f(弁押圧体15h)がリテーナ16と接触している状態である。これは弾性部材15e(弁押圧体15h)にリテーナ16からの反力が加わっている状態である。
【0035】
リテーナ16はガスや液体の逃がし穴16aを有し、固定スクロール5の台板5dの上方に台板5dの上面とボルト18等によって取り付けられる。図7に示すように、固定スクロール5の台板5dの上方と台板5dの上面との間には隙間があってもよい。複数箇所に設けられたリリース弁装置15に対するリテーナ16は一つの部材で成形されており、鋼板のプレス成形により加工する。
【0036】
図7はリテーナの窒化処理の説明図(リテーナ16にガス軟窒化処理を施した際の表面近傍の断面図)である。図7に示すように、少なくとも弁押圧体15hと接触する部位にガス軟窒化処理を施してもよい。リテーナ16の表面近傍に、窒素の拡散層及び化合物層から成る窒化処理層16bを形成する。この窒化処理層16bにより、リテーナ16の表面硬度が増加し、信頼性を向上できる。
【0037】
このような構成のスクロール圧縮機において、電動機4の回転駆動により旋回スクロール6が旋回運動すると、冷媒ガスが吸入口2dから吸込み室10,圧縮室11と導かれ、圧縮されたガスが固定スクロール5の吐出口5eから吐出圧室2fに排出される。その後、更に、密閉容器2の排出口2eから、ルームエアコン等の冷凍サイクルの配管に排出される。
【0038】
冷媒ガスが圧縮される過程で圧縮室11内の圧力が設定圧力(吐出圧力+リリース弁15dの重量+弾性部材15eの弾性押圧力)以下の通常の運転時には、圧縮室11の圧力よりも吐出圧室2fの圧力の方が高いため、その圧力差によりリリース弁15dが弁シート15bに当接されてリリース穴15aが閉路する(図3参照)。リリース弁15dの上面に差圧が加えられている間は、リリース穴15aの閉路が継続される。従って、通常運転時には、リリース弁装置15から作動流体が吐出圧室2fに吐出されない。
【0039】
一方、エアコン等の運転状況により、冷媒ガスや液冷媒,潤滑油が圧縮される過程で圧縮室11内の圧力が設定圧力を超えると(過圧縮による運転時)、圧縮室11の圧力が吐出圧室2fの圧力より高くなり、その圧力差によりリリース弁15dが弁シート15bから離れてリリース穴15aが開路する(図4参照)。このリリース弁15dの移動に伴って、弾性部材15eがリリース弁15dによって押圧されて圧縮される。リリース穴15aの開路によりリリース穴15aを通り抜けた圧縮室11内の作動流体は、図4の白枠矢印のように、弁シート15bとリリース弁15dとの間の弁シート通路15nを経て、リリース弁15dとリリース弁室15c内壁との間のリリース弁まわり15jを通り抜けて、リリース弁15dの吐出圧室2f側に至る。その後、作動流体は、ガイド部材15fに設けられた逃がし穴15g,15L及びリテーナ16の逃がし穴16aを通り、過圧縮状態の作動流体は吐出圧室2f内へ吐出される。このようなリリース弁装置により、過圧縮損失やスクロールのラップの損傷を防止できる。
【0040】
この過圧縮運転状態において、旋回スクロールの回転に伴って、吐出圧力以下の圧力の圧縮室11がその後のリリース穴15aに連通することとなり、圧縮室11の圧力が吐出圧室2fの圧力より低くなり、その差圧力と共に弾性部材15eの弾性押圧力によりリリース弁29eが瞬時に閉じる。このように、過圧縮運転時には、図4と図3に示す状態が繰り返される。
【0041】
ここで、リリース弁15dがリリース流路15iを閉じた状態及びリリース弁15dがリリース流路15iを開いた状態の何れの状態においても、弾性部材15eによる弾性押圧力によりガイド部材15f(弁押圧体15h)がリテーナ16に押し付けられるように構成されるので、圧縮機構部の圧入変形を抑制できると共に、ガイド部材15f(弁押圧体15h)のリテーナ16への衝突を生じないので、衝突によるリテーナ及び弁押圧体の変形や衝突音を抑制して、スクロール圧縮機の性能及び信頼性を高めることができる。
【0042】
以上説明したように、本実施例におけるスクロール圧縮機1では、従来公知圧縮機でみられたリリース弁装置を設置した際の弁押圧体の圧入による固定スクロールへの変形を抑制することができ、更に弁押圧体を弾性部材によりリテーナに対して押し付ける構造とすることにより、運転時の弁押圧体とリテーナの摺動による衝突音を低減するとともに、衝突によるリテーナや弁押圧体の変形を抑制して、性能及び信頼性を高めることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 スクロール圧縮機
2 密閉容器
2a ケース
2b 蓋チャンバ
2c 底チャンバ
2d,5a 吸入口
2e 排出口
2f 吐出圧室
3 圧縮機構部
4 電動機
4a 固定子
4b 回転子
5 固定スクロール
5b ガス通路
5c,6a ラップ
5d 台板
5e 吐出口
6 旋回スクロール
7 クランク軸
7a 主軸
7b 偏心部
7c 給油通路
8 ボルト
9 フレーム
9a 主軸受
10 吸込み室
11 圧縮室
12 オルダムリング
13 潤滑油
14 中間圧室
15 リリース弁装置
15a リリース穴
15b 弁シート
15c リリース弁室
15d リリース弁
15e 弾性部材
15f ガイド部材
15g,15L,16a 逃がし穴
15h 弁押圧体
15i リリース流路
15j リリース弁まわり
15n 弁シート通路
15m 逃がし通路
16 リテーナ
16b 窒化処理層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回スクロール及び固定スクロールを有し、前記旋回スクロール及び前記固定スクロールにより形成された圧縮室に吸入した作動流体を圧縮する圧縮機構部と、
前記圧縮機構部を収納すると共に、前記圧縮室で圧縮された作動流体が吐出される吐出圧室を有する密閉容器と、を備え、
前記固定スクロールは、前記圧縮室の圧力が設定圧力より上昇すると、前記圧縮室と前記吐出圧室とを連通するように開路するリリース弁装置を有し、
前記リリース弁装置は、前記圧縮室と前記吐出圧室とを連通するリリース流路と、前記リリース流路を開閉するリリース弁と、前記リリース弁と前記リテーナとの間に配置され前記リリース弁に弾性押圧力を付与する弁押圧体と、前記弁押圧体の移動範囲を制限するリテーナと、を有し、
前記リリース弁が前記リリース流路を閉じた状態及び前記リリース流路を開いた状態の何れの状態においても、前記弾性押圧力により前記弁押圧体が前記リテーナに押し付けられるスクロール圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、前記リリース弁は前記弁押圧体の荷重及び前記弾性部の前記弾性押圧力を受けるスクロール圧縮機。
【請求項3】
請求項2において、前記リリース流路は、前記圧縮室に連通されたリリース穴と、前記リリース穴及び前記吐出圧室に連通され且つ前記リリース穴より大径に形成されたリリース弁室と、を備え、
前記弁押圧体は、前記リリース弁室に配置され、前記リリース弁室内の移動をガイドするガイド部と、前記弾性押圧力を発生する弾性部と、を備えるスクロール圧縮機。
【請求項4】
請求項3において、前記ガイド部は、前記吐出圧室の設定圧力以上に圧縮された前記作動流体を前記リリース穴から前記吐出圧室に逃がす通路を有するスクロール圧縮機。
【請求項5】
請求項3又は4において、前記ガイド部を鉄系焼結合金,アルミ合金、又は樹脂で形成したスクロール圧縮機。
【請求項6】
請求項3において、前記弾性部は前記ガイド部に装着されたコイルばねであるスクロール圧縮機。
【請求項7】
請求項3又は6において、前記弾性部を構成するコイルばねの両端に密着巻きを有するスクロール圧縮機。
【請求項8】
請求項1において、前記圧縮機構部に形成される複数の圧縮室に対応して前記固定スクロールの複数箇所に前記リリース弁装置が設けられ、これら複数の前記リリース弁装置に対応するリテーナを同一部材で構成したスクロール圧縮機。
【請求項9】
請求項1において、前記リテーナは炭素鋼材で形成され、前記リテーナの前記弁押圧体と摺動する面に窒化処理を施したスクロール圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−19322(P2013−19322A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153421(P2011−153421)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】